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特許7182501舗装道路の段差緩和構造及び段差緩和工法
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  • 特許-舗装道路の段差緩和構造及び段差緩和工法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】舗装道路の段差緩和構造及び段差緩和工法
(51)【国際特許分類】
   E01C 7/32 20060101AFI20221125BHJP
   E01C 3/00 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
E01C7/32
E01C3/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019057675
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020159001
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130362
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 嘉英
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇寛
(72)【発明者】
【氏名】川西 敦士
(72)【発明者】
【氏名】坂藤 勇太
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-163769(JP,A)
【文献】特開2013-181353(JP,A)
【文献】特開2011-163029(JP,A)
【文献】特開2014-201944(JP,A)
【文献】特開2017-75447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 7/32
E01C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
路床または路盤の下方に剛性を有する構造物が存在する舗装道路において、不同沈下によって前記路床または路盤と前記構造物との境界部付近に段差が生じた場合の段差緩和構造であって、
予め前記境界部付近直上の路床または路盤内に、上下方向に積層して埋め込まれた補強マットを備え、
前記補強マットは、充填材を補強材で囲み込んで形成されており、積層された少なくとも1層の補強マットは、長さ方向の一側であって前記境界部付近で生じると予測した段差側に、充填材よりも剛性が高い剛性部材が配設されている、
ことを特徴とする舗装道路の段差緩和構造。
【請求項2】
前記補強マットは、前記路床または路盤と前記構造物との境界部付近の直上であって、当該境界部付近で生じると予測した段差の主働崩壊角に基づく崩壊線付近に、前記剛性部材の段差上端側の端部が位置する状態で路床または路盤内に埋め込まれている、
ことを特徴とする請求項1に記載の舗装道路の段差緩和構造。
【請求項3】
前記剛性部材が配設された補強マットは、積層された補強マットのうちの最上層と最下層に位置しないようにして、前記剛性部材が配設されていない補強マットにより上下から挟み込まれた状態で前記路床または路盤内に埋め込まれている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の舗装道路の段差緩和構造。
【請求項4】
路床または路盤の下方に剛性を有する構造物が存在する舗装道路において、不同沈下によって前記路床または路盤と前記構造物との境界部付近に段差が生じた場合の段差緩和工法であって、
予め前記境界部付近直上の路床または路盤内に、充填材を補強材で囲み込んで形成した補強マットを上下方向に積層して埋め込み、
前記積層して埋め込まれた補強マットの少なくとも1層は、長さ方向の一側であって前記境界部付近で生じると予測した段差側に、充填材よりも剛性が高い剛性部材が配設されており、
前記境界部付近で段差が生じた場合に、当該段差に沿って前記補強マットを撓ませることにより段差を緩和する、
ことを特徴とする舗装道路の段差緩和工法。
【請求項5】
