(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】減速機
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
F16H1/32 Z
(21)【出願番号】P 2021028966
(22)【出願日】2021-02-25
【審査請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】391002487
【氏名又は名称】学校法人大同学園
(74)【代理人】
【識別番号】100126170
【氏名又は名称】水野 義之
(72)【発明者】
【氏名】林 秀行
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 和彦
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-112262(JP,A)
【文献】特開平03-092651(JP,A)
【文献】特開昭60-168938(JP,A)
【文献】米国特許第09447845(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された
中心軸を中心とする回転方向の動力を減速して、
前記回転方向の動力を出力する減速機であって、
前記回転方向に展伸する
歯数がM(Mは、2以上の整数)の内歯車が形成され、
前記回転方向に固定された板状のステーターと、
前記内歯車に対向する
歯数がN(Nは、1以上の整数)の外歯車が形成され、前記動力が入力される
、前記中心軸を中心に回転する入力板と、
前記内歯車および前記外歯車の間に配置され、
前記内歯車および前記外歯車の双方に常時接触するように構成されたスライダーと、
前記動力を出力する
、前記中心軸を中心に回転する出力板と、
を備え、
前記内歯車および前記外歯車は、それぞれの形状が
前記回転方向に延びる同種のシニュソイド系曲線となるように形成されており、
前記出力板は、前記出力板に対する前記スライダーの
前記回転方向への移動を規制するとともに、前記出力板に対する前記スライダーの
前記内歯車と前記外歯車の対向方向への移動を許容するように構成されている、
減速機。
【請求項2】
前記シニュソイド系曲線は、シニュソイド誘導曲線である、請求項1記載の減速機。
【請求項3】
前記シニュソイド誘導曲線は、シニュソイド曲線である、請求項2記載の減速機。
【請求項4】
前記スライダーの本数は、(M+N)本あるいは(M-N)本のいずれかである、
請求項1ないし3のいずれか記載の減速機。
【請求項5】
請求項1ないし
4のいずれか記載の減速機であって、
前記スライダーは、平棒状の部材であって、厚み方向から見て矩形状の中央部と、中央部の両端に設けられ、厚み方向から見て前記中央部を底辺とする二等辺三角形状の2つの端部と、を有しており、
前記出力板は、前記中央部と同幅で前記対向方向に伸びるガイド溝が形成された板状の部材であり、
前記スライダーは、前記ガイド溝に嵌め込まれることにより、前記出力板に対する
前記回転方向への移動が規制される、
減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動力を減速して伝達する減速機に関し、特に、薄型化が可能な減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットの関節を駆動する関節駆動装置においては、動力発生装置としてモーターが使用されるが、一般的に、モーターの回転速度は、関節の駆動に適した回転速度に対し、必要以上に速くなっている場合がある。そのため、関節駆動装置等においては、通常、回転動力を減速して伝達する減速機が用いられる。また、減速機が大型化すると関節駆動装置等も大型化するため、ロボット等に使用される減速機には、薄型化が要求される。そこで、薄型化が可能な減速機として、遊星歯車減速機やサイクロイド減速機(例えば、特許文献1参照)等の種々の減速機が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、遊星歯車減速機やサイクロイド減速機等の従来の減速機は、歯車機構等を構成するために軸受等が使用され、また、歯車機構等を入れ子構造としていることにより構成されているため、その構成が複雑となる。この問題は、ロボット等に使用される減速機に限らず、種々の分野で使用される減速機一般に共通する。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、薄型化が可能な減速機において、より簡単な構成で減速機を実現する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的の少なくとも一部を達成するために、本発明は、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
本発明の一形態としての減速機は、入力された中心軸を中心とする回転方向の動力を減速して、前記回転方向の動力を出力する減速機であって、前記回転方向に展伸する歯数がM(Mは、2以上の整数)の内歯車が形成され、前記回転方向に固定された板状のステーターと、前記内歯車に対向する歯数がN(Nは、1以上の整数)の外歯車が形成され、前記動力が入力される、前記中心軸を中心に回転する入力板と、前記内歯車および前記外歯車の間に配置され、前記内歯車および前記外歯車の双方に常時接触するように構成されたスライダーと、前記動力を出力する、前記中心軸を中心に回転する出力板と、を備え、前記内歯車および前記外歯車は、それぞれの形状が前記回転方向に延びる同種のシニュソイド系曲線となるように形成されており、前記出力板は、前記出力板に対する前記スライダーの前記回転方向への移動を規制するとともに、前記出力板に対する前記スライダーの前記内歯車と前記外歯車の対向方向への移動を許容するように構成されていることを特徴とする。
この形態によれば、歯車が形成されたステーターおよび入力板と、出力板と、出力板に対する回転方向への移動が規制された複数のスライダーとにより薄型化が可能な減速機を実現することができるので、より簡単な構成で、回転動力を減速する減速機を実現することができる。
【0007】
[適用例1]
入力された所定の動作方向の動力を減速して、前記動作方向の動力を出力する減速機であって、前記動作方向に展伸する第1の歯車が形成され、前記動作方向に固定された板状のステーターと、前記第1の歯車に対向する第2の歯車が形成され、前記動力が入力される入力板と、前記第1および第2の歯車の間に配置され、前記第1および第2の歯車の双方に常時接触するように構成されたスライダーと、前記動力を出力する出力板と、を備え、前記第1および第2の歯車は、それぞれの形状が前記動作方向に延びる同種のシニュソイド系曲線となるように形成されており、前記出力板は、前記出力板に対する前記スライダーの前記動作方向への移動を規制するとともに、前記出力板に対する前記スライダーの前記第1と第2の歯車の対向方向への移動を許容するように構成されている、減速機。
【0008】
この構成によれば、歯車が形成されたステーターおよび入力板と、出力板と、出力板に対する動作方向への移動が規制された複数のスライダーとにより薄型化が可能な減速機を実現することができるので、より簡単な構成で減速機を実現することができる。
【0009】
[適用例2]
前記シニュソイド系曲線は、シニュソイド誘導曲線である、適用例1記載の減速機。
【0010】
