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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】軌道リレー
(51)【国際特許分類】
   B61L 1/18 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
B61L1/18 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017146063
(22)【出願日】2017-07-28
(65)【公開番号】P2019026025
(43)【公開日】2019-02-21
【審査請求日】2020-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(72)【発明者】
【氏名】安齋 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】高村 英孝
(72)【発明者】
【氏名】近藤 勉
(72)【発明者】
【氏名】林 俊範
(72)【発明者】
【氏名】重岡 雅儀
(72)【発明者】
【氏名】岡本 正三
(72)【発明者】
【氏名】漆山 望
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-104858(JP,U)
【文献】特開平01-266060(JP,A)
【文献】特開平07-033021(JP,A)
【文献】特開2000-201401(JP,A)
【文献】特開2008-254556(JP,A)
【文献】特開2003-011815(JP,A)
【文献】特開昭64-018769(JP,A)
【文献】特開2003-002197(JP,A)
【文献】特開平10-239463(JP,A)
【文献】米国特許第04800507(US,A)
【文献】中国特許出願公開第104369746(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道電圧の所定の時間間隔における平均値と、設定された前記軌道電圧の環境変化に合わせて変化する前記軌道電圧の前記平均値の最大の変動に基づいて定まるしきい値との比較により列車在線の有無を判定し、前記判定結果に基づいて出力情報を制御する軌道リレーであって、
前記平均値が前記しきい値電圧以上の状態が一定時間以上継続されているときに、当該平均値を記憶し、しきい値を再設定して前記軌道電圧の変動に追従させる軌道リレー。
【請求項2】
請求項1に記載の軌道リレーであって、時間を所定の個数に分割したスロットにより前記軌道電圧をサンプリングし、前記スロットごとに演算処理を行うことを特徴とする軌道リレー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の軌道リレーであって、電源が落ちた際には前記しきい値を記憶保持していることを特徴とする軌道リレー。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の軌道リレーであって、演算処理の結果と前記しきい値との演算を行う複数の論理回路を有し、全ての前記論理回路の結果が一致した場合にのみ、前記列車在線の有無を判定することを特徴とする軌道リレー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道リレーに係り、特に、列車が軌道回路に在線状態か非在線状態かを検知する軌道リレーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軌道回路において列車が在線状態か非在線状態かを検知するために、機械式軌道リレーが一般的に採用されていた。この機械式軌道リレーは、直接リレーに入力される局部入力と、列車検知情報が軌道回路から入力される軌道入力とを用いて動作する機械式の軌道リレーである。すなわち、軌道回路において列車が在線状態か非在線状態かを検知するためには、軌道入力のレベル、及び局部入力と軌道入力との位相差が重要でありこれらの値を調整する必要がある。
【0003】
図8に、従来の機械式軌道リレー100の一つの実施形態の回路図を示す。機械式軌道リレー100には、軌道回路103を流れる軌道電源101から受電する軌道電圧105と、局部電源102から受電する局部電圧104とが入力される。軌道電圧105は、1V程度であり、局部電圧104は、50/60Hzの交流で100Vである。軌道リレー100を確実に動作させるために、調整抵抗107による軌道電圧105の調整、調整トランス108による軌道電圧105の調整、及び位相調整器110による局部電圧104の位相調整が行われる。これらの調整抵抗107及び位相調整器110は、機械式軌道リレー100ごとにタップを用いて調整される。
