(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】プラズマ発生装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/46 20060101AFI20221125BHJP
C23C 16/511 20060101ALI20221125BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
H05H1/46 B
C23C16/511
H01L21/302 101D
(21)【出願番号】P 2019561077
(86)(22)【出願日】2018-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2018046370
(87)【国際公開番号】W WO2019124315
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2017242257
(32)【優先日】2017-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】豊田 浩孝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽香
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-526903(JP,A)
【文献】特開平06-236799(JP,A)
【文献】特開平08-138889(JP,A)
【文献】特開2001-250810(JP,A)
【文献】特開2017-228354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/46
C23C 16/511
H01L 21/3065
H01J 37/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載のプラズマ発生装置において、
前記導波管は、
前記導波管の内側に面して前記第2の導体面に連なるとともに、互いに対向する第3の導体面および第4の導体面と、
前記導波管の内側に面して前記第1の導体面と連なる第5の導体面と、
前記導波管の内側に面して前記第3の導体面と連なる第6の導体面と、
を有し、
前記第6の導体面は、前記第3の導体面と前記第5の導体面との間に位置しており、
前記導波管が、次式
0.24・A-3.6 ≦ a ≦ 0.56・A-8.4
A:前記導波管の伝送方向に垂直な断面における前記第1の導体面と前記第2の導体面との間の距離
(mm)
a:前記導波管の伝送方向に垂直な断面における前記第1の導体面と前記第6の導体面との間の距離
(mm)
を満たすこと
を含むプラズマ発生装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載のプラズマ発生装置において、
前記スロットの長手方向は、
前記導波管の伝送方向に対して垂直でない角度で形成されていること
を含むプラズマ発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、マイクロ波を用いてプラズマを発生させるプラズマ発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ技術は、電気、化学、材料の各分野に応用されている。プラズマは、電子、陽イオンの他に、化学反応性の高いラジカルや紫外線を発生させる。ラジカルは、例えば、成膜や半導体のエッチングに用いられる。紫外線は、例えば、殺菌に用いられる。このように豊富なプラズマ生成物が、プラズマ技術の応用分野の裾野を広げている。
【0003】
プラズマを発生させるためにマイクロ波を用いる装置がある。例えば、特許文献1には、マイクロ波発生部から導波管にマイクロ波を伝送させるとともに、導波管に設けたスロット(スリット状の貫通孔)からプラズマを発生させるプラズマ発生装置が開示されている(特許文献1の
図1、
図4等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、スロットからプラズマを噴出させる。しかし、スロットの箇所で発生する電界は必ずしも大きくは無い。安定なプラズマを発生させるためには、スロットにより大きい電界を発生させることが必要である。
【0006】
本明細書の技術は、前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは、マイクロ波を入射することによりスロットからプラズマを発生させるプラズマ発生装置においてより強い電界をスロットに発生させることを図ったプラズマ発生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様におけるプラズマ発生装置は、xyz直交座標系におけるz方向に延伸する導波管と、導波管をz方向に伝送するマイクロ波を発生させるマイクロ波発生部と、を有する。導波管は、導波管の内側に面する第1の導体面と、導波管の内側に面する第2の導体面と、第1の導体面から導波管の外部まで貫通するスロットと、を有する。第1の導体面と第2の導体面とは、導通しているとともに互いに対向している。z方向に垂直な断面における第1の導体面のy方向の第1の長さが、z方向に垂直な断面における第2の導体面のy方向の第2の長さよりも短い。第1の長さは、z方向に垂直な断面におけるスロットのy方向の長さを含む。第2の長さは、第1の導体面と第2の導体面との間のx方向の距離よりも短い。
【0008】
このプラズマ発生装置においては、第1の長さが第2の長さよりも短い。そのため、この導波管にマイクロ波が伝送すると、スロット(スリット状の貫通孔)の箇所に強い電界が形成される。また、スロットからガスが噴出するため、スロットの外側にはプラズマが生成される。このプラズマは、スロットの形状に沿った細長い領域に形成される。
【発明の効果】
【0009】
本明細書では、マイクロ波を入射することによりスロットからプラズマを発生させるプラズマ発生装置においてより強い電界をスロットに発生させることを図ったプラズマ発生装置が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態のプラズマ発生装置の概略構成図である。
【
図2】第1の実施形態のプラズマ発生装置の導波管の断面を示す断面図である。
【
図3】第1の実施形態のプラズマ発生装置の導波管におけるプラズマ発生領域を示す図である。
【
図4】第1の実施形態の変形例におけるプラズマ発生装置の概略構成図である。
【
図5】第2の実施形態の導波管の断面形状を示す断面図(その1)である。
【
図6】第2の実施形態の導波管の断面形状を示す断面図(その2)である。
【
図7】第2の実施形態の導波管の断面形状を示す断面図(その3)である。
【
図8】第2の実施形態の導波管の断面形状を示す断面図(その4)である。
【
