(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】打撃工具
(51)【国際特許分類】
B25D 13/00 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
B25D13/00
(21)【出願番号】P 2018241690
(22)【出願日】2018-12-25
【審査請求日】2021-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】302038741
【氏名又は名称】新電元メカトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111899
【氏名又は名称】永山 陽二
(72)【発明者】
【氏名】岡田 信秀
【審査官】大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-000717(JP,A)
【文献】実開昭50-099565(JP,U)
【文献】英国特許出願公告第00765695(GB,A)
【文献】米国特許第04237987(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25D 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルと前記コイルへの通電によって直動する可動磁極とを備えたソレノイドと、前記可動磁極の駆動力によって作動するハンマーと、前記ハンマーの作動方向に沿って延びるように略棒状又は略筒状に形成されると共に前記ハンマーに連動するように設けられたハンマー支持部材とを有する打撃工具であって、
前記ハンマー支持部材は、前記ハンマーが一方の端部に固定され、前記一方の端部の近傍部から他方の端部までの範囲の所定部位に被放擲部が設けられ、
前記可動磁極に対して接続され、又は、常時接するように設けられると共に、前記コイルへの通電前には前記被放擲部に接していて、前記コイルに通電したときに前記可動磁極の駆動力によって前記被放擲部を前記ハンマーの作動方向に押圧しながら加速させ、前記可動磁極が直動の終点に到達したときに前記被放擲部を前記ハンマーの作動方向に放擲して
さらに直動させるようになされた駆動力伝達部材をさらに有していることを特徴とする打撃工具。
【請求項2】
前記ハンマー支持部材の近傍に設けられると共に、前記ハンマーの作動方向に放擲された前記被放擲部に当接することによって、前記ハンマーの作動を停止するように設けられたストッパ部材をさらに有していることを特徴とする請求項1に記載の打撃工具。
【請求項3】
前記ハンマー支持部材の前記被放擲部及びその近傍部を収納すると共に、前記ハンマー支持部材を挿通した開口部が形成されたケースをさらに有し、
前記ストッパ部材は、前記ケースに収納されている、又は、前記ケースの一部であることを特徴とする請求項2に記載の打撃工具。
【請求項4】
前記駆動力伝達部材は、前記可動磁極に連動するように係合される、又は、固定されると共に、先端部が前記被放擲部に対向するように設けられたシャフトであり、
前記ハンマー支持部材は、前記シャフトと中心軸が一致するように直列に配置されると共に、前記被放擲部が前記シャフトの前記先端部に接離可能に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の打撃工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可搬型の打撃工具に関し、特に、ソレノイドによって駆動する打撃工具に関する。
【背景技術】
【0002】
ソレノイドによって駆動する打撃工具においては、ハンマーなどの打撃物をより加速して撃力を向上させるために、様々な構成のものが発明されている。
図14は、従来技術に係る打撃工具の断面図である。
図14において、100は打撃工具、110は可動磁極、111はシャフト、112は連結部、113はピン、114は前進用コイル、115は後退用コイル、116は円筒状本体、117及び118は側板、119はコッター、120は打撃座である。
【0003】
図14は、特開平7-164350公報で開示されている打撃工具である。
図14に示すように、打撃工具100は、円筒状本体116、並びに、側板117及び118によって構成されているケースの内部に、前進用コイル114及び後退用コイル115を設けている。さらに、前進用コイル114及び後退用コイル115の中空部の内部に、前進用コイル114及び後退用コイル115の中心軸に沿って移動可能な可動磁極110を備えている。また、打撃工具100は、円筒状本体116の側板118側に被打撃物であるコッター119との連結部112を備えており、さらにコッター119との連結部112とはピン113によって連結されている。また、円筒状本体116の側板117側には、可動磁極110の打撃座120をそれぞれ備えている。可動磁極110は、シャフト111が摺動可能な状態で挿通されており、前進用コイル114又は後退用コイル115に通電すると前進又は後退する。
【0004】
打撃工具100によってコッター119を打ち込む場合には、まず可動磁極110を打撃開始位置となる後退用コイル115内に位置させておく。次に、前進用コイル114を励磁して可動磁極110をコッター119側に加速させ、連結部112の可動磁極110側の端部を打撃する。次に、後退用コイル115を励磁して可動磁極110を打撃開始位置に復帰させる。コッター119が所要の位置に打ち込まれるまで、上述の打撃手順を繰り返す。
【0005】
