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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/347 20060101AFI20221125BHJP
   G01D 5/38 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
G01D5/347 110P
G01D5/347 110T
G01D5/38 B
G01D5/38 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019120275
(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公開番号】P2021004861
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】新谷 真之
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-215241(JP,A)
【文献】特開2014-134532(JP,A)
【文献】特表2012-500981(JP,A)
【文献】特開平03-015719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00- 5/62
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端部から中央に進むにつれて疎から密となり、中央から他方の端部に進むにつれて密から疎となる格子パターンを有するスケールと、
台座に所定の距離離れて取り付けられ、前記格子パターンに基づくそれぞれの前記スケール上の位置を検出する2つのセンサヘッドと、
を備え、
前記2つのセンサヘッドにより検出された位置の差分の変化に基づいて、前記台座または前記スケールの熱変形を検出し、
前記差分が前記センサヘッドの変位量に対して所定の関数として表され、前記所定の関数の曲率の変化に基づいて、前記台座または前記スケールの熱変形を検出することを特徴とする検出装置。
【請求項2】
測定時における前記所定の関数の曲率及び基準時における前記所定の関数の曲率の比率に基づいて、前記台座または前記スケールの熱変形を補正することを特徴とする請求項に記載の検出装置。
【請求項3】
前記スケール上の絶対位置を検出するアブソリュートスケールとして機能すること特徴とする請求項1または2に記載の検出装置。
【請求項4】
一方の端部から中央に進むにつれて疎から密となり、中央から他方の端部に進むにつれて密から疎となる格子パターンを有するスケールと、
台座に所定の距離離れて取り付けられ、前記格子に基づくそれぞれの前記スケール上の位置を検出する2つのセンサヘッドと、
を備え、
前記2つのセンサヘッドにより検出された位置の差分の変化に基づいて、前記台座または前記スケールの熱変形を検出し、
前記センサヘッドの変位量に対する前記差分の相関を示すグラフの極大点または極小点である前記スケールの格子のピッチが最も密な位置または粗な位置を求め、該位置を原点とするインクリメンタルスケールとして機能すること特徴とする検出装置。
【請求項5】
前記センサヘッドが光センサで構成されることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の検出装置。
【請求項6】
前記台座が金属から形成され、前記スケールがガラスから形成されることを特徴とする請求項5に記載の検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スケールを用いて位置を検出する検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スケールを用いて位置を検出する検出装置が、様々な技術分野で用いられている。その中には、2つのセンサでスケールに設けられたマークを検出し、2つのセンサで検出したマーク検出信号の位相差から、熱膨張等によるマークのピッチ誤差を算出して補正を行うインクリメンタル方式の位置検出装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-160512号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の検出装置では、熱変形等により予めマークのピッチ誤差が生じていて、その誤差が半波長(180度位相)を越えている場合には、マークのピッチ誤差を正常に検出できない問題が生じる。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、既に熱変形が生じている場合を含む任意の状態において、熱変形を正確に検出できる検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の1つの実施態様に係る検出装置は、
