(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】液体金属を蒸発装置に供給するための装置を操作するための方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
C23C14/24 D
C23C14/24 M
(21)【出願番号】P 2018557815
(86)(22)【出願日】2017-05-01
(86)【国際出願番号】 EP2017060317
(87)【国際公開番号】W WO2017191083
(87)【国際公開日】2017-11-09
【審査請求日】2020-04-30
(32)【優先日】2016-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505008419
【氏名又は名称】タタ、スティール、ネダーランド、テクノロジー、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL NEDERLAND TECHNOLOGY BV
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】エッゾ、ゾエストベルヘン
(72)【発明者】
【氏名】コリン、コマンダー
(72)【発明者】
【氏名】ローランド、ヤン、スネイデルス
(72)【発明者】
【氏名】エデュアルト、パウル、マッテース、バッケル
(72)【発明者】
【氏名】ピーター、ウィリアム、ヘーゼレット
(72)【発明者】
【氏名】ダグラス、アレクサンダー、ハミルトン
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン、ジェームズ、ウィディス
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー、ディーン、カイザー
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-519469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内の蒸発装置に液体金属を供給するための装置を操作する方法であって、
供給管が、液体金属を収容するように構成された容器から前記蒸発装置まで敷設されており、
電磁ポンプが、前記供給管に介設されており、
弁が、前記供給管の前記電磁ポンプと前記蒸発装置との間に介設されており、
電磁ポンプを提供することと、
前記供給管の少なくとも一部および前記電磁ポンプを圧力制御された筐体で包囲することと、
前記電磁ポンプに液体金属を充填する前および/または充填するときに、前記圧力制御された筐体内の圧力を下げることおよび/または前記圧力制御された筐体内の真空を維持することと、
運転中に前記圧力制御された筐体内の真空を維持することと、
前記電磁ポンプから液体金属を排出する前および/または排出するときに、前記圧力制御された筐体内の圧力を上げることおよび/または前記圧力制御された筐体内の上げた圧力を維持することと、を含み、
前記電磁ポンプの上方に配置された前記供給管の前記包囲された部分が、少なくとも部分的にガス透過性である
とともに、前記電磁ポンプが、少なくとも部分的にガス透過性であり、これにより、前記容器から前記供給管および前記電磁ポンプを通じて前記蒸発装置に液体金属を供給するときに、前記供給管を液体金属で満たしながら、前記供給管に存在するガスを、前記電磁ポンプを通じて流出させることができ、かつ、前記蒸発装置から前記供給管および前記電磁ポンプを通じて前記容器に液体金属を排出するときに、前記圧力制御された筐体内のガスを、前記電磁ポンプを通じて前記供給管に流入させることができる、
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記圧力制御された筐体内の前記真空が1~200ミリバールの低真空である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記圧力制御された筐体内の前記上げた圧力が大気圧以上である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記弁が、前記電磁ポンプへの充填の前および前記電磁ポンプからの排出の前に閉じられる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記供給管の少なくとも前記包囲された部分が、少なくとも部分的にグラファイトから形成される、請求項