ところで、上述のような構成の打撃工具においては、例えば、被打撃物を打ち込む基体が比較的に柔らかいときに新たな課題が発生していた。すなわち、何回か打撃を加えることによって連結部112の可動磁極110側の端部が側板118の位置間、又は、その近傍まで前進したときに新たな打撃を加えると、可動磁極110が前進用コイル114の励磁によって加速している状態で連結部112と側板118との両方に打撃を与えることになる。可動磁極110が加速したまま側板118に打撃を加えると、前進用コイル114及び後退用コイル115やその他の構成部品に強い衝撃が伝わることになる。前進用コイル114などへの衝撃は、コイルワイヤなどの断線などに好ましくない影響を与えることがある。言い換えるならば、この構成では、可動磁極110を前進可能な限界点の手前で止めなければならないという課題がある。
【0006】
また、上述のような構成の打撃工具は、打撃によって被打撃物を変形させる用途にも利用できる。すなわち、連結部112をハンマーに置き換えれば、このハンマーによって被打撃物を変形させることが可能となる。ハンマーの1、2回目の打撃によって被打撃物が大きく変形して、可動磁極110側の端部が側板118の位置間、又は、その近傍まで前進したときに新たな打撃を加えると、前述した課題が発生する。さらに、可動磁極110の直動の終点まで到達しているので、ハンマーが前進しない(全く打撃を生じない)、又は、ごく僅かにしか前進しなくなる(僅かな打撃しか生じない)という、より根本的な課題も発生する。ハンマーが全く前進しない、又は、ごく僅かにしか前進しない場合には、打撃工具の配置を変更する、つまり、前に移動させる必要があるので、作業者の負担が大きくなるという副次的な課題も発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の課題を解決するために、ソレノイドによって駆動する打撃工具において、駆動源となるソレノイドの作動範囲の全てを有効に使ってハンマーを加速できると共に、被打撃物の変形に影響を受けることなく衝撃を与えられる打撃工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、コイルと前記コイルへの通電によって直動する可動磁極とを備えたソレノイドと、前記可動磁極の駆動力によって作動するハンマーと、前記ハンマーの作動方向に沿って延びるように略棒状又は略筒状に形成されると共に前記ハンマーに連動するように設けられたハンマー支持部材とを有する打撃工具であって、前記ハンマー支持部材は、前記ハンマーが一方の端部に固定され、前記一方の端部の近傍部から他方の端部までの範囲の所定部位に被放擲部が設けられ、前記可動磁極に対して接続され、又は、常時接するように設けられると共に、前記コイルへの通電前には前記被放擲部に接していて、前記コイルに通電したときに前記可動磁極の駆動力によって前記被放擲部を前記ハンマーの作動方向に押圧しながら加速させ、前記可動磁極が直動の終点に到達したときに前記被放擲部を前記ハンマーの作動方向に放擲して離隔するようになされた駆動力伝達部材をさらに有していることを特徴とする打撃工具である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ハンマー支持部材の近傍に設けられると共に、前記ハンマーの作動方向に放擲された前記被放擲部に当接することによって、前記ハンマーの作動を停止するように設けられたストッパ部材をさらに有していることを特徴とする打撃工具である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記ハンマー支持部材の前記被放擲部及びその近傍部を収納すると共に、前記ハンマー支持部材を挿通した開口部が形成されたケースをさらに有し、前記ストッパ部材は、前記ケースに収納されている、又は、前記ケースの一部であることを特徴とする打撃工具である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記駆動力伝達部材は、前記可動磁極に連動するように係合される、又は、固定されると共に、先端部が前記被放擲部に対向するように設けられたシャフトであり、前記ハンマー支持部材は、前記シャフトと中心軸が一致するように直列に配置されると共に、前記被放擲部が前記シャフトの前記先端部に接離可能に設けられていることを特徴とすることを特徴とする打撃工具である。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記駆動力伝達部材は、略筒状に形成されると共に前記ハンマー支持部材が挿通された放擲部と、一方の端部が前記放擲部に対して可動的に接続され、他方の端部が前記可動磁極に対して可動的に接続されると共に、前記一方の端部と前記他方の端部との間に開口部が形成された梃子用レバー部と、前記梃子用レバー部の前記開口部に挿通されると共に、前記梃子用レバー部を回動可能に支持する支点用軸受部と、基端部が前記ケースに対して固定され、先端部に前記支点用軸受部が固定された支点用支柱部を備えていることを特徴とする打撃工具である。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記ケースは、前記梃子用レバー部の下端部が固定されると共に、前記ハンマー支持部材の前記被放擲部と前記ハンマーとの間の部分が挿通された開口部が形成された下枠部材と、前記下枠部材の上方に配置され、前記ソレノイドが固定されると共に前記ハンマー支持部材の前記被放擲部よりも上方の部分が挿通された上枠部材と、前記下枠部材と前記上枠部材とを接続する縦枠部材を備え、前記ハンマー支持部材は、前記被放擲部の径が前記下枠部材の前記開口部の径よりも大きくなるように形成され、前記被放擲部よりも上側の端部の近傍部に環状溝が形成され、さらに、前記ハンマー支持部材の前記環状溝に固定された止め輪と、下端部が前記上枠部材に当接し、上端部が前記止め輪に当接するように設けられると共に、前記コイルへの通電を停止したときに前記ハンマーが前記下枠部材の下面に当接するところまで前記ハンマー支持部材及び前記ハンマーを上昇させる弾発力を有している復帰用スプリングと、下端部が前記放擲部に当接し、上端部が前記上枠部材に当接するように設けられると共に、前記コイルへの通電を停止しているときに前記放擲部と前記被放擲部とが接した状態にするのに必要な強さで、かつ、前記復帰用スプリングよりも弱い弾発力を有している押し付け用スプリングとを有することを特徴とする打撃工具である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、ソレノイドの最大推力によって可動磁極の加速が終了した後に衝突点を設定しているので、衝突位置が変化しても撃力は影響を受けにくいという利点がある。