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特許7182468ガラスセラミックスを製造するための連続的ゾル-ゲルプロセス
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  • 特許-ガラスセラミックスを製造するための連続的ゾル-ゲルプロセス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】ガラスセラミックスを製造するための連続的ゾル-ゲルプロセス
(51)【国際特許分類】
   C03B 8/02 20060101AFI20221125BHJP
   C01B 33/20 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
C03B8/02 F
C01B33/20
C03B8/02 A
C03B8/02 N
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018567830
(86)(22)【出願日】2017-08-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 EP2017070409
(87)【国際公開番号】W WO2018029334
(87)【国際公開日】2018-02-15
【審査請求日】2020-07-02
(31)【優先権主張番号】16184064.0
(32)【優先日】2016-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511237737
【氏名又は名称】デー.スワロフスキー カーゲー
【氏名又は名称原語表記】D.Swarovski KG
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ツェルマーク,ゲオルグ
(72)【発明者】
【氏名】ガンダー,マティーアス
(72)【発明者】
【氏名】シュトライター,クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ガーブル,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】リップ,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ハウエル,ロイ レイン
(72)【発明者】
【氏名】ステパニック,ニナ
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-21134(JP,A)
【文献】特開平2-120247(JP,A)
【文献】特開昭58-208144(JP,A)
【文献】国際公開第2015/014813(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B8/02
C03B19/12
C03B20/00
C01B33/113-33/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) シリコンテトラアルコキシド、少なくとも一つの非アルコール性官能基を有するシリコンアルコキシド、およびアルコールを第1の反応器(R1)へ連続的に供給し、無機酸を加えることで少なくとも一部を加水分解して第1の生成物流(A)を得るステップ、
(b) ジルコニウム(IV)アルコキシドを加える、あるいはアルコールとジルコニウム(IV)アルコキシドを連続的に混合することによって第2の反応器(R2)に第2の生成物流(B)を連続的に供給するステップ、
(c) プレゾルを調整するために第3の反応器(R3)に生成物流(A)と(B)を連続的に混合して第3の生成物流(C)を得るステップ、
(d) 前記生成物流(C)に水、あるいは希釈された酸を連続的に加えてゾルを得るステップ(ゲル化)
(e) 生成する前記ゾルを連続的に鋳型に充填してアクアゲルを得ること、
(f) 前記アクアゲルを乾燥してキセロゲルを得るステップ、
(g) 前記キセロゲルを焼結してガラスセラミックスを得るステップを含み、
前記シリコンテトラアルコキシドと前記少なくとも一つの非アルコール性官能基を有する前記シリコンアルコキシドとの重量比は、15:1から5:1であ
前記ガラスセラミックス中の酸化ジルコニウムの重量比は、21.2重量%以上52.6重量%以下である、ガラスセラミックスを製造するための連続的ゾル-ゲルプロセス。
【請求項2】
式(I)を満たすシリコンアルコキシドをステップ(a)において使用し、
Si(OR)4 (I)
Rは炭素が1から6のアルキル残基を表す、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