1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記電磁ポンプが少なくとも部分的にグラファイトから形成される、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
液体金属を収容するように構成された前記容器内の前記液体金属にかかる力が制御される、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
液体金属を収容するように構成された前記容器が密閉容器であり、前記液体金属にかかる前記力が、前記密閉容器内のガスの圧力を制御することによって制御される、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記電磁ポンプ用の磁場が、前記圧力制御された筐体の外側から作用する、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
真空チャンバ内の蒸発装置に液体金属を供給するための装置であって、
前記装置は、さらに、液体金属を収容するように構成された容器と、前記容器から前記蒸発装置への供給管と、前記供給管に介設された電磁ポンプとを備え、
前記供給管の少なくとも一部
および前記電磁ポンプを包囲する
圧力制御された筐体が設けられており、
前記電磁ポンプの上方に配置された前記供給管の前記包囲された部分が、少なくとも部分的にガス透過性であるとともに、前記電磁ポンプが、少なくとも部分的にガス透過性の電磁ポンプであり、これにより、前記容器から前記供給管および前記電磁ポンプを通じて前記蒸発装置に液体金属を供給するときに、前記供給管を液体金属で満たしながら、前記供給管に存在するガスを、前記電磁ポンプを通じて流出させることができ、かつ、前記蒸発装置から前記供給管および前記電磁ポンプを通じて前記容器に液体金属を排出するときに、前記圧力制御された筐体内のガスを、前記電磁ポンプを通じて前記供給管に流入させることができる、
ことを特徴とする装置。
【請求項11】
前記ガス透過性の電磁ポンプが、少なくとも部分的にグラファイトから形成される、請求項
10に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバ内の蒸発装置に液体金属を供給するための装置を操作する方法に関する。このような装置は、例えば、物理的蒸着(PVD)による基板上への金属コーティングの蒸着に使用される。
【背景技術】
【0002】
工業規模での連続または半連続的なPVDコーティングの工程では、経年的に多量のコーティング材料を処理することができる真空コーティング設備が必要とされている。さらに、熱蒸発を使用する場合、蒸発装置内の液体の温度は、蒸発させる材料の融点よりもはるかに高い温度である必要がある。したがって、小型蒸発装置を有すること、および蒸発装置に材料を供給して需要を満たすことが望ましく、費用対効果が高い。材料は、固体または液体のいずれかの状態で供給を行うことができる。しかし、最良の方法は、蒸発器中の酸化物含有量が最小化するという利点、および溶融物の潜熱や材料の比熱を蒸発装置で補う必要がないという利点を有する大型液体リザーバから液体金属を供給することである。
【0003】
米国特許第2664852号明細書に開示されたPVDコーティング装置は、真空チャンバ内に液体金属用のリザーバを有する。この設備では、作用期間の最大値は非常に限られている。より最近のPVDコーティング装置において、液体金属リザーバは、真空チャンバの外側に配置されるが、例えば国際公開第2012081738号パンフレットを参照されたい。しかし、蒸発装置での真空と液体金属リザーバとの圧力差により、制御すべきリザーバ内の液体金属に対して力がかかる。この力は、リザーバ内の液体レベルが低下するか、蒸発装置における真空圧力が変化するか、或いは、蒸発装置内のレベルが変化したために蒸発装置への一定の供給を維持して一定の蒸発を確保する制御が必要となったときに変化する。
【0004】