【0004】
リレー106には、図8中のポイント(1)及び(2)において軌道電圧105が入力され、図8中のポイント(3)及び(4)において局部電圧104が入力される。そして、リレー106には、アラゴの円盤109が設けられる。そして、局部電圧104及び軌道電圧105のそれぞれの電圧(V)と位相差とによりアラゴの円盤109に回転力が発生し、リレー106が動作する。
【0005】
図9に従来の機械式軌道リレー100の原理を示すアラゴの円盤109を示す。この原理は、回転軸113を持った円盤型の導体に磁石111で磁界を与えながら円盤109に沿って動かした場合、この磁石111の動きにより円盤109にフレミングの右手の法則によってうず電流112が発生し、円盤109が磁石111を追いかけるような回転力が発生するというものである。
【0006】
図10に、従来の機械式軌道リレー100において、軌道回路103の所定区間に列車114が非在線状態である場合の、軌道電圧105及び局部電圧104の大きさ及び位相を示す。ここで、局部電圧104と軌道電圧105との位相差(θ)と、非在線状態である場合の軌道電圧105の最大値(V)との関係は、上述したアラゴの円盤109においてリレー106を駆動させる。これにより、リレー106は動作する。
【0007】
また、図11に、従来の機械式軌道リレー100において、軌道回路103に列車114が在線状態である場合の、軌道電圧105及び局部電圧104の大きさ及び位相を示す。ここで、軌道回路103上に列車114が在線状態である場合には、局部電圧104と軌道電圧105との位相差(θ)は変化せず、在線状態である場合の軌道電圧105の最大値(V)が変化し、アラゴの円盤109を回転させる力が弱まる。これにより、リレー106は落下する。
【0008】
図12に、従来の機械式軌道リレー100における、現地でのリレー106の設置から調整完了までをフロー図で示す。フロー図の各ステップは記号S1~S7で示す。
【0009】
リレー106を設置し(S1)、天候が良好なタイミングを選んで(S2)、軌道電圧105及び位相差(θ)を測定する(S3)。そして、リレー106の動作条件を満足するか否かを判断し(S4)、満足した場合(Yes)は、調整が完了して作業が終了する(S7)。一方、リレー106の動作条件を満足しない場合(No)は、軌道電圧105を調整し(S5)、さらに局部電圧104を調整することで(S6)、ステップ4に戻って軌道電圧105及び位相差(θ)を調整する(S4)。
【0010】
図5に示す本発明のリレー6の設置から設定完了までのフローと比較すると、従来のリレー106の設置作業は、現場作業になるため天候の影響を受けてしまうこと、軌道電圧105及び位相差(θ)を調整する煩雑な作業が発生することが分かる。
【0011】
図13に、従来の機械式軌道リレー100における設置環境の変動に対する再調整完了までをフロー図で示す。フロー図の各ステップは記号S1~S7で示す。
【0012】
積雪などの環境変動が発生すると軌道入力レベルが低下する(S1)。すると軌道回路に故障が発生する(S2)。この状況に対処するため、現地において軌道電圧105及び位相差θをタップにより調整する(S3)。この調整により、リレー106の動作条件を満足したか否かを判断し(S4)、満足した場合(Yes)は、調整完了して作業が終了する(S7)。一方、リレー106の動作条件を満足しない場合(No)は、軌道電圧105を調整し(S5)、さらに局部電圧104を調整することで(S6)、ステップ3に戻り、軌道電圧105及び位相差(θ)を調整する(S3)。
【0013】
図6に示す本発明の再調整作業のフローと比較すると、従来の再調整作業は軌道電圧105及び位相差(θ)を調整する煩雑な作業が発生することが分かる。
【0014】