ステップ(a)において前記シリコンアルコキシドとしてオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を用いる、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
ステップ(a)において前記無機酸として硝酸を用いる、請求項1から3の少なくとも一つに記載のプロセス。
【請求項5】
前記無機酸に対する前記アルコキシドの体積比が1:1から20:1である、請求項1から4の少なくとも一つに記載のプロセス。
【請求項6】
ステップ(a)において前記シリコンテトラアルコキシドと前記シリコンアルコキシドの前記加水分解は、1から100℃の範囲内の温度で行う、請求項1から5の少なくとも一つに記載のプロセス。
【請求項7】
前記生成物流(B)に対して前記生成物流(A)が10:1から1:10での体積比で混合される、請求項1からの少なくとも一つに記載のプロセス。
【請求項8】
前記生成物流(A)と(B)は、0から100℃の範囲内の温度で混合される、請求項1からの少なくとも一つに記載のプロセス。
【請求項9】
ステップ(a)、(b)、または(c)の少なくとも一つは、上流混合素子を有するフロー反応器内で行われる、請求項1から8の少なくとも一つに記載のプロセス。
【請求項10】
1cmから1000mの長さ、および/または1から10mmの断面幅を有するフロー反応器が用いられる、請求項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記乾燥は150℃以下の温度で行われる、請求項1から10の少なくとも一つに記載のプロセス。
【請求項12】
前記(a)から(e)のステップのいずれかにおいて脱ガスがさらに行われる、請求項1に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無機化学の分野に属し、シリケート含有ガラス、あるいはガラスセラミックスを製造するための連続的プロセスに関連する。
【背景技術】
【0002】
三次元石英ガラス体は所謂ゾル-ゲルプロセスで作製することができる。このプロセスの原理は、酸触媒または塩基触媒による加水分解、および引き続く縮合反応に起因するゲル化に基づいている。元来液体のゾルは、酸化物粒子の安定な懸濁液を経てゲル状の、そして最終的には固体の状態へ遷移する。このようにして得られるアクアゲルは引き続き乾燥されてキセロゲルとなり、石英ガラスへ焼結される。最終生成物はガラス質である。生成物の多孔度とモルフォロジーは種々の添加剤を加えることによって、あるいは乾燥過程を通して調整することができる。原料を非常に高温で溶融する従来の石英ガラスの製造とは異なり、ゾル-ゲルプロセスでは室温で成形が生じる。この技術によって作製されるガラス体は再度加工する必要は無く、このことは時間的により効率が高く、安価である。
【0003】
ゾル-ゲル合成の出発原料は低分子の金属のアルコキシド化合物である。この合成の第1のステップは、酸、あるいは塩基存在下におけるアルコキシドの加水分解である。このプロセスの結果、不安定なヒドロキシ化合物(a)が生じ、これは容易にオリゴマー化することがある。生成するこの溶液がゾルである。縮合反応では、個々の化合物がシロキサン架橋(Si-O-Si)(b)によって互いに成長する。このプロセスは、すべてのモノマーが消費されるまで続く。連続的なネットワークはまだ形成されない。適切な反応条件下では、生成する全ての粒子は数ナノメートルの均一なサイズ分布を有する。加水分解と縮合の反応速度は溶媒、pH、および濃度によって左右されることがあり、加水分解と縮合は同時に進行する(c)。このプロセスはNagamiらのジャーナル オブ ノンクリスタリンソリッド第37巻191-201ページ(1980年)に割と詳細に記載されている。
【0004】
適切な環境下ではゾルは数週間安定であり、一部は数か月でも安定である。ゲル化は縮合によってシロキサン結合が生成することで生じる。このとき、本合成ステップの名前の由来となったゾル-ゲル遷移に至る。ゾルの細かい粒子から始まり、溶媒に浸漬された三次元ネットワークが形成される。ゾルはゲルとなる。
【0005】
ゲル化が完了すると、アクアゲルが乾燥されてキセノゲルとなる。溶媒を完全に溜去することで、ネットワーク全体により強い架橋が形成される。このステップにより、密で高度に架橋された弾力のある材料が得られる。
【0006】
【化1】
Mは金属、あるいは半金属、
Rは残基、
nは1から4、
aは0から3、
bは0から3、
cは0から3である。
【0007】
最後のステップでは、キセノゲルが石英ガラスへ焼結される。
【0008】
従来の技術から、一般的なプロセス、特にゾル-ゲルプロセスにおいて石英ガラスを扱った多数のプロセスが知られている。
【0009】
