(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】発光装置
(51)【国際特許分類】
H01L 33/58 20100101AFI20221125BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20221125BHJP
H01L 33/52 20100101ALI20221125BHJP
【FI】
H01L33/58
H01L33/50
H01L33/52
(21)【出願番号】P 2018234489
(22)【出願日】2018-12-14
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕介
(72)【発明者】
【氏名】大野 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】下田 陽一
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-219324(JP,A)
【文献】特開2017-108092(JP,A)
【文献】特開2014-189451(JP,A)
【文献】特開2009-081235(JP,A)
【文献】特開2007-035967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/48-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置された発光素子と、
前記基板上において前記発光素子の側方に設けられ、紫外光の照射によって光吸収特性が変化する複数の金属酸化物粒子を含む可変光吸収体と、
を備え、
前記可変光吸収体は、前記可変光吸収体の上面から20μm以下の深さの領域に形成され、紫外光の照射によって前記発光素子から放出された光に対して吸収性を有する複数の金属酸化物粒子を含む吸収領域を有することを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記可変光吸収体の前記複数の金属酸化物粒子は、紫外光の照射によってバンドギャップが変化することを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記可変光吸収体は、前記基板上において層状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記可変光吸収体は、前記吸収領域よりも前記基板側に設けられ、前記発光素子から放出された光に対して散乱及び反射性を有する複数の金属酸化物粒子を含む散乱反射領域を有することを特徴とする請求項1乃至
3のいずれか1つに記載の発光装置。
【請求項5】
前記発光素子上に設けられ、前記発光素子から放出された光の波長を変換する波長変換体を有し、
前記複数の金属酸化物粒子は、紫外光の照射によって前記波長変換体によって波長が変換された光に対する吸収率が変化することを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1つに記載の発光装置。
【請求項6】
前記可変光吸収体は、前記複数の金属酸化物粒子を分散させる樹脂媒質を有することを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1つに記載の発光装置。
【請求項7】
前記複数の金属酸化物粒子は、複数の酸化チタン粒子又は酸化亜鉛粒子であることを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか1つに記載の発光装置。
【請求項8】
前記複数の酸化チタン粒子又
は酸化亜鉛粒子は、前記可変光吸収体の上面から所定の深さの領域において、30wt%以下の濃度で分散されていることを特徴とする請求項
7に記載の発光装置。
【請求項9】
前記複数の酸化チタン粒子又は酸化亜鉛粒子は、150~350nmの範囲内の平均粒径を有することを特徴とする請求項
7又は8に記載の発光装置。
【請求項10】
前記複数の金属酸化物粒子は、前記可変光吸収体内において前記基板に向かって徐々に濃度が高くなるように分散されていることを特徴とする請求項1乃至
9のいずれか1つに記載の発光装置。
【請求項11】
前記基板上
に設けられ、前記発光素子及び前記可変光吸収体を封止し
、紫外光に対して透光性を有する封止体を有することを特徴とする請求項1乃至
10のいずれか1つに記載の発光装置。
【請求項12】
前記発光素子は、支持基板と、前記支持基板に支持され、発光層を含む半導体層と、を有し、
前記可変光吸収体は、前記基板上において前記発光素子の前記発光層を越えない高さで形成されていることを特徴とする請求項1乃至
11のいずれか1つに記載の発光装置。
【請求項13】
基板と、
前記基板上に並置された複数の発光素子と、
前記基板上において前記複数の発光素子の各々の側方に設けられ、紫外光の照射によって光吸収特性が変化する複数の金属酸化物粒子を含む可変光吸収体と、
を備え、
前記可変光吸収体は、前記可変光吸収体の上面から20μm以下の深さの領域に形成され、紫外光の照射によって前記複数の発光素子の各々から放出された光に対して吸収性を有する複数の金属酸化物粒子を含む吸収領域を有することを特徴とする発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオードなどの発光素子を含む発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば発光ダイオードなどの発光素子を含む発光装置が知られている。例えば、特許文献1には、発光素子及び当該発光素子から放出された光を透過させる光透過部材を含む発光装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発光素子は、給電されることで発光動作を行う。発光装置には、例えば、発光素子への給電用の電極及び配線が設けられている。また、発光装置には、例えば、発光素子の他、抵抗やコンデンサなどの機能素子などが設けられている。そして、発光装置は、当該種々の素子及び配線が保護及び封止された状態で、当該発光装置を用いる種々の装置及びシステムに取り付けられる。
【0005】
また、発光装置には、用途及び客先によって要求される光学特性、例えば、要求される光出力の範囲が異なる。また、当該要求される光学特性を満たすように装置設計を行った場合でも、製造工程上の許容誤差などの他の要因によって当該光学特性を満たさない個体が作製される場合がある。
【0006】
しかし、発光装置の場合、例えば、実装後、例えば封止後に発光素子や他の機能素子を変更することが困難である場合が多い。従って、例えば、完成品検査において合格範囲から外れた光学特性の発光装置を当該検査後に合格範囲となるように調整すること、また、客先で発光装置の光学特性を変更することが困難である場合が多い。
