(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】田植機
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20221125BHJP
A01C 11/02 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
A01B69/00 303M
A01C11/02 350H
(21)【出願番号】P 2018176047
(22)【出願日】2018-09-20
(62)【分割の表示】P 2014131497の分割
【原出願日】2014-06-26
【審査請求日】2018-10-19
【審判番号】
【審判請求日】2021-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】直本 哲
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和正
(72)【発明者】
【氏名】宮西 吉秀
【合議体】
【審判長】前川 慎喜
【審判官】奈良田 新一
【審判官】西田 秀彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-209271(JP,A)
【文献】特開平11-299316(JP,A)
【文献】特開2001-22460(JP,A)
【文献】特開2003-40057(JP,A)
【文献】特開2009-202762(JP,A)
【文献】特開2002-195840(JP,A)
【文献】特開平11-89351(JP,A)
【文献】特開2004-8186(JP,A)
【文献】特開2010-154146(JP,A)
【文献】特開2007-248336(JP,A)
【文献】特開2008-92818(JP,A)
【文献】特開2004-154012(JP,A)
【文献】特開2006-56280(JP,A)
【文献】米国特許第5666792(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
A01C 11/00-11/02
B62D 25/06
G05D 1/00-1/02
G01S 5/00-5/14, 19/00-19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位衛星からの電波信号を、受信ユニットが有するアンテナで受信し、走行車体の位置情報を取得する測位システムを備え、
予備苗載台を支持する予備苗載台フレームを備え、
前記予備苗載
台フレームとは別の支持フレームが備えられ、
前記支持フレームに、上下方向に延びる縦フレーム部と、側面視で前記縦フレーム部から後方に延びる後方延出部とが設けられて、
側面視で、前記縦フレームの下端部がステアリングホイールの前端部よりも前方に位置し、前記縦フレームの上端部が前記縦フレームの前記下端部よりも後方に位置し、前記縦フレームの前記後方延出部が前記縦フレームの前記上端部から後方に延出し、
前記アンテナが、側面視で前記走行車体の後車輪の車軸よりも前側の位置で、且つ、前記走行車体に設けられた運転座席の上端部よりも高い位置
で、且つ、前記予備苗載台フレームの上端よりも高い位置に配置されるように、前記後方延出部に支持されている田植機。
【請求項2】
前記後方延出部が、前記運転座席よりも高い位置に配置されている請求項1に記載の田植機。
【請求項3】
前記縦フレーム部が、左右一対設けられている請求項1
又は2に記載の田植機。
【請求項4】
前記縦フレーム部が、前記走行車体に設けられたボンネットの側部位置に立設されている請求項
3に記載の田植機。
【請求項5】
前記受信ユニットがジャイロセンサを有し、前記ジャイロセンサが前記アンテナと一体的に設けられている請求項1~
4のいずれか一項に記載の田植機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測位衛星からの電波信号を受信することにより走行車体の位置情報を取得するように構成された田植機に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成された水田作業機として特許文献1には、GPS装置により計測される位置情報に基づいて自律走行する技術が示されている。