図9】第2の実施形態の導波管の断面形状を示す断面図(その5)である。
【
図10】第2の実施形態の導波管の断面形状を示す断面図(その6)である。
【
図11】第2の実施形態の導波管の断面形状を示す断面図(その7)である。
【
図12】第3の実施形態の導波管の構造を示す透視斜視図である。
【
図13】第4の実施形態のプラズマ発生装置の導波管の断面を示す断面図である。
【
図14】シミュレーションに用いる方形導波管の形状を説明するための図である。
【
図15】方形導波管におけるx軸方向の位置とスロット内の電界強度との関係を示すグラフである。
【
図16】シミュレーションに用いる導波管の形状を説明するための図である。
【
図17】金属部材を備える導波管のx軸方向の位置と電界強度との関係を示すグラフである。
【
図18】導波管の幅と金属部材の幅との関係を示すグラフ(その1)である。
【
図19】導波管の幅と金属部材の幅との関係を示すグラフ(その2)である。
【
図20】マイクロ波伝播中における導波管の内部に形成される電界および磁界を模式的に示す図である。
【
図21】
図20の電磁界が形成される場合に導波管の内側の表面に流れる電流の向きを示す図である。
【
図22】第1の実施形態のプラズマ発生装置および従来のプラズマ発生装置におけるマイクロ波出力とスロットに形成される電界強度との関係を示すグラフである。
【
図23】第1の実施形態のプラズマ発生装置の導波管の内部の電界強度を示すシミュレーション結果である。
【
図24】金属部材がある導波管単体の散乱パラメータを示すグラフである。
【
図25】付属部付きの金属部材を有する導波管と通常の導波管とを接続した場合の散乱パラメータを示すグラフである。
【
図26】プラズマ発生装置のプラズマ発生時の写真とプラズマの放出強度のグラフとを組み合わせた図(その1)である。
【
図27】プラズマ発生装置のプラズマ発生時の写真とプラズマの放出強度のグラフとを組み合わせた図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、具体的な実施形態について、マイクロ波を用いてプラズマを発生させるプラズマ発生装置を例に挙げて図を参照しつつ説明する。説明のために、xyz直交座標系を用いる。そのために、導波管の延伸方向をz方向とする(後述する
図14および
図16参照)。
【0012】
(第1の実施形態)
1.プラズマ発生装置
図1は、第1の実施形態のプラズマ発生装置100の概略構成図である。プラズマ発生装置100は、マイクロ波を伝送させる導波管を用いてプラズマを発生させる。プラズマ発生装置100は、導波管110と、マイクロ波発生部120と、アイソレーター130と、パワーモニター140と、EHチューナー150と、終端部160と、連結用導波管171、172、173、174と、気密窓導波管181、182と、ガス供給部190と、を有する。
【0013】
導波管110と、連結用導波管171、172、173、174と、気密導波管181、182とは、いずれも方形導波管である。導波管110と、連結用導波管171、172、173、174と、気密導波管181、182との中心軸は、共通である。
【0014】
導波管110は、z方向に延伸している。導波管110は、スロット111を有する。スロット111は、導波管110に設けられたスリット状の貫通孔である。スロット111の箇所ではプラズマが発生する。詳細については後述する。導波管110の中心軸に垂直な断面の長辺は、例えば96mmである。導波管110の中心軸に垂直な断面の短辺は、例えば27mmである。導波管110の材質は、例えば、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属、またはこれらの合金であるとよい。
【0015】
マイクロ波発生部120は、導波管110を伝送するマイクロ波を発生させるためのものである。マイクロ波は、導波管110をz方向に伝送する。マイクロ波は、例えば、正弦波また矩形波である。マイクロ波は、TE10モードであるとよい。マイクロ波発生部120は、例えば、マグネトロン、クライストロン、ジャイロトロン、進行波管である。マイクロ波発生部120が発生するマイクロ波の周波数は、例えば2.45GHzである。もちろん、これ以外の周波数であってもよい。これらは例示であり、マイクロ波発生部120の構成は、上記と異なっていてもよい。
【0016】
アイソレーター130は、マイクロ波の反射波がマイクロ波発生部120に入射することを抑制するためのものである。アイソレーター130は、マイクロ波発生部120から伝送されるマイクロ波を導波管110に向かって伝送させるとともに、導波管110からマイクロ波発生部120に向かうマイクロ波を逃がす。これにより、導波管110等からのマイクロ波の反射波がマイクロ波発生部120に入射することを防止することができる。
【0017】
パワーモニター140は、導波管110に伝送させるマイクロ波の電力を計測するためのものである。パワーモニター140は、導波管110からの反射波を計測することもできる。
【0018】
EHチューナー150は、Eチューナー部とHチューナー部とを有する。EHチューナー150は、Eチューナー部のプランジャーとHチューナー部のプランジャーとを出し入れすることによりインピーダンスを調整する。
【0019】
終端部160は、マイクロ波を吸収するための部材である。導波管110を伝送するマイクロ波は、スロット111の領域にわたってプラズマを発生させる。そのため、終端部160に到達するマイクロ波の強度は十分に弱い。また、終端部160は、マイクロ波の一部を反射させてもよい場合がある。
【0020】
連結用導波管171、172、173、174は、通常の方形導波管である。連結用導波管171、172、173、174の材質は、例えば、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属、またはこれらの合金であるとよい。
【0021】
気密窓導波管181、182は、導波管110の両側に位置する仕切りである。そのため、気密窓導波管181、182は、導波管110の両側に配置されている。
【0022】
ガス供給部190は、導波管110にガスを供給する。ガス供給部190から供給されるガスは、スロット111から噴出される際にプラズマ化される。ガス供給部190が供給するガスは、例えば、Ar、Ne等の希ガスである。もしくは、窒素ガスや酸素ガスであってもよい。もちろん、通常の空気であってもよい。または、これらのガスを混合した混合ガスであってもよい。
【0023】
2.導波管の構造
図2は、第1の実施形態のプラズマ発生装置100の導波管110の断面を示す断面図である。
図2は、
図1のII-II 断面を示している。
