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  • 特許-電力補正装置及び電力補正方法 図1
  • 特許-電力補正装置及び電力補正方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】電力補正装置及び電力補正方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/12 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
H02M1/12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019003966
(22)【出願日】2019-01-14
(65)【公開番号】P2020114118
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】592157722
【氏名又は名称】日理工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121658
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 昌義
(72)【発明者】
【氏名】丸山 昇
(72)【発明者】
【氏名】石井 瑞雄
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/077939(WO,A1)
【文献】特表平10-512063(JP,A)
【文献】特開2016-208376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源から供給される入力信号を伝える第一の信号線と、
前記交流電源から供給され前記入力信号と対をなす回路起点信号を伝える第二の信号線と、を備える電圧補正装置であって、更に、
前記入力信号を伝える前記第一の信号線に接続されるキャパシタ、前記キャパシタに接続される抵抗、前記抵抗に接続されるフィードバック回路、前記フィードバック回路に接続され前記第二の信号線に出力される反転回路、を備える電力補正装置。
【請求項2】
前記キャパシタと前記抵抗は相まってハイパスフィルターとして機能し、前記入力信号の周波数に応じて位相遅延を行う請求項1記載の電力補正装置。
【請求項3】
前記ハイパスフィルターのフィルター定数は、1kHz以上25kHz以下の範囲にある請求項記載の電力補正装置。
【請求項4】
交流電源から供給される入力信号を伝える第一の信号線と、前記交流電源から供給され前記入力信号と対をなす回路起点信号を伝える第二の信号線と、を備え、さらに、前記入力信号を伝える前記第一の信号線に接続されるキャパシタ、前記キャパシタに接続される抵抗、前記抵抗に接続されるフィードバック回路、前記フィードバック回路に接続され前記第二の信号線に出力される反転回路、を備える電力補正装置によって、交流電源から供給される入力信号及び負荷の変動により生ずる信号に対して高周波のノイズを除去するとともに、低周波の入力信号成分に対して位相遅延を生じさせる電力補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力補正装置及び電力補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用の電子機器、例えばハイエンドオーディオや液晶ディスプレイ等は、電力会社から供給される商用電源に、コンセントを直接接続して使用するのが一般的である。通常、電力会社から家庭に供給される電力は、電圧100V又は200V、周波数50Hz又は60Hzのサイン波の交流によって構成されており、家庭用電子機器も上記電圧、周波数に対応するよう設計されている。
【0003】
しかしながら、電力会社から供給される電力は、経由する変電所、電線等の外部による影響、更には、接続されている家電製品に備えられている半導体素子の動作等の家庭内の他の機器による影響によって完全なサイン波とはなっておらず、高調波を含む歪みが生じてしまっている。例えば従来のPWM技術を用いたスイッチング方式のインバータ制御では、たとえ軽量でも内蔵されたスイッチング回路よりノイズが発生するため、電源装置自身のノイズが電源出力に混入してしまう、またそのノイズ低減のためにフィルター回路を付加しなければならず、例えば上記ハイエンドオーディオ等では聴感等の性能に影響を与えてしまう、といった課題がある。
【0004】
このように歪みを含む電圧波形に対し補正を行おうとする技術は、例えば下記特許文献1等によって提案されている。
