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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】無機材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 8/00 20060101AFI20221125BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20221125BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221125BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20221125BHJP
【FI】
C03B8/00 C
H01B1/10
H01M4/36
H01M10/0562
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018180404
(22)【出願日】2018-09-26
(65)【公開番号】P2020050537
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000165974
【氏名又は名称】古河機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】砂川 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 一富
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-49732(JP,A)
【文献】特開2017-218330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B8/00
C03C1/00-14/00
C01B17/20-17/45
C01B25/08-25/14
H01B1/06-1/10
H01M4/13-4/1399
H01M10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の無機化合物を機械的処理により化学反応させることにより得られる無機材料を製造するための製造方法であって、
2種以上の無機化合物を含む無機組成物を準備する準備工程と、
せん断応力および圧縮応力を組み合わせた粉砕装置を用いて、前記無機組成物を機械的処理することにより、2種以上の前記無機化合物を化学反応させながら前記無機組成物をガラス化するガラス化工程と、
せん断応力および圧縮応力を組み合わせた前記粉砕装置を用いて、ガラス化した前記無機組成物を機械的処理することにより、ガラス化した前記無機組成物の少なくとも一部を結晶化させ、前記無機組成物をガラスセラミックス状態にするアニール処理工程と、
を含み、
せん断応力および圧縮応力を組み合わせた前記粉砕装置がロールミル、回転・打撃粉砕装置、高圧型グライディングロールおよび竪型ミルから選択され、
前記無機材料が無機固体電解質材料であり、
前記無機固体電解質材料が硫化物系無機固体電解質材料を含み、
前記硫化物系無機固体電解質材料は構成元素として、Li、PおよびSを含む無機材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の無機材料の製造方法において、
前記ガラス化工程および前記アニール処理工程は乾式でおこなう無機材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の無機材料の製造方法において、
前記アニール処理工程では、前記無機組成物に対してせん断応力および圧縮応力をかけた際に生じる熱によって、ガラス化した前記無機組成物をアニール処理する無機材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の無機材料の製造方法において、
前記粉砕装置がロールミルを含み、
前記ロールミルが3本以上のロールにより構成されている無機材料の製造方法。
【請求項5】
請求項に記載の無機材料の製造方法において、
前記ロールミルを構成するロールの直径が40mm以上である無機材料の製造方法。
【請求項6】
請求項またはに記載の無機材料の製造方法において、
前記ロールミルは隣接するロールの回転速度が異なる無機材料の製造方法。
【請求項7】
請求項乃至のいずれか一項に記載の無機材料の製造方法において、
前記ガラス化工程および前記アニール処理工程では、前記ロールミルにおける第一のロール間に前記無機組成物を通過させた後に、前記第一のロール間に隣接する第二のロール間に前記無機組成物を通過させる無機材料の製造方法。
【請求項8】
請求項乃至のいずれか一項に記載の無機材料の製造方法において、
前記ロールミルを構成するロールの少なくとも表面が、セラミックス材料および金属材料から選択される少なくとも一種の材料により構成されている無機材料の製造方法。
【請求項9】
請求項に記載の無機材料の製造方法において、
前記ロールミルを構成するロールの少なくとも表面がアルミナにより構成されている無機材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の無機材料の製造方法において、
前記ガラス化工程および前記アニール処理工程における前記機械的処理は、いずれもメカノケミカル処理を含む無機材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の無機材料の製造方法において、
前記硫化物系無機固体電解質材料中の前記Pの含有量に対する前記Liの含有量のモル比(Li/P)が1.0以上10.0以下であり、前記Pの含有量に対する前記Sの含有量のモル比(S/P)が1.0以上10.0以下である無機材料の製造方法。
【請求項12】
請求項乃至11のいずれか一項に記載の無機材料の製造方法において、
前記アニール処理工程では、線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて、ガラス化した前記無機組成物とは異なる回折ピークが観察されるまで前記機械的処理をおこなう無機材料の製造方法。
【請求項13】
請求項乃至12のいずれか一項に記載の無機材料の製造方法において、
