(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】安全キャビネット
(51)【国際特許分類】
B01L 1/00 20060101AFI20221125BHJP
F24F 7/06 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
B01L1/00 C
F24F7/06 C
(21)【出願番号】P 2019128745
(22)【出願日】2019-07-10
【審査請求日】2021-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松村 健史
(72)【発明者】
【氏名】金子 健
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-007768(JP,A)
【文献】特開2019-000817(JP,A)
【文献】国際公開第2016/143228(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/111143(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01L 1/00-99/00
F24F 7/00- 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業室と、前記作業室の前面の開口部の一部を覆う前面扉と、前記前面扉の下側に、作業者が手を入れて作業を行うことができる作業開口部を有し、前記作業室の下部の作業台の前面側に、作業室内の空気と前記作業開口部を通して外部の空気を吸い込む吸気口を備える安全キャビネットであって、
前記前面扉の作業室側であって前記作業室の前部上方に、空気流を引き込む整流板を備え、
前記作業室の前部上方に複数の線状光源を備え、
複数の線状光源の内の前記作業開口部に近い側の線状光源は、前記作業開口部から遠い側の線状光源に比べて、前記前面扉に近づくように配置した安全キャビネット。
【請求項2】
請求項
1に記載の安全キャビネットにおいて、
前記線状光源は、照明取付座により、前記作業室の側壁に取り付けられている安全キャビネット。
【請求項3】
作業室と、前記作業室の前面の開口部の一部を覆う前面扉と、前記前面扉の下側に、作業者が手を入れて作業を行うことができる作業開口部を有し、前記作業室の下部の作業台の前面側に、作業室内の空気と前記作業開口部を通して外部の空気を吸い込む吸気口を備える安全キャビネットであって、
前記前面扉の作業室側であって前記作業室の前部上方に、空気流を引き込む整流板を備え、
前記作業室の前部上方に線状光源を備え、
前記線状光源は、照明取付座により、前記作業室の側壁に取り付けられ、
前記照明取付座と前記整流板とが一体化されている安全キャビネット。
【請求項4】
請求項
1または3に記載の安全キャビネットにおいて、
前記線状光源は、直管形LED照明灯である安全キャビネット。
【請求項5】
請求項
1または3に記載の安全キャビネットにおいて、
前記整流板は、上部または下部の少なくとも一方にL字状に折り曲げた曲げ部を備える安全キャビネット。
【請求項6】
請求項
5に記載の安全キャビネットにおいて、
前記整流板の下部の曲げ部に、空気が通り抜けるスリットを備える安全キャビネット。
【請求項7】
作業室と、前記作業室の前面の開口部の一部を覆う前面扉と、前記前面扉の下側に、作業者が手を入れて作業を行うことができる作業開口部を有し、前記作業室の下部の作業台の前面側に、作業室内の空気と前記作業開口部を通して外部の空気を吸い込む吸気口を備える安全キャビネットであって、
前記前面扉の作業室側であって前記作業室の前部上方に、空気流を引き込む整流板を備え、
作業者の目前に設置された化粧カバーを鏡面仕上げのステンレス製とした安全キャビネット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の調製などの再生医療や病原体等の研究に用いる安全キャビネットに関する。
【背景技術】
【0002】
病源体等の研究や、再生医療などで細胞や微生物を取り扱う場合、アイソレータや安全キャビネットが用いられている。
【0003】