石英ガラスを製造するバッチプロセスが欧州特許EP0131057B1(セイコー)により知られるところとなり、ここでは式M(OR)xの金属アルコキシドの加水分解溶液が最初に形成され、ここからゾル(コロイド溶液)が生成する。ゲル化の後、ゾルは乾燥されてキセノゲルとなる。引き続き、キセノゲルは石英ガラスへ焼結される。
【0010】
欧州特許EP0807610B1(ルーセント)によると、本質的に非凝集シリカからなるシリカゾルを製造するプロセスが開示され、ここでは水中のシリカ粒子が出発混合物として調製され、シリカゾルは剪断混合によりこの混合物から形成される。金属カチオンを含まないアルカリ性物質をゾルに対して加えることでpHが6から9に調整される。
【0011】
欧州特許EP1251106B1(Fitel)は、シリカ粒子と水を混合することでゾルが得られるプロセスをクレームしており、この粒子は5から25m2/gの表面積を有し、少なくとも85%の球状粒子を含み、水に対する粒子の重量比は65%よりも高い。引き続き、塩基を用いてpHを10から13に調整し、ゾルにゲル化剤を加える。テトラメチルアンモニウムヒドロキシドとテトラエチルアンモニウムヒドロキシドが塩基として用いられる。
【0012】
欧州特許出願EP1258457A1(デグサ)により、シリコンアルコキシドを加水分解し、その後Aerosil(登録商標)Ox50を加えるプロセスが知られるところとなっている。Aerosil Ox50は、その特別な特性、粒径、表面積が故に採用されている。
【0013】
欧州特許EP1320515B1(デグサ)は、二つの溶液を調整して反応のために組み合わせるプロセスに関連する。溶液Aはヒュームドシリカ(例えばAerosil Ox50)の酸性(pH1.5)水懸濁液であり、溶液Bはヒュームドシリカ(例えばAerosil Ox200)の塩基性(pH10.5から13)水懸濁液である。SiO2に対するH2Oのモル比、溶液A中のSi化合物の溶液B中のそれに対するモル比、および(二つの溶液を組み合わせて)得られる混合物CのpHが、2cmよりも大きな三次元体を得るための臨界的特性である。
【0014】
欧州特許出願EP1606222A1(デグサ)には、ゾル、あるいは対応する前駆体をシリコンアルコキシドから調整するプロセスがクレームされている。このゾルは引き続き加水分解され、その後コロイド状のSiO2が添加される。
【0015】
欧州特許出願EP1661866(エボニック)によると、ヒュームドシリカ(コロイド状のシリカ)の水懸濁液を調整し、そのpHを2から0.5に調整し、その後TEOSを添加する。このようにして得られるゾルは引き続き塩基性に調整され、鋳型に投入され、ゾルは鋳型で固化してゲルになる。
【0016】
欧州特許出願EP1700830A1(デグサ)では、発熱性の金属酸化物の水懸濁液を最初に調整し、水の添加によってあらかじめ加水分解された金属酸化物をそこに加えるというプロセスが提案されている。このようにして得られるゾルは引き続き鋳型に投入され、その中でゾルがゲル化する。
【0017】
欧州特許出願EP1770063(ダイナックス)は、細孔径と細孔径分布が制御されたシリカエアロゲルを調整するプロセスに関連し、ここでは、加水分解可能な置換基と疎水性官能基の両者を含むシリコン成分、好ましくはメチルトリメトキシシランが界面活性剤の酸性水溶液中で加水分解される。非イオン性界面活性剤(例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル)、カチオン性界面活性剤(セチルトリメチルアンモニウムブロミド、あるいはクロリド)、あるいはアニオン性界面活性剤(ドデシルスルホン酸ナトリウム)が可能な溶媒として採用される。
【0018】
欧州特許出願EP2064159A1(デグサ)のプロセスは、ヒュームドSiO2を酸性水溶液に加えるステップ、および得られる懸濁液に対して引き続きシリコンアルコキシドを加えるステップを含む。シリコンアルコキシドに対する二酸化ケイ素のモル比は2.5から5である。これはバッチプロセスであり、ヒュームドシリカが最初に調整され、その後シリコンアルコキシドが添加される。
【0019】
欧州特許出願EP2088128A1(デグサ)では、酸性に調整された水に対してヒュームドシリカを加え、こうして得られる懸濁液にシリコンテトラアルコキシドを加えるというプロセスが提案されている。pHを再度調整し、この混合物を容器に移すと、ゾルは固化してゲルになる。この後、乾燥されてキセノゲルが得られ、焼結されてガラス生成物が得られる。
【0020】
国際特許出願WO2013/061104A2(デブレツェン大学)から、アルコゲル、エアロゲル、およびキセノゲルを調整する連続的プロセスが知られるところとなっており、ここでは、塩基性触媒と特定の水-有機溶媒系の存在下、シランを加水分解し、ゲル化減速剤と不活性粒子がこの溶液に導入される。