図2に示すように、導波管110は、第1の壁部110aと、第2の壁部110bと、第3の壁部110cと、第4の壁部110dと、を有する。第1の壁部110aと第2の壁部110bとは互いに対向した状態で導波管110の伝送方向に延伸している。第3の壁部110cと第4の壁部110dとは互いに対向した状態で導波管110の伝送方向に延伸している。第1の壁部110aおよび第2の壁部110bは、導波管110の伝送方向に垂直な断面における短辺に相当する。第3の壁部110cおよび第4の壁部110dは、導波管110の伝送方向に垂直な断面における長辺に相当する。第3の壁部110cは、第1の壁部110aおよび第2の壁部110bに連なっている。第4の壁部110dは、第1の壁部110aおよび第2の壁部110bに連なっている。
【0024】
2-1.スロットと金属部材
導波管110の第1の壁部110aは、スロット111を有する。スロット111は、後述する第1の導体面S1から導波管110の外部まで貫通している。スロット111の長手方向は、導波管110の伝送方向に対して垂直でない角度で形成されている。好ましくは、スロット111の長手方向は、導波管110の伝送方向に対して±5°以下の範囲内である。さらに好ましくは、スロット111の長手方向は、導波管110の伝送方向に対して平行である。導波管110は、スロット111の箇所に第1箇所E1aと第2箇所E1bとを有する。第1箇所E1aおよび第2箇所E1bは、スロット111の開口部を挟んで対面している。
【0025】
導波管110は、第1の壁部110aおよび第3の壁部110cに接する金属部材112を有する。金属部材112は、直方体形状の第1の金属部材である。金属部材112は、第1の壁部110aおよび第3の壁部110cに接触している。金属部材112の材料は、例えば、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属、またはこれらの合金である。金属材料112の材料は、導波管110の材料と同じであるとよい。もちろん、金属部材112はスロット111を塞いでいない。そのため、スロット111は、第1の壁部110aにおける第4の壁部110dに近い側に配置されている。
【0026】
2-2.導体面と導体面間の距離
第1の壁部110aは、スロット111と、導波管110の内側に面する第1の導体面S1と、を有する。第2の壁部110bは、導波管110の内側に面する第2の導体面S2を有する。第3の壁部110cは、導波管110の内側に面する第3の導体面S3を有する。第4の壁部110dは、導波管110の内側に面する第4の導体面S4を有する。第1の導体面S1は、導波管110の内部に露出している面である。他の導体面についても同様である。金属部材112が存在するため、導波管110の伝送方向に垂直な断面における第1の導体面S1の長さは、その分だけ短い。
【0027】
第1の導体面S1と第2の導体面S2とは、yz平面に平行な面である。第1の導体面S1と第2の導体面S2とは、yz平面に平行な面を含む面であってもよい。第3の導体面S3と第4の導体面S4とは、xz平面に平行な面である。第3の導体面S3と第4の導体面S4とは、xz平面に平行な面を含む面であってもよい。第1の導体面S1と第2の導体面S2とは、導通しているとともに互いに対向している。第3の導体面S3と第4の導体面S4とは、導通しているとともに互いに対向している。
【0028】
第3の導体面S3は、第2の導体面S2に連なっている。金属部材112が存在するため、導波管110は、第1部分面S3aと第2部分面S3bとを有する。第1部分面S3aと第2部分面S3bとは、第1の導体面S1と第3の導体面S3とを接続する接続面である。第1部分面S3aは、第4の導体面S4と対面している。第2部分面S3bは、第2の導体面S2と対面している。第4の導体面S4は、第1の導体面S1および第2の導体面S2に連なっている。第1部分面S3aと第2部分面S3bと第3の導体面S3とは、第1の導体面S1の側から順に配置されている。
【0029】
図2はz方向に垂直な断面を示している。z方向に垂直な断面における第1の導体面S1のy方向の第1の長さL1が、z方向に垂直な断面における第2の導体面S2のy方向の第2の長さL2よりも短い。第1の長さL1は、z方向に垂直な断面におけるスロット111のy方向の長さを含む。第2の長さL2は、第1の導体面S1と第2の導体面S2との間のx方向の距離よりも短い。
【0030】
2-3.ガス供給孔
導波管110は、導波管110の内部にガスを供給するためのガス供給孔(図示せず)を有する。ガス供給孔は、ガス供給部190から導波管110にガスを供給するための孔である。ガス供給孔から供給されたガスは、スロット111から噴出するようになっている。
【0031】
3.プラズマ発生領域
導波管110における第1箇所E1aと第2箇所E1bとの間には、強い電界が形成される。また、スロット111から導波管110の外部に向かってガスが噴出する。そのため、そのガスはプラズマ化される。
【0032】
図3は、導波管110におけるプラズマ発生領域P1を示す図である。
図3に示すように、プラズマ発生領域P1は、スロット111に沿う直線状の領域であって導波管110の外側の領域である。ただし、
図3に示すプラズマ発生領域P1は、概念的に描かれたものである。そのため、実際のプラズマ発生領域P1は、
図3に示す範囲より大きくてもよいし小さくてもよい。
【0033】
4.スロットにおける電界強度
本実施形態のプラズマ発生装置100では、スロット111の第1箇所E1aと第2箇所E1bとの間に強い電界が発生する。その理由について説明する。
【0034】
図2に示すように、スロット111が存在する第1の壁部110a側の第1の距離L1は、第2の壁部110b側の第2の距離L2よりも小さい。第1の壁部110a側のインピーダンスは、第2の壁部110b側のインピーダンスよりも小さい。つまり、第1の壁部110a側の電圧は、第2の壁部110b側の電圧よりも小さい。第1の壁部110a側の電流は、第2の壁部110b側の電流よりも大きい。このように、導波管110を流れる表面電流は、第1の壁部110a側で大きい。
【0035】
次式は、アンペール-マックスウェルの方程式である。
∇×H = j + ∂D/∂t ………(1)
ここで、電流jは、
図3の矢印J1の向きに流れる表面電流の密度である。前述のように、スロット111の付近に流れる表面電流は、第2の壁部110b側に流れる表面電流よりも大きい。
【0036】
スロット111がない領域においては、
図3の矢印J1の向きに電流jが流れる。しかし、マイクロ波がスロット111のある領域を伝播しようとすると、電流jが急に遮断されることとなる。式(1)の右辺の第1項が急激にゼロになる。このように右辺の第1項が急激にゼロになる代わりに、右辺の第2項である∂D/∂tが急激に大きくなる。その結果、導波管110における第1箇所E1aと第2箇所E1bとの間に強い電界が形成される。そのため、高効率でプラズマを発生させることができる。
【0037】
5.プラズマ発生装置の動作方法