前記路床または路盤と前記構造物との境界部付近の直上であって、当該境界部付近で生じると予測した段差の主働崩壊角に基づく崩壊線付近に、前記剛性部材の段差上端側の端部が位置するように、前記補強マットを前記路床または路盤内に埋め込むことにより、段差を緩和するとともに、前記剛性部材が前記路床または路盤と構造物との境界部の直上でヒンジ構造を生じさせない、
ことを特徴とする請求項4に記載の舗装道路の段差緩和工法。
【請求項6】
前記路床または路盤内で、前記剛性部材が配設された補強マットが最上層及び最下層に位置しないようにして、前記剛性部材が配設されていない補強マットにより当該剛性部材が配設された補強マットを上下から挟み込むことにより段差を緩和する、
ことを特徴とする請求項4または5に記載の舗装道路の段差緩和工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は舗装道路の段差緩和構造及び段差緩和工法に関するものであり、詳しくは、地震等の発生により舗装道路等に段差が生じた場合に、当該段差を緩和するための構造及び工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
舗装道路は、下側から路体、路床、路盤、舗装層(例えば、アスファルト混合物)により形成されるのが一般的である。このような舗装道路では、路床または路盤の下方にボックスカルバート等の剛性を有する構造物が埋設されている箇所がある。そして、大規模な地震が発生すると、構造物と路床または路盤との境界部において不同沈下が生じ、段差が発生してしまう。
【0003】
道路に大きな段差が存在すると、一般車両だけではなく消防車等の緊急車両の通行に支障が生じてしまう。そこで、大規模な地震が発生した場合であっても、車両の通行を妨げない程度に段差を緩和する技術が種々提案されている(例えば、特許文献1~4参照)。
【0004】
特許文献1に記載された技術は、基礎支持層の上部に路床、路盤及び硬質舗装層を積層した舗装道路の補強構造に関するものである。この舗装道路の補強構造は、基礎支持層と硬質舗装層との間に、硬質舗装層を支持する補強支持層を形成し、補強支持層は、土砂層と、土砂層の両面を被覆する複数枚の挟持シートと、土砂の複数箇所を貫通して複数枚の挟持シートに接続した縫合体とにより構成されている。
【0005】
特許文献2に記載された技術は、支持層の上部に路床、路盤及び硬質舗装層を積層してなり、路床若しくは路盤内部に剛性構造物を有する舗装道路の段差緩和工法に関するものである。この舗装道路の段差緩和工法は、剛性構造物と、路床若しくは路盤との境界部に、補強材によって充填材を抱囲して緩衝層を形成し、緩衝層を複数層形成して重合することにより緩衝部を構築する。緩衝層は、剛性構造物と、路床若しくは路盤との境界部に補強材を敷設し、充填材を補強材上に撒き出し、補強材の両端部を巻き返して充填材上に敷設し、上層の緩衝層を形成する上層補強材を充填材上に敷設し、補強材と上層補強材とを連結し、緩衝部の上部に路盤及び硬質舗装層を形成して舗装道路を構築するようになっている。
【0006】
特許文献3に記載された技術は、地盤沈下により構造物とその周囲の地盤との境界において生じる地表通路の段差を緩和するための地盤沈下対策構造に関するものである。この地盤沈下対策構造は、構造物または地盤改良部とその周囲の地盤との境界を跨ぐように通路の表層の下に敷設された繊維補強セメント層を備えている。繊維補強セメント層は、地盤の変形に追従可能な単一層からなり、構造物は、通路の下方を横切るように設けられている。
【0007】
特許文献4に記載された技術は、基礎支持層の上部に路床、路盤及び舗装層を積層し、基礎支持層と舗装層との間に舗装層を支持する補強支持層を形成する舗装道路の施工工法に関するものである。この舗装道路の施工工法における補強支持層は、土砂層と、土砂層の両面を被覆する挟持シートと、土砂層を貫通する先端部に座屈可能な複数の座屈材を有して挟持シートを連結する棒状のアンカー部材とを備えている。そして、土砂層の上面に配置された挟持シートの上から、座屈材が土砂層の下面に配置された挟持シートを突き抜けるようにしてアンカー部材を打設する打設工程と、座屈材を「くの字状」に座屈させて地中に食い込む拡張部を挟持シートの下方に形成する座屈工程と、アンカー部材を打設方向と反対側に引き上げることで、拡張部を挟持シートに固着させて、アンカー部材と挟持シートとを一体化する固着工程と、アンカー部材に締結される締結具によって土砂層の上面に配置された挟持シートを押圧するプレストレス工程とを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-90534号公報
