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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】流体殺菌装置及び駆動方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/10 20060101AFI20221125BHJP
   C02F 1/32 20060101ALI20221125BHJP
   B01J 19/12 20060101ALN20221125BHJP
【FI】
A61L2/10
C02F1/32
B01J19/12 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018232462
(22)【出願日】2018-12-12
(65)【公開番号】P2020092814
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 英明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕幸
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-506860(JP,A)
【文献】特開2017-74114(JP,A)
【文献】特開2020-58713(JP,A)
【文献】特開2019-188127(JP,A)
【文献】特開2020-61344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L2/10
C02F1/32
B01J19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に一端側から他端側に流体が流れる流体空間が内部に画成されている筒状チャンバと、
前記流体空間の前記他端側に設けられ、紫外光を透過する透過部と、
前記筒状チャンバの前記他端側の周部に設けられ、前記流体が前記流体空間の外に流出する少なくとも1つの流出口と、
前記流体空間の前記少なくとも1つの流出口の周方向位置に対応する外周領域の部分に照射される前記紫外光の強度が前記外周領域よりも内周側の中央領域に照射される前記紫外光の強度よりも大きくなるように、前記透過部を介して前記流体空間に前記紫外光を照射する紫外光照射部とを備えることを特徴とする流体殺菌装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体殺菌装置において、
前記流出口は、前記筒状チャンバの前記周部に周方向に等角度間隔で複数、設けられていることを特徴とする流体殺菌装置。
【請求項3】
請求項2に記載の流体殺菌装置において、
前記紫外光照射部は、前記外周領域における前記紫外光の強度を一様にする配光パターンで前記紫外光を前記流体空間に照射することを特徴とする流体殺菌装置。
【請求項4】
請求項3に記載の流体殺菌装置において、
前記軸方向における前記流出口の中心位置は、前記中央領域を前記軸方向に流れる前記流体の流速に応じた位置に設定されていることを特徴とする流体殺菌装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の流体殺菌装置において、
前記紫外光照射部は、複数の光源と、該複数の光源から照射する前記紫外光を前記透過部の方へ反射するリフレクタとを備え、
前記紫外光照射部が前記配光パターンを生成するように、前記光源の個数、位置及び光度、並びに前記リフレクタの位置及び反射面形状のうちの少なくとも1つが前記流体空間における前記流体の流速及び経路長に基づいて設定されていることを特徴とする流体殺菌装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の流体殺菌装置において、
前記流体空間の前記一端側に配設された整流部を備えることを特徴とする流体殺菌装置。
【請求項7】
軸方向に一端側から他端側に流体が流れる流体空間が内部に画成されている筒状チャンバと、
前記流体空間の前記他端側に設けられ、紫外光を透過する透過部と、
前記筒状チャンバの前記他端側の周部に設けられ、前記流体が前記流体空間の外に流出する少なくとも1つの流出口と、
前記透過部を介して前記流体空間に前記紫外光を照射する紫外光照射部とを備える流体殺菌装置において、
