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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/12 20060101AFI20221125BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20221125BHJP
   C08L 25/10 20060101ALI20221125BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20221125BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20221125BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
C08L71/12
C08L25/04
C08L25/10
C08K3/013
C08K3/26
C08K9/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022130096
(22)【出願日】2022-08-17
【審査請求日】2022-08-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311018921
【氏名又は名称】株式会社TBM
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】土肥 彰人
(72)【発明者】
【氏名】山下 優香
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-131977(JP,A)
【文献】特開2003-034760(JP,A)
【文献】国際公開第2020/235006(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 71/12
C08L 25/04
C08L 25/10
C08K 3/013
C08K 3/26
C08K 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物が、熱可塑性樹脂と、無機物質粉末と、水添スチレン系熱可塑性エラストマーと、を含み、
前記熱可塑性樹脂と、前記無機物質粉末との質量比が、10:90~50:50であり、
前記熱可塑性樹脂が、変性ポリフェニレンエーテルからなり、
前記樹脂組成物が、前記変性ポリフェニレンエーテル以外の熱可塑性樹脂を含まず、
前記変性ポリフェニレンエーテルが、ポリフェニレンエーテル、及びポリスチレン系樹脂を含むポリマーアロイであり、
前記水添スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量が、前記樹脂組成物に対して、5.0質量%以上20.0質量%以下である、
樹脂組成物。
【請求項2】
前記水添スチレン系熱可塑性エラストマーが、重量平均分子量10000以上100000以下、かつ、スチレン単位含有率が30.0質量%以上80.0質量%以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機物質粉末が、重質炭酸カルシウム粉末である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記重質炭酸カルシウム粉末が、表面処理剤で処理された重質炭酸カルシウム粉末であり、
前記表面処理剤が、スルホン酸を含む表面処理剤、スルホン酸塩を含む表面処理剤、及びリン酸エステルを含有する表面処理剤からなる群から選択される1以上である、
請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記重質炭酸カルシウム粉末のJIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径が、0.7μm以上6.0μm以下である、請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1からの何れか1項に記載の樹脂組成物からなる、成形品。
【請求項7】
前記成形品が、押出成形品、又は射出成形品である、請求項に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製品の製造に際して、環境負荷を低減する観点から、無機物質粉末(例えば、炭酸カルシウム粉末等)を配合することが知られている。
【0003】
しかし、無機物質粉末は、樹脂製品の耐衝撃性を損ない得る。かかる課題を解決する観点から、例えば、特許文献1には、無機物質粉末を多量充填したプロピレン樹脂組成物において、特定のエラストマー成分を低密度ポリエチレンと共に配合することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6892185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、変性ポリフェニレンエーテルは、良好な耐衝撃性を有する熱可塑性樹脂として知られている。