【0007】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、実装後に容易に光学特性を調節することが可能な発光装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る発光装置は、基板と、基板上に配置された発光素子と、基板上において発光素子の側方に設けられ、紫外光の照射によって光吸収特性が変化する複数の金属酸化物粒子を含む可変光吸収体と、を有することを特徴としている。
【0009】
また、本発明に係る発光装置は、基板と、基板上に並置された複数の発光素子と、基板上において複数の発光素子の各々の側方に設けられ、紫外光の照射によって光吸収特性が変化する複数の金属酸化物粒子を含む可変光吸収体と、を有することを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1C】実施例1に係る発光装置の拡大断面図である。
【
図1D】実施例1に係る発光装置における可変光吸収体内の粒子の断面図である。
【
図2A】実施例1に係る発光装置の製造方法を示す図である。
【
図2B】実施例1に係る発光装置の製造方法を示す図である。
【
図2C】実施例1に係る発光装置の製造方法を示す図である。
【
図3】実施例1に係る発光装置における光出力の調整方法を示す図である。
【
図4】実施例1の変形例1に係る発光装置の断面図である。
【
図5】実施例1の変形例2に係る発光装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
図1Aは、実施例1に係る発光装置10の模式的な上面図である。
図1Bは、
図1Aの1B-1B線に沿った断面図である。また、
図1Cは、
図1Bの破線で囲まれた部分Aを拡大して示す拡大断面図である。
図1A乃至
図1Cを用いて、発光装置10の構成について説明する。
【0013】
発光装置10は、基板11及び基板11上に配置された発光素子12を有する。また、発光装置10は、基板11上における発光素子12の側方に設けられ、発光素子12から放出された光に対する吸収性を変更可能な可変光吸収体13を有する。また、発光装置10は、基板11上に設けられ、発光素子12を封止し、発光素子12から放出された光に対して透光性を有する封止体14を有する。
【0014】
また、本実施例においては、発光装置10は、基板11上において発光素子12から離間して設けられ、発光素子12を取り囲む枠体15を有する。可変光吸収体13及び封止体14の各々は、基板11上における発光素子12と枠体15との間の領域に設けられている。
【0015】
次に、発光装置10の詳細な構成について説明する。本実施例においては、基板11は、絶縁性の基体11Aと、基体11A上に設けられた第1及び第2の配線11B及び11Cと、を有する。発光素子12は、第1及び第2の電極11B及び11Cに電気的に接続されるように基板11に接合されている。
【0016】
本実施例においては、基板11の基体11Aは板状の形状を有し、基体11Aの上面上に第1及び第2の配線11B及び11Cが形成されている。発光素子12は、第1及び第2の配線11B及び11Cに接しつつ基体11Aの上面に接合されている。すなわち、基体11の上面は、基板11における発光素子12の実装面として機能する。
【0017】
なお、図示していないが、本実施例においては、第1及び第2の配線11B及び11Cは、基体11の上面と底面との間を貫通する貫通孔を介し、基体11の底面に形成された外部端子に接続されている。しかし、基板11の配線の構成はこれに限定されない。基板11上に発光素子12が実装されていればよい。
【0018】
発光素子12は、例えば、発光ダイオードなどの半導体発光素子である。本実施例においては、発光素子12は、支持基板12Aと、支持基板12Aに支持され、発光層を含む半導体層12Bと、を有する。例えば、支持基板12Aはシリコン基板からなる。また、例えば、半導体層12Bは、窒化物系半導体からなる。発光素子12の各々は、例えば、420~470nmの波長の光(以下、青色光と称する場合がある)を放出する。
【0019】
例えば、発光素子12は、支持基板12A、支持基板12Aの上面上に形成された半導体層12B、半導体層12B上に形成された第1の電極(図示せず)、及び支持基板12Aの底面上に形成された第2の電極(図示せず)を有する。
【0020】
発光素子12は、支持基板12Aの底面から基板11の実装面に載置されている。また、発光素子12の当該第1の電極は、例えば金ワイヤなどのボンディングワイヤを介して基板11の第1の配線11Bに接続されている。また、第2の電極は、導電性接合部材を介して基板11の第2の配線11Cに接続されている。
【0021】
なお、発光素子12の構成はこれに限定されない。例えば、発光素子12は、半導体層12Bの結晶成長に用いられる成長基板を有していてもよい。この場合、例えば、発光素子12は、成長基板、当該成長基板上に成長された半導体層12B、当該半導体層12B上に形成された第1の電極及び第2の電極を有する。また、この場合、発光素子12は、成長基板が基板11に接合される。また、第1及び第2の電極は、ボンディングワイヤを介して基板11の第1及び第2の配線11B及び11Cに接続される。
【0022】
また、発光素子12の他の構成としては、半導体層12Bが基板11の実装面に載置されていてもよい。この場合、発光素子12は、半導体層12B上に形成された第1及び第2の電極を有する。また、発光素子12の第1及び第2の電極は、導電性接合部材を介して基板11に接合される(フリップチップ接合ともいう)。この場合、基板11上には半導体層12Bが配置され、半導体層12B上に透光性の支持基板12A又は半導体層12Bの結晶成長に用いられる成長基板が配置されることとなる。
【0023】
また、本実施例においては、発光素子12は、基板11における発光素子12の実装面に垂直な方向から見たときに矩形(本実施例においては正方形)の上面形状を有する場合について説明する。しかし、発光素子12の上面形状は、矩形に限定されず、例えば円形状、楕円形状及び長方形状など、種々の形状であってもよい。本実施例においては、発光素子12の上面(例えば半導体層12B又は支持基板12Aにおける基板11とは反対側の表面)は、発光素子12の光取り出し面として機能する。
【0024】
可変光吸収体13は、紫外光を照射することによって光吸収性が変化するように構成されている。例えば、可変光吸収体13は、後述するように、酸化チタン粒子及び酸化チタン粒子を含有する媒質(マトリクス)からなる。本実施例においては、可変光吸収体13は、基板11上における発光素子12の側方において層状に形成されている。
【0025】
可変光吸収体13内の酸化チタン粒子は、紫外光を照射することによって変質し、例えば発光素子12から放出された光に対する吸収性を変化させる。本実施例においては、可変光吸収体13は、その一部の領域において発光素子12から放出された光を吸収し、他の領域において当該光を透過又は散乱させる。
【0026】