27.0℃、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz~7MHzの測定条件における交流インピーダンス法による、前記無機材料のリチウムイオン伝導度が2.2×10-4S・cm-1以上である無機材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、一般的に、携帯電話やノートパソコン等の小型携帯機器の電源として使用されている。また、最近では小型携帯機器以外に、電気自動車や電力貯蔵等の電源としてもリチウムイオン電池は使用され始めている。
【0003】
現在市販されているリチウムイオン電池には、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されている。一方、電解液を固体電解質に変えて、電池を全固体化したリチウムイオン電池(以下、全固体型リチウムイオン電池とも呼ぶ。)は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。このような固体電解質に用いられる固体電解質材料としては、例えば、硫化物系固体電解質材料が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2016-27545号)には、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.86°±1.00°の位置にピークを有し、Li2y+3PS(0.1≦y≦0.175)の組成を有することを特徴とする硫化物系固体電解質材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-27545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
無機固体電解質材料は、一般的に、無機固体電解質材料の原料となる2種以上の無機化合物を含有する無機組成物を、ボールミルやビーズミル等を用いて機械的処理することによりガラス化する工程と、ガラス化した無機組成物をアニール処理する工程と、を経て得られる。
ここで、ボールミルやビーズミルとは、セラミックス材料等から形成された硬質のボールやビーズと無機組成物とを円筒形の容器に入れて回転させ、無機組成物に対し硬質のボールやビーズを衝突させてエネルギーを与えることで、無機組成物をガラス化する装置である。
しかし、ボールミルやビーズミル等を用いて無機組成物をガラス化する方法では、容器内の壁面に無機組成物が付着してしまうため、機械的処理を一定時間行った後に、一度容器を開けて壁面に付着した無機組成物をそぎ落とす必要があった。さらに、無機組成物のガラス化が終了した後に、ガラス化した無機組成物をボールミルやビーズミル等から分離してから、オーブン等に移してアニール処理をおこなう必要があった。
【0007】
以上から、本発明者らの検討によれば、ボールミルやビーズミル等を用いて無機組成物を機械的処理することによりガラス化する工程や、それに続くアニール処理する工程は連続的に行うことが難しく、非常に時間がかかり生産性が悪いことが明らかになった。すなわち、上記のような無機組成物を機械的処理することによりガラス化する工程と、ガラス化した無機組成物をアニール処理する工程と、を含む無機材料の製造方法は連続プロセスに適さず、工業的生産には向いていなかった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、連続プロセスが可能で生産性に優れた無機材料の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討を重ねた。その結果、せん断応力および圧縮応力を組み合わせた粉砕装置を用いることによって、無機組成物のガラス化工程およびアニール処理工程を続けておこなうことができ、その結果、連続プロセスが可能となり無機材料の生産性を向上できることを見出して本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明によれば、
2種以上の無機化合物を機械的処理により化学反応させることにより得られる無機材料を製造するための製造方法であって、
2種以上の無機化合物を含む無機組成物を準備する準備工程と、
せん断応力および圧縮応力を組み合わせた粉砕装置を用いて、上記無機組成物を機械的処理することにより、2種以上の上記無機化合物を化学反応させながら上記無機組成物をガラス化するガラス化工程と、
せん断応力および圧縮応力を組み合わせた上記粉砕装置を用いて、ガラス化した上記無機組成物を機械的処理することによりアニール処理するアニール処理工程と、
を含む無機材料の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、連続プロセスが可能で生産性に優れた無機材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る実施形態の粉砕装置の構造の一例を示す断面図である。
図2】実施例および比較例で得られた硫化物系無機固体電解質材料の硫化水素の発生量を測定する際に用いた装置の写真を示す図である。
図3】実施例1において、3本ロールミルに無機組成物を循環させたときの循環回数と無機組成物のX線回折スペクトルの変化との関係を示す図である。
図4】実施例で得られた硫化物系無機固体電解質材料のX線回折スペクトルを示す図である。
図5】比較例で得られた硫化物系無機固体電解質材料のX線回折スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。数値範囲の「A~B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0014】
はじめに、本実施形態に係る無機材料の製造方法について説明する。
本実施形態に係る無機材料の製造方法は、2種以上の無機化合物を機械的処理により化学反応させることにより得られる無機材料を製造するための製造方法であって、2種以上の無機化合物を含む無機組成物を準備する準備工程(A)と、せん断応力および圧縮応力を組み合わせた粉砕装置を用いて、上記無機組成物を機械的処理することにより、2種以上の上記無機化合物を化学反応させながら上記無機組成物をガラス化するガラス化工程(B)と、せん断応力および圧縮応力を組み合わせた上記粉砕装置を用いて、ガラス化した上記無機組成物を機械的処理することによりアニール処理するアニール処理工程(C)と、を含む。
【0015】