しかし、本発明者らは、変性ポリフェニレンエーテルと共に無機物質粉末を配合すると、得られる製品の剛性を高められるものの、耐衝撃性が顕著に損なわれることを見出した。
【0006】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、変性ポリフェニレンエーテル及び無機物質粉末を含み、かつ、良好な耐衝撃性及び高い剛性を備えた成形品を得るための技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、変性ポリフェニレンエーテル及び無機物質粉末に加えて、所定量の水添スチレン系熱可塑性エラストマーを配合することで上記課題を解決出来る点を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0008】
(1) 樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物が、熱可塑性樹脂と、無機物質粉末と、水添スチレン系熱可塑性エラストマーと、を含み、
前記熱可塑性樹脂と、前記無機物質粉末との質量比が、10:90~50:50であり、
前記熱可塑性樹脂が、変性ポリフェニレンエーテルからなり、
前記水添スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量が、前記樹脂組成物に対して、5.0質量%以上20.0質量%以下である、
樹脂組成物。
【0009】
(2) 前記変性ポリフェニレンエーテルが、ポリフェニレンエーテル、及びポリスチレン系樹脂を含むポリマーアロイである、(1)に記載の樹脂組成物。
【0010】
(3) 前記水添スチレン系熱可塑性エラストマーが、重量平均分子量10000以上100000以下、かつ、スチレン単位含有率が30.0質量%以上80.0質量%以下である、(1)に記載の樹脂組成物。
【0011】
(4) 前記無機物質粉末が、重質炭酸カルシウム粉末である、(1)に記載の樹脂組成物。
【0012】
(5) 前記重質炭酸カルシウム粉末が、表面処理剤で処理された重質炭酸カルシウム粉末であり、
前記表面処理剤が、スルホン酸を含む表面処理剤、スルホン酸塩を含む表面処理剤、及びリン酸エステルを含有する表面処理剤からなる群から選択される1以上である、
(4)に記載の樹脂組成物。
【0013】
(6) 前記重質炭酸カルシウム粉末のJIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径が、0.7μm以上6.0μm以下である、(4)に記載の樹脂組成物。
【0014】
(7) (1)から(6)の何れか1項に記載の樹脂組成物からなる、成形品。
【0015】
(8) 前記成形品が、押出成形品、又は射出成形品である、(7)に記載の成形品。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、変性ポリフェニレンエーテル及び無機物質粉末を含み、かつ、良好な耐衝撃性及び高い剛性を備えた成形品を得るための技術が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0018】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、以下の要件を全て満たす。
・ 樹脂組成物が、熱可塑性樹脂と、無機物質粉末と、水添スチレン系熱可塑性エラストマーと、を含む。
・ 熱可塑性樹脂と、無機物質粉末との質量比が、10:90~50:50である。
・ 熱可塑性樹脂が、変性ポリフェニレンエーテルからなる。
・ 水添スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量が、樹脂組成物に対して、5.0質量%以上20.0質量%以下である。
【0019】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂、及び無機物質粉末を含む樹脂組成物において、所定量の変性ポリフェニレンエーテルが配合される点に主要な技術的特徴がある。
上記構成を備える樹脂組成物によれば、変性ポリフェニレンエーテルの耐衝撃性を損なわずに、高い剛性を備える成形品を作製出来る。
【0020】
水添スチレン系熱可塑性エラストマーは、変性ポリフェニレンエーテル等の樹脂の耐衝撃性改質剤として知られる。
しかし、水添スチレン系熱可塑性エラストマーが、変性ポリフェニレンエーテル含有成形品において、耐衝撃性の低下を抑制しつつ、無機物質粉末の配合によって奏される剛性の向上を阻害しないという効果は意外な知見である。
その理由は定かではないが、水添スチレン系熱可塑性エラストマーの添加により無機物質粉末の分散性が良好になったことによるものと推察される。