【0021】
従来技術のバッチプロセスの欠点は、ある決まった不連続な量が一度に調製できるため、品質に違いが生じ得るという事実である。バッチ生産はガラス中に空気の泡含ませるためには有利であるが、これは品質低下をもたらすことになる。他の欠点としては、操業ごとに行わなければならない全システムの洗浄が高価であることである。さらに連続的プロセスは、容易にスケールアップできるという可能性を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の目的は、上述した欠点を克服することであり、さらには、高い屈折率を有する多成分ガラスとガラスセラミックスを提供することである。一つの可能性は、連続的プロセスで合成を行うこと、およびアルコキシド成分を供給することであり、これにより屈折率の向上が図られる。連続的な反応モードであるため、定常的に高い品質のシリケート含有ガラスとガラスセラミックスを任意の量で製造することができる。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明はシリケート含有ガラス、およびガラスセラミックスを製造するための連続的ゾル-ゲルプロセスに関連し、このプロセスは以下のステップを含む:
(a)シリコンテトラアルコキシド、少なくとも一つの非アルコール性官能基を有するシリコンアルコキシド、およびアルコールを第1の反応器(R1)に連続的に供給し、無機酸を添加することによって少なくとも一部を加水分解して第1の生成物流を形成するステップ、
(b)金属アルコキシド成分を連続的に供給する、あるいはアルコールと金属アルコキシド成分を連続的に混合することにより、第2の反応器(R2)内に第2の生成物流を連続的に提供するステップ、
(c)プレゾルを形成するために第3の反応器(R3)内で生成物流(A)と生成物流(B)を連続的に混合して第3の生成物流(C)を形成するステップ、
(d)生成物流(C)に水、あるいは希釈された酸を連続的に加えてゾルを得る(ゲル化)ステップ、
(e)生成するゾルを連続的に鋳型に充填してアクアゲルを得るステップ、
(f)アクアゲルを乾燥してキセロゲルを得るステップ、および
(g)キセロゲルを焼結してシリケート含有ガラスとガラスセラミックスを得るステップ。
【0024】
本発明に係るプロセスのステップ(c)において記載される用語「プレゾル」とは、水、あるいは酸、もしくはシリカガラスの場合にはアンモニアを添加する前の生成物流(C)の懸濁液/溶液を指す。これに対し、本発明のプロセスのステップ(d)において使用される用語「ゾル」は、プレゾルと水/酸/アンモニアの混合物を指し、残存するアルコール分が完全に加水分解されていることが特徴である。シリコン上に形成されるOH基は、脱水雰囲気下で互いにさらに反応し、これはゲル化と記されるプロセスである。
【0025】
驚くべきことに、この新規の連続的プロセスにより、上述した種々の問題のすべてが同時に、かつ完全に解決されることが見出された。このプロセスによって任意の、したがって常に異なる量の生成物を製造することが可能になるだけではなく、本合成によって定常的に高い品質の生成物を与えることができる。
【0026】
さらに驚くべきことに、本発明の連続的プロセスにより、かなり大量の金属アルコキシド成分を組み込むことが可能となることが見出された。通常、ゾル中に金属酸化物が存在するとゲル化プロセスが加速され、システム内の生成物流の粘度の増大によってプロセスにおける生成物流の流動性が低下するという問題がプロセス中に発生する。これにより生成物流が固体となってプロセスが停止することがある。驚くべきことに、連続的な方法で製造プロセスを実行することで、ゲル化時間の短縮という望まない問題を回避できることが分かった。また、本発明のプロセスによって得られる生成物は、直ちにさらに成形することができ、追加的な溶融ステップを一切必要としない。したがって本発明に係るプロセスにより、クラックが無く、透明であり、大量の金属アルコキシド有するガラス、あるいはガラスセラミックスを製造することができる。
【0027】
さらに、本発明のプロセスが実施される際の連続性に起因し、製造工程中、組成と量をいつでも変更することができるため、本発明のプロセスはゾルの組成に関して高いフレキシビリティーがある。また、新たに発見されたフレキシビリティーにより、広い範囲わたって生成物の密度と屈折率を制御することができる。本発明のプロセスは閉鎖系として行われるため、保護的な雰囲気下で作業する必要がなく、作業者に対する薬品の暴露は限定的になる。
【0028】
