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  • 特許-免震装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】免震装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/04 20060101AFI20221125BHJP
   F16F 1/40 20060101ALI20221125BHJP
   E04H 9/02 20060101ALN20221125BHJP
【FI】
F16F15/04 P
F16F1/40
E04H9/02 331A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019113146
(22)【出願日】2019-06-18
(65)【公開番号】P2020204380
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100179947
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 晃太郎
(72)【発明者】
【氏名】森 隆浩
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-029539(JP,A)
【文献】特開2014-047926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/04
F16F 1/40
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質材料と軟質材料とを上下方向に交互に配置してなる積層構造体を備えた、免震装置であって、
前記積層構造体を、上側及び下側のいずれか一方に位置する一方側末端領域と、前記上側及び前記下側の他方に位置する他方側末端領域と、前記一方側末端領域および前記他方側末端領域の間に位置すると共に前記他方側末端領域に隣接している中央領域と、前記中央領域および前記一方側末端領域の間に位置すると共に前記中央領域および前記一方側末端領域に隣接している中間領域と、に区画し、
前記一方側末端領域に配置された前記硬質材料を、少なくとも1つの一方側末端硬質材料とし、
前記他方側末端領域に配置された前記硬質材料を、少なくとも1つの他方側末端硬質材料とし、
前記中央領域に配置された前記硬質材料を、少なくとも1つの中央硬質材料とし、
前記中間領域に配置された前記硬質材料を、少なくとも1つの中間硬質材料としたとき、
前記一方側末端硬質材料の幅方向外縁は、前記中間硬質材料の幅方向外縁よりも幅方向外側にあり、また、前記中間硬質材料の幅方向外縁は、前記中央硬質材料の幅方向外縁よりも幅方向外側にあり、更に、前記他方側末端硬質材料の幅方向外縁は、前記中央硬質材料の幅方向外縁と同一の幅方向位置にある、免震装置。
【請求項2】
前記一方側末端硬質材料の幅W1aに対する、前記中央硬質材料の幅W2の比(W2/W1a)は、
0.6≦(W2/W1a)≦0.94である、請求項に記載の免震装置。
【請求項3】
前記中間領域には、複数の前記中間硬質材料が配置されており、当該複数の中間硬質材料の幅は、前記一方側末端領域側から前記中央領域側に向かうに従い小さくなる、請求項1又は2に記載の免震装置。
【請求項4】
前記中央領域には、複数の前記中央硬質材料が配置されており、当該複数の中央硬質材料の幅は、同一である、請求項1からのいずれか1項に記載の免震装置。
【請求項5】
前記一方側末端領域には、複数の一方側末端硬質材料が配置されており、前記複数の一方側末端硬質材料の幅は、同一である、請求項1からのいずれか1項に記載の免震装置。
【請求項6】
免震装置の上下方向断面視において、前記一方側末端硬質材料、前記中間硬質材料および前記中央硬質材料の、それぞれの幅方向外縁を連ねてなる仮想稜線の、上下方向に対してなす鋭角側の角度Aは、45°~80°である、請求項1からのいずれか1項に記載の免震装置。
【請求項7】
免震装置の上下方向断面視において、前記仮想稜線は、直線状である、請求項に記載の免震装置。
【請求項8】