【0021】
本発明において「耐衝撃性」とは、樹脂組成物から得られる成形品のシャルピー衝撃強度の高さを包含する。
【0022】
樹脂組成物から得られる成形品の耐衝撃性は、実施例に示した方法で評価し得る。
【0023】
本発明において「剛性」とは、外部からの曲げの力に対する、成形品の寸法変化の生じ難さを包含する。
【0024】
樹脂組成物から得られる成形品の剛性は、実施例に示した方法で評価し得る。
【0025】
以下、本発明の樹脂組成物の詳細について説明する。
【0026】
なお、以下、本発明において、「Aは成分aからなる」とは、「A」が、「成分a」以外の成分を実質的に含まないこと、好ましくは「成分a」以外の成分を全く含まないことを包含する。
本発明において、「Aが、成分a以外の成分を実質的に含まない」とは、「A」中の「成分a」以外の成分の含有量が、好ましくは0.1質量%以下であること、より好ましくは0.05質量%以下であることを包含する。
【0027】
(1)熱可塑性樹脂
本発明における熱可塑性樹脂は、変性ポリフェニレンエーテル(以下、「変性PPE」ともいう。)からなる。変性PPEは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0028】
「変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)」とは、ポリフェニレンエーテル(PPE)系樹脂と、PPE以外の樹脂とのポリマーアロイである、
変性PPEは、ポリフェニレンエーテル系樹脂が島に配され、その他の樹脂(ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等)が海に配された、海-島構造を有する。
変性PPEは、通常、良好な耐衝撃性を有するものの、剛性が低く、変形し易い樹脂である。
【0029】
本発明における変性PPEは、特に限定されず、従来知られる任意のものが包含される。
ただし、本発明の効果が奏され易いという観点から、変性PPEとしては、ポリフェニレンエーテル、及びポリスチレン系樹脂を含むポリマーアロイが好ましい。
【0030】
変性PPEを構成するポリフェニレンエーテル系樹脂としては、特に限定されないが、ホモ重合体、及び共重合体の何れか、又は両方であっても良い。
【0031】
ホモ重合体であるポリフェニレンエーテル系樹脂としては、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-フェニル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレンエーテル)等が挙げられる。
【0032】
共重合体であるポリフェニレンエーテル系樹脂としては、2,6-ジメチルフェノールと、他のフェノール類との共重合体(2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールとの共重合体、2,6-ジメチルフェノールと2-メチル-6-ブチルフェノールとの共重合体等)等が挙げられる。
【0033】
変性PPEを構成するポリスチレン系樹脂としては、特に限定されないが、スチレン含有量が50重量%以上である樹脂等が挙げられる。
このような樹脂として、スチレンからなる重合体、アタクチックポリスチレン、及びスチレン-アクリロニトリル共重合体、並びにこれらのゴム補強物等が挙げられる。
【0034】
変性PPEとしては市販品を使用することも出来る。このような例として、「ザイロン(登録商標)200H」(旭化成株式会社製)、「ユピエース(登録商標)LN40」(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製)、「ノリル(商標)N190HF」(SABIC製)等が挙げられる。これらの樹脂は、ポリフェニレンエーテル、及びポリスチレン系樹脂を含むポリマーアロイに相当する。
【0035】
熱可塑性樹脂の含有量は、成形性等の観点から適宜設定出来る。
【0036】
熱可塑性樹脂の含有量の上限は、樹脂組成物に対して、好ましくは48質量%以下、より好ましくは43質量%以下である。
熱可塑性樹脂の含有量の下限は、樹脂組成物に対して、好ましくは8質量%以上、より好ましくは13質量%以上である。
【0037】
(2)無機物質粉末
無機物質粉末としては、特に限定されず、通常の樹脂製品等に含まれるものを採用出来る。無機物質粉末は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0038】
(2-1)無機物質粉末の種類
無機物質粉末としては、例えば、以下のものが挙げられる。
金属(カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等)の炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩、又はホウ酸塩;
