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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/02 20060101AFI20221125BHJP
   A61B 8/08 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
A61B8/02
A61B8/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018138563
(22)【出願日】2018-07-24
(65)【公開番号】P2020014595
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-01-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠原 英司
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-204759(JP,A)
【文献】特開2008-012047(JP,A)
【文献】特開2015-062550(JP,A)
【文献】特開2017-225477(JP,A)
【文献】特開2017-080230(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0113541(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胎児の超音波診断で使用される超音波診断装置であって、
ユーザーに保持された状態で母体の表面に当接され、超音波ビームを形成する超音波プローブと、
前記母体の表面に貼り付けられ、前記母体内の三次元空間から生体信号を観測するための複数の電極と、
前記超音波ビームの電子走査により形成されたビーム走査面から得られた二次元データに基づいて、前記母体内の胎児の心臓を表した超音波画像を形成する画像形成部と、
前記超音波画像に基づいて、前記胎児の心臓の運動周期に同期したゲート信号を生成するゲート信号生成部と、
前記母体内の三次元空間から取得された前記生体信号に対して前記二次元データに基づく前記ゲート信号を作用させることにより、前記生体信号から前記胎児についての胎児心信号を抽出する抽出部と、
前記超音波画像及び前記胎児心信号を表示する表示部と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記超音波プローブの位置及び姿勢の調整により前記ビーム走査面が前記胎児の心臓を横切った場合に前記胎児心信号が抽出される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記ゲート信号生成部は、
前記超音波画像の特徴量を演算する手段と、
前記特徴量の時間変化に基づいて前記ゲート信号を生成する手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記ゲート信号は、時間軸上において前記心臓の運動周期に従って並んだ複数のゲート波形を含み、
前記抽出部は、前記各ゲート波形を前記生体信号に対して乗算することにより、前記胎児心信号として、複数のピーク波形を抽出する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記胎児心信号に基づいて前記胎児の心拍数を演算する心拍数演算部を含み、
前記表示部に前記胎児の心拍数が表示される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項4記載の超音波診断装置において、
前記複数のピーク波形を評価して不良ピーク波形を特定する評価部を含み、
前記胎児心信号の表示に際して前記不良ピーク波形が識別表示される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
胎児の超音波診断で使用される超音波診断装置であって、
ユーザーに保持された状態で母体の表面に当接され、超音波ビームを形成する超音波プローブと、
前記母体の表面に貼り付けられ、前記母体内の三次元空間から生体信号を観測するための複数の電極と、
前記超音波ビームの電子走査により形成されたビーム走査面から得られた二次元データに基づいて、前記母体の断層画像を形成する画像形成部と、
前記二次元データに基づいて、前記胎児の心臓の運動周期に同期したゲート信号を生成するゲート信号生成部と、
前記母体内の三次元空間から取得された前記生体信号に対し、前記二次元データに基づく前記ゲート信号を作用させて、前記生体信号から前記胎児についての胎児心信号を抽出する抽出部と、
前記断層画像及び前記胎児心信号を表示する表示部と、
を含み、