【0003】
特許文献1では、走行車体に備えたGPSアンテナでGPS衛星(測位衛星)からの電波信号を受信する状態でティーチングを行うことにより基準線を設定し、この基準線に平行となる目標経路を設定する。この設定の後には、GPS衛星(測位衛星)からの電波信号を受信する状態で目標経路上に自律走行させる形態で田植作業を行えるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記のような水田作業機において、測位衛星からの電波信号を良好に受信する田植機を構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の特徴は、測位衛星からの電波信号を、受信ユニットが有するアンテナで受信し、走行車体の位置情報を取得する測位システムを備え、予備苗載台を支持する予備苗載台フレームを備え、前記予備苗載台フレームとは別の支持フレームが備えられ、前記支持フレームに、上下方向に延びる縦フレーム部と、側面視で前記縦フレーム部から後方に延びる後方延出部とが設けられて、側面視で、前記縦フレームの下端部がステアリングホイールの前端部よりも前方に位置し、前記縦フレームの上端部が前記縦フレームの前記下端部よりも後方に位置し、前記縦フレームの前記後方延出部が前記縦フレームの前記上端部から後方に延出し、前記アンテナが、側面視で前記走行車体の後車輪の車軸よりも前側の位置で、且つ、前記走行車体に設けられた運転座席の上端部よりも高い位置で、且つ、前記予備苗載台フレームの上端よりも高い位置に配置されるように、前記後方延出部に支持されている点にある。
【0007】
【0008】
本発明は、前記後方延出部が、前記運転座席よりも高い位置に配置されても良い。
【0009】
【0010】
【0011】
【0012】
本発明は、前記縦フレーム部が、左右一対設けられても良い。
【0013】
【0014】
本発明は、前記縦フレーム部が、前記走行車体に設けられたボンネットの側部位置に立設されても良い。
【0015】
本発明は、前記受信ユニットがジャイロセンサを有し、前記ジャイロセンサが前記アンテナと一体的に設けられても良い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】第1参考形態の田植機の走行車体の正面図である。
【
図4】第1参考形態の田植機の走行車体前部の斜視図である。
【
図5】第1参考形態のステアリング操作系の概略図である。
【
図6】第1参考形態の測位・自動操舵走行システムのブロック回路図である。
【
図7】第1参考形態のコンソールのモニタ部と操作パネル部とを示す図である。
【
図9】本発明の実施形態の田植機の全体側面図である。
【
図10】第
2参考形態の田植機の全体側面図である。
【
図11】第
3参考形態の田植機の全体側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を明確にする為の第1~第
3参考形態を
図1~図
7及び
図10~
図11に基づいて説明しており、図
8、9に基づいて本発明の実施形態を説明している。
(第1参考形態)〔田植機の全体構成〕
図1~
図3に示すように、左右一対の前車輪1と左右一対の後車輪2とを有する走行車体Aの中央部に運転座席3を備え、走行車体Aの後端に油圧シリンダ4の伸縮作動により昇降作動するリンク機構Lを介して昇降自在に苗植付装置B(水田作業装置の一例)を備えて水田作業機としての乗用型の田植機が構成されている。
【0018】
この田植機は、走行車体Aの前部位置のボンネット5にエンジン6が収容され、走行車体Aの中央位置にはエンジン6からの駆動力をミッションケース7で変速して左右の前車輪1と左右の後車輪2とに伝える走行伝動系を備えている。また、走行車体Aには、ミッションケース7からの駆動力を伝動軸8により苗植付装置Bに伝える作業伝動系を備えている。ミッションケース7には伝動軸8に伝えられる駆動力を断続する植付クラッチCを内装している。
【0019】