前記流体空間の前記少なくとも1つの流出口の周方向位置に対応する外周領域の部分に照射される前記紫外光の強度が前記外周領域よりも内周側の中央領域に照射される前記紫外光の強度よりも大きくなるように、前記紫外光照射部から前記紫外光を照射することを特徴とする流体殺菌装置の駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外光によって流体を殺菌する流体殺菌装置及び駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水等の流体の殺菌を行うために、詳細には、流体に混入する菌の殺菌を行うために、流体を筒状チャンバ内に軸方向に流しつつ、流れる流体に対し紫外光を照射する流体殺菌装置が知られている(例:特許文献1)。
【0003】
特許文献1の流体殺菌装置では、流体は、長手方向に延びる直管(筒状チャンバに相当)内を軸方向に一端側から他端側に向かって流れるとともに、直管の他端側の周部に設けられた流出口から直管の外に流出する。流体が直管内を流れる際、紫外光が、流れの他端側から照射され、混入菌を不活化する。
【0004】
直管内の流体の流速は、径方向の中央領域が外周領域より速くなる。特許文献1の流体殺菌装置は、この流速差に着目し、中央領域を流れる流体に、外周領域を流れる流体より紫外光の強度が強くなる配光パターンを生成して、流速差による紫外光のドーズ量のばらつきを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-74114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の流体殺菌装置は、筒状チャンバ内の中央領域と外周領域とをそれぞれ流れる流体の経路を考慮していない。流出口は、筒状チャンバの周部に設けられるので、外周領域を流れる流体の経路は短い。したがって、外周領域を流れる流体は、流速が低くても、通過時間は短い。このため、単純に外周領域の紫外光の強度を弱くしてしまうと、紫外光のドーズ量について、流速の遅い外周領域を通過する流体の方が、流速の速い中央領域を通過する流体より小さくなってしまい、径方向の通過領域による紫外光のドーズ量の不均衡が拡大してしまう。
【0007】
本発明の目的は、通過する流体の流速及び経路長の両方を考慮して、通過する流体の全体に対して紫外光のドーズ量の均一化を図ることができる流体殺菌装置及び駆動方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の流体殺菌装置は、
軸方向に一端側から他端側に流体が流れる流体空間が内部に画成されている筒状チャンバと、
前記流体空間の前記他端側に設けられ、紫外光を透過する透過部と、
前記筒状チャンバの前記他端側の周部に設けられ、前記流体が前記流体空間の外に流出する少なくとも1つの流出口と、
前記流体空間の前記少なくとも1つの流出口の周方向位置に対応する外周領域の部分に照射される前記紫外光の強度が前記外周領域よりも内周側の中央領域に照射される前記紫外光の強度よりも大きくなるように、前記透過部を介して前記流体空間に前記紫外光を照射する紫外光照射部とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、筒状チャンバ内での経路長が他より短くなる流出口の周方向位置に対応する外周領域の部分の紫外光の強度が、外周領域の内周側の中央領域よりも大きくなる。これにより、流体空間を通過する流体の流速及び経路長に関係する紫外光のドーズ量の不均衡が緩和される。この結果、通過する流体の全体に対して紫外光のドーズ量の均一化を図ることができる。
【0010】
好ましくは、本発明の流体殺菌装置において、前記流出口は、前記筒状チャンバの前記周部に周方向に等角度間隔で複数、設けられている。
【0011】
この構成によれば、流出口は、筒状チャンバの周部に周方向に等角度間隔で複数、設けられる。これにより、流体空間の外周領域を流れる流体についての経路長が均一化するとともに、外周領域において、流出口の周方向位置に対応する部分の個数が、増大する。この結果、外周領域の全体における紫外光の照射のむらが抑制され、混入菌に対する不活度を改善することができる。
【0012】
好ましくは、本発明の流体殺菌装置において、前記紫外光照射部は、前記外周領域における前記紫外光の強度を一様にする配光パターンで前記紫外光を前記流体空間に照射する。
【0013】
この構成によれば、外周領域の紫外光の強度は一様となるので、配光パターンの生成構造を簡単化することができる。
【0014】
好ましくは、本発明の流体殺菌装置において、前記軸方向における前記流出口の中心位置は、前記中央領域を前記軸方向に流れる前記流体の流速に応じた位置に設定されている。
【0015】
この構成によれば、流出口の中心位置が中央領域を軸方向に流れる流体の流速に応じた位置に設定される。これにより、中央領域を流れる流体は、透過部に衝突した後、スムーズに流出口に流れて(すなわち、流体空間内で乱流を生成することなく)、流出口から流出する。