本実施例においては、可変光吸収体13は、基板11上に設けられ、紫外光が照射されておらず、発光素子12から放出された光を散乱及び反射させる酸化チタン粒子、すなわち当該光に対して吸収性を有さない酸化チタン粒子が含有された領域(以下、散乱反射領域と称する)13SCを有する。
【0027】
また、可変光吸収体13は、散乱反射領域13SCよりも基板11から離れた位置、本実施例においては可変光吸収体13の上面13Sの近傍に設けられ、紫外光が照射されることで発光素子12から放出された光に対して吸収性を有する酸化チタン粒子が含有された領域(以下、吸収領域と称する)13ABを有する。
【0028】
封止体14は、基板11上において発光素子12及び可変光吸収体13を埋設するように設けられている。本実施例においては、封止体14は、発光素子12の上面及び側面と、可変光吸収体13の上面13Sとを完全に覆っている。また、封止体14は、絶縁性を有し、かつ発光素子12から放出された光に対して透光性を有する。例えば、封止体14は、シリコーン樹脂からなる。
【0029】
枠体15は、可変光吸収体13及び封止体14の側面に接し、発光素子12から離間して発光素子12を取り囲むように、基板11上に配置されている。枠体15は、例えば、可変光吸収体13よりも高い濃度で酸化チタン粒子を含有する樹脂体からなる。
【0030】
なお、枠体15は、基板11上において発光素子12の実装領域及び封止体14による発光素子12の封止領域を画定する部材として機能する。封止体14は、枠体15の内側の領域に設けられる。しかし、封止体14は、枠体15の上面の一部の領域を覆っていてもよいし、枠体15の全体を覆っていてもよい(枠体15を埋設していてもよい)。また、枠体15は設けられていなくてもよい。
【0031】
以下、可変光吸収体13について詳細に説明する。可変光吸収体13は、発光素子12とともに、封止体14によって封止されている。本実施例においては、可変光吸収体13は、上面13Sにおいて封止体14に接し、内側面において発光素子12に接している。また、本実施例においては、可変光吸収体13は、底面において基板11に接し、外側面において枠体15に接している。なお、可変光吸収体13は、基板11上において発光素子12に側方に配置されていればよく、
図1に示すような配置構成を有する場合に限定されない。
【0032】
次に、
図1C及び
図1Dを用いて、可変光吸収体13の内部構造について説明する。
図1Dは、可変光吸収体13に含有されている粒子の模式的な断面図である。まず、
図1Cに示すように、可変光吸収体13は、可変光吸収体13内に分散された複数の酸化チタン粒子(
図1Cには第1、第2及び第3の酸化チタン粒子P1、P2及びP3を示した)を含む粒子群13PTを有する。
【0033】
本実施例においては、可変光吸収体13は、粒子群13PTを分散させる媒質を含む。当該媒質としては、例えば熱硬化性のシリコーン樹脂及びエポキシ樹脂などが挙げられる。すなわち、可変光吸収体13は、粒子を含有する樹脂体からなる。また、本実施例においては、当該媒質としての樹脂体は、可視光を透過させる特性を有する。なお、本実施例においては、可変光吸収体13は、その媒質が基板11、発光素子12及び封止体13などに接している。
【0034】
また、
図1Dに示すように、第1~第3の酸化チタン粒子P1~P3の各々は、酸化チタンP10、P20及びP30と、酸化チタン(粒子本体)P10、P20及びP30をそれぞれ被覆する被覆膜P11、P21及びP31と、を有している。
【0035】
具体的には、本実施例においては、第1の酸化チタン粒子P1は、酸化チタンP10と、酸化チタンP10の表面を被覆して酸化チタンP10を保護する被覆膜P11と、を有する。被覆膜P11は、例えば、アルミナ、シリカ、ポリオールなどの有機物からなる膜である。同様に、第2及び第3の酸化チタン粒子P2及びP3の各々は、酸化チタンP20及びP30と、酸化チタンP20及びP30の表面を被覆する被覆膜P21及びP31と、を有する。
【0036】
次に、
図1Dに示すように、粒子群13PTのうち、第1及び第3の酸化チタン粒子P1及びP3の各々は、各粒子内(各酸化チタンP10及びP30内)において他の部分よりもバンドギャップが小さい部分P00を有する。当該部分P00は、酸化チタンにおける酸素が欠損した部分である。以下においては、部分P00を酸素欠損部と称する。
【0037】
また、
図1Cに示すように、本実施例においては、粒子群13PTは、可変光吸収体13の上面13Sから基板11に向かって、各粒子内における酸素欠損部P00の平均密度が低くなるように分散された第1~第3の酸化チタン粒子P1~P3を含む。なお、図の明確さのため、
図1Cにおいては、第1及び第3の酸化チタン粒子P1及びP3にハッチングを施している。本実施例においては、酸化チタン粒子P1~P3の各々は、ルチル型の結晶構造を有する二酸化チタン(TiO
2)P10、P20及びP30からなる。
【0038】
なお、第1~第3の酸化チタン粒子P1~P3の各々内における酸素欠損部P00の密度とは、例えば、各粒子内における酸素欠損部P00が占める割合であり、例えば、各酸化チタンP10~P30の表面における酸素欠損部P00の占有面積である。
【0039】
本実施例においては、粒子群13PTのうち、可変光吸収体13内における最も上面13S側の領域(以下、第1の領域と称する場合がある)13Aに分散された第1の酸化チタン粒子P1は、最も高い密度(第1の密度)で酸素欠損部P00を有する。
【0040】
例えば、第1の酸化チタン粒子P1の酸素欠損部P00は、可視光のエネルギー(詳細には可視光の波長のエネルギー)よりも小さなバンドギャップエネルギーを有する。例えば、本実施例においては、第1の酸化チタン粒子P1における酸素欠損部P00は、発光素子12からの放出光(本実施例においては青色光)のエネルギーよりも小さなバンドギャップエネルギー(例えば約1.5eV)を有する。
【0041】
また、粒子群13PTのうち、可変光吸収体13内における最も基板11側の領域(以下、第2の領域と称する場合がある)13Bに分散された第2の酸化チタン粒子P2は、最も低い密度(第2の密度)で酸素欠損部P00を有する。
【0042】
例えば、第2の酸化チタン粒子P2は、
図1Dに示すように、酸素欠損部P00をほとんど有さない。従って、例えば、第2の酸化チタン粒子P2は、いずれの部分においても(ほぼ全体において)、発光素子12からの放出光のエネルギーよりも大きなバンドギャップエネルギーを有する。
【0043】
例えば、第2の酸化チタン粒子P2(酸化チタンP20)がルチル型の結晶構造を有する場合、第2の酸化チタン粒子P2は、3.0eVのバンドギャップエネルギーを有する。なお、第2の酸化チタン粒子P2がアナターゼ型の結晶構造を有する場合、第2の酸化チタン粒子P2は、3.2eVのバンドギャップエネルギーを有する。
【0044】
また、粒子群13PTのうち、第1及び第2の領域13A及び13B間の領域(以下、第3の領域と称する場合がある)13Cに分散された第3の酸化チタン粒子P3は、第1の酸化チタン粒子P1よりも小さくかつ第2の酸化チタン粒子P2よりも密度(第3の密度(第1の密度と第2の密度との間の密度))で、酸素欠損部P00を有する。