【0005】
また、本件特許出願人は、電圧補正を行う装置として、下記特許文献2に記載の技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-194380号公報
【文献】特許第5818395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術は、基準のサイン波を構成したとしてもその波形増幅には大きなアンプを備えなければならない等装置の大型化、構成の複雑化をもたらすことになる。
【0008】
また、上記特許文献2に記載の技術によると、簡便な構成で電力補正を行うことができるが、ノイズ除去を行う性能に特化したものであって、音の深みなど音質改善に関する検討は不十分である。
【0009】
一般に、音楽においては、適度な反響音や残響等が存在することによって、音の深みを感じることができる。電源から供給される入力信号に重畳していたノイズが除去された電源によって生ずる音はクリアな音質となるがその音に更に深みを得ることができればより高性能な装置になるといえる。
【0010】
そこで、本発明は上記課題に鑑み、より簡易な構成でノイズ除去及び音質改善を行うことのできる電力補正装置及び電力補正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を行ったところ、本来アンプ(オーディオアンプおよびギターアンプを含む)等の負荷の前段に配置する電力補正装置において、負荷側の電力変化の影響を加味した電圧補正を行うことでノイズ除去及び音質改善効果を得ることができる点を発見し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の一観点に係る電力補正装置は、電源から供給される入力信号を伝える第一の信号線と、電源から供給され入力信号と対をなす回路起点信号を伝える第二の信号線と、を備える電圧補正装置であって、入力信号の入力を受けるキャパシタ、キャパシタに接続される抵抗、抵抗に接続されるフィードバック回路、フィードバック回路に接続される反転回路、を備えるものである。
【0013】
また、本発明の他の一観点に係る電力補正方法は、電源から供給される入力信号及び負荷の変動により生ずる信号に対して高周波のノイズを除去するとともに、低周波の入力信号成分に対して位相遅延を生じさせるものである。
【発明の効果】
【0014】
以上、本発明によって、より簡易な構成でノイズ除去及び音質改善を行うことのできる電力補正装置及び電力補正方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る電力補正装置の概略等価回路を示す図である。
図2】実施形態に係る電力補正装置の動作のイメージを示す図である。
図3】実施例において作製した電力補正装置の等価回路図を示す図である。
図4】実施例における電力補正装置の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例に記載の具体的な例示にのみ限定されるわけではない。
【0017】
(構造)
図1は、本実施形態に係る電力補正装置(以下「本装置」という。)1の概略等価回路を示す図である。
【0018】
本図で示すように、本装置1は、電源(入力側)から供給される入力信号を伝える第一の信号線W1と、電源から供給され入力信号と対をなす回路起点信号を伝える第二の信号線W2と、を備える電圧補正装置であって、更に、入力信号の入力を受けるキャパシタC、キャパシタCに接続される抵抗R、抵抗Rに接続されるフィードバック回路F、フィードバック回路Fに接続される反転回路I、を備える。また、反転回路Iは、上記第二の信号線W2に接続されている。また、本装置1において、第一の信号線W1及び第二の信号線W2はそれぞれ本装置1に接続されるアンプ等の音響装置(負荷)に接続される。本装置1は、これらの素子、回路を備えて電圧補正を行う。
【0019】
本実施形態において、電源から供給される信号は、少なくとも入力信号と回路基点信号に分けられて供給される。具体的には、本装置1では上記の通り少なくとも二本の信号線(第一の信号線W1及び第二の信号線W2)を備え、一方には入力信号を、他方には回路基点信号をそれぞれ電気的に接続し、装置内に伝播させる。
【0020】
ここで「入力信号」とは、電源、好ましくは外部の商用電源から供給される交流信号であるが、これに限定されず、後述するように直流電源から供給される直流信号であっても良い。ここでは説明の観点からまず交流電圧、より具体的にはサイン波的に変化するサイン波信号を例に説明する。
【0021】
