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  • 特許-電力変換装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20221125BHJP
【FI】
H02M7/48 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019009282
(22)【出願日】2019-01-23
(65)【公開番号】P2020120483
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】柏原 辰樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝次
(72)【発明者】
【氏名】大石 潔
(72)【発明者】
【氏名】横倉 勇希
(72)【発明者】
【氏名】荒木 雄志
【審査官】土井 悠生
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-244653(JP,A)
【文献】特開2014-27804(JP,A)
【文献】特許第5813934(JP,B2)
【文献】特許第5391698(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00-7/98
H02P 21/00-25/03
H02P 25/04
H02P 25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧をスイッチングして交流に変換し、モータに供給するインバータ回路を備えた電力変換装置であって、
前記スイッチングを制御する制御部を備え、
該制御部は、
前記インバータ回路を制御する電圧ベクトルを複数通りのそれぞれに設定した場合に、入力電流値、及び、前記モータに流れるdq軸電流値をそれぞれ予測するモデル予測部と、
該モデル予測部により予測された前記三つの電流値とそれらの目標値である電流指令値に基づき、前記インバータ回路を実際に制御する電圧ベクトルを選択して当該インバータ回路を制御する電圧ベクトル選択部を有し、
該電圧ベクトル選択部は、前記電流指令値に対して所定の許容幅を設定し、前記予測された電流値のうち、前記許容幅から外れたものに対応する電圧ベクトルを除外すると共に、
前記予測された電流値が前記許容幅に含まれるものに対応する電圧ベクトルのうちから、前記予測された電流値が前記許容幅を外れるまでの期間が長いことを評価基準として、前記三つの電流値が常に前記許容幅の範囲内となるように前記インバータ回路を実際に制御する電圧ベクトルを選択することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記モデル予測部は、一定期間先の電流値を予測し、
前記電圧ベクトル選択部は、前記一定期間先の電流値のうち、前記許容幅から外れたものに対応する電圧ベクトルを除外すると共に、
前記許容幅に含まれる前記一定期間先の電流値の軌跡を前記許容幅から外れる直前まで線形近似で拡張し、その地点までの期間が長いことを評価基準として、前記インバータ回路を実際に制御する電圧ベクトルを選択することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記モデル予測部は、一定期間毎に前記一定期間先の電流値を予測すると共に、
前記電圧ベクトル選択部は、前記モデル予測部が予測する毎に前記インバータ回路を実際に制御する電圧ベクトルの選択を行うことを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記電圧ベクトル選択部は、電圧ベクトルを切り換えるときに必要な前記インバータ回路のスイッチング回数が少ないことを前記評価基準に加味して、前記インバータ回路を実際に制御する電圧ベクトルを選択することを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちの何れかに記載の電力変換装置。
【請求項5】
Cn=Sn(t)/Nn
但し、Cnは評価関数、Sn(t)は現在の時間において電圧ベクトルを切り換えるときに必要な前記インバータ回路のスイッチング回数、Nnは前記許容幅に含まれる前記予測された電流値が前記許容幅を外れるまでのサンプル数であり、
前記電圧ベクトル選択部は、上記式から評価関数Cnを算出し、該評価関数Cnが最も小さくなるものを、前記インバータ回路を実際に制御する電圧ベクトルとして選択することを特徴とする請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
交流電源からの入力交流を全波整流するコンバータ回路と、
該コンバータ回路の出力に並列接続されたコンデンサを有し、前記直流電圧を出力する直流リンク部と、
前記交流電源と前記コンデンサの間に接続されたリアクトルを備え、
前記制御部は、前記モータの速度を制御する操作量である入力トルク指令値を求める速度制御部と、
前記入力トルク指令値から前記インバータ回路の出力トルクを制御するq軸電流値の電流指令値であるq軸電流指令値を求めるトルク電流制御部と、
前記入力トルク指令値から前記入力電流値の電流指令値である入力電流指令値を生成する入力電流制御部を有することを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちの何れかに記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに電力を供給するインバータ回路を備えた電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、単相-三相インバータを使用する際には、高調波等の問題から系統側にPFC回路を設け、エネルギーバッファとして電解コンデンサを使用するのが一般的であった。しかしながら、電解コンデンサは他の受動素子と比べて寿命が短く、PFC回路はリアクトルやスイッチング素子を使用するため、装置の小型化や長寿命化、コストの削減等の妨げとなっていた。