【0045】
なお、酸化チタンの結晶は、酸素欠損によってバンドギャップが小さくなると解されている。より詳細には、酸素欠損によって、酸化チタンの価電子帯と導電帯との間に中間準位が形成される。ここでいうバンドギャップとは、この中間準位と価電子帯又は導電帯との間のエネルギーギャップである。
【0046】
ここで、第1~第3の酸化チタン粒子P1~P3におけるバンドギャップ(各粒子内における局部的なバンドギャップ)について説明する。バンドギャップを有する結晶は、そのバンドギャップエネルギーよりも大きなエネルギーの波長の光を吸収し、これよりも小さなエネルギーの波長の光を透過させる光学特性を有する。
【0047】
本実施例においては、第1及び第3の酸化チタン粒子P1及びP3の各々における酸素欠損部P00は、可視光の波長に相当するバンドギャップエネルギーよりも小さなバンドギャップエネルギーを有する。
【0048】
例えば、450nmの波長の光、(青色光、大気中)の光のエネルギーは約2.76eVであり、630nmの波長の光(赤色光、大気中)の光のエネルギーは約1.67eVである。そして、第1及び第3の酸化チタン粒子P1及びP3は、上記したように、1.5eVのバンドギャップエネルギーを有する酸素欠損部P00を含む。従って、第1及び第3の酸化チタン粒子P1及びP3の各々は、酸素欠損部P00によって、可視光を吸収する。
【0049】
一方、第2の酸化チタン粒子P2の各々は酸素欠損部P00を有さない(ほとんど有さない)。すなわち、第2の酸化チタン粒子P2は、そのほぼ全体が3.0eV(例えばルチル型の場合)のバンドギャップエネルギーを有する。従って、第2の酸化チタン粒子P2は、可視光を吸収しない散乱反射粒子として機能し、可視光を透過及び散乱させる。
【0050】
なお、本実施例においては、第1及び第3の酸化チタン粒子P1及びP3(第1及び第3の領域13A及び13C)は、白色の可視光を用いた観察下では、可視光を吸収するため、黒色又は灰色を呈している。また、本実施例においては、第2の酸化チタン粒子P2(第2の領域13B)は、白色の可視光を用いた観察下では、白色を呈している。
【0051】
換言すれば、本実施例においては、第1及び第3の領域13A及び13Cは、可視光を吸収する吸収領域13ABとして機能する。一方、第2の領域13Bは、可視光を散乱及び反射させる散乱反射領域13SCとして機能する。
【0052】
また、本実施例においては、第1及び第3の酸化チタン粒子P1及びP3は、可変光吸収体13の上面13Sの近傍の所定の深さの領域のみに分散されている。例えば、第1及び第3の酸化チタン粒子P1及びP3は、上面13Sから20μm以下の厚さ(深さ)の範囲内の領域のみに分散されている。従って、可変光吸収体13は、上面13Sの近傍では吸収領域13ABとして機能し、その内部では散乱反射領域13SCとして機能する。
【0053】
また、本実施例においては、第1~第3の酸化チタン粒子P1~P3は、可変光吸収体13内(媒質内)において、全体として均一な分散密度で分散されている。しかし、第1~第3の酸化チタン粒子P1~P3は、可変光吸収体13の上面13Sから基板11に向かって分散密度(含有量)が徐々に高くなるように、分散されていてもよい。例えば、粒子群13PTは、可変光吸収体13における基板11に近い領域(下部領域)においては、上面13Sに近い領域(上部領域)よりも高い密度で分散されていてもよい。
【0054】
なお、第1、第2及び第3の酸化チタン粒子P1、P2及びP3は、それぞれ被覆膜P11、P21及びP31を有する。これによって、第1~第3の酸化チタン粒子P1~P3に、紫外線による黄変への耐性(耐黄変性)や、耐候性を持たせることができる。しかし、紫外線による黄変への耐性や耐候性を必要としない場合、第1~第3の酸化チタン粒子P1~P3は被覆膜P11~P31を有していなくてもよい。
【0055】
図2A、
図2B及び
図2Cの各々は、発光装置10の製造方法の各工程を示す図である。
図2A乃至
図2Cの各々は、各工程中における
図1Aと同様の断面図である。また、
図3は、発光装置10の製造方法を示すフロー図である。
図2A乃至
図2C及び
図3を用いて、発光装置10の製造方法について説明する。
【0056】
まず、
図2Aは、発光素子12、吸収領域13ABを有さない可変光吸収体13P(以下、同様に可変光吸収体と称する)、封止体14及び枠体15が形成された基板11を示す図である。本実施例においては、まず、基体11(第1及び第2の配線11B及び11Cが形成された基体11A)を準備し、基板11に枠体15を固定する(
図3、工程S11)。なお、予め枠体15が固定されている基板11を準備してもよいし、基板11及び枠体15が一体的に成型されたものを準備してもよい。
【0057】
次に、基板11上に発光素子12を実装する(
図3、工程S12)。続いて、基板11上における発光素子12と枠体15との間の領域に、可変光吸収体13Pを形成する(
図3、工程S13)。
【0058】
本実施例においては、第2の酸化チタン粒子P2と同様の酸化チタン粒子P0を含有するシリコーン樹脂を充填し、短時間加熱して仮硬化させる(シリコーン樹脂の分子間の架橋が不十分な状態にする)ことで、可変光吸収体13Pを形成した。また、本実施例においては、酸化チタン粒子P0として、平均粒径が250nm、バンドギャップエネルギーが3.0eVのルチル型の二酸化チタンを用いた。そして、可変光吸収体13Pにおける酸化チタン粒子P0の濃度は16wt%とした。
【0059】
次に、発光素子12を封止する(
図3、工程S14)。本実施例においては、発光素子12及び可変光吸収体14を埋設するように、基板11上における枠体15の内側の領域を透光性のシリコーン樹脂で充填した。そして、当該シリコーン樹脂を加熱して本硬化させることで、封止体14を形成した。
【0060】
なお、本実施例においては、可変光吸収体13における光吸収率の調整に紫外光を用いる。従って、本実施例においては、封止体14として、紫外光及び可視光の両方に対して透光性を有する樹脂材料を用いた。
【0061】
図2Bは、可変光吸収体13Pの上面13Sに紫外光LBが照射されている基板11を示す図である。本実施例においては、封止工程S14の後、封止体14から取り出される光の出力を測定する(
図3、工程S15)。そして、光出力の測定結果に基づいて、可変光吸収体13Pに紫外光LBを照射し、可変光吸収体13Pによる光吸収率を調整する。
【0062】
具体的には、測定工程S15の結果が、所望の結果であったか否か、本実施例においては所望の光出力が得られているか否かを判定する(
図3、工程S16)。所望の光出力が得られている場合、光出力を調整する必要はないため、これによって発光装置10が完成する。
【0063】
一方、所望の光出力が得られていない場合、可変光吸収体13Pに紫外光LBを照射し、可変光吸収体13Pによる光吸収率を調整する(