前記積層構造体の上下方向高さH0に対する、前記中間領域の上下方向高さH3の比(H3/H0)は、0.01~0.2である、請求項1からのいずれか1項に記載の免震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の免震装置には、硬質材料(剛性鋼板)と軟質材料(ゴム弾性材料層)とを上下方向に交互に配置してなる積層構造体を備え、当該積層構造体の、上側及び下側の少なくとも一方の末端領域に配置した末端硬質材料(例えば、下部剛性鋼板)の幅方向外縁を、当該積層構造体の中央領域に配置した中央硬質材料(中間部剛性鋼板)の幅方向外縁よりも幅方向外側にしたものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-47926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の免震装置によれば、前記積層構造体が水平方向に弾性変形して前記中央硬質材料が前記末端硬質材料に対して水平変位するときでも、前記末端硬質材料が前記中央硬質材料を支えることによって、積層構造体の圧縮側の部分(フィレット部:例えば、下部フランジプレートに近接した積層構造体の部分)に生じる局所的な応力集中を抑制し、当該積層構造体の座屈の虞をなくすことができる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の免震装置は、耐座屈性能と共に耐久性を高めるという面で改善の余地があった。
【0006】
本発明の目的は、耐座屈性能及び耐久性に優れた免震装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る免震装置は、硬質材料と軟質材料とを上下方向に交互に配置してなる積層構造体を備えた、免震装置であって、前記積層構造体を、上側及び下側のいずれか一方に位置する一方側末端領域と、前記上側及び前記下側の他方に位置する他方側末端領域と、前記一方側末端領域および前記他方側末端領域の間に位置すると共に前記他方側末端領域に隣接している中央領域と、前記中央領域および前記一方側末端領域の間に位置すると共に前記中央領域および前記一方側末端領域に隣接している中間領域と、に区画し、前記一方側末端領域に配置された前記硬質材料を、少なくとも1つの一方側末端硬質材料とし、前記他方側末端領域に配置された前記硬質材料を、少なくとも1つの他方側末端硬質材料とし、前記中央領域に配置された前記硬質材料を、少なくとも1つの中央硬質材料とし、前記中間領域に配置された前記硬質材料を、少なくとも1つの中間硬質材料としたとき、前記一方側末端硬質材料の幅方向外縁は、前記中間硬質材料の幅方向外縁よりも幅方向外側にあり、また、前記中間硬質材料の幅方向外縁は、前記中央硬質材料の幅方向外縁よりも幅方向外側にあり、更に、前記他方側末端硬質材料の幅方向外縁は、前記中央硬質材料の幅方向外縁と同一の幅方向位置または当該幅方向外縁よりも幅方向外側にある。本発明に係る免震装置によれば、耐座屈性能及び耐久性に優れた免震装置となる。
【0008】
本発明に係る免震装置において、前記他方側末端硬質材料の幅方向外縁は、前記中央硬質材料の幅方向外縁と同一の幅方向位置にある。この場合、耐座屈性能及び耐久性に優れる。
【0009】
本発明に係る免震装置において、前記一方側末端硬質材料の幅W1aに対する、前記中央硬質材料の幅W2の比(W2/W1a)は、0.6≦(W2/W1a)≦0.94であることが好ましい。この場合、要求される免震性能を損なうことなく、耐座屈性能及び耐久性を向上させることができる。
【0010】
本発明に係る免震装置において、前記中間領域には、複数の前記中間硬質材料が配置されており、当該複数の中間硬質材料の幅は、前記一方側末端領域側から前記中央領域側に向かうに従い小さくなることが好ましい。この場合、前記一方側末端領域に生じる局所的な応力集中をより抑制し、耐久性をより向上させることができる。
【0011】
本発明に係る免震装置において、前記中央領域には、複数の前記中央硬質材料が配置されており、当該複数の中央硬質材料の幅は、同一であることが好ましい。この場合、中央硬質材料が複数であっても、要求される免震性能をより確実に発揮することができる。
【0012】
本発明に係る免震装置において、前記一方側末端領域には、複数の一方側末端硬質材料が配置されており、前記複数の一方側末端硬質材料の幅は、同一であることが好ましい。この場合、前記一方側末端領域に生じる局所的な応力集中をより抑制し、耐座屈性能及び耐久性をより向上させることができる。
【0013】