すなわち、ハンマーで被打撃物に撃力を加える場合、その撃力は衝突時のハンマーの速度の2乗に比例する。よって、衝突時における速度の管理が重要となる。従来例では、加速している途中に衝突点を設定する必要がある。そして、この付近はソレノイドの推力が最も大きくなる領域に相当する。また、被打撃物によっては、打撃によって形状に変化を生じることもある。被打撃物の形状が変化すると、衝突する位置も変化することになる。従来例では、加速している途中で衝突するために、衝突する位置の変化によって、速度にも変化を生じて撃力が変化する。そして、ソレノイドによって駆動する打撃工具においては、この付近が速度の変化率が最も大きいところに相当する。したがって、従来例では、被衝突物の物理的性質などや形状の変形の度合いなどによって、n回目の打撃とn+1回目の打撃とで、撃力が大きく変化する場合がある。これに対して、本発明では、前述のように、ソレノイドの最大推力によって可動磁極の加速が終了した後に衝突点を設定しているので、ソレノイドの推力を有効に使用して加速すると共に、放擲直後は速度変化が穏やかなので、衝突位置が変化しても撃力は影響を受けにくくなる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、ソレノイド以外のものにストッパ部材を設けることによって、ソレノイドに対する衝撃を低減することができ、繰り返し長期間使用することによるコイルの断線等を低減することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、ストッパ部材がケースに収納されている、又は、ケースの一部であるので、被放擲部がストッパに衝突するときの騒音がケースの内部で発生するので、この騒音を低減することができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、ハンマー支持部材とシャフトとを中心軸が一致するように直列に配置するので、打撃工具の径を細くすることができる。ひいては、打撃工具の運搬や、作業者による保持が容易になる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、梃子の原理を応用しているので、従来技術に係る打撃工具よりも大きな撃力を得ることが可能となる。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、コイルへの通電を停止すると、復帰用スプリングの弾発力によってハンマーが元の位置に直ちに復帰するので、打撃工具の連続的な使用が可能となる。また、押し付け用スプリングが放擲部と被放擲部とを接した状態にするので、ハンマーが可動磁極に連動して直ちに作動する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る打撃工具の非通電状態における正面図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係る打撃工具の非通電状態における部分断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態に係る打撃工具のコイルへの通電時の動作を示す正面図(1)である。
【
図4】本発明の第1の実施の形態に係る打撃工具のコイルへの通電時の動作を示す正面図(2)である。
【
図5】本発明の第1の実施の形態に係る打撃工具のコイルへの通電時の動作を示す正面図(3)である。
【
図6】本発明の第1の実施の形態に係る打撃工具の空打ち状態を示す正面図である。
【
図7】本発明の第2の実施の形態に係る打撃工具の非通電状態における部分断面図である。
【
図8】本発明の第2の実施の形態に係る打撃工具の非通電状態における正面図である。
【
図9】本発明の第2の実施の形態に係る打撃工具のコイルへの通電時の動作を示す部分断面図(1)である。
【
図10】本発明の第2の実施の形態に係る打撃工具のコイルへの通電時の動作を示す部分断面図(2)である。
【
図11】本発明の第2の実施の形態に係る打撃工具の空打ち状態を示す部分断面図である。
【
図12】本発明の第1の実施の形態に係る打撃工具の変形例を示す部分断面図である。
【
図13】本発明に係る打撃工具と従来例の打撃工具との相違点を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、本発明の第1の実施の形態に係る打撃工具について説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る打撃工具の非通電状態における正面図である。
図1において、10は打撃工具、15は駆動力伝達部材、19はハンマー支持部材、20は放擲部、21は連結ピン、23は被放擲部、24はシャフト部、25はハンマー、25aは打撃面、26は押し付け用スプリング、27は復帰用スプリング、30は梃子用レバー部、30a及び30bは開口部、31はケース、32は下枠部材兼ストッパ部材、33は支点用支柱部、34は支点用軸受部、35は上枠部材、36及び37は縦枠部材、38及び39はナット、40はソレノイド、41はレバー連結部、42は連結ピン、43は可動磁極、44は補助磁極、45はヨーク兼ケース、46及び47はボルト、48は止め輪、49はOリング、75は被打撃物である。また、
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る打撃工具の非通電状態における部分断面図である。