【文献】特開2010-163769号公報
【文献】特開2013-181353号公報
【文献】特開2013-221330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上述した従来の技術は、地震による不同沈下の発生を想定しているものの、東日本大震災よりも前に開発された技術であり、走行性を確保できる段差量は50cm程度までである。東日本大震災以降、各施設において50cmを超える不同沈下量が予想されており、従来の段差緩和工法では対応できないため、従来の段差緩和工法に対してさらなる改良が求められている。
【0010】
このように、東日本大震災以降、各施設の要求性能が上昇し、50cm~100cm程度の適用段差量が必要となっている。また、従来の技術では、補強マット同士を結合するために上下の各補強マットをロープ等を用いて結合しているが、大段差発生時にロープが切断され各補強マットが別々に挙動してしまい、補強マット全体の強度が低下する可能性もあった。
【0011】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、大規模な地震等により道路に大きな段差が生じた場合であっても、当該段差を効果的に緩和して、車両の通行に大きな支障を来さないようにした舗装道路の段差緩和構造及び段差緩和工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る舗装道路の段差緩和構造及び段差緩和工法は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明に係る舗装道路の段差緩和構造及び段差緩和工法は、路床または路盤の下方に剛性を有する構造物が存在する舗装道路において、不同沈下によって路床または路盤と構造物との境界部付近に段差が生じた場合に、当該段差を緩和するためのものである。
【0013】
本発明に係る舗装道路の段差緩和構造は、予め路床または路盤と構造物との境界部付近直上の路床または路盤内に、上下方向に積層して埋め込まれた補強マットを備えている。補強マットは、充填材を補強材で囲み込んで形成されており、積層された少なくとも1層の補強マットは、長さ方向の一側であって境界部付近で生じると予測した段差側に、充填材よりも剛性が高い剛性部材が配設されていることを特徴とするものである。
【0014】
上述した舗装道路の段差緩和構造において、補強マットは、路床または路盤と構造物との境界部付近の直上であって、当該境界部付近で生じると予測した段差の主働崩壊角に基づく崩壊線付近に、剛性部材の段差上端側の端部が位置する状態で路床または路盤内に埋め込まれていることが好ましい。
【0015】
上述した舗装道路の段差緩和構造において、剛性部材が配設された補強マットは、積層された補強マットのうちの最上層と最下層に位置しないようにして、剛性部材が配設されていない補強マットにより上下から挟み込まれた状態で路床または路盤内に埋め込まれていることが好ましい。
【0016】
本発明に係る舗装道路の段差緩和工法は、予め路床または路盤と構造物との境界部付近直上の路床または路盤内に、充填材を補強材で囲み込んで形成した補強マットを上下方向に積層して埋め込む。積層して埋め込まれた補強マットの少なくとも1層は、長さ方向の一側であって境界部付近で生じると予測した段差側に、充填材よりも剛性が高い剛性部材が配設されている。そして、路床または路盤と構造物との境界部付近で段差が生じた場合に、当該段差に沿って補強マットを撓ませることにより段差を緩和することを特徴とするものである。
【0017】
上述した舗装道路の段差緩和工法において、路床または路盤と構造物との境界部付近の直上であって、当該境界部付近で生じると予測した段差の主働崩壊角に基づく崩壊線付近に、剛性部材の段差上端側の端部が位置するように、補強マットを路床または路盤内に埋め込むことにより、段差を緩和するとともに、剛性部材が路床または路盤と構造物との境界部の直上でヒンジ構造を生じさせないことが好ましい。
【0018】