金属(カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等)の酸化物;
上記塩又は酸化物の水和物等。
【0039】
無機物質粉末としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、カーボンブラック、ゼオライト、モリブデン、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、黒鉛等が挙げられる。
【0040】
無機物質粉末は合成のものであっても良く、天然鉱物由来のものであっても良い。
【0041】
無機物質粉末の形状は、特に限定されず、粒子状(球形、不定形状等)、フレーク状、顆粒状、繊維状等の何れであっても良い。
【0042】
(2-2)好ましい無機物質粉末
無機物質粉末としては、炭酸カルシウム粉末が好ましい。
通常、樹脂組成物に対して炭酸カルシウム粉末の配合量を高めると、樹脂組成物から得られる成形品の剛性を高め易くなる。他方で、変性ポリフェニレンエーテルを含む樹脂組成物において炭酸カルシウム粉末の配合量を高めると、成形品の耐衝撃性が顕著に劣り易くなる。
しかし、本発明によれば、炭酸カルシウム粉末の配合量が高くとも、所定量の水添スチレン系熱可塑性エラストマーを配合することで、耐衝撃性の低下を抑制し、良好な剛性を備える変性ポリフェニレンエーテル含有成形品が得られる。
【0043】
炭酸カルシウム粉末としては、重質炭酸カルシウム粉末、及び軽質炭酸カルシウム粉末の何れでも良い。
【0044】
「重質炭酸カルシウム」とは、炭酸カルシウム(CaCO)を主成分とする天然原料(石灰石等)を機械的に粉砕(乾式法、湿式法等)して得られる炭酸カルシウムである。
「軽質炭酸カルシウム」とは、合成法(化学的沈殿反応等)により調製された炭酸カルシウムである。
したがって、重質炭酸カルシウム、及び軽質炭酸カルシウムは互いに明確に区別される。
【0045】
熱可塑性樹脂に対してより多くの接触界面を有し、本発明の効果が奏され易いという観点から、無機物質粉末は重質炭酸カルシウム粉末を含むことが好ましく、無機物質粉末が重質炭酸カルシウム粉末からなることがより好ましい。
【0046】
無機物質粉末における、JIS M-8511に準じた空気透過法に基づく平均粒子径は、分散性を高め易いという観点から、好ましくは0.7μm以上6.0μm以下、より好ましくは1.0μm以上5.0μm以下である。
【0047】
本発明において「平均粒子径」とは、JIS M-8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した値を意味する。測定機器としては、例えば、島津製作所社製の比表面積測定装置「SS-100型」を好ましく用いることが出来る。
【0048】
(2-3)無機物質粉末の表面処理
無機物質粉末は表面処理剤で処理されていても良く、処理されていなくても良い。
好ましい表面処理剤としては、無機物質粉末の分散性等を高める観点から、スルホン酸を含む表面処理剤、スルホン酸塩を含む表面処理剤、及びリン酸エステルを含有する表面処理剤からなる群から選択される1以上等が挙げられる。
表面処理剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0049】
本発明において、「スルホン酸を含む表面処理剤」とは、スルホン酸基を有する有機物を含む表面処理剤を包含する。
本発明において、「スルホン酸塩を含む表面処理剤」とは、スルホン酸基を有する有機物の塩を含む表面処理剤を包含する。
【0050】
スルホン酸基を有する有機物としては、
アルキルスルホン酸(メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパン-1-スルホン酸、プロパン-2-スルホン酸、n-ブタン-1-スルホン酸、n-ブタン-2-スルホン酸、t-ブタン-2-スルホン酸、2-メチル-プロパン-1-スルホン酸、n-オクタン-1-スルホン酸、n-オクタン-2-スルホン酸、n-ドデカン-1-スルホン酸、ペンタデカンスルホン酸、ヘキサデカンスルホン酸、オクタデカンスルホン酸、ジアルキルスルホサクシネート、パーフロロブタンスルホン酸やパーフロロオクタンスルホン酸等);
アリールスルホン酸やアルキルアリールスルホン酸(ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、各種キシレンスルホン酸、クメンスルホン酸、その他アルキルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸等);
アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、ラウレス硫酸、ポリオキシエチレンアルキルフェノールスルホン酸等、
が挙げられる。
【0051】
スルホン酸塩としては、アルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等の塩)、アンモニウム塩が挙げられる。