歪みを有する格子を備えたスケールと、
台座に所定の距離離れて取り付けられ、前記格子に基づく前記スケール上の位置を検出する2つのセンサヘッドと、
を備え、
前記2つのセンサヘッドにより検出された位置の差分の変化に基づいて、前記台座または前記スケールの熱変形を検出する。
【発明の効果】
【0007】
上記の実施態様によれば、既に熱変形が生じている場合を含む任意の状態において、熱変形を正確に検出できる検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】歪みを有する格子を備えたスケールの一例を模式的に示す平面図である。
図2図1に示すスケールのX軸方向における変位量及び格子によるカウント値の相関を示すグラフである。
図3】本発明の1つの実施形態に係る検出装置を模式的に示す側面図である。
図4】本発明の1つの実施形態に係る検出システムを示すブロック図である。
図5】1つの実施形態に係る検出装置の2つのセンサヘッドの変位量及びその変位量におけるカウント値の相関を示すグラフである。
図6図5に示す変位量及びその変位量における2つのセンサヘッドのカウント値の差分の相関を示すグラフである。
図7】本発明の1つの実施形態に係る検出装置において、台座に熱膨張が生じた場合を模式的に示す側面図である。
図8】台座に熱膨張が生じた場合における、1つの実施形態に係る検出装置の2つのセンサヘッドの変位量及びその変位量におけるカウント値の相関を示すグラフである。
図9図7に示す変位量及びその変位量における2つのセンサヘッドのカウント値の差分の相関を示すグラフである。
図10】本発明の1つの実施形態に係る検出装置において、スケールに熱膨張が生じた場合を模式的に示す側面図である。
図11】ヘッドがスケール端に位置するときに、電源投入/カウントリセットした場合における、2つのセンサヘッドの変位量及びその変位量におけるカウント値の相関、及び変位量及び2つのセンサヘッドのカウント値の差分の相関を示すグラフであって、左側に熱変形しない場合のグラフを示し、右側に熱変形した場合のグラフを示す。
図12】ヘッドがスケール中央に位置するときに電源投入/カウントリセットした場合における、2つのセンサヘッドの変位量及びその変位量におけるカウント値の相関、及び変位量及び2つのセンサヘッドのカウント値の差分の相関を示すグラフであって、左側に熱変形しない場合のグラフを示し、右側に熱変形した場合のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張して示している場合もある。
【0010】
(本発明の1つの実施形態に係る検出装置、制御システム)
はじめに、図1から図4を参照しながら、本発明の1つの実施形態に係る検出装置及び検出システムの説明を行う。図1は、歪みを有する格子を備えたスケールの一例を模式的に示す平面図である。図2は、図1に示すスケールのX軸方向における変位量及び格子のカウント値の相関を示すグラフである。図3は、本発明の1つの実施形態に係る検出装置を模式的に示す側面図である。図4は、本発明の1つの実施形態に係る検出システムを示すブロック図である。
【0011】
本実施形態に係る検出装置2は、スケール10と、台座4に所定の距離離れて取り付けられた2つのセンサヘッドH1、H2とを備える。スケール10は、略平板状の形状を有する。センサヘッドH1、H2の出射/受光面は、スケール10の上面である検出面10aに対向して配置されている。センサヘッドH1、H2が取り付けられた台座4は、移動機構20により、スケール10の検出面10aに沿って移動するようになっている。2つのセンサヘッドH1、H2の間の距離としては、20mm~100mmを例示することができる。
【0012】
模式的に示された移動機構20は、台座4のスケール10に対する変位量、つまりセンサヘッドH1、H2のスケール10に対する変位量が把握可能になっている。検出装置2自体が移動機構20を備える場合もあり得るし、検出装置2が設置された設備の移動機構でスケール10及び台座4が相対的に移動する場合もあり得る。図3では、台座4側が移動するように示してあるが、これに限られるものではなく、スケール10側が移動する場合もあり得る。
【0013】
<センサヘッド>
本実施形態に係るセンサヘッドH1、H2は、スケール10に光を照射する光源部と、スケール10からの反射光(回折光)を受光する受光部とを備える。光源部は、光源としてLDやLEDを用いることができ、コリメートレンズ、集光レンズ等の光学系を有する。受光部は、CCD、CMOS等の受光素子、及び必要に応じて、ミラーやビームスプリッタのような光学系を備える。このような構成により、センサヘッドH1、H2は、スケール10に設けられた回折格子からの回折光に基づいて信号を出力することができる。
【0014】
<スケール>
スケール10の検出面10aには、複数のスリットが形成されており、これにより回折格子が構成されている。ここでは、スケール10として、反射型の回折格子を有する場合を示すが、透過側の場合もあり得る。