図3、工程S17)。本実施例においては、基板11を支持しつつ、封止体14の外側から可変光吸収体13Pに対し、紫外光LBとして、紫外領域にピーク波長を有するレーザ光を照射した。本実施例においては、355nmの波長のレーザ光を出射するレーザ光源LSを準備した。また、当該レーザ光を走査しつつ封止体14の表面から、可変光吸収体Pに向けて出射する。これによって、紫外光LBは、封止体14を透過し、可変光吸収体13Pに照射される。
【0064】
本実施例においては、φ45μmのビーム径及び50kW/cm2の出力のレーザ光を、1000mm/secの速度で移動させつつ、可変光吸収体13Pに照射した。なお、355nmの波長の光のエネルギーは約3.5eVであり、ルチル型の二酸化チタンのバンドギャップエネルギーは3.0eVである。従って、紫外光LBのエネルギーは酸化チタン粒子P0のバンドギャップエネルギーよりも大きい。従って、紫外光LBは、酸化チタン粒子P0に吸収される。
【0065】
これによって、紫外光LBに照射された酸化チタン粒子P0が変質し、粒子内の酸素原子が脱離する。また、紫外光LBは、可変光吸収体13Pの上面13PSの近傍の酸化チタン粒子P0に集中的に照射される。従って、可変光吸収体13Pにおける上面13PSの近傍で最も酸素欠損の多い酸化チタン粒子が生成され、上面13PSから離れるに従ってその酸素欠損の程度が小さい酸化チタン粒子が生成される。
【0066】
これによって、可変光吸収体13Pの上面13PSの近傍における紫外光LBが比較的強く照射された酸化チタン粒子P0は、高密度で酸素欠損部P00を有する酸化チタン粒子、すなわち第1の酸化チタン粒子P1となる。そして、可変光吸収体13Pの上面13PSから少し離れた酸化チタン粒子P0は、酸素欠損部P00が比較的少ない第3の酸化チタン粒子P3となる。
【0067】
また、上面13PSから所定の距離(紫外光LBが酸化チタン粒子P0によって遮光される距離)以上離れると、紫外光LBが照射されず、酸化チタン粒子P0は変質しない。従って、例えば基板11の近傍に存在する酸化チタン粒子P0は、酸素欠損部P00をほとんど有しない酸化チタン粒子、すなわち第2の酸化チタン粒子P2となる。
【0068】
このようにして、紫外光LBの照射によって、酸素欠損部P00の密度が徐々に低くなるように分散された複数の酸化チタン粒子(粒子群13PT)を含む可変光吸収体13が形成される(
図2C)。この紫外光LBが照射された可変光吸収体13は、上面13Sの近傍に吸収領域13ABを有し、吸収領域13ABよりも基板11側に散乱反射領域13SCを有する。
【0069】
可変光吸収体13は、紫外光LBの照射前の可変光吸収体13Pに比べ、高い光吸収率を有する。従って、本実施例においては、紫外光LBの照射によって、封止体14から取り出される光の出力が低くなる。すなわち、本実施例においては、紫外光LBを可変光吸収体13Pに照射することで、光出力を低くするための出力調整を行うことができる。また、紫外光LBの照射工程(工程S17)の後、再度光出力の測定(工程S15)を行い、所望の出力が得られるまで繰り返し出力調整を行うことができる。
【0070】
従って、発光装置10は、この紫外光LBが照射され、吸収領域13ABを有する可変光吸収体13を有するか、又は紫外光LBが照射されず、酸化チタン粒子P0のみ(散乱反射領域13SCのみ)を有する可変光吸収体13Pを有する。そして、このようにして製造された発光装置10は、安定した光出力を有する。
【0071】
なお、紫外光LBの照射工程(工程S17)においては、他の材料、例えば可変光吸収体13又は13Pの媒質(例えばシリコーン樹脂)、封止体14及び枠体15などを変質させないように光源LSの出力調節を行うことが好ましい。例えば上記した条件で紫外光(レーザ光)LBを照射することで、他の材料の変質を抑制しつつ、酸化チタン粒子P0のみを変質させることができる。
【0072】
本願の発明者らは、当該条件(及び25~75kW/cm2の範囲内の出力)のレーザ光が可変光吸収体13の媒質及び封止体14としてのシリコーン樹脂、及び枠体15を変質させないことを確認している。例えば、可変光吸収体13の媒質としては、355nmの波長の光に対して60%以上の透過率を有するシリコーン樹脂を用いることが好ましい。
【0073】
また、紫外光LBの照射によって安定して酸素欠損部P00の密度を調整することを考慮すると、粒子群13PT(例えば酸化チタン粒子P0)の濃度は、30wt%以下であることが好ましく、20wt%以下であることがさらに好ましい。
【0074】
例えば酸化チタン粒子P0が30wt%よりも高い濃度で含有されている場合、例えば上記した条件で紫外光LBを照射しても、酸化チタン粒子P0に酸素欠損部P00を形成することが困難になる場合が多いからである。これは、30wt%よりも高い濃度で酸化チタン粒子P0が分散された媒質内では、酸化チタン粒子P0が酸素欠損を起こす前に紫外光LBが広範囲に亘って散乱することに起因すると考えられる。従って、酸化チタン粒子P0が30wt%よりも高い濃度を有する場合、安定して光吸収率を調整できなくなる場合がある。
【0075】
なお、枠体15は、例えば、可変光吸収体13又は13Pよりも高い濃度、例えば70~90wt%の濃度で酸化チタン粒子P0を有するシリコーン樹脂からなる。この場合、枠体15は、高い反射率で光を反射させ、発光素子12から放出された光の封止体14から光取り出す効率を向上させる部材として機能する。この枠体15は、紫外光LBを照射しても酸素欠損を起こさず(黒色化せず)、可視光の散乱反射性を維持する。可変光吸収体13及び枠体15は、この点で少なくとも異なる。
【0076】
また、酸化チタン粒子P0は、上面13Sの近傍で上記した濃度を有していればよく、その内部での濃度は30wt%以下に限定されない。例えば、可変光吸収体13は、上面13Sの近傍では30wt%以下の濃度の酸化チタン粒子P0を有し、基板11の近傍では30wt%よりも高い濃度の酸化チタン粒子P0を有していてもよい。例えば、可変光吸収体13の上面13Sから所定の深さの領域において、30wt%以下の濃度で分散されていればよい。
【0077】
また、酸化チタン粒子P0の粒径(平均粒径)は、紫外光LBによる良好な光吸収性の調整を行うことを考慮すると、例えば、150~350nmの範囲内であることが好ましい。
【0078】
具体的には、粒子群13PT(酸化チタン粒子P0)の平均粒径は、可変光吸収体13内における光(可視光)の波長(例えばシリコーン樹脂内の波長)に対し、1~1/4程度の範囲内とすることで、後方散乱割合が高いミー散乱を生じさせ、極めて良好な散乱反射を得ることができる。また、粒子群13PT内の粒子の平均粒径を調節することで、光が散乱することで光が高確率で粒子に取り込まれて吸収されるため、良好に光吸収率を調整することができる。
【0079】
なお、光吸収性の調整の容易さに加え、酸化チタン粒子P0が紫外光LBを照射しない状態で良好な可視光の散乱粒子として機能すること、すなわち散乱反射領域13SCに良好な可視光の散乱反射性を持たせることを考慮すると、酸化チタン粒子P0は、200~300nmの範囲内の平均粒径を有することが好ましい。