さらに、本発明に係るプロセスの好ましい態様では、合成の出発原料は脱ガスされた状態で供給される。これは、このステップが無い場合には、混合の際、溶解度の変化に起因して出発原料に溶解しているガスが解放され、好ましくない気泡発生が生じることが分かったからである。脱ガスは、原理的にはプロセスステップ(a)から(e)のいずれの場合にも、すなわち、出発原料、プレゾル、懸濁液、あるいはゾル自身のいずれの段階でも行うことができる。出発原料が予め脱ガスされ、この状態で合成に用いることが好ましい。安全を見越し、出発原料とプレゾルの両者、懸濁液、またはゾルを脱ガスしても良い。
【0029】
本発明によると、脱ガスは超音波を当てながら行うことが好ましい。あるいは、可能な方法として、
・真空脱ガス
・蒸溜
・減圧/凍結のサイクル
・熱的脱ガス
・化学結合による酸素除去などの化学的方法
・不活性ガスを用いるガスの除去
・脱気添加剤の添加、および
・遠心分離、
あるいはこれらの方法の二つ、またはそれ以上の組み合わせが挙げられる。
【0030】
また、吸引濾過を利用することで粒子が無い形態で出発原料を用いてもよく、各鋳型を調整直後のゾルで充填することができる。よって長い洗浄時間が短縮され、特に採用に適した反応器を洗浄液で簡単に洗浄することができるので、仕様を満たさない不良品が発生しないようにすることで、プロセスの収益性が一層顕著に増大する。
【0031】
したがって、本発明は請求項に係るシリケート含有ガラス、あるいはシリケート含有ガラスセラミックス、およびこれらを製造するためのプロセスに関連する。以下、プロセスステップ(a)から(e)をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の実施形態によって得られた生成物と従来のシリカガラスとの透過率
【発明を実施するための形態】
【0033】
プロセスステップA
本発明に係るシリケート含有ガラス、あるいはシリケート含有ガラスセラミックスの出発原料として使用可能なシリコンアルコキシドは、式(I)を満たすことが好ましい。
Si(OR)4 (I)
ここで、Rは炭素が1から6のアルキル残基である。オルトケイ酸テトラプロピルとオルトケイ酸テトラブチルが典型例に含まれるが、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、特にオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を用いるのが好ましい。TEOSは水に不要であるため、好ましい実施形態ではアルコール系溶媒、特にエタノール系溶媒を用いればよく、アルコールは層間移動剤の機能を果たす。シリコンアルコキシドは、メチルトリエチルシラン、ジメチルジエチルシラン、トリメチルエチルシラン、メチルトリエトキシシラン(MTES)、トリエトキシオクチルシラン、オクチルメチルジクロロシラン、トリエトキシビニルシラン、ビニルトリメトキシリランなどの他のケイ素化合物を添加剤として含んでいてもよい。特に好ましい実施形態では、添加剤はメチルトリエトキシシラン(MTES)であり、シリコンテトラアルコキシドはオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)である。
【0034】
驚くべきことに、少なくとも一つの非アルコール性官能基を有するシリコンアルコキシドを添加することで、得られるガラス、あるいはガラスセラミックの透明性が増大することが分かった。理論に拘束されるものでは無いが、少なくとも一つの非アルコール性官能基を有するシリコンアルコキシドが存在することで、完全な架橋が抑制され、十分な数の開いた細孔が形成されると考えられる。開いた細孔に起因し、ゲル中、およびガラスまたはガラスセラミックにトラップされたいかなる揮発性材料も、クラックが発生する危険を伴うことなく、乾燥と焼結の際に容易に蒸発させることができる。従来のプロセスでは、生成物中に揮発性材料が依然として存在するため、乾燥と焼結の際にガラス、あるいはガラスセラミックにクラックが発生してしまうことがあり、加熱による圧力上昇の結果、ガラス、あるいはガラスセラミックの破壊に至ってしまう。本発明のプロセスによりこの問題が解決される。したがって本発明のプロセスにより、クラックが無く、密に焼結し、高い透明性を有するガラス、またはガラスセラミックを与えることができる。
【0035】
本発明のプロセスの好ましい実施形態では、シリコンテトラアルコキシドと少なくとも一つの非アルコール性官能基を有するシリコンアルコキシドとの重量比は、30:1から1:5、好ましくは25:1から1:5、より好ましくは20:1から1:1、特に15:1から5:1の範囲である。驚くべきことに、上記二つの成分の比がクレームされた範囲内にある場合、プロセスの収率と生成物の品質、特に透明性に関する品質がさらに向上することが分かった。
【0036】