【0015】
スケール2の検出面2aには、X軸方向に沿って、所定の間隔を開けて複数のスリットが形成されており、このスリットによって回折格子が構成されている。本実施形態では、回折格子のピッチ間隔が、座標に対して3次の多項式で近似可能に設定されている。センサヘッドH1、H2は、光源部からスケール10に光を照射し、反射光である回折光に基づいて信号を出力する。
【0016】
更に詳細に述べれば、回折格子に光を照射して得られる回折光またはその合波光(干渉光)を受光部が受光するのに基づいてカウントアップして、回折光に基づくカウント値を得ることができる。例えば、-1、+1次の各回折光を干渉させて生成される2相正弦波により、格子間隔の1/2の信号周期を得ることができる。更に光学系を用いることにより、格子間隔の1/4の信号周期を得ることもできる。この信号を内挿回路で分割することでより高分解能をもつカウント値を得ることができる。
【0017】
上記のような回折格子のピッチ間隔により、センサヘッドH1、H2のX軸方向の変位量Xと、変位量XにおけるセンサヘッドH1、H2から出力される信号に基づくカウント値Sとの関係を、3次の多項式(S=-aX+bX+cX+d)で表すことができる。ただし、関係式は3次式に限られるのではなく、回折格子のパターンに応じて、1次の多項式で表される場合もあり得るし、2次の多項式で表される場合もあり得るし、4次以上の高次の多項式で表される場合もあり得る。
【0018】
本実施形態の回折折格子パターンは、更にX軸方向の一方の端部から中央に進むにつれて疎から密となり、中央から他方の端部に進むにつれて密から疎となるパターンを有する。直交するY軸方向においても、同様に、カウント値が3次の多項式で近似され、一方の端部から中央に進むにつれて疎から密となり、中央から他方の端部に進むにつれて密から疎となる回折格子のパターンを有する。つまり、本実施形態に係るスケール10は、歪みを有する格子を備えていると言える。
【0019】
<検出システム>
上記の検出装置2を含む1つの実施形態に係る検出システムでは、図4に示すように、制御部30が、移動機構20のアクチュエータを制御して、センサヘッドH1、H2が取り付けられた台座4の移動制御を行う。移動機構20のアクチュエータとしては、ステッピングモータをはじめとする制御部30が精密な位置制御を実施可能なアクチュエータが用いられる。これにより、制御部30は、台座4に取り付けられたセンサヘッドH1及びセンサヘッドH2のスケール10上の変位量Xを正確に把握することができる。
なお、センサヘッドH1及びセンサヘッドH2が取り付けられた台座4またはスケール10が、検出装置2が設置された設備の駆動機構で移動する場合もあり得るが、その場合には、制御部30は、その設備の制御装置から変位量の情報を得ることができる。
【0020】
制御部30は、センサヘッドH1、H2と電気的に接続されている。センサヘッドH1、H2は、光源部から出射された光がスケール10で反射された回折光に基づいて、信号を出力する。制御部30は、センサヘッドH1、H2から信号を受信したとき、カウンタを繰り上げて、カウント値を取得する。スケール10は、疎から密、密から疎となる歪みを有する格子パターンをするので、後述するように、センサヘッドH1、H2からの信号に基づくカウント値の差文を用いて、センサヘッドH1、H2のスケール10に対する絶対位置を検出することができる。
【0021】
次に、センサヘッドH1、H2からの信号に基づくカウント値を用いて、スケール10上の絶対位置を検出する具体的な方法について説明する。はじめに、センサヘッドH1、H2が取り付けられた台座4やスケール10に熱変形が生じない場合における絶対位置の検出方法をついて説明し、次に、熱変形が生じる場合における絶対位置の検出方法をついて説明する。その場合、センサヘッドH1、H2に電源が投入された後またはカウントリセットされた後に熱変形する場合の絶対位置の検出方法と、電源が投入される前またはカウントリセットされる前に熱変形した場合を含む任意の状態において、絶対位置を検出可能な方法に分けて説明する。
【0022】
(熱変形しない場合の絶対位置の測定)
はじめに、図5及び図6を参照しながら、熱変形が生じない場合において、センサヘッドH1、H2からの信号に基づくカウント値を用いて、スケール10上の絶対位置を検出する方法を説明する。図5は、1つの実施形態に係る検出装置の2つのセンサヘッドの変位量及びその変位量におけるカウント値の相関を示すグラフである。図6は、図5に示す変位量及びその変位量における2つのセンサヘッドのカウント値の差分の相関を示すグラフである。
【0023】
上記のように、2つのセンサヘッドH1、H2の変位量Xにおけるカウント値は、変位量Xの3次の多項式で表すことができ、図5のような3次関数の曲線で表される。また、2つのセンサヘッドH1、H2の変位量Xにおけるカウント値の差分は、変位量Xの2次の多項式で表すことができ、図6のような2次関数の曲線で表される。