【0003】
これらの問題を解決する手段として、電解コンデンサを小容量のフィルムコンデンサに置き換えた所謂電解コンデンサレスインバータを用いた電力変換装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5813934号公報
【文献】特許第5391698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
係る電解コンデンサレスインバータでは、系統側のラインインピーダンスのリアクトルと、直流リンク部のコンデンサの間で励起される共振電流によって入力電流が振動し、入力電流に高調波が重畳する問題が発生する(入力電流に歪みが生じる)。そこで、直流リンク電流指令値に基づいて電圧平面上に描かれる等電流線の線上に電圧ベクトルを配置することで直流リンク電流を直接制御し、入力電流の高調波に関する規制を満足させる手法も提案されている。
【0006】
しかしながら、等電流線の線上に電圧ベクトルを配置するために、PWM変調を用いた電圧ベクトルの制御を行うので、キャリア周波数を一定以上高くしないと電源高調波規制を満足することができず、そのため、スイッチング損失が増大するという問題があった。
【0007】
他方、インバータを制御する複数通りの電圧ベクトルをそれぞれ設定した場合のモータに流れる電流を予測し、予測値と目標値に基づいて電流が許容範囲内に入るようにインバータを制御すると共に、ゼロベクトルに切り換える際には、スイッチング素子のスイッチング回数が少なくなる方を選択して、スイッチング損失を低減する手法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この手法では電解コンデンサレスインバータでの最適な制御方式が示されていない。具体的には、電解コンデンサレスインバータでは、モータ制御にて入力電流の力率を改善し、電源高調波規制を満足する必要があるが、そのための方策が示されておらず、電解コンデンサレスインバータで使用することは出来ない。
【0008】
そこで、モータに流れるdq軸電流値と直流リンク電流値について評価を行うことで、入力高調波規制を満足しつつ、スイッチング損失を低減する方法も考えられるが、直流リンク電流値の評価では、前述した入力部のLC共振によって励起される共振電流について考慮できないという問題がある。
【0009】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、所謂電解コンデンサレスインバータの構成とした場合にも、電源高調波規制を効果的に満足しつつ、スイッチング損失を低減することができる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電力変換装置は、直流電圧をスイッチングして交流に変換し、モータに供給するインバータ回路を備えたものであって、スイッチングを制御する制御部を備え、この制御部は、インバータ回路を制御する電圧ベクトルを複数通りのそれぞれに設定した場合に、入力電流値、及び、モータに流れるdq軸電流値をそれぞれ予測するモデル予測部と、このモデル予測部により予測された三つの電流値とそれらの目標値である電流指令値に基づき、インバータ回路を実際に制御する電圧ベクトルを選択して当該インバータ回路を制御する電圧ベクトル選択部を有し、この電圧ベクトル選択部は、電流指令値に対して所定の許容幅を設定し、予測された電流値のうち、許容幅から外れたものに対応する電圧ベクトルを除外すると共に、予測された電流値が許容幅に含まれるものに対応する電圧ベクトルのうちから、予測された電流値が許容幅を外れるまでの期間が長いことを評価基準として、三つの電流値が常に許容幅の範囲内となるようにインバータ回路を実際に制御する電圧ベクトルを選択することを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明の電力変換装置は、上記発明においてモデル予測部は、一定期間先の電流値を予測し、電圧ベクトル選択部は、一定期間先の電流値のうち、許容幅から外れたものに対応する電圧ベクトルを除外すると共に、許容幅に含まれる一定期間先の電流値の軌跡を許容幅から外れる直前まで線形近似で拡張し、その地点までの期間が長いことを評価基準として、インバータ回路を実際に制御する電圧ベクトルを選択することを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明の電力変換装置は、上記発明においてモデル予測部は、一定期間毎に一定期間先の電流値を予測すると共に、電圧ベクトル選択部は、モデル予測部が予測する毎にインバータ回路を実際に制御する電圧ベクトルの選択を行うことを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明の電力変換装置は、上記各発明において電圧ベクトル選択部は、電圧ベクトルを切り換えるときに必要なインバータ回路のスイッチング回数が少ないことを評価基準に加味して、インバータ回路を実際に制御する電圧ベクトルを選択することを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明の電力変換装置は、上記発明において電圧ベクトル選択部は、下記式から評価関数Cnを算出し、この評価関数Cnが最も小さくなるものを、インバータ回路を実際に制御する電圧ベクトルとして選択すること特徴とする。
Cn=Sn(t)/Nn
但し、Cnは評価関数、Sn(t)は現在の時間において電圧ベクトルを切り換えるときに必要なインバータ回路のスイッチング回数、Nnは許容幅に含まれる予測された電流値が許容幅を外れるまでのサンプル数である。
【0015】