本実施形態に係る無機材料の製造方法によれば、せん断応力および圧縮応力を組み合わせた粉砕装置を用いて、ガラス化工程(B)およびアニール処理工程(C)を連続的におこなうことにより、ボールミルやビーズミル等を用いる必要がなくなるため、製造工程の途中で容器内の壁面から無機組成物をそぎ落とす操作や、ガラス化した無機組成物をボールミルやビーズミル等から分離してから、オーブン等に移す操作等が不要となり、連続プロセスによる生産が可能となる。また、せん断応力および圧縮応力を組み合わせることにより無機組成物のガラス化およびアニール処理を十分に進めることができる。
以上から、本実施形態に係る無機材料の製造方法は、連続的に無機組成物のガラス化およびアニール処理をおこなうことが可能である。すなわち、本実施形態に係る無機材料の製造方法は、連続プロセスが可能で生産性に優れている。
【0016】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0017】
(準備工程(A))
はじめに、2種以上の無機化合物を含む無機組成物を準備する。
無機化合物としては機械的処理により互いに化学反応して新たな無機材料を生成する化合物を2種以上用いる。これらの無機化合物は、生成させる無機材料に応じて適宜選択することができる。
なお、本実施形態において、「機械的処理により互いに化学反応して新たな無機材料を生成する」とは、機械的処理によって、共存する2種以上の無機化合物が化学反応して、新たな無機材料が生成することを意味する。
【0018】
上記無機組成物は、例えば、生成させる無機材料が所望の組成比になるように、原料である2種以上の無機化合物を所定のモル比で混合することにより得ることができる。
2種以上の無機化合物を混合する方法としては各無機化合物を均一に混合できる混合方法であれば特に限定されないが、例えば、クラッシャー、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、打撃粉砕装置、ミキサー(パグミキサー、リボンミキサー、タンブラーミキサー、ドラムミキサー、V型混合器等)、ニーダー、2軸ニーダー、気流粉砕機等を用いて混合することができる。
各無機化合物を混合するときの攪拌速度や処理時間、温度、反応圧力、混合物に加えられる重力加速度等の混合条件は、混合物の処理量によって適宜決定することができる。
【0019】
生成させる無機材料としては特に限定されないが、例えば、無機固体電解質材料、正極活物質、負極活物質等が挙げられる。
生成させる無機固体電解質材料としては特に限定されないが、硫化物系無機固体電解質材料、酸化物系無機固体電解質材料、その他のリチウム系無機固体電解質材料等を挙げることができる。これらの中でも、硫化物系無機固体電解質材料が好ましい。
また、生成させる無機固体電解質材料としては特に限定されないが、例えば、全固体型リチウムイオン電池を構成する固体電解質層に用いられるものが挙げられる。
【0020】
生成させる硫化物系無機固体電解質材料としては、例えば、LiS-P材料、LiS-SiS材料、LiS-GeS材料、LiS-Al材料、LiS-SiS-LiPO材料、LiS-P-GeS材料、LiS-LiO-P-SiS材料、LiS-GeS-P-SiS材料、LiS-SnS-P-SiS材料、LiS-P-LiN材料、Li2+X-P材料、LiS-P-P材料等が挙げられる。
これらの中でも、リチウムイオン伝導性に優れ、かつ広い電圧範囲で分解等を起こさない安定性を有する点から、LiS-P材料およびLiS-P-LiN材料が好ましい。ここで、例えば、LiS-P材料とは、少なくともLiS(硫化リチウム)とPとを含む無機組成物を機械的処理により互いに化学反応させることにより得られる無機材料を意味し、LiS-P-LiN材料とは、少なくともLiS(硫化リチウム)とPとLiNとを含む無機組成物を機械的処理により互いに化学反応させることにより得られる無機材料を意味する。
ここで、本実施形態において、硫化リチウムには多硫化リチウムも含まれる。
【0021】
上記酸化物系無機固体電解質材料としては、例えば、LiTi(PO、LiZr(PO、LiGe(PO等のNASICON型、(La0.5+xLi0.5-3x)TiO等のペロブスカイト型、LiO-P材料、LiO-P-LiN材料等が挙げられる。
その他のリチウム系無機固体電解質材料としては、例えば、LiPON、LiNbO、LiTaO、LiPO、LiPO4-x(xは0<x≦1)、LiN、LiI、LISICON等が挙げられる。
さらに、これらの無機固体電解質の結晶を析出させて得られるガラスセラミックスも無機固体電解質材料として用いることができる。
【0022】
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、構成元素として、Li、PおよびSを含んでいるものが好ましい。
【0023】
また、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性、電気化学的安定性、水分や空気中での安定性および取り扱い性等をより一層向上させる観点から、当該固体電解質材料中の上記Pの含有量に対する上記Liの含有量のモル比(Li/P)が好ましくは1.0以上10.0以下であり、より好ましくは2.0以上5.0以下であり、さらに好ましくは2.5以上4.0以下であり、さらにより好ましくは2.8以上3.6以下であり、さらにより好ましくは3.0以上3.5以下であり、さらにより好ましくは3.1以上3.4以下、特に好ましくは3.1以上3.3以下である。また、上記Pの含有量に対する上記Sの含有量のモル比(S/P)が好ましくは1.0以上10.0以下であり、より好ましくは2.0以上6.0以下であり、さらに好ましくは3.0以上5.0以下であり、さらにより好ましくは3.5以上4.5以下であり、さらにより好ましくは3.8以上4.2以下、さらにより好ましくは3.9以上4.1以下、特に好ましくは4.0である。
ここで、本実施形態の固体電解質材料中のLi、P、およびSの含有量は、例えば、ICP発光分光分析またはX線光電子分光法により求めることができる。
【0024】
無機固体電解質材料の形状としては、例えば粒子状を挙げることができる。本実施形態の粒子状の無機固体電解質材料は特に限定されないが、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d50が、好ましくは1μm以上100μm以下であり、より好ましくは3μm以上80μm以下、さらに好ましくは5μm以上60μm以下である。