この構成によれば、スライダーの先端部を第1および第2の歯車の双方に常時接触させることができるので、スライダーの形状をより簡単に決定することができる。
【0011】
[適用例3]
前記シニュソイド誘導曲線は、シニュソイド曲線である、適用例2記載の減速機。
【0012】
この構成によれば、第1および第2の歯車の形状がより簡単な形状となるので、減速機を構成するステーターおよび入力板の形成がより簡単となる。
【0013】
[適用例4]
適用例1ないし3のいずれか記載の減速機であって、前記動作方向は、中心軸を中心とする回転方向であり、前記第1の歯車は、歯数がM(Mは、2以上の整数)の内歯車であり、前記第2の歯車は、歯数がN(Nは、1以上の整数)の外歯車である、減速機。
【0014】
この構成によれば、回転動力を減速する減速機の構成をより簡単にすることができる。
【0015】
[適用例5]
前記スライダーの本数は、(M+N)本あるいは(M-N)本のいずれかである、適用例4記載の減速機。
【0016】
この構成によれば、より確実に、入力板に入力された動力を出力板に伝達することができる。
【0017】
[適用例6]
適用例1ないし5のいずれか記載の減速機であって、前記スライダーは、平棒状の部材であって、厚み方向から見て矩形状の中央部と、中央部の両端に設けられ、厚み方向から見て前記中央部を底辺とする二等辺三角形状の2つの端部と、を有しており、前記出力板は、前記中央部と同幅で前記対向方向に伸びるガイド溝が形成された板状の部材であり、前記スライダーは、前記ガイド溝に嵌め込まれることにより、前記出力板に対する前記動作方向への移動が規制される、減速機。
【0018】
この構成によれば、減速機における動力の伝達効率の低下を抑制するとともに、出力板に形成されるガイド溝や、スライダーの形状をより簡単な形状にすることができる。
【0019】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、減速機、その減速機を用いた駆動機構、その減速機とモーター等の動力発生装置とを組み合わせた駆動装置等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1実施形態としての減速機の構成を示す分解斜視図。
【
図2】減速機を構成する各部材の構成を示す説明図。
【
図3】減速機を構成する各部材の構成を示す説明図。
【
図4】内歯車および外歯車の形状の具体的態様を示す説明図。
【
図5】出力板を固定した際の減速機の動作の様子を示す説明図。
【
図6】ステーターを固定した際の減速機の動作の様子を示す説明図。
【
図7】第2実施形態における出力板およびスライダーの構成を示す説明図。
【
図8】出力板を固定した際の減速機の動作の様子を示す説明図。
【
図9】ステーターを固定した際の減速機の動作の様子を示す説明図。
【
図10】第3実施形態におけるステーターおよび入力板の構成を示す説明図。
【
図11】第3実施形態の減速機の動作の様子を示す説明図。
【
図12】第4実施形態におけるステーター、入力板およびスライダーの構成を示す説明図。
【
図13】スライダーの内端部および外端部の具体的形状を示す説明図。
【
図14】第4実施形態の減速機の動作の様子を示す説明図。
【
図15】第5実施形態の減速機を構成する各部材の構成を示す説明図。
【
図16】第5実施形態の減速機の動作の様子を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を以下の順序で説明する。
A.第1実施形態:
A1.減速機の構成:
A2.内歯車および外歯車の形状の具体的態様とスライダーの配置:
A3.減速機の動作:
B.第2実施形態:
C.第3実施形態:
D.第4実施形態:
E.第5実施形態:
F.変形例:
【0022】
A.第1実施形態:
A1.減速機の構成:
図1は、本発明の第1実施形態としての減速機100の構成を示す分解斜視図である。
図2および
図3は、減速機100を構成する各部材の構成を示す説明図であり、各部材を+Z方向から見た様子を示している。なお、
図1をはじめとする各図面に示すX,Y,Zの各方向は、直交する3方向を表している。また、以下の説明においては、特に断らない限り、各部材等の形状は、Z方向から見た形状で表す。
【0023】
減速機100は、入力された減速機100の中心軸Cを中心として回転する動力(回転動力)を減速して、回転動力を出力する。このように、第1実施形態の減速機100は、中心軸Cを中心として回転する動力を減速するように構成されているため、中心軸Cを中心とした回転方向、すなわち、中心軸Cを中心とする周方向(以下、単に「周方向」と謂う)は、「動作方向」とも呼ぶことができる。また、以下では、特に断らない限り、回転とは、中心軸Cを中心とした回転を謂う。
【0024】
図1に示すように、減速機100は、2枚の略円盤状の板状部材110,120と、Z方向に貫通する円形の貫通穴139が形成された1枚の略円環状の板状部材130と、30本の略平棒状のスライダー140とを備えている。3枚の板状部材110,120,130のうち、第2の板状部材120は、第1の板状部材110の+Z方向側に積層される。また、スライダー140および第3の板状部材130は、この順に、第1の板状部材110の+Z方向側に積層される。このようにZ方向、すなわち、中心軸Cの方向(軸方向)は、第1の板状部材110に対して第2の板状部材120と、スライダー140および第3の板状部材130とが積層される方向であるので、「積層方向」とも呼ぶことができる。
【0025】
第1実施形態においては、3枚の板状部材110,120,130のうち、第1の板状部材110が、動作方向に対して固定されたステーターとして使用される。また、回転動力は、第2の板状部材120に入力され、第3の板状部材130から出力される。そのため、以下では、第1の板状部材110を「ステーター110」、第2の板状部材120を「入力板120」、また、第3の板状部材130を「出力板130」とも呼ぶ。
【0026】
なお、入力板120への回転動力の入力は、出力板130に設けられた貫通穴139を通して入力板120に固定的に取り付けられたシャフトや歯車等を介して行うことができる。また、ステーターに貫通穴を設け、当該貫通穴を通して入力板に固定的に取り付けられたシャフトや歯車等を介して、回転動力を入力板120に入力することができる。
【0027】
一方、出力板130からの回転動力の出力は、例えば、出力板130に固定的に取り付けられた各種歯車等を介して行うことができる。また、出力板自体に歯形を形成し、出力板を回転動力を出力するための歯車とすることも可能である。
【0028】
このような、入力板への回転動力の入力および出力板からの回転動力の出力は、必ずしも機械的な手段によって行う必要はなく、入力板への回転動力の入力および出力板からの回転動力の出力の少なくとも一方を、電磁的な手段で行うことも可能である。例えば、電磁誘導により入力板を直接電磁的に回転させるようにすることも可能である。また、出力板自体を磁化し、あるいは、出力板に磁石を取り付け、磁界を回転させることにより、磁気的な結合や電磁誘導により回転動力を出力することもできる。
【0029】
ステーター110は、
図1および
図2(a)に示すように、全体として円盤状の部材であり、その+Z方向側の面には、底面が平坦な凹部118が-Z方向に向かって形成されている。このステーター110に形成された凹部118は、その周縁部の中心軸Cからの距離が回転角度に対して周期的に変化するように形成されており、内歯車を構成する。なお、第1実施形態の減速機100においては、ステーター110の凹部118によって構成される内歯車(以下、「内歯車118」とも謂う)の歯数Mを21としている。