一方、「回路基点信号」とは、上記入力信号と対になって入力される信号であり、一般には、変動する入力信号と異なり理想的には常時対地0Vとなっている。この結果、入力信号と回路基点信号の間の電圧差が負荷に対する入力電圧となる。このような電圧供給は、例えば二穴のコンセント及びこれに挿入される二つのプラグによって一般に普及している電圧供給方法である。
【0022】
また本実施形態において、入力信号は、途中で分岐し、一方はそのまま第一の信号線W1を介して負荷に出力され、他方は上記キャパシタC、抵抗R、フィードバック回路F、反転回路I等を介して変調を加えられた後、第二の信号線W2側に出力される。他方、電源から供給される回路基点信号は、入力信号に変調を加えた信号を加えられた後、第二の信号線W2により出力信号の他方の出力となる。
【0023】
また、本装置1におけるキャパシタCは、後段の抵抗Rと相まってフィルターとして機能させるために用いられるものであって、上記した通り、第一の信号線W1に接続され、外部電源からの入力信号を受け、その結果、入力信号のうちの特定の周波数成分の位相をずらす、別言すれば周波数に応じて位相遅延を行い出力することができる。なお、キャパシタCは、一つであってもよいが複数のキャパシタCが直列的に又は並列的に接続された回路を構成していてもよい。
【0024】
また、キャパシタCの容量としては上記機能を有する限りにおいて限定されるわけではない。ただし、後段の抵抗と相まって、フィードバック回路及び反転回路の出力電圧が適正な電圧範囲に収めることができる程度のものであればよく、入力信号が交流であって、50~60Hz、電圧が100~200V程度である場合、例えば0.001μF以上0.1μF以下であることが好ましい。なお、入力信号が直流である場合は、上記より大きくすることができる。
【0025】
また、本装置1における抵抗Rは、上記キャパシタCと相まってハイパスフィルターとして機能させるために用いられるものであって、上記した通り、第一の信号線W1上であって、上記キャパシタCに直列的に接続することで、特定の周波数成分の位相をずらして出力させる、別言すれば周波数に応じて位相遅延を行い出力することができる。なお、抵抗Rについては、上記キャパシタCのときと同様、一つであってもよいが複数の抵抗Rを直列的又は並列的に接続させた回路構造となっていてもよい。
【0026】
また、抵抗Rの抵抗値としても、上記機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、上記のように、入力信号が交流であって、50~60Hz、電圧が100~200V程度である場合、1kΩ以上100kΩ以下であることが好ましい。このようにすることで、上記キャパシタと相まって好ましい電圧範囲とすることができる。
【0027】
具体的に、上記キャパシタCと抵抗Rで構成されるハイパスフィルターのフィルター定数としては、限定されるわけではないが、1kHz以上25kHz以下の範囲にあることが好ましく、より好ましくは5kHz以上20kHz以下である。この範囲とすることで、後述の記載からも明らかであるが、不要な周波数範囲の信号を除去することができるとともに、負荷であるアンプ等の音響装置の電力変動により生ずる信号に応じ、音質を高めるための適度な反響及び残響等を発生させることができるようになる。
【0028】
また、本装置1において、フィードバック回路Fは、入力信号に乗ったノイズ等の信号を負帰還させるために用いられるものであって、この限りにおいて限定されるわけではないが、例えばオペアンプFAと、このオペアンプの出力側に接続されるオペアンプ負帰還抵抗FRを備えて構成されていることが好ましい。なおこの場合において、オペアンプFAのマイナス側入力には上記オペアンプ負帰還抵抗FRの他方の端子が接続されており、プラス側入力は第二の信号線W2側に接続されている。
【0029】
また、本装置1において、反転回路Iは、フィードバック回路Fに接続され、この出力信号に対して極性の反転処理、好ましくは増幅又は減衰処理を施す。反転回路Iの構造としては特に限定されるわけではないが、例えば入り口側抵抗IR1、この入り口側抵抗IR1に接続され、この出力側がマイナス側に入力されるオペアンプIA、オペアンプIAの出力側の導線とマイナス入力側の導線部分の間に接続されるオペアンプ負帰還抵抗IR2、オペアンプIAの出力側に接続される出力側抵抗IR3を設けて構成することが好ましい。なお、この反転回路Iによる出力側の導線部分は、上記の通り、第二の信号線W2に接続されている。なお、オペアンプIAのプラス側入力は上記フィードバック回路FのオペアンプFAと同様に第二の信号線W2側に接続されている。