運転座席3の右側部には苗植付装置Bの昇降と植付クラッチCの断続とを行う昇降レバー10が配置され、ボンネット5の後部で運転座席3の前方には前車輪1を操向操作するステアリングホイール11が配置されている。このステアリングホイール11の左側部には、走行速度を設定する主変速レバー12が備えられ、このステアリングホイール11の右側部には苗植付装置Bの強制的な昇降と、昇降に連係して植付クラッチCの断続操作とを行う強制昇降レバー13が備えられている。
【0020】
苗植付装置Bは、水田作業装置の一例であり、リンク機構Lの後端に連結され伝動軸8の駆動力が伝えられる伝動ケース21と、複数の整地フロート22と、マット状苗を載置する苗載台23と、伝動ケース21からの駆動力で作動するロータリ式の植付アーム24とを備えて8条用に構成されている。
【0021】
ボンネット5の先端位置に支柱状となるセンターマスコット14が備えられている。また、苗植付装置Bの左右両側部には、作用姿勢と格納姿勢とに切換自在にマーカ装置が備えられている。マーカ装置は、苗植付装置Bに対して前後向き姿勢の揺動軸を中心に揺動自在に支持されたマーカアーム26と、このマーカアーム26の揺動端に回転自在に支持され、外周に複数の突起が形成されたマーカリング27とで構成されている。
【0022】
マーカアーム26が
図1に示す作用姿勢に設定されることによりマーカリング27の外周が圃場面に接触し、走行車体Aの走行に伴い回転することにより圃場面に対して次の走行の中心となる凹状のマークが連続的に形成される。これにより、マーカリング27によって圃場面に凹状のマークを形成しておくことにより、走行車体Aを旋回させて苗植付作業を継続する場合には、センターマスコット14を、圃場面のマークに対して視覚的に照準する形態でステアリング操作を行うことにより、既植苗の列を基準にして最適となる位置に対する苗の植付が可能となる。
【0023】
作業姿勢にあるマーカアーム26は、苗植付装置Bの上昇に連動して格納姿勢に切換られ、この格納姿勢にロックされる。そして、昇降レバー10を下降位置に操作した状態で左右方向へ操作することにより、対応する側のマーカアーム26のロックが解除され、作用姿勢に切換られる。
【0024】
この田植機では、苗植付け作業を行う場合には、昇降レバー10の操作で整地フロート22が接地するレベルまで苗植付装置Bを下降させ、植付クラッチCを入り操作して走行車体Aを走行させることになる。これにより、整地フロート22が苗植付け箇所の泥面を整地する状態で、走行車体Aから伝えられる駆動力で苗載台23を左右方向に往復作動させ、この往復作動時に苗載台23に載置されたマット状苗の下端から複数の植付アーム24の植付爪が苗を所定量ずつ切り出して圃場に植え付ける作動が行われる。そして、必要な場合にはマーカ装置により圃場面に凹状マークを形成することになる。
【0025】
特に、本発明の田植機では、苗植付け作業時における走行経路をGNSS(Global Navigation Satellite Systems)として構成される測位システムにより取得し、記憶しておき、記憶した経路に平行する目標走行経路として設定することが可能である。このように目標走行経路を設定した後には、目標走行経路に沿って走行車体Aを自動操舵走行させることも可能に構成されている。
【0026】
尚、この田植機では、目標走行経路が設定された状況においても自動操舵走行させずに作業者がステアリングホイール11を操作する人為操舵走行で苗植付け作業を行えるようにも構成されている。このような理由から、マーカ装置を備えている。
【0027】
〔車体構成〕
この田植機では、走行車体Aの中央に運転座席3を有する運転部が形成され、この運転部の足元部位に運転部ステップ15が形成され、この左右の外側位置に補助ステップ15Aが形成されている。走行車体Aの前部のボンネット5の左右両側には運転部ステップ15に段差なく連なる乗降通路としての乗降ステップ16が形成されている。尚、乗降ステップ16は、走行車体Aの前端を畦に接近させ、畦と走行車体Aとの間での作業者の移動を容易にする。
【0028】
左右の後車輪2の上方を覆う位置に作業ステップ17が形成されている。この作業ステップ17は、後部フェンダーとしても機能するものであり、この作業ステップ17の中央の前部に運転座席3が配置され、この運転座席3の後方位置となる作業ステップ17の左右方向に延びる領域において、作業者が搭乗した状態で作業を可能にしている。
【0029】