液体金属容器から蒸発装置への液体金属の供給は、異なる方法で制御することができる。米国特許第3059612号明細書では、蒸発装置内の液体金属表面と液体金属容器内のレベルとの間の高さの差を一定に維持するために、液体金属の容器を上昇させることが開示されている。しかし、気圧の変化により、ただでさえ蒸発装置におけるレベルが変わるため、結果として蒸発の変化を生じさせることになる。
【0005】
米国特許第3581766号明細書では、主液体金属容器と蒸発装置との間に追加のリザーバが設けられる。この中間リザーバでは、液体が中間リザーバから主液体金属容器に戻るオーバーフロードレインによって、レベルが一定に保たれる。しかし、気圧が変化する問題は依然として存在しており、真空を破ることなくシステムを開始または停止する方法は困難であることが明らかにされている。したがって、まず、液体金属容器と蒸発装置との間には、弁が必要とされるが、例えば、国際公開第2012081738号パンフレットを参照されたい。このような弁を使用して流量を制御することが試みられているが、これは実用的ではなく、また、真空を破らずに実験の最後に蒸発装置を空にすることは不可能である。国際公開第2013143692号パンフレットでは、流れを制御するために弁とポンプの両方を使用するという、より良い解決法が開示されている。
【0006】
しかし、上記の公報には記載されていない他の問題も依然として存在する。真空チャンバの外側に配置されたリザーバの問題の1つは、供給管が真空チャンバの壁を通過する必要があるということに関連している。供給管による供給は、設備全体の加熱中に生じる膨張差を吸収できなければならないが、チャンバ内の真空状態に影響を与えるべきではない。これは、ベローズ型の接続によって達成できるが、(例えば、英国特許第1220020号明細書を参照)、この設備は、溶融物を凍結させ、閉塞などを生じさせる可能性のあるコールドスポットを生成しないことが重要である。
【0007】
もう1つの要件は、全ての管および電磁ポンプが必要な温度に加熱され、運転中にその温度に維持されるべきであるということである。特に、電磁ポンプの加熱は、電磁ポンプの構造上、ポンプ内にコールドスポットが起こりやすいため、特別な注意が必要である。
【0008】
リザーバが外側に配置されていることによる別の問題は、蒸発器または管に導入され、蒸発または閉塞の問題を引き起こし得る液体容器からの酸化物による供給システムの汚染の可能性である。特開昭5938379号では、還元性ガスを使用して酸化物を除去する開始手順が記載されている。しかし、これはあらゆる種類の液体に対して機能するわけではなく、真空はこの工程中に変化する。
【0009】
また別の要件は、全ての管が必要な温度に加熱されるべきであり、さらに米国特許第3408224号明細書で述べられているように、蒸着前に液体材料を脱気して、蒸発工程を妨害し得る脱気が蒸発器に生じないようにする必要があることである。
【0010】
最後に、国際公開第2015067662号パンフレットに開示された方法により、真空を破ることなく蒸発器から排出できるようになるが、それは、追加の対策なしには、システム内の全ての管を空にすることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許第2664852号明細書
【文献】国際公開第2012081738号パンフレット
【文献】米国特許第3059612号明細書
【文献】国際公開第2013143692号パンフレット
【文献】英国特許第1220020号明細書
【文献】特開昭5938379号
【文献】国際公開第2015067662号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、真空チャンバ内の真空が運転中に影響を受けることなく、液体金属を真空チャンバ内の蒸発装置に供給するための装置を操作する方法を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、真空チャンバ内の真空が蒸発装置への充填中に影響を受けることなく、液体金属を真空チャンバ内の蒸発装置に供給するための装置を操作する方法を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、真空チャンバ内の真空が蒸発装置および蒸発装置に接続された供給管からの排出中に影響を受けることなく、液体金属を真空チャンバ内の蒸発装置に供給するための装置を操作する方法を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、真空チャンバ内の真空が、直接的に操作可能に影響を受けることなく、液体金属を真空チャンバ内の蒸発装置に供給するための装置を操作する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の態様によると、真空チャンバ内の蒸発装置に液体金属を供給するための装置を操作する方法であって、供給管が、液体金属を収容するように構成された容器から蒸発装置に敷設されており、電磁ポンプが供給管に介設されており、弁が供給管の電磁ポンプと蒸発装置との間に介設されており、