上述した舗装道路の段差緩和工法において、路床または路盤内で、剛性部材が配設された補強マットが最上層及び最下層に位置しないようにして、剛性部材が配設されていない補強マットにより当該剛性部材が配設された補強マットを上下から挟み込むことにより段差を緩和することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る舗装道路の段差緩和構造及び段差緩和工法によれば、充填材を補強材で囲み込んだ補強マットを上下方向に積層するとともに、少なくとも1層の補強マットは、長さ方向の一側であって境界部付近で生じると予測した段差側に、充填材よりも剛性が高い剛性部材を配設しているため、舗装道路に50cm~100cm程度の段差が生じた場合であっても、当該段差を効果的に緩和して、緊急車両等の通行に支障が生じるおそれを最小限とすることができる。
【0020】
また、本発明に係る舗装道路の段差緩和構造及び段差緩和工法では、路床または路盤と構造物との境界部付近の直上であって、当該境界部付近で生じると予測した段差の主働崩壊角に基づく崩壊線付近に、剛性部材の段差上端側の端部が位置する状態で埋め込まれているため、さらに一層、段差を効果的に緩和することができる。この点、剛性が高い剛性部材が路床または路盤と構造物との境界部の直上に位置した場合には、当該剛性部材がいわゆる踏み掛け板となって、段差の緩和区間においてヒンジ構造が生じてしまうため、車両が段差を乗り越える際に大きな衝撃が発生するおそれがある。
【0021】
一方、大段差が生じることにより補強マットが大きく変形した場合には、段差を緩和することができないおそれがあるため、境界部付近で生じると予測した段差の主働崩壊角に基づく崩壊線付近に、剛性部材の段差上端側の端部が位置する状態で埋め込むことにより、補強マットの変形を最小限に抑制することができる。
【0022】
また、本発明に係る舗装道路の段差緩和構造及び段差緩和工法では、剛性部材が配設された補強マットが、積層された補強マットのうちの最上層と最下層に位置しないようにして、剛性部材が配設されていない補強マットにより上下から挟み込まれた状態で路床または路盤内に埋め込まれているため、段差の緩和効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る舗装道路の段差緩和構造を示す概略説明図(施工時)。
図2】本発明の実施形態に係る舗装道路の段差緩和構造を示す概略説明図(段差発生時)。
図3】本発明の実施形態に係る舗装道路の段差緩和構造で使用する補強マットの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る舗装道路の段差緩和構造及び段差緩和工法を説明する。図1図3は本発明の実施形態に係る舗装道路の段差緩和構造及び段差緩和工法を説明するもので、図1は施工時の概略説明図、図2は段差発生時の概略説明図、図3(a)は補強マットの横断面図、図3(b)は補強マットの長手方向の縦断面図、図3(c)は補強マットの短手方向の縦断面図である。
【0025】
<舗装道路の段差緩和構造及び段差緩和工法の概要>
本発明の実施形態に係る舗装道路の段差緩和構造及び段差緩和工法は、地震等による不同沈下で道路に大きな段差が発生した場合に、当該段差を効果的に緩和して、緊急車両等の通行に大きな支障を来さないようにした発明であり、段差の発生が予想される路床または路盤内に補強マットを埋め込んでおき、段差が生じた場合に、補強マットを段差に沿って撓ませることにより、段差を緩和するようになっている。本発明では、図1図3に示すように、充填材20を補強材30で囲み込んだ補強マット10を積層して使用し、少なくとも1層の補強マット10は、長さ方向の一側であって境界部付近で生じると予測した段差側に、充填材20よりも剛性が高い剛性部材40を配設してある点に特徴がある。
【0026】
<舗装道路>
本発明の実施形態に係る舗装道路の段差緩和構造及び段差緩和工法を適用する舗装道路は、図1及び図2に示すように、舗装層100(例えば、アスファルト混合物)の下側に、路盤110、路床120が形成されている。また、路床120または路盤110の下方には、ボックスカルバート等の剛性を有する構造物130が埋設されている。そして、大規模な地震が発生すると、構造物130と路床120または路盤110との境界部において不同沈下が生じ、段差が発生するおそれがある。
【0027】
<構造物>