シリコンアルコキシドの酸性加水分解は、硫酸や硝酸、塩酸などの無機酸の存在下、あるいは酢酸の存在下、反応器R1内において生じる。上述した酸は水で希釈された形態で使用することが好ましく、約1.00モル/Lの濃度に希釈された硝酸が特に好ましいことが分かった。あるいは塩酸水溶液も適しており、これに界面活性物質を加えてもよい。ここで、例えばTEOSの場合、一つのエタノラート基のみが開裂し、同時にOH-に置換されるように、酸とともに加えられる水を化学量論的に加えることが好ましい。無機酸に対するアルコキシドの体積比は、好ましくは1:1から20:1、より好ましくは5:1から15:1、さらに好ましくは7:1から12:1である。加水分解は、適切な温度において二つの出発原料をポンプを用いて供給し、これらを混ぜ、温度制御されたフロー反応器内で反応させることで行われる。出発原料が互いに混和しない場合、フロー反応器内にスラグが流れることがある。アルコール、好ましくはエタノールを層間移動剤として加えることが好ましい。加水分解の温度範囲は1から100℃、好ましい温度は10から50℃である。加水分解は18から40℃、特に特に20から25℃で行うことが好ましい。
【0037】
プロセスステップB
本発明に係るシリケート含有ガラス、あるいはシリケート含有セラミックスを製造するための出発材料として使用可能な金属アルコキシド成分は、好ましくは有機の遷移金属アルコキシドであり、第4族から8族の遷移金属のアルコキシドが好ましい。金属アルコキシド成分は、式M(OR)n(OH)mを満たすことが好ましく、ここでMは金属、Rは残基である(n+mはこのカチオンの価数に対応する)。Mは周期表第4族元素から選択されることが好ましく、TiあるいはZrが好ましい。一方Rは炭素が1から5の有機アルキル残基が好ましく、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、イソペンチル、あるいはネオペンチル残基のグループから選択することが好ましい。適切な金属アルコキシド成分は、オルトチタン酸アルキル、特にオルトチタン酸テトライソプロピル(Ti[OCH(CH324)、あるいはジルコニウム(IV)アルコキシド、特にジルコニウム(IV)ブトキシド(Zr(OCH2CH2CH2CH34)が好ましい。
【0038】
第2のプロセスステップでは、金属アルコキシド成分が反応器R2内でアルコールと混合される。反応器は温度制御されてもよい。あるいは、ニートの金属アルコキシド成分を用いてもよい。金属アルコキシド成分に対するアルコールの体積比は、1:5から5:1が好ましく、より好ましくは2:1から1:2である。温度は0から約40℃、好ましくは20から30℃に保たれる。
【0039】
プロセスステップC
加水分解されたシリコンアルコキシド成分の第1の連続流が第1のプロセスステップで形成され、また、連続的に第2の金属アルコキシド成分のアルコール溶液の第2流が第2のステップで形成された後、第3のステップにおいて二つの流れが混合され、プレゾルの形成が生じる。したがって、適切な混合システムを利用して生成物流(A)と(B)が反応器R3の上流で混ぜ合わされる。二つの流れ(A)と(B)の体積比は可変的に調整することができる。最終的に得られるガラスの生成物特性は、これによって影響される。(B)に対する(A)の混合体積比は、約10:1から約1:10が好ましく、より好ましくは約8:1から約1:5であり、さらに好ましくは約4:1から約1:2である。ガラスに要求される品質に応じ、適切な脱ガス方法、例えば超音波などによってプレゾルを脱ガスしてもよい。生成物流(A)と(B)は、0から約100℃、好ましくは0から40℃、より好ましくは20から30℃の温度で混合される。
【0040】
プロセスステップD
引き続くプレゾルのゲル化は、水、あるいは酸を添加してpHが同時に変化するときに誘起される。この目的のため、連続的に生成されるプレゾル(生成物流(C))に対し、水、あるいは硫酸、硝酸、塩酸に例示される無機酸の希釈液、あるいは酢酸(約1.00モル/L)などの他の有機酸が連続的に供給される。プロセスステップ(D)では、残存するアルコール性残基をすべて加水分解するよう、対応するモル量の水が加えられ、新たに生じる水酸基が引き続き縮合する。同時に、系が架橋(ゲル化)する。ゲル化時間が短くなりすぎないよう、混合物を5から0℃に冷却することが好ましい。
【0041】
本プロセスステップでは、生成物の性質を決定するために種々のものを添加することができる。例えばカチオン、好ましくはNa、K、Cs、Sr、Ba、B、Al、Zn、Y、La、Ce、Sm、Eu、Tb、およびTm元素のカチオンを添加してもよく、着色されたガラスが要望される際には、V、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Cu、Au、Cd、Pr、Nd、およびEr元素のカチオン、ならびにこれらの混合物を添加してもよい。
【0042】
反応器