無機固体電解質材料の平均粒子径d50を上記範囲内とすることにより、良好なハンドリング性を維持すると共に、得られる固体電解質膜のリチウムイオン伝導性をより一層向上させることができる。
【0025】
生成させる正極活物質としては特に限定されず、例えば、リチウムイオン電池の正極層に使用可能な正極活物質が挙げられる。例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO)、リチウムマンガン酸化物(LiMn)、固溶体酸化物(LiMnO-LiMO(M=Co、Ni等))、リチウム-マンガン-ニッケル酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)、オリビン型リチウムリン酸化物(LiFePO)等の複合酸化物;CuS、Li-Cu-S化合物、TiS、FeS、MoS、V、Li-Mo-S化合物、Li-Ti-S化合物、Li-V-S化合物、Li-Fe-S化合物等の硫化物系正極活物質;等が挙げられる。
これらの中でも、より高い放電容量密度を有し、かつ、サイクル特性により優れる観点から、硫化物系正極活物質が好ましく、Li-Mo-S化合物、Li-Ti-S化合物、Li-V-S化合物がより好ましい。
【0026】
ここで、Li-Mo-S化合物は構成元素としてLi、Mo、およびSを含んでいるものであり、通常は原料であるモリブデン硫化物および硫化リチウムを含む無機組成物を機械的処理により互いに化学反応させることにより得ることができる。
また、Li-Ti-S化合物は構成元素としてLi、Ti、およびSを含んでいるものであり、通常は原料であるチタン硫化物および硫化リチウムを含む無機組成物を機械的処理により互いに化学反応させることにより得ることができる。
Li-V-S化合物は構成元素としてLi、V、およびSを含んでいるものであり、通常は原料であるバナジウム硫化物および硫化リチウムを含む無機組成物を機械的処理により互いに化学反応させることにより得ることができる。
【0027】
生成させる負極活物質としては特に限定されず、例えば、リチウムイオン電池の負極層に使用可能な負極活物質が挙げられる。例えば、リチウム合金、スズ合金、シリコン合金、ガリウム合金、インジウム合金、アルミニウム合金等を主体とした金属系材料;リチウムチタン複合酸化物(例えばLiTi12);グラファイト系材料等が挙げられる。
【0028】
(ガラス化工程(B)およびアニール処理工程(C))
つづいて、せん断応力および圧縮応力を組み合わせた粉砕装置を用いて、上記無機組成物を機械的処理することにより、2種以上の上記無機化合物を化学反応させながら上記無機組成物をガラス化するガラス化工程(B)をおこなう。次いで、このガラス化工程(B)に続いて、ガラス化工程(B)で用いた粉砕装置をそのまま用いて、ガラス化した上記無機組成物を機械的処理することによりアニール処理するアニール処理工程(C)をおこなう。
すなわち、本実施形態に係る無機材料の製造方法では、せん断応力および圧縮応力を組み合わせた粉砕装置を用いて、ガラス化工程(B)およびアニール処理工程(C)を連続的におこなう。これによって、ボールミルやビーズミル等を用いた従来の製造方法のように、機械的処理を一定時間行った後に一度容器を開けて壁面に付着した無機組成物をそぎ落とす操作や、無機組成物のガラス化が終了した後にガラス化した無機組成物をボールミルやビーズミル等から分離してから、オーブン等に移す操作が不要となるため、製造工程を簡略することが可能となり、その結果、無機材料の生産性を向上させることができる。ここで、ガラス化工程(B)およびアニール処理工程(C)とは、明確に区別される必要はなく、ガラス化工程(B)からアニール処理工程(C)に徐々に変化していく場合も含まれる。
【0029】
本実施形態に係る無機材料の製造方法におけるガラス化工程(B)では、せん断応力および圧縮応力を組み合わせた粉砕装置を用いて、無機組成物を機械的処理することにより、2種以上の無機化合物を化学反応させながら無機組成物をガラス化する。そして、無機組成物がガラス化した後も、この粉砕装置を用いた機械的処理を連続的におこない、ガラス化した無機組成物のアニール処理をおこなう。ここで、せん断応力および圧縮応力を組み合わせた粉砕装置を用いて、ガラス化した無機組成物に対してせん断応力および圧縮応力をかけ続けていると、無機組成物を構成する粒子同士の摩擦熱によって、ガラス化した無機組成物が加熱され、その結果、ガラス化した無機組成物がアニール処理される。すなわち、本実施形態に係る無機材料の製造方法におけるアニール処理工程(C)では、無機組成物に対してせん断応力および圧縮応力をかけた際に生じる熱によって、ガラス化した無機組成物をアニール処理することができる。
アニール処理工程(C)をおこなうことにより、ガラス化した無機組成物の少なくとも一部が結晶化して、ガラスセラミックス状態の無機組成物とすることができる。こうすることにより、例えば、より一層リチウムイオン伝導性に優れた無機固体電解質材料を得ることができる。
【0030】
ここで、生成させる無機材料が構成元素として、Li、P、およびSを含む硫化物系無機固体電解質材である場合、本実施形態に係る無機材料の製造方法によれば、硫化水素の発生量が少ない硫化物系無機固体電解質材を得ることが可能である。
この理由は明らかではないが、本実施形態に係る無機材料の製造方法では、アニール処理工程(C)において、ガラス化した無機組成物に、従来の製造方法よりも強いせん断応力および圧縮応力をかけることができ、硫化物系無機固体電解質材に対して従来とは異なるアニール処理を施すことが可能となるからだと考えられる。
【0031】
アニール処理工程(C)におけるガラス化した無機組成物の加熱温度としては、200℃以上500℃以下の範囲内であることが好ましく、220℃以上350℃以下の範囲内であることがより好ましい。
【0032】
アニール処理工程(C)では、線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて、ガラス化した無機組成物とは異なる回折ピークが観察されるまで機械的処理をおこなうことが好ましい。ここで、ガラス化した無機組成物とは異なる回折ピークが観察されることは、ガラス化した無機組成物の少なくとも一部が結晶化して、ガラスセラミックス状態になっていることを意味すると考えられる。
【0033】