本発明に係る免震装置において、免震装置の上下方向断面視において、前記一方側末端硬質材料、前記中間硬質材料および前記中央硬質材料の、それぞれの幅方向外縁を連ねてなる仮想稜線の、上下方向に対してなす鋭角側の角度Aは、45°~80°であるものとすることができる。この場合、座屈を生じ難くすることができる。
【0014】
本発明に係る免震装置では、免震装置の上下方向断面視において、前記仮想稜線は、直線状であるものとすることができる。この場合、更に座屈を生じ難くすることができる。
【0015】
本発明に係る免震装置において、前記積層構造体の上下方向高さH0に対する、前記中間領域の上下方向高さH3の比(H3/H0)は、0.01~0.2であるものとすることができる。この場合、末端硬質材料の幅方向外縁が応力集中により軟質材料に対して剥離しにくく、耐久性が改善される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐座屈性能及び耐久性に優れた免震装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の、第1の実施形態に係る免震装置を、上下方向を含む断面で概略的に示す断面図である。
図2】本発明の、第2の実施形態に係る免震装置を、上下方向を含む断面で概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の様々な実施形態に係る免震装置について説明をする。以下の説明において、実質的に同一の事項は、同一の符号を使用することにより、その説明を省略する。
【0019】
図1中、符号1Aは、本発明の、第1の実施形態に係る免震装置である。免震装置1Aは、積層構造体10を備えている。積層構造体10は、硬質材料11と軟質材料12とを上下方向(鉛直方向)に交互に配置してなる。免震装置1Aは、上下方向に延びる中心軸Oを有している。本実施形態では、免震装置1Aを設置したとき、当該中心軸Oを鉛直軸に沿って起立させることができる。
【0020】
積層構造体10の下端には、下部プレート20が固定されている。下部プレート20は、ビル、橋、家等の構造物(図示省略)を支える基礎(図示省略)に固定することができる。積層構造体10の上端には、上部プレート30が固定されている。上部プレート30は、例えば、前記構造物に固定することができる。本実施形態では、下部プレート20及び上部プレート30は、円形の鋼板で形成されている。
【0021】
硬質材料11は、剛性を有する層である。本実施形態では、硬質材料11は、円形の金属板、具体的には、円形の鋼板からなる。本実施形態では、軟質材料12は、円形の弾性板、具体的には、円形のゴム板である。本実施形態では、硬質材料11及び軟質材料12は、同一の厚さを有している。しかしながら、硬質材料11及び軟質材料12の厚さは、適宜変更することができる。更に、本実施形態では、硬質材料11の幅方向外縁11eは、硬質材料11と共に外層13によって被覆されている。外層13は、円筒形のゴム板である。ただし、外層13は、省略することができる。
【0022】
図1の二点鎖線領域に示すように、積層構造体10は、上側及び下側のいずれか一方に位置する一方側末端領域R1Aと、上側及び下側の他方に位置する他方側末端領域R1Bと、一方側末端領域R1Aおよび他方側末端領域R1Bの間に位置すると共に他方側末端領域R1Bに隣接している中央領域R2と、中央領域R2および一方側末端領域R1Aの間に位置すると共に中央領域R2および一方側末端領域R1Aに隣接している中間領域R3と、に区画する。
【0023】
本実施形態では、符号H1Aは、一方側末端領域R1Aの上下方向高さである。また、本実施形態では、符号H2は、中央領域R2の上下方向高さである。さらに、本実施形態では、符号H3は、中間領域R3の上下方向高さである。加えて、本実施形態では、符号H1Bは、他方側末端領域R1Bの上下方向高さである。即ち、本実施形態において、積層構造体10の上下方向高さH0は、H0=H1A+H1B+H2+H3で規定される。一方側末端領域R1A、他方側末端領域R1B、中央領域R2、中間領域R3は、それぞれ、上下方向高さで規定することができる。具体例としては、一方側末端領域R1Aは、H1A/H0=0.01~0.48、他方側末端領域R1Bは、H1B/H0=0.01~0.48、中央領域R2は、H2/H0=0.5~0.96、中間領域R3は、H3/H0=0.01~0.48を満たす範囲で規定することができる。
