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特許7182344半導体光素子、半導体光素子形成用構造体及びこれを用いた半導体光素子の製造方法
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  • 特許-半導体光素子、半導体光素子形成用構造体及びこれを用いた半導体光素子の製造方法 図1
  • 特許-半導体光素子、半導体光素子形成用構造体及びこれを用いた半導体光素子の製造方法 図2
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  • 特許-半導体光素子、半導体光素子形成用構造体及びこれを用いた半導体光素子の製造方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】半導体光素子、半導体光素子形成用構造体及びこれを用いた半導体光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/343 20060101AFI20221125BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
H01S5/343
H01L21/205
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020505724
(86)(22)【出願日】2019-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2019006689
(87)【国際公開番号】W WO2019176498
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2018046082
(32)【優先日】2018-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(73)【特許権者】
【識別番号】507290733
【氏名又は名称】オプトエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129296
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 博昭
(72)【発明者】
【氏名】諸橋 倫大郎
(72)【発明者】
【氏名】能川 亮三郎
(72)【発明者】
【氏名】厚井 大明
(72)【発明者】
【氏名】山田 由美
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-175450(JP,A)
【文献】特開平10-256647(JP,A)
【文献】特開2006-229012(JP,A)
【文献】特開2011-151240(JP,A)
【文献】特開2006-128151(JP,A)
【文献】特開2007-317926(JP,A)
【文献】特開2010-258283(JP,A)
【文献】米国特許第05557627(US,A)
【文献】米国特許第07149236(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型半導体基板と、
前記第1導電型半導体基板上に設けられる積層体とを備え、
前記積層体において、
前記第1導電型半導体基板側から順次、第1導電型半導体層、活性層、第2導電型半導体層、及び、第2導電型コンタクト層が積層されている半導体光素子であって、
前記第2導電型半導体層が、
化合物半導体に炭素がドーパントとしてドープされている炭素ドープ第2導電型半導体層と、
化合物半導体(Pを含む化合物半導体を除く)に亜鉛がドーパントとしてドープされている2族元素ドープ第2導電型半導体層とを有し、
前記第2導電型コンタクト層が、前記積層体側に設けられる電極と接触される層であって前記電極が前記積層体のうち前記第2導電型コンタクト層にのみ接触される層であり、
前記炭素ドープ第2導電型半導体層が、前記2族元素ドープ第2導電型半導体層よりも前記活性層に近い位置に配置され、
前記2族元素ドープ第2導電型半導体層が、
ドーパントの濃度が5×1018~1.5×1019cm-3である層と、
ドーパントの濃度が5×1017cm-3以下である層とを有し、
前記ドーパントの濃度が5×1017cm-3以下である層が、前記ドーパントの濃度が5×1018~1.5×1019cm-3である層よりも活性層に近い位置に配置されている、
半導体光素子。
【請求項2】
前記第2導電型コンタクト層が、化合物半導体に炭素がドーパントとしてドープされている炭素ドープ第2導電型コンタクト層で構成されている、請求項1に記載の半導体光素子。
【請求項3】
前記第2導電型コンタクト層中の前記ドーパントの濃度が前記炭素ドープ第2導電型半導体層中の前記ドーパントの濃度よりも高い、請求項2に記載の半導体光素子。
【請求項4】
前記第2導電型半導体層の厚さに占める前記2族元素ドープ第2導電型半導体層の厚さの割合が50%より大きく100%未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載の半導体光素子。
【請求項5】
前記2族元素ドープ第2導電型半導体層中の前記ドーパントの最大濃度が、前記炭素ドープ第2導電型半導体層中の前記ドーパントの最大濃度よりも大きい、請求項1~4のいずれか一項に記載の半導体光素子。
【請求項6】
前記2族元素ドープ第2導電型半導体層が、前記ドーパントの濃度が前記活性層から離れるにつれて増加するグレーデッド層を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の半導体光素子。
【請求項7】
第1導電型半導体ウェハと、
前記第1導電型半導体ウェハ上に設けられる積層体とを備え、
前記積層体において、
前記第1導電型半導体ウェハ側から順次、第1導電型半導体層、活性層、第2導電型半導体層、及び、第2導電型コンタクト層が積層されている半導体光素子形成用構造体であって、
前記第2導電型半導体層が、
化合物半導体に炭素がドーパントとしてドープされている炭素ドープ第2導電型半導体層と、
化合物半導体(Pを含む化合物半導体を除く)に亜鉛がドーパントとしてドープされている2族元素ドープ第2導電型半導体層とを有し、
前記第2導電型コンタクト層が、前記積層体側に設けられる電極と接触される層であって前記電極が前記積層体のうち前記第2導電型コンタクト層にのみ接触される層であり、
前記炭素ドープ第2導電型半導体層が、前記2族元素ドープ第2導電型半導体層よりも前記活性層に近い位置に配置され、
前記2族元素ドープ第2導電型半導体層が、
ドーパントの濃度が5×1018~1.5×1019cm-3である層と、
ドーパントの濃度が5×1017cm-3以下である層とを有し、
前記ドーパントの濃度が5×1017cm-3以下である層が、前記ドーパントの濃度が5×1018~1.5×1019cm-3である層よりも活性層に近い位置に配置されている、
半導体光素子形成用構造体。
【請求項8】
前記第2導電型コンタクト層が、化合物半導体に炭素がドーパントとしてドープされている炭素ドープ第2導電型コンタクト層で構成されている、請求項7に記載の半導体光素子形成用構造体。
【請求項9】
前記第2導電型コンタクト層中の前記ドーパントの濃度が前記炭素ドープ第2導電型半導体層中の前記ドーパントの濃度よりも高い、請求項8に記載の半導体光素子形成用構造体。
【請求項10】
前記第2導電型半導体層の厚さに占める前記2族元素ドープ第2導電型半導体層の厚さの割合が50%より大きく100%未満である、請求項7~9のいずれか一項に記載の半導体光素子形成用構造体。
【請求項11】
前記2族元素ドープ第2導電型半導体層中の前記ドーパントの最大濃度が、前記炭素ドープ第2導電型半導体層中の前記ドーパントの最大濃度よりも大きい、請求項7~10のいずれか一項に記載の半導体光素子形成用構造体。
【請求項12】
前記2族元素ドープ第2導電型半導体層が、前記ドーパントの濃度が前記活性層から離れるにつれて増加するグレーデッド層を含む、請求項7~11のいずれか一項に記載の半導体光素子形成用構造体。
【請求項13】
請求項1に記載の半導体光素子を製造する半導体光素子の製造方法であって、
請求項7に記載の半導体光素子形成用構造体を準備する構造体準備工程と、
前記半導体光素子形成用構造体から前記半導体光素子を形成する半導体光素子形成工程とを含み、