ガラス化工程(B)およびアニール処理工程(C)における上記機械的処理は、2種以上の上記無機化合物を機械的に衝突させることにより、化学反応させながら上記無機組成物をガラス化させたり、ガラス化した無機組成物をアニール処理したりすることができるものであり、例えば、メカノケミカル処理等が挙げられる。ここで、メカノケミカル処理とは、対象の組成物にせん断力や衝突力のような機械的エネルギーを加える方法である。
【0034】
ガラス化工程(B)およびアニール処理工程(C)において、上記機械的処理は乾式でおこなうことが好ましい。これにより、ガラス化した無機組成物から有機溶媒等の液体成分を除去する操作が不要となり、無機材料の生産性をより向上させることができる。また、無機材料と有機溶媒との反応を防ぐことができる。さらに、有機溶媒等の液体成分を使用しないため、製造工程における安全性もより一層良好にすることができる。
【0035】
本実施形態に係るせん断応力および圧縮応力を組み合わせた粉砕装置としては、例えば、ロールミル;削岩機や振動ドリル、インパクトドライバ等で代表される回転(せん断応力)および打撃(圧縮応力)を組み合わせた機構からなる回転・打撃粉砕装置;高圧型グライディングロール;ローラ式竪型ミルやボール式竪型ミル等の竪型ミル等が挙げられる。これらの中でも、連続生産性に優れている観点から、ロールミルおよび竪型ミルが好ましく、ロールミルがより好ましい。
【0036】
また、本実施形態に係るロールミルは3本以上のロールにより構成されていることが好ましい。これによりガラス化処理およびアニール処理をより一層連続的におこなうことができるため、得られる無機材料の生産性をより一層向上させることができる。
【0037】
また、本実施形態に係るロールミルを構成するロールの直径は、40mm以上であることが好ましく、50mm以上であることがより好ましく、60mm以上であることがさらに好ましい。これにより、ロール間に存在する無機組成物に対し、より一層強力なせん断応力および圧縮応力を与えることができるため、無機組成物のガラス化をより一層効率良く進めることができる。さらに、ロール間に存在するガラス化した無機組成物に対しより一層強力なせん断応力および圧縮応力を与えることができるため、無機組成物を構成する粒子同士の摩擦熱をより効果的に発生させることができ、その結果、ガラス化した無機組成物のアニール処理をより効果的に進めることが可能となる。
【0038】
また、本実施形態に係るロールミルは、隣接するロールの回転速度が異なることが好ましい。これにより、ロール間に存在する無機組成物に対し、圧縮応力を与えつつ、より効果的にせん断応力を与えることができるため、無機組成物のガラス化をより一層効率良く進めることができる。
また、本実施形態に係るロールミルは、隣接するロールの回転する向きが異なることが好ましい。これにより、ロール間に存在する無機組成物に対し、圧縮応力をより効果的に与えることができる。
【0039】
本実施形態に係るロールミルを構成するロールの少なくとも表面は、セラミックス材料および金属材料から選択される少なくとも一種の材料により構成されていることが好ましい。
金属材料としては、例えば、遠心チルド鋼、SUS、CrメッキSUS、Crメッキ焼入れ鋼等が挙げられる。
また、本実施形態に係るロールミルを構成するロールの少なくとも表面がセラミックス材料により構成されると、得られる無機材料にロール由来の不要な金属成分が混入してしまうことを抑制することができ、純度がより一層高い無機材料を得ることが可能となる。
このようなセラミックス材料としては、例えば、安定化ジルコニア、アルミナ、シリコンカーバイド、シリコンナイトライド等が挙げられる。
これらの中でも比較的安価で高精度な大型部品を作製できるアルミナが好ましい。
【0040】
図1は、本発明に係る実施形態の粉砕装置100の構造の一例を示す断面図である。図1は粉砕装置100が3本のロールからなる3本ロールミルの例を示している。
以下、図1を用いながら、本実施形態に係るガラス化工程(B)およびアニール処理工程(C)についてより具体的に説明する。
図1に記載の粉砕装置100は、第一のロール101、第二のロール102、第三のロール103およびブレード130により構成される。
はじめに、2種以上の無機化合物を含む無機組成物150を第一のロール101および第二のロール102との隙間である第一のロール間110に投入する。
第一のロール間110に進入した無機組成物150は、第一のロール101および第二のロール102により圧縮される。ここで、第一のロール101および第二のロール102において、異なる回転速度を採用することにより、第一のロール間110に進入した無機組成物150に対し、圧縮応力を与えつつ、より効果的にせん断応力を与えることができるため、無機組成物150のガラス化およびアニール処理をより一層効率良く進めることができる。
【0041】
ここで、ロールの回転速度は、第一のロール101よりも第二のロール102の方を速くし、第二のロール102よりも第三のロール103の方を速くすることが好ましい。すなわち、本実施形態に係るロールミルにおいて、複数のロールは無機組成物が投入される側のロールから無機材料が排出される側のロールに向かって徐々に回転数が速くなるように設定されていることが好ましい。各ロールの回転速度はロールの本数や、無機組成物の種類、無機組成物の処理量等によって適宜決定されるため特に限定されないが、例えば、粉砕装置100が3本のロールからなる3本ロールミルの場合、第一のロール101の速度を1とすると、第二のロール102の速度を2~4、第三のロールの速度を5~9のように排出される側のロールに向かって回転数を速くすることができる。こうすることにより、ロールに付着した無機組成物をより一層効率良く隣接するロールの表面に移送することができ、その結果、無機材料の生産性をより一層向上させることができる。
【0042】
次いで、第一のロール間110に無機組成物150を通過させた後に、第一のロール間110に隣接する第二のロール間120に無機組成物150を通過させる。この操作を繰り返しおこなうことにより、無機組成物150のガラス化およびアニール処理を連続的に行うことができる。ここで、無機組成物150は第一のロール101および第二のロール102による圧縮応力により、第二のロール102の表面に付着しているため、第二のロール間120に連続的に移送することが可能である。
第二のロール間120を通過して得られた無機材料170は第三のロール103の表面に付着しており、例えばブレード130によりそぎ落されて得ることができる。