まず、ガス供給部190が導波管110にガスを供給する。これにより、導波管110のスロット111からガスが噴出する。次に、マイクロ波発生部120がマイクロ波を発生させるとともに導波管110に向けてマイクロ波を伝送させる。導波管110のスロット111の箇所では、第1箇所E1aと第2箇所E1bとの間に強い電界が形成される。そのため、スロット111から噴出するガスはプラズマ化される。すなわち、プラズマ発生領域P1にプラズマが発生する。
【0038】
6.本実施形態の効果
第1の実施形態における導波管110は、第1の壁部110aおよび第3の壁部110cに接する面に金属部材112を有する。第1の壁部110aは、導波管110の中心軸に垂直な断面の短辺である。そして、導波管110の第1の壁部110aには、スロット111がある。スロット111は、第1の壁部110aに形成されている。つまり、スロット111は、導波管110の中心軸に垂直な断面の短辺であって金属部材112が接する壁部に形成されている。導波管110にマイクロ波が伝送すると、スロット111の第1箇所E1aおよび第2箇所E1bの間には非常に強い電界が形成される。また、スロット111からガスが噴出するため、スロット111の外側にはプラズマが生成される。このプラズマは、スロットに沿った棒状の細長い領域に形成される。
【0039】
7.変形例
7-1.装置構成
図4に示すプラズマ発生装置200を用いてもよい。プラズマ発生装置200は、終端部160の代わりに、サーキュレーター260と、導波管276と、を有する。
【0040】
また、終端部160の代わりに、基板にプラズマ処理するための反応室を有していてもよい。
【0041】
7-2.導波管の寸法
導波管110の伝送方向に垂直な断面の長辺は、例えば72.1mmであってもよい。導波管110の伝送方向に垂直な断面の短辺は、例えば34mmであってもよい。また、導波管110の断面形状の寸法は、上記以外であってもよい。
【0042】
7-3.インピーダンス整合器
本実施形態では、EHチューナー150を用いる。しかし、EHチューナー150の代わりに、その他のインピーダンス整合器を用いてもよい。
【0043】
7-4.プラズマ発生装置の動作順序
本実施形態では、ガス供給部190から導波管110にガスを供給し、続いてマイクロ波を導波管110に伝送させる。しかし、これらの順序は逆であってもよい。つまり、マイクロ波を導波管110に伝送させ、続いてガス供給部190から導波管110にガスを供給してもよい。
【0044】
7-5.組み合わせ
上記の変形例を自由に組み合わせてもよい。
【0045】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。第2の実施形態の導波管は、第1の実施形態の導波管と異なる金属部材を有する。
【0046】
1.金属部材の形状
1-1.第1の形状
図5は、第2の実施形態の導波管210の断面形状を示す断面図(その1)である。
図5に示すように、導波管210は、金属部材212を有する。金属部材212は、六面体である。導波管210の中心軸に垂直な断面では、第1の壁部110aから遠ざかるにつれて金属部材212の高さは小さくなっている。つまり、第1の壁部110aから遠ざかるほど、第4の壁部110dと金属部材212との間の距離は広がっている。
【0047】
金属部材212における接続面と第4の導体面S4との間の距離は、第1の導体面S1から遠ざかるほど大きい。ここで接続面とは、金属部材212における第1の導体面S1と第3の導体面S3とを接続している面である。
【0048】
1-2.第2の形状
図6は、第2の実施形態の導波管310の断面形状を示す断面図(その2)である。
図6に示すように、導波管310は、金属部材312を有する。金属部材312は、六面体である。導波管310の中心軸に垂直な断面では、第3の壁部110cから遠ざかるにつれて金属部材312の幅は小さくなっている。つまり、第3の壁部110cから遠ざかるほど、第2の壁部110bと金属部材312との間の距離は広がっている。
【0049】
金属部材312における接続面と第4の導体面S4との間の距離は、第1の導体面S1から遠ざかるほど大きい。ここで接続面とは、金属部材312における第1の導体面S1と第3の導体面S3とを接続している面である。
【0050】
1-3.第3の形状
図7は、第2の実施形態の導波管410の断面形状を示す断面図(その3)である。
図7に示すように、導波管410は、金属部材412を有する。金属部材412は、五角柱である。金属部材412においては、第1の壁部110aおよび第3の壁部110cとに接触する角の対角に位置する角が、面取りされている。
【0051】
金属部材412における接続面と第4の導体面S4との間の距離は、第1の導体面S1から遠ざかるほど大きい。ここで接続面とは、金属部材412における第1の導体面S1と第3の導体面S3とを接続している面である。
【0052】
1-4.第4の形状
図8は、第2の実施形態の導波管510の断面形状を示す断面図(その4)である。
図8に示すように、導波管510は、金属部材512を有する。金属部材512は、三角柱である。導波管510の中心軸に垂直な断面では、第1の壁部110aから遠ざかるにつれて金属部材512の高さは小さくなっている。つまり、第1の壁部110aから遠ざかるほど、第4の壁部110dと金属部材512との間の距離は広がっている。導波管510の中心軸に垂直な断面では、第3の壁部110cから遠ざかるにつれて金属部材512の幅は小さくなっている。つまり、第3の壁部110cから遠ざかるほど、第2の壁部110bと金属部材512との間の距離は広がっている。
【0053】
金属部材512における接続面と第4の導体面S4との間の距離は、第1の導体面S1から遠ざかるほど大きい。ここで接続面とは、金属部材512における第1の導体面S1と第3の導体面S3とを接続している面である。
【0054】
2.金属部材の配置
2-1.第1の配置
図9は、第2の実施形態の導波管610の断面形状を示す断面図(その5)である。
図9に示すように、導波管610は、第1の金属部材612aおよび第2の金属部材612bを有する。第1の金属部材612aは、第1の壁部110aおよび第3の壁部110cに接触している。第2の金属部材612bは、第1の壁部110aおよび第4の壁部110dに接触している。第1の金属部材612aと第2の金属部材612bとの間に、わずかに隙間がある。スロット111は、第1の金属部材612aと第2の金属部材612bとで孔が塞がれない位置に配置されている。つまり、スロット111は、第1の壁部110aにおける第1の金属部材612aと第2の金属部材612bとの間の位置に設けられている。
【0055】
この場合、第1の金属部材612aにおける導波管610の内側の面は、第1の接続面である。第2の金属部材612bにおける導波管610の内側の面は、第2の接続面である。第1の接続面は、スロット111または第1の導体面と第3の導体面とを接続している。第2の接続面は、スロット111または第1の導体面と第4の導体面とを接続している。
【0056】
2-2.第2の配置