【0030】
入力板120は、
図1および
図2(b)に示すように、厚みがステーター110の凹部118と略同一に設定された平板状の部材である。入力板120は、ステーター110の凹部118と同様に、その周縁部の中心軸Cからの距離が回転角度に対して周期的に変化するように形成されている。これにより、入力板120は、それ自体で外歯車を構成する。なお、第1実施形態の減速機100においては、入力板120として実現された外歯車(以下、「外歯車120」とも謂う)の歯数Nを9としている。また、以上の説明では、入力板120がそれ自体で外歯車を構成するものとして説明しているが、外歯車は、入力板120に形成されていると捉えることができる。
【0031】
出力板130は、
図1および
図3(a)に示すように、全体として円環状の部材であり、外径がステーター110の凹部118の最小径よりも小さく、内径が入力板120の最大径よりも大きく設定されている。そのため、ステーター110に、スライダー140および出力板130を積層した際に、出力板130が、ステーター110や入力板120と接触し、出力板130のステーター110や入力板120に対する回転が制限されることが抑制される。
【0032】
図1および
図3(a)に示すように、出力板130の-Z方向側の面には、30本のガイド溝138が+Z方向に向かって形成されている。出力板130に形成されたガイド溝138は、Z方向の断面形状が矩形状で、中心軸Cを中心とする径方向(以下、単に「径方向」と謂う)に伸びる一定幅の溝であり、中心軸Cを中心として角度が等間隔となる位置(等角位置)に形成されている。なお、以上の説明から分かるように、第1実施形態においては、ガイド溝138の本数(30)は、内歯車118の歯数M(21)と外歯車120の歯数N(9)との和(M+N)と同数に設定されている。
【0033】
スライダー140は、
図1および
図3(b)に示すように、中央部141と、中央部141の中心軸C側(内方側)に設けられた内端部142と、中央部141の中心軸Cと反対側(外方側)に設けられた外端部143とを有する略平棒状の部材である。Z方向(すなわち、厚み方向)から見て、中央部141は、矩形に形成されており、内端部142および外端部143は、それぞれ、中央部141側が底辺となる二等辺三角形状となるように形成されている。これにより、スライダー140の内方側端および外方側端(併せて、「先端部」とも謂う)がスライダー140の軸線上に配列されるとともに、減速機100を動作させた際に、スライダー140が、軸線上に位置する先端部以外の位置でステーター110や入力板120と接触し、あるいは、ステーター110や入力板120と干渉することが抑制される。
【0034】
スライダー140の中央部141の幅は、出力板130に形成されたガイド溝138の幅と略同一に設定される。これにより、スライダー140をガイド溝138に嵌め込んだ状態で、スライダー140と出力板130とをステーター110に積層すると、スライダー140は、出力板130に対して周方向への移動が規制されるとともに、軸線が径方向に沿った状態で、径方向に移動自在となる。
【0035】
スライダー140の厚みは、出力板130のガイド溝138の深さよりも厚く設定される。これにより、スライダー140および出力板130は、ステーター110に対して回転自在となる。また、スライダーをガイド溝に嵌め込んだ際に、スライダーが出力板からZ方向に突出する長さを、ステーターに形成された凹部の深さや入力板の厚みより長くするものとしても良い。この場合、出力板と、ステーターや入力板とがZ方向に離間するので、出力板の外径をより大きくすることができ、また、出力板の内径をより小さくしあるいは貫通穴の形成を省略することができる。
【0036】
スライダー140の長さ、すなわち、個々のスライダー140における2つの先端部の間の距離は、両先端部が、内歯車118と外歯車120との双方に常時接触するように設定される。このように、中央部141の幅を出力板130に形成されたガイド溝138の幅と略同一に設定するとともに、スライダー140の両先端部が、内歯車118と外歯車120との双方に常時接触するようにスライダー140の長さを設定することにより、減速機100において、バックラッシュの発生を抑制するとともに、動力の伝達効率の低下を抑制することができる。
【0037】
A2.内歯車および外歯車の形状の具体的態様とスライダーの配置:
図4は、内歯車118の形状および外歯車120の形状の具体的態様を示す説明図である。ここで、内歯車118の形状および外歯車120の形状とは、それぞれ、ステーター110に形成された凹部118の周縁部の形状、および、入力板120の周縁部の形状を謂う。このように、本発明および本明細書においては、歯車の形状等について言及する場合、歯車(ここでは、内歯車118および外歯車120)とは、当該歯車を構成する要素(ここでは、凹部118および入力板120)の周縁部を謂う。
【0038】
なお、
図4においては、図示の便宜上、内歯車118および外歯車120(ステーター110および入力板120)を、
図2に示した状態から中心軸Cを中心に適宜回転させた状態で描いている。また、それに合わせて、
図4では、中心軸Cに垂直な面、すなわち、
図2のXY面内における直交座標を、
図2とは異なる直交座標x,yで表している。
【0039】
第1実施形態において、内歯車118は、その形状が、一周の波数(以下、単に「波数」と呼ぶ)が内歯車118の歯数M(21)となる円周シニュソイド曲線となるように形成されている。また、外歯車120は、その形状が、波数が外歯車120の歯数N(9)となる円周シニュソイド曲線となるように形成されている。ここで、円周シニュソイド曲線とは、サイン波形状の曲線(シニュソイド曲線)を円周に巻き付けた曲線を謂う。
【0040】
このように内歯車118および外歯車120の形状を円周シニュソイド曲線とすることにより、
図4(a)に示すように、角度θにおける、中心軸Cから内歯車118までの距離r1(以下、「内歯車118の動径r1」とも謂う)、および、中心軸Cから外歯車120までの距離r2(以下、「外歯車120の動径r2」とも謂う)は、それぞれの基準径R1,R2および振幅Dと、波数M,N(すなわち、歯数M,N)と、角度θとを用いて、それぞれ、以下の式(1a)および(1b)で表される。
【数1】
【0041】
なお、第1実施形態においては、スライダー140(
図1)は、その両先端部が内歯車118と外歯車120との双方に常時接触するように構成されている。そのため、内歯車118の基準径R1は、外歯車120の基準径R2とスライダー140の長さLとの和(R2+L)に設定される。また、スライダー140が配置される位置では、内歯車118の動径r1は、外歯車120の動径r2とスライダー140の長さLとの和(r2+L)に等しくなる。そのため、スライダー140が配置し得る位置の角度θは、次の式(2)を満たす角度θとなる。
【数2】
【0042】
上記式(2)は、三角関数の和積公式を用いて、次の式(3)のように変形される。
【数3】
【0043】
そして、上記式(3)から、スライダー140が配置し得る角度θは、以下の式(4)あるいは(5)を満たす角度θであることが判る。
【数4】
【数5】
【0044】