【0016】
好ましくは、本発明の流体殺菌装置において、
前記紫外光照射部は、複数の光源と、該複数の光源から照射する前記紫外光を前記透過部の方へ反射するリフレクタとを備え、
前記紫外光照射部が前記配光パターンを生成するように、前記光源の個数、位置及び光度、並びに前記リフレクタの位置及び反射面形状のうちの少なくとも1つが前記流体空間における前記流体の流速及び経路長に基づいて設定されている。
【0017】
この構成によれば、所望の配光パターンを支障なく生成することができる。
【0018】
好ましくは、本発明の流体殺菌装置において、前記流体空間の前記一端側に配設された整流部を備える。
【0019】
この構成によれば、整流部による流体の整流により他端側から照射する紫外光の殺菌効果を高めることができる。
【0020】
本発明の流体殺菌装置の駆動方法は、
軸方向に一端側から他端側に流体が流れる流体空間が内部に画成されている筒状チャンバと、
前記流体空間の前記他端側に設けられ、紫外光を透過する透過部と、
前記筒状チャンバの前記他端側の周部に設けられ、前記流体が前記流体空間の外に流出する少なくとも1つの流出口と、
前記透過部を介して前記流体空間に前記紫外光を照射する紫外光照射部とを備える流体殺菌装置において、
前記流体空間の前記少なくとも1つの流出口の周方向位置に対応する外周領域の部分に照射される前記紫外光の強度が前記外周領域よりも内周側の中央領域に照射される前記紫外光の強度よりも大きくなるように、前記紫外光照射部から前記紫外光を照射することを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、筒状チャンバ内での経路長が他より短くなる流出口の周方向位置に対応する外周領域の部分の紫外光の強度が、外周領域の内周側の中央領域よりも大きくなるように、流体殺菌装置が駆動される。これにより、流体空間を通過する流体の流速及び経路長に関係する紫外光のドーズ量の不均衡が緩和される。この結果、通過する流体の全体に対して紫外光のドーズ量の均一化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】流体殺菌装置の外観斜視図。
図2】流体殺菌装置の分解斜視図。
図3】流体殺菌装置を中心線に沿って切った縦断面図。
図4】整流板を軸方向から見た図。
図5】紫外光照射部の例を示す図。
図6A】流体空間の縦断面における紫外光の配光パターンを示す図。
図6B】流体空間の横断面における紫外光の配光パターンを示す図。
図7】所定のシミュレーションにより比較例の流体殺菌装置と実施形態の流体殺菌装置とで菌の不活度を調べて対比したグラフ。
図8A】別の紫外光照射部の正面図。
図8B図8Aの紫外光照射部による横断面における配光パターンを示す図。
図9A】流出口を1つか有しない流体殺菌装置の流体空間の縦断面における紫外光の配光パターン図。
図9B】流出口を1つか有しない流体殺菌装置の流体空間の横断面における紫外光の配光パターン図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[全体の構成]
図1は、流体殺菌装置1の外観斜視図である。図2は、流体殺菌装置1の分解斜視図である。流体殺菌装置1は、軸方向に一端側から他端側に順番に筒状チャンバ2、石英板3、固定ブラケット4、リフレクタ部5、光源部6及びヒートシンク7の部品を備えている。
【0024】
図3は、流体殺菌装置1をその中心線Clに沿って切った縦断面図である。流体殺菌装置1は、中心線Clの周りに回転対称の構造を有している。図3において、IN及びOUTは、流体殺菌装置1に対する殺菌対象の流体の流入方向及び流出方向を示している。
【0025】
筒状チャンバ2は、軸方向に一端側から他端側に順番に流入管11、湾曲部15、円筒部12及びフランジ13を有している。単一の流入管11は、筒状チャンバ2の一端側において湾曲部15から中心線Clに沿って突出している。
【0026】
複数の流出口管14は、円筒部12の他端側の周部に周方向に等角度間隔で設けられ、該周部から筒状チャンバ2の径方向に突出している。この例では、流出口管14は2本であるので、等角度間隔の角度は180°になる。湾曲部15は、流入管11と円筒部12との移行部を形成し、流入管11に向かって、径をつぼめている。筒状チャンバ2は、他端側を開放させつつ、内面側に流体空間16を画成する。
【0027】
流入口17は、流入管11の流入通路が流体空間16に開口する位置に設けられている。各流出口21は、各流出口管14の流出通路が流体空間16に開口する位置に設けられている。
【0028】
