(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】熱輸送システム、および熱輸送システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
F28F 27/00 20060101AFI20221125BHJP
F28D 15/00 20060101ALI20221125BHJP
F28F 23/02 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
F28F27/00 511D
F28D15/00
F28F23/02 D
(21)【出願番号】P 2019016726
(22)【出願日】2019-02-01
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100144510
【氏名又は名称】本多 真由
(72)【発明者】
【氏名】橋本 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】植田 忠伸
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇史
(72)【発明者】
【氏名】布施 卓哉
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-016218(JP,A)
【文献】実開昭62-179329(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/00-15/06
F28F 23/02,27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不凍液を含む水溶液からなる熱輸送流体を用いる熱輸送システムであって、
前記熱輸送流体を用いて熱源を放熱させる第1熱交換器と、
前記第1熱交換器の下流に配置され、前記第1熱交換器を通過した前記熱輸送流体を放熱させる第2熱交換器と、
前記第2熱交換器を通過した前記熱輸送流体が流入すると共に、前記第1熱交換器へ前記熱輸送流体を供給する第1貯留部と、
前記第1貯留部から供給される前記熱輸送流体を、前記第1熱交換器、前記第2熱交換器の順に経由させて前記第1貯留部に戻すポンプと、
前記第1熱交換器と前記第2熱交換器との間であって、前記第1熱交換器の下流に配置され、前記第1熱交換器において気化された成分を分離可能な気液分離部と、
前記気液分離部と配管を介して接続され、前記気液分離部において分離された流体を貯留可能な第2貯留部と、
前記第2貯留部内の前記流体を、前記第1貯留部に供給可能に、前記第2貯留部と前記第1貯留部とを接続する接続部と、
前記接続部を制御して、前記第2貯留部に貯留された流体を用いて、前記第1貯留部における前記熱輸送流体の前記不凍液の濃度を変更させる制御部と、
を備える、
熱輸送システム。
【請求項2】
請求項1に記載の熱輸送システムであって、
さらに、
前記熱輸送システムの外気温を計測する外気温計測部を備え、
前記制御部は、
前記外気温計測部による外気温計測値に応じて、前記接続部を制御する、
熱輸送システム。
【請求項3】
請求項2に記載の熱輸送システムであって、
前記制御部は、
前記外気温計測部による外気温計測値が温度閾値より小さい場合は、前記接続部を制御して、前記第2貯留部に貯留された前記流体を、前記第1貯留部に供給させる、
熱輸送システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱輸送システムであって、
さらに、
前記第1貯留部から供給される前記熱輸送流体の前記不凍液の濃度を計測する濃度計測部を備え、
前記制御部は、さらに、前記濃度計測部による濃度計測値を用いて、前記
接続部を制御する、
熱輸送システム。
【請求項5】
請求項1から
請求項4のいずれか一項に記載の熱輸送システムにおいて、
さらに、
前記気液分離部と前記第2貯留部とを接続する配管上に設けられる分離成分供給弁を備える、
熱輸送システム。
【請求項6】
請求項1から
請求項5のいずれか一項に記載の熱輸送システムにおいて、
前記熱輸送流体に含まれる前記不凍液の蒸気圧は、水蒸気圧より大きい、
熱輸送システム。
【請求項7】
請求項1から
請求項6のいずれか一項に記載の熱輸送システムにおいて、
前記不凍液は、アルコールである、