作業ステップ17は、苗植付装置Bの苗載台23に対するマット状苗の補給を容易にするものであり、この作業ステップ17に搭乗する作業者を支えるように左右の支持フレーム体18Aの後端位置に手摺状となる横フレーム体18Bを連結した補助フレーム18が作業ステップ17に沿って形成されている。この補助フレーム18は、作業者が握るだけではなく、作業者の体の一部を接触させることで作業者の姿勢を安定させることが可能に構成されている。
【0030】
走行車体Aの前部位置には、左右の乗降ステップ16の外側において縦向き姿勢となる縦フレーム31と、この縦フレーム31の上端に連結する連結フレーム32と、その上端が縦フレーム31の中間部に連結し、左右の縦フレーム31に平行する姿勢となる補助縦フレーム33により門型となる支持フレーム部が備えられている。
【0031】
縦フレーム31にはパイプ材が用いられ、この縦フレーム31を屈曲することにより縦フレーム31の上端から車体内方に向けて延出する形態で連結フレーム32が一体形成されている。そして、夫々の連結フレーム32の延出端同士をブラケット42で連結することにより、左右の連結フレーム32が一体化している。尚、長尺のパイプ材を屈曲することにより左右の縦フレーム31と、これらを結ぶ連結フレーム32とを単一の部材で構成しても良い。
【0032】
この支持フレーム部は、正面視において門型に形成されるものであり、左右の縦フレーム31の下端を支持する前部支持フレーム31Aと、補助縦フレーム33の下端を支持する後部フレーム33Aとによって車体フレームに支持されている。
【0033】
この田植機では、縦フレーム31と、これに連結する補助縦フレーム33とに対して複数の予備苗載台34が支持されている。
【0034】
この構成により、左右に配置される複数の予備苗載台34と、左右の縦フレーム31と、補助縦フレーム33とは、乗降ステップ16の外方に配置されることになり、乗降ステップ16での作業者の移動に支障がない。
【0035】
〔メータパネル類〕
図4に示すように、ボンネット5の後端位置で、ステアリングホイール11の前方にはメータパネル36が配置されている。このメータパネル36には、バックライトを有する液晶表示部と複数の表示ランプとを備えることにより作業情報を表示できるように構成されている。液晶表示部には、アワーメータ、自動植付クラッチの状態、燃料残量、冷却水の水温等が表示される。また、複数の表示ランプとして、オイル切れランプ、チャージランプ、苗切れランプ、植付表示ランプ、あぜぎわクラッチランプ、マーカランプ等が備えられている。
【0036】
このメータパネル36として、液晶表示装置のみを備え、この液晶表示装置に対して作業情報の全てを表示するように構成しても良い。また、ランプだけではなく指針が作動するインジケータを備えても良い。
【0037】
ボンネット5の後部の左右両側部に下端が貫通して走行車体Aに連結する逆U字状のコンソール支持フレーム37が備えられ、これにコンソールDが支持されている。コンソール支持フレーム37は左右の側部フレーム体37Aと、これらの上端に連結する状態で形成される上部フレーム体37Bとで構成され、上端側ほど前方に変位する傾斜姿勢で備えられている。
【0038】
このコンソール支持フレーム37の左右の側部フレーム体37Aに連結する連結プレート40が備えられ、この連結プレート40の上端部を運転座席3の方向に突出するように屈曲して庇部41が一体形成されている。コンソールDは箱状に形成されるものであり、連結プレート40に支持されている。このような支持形態からコンソールDの上方から運転座席3の方向に向けて庇部41が突出する。ちなみに、コンソールDの左右の両側部には日除けとして機能するものは備えられていないが、コンソールDの左右の両側部に庇部41を備えても良い。これにより、モニタ部38に側方から射し込む太陽光を遮ることも可能となる。
【0039】
コンソールDは、前後方向視においてボンネット5の幅内で、ステアリングホイール11の幅内に配置され、モニタ部38の下端が、ステアリングホイール11の上端より上方となるように配置される。また、コンソール支持フレーム37が前述した傾斜姿勢で形成されているため、作業時には視線を前方から少し下げることによりコンソールDのモニタ部38を容易に視認して情報の把握が確実となり、コンソールDがセンターマスコット14の視認を妨げることもない。