少なくとも部分的にガス透過性の電磁ポンプを提供することと、
電磁ポンプを圧力制御された筐体で包囲することと、
電磁ポンプに液体金属を充填する前および/または充填するときに、圧力制御された筐体内の圧力を下げることおよび/または圧力制御された筐体内の真空を維持することと、
操作中に圧力制御された筐体内を真空に維持することと、
電磁ポンプから液体金属を排出する前および/または排出するときに、圧力制御された筐体内の圧力を上げることおよび/または圧力制御された筐体内の上げた圧力を維持することとを含むことを特徴とする、方法を提供することにより、本発明の1つ以上の目的が実現する。
【0017】
真空チャンバの外側の容器から供給管を介して蒸発装置に液体金属を供給することにより、真空チャンバ内の真空が影響を受ける可能性が非常に高い。特に、これは、PVDプロセスのような蒸発プロセスの開始時および終了時に最も可能性が高い。そのプロセスの開始時に、供給管に介設された弁が、真空チャンバと外部環境との間の直接的な接続を防止する。しかし、液体金属が供給管を通して容器から蒸発装置へ供給されるときには、供給管に介設された弁は開放される必要があり、弁の下流の供給管内に依然として存在する空気またはガスが真空チャンバ内に引き込まれる。真空チャンバ内に空気またはガスが流入すると、真空チャンバ内の真空圧力は影響を受け、真空チャンバ内の真空圧力を所定の真空圧力に再び低下させなければならず、時間とエネルギーを要する。別の問題は、外気汚染が真空チャンバに入る場合があるということである。
【0018】
本発明による方法は、ガス透過性の電磁ポンプを使用することによって、弁が開く前に、供給管に存在する空気またはガスの大部分を流出させながら、供給管を液体金属で満たすことができるという利点を有する。
【0019】
逆の手順で、蒸発装置は、第1の工程で液体金属が供給管に介設された弁よりも下にくるまで排出することができ、その後、弁は閉じられ、ガス透過性の電磁ポンプを通して供給管に空気またはガスを流入させることによって、供給管を完全に空にすることができる。
【0020】
上述のガス透過性の電磁ポンプを使用するための前提条件は、圧力制御された筐体に包囲されたガス透過性の電磁ポンプを有することである。このような筐体がないと、正常動作中にガス透過性の電磁ポンプを通して供給管内に空気が引き込まれてしまうこととなり、真空チャンバの真空はなおも損なわれることになる。
【0021】
圧力制御された筐体内の圧力は、1~1000ミリバールまたはおよそ大気圧の圧力範囲で変化する。供給管の充填と正常動作中、圧力制御された筐体内の圧力は、好ましくは、1~200ミリバールの範囲内に維持される。圧力制御された筐体内のこの範囲内の圧力により、空気または他のガスは、供給システムを介して真空チャンバ内に引き込まれることはない。
【0022】
蒸発装置および供給管からの排出に関して、圧力制御された筐体内の圧力は、大気圧またはそれより高い圧力に上げられ、空気または他のガスがガス透過性の電磁ポンプを通して供給管に入る。圧力制御された筐体内の圧力は、液体金属のレベルが供給管に介設された弁よりも低くなった後に上げられる。供給管に介設された弁よりも低いとは、弁の直下でもよく、あるいは、電磁ポンプ内のレベルでもよく、これは、電磁ポンプが液体金属に対してローレンツ力を作用させることができるレベルであればよい。
【0023】
本発明のさらなる態様によると、圧力制御された筐体は、供給管の少なくとも一部を包囲するように設けられる。この特徴により、対流による熱損失が真空中で大きく減少するため、熱損失が減少するという利点を提供する。他の利点は、電磁ポンプの上方に位置する供給管の包囲された部分を少なくとも部分的にガス透過性とすることによって、供給管への充填と共に空気または他のガスを供給管から除去し、供給管からの排出とともに供給管内へ空気を流入させることに、供給管を使用できることである。これは、特に、供給管に介設されたガス透過性の電磁ポンプと弁との間の供給管の部分に適用される。