前記構造体準備工程が、前記活性層上に前記第2導電型半導体層を形成する第2導電型半導体層形成工程と、
前記第2導電型半導体層上に前記第2導電型コンタクト層を形成する第2導電型コンタクト層形成工程とを含み、
前記第2導電型半導体層形成工程が、
前記活性層上に前記炭素ドープ第2導電型半導体層を形成する炭素ドープ第2導電型半導体層形成工程と、
前記炭素ドープ第2導電型半導体層上に前記2族元素ドープ第2導電型半導体層を形成することにより前記第2導電型半導体層を形成する2族元素ドープ第2導電型半導体層形成工程とを含む、半導体光素子の製造方法。
【請求項14】
前記第2導電型コンタクト層形成工程が、前記第2導電型半導体層上に、前記第2導電型コンタクト層として、化合物半導体に炭素がドーパントとしてドープされている炭素ドープ第2導電型コンタクト層を形成する工程を含む、請求項13に記載の半導体光素子の製造方法。
【請求項15】
前記第2導電型コンタクト層形成工程において、前記第2導電型コンタクト層中の前記ドーパントの濃度が前記炭素ドープ第2導電型半導体層中の前記ドーパントの濃度よりも高くなるように前記第2導電型コンタクト層を形成する、請求項14に記載の半導体光素子の製造方法。
【請求項16】
前記2族元素ドープ第2導電型半導体層形成工程において、前記ドーパントの濃度が前記活性層から離れるにつれて増加するグレーデッド層を含むように前記2族元素ドープ第2導電型半導体層を形成する、請求項13~15のいずれか一項に記載の半導体光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体光素子、半導体光素子形成用構造体及びこれを用いた半導体光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体光素子として、従来、例えば下記特許文献1に記載のレーザダイオードが知られている。下記特許文献1では、n型化合物半導体クラッド層とp型化合物半導体クラッド層との間に活性層を有するレーザダイオードにおいて、p型化合物半導体クラッド層のp型ドーパントとして炭素を用いることで、炭素が熱により隣接する層へ拡散することを防止し、しきい値電流密度を小さくして長寿命化を図ることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-4044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載のレーザダイオードは以下に示す課題を有していた。
【0005】
すなわち、上記特許文献1に記載のレーザダイオードでは、p型化合物半導体クラッド層(以下、「p型クラッド層」と呼ぶことがある)の結晶性が低下する場合があった。このため、上記特許文献1に記載のレーザダイオードは、発光特性の点で改善の余地を有していた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、発光特性を向上させることができる半導体光素子、半導体光素子形成用構造体及びこれを用いた半導体光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記特許文献1に記載のレーザダイオードが発光特性の点で改善の余地を有する理由は以下の通りであると考えられる。まず、有機金属気相成長法(MOCVD法)によってGaAs系半導体レーザを製造する場合、炭素ドープするための炭素原料にはCBr(臭化炭素)やCCl(臭化塩素)などのハロメタン原料が使用される。これらハロメタンは、GaAs系結晶に対してエッチング作用がある。このため、結晶成長中に欠陥が導入され、良好な結晶性を持つ半導体層の成長が難しくなることが知られている(P.D.Casa et al. Journal of Crystal Growth, Vol. 434, 116参照)。積層する半導体層の炭素ドーパント濃度が高いほど、ハロメタン原料の使用量が多くなるため、エッチング作用によるp型クラッド層の結晶性低下への影響は顕著となるものと考えられる。例えば、活性層の上に2μmを超えるようなp型クラッド層を積層する場合などでは、高結晶性の半導体層を成長させることが困難となるものと考えられる。その結果、このp型クラッド層が、発光効率低下や長期信頼性の低下など、発光特性に大きな悪影響を及ぼすものと考えられる。そこで、本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、p型クラッド層の結晶性が低下することと、レーザダイオードの表面に荒れが生じることとの間に相関関係があることに気付いた。さらに、本発明者らは、化合物半導体に炭素がドーパントとしてドープされているp型クラッド層の厚さが小さい場合にはレーザダイオードの表面に荒れが生じ難く、p型クラッド層の厚さが大きくなると、レーザダイオードの表面に荒れが生じ易いことに気付いた。さらにまた、本発明者らは、例えばp型クラッド層を、炭素がドープされている炭素ドープp型半導体層と、2族元素がドープされている2族元素ドープp型半導体層とを有するように構成し、必要なp型クラッド層の厚さを保持しつつ、炭素ドープp型半導体層の厚さを抑え、炭素ドープp型半導体層を、2族元素ドープp型半導体層よりも活性層に近い位置に配置するようにすることで、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、第1導電型半導体基板と、前記第1導電型半導体基板上に設けられる積層体とを備え、前記積層体において、前記第1導電型半導体基板側から順次、第1導電型半導体層、活性層、第2導電型半導体層、及び、第2導電型コンタクト層が積層されている半導体光素子であって、前記第2導電型半導体層が、化合物半導体に炭素がドーパントとしてドープされている炭素ドープ第2導電型半導体層と、化合物半導体に2族元素がドーパントとしてドープされている2族元素ドープ第2導電型半導体層とを有し、前記炭素ドープ第2導電型半導体層が、前記2族元素ドープ第2導電型半導体層よりも前記活性層に近い位置に配置されている、半導体光素子である。
【0009】
この半導体光素子では、第2導電型半導体層が、化合物半導体に炭素がドーパントとしてドープされている炭素ドープ第2導電型半導体層と、化合物半導体に2族元素がドーパントとしてドープされている2族元素ドープ第2導電型半導体層とを有し、炭素ドープ第2導電型半導体層が、2族元素ドープ第2導電型半導体層よりも活性層に近い位置に配置されている。このため、本発明の半導体光素子によれば、第2導電型半導体層が炭素ドープ第2導電型半導体層のみからなる場合に比べて、必要な第2導電型半導体層の厚さを保持しつつ炭素ドープ第2導電型半導体層の厚さを小さくすることができ、第2導電型半導体層の結晶性を向上させることができる。このため、本発明の半導体光素子は、発光特性を向上させることが可能となる。
【0010】
上記半導体光素子においては、前記第2導電型コンタクト層が、化合物半導体に炭素がドーパントとしてドープされている炭素ドープ第2導電型コンタクト層で構成されていることが好ましい。
【0011】
この場合、炭素ドープ第2導電型コンタクト層においてドーパントが炭素であり、炭素は、2族元素に比べて小さい拡散係数を有する。このため、炭素ドープ第2導電型コンタクト層においてドーパント濃度を高くしても活性層にドーパントが拡散することを十分に抑制することができる。従って、炭素は2族元素に比べて高濃度のドーピングが可能となり、炭素ドープ第2導電型コンタクト層の抵抗を低下させることができる。
【0012】
上記半導体光素子においては、前記第2導電型コンタクト層中の前記ドーパントの濃度が前記炭素ドープ第2導電型半導体層中の前記ドーパントの濃度よりも高いことが好ましい。
【0013】
この場合、炭素ドープ第2導電型半導体層中のドーパント濃度が、第2導電型コンタクト層中のドーパントの濃度よりも低くなっており、ドーパントが炭素となっている。このため、第2導電型コンタクト層中のドーパント濃度が炭素ドープ第2導電型半導体層中のドーパント濃度以下である場合に比べて、発光特性に与える影響がより小さい第2導電型コンタクト層よりも、発光特性に与える影響がより大きい炭素ドープ第2導電型半導体層においてより結晶性を向上させることができる。また、第2導電型コンタクト層における抵抗をより低下させることもできる。従って、半導体光素子における発光特性をより向上させることができる。
【0014】