【0024】
上記のように、スケール10の回折格子パターンは、X軸方向の一方の端部から中央に進むにつれて疎から密となるパターンを有するので、センサヘッドH1、H2からの信号に基づくカウント値の差分と、回折格子パターンの絶対位置とは一対一対応している。よって、センサヘッドH1、H2からの信号に基づくカウント値の差分により、この領域におけるスケール10上の絶対位置が定まる。同様に、スケール10の回折格子パターンは、中央から他方の端部に進むにつれて密から疎となるパターンを有するので、センサヘッドH1、H2からの信号に基づくカウント値の差分と、回折格子パターンの絶対位置とは一対一対応している。よって、センサヘッドH1、H2からの信号に基づくカウント値の差分により、この領域におけるスケール10上の絶対位置が定まる。
【0025】
制御部30は、スケール10上の絶対位置、及びそれに対応したセンサヘッドH1及びH2のカウント値差分の参照データを記憶している。よって、粗から密となる領域であるか、密から疎となる領域であるか識別できる場合には、実測値であるセンサヘッドH1、H2からの信号に基づくカウント値の差分により、参照データを用いてスケール10上の絶対位置を定めることができる。
【0026】
しかし、スケール10の回折格子パターンが、中央に対して対象なパターンを有していた場合、中央に対して対称位置でのカウント値またはその差分は同じ値になる。よって、疎から密となる領域であるか、密から疎となる領域であるか識別できない場合には、スケール10上の1つの絶対位置を定めることができない。
【0027】
このとき、図6に示すように、2次の多項式で示されるセンサヘッドH1、H2のカウント値の差分のグラフにおける極大点(接線Qが水平線となる点)の位置が定められる。この極大点Pは、格子のピッチが最も密なスケール10の中央の点となる。よって、この極大点Pの変位量及びカウント値の差文を基準として、測定地点における変位量及びカウント値の差分により絶対位置を定めることができる。
これにより、2つのヘッドを用いるだけで絶対位置が検出できるので、小型な検出装置2を提供することができる。
【0028】
また、この極大点Pを原点として、プラス方向及びマイナス方向に変位するインクリメンタルスケールとして利用することもできる。これにより、2つのヘッドを用いたインクリメンタル式の小型な検出装置2を提供することができる。
【0029】
少なくとも3点における変位量及びカウント値の差分が測定できれば、図6のような2次の多項式で示されるグラフを定めることができる。よって、その極大点であるスケール10上の格子のピッチが最も密な中央の点の位置を定めて、測定点の絶対位置を定めることができる。同様にこの極大点を原点として、インクリメンタルスケールとして用いることもできる。
スケール10上のY軸方向の絶対位置の検出についても、上記のX軸方向の絶対位置の検出と同様である。
【0030】
(熱変形の検出)
次に、センサヘッドH1、H2が取り付けられた台座4が熱変形した場合について説明する。ここでは、熱変形の一例として、熱膨張した場合を例に取って説明する。
【0031】
<電源が投入された後/カウントリセットされた後に熱変形する場合>
はじめに、図7から図9を参照しながら、センサヘッドH1、H2に電源が投入された後またはカウントリセットされた後に、センサヘッドH1、H2が取り付けられた台座4が熱変形する場合について説明する。図7は、本発明の1つの実施形態に係る検出装置において、台座に熱膨張が生じた場合を模式的に示す側面図である。図8は、台座に熱膨張が生じた場合における、1つの実施形態に係る検出装置の2つのセンサヘッドの変位量及びその変位量におけるカウント値の相関を示すグラフである。図9は、図7に示す変位量及びその変位量における2つのセンサヘッドのカウント値の差分の相関を示すグラフである。図8及び図9の点線で示したグラフが、台座4が熱膨張しない場合(図5図6と同じ場合)を示し、実線で示したグラフが、台座4が熱膨張した場合を示す。
【0032】
図7の斜線入りの矢印に示すように、センサヘッドH1、H2が取り付けられた台座4が熱膨張したことにより、センサヘッドH1の受光部及びセンサヘッドH2の受光部の間の距離が広がる。センサヘッドH1及びセンサヘッドH2の中間位置を基準に考えると、センサヘッドH1は熱膨張がない場合の位置よりもX軸マイナス側に移動し、センサヘッドH2は熱膨張がない場合の位置よりもX軸プラス側に移動したことになる。
【0033】
よって、図8に示すように、同じ変位量Xにおいて、台座4が熱膨張した場合には、センサヘッドH1ではカウント値が上昇し、センサヘッドH1ではカウント値が下降することになる。これにより、図9に示すように、台座4が熱膨張した場合には、同じ変位量Xにおいて、センサヘッドH1のカウント値及びセンサヘッドH2のカウント値の差分は上昇することになる。
なお、逆に、台座4が熱収縮した場合には、同じ変位量Xにおいて、センサヘッドH1のカウント値及びセンサヘッドH2のカウント値の差分は下降することになる。