【0052】
本発明において、「リン酸エステルを含む表面処理剤」とは、リン酸ベースのエステルを含有する表面処理剤を包含する。
【0053】
リン酸ベースのエステルとしては、
リン酸とアルコールとのモノエステル、ジエステル、トリエステル;
リン酸とフェノールとのモノエステル、ジエステル、トリエステル;
リン酸とアルキルフェノールとのモノエステル、ジエステル、トリエステル;
リン酸とアルコールとアルキレンオキシドとのモノエステル、ジエステル、トリエステル、
リン原子にアルキルオキシ基とアルキルオキシアルキレンオキシ基とヒドロキシ基とが結合した構造のリン酸エステル;
カルボキシ基やカルボニル基を有する構造を有するリン酸エステル;
上記の塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)、
が挙げられる。
【0054】
リン酸エステル中の脂肪族炭化水素基は特に限定されないが、飽和若しくは不飽和の、直鎖状、分岐状、又は環状の脂肪族炭化水素基であり得る。
脂肪族炭化水素基は、ヒドロキシ基やアルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等で置換されていても良い。
【0055】
無機物質粉末の表面処理方法としては特に限定されない。
例えば、無機物質粉末のスラリーに表面処理剤を加えて撹拌する方法(湿式法)、粉砕機やミキサー中に無機物質粉末と表面処理剤とを入れ、必要に応じて加熱しながら撹拌する方法(乾式法)、無機物質粉末の含水ケーキと表面処理剤とを、ミキサー中で加熱しながら撹拌する方法等が挙げられる。
【0056】
(2-4)無機物質粉末の含有量
無機物質粉末の含有量は、成形性や分散性等の観点から適宜設定出来る。
【0057】
無機物質粉末の含有量の上限は、樹脂組成物に対して、好ましくは86質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
無機物質粉末の含有量の下限は、樹脂組成物に対して、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。
【0058】
(3)水添スチレン系熱可塑性エラストマー
本発明の樹脂組成物においては、水添スチレン系熱可塑性エラストマーが、樹脂組成物に対して、5.0質量%以上20.0質量%以下配合される。水添スチレン系熱可塑性エラストマーは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0059】
上述の通り、変性ポリフェニレンエーテル及び無機物質粉末を含む成形品は、剛性が高まるものの、耐衝撃性が損なわれ得る。
しかし、本発明者らの検討の結果、上記量で水添スチレン系熱可塑性エラストマーを更に配合すると、耐衝撃性と、高い剛性とを両立出来ることを見出した。
【0060】
水添スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量の上限は、樹脂組成物に対して、20.0質量%以下、好ましくは18.0質量%以下、より好ましくは16.0質量%以下である。
【0061】
水添スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量の下限は、樹脂組成物に対して、5.0質量%以上、好ましくは6.0質量%以上、より好ましくは7.0質量%以上である。
【0062】
「水添スチレン系熱可塑性エラストマー」とは、スチレン系熱可塑性エラストマーに対して水素添加したものである。
「スチレン系熱可塑性エラストマー」は、ハードセグメント(ポリスチレン)と、ソフトセグメント(ブタジエン、イソプレン等)と、からなる。
【0063】
本発明における水添スチレン系熱可塑性エラストマーは、特に限定されず、従来知られる任意のものが包含される。
水添スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、水添スチレン-ブタジエン共重合樹脂、水添スチレン-イソプレン共重合樹脂等が挙げられる。
【0064】
本発明の効果が奏され易いという観点から、水添スチレン系熱可塑性エラストマーの重量平均分子量は、好ましくは10000以上100000以下、より好ましくは15000以上95000以下、更に好ましくは20000以上90000以下である。
【0065】
本発明の効果が奏され易いという観点から、水添スチレン系熱可塑性エラストマーのスチレン単位含有率は、好ましくは30.0質量%以上80.0質量%以下、より好ましくは45.0質量%以上80.0質量%以下、更に好ましくは60.0質量%以上80.0質量%以下である。
【0066】
水添スチレン系熱可塑性エラストマーとしては市販品を使用することも出来る。このような例として、「タフテック(登録商標)H1043」(旭化成株式会社製)、「タフテック(登録商標)H1517」(旭化成株式会社製)、「セプトン(登録商標)2002」(株式会社クラレ製)等が挙げられる。