【0024】
更に、積層構造体10では、一方側末端領域R1Aに配置された硬質材料11を、少なくとも1つの一方側末端硬質材料111aとし、他方側末端領域R1Bに配置された硬質材料11を、少なくとも1つの他方側末端硬質材料111bとし、中央領域R2に配置された硬質材料11を、少なくとも1つの中央硬質材料112とし、中間領域R3に配置された硬質材料11を、少なくとも1つの中間硬質材料113とすることができる。本実施形態において、一方側末端領域R1Aに配置された硬質材料11は、1つの末端硬質材料111aである。また、本実施形態に置いて、他方側末端領域R1Bに配置された硬質材料11は、2つの他方側末端硬質材料111bである。また、本実施形態において、中央領域R2に配置された硬質材料11は、複数(本実施形態では、10個)の中央硬質材料112である。本実施形態では、中央硬質材料112は、寸法および材質が同一の硬質材料である。更に、本実施形態において、中間領域R3に配置された硬質材料11は、1つの中間硬質材料113である。
【0025】
また、積層構造体10では、一方側末端硬質材料111aの幅方向外縁111e1と、他方側末端硬質材料111bの幅方向外縁111e2と、中央硬質材料112の幅方向外縁112eと、中間硬質材料113の幅方向外縁113eと、の、幅方向における位置の関係は、以下の関係を満たす。
【0026】
一方側末端硬質材料111aの幅方向外縁111e1は、中間硬質材料113の幅方向外縁113eよりも幅方向外側にある。また、中間硬質材料113の幅方向外縁113eは、中央硬質材料112の幅方向外縁112eよりも幅方向外側にある。更に、他方側末端硬質材料111bの幅方向外縁111e2は、中央硬質材料112の幅方向外縁112eと同一の幅方向位置または当該幅方向外縁よりも幅方向外側にある。好ましくは、本実施形態のように、他方側末端硬質材料111bの幅方向外縁111e2は、中央硬質材料112の幅方向外縁112eと同一の幅方向位置にある。
【0027】
具体的には、一方側末端硬質材料111aの幅方向外縁111e1は、一方側末端硬質材料111aおよび中間硬質材料113の個数によらずいかなる場合も、中間硬質材料113の幅方向外縁113eよりも幅方向外側に位置している。また、中間硬質材料113の幅方向外縁113eは、中間硬質材料113および中央硬質材料112の個数によらずいかなる場合も、中央硬質材料112の幅方向外縁112eよりも幅方向外側に位置している。さらに、本実施形態では、他方側末端硬質材料111bの幅方向外縁111e2は、他方側末端硬質材料111bおよび中央硬質材料112の個数によらずいかなる場合も、中央硬質材料112の幅方向外縁112eと同一の幅方向位置にある。
【0028】
更に、一方側末端硬質材料111aの幅方向外縁111e1の間の幅をW1a(以下、「一方側末端硬質材料111aの幅W1a」ともいう。)とし、中央硬質材料112の幅方向外縁112eの間の幅をW2(以下、「中央硬質材料112の幅W2」ともいう。)としたとき、一方側末端硬質材料111aの幅W1aに対する、中央硬質材料112の幅W2の比α(=W2/W1a)は、以下の関係(1)を満たす。
【0029】
0.6≦(W2/W1a)≦0.94・・・(1)
【0030】
本実施形態では、硬質材料11は、円形の板である。また、本実施形態では、一方側末端硬質材料111a、他方側末端硬質材料111b、中央硬質材料112及び中間硬質材料113は、それぞれ、中心軸O上を同軸に配置されている。このため、本実施形態では、一方側末端硬質材料111aの幅W1a、他方側末端硬質材料111bの幅方向外縁111b間の幅W1b(以下、「他方側末端硬質材料111bの幅W1b」ともいう。)、中央硬質材料112の幅W2、中間硬質材料113の幅方向外縁113e間の幅W3(以下、「中間硬質材料113の幅W3」ともいう。)は、それぞれ、硬質材料11の直径とすることができる。即ち、本実施形態では、一方側末端硬質材料111aの幅W1aに対する、中央硬質材料112の幅W2の比αは、一方側末端硬質材料111aの直径φ1aに対する、中央硬質材料112の直径φ2の比(φ2/φ1a)と置き換えることができる。
【0031】