【0024】
本発明のさらなる態様によると、電磁ポンプは、少なくとも部分的にグラファイトで形成される。グラファイトは、例えば、N2や空気のような気体に対して一定の透過性を持つことが分かった。液体金属、例えば亜鉛(Zn)またはマグネシウム(Mg)、または液体金属の混合物の場合、グラファイトポンプは不透過性である。グラファイトのガス透過性は、上述のように圧力制御された筐体内の圧力を制御することによって制御される。
【0025】
本発明のさらなる態様によると、供給管の包囲された部分は、少なくとも部分的にグラファイトで形成される。これはガス透過性の電磁ポンプについて説明したものと同じ効果を有する。
【0026】
さらに液体金属を含有するように構成された容器内の液体金属に作用する力が制御される。
【0027】
好ましくは、液体金属を含有するように構成された容器は密閉容器であり、液体金属に作用する力が、密閉容器内のガスの圧力を制御することによって制御される。このようにして、容器内の液体金属に作用する力を非常に容易に制御することができ、必要な場合には急速に変化させることができる。「密閉容器」という用語は、容器内のガスの圧力および/または組成が制御されるまたは制御できる容器を意味する。
【0028】
本発明のさらなる態様によると、方法は、蒸発装置から容器まで敷設された戻り管が介設されており、少なくとも部分的にガス透過性の電磁ポンプが戻り管に介設されており、弁が戻り管の電磁ポンプと真空チャンバとの間に介設されており、戻り管に介設された電磁ポンプが圧力制御された筐体内に設けられており、
電磁ポンプから液体金属を排出する前および/または排出するときに、圧力を上げることおよび/または圧力制御された筐体内の上げた圧力を維持すること、を含む。
【0029】
供給管と戻り管とを用いて、蒸発装置内の液体金属の組成を制御することができる。組成の制御とは、組成が可能な限り一定を保ち、成分の蒸発速度が異なることにより変化することはないことを意味する。
【0030】
本発明はまた、本発明による方法で使用する電磁ポンプを含み、電磁ポンプは少なくとも部分的にガス透過性材料から構成される。好ましくは、ガス透過性材料はグラファイトである。
【0031】
本発明は、真空チャンバ内の蒸発装置に液体金属を供給するための装置を提供し、装置は、さらに、液体金属を収容するように構成された容器と、容器から蒸発装置への供給管と、供給管に介設された電磁ポンプを備え、電磁ポンプは、少なくとも部分的にガス透過性の電磁ポンプであり、電磁ポンプを包囲する圧力制御された筐体が設けられている。
【0032】
本発明のさらなる態様によると、圧力制御された筐体は、供給管の少なくとも一部を包囲する。
【0033】
ガス透過性の電磁ポンプは、少なくとも部分的にグラファイトで形成される。また、好ましくは、圧力制御された筐体に包囲された供給管の少なくとも一部は、グラファイトで形成される。
【0034】
本発明について、下記の図に示す例によってさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】液体金属用容器、真空筐体内の電磁ポンプおよび真空チャンバを備えた装置の概略図である。
【
図2B】供給管の電磁ポンプおよび戻り管の電磁ポンプの概略図を示す。
【
図2C】供給管の電磁ポンプおよび戻り管の電磁ポンプの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
<図面の詳細な説明>
図1は、両側に真空ロック2、3を備える真空チャンバ1を備えた装置の概略図であり、ストリップ4は該装置を貫通するように誘導される。蒸発装置5は、真空チャンバ1の内側に配置され、蒸気分配器6に接続されている。誘導コイルなどの蒸発装置に十分なエネルギーを供給する手段も、真空チャンバの内部に配置される。分かりやすくするため、これらの手段は図面には示されていない。真空チャンバはさらに、真空ポンプ7と、圧力計8とを備えている。
【0037】