図2において、20aは貫通孔、22は軸受、25bは嵌合用穴、28は環状溝、29は軸受、32a及び35aは開口部である。なお、以下の本発明の第1及び第2の実施の形態に係る打撃工具の駆動力伝達部材に関する説明において、「先端側」、「先端部」及び「先端面」と記載した場合には、被打撃物に作用する手段に近い方を指す、すなわち、「ハンマーがある側」、「ハンマーがある側の端部」及び「ハンマーがある側の端面」を示すものとする。また、「基端側」、「基端部」及び「基端面」と記載した場合には、駆動源に近い方を指す、すなわち、「ソレノイドがある側」、「ソレノイドがある側の端部」及び「ソレノイドがある側の端面」を示すものとする。
【0023】
まず、本発明の第1の実施の形態に係る打撃工具10の概要について説明する。打撃工具10は、可搬型で、かつ、直動型のソレノイドを設けたものである。また、打撃工具10は、ハンマー25の作動に梃子の原理を応用した構成に特徴がある。すなわち、打撃工具10は、
図1に示すように、下枠部材兼ストッパ部材32、上枠部材35、縦枠部材36及び縦枠部材37からなるケース31にソレノイド40等の構成部品が収納されている。ソレノイド40は、ヨーク兼ケース45の内部に収納された図示していないコイルに通電すると、可動磁極43がヨーク兼ケース45の内部に収納された図示していない固定磁極に吸引され、ヨーク兼ケース45側、つまり、
図1において上側に直動する。可動磁極43と一体的に設けられたレバー連結部41には駆動力伝達部材15の梃子用レバー部30が接続されており、梃子用レバー部30はこの直動に伴って支点用軸受部34を中心に時計回りに回動する。この回動によって、駆動力伝達部材15の放擲部20が加速しながら下側に直動する。放擲部20は、ハンマー支持部材19の被放擲部23を加速しながら下側に直動させる。可動磁極43が固定磁極、又は、固定磁極の近傍に設けた緩衝材に当接すると、放擲部20は被放擲部23を放擲し、被放擲部23は下枠部材兼ストッパ部材32に向かってさらに直動する。ハンマー支持部材19の下端部には、ハンマー25が接続されており、この直動によって被打撃物75に打撃を加える。また、ハンマー25は、被放擲部23が下枠部材兼ストッパ部材32に当たる前に被打撃物に衝突するので、通常の使用において被放擲部23が下枠部材兼ストッパ部材32に当接することがない。したがって、被放擲部23が下枠部材兼ストッパ部材32に当接したときの衝撃によって、ソレノイド40等の構成部品に悪影響を与えるようなことが発生しない。
【0024】
さらに、打撃工具10の各部の構成について詳しく説明する。
図1及び
図2に示すように、ソレノイド40の駆動力は、レバー連結部41から駆動力伝達部材15及びハンマー支持部材19を介してハンマー25に伝達される。駆動力伝達部材15は、梃子用レバー部30、放擲部20、支点用支柱部33及び支点用軸受部34から構成されている。梃子用レバー部30は、文字通り梃子として作用するものであり、支点用軸受部34を支点として回動する。また、梃子用レバー部30は、両端部の近傍部に、レバー連結部41の連結ピン42を挿入するための開口部30aと、放擲部20の連結ピン21を挿入するための開口部30bとがそれぞれ形成されている。開口部30aと開口部30bとは、梃子用レバー部30の回動にしたがって、連結ピン42と開口部30bとの支点用軸受部34に対する距離が若干変化することから、それぞれ長円形に形成されている。さらに、梃子用レバー部30を回動可能に支持している支点用軸受部34から、力点である連結ピン42までの距離と、作用点である連結ピン21までの距離とが約2対1に設定されている。
【0025】
したがって、放擲部20のストローク長は、可動磁極43のストローク長の約2倍になり、可動磁極43の加速時における放擲部20の加速度も大きくなる。くわえて、ハンマー支持部材19及びハンマー25のストローク長を非常に長くすることができる。ハンマー支持部材19及びハンマー25のストローク長を非常に長くなると、後述するように、被打撃物が打撃によって凹陥した場合でも、追い打ちの打撃を加えることが可能となる。なお、支点用軸受部34から、力点であるレバー連結部41の連結ピン42までの距離と、作用点である放擲部20の連結ピン21までの距離とは、例えば3対1など、ハンマー支持部材19及びハンマー25のストローク長をさらに長くすることも可能である。また、ソレノイド40がコイルへの通電によって可動磁極が突出するタイプのものである場合には、開口部30bと支点用軸受部34との位置関係が逆になるようにすれば、同様の作用が得られる。
【0026】
駆動力伝達部材15の支点用支柱部33は、基端部が下枠部材兼ストッパ部材32に固定されており、上端部の近傍部に支点用軸受部34が固定されている。駆動力伝達部材15の支点用軸受部34は、梃子用レバー部30を回動可能に支持している。なお、支点用軸受部34には、ボールベアリングや無給油ブッシュなどを用いることが望ましいが、特定の種類のものに限定されない。駆動力伝達部材15の放擲部20は、梃子用レバー部30の回動を直動に変換し、さらに被放擲部23に対して可動磁極43の直動を伝達する役割を持つ。すなわち、放擲部20は、
図2に示すように、略円筒状に形成されており、貫通孔20aに対して、ハンマー支持部材19の被放擲部23よりも上側で、かつ、上枠部材35よりも下側になる部分が挿通された状態で設けられている。なお、梃子用レバー部30、支点用軸受部34、連結ピン21及び連結ピン42は1つずつ設けられているが、これらを背面側にも設けることも可能である。つまり、これらのものが背面側に、
図1と左右対象に表れるように設けてもよい。
【0027】
さらに、放擲部20は、ソレノイド40のコイルに通電する前の状態において、押し付け用スプリング26の弾発力によって被放擲部23に対して押し付けられている。したがって、可動磁極43が加速しながら直動すると、放擲部20は被放擲部23を直ちに加速しながら直動し、ひいてはハンマー25も加速しながら直動する。また、前述のように、梃子用レバー部30を回動可能に支持している支点用軸受部34から、力点である連結ピン42までの距離と、作用点である連結ピン21までの距離とが約2対1に設定されており、ハンマー25の速度は可動磁極43の速度よりも早くなるので、可動磁極43とハンマー支持部材19とを直列に配置する構成よりも大きな撃力を作用させることができる。ところで、後述するように、放擲部20は、被放擲部23が下枠部材兼ストッパ部材32に当接するまで加速するのではなく、可動磁極43が停止した時点において被放擲部23を放擲する。したがって、ハンマー25は、可動磁極43が停止した時点から加速されない状態になる。