請求項6の発明の電力変換装置は、上記各発明において交流電源からの入力交流を全波整流するコンバータ回路と、このコンバータ回路の出力に並列接続されたコンデンサを有し、直流電圧を出力する直流リンク部と、交流電源とコンデンサの間に接続されたリアクトルを備え、制御部は、モータの速度を制御する操作量である入力トルク指令値を求める速度制御部と、入力トルク指令値からインバータ回路の出力トルクを制御するq軸電流値の電流指令値であるq軸電流指令値を求めるトルク電流制御部と、入力トルク指令値から入力電流値の電流指令値である入力電流指令値を生成する入力電流制御部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、直流電圧をスイッチングして交流に変換し、モータに供給するインバータ回路を備えた電力変換装置において、スイッチングを制御する制御部を備え、この制御部が、インバータ回路を制御する電圧ベクトルを複数通りのそれぞれに設定した場合に、入力電流値、及び、モータに流れるdq軸電流値をそれぞれ予測するモデル予測部と、このモデル予測部により予測された三つの電流値とそれらの目標値である電流指令値に基づき、インバータ回路を実際に制御する電圧ベクトルを選択して当該インバータ回路を制御する電圧ベクトル選択部を有し、この電圧ベクトル選択部が、電流指令値に対して所定の許容幅を設定し、予測された電流値のうち、許容幅から外れたものに対応する電圧ベクトルを除外するようにしたので、入力電流とモータに流れる電流を少なくとも許容幅近傍で制御することができるようになり、入力部の共振電流を直接的に抑制して、効果的に電源高調波規制を満足することができるようになる。
【0017】
特に、電圧ベクトル選択部が、予測された電流値が許容幅に含まれるものに対応する電圧ベクトルのうちから、予測された電流値が許容幅を外れるまでの期間が長いことを評価基準として、インバータ回路を実際に制御する電圧ベクトルを選択するようにしたので、複数通りの電圧ベクトルのなかからインバータ回路のスイッチング回数を少なくすることができる電圧ベクトルを選択して、効果的にスイッチング損失の低減を図ることができるようになる。
【0018】
この場合、電圧ベクトル選択部は、入力電流値、及び、dq軸電流値の三つの電流値が常に許容幅の範囲内となるようにインバータ回路を実際に制御する電圧ベクトルを選択するようにしているので、極めて効果的に電源高調波規制を満足することができるようになる。
【0019】
また、請求項2の発明の如くモデル予測部が、一定期間先の電流値を予測し、電圧ベクトル選択部は、一定期間先の電流値のうち、許容幅から外れたものに対応する電圧ベクトルを除外すると共に、許容幅に含まれる一定期間先の電流値の軌跡を許容幅から外れる直前まで線形近似で拡張し、その地点までの期間が長いことを評価基準として、インバータ回路を実際に制御する電圧ベクトルを選択するようにすれば、的確に電圧ベクトルの選択を行うことができるようになる。
【0020】
この場合、請求項3の発明の如くモデル予測部が、一定期間毎に一定期間先の電流値を予測すると共に、電圧ベクトル選択部は、モデル予測部が予測する毎にインバータ回路を実際に制御する電圧ベクトルの選択を行うようにすれば、スイッチング回数を低減しながら、入力電流値、及び、dq軸電流値の三つの電流値の応答性を高くすることができるようになる。
【0021】
更に、請求項4の発明の如く電圧ベクトル選択部が、電圧ベクトルを切り換えるときに必要なインバータ回路のスイッチング回数が少ないことを評価基準に加味して、インバータ回路を実際に制御する電圧ベクトルを選択するようにすれば、スイッチング回数を少なくすることができる電圧ベクトルをより一層的確に選択することが可能となる。
【0022】
この場合において、具体的には請求項5の発明の如く電圧ベクトル選択部は、例えば下記式から評価関数Cnを算出し、この評価関数Cnが最も小さくなるものを、インバータ回路を実際に制御する電圧ベクトルとして選択するとよい。
Cn=Sn(t)/Nn
但し、Cnは評価関数、Sn(t)は現在の時間において電圧ベクトルを切り換えるときに必要なインバータ回路のスイッチング回数、Nnは許容幅に含まれる予測された電流値が許容幅を外れるまでのサンプル数である。
【0023】
また、例えば請求項6の発明の如く交流電源からの入力交流を全波整流するコンバータ回路と、このコンバータ回路の出力に並列接続されたコンデンサを有し、直流電圧を出力する直流リンク部と、交流電源とコンデンサの間に接続されたリアクトルを更に備え、制御部が、モータの速度を制御する操作量である入力トルク指令値を求める速度制御部と、入力トルク指令値からインバータ回路の出力トルクを制御するq軸電流値の電流指令値であるq軸電流指令値を求めるトルク電流制御部と、入力トルク指令値から入力電流値の電流指令値である入力電流指令値を生成する入力電流制御部を有する構成とすることで、リアクトルのインダクタンスにより入力電流値の予測を的確に行い、本発明をより円滑に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明を適用した一実施例の電力変換装置のブロック図である。
図2図1のインバータ回路を制御する電圧ベクトルとスイッチング素子のスイッチング状態を説明する図である。
図3図2の電圧ベクトルと、入力電流、モータに流れる電流との関係、及び、電圧ベクトルの選択を説明する図である。
図4】本発明を実施した場合の入力電流、及び、モータに流れる電流を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態について、図面に基づき詳細に説明する。
(1)電力変換装置1