一周(0≦θ<2π)の間に、上記式(4)を満たす角度θは、(M+N)個存在し、上記式(5)を満たす角度θは、(M-N)個存在する。そのため、角度θが上記式(4)を満たす場合には、(M+N)本のスライダー140を等角位置に配置することが可能であり、角度θが上記式(5)を満たす場合には、(M-N)本のスライダー140を等角位置に配置することが可能である。
【0045】
第1実施形態においては、スライダー140を上記式(4)を満たす等角位置に配置している。そのため、内歯車118の歯数Mを21とし、外歯車120の歯数Nを9とする第1実施形態では、
図1および
図3(b)に示すように、30本のスライダー140が等角位置に配置される。
【0046】
次に、出力板130(
図1)を固定し、内歯車118および外歯車120をそれぞれ角度α,βだけ+Z方向から見て時計回りに回転させることを考える。この場合、回転させた内歯車118の角度θにおける動径r1は、
図4(b)に示す回転させていない内歯車118の角度(θ+α)における動径r1(θ+α)となる。同様に、回転させた外歯車120の角度θにおける動径r2は、
図4(b)に示す回転させていない外歯車120の角度(θ+β)における動径r2(θ+β)となる。
【0047】
この場合においても、スライダー140が配置可能となるように、内歯車118の動径r1(θ+α)が、外歯車120の動径r2(θ+β)とスライダー140の長さLとの和(r2+L)に等しくなるためには、角度θ,α,βは、次の式(6)を満たす必要がある。
【数6】
【0048】
そして、角度θが上記式(4)を満たす場合、出力板130に対する内歯車118および外歯車120(ステーター110および入力板120)の回転状態を規定する上記式(6)は、次の式(7)のように変形される。
【数7】
【0049】
さらに、複数のスライダー140を配置可能とするためには、異なる角度θに対して上記式(7)が満たされる必要がある。そのため、角度α(内歯車118の回転角、すなわち、ステーター110の回転角)と角度β(外歯車120の回転角、すなわち、入力板120の回転角)との関係は、次の式(8)で与えられる。
【数8】
【0050】
この式(8)から判るように、スライダー140の配置される角度θが上記式(4)を満たした状態、すなわち、出力板130が固定された状態においては、入力板120をM回転させた場合、ステーター110を-N回転(入力板120の回転方向と反対方向にN回転)させることにより、スライダー140は、その両先端部が内歯車118と外歯車120との双方に接触した状態に維持される。従って、内歯車118および外歯車120の歯数M,Nの和(M+N)のスライダー140を等角位置に配置した場合、出力板130を固定した状態において、入力板120を+M回転させると、ステーター110が-N回転(入力板120の回転方向と反対方向にN回転)することとなる。
【0051】
なお、以上の説明から分かるように、内歯車118および外歯車120は、その形状が円周シニュソイド曲線、すなわち、シニュソイド曲線を中心軸Cを中心とする円周に巻き付けた曲線となっているので、歯形の配列方向(展伸方向)が周方向となっている。また、
図4から判るように、内歯車118と外歯車120とは、径方向に離間して互いに対向している。そのため、内歯車118と外歯車120とは、対向方向を径方向として対向していると謂うこともできる。
【0052】
A3.減速機の動作:
図5および
図6は、第1実施形態の減速機100の動作の様子を示す説明図である。
図5および
図6では、後述する各状態におけるステーター110、入力板120、出力板130およびスライダー140の配置を示している。なお、
図5および
図6では、ステーター110、入力板120およびスライダー140の位置関係を明確にするため、出力板130の外形を二点鎖線で描いている。また、
図5および
図6では、
図5(a)に示す初期状態において中心軸Cから見て+Y方向に位置するスライダー140にハッチングを施すとともに、初期状態における+Y方向を示す黒丸のマーキングをステーター110および入力板120に付している。
【0053】
図5(b)は、出力板130を固定した状態で、
図5(a)に示す初期状態から入力板120を回転させていった状態を示している。また、
図6(a)および
図6(b)は、ステーター110を固定した状態、すなわち、減速機100を動作させた際に、
図5(a)に示す初期状態から入力板120を回転させていった状態を示している。なお、以下の説明において、入力板120等の回転角は、
図5(a)に示す初期状態における回転角を±0°とし、+Z方向から見て時計回りの方向を正の値とする。
【0054】
上述の通り、第1実施形態においては、等角位置に配置されるスライダー140の本数は、内歯車118の歯数M(21)と外歯車120の歯数N(9)の和の30本としている。そのため、
図5(b)に示すように、出力板130(
図1)を固定した状態、すなわち、スライダー140の周方向(動作方向)の移動が規制された状態では、入力板120を+Z方向から見て時計回りに14°(+14°)回転させると、ステーター110は、+Z方向から見て反時計回りに6°(-6°)回転する。
【0055】
このように出力板130を固定した状態において、入力板120の回転角とステーター110の回転角との関係が与えられた場合、ステーター110を固定した状態における入力板120の回転角と出力板130の回転角との関係は、作表法等を用いて算出することができる。
【0056】
具体的には、次の表1に示すように、出力板130を固定した状態で入力板120を+M回転させた場合と、全体を糊付けした状態で、ステーター110の回転を相殺するように入力板120を+N回転させた場合とについて出力板130およびステーター110のそれぞれの回転数を算出する。次いで、これらの2条件での各部の回転数を加算することにより、ステーター110が固定された状態における入力板120および出力板130の回転数を算出する。
【表1】
【0057】
そして、減速機100の減速比Zは、入力板120の回転数(M+N)を出力板130の回転数Nで除することにより、次の式(9)で与えられる。
【数9】
【0058】
第1実施形態においては、内歯車118の歯数Mを21とし、外歯車120の歯数Nを9としている。そのため、減速比Zは、10/3となり、
図6(a)に示すように、入力板120の回転角を+10°とすると、出力板130の回転角は+3°となる。同様に、
図6(b)に示すように、入力板120の回転角を+20°とすると、出力板130の回転角は+6°となる。
【0059】
このように、第1実施形態によれば、内歯車118および外歯車120(すなわち、ステーター110に形成された凹部118と、入力板120との、それぞれの周縁部)の形状を円周シニュソイド曲線とするとともに、出力板130に対する周方向(動作方向)の運動が規制されたスライダー140の両先端部を内歯車118および外歯車120の双方に常時接触させることにより、内歯車118の歯数Mと外歯車120の歯数Nとに応じた、減速比の減速機を得ることができる。
【0060】
また、
図1に示すように、減速機100は、内歯車を構成する凹部118が形成されたステーター110と、外歯車として機能する入力板120と、ガイド溝138が形成された出力板130と、30本のスライダー140とで構成される。そのため、第1実施形態では、減速のための遊星歯車等を設けることなく減速機100を実現することが可能となるため、遊星歯車等を構成する軸受等を省略し、また、減速のために遊星歯車等を入れ子構造とする必要がないため、減速機100の構成がより簡単となる。
【0061】