特許文献1には、軌道リレーの位相を軌道リレーが復旧しないようにして調整でき、信号機を使用停止し、夜間列車が運行しないときに軌道リレーの調整をする必要がない軌道リレーの位相調整装置が開示されている。ここでは、軌道回路受電端インピーダンスボンドのコンデンサと軌道リレーとの間に、抵抗とコンデンサと降圧トランスとを直列に接続して有し、降圧トランスの高圧側にコンデンサをこのトランスのタップにより並列に接続してなる位相調整回路を、降圧トランスが軌道リレー側となるように設置することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開平08-268280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来の機械式軌道リレーでは、設置時やメンテナンス時において、軌道リレーに関する各種の設定を現場において行わなければならないという課題があった。具体的には、位相調整器のタップを切替えて軌道入力及び局部入力間の位相差の調整を行い、調整トランス及び調整抵抗子などのタップ切替えにより軌道電圧及び局部電圧の調整を行う必要があった。これらの調整作業は現場において行われ、熟練した作業員による煩雑な作業が要求されていた。
【0017】
軌道リレーは、列車の安全な運行のために重要な装置であり年に2~3回は総点検を行わなければならない。従って、従来の機械式軌道リレーの設置やメンテナンスにおいて、人件費や設備費などのコストダウンや省力化が難しいという問題があった。
【0018】
また、従来の機械式軌道リレーは、軌道リレーの設置時において、設置場所の設置条件に合わせた個別の調整をする必要があるという課題があった。例えば、軌道リレーにとって条件の悪い箇所では、軌道回路の長さを短縮する必要があり、その結果、軌道回路の設置費やメンテナンス費が増大するという課題があった。
【0019】
さらに、従来の機械式軌道リレーは、機械式であるためリレーに可動部が含まれ、軌道リレーの製作コストが嵩む割には製品の寿命は10年程度と他の設備機器と比較して短いという課題があった。
【0020】
また、従来の機械式軌道リレーは、運用時においても、例えば、天候や季節の変動などの外部環境の変化により軌道入力が変動するためその都度再調整する必要があるという課題があった。
【0021】
本願の目的は、かかる課題を解決し、設置時には、軌道リレーの調整作業を省力化して設置やメンテナンスの費用を低減し、運用時には、軌道入力の変動に対して動作判定条件を最適化して安全性を担保する軌道リレーを提供することである。
【0022】
また、本願の他の目的は、かかる課題を解決し、軌道リレー自体の製作費を削減し、製品の長寿命化が図られた軌道リレーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するため、本発明に係る軌道リレーは、軌道電圧の所定の時間間隔における平均値と、設定された前記軌道電圧の環境変化に合わせて変化する前記軌道電圧の前記平均値の最大の変動に基づいて定まるしきい値との比較により列車在線の有無を判定し、前記判定結果に基づいて出力情報を制御する軌道リレーであって、前記平均値が前記しきい値電圧以上の状態が一定時間以上継続されているときに、当該平均値を記憶し、しきい値を再設定して前記軌道電圧の変動に追従させることを特徴とする。
【0024】
上記構成により、軌道入力のレベル、及び軌道入力と局部入力との位相差を自動検出し、調整作業を省力化させることができる。また、設置条件の悪い箇所の軌道回路に関しても軌道回路の長さを短縮することなく軌道リレーが設置できる。
【0025】
また、軌道リレーの機構を電子化することで、従来の機械的軌道リレーの可動部が不要となり組立コストが削減され、製品の長寿命化を可能とすることができる。また、従来の軌道レールの安全性を保持したまま設置費やメンテナンス費を低減することができる。
【0026】
また、軌道リレーは、時間を所定の個数に分割したスロットにより軌道電圧をサンプリングし、スロットごとに演算処理を行うことが好ましい。これにより、設置時において調整作業を省力化させることができる。
【0027】
また、軌道リレーは、軌道電圧の変動に対しては、しきい値を自動追従させて判定する演算処理の結果と比較することが好ましい。これにより、設置環境に適した列車検知しきい値が設定でき、列車が在線状態か非在線状態かによる動作判定を最適化することができる。
【0028】
また、軌道リレーは、電源が落ちた際にはしきい値を記憶保持していることが好ましい。これにより、停電時においても列車検知しきい値を記憶保持し、復電の際に直ぐに列車検知を機能させることができる。
【0029】