図1は、本発明の一実施例の電力変換装置1の構成を示すブロック図である。この実施例の電力変換装置1は、コンバータ回路2と、直流リンク部3と、インバータ回路4と、制御部6を備え、単相の交流電源7から供給された交流の電力を所定の周波数の電力に変換してモータ8に供給する構成とされている。実施例のモータ8は、冷凍装置の冷媒回路を構成する圧縮機を駆動するIPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)であり、制御部6が生成する電圧指令によって駆動される。
【0026】
(2)コンバータ回路2
コンバータ回路2は、リアクトル5を介して交流電源7に接続され、交流電源7からの交流(入力交流)を直流に整流する。この実施例では、コンバータ回路2は複数(4個)のダイオードD1~D4がブリッジ状に結線されたダイオードブリッジ回路から構成されている。これらのダイオードD1~D4により、交流電源7の交流電圧を全波整流して直流電圧に変換する。
【0027】
(3)直流リンク部3
直流リンク部3は、コンデンサ9を備えている。このコンデンサ9は、コンバータ回路2の出力に並列に接続され、このコンデンサ9の両端に生じた直流電圧(直流リンク電圧値)Vdcがインバータ回路4の入力ノードに接続されている。このコンデンサ9は、インバータ回路4の後述するスイッチング素子がスイッチング動作する際に、スイッチング周波数に対応して生じるリプル電圧(電圧変動)のみを平滑化可能な静電容量を有している。
【0028】
即ち、コンデンサ9は、コンバータ回路2によって整流された電圧(電源電圧に応じて変動する電圧)を平滑化するような静電容量を有さない小容量のコンデンサである。実施例では、一般的なコンバータ回路の出力の平滑化に必要な電解コンデンサの概ね1/100の容量を有しているものとする。従って、この直流リンク部3が出力する直流リンク電圧値Vdcは脈動している。コンデンサ9には、一例としてフィルムコンデンサを採用可能である。
【0029】
尚、図中idcは直流リンク電流値、icは直流リンクコンデンサ電流値である。また、実施例ではリアクトル5を交流電源7とコンバータ回路2の間に接続したが、交流電源7とコンデンサ9の間に接続されていればよい。
【0030】
(4)インバータ回路4
インバータ回路4は、入力ノードが直流リンク部3のコンデンサ9に並列に接続され、直流リンク部3の出力をスイッチングして三相交流に変換し、モータ(IPMSM)8に供給するように構成されている。実施例のインバータ回路4は、複数のスイッチング素子がブリッジ結線されることで構成されている。このインバータ回路4は、三相交流をモータ8に出力するため、6個のスイッチング素子S1~S6を備えている。
【0031】
詳しくは、インバータ回路4は、2つのスイッチング素子を互いに直列接続した三つのスイッチングレグを備え、各スイッチングレグにおける上アームのスイッチング素子S1~S3と、下アームのスイッチング素子S4~S6との中点が、それぞれモータ8の各相(u相、v相、w相)のコイルに接続されている。また、各スイッチング素子S1~S6には、還流ダイオードD5~D10がそれぞれ逆並列接続されている。そして、インバータ回路4は、これらのスイッチング素子S1~S6のON-OFF動作によって、直流リンク部3から入力された直流リンク電圧値Vdcをスイッチングし、三相交流電圧に変換してモータ8に供給する。
【0032】
(5)制御部6
次に、制御部6は、インバータ回路4の出力トルクτinvが、入力交流の周波数ωs(電源周波数)の2倍に同期して脈動するようにインバータ回路4におけるスイッチング(ON-OFF動作)を制御する。実施例の制御部6は、速度制御部11と、トルク電流制御部12と、入力電流制御部13と、スイッチング制御部14と、直接電流制御部15を備えた構成とされている。
【0033】
(5-1)速度制御部11
速度制御部11は、モータ8の速度を制御する操作量を求める。具体的には、速度制御部11は、PI演算部16、減算器17、二乗波形生成部18と、乗算器19を備えている。この速度制御部11では、モータ8の速度を制御する操作量として、インバータ回路4の入力トルク指令値τin *を、PI演算部16の出力と二乗波形生成部18の出力に応じて生成する。この入力トルク指令値τin *は、入力交流の周波数ωsの2倍に同期して脈動する。
【0034】
具体的に実施例では、速度制御部11の減算器17が、モータ8の機械角の回転角周波数ωrm(実施例では推定値。実測された真値でも良い。以下、同じ)と回転角周波数の指令値ωrm *との偏差を求める。また、PI演算部16は、減算器17が求めた偏差に対して、比例・積分演算(PI演算)を行い、その結果を出力する。更に、二乗波形生成部18は、入力電圧値vinを、PLL回路21を介して入力する。そして、入力交流を二乗した波形sin2θinを生成して出力する。乗算器19はPI演算部16の出力と二乗波形生成部18の出力とを乗じて、入力トルク指令値τin *として出力する。これにより、入力トルク指令値τin *は、入力交流の周波数ωsの2倍に同期して脈動することになる。
【0035】
(5-2)トルク電流制御部12
次に、トルク電流制御部12は、減算器22、23と、q軸電流指令値生成部24を備えている。このトルク電流制御部12では、速度制御部11が出力する入力トルク指令値τin *から、インバータ回路4の出力トルクτinvを制御する操作量として、後述するモータ8のq軸電流値(モータ8に流れる電流値)の指令値であるq軸電流指令値iq *を生成する。
【0036】
具体的に実施例では、トルク電流制御部12の減算器22が、速度制御部11が出力する入力トルク指令値τin *と、コンデンサ9での電力を機械角の回転角周波数ωrmで除算し、トルク次元に換算したコンデンサトルクτc(実施例では推定値。実測された真値でもよい。以下、同じ)との偏差を求める。そして、インバータ回路4の出力トルクτinvの指令値(出力トルク指令値)τinv *として出力する。
【0037】
ここで、入力電力pinとコンデンサ9での電力pc、及び、インバータ回路4の出力電力pinvとの間には、下記式(I)の関係がある。
in=pc+pinv ・・・(I)