上記半導体光素子においては、前記第2導電型半導体層の厚さに占める前記2族元素ドープ第2導電型半導体層の厚さの割合が50%より大きく100%未満であることが好ましい。
【0015】
この半導体光素子は、第2導電型半導体層の厚さに占める2族元素ドープ第2導電型半導体層の厚さの割合が50%以下である場合に比べて、第2導電型半導体層の結晶性をより向上させることができる。このため、本発明の半導体光素子は、発光特性をより向上させることが可能となる。
【0016】
上記半導体光素子においては、前記2族元素ドープ第2導電型半導体層中の前記ドーパントの最大濃度が、前記炭素ドープ第2導電型半導体層中の前記ドーパントの最大濃度よりも大きいことが好ましい。
【0017】
この半導体光素子は、2族元素ドープ第2導電型半導体層中のドーパントの最大濃度が、炭素ドープ第2導電型半導体層中のドーパントの最大濃度以下である場合に比べて、第2導電型半導体層の結晶性をより向上させつつ第2導電型半導体層の抵抗を低減することができる。このため、本発明の半導体光素子は、発光特性をより向上させることができる。
【0018】
上記半導体光素子においては、前記2族元素ドープ第2導電型半導体層が、前記ドーパントの濃度が、前記活性層から離れるにつれて増加するグレーデッド層を含むことが好ましい。
【0019】
この場合、2族元素ドープ第2導電型半導体層の抵抗値を低減しつつ、半導体光素子の使用時における活性層へのドーパントの拡散を抑制し、発光特性をより向上させることができる。
【0020】
また、本発明は、第1導電型半導体ウェハと、前記第1導電型半導体ウェハ上に設けられる積層体とを備え、前記積層体において、前記第1導電型半導体ウェハ側から順次、第1導電型半導体層、活性層、第2導電型半導体層、及び、第2導電型コンタクト層が積層されている半導体光素子形成用構造体であって、前記第2導電型半導体層が、化合物半導体に炭素がドーパントとしてドープされている炭素ドープ第2導電型半導体層と、化合物半導体に2族元素がドーパントとしてドープされている2族元素ドープ第2導電型半導体層とを有し、前記炭素ドープ第2導電型半導体層が、前記2族元素ドープ第2導電型半導体層よりも前記活性層に近い位置に配置されている、半導体光素子形成用構造体である。
【0021】
この半導体光素子形成用構造体では、第2導電型半導体層が、化合物半導体に炭素がドーパントとしてドープされている炭素ドープ第2導電型半導体層と、化合物半導体に2族元素がドーパントとしてドープされている2族元素ドープ第2導電型半導体層とを有し、炭素ドープ第2導電型半導体層が、2族元素ドープ第2導電型半導体層よりも活性層に近い位置に配置されている。このため、本発明の半導体光素子形成用構造体によれば、第2導電型半導体層が炭素ドープ第2導電型半導体層のみからなる場合に比べて、必要な第2導電型半導体層の厚さを保持しつつ炭素ドープ第2導電型半導体層の厚さを小さくすることができ、第2導電型半導体層の結晶性を向上させることができる。このため、本発明の半導体光素子形成用構造体によれば、発光特性を向上させることができる半導体光素子を形成することができる。
【0022】
上記半導体光素子形成用構造体においては、前記第2導電型コンタクト層が、化合物半導体に炭素がドーパントとしてドープされている炭素ドープ第2導電型コンタクト層で構成されていることが好ましい。
【0023】
この場合、炭素は2族元素に比べて小さい拡散係数を有する。このため、炭素ドープ第2導電型コンタクト層においてドーパント濃度を高くしても活性層にドーパントが拡散することを十分に抑制することができる。従って、炭素は2族元素に比べて高濃度のドーピングが可能となり、炭素ドープ第2導電型コンタクト層の抵抗を低下させることができる。
【0024】
上記半導体光素子形成用構造体においては、前記第2導電型コンタクト層中の前記ドーパントの濃度が前記炭素ドープ第2導電型半導体層中の前記ドーパントの濃度よりも高いことが好ましい。
【0025】
この場合、炭素ドープ第2導電型半導体層中のドーパントの濃度が、第2導電型コンタクト層中のドーパントの濃度よりも低くなっており、ドーパントが炭素となっている。このため、第2導電型コンタクト層中のドーパントの濃度が炭素ドープ第2導電型半導体層中のドーパントの濃度以下である場合に比べて、発光特性に与える影響がより小さい第2導電型コンタクト層よりも、発光特性に与える影響がより大きい炭素ドープ第2導電型半導体層においてより結晶性を向上させることができる。また、第2導電型コンタクト層における抵抗をより低下させることもできる。従って、発光特性をより向上させることができる半導体光素子を形成することができる。
【0026】
上記半導体光素子形成用構造体においては、前記第2導電型半導体層の厚さに占める前記2族元素ドープ第2導電型半導体層の厚さの割合が50%より大きく100%未満であることが好ましい。
【0027】
この半導体光素子形成用構造体は、第2導電型半導体層の厚さに占める2族元素ドープ第2導電型半導体層の厚さの割合が50%以下である場合に比べて、第2導電型半導体層の結晶性をより向上させることができる。このため、この半導体光素子形成用構造体によれば、発光特性をより向上させることができる半導体光素子を製造することが可能となる。
【0028】
上記半導体光素子形成用構造体においては、前記2族元素ドープ第2導電型半導体層中の前記ドーパントの最大濃度が、前記炭素ドープ第2導電型半導体層中の前記ドーパントの最大濃度よりも大きいことが好ましい。
【0029】
この半導体光素子形成用構造体によれば、2族元素ドープ第2導電型半導体層中のドーパントの最大濃度が、炭素ドープ第2導電型半導体層中のドーパントの最大濃度以下である場合に比べて、第2導電型半導体層の結晶性をより向上させつつ第2導電型半導体層の抵抗を低減することができる。このため、本発明の半導体光素子形成用構造体は、発光特性をより向上させることができる半導体光素子を製造することができる。
【0030】
上記半導体光素子形成用構造体においては、前記2族元素ドープ第2導電型半導体層が、前記ドーパントの濃度が前記活性層から離れるにつれて増加するグレーデッド層を含むことが好ましい。
【0031】
この場合、2族元素ドープ第2導電型半導体層の抵抗値を低減しつつ、使用時における活性層へのドーパントの拡散を抑制し、発光特性をより向上させることができる半導体光素子を製造することができる。
【0032】
また本発明は、上述した半導体光素子を製造する半導体光素子の製造方法であって、上述した半導体光素子形成用構造体を準備する構造体準備工程と、前記半導体光素子形成用構造体から前記半導体光素子を形成する半導体光素子形成工程とを含み、前記構造体準備工程が、前記活性層上に前記第2導電型半導体層を形成する第2導電型半導体層形成工程と、前記第2導電型半導体層上に前記第2導電型コンタクト層を形成する第2導電型コンタクト層形成工程とを含み、前記第2導電型半導体層形成工程が、前記活性層上に前記炭素ドープ第2導電型半導体層を形成する炭素ドープ第2導電型半導体層形成工程と、前記炭素ドープ第2導電型半導体層上に前記2族元素ドープ第2導電型半導体層を形成することにより前記第2導電型半導体層を形成する2族元素ドープ第2導電型半導体層形成工程とを含む、半導体光素子の製造方法である。
【0033】
この製造方法によれば、得られる半導体光素子において、第2導電型半導体層が、化合物半導体に炭素がドーパントとしてドープされている炭素ドープ第2導電型半導体層と、化合物半導体に2族元素がドーパントとしてドープされている2族元素ドープ第2導電型半導体層とを有し、炭素ドープ第2導電型半導体層が、2族元素ドープ第2導電型半導体層よりも活性層に近い位置に配置されることになる。このため、得られる半導体光素子において、第2導電型半導体層が炭素ドープ第2導電型半導体層のみからなる場合に比べて、必要な第2導電型半導体層の厚さを保持しつつ炭素ドープ第2導電型半導体層の厚さを小さくすることができ、第2導電型半導体層の結晶性を向上させることができる。このため、発光特性を向上させることが可能な半導体光素子を製造することが可能となる。
【0034】