熱輸送システム。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の熱輸送システムにおいて、
前記第2貯留部は、前記第1貯留部に対して、鉛直上方に配置される、
熱輸送システム。
【請求項9】
不凍液を含む水溶液からなる熱輸送流体を用いる熱輸送システムの制御方法であって、
前記熱輸送システムは、前記熱輸送流体を用いて熱源を放熱させる第1熱交換器と、
前記第1熱交換器の下流に配置され、前記第1熱交換器を通過した前記熱輸送流体を放熱させる第2熱交換器と、
前記第2熱交換器を通過した前記熱輸送流体が流入すると共に、前記第1熱交換器へ前記熱輸送流体を供給する第1貯留部と、
前記第1貯留部から供給される前記熱輸送流体を、前記第1熱交換器、前記第2熱交換器の順に経由させて前記第1貯留部に戻すポンプと、
前記第1熱交換器と前記第2熱交換器との間であって、前記第1熱交換器の下流に配置され、前記第1熱交換器において気化された成分を分離可能な気液分離部と、
前記気液分離部と配管を介して接続され、前記気液分離部において分離された成分を貯留可能な第2貯留部と
前記第2貯留部内の前記流体を、前記第1貯留部に供給可能に、前記第2貯留部と前記第1貯留部とを接続する接続部と、
前記熱輸送システムの外気温を計測する外気温計測部と、
を備え、
前記外気温計測部による外気温計測値が温度閾値より小さい場合は、前記接続部を制御して、前記第2貯留部に貯留された前記流体を、前記第1貯留部に供給させる、
熱輸送システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱輸送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の冷却系等で採用されている、液体の熱輸送流体を用いた熱輸送システムでは、冬季の気温低下による熱輸送流体の凍結を抑制する技術が検討されている。例えば、特許文献1には、熱輸送流体の状態(連続相と分散相)を調整することにより、熱輸送流体の凍結を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、不凍液を添加することにより、熱輸送流体の凍結を抑制する技術も採用されている。熱輸送システムの使用温度域が、夏季と冬季とで大きく異なるため、冬季の熱輸送流体の凍結抑制のために不凍液を添加した熱輸送流体を用いると、夏季にドライアウトが生じる可能性がある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、不凍液を含む水溶液からなる熱輸送流体を用いた熱輸送システムにおいて、ドライアウトを抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、不凍液を含む水溶液からなる熱輸送流体を用いる熱輸送システムが提供される。この熱輸送システムは、前記熱輸送流体を用いて熱源を放熱させる第1熱交換器と、前記第1熱交換器の下流に配置され、前記第1熱交換器を通過した前記熱輸送流体を放熱させる第2熱交換器と、前記第2熱交換器を通過した前記熱輸送流体が流入すると共に、前記第1熱交換器へ前記熱輸送流体を供給する第1貯留部と、前記第1貯留部から供給される前記熱輸送流体を、前記第1熱交換器、前記第2熱交換器の順に経由させて前記第1貯留部に戻すポンプと、前記第1熱交換器と前記第2熱交換器との間であって、前記第1熱交換器の下流に配置され、前記第1熱交換器において気化された成分を分離可能な気液分離部と、前記気液分離部と配管を介して接続され、前記気液分離部において分離された流体を貯留可能な第2貯留部と、を備える。
【0008】
この構成によれば、第2貯留部を備えるため、気液分離部において分離された成分を第2貯留部に貯留させることができる。そのため、蒸気圧が水より大きい不凍液を用いる場合、夏季等の気温が高い時に、熱輸送システム内を循環する熱輸送流体に含まれる不凍液を、第2貯留部に貯留させることにより、熱輸送システム内を循環する熱輸送流体の不凍液の濃度を低下させることができる。したがって、熱輸送流体の蒸気圧を低下させ、沸点を上げることにより熱輸送流体の局所沸騰等によるドライアウトを抑制することができる。また、冬季等の気温が低い時期に、貯留部に貯留された不凍液を、第1貯留部に戻すことにより、熱輸送流体の不凍性能を確保することができる。その結果、熱輸送流体の不凍性能と蒸発抑制性能を選択的に向上させることができる。一方、蒸気圧が水以下の不凍液を用いる場合にも、夏季等の気温が高い時に、第1熱交換器において気化された成分を、第2貯留部に貯留させることができる。この場合、第1熱交換器において気化された成分は水濃度が大きい。そのため、熱輸送システムを循環する熱輸送流体の不凍液の濃度を、増大させることができる。その結果、熱輸送流体の蒸気圧を低下させ、沸点を上げることにより、熱輸送流体の局所沸騰等によるドライアウトを抑制することができる。