これは、各値を機械角の回転角周波数ωrmで除算し、トルク次元に変換した場合でも成立するため、下記式(II)の関係がある。尚、τinは入力トルクである。
τin=τc+τinv ・・・(II)
そして、入力トルク指令値τin *は直流リンク部3のコンデンサ9に流れる電流を考慮せずに生成したもののため、出力トルク指令値τinv *には、入力トルク指令値τin *をコンデンサトルクτcで補償した値を用いる方が好ましい。そこで、この実施例では上述の如く減算器22が、コンデンサトルクτcを差し引いた値に出力トルク指令値τinv *を補償する。
【0038】
更に、減算器23が、この出力トルク指令値τinv *からτoffを減算して、モータ8の出力トルクの指令値(モータ出力トルク指令値)τmtr *として出力する。上記τoffは、インバータ回路4からモータ8に伝わるまでの電力ロス及び巻線に蓄えられる磁気エネルギーの時間変化分を機械角の回転角周波数ωrmで除算し、トルク次元に変換した値であり、モータ出力トルク指令値τmtr *は下記式(III)の関係から求める。
τinv *=τmtr *+τoff ・・・(III)
これにより、モータ出力トルクτmtrをより正確に制御することができるようになる。
【0039】
トルク電流制御部12のq軸電流指令値生成部24は、減算器23が出力するモータ出力トルク指令値)τmtr *に対してidの影響は無視できるものとみなし、モータ8の極対数P及び永久磁石による電機子鎖交磁束φaで除算し、q軸電流指令値iq *を生成する。また、モータによってidの影響が無視できない場合は、idを考慮した式を用いてq軸電流指令値iq *を導出してもよい。
【0040】
(5-3)入力電流制御部13
次に、この実施例の入力電流制御部13は、乗算器26、27を備えている。入力電流制御部13の乗算器26は、速度制御部11が出力する入力トルク指令値τin *に、機械角の回転角周波数ωrmを乗算することで入力電力指令値pin *に変換し、出力する。乗算器27は、乗算器26が出力する入力電力指令値pin *に、1/vinの絶対値を乗算すること、即ち、入力電力指令値pin *を入力電圧値vinの絶対値で除算することで、入力電流指令値iin *の絶対値を出力する。尚、この場合の入力電圧値vinは入力電圧指令値vin *でもよい。
【0041】
(5-4)直接電流制御部15
次に、この実施例の直接電流制御部15は、モデル予測に基づいた直接電流制御を行うものであり、モデル予測部31と、電圧ベクトル選択部32、及び、uvw変換部33を備えた構成とされている。この直接電流制御部15には、モータ8の相電流から求められるd軸電流値id(モータ8に流れる電流値:実施例では推定値。実測された真値でもよい。以下、同じ)と、同じくモータ8の相電流から求められる前述したq軸電流値iq(実施例では推定値。実測された真値でもよい。以下、同じ)と、直流リンク電圧値Vdcと、モータ8の電気角周波数ωreと、入力電圧値vinの絶対値と、入力電流値iinの絶対値と、入力電流指令値iin *の絶対値と、d軸電流値idの指令値であるd軸電流指令値id *と、トルク電流制御部12が出力するq軸電流指令値iq *が入力される。
【0042】
(5-4-1)モデル予測部31
実施例のモデル予測部31は、インバータ回路4を制御する電圧ベクトルを複数通りのそれぞれに設定した場合に、モータ8に流れる一定期間先、実施例では1サンプル先の入力電流値iin[t+1]と、d軸電流値id[t+1]、及び、q軸電流値iq[t+1]をそれぞれ予測する。即ち、直接電流制御部15においては、入力電流値iinと、d軸電流値id、及び、q軸電流値iqが実施例における制御対象の電流値とされる。
【0043】
具体的には、モデル予測部31はモータ8(IPMSM)の状態方程式に、下記式(IV)で示す電力変換装置1のコンデンサ9からモータ8への出力側の微分方程式と、下記式(V)で示す交流電源7からコンデンサ9への入力側の微分方程式を加えることで、モータ8と電源系統側の両方を制御することができる状態方程式(式(VI))を作成する。
【0044】
この状態方程式(式(VI))を式(VII)とおき、サンプリング時間Tsの0次ホールドによって離散化を行うと、式(VI)は式(VIII)のように表現することができる。ここで、各値は式(IX)~式(XL)で得られる。これらの式により、1サンプル先のd軸電流値id[t+1]、q軸電流値iq[t+1]、及び、入力電流値iin[t+1]をそれぞれ予測することが可能となる。尚、ここではサンプリング時間Tsの0次ホールドによる離散化を示しているが、離散化の方法は限定しない。
【0045】
【数1】
【0046】
【数2】
【0047】
【数3】
【0048】
【数4】
【0049】
【数5】
【0050】
【数6】
【0051】
尚、vdnはvd/(vdc/2)で得られる正規化後のd軸電圧値、vqnはvq/(vdc/2)で得られる正規化後のq軸電圧値である。また、式(IV)、(V)中のCdcはコンデンサ9の容量、Lfはリアクトル5のインダクタンス、Tsはサンプリング時間である。更に、式(IV)、(V)の微分方程式の離散化には他の方法を用いてもよい。
【0052】
また、上記各式中のvdはd軸電圧値、vqはq軸電圧値、Raはモータ8の固定子抵抗、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、φaは電機子鎖交磁束φaの各値である。
【0053】
また、三相のインバータ回路4を制御するスイッチングパターンは8パターン存在し、ゼロ電圧ベクトルV0(V7はV0と同じのため実施例では扱わない)を含むと出力可能な電圧ベクトルはV0、V1、V2、V3、V4、V5、V6の7本存在する。そして、各電圧ベクトルとインバータ回路4の各スイッチング素子S1~S6のスイッチング状態の関係は図2に示されている。
【0054】
