(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04B 39/12 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
F04B39/12 J
(21)【出願番号】P 2018204080
(22)【出願日】2018-10-30
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】高部 哲也
(72)【発明者】
【氏名】貞廣 圭太
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/145616(WO,A1)
【文献】特開2018-042332(JP,A)
【文献】特開昭50-134206(JP,A)
【文献】特開2018-003792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
何れも金属製であり、合わせ面同士の間にガスケットを挟むことで互いに絶縁され、夫々の前記合わせ面のうち前記ガスケットのない部位には、対向する挿入孔が形成されている
フロントハウジング及び
センタハウジングと、
金属製であり、一端及び他端の夫々が前記挿入孔に挿入され、外周面が弾性力によって前記挿入孔の内周面に押圧される挿入部材と、を備え
、
前記フロントハウジングには、電動モータが収容され、
前記センタハウジングには、固定スクロール及び可動スクロールが収容され、
前記挿入部材は、スプリングピンであり、
前記挿入部材は、前記フロントハウジングと前記センタハウジングとを固定するときに、周方向の位置決めのために用いられ、
前記スプリングピンの外周面は、前記挿入孔の内周面と面接触状態になることを特徴とする電動圧縮機。
【請求項2】
金属製であり、前記
センタハウジングを挟んで前記
フロントハウジングに対してボルトによって締結され、前記
センタハウジングとの合わせ面にガスケットを挟むことで互いに絶縁される
リアハウジングを備え、
前記
センタハウジングには、前記ボルトよりも大径となる挿通孔が形成されていることを特徴とする請求項
1に記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動圧縮機は、インバータ収容部とカバーとがガスケットによって絶縁されている。特許文献1では、インバータ収容部に形成した凸部をカバーに接触させることで、双方を等電位に保つことを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動圧縮機は、複数のハウジングを組み付けて構成されており、各ハウジング同士もガスケットによって絶縁されている。したがって、各ハウジング同士を等電位に保つための対策も必要となる。
本発明の課題は、ハウジング同士を等電位に保つことである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る電動圧縮機は、
何れも金属製であり、合わせ面同士の間にガスケットを挟むことで互いに絶縁され、夫々の合わせ面のうちガスケットのない部位には、対向する挿入孔が形成されている第一のハウジング及び第二のハウジングと、
金属製であり、一端及び他端の夫々が挿入孔に挿入され、外周面が弾性力によって挿入孔の内周面に押圧される挿入部材と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、挿入部材の外周面が、弾性力によって挿入孔の内周面に押圧されるため、十分な面接触を保つことができ、ハウジング同士を等電位に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】圧縮機における軸方向に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
《一実施形態》
《構成》
図1は、圧縮機における軸方向に沿った断面図である。
圧縮機11は、例えばカーエアコンの冷媒回路で用いられる電動圧縮機であり、冷媒を吸入し、圧縮してから排出する。
以下の説明では、便宜的に、圧縮機11における軸方向の一方側を前側とし、軸方向の他方側を後側とする。
【0010】
圧縮機11は、軸方向に沿って前側から順に並んだ、フロントハウジング12と、センタハウジング13と、リアハウジング14と、によって気密性を保つように一体化されている。フロントハウジング12には、冷媒を吸入する吸入口(図示省略)が形成されており、リアハウジング14には、圧縮された冷媒を排出する排出口(図示省略)が形成されている。