図1の底部では、密閉容器9は容器内部に液体金属を保持する容器10が設けられている。密閉容器9はさらにポンプ11、圧力計12、および過圧中継装置13を備えている。容器には加熱手段(図示せず)が設けられ、金属を加熱して溶融させ、および/または液体金属を一定の温度で維持する。弁32を有するガス源31は密閉容器9に接続され、容器9内に最初に存在する空気を、例えば、窒素などの非酸化性ガスと置換する。昇降手段14が設けられ、容器10を昇降させて、供給管15の端部を液体金属の中に浸漬したり、液体金属から取り出したりする。昇降手段14は、昇降させることにより、容器内の液体レベルと、蒸発装置内の液体レベルの距離が変わるので、液体金属の蒸発装置5への流量を制御するために使用することもできる。
【0038】
容器10は、容器10の内容物の重量を連続的に測定することができる重量測定装置35上に配置され、液体金属の流量および蒸発速度に関する付加的な情報を提供する。
【0039】
ポンプ11は、密閉容器内の圧力を低下させるために使用される。容器中の液体金属の酸化を防止するために、密閉容器内の空気を除去し、完全にまたは部分的に不活性ガスと置換することができる。この操作により、まず空気が、不活性ガスと置換される前に部分的に除去されて減圧され、その後、密閉容器内の圧力が調整および制御されて、蒸発装置への液体金属の流量を制御する。
【0040】
供給管15は、密閉容器9内の容器10から上方向に、蒸発装置5に向かって敷設されており、供給管にはガス透過性の電磁ポンプ16と弁17が介設されている。ガス透過性の電磁ポンプ16および弁17は、圧力制御された筐体18の内部に配置される。圧力制御された筐体18は、運転中に低真空に維持されることにより、電磁ポンプ16からの対流、および供給管15からの対流による熱損失を大幅に防止する。そのために、真空筐体18は真空ポンプ34と圧力計35とを備えている。
【0041】
PVDプロセスの開始時に、蒸発装置5には、容器10から供給管15を通じて液体金属が供給される。この段階で、弁17は閉じている。充填手順が始まる前に、すべての構成部材が完全に加熱されることが重要である。圧力制御された筐体18内の圧力は、1~200ミリバールの範囲内の圧力まで下降されるか、あるいは既に下降されている。ガス透過性の電磁ポンプの透過性により、供給管15内に存在する空気またはガスは、ガス透過性の電磁ポンプを通して排出される。このプロセスは、密閉容器9内の圧力を増加させて、液体金属を供給管15に強制的に流すことによって、高速化または補助することができる。供給管は、少なくとも弁17までガス透過性であることを前提として、弁17が開く前に、供給管15内のすべての、またはほとんどすべての空気またはガスを排出できる。このようにして、真空チャンバ内の真空圧力が影響を受けることを防ぐことができる。
【0042】
圧力制御された筐体18の下にある供給管15の部分、すなわち、ベローズ19の中にある供給管の部分、および密閉容器9の内部にある供給管の部分は、ガス不透過性であるべきである。
【0043】
PVDプロセスの最後に、液体金属は、蒸発装置5から引き出され、容器9内の容器10に戻される。このためには、ガス透過性の電磁ポンプ16を制御して液体金属を容器10に強制的に流す。液体金属が弁17の下のレベルまでくると、弁17は閉じて、真空チャンバは弁17の下のシステムとの接続が解除される。圧力制御された筐体18内の圧力は上昇し、圧力の増加とともに圧力制御された筐体内の空気またはガスは、ガス透過性の電磁ポンプおよびガス透過性の供給管が設けられているかぎり、それらを通って容易に供給管内に引き込まれる。これにより、液体金属は、容器10内の液体金属に飛沫や擾乱を生じさせることなく、制御された方法で供給管から引き出すことができる。このプロセスは、密閉容器9内の圧力を低下させて、液体金属を液体容器に強制的に流すことによって、高速化または補助することができる。しかし、蒸発が起こらず、そのような密閉容器の汚染が生じないように注意する必要がある。
【0044】
圧力制御された筐体18は、ベローズ19、20によって密閉容器9および真空チャンバ1に接続する。ベローズ19、20による接続は、密閉容器9および真空チャンバ1の外側であり、容器9および真空チャンバ1の内部空間とは接続していない。しかし圧力制御された筐体18内の真空度が低いため、供給管15の真空チャンバ1内への供給時の避けられない真空漏れは非常に小さい。
【0045】