図2において、「上」とあるのはインバータ回路4の上アームのスイッチング素子がONしていることを意味し、「下」とあるのは下アームのスイッチング素子がONしていることを意味している。即ち、電圧ベクトルV0の場合、u相の下アームのスイッチング素子S4がON、上アームのスイッチング素子S1がOFF、v相の下アームのスイッチング素子S5がON、上アームのスイッチング素子S2がOFF、w相の下アームのスイッチング素子S6がON、上アームのスイッチング素子S3がOFFとなる。また、電圧ベクトルV1の場合、u相の上アームのスイッチング素子S1がON、下アームのスイッチング素子S4がOFF、v相の下アームのスイッチング素子S5がON、上アームのスイッチング素子S2がOFF、w相の下アームのスイッチング素子S6がON、上アームのスイッチング素子S3がOFFとなる。
【0055】
また、電圧ベクトルV2の場合、u相の上アームのスイッチング素子S1がON、下アームのスイッチング素子S4がOFF、v相の上アームのスイッチング素子S2がON、下アームのスイッチング素子S5がOFF、w相の下アームのスイッチング素子S6がON、上アームのスイッチング素子S3がOFFとなる。また、電圧ベクトルV3の場合、u相の下アームのスイッチング素子S4がON、上アームのスイッチング素子S1がOFF、v相の上アームのスイッチング素子S2がON、下アームのスイッチング素子S5がOFF、w相の下アームのスイッチング素子S6がON、上アームのスイッチング素子S3がOFFとなる。
【0056】
また、電圧ベクトルV4の場合、u相の下アームのスイッチング素子S4がON、上アームのスイッチング素子S1がOFF、v相の上アームのスイッチング素子S2がON、下アームのスイッチング素子S5がOFF、w相の上アームのスイッチング素子S3がON、下アームのスイッチング素子S6がOFFとなる。また、電圧ベクトルV5の場合、u相の下アームのスイッチング素子S4がON、上アームのスイッチング素子S1がOFF、v相の下アームのスイッチング素子S5がON、上アームのスイッチング素子S2がOFF、w相の上アームのスイッチング素子S3がON、下アームのスイッチング素子S6がOFFとなる。そして、電圧ベクトルV6の場合、u相の上アームのスイッチング素子S1がON、下アームのスイッチング素子S4がOFF、v相の下アームのスイッチング素子S5がON、上アームのスイッチング素子S2がOFF、w相の上アームのスイッチング素子S3がON、下アームのスイッチング素子S6がOFFとなる。
【0057】
モデル予測部31は、これら電圧ベクトルV0~V6のそれぞれを設定した場合に、モータ8に流れる1サンプル先(一定期間先)の入力電流値iin[t+1]と、d軸電流値id[t+1]、及び、q軸電流値iq[t+1]をそれぞれ予測する。図3の上段にその様子を示す。但し、図3においては入力電流値iinと、d軸電流値id、及び、q軸電流値iqを総称してirefで示している。現在(t)から1サンプル先(t+1)における各値が電圧ベクトルV0~V6によって異なって来ることを示している。
【0058】
モデル予測部31は、一定期間毎、実施例ではサンプリング周期毎に、上記入力電流値iin[t+1]と、d軸電流値id[t+1]、及び、q軸電流値iq[t+1]をそれぞれ予測する。
【0059】
(5-4-2)電圧ベクトル選択部32
次に、実施例の電圧ベクトル選択部32は、モデル予測部31により予測された各電圧ベクトルV0~V6毎の1サンプル先の入力電流値iin[t+1]、d軸電流値id[t+1]、及び、q軸電流値iq[t+1]と、それらの指令値である入力電流指令値iin *、d軸電流指令値id *及び、q軸電流指令値iq *に基づき、インバータ回路4を実際に制御する電圧ベクトルを選択し、インバータ回路4を制御する。
【0060】
この場合、電圧ベクトル選択部32は、入力電流指令値iin *と、d軸電流指令値id *、及び、q軸電流指令値iq *に基づき、入力電流値iinと、d軸電流値id、及び、q軸電流値iqのそれぞれについて、所定の許容幅を設定する。図3中で、上限値irefupは許容幅の上限を総称して示し、下限値irefdownは許容幅の下限を総称して示している。
【0061】
そして、電圧ベクトル選択部32は、先ずモデル予測部31により予測された各電圧ベクトルV0~V6毎の1サンプル先の入力電流値iin[t+1]と、d軸電流値id[t+1]、及び、q軸電流値iq[t+1]のうち、許容幅から外れたものに対応する電圧ベクトルを、選択する候補から除外する。図3の例の場合、電圧ベクトルV0、V1、V5、及びV6の1サンプル先(図3のt+1)の値が許容幅から上下に外れているため、除外される。
【0062】
次に、1サンプル先(図3のt+1)の値が許容幅に含まれるものに対応する電圧ベクトル、図3では電圧ベクトルV2、V3、V4の軌跡を、図3の下段に示す如く許容幅から外れる直前まで線形近似で拡張し、その地点までのサンプル数Nnを演算する。即ち、図3の例の場合、電圧ベクトルV2の場合は1サンプル先(図3のt+1)の直後に上限値irefupに達しているため、サンプル数Nnは1となる。これは、電圧ベクトルV2を選択した場合には、次のサンプリングタイミングで他の電圧ベクトルに切り換えなければならなくなることを意味する。
【0063】
一方、電圧ベクトルV4の場合は、2サンプル先(図3におけるt+2)の直後に下限値irefdownに達しているため、サンプル数Nnは2となる。即ち、電圧ベクトルV2の場合よりも、許容幅から外れるまでの期間が長くなる。従って、電圧ベクトルV4を選択した場合には、次のサンプリングタイミング(図3のt+1)では電圧ベクトルを切り換える必要がなくなり(電圧ベクトル:スイッチングパターンの変更不要)、即ち、スイッチング素子S1~S6をスイッチングする必要がなくなり、t+1のタイミングを飛び越えて、その次のサンプリングタイミング(図3のt+2)で切り換えればよくなり、その分、スイッチング回数を少なくすることができることになる。