前記ビーム走査面が前記母体内の胎児の心臓を横切っている場合には前記胎児心信号が表示され、前記ビーム走査面が前記母体内の胎児の心臓から外れた場合には前記胎児心信号が表示されなくなる、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置に関し、特に、母体から取得した生体信号の処理に関する。
【背景技術】
【0002】
産科の超音波診断においては、母体の表面に超音波プローブが当接され、その状態で超音波が送受波される。これにより、母体内の胎児を表す断層画像が表示される。その断層画像を通じて胎児が検査され、また胎児が計測される。胎児における循環器、特に心臓を計測する際には、胎児から心電信号又はそれに代わる信号を取得しそれを表示することが望まれる。
【0003】
特許文献1には、胎児について心電信号を測定する装置が開示されている。その装置は、母体に貼付された電極群及び超音波センサを備える。電極群は母体から生体信号を得るためのものであり、その生体信号には、胎児の心臓に由来する心電信号の他、母体の心臓に由来する心電信号、母体において生じた筋電信号等が含まれる。一方、超音波センサにより胎児の心臓から心拍周期信号が取得される。その心拍周期信号を利用することにより、生体信号から胎児の心電信号が抽出されている。特許文献1に記載された装置において、超音波センサは固定的に配置され、それは有意な指向性を有していない。母体内に複数の胎児が存在する場合、特定の胎児について心電信号を得ることはできない。それ以前に、特許文献1に記載された装置は、超音波画像及び心電信号の同時観察を行えるものではない。
【0004】
なお、本願明細書においては、胎児から得られた心電信号又はそれに相当する信号を胎児心信号と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-204759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、母体から取得された生体信号に含まれる胎児心信号を選択的に抽出できる超音波診断装置を提供することにある。あるいは、本発明の目的は、胎児心信号を表示できる超音波診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る超音波診断装置は、母体の表面に当接され、超音波ビームを形成する超音波プローブと、前記超音波ビームの電子走査により得られたデータに基づいて、前記母体内の胎児の心臓を表した超音波画像を形成する画像形成部と、前記超音波画像に基づいて、前記胎児の心臓の運動周期に同期したゲート信号を生成するゲート信号生成部と、前記母体から取得された生体信号に対して前記ゲート信号を作用させることにより、前記胎児についての胎児心信号を抽出する抽出部と、を含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る超音波診断装置は、ユーザーに保持された状態で母体の表面に当接され、超音波ビームを形成する超音波プローブと、前記超音波ビームの電子走査により形成されるビーム走査面から得られたデータに基づいて、前記胎児の心臓の運動周期に同期したゲート信号を生成するゲート信号生成部と、前記母体から取得された生体信号に対し、前記ゲート信号を作用させて、前記胎児についての胎児心信号を抽出する抽出部と、前記胎児心信号を表示する表示部と、を含み、前記ビーム走査面が前記母体内の胎児の心臓を横切っている場合には前記胎児心信号が表示され、前記ビーム走査面が前記母体内の胎児の心臓から外れた場合には前記胎児心信号が表示されなくなる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、母体から得た生体信号に含まれる胎児心信号を選択的に抽出できる。あるいは、本発明によれば、胎児心信号を表示できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る超音波診断装置を示すブロック図である。
図2】胎児心信号抽出部の構成例を示すブロック図である。
図3】フィルタ処理を説明するための図である。
図4】胎児心信号の生成過程を示す図であって、ゲート信号の第1例を含む図である。
図5】胎児心信号の評価を説明するための図である。
図6】胎児心信号の表示例を示す図である。
図7】ボリュームデータに設定される観測面を示す図である。
図8】ゲート信号の第2例を示す図である。
図9】ゲート信号の第3例を示す図である。
図10】胎児心信号抽出部の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る超音波診断装置は、超音波プローブ、画像形成部、ゲート信号生成部、及び、抽出部を有する。超音波プローブは、母体の表面に当接され、超音波ビームを形成するものである。画像形成部は、超音波ビームの電子走査により得られたデータに基づいて、母体内の胎児の心臓を表した超音波画像を形成する。ゲート信号生成部は、超音波画像に基づいて、胎児の心臓の運動周期に同期したゲート信号を生成する。抽出部は、母体から取得された生体信号に対してゲート信号を作用させることにより、胎児についての胎児心信号を抽出する。