図10は、第2の実施形態の導波管710の断面形状を示す断面図(その6)である。
図10に示すように、導波管710は、金属部材712を有する。金属部材712は、直方体である。金属部材712は、第1の壁部110aに接触するとともに、第2の壁部110b、第3の壁部110c、第4の壁部110dのいずれにも接触しない位置に配置されている。スロット111は、第1の壁部110aであって金属部材712に孔を塞がれない位置に配置されている。
図10では、第3の壁部110cから金属部材712までの距離と、第4の壁部110dから金属部材712までの距離とは等しい。しかし、第3の壁部110cから金属部材712までの距離と、第4の壁部110dから金属部材712までの距離とは異なっていてもよい。そして、スロット111は、第3の壁部110cに近い側の位置に形成されていてもよいし、第4の壁部110dに近い側の位置に形成されていてもよい。
【0057】
図11は、第2の実施形態の導波管810の断面形状を示す断面図(その7)である。
図11のように、第1の壁部110aに2本のスロット111を形成した導波管810を用いてもよい。
【0058】
3.本実施形態の効果
このように、金属部材212、312、412、512、612a、612b、712を用いた場合であっても、スロット111における第1箇所E1aと第2箇所E1bとの間の電界強度は十分に大きい。
【0059】
上記の金属部材においては、導波管の内部における金属間距離が、スロット111が形成されている第1の壁部110aの側で小さく、スロット111が形成されていない第2面110dの側で大きい。
【0060】
このように、スロット111が形成されている第1の壁部110aの側で金属間距離を小さくすることにより、スロット111における電界強度を高めることができる。
【0061】
4.変形例
4-1.第2の接続面
第1の接続面の代わりに、第1の導体面S1と第4の導体面S4とを接続する第2の接続面を設けてもよい。
【0062】
4-2.組み合わせ
第2の実施形態および変形例を第1の実施形態とその変形例と自由に組み合わせてもよい。
【0063】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について説明する。第3の実施形態の導波管は、第1の実施形態の導波管と異なる金属部材を有する。
【0064】
1.金属部材の形状
図12は、第3の実施形態の導波管110の構造を示す透視斜視図である。
図12に示すように、導波管110は、金属部材812を有する。金属部材812は、本体部812aと付属部812bとを有する。本体部812aおよび付属部812bは直方体である。本体部812aと付属部812bとは一体である。付属部812bは、導波管110の伝送方向に平行な方向であって本体部812aに隣接する位置に本体部812aと並んで配置されている。
【0065】
付属部812bの幅a1は、本体部812aの幅aと同じである。付属部812bの高さb1は、本体部812aの高さbより低い。付属部812bの長さc1は、本体部812aの長さより短い。
【0066】
2.金属部材の効果
付属部812bは、マイクロ波発生部120から導波管110に向かって伝送されるマイクロ波が、マイクロ波発生部120に反射されることを抑制する。そのため、マイクロ波がスロット111の箇所に到達するまでに減衰する減衰量は小さい。また、マイクロ波発生部120に向かう反射波を抑制することができる。
【0067】
3.変形例
3-1.2個の付属部
図12には、本体部812aに対して一つの付属部812bを有する。しかし、導波管110は、2個の付属部812bを有していてもよい。その場合には、本体部812aの両側に1個ずつの付属部812bが配置される。これにより、本体部812aの両端部における反射波を好適に抑制することができる。
【0068】
3-2.組み合わせ
第3の実施形態および変形例を第1の実施形態および第2の実施形態とこれらの変形例と自由に組み合わせてもよい。
【0069】
(第4の実施形態)
第4の実施形態について説明する。
【0070】
1.導波管の形状
図13は、第4の実施形態の導波管910を示す。導波管910の形状は、方形導波管に近い形状である。導波管910は、第1の壁部910aと第2の壁部910bと第3の壁部910cと第4の壁部910dとを有する。第1の壁部910aは、スロット111を有する。そのため、第1の壁部910aは、第1箇所E1aおよび第2箇所E1bを有する。第1の壁部910aと第2の壁部910bとは互いに対向した状態で導波管910の伝送方向に延伸している。第3の壁部910cと第4の壁部910dとは互いに対向した状態で導波管910の伝送方向に延伸している。
【0071】
第1の壁部910aおよび第2の壁部910bは、導波管910の伝送方向に垂直な断面における短辺に相当する。第4の壁部910dは、導波管910の伝送方向に垂直な断面における長辺に相当する。第3の壁部910cは、第1の壁部910aおよび第2の壁部910bに連なっている。第4の壁部910dは、第1の壁部910aおよび第2の壁部910bに連なっている。
【0072】
第1の壁部910aは、導波管910の内側に面する第1の導体面S1を有する。第2の壁部910bは、導波管910の内側に面する第2の導体面S2を有する。第3の壁部910cは、導波管910の内側に面する第3の導体面S3を有する。第4の壁部910dは、導波管910の内側に面する第4の導体面S4を有する。第1の導体面S1と第2の導体面S2と第3の導体面S3と第4の導体面S4とは、第1の実施形態の第1の導体面S1と第2の導体面S2と第3の導体面S3と第4の導体面S4と同じである。
【0073】
したがって、
図13に示すように、z方向に垂直な断面における第1の導体面S1のy方向の第1の長さL1が、z方向に垂直な断面における第2の導体面S2のy方向の第2の長さL2よりも短い。
【0074】
2.効果
第4の実施形態の導波管910の内側の導体面は、第1の実施形態の導波管110の内側の導体面と同じである。表面電流は各々の導体面の表面に流れる。そのため、導体面を含む金属の厚みはある程度以上あれば十分である。このように第4の実施形態の導波管910であっても、第1の実施形態の導波管110と同様にスロット111に好適なプラズマを発生させることができる。
【0075】
3.変形例
第4の実施形態を第1の実施形態と第2の実施形態と第3の実施形態とこれらの変形例と自由に組み合わせてもよい。
【0076】
(実施形態の小括)
プラズマ発生装置は、
図14のxyz直交座標系におけるz方向に延伸する導波管と、導波管をz方向に伝送するマイクロ波を発生させるマイクロ波発生部と、を有する。導波管は、導波管の内側に面する第1の導体面と、導波管の内側に面する第2の導体面と、第1の導体面から導波管の外部まで貫通するスロットと、を有する。第1の導体面と第2の導体面とは、導通しているとともに互いに対向している。z方向に垂直な断面における第1の導体面のy方向の第1の長さが、z方向に垂直な断面における第2の導体面のy方向の第2の長さよりも短い。第1の長さは、z方向に垂直な断面におけるスロットのy方向の長さを含む。第2の長さは、第1の導体面と第2の導体面との間のx方向の距離よりも短い。第1の導体面と第2の導体面とは、yz平面に平行な面を含む。また、第1の導体面と第2の導体面とは、yz平面に平行な面であってもよい。