なお、硬質材料11は、円形の板に限定されることなく、多角形等の異形の板を採用することができる。この場合、一方側末端硬質材料111aの幅W1a、他方側末端硬質材料111bの幅W1b、中央硬質材料112の幅W2、中間硬質材料113の幅W3は、それぞれ、硬質材料11の外接円の直径とすることができる。また、比α(=W2/W1a)は、0.6以上であることが好ましい。より好ましくは、α=0.7~0.92の値である。この場合、免震性能を十分確保することができる。硬質材料11が複数である場合、W1aは、一方側末端硬質材料111aのうちの最大幅、W2は、中央硬質材料112の最小幅とする。
【0032】
また、一方側末端硬質材料111aの幅W1a、中央硬質材料112の幅W2及び中間硬質材料113の幅W3の具体例としては、W2/W1a=0.6~0.94、かつ、W3/W1a=0.61~0.96を満たす範囲で規定することができる。
【0033】
本実施形態に係る免震装置によれば、一方側末端硬質材料111aの幅方向外縁111e1は、中央硬質材料112の幅方向外縁112eよりも幅方向外側に位置している。この場合、積層構造体10が水平方向(例えば、図1の左方向)に急激に弾性変形して中央硬質材料12が一方側末端硬質材料111aに対して大きく水平方向に変位したときでも、一方側末端硬質材料111aの幅W1aが広い分、当該一方側末端硬質材料111aが中央硬質材料112を支えることによって、積層構造体10の圧縮側の部分(図1に符号Xで示す、下部プレート20に隣接する一方側末端硬質材料111aを含む、一方側末端領域R1Aの部分)に生じる局所的な応力集中を抑制することができる。また、本実施形態によれば、中央硬質材料12が一方側末端硬質材料111aに対して大きく水平方向に変位することによって生じ得る、積層構造体10の座屈を抑制することができる。
【0034】
一方、下部プレート20または上部プレート30に隣接する末端硬質材料111の幅W1を大きく確保することで、一方側末端硬質材料111aの幅方向外縁111e1を中央硬質材料112の幅方向外縁112eよりも幅方向外側に位置するように構成した場合、図1の符号Xで示した、一方側末端硬質材料111aの幅方向外縁111e1およびその周辺の部分には、上下方向からの荷重によって応力集中が生じ得る。この応力集中によって、一方側末端硬質材料111aの幅方向外縁111e1部分にそり返し等の変形を生じると、一方側末端硬質材料111aが局部的に剥離することが懸念される。
【0035】
これに対し、本実施形態に係る免震装置1Aでは、一方側末端領域R1Aおよび中央領域R2に隣接して位置する中間領域R3に中間硬質材料113を配置した。即ち、本実施形態では、一方側末端硬質材料111aと中央硬質材料112との間に中間硬質材料113を配置した。中間硬質材料113の幅方向外縁113eは、中央硬質材料112の幅方向外縁112eよりも幅方向外側に位置している一方、一方側末端硬質材料111aの幅方向外縁111eよりも幅方向内側に位置している。このため、例えば、大きな荷重が積層構造体10に対して上下方向および水平方向の少なくともいずれか一方に加わることで、一方側末端硬質材料111aの幅方向外縁111e1部分に生じ得る応力集中は、中間硬質材料113によって抑制される。したがって本実施形態によれば、積層構造体10が大きく弾性変形したときも、中間硬質材料113に隣接する一方側末端硬質材料111aの幅方向外縁111e1の圧縮側に、局部的な剥離が生じない。
【0036】
加えて、本実施形態によれば、一方側末端領域R1Aおよび中央領域R2に隣接して位置する中間領域R3に中間硬質材料113を配置したことから、中央硬質材料12が一方側末端硬質材料111aに対して大きく水平方向に変位することによって生じ得る、積層構造体10の座屈を更に確実に抑制することができる。
【0037】
従って、本実施形態に係る免震装置1Aによれば、耐座屈性能及び耐久性に優れた免震装置となる。さらに、本実施形態では、硬質材料11は、一方側末端硬質材料111aから他方側末端硬質材料111bに向かって先細りするように幅が狭くなる構成である。この場合、金型に、複数の硬質材料111を積み重ねて積層構造体10を成形するとき、最も幅の大きい硬質材料11を一番下に配置し、当該硬質材料11から順次、幅の小さな硬質材料11を積み重ねることができる。この場合、金型内への硬質材料11の組み込みが容易になり、作業性が向上する。このため、本実施形態によれば、生産性を向上させた免震装置となる。
【0038】
