(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】中性子遮蔽材、貯蔵容器及び中性子遮蔽剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
G21F 1/10 20060101AFI20221125BHJP
G21F 3/00 20060101ALI20221125BHJP
G21F 5/008 20060101ALI20221125BHJP
C08G 59/24 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
G21F1/10
G21F3/00 N
G21F5/008
C08G59/24
(21)【出願番号】P 2019173217
(22)【出願日】2019-09-24
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】本棒 享子
(72)【発明者】
【氏名】小林 玲緒
(72)【発明者】
【氏名】中根 一起
(72)【発明者】
【氏名】平沼 健
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-167091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 1/10
G21F 3/00
G21F 5/008
C08G 59/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃剤と、
硬化剤としての酸無水物に由来する単位骨格を含むエポキシ樹脂と、
非イミダゾール系化合物のみである硬化促進剤と、を含む樹脂組成物により構成され、
前記エポキシ樹脂は、分子内にエポキシ基を2つ以上含む水添エポキシ主剤に由来する単位骨格を含み、
前記難燃剤は、前記樹脂組成物に対して40質量%以上60質量%以下の割合で含まれる
中性子遮蔽材。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂は、酸無水物、ジシアンジアミド、フェノール樹脂の少なくとも何れか1つである硬化剤に由来する単位骨格を含む
請求項1に記載の中性子遮蔽材。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂は、分子内にエポキシ基を2つ含む水添エポキシ主剤に由来する単位骨格を含む
請求項1又は2に記載の中性子遮蔽材。
【請求項4】
前記非イミダゾール系化合物は、三級アミン、三級アミン塩、ホスフィン類又はホスホニウム塩の少なくとも何れか1つである
請求項
1又は2に記載の中性子遮蔽材。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂は、分子内にエポキシ基を3つ以上含む水添エポキシ主剤に由来する単位骨格を含む
請求項1又は2に記載の中性子遮蔽材。
【請求項6】
前記水添エポキシ主剤は、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、又は、脂環型エポキシ化合物の少なくとも何れか1つのエポキシ化合物の水添物である
請求項
5に記載の中性子遮蔽材。
【請求項7】
前記樹脂組成物は中性子吸収剤を含み、
前記中性子吸収剤は、炭化ホウ素又は窒化ホウ素の少なくとも何れか1つである
請求項1又は2に記載の中性子遮蔽材。
【請求項8】
前記難燃剤は、水酸基を含む難燃剤である
請求項1又は2に記載の中性子遮蔽材。
【請求項9】
前記樹脂組成物は粒子状の前記難燃剤を含み、
レーザ回折散乱法に基づき測定される前記難燃剤の粒度分布は一峰分布である
請求項1又は2に記載の中性子遮蔽材。
【請求項10】
前記樹脂組成物は粒子状の前記難燃剤を含み、
レーザ回折散乱法に基づき測定される前記難燃剤の平均粒径は0.5μm以上7μm以下である
請求項1又は2に記載の中性子遮蔽材。
【請求項11】
燃料集合体を貯蔵する容器本体部と、
前記燃料集合体の周囲に配置される中性子遮蔽材とを備える貯蔵容器であって、
前記中性子遮蔽材は、
難燃剤と、
硬化剤としての酸無水物に由来する単位骨格を含むエポキシ樹脂と、
非イミダゾール系化合物のみである硬化促進剤と、を含む樹脂組成物により構成され、
前記エポキシ樹脂は、分子内にエポキシ基を2つ以上含む水添エポキシ主剤に由来する単位骨格を含み、
前記難燃剤は、前記樹脂組成物に対して40質量%以上60質量%以下の割合で含まれる
貯蔵容器。
【請求項12】
難燃剤と、
硬化剤としての酸無水物に由来する単位骨格を含むエポキシ樹脂と、
非イミダゾール系化合物のみである硬化促進剤と、を含む樹脂組成物により構成され、前記エポキシ樹脂は、分子内にエポキシ基を2つ以上含む水添エポキシ主剤に由来する単位骨格を含み、前記難燃剤は、前記樹脂組成物に対して40質量%以上60質量%以下の割合で含まれる中性子遮蔽材の製造方法であって、
少なくとも前記水添エポキシ主剤
、前記硬化剤及び前記硬化促進剤を含むエポキシ反応液を調製するエポキシ反応液調製ステップと、
終濃度40質量%以上60質量%以下になるように前記エポキシ反応液への前記難燃剤の添加により前記樹脂組成物の原料混合液を添加ステップと、
前記原料混合液中での少なくとも前記水添エポキシ主剤の硬化により前記エポキシ樹脂を含む前記中性子遮蔽材を得る硬化ステップとを含む