【0009】
(2)上記形態の熱輸送システムであって、さらに、前記第2貯留部内の前記流体を、前記第1貯留部に供給可能に、前記第2貯留部と前記第1貯留部とを接続する接続部と、を備えてもよい。このようにすると、第2貯留部に貯留された流体を、容易に第1貯留部に戻すことができるため、利用者の利便性を向上させることができる。
【0010】
(3)上記形態の熱輸送システムであって、さらに、前記接続部を制御して、前記第2貯留部に貯留された流体を用いて、前記第1貯留部における前記熱輸送流体の前記不凍液の濃度を変更させる制御部を備えてもよい。このようにすると、制御部による制御によって、第2貯留部に貯留された流体を第1貯留部に戻すことができるため、利用者の利便性を向上させることができる。
【0011】
(4)上記形態の熱輸送システムであって、さらに、前記熱輸送システムの外気温を計測する外気温計測部を備え、前記制御部は、前記外気温計測部による外気温計測値に応じて、前記接続部を制御してもよい。このようにすると、外気温に応じて、熱輸送流体の不凍液の濃度を変更することができるため、より適切に、熱輸送流体の不凍性能と蒸発抑制性能を確保することができる。
【0012】
(5)上記形態の熱輸送システムであって、前記制御部は、前記外気温計測部による外気温計測値が温度閾値より小さい場合は、前記接続部を制御して、前記第2貯留部に貯留された前記流体を、前記第1貯留部に供給させてもよい。このようにすると、例えば、熱輸送流体から不凍液成分を除いた流体の凍結温度に所定の値(例えば、5℃)を加えた値に、閾値を設定すれば、熱輸送流体が凍結しやすい外気温になったときに、熱輸送流体に、第2貯留部に貯留された流体を添加させることができる。初期状態において、熱輸送流体の凍結が抑制される適正濃度に、不凍液濃度を調整しておけば、熱輸送流体が凍結しやすい外気温になったときに、熱輸送流体の不凍液濃度が適正になる。そのため、熱輸送流体の凍結を適切に抑制することができる。
【0013】
(6)上記形態の熱輸送システムであって、さらに、前記第1貯留部から供給される前記熱輸送流体の前記不凍液の濃度を計測する濃度計測部を備え、前記制御部は、さらに、前記濃度計測部による濃度計測値を用いて、前記接続部を制御してもよい。このようにしても、熱輸送流体の不凍液の濃度を変更することができる。
【0014】
(7)上記形態の熱輸送システムであって、さらに、前記気液分離部と前記第2貯留部とを接続する配管上に設けられる分離成分供給弁を備えてもよい。このようにすると、分離成分供給弁を閉状態にすることにより、気液分離部における気化成分の分離を停止させることができる。そのため、例えば、外気温が低い場合には、分離成分供給弁を閉状態にすることにより、熱輸送流体の不凍液の濃度の変化を抑制することができる。
【0015】
(8)上記形態の熱輸送システムであって、前記熱輸送流体に含まれる前記不凍液の蒸気圧は、水蒸気圧より大きくてもよい。不凍液の蒸気圧が水蒸気圧より大きい場合、不凍液の濃度が大きくなるにつれ、沸点が低くなるため、外気温が高い場合に、ドライアウトが生じやすくなる。そのような場合にも、熱輸送流体の不凍性能と蒸発抑制性能を選択的に向上させることができる。
【0016】
(9)上記形態の熱輸送システムであって、前記不凍液は、アルコールでもよい。このようにしても、熱輸送流体の不凍性能と蒸発抑制性能を選択的に向上させることができる。
【0017】
(10)上記形態の熱輸送システムであって、前記第2貯留部は、前記第1貯留部に対して、鉛直上方に配置されてもよい。このようにすると、貯留部に貯留された流体を、重力により、第1貯留部に供給させることができ、熱輸送システムの構成を簡易にすることができる。
【0018】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、熱輸送システムを備えるシステム、熱輸送システムの制御方法、この制御方法をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムなどの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態における熱輸送システムの概略構成を示す説明図である。