開放系である安全キャビネット(バイオハザード対策用クラスIIキャビネット)では、装置内に形成した作業室の上部吹出し部から、HEPAフィルタなどで塵埃、病原体等をろ過した清浄空気を作業室へ供給する。そして、作業室の下面である作業台の前方に形成した作業台前部吸気口から、作業室の前面に形成した作業開口部を通して安全キャビネットを配置した部屋の空気を、作業室の空気と一緒に吸込み、作業開口部に流入気流を発生させる。また、吸込んだ空気を安全キャビネット外に排気する際には、排気用HEPAフィルタなどで病原体等を含んだ空気をろ過する。HEPAフィルタは、High Efficiency Particulate Air Filterの略である。作業開口部に発生する流入気流により、作業室内で取り扱う病原体等が安全キャビネット外に漏れて、作業者への感染および環境へ広がることを防止している。特許文献1には安全キャビネットの一例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
安全キャビネットにおいては、前面扉の下方の作業開口部から手を入れて作業を行うため、作業性は良好であるが、作業方法または機器の扱い方によっては、作業室内に機外の一般空気が混入したり、作業室外に機内で取り扱った試料が漏洩したりする恐れがある。
【0006】
本発明は、作業開口部のエアバリアを強め、試料の汚染を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための、本発明の「安全キャビネット」の一例を挙げれば、
作業室と、前記作業室の前面の開口部の一部を覆う前面扉と、前記前面扉の下側に、作業者が手を入れて作業を行うことができる作業開口部を有し、前記作業室の下部の作業台の前面側に、作業室内の空気と前記作業開口部を通して外部の空気を吸い込む吸気口を備える安全キャビネットであって、前記前面扉の作業室側であって前記作業室の前部上方に、空気流を引き込む整流板を備え、前記作業室の前部上方に複数の線状光源を備え、複数の線状光源の内の前記作業開口部に近い側の線状光源は、前記作業開口部から遠い側の線状光源に比べて、前記前面扉に近づくように配置したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、作業開口部のエアバリアを強めることにより、試料の汚染(コンタミ)を抑制することができる安全キャビネットを提供することができる。
【0009】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1の安全キャビネットを示す外観正面図である。
【
図2】実施例1の安全キャビネットを示す側面断面図である。
【
図3】
図2の安全キャビネットの動作時の空気の流れを示す図である。
【
図4】実施例1の安全キャビネットの一部を示す拡大図である。
【
図5】実施例2の安全キャビネットの一部を示す拡大図である。
【
図6】実施例3の安全キャビネットの一部を示す拡大図である。
【
図7】実施例4の安全キャビネットの一部を示す拡大図である。
【
図8A】実施例5の安全キャビネットの正面図である。
【
図8B】実施例5の安全キャビネットの側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を用いて、本発明の実施の形態を説明する。なお、実施の形態を説明するための各図において、同一の構成要素にはなるべく同一の名称、符号を付して、その繰り返しの説明を省略する。
【実施例1】
【0012】
図1に、安全キャビネットの概略正面図を示す。また、
図2に、
図1のA-A’断面を右方より見た安全キャビネットの側面断面図を示す。
【0013】
安全キャビネット100の筐体1の中央域に開口が設けられ、その奥に作業室4が設けられている。作業室4の前面側には、開口の上部を塞ぐように前面扉2が設けられ、その下側には作業開口部3が設けられ、作業者は作業開口部3から作業室4に手を入れて、作業を行う。前面扉2は、ガラス等の透明な材料で形成されており、作業者は前面扉2を通して作業を目視することができる。
【0014】
作業室4の底面には略平坦な作業台5が設けられ、作業者は作業台上で作業を行う。作業台5の前方側であって、作業開口部3の近くには、下方に通じる前部吸気口7が設けられている。前部吸気口7は、例えば作業開口部3に沿って筐体の左右方向に延びるスリットで形成されている。作業室4の背面側には、前部吸気口7から筐体の上部に通じる背面流路8が設けられている。
【0015】