また、炭素は2族元素よりも拡散係数が小さいため、炭素ドープ第2導電型半導体層を形成した後、2族元素ドープ第2導電型半導体層を形成しても、2族元素が、2族元素ドープ第2導電型半導体層を形成する時の熱によって炭素ドープ第2導電型半導体層を通って活性層に拡散することが十分に抑制される。また、上記製造方法では、第2導電型半導体層が、炭素ドープ第2導電型半導体層と、2族元素ドープ第2導電型半導体層とを含むため、第2導電型半導体層が、炭素ドープ第2導電型半導体層のみからなる場合に比べて、炭素ドープ第2導電型半導体層の厚さを抑えることができる。このため、炭素ドープ第2導電型半導体層を形成する際にハロゲン化炭素を使用する場合に、ハロゲン化炭素の使用量を少なくすることができる。このため、そのハロゲン化炭素によるエッチング作用によって、形成される炭素ドープ第2導電型半導体層において表面荒れや欠陥の導入が生じることが十分に抑制される。すなわち、炭素ドープ第2導電型半導体層を、高い結晶性を維持したまま活性層上に形成することができる。このため、上記製造方法によれば、発光特性の低下をより十分に抑制できる半導体光素子を得ることができる。
【0035】
上記半導体光素子の製造方法においては、前記第2導電型コンタクト層形成工程が、前記第2導電型半導体層上に、前記第2導電型コンタクト層として、化合物半導体に炭素がドーパントとしてドープされている炭素ドープ第2導電型コンタクト層を形成する工程を含むことが好ましい。
【0036】
この場合、炭素ドープ第2導電型コンタクト層においてドーパントが炭素であり、炭素は2族元素に比べて小さい拡散係数を有する。このため、炭素ドープ第2導電型コンタクト層においてドーパント濃度を高くしても活性層にドーパントが拡散することを十分に抑制することができる。従って、炭素は2族元素に比べて高濃度のドーピングが可能となり、炭素ドープ第2導電型コンタクト層の抵抗を低下させることができる。
【0037】
上記半導体光素子の製造方法においては、前記第2導電型コンタクト層形成工程において、前記第2導電型コンタクト層中の前記ドーパントの濃度が前記炭素ドープ第2導電型半導体層中の前記ドーパントの濃度よりも高くなるように前記第2導電型コンタクト層を形成することが好ましい。
【0038】
この場合、炭素ドープ第2導電型半導体層中のドーパントの濃度が、第2導電型コンタクト層中のドーパントの濃度よりも低くなり、ドーパントが炭素となる。このため、第2導電型コンタクト層中のドーパント濃度が炭素ドープ第2導電型半導体層中のドーパント濃度以下である場合に比べて、発光特性に与える影響がより小さい第2導電型コンタクト層よりも、発光特性に与える影響がより大きい炭素ドープ第2導電型半導体層においてより結晶性を向上させることができる。また、第2導電型コンタクト層における抵抗をより低下させることもできる。従って、発光特性をより向上させることができる半導体光素子を形成することができる。
【0039】
上記2族元素ドープ第2導電型半導体層形成工程においては、前記ドーパントの濃度が前記活性層から離れるにつれて増加するグレーデッド層を含むように前記2族元素ドープ第2導電型半導体層を形成することが好ましい。
【0040】
この場合、2族元素ドープ第2導電型半導体層の抵抗値を低減しつつ、2族元素ドープ第2導電型半導体層の形成時、および、使用時における活性層へのドーパントの拡散を抑制し、発光特性をより向上させることができる半導体光素子を製造することができる。
【0041】
なお、本発明において、「第1導電型」はn型又はp型であり、「第2導電型」は第1導電型と異なる導電型である。例えば第1導電型がn型である場合、第2導電型はp型である。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、発光特性を向上させることができる半導体光素子、半導体光素子形成用構造体及びこれを用いた半導体光素子の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明の半導体光素子の一実施形態を概略的に示す断面図である。
図2】本発明の半導体光素子形成用構造体の一実施形態を概略的に示す部分断面図である。
図3】実施例1の半導体光素子の積層構造を概略的に示す断面図である。
図4】実施例1の半導体光素子のp型コンタクト層表面を示す光学顕微鏡写真である。
図5】比較例1の半導体光素子のp型コンタクト層表面を示す光学顕微鏡写真である。
図6】実施例8の半導体光素子の積層構造を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
[半導体光素子]
以下、本発明の半導体光素子の実施形態について図1を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の半導体光素子の一実施形態を概略的に示す断面図である。
【0045】
図1に示すように、半導体光素子100は、第1導電型半導体基板としてのn型の半導体基板10と、n型の半導体基板10上に設けられる積層体20とを備えている。積層体20においては、n型の半導体基板10側から順次、第1導電型半導体層としてのn型の半導体層30、活性層40、第2導電型半導体層としてのp型の半導体層50、及び、第2導電型コンタクト層としてのp型のコンタクト層60が積層されている。なお、半導体光素子100としては、例えば半導体レーザ素子および発光ダイオードなどが挙げられる。また、半導体光素子100では、n型の半導体基板10及び積層体20のそれぞれに電極(図示せず)が設けられていてもよい。
【0046】
p型の半導体層50は、化合物半導体に炭素がドーパントとしてドープされている炭素ドープp型半導体層としての炭素ドープp型クラッド層51と、化合物半導体に2族元素がドーパントとしてドープされている2族元素ドープp型半導体層としての2族元素ドープp型クラッド層52とを有する。本実施形態では、炭素ドープp型クラッド層51が、2族元素ドープp型クラッド層52よりも活性層40に近い位置に配置されている。すなわち、炭素ドープp型クラッド層51は、活性層40と2族元素ドープp型クラッド層52との間に配置され、2族元素ドープp型クラッド層52は、炭素ドープp型クラッド層51とp型コンタクト層60との間に配置されている。
【0047】
この半導体光素子100では、p型の半導体層50が、化合物半導体に炭素がドーパントとしてドープされている炭素ドープp型クラッド層51と、化合物半導体に2族元素がドーパントとしてドープされている2族元素ドープp型クラッド層52とを有し、炭素ドープp型クラッド層51が、2族元素ドープp型クラッド層52よりも活性層40に近い位置に配置されている。このため、半導体光素子100によれば、p型の半導体層50が炭素ドープp型クラッド層51のみからなる場合に比べて、必要なp型半導体層50の厚さを保持しつつ炭素ドープp型クラッド層51の厚さを小さくすることができ、p型の半導体層50の結晶性を向上させることができる。このため、半導体光素子100は、発光特性を向上させることが可能となる。また、半導体光素子100によれば、p型半導体層50の結晶性を向上させることができるので、半導体光素子100の長期信頼性を向上させることも可能となる。
【0048】
以下、n型の半導体基板10及び積層体20について詳細に説明する。
【0049】
<n型の半導体基板>
n型の半導体基板10は、化合物半導体及びドーパントを含む。
【0050】
化合物半導体としては、例えばGaAs及びInPなどのIII-V族化合物半導体などが挙げられる。
【0051】
ドーパントとしては、例えばSi、Ge,Sn,S,Se及びTeなどの元素が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合せて用いることができる。
【0052】
n型の半導体基板10の厚さは特に制限されるものではないが、通常は250~450μmである。
【0053】
<積層体>
積層体20は、n型の半導体層30と、活性層40と、p型の半導体層50と、p型のコンタクト層60とを備えている。積層体20は化合物半導体を含む。化合物半導体としては、例えばGaAs、AlGaAs、InGaAs、InGaAlAs、InP、GaInP、AlInP、AlGaInP、及びInGaAsPなどが挙げられる。
【0054】
(n型の半導体層)
n型の半導体層30は、例えば活性層40側から順次、n型の導波層及びn型のクラッド層を有する。ここで、導波層は活性層40とともに光が伝搬する層であり、クラッド層は光が活性層40と導波層で伝搬するように閉じ込めるための層である。
【0055】
n型の半導体層30の厚さは特に制限されるものではないが、2~4μmであることが好ましい。
【0056】