【0064】
更に、電圧ベクトルV3の場合には、3サンプル先(図3におけるt+3)の直後に上限値irefupに達しているため、サンプル数Nnは3となる。即ち、電圧ベクトルV4の場合よりも、許容幅から外れるまでの期間が更に長くなる。従って、電圧ベクトルV3を選択した場合には、次のサンプリングタイミング(図3のt+1)、及び、その次のサンプリングタイミング(図3のt+2)では電圧ベクトルを切り換える必要がなくなり(電圧ベクトル:スイッチングパターンの変更不要)、即ち、スイッチング素子S1~S6をスイッチングする必要がなくなり、t+1、及び、t+2のタイミングを飛び越えて、その次のサンプリングタイミング(図3のt+3)で切り換えればよくなるので、更にスイッチング回数を少なくすることができることになる。
【0065】
但し、電圧ベクトル選択部32は、制御対象とする入力電流値iinと、d軸電流値id、及び、q軸電流値iqの三つの電流値を常に前述したそれぞれの許容幅の範囲内とするために、各電圧ベクトルにおけるサンプル数Nnの決定は、各電流値のうち一番先に許容幅の上限値irefupまたは下限値irefdownに達するまでとする。
【0066】
次に、電圧ベクトル選択部32は、演算された上記サンプル数Nnを使用して、実施例では下記式(XXIII)により評価関数Cnを算出する。
Cn=Sn(t)/Nn ・・・(XXIII)
但し、Sn(t)は現在の時間tにおいて電圧ベクトルを切り換えるときに必要なインバータ回路4のスイッチング回数である。電圧ベクトル選択部32は評価関数Cnの算出に際してスイッチング回数Sn(t)を加味する。
【0067】
図2を用いてこのSn(t)を説明すると、例えば、現在の時間tにおいて電圧ベクトルがV0であった場合、電圧ベクトルV0から例えば電圧ベクトルV1に切り換えるときにはu相の各スイッチング素子S1、S4を切り換えるだけでよいので、Sn(t)は2となる。一方、電圧ベクトルV0から例えば電圧ベクトルV6に切り換えるときにはu相とw相の各スイッチング素子S1、S4、S3、S6を切り換えなければならないので、Sn(t)は4となる。
【0068】
即ち、評価関数Cnは、サンプル数Nnが多い程、スイッチング回数Sn(t)が少ない程、小さくなる。そして、電圧ベクトル選択部32は、式(XXIII)から算出される評価関数Cnが最も小さくなる電圧ベクトルを、インバータ回路4を実際に制御する電圧ベクトルとして選択する。
【0069】
即ち、前記サンプル数Nnがインバータ回路4を実際に制御する電圧ベクトルを選択する際の評価基準となり、スイッチング回数Sn(t)がそれに加味されることになる。そして、uvw変換部33は、この電圧ベクトル選択部32にて選択された電圧ベクトルに基づいて、u、v、wの各相の電圧指令値vuvw *を出力する。
【0070】
電圧ベクトル選択部32は上記評価関数Cnを算出を、モデル予測部31が各電流値を予測する毎(即ち、一定期間毎、実施例ではサンプリング周期毎)に実行する。このような方法を採用することで後述する如くスイッチング回数を最少化できる電圧ベクトル(スイッチングパターン)を選択することができるものであるが、上記の如き予測計算は必ずしも現実の各電流値と一致するとは限らない。
【0071】
そこで、電圧ベクトル選択部32は、電圧ベクトル(スイッチングパターン)の変更を不要と予測した期間でも上記評価関数Cnの算出を周期的(一定期間毎、実施例ではサンプリング周期毎)に行い、最新の算出毎に最適であると判断した電圧ベクトル(スイッチングパターン)を選択する。これによって、スイッチング回数を低減しながら、入力電流値iinと、d軸電流値id、及び、q軸電流値iqの応答性を高くしている。
【0072】
(5-5)スイッチング制御部14
そして、この電圧指令値vuvw *はスイッチング制御部14に入力され、このスイッチング制御部14は、電圧指令値vuvw *の値に基づいて各スイッチング素子S1~S6のON-OFF動作を制御するゲート信号を生成する。具体的には、スイッチング制御部14は、インバータ回路4に対して、キャリア信号(三角波)に同期したPWM(Pulse Width Modulation)制御を実行する。尚、本制御では規定期間ON或いはOFFを保持する動作を行うため、必ずしもPWM制御にて実行する必要は無く、デッドタイムを与えたうえで、ON/OFFの切替で実行してもよい。
【0073】
ここで、リアクトル5とコンデンサ9間には共振が励起され、入力電流値iinが振動することになるが、前述した如く入力電流値iinが入力電流指令値iin *に基づく許容幅の範囲内となるように電圧ベクトルを選択することで、共振による入力電流値iinの振動の発生を、直接的に防止若しくは抑制することができるようになる。
【0074】
(6)電力変換装置1の動作
この実施例では、制御部6の速度制御部11が、先ず、入力交流の電源周波数ωsの2倍に同期して脈動する入力トルク指令値τin *を生成する。次に、トルク電流制御部12が入力トルク指令値τin *から出力トルク指令値τinv *を生成し、この出力トルク指令値τinv *からq軸電流指令値iq *を生成し、直接電流制御部15に出力する。また、入力電流制御部13が入力トルク指令値τin *から入力電流指令値iin *を生成し、直接電流制御部15に出力する。
【0075】
次に、直接電流制御部15のモデル予測部31が、インバータ回路4を制御する電圧ベクトルをV0~V6のそれぞれに設定した場合に、モータ8に流れる1サンプル先の入力電流値iin[t+1]と、d軸電流値id[t+1]、及び、q軸電流値iq[t+1]をそれぞれ予測する。
【0076】