【0040】
図7に示すように、コンソールDにおいて運転座席3と対向する面には液晶型で表示面にタッチパネル38Aを形成したモニタ部38と、操作パネル部39とが形成されている。操作パネル部39には電源ボタンのON・OFFや各種の操作を可能にするため複数の操作スイッチ39Aが設けられている。尚、操作パネル部39には操作スイッチ39Aの他に報知ランプを備えても良く、音声により情報を出力するスピーカを備えても良い。
【0041】
コンソールDのモニタ部38は、同図に示す如く、測位衛星からの電波を受信し自動操舵走行であることを示すモード表示部102と、目標走行経路に対応する目標走行経路ライン103と、ステアリングホイール11の操作が反映されるアイコン104と、速度表示部108とが形成されている。操作パネル部39の複数の操作スイッチ39Aは自動操舵走行に必要な情報等の入力を可能に構成されている。尚、モニタ部38の表示形態は後述する。
【0042】
〔コンソールの配置の変形例〕
この第1参考形態では、コンソールDをコンソール支持フレーム37に対して固定する構成であったが、これに代えて、コンソールDを横向き姿勢の軸芯を中心に揺動自在に支持し、揺動姿勢を保持するクランプ機構等を備えることで、このコンソールDを角度調節自在に支持しても良い。このように角度調節自在に支持することにより、運転座席3に着座する作業者の体格等に対応してコンソールDの角度を設定し、コンソールDに形成されるモニタ部38の表示の視認性を向上させることが可能となる。
【0043】
また、変形例として、コンソールDの上端位置を、苗植付装置Bの苗載台23の上端より低い位置に配置する。このように配置することにより、予備苗載台34に載置されているマット状苗を苗載台23に補給する場合に、マット状苗がコンソールDに触れる不都合を低減して、苗補給を円滑に行わせる。
【0044】
〔測位・自動操舵走行システム〕
図3、
図4に示すように、支持フレーム部の連結フレーム32(受信ユニット支持部の一例)の左右方向での中央位置には、前述したブラケット42の上面に対して樹脂やアルミニウム等の非磁性材料で構成される支持プレート43が連結固定されている。この支持プレート43の上面に対して非磁性材料として可撓性を有する合成ゴム製の支持部材44を備え、これに乗せ付ける状態で受信ユニット45が支持されている。
【0045】
図6に示すように、受信ユニット45は、複数の測位衛星からの電波信号を受信するアンテナ45Aと、地磁気から方位を検知する磁気コンパス45B(方位センサの一例)と、走行車体Aの姿勢変化を慣性により捉えるジャイロセンサ45Cとが内蔵されている。
この構成では、受信ユニット45が走行車体Aの前部位置に配置されるため、走行車体Aが走行方向を変更した場合には、走行車体Aの後端側と比較して横方向への変位量が大きく、位置情報の変化を高感度で検知できる。
【0046】
田植機を構成する鋼材は、製造時や加工時に一部が磁化することもあり、例えば、連結フレーム32が磁化した場合には、連結フレーム32から磁気コンパス45Bに磁気が作用し、地磁気の検知精度を低下させることもあった。このような理由から支持部材44として所定の厚みを有する非磁性材料が用いることにより連結フレーム32等と磁気コンパス45Bとの距離を拡大して磁気の影響を抑制している。また、この支持部材としては、合成ゴムの他に発泡ウレタンのように防振性を有するものの使用も可能である。
【0047】
コンソールDには、測位衛星からの電波信号を受信することにより位置情報を取得する受信回路46と、制御ユニット47とを備えている。受信回路は、GNSS(Global Navigation Satellite Systems)により、3つ以上の測位衛星からの電波信号に基づき地球上における緯度、経度、高度とを取得する。この受信ユニット45とコンソールDとを備えて測位システムが構成されている。
【0048】
制御ユニット47は、ソフトウエアで構成されるティーチング処理部47Aと、走行経路判定部47Bと、走行制御部47Cとを備えている。この制御ユニット47はモニタ部38に情報を出力すると共に、タッチパネル38Aからの情報を取得する。また、この制御ユニット47はステアリング制御ユニット48に制御情報を出力する。