さらに、軌道リレーは、演算処理の結果としきい値との演算を行う複数の論理回路を有し、全ての論理回路の結果が一致した場合にのみ、列車在線の有無を判定することが好ましい。これにより、論理回路を多重化することで、論理演算結果の妥当性を担保することができる。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明に係る軌道リレーによれば、設置時には、軌道リレーの調整作業を省力化して設置やメンテナンスの費用を低減し、運用時には、軌道入力の変動に対して動作判定条件を最適化して安全性を担保する軌道リレーを提供することができる。
【0031】
また、本発明に係る軌道リレーによれば、軌道リレー自体の製作費を削減し、製品の長寿命化を図る軌道リレーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明に係る軌道リレーの一つの実施形態の概略構成を示す回路図である。
図2図1の中央処理装置の構成及び処理手順を示すブロック図である。
図3】中央処理装置による局部電圧及び軌道電圧の処理方法を時間ごとに示すグラフである。
図4】軌道リレーの動作又は落下を判定するしきい値(Vo)レベルの自動追従についてフロー図で示す。
図5】軌道リレーの設置から設定完了までのフロー図である。
図6】設置環境の変動に対する設定完了までのフロー図である。
図7】軌道リレーの論理演算部の多重化を示すブロック図である。
図8】従来の軌道リレーの一つの実施形態の回路図である。
図9】従来の機械式軌道リレーの原理である「アラゴの円盤」を示す説明図である。
図10】従来の機械式軌道回路において軌道回路に列車が非在線状態である場合の軌道電圧及び局部電圧の大きさ及び位相を示すグラフである。
図11】従来の機械式軌道回路において軌道回路に列車が在線状態である場合の軌道電圧及び局部電圧の大きさ及び位相を示すグラフである。
図12】従来の機械式軌道リレーにおけるリレーの設置から調整完了までのフロー図である。
図13】従来の機械式軌道リレーにおける設置環境の変動に対する再調整完了までのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(軌道リレーの構成)
以下に、図面を用いて本発明に係る軌道リレー1につき、詳細に説明する。図1に軌道リレー1の一つの実施形態の概略構成を回路図で示す。本発明に係る軌道リレー1は、軌道回路3において列車9が在線状態か非在線状態かを検知する。そのため、軌道電圧5を軌道回路3からトランス7aを介して中央処理装置6の図1のポイント(1)及びポイント(2)に接続する。この軌道電圧5は、実効値が1V程度の交流電圧であり、積雪などの影響により変動する特性を有する。一方、周波数50/60Hzで実効値が100Vの局部電源2から局部電圧4を中央処理装置6の図1のポイント(3)及びポイント(4)に接続する。この局部電圧4は、周波数が一定であり、電圧も安定しているという特性を有する。なお、軌道電圧5には、この局部電源2からトランス7bを介して電力が供給されている。本発明は、軌道リレー1により、安定している局部電圧4の値を基準として軌道電圧5をサンプリングし、設定されたしきい値との比較により列車9が在線状態か非在線状態かを検知する。
【0034】
信号機に停止信号以外の信号を現示させる場合、或いは転てつ機を転換させる場合は、安全確保のため、列車9が軌道回路3の所定範囲に非在線状態であることを確認する列車検知が必要となる。この列車検知は、軌道回路において2本のレールが列車9の車軸で電気的に短絡されることを利用した列車検知システムである。すなわち、列車9の車軸がレール間を短絡すれば一端から送信した電力が他端に到達しなくなることで「列車9が在線状態である」と判断する。また、列車9の車軸がレール間を短絡しなければ一端から送信した電力が他端に到達することで「列車9が非在線状態である」と判断する。
【0035】
図2に、中央処理装置6の構成及び処理手順をブロック図で示す。中央処理装置6は、局部入力立上検出部10、スロット設定部11、サンプリング部12、スロットピーク検出部13、及び、列車在線判定部14から構成される。なお、軌道電圧5がアナログ値であった場合にはアナログ/デジタル(A/D)変換部15が含まれるが、軌道電圧5がデジタル値であった場合には含まれない。
【0036】