【
図2】熱輸送処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】メタノールー水系のメタノールの液相組成に対する気液平衡時のメタノールの気相組成を示す図である。
【
図6】メタノールー水系の気液平衡曲線を示す図である。
【
図7】第2実施形態における熱輸送システムの概略構成を示す説明図である。
【
図8】第2実施形態における熱輸送処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】第3実施形態における熱輸送システムの概略構成を示す説明図である。
【
図10】第3実施形態における熱輸送処理の流れを示すフローチャートである。
【
図11】第4実施形態における熱輸送システムの概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態における熱輸送システム100の概略構成を示す説明図である。熱輸送システム100は、不凍液を含む水溶液からなる熱輸送流体(以下、単に「熱輸送流体」とも呼ぶ)を用いて、熱源を放熱させるシステムである。本実施形態では、不凍液としてメタノールを用い、メタノールの液相組成(モル分率)が0.4の熱輸送流体を用いている。
【0021】
熱輸送システム100は、第1熱交換器10と、第2熱交換器20と、気液分離部30と、第1タンク41と、第2タンク42と、ポンプ50と、制御部80と、外気温センサ90と、を備える。第1熱交換器10と、第2熱交換器20と、気液分離部30と、第1タンク41と、ポンプ50とは、配管61~65を介して環状に接続されている。また、気液分離部30は、配管72を介して第2タンク42と接続され、第2タンク42は、タンク接続管74を介して第1タンク41と接続されている。タンク接続管74上には、流体供給弁46が設けられている。流体供給弁46は、制御部80に制御されて、第2タンク42から第1タンク41への流体の供給の有無を変更する自動弁である。熱輸送流体は、ポンプ50によって、配管61~65を介して、第1熱交換器10、気液分離部30、第2熱交換器20、第1タンク41の順に循環している。
【0022】
第1熱交換器10は、熱輸送流体を用いて熱源を放熱させる。本実施形態では、熱源として、自動車のエンジンを例示する。熱輸送流体は、エンジン内部に設けられたウォータージャケットを流通する。すなわち、ウォータージャケットが、第1熱交換器10に相当する。
【0023】
第2熱交換器20は、第1熱交換器10の下流に配置されており、第1熱交換器10を通過した熱輸送流体を放熱させる。本実施形態では、第2熱交換器20としてラジエータを用いている。
【0024】
気液分離部30は、第1熱交換器10の下流において、第1熱交換器10において気化された成分を放出させる。本実施形態では、気液分離部30として、旋回流式の気液分離器を用いている。
【0025】
第1タンク41は、内部に熱輸送流体を有する。本実施形態では、上述の通り、不凍液としてメタノールを用いており、初期状態において、メタノールの液相組成(モル分率)は0.4である。
【0026】
第2タンク42は、空のタンクであり、気液分離部30にて熱輸送流体から分離された流体を貯留する。また、制御部80が流体供給弁46を制御することにより、第2タンク42に貯留された流体が、第1タンク41に供給される(後に詳述する)。本実施形態では、不凍液としてメタノールを用いており、メタノールの蒸気圧は、水蒸気圧より大きいため、第1熱交換器10において気化された成分における不凍液濃度が大きい。そのため、第2タンク42に貯留される流体に含まれる不凍液濃度は大きく、第2タンク42に第1熱交換器10における気化成分が貯留されることにより、熱輸送システム100を循環する熱輸送流体の不凍液濃度を低下させることができる。
【0027】
制御部80は、ROM、RAM、およびCPUを含んで構成されるコンピュータであり、熱輸送システム100の全体の制御をおこなう。制御部80は、配管64上に設けられた熱輸送流体供給弁44、流体供給弁46、ポンプ50、および外気温センサ90と、電気的に接続される。制御部80は、外気温センサ90から出力された測定値に基づいて、流体供給弁46の制御を行う(後述する)。