【0049】
この第1参考形態では、コンソールDの内部に受信回路46を備えているが、この受信回路46を受信ユニット45の内部に備えても良い。また、ティーチング処理部47Aと、走行経路判定部47Bと、走行制御部47Cとの少なくとも何れか1つをロジックICのハードウエアで構成することや、ハードウエアとソフトウエアとの組み合わせによって構成しても良い。
【0050】
図5に示すように、ステアリングホイール11に連結するステアリング軸51からの操作力を左右の前車輪1に伝えるパワーステアリングユニット52がミッションケース7の上面に支持されている。ミッションケース7の下面には、パワーステアリングユニット52の駆動力により作動するピットマンアーム53が形成されている。
【0051】
ステアリング軸51の下端部近傍には、作動ギヤ54が固設され、これに咬合するピニオンギヤ55を駆動するステアリング制御モータ56を備えている。更に、ステアリング軸51の下端部には回転量を計測するロータリエンコーダ57が備えられている。
【0052】
尚、このステアリング操作系では、ステアリング軸51の前部や側部にステアリング制御モータ56を備えることにより、ボンネット5の内部を有効利用し、運転座席3の下方に張り出す空間を形成しないで済むように構成している。
【0053】
この田植機では、圃場の一方の畦から他方の畦との間において作業者の人為操舵で田植機を走行させ、この走行時の走行経路を制御ユニット47のティーチング処理部47Aが取得し、この走行経路から目標走行経路を生成して記憶できるように構成されている。
【0054】
走行経路は、制御ユニット47において直線として認識され、目標走行経路は、走行経路と平行する姿勢となるように8条の苗植付幅に対応した間隔で複数設定される。このように複数の目標走行経路が設定された後には、自動操舵走行を選択することにより、測位システムからの情報に基づき、走行経路判定部47Bが目標走行経路との誤差を判定し、走行制御部47Cがステアリング制御モータ56を制御する形態で目標走行経路に沿って走行車体Aを自動操舵走行させる制御を実現している。
【0055】
尚、目標走行経路に沿って走行車体Aを自動操舵走行させる場合において、作業者がステアリングホイール11を操作することにより走行経路の修正も可能に構成されている。
また、走行経路判定部47Bは、最初に、走行経路(人為操舵走行により最初に走行した経路)に隣接する目標走行経路に沿って走行車体Aを走行させ、次に、これに隣接する目標走行経路に沿って走行車体Aを走行させるように制御形態が設定されている。
【0056】
〔測位・自動操舵走行システム:コンソールの表示形態〕
自動操舵走行時には、
図7に示すように、コンソールDのモニタ部38に自動操舵走行画面が表示されると共に、この画面に対して複数の設定ボタン101と、モード表示部102とが表示される。設定ボタン101は、画面に指等を接触させることによりタッチパネル38Aを介して操作が検知されるものであり、各種の設定を実現する。モード表示部102には、自動操舵状態にあることを示す文字情報が表示される。
【0057】
この自動操舵走行画面では、画面の左右方向での中央位置に目標走行経路ライン103が表示されると共に、画面の中央位置に走行車体Aを示すアイコン104が表示され、このアイコン104を基準にして走行車体の走行方向のズレ角(偏角)を示す偏角ライン105と、ズレ量を角度で示すインジケータ部106とが表示される。
【0058】
モニタ部38の上部には、目標走行経路に対する走行車体Aのズレ量(偏差)を表示する偏差表示部107と、速度表示部108とが形成されている。偏差表示部107にはズレ量を示す数値と、ズレ量を視覚的にバーグラフ部とが形成される。速度表示部108には走行車体Aの走行速度が数値で表示される。また、ステアリング操作を行った場合には目標走行経路ライン103とアイコン104との相対的な角度が変化するように表示形態が設定されている。
【0059】
これにより、自動操舵走行を行う場合には、コンソールDの操作スイッチ39Aの操作によりシステムを起動し、操作スイッチ39Aあるいは設定ボタン101の操作によりティーチング可能な状態に移行し、人為操舵走行を行うことによりティーチング処理部47Aで走行経路が取得され、目標走行経路が設定される。この後に、自動操舵走行のモードに移行することにより、モニタ部38に対して前述した