これらのうち、本発明の効果が特に奏され易いという観点から、「タフテック(登録商標)H1043」が好ましい。「タフテック(登録商標)H1043」は、重量平均分子量10000以上100000以下、かつ、スチレン単位含有率が30.0質量%以上80.0質量%以下である水添スチレン系熱可塑性エラストマー(スチレンとブタジエンとからなるブロック共重合体の二重結合部分を水素添加したポリマー)に相当する。
【0067】
(4)その他の成分
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記の成分に加えて、その他の成分を配合しても良く、配合しなくても良い。
その他の成分としては、例えば、樹脂(変性ポリフェニレンエーテル以外の熱可塑性樹脂等)、可塑剤、滑剤、色剤、カップリング剤、流動性改良材(流動性調整剤)、架橋剤、分散剤、紫外線吸収剤、難燃剤、発泡剤、帯電防止剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0068】
ただし、本発明の好ましい態様は、樹脂組成物が、熱可塑性樹脂、無機物質粉末、及び水添スチレン系熱可塑性エラストマーからなる態様を包含する。
【0069】
(5)各成分の配合比
本発明の樹脂組成物において、熱可塑性樹脂と、無機物質粉末との質量比(熱可塑性樹脂:無機物質粉末)は、10:90~50:50、好ましくは15:85~50:50、より好ましくは20:80~50:50である。
本発明においては、このように無機物質粉末の配合比が高い樹脂組成物においても、高い剛性及び良好な耐衝撃性を両立出来る。
【0070】
本発明において、熱可塑性樹脂と、水添スチレン系熱可塑性エラストマーとの質量比(熱可塑性樹脂:水添スチレン系熱可塑性エラストマー)は、好ましくは1:2~10:1である。
【0071】
本発明において、無機物質粉末と、水添スチレン系熱可塑性エラストマーとの質量比(無機物質粉末:水添スチレン系熱可塑性エラストマー)は、好ましくは3:1~18:1である。
【0072】
(6)樹脂組成物の形態等
本発明の樹脂組成物の形態等は、得ようとする成形品の種類等に応じて、任意の形態等であり得る。
【0073】
樹脂組成物の形態としては特に限定されないが、例えば、ペレット等が挙げられる。
【0074】
ペレットの形状としては特に限定されないが、例えば、円柱、球形、楕円球状等が挙げられる。
【0075】
ペレットのサイズは特に限定されない。例えば、球形ペレットの場合、直径1mm以上10mm以下であり得る。楕円球状のペレットの場合、縦横比0.1以上1.0以下、縦横の長さ1mm以上10mm以下であり得る。円柱ペレットの場合、直径1mm以上10mm以下、長さ1mm以上10mm以下であり得る。
【0076】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、樹脂組成物の形態や用途等に応じて、従来知られる方法や条件を採用出来る。
【0077】
本発明の樹脂組成物は、例えば、構成成分を、混合、溶融混練等することで得られる。
【0078】
本発明の樹脂組成物を製造するための機械は、樹脂組成物の形態や用途等に応じて選択出来、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、混練機(二軸混練機等)が挙げられる。
【0079】
<成形品>
本発明の成形品は、本発明の樹脂組成物からなり、任意の成形方法によって本発明の樹脂組成物を成形することで得られる。
【0080】
本発明の成形品は、用途等に応じた任意の形状であり得る。
本発明の成形品は、例えば、フィルム、シート、容器体(食品容器等)、日用品(各種使い捨て製品等)、自動車用部品、電気電子部品、各種消耗品(建築部材等の分野におけるもの等)等であり得る。
【0081】
本発明の成形品の製造方法は、得ようとする成形品に応じて適宜選択出来る。
本発明の成形品の製造方法としては、例えば、押出成形法、射出成形法、インフレーション成形法、発泡射出成形法、射出圧縮成形法、ブロー成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、真空成形法等が挙げられる。
【0082】
本発明の樹脂組成物は、特に、押出成形法、又は射出成形法に適する。したがって、本発明の成形品は、好ましくは押出成形品、又は射出成形品である。
【0083】
押出成形品としては、シート、フィルム、中空品が挙げられる。
【0084】
射出成形品としては、容器体、日用品(各種使い捨て製品等)、自動車用部品、電気電子部品、各種消耗品(建築部材等の分野におけるもの等)が挙げられる。
【実施例
【0085】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0086】
<樹脂組成物の作製>
以下の方法で樹脂組成物を作製した。
【0087】
(1)材料の準備
以下の材料を準備した。