図3に、中央処理装置6による局部電圧4及び軌道電圧5の処理方法を時間ごとに示す。局部入力立上検出部10は、局部電圧4の立ち上がりを基準とし、軌道電圧5の値を、時間間隔で、例えば8分割してサンプリングする。つまり、時間を所定の個数に分割したスロットにより軌道電圧5をサンプリングし、スロットごとに演算処理を行う。この分割したスロットの数により、局部電圧4と軌道電圧5との位相差が算定される。図3(a)に、立ち上がりを基準として8分割したサンプリング結果を示す。なお、この分割数は8分割に限らず任意の整数による分割で良い。このように局部電圧4の立ち上がりを基準にすることで、変動する軌道電圧5を確実にサンプリングすることができる。スロット設定部11は、局部電圧4の立ち上げの基準点を設定し、スロットによる分割数を設定する。サンプリング部12は、軌道電圧5を分割した各スロットに対してその時間範囲での平均値をそれぞれ算出する。図3(b)に、時間間隔ごとに算出した軌道電圧5のスロット平均値5´を示す。図3(c)に示すように、スロットピーク検出部13は、サンプリングの結果、軌道電圧5のスロット平均値5´が正極側で一番大きな値となる場所(図3中のスロット(3))を判定し、処理信号(V)とする。また、スロットピーク検出部13は、処理信号(V)と記憶している軌道電圧5のしきい値(Vo)との比較を行う。
【0037】
列車在線判定部14は、軌道電圧5の処理信号(V)と、設定された軌道電圧5のしきい値(Vo)との比較により列車9が在線状態か非在線状態かを判定し、判定結果に基づいて出力情報を制御する。すなわち、軌道電圧5の処理信号(V)がしきい値(Vo)より大きい場合には、列車9は非在線状態であると判断してリレー6を動作させ、軌道電圧5の処理信号(V)がしきい値(Vo)より小さい場合には、列車9は在線状態であると判断してリレー6を落下する。
【0038】
図3(d)に、列車9が在線状態である場合の処理信号(V)と、設定された軌道電圧5のしきい値(Vo)を示す。軌道レール3上に列車9が在線状態であると軌道電圧5が低下し、処理信号(V)がしきい値(Vo)よりも低くなる。
【0039】
(しきい値レベルの自動追従)
図4に、リレー6の動作又は落下を判定するしきい値(Vo)レベルの自動追従についてフロー図で示す。列車9が在線状態から非在線状態に状態遷移したときには、軌道電圧5は大きく変動する。また、例えば軌道に降雪した場合などのように周辺環境の変化によっても変動する。従って、運用時においては、軌道電圧5が変動した場合に列車9が在線状態か、或いは非在線状態かを精度よく検知するためには、しきい値(Vo)を周辺環境の変化に合わせて追従させる必要がある。すなわち、周辺環境の変動を自動で判断し、しきい値(Vo)のレベルを再設定する。これにより、軌道レベルの変動に対して周辺環境による要因を排除し、列車が在線状態か非在線状態かを判断することができる。
【0040】
まず、しきい値(Vo)の初期設定を行う。すなわち、軌道電圧5のサンプリングを行い(S1)、このサンプリング値からリレー6の動作又は落下を判定するしきい値(Vo)を初期設定する(S2)。以上によりしきい値(Vo)の初期設定が完了し、列車の運行の際のしきい値(Vo)の運用について説明する。
【0041】
まず、軌道電圧5のサンプリングを行う(S3)。このサンプリング値がしきい値(Vo)以上か否かを判断し(S4)、しきい値(Vo)以上であれば列車は非在線状態であると判断し、このサンプリング値を、図7に示す列車検知しきい値記憶部(17a,17b)に記憶する(S5)。一方、このサンプリング値がしきい値(Vo)以下であれば、列車は在線状態であると判断し、この追従動作を中止し(S6)、軌道電圧のサンプリング(S3)に戻る。
【0042】
次に、記憶されているしきい値が、一定時間以上記憶されているか否かを判断し(S7)、記憶が一定時間未満の場合は、サンプリング動作を継続し(S8)、軌道電圧のサンプリング(S3)に戻る。一方、列車検知しきい値記憶部(17a,17b)の記憶が一定時間以上である場合には、任意の時間間隔であるN秒間のサンプリング値の平均を整数で四捨五入する(S9)。そして、その四捨五入した値を記憶する(S10)。列車検知しきい値記憶部(17a,17b)が一定時間記憶されていないということは、記憶情報が蓄積されていないことであり、軌道レベル変動の原因となる外的要因が環境によるものなのか、或いは、列車によるものなのかが判断できない。従って、状態遷移してから一定時間は、記憶情報が蓄積されるまでは前回値との比較は行わず軌道電圧のサンプリングを継続する。
【0043】
さらに、記憶した値が前回の値と同じか否かを判断し(S11)、前回の値と異なる場合は、図7に示す現在の列車検知しきい値記憶部(17a,17b)に記憶値を新規に動作又は落下しきい値として再設定する(S12)。一方、前回の記憶値と同じ場合には、動作又は落下しきい値は更新しない(S13)。
【0044】