さらに、減速機100は、ステーター110に形成された凹部118に、入力板120と、出力板130のガイド溝138に嵌め込まれたスライダー140および出力板130とをそれぞれ積層することにより構成される。そのため、減速機100の厚みは、凹部118の底におけるステーター110の厚みと入力板120の厚みとの和、あるいは、凹部118の底におけるステーター110の厚みとスライダー140の厚みとガイド溝138の底における出力板130の厚みとの和になる。そのため、第1実施形態によれば、減速機100の厚みを薄くすることができる。
【0062】
B.第2実施形態:
図7は、第2実施形態における出力板230およびスライダー240の構成を示す説明図であり、
図8および
図9は、第2実施形態の減速機200の動作の様子を示す説明図である。なお、
図8および
図9では、第1実施形態の減速機100の動作の様子を示す
図5および
図6と同様に、出力板230の外形を二点鎖線で描くとともに、
図8(a)に示す初期状態において中心軸Cから見て+Y方向に位置するスライダー240にハッチングを施し、初期状態における+Y方向を示す黒丸のマーキングをステーター110および入力板120に付している。
【0063】
第2実施形態は、スライダー240の配置を規定する上記式(4),(5)のうち、式(5)を満たす等角位置にスライダー240を配置している点で、式(4)を満たす等角位置にスライダー140を配置する第1実施形態と異なっている。そのため、第2実施形態において減速機200を構成する出力板230は、第1実施形態において減速機100(
図1)を構成する出力板130(
図3)と、スライダー240が嵌め込まれるガイド溝238の数およびその配置が異なっている。なお、スライダー240は、その本数および配置が異なっている点で、第1実施形態のスライダー140と異なっているが、中央部241、内端部242および外端部243の形状やそれらの配置等、個々の形状は、第1実施形態のスライダー140と同じである。一方、ステーター110および入力板120の構成や、減速機としての全体的な構成は、第1実施形態と同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0064】
第2実施形態においても、第1実施形態と同一構成のステーター110および入力板120を使用しているため、内歯車118および外歯車120の歯数M,Nは、それぞれ21および9となっている。そのため、上記式(5)を満たす角度θに配置し得るスライダー240の本数は、12(M-N)本となる。そこで、第2実施形態の出力板230では、
図7に示すように、12本のガイド溝238が等角位置に形成されている。
【0065】
また、スライダー240の配置位置を表す角度θが上記式(5)を満たす場合、出力板230に対するステーター110および入力板120の回転状態を規定する上記式(6)は、次の式(10)のように変形される。
【数10】
【0066】
そして、異なる角度θに対して上記式(10)が満たされることが要請されるので、角度αと角度βとの関係は、次の式(11)で与えられる。
【数11】
【0067】
従って、角度θが上記式(5)を満たす場合、すなわち、内歯車118と外歯車120との歯数M,Nの差(M-N)のスライダー240を等角位置に配置した第2実施形態においては、出力板230を固定した際、入力板120を+M回転させると、ステーター110が+N回転(入力板120の回転方向にN回転)することとなる。
【0068】
具体的には、出力板230を固定した状態、すなわち、スライダー240の周方向の移動が規制された状態で、
図8(a)に示す初期状態から、入力板120を+Z方向から見て時計回りに14°(+14°)回転させると、
図8(b)に示すように、ステーター110は、+Z方向から見て時計回りに6°(+6°)回転する。
【0069】
そして、第1実施形態と同様に、次の表2を用いた作表法により第2実施形態の減速機200の減速比Zは、以下の式(12)で与えられる。
【表2】
【数12】
【0070】
第2実施形態においても、内歯車118の歯数Mを21とし、外歯車120の歯数Nを9としているので、減速比Zは、-4/3となる。そして
図9(a)に示すように、入力板120の回転角を+8°とすると、出力板230の回転角は-6°となる。同様に、
図9(b)に示すように、入力板120の回転角を+16°とすると、出力板230の回転角は-12°となる。
【0071】
このように、第2実施形態によれば、内歯車118および外歯車120(すなわち、ステーター110に形成された凹部118と、入力板120との、それぞれの周縁部)の形状を円周シニュソイド曲線とするとともに、出力板230に対する周方向(動作方向)の運動が規制されたスライダー240の両先端部を内歯車118および外歯車120の双方に常時接触させることにより、内歯車118の歯数Mと外歯車120の歯数Nとに応じた、減速比の減速機を得ることができる。
【0072】
そして、第2実施形態によっても、減速機200が、内歯車を構成する凹部118が形成されたステーター110と、外歯車として機能する入力板120と、ガイド溝238が形成された出力板230と、12本のスライダー240とで構成されるので、第1実施形態と同様に、減速機200の構成をより簡単にするとともに、減速機200の厚みを薄くすることができる。
【0073】
C.第3実施形態:
図10は、第3実施形態におけるステーター310および入力板320の構成を示す説明図である。
図10(a)および
図10(b)は、それぞれ、ステーター310および入力板320を+Z方向から見た様子を示している。第3実施形態は、ステーター310に形成された凹部318(内歯車318)および入力板320(外歯車320)の形状が異なっている点で第1実施形態と異なっている。他の点は、第1実施形態と同様である。
【0074】
第3実施形態において、内歯車318は、その形状が、波数が内歯車318の歯数M(21)となる円周三角波曲線となるように形成されており、外歯車320は、その形状が、波数が外歯車320の歯数N(9)となる円周三角波曲線となるように形成されている。ここで、円周三角波曲線とは、三角波形状の曲線(三角波曲線)を円周に巻き付けた曲線を謂う。
【0075】
このように内歯車318および外歯車320の形状を円周三角波曲線とすることにより、角度θにおける、内歯車318の動径r1および外歯車320の動径r2は、それぞれの基準径R1,R2および振幅Dと、波数M,N(すなわち、歯数M,N)と、角度θと、三角波曲線を表す関数Tri(以下、「三角波関数Tri」と呼ぶ)とを用いて、それぞれ、以下の式(13a)および(13b)で表される。
【数13】
【0076】
ここで、三角波関数Tri(t)とは、周期が2πで、値域が-1から+1までの周期関数であって、tが-π~-π/2,-π/2~π/2,π/2~πの各区間において線形な区分線形関数であり、一般的には、以下の式(14)で表される。
【数14】
【0077】
第1実施形態と同様に、スライダー140が配置し得る位置(角度θ)は、内歯車318の動径r1(θ)が、外歯車320の動径r2(θ)とスライダー140の長さLとの和(r2+L)に等しくなる位置である。また、内歯車318の基準径R1は、外歯車320の基準径R2とスライダー140の長さLとの和(R2+L)に設定される。従って、スライダー140が配置し得る角度θは、次の式(15)を満たす角度θとなる。
【数15】
【0078】
一方、三角波関数Tri(t)は、上記式(14)の他、主値をとる逆三角関数(arcsin)を用いて、以下の式(16)で表すことができる。