本発明によると、反応はフロー反応器で行われ、任意の構成としてフロー反応器は上流混合素子を備えてもよい。
【0043】
最も簡潔な実施形態では、反応器は、テフロン(登録商標)、ポリアミド、金属、ポリエチレン、あるいはポリプロピレンなどの耐性材料で作製される可塑性チューブであり、約1cmから約1000m、好ましくは約5cmから約500m、より好ましくは70cmから400mの長さを有し、約1から約10mm、好ましくは約1から約5mmの断面幅を平均的に有することができる。このような可塑性チューブは渦巻状に巻くことができるため、必要な空間を大幅に低減することができる。一定の流速では、長い経路はそれぞれ最適な反応時間に対応する。可塑性チューブの長さは自由に延長、短縮でき、低費用で洗浄できるため、このようなアセンブリはとりわけ柔軟性が高い。このような反応モードは、実質的にプロセスの収益性に寄与する。
【0044】
ゲル化
プレゾルは反応器R3から連続的に供給され、鋳型に投入され、鋳型内でゲル化が生じる。このようにして得られるアクアゲルはエージングの際に鋳型内で収縮するため、容器内で簡単に移動できなければならない。この理由から、ここではポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン、PVC、あるいはポリスチレンなどの疎水性材料で作製される容器が特に適している。
【0045】
得られるアクアゲルは、成形のために鋳型から取り出す、あるいは鋳型内でキセロゲルへ乾燥する必要がある。鋳型からの取出しは、特定の条件下、例えばアルコール溶液を用いて行われる。乾燥条件は、例えばアルコールや水、酸などのゲル内に含まれる溶媒の蒸気圧によって左右される。蒸発速度を低くすることで、ゲルにクラックが生じること防止することができる。乾燥時間が長いと逆にプロセスが高価となるため、ここで収益性を確立する必要がある。アクアゲルのキセロゲルへの乾燥は、室温から150℃への温度勾配をかけながら行うことが好ましい。乾燥雰囲気を制御するため、それ相応の大きさに適合された開口によって乾燥速度を調整する必要があり、乾燥溶液を用いてもよい。
【0046】
焼結
焼結は、それ自体公知の方法で行うことができる。焼結の間、キセロゲル内にまだ含まれる残留溶媒が取り除かれ、系内の細孔が閉じる。焼結温度は1400℃までの温度であり、多くの製品では、焼結は通常の雰囲気下で行うことができる。本発明によると、焼結は以下のように行うことが好ましい。
1)残存溶媒を除去する
2)含まれる不要な有機化合物を除去する
3)存在する細孔を閉じ、シリケート含有ガラス、あるいはガラスセラミックスを形成する
【0047】
溶媒除去(1)、および炭素含有出発原料/生成物の分解によって生じる不要な有機化合物の除去(2)のため、約600から約1100℃、好ましくは約700から約900℃、より好ましくは約750℃から約850℃の範囲内の温度で焼成を行う。ステップ3では、約800から約1400℃、好ましくは約850から約1200℃、さらに好ましくは約950から約1100℃の温度で焼結することで細孔が閉じられる。
【0048】
本発明の更なる目的は、本発明のプロセスで得ることができるシリケート含有ガラス、あるいはシリケート含有ガラスセラミックである。上述したように、本発明に係るプロセスにより、高い透明性を有し、クラックが無く、金属酸化物化合物を大量に含むガラス、あるいはガラスセラミックを提供することができる。したがって本発明のシリケート含有ガラス、あるいはシリケート含有ガラスセラミックは、高い透明性が特徴である。シリケート含有ガラス、あるいはシリケート含有ガラスセラミックは、シリカガラスに近い、あるいは同一の透明性を有することが好ましい。特にシリケート含有ガラス、あるいはシリケート含有ガラスセラミックは、可視スペクトル内の波長を有する光、特に300から900nm、好ましくは350から850nm、特に380から780nmの範囲の波長の光に対して透明であることが好ましい。
【0049】
好ましい実施形態では、本発明に係るシリケート含有ガラス、あるいはシリケート含有ガラスセラミックは、可視光範囲におけるシリカガラスの透過率の少なくとも70%、好ましくは可視光範囲におけるシリカガラスの透過率の少なくとも80%を有することが好ましい。透過率はI/I0で求められ、I0は光の初期強度である。さらに好ましい実施形態では、本発明に係るシリケート含有ガラス、あるいはシリケート含有ガラスセラミックの透過率の値は、可視光範囲におけるシリカガラスの透過率の値から多くても30%も相違せず、好ましくは20%も相違しない。特に好ましい実施形態では、本発明に係るシリケート含有ガラス、あるいはシリケート含有ガラスセラミックは、可視光範囲においてシリカガラスの透過率に匹敵する。
【0050】