【0013】
上記構成は、母体内における画像化領域(例えばビーム走査面)が一部の領域であり、それ以外の領域は画像化されないという空間的選択性を利用して、生体信号から胎児心信号を抽出するものである。例えば、超音波プローブの位置及び姿勢の調整により、ビーム走査面が胎児の心臓を横切って、超音波画像としての断層画像上に胎児の心臓が現れた場合、胎児心信号が抽出される。上記構成によれば、母体内に複数の胎児が存在している場合、胎児ごとに胎児心信号を分離抽出することが可能となる。
【0014】
上記構成において、超音波プローブは、ユーザーによって保持される。スタンド等によって超音波プローブが保持されてもよい。超音波画像は典型的には断層画像である。組織の運動又は時間的な変化を示す他の超音波画像が形成されてもよい。生体信号に対してゲート信号が乗算されてもよいし、ゲート信号の乗算以外の方法で、生体信号から胎児心信号が抽出されてもよい。
【0015】
実施形態において、ゲート信号生成部は、超音波画像の特徴量を演算する手段と、特徴量の時間変化に基づいてゲート信号を生成する手段と、を含む。特徴量は、心臓の拍動に伴って変動するものであり、例えば、心腔面積、輝度総和、輝度平均値、フレーム間差分、その他である。特徴量の時間変化に基づいて、周期的に生じる基準時相(例えば拡張末期)を順次特定し、それらの基準時相に基づいてゲート信号が生成されてもよい。
【0016】
実施形態において、ゲート信号は、時間軸上において胎児の心臓の運動周期に従って並んだ複数のゲート波形を含み、抽出部は、各ゲート波形を生体信号に対して乗算することにより、胎児心信号として、時間軸上において並ぶ複数のピーク波形を抽出する。この構成によれば、個々のゲート波形が重み関数として機能する。各ピーク波形は、胎児心信号において周期的に生じる部分を意味し、それは複数のピークを含み得る。
【0017】
実施形態に係る超音波診断装置は、更に、超音波画像及び胎児心信号を表示する表示部を含む。この構成によれば、胎児心信号を参照しながら超音波画像を観察することが可能となる。胎児心信号に基づいて胎児の心臓について心拍数演算等の計測が実行されてもよい。
【0018】
実施形態に係る超音波診断装置は、複数のピーク波形を評価して不良ピーク波形を特定する評価部を含み、胎児心信号の表示に際して不良ピーク波形が識別表示される。この構成によれば、ユーザーにおいて不良ピーク波形を認識することが可能となる。不良ピーク波形により、心疾患、抽出不良等が特定されてもよい。
【0019】
別の見方をすれば、実施形態に係る超音波診断装置は、ユーザーに保持された状態で母体の表面に当接され、超音波ビームを形成する超音波プローブと、超音波ビームの電子走査により形成されるビーム走査面から得られたデータに基づいて、胎児の心臓の運動周期に同期したゲート信号を生成するゲート信号生成部と、母体から取得された生体信号に対し、ゲート信号を作用させて、胎児についての胎児心信号を抽出する抽出部と、胎児心信号を表示する表示部と、を含み、ビーム走査面が母体内の胎児の心臓を横切っている場合には胎児心信号が表示され、ビーム走査面が母体内の胎児の心臓から外れた場合には胎児心信号が表示されなくなる、というものである。ゲート信号は、抽出信号、遮断信号、又は、フィルタ信号である。実施形態において、ゲート信号は時間軸上の信号であるが、周波数軸上の信号として構成することも考えられる。胎児心信号が周波数軸上において評価されてもよいし、それが時間軸上において評価されてもよい。
【0020】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る超音波診断装置の構成がブロック図として示されている。超音波診断装置は、病院等の医療機関に設置され、生体に対する超音波の送受波により得られた受信データに基づいて超音波画像を形成する医療用の装置である。実施形態に係る超音波診断装置は、産科において、胎児の超音波診断を行う装置であり、胎児心信号を測定及び表示する機能を備えている。胎児心信号は、既に説明したように、心電信号そのものであってもよいし、心電信号に相当する信号であってもよい。例えば、胎児から得られた生体信号であって各心拍期間における拡張末期等を特定可能な信号であってもよい。
【0021】
超音波プローブ10は、超音波を送受波する手段又は送受波器として機能するものである。超音波プローブ10は、ユーザー(医師、検査技師等)によって保持される。胎児の超音波診断に際しては、超音波プローブの10の送受波面(音響レンズ表面)が被検者である母体12における腹部表面に当接され、その状態で超音波が送受波される。その際には、断層画像の観察を行いながら、母体12上において超音波プローブの位置及び姿勢が調整される。
【0022】