また、第二のロール間120を通過して得られた無機材料170について、ガラス化またはアニール処理が不十分の場合は、第一のロール間110および第二のロール間120を通過させる上記処理を繰り返し行うことが好ましい。あるいは、ロールミルにおけるロールの数を4本以上とし、せん断応力および圧縮応力を組み合わせた機械的処理をさらに行うことが好ましい。
【0043】
ここで、本実施形態に係るロールミルにおいて、無機組成物に対してより効果的に圧縮応力を与える観点から、ロール間の距離は1μm以上100μm以下が好ましく、10μm以上50μm以下がより好ましい。
また、本実施形態に係るロールミルにおいて、無機組成物に対してより効果的にせん断応力を与える観点から、ロールの回転速度は20rpm以上1000rpm以下が好ましく、100rpm以上800rpm以下がより好ましい。
ただし、ロール間の距離およびロールの回転速度は無機組成物の種類や処理量、ロールの本数等によって適宜決定されるため、上記の範囲に限定されない。
【0044】
また、ガラス化工程(B)およびアニール処理工程(C)における機械的処理は非活性雰囲気下でおこなうことが好ましい。これにより、無機組成物と、水蒸気や酸素等との反応を抑制することができる。
また、上記非活性雰囲気下とは、真空雰囲気下または不活性ガス雰囲気下のことである。上記非活性雰囲気下では、水分の接触を避けるために露点が-50℃以下であることが好ましく、-60℃以下であることがより好ましい。上記不活性ガス雰囲気下とは、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下のことである。これらの不活性ガスは、製品への不純物の混入を防止するために、高純度である程好ましい。混合系への不活性ガスの導入方法としては、混合系内が不活性ガス雰囲気で満たされる方法であれば特に限定されないが、不活性ガスをパージする方法、不活性ガスを一定量導入し続ける方法等が挙げられる。
【0045】
上記無機組成物をガラス化するときや、ガラス化した無機組成物をアニール処理するときの回転速度や処理時間、温度等の混合条件は、無機組成物の種類や処理量によって適宜決定することができる。一般的には、回転速度が速いほど、ガラスの生成速度は速くなるためガラス化工程(B)の時間は短くなり、さらに無機組成物の温度は高くなるためアニール処理工程(C)の時間は短くなる。
通常は、線源としてCuKα線を用いたX線回折分析をしたとき、ガラス化工程(B)を行う前の無機組成物の回折ピークが消失または低下していたら、上記無機組成物はガラス化されていると判断することができる。また、通常は、線源としてCuKα線を用いたX線回折分析をしたとき、ガラス化工程(B)を行う前の無機組成物やアニール処理工程(C)を行う前の無機組成物が有する回折ピークとは異なる新たな回折ピークが生成していたら、上記無機組成物はアニール処理されて、ガラスセラミックス状態になっていると判断することができる。
【0046】
ここで、生成させる無機材料が構成元素として、Li、P、およびSを含む硫化物系無機固体電解質材である場合、ガラス化工程(B)では、線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて回折角2θ=15.7±0.3°の位置に存在する回折ピークの回折強度をバックグラウンド強度Iとし、回折角2θ=26.9±0.9°の位置に存在する回折ピークの最大回折強度をIとしたとき、I/Iの値が好ましくは10.0以下、より好ましくは5.5以下、さらに好ましくは4.0以下、さらにより好ましくは3.5以下となるまで機械的処理をおこなうことが好ましい。
/Iを上記上限値以下とすることにより、硫化物系無機固体電解質材のリチウムイオン伝導性を向上させることができる。さらに、このような硫化物系無機固体電解質材を用いると、入出力特性に優れた全固体型リチウムイオン電池を得ることができる。
ここで、回折角2θ=15.7±0.3°の位置に存在する回折ピークは、基準の回折ピークであり、回折角2θ=26.9±0.9°の位置に存在する回折ピークは硫化リチウム由来の回折ピークである。
したがって、I/Iは、硫化物系無機固体電解質材中の硫化リチウムの含有量の指標を表している。I/Iが小さいほど、硫化物系無機固体電解質材に含まれる硫化リチウムの量が少ないことを意味する。
LiSはリチウムイオン伝導性が低いため、LiSの含有量が少ないほど硫化物系無機固体電解質材のリチウムイオン伝導性は向上するものと考えられる。
【0047】
ここで、生成させる無機材料が構成元素として、Li、P、およびSを含む硫化物系無機固体電解質材である場合、アニール処理工程(C)では、線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて回折角2θ=15.7±0.3°の位置に存在する回折ピークの回折強度をバックグラウンド強度Iとし、回折角2θ=29.2±0.8°の位置に存在する回折ピークの最大回折強度をIとしたとき、I/Iの値が好ましくは1.5以上、より好ましくは2.0以上、さらに好ましくは3.0以上となるまで機械的処理をおこなうことが好ましい。
/Iの値を上記下限値以上とすることにより、硫化物系無機固体電解質材のリチウムイオン伝導性を向上させることができる。さらに、このような硫化物系無機固体電解質材を用いると、入出力特性に優れた全固体型リチウムイオン電池を得ることができる。
ここで、回折角2θ=15.7±0.3°の位置に存在する回折ピークは、基準の回折ピークであり、回折角2θ=29.2±0.8°の位置に存在する回折ピークはガラスセラミックス状態の硫化物系無機固体電解質材由来の回折ピークである。
したがって、I/Iの値は、硫化物系無機固体電解質材の結晶化の指標を表している。I/Iの値が大きいほど、硫化物系無機固体電解質材の結晶化が進んでいることを意味する。
【0048】
また、生成させる無機材料が構成元素として、Li、P、およびSを含む硫化物系無機固体電解質材である場合、アニール処理工程(C)では、27.0℃、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz~7MHzの測定条件における交流インピーダンス法によるリチウムイオン伝導度が好ましくは2.2×10-4S・cm-1以上、より好ましくは3.0×10-4S・cm-1以上、さらに好ましくは4.0×10-4S・cm-1以上、特に好ましくは5.0×10-4S・cm-1以上となるまで機械的処理をおこなうことが好ましい。これにより、リチウムイオン伝導性により一層優れた硫化物系無機固体電解質材を得ることができる。