【0028】
本実施形態における第1タンク41を「第1貯留部」、第2タンク42を「第2貯留部」とも呼ぶ。また、流体供給弁46、タンク接続管74を合わせて「接続部」とも呼ぶ。外気温センサ90を、「外気温計測部」とも呼ぶ。
【0029】
図2~
図4を用いて、制御部80の熱輸送処理について説明する。
図2は、熱輸送処理の流れを示すフローチャートである。
図3は、後述する冬季モードを概念的に示す説明図である。
図4は、後述する夏季モードを概念的に示す説明図である。
【0030】
図2に示すように、制御部80は、熱輸送システム100の始動後、まず、熱輸送流体供給弁44を開状態にするとともに、ポンプ50を始動させる(ステップT11)。この制御によって、熱輸送流体は、
図3に矢印で示すように、配管61~65を介して、第1タンク41、第1熱交換器10、気液分離部30、第2熱交換器20の順に循環する。熱輸送システム100は、例えば、エンジン始動と同時に始動される。
【0031】
制御部80は、外気温の外気温センサ90における外気温の計測値が温度閾値Th1より小さい場合には(ステップT12においてYES)、流体供給弁46を開状態にする(ステップT13)。本実施形態において、流体供給弁46が開状態のモードを、「冬季モード」とも呼ぶ。
図3に白抜き矢印で示すように、気液分離部30において分離された不凍液濃度が高い蒸気は、第2タンク42に入り、第2タンク42内の不凍液濃度が高い流体は、タンク接続管74を介して第1タンク41に戻される。上述の通り、第2タンク42は、第1タンク41に対して鉛直上方に配置されており、流体供給弁46が開状態であるため、第2タンク42内の流体は、重力により、タンク接続管74を介して第1タンク41に戻すことができる。このように、冬季モードの場合、第1熱交換器10において気化された不凍液が回収されて、第1タンク41に戻されるため、熱輸送システム100において循環される熱輸送流体の不凍液濃度は、略一定に保たれる。
【0032】
制御部80は、熱輸送処理の終了指示が入力されたことを検出しない場合は(ステップT14において、)、ステップT12に戻る。制御部80は、外気温の外気温センサ90における外気温の計測値が温度閾値Th1以上の場合には(ステップT12においてYES)、流体供給弁46を閉状態にする(ステップT15)。本実施形態において、流体供給弁46が閉状態のモードを、「夏季モード」とも呼ぶ。
図4に白抜き矢印で示すように、気液分離部30において分離された不凍液濃度が高い蒸気は、第2タンク42に入る。夏季モードでは、流体供給弁46が閉状態であるため、第2タンク42内に不凍液濃度が高い流体が貯留される。このように、夏季モードの場合、第1熱交換器10において気化された不凍液が回収されて、第2タンク42に貯留されるため、熱輸送システム100において循環される熱輸送流体の不凍液濃度は、冬季モードの場合と比較して薄くなる。
【0033】
制御部80は、熱輸送処理の終了指示が入力されたことを検出すると(ステップT14において、YES)、ポンプ50を停止させると共に、熱輸送流体供給弁44を閉弁させて(ステップT16)、熱輸送処理を終了する。熱輸送処理の終了指示は、例えば、エンジン停止後、所定時間経過後に入力される。
【0034】
このように、制御部80は、外気温センサ90における外気温の計測値が温度閾値Th1(5℃)より小さい場合には、熱輸送システム100を冬季モードで運転させ、外気温センサ90における外気温の計測値が温度閾値Th1(5℃)以上の場合には、熱輸送システム100を夏季モードで運転させる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態の熱輸送システム100によれば、外気温が低い(5℃を下回る)ときには、熱輸送流体の不凍液濃度を、初期状態と略同一に保つ。そのため、初期状態において、第1タンク41内に充填されている熱輸送流体の不凍液濃度を、熱輸送流体が凍結しない為に十分な濃度に調整することによって、熱輸送流体の不凍性能を確保することができる。
【0036】
ところで、本実施形態における不凍液としてのメタノールは、水に対して蒸気圧が大きい。そのため、不凍液を含む水溶液からなる熱輸送流体において、十分な不凍性能を確保するために、不凍液濃度を高くすると、熱輸送流体の蒸気圧が大きくなり、沸点が下がるため、夏季等の外気温が高いときに、局所沸騰等によるドライアウトが生じる虞がある。これに対し、本実施形態の熱輸送システム100によれば、外気温が低くない(5℃以上)ときには、熱輸送流体の不凍液濃度を、初期状態より低くする。