整流板19a,19bは、流体空間16の一端側に中心線Clの方向に間隔を開けて配設される。以降、整流板19a,19bを区別しないときは、「整流板19」と総称する。図4は、整流板19を軸方向から見た図である。整流板19は、多数の円形孔20を均一な密度分布で有している。各円形孔20は、例えば2mmΦである。
【0029】
円形の石英板3は、その周縁部がフランジ13の内周側の環状段部に当てられた位置決め状態で、固定ブラケット4側から嵌着されている。石英板3は、流体空間16の開放端を閉鎖する隔壁の機能を有する。処理室23は、流体空間16において流体が軸方向に一端側から他端側へ整流状態で流れる空間部分として定義される。処理室23は、径方向には流体空間16の全体を占め、軸方向には、例えば、整流板19bと流出口21の間の範囲になる。
【0030】
リフレクタ部5及び光源部6は、紫外光照射部26を構成する。光源部6は、1枚の基板28と、基板28上に所定の配置で取り付けられた複数のLED29とを含む。以降、基板28において、LED29が取り付けられている面を「表面」と呼び、表面とは反対側の面を「裏面」と呼ぶことにする。基板28の表面は、筒状チャンバ2側に向けられている。複数のLED29は、基板28の表面に取り付けられている。
【0031】
リフレクタ部5は、複数のリフレクタ30を備えている。リフレクタ部5は、固定ブラケット4の内周に嵌挿される。この紫外光照射部26では、各リフレクタ30は、1つのLED29に対応付けて設けられている。各リフレクタ30は、光軸を中心線Clに平行に揃えて、光源部6から石英板3の方に向かって径を徐々に増大させる貫通空間を形成している。各LED29は、各貫通空間のヒートシンク7側の開口の中心に位置する。貫通空間の周面は、LED29の紫外光のリフレクタ30(反射面)を形成する。
【0032】
基板28におけるLED29の取付位置及びリフレクタ30の形状等は、流体殺菌装置1における紫外光の配光パターンを決める重要な因子となるので、後述の図5以降で詳細に説明する。
【0033】
ヒートシンク7は、基板28の裏面に面接触している。LED29は、点灯中、発熱する。LED29の発熱は、基板28を介してヒートシンク7に伝わり、ヒートシンク7から大気中に放出される。
【0034】
[寸法例]
ここで、流体殺菌装置1の各部の寸法例について述べる。寸法例の単位は、mmとする。ただし、Dは処理室23の直径、d1は流入口17の直径、d2は流出口21の直径、L1は石英板3と整流板19bとの対向面間の軸方向距離、L2は整流板19a-整流板19b間の軸方向距離、L3は流入口17-整流板19a間の軸方向距離、L4は石英板3の紫外光の照射側の面と流出口21の中心との間の軸方向距離である。例えば、D=134、d1=43、d2=43、L1=400、L2=45、L3=30、L4=50である。L4は、d2/2<L4≦D/2として定義される。L4の意義については、後述する。
【0035】
[全体の作用]
流体殺菌装置1が処理する流体(例:水)は、菌を含み、INの向きで流入管11内に流入し、OUTの向きで流出口管14から流出する。流入口17から流体空間16内に流入した流体は、湾曲部15において径方向に広がる。次に、流体は、整流板19を通過する。流体は、整流板19の通過後、整流状態で、すなわち中心線Clに平行な向きになって、処理室23を流れる。
【0036】
ここで、基準横断面35を定義する。基準横断面35は、処理室23内の横断面(中心線Clに対して直角方向の断面)における配光パターンを考えるとき(設計するとき)の横断面と定義する。この例では、中心線Clの方向に処理室23を3つの区分に等分割したときの中央の区分に属する横断面、典型的には処理室23の軸方向中点の横断面を基準横断面35としている。
【0037】
整流板19は、流体を整流する機能の他に、処理室23の横断面(基準横断面35に対して平行な断面)における領域間の流速差を緩和する役目を有する。図3において、流速Vc,Veは、基準横断面35を径方向に中央領域と外周領域とに二分したときに、それぞれ中央領域及び外周領域を通過する流体Fc,Feとし、それぞれ流体Fc,Feの速度(流速)とて定義している。流速Vc>流速Veの関係がある。
【0038】
図3において、流体Ftは、基準横断面35を通過する流体の全部を意味する。さらに、流体Foは、処理室23における流出口21の周方向位置に対応する外周領域を軸方向に流れる流体(流体Ftに対しては部分)を示す。この流体殺菌装置1は、流出口21を2個、有するので、流体Foは、外周領域において周方向に2つある。流体Frは、流体Ftから全部の流体Foを除いた流体を意味する。
【0039】