フロントハウジング12は、図示しない吸入口に連通した吸入室21を備え、この吸入室21に電動モータ22が収容されている。電動モータ22の回転軸23は、前側がフロントハウジング12によって回転自在に支持され、後側がセンタハウジング13によって回転自在に支持されている。
【0011】
センタハウジング13には、固定スクロール24と、可動スクロール25と、が収容されている。
固定スクロール24は、フロントハウジング12の後側を閉塞するように固定されており、円板状に形成された固定端板26と、この固定端板26の前面に形成された固定渦巻き27と、を備える。
可動スクロール25は、固定端板26の前側に配置されており、円板状に形成された可動端板28と、この可動端板28の後面に形成され、固定渦巻き27と噛み合う可動渦巻き29と、を備える。
【0012】
固定端板26の前面と可動端板28の後面とが対向し、固定渦巻き27と可動渦巻き29とが噛み合っている。固定渦巻き27の先端は、図示しないチップシールを介して可動端板28の後面に摺動可能に接触し、可動渦巻き29の先端は、固定端板26の前面に摺動可能に接触している。固定端板26の前面、固定渦巻き27、可動端板28の後面、及び可動渦巻き29で囲まれた区画によって、冷媒を圧縮するための圧縮室31が形成されている。前後方向から見ると、圧縮室31は、三日月状の密閉空間となる。
【0013】
可動スクロール25の前側には、背圧室32が形成されている。背圧室32には、中間圧力のオイルが供給されることにより、固定スクロール24に対して可動スクロール25を押圧し、圧縮室31の密閉性を高めている。
可動端板28の前面には、ボス33が形成され、回転軸23の後端には、偏心させたクランク端部34が形成され、クランク端部34がボス33に回転自在の状態で嵌め込まれている。回転軸23の回転運動は、クランク端部34によって旋回運動として可動スクロール25に伝達される。可動スクロール25は、例えばピン&ホールを介して自転が阻止され、且つ固定スクロール24に対する公転が許容されている。
【0014】
固定端板26の中央には、前後方向に貫通した吐出孔35が形成され、吐出孔35は、固定端板26の後側に形成された吐出室36に連通している。固定端板26の後面には、吐出孔35の後端側を開閉可能な吐出弁37が設けられている。
固定スクロール24に対して可動スクロール25が公転すると、圧縮室31は、前後方向から見て、スクロール中心に向かって変位してゆき、且つ容積が縮小してゆく。圧縮室31は、スクロール外側にあるときに、図示しない吸入口と連通して冷媒を吸入し、スクロール中心にあるときに吐出孔35と連通して圧縮した冷媒を吐出する。吐出弁37は、吐出圧を受けるときに、吐出室36に冷媒を吐出させる。吐出された冷媒は、図示しない吐出口から外部へ吐出される。
【0015】
次に、各ハウジングの等電位構造について説明する。
フロントハウジング12(第一のハウジング)、センタハウジング13(第二のハウジング)、及びリアハウジング14(第三のハウジング)は、何れも金属製である。フロントハウジング12及びセンタハウジング13は、合わせ面同士の間に、表層がゴムであるガスケット41を挟むことで互いに絶縁されている。センタハウジング13及びリアハウジングは、合わせ面同士の間に、表層がゴムであるガスケット42を挟み込むことで互いに絶縁されている。フロントハウジング12及びリアハウジング14は、センタハウジング13を挟んでボルト43によって締結されている。センタハウジング13には、ボルト43よりも大径の挿通孔44が形成されており、挿通孔44にボルト43が挿通され、各ハウジングが組み付けられている。
【0016】
したがって、フロントハウジング12及びリアハウジング14は、ボルト43によって等電位が保たれる。一方、センタハウジング13は、挿通孔44に対してボルト43がルースで挿通されているため、安定した接触状態とはならず、等電位を保証するものではない。フロントハウジング12及びセンタハウジング13は、スプリングピン45(挿入部材)によって連結され、等電位が保たれている。
図2は、スプリングピンを示す図である。
フロントハウジング12及びセンタハウジング13の夫々の合わせ面には、対向する挿入孔46が形成されている。二つの挿入孔46は、同一の直径であり、同軸上に形成されている。挿入孔46の直径は、スプリングピン45の外径よりも僅かに小さい。ガスケット41には、挿入孔46に対応する位置に、フロントハウジング12側からセンタハウジング13側まで貫通した開口部47(ガスケットのない部位)が形成されている。
【0017】