【0037】
図5は、メタノールー水系のメタノールの液相組成に対する気液平衡時のメタノールの気相組成を示す図である。
図6は、メタノールー水系の気液平衡曲線を示す図である。
図5、6は、大江修造 編著「Excellによる気液平衡データ集 第2版」(2012)により計算したものである。
図5、6では、定圧(760mmHg)における気液平衡データを示す。
図5は、メタノールの液相組成(モル分率)に対する気液平衡時のメタノールの気相組成(モル分率)である。本実施形態では、初期状態において、メタノールの液相組成(モル分率)が0.4の水溶液を、熱輸送流体として用いている。第1熱交換器10の温度が80℃の場合、
図6に示すように、メタノール組成0.62の蒸気が発生し、熱輸送システム100を循環する熱輸送流体のメタノール組成は、0.23に希釈される。
【0038】
このように、本実施形態の熱輸送処理における夏季モードでは、熱輸送流体の不凍液濃度を低下させて、蒸気圧を低下させることができるため、熱輸送流体の沸点を上昇させることができる。その結果、熱輸送流体の蒸発抑制性能を向上させることができ、熱輸送流体のドライアウトを抑制することができる。
【0039】
すなわち、本実施形態の熱輸送システム100によれば、外気温に応じて熱輸送流体の不凍液濃度を変更することにより、冬季は熱輸送流体の不凍性能を確保する一方、夏季は熱輸送流体の蒸発抑制性能を確保することができる。
【0040】
また、本実施形態の熱輸送システム100では、不凍液として、メタノールを用いている。メタノールは、エチレングリコール、グリセリン等の不凍液と比較して、粘性が小さいため、熱輸送流体の流動性の低下を抑制することができる。このように、粘性が小さい不凍液を用いると、流動性の低下を抑制することができる点で好ましい一方、不凍液としてエチレングリコール等の粘性が大きい不凍液を用いる場合と比較して、蒸気圧が大きくなるため、ドライアウトの可能性が高くなる可能性がある。これに対し、上述の通り、本実施形態の熱輸送システム100によれば、熱輸送流体のドライアウトを抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態の熱輸送システム100によれば、第1熱交換器10において平衡状態に達して気化した蒸気を回収することにより、熱輸送流体の不凍液濃度を変更しているため、熱輸送システムの構成を簡易化することができる。
【0042】
<第2実施形態>
図7は、第2実施形態における熱輸送システム100Aの概略構成を示す説明図である。本実施形態の熱輸送システム100Aが第1実施形態の熱輸送システム100と異なる点は、配管65上に濃度センサ92が設けられている点である。本実施形態の熱輸送システム100Aについて、第1実施形態と同一の構成は、第1実施形態と同一の符号を付し、先行する説明を参照する。本実施形態における濃度センサ92を「濃度計測部」とも呼ぶ。
【0043】
濃度センサ92は、第1タンク41から供給される熱輸送流体の不凍液濃度を検出する。濃度センサ92は、制御部80と電気的に接続されており、制御部80は、外気温センサ90から取得した外気温計測値と、濃度センサ92から取得した不凍液濃度計測値を用いて、流体供給弁46を制御する。
【0044】
図8は、第2実施形態における熱輸送処理の流れを示すフローチャートである。本実施形態における熱輸送処理が第1実施形態と異なる点は、ステップT12とステップT13との間に、ステップT17が追加された点である。本実施形態の熱輸送処理において、第1実施形態と同一の処理については同一の符号を付し、先行する説明を参照する。制御部80は、外気温計測値が温度閾値Th1より小さい場合(ステップT12においてYES)に、ステップT17に進み、濃度センサ92による計測値(不凍液濃度)が、濃度閾値Th2より小さい場合(ステップT17においてYES)には、流体供給弁46を開状態にさせる(ステップT13)。一方、濃度センサ92による計測値(不凍液濃度)が、濃度閾値Th2以上の場合(ステップT17においてNO)には、流体供給弁46を閉状態にさせる(ステップT15)。すなわち、本実施形態の熱輸送処理によれば、外気温が温度閾値Th1より低くても、熱輸送流体の不凍液濃度が濃度閾値Th2以上の場合には、流体供給弁46を閉状態にする。本実施形態では、濃度閾値Th2を、0.4(モル分率)に設定している。