一方、本願発明者は、一方側末端硬質材料111aの幅W1aのみを単純に大きく確保すれば、積層構造体10の耐座屈性能を向上させることができることを確かめた。その一方、免震装置は、当該免震装置に支持される建築物等の構造物の固有振動周期を長くすることにより、免震性能を高めて当該構造物を保護している。
【0039】
しかしながら、一方側末端硬質材料111aの幅W1aを大きくすれば、前記固有振動周期は、短くなる傾向となる。すなわち、単純にW1を大きくしただけでは前記固有振動周期が短くなるため、本来の免震性能を発揮できないという課題が生じる。これに対して、本願発明者は、鋭意、試験・研究の結果、一方側末端硬質材料111aの幅W1aを大きく確保した場合、中央硬質材料112の幅W2を小さくすれば、前記構造物の固有振動周期が短くなる現象を抑制できることを認識するに至った。具体的には、末端硬質材料111aの幅W1aに対する、中央硬質材料112の幅W2の比αは、0.94以下である場合、前記構造物の固有振動周期を長く保ちつつ、座屈特性を向上させることを確かめた。
【0040】
本実施形態に係る免震装置1Aによれば、一方側末端硬質材料111aの幅W1aに対する、中央硬質材料112の幅W2の比αは、0.94以下である。このため、要求される免震性能を損なうことがない。また、一方側末端硬質材料111aの幅W1aに対する、中央硬質材料112の幅W2の比αを0.6未満とした場合、中央硬質材料112の幅が小さくなり座屈性能や荷重支持能力が低下する。これに対し、一方側末端硬質材料111aの幅W1aに対する、中央硬質材料112の幅W2の比αを0.6以上とすれば、座屈性能改善効果が得られ、荷重支持能力も低下しない。
【0041】
要するに、水平剛性が等しく、αが0.94を超える免震装置と比較した場合、本実施形態に係る免震装置1Aは、耐座屈性能が向上する。また、一方側末端硬質材料111の幅W1aが同一で、αが0.94を超える免震装置と比較した場合、本実施形態に係る免震装置1Aは、より固有振動周期を長くできる。更に、中央硬質材料112の幅W2が同一で、αが0.94を超える免震装置と比較した場合、本実施形態に係る免震装置1Aは、末端硬質材料111aの幅方向外縁111e1の圧縮側に生じる局部的な剥離を抑制できる。
【0042】
従って、本実施形態によれば、一方側末端硬質材料111aの幅W1aに対する、中央硬質材料112の幅W2の比(W2/W1a)を、0.6≦(W2/W1a)≦0.94としたことにより、要求される免震性能を損なうことなく、荷重支持能力を維持しつつ、耐座屈性能及び耐久性に優れた免震装置となる。
【0043】
なお、上述のとおり、本実施形態では、一方側末端領域R1Aには、1つの末端硬質材料111が含まれている。中央領域R2には、複数の中央硬質材料112が含まれている。本実施形態では、中央硬質材料112の幅W2は、それぞれ、同一である。中間領域R3には、1つの中間硬質材料113が含まれている。
【0044】
但し、本発明によれば、免震装置1Aは、末端領域R1Aに、一方側末端硬質材料111aとして、少なくとも1つの一方側末端硬質材料111aを有することができる。一方側末端硬質材料111aが複数の場合、各一方側末端硬質材料111aの幅方向外縁111e1は、中央硬質材料112の幅方向外縁112eよりも幅方向外側に位置させる。更に、この場合、各一方側末端硬質材料111aは、それぞれ、当該一方側末端硬質材料111aの幅W1aが中間領域R3側に向かうに従い小さくなることが好ましい。
【0045】
また、免震装置1Aは、中央領域R2に、中央硬質材料112として、少なくとも1つの中央硬質材料112を有するものとすることができる。本実施形態では、中央硬質材料112は、複数の中央硬質材料112である。この場合、各中央硬質材料112は、同一の中央硬質材料であることが好ましい。
【0046】
更に、免震装置1Aは、中間領域R3に、中間硬質材料113として、少なくとも1つの中間硬質材料113を有することができる。中間硬質材料113が複数の場合、各中間硬質材料113は、中央硬質材料112の幅方向外縁112eよりも幅方向外側かつ一方側末端硬質材料111aの幅方向外縁111e1よりも幅方向内側に位置することが好ましい。更に、この場合、各中間硬質材料113は、当該中間硬質材料113の幅W3が一方側末端領域R1A側から中央領域R2側に向かうに従い小さくなることが好ましい。
【0047】