図7の画面が表示され、目標走行経路に沿って走行する自動操舵走行が可能となる。
【0060】
尚、コンソールDのモニタ部38に表示される設定ボタン101の操作、あるいは、操作パネル部39の操作スイッチ39Aの操作により、メンテナンスモードに移行することも可能である。このメンテナンスモードでは磁気コンパス45B、ジャイロセンサ45C等のチェックや校正が可能となる。
【0061】
〔第1参考形態の作用・効果〕
このように、田植機では、目標走行経路が設定された状態で自動操舵走行を選択することにより、測位衛星からの電波信号が受信され、目標走行経路と、現在の走行車体Aの位置との誤差を判定し、この誤差を小さくする方向に制御を行う自動操舵走行が行われる結果、作業者によるステアリングホイール11の操作が不要となる。これにより、運転者は、走行車体Aを停車させることなく苗の補給を行えることになり、走行車体Aを停車させて苗補給を行う作業形態と比較して作業能率が向上する。
【0062】
特に、苗植付作業時には作業者がステアリングホイール11を操作して走行車体Aを走行させ、予備苗載台34のマット状苗を、苗植付装置Bの苗載台23に補給する場合にのみ、自動操舵走行を選択することも可能である。このような場合にも、走行車体Aを停車させる必要がなく、作業能率が向上する。
【0063】
また、予備苗載台34を支持する縦フレーム31の上端同士を連結する連結フレーム32を受信ユニット支持部として支持部材44を介して受信ユニット45を支持しているので専用のフレームを走行車体Aに備えなくとも、高い位置に受信ユニット45を配置して測位衛星からの電波信号を良好に受信できる。更に、支持部材44を用いることにより、磁気コンパス45Bと連結フレーム32との距離を拡大し、この連結フレーム32等から作用する磁気の影響を抑制して地磁気に基づいて走行車体の方向を方位センサとしての磁気コンパス45Bによって方位を高精度で検知できる。
【0064】
前後方向視においてコンソールDが、ボンネット5の幅内に収まり、ステアリングホイール11の幅にも収まっているため、作業者が乗降ステップ16を移動する場合にも、作業者の衣服等がコンソールDやステアリングホイール11に触れることがなく、乗降を容易に行える。
【0065】
また、運転座席3に着座した作業者の視線が向かう方向にコンソールDが配置されるため、コンソールDのモニタ部38の表示内容を視認する場合に視線を大きく移動させなくて済む。特に、太陽光が直接射し込む環境で作業を行う場合でも、庇部41が太陽光を遮るため、コンソールDのモニタ部38に表示される情報を正確に把握できる。
【0066】
〔本発明の実施形態〕
本発明は、上記した第1参考形態以外に以下のように構成しても良い。
【0067】
図8に示すように、走行車体Aの運転座席3の上方を覆うルーフ部材61と、フロントガラス62と、樹脂製の透明な壁体63とを有するキャノピー60を備える。尚、左右の壁体63のうち少なくとも一方には、開閉自在な扉が形成される。そして、ルーフ部材61を受信ユニット支持部材とし、このルーフ部材61に対して支持部材44を介して受信ユニット45を支持する。支持部材44は、非磁性材料として可撓性を有する合成ゴム等の材料が用いられる。
【0068】
キャノピー60としては、壁体63等によって閉じた空間を形成する必要はなく、例えば、壁体63の一部を備えない構成であっても良い。また、キャノピー60を備える対象は田植機に限るものではなく、走行車体Aの後端に播種装置を連結した播種機であっても良い。
【0069】
このようにルーフ部材61に支持部材44を介して受信ユニット45を支持することにより、受信ユニット45を高い位置に配置することが可能となり、その結果、測位衛星からの電波を遮られることなく受信することができる。また、支持部材44を介して受信ユニット45を支持しているので、ルーフ部材61の一部が磁化していても、この磁化した部分からの磁気の影響を抑制する。
【0070】
以下、本発明の実施形態について説明する。この場合、本発明の実施形態において第1~第