作業室4の上側には循環用FFU(ファンフィルタユニット)9が設けられている。循環用FFU9はモータで回転するファンと、微粒子を除去するフィルタ、例えば循環用HEPAフィルタ9Aで構成されており、微粒子を除去した清浄な空気を、パンチング板11を通して作業室4に吹き出す。筐体1の上部には、排気用FFU(ファンフィルタユニット)10が設けられており、空気の一部をフィルタ、例えば排気用HEPAフィルタ10Aを通して、微粒子を除去して装置の外部へ排出する。
【0016】
図3に、安全キャビネット動作時の空気の流れを矢印で示す。作業台5の前面側の前部吸気口7から吸引された空気90は、符号91で示すように筐体の下部、背面流路8、筐体の上部を通って、循環用FFU9から作業室4へ送風される。作業室4には、循環用FFU9の循環用HEPAフィルタ9Aで微粒子が除去された清浄な空気が送風されることにより、作業室4は清浄な状態に維持される。このとき、符号92で示す作業室4への空気の流れのみでは、作業室内の空気が外部へ漏出する恐れがある。そのため、排気用FFU10を設け、排気用HEPAフィルタ10Aを通して空気の一部を外部へ放出する。これにより、作業室内の圧力が低下し、外部から前面扉2の下方の作業開口部3を通して内部へ導入されようとする空気の流れ94を生じる。この空気の流れ94がそのまま作業室へ流入すると作業室の清浄度が低下してしまう。しかし、循環用FFU9から作業室へ吹き出す空気の流れ92の風量と、排気用FFU10から外部へ排出する空気の流れ93の風量を適切に制御することにより、作業開口部3から流入する空気94の全てと、作業室へ送られた空気92の大半を前部吸気口7から吸い込むことで、作業室4へ吹き出す空気の流れ92により、作業開口部3からの空気94の作業室4への流入を阻止する大気の壁(エアバリア)が形成される。これにより、外部からの空気が作業室4を汚染することがなく、かつ、内部の清浄化前の空気が外部へ漏出することがないという均衡状態を実現することができる。
【0017】
安全キャビネットを用いる作業では、作業者が作業開口部3を通して作業室4に手を入れて作業を行うため、作業者が清浄無菌環境である作業室の汚染源となる恐れがある。そのため、作業開口部付近のエアバリアを強化することが必要である。また、作業者が作業室内の作業の状況を確認するために、作業室の照明が必要である。
【0018】
図4に、本発明の実施例1の安全キャビネットの一例を示し、
図4(a)は作業室の前部付近の断面図、
図4(b)はその斜視図である。
図において、前面扉2の裏側の作業室内に、前面扉2と所定の間隔を保って、前面扉2と平行に上下方向に、整流板20が設けられている。整流板20は一枚の板からなり、作業室4の前部上方に、作業室の左右の側壁を結ぶように設けられている。整流板の両側であって、作業室の両側壁には、線状光源を取り付ける照明取付座23が取り付けられている。そして、照明取付座23には、直管形LED照明灯などの線状光源22が取り付けられている。すなわち、作業室4の前部上方には、左右の両側壁に渡って線状光源22が取り付けられている。
【0019】
作業室4には、循環用FFU9により上部から空気が送風されるが、整流板20があると、整流板20の方に空気流が引き込まれ、流速が大きくなる(コアンダ効果)。そのため、前面扉2の裏側のエアバリアが強化され、作業開口部3から作業室4への外気の流入を阻止することができ、作業室内の試料の汚染を防止することができる。
【0020】
また、作業室内の前部上方に線状光源22を取り付けることにより、作業室内が前方より照明され、作業者が作業室内の作業の状況を明りょうに確認することができる。線状光源22としては、直管形蛍光灯でもよいが、LED光源は指向性を有しているので、LED照明灯を用いれば、
図4(a)に矢印で示すように、必要な場所、例えば作業台の中央部を明るく照明することができる。また、整流板20と照明取付座23とは、別体でもよいが、一体化することにより、取り付けが容易になる。
【0021】
本実施例によれば、前面扉の作業室側であって、作業室の前部上方に整流板を設けたので、前面扉の裏側のエアバリアが強化され、作業開口部から作業室への外気の流入を阻止することができ、作業室内の試料の汚染を防止することができる。また、作業室内の前部上方に線状光源を取り付けることにより、作業室内が前方より照明され、作業者が作業室内の作業の状況を明りょうに確認することができる。
【実施例2】
【0022】
図5に、本発明の実施例2の安全キャビネットの一例を示し、
図5(a)は作業室の前部付近の断面図、