次に、直接電流制御部15の電圧ベクトル選択部32は、入力電流指令値iin *と、d軸電流指令値id *、及び、q軸電流指令値iq *に基づき、入力電流値iinと、d軸電流値id、及び、q軸電流値iqのそれぞれについて、許容幅を設定する。そして、モデル予測部31により予測された各電圧ベクトルV0~V6毎の1サンプル先の入力電流値iin[t+1]と、d軸電流値id[t+1]、及び、q軸電流値iq[t+1]のうち、許容幅から外れたものに対応する電圧ベクトルを選択する候補から除外する。
【0077】
次に、電圧ベクトル選択部32は、1サンプル先(図3のt+1)の値が許容幅に含まれるものに対応する電圧ベクトルの軌跡を、許容幅から外れる直前まで線形近似で拡張し、その地点までのサンプル数Nnを演算する。次に、電圧ベクトル選択部32は、演算されたサンプル数Nnとスイッチング回数Sn(t)を使用し、式(XXIII:Cn=Sn(t)/Nn)により評価関数Cnを算出する。
【0078】
次に、電圧ベクトル選択部32は、算出される評価関数Cnが最も小さくなる電圧ベクトルを、インバータ回路4を実際に制御する電圧ベクトルとして選択する。直接電流制御部15のuvw変換部33は、電圧ベクトル選択部32にて選択された電圧ベクトルに基づいて、u、v、wの各相の電圧指令値vuvw *を出力する。スイッチング制御部14は、電圧指令値vuvw *を用いて各スイッチング素子S1~S6のゲート信号を生成する。これらのゲート信号により、インバータ回路4においてスイッチングが行われ、モータ8に電力が供給される。
【0079】
このような制御により、本発明では入力電流値iinとモータ8に流れる電流(d軸電流値id、q軸電流値iq)を少なくとも許容幅近傍で制御することができるようになる。図4に実施例の電力変換装置1でモータ8を駆動した場合の入力電流値iin(最上段)、入力電流値iinの絶対値(上から二段目)、d軸電流値id(下から二段目)、q軸電流値iq(最下段)をそれぞれ示している。
【0080】
尚、図中に示したiin *は入力電流指令値、iindownの絶対値、iddown、iqdownは、入力電流値iinの絶対値、d軸電流値id、q軸電流値iqの各電流値に対応する前述した下限値irefdownであり、iinupの絶対値、idup、iqupは、入力電流値iinの絶対値、d軸電流値id、q軸電流値iqの各電流値に対応する前述した上限値irefupである。
【0081】
この図からも明らかな如く、本発明によれば入力電流値iinの絶対値、d軸電流値id、q軸電流値iqの各電流値の何れもそれぞれの許容幅近傍に制御することができる。特に、入力電流値iinは略入力電流指令値iin *に制御されている。これにより、入力部の共振電流を直接的に抑制して、効果的に電源高調波規制を満足することができるようになる。
【0082】
特に、電圧ベクトル選択部32が、予測された電流値(入力電流値iin、d軸電流値id、q軸電流値iq)が許容幅に含まれるものに対応する電圧ベクトルのうちから、予測された各電流値が許容幅を外れるまでのサンプル数Nnが多いこと(即ち、各電流値が許容幅を外れるまでの期間が長いこと)を評価基準(評価関数Cn)として、インバータ回路4を実際に制御する電圧ベクトルを選択するので、複数通りの電圧ベクトルV0~V6のなかからインバータ回路4のスイッチング回数を少なくすることができる電圧ベクトルを選択して、効果的にスイッチング損失の低減を図ることができるようになり、コストの低減を見込める。
【0083】
この場合、入力電流値iin、及び、モータ8のdq軸電流値(d軸電流値id、q軸電流値iq)を制御対象とし、電圧ベクトル選択部32が、これら三つの電流値が常に許容幅の範囲内となるようにインバータ回路4を実際に制御する電圧ベクトルを選択するようにしているので、極めて効果的に電源高調波規制を満足することができるようになる。
【0084】
また、実施例ではモデル予測部31が、1サンプル先(一定期間先)の電流値(入力電流値iin[t+1]と、d軸電流値id[t+1]、及び、q軸電流値iq[t+1])を予測し、電圧ベクトル選択部32が、1サンプル先の電流値のうち、許容幅から外れたものに対応する電圧ベクトルを除外すると共に、許容幅に含まれる1サンプル先の電流値の軌跡を許容幅から外れる直前まで線形近似で拡張し、その地点までのサンプル数Nnが多いこと(即ち、その地点までの期間が長いこと)を評価基準(評価関数Cn)として、インバータ回路4を実際に制御する電圧ベクトルを選択するようにしているので、的確に電圧ベクトルの選択を行うことができるようになる。
【0085】
更に、実施例では電圧ベクトル選択部32が、式(XXIII:Cn=Sn(t)/Nn)から評価関数Cnを算出し、この評価関数Cnが最も小さくなるものを、インバータ回路4を実際に制御する電圧ベクトルとして選択している。このように、電圧ベクトル選択部32が、電圧ベクトルを切り換えるときに必要なインバータ回路4のスイッチング回数Sn(t)が少ないことを評価基準(評価関数Cn)に加味して、インバータ回路4を実際に制御する電圧ベクトルを選択するようにすることで、スイッチング回数を少なくすることができる電圧ベクトルをより一層的確に選択することが可能となる。
【0086】
更にまた、実施例では交流電源7とコンデンサ9の間にリアクトル5を接続しているので、リアクトル5のインダクタンスにより入力電流値iinの予測を的確に行い、より円滑に制御することが可能となる。
【0087】
尚、本発明の電力変換装置1の制御対象は、実施例で示したIPMSMに限定されるものでは無く、モータ8の用途も圧縮機に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0088】
1 電力変換装置
2 コンバータ回路
3 直流リンク部
4 インバータ回路
5 リアクトル
6 制御部
7 交流電源
8 モータ
9 コンデンサ
11 速度制御部
12 トルク電流制御部
13 入力電流制御部
14 スイッチング制御部
15 直接電流制御部
31 モデル予測部
32 電圧ベクトル選択部
33 uvw変換部
図1
図2
図3
図4