構造物130とは、路床120または路盤110の下方に存在する剛性体であり、例えば、ボックスカルバート等で形成される通路や水路等からなる。なお、構造物130は剛性体であればどのような構造であってもよく、ボックスカルバートだけではなく、道路付帯設備の基礎、地盤改良体のように、地震等により舗装道路に段差を生じさせる可能性を有する構造物全般を意味する。
【0028】
<補強マット>
補強マット10は、図1図3に示すように、充填材20を補強材30で囲み込むことにより形成される。また、補強マット10の一部は、長さ方向の一側であって境界部付近で生じると予測した段差側に、充填材20よりも剛性が高い剛性部材40が配設されている。すなわち、補強マット10は、上下一対の補強材30の間に充填材20を敷き詰めて形成する。また、補強マット10の一部は、充填材20を補強材30で囲み込むだけではなく、長さ方向の一側であって境界部付近で生じると予測した段差側に、剛性部材40が配設されている。
【0029】
補強マット10は、図1図3に示すように、路床120または路盤110内で上下方向に積層されている。補強マット10の積層数及び剛性部材40を配設した補強マット10の位置は、補強マット10の大きさ、厚み、道路の状態等、種々の要因に応じて適宜設定することができる。本実施形態では、厚み30cm程度の補強マット10を上下に5枚積層しており、中間層に剛性部材40を配設した補強マット10を位置させ、その上下にそれぞれ2層にわたって剛性部材40が配設されていない補強マット10を位置させてある。そして、地震等により不同沈下が発生し、路床120または路盤110と構造物130との境界部付近で段差が生じた場合に、段差に沿って補強マット10を撓ませることにより、当該段差を緩和する。
【0030】
<補強材>
補強材30は、シート状またはネット状の部材からなり、段差が生じたことにより撓んだ際に、破けたり綻びたりしない程度の引張強度と可撓性を有している。後に詳述するが、下側に敷設した補強材30の上部に充填材20及び剛性部材40を配設した後に、その上部に新たな補強材30を敷設して両端部を折り返すことにより、補強材30により充填材20及び剛性部材40を囲み込むことができる。
【0031】
<充填材>
充填材20は、土砂や砕石等の粒状材料からなり、例えば30cm程度の厚みとなるように、補強材30の間に充填する。本実施形態では、上下方向に複数層(例えば5層)の補強マット10を配設しているため、充填材20の厚みは補強マット10の層数により調整することができる。
【0032】
<剛性部材>
剛性部材40は、補強マット10で囲み込まれた充填材20の一側(補強マット10の長さ方向の一側)であって境界部付近で生じると予測した段差側に配設された部材であり、充填材20よりも剛性が高い物質により形成されている。充填材20よりも剛性が高い物質とは、例えば、RC版(PC版)や鉄板等の鉄部材のことである。なお、路床120または路盤110内に補強マット10を埋め込む際には、路床120または路盤110と構造物130との境界部の直上であって、当該境界部付近で生じると予測した段差の主働崩壊角に基づく崩壊線付近に、剛性部材40の段差上端側の端部を位置させる。また、剛性部材40が配設された補強マット10は、積層された補強マット10のうちの最上層及び最下層を除いて配設されている。これにより、車両が段差を乗り越える際のショックを緩和することができる。
【0033】
なお、境界部付近で生じると予測した段差の主働崩壊角は、下記式(1)により定義することができる。下記式(1)において、θの値は路盤材料に対応して変化する値であり、θ=20°~35°程度の範囲で変化すると仮定すると、主働崩壊角α=55°~62.5°程度となる。本実施形態では、主働崩壊角αを60°程度としている。
主働崩壊角α=45+θ/2 ・・・ (1)
【0034】
このような構造とすることなく、路床120または路盤110と構造物130との境界部の直上に剛性部材40を位置させると、車両が段差に差し掛かった場合に、まず剛性部材40の一端部(車両の進行方向の手前側)にタイヤが乗り、剛性部材40の他端部(車両の進行方向の先側)が持ち上がってしまう。そして、車両が進行して剛性部材40の他端部(車両の進行方向の先側)にタイヤが乗ると、一旦持ち上がった剛性部材40の他端部が一気に下がり、車両に大きな衝撃を与えることになる。
【0035】