【数16】
【0079】
ここで逆三角関数arcsinは、その定義域である-1~+1において連続な狭義単調増加関数であるため、上記式(15)が充足される条件と、式(2)が充足される条件とは等価である。従って、第3実施形態においても、第1実施形態と同様に、式(3)を満たす角度θにおいて、スライダー140を配置することが可能である。また、第3実施形態においても、第1実施形態と同様に、ステーター310および入力板320の回転状態を規定する式(6)が満たされる必要がある。
【0080】
このように、第3実施形態では、スライダー140の配置と、ステーター310および入力板320の回転状態とは、いずれも第1実施形態と同様に規定される。そのため、第3実施形態においても、第1実施形態と同様にスライダー140を配置し、減速動作を実現することが可能となる。
【0081】
図11は、このようにして動作する第3実施形態の減速機300において、減速動作が実現される様子を示す説明図である。上述のように、第3実施形態の減速機300では、第1実施形態の減速機100と同様に、内歯車318(ステーター310の凹部318)および外歯車320(入力板320)の歯数M,Nをそれぞれ21および9とし、30本のスライダー140を配置している。そのため、第3実施形態の減速機300では、減速比Zが10/3となる。そして、
図11(a)に示す初期状態から入力板320を+10°回転させると、
図11(b)に示すように出力板130は、+3°回転する。
【0082】
このように、第3実施形態によっても、減速機300が、内歯車を構成する凹部318が形成されたステーター310と、外歯車として機能する入力板320と、ガイド溝138が形成された出力板130と、30本のスライダー140とで構成されるので、第1実施形態と同様に、減速機300の構成をより簡単にするとともに、減速機300の厚みを薄くすることができる。
【0083】
なお、第3実施形態では、第1実施形態と同様に、スライダー140の配置位置を上記式(4)を充足する角度θとしているが、スライダー140の配置位置は、第2実施形態と同様に、上記式(5)を充足する角度θにすることも可能である。この場合においても、減速機は、第2実施形態と同様に減速動作する。
【0084】
さらに、第3実施形態では、内歯車318および外歯車320の形状を式(13a)および(13b)で表される円周三角波曲線としているが、内歯車および外歯車の形状を種々変更することができる。具体的には、内歯車および外歯車の形状は、定義域(t:-1~+1)において連続な任意の狭義単調関数Fm(t)として、次の式(17a)および(17b)で表される曲線であれば良い。
【数17】
【0085】
この場合においても、第1実施形態と同様に、式(4)を充足する角度θの位置にスライダー140を配置すれば、回転角α,βの関係は、式(7)で規定され、第2実施形態と同様に、式(5)を充足する角度θの位置にスライダー140を配置すれば、回転角α,βの関係は、式(10)で規定される。従って、第1および第2実施形態と同様に、内歯車および外歯車の形状を、式(17a)および(17b)で表される曲線とすることにより、減速機としての減速動作を実現することができる。
【0086】
なお、内歯車および外歯車の形状を規定する、上記式(1a)および(1b)、式(13a)および(13b)、ならびに、式(17a)および(17b)で表される曲線(形状規定曲線)は、いずれも、狭義単調関数を用いてサイン波形から誘導される波形を円周に巻き付けた曲線である。そのため、本発明および本明細書においては、これらの曲線を、円周シニュソイド誘導曲線と総称する。また、円周シニュソイド誘導曲線は、サイン波形から誘導される波形(シニュソイド誘導曲線)を回転方向に延ばした曲線とも捉えることが可能であるため、回転方向(すなわち、動作方向)に延びるシニュソイド誘導曲線と呼ぶことも可能である。
【0087】
また、上述のように、形状規定曲線としては、種々のシニュソイド誘導曲線を回転方向に延ばした曲線とすることが可能であるが、減速機を構成する入力板やステーターの形成がより簡単となる点で、形状規定曲線は、回転方向に延びるシニュソイド曲線あるいは三角波曲線(円周シニュソイド曲線あるいは円周三角波曲線)とするのが好ましい。
【0088】
D.第4実施形態:
図12は、第4実施形態におけるステーター410、入力板420およびスライダー440の構成を示す説明図である。
図12(a)は、ステーター410に入力板420を積層した状態を+Z方向から見た様子を示し、
図12(b)は、スライダー440を+Z方向から見た様子を示している。
【0089】
第4実施形態は、ステーター410に形成された凹部418(内歯車418)および入力板420(外歯車420)の形状が異なっている点と、内歯車418の歯数M(20)および外歯車420の歯数N(10)が異なっている点と、スライダー440の形状が異なっている点とで、第1実施形態と異なっている。他の点は、第1実施形態と同様である。
【0090】
第4実施形態において、内歯車418は、その形状が、波数が内歯車418の歯数M(20)となる円周シニュソイド近似曲線となるように形成され、外歯車420は、その形状が、波数が外歯車の歯数N(10)となる円周シニュソイド近似曲線となるように形成されている。ここで、円周シニュソイド近似曲線とは、直線と円弧(フィレット)との組み合わせによって円周シニュソイド曲線を近似した曲線を謂う。
【0091】
このように、第4実施形態においては、内歯車418および外歯車420の形状を円周シニュソイド近似曲線としているため、スライダー440の両先端部を内歯車418および外歯車420の双方に常時接触させることができない。
【0092】
そこで、第4実施形態では、第1ないし第3実施形態と同一構成の出力板130を用いているため、中央部441は、第1ないし第3実施形態のスライダー140,240の中央部141,241と同幅としているが、スライダー440が内歯車418および外歯車420の双方に常時接触するように、内端部442および外端部443の形状を調整している。これにより、第4実施形態においても、減速機におけるバックラッシュの発生や動力の伝達効率の低下を抑制することができる。
【0093】
図13は、スライダー440の内端部442および外端部443の形状を設定する様子を示す説明図である。
図13(a)ないし
図13(c)は、それぞれ、内歯車418の歯形、外歯車420の歯形およびスライダー440を+Z方向から見た様子を示している。
【0094】
上述のように、内歯車418および外歯車420の形状は、直線と円弧との組み合わせで表されるため、
図13(a)および
図13(b)に示すように、内歯車418および外歯車420の歯形には、直線部LP1a,LP1b,LP2が存在する。
【0095】
また、スライダー440の内端部442および外端部443は、いずれも、第1ないし第3実施形態のスライダー140,240と同様に、中央部441側を底辺とする二等辺三角形状としている。
【0096】
そして、二等辺三角形状の外端部443の斜辺の傾きは、内歯車418が最も内方側に位置する山を向いた状態での直線部LP1aの傾きと、内歯車418が最も外方側に位置する谷を向いた状態での直線部LP1bの傾きとの中間に設定される。一方、二等辺三角形状の内端部442の斜辺の傾きは、外歯車420が最も外方側に位置する山を向いた状態での直線部LP2の傾きに設定される。
【0097】