n型の半導体層30は、化合物半導体及びドーパントを含む。化合物半導体は、n型の半導体基板10に含まれる化合物半導体と同一でも異なっていてもよい。ドーパントとしては、n型の半導体基板10中のドーパントと同様のものを用いることができる。
【0057】
n型の導波層及びn型のクラッド層は、ドーパント濃度が一定である層、ドーパント濃度がn型半導体層30から離れる方向に沿って変化するグレーデッド層、又は、これらの積層体で構成することができる。
【0058】
(活性層)
活性層40は、n型の半導体層30及びp型の半導体層50のバンドギャップよりも小さいバンドギャップを有し、電圧の印加により光を出射させる層である。
【0059】
活性層40は、例えば2つのバリア層の間に量子井戸層を含む積層体で構成される。
【0060】
量子井戸層は化合物半導体を含む。化合物半導体は、半導体光素子100から出射させる光の波長に応じて適宜選択される。化合物半導体としては、例えばInGaAs、GaAs,InGaAlAs、AlGaInP、及びInGaAsPなどが挙げられる。
【0061】
量子井戸層の両側にある2つのバリア層は、量子井戸層のバンドギャップより大きいバンドギャップを有する化合物半導体を含む層である。バリア層はドーパントをさらに含んでもよい。
【0062】
バリア層は、ドーパント濃度が一定である層、ドーパント濃度が量子井戸層から離れるにつれて変化するグレーデッド層、又はこれらの積層体で構成することができる。あるいは、バリア層は、化合物半導体中の元素の組成が一定である層、化合物半導体中の元素の組成が量子井戸層から離れる方向に沿って変化するグレーデッド層、又はこれらの積層体で構成することができる。
【0063】
活性層40の厚さは特に制限されるものではないが、通常は30~70nmである。また活性層40は、量子井戸層とバリア層を複数層にわたって交互に積層した多重量子井戸構造としても良い。
【0064】
(p型の半導体層)
p型の半導体層50は、n型の半導体層30とともに、活性層40で発生した光を活性層40に閉じ込める層であり、p型のクラッド層を有する。p型半導体層50は、p型クラッド層と活性層40との間にp型導波層をさらに有していてもよい。p型の半導体層50は、活性層40側から順次、p型クラッド層として、炭素ドープp型クラッド層51及び2族元素ドープp型クラッド層52を有する。
【0065】
炭素ドープp型クラッド層51中のドーパントの濃度は特に制限されるものではないが、ドーパントの濃度は好ましくは1×1017~5×1018cm-3である。この場合、ドーパントの濃度が上記範囲を外れる場合に比べて、半導体光素子100における光損失をより十分に抑制できるとともに、炭素ドープp型クラッド層51の結晶性をより高く維持できる。炭素ドープp型クラッド層51中のドーパントの濃度は、より好ましくは1×1017~1×1018cm-3である。
【0066】
炭素ドープp型クラッド層51は、ドーパントの濃度が一定である層、ドーパントの濃度が活性層40から離れるにつれて増加するグレーデッド層、又はこれらの積層体で構成することができる。炭素ドープp型クラッド層51は、ドーパントの濃度が活性層40から離れるにつれて増加するグレーデッド層を含むことが好ましい。この場合、活性層40付近において光損失の増大を抑制しつつ、炭素ドープp型クラッド層51の抵抗値を下げることができる。
【0067】
2族元素ドープp型クラッド層52中の2族元素としては、例えば亜鉛、マグネシウム、及び、ベリリウムなどが挙げられる。
【0068】
2族元素ドープp型クラッド層52中のドーパントの濃度は特に制限されるものではないが、ドーパントの濃度は好ましくは1×1017~1.5×1019cm-3である。この場合、ドーパントの濃度が上記範囲を外れる場合に比べて、2族元素ドープp型クラッド層52の抵抗値の低減と、活性層40へのドーパント拡散の抑制とを両立させることができる。2族元素ドープp型クラッド層52中のドーパントの濃度は、より好ましくは3×1017~1.1×1019cm-3である。
【0069】
2族元素ドープp型クラッド層52は、ドーパントの濃度が一定である層、ドーパントの濃度が活性層40から離れるにつれて増加するグレーデッド層又はこれらの積層体で構成することができる。2族元素ドープp型クラッド層52は、ドーパントの濃度が活性層40から離れるにつれて増加するグレーデッド層を含むことが好ましい。この場合、2族元素ドープp型クラッド層52の抵抗値を低減しつつ、半導体光素子100の使用時における活性層40へのドーパントの拡散を抑制し、発光特性をより向上させることができる。
【0070】
2族元素ドープp型クラッド層52は、ドーパントの濃度が5×1018~1.5×1019cm-3である層を有することが好ましい。この場合、ドーパントの濃度が上記範囲を外れる場合に比べて、半導体光素子100の抵抗の増加や閾値電流の増加を生じること無く、より良好な発光特性を得ることができる。
【0071】
2族元素ドープp型クラッド層52中のドーパントの最大濃度は、炭素ドープp型クラッド層51中のドーパントの最大濃度よりも大きくても、炭素ドープp型クラッド層51中のドーパントの最大濃度以下であってもよいが、炭素ドープp型クラッド層51中のドーパントの最大濃度よりも大きいことが好ましい。
【0072】
この場合、2族元素ドープp型クラッド層52中のドーパントの最大濃度が、炭素ドープp型クラッド層51中のドーパントの最大濃度以下である場合に比べて、p型の半導体層50の結晶性をより向上させつつp型コンタクト層60とそれに接触させる電極(図示せず)との間の抵抗を低減することができる。このため、半導体光素子100は、発光特性をより向上させることができる。
【0073】
ここで、炭素ドープp型クラッド層51中のドーパントの最大濃度に対する2族元素ドープp型クラッド層52中のドーパントの最大濃度の比は1より大きければよいが、10以上であることが好ましい。この場合、半導体光素子100が、発光特性及び長期信頼性をより一層向上させることができる。
【0074】
但し、上記比は15以下であることが好ましい。
【0075】
2族元素ドープp型クラッド層52においては、電流を注入するための開口を有するとともに電流をブロックする電流ブロック層が設けられることが好ましい。この場合、電流の広がりを抑えることができ、その結果として発光モードが安定化される。
【0076】
電流ブロック層において、開口は、活性層40及び電流ブロック層を活性層40の厚さ方向に見た場合に、電流ブロック層の外周縁より内側に形成されていることが好ましい。
【0077】
この場合、活性層40の内側部分に電流を流すことができ、半導体光素子100において、安定した発光が可能となる。ここで、開口の数は1つでも複数でもよい。また開口はストライプ状に形成されることが好ましい。
【0078】
電流ブロック層は化合物半導体及びドーパントを含む。化合物半導体及びドーパントとしては、n型半導体基板10と同様の化合物半導体及びドーパントを用いることができる。
【0079】
2族元素ドープp型クラッド層52は、電流ブロック層に接触し且つ電流ブロック層に対し活性層40側に設けられる第1層をさらに有してもよい。この第1層においては、ドーパント(2族元素)の濃度が5×1017cm-3以下であることが好ましい。この場合、ドーパント(2族元素)の濃度が上記範囲を外れる場合に比べて、半導体光素子100において、電流広がりによる異常発振が生じることをより十分に抑制することができる。
【0080】
2族元素ドープp型クラッド層52は、電流ブロック層に対し活性層40と反対側に設けられる第2層をさらに有してもよい。第2層は、1μm以上の厚さを有することが好ましい。この場合、半導体光素子100を板状のサブマウントの一面上に実装する際に、p型コンタクト層60をサブマウントの一面側に向けて、且つ、半導体光素子100の光出射端面をサブマウントの一面に直交する端面よりも引っ込めて実装すると、サブマウントの一面から活性層40までの厚さを十分に確保することができ、半導体光素子100の光出射端面から出射された光がサブマウントによって遮られることが十分に抑制される。また、半導体光素子100をサブマウントの一面に半田によって実装する際に、2族元素ドープp型クラッド層52が第2層を有すると、サブマウントの一面から活性層40までの間隔が大きくなる。このため、半田がp型半導体層50とn型半導体層30とを接続し短絡させることを十分に防止できる。
【0081】