【0049】
(結晶化工程(D))
本実施形態に係る無機材料の製造方法において、準備工程(A)とガラス化工程(B)との間に、工程(A)で準備した上記無機組成物を加熱することにより無機組成物を結晶化する工程(D)をさらにおこなってもよい。
すなわち、結晶化した上記無機組成物に対し、上記ガラス化工程(B)をおこなってもよい。
上記ガラス化工程(B)の前に結晶化工程(D)をおこなうことにより、無機組成物をガラス化する工程(B)を大幅に短縮することができ、その結果、無機材料の製造時間をより一層短縮することが可能である。この理由については明らかではないが、以下の理由が推察される。
まず、ガラス状態の無機組成物は準安定状態である。一方、結晶状態の無機組成物は安定状態にある。また、2種以上の無機化合物を含む無機組成物を加熱すると活性化エネルギー以上のエネルギーを簡単に与えることができるので、エネルギーの放出とともに低いエネルギー状態である結晶状態の無機組成物が短時間で得られる。そして、安定状態の自由エネルギーと準安定状態の自由エネルギーは近いため、より小さなエネルギーで安定状態の結晶状態から準安定状態のガラス状態にすることができる。
以上の理由から、上記無機組成物をガラス化する工程(B)の前に、無機組成物を結晶化する工程(D)をおこない、あらかじめ無機組成物を安定状態である結晶状態とすることにより、より小さなエネルギーで準安定状態のガラス状態にすることができ、無機組成物をガラス化する工程を大幅に短縮することができると考えられる。
【0050】
上記無機組成物を加熱する際の温度としては特に限定されず、生成させる無機材料に応じて適宜設定することができる。
例えば、生成させる無機材料が構成元素として、Li、P、およびSを含む硫化物系無機固体電解質材料の場合は、加熱温度は200℃以上400℃以下の範囲内であることが好ましく、220℃以上300℃以下の範囲内であることがより好ましい。
【0051】
上記無機組成物を加熱する時間は、上記無機組成物を結晶化できる時間であれば特に限定されるものではないが、例えば、1分間以上24時間以下の範囲内であり、好ましくは0.1時間以上10時間以下である。加熱の方法は特に限定されるものではないが、例えば、焼成炉を用いる方法を挙げることができる。なお、このような加熱する際の温度、時間等の条件は、本実施形態の無機材料の特性を最適なものにするため適宜調整することができる。
【0052】
また、上記無機組成物が結晶化したかどうかは、例えば、線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて、新たな結晶ピークが生成したか否かで判断することができる。
【0053】
(粉砕、分級、または造粒する工程(E))
本実施形態の無機材料の製造方法では、必要に応じて、得られた無機材料を粉砕、分級、または造粒する工程をさらにおこなってもよい。例えば、粉砕により微粒子化し、その後、分級操作や造粒操作によって粒子径を調整することにより、所望の粒子径を有する無機材料を得ることができる。上記粉砕方法としては特に限定されず、ミキサー、気流粉砕、乳鉢、回転ミル、コーヒーミル等公知の粉砕方法を用いることができる。また、上記分級方法としては特に限定されず、篩等公知の方法を用いることができる。
これらの粉砕または分級は、空気中の水分との接触を防ぐことができる点から、不活性ガス雰囲気下または真空雰囲気下で行うことが好ましい。
【0054】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例
【0055】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
<評価方法>
はじめに、以下の実施例および比較例における評価方法を説明する。
【0057】
(1)X線回折分析
X線回折装置(リガク社製、RINT2000)を用いて、X線回折分析法により、実施例および比較例で得られた硫化物系無機固体電解質材料の回折スペクトルをそれぞれ求めた。なお、線源としてCuKα線を用いた。ここで、回折角2θ=15.7±0.3°の位置に存在する回折ピークの回折強度をバックグラウンド強度Iとし、回折角2θ=26.9±0.9°の位置に存在する回折ピークの最大回折強度をIとし、回折角2θ=29.2±0.8°の位置に存在する回折ピークの最大回折強度をIとし、I/IおよびI/Iをそれぞれ求めた。
【0058】
(2)組成比率の測定
ICP発光分光分析装置(セイコーインスツルメント社製、SPS3000)を用いて、ICP発光分光分析法により測定し、実施例および比較例で得られた硫化物系無機固体電解質材料中のLi、PおよびSの質量%をそれぞれ求め、それに基づいて、各元素のモル比をそれぞれ計算した。
【0059】
(3)リチウムイオン伝導度の測定
実施例および比較例で得られた硫化物系無機固体電解質材料に対して、交流インピーダンス法によるリチウムイオン伝導度の測定をおこなった。
リチウムイオン伝導度の測定はバイオロジック社製、ポテンショスタット/ガルバノスタットSP-300を用いた。試料の大きさは直径9.5mm、厚さ1.2~2.0mm、測定条件は、印加電圧10mV、測定温度27.0℃、測定周波数域0.1Hz~7MHz、電極はLi箔とした。
ここで、リチウムイオン伝導度測定用の試料としては、プレス装置を用いて、実施例および比較例で得られた粉末状の硫化物系無機固体電解質材料150mgを270MPa、10分間プレスして得られる直径9.5mm、厚さ1.2~2.0mmの板状の硫化物系無機固体電解質材料を用いた。
【0060】
(4)硫化水素の発生量の測定
アルゴンガスで置換したグローボックス内で、実施例および比較例で得られた硫化物系無機固体電解質材料(100mg)をプラスチック容器に入れ、そのプラスチック容器をガラス製密閉容器(容量1L)内の底に配置した。次いで、ガラス製密閉容器を室温の大気中に取り出し、ガラス製密閉容器の上部から、プラスチック容器内の硫化物系無機固体電解質材料にイオン交換水(1mL)を滴下した。次いで、イオン交換水を滴下してから5分後にガラス製密閉容器に取り付けたゴム製のガス吸収袋(岡野製作所社製、製品名:OG-3F-D)を10回萎めることでガラス製密閉容器内部のガス雰囲気を均一にした後、検知管(ガステック社製、製品名:No.4LL)を用いて図2に示す測定位置にて硫化水素ガスの濃度を測定した。
【0061】
<実施例1>
硫化物系無機固体電解質材料を以下の手順で作製した。