このように、内端部442および外端部443の形状を設定することにより、スライダー440の両先端部が内歯車418および外歯車420の双方に接触しない状態においても、スライダー440が内歯車418および外歯車420の双方に接触するようにすることができる。
【0098】
図14は、このようにして構成された第4実施形態の減速機400において、減速動作が実現される様子を示す説明図である。上述のように、第4実施形態の減速機400では、内歯車418(ステーター410の凹部418)および外歯車420(入力板420)の歯数M,Nをそれぞれ20および10とし、30本のスライダー440を配置している。そして、第4実施形態においても第1ないし第3実施形態と同様に減速比Zが算出されるので、第4実施形態の減速機400では、減速比Zが3となり、
図14(a)に示す初期状態から入力板420を+9°回転させると、
図14(b)に示すように出力板130は、+3°回転する。
【0099】
このように、第4実施形態によっても、減速機400が、内歯車を構成する凹部418が形成されたステーター410と、外歯車として機能する入力板420と、ガイド溝138が形成された出力板130と、30本のスライダー440とで構成されるので、第1実施形態と同様に、減速機400の構成をより簡単にするとともに、減速機400の厚みを薄くすることができる。
【0100】
図14に示すように、第4実施形態では、等角位置に配置されるスライダー440の本数を、内歯車418の歯数M(20)と外歯車420の歯数N(10)との和である30本としているため、減速機400が減速動作する。これに対し、等角位置に配置されるスライダーの本数を、内歯車418の歯数M(20)と外歯車420の歯数N(10)との差である10本とした場合、減速機は動作しない。これは、内歯車418の歯数M(20)と外歯車420の歯数N(10)との差10(M-N)が、これらの歯数M,Nの和20(M+N)の約数となっているため、回転方向が不定となることに起因する。
【0101】
第4実施形態では、円周シニュソイド近似曲線として、直線と円弧との組み合わせによって円周シニュソイド曲線を近似した曲線を用いているが、円周シニュソイド近似曲線としては、種々の態様で円周シニュソイド曲線を近似した曲線を用いることができる。円周シニュソイド近似曲線としては、例えば、内歯車や外歯車の歯形を放物線等の多項式で近似した曲線を用いることも可能である。また、内歯車および外歯車の形状を、円周三角波曲線等の円周シニュソイド誘導曲線に近似した曲線とすることも可能である。これらの場合、スライダーの内端部や外端部の形状は、スライダーから見た系における内歯車や外歯車の形状変化等を基に、実験的に決定される。
【0102】
なお、本発明および本明細書においては、これらの近似曲線と、円周シニュソイド誘導曲線とを、円周シニュソイド系曲線と総称する。また、円周シニュソイド系曲線は、シニュソイド誘導曲線やその近似曲線(併せて、「シニュソイド系曲線」と呼ぶ)を回転方向に延ばした曲線とも捉えることが可能であるため、回転方向(すなわち、動作方向)に延びるシニュソイド系曲線と呼ぶことも可能である。そして、内歯車および外歯車は、それぞれの形状が同種の円周シニュソイド系曲線、すなわち、関数形や近似態様が同一の円周シニュソイド系曲線とすれば良い。
【0103】
E.第5実施形態:
図15は、第5実施形態の減速機を構成する各部材の構成を示す説明図である。
図15(a)ないし
図15(c)は、ステーター510、入力板520および出力板530のそれぞれの形状を示し、
図15(d)は、スライダー540の形状と、スライダー540の配置とを示している。
【0104】
第5実施形態の減速機は、ステーター510、入力板520および出力板530がX方向を長手方向とする略平棒状の部材として形成されている点と、動作方向であるX方向に直線運動する動力(直動動力)を減速して直動動力を出力する点とで、第1実施形態の減速機100(
図1)と異なっている。
【0105】
図15(a)および
図15(b)に示すように、ステーター510の-Y方向側と、入力板520の+Y方向側とには、それぞれ、歯形511,521が形成されている。これにより、ステーター510および入力板520は、それ自体でラック歯車(X方向に展伸する歯車)を構成する。なお、第5実施形態においては、ステーター510として実現されたラック歯車(以下、「ラック歯車510」とも謂う)の単位長Uあたりの歯数Mを3としている。また、入力板520として実現されたラック歯車(以下、「ラック歯車520」とも謂う)の単位長Uあたりの歯数Mを2としている。また、以上の説明では、ステーター510および入力板520がそれ自体でラック歯車を構成するものとして説明しているが、ラック歯車は、ステーター510および入力板520のそれぞれに形成されていると捉えることができる。
【0106】
図15(c)に示すように、出力板530の-Z方向側の面には、X方向に等間隔に配置され、Y方向に伸びる一定幅のガイド溝538が、+Z方向に向かって形成されている。単位長Uあたりのガイド溝538の本数(5)は、2つのラック歯車510,520の単位長Uあたりの歯数M(3),N(2)の和(M+N)と同数に設定されている。
【0107】
図15(d)に示すように、スライダー540は、第1ないし第4実施形態と同様に、ガイド溝538と幅が略同一に設定された中央部541と、Z方向から見て中央部541側が底辺となる二等辺三角形状に形成された第1と第2の端部542,543とを有する略平棒状の部材である。単位長Uあたりのスライダー540の本数(5)は、ガイド溝538と同数に設定される。
【0108】
第5実施形態の減速機は、出力板530のガイド溝538に嵌め込まれたスライダー540を、歯形511,521が対向する状態で配置された2つのラック歯車510,520で挟み込むことにより構成される。
【0109】
第5実施形態では、減速機の動作方向がX方向となっているため、歯形511,521の位置、すなわち、ラック歯車510,520の形状を、単位長Uあたりの波数M,Nがそれぞれラック歯車510,520の単位長Uあたりの歯数M,NとなるX方向に伸びるシニュソイド曲線としている。そのため、ラック歯車510,520の位置XにおけるY方向の位置(Y方向位置)y1,y2は、それぞれのY方向基準位置Y1,Y2および半波高(振幅)Hと、単位長Uあたりの波数M,N(すなわち、単位長Uあたりの歯数M,N)とを用いて、それぞれ、以下の式(18a)および(18b)で表される。なお、第5実施形態においては、単位長Uあたりのシニュソイド曲線(形状規定曲線)の波数M,Nは、互いに異なっている限り、任意の実数とすることができる。
【数18】
【0110】
上述のように、第5実施形態の減速機では、スライダー540が2つのラック歯車510,520で挟み込まれるので、ラック歯車510のY方向基準位置Y1は、ラック歯車520のY方向基準位置Y2をスライダー540の長さLの分移動させたY方向位置(Y2+L)となる。
【0111】
また、スライダー540が配置し得るX方向の位置は、ラック歯車510のY方向位置y1が、ラック歯車520のY方向位置y2をスライダー540の長さLの分移動させたY方向位置(y2+L)に等しい位置、すなわち、sin MX=sin NXとなる位置となる。この条件は、上記式(2)における角度θを位置Xに置き換えたものと等価である。従って、第5実施形態においても、X方向における単位長Uの半開区間(単位長区間U)に配置されるスライダー540の本数は、(M+N)本あるいは(M-N)本となる。
【0112】