図5に、リレー6の設置から設定完了までをフロー図で示す。フロー図の各ステップは記号S1~S7で示す。本図を図12に示す従来の機械式軌道リレー100におけるリレー106の設置から調整完了までのフロー図と比較すると、設置環境に左右されずに設置作業が可能であることが分かる。
【0045】
まず、リレー6を設置する(S1)。そして、リレー6の電源をONにし(S2)、設定スイッチをONにして初期化を行い(S3)、局部位相を判定する(S4)。すなわち、局部入力の立上げを判定し、局部入力を、例えば、8等分したスロットを設定する。次に、これにより、軌道電圧5と局部電圧4との位相差θが判定できる。軌道電圧5をサンプリングする(S5)。軌道電圧5をスロットごとに平均化し、それぞれを比較して最大の値をピーク値とする。次に、動作または落下を判定するしきい値(Vo)を設定する(S6)。サンプリング値から判定用のしきい値を計算して設定する(S7)。
【0046】
図6に、設置環境の変動に対する設定完了までをフロー図で示す。フロー図の各ステップは記号S1~S4で示す。軌道電圧5の最大値(V)の変動に対し、しきい値(Vo)を自動追従させて判定する。
【0047】
積雪などの環境変動が発生すると軌道入力レベルが低下する(S1)。軌道電圧5をサンプリングする(S2)。次に、列車検知に用いるしきい値(Vo)を再設定する(S3)。つまり、軌道電圧5のサンプリングから判定用のしきい値(Vo)を計算して設定し(S3)、設定が完了する(S4)。
【0048】
図13に示す従来の再調整作業のフローと比較すると、軌道電圧5の最大値(V)の変動に対し、しきい値(Vo)を自動追従させて判定することで、従来の再調整作業における軌道電圧5及び位相差(θ)を調整する煩雑な作業を省略することができる。
【0049】
(論理演算の多重化)
図7に、軌道リレー1の論理演算部16a,16bの多重化を示す。中央処理装置6は、A系論理演算部16a及びB系論理演算部16bを有し、A系論理演算部16aには列車検知しきい値記憶部17aが、B系論理演算部16bには列車検知しきい値記憶部17bが備えられる。A系論理演算部16a及びB系論理演算部16bには、共に軌道電圧5及び局部電圧4が入力され、これらの情報に基づいてそれぞれが独立して演算を行う。設定された、列車検知に用いるしきい値(Vo)は、列車検知しきい値記憶部17a及び列車検知しきい値記憶部17bから読み込み、新たに設定した列車検知に用いるしきい値(Vo)は、列車検知しきい値記憶部17a及び列車検知しきい値記憶部17bに書き込む。A系論理演算部16a及びB系論理演算部16bの演算処理の結果は、それぞれ論理演算結果比較部19に伝送され、論理演算結果比較部19において比較される。
【0050】
すなわち、中央処理装置6は、演算処理の結果としきい値(Vo)との演算を行う二組の論理演算部16a,16bを有しており、双方の論理演算部16a,16bの結果が一致した場合にのみ、列車9が在線状態か非在線状態かを判定する。また、電源が落ちた際にはしきい値(Vo)を列車検知しきい値記憶部17a及び列車検知しきい値記憶部17bにそれぞれ記憶保持している。
【0051】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさ、及び配置関係については、本発明が理解、実施できる程度に概略的に示したものにすぎない。従って、本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 軌道リレー、2 局部電源、3 軌道回路、4 局部電圧、5 軌道電圧、5´ 軌道電圧のスロット平均値、6 中央処理装置又はリレー、7a,7b トランス(変圧器)、8 軌道電源、9 列車、10 局部入力立上判定部、11 スロット設定部、12 サンプリング部、13 スロットピーク検出部、14 列車在線判定部、15 アナログ/デジタル(A/D)変換部、16a A系論理演算部,16b B系論理演算部、17a,17b 列車検知しきい値記憶部、19 論理演算結果比較部、100 従来の機械式軌道リレー、101 軌道電源、102 局部電源、103 軌道回路、104 局部電圧、105 軌道電圧、106 (従来の)リレー、107 調整抵抗、108 調整トランス、109 (アラゴの)円盤、110 位相調整器、111 磁石、112 うず電流、113 回転軸、114 列車、θ 位相差、V,V,V (処理信号の)最大値、Vo (軌道電圧の)しきい値。
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