また、一方側末端硬質材料111aの枚数N1a、他方側末端硬質材料111bの枚数N1b、中央硬質材料112の枚数N2及び中間硬質材料113の枚数N3の具体例としては、N1a,N1bは1~20枚、N2は10~50枚、N3は1~20枚が挙げられる。
【0048】
ここで、図1を参照して、一方側末端領域R1A、他方側末端領域R1B、中央領域R2および中間領域R3を、それぞれ、上下方向断面視(免震装置の中心軸を含む断面で視た状態)における、仮想の区画線L1A~L3Aおよび仮想の区画線L1B~L3Bを用いて説明する。
【0049】
区画線L1Aは、下部プレート20の上端面(下部プレート20と当該下部プレート20と隣接する、積層体1Aの軟質材料12との固定面)を通る区画線である。区間線L3Aは、一方側末端硬質材料111と当該一方側末端硬質材料111と隣り合う中間硬質材料113との間の軟質材料12を通り、当該軟質材料12を上下2つに分割する区間線である。区間線L2Aは、最も下側の中央硬質材料112の下端面(最も下側の中央硬質材料112と当該中央硬質材料112と隣接する軟質材料12との固定面)を通る区間線である。
【0050】
区間線L1Bは、上部プレート30の下端面(上部プレート30と当該上部プレート30と隣接する、積層体1Aの軟質材料12との固定面)を通る区間線である。区間線L2Bは、最も上側の中央硬質材料112の上端面(最も上側の中央硬質材料112と当該中央硬質材料112と隣接する軟質材料12との固定面)を通る区間線である。
【0051】
一方側末端領域R1Aおよび他方側末端領域R1Bは、それぞれ、次のように区画されている。一方側末端領域R1Aは、区画線L1A及び区間線L3Aによって区画されている。他方側末端領域R1bは、区間線L1B及び区間線L2Bによって区画されている。
【0052】
中央領域R2は、区間線L2A及び区間線L2Bによって区画されている。
【0053】
中間領域R3は、次のように区画されている。中間領域R3は、区画線L3A及び区画線L2Aによって区画されている。
【0054】
本実施形態において、中央領域R2には、複数の中央硬質材料112が配置されており、当該複数の中央硬質材料112の幅W2は、同一であることが好ましい。本実施形態では、上述のとおり、複数の中央硬質材料112の幅W2は、同一である。この場合、中央硬質材料112が複数であっても、要求される免震性能をより確実に発揮することができる。さらに、中央硬質材料112の幅W2および他方側末端硬質材料111bの幅W1bは、同一であることが好ましい。本実施形態では、上述のとおり、複数の中央硬質材料112の幅W2および他方側末端硬質材料111bの幅W1bは、同一の直径(φ1b=φ2)である。この場合、他方側末端領域R1bでは、他方側末端硬質材料111bの幅方向外縁111e2部分にそり返し等の変形を生じないことから、耐久性をさらに向上させることができる。特に、本実施形態では、複数の中央硬質材料112において、当該中央硬質材料112の幅W2が同一である。この場合、中央硬質材料112が複数であっても、要求される免震性能をより確実に発揮することができる。
【0055】
また、本実施形態に係る免震装置1Aでは、積層構造体10の上下方向高さH0に対する、中間領域R3の上下方向高さH3の比β(=H3/H0)は、0.01~0.2であるものとすることができる。βが0.01に満たない場合、またβが0.2を超える場合、座屈を抑制する効果が小さい。本実施形態では、βは0.01~0.2の範囲の数値である。このため、本実施形態によれば、中間硬質材料113が前記座屈を効果的に抑制するため、当該座屈の抑制に起因する応力集中により軟質材料12に対して剥離しにくく、耐久性が改善される。
【0056】
なお、中央領域R2の上下方向高さH2は、H2/H0=0.5~0.96とすることが好ましい。この場合、十分な免震機能を果たすことができる。また、この場合、積層構造体10は、H2が、(0.5~0.96)×H0の領域を中央領域R2、中間領域R3の上下方向高さH3が、(0.01~0.2)×H0の領域を中間領域R3、これらの外側の領域をそれぞれ、一方側末端領域R1Aおよび他方側末端領域R1Bとして、これら領域R1A,R1B~R3それぞれに、一方側末端硬質材料111a、他方側末端硬質材料111b、中央硬質材料112及び中間硬質材料113を配置させることが好ましい。より好ましくは、H2が、0.5~0.96×H0の領域を中央領域R2、H3(H3´)が、0.01~0.2×H0の領域を中間領域R3、H1Aが、0.01~0.24×H0の領域を一方側末端領域R1Aとする。