【0028】
ハンマー支持部材19は、ハンマー25と一体的に設けられており、ハンマー25を支持する機能と、駆動力伝達部材15の駆動力である直動を受け入れる機能を併せ持っている。すなわち、ハンマー支持部材19は、
図2に示すように、縦枠部材36及び縦枠部材37と平行に、つまり、垂直方向に延びるように設けられている。さらに、被放擲部23の部分を除いて先端部から基端部まで棒状に形成され、長手方向に直交する断面は円形になされている。また、ハンマー支持部材19の下側の部分は、下枠部材兼ストッパ部材32の開口部32aに固定された軸受22に挿通されており、ハンマー支持部材19の上側の部分は、上枠部材35の開口部35aに固定された軸受29に挿通されている。さらに、下枠部材兼ストッパ部材32と上枠部材35との間には、略円環板状に形成された被放擲部23が一体に設けられている。なお、被放擲部23は、ハンマー支持部材19と別個に形成して、これをねじなどで固定するようにしてもよい。
【0029】
また、ハンマー支持部材19の上端部の近傍部には環状溝28が形成されており、さらに環状溝28には止め輪48が設けられている。止め輪48は、復帰用スプリング27のばね受けとして機能する。くわえて、ハンマー支持部材19の下端部及びその近傍部は、ハンマー25の上面側に開口している嵌合用穴25bに圧入されている。したがって、ハンマー支持部材19の垂直方向における可動範囲は、ハンマー25が下枠部材兼ストッパ部材32の下面に当接している位置から、ソレノイド40の可動磁極43が下側に最大限に突出している状態におけるハンマー支持部材19の位置までの範囲となる。
【0030】
復帰用スプリング27は、ソレノイド40のコイルへの通電を停止した後に、ハンマー25を下枠部材兼ストッパ部材32の下面に当接する位置まで引き上げて、コイルへの通電開始前の状態に復帰させる機能を持っている。すなわち、復帰用スプリング27は、下端部側が上枠部材35の上面をばね受けとし、上端部側が止め輪48をばね受けとし、ハンマー25が下枠部材兼ストッパ部材32の下面に当接するのに必要な弾発力を発揮するように押し縮められた状態で設けられている。これに対して、押し付け用スプリング26は、ソレノイド40のコイルに通電する前の状態において、放擲部20と被放擲部23とが確実に接触している状態にするために設けたものであり、ハンマー25の復帰には関係がない。すなわち、押し付け用スプリング26は、下端部側が放擲部20の上面をばね受けとし、上端部側が上枠部材35の下面をばね受けとし、復帰用スプリング27よりも弾発力が十分に小さく、かつ、コイルへの通電前に放擲部20と被放擲部23とを確実に接触させるのに必要な弾発力を有している。
【0031】
ソレノイド40は、上枠部材35の図示していない小開口部にボルト46及びボルト47を挿通し、これらにナット38及びナット39をそれぞれねじ込みことによって上枠部材35に固定されている。図示していないコイルに通電していないときには、復帰用スプリング27の弾発力によって、可動磁極43が下側に突出した状態となる。コイルに通電すると、可動磁極43は、補助磁極44がヨーク兼ケース45に当接するところまで上昇する。補助磁極44は、可動磁極43に連結されると共に、磁路を十分に確保するために設けられた補助的な磁極である。また、レバー連結部41は、可動磁極43の直動運動を外部に伝達するための連結部材であり、可動磁極43に対して直列するように設けられている。なお、打撃工具10の駆動源は、ソレノイドに限られるものではなく、例えば、ボイスコイルモータ(ムービングコイル)やリニアモータであってもよいが、推力が急上昇してハンマー25を加速させる能力の高さを鑑みると、ソレノイドが最も好適な駆動源であると言える。また、静音性の確保と、可動磁極43が図示していない固定磁極に張り付くことを防止するために、固定磁極の可動磁極43との対向面に樹脂などの非磁性材から形成された緩衝用リングを設けてもよい。ただし、放擲部20によって被放擲部23をできる限り加速するという観点からは、緩衝用リングを設けない方が望ましい。
【0032】
ケース31は、矩形板状に形成された下枠部材兼ストッパ部材32、上枠部材35、縦枠部材36及び縦枠部材37を組み立てて構成されている。また、下枠部材兼ストッパ部材32は、構造材としての機能と、可動磁極43の直動によって放擲部20から放擲されて先端側への直動する被放擲部23、及び、復帰用スプリング27の弾発力によって上昇するハンマー25を規制するストッパとしての機能を併せ持っている。さらに、下枠部材兼ストッパ部材32は、ストッパとしての機能を持っていることから、他の枠部材よりも厚く形成されている。なお、ケース31は、開放された面がなく、6面の全てを閉止するものであってもよい。また、ケース31は例えば、四角柱状の枠部材に対して矩形状の板部材をはめ込むことによって構成してもよい。Oリング49は、ハンマー支持部材19に挿通され、かつ、下枠部材兼ストッパ部材32に接した状態で設けられている。このように設けられたOリング49は、例えば、被打撃物75を配置する前にソレノイド40を誤作動させたときに、被放擲部23と下枠部材兼ストッパ部材32との間に介在することによって、被放擲部23から下枠部材兼ストッパ部材32に伝わる衝撃を緩和し、打撃工具10の各部品に伝わる衝撃を低減する機能を持つ。
【0033】
続けて、本発明の第1の実施の形態に係る打撃工具10の動作について説明する。