第2層の厚さは1μm以上であればよいが、1.2μm以上であることがより好ましい。但し、第2層の厚さは2.5μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。この場合、第2層の厚さが上記各範囲を外れる場合に比べて、第2層の結晶性をより十分に向上させることができる。
【0082】
また、2族元素ドープp型クラッド層52は、第2層と電流ブロック層との間に設けられ、電流ブロック層に接触する層をさらに有してもよい。この層においては、当該層と電流ブロック層との間で電流が流れるのを防ぐために、ドーパント(2族元素)の濃度が電流ブロック層のドーパント濃度より低いことが好ましく、電流ブロック層のドーパント濃度の半分以下であることがより好ましい。
【0083】
p型の半導体層50の厚さに占める2族元素ドープp型クラッド層52の厚さの割合は50%より大きく且つ100%未満であっても50%以下であってもよいが、50%より大きく且つ100%未満であることが好ましい。
【0084】
この場合、p型の半導体層50の厚さに占める2族元素ドープp型クラッド層52の厚さの割合が50%以下である場合に比べて、p型の半導体層50の結晶性をより向上させることができる。このため、半導体光素子100は、発光特性をより向上させることが可能となる。
【0085】
但し、p型の半導体層50の厚さに占める2族元素ドープp型クラッド層52の厚さの割合が50%より大きい場合、この割合は好ましくは75%以下である。
【0086】
ここで、炭素ドープp型クラッド層51の厚さは2μm以下であることが好ましい。この場合、炭素ドープp型クラッド層51の厚さが2μmを超える場合に比べて、炭素ドープp型クラッド層51の結晶性をより向上させることができる。炭素ドープp型クラッド層51の厚さは1.2μm以下であることがより好ましい。但し、炭素ドープp型クラッド層51の厚さは1μm以上であることが好ましい。この場合、炭素ドープp型クラッド層51の厚さが1μm未満である場合に比べて、炭素ドープp型クラッド層51の上に積層された2族元素ドープp型クラッド層52に含まれる2族元素のドーパントが活性層40に拡散することをより十分に抑制できる。
【0087】
p型の半導体層50の厚さは特に制限されるものではないが、4μm以下であることが好ましい。この場合、p型の半導体層50の厚さが4μmを超える場合に比べて、p型の半導体層50の結晶性をより向上させることができる。但し、p型の半導体層50の厚さは3μm以上であることが好ましい。
【0088】
(p型のコンタクト層)
p型のコンタクト層60は、電極(図示せず)と接触される層である。
【0089】
p型コンタクト層60は、化合物半導体及びドーパントを含む。化合物半導体としては、2族元素ドープp型クラッド層52と同様の化合物半導体を用いることができる。ドーパントとしては炭素が用いられることが好ましい。すなわち、p型のコンタクト層60は、化合物半導体に炭素がドーパントとしてドープされている炭素ドープp型コンタクト層で構成されていることが好ましい。この場合、p型のコンタクト層60においてドーパントが炭素であるため、p型のコンタクト層60の抵抗を低下させることができる。また、炭素は2族元素に比べて拡散係数が小さいため、ドーパント濃度を高くしても活性層40にドーパントが拡散することを十分に抑制することもできる。
【0090】
ドーパント濃度は特に制限されるものではないが、電極とのコンタクト抵抗を十分に低減する観点からは、1×1019cm-3以上であることが好ましい。
【0091】
p型コンタクト層60中のドーパント濃度は、炭素ドープp型クラッド層51中のドーパント濃度より高くても炭素ドープp型クラッド層51中のドーパント濃度以下であってもよいが、炭素ドープp型クラッド層51中のドーパント濃度よりも高いことが好ましい。
【0092】
この場合、炭素ドープp型クラッド層51中のドーパント濃度が、p型コンタクト層60中のドーパント濃度よりも低くなっている。このため、p型コンタクト層60中のドーパント濃度が炭素ドープp型クラッド層51中のドーパント濃度以下である場合に比べて、発光特性に与える影響がより小さいp型コンタクト層60よりも、発光特性に与える影響がより大きい炭素ドープp型クラッド層51においてより結晶性を向上させることができる。また、p型コンタクト層60における抵抗をより低下させることもできる。従って、半導体光素子100における発光特性をより向上させることができる。
【0093】
(n型のバッファ層)
積層体20は、n型の半導体基板10とn型の半導体層30との間にさらにn型のバッファ層(図示せず)を備えてもよい。
【0094】
n型のバッファ層は、n型の半導体層30の結晶性を高めるために設けられるものであり、化合物半導体及びドーパントを含む。
【0095】
化合物半導体としては、n型の半導体基板10に含まれる化合物半導体と同様の化合物半導体を用いることができる。ドーパントとしても、n型の半導体基板10に含まれるドーパントと同様のドーパントを用いることができる。
【0096】
n型のバッファ層中のドーパント濃度は、n型の半導体基板10中のドーパント濃度よりも小さく、且つ、n型の半導体層30のうちn型のバッファ層と接触する層中のドーパント濃度よりも小さいことが好ましい。この場合、n型の半導体層30の結晶性がより高められる。
【0097】
n型のバッファ層の厚さは、n型の半導体基板10の厚さよりも小さければ特に制限されるものではないが、通常は300~1000nmである。
【0098】
<半導体光素子の用途>
半導体光素子100は、上述したように、発光特性を向上させることができるので、ファイバレーザや医療用レーザ(例えば歯科用レーザ)などに使用する光源として有用である。
【0099】
[半導体光素子形成用構造体]
次に、上記半導体光素子100を形成するための半導体光素子形成用構造体について図2を参照しながら詳細に説明する。図2は、本発明の半導体光素子形成用構造体の一実施形態を概略的に示す部分断面図である。なお、図2において、図1と同一又は同等の構成要素については同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0100】
図2に示すように、半導体光素子形成用構造体200は、第1導電型半導体ウェハとしてのn型半導体ウェハ210と、n型半導体ウェハ210上に設けられる積層体220とを備える。
【0101】
n型半導体ウェハ210は、n型半導体基板10と同様の材料で構成される。
【0102】
積層体220においては、n型半導体ウェハ210側から順次、n型半導体層30、活性層40、p型半導体層50、及び、p型コンタクト層60が積層されている。
【0103】
この半導体光素子形成用構造体200では、p型半導体層30が、化合物半導体に炭素がドーパントとしてドープされている炭素ドープp型クラッド層51と、化合物半導体に2族元素がドーパントとしてドープされている2族元素ドープp型クラッド層52とを有する。このため、半導体光素子形成用構造体200によれば、p型半導体層30が、炭素ドープp型クラッド層のみからなる場合に比べて、必要なp型半導体層30の厚さを保持しつつ炭素ドープp型クラッド層51の厚さを小さくすることができ、p型半導体層30の結晶性を向上させることができる。このため、半導体光素子形成用構造体200によれば、発光特性を向上させることができる半導体光素子100を形成することができる。
【0104】
半導体光素子形成用構造体200から半導体光素子100を得るには、例えば半導体光素子形成用構造体200を粘着性のシートなどに貼り付け、この半導体光素子形成用構造体200に対して傷入れおよび劈開を行えばよい。
【0105】
[半導体光素子の製造方法]
次に、上記半導体光素子100の製造方法について図2を参照しながら説明する。図2は、本発明の半導体光素子形成用構造体の一実施形態を概略的に示す部分断面図である。
【0106】
まず、図2に示すように、半導体光素子形成用構造体200を準備する(構造体準備工程)。
【0107】
そのためには、まずn型の半導体ウェハ210を用意する。n型の半導体ウェハ210としては、n型の半導体基板10と同一の材料で構成されるものを用意する。
【0108】
次に、n型の半導体ウェハ210の一面上に、n型の半導体層30及び活性層40を形成した後、p型の半導体層50を形成する(第2導電型半導体層形成工程)。
【0109】
このとき、p型の半導体層50は、活性層40上に炭素ドープp型クラッド層51を形成した後(炭素ドープ第2導電型半導体層形成工程)、炭素ドープp型クラッド層51上に2族元素ドープp型クラッド層52を形成することにより形成される(2族元素ドープ第2導電型半導体層形成工程)。