【0045】
不凍液を含む水溶液からなる熱輸送流体は、不凍液の粘性が水より高いため、不凍液濃度が高くなると、熱輸送流体の流動性が悪くなる。本実施形態の熱輸送システム100Aによれば、濃度センサ92を備え、熱輸送流体の不凍液濃度を検出可能であり、制御部80は、外気温が低くても、当該外気温に対する不凍性能を発揮するのに十分な程度の不凍液濃度が確保されている場合には、流体供給弁46を閉状態にすることができる。そのため、過剰に不凍液濃度を高めることによる熱輸送流体の流動性の低下を抑制することができる。
【0046】
<第3実施形態>
図9は、第3実施形態における熱輸送システム100Bの概略構成を示す説明図である。本実施形態の熱輸送システム100Bが第1実施形態の熱輸送システム100と異なる点は、配管72上に分離成分供給弁48が設けられている点である。本実施形態の熱輸送システム100Bについて、第1実施形態と同一の構成は、第1実施形態と同一の符号を付し、先行する説明を参照する。
【0047】
分離成分供給弁48は、流体供給弁46と同様の自動弁である。分離成分供給弁48が開状態のときは、気液分離部30において分離された不凍液を含む蒸気が第2タンク42へ供給される。分離成分供給弁48が閉のときは、第1熱交換器10において気化された熱輸送流体の蒸気は、分離されず、配管62に流入する。分離成分供給弁48は、制御部80と電気的に接続されており、制御部80は、外気温センサ90から出力された測定値に基づいて、分離成分供給弁48の制御を行う(後述する)。
【0048】
図10は、第3実施形態における熱輸送処理の流れを示すフローチャートである。本実施形態における熱輸送処理が第1実施形態と異なる点は、ステップT13に替えてステップT13B、ステップT15に替えてステップT15Bが実行される点である。本実施形態の熱輸送処理において、第1実施形態と同一の処理については同一の符号を付し、先行する説明を参照する。本実施形態において、制御部80は、外気温計測値が温度閾値Th1より小さい場合(ステップT12においてYES)、分離成分供給弁48を閉状態にさせると共に、流体供給弁46を開状態にさせる(ステップT13B)。一方、外気温計測値が温度閾値Th1以上の場合(ステップT12においてNO)、分離成分供給弁48を開状態にさせると共に、流体供給弁46を閉状態にさせる(ステップT15B)。すなわち、本実施形態の熱輸送処理によれば、冬季モードでは、分離成分供給弁48が閉状態、流体供給弁46が開状態になるため、気液分離部30において不凍液が分離されず、さらに、第2タンク42に貯留されている不凍液が第1タンク41に供給される。そのため、外気温が温度閾値Th1より低い場合に、より適切に熱輸送流体の不凍液濃度を高く保つことができる。一方、夏季モードでは、分離成分供給弁48が開状態、流体供給弁46が閉状態になるため、気液分離部30において不凍液が分離され、第2タンク42に貯留される。そのため、外気温が温度閾値Th1より高い場合に、第1実施形態と同様に、熱輸送流体の不凍液濃度を低くすることができる。その結果、本実施形態の熱輸送システム100Bによっても、外気温に応じて熱輸送流体の不凍液濃度を変更することにより、冬季は熱輸送流体の不凍性能を確保する一方、夏季は熱輸送流体の蒸発抑制性能を確保することができる。
【0049】
<第4実施形態>
図11は、第4実施形態における熱輸送システム100Cの概略構成を示す説明図である。本実施形態の熱輸送システム100Cが第1実施形態の熱輸送システム100と異なる点は、熱輸送流体を用いて熱源を放熱させる第1熱交換器10を複数備える点である。本実施形態では、3つの第1熱交換器10A、10B、10Cを備え、それぞれを区別しない場合には、第1熱交換器10とも呼ぶ。本実施形態の熱輸送システム100Cについて、第1実施形態と同一の構成は、第1実施形態と同一の符号を付し、先行する説明を参照する。
【0050】
本実施形態において、電気自動車が熱輸送システム100Cを備える場合を例示する。例えば、熱源Aがパワーコントロールユニット(PCU:Power Control Unit)、第1熱交換器10Aがインバータ冷却器、熱源Bが電動発電機(MG:Motor Generator)、第1熱交換器10Bがオイルクーラー、熱源Cが電池、第1熱交換器10Cが電池冷却器、第2熱交換器20が冷凍サイクル(チラー)である。この例では、冷凍サイクル(第2熱交換器20)の熱源に、電気機器(熱源A~熱源C)の廃熱を利用している。