【0077】
導波管は、導波管の内側に面して第2の導体面に連なるとともに、互いに対向する第3の導体面と第4の導体面と、第1の接続面と第2の接続面との少なくとも一方と、を有する。第3の導体面と第4の導体面とは、xz平面に平行な面を含んでいる。第1の接続面は、スロットまたは第1の導体面と第3の導体面とを接続する。第2の接続面は、スロットまたは第1の導体面と第4の導体面とを接続する。
【0078】
また、第1の接続面と第4の導体面との間の距離は、第1の導体面から遠ざかるほど大きい(例えば、
図5から
図8)。
【0079】
また、第2の接続面と第3の導体面との間の距離は、第1の導体面から遠ざかるほど大きい(例えば、
図5から
図8)。
【0080】
また、導波管は、導波管の内側に面して第2の導体面に連なるとともに、互いに対向する第3の導体面および第4の導体面と、導波管の内側に面して第3の導体面の一部と対面する第5の導体面と、導波管の内側に面して第4の導体面の一部と対面する第6の導体面と、を有する。第3の導体面と第4の導体面とは、xz平面に平行な面を含んでいる。第5の導体面のx方向の長さおよび第6の導体面のx方向の長さは、第1の導体面と第2の導体面との間の距離よりも短い(例えば、
図10および
図11)。
【0081】
また、導波管は、導波管の内側に面して第2の導体面に連なるとともに、互いに対向する第3の導体面および第4の導体面と、導波管の内側に面して第1の導体面と連なる第5の導体面と、導波管の内側に面して第3の導体面と連なる第6の導体面と、を有する。第6の導体面は、第3の導体面と第5の導体面との間に位置している。導波管が、次式
0.24・A-3.6 ≦ a ≦ 0.56・A-8.4
A:導波管の伝送方向に垂直な断面における第1の導体面と第2の導体面との間の距離
a:導波管の伝送方向に垂直な断面における第1の導体面と第6の導体面との間の距離
を満たす(例えば、
図16)。
【0082】
また、導波管は、第5の導体面からz方向に隣接する位置に第7面を有する。第7の導体面と第4の導体面との間の距離は、第5の導体面と第4の導体面との間の距離よりも大きい(例えば、
図12)。
【0083】
また、スロットの長手方向は、導波管の伝送方向に対して垂直でない角度で形成されている。
【0084】
(シミュレーション)
1.方形導波管とスロットの位置との関係
図14は、シミュレーションに用いる方形導波管の形状を説明するための図である。x軸は、方形導波管の中心軸に垂直な断面における長辺方向である。y軸は、方形導波管の中心軸に垂直な断面における短辺方向である。z軸は、方形導波管の中心軸に平行な方向である。マイクロ波は、方形導波管の内壁に反射されながら方形導波管の内部を伝送する。スロットの長辺方向は、z軸に平行である。
【0085】
ここで、スロットの位置について説明する。
図14に示すように、長辺上にスロットを設けた場合(
図14のK1)と、短辺上にスロットを設けた場合(
図14のK2)とについて、シミュレーションを実施した。スロットの長辺方向(z軸方向)の長さは30mmである。スロットの短辺方向の長さは1mmである。方形導波管の板厚は1mmである。入力電圧は1Wである。マイクロ波の周波数は2.45GHzである。
【0086】
図15は、x軸方向の位置とスロット内の電界強度との関係を示すグラフである。
図15の横軸は、x軸方向の位置(mm)である。
図15の縦軸は、スロット内の電界強度である。すなわち、第1箇所E1aと第2箇所E1bとの間の電界強度である。
図15のK1は、
図14のK1の面にスロットを設けた場合を示す。
図15のK2は、
図14のK2の面にスロットを設けた場合を示す。この導波管に伝播させるマイクロ波はTE
10モードである。そのため、
図14のK2の面のどの位置にスロットを設けたとしても、電界強度は同じである。
【0087】
図15に示すように、
図14のK1の面におけるスロット内の電界強度は、長辺の中央付近で弱く、長辺の端部付近で強い。スロット内の電界強度の最大値は、長辺方向の両端部である。
【0088】
また、
図15に示すように、短辺上にスロットを設けた場合におけるスロット内の電界強度は、長辺上にスロットを設けた場合におけるスロット内の電界強度よりも大きい。前述のように、短辺上にスロットを設けた場合には、どの位置においても同様の電界強度を示す。したがって、長辺上にスロットを設けるよりも、短辺上にスロットを設けるほうが好ましい。スロット内においてより高い電界強度が得られるからである。
【0089】
2.金属部材
次に、金属部材を備える第1の実施形態の導波管110のシミュレーション結果について説明する。
【0090】
2-1.金属部材と電界強度
図16は、シミュレーションに用いる導波管の形状を説明するための図である。x軸は、導波管の中心軸に垂直な断面における長辺方向である。y軸は、導波管の中心軸に垂直な断面における短辺方向である。z軸は、導波管の中心軸に平行な方向である。
【0091】
長辺方向の長さAは96mmである。短辺方向の長さBは27mmである。金属部材112の長辺方向の長さaは32mmである。金属部材112の短辺方向の長さbは22mmである。スロットの長辺方向(z軸方向)の長さは30mmである。スロットの短辺方向の長さは1mmである。方形導波管の板厚は1mmである。入力電圧は1Wである。マイクロ波の周波数は2.45GHzである。
【0092】
図17は、金属部材を備える導波管のx軸方向の位置と電界強度との関係を示すグラフである。
図17の横軸は、x軸方向の位置(mm)である。
図17の縦軸は、導波管における電界強度(kV/m)である。
図16に示すように、xy平面において(64≦x≦96、0≦y≦22)の領域に金属部材112が配置されている。
【0093】
この場合には、金属部材112があることにより、x≧60mmの領域で電界強度が非常に強くなる。金属部材112がある場合におけるx=96mmの電界強度は、およそ2.5kV/mである。金属部材112がない場合におけるx=96mmの電界強度は、およそ0.8kV/mである。したがって、金属部材112があることにより、x=96mmの位置の電界強度は、3.1倍に増加している。
【0094】
2-2.導波管の幅と金属部材の幅との関係
導波管の幅Aと金属部材112の幅aとの関係について説明する。導波管の幅Aは、導波管の伝送方向に垂直な断面における第1の導体面と第2の導体面との間の距離である。金属部材112の幅aは、導波管の伝送方向に垂直な断面における長辺の方向の金属部材112の幅である。導波管の高さBは27mmである。入力電力は1Wである。マイクロ波の周波数は2.45GHzである。