【0110】
次に、p型の半導体層50の上にp型のコンタクト層60を形成する(炭素ドープ第2導電型コンタクト層形成工程)。
【0111】
こうして積層体220を得る。
【0112】
このとき、n型の半導体層30、活性層40、p型の半導体層50およびp型のコンタクト層60は、例えば有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法によって形成することができる。このとき、原料としては、各層を構成する材料に応じて、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMI)、アルシンガス(AsH)、臭化炭素(CBr)又は塩化炭素(CCl)などのハロメタン、ジエチル亜鉛(DEZ)、モノシラン(SiH)などから選ばれる必要な原料を適宜用いればよい。
【0113】
こうして半導体光素子形成用構造体200が得られる。
【0114】
次に、必要に応じて、半導体光素子形成用構造体200のn型半導体ウェハ210及び積層体220のp型コンタクト層60にそれぞれ電極を形成した後、半導体光素子形成用構造体200を粘着性のシートなどに貼り付ける。そして、半導体光素子形成用構造体200に対して傷入れおよび劈開を行い、複数の半導体光素子100に分離して半導体光素子100を得る(半導体光素子形成工程)。
【0115】
以上のようにして半導体光素子100が得られる。
【0116】
上記のようにして半導体光素子100を製造すると、得られる半導体光素子100では、p型の半導体層50が、化合物半導体に炭素がドーパントとしてドープされている炭素ドープp型クラッド層51と、p型のコンタクト層60と炭素ドープp型クラッド層51との間に設けられ、化合物半導体に2族元素がドーパントとしてドープされている2族元素ドープp型クラッド層52とを有する。このため、半導体光素子形成用構造体200によれば、p型の半導体層50が、化合物半導体に炭素がドーパントとしてドープされている炭素ドープp型クラッド層51のみからなる場合に比べて、必要なp型半導体層50の厚さを保持しつつ炭素ドープp型クラッド層51の厚さを小さくすることができ、p型の半導体層50の結晶性を向上させることができる。このため、上記製造方法によれば、発光特性を向上させることができる半導体光素子100を得ることができる。また、上記製造方法によれば、得られる半導体光素子100において、p型半導体層50の結晶性を向上させることができるので、半導体光素子100の長期信頼性を向上させることも可能となる。
【0117】
また、上記製造方法では、p型半導体層50が、炭素ドープp型クラッド層51と、2族元素ドープp型半導体層52とを含むため、p型半導体層50が、炭素ドープp型クラッド層51のみからなる場合に比べて、炭素ドープp型半導体層51の厚さを抑えることができる。このため、炭素ドープp型クラッド層51を形成する際に臭化炭素(CBr)又は塩化炭素(CCl)などのハロメタンを使用する場合に、ハロメタンの使用量を少なくすることができる。このため、そのハロメタンによるエッチング作用によって、形成される炭素ドープp型クラッド層51において表面荒れや欠陥の導入が生じることが十分に抑制される。すなわち、炭素ドープp型クラッド層51を、高い結晶性を維持したまま活性層40上に形成することができる。このため、上記製造方法によれば、発光特性の低下をより十分に抑制できる半導体光素子100を得ることができる。
【0118】
なお、炭素ドープp型クラッド層51上に2族元素ドープp型クラッド層52を形成する場合には、ドーパントの濃度が活性層40から離れるにつれて増加するグレーデッド層を含むように2族元素ドープp型クラッド層52を形成することが好ましい。
【0119】
この場合、2族元素ドープp型クラッド層52の抵抗値を低減しつつ、2族元素ドープp型クラッド層52の形成時(アニール時)、および、使用時における活性層40へのドーパントの拡散を抑制し、発光特性をより向上させることができる半導体光素子100を製造することができる。
【0120】
本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、半導体光素子100がn型の半導体層30を有し、n型半導体層30がn型導波層を有しているが、n型導波層を有していなくてもよい。
【0121】
また、上記実施形態では、電流ブロック層が2族元素ドープp型クラッド層52中に設けられているが、電流ブロック層は炭素ドープp型クラッド層51中に設けられてもよい。
【0122】
さらに、上記実施形態では、2族元素ドープp型クラッド層52中に電流ブロック層が設けられ、電流ブロック層から電流ストライプ構造が形成され得るが、電流ストライプ構造に代えて、電流注入領域と電流非注入領域とを有するリッジ構造が設けられてもよい。この場合、電流注入領域以外の部分が電流非注入領域となる。ここで、電流非注入領域の深さは特に限定されるものではなく、任意の深さでよい。例えば、実施例8に係る図6では、炭素ドープp型コンタクト層から亜鉛ドープp型クラッド層までがエッチングによって除去されているが、このエッチングによる除去部の深さは、炭素ドープp型コンタクト層から亜鉛ドープp型クラッド層の途中までの深さでもよいし、炭素ドープp型コンタクト層から炭素ドープp型クラッド層までの深さでもよい。
【実施例
【0123】
以下、実施例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0124】
(実施例1)
まず、厚さ350μmで直径50mmのn型の半導体ウェハを用意した。このとき、n型の半導体ウェハとしては、GaAsにドーパントとしてSiを1.0×1018cm-3の濃度となるようにドープしたものを用いた。
【0125】
次に、n型の半導体ウェハの一面上に、n型バッファ層、n型の半導体層、活性層、p型の半導体層及びp型のコンタクト層を順次形成して積層体を得た。
【0126】
このとき、n型バッファ層は、GaAsにドーパントとしてSiを3×1017cm-3の濃度でドープしたものとし、500nmの厚さで形成した。n型の半導体層は、AlGaAsにドーパントとしてSiをドープしたものとし、n型の半導体層は、n型半導体ウェハ側から順次、n型クラッド層およびn型導波層で構成するようにした。n型クラッド層は、ドーパント濃度をn型半導体ウェハから離れるにつれて1.0×1018cm-3から1.0×1017cm-3まで減少させた層であり、ドーパント濃度が一定である層、およびドーパント濃度が隣接する層から連続的に変化する層からなる複数の層を合計で3500nmの厚さで形成した。n型導波層は、Siドーパント濃度をn型半導体ウェハから離れるにつれて5.0×1016cm-3から5.0×1017cm-3まで増加させた層であり、ドーパント濃度が一定である層、およびドーパント濃度が隣接する層から連続的に変化する層からなる複数の層を合計で550nmの厚さで形成した。
【0127】
活性層は、n型半導体ウェハ側から順次、第1バリア層、量子井戸層、第2バリア層で構成した。このとき第1バリア層としては、AlGaAsにSiをドープした層を形成した。量子井戸層は、InGaAs層からなる層を915nmのレーザ発振波長が得られるようなIn組成と厚さで形成した。第2バリア層としては、AlGaAsからなる層を形成した。
【0128】
p型半導体層は、炭素ドープp型クラッド層および亜鉛ドープp型クラッド層で構成し、亜鉛ドープp型クラッド層は、亜鉛ドープp型第1クラッド層及び亜鉛ドープp型第2クラッド層を含むようにした。炭素ドープp型クラッド層は、AlGaAsのAl組成を50モル%とし、炭素ドーパント濃度を活性層から離れるにつれて1.0×1017cm-3から1.0×1018cm-3まで増加させた層であり、ドーパント濃度が一定である層、及び、ドーパント濃度が隣接する層から連続的に変化する複数の層を合計で1050nmの厚さで形成した。亜鉛ドープp型第1クラッド層は、GaAsに亜鉛を3.0×1017cm-3の濃度でドーピングした層を400nmの厚さで形成した。また、亜鉛ドープp型クラッド層においては、亜鉛ドープp型第1クラッド層の表面全体を覆うように、ドーパントとしてSiをドープしたGaAsからなる厚さ450nmのn型電流ブロック層の前駆体層を有機金属気相成長法(MOCVD法)で形成した後、硫酸と過酸化水素水の混合酸を用いて、電流を注入するための幅150μmの開口をストライプ状にエッチングすることでn型電流ブロック層を形成した。このとき、n型電流ブロック層中のSi濃度は2×1018cm-3となるようにした。n型電流ブロック層の前駆体層に開口をストライプ状に形成後、亜鉛ドープp型第2クラッド層を形成した。亜鉛ドープp型第2クラッド層はGaAsからなり、亜鉛ドーパント濃度が活性層から離れるにつれて1.0×1018cm-3から1.1×1019cm-3まで増加するように積層される複数の層を合計で1750nmの厚さで形成した。これら複数の層を構成する各層においては亜鉛ドーパント濃度が一定であった。またこれら複数層は、ドーパント濃度が最大で、最も活性層から離れた層として、亜鉛ドーパント濃度が1.1×1019cm-3で、厚さが350nmである層を含むように形成した。