【0080】
可変光吸収体13は、例えば上記したように、紫外光LBの照射によって光吸収率を変化させるのに適した粒子構成を有している。これによって、可変光吸収体13は、容易に光出力の調整を封止後に行うことができる部材となる。
【0081】
なお、発光装置10の製造方法はこれに限定されない。例えば、可変光吸収体13Pとなる粒子含有樹脂を塗布し、所定時間静置した後に加熱することによって酸化チタン粒子P0を沈降させる。これによって、上面13S側の酸化チタン粒子P0の分散密度を低くした可変光吸収体13を形成することもできる。
【0082】
このように、本実施例においては、紫外光LBの照射によって光吸収特性が変化する酸化チタン粒子P0を含む粒子群13PTを有する可変光吸収体13を有する。従って、発光素子を封止した後、例えば完成後又は出荷後においても、また、例えば客先においても、容易に光出力の調整を行うことが可能となる。従って、実装後に容易に光学特性を調節することが可能な発光装置10を提供することができる。
【0083】
また、本実施例においては、可変光吸収体13における粒子群13PTの分散媒質である樹脂体は、一体的に形成されている。すなわち、例えば、可変光吸収体13は、第1~第3の酸化チタン粒子P1~P3の各々を担持する1つの樹脂マトリクスを有する。また、第1~第3の領域13A~13C間の各々には媒質の境界が存在しない。従って、吸収領域13ABを設けた場合でも可変光吸収体13の機械的強度が維持される。従って、高品質及び高寿命な可変光吸収体13及び発光装置10となる。
【0084】
また、粒子群13PTは、可変光吸収体13内において、全体として均一な分散密度を有する。従って、第1~第3の酸化チタン粒子P1~P3の各々は、互いに同程度の範囲内の密度で可変光吸収体13内に分散されている。従って、吸収領域13ABを設けた場合でも可変光吸収体13の全体としての熱膨張係数が均一化され、これによって、可変光吸収体13の機械的強度が維持される。従って、高品質及び高寿命な可変光吸収体13及び発光装置10となる。
【0085】
なお、上記したように、粒子群13PTにおける可変光吸収体13内の分散密度は基板11に向かって徐々に低くなっていてもよい。例えば、基板11側における第1~第3の酸化チタン粒子P1~P3の分散密度を高くし、上面13S側における第1~第3の酸化チタン粒子P1~P3の分散密度を低くした場合には、可変光吸収体13の上面13Sと封止体14との界面の密着性が向上する。従って、例えば、紫外光LBとして高出力のレーザ光を複数回に亘って照射した場合でも、可変光吸収体13と封止体14とが剥離することを抑制することができる。
【0086】
例えば、上記した工程S13を実行する際に、酸化チタン粒子P0の含有量を32wt%とした粒子含有樹脂を用いて、酸化チタン粒子P0を静置して沈降させた後に硬化させることで可変光吸収体13Pを形成する。この場合、可変光吸収体13における上面13Sの近傍の酸化チタン粒子(第1の酸化チタン粒子P1)の濃度を光吸収率の調整に適した濃度、例えば16wt%程度に調節とすることができる。この場合、上面13Sの近傍における吸収領域13ABでの光吸収特性及び散乱反射領域13SCでの光散乱特性を維持することができ、さらに可変光吸収体13と封止体14との密着性を向上させることが可能となる。
【0087】
また、本実施例においては、可変光吸収体13は、樹脂媒質として、1.4~1.55の範囲内の屈折率を有する熱硬化性のシリコーン樹脂を有する。また、粒子群13PTは、例えば、約2.5の屈折率を有するアナターゼ型の酸化チタン粒子、又は約2.7の屈折率を有するルチル型の酸化チタン粒子を含む。散乱反射領域13SCで高い散乱反射性を得ることを考慮すると、このように、粒子群13PT(酸化チタン粒子P0又はP2)は、樹脂媒質よりも高い屈折率を有していることが好ましい。
【0088】
また、
図1Dに示したように、第1~第3の酸化チタン粒子P1~P3の各々が被覆膜P11~P31を有すること(すなわち各粒子の形成用に用いる酸化チタン粒子P0が被覆膜を有すること)で、紫外光LB、例えば355nmの波長の高出力レーザを用いて、効果的にかつ安定して各酸化チタンP10~P30の表面に酸素欠損部P00を生じさせることができる。従って、所望の領域に安定して吸収領域13ABを形成することができる。
【0089】
図4は、実施例1の変形例1に係る発光装置10Aの断面図である。発光装置10Aは、可変光吸収体16の構成を除いては、発光装置10と同様の構成を有する。本変形例においては、可変光吸収体16は、上面16S上の一部の領域のみに吸収領域16ABを有する。すなわち、可変光吸収体16は、上面16Sの一部の領域に散乱反射領域16SCを有する。
【0090】
本変形例においては、可変光吸収体16は、上面16Sの一部を含む吸収領域16AB以外の領域に散乱反射領域16SCを有する。なお、吸収領域16ABは、吸収領域13ABと同様の粒子及び媒質を有し、散乱反射領域16SCは散乱反射領域13SCと同様の粒子及び媒質を有する。
【0091】
本変形例のように、可変光吸収体16は、上面16Sの一部の領域のみ吸収領域16ABを有し、その他の領域に散乱反射領域16SCを有する。例えば、基板11上において光出力の調整に適した位置が分かっている場合、又は強度ムラを抑制するなどの局所的な出力調整を行う場合においては、可変光吸収体16の一部のみに紫外光LBを照射し、その部分のみに吸収領域16ABを形成すればよい。この場合、可変光吸収体16の表面の一部のみに吸収領域16ABが形成された発光装置10Aが作製されることとなる。上面16Sのその他の領域は、本変形例においては、反射性を有する領域となる。
【0092】
なお、可変光吸収体16においても、必ずしも吸収領域16ABが設けられる必要はない。例えば、光出力を調整する必要がない場合、紫外光LBを照射する必要がないからである。可変光吸収体13及び16のいずれにおいても、紫外光LBを照射しない場合は、その全体がほとんど吸収性を有さず、光反射体として機能する。これによって、高出力でありつつ、その光出力を調節可能な発光装置10又は10Aとなる。
【0093】
すなわち、可変光吸収体13又は16は、光吸収性をほとんど有さない状態と、光吸収性を有する状態との間でその光吸収特性が変化する。そして、可変光吸収体13又は16は、発光装置10又は10Aにおいて、紫外光LBの照射によって光出力を調整する光出力調整部として機能する粒子含有体である。
【0094】
図5は、実施例1の変形例2に係る発光装置10Bの断面図である。発光装置10Bは、発光素子12F及び封止体17の構成を除いては、発光装置10と同様の構成を有する。発光装置10Bは、フリップチップ接合によって実装された発光素子12Fを有する。発光素子12Fは、基板11上に半導体層12Bが配置され、この半導体層12B上に支持基板12Aが配置されている。
【0095】