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る打撃工具のコイルへの通電時の動作を示す正面図(1)である。
図3において用いた符号は、すべて
図1と同じものを示す。また、
図4は、本発明の第1の実施の形態に係る打撃工具のコイルへの通電時の動作を示す正面図(2)である。
図4において用いた符号は、すべて
図1と同じものを示す。さらに、
図5は、本発明の第1の実施の形態に係る打撃工具のコイルへの通電時の動作を示す正面図(3)である。
図5において用いた符号は、すべて
図1と同じものを示す。くわえて、
図6は、本発明の第1の実施の形態に係る打撃工具の空打ち状態を示す正面図である。
図6において用いた符号は、すべて
図1と同じものを示す。
【0034】
打撃工具10は、ソレノイド40の図示していないコイルに通電する前においては、
図1に示すように、ハンマー25が下枠部材兼ストッパ部材32の下面に当接した状態になっている。この状態において、ハンマー25が被打撃物75の上方で、かつ、所定の高さになるように配置しておく。次に、ソレノイド40のコイルに通電する。コイルへの通電によって、ヨーク兼ケース45の内部にある図示していない固定磁極に吸引され、
図3に示すように、可動磁極43が加速しながら上昇して行く。ハンマー25は、加速しながら被打撃物75に接近して行く。可動磁極43がさらに上昇し、
図4に示すように、可動磁極43の補助磁極44がヨーク兼ケース45に当接すると、可動磁極43の上昇が停止する。このとき、放擲部20も先端側への直動が急停止する。被放擲部23は、放擲部20から放擲されて先端側へさらに直動する。ハンマー25は、被打撃物75に衝突して被打撃物75を想定した形状に変形させる。ここで、例えば、被打撃物が1回目の打撃によって
図4に示すように、凹陥してハンマー25の打撃面25aが僅かに接する状態まで変形した場合であっても、
図5に示すように、2回目の打撃においてハンマー25の先端側への直動によって追い打ちの打撃を加えることが可能である。また、例えば、被打撃物75を配置する前にソレノイド40を誤作動させ、いわゆる空打ちをした場合においても、Oリング49が被放擲部23からの衝撃を緩和しつつ、被放擲部23の先端側への直動を規制する。被放擲部23の先端側への直動が規制されると、ハンマー25も直ちに停止する。
【0035】
打撃工具10は、以上のように動作をするので、例えば、ハンマー25の打撃面25aと被打撃物とが
図3乃至
図4に示す状態において当接するように設定しておけば、第1撃目で被打撃物が大きく変形した場合であっても、ハンマー25はさらに
図5に示すところまで突出可能であるので、1打撃毎に打撃工具の配置を変更するような作業負担を生じることがない。また、空打ちをした場合においても、被放擲部23からの衝撃を緩和されるので、ソレノイド40等に異変が生じることを低減できる。さらに、ハンマー25の跳ね返りによって撃力が逆方向に作用することがあっても、跳ね返りによる撃力がケース31や、駆動力伝達部材15に分散され、ソレノイド40に撃力が集中しないという利点もある。
【0036】
さらに、本発明の第1の実施の形態に係る打撃工具においては、ハンマー及びハンマー支持部材を交換することによって様々な用途に利用することが可能である。
図12は、本発明の第1の実施の形態に係る打撃工具の変形例を示す部分断面図である。
図12において、12は打撃工具、70はハンマー支持部材、71は被放擲部、72はシャフト部、73はハンマー、74は嵌合用穴であり、その他の符号は
図1と同じものを示す。
【0037】
打撃工具12は、本発明の第1の実施の形態に係る打撃工具10のハンマー25とハンマー支持部材19とをより小型のハンマー73とハンマー支持部材70とに置き換えたものである。ハンマー支持部材70は、シャフト部72がハンマー73の嵌合用穴74に圧入されることによって固定されている。また、ハンマー支持部材70の被放擲部71は、運動量を確保するために、ハンマー支持部材19の被放擲部23よりも肉厚に形成されている。
【0038】
以上のように、本発明の第1の実施の形態に係る打撃工具10においては、可動磁極43の補助磁極44がヨーク兼ケース45に当接し、可動磁極43が直動の終点に到達したときに被放擲部23をハンマー25の作動方向に放擲するので、可動磁極43がその直動の終点まで到達した位置において、ハンマー25が作動し続けて被打撃物に打撃を加える。また、可動磁極43がその直動の終点まで到達すると、ハンマー支持部材19が駆動力伝達部材15の被放擲部23から離隔するので、ハンマー支持部材19及びハンマー25は加速されていない状態となる。したがって、可動磁極がハンマーを加速し続けている状態でコイル等に衝撃が直接的に加わる従来技術よりも、コイル等に加わる衝撃が低減されるという効果が得られる。また、ソレノイド40の最大推力によって可動磁極43の加速が終了した後に衝突点を設定しているので、ソレノイド40の推力を有効に使用して加速できる。さらに、被放擲部23の放擲直後は速度変化が穏やかなので、ハンマー25の衝突位置が変化しても撃力の大きさはあまり変化しない。
【0039】
また、下枠部材兼ストッパ部材32をストッパ部材とする、すなわち、ソレノイド40以外のものにストッパ部材を設け、さらに緩衝材としてOリング49を設けることによって、ソレノイド40に対する衝撃を低減することができ、繰り返し長期間使用することによるコイルの断線等を低減することができる。さらに、駆動力伝達部材15が梃子の原理を応用しているので、従来技術に係る打撃工具よりも大きな撃力を得ることが可能となる。くわえて、ソレノイド40のコイルへの通電を停止すると、復帰用スプリング27の弾発力によってハンマー25が元の位置に直ちに復帰するので、打撃工具10の連続的な使用が可能となる。また、押し付け用スプリング26が放擲部20と被放擲部23とを接した状態にするので、被放擲部23を加速する時間を最大限確保することができる。ひいては、ハンマー25が可動磁極43に連動して直ちに作動するので、ハンマー25を加速する時間を最大限確保することができる。