【0057】
次に、図2中、符号1Bは、本発明の、第2の実施形態に係る免震装置である。本実施形態では、一方側末端領域R1Aには、複数(本実施形態では、2個)の一方側末端硬質材料111aが含まれている。本実施形態では、一方側末端硬質材料111aは、寸法および材質が同一の硬質材料であり、当該一方側末端硬質材料111aの幅W1aは、それぞれ、同一である。中央領域R2には、複数(本実施形態では、6個)の中央硬質材料112が含まれている。本実施形態では、中央硬質材料112は、同一の中央硬質材料であり、当該中央硬質材料112の幅W2は、それぞれ、同一である。中間領域R3には、複数(本実施形態では、2個)の中間硬質材料113が含まれている。本実施形態では、中間硬質材料113の幅W3は、一方側末端領域R1A側から中央領域R2側に向かうに従い小さくなる。本実施形態では、各中間硬質材料113の幅方向外縁113eは、中央硬質材料112の幅方向外縁112eよりも幅方向外側かつ一方側末端硬質材料111aの幅方向外縁111e1よりも幅方向内側に位置する。
【0058】
本実施形態に係る免震装置1Bにおいて、中間領域R3には、複数の中間硬質材料113が配置されており、当該複数の中間硬質材料113の幅W3は、一方側末端領域R1A側から中央領域R2側に向かうに従い小さくなることが好ましい。本実施形態では、複数の中間硬質材料113の幅W3は、末端領域R1側から中央領域R2側に向かうに従い小さくなる。この場合、一方側末端領域R1Aに生じる局所的な応力集中をより抑制し、耐久性をより向上させることができる。
【0059】
本実施形態に係る免震装置1Bにおいて、一方側末端領域R1Aには、複数の一方側末端硬質材料111aが配置されており、当該一方側末端硬質材料111aの幅W1aは、同一であることが好ましい。本実施形態では、複数の一方側末端硬質材料111の幅W1aは、同一である。この場合、一方側末端硬質材料111aを複数としたため、一方側末端領域R1Aに生じる局所的な応力集中をより抑制し、耐座屈性能及び耐久性をより向上させることができる。
【0060】
本実施形態に係る免震装置1Bにおいて、一方側末端硬質材料111a、中間硬質材料113および中央硬質材料112の、それぞれの幅方向外縁111e1,113e,112eを連ねてなる、仮想稜線Lは、免震装置1Bの上下方向断面視において、上下方向に対してなす鋭角側の角度Aが、45°~80°であるものとすることができる。角度Aが45°に満たない場合、座屈を抑制する効果が小さい。角度Aが80°を超える場合、座屈を抑制する効果が小さく、一方側末端硬質材料111aの幅方向外縁111eの圧縮側に局部的な剥離が生じやすい。本実施形態によれば、仮想稜線Lは、免震装置1Bの上下方向断面視において、上下方向に対してなす鋭角側の角度Aが、45°~80°である。本実施形態では、角度Aは、45°~80°の範囲の数値である。このため、本実施形態によれば、座屈改善効果が特に高い。
【0061】
特に、本実施形態に係る免震装置1Bでは、当該免震装置1Bの上下方向断面視において、仮想稜線Lは、直線状である。この場合、更に座屈を生じ難くすることができる。
【0062】
上述のとおり、本発明の各実施形態によれば、座屈性能及び耐久性に優れた免震装置を提供することができる。
【0063】
上述したところは、本発明のいくつかの実施形態を開示したにすぎず、特許請求の範囲に従えば、様々な変更が可能となる。上述した各実施形態に採用された様々な構成は、相互に適宜、置き換えることができる。
【符号の説明】
【0064】
1A:免震装置(第1の実施形態), 1B:免震装置(第2の実施形態), 10:積層構造体, 11:硬質材料, 111a:一方側末端硬質材料, 111b:他方側末端硬質材料, 112:中央硬質材料, 113:中間硬質材料, 111e1:一方側末端硬質材料の幅方向外縁, 111e2:他方側末端硬質材料の幅方向外縁, 112e:中央硬質材料の幅方向外縁, 113e:中間硬質材料の幅方向外縁, 12:軟質材料, A:角度, H0:積層構造体の上下方向高さ, H3:中間領域の上下方向高さ, L:仮想稜線, R1A:一方側末端領域, R1B:他方側末端領域, R2:中央領域, R3:中間領域, W1a:一方側末端硬質材料の幅, W2:中央硬質材料の幅, W3:中間硬質材料の幅
図1
図2