3参考形態と異なる部分について説明しており、その他の部分は前述の第1~第
3参考形態と同様である。
(本発明の実施形態)
図9に示すように、ボンネット5の側部位置に立設した一対のピラー64と、このピラー64の上端から後方に延出され運転座席3を覆うルーフ部材61を配置して簡易型のキャノピー60を構成することも可能である。このように構成した場合にもルーフ部材61に対して、支持部材44を介して受信ユニット45を支持することにより、受信ユニット45を高い位置に配置できる。この構成において、支持部材44を介して受信ユニット45をピラー64の上端に支持してもよい。
【0071】
このように簡易型のキャノピー60に対して支持部材44を介して受信ユニット45を支持することにより、ルーフ部材61やピラー64の一部が磁化していても、この磁化した部分からの磁気の影響を抑制する。
【0072】
(第
2参考形態)
図10に示すように、第1参考形態と同様に構成された田植機(水田作業機の一例)と同様の構成において、補助フレーム18を受信ユニット支持部材とし、この補助フレーム18に立設した支柱状の中間フレーム65の上端に対して支持部材44を介して受信ユニット45を支持する。支持部材44は、非磁性材料として可撓性を有する合成ゴム等の材料が用いられる。
【0073】
この第2参考形態では、水田作業装置として播種装置を走行車体Aの後端に備えることにより、播種機として構成しても良い。また、苗植付装置Bや播種機等の水田作業装置を上限まで上昇させた場合に、測位衛星からの電波が遮られない高さにあれば補助フレーム18に対して直接的に支持部材44を介して受信ユニット45を支持する構成を採用しても良い。
【0074】
このように、補助フレーム18に対して受信ユニット45を支持することにより、受信ユニット45を比較的高い位置に配置することが可能となる。特に、受信ユニット45を補助フレーム18の左右の一方の端部に配置することにより、作業ステップ17に搭乗した状態での作業を妨げることがなく、中間フレーム65を用いることにより高い位置に受信ユニット45を配置できる。
【0075】
(第
3参考形態)
図11に示すように、走行車体Aの前端で、左右方向での中央位置や、左右の何れか一方の端部に受信ユニット支持部材として垂直姿勢となる支柱状となるポール状フレーム67を備え、これに支持部材44を介して受信ユニット45を支持する。支持部材44は、非磁性材料として可撓性を有する合成ゴム等の材料が用いられる。
【0076】
この第3参考形態では、走行車体Aの前端において上方に延びるポール状フレーム67を配置しているが、例えば、運転座席3の側部位置や、運転座席3の後方位置に配置しても良い。
【0077】
このように専用のポール状フレーム67を用いることにより、必要とする高さに受信ユニット45を配置することが可能となり、測位衛星からの電波信号を良好に受信し、磁気の影響の排除も良好に行える。
【0078】
第1参考形態ではエンジン6をボンネット5に内蔵していたが、これに代えて、エンジン6が運転座席3の下側に配置されるように構成した水田作業機に適用しても良い。
【0079】
前述した第1参考形態では、ティーチングに基づいて目標走行経路を生成していたが、ティーチングに代えて、例えば、圃場面の俯瞰画像をモニタ部38等に表示し、このように表示された圃場面において、作業者が人為的な操作で目標走行経路を設定するように制御形態を設定しても良い。
また、ティーチングに代えて、例えば、トラクタで圃場の代掻き作業を行う際に測位衛星からの電波を受信することで、車体が走行した経路データを半導体記憶媒体等に記憶しておき、この半導体記憶媒体等に記憶された経路データを田植機の自動操舵走行システムにロードすることにより、この自動操舵走行システムにおいて目標走行経路を生成するように制御形態を設定しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、測位衛星からの電波信号を受信する受信ユニットを走行車体に備えている水田作業機に利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
2 後車輪
3 運転座席
5 ボンネット
11 ステアリングホイール
34 予備苗載台
45 受信ユニット
45A アンテナ
A 走行車体