超音波プローブ10は、一次元配列された複数の振動素子からなる振動素子アレイを備えている。振動素子アレイによって超音波ビーム14が形成され、超音波ビーム14の電子走査により走査面(ビーム走査面)16が形成される。走査面16は母体12内の三次元空間の中に設定される観測面であり、換言すれば、二次元データ取込領域である。超音波ビームの電子走査方式として、電子セクタ走査方式、電子リニア走査方式等が知られている。超音波ビームのコンベックス走査が行われてもよい。超音波プローブ内に2D振動素子アレイを設け、生体内からボリュームデータが取得されてもよい。通常、走査面16の電子的又は機械的な走査により、ボリュームデータが取得される。
【0023】
超音波ビーム14は、送信ビーム及び受信ビームを総合したビームであり、空間的に絞り込まれた線状の形態を有する。そのような超音波ビーム14の電子走査によって形成される走査面16は平面状の領域である。走査面16の厚みは薄く、走査面16は平面として観念され得る。走査面16に属する情報だけを観測でき、つまり走査面16を外れたところからの情報を観測できないという意味において、走査面16は空間的選択性を有する。すなわち、対象組織が走査面を横切る場合に後述する断層画像上に対象組織の断面が現れ、一方、対象組織が走査面から外れる場合に断層画像上には対象組織の断面は現れなくなる。
【0024】
なお、超音波プローブ10は、振動素子アレイを備えたプローブヘッド、そこから引き出されたケーブル、その端部に設けられたコネクタを有する。そのコネクタが超音波診断装置本体側のコネクタに接続される。プローブヘッドが可搬型の送受波器を構成し、それがユーザーによって保持される。
【0025】
図示された例では、母体12内に、複数の胎児18,20が存在している。複数の胎児18,20内の心臓が符号18A,20Aで示されている。図示の例では、走査面16が心臓18Aを横切っており、走査面16には心臓18Aの断面が含まれる。走査面16はもう一方の心臓20Aから外れている。
【0026】
母体12から生体信号を観測するため、母体12の表面には、複数の電極22A,22Bが貼付されている。各電極22A,22Bは基本的に指向性を有していない。複数の電極22A,22Bからの複数の検出信号が生体信号測定ユニット24へ与えられている。生体信号測定ユニット24は、複数の検出信号に基づいて生体信号を生成する。生体信号は、アナログ信号又はデジタル信号として、後述する胎児心信号抽出部34へ送られている。生体信号は、一般に、胎児18,20の心電信号、母体12の心電信号、母体12の筋電信号、母体の呼吸に由来する信号、子宮内での胎児18,20の動きに由来する信号、等の様々な信号を含む。生体信号測定ユニット24において、それらの信号の内で、特定の信号(例えば母体12の心電信号)が除去されてもよい。
【0027】
送信部26は、送信時において、複数の振動素子に対して複数の送信信号を並列的に供給する送信ビームフォーマーであり、それは電子回路として構成される。受信部28は、受信時において、複数の振動素子から並列的に出力される複数の受信信号を整相加算(遅延加算)する受信ビームフォーマーであり、それは電子回路として構成される。受信部28は、複数のA/D変換器、検波回路等を備えている。受信部28での複数の受信信号の整相加算によりビームデータが生成される。ちなみに、1回の電子走査当たり、電子走査方向に並ぶ複数のビームデータが生成され、それらが受信フレームデータを構成する。個々のビームデータは深さ方向に並ぶ複数のエコーデータにより構成される。受信部28の後段にはビームデータ処理部が設けられているが、それは図示省略されている。
【0028】
画像形成部30は、入力される受信フレームデータに基づいて、断層画像(Bモード断層画像)を形成する電子回路である。それはDSC(Digital Scan Converter)を有している。DSCは、座標変換機能、補間機能、フレームレート変換機能等を有し、ビーム走査方向に並ぶ複数のビームデータつまり受信フレームデータに基づいて断層画像を形成する。断層画像のデータが表示処理部32へ送られている。
【0029】
胎児心信号抽出部34は、母体から取得された生体信号に含まれる特定成分である胎児心信号を抽出する電子回路である。胎児心信号抽出部34が1又は複数のプロセッサによって構成されてもよい。胎児心信号抽出部34が有する機能の一部又は全部が後述するCPU及びプログラムによって実行されてもよい。すなわち、胎児心信号抽出部34はハードウエアの機能として又はソフトウエアの機能として実現され得る。
【0030】
胎児心信号抽出部34は、画像形成部30が形成した断層画像(正確には断層画像列)に基づいて、生体信号から胎児心信号を抽出するものである。その具体的な処理内容については、図2以降の各図に基づいて詳述する。例えば、胎児心信号は、心電信号そのものであってもよいし、心電信号中のR波等の代表的ピークを表す信号であってもよい。胎児心信号抽出部34での抽出方法、抽出処理の際の周波数特性等によって胎児心信号の波形は変わり得る。
【0031】