【0034】
制御部30は、記憶している熱変形がない基準状態における変位量X及び変位量Xにおけるカウント値の差分の相関との比較により、台座4またはスケール10が熱変形しているか否か検出することができる。
【0035】
インクリメンタル方式のスケールの位置の検出装置では、予め半波長(180度位相)を越えた熱膨張が生じている場合には、熱膨張を正常に検出することができない。しかし、本実施形態では、歪みを有する格子を備えたスケール10及び格子に基づくスケール10上の位置を検出する2つのセンサヘッドH1、H2を用いて、2つのセンサヘッドH1、H2により検出されたカウント値の差分に基づいて、台座4またはスケール10の熱変形を検出することができる。よって、本実施形態では、センサヘッドH1、H2に電源が投入された後またはカウントリセットされた後に熱変形が生じる場合において、熱変形を正確に検出できる検出装置を提供することができる。
【0036】
特に、スケール10が、一方の端部から中央に進むにつれて疎から密となり、中央から他方の端部に進むにつれて密から疎となる格子パターンを有する場合には、熱変形を正確に検出できる。
【0037】
また、台座4が金属から形成され、スケール10がガラスから形成されている場合には、熱による変形差が生じやすく、熱変形の検出を容易に正確に行うことができる。この場合には、図7に示すように、ほぼ台座4だけが熱変形するとみなすことができる。よって、制御部30は、参照データに比べて、同じ変位量Xにおけるカウント値が上昇していれば、台座4が熱膨張していると判断することができる。逆に、制御部30は、参照データに比べて、同じ変位量Xにおけるカウント値が下降していれば、台座4が熱収縮していると判断することができる。
【0038】
ただし、これに限られるものではなく、逆に、台座4がガラスから形成され、スケール10が金属から形成される場合もあり得る。その場合には、図10の斜線入りの矢印に示すように、スケール10が熱膨張することになる。この場合にも、熱による変形差が生じやすく、熱変形の検出を容易に正確に行うことができる。
【0039】
更に、台座4及びスケール10において熱変形の差が生じる材料であれば、台座4及びスケール10にその他の任意の材料を用いることができる。この場合には、2つのセンサヘッドH1、H2により検出されたカウント値の差分に基づいて、台座4及びスケール10の相対的な熱変形を検出することができる。
【0040】
また、上記のように、センサヘッドH1、H2が光センサで構成される場合には、回折格子を用いた正確な位置検出が実現できる。ただし、これに限られるものではなく、センサヘッドとして磁気センサヘッドを用いることもできる。磁気センサに対応するスケールを用いることにより、同様に台座またはスケールの熱変形を検出することができる。
【0041】
<電源が投入される前/カウントリセットされる前に熱変形した場合>
電源が投入される前またはカウントリセットされる前に熱変形した場合には、センサヘッドH1、H2からの信号に基づくカウント値の差分と、回折格子パターンの絶対位置とは一対一対応せず、スケール10状の絶対位置を検出することができない場合がある。次に、図11及び図12を参照しながら、センサヘッドの電源が投入される前またはカウントリセットされる前に熱変形した場合のカウント値の差分について説明する。
【0042】
図11は、ヘッドがスケール端に位置するときに、電源投入/カウントリセットした場合における、2つのセンサヘッドの変位量及びその変位量におけるカウント値の相関、及び変位量及び2つのセンサヘッドのカウント値の差分の相関を示すグラフであって、左側に熱変形しない場合のグラフを示し、右側に熱変形した場合のグラフを示す。図12は、ヘッドがスケール中央に位置するときに電源投入/カウントリセットした場合における、2つのセンサヘッドの変位量及びその変位量におけるカウント値の相関、及び変位量及び2つのセンサヘッドのカウント値の差分の相関を示すグラフであって、左側に熱変形しない場合のグラフを示し、右側に熱変形した場合のグラフを示す。
【0043】
電源が投入される前またはカウントリセットされる前に熱変形した場合、同一ヘッドで既知の距離L移動した際のカウント値の差分であれば、差分と位置が一対一対応するが、ヘッド2個のカウント値の差分では、電源投入時/カウントリセット時の位置によって変わることになる。
【0044】
図11にはスケール10の端部の位置で電源投入またはカウントリセットした場合を示し、左側のグラフが熱変形しない場合を示し、右側のグラフが電源投入/カウントリセット前に熱変形した場合を示す。図11から明らかなように、熱変形の有無によって、カウント値の差分の差分H1-H2のプロファイルが異なっている、
【0045】
図12にはスケール10の中央の位置で電源投入またはカウントリセットした場合を示し、左側のグラフが熱変形しない場合を示し、右側のグラフが電源投入/カウントリセット前に熱変形した場合を示す。図12においても、熱変形の有無によって、カウント値の差分の差分H1-H2のプロファイルが異なっている。