このような現象は、剛性部材40が配設された補強マット10が最上層に存在する場合に顕著となる。また、剛性部材40が配設された補強マット10が最下層に存在する場合には、剛性部材40に対して過度な応力(荷重)が局所的に集中してしまう。そこで、本実施形態では、最上層及び最下層を除く少なくとも1層の補強マット10に剛性部材40を配設している。
【0036】
なお、大段差が生じることにより補強マットが大きく変形した場合には、段差を緩和することができないおそれがあるため、境界部付近で生じると予測した段差の主働崩壊角に基づく崩壊線付近に、剛性部材の段差上端側の端部が位置する状態で補強マットを埋め込むことにより、補強マットの変形を最小限に抑制することができる。
【0037】
<段差緩和工法>
本発明に係る舗装道路の段差緩和工法は、上述した段差緩和構造を用いたものであり、図1及び図2に示すように、予め路床120または路盤110と構造物130との境界部付近直上の路床120または路盤110内に、充填材20を補強材30で囲み込んだ補強マット10を上下方向に積層して埋め込む。この際、最上層及び最下層を除く少なくとも1層の補強マット10は、長さ方向の一側であって境界部付近で生じると予測した段差側に、充填材20よりも剛性が高い剛性部材40が配設されている。さらに、剛性部材40が配設された補強マット10を上下から挟み込むようにして、剛性部材40が配設されていない補強マット10を埋め込んでおく。
【0038】
すなわち、積層された補強マット10のうちの最上層および最下層は剛性部材40が配設されていない補強マット10であり、その中間層に剛性部材40が配設された補強マット10が埋め込まれている。そして、路床120または路盤110と構造物130との境界部付近で段差が生じた場合に、段差に沿って補強マット10を撓ませることにより段差を緩和するようになっている。
【0039】
補強マット10を形成するには、図3に示すように、まず初めに、路床120または路盤110と構造物130との境界部付近に補強材30を敷設する。この際、補強材30の両端部付近を巻き返す(上方へ向かって折り返して、充填材20等の上部に被せる)ため、補強材30は完成後の補強マット10よりも長くなっている。そして、補強材30の両端部付近の巻き返し位置に、断面U字状や断面J字状の型枠50を配置する。なお、型枠50は路床120または路盤110中に埋め込まれて、捨て型枠となる。
【0040】
そして、配置した型枠50の間に充填材20を撒き出し、プレートコンパクターやタッピングランマー等の転圧装置により転圧し、所望の厚みの充填材層とする。また、補強マット10の一部には、充填材20とともに長さ方向の一側であって境界部付近で生じると予測した段差側に、剛性部材40を配設してある。この剛性部材40の段差上端側の端部は、境界部付近で生じると予測した段差の主働崩壊角に基づく崩壊線付近に位置するようになっている。
【0041】
この状態で補強材30の両端部付近を巻き返して、充填材20の上部に被せる。このような手順を繰り返すことにより、所定数の補強マット10を上下方向に積層する。所定数の補強マット10を積層したら、締結ベルト60を掛け渡して積層した補強マット10を一纏めに拘束する。
【0042】
<従来技術と比較した有利な効果>
本発明に係る舗装道路の段差緩和構造及び段差緩和工法は、発電所等の重要施設構内や幹線道路等における緊急輸送路、構造物130の取付部等の路面段差が予想される箇所に適用する技術である。そして、従来の補強マット10では存在しなかった、RC版(PC版)や鉄板等の鉄部材等からなる剛性の高い層(剛性部材40を埋め込んだ層)を形成した補強マット10を使用することにより、道路に大きな段差が発生した場合であっても、剛性の高い層が緩やかな斜路を確保し、緊急車両等の走行性を確保することができる。
【0043】
また、剛性の高い層を形成した補強マット10と、剛性部材40を配設していない補強マット10を上下方向に積層することにより、段差の緩和性能を向上させることができる。さらに、積層した補強マット10を締結ベルト60により一纏めに拘束することにより、補強マット10同士の拘束効果を増大することができる。
【符号の説明】
【0044】
10 補強マット
20 充填材
30 補強材
40 剛性部材
50 型枠
60 締結ベルト
100 舗装層
110 路盤
120 路床
130 構造物
図1
図2
図3