好ましい実施形態では、本発明に係るシリケート含有ガラス、あるいはシリケート含有ガラスセラミックは、10重量%から60重量%、好ましくは20重量%から55重量%の範囲の量の金属酸化物成分を含む。他の実施形態では、シリケート含有ガラス、あるいはシリケート含有ガラスセラミック中の金属酸化物成分は、10から35重量%、特に10から25重量%であることが好ましい。
【0051】
本発明のシリケート含有ガラス、あるいはシリケート含有ガラスセラミックはさらに、高い屈折率を有し、屈折率が金属酸化物成分を添加することで制御できることが特徴である。ここで、本発明のプロセスにより、相当大量の金属酸化物成分を加えることができ、これにより高い屈折率を有するシリケート含有ガラス、あるいはシリケート含有ガラスセラミックを得ることが可能となる。好ましい実施形態では、シリケート含有ガラス、あるいはシリケート含有ガラスセラミックは、1.45から1.8、好ましくは1.48から1.75、特に1.5から1.7の屈折率nDを有する。
【0052】
好ましい実施形態では、本発明に係るシリケート含有ガラス、あるいはシリケート含有ガラスセラミックは、透過率が可視光範囲におけるシリカガラスの透過率から多くても30%、好ましくは多くても20%も相違せず、屈折率nDが1.45から1.8、好ましくは1.48から1.75、特に1.5から1.7である。
【実施例
【0053】
本発明で用いられる用語「室温」は、20℃の温度をいう。
【0054】
実施例1
SiO2/TiO2ガラス
エタノールを第1のポンプにより、HNO3(1.0モル/L)を第2のポンプにより、TEOSとMTESを他の二つのポンプを用いて供給した。これらの液体をT字管を利用して可塑性チューブ内に混合した。混合物は以下の組成を有していた。
TEOS 体積比で45.0%
MTES 体積比で4.5%
EtOH体積比で45.0%
HNO3 体積比で5.5%
混合物は室温にて長さ200m、内径2.7mmの第1のPA可塑性チューブ(反応器R1)に入り、チューブ内の滞留時間は約25分であった。
【0055】
第2の反応器において、第2の金属アルコキシド成分、好ましくはオルトチタン酸テトライソプロピルをアルコール、好ましくはエタノールと混合した。
【0056】
生成物流(A)と(B)をもう一つのT字管を介して混ぜ合わせ、固定された混合チューブを用いて連続的に混合した。引き続きプレゾルを脱ガスし、水を加えたのち、PPの鋳型(2×2×2cm)内に直ちに充填し、密閉した。約10秒後、ゲル化が開始された。閉じられた鋳型内で9日間滞留させた後、蓋に複数の穴をあけ、温度を室温から120℃に上げながらゲル本体を鋳型内で4日間にわたって乾燥させた。引き続き、あらかじめ加熱した焼結炉内において、以下の温度勾配をかけながらキセロゲルをガラスへ焼結した:100から800℃(7時間)、800℃(0.5時間)、800から1030℃(4.6時間)、1030℃(1時間)。
【0057】
SiO2/TiO2=80/20(重量%)の組成を有するガラスが得られた。
【0058】
実施例2
SiO2/ZrO2ガラス
実施例1のプロセスに従い、ジルコニウム(IV)ブトキシドを用いて以下の組成を有する複数種のガラスを作製した:SiO2/ZrO2=45/55(重量%)、SiO2/ZrO2=70/30(重量比)。第2の反応器(PTFE可塑性チューブ)内では、オルトチタン酸テトライソプロピルに替えてジルコニウム(IV)ブトキシドを用いた。酢酸(1モル/L、V=15.6% Vpresol)を連続的にプレゾルに加えてゲル化を開始させた。閉じられた鋳型内で4日間の滞留時間後、鋳型の蓋を取り除き、鋳型を封止可能な乾燥容器に移した。乾燥容器は溶媒の放出を制御するための小さな穴(直径0.1から4.0mm)を有しており、液体(水、あるいはエタノールと1-ブタノールとホルムアミドと水との混合物)を雰囲気の制御のために加えた。引き続き、温度を室温から120℃に上げながらゲル化体を4日間にわたって鋳型内で乾燥させた。引き続き、あらかじめ加熱した焼結炉内において、以下の温度勾配をかけながらキセロゲルをガラスへ焼結した:100から800℃(7時間)、800℃(0.5時間)、800から1030℃(4.6時間)、1030℃(1時間)。
【0059】
図1に本発明の生成物と従来のシリカガラスとの透過率データの比較を示す。生成物の組成を表1にまとめる。金属酸化物成分はZrO2であった。これから分かるように、本発明の生成物は、大量の金属酸化物成分を有しているのにも関わらず、従来のシリカガラスの透明性に匹敵する透明性を有している。さらに、表1に纏められたデータから、本発明の生成物の屈折率nDは金属酸化物成分を添加することによって制御できることが分かる。
【0060】
透過率は、サンプルの厚さを5mmとし、UV-vis分光器を用いて決定された。
【0061】
屈折率は屈折計を用いて決定された。
【0062】
【表1】
図1