このため、電源投入/カウントリセット前に熱変形が生じている場合には、図8図9を用いて説明した上記の方法では、スケール10上の絶対位置を正確に検出することができない。
【0046】
(熱変形の解析)
制御部30は、下記のような熱変形の解析に基づいて、電源投入前/カウントリセット前に熱変形が生じた場合を含む任意の状態において、スケール10上の絶対位置を正確に検出することができる。
スケール10の回折格子による変位量Xにおけるカウント値が3次の多項式で表せる場合には、センサヘッドH1、H2の変位量X及び変位量Xにおけるカウント値の差分は2次の多項式で表せる。よって、測定時における変位量X及びカウント値の差分の2次曲線と、熱変形のない基準状態における変位量X及びカウント値の差分の2次曲線の曲率の比率に基づいて、熱変位を定量的に検出することができる。測定時及び基準状態における2次曲線の曲率の比率を求めることにより、基準状態に対する熱変形の比率を求めることができる。
【0047】
基準状態に対する熱変形の比率に基づいて、測定時のカウント値の差分を適切に補正することにより、センサヘッドH1、H2の電源投入/カウントリセットの前後に関わらず、台座4やスケール10に熱変形が生じた場合であっても、正確な絶対位置を検出することができる。この場合、スケール10及び台座4のどちらか一方が熱変形する場合であっても、両方が熱変形する場合であっても、熱変形の比率に基づいて適切に補正行って正確な絶対位置を検出することができる。
スケール10の回折格子による変位量Xにおけるカウント値が4次以上の多項式やその他の関数で表すこともでき、その場合にも同様に熱変形を定量的に検出して、測定値を補正することができる。
【0048】
以上のように、本実施形態に係る検出装置2では、カウント値の差分が変位量に対して所定の関数として表され、所定の関数の曲率の変化に基づいて、台座4またはスケール10の熱変形を検出することができる。関数の曲率の変化に基づくので、制御部30により、センサヘッドH1、H2の電源投入/カウントリセットの前後に関わらず、熱変形を迅速に正確に検出することができる。
【0049】
特に、測定時における所定の関数の曲率及び基準時における所定の関数の曲率の比率に基づいて、台座4及びスケール10の基準時に対する相対的な熱変形の比率を算出して、測定値を正確に補正することができる。よって、センサヘッドH1、H2の電源投入前/カウントリセット前を含む任意の状態において、熱変形を正確に検出して、測定値を補正できる検出装置2を提供することができる。
【0050】
例えば、どちらかがガラスで形成されている場合には、台座4及びスケール10のどちらか一方に熱変形が生じるとみなせる。その場合、熱変形が生じる部材の熱膨張率は把握しているので、上記のようにして定めた基準状態に対する熱変形の比率に基づいて、検出装置2が設置されている環境の温度を推定することもできる。
【0051】
台座4及びスケール10の基準状態に対する熱変形の比率が所定の閾値を越えた場合に、制御部30がアラームを発信することもできる。これにより、温度センサ等を用いることなく、温度環境に関する監視制御を適切に行うことができる。
【0052】
以上のように、センサヘッドH1、H2の電源投入前/カウントリセット前を含む任意の状態において、スケール10上の絶対位置を検出するアブソリュートスケールとして機能することができる。
【0053】
更に、センサヘッドの変位量に対する差分の相関を示すグラフにおいて、グラフの極大点であるスケール10上の格子のピッチが最も密な位置を定めて、この極大点を原点として、インクリメンタルスケールとして機能することもできる。この場合においても、センサヘッドの電源投入前/カウントリセット前を含む任意の状態において、熱変形を正確に検出して、正確な位置を検出可能なインクリメンタルスケールを提供することができる。また、スケール10の格子パターンによっては、センサヘッドの変位量に対する差分の相関を示すグラフにおいて、グラフの極小点であるスケール10上の格子のピッチが最も粗な位置を定めて、この極小点を原点として、インクリメンタルスケールとして機能することもできる。
【0054】
本発明の実施の形態、実施の態様を説明したが、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施の形態、実施の態様における要素の組合せや順序の変化等は請求された本発明の範囲および思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【符号の説明】
【0055】
2 検出装置
4 台座
10 スケール
10a 検出面
20 移動機構
30 制御部
H1、H2 センサヘッド
P 極大点
Q 接線
図1
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