【0051】
本実施形態の100Cにおいても、第1実施形態と同様に熱輸送処理(
図2)を実行する。そのため、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、冷凍サイクル(第2熱交換器20)の熱源に、電気機器(熱源A~熱源C)の廃熱を利用することができるため、システム全体の熱効率を向上させることができる。
【0052】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0053】
・第1実施形態において、タンク接続管74および流体供給弁46を備えない構成にしてもよい。このようにしても、第1熱交換器にて気化された不凍液を回収することができるため、不凍液を含む水溶液からなる熱輸送流体のドライアウトを抑制することができる。また、このようにした場合、例えば、利用者が、第2タンク42に貯留された不凍液を、適宜(例えば、冬季に)、第1タンク41に戻すことにより、熱輸送流体の不凍性能を確保することができる。
【0054】
・上記実施形態において、制御部80を備えない構成にしてもよい。利用者が、手動で、流体供給弁46を開閉してもよい。例えば、4月~11月は、流体供給弁46を閉状態にして、12月~3月は、流体供給弁46を開状態にしてもよい。
【0055】
・制御部80は、外気温によらず、流体供給弁46を制御してもよい。例えば、4月~11月は、流体供給弁46を閉状態にして、12月~3月は、流体供給弁46を開状態にする等、日付に応じて流体供給弁46を制御してもよい。
【0056】
・制御部80は、外気温に応じて、第2タンク42から第1タンク41へ戻す流体の量を変更してもよい。
【0057】
・上記第2実施形態において、配管65上に濃度センサ92が設けられているが、濃度センサ92は、循環経路上に設けられていればよい。例えば、第1タンク41内に設けられてもよいし、配管64上に設けられてもよい。
【0058】
・不凍液は、上記実施形態に限定されない。例えば、エタノール、エチレングリコール、グリセリン等、他のアルコールでもよいし、フッ素系等でもよい。但し、メタノール、エタノール等の粘性が小さいアルコールを用いると、熱輸送流体の流動性を確保することができるため、好ましい。例えば、上記第1実施形態において、不凍液としてエチレングリコールを用いた場合、エチレングリコールの蒸気圧が水蒸気圧より小さいため、気液分離部30にて分離される蒸気は、不凍液濃度が小さくなる。そのため、夏季モードにおいて、気液分離部30にて気化成分が分離され、第2タンク42に貯留されると、熱輸送システム100を循環する熱輸送流体の不凍液濃度が大きくなる。エチレングリコールの蒸気圧が水蒸気圧より小さいため、熱輸送流体の沸点が上がり、熱輸送流体のドライアウトを抑制することができる。
【0059】
・熱源、第1熱交換器、および第2熱交換器は、上記実施形態に限定されない。第1熱交換器が、熱輸送流体を用いて熱源の熱を放熱させ、第2熱交換器が、第1熱交換器にて吸熱した熱輸送流体を放熱させればよい。
【0060】
・上記実施形態において、第2タンク42が第1タンク41に対して、鉛直上方に配置される例を示したが、第1タンク41と第2タンク42の配置は、上記実施形態に限定されない。第1タンク41と第2タンク42とを、水平に配置してもよいし、第2タンク42を第1タンク41に対して、鉛直下方に配置してもよい。このようにした場合、ポンプ等を用いて、第2タンク42から第1タンク41へ流体を供給可能に構成してもよい。
【0061】
・温度閾値Th1、濃度閾値Th2は、上記実施形態に限定されない。不凍液の種類、熱輸送流体の組成等に応じて適宜設定することができる。
【0062】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0063】
10、10A、10B、10C…第1熱交換器
20…第2熱交換器
30…気液分離部
41…第1タンク
42…第2タンク
44…熱輸送流体供給弁
46…流体供給弁
48…分離成分供給弁
50…ポンプ
61、62、63、64、65、72…配管
74…タンク接続管
80…制御部
90…外気温センサ
92…濃度センサ
100、100A、100B、100C…熱輸送システム
Th1…温度閾値
Th2…濃度閾値