流体Ftは、筒状チャンバ2の他端側において径方向に向きを変え、近い方の流出口21から流体空間16の外へ流出する。流体Ftは、整流板19bを通過後、流出口21に到達するまでの期間、石英板3を介して紫外光照射部26からの紫外光を照射される。流体Ftに混入されている菌は、この紫外光を浴びて、不活化される。
【0040】
[紫外光照射部]
図5は、紫外光照射部26の正面図である。なお、紫外光照射部26の正面とは、紫外光照射部26を石英板3側から見た面と定義する。紫外光照射部26は、2種類のリフレクタ30c,30eを有している。円形の基板28は、基準横断面35の中央領域と外周領域とに対応付けられて、径方向に内側の中央領域と外側の外周領域とに二分される。なお、両者の境界線は、図5において基板28の円周円に対して同心円(二点鎖線)で示されている。
【0041】
群40cは、基板28の中央領域に取り付けられているLED29が属する群である。群40eは、基板28の外周領域に取り付けられているLED29が属する群である。リフレクタ30cは、群40cの各LED29に1つずつ設けられている。リフレクタ30eは、群40eの各LED29に1つずつ設けられている。
【0042】
群40cのLED29は、縦横2×2で基板28に取り付けられている。群40eのLED29は、周方向に等角度間隔で基板28に取り付けられている。群40eにおけるLED29の分布密度は、群40cにおけるLED29の分布密度より大きい。さらに、リフレクタ30eの配光角(反射紫外光の広がり角)は、リフレクタ30cの配光角より狭い。なお、各LED29の光度は、群40e,40cに関係なく、等しく設定されている。
【0043】
[配光パターン]
図6A及び図6Bは、流体空間16の縦断面(2つの流出口21を含む平面上の縦断面)及び横断面(例:基準横断面35)における紫外光の配光パターンを示している。
【0044】
流体空間16の横断面の配光パターンのうち、基準横断面35の配光パターンを選択した理由は、軸方向に分布する複数の横断面における配光パターンとしてほぼ平均的な配光パターンとなるからである。なお、基準横断面35の配光パターンは、図6B、並びに後述の図8B及び図9B共に、基準横断面35を整流板19bから軸方向に(流体の流れ方向に上流側から)見たものとなっている。
【0045】
図6Aの配光パターンにおいて、灰色の領域は、紫外光の強度が基準値以上を確保されている領域を示している。紫外光の基準値の強度とは、ここでは、流体空間16を軸方向に流れる流体に混入している菌を、殺菌するのに必要であると設定した最小の強度を意味する。図6Bの基準横断面35の配光パターンでは、ドットの密度が大きく、黒っぽい領域ほど紫外光の強度が低いことを示している。
【0046】
流体空間16における紫外光の配光パターンについて、処理室23を径方向に外周領域Reと中央領域Rcとの2つに分けて説明する。外周領域Re及び中央領域Rcは、それぞれ基準横断面35の外周領域35e及び中央領域35cとに対応付けられる。すなわち、外周領域Reの紫外光は、紫外光照射部26から出射されて基準横断面35の外周領域35eを通過する紫外光に対応する。中央領域Rcの紫外光は、紫外光照射部26から出射されて基準横断面35の中央領域35cを通過する紫外光に対応する。
【0047】
図6Aの縦断面の配光パターンおいて、同一の軸方向位置では、灰色の領域が右に延びている径方向位置ほど、すなわち灰色の領域が整流板19bの近くまでが達している径方向位置ほど、紫外光の強度が大きいことを意味する。図6Bの基準横断面35の配光パターンにおいて、Sae,Sacは、それぞれ外周領域35e及び中央領域35cにおける紫外光の強度を示している。
【0048】
基準横断面35の外周領域35e及び中央領域35c、したがって、外周領域Re及び中央領域Rcは、それぞれ流体空間16の群40e,40cのLED29からの紫外光により照射される。図5で説明したように、群40eにおけるLED29の分布密度は、群40cにおけるLED29の分布密度より大きい。また、リフレクタ30eの配光角(反射紫外光の広がり角)は、リフレクタ30cの配光角より狭い。
【0049】
この結果、同一の軸方向位置では、紫外光の強度は、外周領域Reの方が中央領域Rcより大きくなる。したがって、基準横断面35における配光パターンの紫外光強度は、Sae>Sacとなる。
【0050】
紫外光照射部26では、群40eのLED29の分布密度は、周方向に一様であるので、基準横断面35の外周領域35eの紫外光の強度は、周方向に一様になる。
【0051】
なお、図6Bにおいて、Eqが、流体空間16の流出口21の周方向位置に対応する外周領域Reの部分(以下、「流出口対応外周部分Eq」という。)に相当する。図6Bでは、流出口21が2つあるので、流出口対応外周部分Eqも2つある。Sae>Sacであるので、当然に、紫外光の強度は、流出口対応外周部分Eqの方が中央領域35cより大きくなる。