また、発光装置10Bは、枠体15の上面に固定された板状の封止体17を有する。封止体17は、発光素子12F及び可変光吸収体13に接しておらず、枠体15によって形成された基板11上の空間を封止している。封止体17は、封止体14と同様に、発光素子12から放出された光及び紫外光に対して透光性を有する。封止体17は、例えば、ガラスやアクリル樹脂などの材料からなる。
【0096】
例えば、封止体17は、接着剤によって枠体15に固定されている。また、発光装置10Bは、工程S13において可変光吸収体13Pを十分に加熱して完全に硬化させ、その後に工程14において封止体17としてのガラス板などを枠体15に接着する点を除いては、
図3と同様の工程によって作製されることができる。
【0097】
また、本変形例のように、発光装置10は、フリップチップ接合によって実装された発光素子12Fを有していてもよい。すなわち、発光素子12が種々の構成を有する場合でも、封止後の光出力の調整は可能である。
【0098】
なお、種々の発光素子12を形成する場合でも、可変光吸収体13は、発光素子12の半導体層12Bにおける発光層の側面を覆わない範囲内の高さを有することが好ましい。例えば、可変光吸収体13は、基板11上において発光素子12の発光層を越えない高さで形成されていることが好ましい。可変光吸収体13に吸収領域13ABを形成する場合に吸収領域13ABが発光層の側面を覆うと、光出力が大きく低下するからである。
【0099】
一方、光出力を大きく調整する場合には、意図的に発光素子12の発光層の側面を覆うように可変光吸収体13を形成すればよい。例えば、当該発光層の側面を覆うように吸収領域13ABを形成した場合、当該発光層の下部において上面13Sに沿って吸収領域13ABを設ける場合に比べ、大きく光出力が低下する。
【0100】
換言すれば、例えば、可変光吸収体13の全体としての形成領域を調整することで光出力の粗調整を行うことができ、吸収領域13ABを形成する領域を調整することで光出力の微調整を行うことができる。
【0101】
なお、本実施例においては、可変光吸収体13が可視光に対する吸収性を有する吸収領域13AB及び可視光に対して反射性を有する散乱反射領域13SCを有する場合について説明した。しかし、可変光吸収体13の構成はこれに限定されない。例えば、発光素子12は、可視光以外の帯域の光を放出する構成を有していてもよい。この場合、可変光吸収体13の吸収領域13AB及び散乱反射領域13SCは、当該他の波長帯域の光に対し、それぞれ吸収性及び反射性を有していればよい。
【0102】
換言すれば、例えば、発光素子12から放出された光に対する光吸収特性が変化するように可変光吸収体13内の粒子及びそのバンドギャップ構成、並びに媒質が調節されていればよい。
【0103】
また、この場合、可変光吸収体13内において効果的に吸収領域13ABを設けることを考慮すると、例えば、粒子群13PTにおける酸化チタン粒子は、発光素子12からの放出光の可変光吸収体13内の波長(粒子群13PTを分散させる媒質内の波長)に対応する平均粒径を有していることが好ましい。
【0104】
また、本実施例においては、吸収領域13ABが第1及び第3の酸化チタン粒子P1及びP3を有する場合について説明したが、粒子群13PTの構成はこれに限定されない。例えば、粒子群13PTは、例えば2種類の酸化チタン粒子P1及びP2のみから構成されていてもよい。
【0105】
この場合、例えば、可変光吸収体13内における可変光吸収体13の上面13Sの近傍の第1の領域13Aに分散された第1の酸化チタン粒子P1における酸素欠損部P00の平均密度は、第1の領域13Aよりも基板11側の第2の領域13Bに分散された第2の酸化チタン粒子P2における酸素欠損部P00の平均密度よりも大きければよい。
【0106】
また、例えば、上記したように、光出力の調整自体が行われない場合がある。この場合、例えば、粒子群13PTは、第2の酸化チタン粒子P2、すなわち紫外光LBが照射されていない状態の酸化チタン粒子P0を有していればよい。換言すれば、可変光吸収体13は、紫外光LBの照射によって光吸収特性が変化する複数の酸化チタン粒子を有していればよい。
【0107】
また、粒子群13PTを構成する粒子は、酸化チタン粒子に限定されない。例えば、酸化亜鉛(ZnO)は、酸化チタンと同様の性質を有する。例えば、酸化亜鉛のバンドギャップエネルギーは3.37eVであり、可視光を透過する。また、酸化亜鉛は、波長355nmの紫外光LBを吸収する性質を有する。さらに、酸化亜鉛の屈折率は2.0であり、シリコーン樹脂の屈折率(1.4~1.55)より大きい。そして、酸化亜鉛は、酸素欠損によって、深いドナー準位を形成してバンドギャップが小さくなり、可視光を吸収する性質を有する。
【0108】
従って、粒子群13PTには、例えば酸化チタン粒子及び酸化亜鉛粒子など、酸素欠損がない結晶状態において可視光などの所定の波長の光を散乱又は反射させ、酸素欠損によって当該波長の光を吸収する性質を有する金属酸化物結晶を用いることができる。例えば、このような性質を有する金属酸化物の粒子は、酸化チタン粒子P0又はP1~P3に置き換えられてもよいし、粒子群13PTに追加されていてもよい。すなわち、可変光吸収体13は、例えば、紫外光LBの照射によってバンドギャップが変化する複数の金属酸化物粒子を有していればよい。
【0109】
また、粒子群13PTには、酸化チタン粒子又は酸化亜鉛粒子などの紫外光LBの照射によってバンドギャップが変化する粒子以外に、発光素子12からの放出光を散乱させる他の粒子が添加されていてもよい。当該他の粒子としては、炭化ケイ素(SiC)、窒化珪素(Si2N3)、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al2O3)などの金属炭化物、また、金属酸化物、金属窒化物などの粒子が挙げられる。
【0110】
また、粒子群13PTは、光散乱性以外の特性を持つ粒子を含んでいいてもよい。例えば、例えば、粒子群13PTは、チクソトロピー性を有するナノサイズのシリカやアルミナ粒子などを含んでいてもよい。例えば、チクソトロピー性の粒子を添加した可変光吸収体13Pを用いる場合、硬化前の酸化チタン粒子P0の沈降が抑制され、酸化チタン粒子P0が均一に分散された可変光吸収体13を形成することができる。
【0111】
すなわち、可変光吸収体13は、粒子群13PTとして、少なくとも、紫外光LBの照射によって光吸収特性が変化する複数の金属酸化物粒子を含んでいればよい。例えば、粒子群13PTが酸化チタン粒子及び酸化亜鉛粒子以外の粒子を含む複数の粒子を含んでいる場合、当該複数の粒子が可変光吸収体13内で均一な密度で分散されているか、又は上面13Sから基板11に向かって徐々に密度が高くなるように分散されていればよい。また、例えば、粒子群13PTに含まれる粒子の全体が上記した濃度で分散されていればよい。
【0112】
また、本実施例においては、可変光吸収体13の全体に酸化チタン粒子P0が分散されている場合について説明した。しかし、可変光吸収体13は、その少なくとも一部の領域に、紫外光LBの照射によって光吸収特性が変化する複数の金属酸化物粒子を含んでいればよい。また、例えば、紫外光LBが照射された場合、可変光吸収体13内に分散された金属酸化物粒子のうち、紫外光LBが到達する金属酸化物粒子が酸素欠損を起こし、これによって吸収領域13ABが形成されることとなる。