原料には、LiS(古河機械金属社製、純度99.9%)、P(関東化学社製)およびLiN(古河機械金属社製)を使用した。
次いで、グローブボックス内で、クラッシャーを用いて、LiS粉末とP粉末とLiN粉末(LiS:P:LiN=71.1:23.7:5.3(モル%))合計80gを混合することにより、原料無機組成物を調製した。
次いで、原料無機組成物80gを図1に示す3本ロールミル(アイメックス社製BR-100V)にてメカノケミカル処理し、硫化物系無機固体電解質材料を得た。ここで、第一のロール101~第三のロール103の通過を1回とし、合計で70回通過させた。また、各ロールはジルコニア(ZrO)製で直径が63.5mmのものを用い、ロール間の距離は20μmとした。また、第一のロール101の回転速度:第二のロール102の回転速度:第三のロール103の回転速度=1:2.5:6とし、第三のロール103の回転速度を700rpmとした。
【0062】
第一のロール101~第三のロール103の通過を70回おこなった後に試料の一部をそれぞれサンプリングし、各物性をそれぞれ評価した。得られた結果を表1に示す。
実施例1の製造方法は、製造工程の途中で容器内の壁面から無機組成物をそぎ落とす操作や、ガラス化した無機組成物をボールミルやビーズミル等から分離してから、オーブン等に移す操作等が不要であり、連続的なガラス化処理およびアニール処理が可能であった。また、図3に示すようにサイクル回数が増えるにつれて、原料無機組成物よりも回折角2θ=26.9±0.9°の位置に存在する回折ピークの最大回折強度Iが徐々に低下していることから、10~40サイクルでは無機組成物がガラス化されていることが確認できた。また、30サイクルあたりから、回折角2θ=29.2±0.8°の位置に存在する回折ピークの最大回折強度Iが徐々に増加していることから、30~70サイクルではガラス化した無機組成物がアニール処理されていることが確認できた。
【0063】
<実施例2>
第一のロール101~第三のロール103の通過の回数を40回に変更した以外は実施例1と同様の方法により硫化物系無機固体電解質材料を作製し、各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
【0064】
<実施例3>
第一のロール101~第三のロール103の通過の回数を60回に変更した以外は実施例1と同様の方法により硫化物系無機固体電解質材料を作製し、各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
【0065】
<実施例4>
LiS粉末とP粉末とLiN粉末との混合比をLiS:P:LiN=72.6:24.2:3.2(モル%)に変更した以外は実施例1と同様の方法により硫化物系無機固体電解質材料を作製し、各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
【0066】
<実施例5>
LiS粉末とP粉末とLiN粉末との混合比をLiS:P:LiN=73.8:24.6:1.6(モル%)に変更した以外は実施例1と同様の方法により硫化物系無機固体電解質材料を作製し、各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
【0067】
<比較例1>
第一のロール101~第三のロール103の通過の回数を10回に変更した以外は実施例1と同様の方法により硫化物系無機固体電解質材料を作製し、各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
【0068】
<比較例2>
硫化物系無機固体電解質材料を以下の手順で作製した。
原料には、LiS(古河機械金属社製、純度99.9%)、P(関東化学社製)およびLiN(古河機械金属社製)を使用した。
次いで、グローブボックス内で、クラッシャーを用いて、LiS粉末とP粉末とLiN粉末(LiS:P:LiN=71.1:23.7:5.3(モル%))合計80gを混合することにより、原料無機組成物を調製した。
つづいて、グローブボックス内のアルミナ製のポット(内容積400mL)の内部に、原料無機組成物2gと直径10mmのZrOボール500gとを投入し、ポットを密閉した。
次いで、グローブボックス内から、アルミナ製のポットを取り出し、メンブレンエアドライヤーを通して導入した乾燥したドライエアーの雰囲気下に設置したボールミル機にアルミナ製のポットを取り付け、120rpmで300時間メカノケミカル処理し、原料無機組成物のガラス化をおこなった。24時間混合する毎にグローブボックス内でポットの内壁についた粉末を掻き落とし、密封後、乾燥した大気雰囲気下でミリングを継続した。
ここで、メカノケミカル処理を36時間行った後にポットを開けてみたところ、ポットの内壁には無機組成物の固まりが付着していた。そのため24時間ごとにポットの内壁に付着した無機組成物の固まりをそぎ落とす操作が必要であった。
次いで、グローブボックス内にアルミナ製のポットを入れ、得られた粉末をZrOボールと分離して、アルミナ製のポットからカーボンるつぼに移し、グローブボックス内に設置したオーブンで270℃、2時間のアニール処理をおこない、硫化物系無機固体電解質材料を得た。得られた、硫化物系無機固体電解質材料について、各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
以上から、せん断応力および圧縮応力を組み合わせた粉砕装置を用いた実施例の無機材料の製造方法は、ボールミルやビーズミルを用いる必要がなく、製造工程の途中で容器内の壁面から無機組成物をそぎ落とす操作や、ガラス化した無機組成物をボールミルやビーズミル等から分離する操作等が不要であり、連続的なガラス化処理およびアニール処理が可能であることが分かった。これに対し、比較例1の無機材料の製造方法では、ガラス化処理しかおこなわれておらず、アニール処理まではなされていなかった。また、ボールミルを用いた比較例2の無機材料の製造方法では、製造工程の途中で容器内の壁面から無機組成物をそぎ落とす操作や、ガラス化した無機組成物をZrOボールやボールミルから分離する操作が必要であり、連続生産性に劣っていた。
【符号の説明】
【0071】
100 粉砕装置
101 第一のロール
102 第二のロール
103 第三のロール
110 第一のロール間
120 第二のロール間
130 ブレード
150 無機組成物
170 無機材料
図1
図2
図3
図4
図5