【0052】
[具体的な作用・効果]
図3で説明したように、流入口17から流体空間16に流入した流体は、整流板19により整流される。そして、外周領域Reにおける流体の流速Veは、中央領域Rcにおける流体の流速Vcより低いものの、整流板19bから流出口21までの経路長は、外周領域Reの流体の方が中央領域Rcの流体より大幅に短い。図6A及び図6Bの配光パターンは、経路長の短い外周領域Reの流体に経路長の長い中央領域Rcの流体よりも紫外光の強度を強くすることを意味する。
【0053】
これにより、処理室23を通過する流体の流速及び経路長に関係する紫外光のドーズ量の不均衡が緩和される。この結果、流体に対する紫外光のドーズ量が均一化し、流体殺菌装置1による殺菌効果を高めることができる。
【0054】
流体殺菌装置1では、整流板19が、処理室23を流入口17から流出口21へ軸方向に流れる流体を整流化する。このことは、処理室23の外周領域Reを流れるために経路長が短くなる流体に対する大きな強度での紫外光の照射を安定化させることになる。すなわち、経路長の短い外周領域Reを流れていた流体が、紫外光の強度の小さい内周側の中央領域Rcに移行することが抑制される。この結果、流出口対応外周部分Eqを流れる流体に対する紫外光の強度を、中央領域35cを流れる流体に対す紫外光の強度よりも大きくした配光パターンによるドーズ量の均一化の効果を一層高めることができる。
【0055】
流体殺菌装置1では、流出口21が周方向に等角度間隔(例:180°)で複数、設けられている。これにより、流体空間16の外周領域を流れる流体についての経路長が均一化するとともに、外周領域Reにおいて、流出口21の周方向位置に対応する部分としての流出口対応外周部分Eqの個数が、流出口21が1つの場合よりも、増大する。この結果、外周領域Reの全体におけるドーズ量のむらが抑制され、混入菌に対する不活度を改善することができる。
【0056】
この流体殺菌装置1では、紫外光照射部26は、外周領域Reにおける紫外光の強度を一様にする配光パターンで紫外光を流体空間16に照射する(図6Bの配光パターン参照)。これにより、配光パターンの生成部としての紫外光照射部26の構造は、後述の図8Bの配光パターンの生成部としての紫外光照射部26bの構造に比して、簡単となる。
【0057】
[シミュレーション]
図7は、所定のシミュレーションにより比較例の流体殺菌装置(上)と実施の形態の流体殺菌装置1(下)とで菌の不活度を調べて対比したグラフである。比較例及び流体殺菌装置1共に、流速Vc=15cm/秒、流速Ve=10cm/秒としている。また、比較例及び流体殺菌装置1共に、L4は、d2/2<L4≦D/2としている。
【0058】
流体殺菌装置1と比較例とで相違させた点は、流体殺菌装置1の配光パターンでは、外周領域Reの紫外光の強度を中央領域Rcの紫外光の強度より強くしているのに対し、比較例の配光パターンでは、前述の特許文献1の配光パターンと同様に、中央領域Rcの紫外光の強度を外周領域Reの紫外光の強度より強くしている点である。
【0059】
図7において、横軸はドーズ量を示している。シミュレーションにおいてドーズ量とは、菌を所定の径の粒子に置き換え、各粒子が、処理室23を通過する通過時間Tpの各時刻に照射される紫外光の強度を通過時間Tpにわたり積分したものである。横軸のドーズ量は、所定の刻みで等分割されて、縦軸の粒子数は、ドーズ量の分割区分ごとの粒子数を示している。
【0060】
図7における上側のグラフと下側のグラフとの対比から、流体殺菌装置1では、粒子数が最大となるドーズ量の分割区分が増大側にシフトしていることが分かる。この結果、菌の不活度が、シフト分、改善されたことになる。
【0061】
具体的な不活度を述べるために、不活化の指標菌として用いられるMS2ファージの回文試験の結果を用いる。1Log(90%)不活化するのに必要なRED(Reduction Equivalent Dose)は20.2mJ/cm2であることがわかっており、その実験値からREDを推定すると比較例ではRED推定値が9.67mJ/cmとなったのに対し、流体殺菌装置1では10.43mJ/cmと、高くなった。
【0062】
[オフセット]
さらに、該比較例を第1比較例として、第1比較例とは別の第2比較例についてもシミュレーションを行った。第1比較例と第2比較例との相違点は、第1比較例では、L4は、d2/2<L4≦D/2としているのに対し、第2比較例では、L4は、d2/2=L4とした点である。第2比較例におけるRED推定値は、9.19mJ/cmとなった。
【0063】