心拍数演算部36は、胎児心信号に基づいて心拍数を演算し、それを示すデータを表示処理部32へ出力する電子回路である。それが1又は複数のプロセッサによって構成されてもよい。
【0032】
表示処理部32は、グラフィック画像生成機能、カラー演算機能、画像合成機能等を有する。具体的には、表示処理部32は、断層画像と胎児心信号の波形とを含む表示画像を生成し、それを示す信号を表示器38へ出力する。これにより、表示器38の画面上には断層画像及び胎児心信号が表示される。断層画像は動画像として表示され、胎児心信号はスクロール方式又はムービングバー方式で表示される。後述するように、胎児心信号中に不良ピーク波形が含まれている場合、それが識別表示される。表示器38は、LCD、有機EL表示デバイス等によって構成される。
【0033】
制御部40は、図1に示されている各構成の動作を制御するものである。制御部40は、実施形態において、CPU及びプログラムによって構成される。制御部40に接続された操作パネル42は入力デバイスであり、それは複数のスイッチ、複数のボタン、トラックボール、キーボード等を有する。断層画像と共に又はそれに代えて、断層画像以外の超音波画像(例えば二次元血流画像)が形成されてもよい。
【0034】
図2には、胎児心信号抽出部34の構成例がブロック図として示されている。生体信号は、フィルタ部としてのBPF(バンドパスフィルタ)50に入力され、そこにおいて生体信号における特定の周波数帯域内の成分が抽出される。特定の周波数帯域は、胎児の心電信号が含まれる周波数帯域である。BPF50から出力された生体信号がゲート処理部54に入力されている。BPF50の前に必要に応じてA/D変換器が設けられる。
【0035】
一方、断層画像(断層画像データ)が特徴量演算部44に入力されている。特徴量演算部44は、断層画像ごとにその特徴量を演算するものである。特徴量として、画像全体についての又は画像中の関心領域についての輝度総和又は輝度平均値が演算される。他の特徴量として、心腔面積、基準フレームに対するフレーム間輝度差分、その他が演算されてもよい。特徴量演算部44から特徴量の時間変化を表すグラフが出力される。特徴量は心臓の周期的な拍動すなわち心臓の周期的な変化を示す情報である。
【0036】
基準時相検出部46は、例えば、上記グラフにおいて周期的に生じるピークを検出する回路である。例えば、特徴量として輝度総和又は輝度平均値を採用した場合、各ピークが拡張末期に相当する。すなわち、基準時相として拡張末期が特定される。他の時相が基準時相とされてもよい。
【0037】
ゲート信号生成部48は、各心拍の基準時相に基づいて心拍ごとにゲート波形を生成する。時間軸上において周期的に並ぶ複数のゲート波形によってゲート信号が構成される。個々のゲート波形は、実施形態において、重み関数として機能する。
【0038】
ゲート処理部54は、入力されるフィルタ処理後の生体信号に対してゲート信号を乗算することにより、胎児心信号を生成するものである。胎児心信号は時間軸上において周期的に並ぶ複数のピーク波形により構成される。各ピーク波形は、心電信号に含まれる1又は複数の固有ピークを含むものである。
【0039】
評価部56は、胎児心信号を構成する複数の信号波形をピーク波形単位で評価するものであり、不良ピーク波形が判定された場合に、それが識別表示されるように、表示処理部へ所定の信号を出力する。
【0040】
次に、図3乃至図6に示される具体例を参照しながら、胎児心信号の生成及び評価について説明する。
【0041】
図3において、(A)には母体から取得された生体信号の一例が示されている。そこには、多様な信号成分が含まれる。(B)にはBPFによるフィルタ処理後の生体信号が例示されている。図示の例では、第1の胎児についての胎児心信号と第2の胎児についての胎児心信号とが混ざり合った信号が得られている。複数の区間58内の複数の部分が観察対象とされた胎児についての胎児心信号を構成するが、この段階ではそれは未分離状態にある。
【0042】
図4において、(A)には特徴量信号が例示されている。例えば、特徴量は画像の輝度総和として又は輝度平均値として求められる。それは心臓の拍動に伴って周期的に変動し、グラフを構成する。特徴量信号に含まれる複数のピーク60が検出される。各ピーク60は例えば拡張末期等の基準時相に相当する。各心拍の基準時相に基づいて、心拍ごとにゲート期間が設定される。具体的には(B)にはゲート信号が例示されている。ゲート信号は複数のゲート期間に対応する複数のゲート波形62を含み、各ゲート波形62は重み関数として機能する。各ゲート波形62の始期及び終期が基準時相を基準として定められる。図4においてt1は基準時相からゲート波形の開始点までの期間を示しており、t2はゲート波形の開始点からその終了点までの期間を示している。それが基準時相によって直接的に定義されてもよい。(B)に示されているゲート信号はその第1例であり、個々のゲート波形62は山状の形態を有している。(C)にはフィルタ処理後の生体信号が示されている。符号64で示されるように、生体信号に対してゲート信号が乗算される。これによって(D)に示されている胎児心信号が生成される。この処理によれば、フィルタ処理後の生体信号に2つの胎児心信号が含まれていても、その内の一方の胎児心信号を抽出することが可能である。胎児心信号の選択は、走査面の位置及び姿勢の変更によって行われる。