【0095】
図18は、導波管の幅Aと金属部材112の幅aとの関係を示すグラフ(その1)である。
図18の横軸は、導波管の幅A(mm)である。
図18の縦軸は、導波管の幅A(mm)に対して最大電流密度を実現する場合の金属部材112の幅a(mm)である。最大電流密度を実現する場合の金属部材112の幅a(mm)とは、幅Aを固定して幅aと電流密度とのグラフを描いたときに電流密度が最大となるときの金属部材112の幅a(mm)である。ここで、金属部材112の高さbは22mmの場合と13.5mmの場合とをプロットした。
【0096】
図18に示すように、導波管の幅A(mm)に対して最大電流密度を実現する場合の金属部材112の幅a(mm)は、金属部材112の高さbに依存しない。
【0097】
次に、導波管の高さBおよび金属部材112の幅bを固定して、マイクロ波の周波数を変えた場合について説明する。
【0098】
図19は、導波管の幅Aと金属部材112の幅aとの関係を示すグラフ(その2)である。
図19の横軸は、導波管の幅A(mm)である。
図19の縦軸は、導波管の幅A(mm)に対して最大電流密度を実現する場合の金属部材112の幅a(mm)である。ここで、マイクロ波の周波数がそれぞれ2.0GHz、2.45GHz、3.0GHzの場合についてプロットした。
【0099】
図19に示すように、導波管の幅A(mm)に対して最大電流密度を実現する場合の金属部材112の幅a(mm)は、マイクロ波の周波数に依存しない。
【0100】
導波管の幅A(mm)に対して最大電流密度を実現する場合の金属部材112の幅a(mm)は、次式で表される。
a = 0.4・A-6 ………(2)
【0101】
式(2)は、導波管の幅A(mm)に対して最大電流密度を実現する場合の金属部材112の幅a(mm)点を近似する直線である。すなわち、式(2)を満たす場合に、スロット111の第1箇所E1aおよび第2箇所E1bの間における電界強度が最大値をとる。
【0102】
実際には、導波管の幅Aと金属部材112の幅aとの関係は、式(2)から±40%の範囲内であってもよい。その範囲を次の式(3)に示す。
0.24・A-3.6 ≦ a ≦ 0.56・A-8.4 ………(3)
【0103】
式(3)の場合であっても、スロット111の第1箇所E1aおよび第2箇所E1bの間における電界強度が十分に高い値をとる。
【0104】
導波管の幅Aと金属部材112の幅aとの関係は、式(2)から±20%の範囲内であってもよい。その場合には、スロット111の第1箇所E1aおよび第2箇所E1bの間における電界強度が式(3)の場合よりも高い値をとる。その範囲を次の式(4)に示す。
0.32・A-4.8 ≦ a ≦ 0.48・A-7.2 ………(4)
【0105】
3.マイクロ波のモード
一般的に、導波管内の電磁波はTE10モードで伝送される。多くのモードが伝送されると、電磁波のエネルギー損失が大きいためである。次式を満たすときに、マイクロ波がTE10モードで伝送される。
v0 /2f < A < v0 /f
B < v0 /2f
v0 :真空中の光速
f :マイクロ波の周波数
【0106】
4.導波管内の表面電流
図20は、マイクロ波伝播中における導波管の内部に形成される電界および磁界を模式的に示す図である。電界は、
図20の上方向または下方向に向かう向きに形成される。磁界は、電界に垂直な向きに渦を巻くように形成される。
【0107】
図21は、
図20の電磁界が形成される場合に導波管の内側の表面に流れる電流の向きを示す図である。
図21の破線が電流の流れを示している。
【0108】
5.放電開始電界
図22は、第1の実施形態のプラズマ発生装置および従来のプラズマ発生装置におけるマイクロ波出力とスロットに形成される電界強度との関係を示すグラフである。
図22の横軸は、マイクロ波電源120の出力である。
図22の縦軸は、スロットにおける電界強度である。
【0109】
Arガスの放電開始電圧は30kV/m程度である。窒素ガスの放電開始電圧は100kV/m程度である。
図22に示すように、従来のプラズマ発生装置は、1400W程度のマイクロ波を用いてArガスをプラズマ化できるが、3000W程度のマイクロ波を用いても窒素ガスをプラズマ化できない。第1の実施形態のプラズマ発生装置100は、200W程度のマイクロ波を用いてArガスをプラズマ化でき、1700W程度のマイクロ波を用いて窒素ガスをプラズマ化できる。
【0110】
図22に示すように、マイクロ波を用いたプラズマ発生装置により、窒素ガス等の分子ガスをプラズマ化することは一般に難しい。放電開始電界が高いからである。後述する実験で説明するように、プラズマ発生装置100は、希ガスのみならず分子ガスをプラズマガスとして用いることができる。
【0111】
6.金属部材の影響
導波管の内部に金属部材を配置した場合についてシミュレーションを行った。その際の条件は下記の通りである。導波管の幅(内幅)は96mmである。導波管の高さ(内幅)は27mmである。金属部材の幅は32mmである。金属部材の高さは22mmである。マイクロ波の入力電力は1Wである。マイクロ波の周波数は2.45GHzである。
【0112】
6-1.導波管の内部の電界強度
図23は、第1の実施形態のプラズマ発生装置100の導波管の内部の電界強度を示すシミュレーション結果である。
図23では、導波管の内部であって
図23の右側に金属部材が配置されている。この場合には、金属部材の周囲で電界強度が強い。つまり、この結果は
図17と矛盾しない。
【0113】
6-2.散乱パラメータ
次に、散乱パラメータについてシミュレーションを行った。散乱パラメータは散乱行列の成分の一部である。その際に、第1の実施形態のプラズマ発生装置100のうちの導波管単体の散乱パラメータと、第1の実施形態の導波管と通常の導波管とを接続した場合の散乱パラメータと、を計算した。プラズマ発生装置100では、金属部材のある導波管と、通常の導波管とが接続されている。そのため、通常の導波管との接続後の散乱パラメータが重要である。
【0114】
図24は、金属部材がある導波管単体の散乱パラメータを示すグラフである。
図24の横軸は、入射するマイクロ波の周波数である。
図24の縦軸は、散乱パラメータである。このときの条件は
図16と同様である。
図24に示すように、S
21がほぼ0dBであり、反射波の割合を示すS
11が-80dB以下である。このように、反射波の割合は非常に小さい。
【0115】
次に、金属部材がある導波管を通常の導波管と接続した場合の散乱パラメータを計算した。その場合には、反射波が発生した。
【0116】
図25は、付属部付きの金属部材を有する導波管と通常の導波管とを接続した場合の散乱パラメータを示すグラフである。
図25の横軸および縦軸は、
図24と同様である。このときの各部のサイズは
図12と同様である。その他の条件は
図16と同様である。
図25に示すように、S
21がほぼ0dBであり、反射波の割合を示すS