なお、以下、「平均粒径」とは、島津製作所社製の比表面積測定装置「SS-100型」を用い、JIS M-8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した値である。
【0088】
(熱可塑性樹脂)
変性ポリフェニレンエーテル(「ザイロン(登録商標)200H」、旭化成株式会社製)
なお、この樹脂は、ポリフェニレンエーテル、及びポリスチレン系樹脂を含むポリマーアロイに相当する。
【0089】
(無機物質粉末)
CC-1:重質炭酸カルシウム粉末(平均粒径:2.2μm、表面処理なし)
CC-2:重質炭酸カルシウム粉末(平均粒径:7.2μm、表面処理なし)
CC-3:重質炭酸カルシウム粉末(スルホン酸による表面処理あり、平均粒子径:1.1μm)
CC-4:軽質炭酸カルシウム粉末(平均粒径:1.5μm、表面処理なし)
【0090】
(水添スチレン系熱可塑性エラストマー)
SEBS-1:「タフテック(登録商標)H1043」(旭化成株式会社製、重量平均分子量:3.9万、スチレン単位含有率:67質量%)
SEBS-2:「タフテック(登録商標)H1517」(旭化成株式会社製、重量平均分子量:7.6万、スチレン単位含有率:43質量%)
【0091】
(2)樹脂組成物の作製
表中の「樹脂組成物の組成」に示す割合で、各材料を、同方向回転二軸混錬押出機「HK-25D」(φ25mm、L/D=41、(株)パーカーコーポレーション製)に投入し、シリンダー温度220~230℃でストランド押出後、冷却、カットすることでペレットを作製した。本例において、該ペレットが、本発明の樹脂組成物に相当する。
【0092】
(3)押出成形品の作製
得られたペレットを二軸混練押出機に投入し、220℃で溶融混練後、Tダイにてシート状(厚さ1.2mm)に成形し、押出成形品を得た。
【0093】
(4)評価
得られた押出成形品を以下の評価に供した。その結果を、表中の「評価」に示す。
【0094】
(4-1)耐衝撃性の評価
以下の方法で、押出成形品の耐衝撃性を評価した。
【0095】
[耐衝撃性の評価方法]
各押出成形品のシャルピー衝撃強度を、ISO179/1eAに従い測定した。本例において、シャルピー衝撃強度が高いほど、耐衝撃性が良好であることを意味する。
【0096】
[耐衝撃性の評価基準]
A:シャルピー衝撃強度が8kJ/m以上だった。
B:シャルピー衝撃強度が8kJ/m以上5kJ/m未満だった。
C:シャルピー衝撃強度が5kJ/m以上2kJ/m未満だった。
D:シャルピー衝撃強度が2kJ/m未満だった。
【0097】
(4-2)剛性の評価
以下の方法で、押出成形品の剛性を評価した。
【0098】
[剛性の評価方法]
各押出成形品の曲げ強さを、JISK7171に従い測定した。本例において、曲げ強さが高いほど、剛性が高いことを意味する。
【0099】
[剛性の評価基準]
A:剛性が2500MPa以上だった。
B:剛性が2000MPa以上2500MPa未満だった。
C:剛性が1500MPa以上2000MPa未満だった。
D:剛性が1500MPa未満だった。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
【表3】
【0103】
各表の通り、本発明の要件を満たす樹脂組成物から得られた成形品は、良好な耐衝撃性及び高い剛性を備えていた。
【0104】
無機物質粉末として、重質炭酸カルシウム粉末を用いた場合、更には、重質炭酸カルシウム粉末の平均粒子径が0.7μm以上6.0μm以下である場合、重質炭酸カルシウム粉末が表面処理されている場合に、上記傾向が得られ易かった。
【0105】
水添スチレン系熱可塑性エラストマーとして、重量平均分子量10000以上100000以下、かつ、スチレン単位含有率が30.0質量%以上80.0質量%以下であるものを用いた場合、上記傾向が得られ易かった。
【0106】
これに対し、本発明の要件を満たしていない場合、得られた成形品は、耐衝撃性及び/又は剛性が劣り易かった。
【0107】
なお、データは示していないが、重質炭酸カルシウムの表面処理剤として、スルホン酸塩を含む表面処理剤や、リン酸エステルを含有する表面処理剤を用いた場合、及び、成形品が射出成形品である場合も、上記同様の傾向が得られた。
【要約】
【課題】本発明の課題は、変性ポリフェニレンエーテル及び無機物質粉末を含み、かつ、良好な耐衝撃性及び高い剛性を備えた成形品を得るための技術の提供である。
【解決手段】本発明は、樹脂組成物であって、前記樹脂組成物が、熱可塑性樹脂と、無機物質粉末と、水添スチレン系熱可塑性エラストマーと、を含み、前記熱可塑性樹脂と、前記無機物質粉末との質量比が、10:90~50:50であり、前記熱可塑性樹脂が、変性ポリフェニレンエーテルからなり、前記水添スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量が、前記樹脂組成物に対して、5.0質量%以上20.0質量%以下である、樹脂組成物を提供する。
【選択図】なし