【0040】
さらに、本発明における放擲部及び被放擲部を有する構成の特徴について説明する。
図13は、本発明に係る打撃工具と従来例の打撃工具との相違点を示す説明図である。
図13は、本発明に係る打撃工具と前述のような従来例の打撃工具とにおいて、ハンマーが被打撃物に打撃を与える衝突域が如何に相違するかを明らかにしたグラフである。なお、装着するソレノイドは、互いに同じ特性を有するものとする。また、
図13に記載している2つの破線は、ハンマーが被打撃物に衝突して減速して行く過程を示すものであるが、これらの破線で示したものあくまでも一例であり、被打撃物の物性などやソレノイドの特性などによって異なってくる。本発明に係る打撃工具においては、ソレノドの可動磁極が停止する位置から被放擲部がストッパに規制されて停止するまでの衝突域、つまり、ハンマーを作用させる領域として利用できるので、ハンマーを作用させる領域を広く確保することができる。また、可動磁極が停止した時点が可動磁極の最高速度になるので、装着するソレノイドが発揮し得る最大の撃力に近い撃力を被打撃物に与えることができる。さらに、衝突域の範囲内であれば、衝突位置による速度の変動が小さいので、被打撃物に対してほぼ同じ大きさの撃力を繰り返し加えることができる。これに対して、従来例の打撃工具では、ハンマーからの衝撃を低減するために、ソレノドの可動磁極が停止する位置の少し手前にストッパを設けておく必要がある。また、従来例の打撃工具においてハンマーを作用させる領域は、ストッパによって停止する位置からさらに少し先の位置までの範囲となるので、撃力が本発明に係る打撃工具よりも相対的に小さくなる。くわえて、衝突域の範囲内であっても、衝突位置による速度の変動が大きいので、ソレノイドに通電するために被打撃物を精確に配置する必要があり、作業者の負担が大きくなる。以上のように、本発明に係る打撃工具は、撃力を向上させることができ、ハンマーを作用させる衝突域も広くなる上に、作業者の負担も軽減できるので、従来技術に係る打撃工具に存在しない大きな利点があることは明白である。
【0041】
続けて、本発明の第2の実施の形態に係る打撃工具について説明する。
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る打撃工具の非通電状態における部分断面図である。
図7において、11は打撃工具、50は駆動力伝達部材、51は被放擲部、51aは凹陥部、52はシャフト部、53はハンマー、53aは打撃面、53bは嵌合用穴、54はケース、55は径大貫通孔、56は径小貫通孔、57は段差面、58は復帰兼押し付け用スプリング、59はストッパ部材、59aは当接面、60はソレノイド、61はシャフト、62はソレノイド嵌合部、63は軸受、64はOリングである。また、
図8は、本発明の第2の実施の形態に係る打撃工具の非通電状態における正面図である。
図8において用いた符号は、
図7と同じものを示す。
【0042】
本発明の第2の実施の形態に係る打撃工具11は、大幅な小型化を図ることによって、卓上などで簡便に使用できるように構成したものである。すなわち、打撃工具11は、
図7に示すように、ハンマー53、ケース54及びソレノイド60を直列に配置している。このように配置することによって、
図8に示すように、筆記具のような非常に細長い外観を呈している。ソレノイド60は、駆動源であり、図示していないコイルに通電することによって、図示していない可動磁極がシャフト61を押し下げ、さらにシャフト61が駆動力伝達部材50を押し下げる。よって、シャフト61は、打撃工具10の駆動力伝達部材15と同様の作用を持っている。なお、シャフト61は、シャフト61の基端側を図示していない可動磁極の孔に対して圧入することによって固定されている。なお、シャフト61とこの可動磁極とが被固定的に係合され、可動磁極が直動するときにシャフト61が引っ掛かる、又は、押し出されるようにして直動するようにしてもよい。駆動力伝達部材50は、ソレノイド60の図示していないコイルに通電していないときには、ハンマー53のごく一部を除いてケース54に収納されている。
【0043】
ケース54は、略円筒状に形成されており、さらにソレノイド60と同じ外径に形成されている。ケース54の内部は、同一の径ではなく、基端側を相対的に径の大きい径大貫通孔55とし、先端側を相対的に径が小さい径小貫通孔56としている。径大貫通孔55には、ソレノイド60のソレノイド嵌合部62の先端部及びその近傍部が圧入されている。なお、より強固に固定するために、径大貫通孔55とソレノイド嵌合部62とにねじ山を切り、ソレノイド嵌合部62を径大貫通孔55にねじ込むことによって固定してもよい。また、径小貫通孔56には、駆動力伝達部材50のシャフト部52の直動を支持する軸受63が設けられている。さらに、径大貫通孔55と径小貫通孔56との段差面57は、復帰兼押し付け用スプリング58の先端部のばね受けとして機能する。Oリング64は、駆動力伝達部材50のシャフト部52に挿通され、かつ、ストッパ部材59に接した状態で設けられている。このように設けられたOリング64は、例えば、被打撃物を配置する前にソレノイド60を誤作動させたときに、駆動力伝達部材50の被放擲部51とストッパ部材59との間に介在することによって、被放擲部51からストッパ部材59に伝わる衝撃を緩和し、打撃工具11の各部品に伝わる衝撃を低減する機能を持つ。
【0044】
駆動力伝達部材50は、被放擲部51とシャフト部52とを備えている。被放擲部51は、駆動力伝達部材50の基端部に、フランジのように周囲にせり出した円環板状に形成されている。また、被放擲部51は、ソレノイド60のシャフト61から伝わる駆動力を受ける機能と、復帰兼押し付け用スプリング58の先端部のばね受けとして機能を併せ持っている。シャフト部52は、先端部及びその近傍部がハンマー53の嵌合用穴53bに圧入されている。ハンマー53は、駆動力伝達部材50の直動によって被打撃物に対して打撃を加える。復帰兼押し付け用スプリング58は、打撃工具10の復帰用スプリング27と押し付け用スプリング26との機能を兼ね備えている。これは、駆動力伝達部材50とソレノイド60とを直列に配置したことから、駆動力伝達部材50が元の位置に復帰すると放擲部であるソレノイド60のシャフト61に当接状態になることによる。ストッパ部材59は、略円筒状に形成されており、下枠部材兼ストッパ部材32のストッパ部材としての機能と同様に作用する。