【0113】
また、本実施例においては、可変光吸収体13が吸収領域13AB及び散乱反射領域13SCを有する場合について説明した。しかし、可変光吸収体13は、例えば、紫外光LBの照射によって吸収領域13ABを形成できるように構成されていればよい。
【0114】
従って、例えば、可変光吸収体13は、可変光吸収体13の上面13Sから所定の深さの領域(例えば第1及び第3の領域13A及び13C)に形成され、紫外光LBの照射によって発光素子12から放出された光に対して吸収性を有する複数の金属酸化物粒子(例えば酸化チタン粒子P1及びP3)を含む吸収領域13ABを有していればよい。
【0115】
また、高い光取り出し効率を得ることを考慮すると、可変光吸収体13は、例えば、吸収領域13ABよりも基板11側(例えば第2の領域13B)に設けられ、発光素子12から放出された光に対して散乱及び反射性を有する複数の金属酸化物粒子(例えば酸化チタン粒子P2)を含む散乱反射領域13SCを有することが好ましい。
【0116】
また、例えば、高い自由度及び調整幅で光出力を調整することが可能なように構成する場合、例えば、可変光吸収体13は、基板11上において層状に形成されていることが好ましい。これによって、例えば、光出力の全体的な調整のみならず、局所的な調整を行うことができる。
【0117】
また、本実施例においては、発光装置10が封止体14を有する場合について説明した。しかし、発光装置10は、封止体14を有する場合に限定されない。例えば、発光素子12並びに基板11の第1及び第2の配線11B及び11Cが電気的に保護されていれば封止体14は設けられていなくてもよい。
【0118】
このように、例えば、発光装置10は、基板11と、基板11上に配置された発光素子12と、基板11上において発光素子12の側方に配置され、紫外光LBの照射によって光吸収特性が変化する複数の金属酸化物粒子を含む可変光吸収体13と、を有する。従って、実装後に容易に光学特性を調節することが可能な発光装置10を提供することができる。
【実施例2】
【0119】
図6は、実施例2に係る発光装置20の断面図である。発光装置20は、発光素子12を上に形成された波長変換体21を有する点を除いては、発光装置10と同様の構成を有する。本実施例においては、波長変換体21は、発光素子12の全体を層状に覆い、基板11に部分的に接している。
【0120】
波長変換体21は、発光素子12から放出された光の波長を変換する材料、例えば蛍光体を含む。例えば、当該蛍光体としては、青色光を緑色光に変換する緑色蛍光体、青色光を黄色光に変換する黄色蛍光体、青色光を赤色光に変換する赤色蛍光体などが用いられることができる。なお、波長変換体21の構成はこれに限定されない。例えば、波長変換体21は、発光素子12の上面上に板状に設けられた蛍光体プレートであってもよい。
【0121】
例えば、本実施例においては、波長変換体21は、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)蛍光体を含む。従って、本実施例においては、発光素子12は青色光を放出し、波長変換体21は青色光を黄色光に変換する。そして、発光装置10からはこれらが混色されることで生成された白色光が出射される。
【0122】
本実施例においては、可変光吸収体22は、波長変換体21の側方に設けられている。可変光吸収体22は、例えば、可変光吸収体13と同様の構成を有する。可変光吸収体22は、粒子群13PTを有し、例えば酸化チタン粒子P0を有する。また、可変光吸収体22に紫外光LBを照射することによって、可変光吸収体22内には、吸収領域22AB及び散乱反射領域22SCが形成される。
【0123】
なお、本実施例のように波長変換体21を有する発光装置20の場合、可変光吸収体22は、発光素子12から放出された光、波長変換体21によって波長が変換された光、又はこれらの光が混色されることで生成された光に対する光吸収性が変化するように構成されていればよい。
【0124】
例えば、可変光吸収体22が発光素子12から放出された光のみに対する吸収性が紫外光LBの照射によって変化するような粒子を含む場合でも、発光装置20から取り出される光の出力調整又は色調整を行うことができる。なお、可変光吸収体13に用いられる酸化チタン粒子P0は、紫外光LBの照射によって可視光に対する光吸収性が変化する。従って、酸化チタン粒子P0は、可変光吸収体22としても用いられることができる。
【0125】
このように、本実施例においては、発光装置20は、発光素子12上に設けられ、発光素子12から放出された光の波長を変換する波長変換体21を有する。そして、本実施例においては、可変光吸収体22は、紫外光LBの照射によって、発光素子12から放出された光又は波長変換体22によって波長が変換された光に対する吸収率が変化する金属酸化物粒子(例えば酸化チタン粒子P0又は酸化亜鉛粒子)を含む。従って、例えば可視光を用いる種々の用途、例えば照明用途に用いられる光源に採用される発光装置についても、実装後に容易に光学特性を調整することができる。
【実施例3】
【0126】
図7は、実施例3に係る発光装置30の断面図である。発光装置30は、複数の発光素子12を有する点、及びこれに付随する構成の基板31、可変光吸収体32、封止体33及び枠体34を有する点を除いては、発光装置10と同様の構成を有する。発光装置30は、2つの発光素子12と、発光素子12の各々に対応する2セットの第1及び第2の配線11B及び11Cが設けられた基体11からなる基板31を有する。
【0127】
また、発光装置30は、基板31上における発光素子12の各々の側方に設けられた可変光吸収体32を有する。可変光吸収体32は、可変光吸収体13と同様に、粒子群13PTを有し、例えば酸化チタン粒子P0を含む。また、可変光吸収体32は、紫外光LBの照射によって粒子群13PTの粒子における光吸収性が変化した吸収領域32ABを有する。また、可変光吸収体32は、可変光吸収体13と同様の散乱反射領域32SCを有する。
【0128】
また、発光装置30は、発光素子12の各々及び可変光吸収体32を封止する封止体33と、発光素子12の各々、可変光吸収体32及び封止体33の各々を取り囲むように基板31上に設けられた枠体34と、を有する。
【0129】
本実施例のように、発光装置30は、複数の発光素子12を有していてもよい。この場合でも、可変光吸収体32が紫外光LBの照射によって光吸収特性が変化する金属酸化物粒子を含むことで、容易に光出力の調整を行うことができる。従って、実装後に容易に光学特性を調整することが可能な発光装置30を提供することができる。
【符号の説明】
【0130】
10、10A、10B、20、30 発光装置
11、31 基板
12 発光素子
13、32 可変光吸収体
P0、P1、P2、P3 酸化チタン粒子