11が-30dB以下である。このように、反射波の割合は十分に小さい。
【0117】
(実験)
1.実験1(希ガス)
1-1.実験方法
第1の実施形態のプラズマ発生装置100を用いてプラズマを発生させた。導波管の断面形状は
図2と同様であった。スロットの長さは1.1mであった。スロットの幅は0.1mmであった。マイクロ波電源120の出力は0.5kWであった。プラズマガスはArガスであった。Arガスの流量は14slmであった。
【0118】
1-2.実験結果
図26は、プラズマ発生装置100のプラズマ発生時の写真とプラズマの放出強度のグラフとを組み合わせた図(その1)である。
図26の上段にプラズマ発生時の写真を示す。
図26の下段にプラズマの放出強度のグラフを示す。
図26の横軸は、プラズマ発生装置100のスロットの位置である。
図26の縦軸は、プラズマの放出強度である。プラズマの放出強度とは、その位置におけるプラズマが発する光の強度の時間平均である。
【0119】
図26の左端がマイクロ波の入力側である。
図26に示すように、プラズマの放出強度は、スロットの長さ方向にわたってほぼ一定であった。このため、1m程度にわたる長い範囲について一度にプラズマ処理を実施することができる。
【0120】
2.実験2(分子ガス)
1-1.実験方法
第1の実施形態のプラズマ発生装置100を用いてプラズマを発生させた。導波管の断面形状は
図2と同様であった。スロットの長さは0.8mであった。スロットの幅は0.1mmであった。マイクロ波電源120の出力は5.0kWであった。プラズマガスはN
2 ガスであった。N
2 ガスの流量は10slmであった。
【0121】
2-2.実験結果
図27は、プラズマ発生装置100のプラズマ発生時の写真とプラズマの放出強度のグラフとを組み合わせた図(その2)である。
図27の上段にプラズマ発生時の写真を示す。
図27の下段にプラズマの放出強度のグラフを示す。
図27の横軸は、プラズマ発生装置100のスロットの位置である。
図27の縦軸は、プラズマの放出強度である。
【0122】
図27の左端がマイクロ波の入力側である。
図27に示すように、プラズマの放出強度は、スロットの長さ方向にわたってほぼ一定であった。このため、1m程度にわたる長い範囲について一度にプラズマ処理を実施することができる。
【0123】
3.実験のまとめ
このように、第1の実施形態のプラズマ発生装置100は、Arガス等の希ガスのみならず、窒素ガス等の分子ガスをプラズマガスとして用いることができる。そのため、プラズマ発生装置100は、被処理材に対して種々のプラズマを照射することができる。つまり、このプラズマ処理装置100を多様な用途に用いることができる。
【0124】
図26および
図27に示すように、マイクロ波の入力側の反対側では、プラズマの放出強度がやや不安定な領域がある。しかし、マイクロ波の入力側から幅広い安定領域が存在している。そのため、工業的に利用する際には、安定領域のプラズマが被処理材にプラズマを照射し、不安定領域のプラズマが被処理材にプラズマを照射しないようにすればよい。
【0125】
(付記)
第1の態様におけるプラズマ発生装置は、xyz直交座標系におけるz方向に延伸する導波管と、導波管をz方向に伝送するマイクロ波を発生させるマイクロ波発生部と、を有する。導波管は、導波管の内側に面する第1の導体面と、導波管の内側に面する第2の導体面と、第1の導体面から導波管の外部まで貫通するスロットと、を有する。第1の導体面と第2の導体面とは、導通しているとともに互いに対向している。z方向に垂直な断面における第1の導体面のy方向の第1の長さが、z方向に垂直な断面における第2の導体面のy方向の第2の長さよりも短い。第1の長さは、z方向に垂直な断面におけるスロットのy方向の長さを含む。第2の長さは、第1の導体面と第2の導体面との間のx方向の距離よりも短い。
【0126】
第2の態様におけるプラズマ発生装置においては、第1の導体面と第2の導体面とは、yz平面に平行な面である。
【0127】
第3の態様におけるプラズマ発生装置においては、導波管は、導波管の内側に面して第2の導体面に連なるとともに、互いに対向する第3の導体面と第4の導体面と、第1の接続面と第2の接続面との少なくとも一方と、を有する。第3の導体面と第4の導体面とは、xz平面に平行な面を含んでいる。第1の接続面は、スロットまたは第1の導体面と第3の導体面とを接続する。第2の接続面は、スロットまたは第1の導体面と第4の導体面とを接続する。
【0128】
第4の態様におけるプラズマ発生装置においては、第1の接続面と第4の導体面との間の距離は、第1の導体面から遠ざかるほど大きい。
【0129】
第5の態様におけるプラズマ発生装置においては、第2の接続面と第3の導体面との間の距離は、第1の導体面から遠ざかるほど大きい。
【0130】
第6の態様におけるプラズマ発生装置においては、導波管は、導波管の内側に面して第2の導体面に連なるとともに、互いに対向する第3の導体面および第4の導体面と、導波管の内側に面して第3の導体面の一部と対面する第5の導体面と、導波管の内側に面して第4の導体面の一部と対面する第6の導体面と、を有する。第3の導体面と第4の導体面とは、xz平面に平行な面を含んでいる。第5の導体面のx方向の長さおよび第6の導体面のx方向の長さは、第1の導体面と第2の導体面との間の距離よりも短い。
【0131】
第7の態様におけるプラズマ発生装置においては、導波管は、導波管の内側に面して第2の導体面に連なるとともに、互いに対向する第3の導体面および第4の導体面と、導波管の内側に面して第1の導体面と連なる第5の導体面と、導波管の内側に面して第3の導体面と連なる第6の導体面と、を有する。第6の導体面は、第3の導体面と第5の導体面との間に位置している。導波管が、次式
0.24・A-3.6 ≦ a ≦ 0.56・A-8.4
A:導波管の伝送方向に垂直な断面における第1の導体面と第2の導体面との間の距離
a:導波管の伝送方向に垂直な断面における第1の導体面と第6の導体面との間の距離
を満たす。
【0132】
第8の態様におけるプラズマ発生装置においては、導波管は、第5の導体面からz方向に隣接する位置に第7面を有する。第7の導体面と第4の導体面との間の距離は、第5の導体面と第4の導体面との間の距離よりも大きい。
【0133】
第9の態様におけるプラズマ発生装置においては、スロットの長手方向は、導波管の伝送方向に対して垂直でない角度で形成されている。
【符号の説明】
【0134】
100…プラズマ発生装置
110…導波管
110a…第1の壁部
110b…第2の壁部
110c…第3の壁部
110d…第4の壁部
111…スロット
112、212、312、412、512、612a、612b、712…金属部材
120…マイクロ波発生部
130…アイソレーター
140…パワーモニター
150…EHチューナー
160…終端部
171、172、173、174…連結用導波管
181、182…気密窓導波管
190…ガス供給部