【0045】
続けて、本発明の第2の実施の形態に係る打撃工具11の動作について説明する。
図8は、本発明の第2の実施の形態に係る打撃工具のコイルへの非通電時の動作を示す正面図である。
図8において用いた符号は、すべて
図7と同じものを示す。また、
図9は、本発明の第2の実施の形態に係る打撃工具のコイルへの通電時の動作を示す部分断面図(1)である。
図9において用いた符号は、すべて
図7と同じものを示す。さらに、
図10は、本発明の第2の実施の形態に係る打撃工具のコイルへの通電時の動作を示す部分断面図(2)である。
図10において用いた符号は、すべて
図7と同じものを示す。くわえて、
図11は、本発明の第2の実施の形態に係る打撃工具の空打ち状態を示す部分断面図である。
図10において用いた符号は、すべて
図7と同じものを示す。なお、被打撃物に対する位置関係や打撃動作などは打撃工具10と同様であるので、被打撃物の図面への記載、及び、被打撃物への作用等の説明を省略する。
【0046】
打撃工具11は、ソレノイド60の図示していないコイルに通電する前においては、
図7に示すように、ハンマー53がケース54の下面に最も接近した状態になっている。ソレノイド60のコイルに通電すると、図示していない可動磁極が図示していない固定磁極に吸引され、
図9に示すように、シャフト61が加速しながら先端側へ直動して行く。
図10に示すように、シャフト61がさらに直動し、可動磁極が作動範囲の限界点に達すると可動磁極の直動が停止する。このとき、シャフト61も先端側への直動が急停止する。被放擲部51は、シャフト61から放擲されて先端側へ直動し続ける。したがって、例えば被打撃物が1回目の打撃によって凹陥してハンマー53の打撃面53aが僅かに接する程度の状態になった場合でも、ハンマー53の先端側へのさらなる直動によって追い打ちの打撃を加えることが可能である。また、例えば、ソレノイド60を誤作動させて空打ちをした場合においても、Oリング64が被放擲部51からの衝撃を緩和しつつ、被放擲部51の先端側への直動を規制する。被放擲部51の先端側への直動が規制されると、ハンマー53も直ちに停止する。
【0047】
以上のように、本発明の第2の実施の形態に係る打撃工具11は、ハンマー53、ケース54及びソレノイド60を直列に配置し、筆記具のような非常に細長い外観を呈するように構成しているが、打撃工具10と同様に、ソレノイド60の最大推力によって可動磁極の加速が終了した後に衝突点を設定しているので、ソレノイド60の推力を有効に使用して加速できる。さらに、被放擲部51の放擲直後は速度変化が穏やかなので、ハンマー53の衝突位置が変化しても撃力の大きさはあまり変化しないという作用効果がある。くわえて、被放擲部51がシャフト61から離隔し、かつ、被放擲部51がストッパ部材59に当接する前にハンマー53が被打撃物に衝突するので、被放擲部51が衝突することによる衝撃を受けない。さらに、打撃のための構成部品がハンマー53、ケース54、復帰兼押し付け用スプリング58、ストッパ部材59及び軸受63と非常に僅かな点数しかなく、さらにこれらの部品に対して既製のソレノイドを組み合わせるだけで打撃工具を実現できるという利点もある。さらに、特に図示はしないが、ハンマー53に代えて刃物などを装着することによって、打撃工具以外への展開を図ることも可能である。
【0048】
本発明は以上に説明した内容に限定されるものではなく、例えば、本発明の第1の実施の形態に係る打撃工具10において、ハンマー25をシャフト部24にねじ込んで取り付ける構成とし、多様な種類のハンマーを交換可能とする、又は、刃物と交換可能にする、本発明の第2の実施の形態に係る打撃工具11において、ソレノイド60をねじ込み式とし、さらに特性が異なる数種類のソレノイドと交換可能にするなど、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限りにおいて種々の構成にすることが可能である。
【符号の説明】
【0049】
10 打撃工具
11 打撃工具
12 打撃工具
15 駆動力伝達部材
19 ハンマー支持部材
20 放擲部
20a 貫通孔
21 連結ピン
22 軸受
23 被放擲部
24 シャフト部
25 ハンマー
25a 打撃面
25b 嵌合用穴
26 押し付け用スプリング
27 復帰用スプリング
28 環状溝
29 軸受
30 梃子用レバー部
30a 開口部
30b 開口部
31 ケース
32 下枠部材兼ストッパ部材
32a 開口部
33 支点用支柱部
34 支点用軸受部
35 上枠部材
35a 開口部
36 縦枠部材
37 縦枠部材
38 ナット
39 ナット
40 ソレノイド
41 レバー連結部
42 連結ピン
43 可動磁極
44 補助磁極
45 ヨーク兼ケース
46 ボルト
47 ボルト
48 止め輪
49 Oリング
50 駆動力伝達部材
51 被放擲部
51a 凹陥部
52 シャフト部
53 ハンマー
53a 打撃面
53b 嵌合用穴
54 ケース
55 径大貫通孔
56 径小貫通孔
57 段差面
58 復帰兼押し付け用スプリング
59 ストッパ部材
59a 当接面
60 ソレノイド
61 シャフト
62 ソレノイド嵌合部
63 軸受
64 Oリング
70 ハンマー支持部材
71 被放擲部
72 シャフト部
73 ハンマー
74 嵌合用穴
75 被打撃物
100 打撃工具
110 可動磁極
111 シャフト
112 連結部
113 ピン
114 前進用コイル
115 後退用コイル
116 円筒状本体
117 側板
118 側板
119 コッター
120 打撃座