特許文献1の流体殺菌装置では、L4=d2/2としている。以下、L4-d2/2を流出口21の「オフセット」という。オフセット=0は、筒状チャンバ2の軸方向に流出口21の他端側の端が石英板3の流体空間16側の面に接していることを意味する。流出口21は、円の横断面に設定されているので、オフセットとは、流出口21の中心が、石英板3の流体空間16側の面から一端側の方にd/2だけずれた軸方向位置(オフセット=0)を基準に一端側の方にずれた寸法(=L4-d2/2:図3参照)となる。前述の特許文献1の流体殺菌装置では、オフセット=0になっている。
【0064】
オフセット(=L4-d2/2)は、中央領域Rcを軸方向に流れる流体の流速Vcに応じた位置に設定される。すなわち、流速Vcが大であるほど、オフセットが大であるように、設定されている。これにより、中央領域Rcを流れる流体は、石英板3に衝突後において、スムーズに(すなわち、乱流を生じずに)削除(乱流で流出することもあり得る為)流出口21に導かれて、流出口21から流体空間16の外に流出する。
【0065】
[別の紫外光照射部]
図8A及び図8Bは、別の紫外光照射部26bの正面図及び該紫外光照射部26bによる基準横断面35における配光パターンを示している。図8A及び図8Bにおいて、図5及び図6Bの部分と対応する部分は、図5及び図6Bの部分に付けた符号と同一の符号を付けて示す。紫外光照射部26bにおいて、紫外光照射部26との相違点について説明する。
【0066】
紫外光照射部26bは、3種類のリフレクタ30を有している。3種類のリフレクタ30とは、具体的には、リフレクタ30c,30o,30pである。紫外光照射部26bでは、リフレクタ30c,30o,30pの各々は、対応する複数のLED29に対して共通に設けられている。
【0067】
基準横断面35の外周領域35eは、2つの流出口21の中心を結ぶ直径と該直径に直交する直径との基準横断面35への投影線により4等分割されている。流出口21に臨む外周領域35eの分割部分を「流出口領域35o」と呼び、流出口21に臨まない外周領域35eの分割部分を「中間部分35n」と呼ぶことにする。
【0068】
リフレクタ30oは、群40eのうち流出口領域35oに対応する周方向位置に配置されている複数のLED29に共通に設けられている。リフレクタ30pは、群40eのうち中間部分35nに対応する周方向位置に配置されている複数のLED29に共通に設けられている。
【0069】
紫外光照射部26bでは、リフレクタ30oとリフレクタ30pとは、寸法及び形状が同一である。そして、各リフレクタ30oの内面側に配置されるLED29の個数(例:3個)は、各リフレクタ30pの内面側に配置されるLED29の個数(例:2個)より大となっている。
【0070】
この結果、図8Bの基準横断面35における配光パターンの外周領域35eにおける紫外光の強度は、流出口領域35oの強度Sbe1の方が、中間部分35nの強度Sbe2より強くなる。基準横断面35全体の紫外光の強度は、Sbe1>Sbe2>Sbcとなる。流出口対応外周部分Eqは、流出口領域35oに含まれるので、当然に、紫外光の強度は、流出口対応外周部分Eqの方が中央領域35cより大きくなる。
【0071】
[流出口が単一である流体殺菌装置]
図9A及び図9Bは、流出口21を1つか有しない流体殺菌装置1bの流体空間16における縦断面(中心線Clと流出口21の中心とを含む平面上の縦断面)及び横断面(例:基準横断面35)における紫外光の配光パターン図である。図1の流体殺菌装置1が、2つの流出口21を周方向に180°離れた位置に備えるのに対し、流体殺菌装置1bは、流体殺菌装置1の2つの流出口21のうち、一方を欠落している。
【0072】
図9A及び図9Bの流体殺菌装置1bの各要素において、流体殺菌装置1bの各要素と対応する要素は、流体殺菌装置1bの各要素に付けた符号と同一の符号で指示する。流体殺菌装置1bは、紫外光照射部26,26bとは別の紫外光照射部36を備える。紫外光照射部36は、例えば、図8Aの紫外光照射部26bにおいて、下側のリフレクタ30oをリフレクタ30pに置き換えたものなっている。したがって、流体殺菌装置1bの紫外光照射部36は、群40e(図8A参照)において、周方向に流出口21に対応する範囲にリフレクタ30oが設けられ、周方向に流出口21に対応しない範囲としての残りの範囲には、3個のリフレクタ30pが設けられていることになる。
【0073】
図9Aにおいても、図6Aの場合と同様に、灰色の領域は、基準の不活度を達成する紫外光の強度が確保されている領域を示している。また、図6Bでは、基準横断面35の全体は、流出口領域35oと残り領域35rとに分けられる。流出口領域35oは、図6Aの基準横断面35における外周領域35eのうち周方向に流出口21に対応する部分を占める。残り領域35rは、図6Aの基準横断面35から流出口領域35oを除外した残りの全部であり、図6Aの中央領域35cも含む。