【0030】
なお、第二の信号線W2には、その途中に、別途、抵抗WRが配置されている。より具体的には、上記反転回路Iにおける抵抗IR3が第二の信号線W2と接続する位置よりも入力側、更には、上記オペアンプIAのプラス側の端子が第二の信号線W2に接続された位置よりは出力側、に配置される。本装置1ではこの抵抗WRを設けることで、入力側の変動や出力側(負荷)の変動により生ずる信号が生じた場合でも、その変動に追随させることでこの変動によるノイズ等の信号をキャンセルすることができる。
【0031】
(動作原理)
ここで、本装置1を用いた電力補正方法(以下「本方法」という。)について説明する。本方法は、上記の通り、電源から供給される入力信号に対して高周波のノイズを除去するとともに、低周波の入力信号成分に対して位相遅延を生じさせるものである。図2に、この動作原理において用いるフィードバック回路Fの出力における位相のずれ及び信号の減衰のイメージを示す。
【0032】
まず、入力信号は、電源から入力された後、第一の信号線W1を介してアンプ等の負荷に出力される。他方、第一の信号線W1は途中で分岐され、上記の通り導線を介してキャパシタC、抵抗R、フィードバック回路F、反転回路Iを介して、特定の周波数成分の位相を遅延させる。具体的には200kHzより高い周波数成分はキャンセルされ、1kHz以下の周波数成分は減衰が大きいため本装置1は機能せず、その間の周波数成分(1kHz以上200kHz以下程度の範囲)は、90度から0度の間で連続的に変化しつつ遅延される。この場合、具体的には抵抗R、キャパシタC及びフィードバック回路Fの組み合わせによる周波数遅延のイメージを図2に示しておく。本図で示すように、200kHzより高い周波数成分は遅延がなく伝達されるためそのまま第二の信号線W2に伝わる一方、第二の信号線W2に接続されている抵抗WRによって同様の値が第二の信号線W2に生ずることによって変動分がキャンセルすることになる一方、1kHz以下の信号は減衰されるため無視できる。一方、1kHz以上200kHz以下の信号は一定量遅延することとなるため、残響又は反響として結果的に適切な音質向上に寄与することになる。
【0033】
一方、負荷は上記の通り、第一の信号線W1にも接続されているとともに、負荷の信号処理によっても入力信号は変化する。すなわち、負荷によって生じる変動も入力信号となり、上記キャパシタC、抵抗R等の回路部に入力されることとなる。この結果、負荷の信号処理に対しても上記と同様の処理が加えられることになる。
【0034】
ところで、負荷が音響装置である場合、発生させる音の周波数成分を当然に含んでいる。そして本装置1ではこの音に含まれる周波数成分のうち特定の周波数成分、具体的には音の観測者が認識できる音の周波数成分に特化して遅延を生じさせる。すると、この音響成分が観測者にとって反響や残響等として認識され、音の深みとして認識されることになるのである。
【0035】
以上、本発明によって、より簡易な構成でノイズ除去及び音質改善を行うことのできる電力補正装置及び電力補正方法を提供することができる。
【実施例
【0036】
なおここで、実際に上記電圧補正装置を作製し、その効果をFFTサーボアナライザ(アドバンテスト社、R9211B)にてこの装置の効果を確認した。図3にこの装置の等価回路図を、図4にFFTサーボアナライザによる結果を示しておく。
【0037】
この結果、位相の遅れとキャンセルを確認することができ、フィルターとして機能するとともに、適度な残響及び反響を生じさせることができるのを確認した。
【0038】
また、自身でもハイエンドオーディオ機器を所有するオーディオマニア又は音楽愛好家5名(被験者)に対し、市販のオーディオ機器(ハイエンドスピーカーシステム(パイオニア社製)、CDプレーヤー(テアック社)、アンプ(アキュフェーズ社))を用い、本装置を接続した場合(オーディオ機器の電源プラグを本装置に差し込み、更に本装置の電源プラグをコンセントに差し込んだ状態)と、接続しなかった場合(直接電源プラグをコンセントに差し込んだだけの状態)の機器比べ試験を行い、その音質の定性的な評価を行った。この結果、被験者いずれもが本装置を接続した場合、接続しなかった場合に比べて適度な反響又は残響が生じており、音の深みが増す等音質が大きく改善されており、音楽的プレゼンテーションが向上したとの評価結果を得た。またこの結果は、真空管アンプを用いたオーディオ機器の場合も同様の効果を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、電力補正装置及び電力補正方法として産業上の利用可能性がある。


図1
図2
図3
図4