【0129】
p型コンタクト層は、GaAsにドーパントとして炭素をドープした炭素ドープp型コンタクト層とし、炭素ドーパント濃度が3.0×1019cm-3となるように300nmの厚さで形成した。そして、p型コンタクト層まで形成した後、アニール処理を行った。
【0130】
また、n型バッファ層、n型半導体層、活性層、p型半導体層及びp型コンタクト層は、MOCVD法によって形成した。このとき、原料としては、各層を構成する材料に応じて、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMI)、アルシンガス、臭化炭素(CBr)又は塩化炭素(CCl)などのハロメタン、ジエチル亜鉛(DEZ)、モノシラン(SIH)などから選ばれる必要な原料を適宜用いた。こうして半導体光素子形成用構造体を得た。
【0131】
最後に、上記のようにして得られた半導体光素子形成用構造体を粘着性のシートに貼り付けた後、半導体光素子形成用構造体に対して傷入れおよび劈開を行い、幅500μm、共振器長4mmの半導体光素子を、ストライプ状に形成された開口が中央に位置するように分離した。
【0132】
以上のようにして半導体光素子を得た。なお、実施例1の半導体光素子の積層構造については図3に示す。
【0133】
(比較例1)
亜鉛ドープp型クラッド層の代わりに、炭素ドープp型クラッド層を形成したこと以外は実施例1と同様にして半導体光素子を作製した。具体的には、ドーパントを亜鉛から炭素に変更することによって亜鉛ドープp型クラッド層の代わりに炭素ドープp型クラッド層を形成したこと以外は実施例1と同様にして半導体光素子を作製した。
【0134】
上記のようにして得られた実施例1及び比較例1の半導体光素子について、p型コンタクト層側の表面を、光学顕微鏡でノマルスキー干渉フィルタを通して干渉像として50倍の倍率で観察した。実施例1及び比較例1の光学顕微鏡写真をそれぞれ図4及び図5に示す。
【0135】
図4に示すように、実施例1の半導体光素子では、p型コンタクト層の表面にピットなどの凹凸が観察されなかった。このことから、p型半導体層の表面にも凹凸が存在しなかったものと考えられる。一方、図5に示すように、比較例1の半導体光素子では、p型コンタクト層の表面にピットなどの凹凸が多数存在していたために白濁していた。
【0136】
従って、比較例1の半導体光素子では、p型半導体層の表面において荒れが見られた。これに対して、実施例1の半導体光素子では、p型半導体層の表面において荒れが見られなかった。すなわち表面荒れがなかった。このため、実施例1の半導体光素子は、p型半導体層の結晶性を向上させているものと考えられる。
【0137】
(実施例2~7)
亜鉛ドープp型第2クラッド層において、亜鉛ドーパント濃度が最大で、最も活性層から離れた層における亜鉛ドーパント濃度をそれぞれ表1に示すように2.0×1018cm-3、5.0×1018cm-3、8.0×1018cm-3、1.5×1019cm-3、2.0×1019cm-3又は3.0×1019cm-3としたこと以外は実施例1と同様にして半導体光素子を作製した。
【0138】
これらの実施例2~7の半導体光素子においても、実施例1の半導体光素子と同様、p型コンタクト層側の表面を観察した。結果を表1に示す。その結果、実施例2~7の半導体光素子はいずれも、表面荒れの点で、実施例1と同等の結果を示していた。また、実施例2~7の半導体光素子について、半導体光素子に電流を注入するため、n型半導体層及びp型半導体層の最表面に金属蒸着膜による電極を形成した。次に、半導体光素子のレーザ発振に伴って発生する熱を放熱するためのサブマウント上に、n型半導体層及びp型半導体層に接合するためのn側電気的接合部及びp側電気的接合部をそれぞれ形成した。その後、半田およびワイヤを用いて半導体光素子をサブマウント上に実装した。このとき、n型半導体層はn側電気的接合部に接合し、p型半導体層はp側電気的接合部に接合した。そして、サブマウント上に実装した半導体光素子に対し、電源から電気的接合部を介して電流を注入し、抵抗値及び閾値電流を測定した。結果を表1に示す。但し、表1においては、実施例2~7の半導体光素子の抵抗値及び閾値電流値については、実施例1の半導体光素子の抵抗値及び閾値電流値を100とした相対値で示した。そして、表1に示すように、実施例1の抵抗値又は閾値電流値に対して、抵抗値が+10%未満であるか、又は閾値電流値が+6%未満である半導体光素子については「A」と表記し、抵抗値が+10%以上であるか、又は閾値電流値が+6%以上である半導体光素子については「B」と表記した。なお、実施例1の抵抗値及び閾値電流値は、実施例2~7の抵抗値及び閾値電流値の基準となるものであるため、「-」と表記した。
【0139】
表1に示すように、実施例3~5の半導体光素子は、実施例2、6、7の半導体光素子に比べて、抵抗値又は閾値電流値がより改善する結果となった。この結果より、亜鉛ドープp型第2クラッド層において、ドーパント濃度が最大で、最も活性層から離れた層における亜鉛ドーパント濃度が5.0×1018cm-3~1.5×1019cm-3である層を有することが好ましいことが分かった。

【表1】
【0140】
(実施例8)
実施例1において、SiドープGaAsからなるn型電流ブロック層によって形成される電流注入ストライプを、以下のようにして、絶縁膜から形成された電流非注入領域を有するリッジ構造としたこと以外は実施例1の半導体光素子と同じ構造の半導体光素子を作製した(図6参照)。具体的には、n型電流ブロック層を除いて実施例1と同じ積層構造をMOCVD法によって成長した後、酒石酸と過酸化水素水からなる混合酸で、p型コンタクト層、亜鉛ドープp型第1クラッド層までを除去して電流注入領域に対応する幅150μmの凸部分(メサ)を形成した。また凸部分の両側であるエッチングによる除去部分の幅はともに40μmとした。その後、電流注入領域以外の部分にSiNxからなる絶縁膜を成長して、電流非注入領域を形成した。以上のようにして電流非注入領域を有するリッジ構造の半導体光素子を作製した。この半導体光素子について、実施例1と同様にしてp型コンタクト層側の表面観察を行った。その結果、実施例1と同等の結果が得られた。
【0141】
従って、本発明は、電流ブロック層から形成される電流ストライプ構造だけでなく、電流非注入領域を有するリッジ構造の半導体光素子でも有効であることが分かった。
【0142】
(実施例9)
活性層内の量子井戸層をInGaAsに代えてGaAsで形成したこと以外は実施例1と同様にして半導体光素子を作製した。この半導体光素子について、実施例1と同様にしてp型コンタクト層側の表面観察を行った。その結果、実施例1と同等の結果が得られた。
【0143】
従って、本発明は、量子井戸の材料がInGaAsである半導体光素子だけでなく、GaAsであっても有効であることが分かった。
【0144】
以上より、本発明の半導体光素子は、発光特性を向上させることができるものと考えられる。
【符号の説明】
【0145】
10…n型の半導体基板(第1導電型半導体基板)
20…積層体
30…n型の半導体層(第1導電型半導体層)
40…活性層
50…p型の半導体層(第2導電型半導体層)
51…炭素ドープp型クラッド層(炭素ドープ第2導電型半導体層)
52…2族元素ドープp型クラッド層(2族元素ドープ第2導電型半導体層)
60…p型のコンタクト層(第2導電型コンタクト層)
100…半導体光素子
200…半導体光素子形成用構造体
210…n型の半導体ウェハ(第1導電型半導体ウェハ)
220…積層体
図1
図2
図3
図4
図5
図6