第5実施形態においては、単位長区間Uに配置されるスライダー540の数を(M+N)本としているため、角度θを位置Xに置き換えた上記式(4)を満たす。そのため、角度θを位置Xに置き換えるとともに、角度α,βをそれぞれ出力板530に対するラック歯車510,520(ステーター510および入力板520)のX方向の移動距離と置き換えれば、第5実施形態においても、上記式(6)を満たすことが要請される。
【0113】
そして、第5実施形態においては、ラック歯車510,520の単位長Uあたりの歯数M,Nをそれぞれ、3および2とし、単位長区間Uに配置されるスライダー540の数を5本すなわち(M+N)本としている。そのため、第5実施形態の減速機の減速比も上記式(9)を用いて算出され、減速比Z=5/2となる。
【0114】
図16は、このように構成された第5実施形態の減速機500の動作の様子を示す説明図である。
図16(a)は、初期状態を示している。
図16(b)は、出力板530を固定した状態で、
図16(a)で示す初期状態から、入力板520を+X方向に移動させた状態を示している。また、
図16(c)は、ステーター510を固定した状態で、
図16(a)で示す初期状態から、入力板520を+X方向に移動させた状態を示している。なお、
図16では、ステーター510、入力板520およびスライダー540の位置関係を明確にするため、
図16(a)に示す初期状態においてX方向の中央(一点鎖線で示す)に位置するスライダー540にハッチングを施すとともに、初期状態における中央位置を示す黒丸のマーキングをステーター510および入力板520に付している。
【0115】
図16(b)で示すように、出力板530を固定した状態で、入力板520を+X方向に移動させると、ステーター510は、入力板520の移動量に対して減速比Z=-3/2で減速されて移動する。そして、
図16(c)で示すように、ステーター510を固定した状態で、入力板520を+X方向に移動させると、出力板530は、入力板520の移動量に対して減速比Z=5/2で減速されて移動する。
【0116】
このように、第5実施形態によれば、ラック歯車510,520(すなわち、ステーター510および入力板520に形成された歯形511,521)の形状をシニュソイド曲線とするとともに、出力板530に対するX方向(動作方向)の運動が規制されたスライダー540の両先端部を2つのラック歯車510,520の双方に常時接触させることにより、ラック歯車510,520の歯数M,Nに応じた、減速比の減速機を得ることができる。
【0117】
また、第5実施形態においても、いずれも板状の、歯形511,521が形成されたステーター510および入力板520と、ガイド溝538が形成された出力板530と、単位長Uあたり5(M+N)本の平棒状のスライダー540とで減速機500が構成される。そのため、減速機500の厚みを薄くすることができる。さらに、第5実施形態によっても、遊星歯車等を構成する軸受等を省略し、また、減速のために遊星歯車等を入れ子構造とする必要がないため、減速機500の構成をより簡単なものとすることができる。
【0118】
なお、第5実施形態では、第1実施形態のように、単位長Uあたりのスライダー540の本数を、ラック歯車510,520の単位長Uあたりの歯数M,Nの和(M+N)としているが、第2実施形態のように、単位長Uあたりのスライダー540の本数を歯数M,Nの差(M-N)としてもよい。この場合、減速機は、上記式(12)で算出される減速比Zで、直動動力を減速することができる。
【0119】
さらに、ラック歯車510,520の形状を規定する形状規定曲線は、シニュソイド曲線のほか、三角波曲線等の任意のシニュソイド誘導曲線やその近似曲線(シニュソイド系曲線)とすることも可能である。なお、このような形状規定曲線は、シニュソイド系曲線をX方向に延ばした曲線とも捉えることが可能であるため、X方向(動作方向)に延びるシニュソイド系曲線と呼ぶことも可能である。そして、対向する2つのラック歯車は、それぞれの形状が同種のシニュソイド系曲線とすれば良い。
【0120】
F.変形例:
本発明は上記実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0121】
F1.変形例1:
上記各実施形態では、一周あるいは単位長区間Uについて、配置されるスライダー140,240,440,540の本数を、内歯車118,318,418あるいはラック歯車510の歯数Mと、外歯車120,320,420あるいはラック歯車520の歯数Nとの和(M+N)あるいは差(M-N)としているが、配置されるスライダーの本数は、2以上、かつ、(M+N)あるいは(M-N)以下であり、(M+N)と(M-N)の公約数以外であればよい。この場合、出力板に形成されるガイド溝の数を、スライダーの本数に合わせて変更することも可能である。
【0122】
但し、スライダー140,240,440,540は、入力板120,320,420,520に入力された動力を出力板130,230,530に伝達する機能を有している。そのため、動力の伝達をより確実にするためには、一周あるいは単位長区間Uに配置されるスライダー140,240,440,540の本数は、(M+N)本あるいは(M-N)本とするのが好ましい。
【0123】
F2.変形例2:
上記各実施形態では、スライダー140,240,440,540の出力板130,230,530に対する動作方向への移動を規制するため、出力板130,230,530にガイド溝138,238,538を形成し、当該ガイド溝138,238,538にスライダー140,240,440,540を嵌め込んでいるが、他の方法により、スライダーの出力板に対する動作方向への移動を規制することも可能である。例えば、平棒状のスライダーに突起を設け、当該突起を収容してスライダーの移動が規制されるように、動作方向と直交する方向(すなわち、2つの歯車の対向方向)に伸びるガイド穴を出力板に形成するようにしても良い。
【0124】
F3.変形例3:
上記各実施形態では、スライダー140,240,440,540の形状を略平棒状としているが、スライダーの形状は、種々変更することができる。例えば、スライダーを、Z方向から見て両端を二等辺三角形状にした三角棒状や台形棒状としても良く、両端を円錐状にした丸棒状としても良い。但し、スライダーを丸棒状とした場合、歯車とスライダーの先端部とが点接触するため、減速機における動力の伝達効率が低下する虞がある。そのため、スライダーは、その先端部が歯車と線接触するような形状とするのが好ましい。なお、スライダーの形状を種々変更した場合、出力板に形成されるガイド溝は、Z方向の断面形状がスライダーの形状に合わせて適宜変更される。但し、減速機における動力の伝達効率の低下を抑制するとともに、出力板に形成されるガイド溝や、スライダーの形状をより簡単な形状にすることができる点で、ガイド溝およびスライダーは、上記各実施形態のような形状にするのが好ましい。
【符号の説明】
【0125】
100,200,300,400,500…減速機
110,310,410,510…ステーター
118,318,418…凹部
120,320,420,520…入力板
130,230,530…出力板
138,238,538…ガイド溝
139,239…貫通穴
140,240,440,540…スライダー
141,241,441,541…中央部
142,242,442…内端部
143,243,443…外端部
511,521…歯形
542,543…端部
C…中心軸
LP1a,LP1b,LP2…直線部