スプリングピン45は、フロントハウジング12とセンタハウジング13とを固定するときに、周方向の位置決めのために用いられ、一端及び他端の夫々が各挿入孔46に挿入される。スプリングピン45は、薄板を円筒状に巻いて形成されており、軸方向に沿った切れ目48を有する。外部から荷重を加えない状態では、切れ目48が周方向に離間しているため、軸方向から見て略C字状となる。スプリングピン45の外径は、軸方向の後側に向かって大きく開いており、挿入孔46よりも僅かに大きい。挿入孔46に挿入するときは、切れ目48が無くなるように縮径方向の荷重を加えて圧入する。挿入孔46に挿入されたスプリングピン45は、広がろうとする力が作用することで挿入孔46に対して固定される。スプリングピン45の外周面は、弾性力によって挿入孔46の内周面に押圧され、安定した面接触状態となる。
【0018】
《作用》
次に、一実施形態の主要な作用効果について説明する。
フロントハウジング12とセンタハウジング13とは、ガスケット41によって絶縁され、センタハウジング13とリアハウジング14とは、ガスケット42によって絶縁されている。しかしながら、圧縮機11には各ハウジングを等電位に保つことが要求される。フロントハウジング12とリアハウジング14とは、ボルト43によって等電位が保たれる。一方、センタハウジング13は、挿通孔44に対してボルト43がルースで挿通されているため、安定した接触状態とはならず、等電位を保証するものではない。
【0019】
そこで、フロントハウジング12とセンタハウジング13とを、スプリングピン45によって連結する。すなわち、フロントハウジング12及びセンタハウジング13の夫々の合わせ面には、対向する挿入孔46が形成され、スプリングピン45は一端及び他端の夫々が各挿入孔46に挿入される。挿入孔46に挿入されたスプリングピン45は、広がろうとする力が作用することで、スプリングピン45の外周面が挿入孔46の内周面に押圧されるため、十分な面接触を保つことができる。したがって、フロントハウジング12とセンタハウジング13とを等電位に保つことができる。
フロントハウジング12及びセンタハウジング13には、周方向の位置決めのために、元々、ソリッドピン(ノックピンとも呼ばれる)を挿入するための挿入孔46が形成されている。したがって、挿入孔46に挿入するソリッドピンを、スプリングピン45に変更するだけでよい。
【0020】
ここで、比較例について説明する。
図3は、比較例を示す図である。
図中の(a)は、ソリッドピン51を使用した場合を示す。ソリッドピン51は、単なる円柱状の部材であり、外周面を弾性力によって挿入孔46の内周面に押圧していないため、本実施形態のような作用効果が得られない。仮に、軽圧入とした場合、押力はないので振動フレッティングにより、等電位値が不安定となる。また、強圧入とした場合、生産上でピンとハウジングのかじりの発生の懸念がある。
図中の(b)は、ソリッドピン51を使用し、且つ挿入孔46の中心を意図的にずらした場合を示す。これにより、ソリッドピン51の両端を、挿入孔46の内周面に線接触させることができる。しかしながら、ソリッドピン51の外周面を、弾性力によって挿入孔46の内周面に押圧していないため、本実施形態のような作用効果が得られない。具体的には、導通試験を行なうと、抵抗値が予め定めた閾値(例えば10mΩ)以下にならないこともあり、抵抗値にバラツキが大きいことが判明した。
【0021】
《変形例》
本実施形態では、スプリングピン45を使用しているが、これに限定されるものではない。例えばピンの先端に板ばね部を形成し、挿入孔46の内周面に対して、板ばね部が弾性変形して面接触するようにしてもよい。このように、挿入部材の外周面が弾性力によって挿入孔の内周面に押圧される構造であれば、任意の形状とすることができる。
【0022】
以上、限られた数の実施形態を参照しながら説明したが、権利範囲はそれらに限定されるものではなく、上記の開示に基づく実施形態の改変は、当業者にとって自明のことである。
【符号の説明】
【0023】
11…圧縮機、12…フロントハウジング、13…センタハウジング、14…リアハウジング、21…吸入室、22…電動モータ、23…回転軸、24…固定スクロール、25…可動スクロール、26…固定端板、27…固定渦巻き、28…可動端板、29…可動渦巻き、31…圧縮室、32…背圧室、33…ボス、34…クランク端部、35…吐出孔、36…吐出室、37…吐出弁、41…ガスケット、42…ガスケット、43…ボルト、44…挿通孔、45…スプリングピン、46…挿入孔、47…開口部、48…切れ目、51…ソリッドピン