【0043】
図5には、胎児心信号の評価方法が例示されている。(A)には胎児心信号が示されている。それは時間軸上において並ぶ複数のピーク波形からなる。個々のピーク波形ごとに、つまり個々の心拍ごとに、(B)で示されるように、周波数解析が実行される。具体的には、(B)には、周波数解析後の複数のスペクトル66a~66dが示されている。各スペクトル66a~66dは規格化されている。(C)に示されているように、各スペクトル66a~66dが(D)に示されている基準スペクトル68と比較される。その比較結果に基づいて、個々のピーク波形が不良であるか否かが判定される。例えば、スペクトル66cの幅はかなり狭く、それと基準スペクトル68とを比較した場合、比較的に大きな差分70が生じる。そのような差分70に基づいてピーク波形の不良が判定される。時間軸上においてピーク波形と基準波形とが比較されてもよい。
【0044】
図6には、表示例が示されている。表示画面72内には断層画像74が含まれ、その断層画像74には胎児の心臓の断面76が含まれる。実施形態において、断層画像74と共に、そこに現れている胎児の胎児心信号78を波形として表示することが可能である。そこに不良ピーク波形80が含まれている場合、それが識別表示される。例えば、不良ピーク波形80は、特別な色相、特別な輝度等で表示される。表示画面72内には、胎児の心拍数82が数値として表示されている。
【0045】
上記実施形態によれば、走査面を特定の胎児の心臓に位置合わせするだけで、その胎児についての胎児心信号を生成してそれを波形として観察することが可能である。つまり、胎児の心臓を表す断層画像と共にその胎児についての胎児心信号を表示して、診断の便宜を図ることが可能となる。
【0046】
上記実施形態においては、心臓に対して走査面が位置決めされ、走査面の空間的選択機能を利用して、胎児心信号がリアルタイムで表示される。これに代えて、図7に示されているように、既に取込み済みの又はリアルタイムで取得されたボリュームデータ84に対して観測面86を設定し、その観測面86内の二次元データを断層画像として表示するようにしてもよい。その場合、観測面86は胎児の心臓を横切るように設定される(符号88は心臓の断面を示している)。そのような変形例においても特徴量信号からゲート信号を生成することが可能であり、そのゲート信号を利用して生体信号から胎児心信号を抽出することが可能である。
【0047】
図8には、ゲート信号の第2例が示されている。そのゲート信号は時間軸上において周期的に存在する複数のゲート波形90からなり、個々のゲート波形は矩形である。図9には、ゲート信号の第3例が示されている。この第3例では、個々のゲート波形は台形の形態を有している。いずれの信号波形も重み関数として機能する。第1例及び第3例によれば、個々の信号波形がその両端にかけてなだらかに下がった形態を有しており、それは周波数解析において時間窓関数としても機能する。
【0048】
図10には、胎児心信号抽出部の動作がフローチャートとして示されている。そこには順次実行される複数の工程が示されているが、実際には個々の工程は並列的に実行され得るものである。
【0049】
S10では、母体から得られた生体信号がフィルタ処理され、これによって不要な周波数成分が除去される。S12では、断層画像の特徴量が演算される。S14では特徴量信号に基づいて基準時相が検出される。S16では基準時相に基づいてゲート信号が生成される。S18では、フィルタ処理後の生体信号に対してゲート信号が乗算され、これによって胎児心信号が生成される。S20ではその胎児心信号がピーク波形単位で評価される。S22で本処理の終了が判定されるまで、上記各工程が繰り返し実行される。他の胎児を診断したい場合、走査面がその胎児の心臓に対して位置合わせされる。すると、今まで表示されていた断層画像及び胎児心信号がいったん消失し、当該他の胎児の断層画像が表示され、同時に、当該他の胎児の胎児心信号が表示される。
【0050】
以上のように、実施形態によれば、走査面(又は観測面)の空間的選択性を利用して、空間的選択性を有しない生体信号から胎児の胎児心信号を抽出することが可能となる。その際においてユーザーは超音波プローブを操作するだけでよいという利点を得られる。
【符号の説明】
【0051】
10 超音波プローブ、14 超音波ビーム、16 走査面、18,20 胎児、24 生体信号測定ユニット、34 胎児心信号抽出部。
図1
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図7
図8
図9
図10