図5(b)はその斜視図である。
整流板20と線状光源22を設けることは実施例1と同様であるが、本実施例は複数の線状光源22を設けるものである。図において、照明取付座23には2つの線状光源22が取り付けられている。そして、作業開口部3から遠い上方の線状光源22は前面扉2から離れているが、作業開口部3に近い下方の線状光源22は前面扉2に近づけて配置されている。すなわち、
図5(a)に示すように、2つの線状光源22を結ぶ線分は、前面扉2に対してθだけ傾けて配置されている。
【0023】
2つの線状光源22には上部から空気が送風されるが、整流板と同様に、線状光源22
の壁面にも空気流が引き込まれ、流速が大きくなる。そして、図の傾斜した矢印で示すような、作業開口部3に向かう水平成分を有する空気流を生じる。
【0024】
なお、図では2つの線状光源22を設けたが、3つ以上設けてもよい。また、図では、2つの線状光源の指向性を同じ方向としたが、1個所に集束するようにしてもよいし、或いは拡げるようにしてもよい。
【0025】
本実施例によれば、実施例1の効果に加えて、複数の線状光源の内の下方側(作業開口部に近い側)の線状光源が前面扉に近づくように配置したので、さらに作業開口部3から作業室4への外気の流入を阻止することができ、試料の汚染を防止することができる。
【実施例3】
【0026】
図6に、本発明の実施例3の安全キャビネットの一例を示し、
図6(a)は作業室の前部付近の断面図、
図6(b)はその斜視図である。
整流板20と複数の線状光源22を設けることは実施例2と同様であるが、本実施例は整流板20を補強するものである。図において、整流板20の上部および下部は略直角に折り曲げてL字状の折り曲げ部が形成されている。実施例1,2では、整流板20は平板で構成されており、曲がり易かったが、整流板20の上下にL字状の略直角な曲げ部24を設けることにより、整流板の補強を行うことができる。なお、曲げ部24の長さは、複数の線状光源22により生じる矢印の空気流を妨げないように、線状光源22を越えない長さとする。
【0027】
本実施例によれば、実施例1の効果に加えて、整流板の上下にL字状の略直角な曲げ部を設けたので、整流板の曲げを押え、強度を高めることができる。
【実施例4】
【0028】
図7に、本発明の実施例4の安全キャビネットの一例を示し、
図7(a)は作業室の前部付近の断面図、
図7(b)はその拡大図である。
整流板20に曲げ部24を設けることは実施例3と同様であるが、本実施例は整流板の曲げ部24による空気の流れを良好にするものである。
図7(b)において、整流板20の下部のL字状の曲げ部24にスリット25が形成されている。図に示すように、整流板20の曲げ部24の空気はスリット25を通って下方に抜けることができ、作業開口部3に向かう水平成分を有する空気流を生じる。なお、図に示すように、整流板20の曲げ部24付近にもスリットを設けてもよい。
【0029】
本実施例によれば、実施例1の効果に加えて、整流板の下部のL字状の曲げ部にスリットを設けたので、整流板の曲げを押え、強度を高めるとともに、作業開口部から作業室への外気の流入をより阻止することができ、試料の汚染を防止することができる。
【実施例5】
【0030】
図8Aに、本発明の実施例5の安全キャビネットの正面図を示し、
図8Bに安全キャビネットの右側面から見た断面図を示す。
【0031】
作業者の頭部や衣服などが汚れている場合には、塵埃が作業室に流入し、内部の試料を汚染する恐れがある。本実施例は、作業者が予め自身の服装などを確認できるようにするものである。
【0032】
図に示すように、作業者の目前に設置する化粧カバー30を鏡面仕上げのステンレス製とする。これにより、発塵リスクの高い顔周囲や衣服などの確認を作業前に行うことができる。また、鏡面反射により装置の圧迫感を低減できる。
【0033】
また、安全キャビネットと室内天井面の隙間を埋めるための幕板35を鏡面仕上げのステンレス製にすることでも、装置の圧迫感を低減することできる。
【符号の説明】
【0034】
1 筐体
2 前面扉
3 作業開口部
4 作業室
5 作業台
7 吸気口
8 背面流路
9 循環用ファン
9A 循環HEPAフィルタ
10 排気用ファン
10A 排気HEPAフィルタ
11 パンチング板
20 整流板
22 線状光源
23 照明取付座
24 曲げ部
25 スリット
30 化粧カバー
35 幕板
100 安全キャビネット