電磁ポンプ16であるポンプには、永久磁石21が設けられており、電磁ポンプ内の液体金属を通して電流を流すための磁場および電源を生成する。磁場と電流によって生じるローレンツ力は液体金属に力を与え、液体金属の流量の制御に用いられる。ローレンツ力は、液体金属が電磁ポンプの電極22と接触し、永久磁石21の磁場中に存在する場合にのみ作用する。結果として、液体金属が下向きに押し出されるときに、液体金属レベルを電極の高さ付近のレベルより低くすることはできない。
【0046】
磁石21は、過熱されると磁場の強度を減少させるため、過熱されないことが重要である。そのため、磁石21は圧力制御された筐体18の外側に配置され、少なくとも磁石とその磁場の位置は非強磁性材料で形成されている。
液体金属の上向きの力は、下式により圧力差とカラムの高さによって求める。
P3-P1-(X-Y)*密度液体
(式中、
P3=密閉容器内の圧力であり、
P1=真空チャンバ内の圧力であり、
X=蒸発装置、または供給管内のどこかに存在する可能性がある液体金属の高さの上部レベルであり、
Y=密閉容器内の容器内の液体金属の高さレベルである。)
【0047】
蒸発装置内の液体金属の蒸発が開始されると、液体金属の駆動力は次式のようになる。
P3-P4-(X-Y)*密度液体
(式中、P4は、真空チャンバ内の圧力よりも高くなる蒸気分配器6内の圧力である。)
【0048】
電磁ポンプが液体金属の上向き流れに対して力を加えると、力は次式のようにして求められる。
P3-P1-(X-Y)*密度液体-B*I*C
(式中、Bは磁場であり、Iは液体金属を通した電流であり、Cは定数である。)蒸発が開始すると、式は次のように変化する。
P3-P4-(X-Y)*密度液体-B*I*C
【0049】
図2Aは、電磁ポンプ16の本体に対して対向する両側の電極22を有する供給管15用の電磁ポンプ16の概略図である。電極22は電源23、この場合には可変DC電源に接続されている。この構成では、電極は液体金属と直接接触しないので、電極は液体金属と直接接触する電極よりもずっと
長持ちするという利点がある。
前提条件は、ガス透過性の電磁ポンプの材料は導電性である
ことであるが、これはグラファイトの電磁ポンプ
に当てはまる。さらなる利点は、電磁ポンプの本体を電流が通過し、その結果、電磁ポンプを抵抗加熱によって加熱することができることである。上記の本方法はもちろん、電極は液体金属に直接接触するガス透過性の電磁ポンプとともに作用する。
【0050】
磁石21の極は電極22に対して垂直であり、この構成では磁石21はヨーク(図示せず)によって接続された2つの永久磁石である。永久磁石の代わりに、電磁石を使用することも可能であり、例えばDCコイルを有する電磁石を使用することも可能である。コイルを通して電流を変化させることによって磁場を変化させることができる。
【0051】
可変DC電源およびDCコイルの代わりに、電磁石に対して可変AC電源およびACコイルを使用することも可能である。
【0052】
図2Bは、互いに隣接する供給管15および戻り管24と、供給管15および戻り管24のそれぞれための電磁ポンプ18および25とを備えた、構成を示す。供給管15と戻り管24の両方の磁場は、同じ永久磁石21を備えている。また、ローレンツ力は逆方向である
必要があるため
、供給管15と戻り管24とのそれぞれには別の可変DC電源23および26が設けられ
、各電極に逆向きに接続されている。供給管15と戻り管24は、互いに熱的に接触しているが、互いに電気的に絶縁されている。戻り管の流量は、蒸発速度によって、供給管内の流量とは異なり、そのため、戻り管24を通る電流は、供給管15を通る電流よりも大きくなる。
【0053】
図2Cは、供給管15の電極22と供給管25の電極22とが直列に接続され、そのため一方の電源23のみが必要であり、同じ電流が両方の供給管を通過する構成を示す図である。各管内の流量を制御するために、各管15および2
4の磁石21および36の磁場は別々に制御される。
【0054】
供給管15と戻り管24とに関して、供給管15への充填は、供給管のみで構成された構成と同じである。しかし、好ましくは、戻り管に介設された弁を開く際に、戻り管のガス透過性の電磁ポンプ25と蒸発装置5との間に介設された弁までの空気またはガスが真空チャンバ内に引き込まれることを防止するために、供給管と同じ方法で戻り管24へ充填される。戻り管24からの排出は、供給管のみの構成で説明したような供給管15からの排出と同じ方法で行われる。