【0074】
図9Aにおいても、前述の図6Aの場合と同様に、不活度強度領域が、整流板19b側、すなわち一端側への延び出し量が大きい基準横断面35における径方向の領域ほど、紫外光の強度が強いことを意味する。こうして、基準横断面35では、流出口領域35oの紫外光の強度Sce1は、残り領域35rの紫外光の強度Sce2より大きくなる。
【0075】
流出口対応外周部分Eqは、流出口領域35oに含まれている。したがって、流体殺菌装置1bにおいても、当然に、紫外光の強度は、流出口対応外周部分Eqの方が中央領域35cより大きくなる。
【0076】
流体殺菌装置1bは、流出口21が1つであるので、紫外光で殺菌処理済みの流体を1つの流出口管14からまとめて流出させることができる。すなわち、複数の流出口21からの殺菌処理済みの流体を1つにまとめる場合に、流出構造を簡単化することができる。
【0077】
[駆動方法]
駆動方法の実施形態について説明する。駆動方法が適用される流体殺菌装置1は、筒状チャンバ2と、少なくとも1つの少なくとも1つの流出口21と、紫外光照射部26とを備える。紫外光照射部26は、少なくとも透過部としての石英板3を介して流体空間16に紫外光を照射する構成を必要とする。このような構成を備える流体殺菌装置1において、駆動方法は、流体空間16の少なくとも1つの流出口21の周方向位置に対応する外周領域Reの部分としての流出口対応外周部分Eqに照射される紫外光の強度が外周領域Reよりも内周側の中央領域Rcに照射される紫外光の強度よりも大きくなるように、紫外光照射部26から紫外光を照射する。
【0078】
[変形例]
実施形態では、紫外光を透過する透過部として石英板3が用いられている。本発明では、紫外光を透過させ、かつ流体空間16側からの流体に対する耐圧性と耐衝撃性を有する材料部材であれば、該材料部材を石英板3の代わりに用いることができる。
【0079】
実施形態の流体殺菌装置1では、流出口管14は、複数の流出口21に対応して、複数配備されている。流体殺菌装置1では、流出口管14は1本のみの方が好ましいことが多い。その場合には、筒状チャンバ2の他端側の外周部に、具体的には軸方向に流出口21と同一の位置に環状管路部材(環状ジャケット)が装着される。複数の流出口21は、共通の環状管路部材の内周に連通し、1本の流出口管14が環状管路部材の外周部又は側部に接続される。こうして、複数の流出口21からの流体は、環状管路部材の環状通路で合流し、その後、1本の流出口管からまとまって流出する。
【0080】
紫外光照射部26からの処理室23への紫外光の配光パターンは、流体空間16における流体の流速及び経路長に応じて所望の配光パターンが生成されるように、設定される。実施形態では、配光パターンの設定は、基板28におけるLED29の分布密度(分布密度は、LED29の個数及び位置に関係する。)、並びにリフレクタ30の位置及び反射面形状(配光角)の変更により行われる。その他の設定として、LED29の種類や通電量を変更して、LED29ごとに光度を調整したり、リフレクタ30の向き、大きさ又は反射率を変更したりすることもできる。
【0081】
配光パターンの設定をLED29の通電量の変更により行う場合には、紫外光照射部26の外部に接続されている駆動回路等によって、流出口21付近に対応する位置にあるLED29の通電量をその他の位置のLEDよりも大きくすることができる。この場合は、基板28上におけるLED29の分布密度が流出口21付近に対応する位置において高い必要はない。
【0082】
実施形態では、同一の整流板19を2つ並べて流体殺菌装置1の整流部を構成している。本発明の整流部は、1つ又は3以上の同一又は異なる整流板19により構成することもできる。異なる整流板19とは、例えば、通孔の径が外周部と中央部とで相違していたり、分布密度が相違したり構造を意味する。
【0083】
実施形態では、光源としてLED29が用いられている。本発明の光源は、紫外光を出射する光源であれば、LED29以外の半導体発光素子とすることができる。
【符号の説明】
【0084】
1,1b・・・流体殺菌装置、2・・・筒状チャンバ、3・・・石英板(透過部)、5・・・リフレクタ部、6・・・光源部、16・・・流体空間、17・・・流入口、19・・・整流板、21・・・流出口、26・・・紫外光照射部、30・・・リフレクタ、Eq・・・流出口対応外周部分、Rc・・・中央領域、Re・・・外周領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9A
図9B