中性子遮蔽材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子遮蔽材、貯蔵容器及び中性子遮蔽剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼集合体の貯蔵容器(例えばキャスク)は、燃料集合体から発せられる中性子を遮蔽する中性子遮蔽材を備える。中性子遮蔽材に関する技術として、特許文献1に記載の技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、中性子吸収用ホウ素化合物粉末、選択的に含まれるガンマ線遮蔽用高密度金属粉末及び難燃剤粉末を含むそれぞれの粉末または前記粉末の混合物にアミン系硬化剤を混合して硬化剤と粉末との混合物を得る混合段階と、前記混合物に超音波を加えて前記粉末表面をアミン系硬化剤でコーティングしながら硬化剤内に分散させる超音波処理段階と、前記超音波処理された粉末が分散されたアミン系硬化剤をエポキシ樹脂と混合し、分散させる分散段階とを含む、中性子遮蔽用エポキシ樹脂組成物の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2014-514587号公報(特に請求項1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、難燃剤は、樹脂組成物全体に対して10%以上30%以下の割合で樹脂組成物に含まれる(特許文献1の段落0047参照)。このため、特許文献1に記載の技術では難燃剤の量が少なく、耐熱性に課題がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、従来よりも耐熱性を向上可能な中性子遮蔽材、貯蔵容器及び中性子遮蔽剤の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の中性子遮蔽材は、難燃剤と、硬化剤としての酸無水物に由来する単位骨格を含むエポキシ樹脂と、非イミダゾール系化合物のみである硬化促進剤と、を含む樹脂組成物により構成され、前記エポキシ樹脂は、分子内にエポキシ基を2つ以上含む水添エポキシ主剤に由来する単位骨格を含み、前記難燃剤は、前記樹脂組成物に対して40質量%以上60質量%以下の割合で含まれる。その他の解決手段は、発明を実施するための形態において後記する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来よりも耐熱性を向上可能な中性子遮蔽材、貯蔵容器及び中性子遮蔽剤の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の貯蔵容器を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本実施形態の中性子遮蔽材の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】難燃剤の配合量に対する酸素指数を示すグラフである。
【
図4】難燃剤の配合量に対する原料混合液の粘度を示すグラフである。
【
図5】難燃剤の平均粒径に対する酸素指数を示すグラフである。
【
図6】難燃剤の平均粒径に対する原料混合液の粘度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面を参照しながら本発明を実施するための形態(本実施形態)を説明するが、本発明は以下の内容に限定されず、本発明の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形して実施できる。異なる実施形態において、同じ部材は同じ符号を付すものとし、重複する説明は省略する。本発明は、異なる実施形態同士を組み合わせて実施できる。
【0011】
<貯蔵容器10>
(容器本体部11)
図1は、本実施形態の貯蔵容器10を模式的に示す斜視図である。
図1では、略円柱形状を呈する貯蔵容器10の一部を切り欠いて、その内部構造及び断面構造を示している。貯蔵容器10は、燃料集合体(図示しない)を貯蔵する容器本体部11と、燃料集合体の周囲に配置される中性子遮蔽材6とを備える。ここでいう燃料集合体は、例えば、使用済燃料集合体であり、以下同様である。ただし、貯蔵容器10に貯蔵可能な燃料集合体は使用済燃料集合体に限定されない。
【0012】
容器本体部11は、有底の内筒(内側容器)2と、内筒2の外側に設置された外筒(外側容器)3と、内筒2内に設置されており、燃料集合体を収納するためのバスケット5とを備える。また、容器本体部11は、伝熱フィン4と、一次蓋7と、二次蓋8と、トラニオン9とを備える。中性子遮蔽材6は、図示の例では、燃料集合体を貯蔵した際に燃料集合体の周囲に配置されるように、内筒2と外筒3との間、一次蓋7、及び二次蓋8の内部に配置される。中性子遮蔽材6は、中性子の吸収により貯蔵容器10の内外への中性子の往来を抑制するものであり、後記する中性子遮蔽材6A,6Bにより構成される。中性子遮蔽材6,6A,6Bについては後記する。
【0013】
内筒2は、ガンマ線を遮蔽するため、炭素鋼等で形成される。内筒2の側面には、燃料集合体からの熱を放熱する伝熱フィン4が設けられる。伝熱フィン4は、例えば、銅、アルミニウム、これらの合金等の金属板により形成される。内筒2の側面は、伝熱フィン4よりも外側に設置された外筒3で覆われる。
【0014】
バスケット5は、内筒2の内側に設置され、格子状の区画を有する。バスケット5には、貯蔵容器10に貯蔵される燃料集合体が、例えば、30~70体程度の装荷数となるように収容される。燃料集合体は、格子状に設けられた金属製の仕切板5aによって、互いに隔てられた状態で貯蔵される。
【0015】
貯蔵容器10の容器本体部11を構成する内筒2は、上部の開口(図示しない)に、一次蓋7及び二次蓋8が取り付けられる。貯蔵容器10に収容された燃料集合体は、内側の一次蓋7と外側の二次蓋8との二重構造で内筒2に密閉される。外筒3の側面には、貯蔵容器10を支持架台等に支持したり、貯蔵容器10を搬送用吊具等に固定したりする部位として、所定数のトラニオン9が設けられる。
【0016】
内筒2と外筒3との間には、内筒1及び外筒2の周方向に等間隔で、複数の伝熱フィン4が径方向に延在する。伝熱フィン4は、互いに間隔を空けて配置されており、内筒2と外筒3との間に、内筒2を囲むように空間が設けられる。一次蓋7及び二次蓋8は、燃料集合体からの放射線及び二次ガンマ線に対する遮蔽性能を確保しつつ中空構造に設けることができる。中性子遮蔽材6は、燃料集合体を囲うように、一次蓋7及び二次蓋8の中空部分に配置される。
【0017】
貯蔵容器10では、例えば内筒2を囲む位置に、耐熱性が高く、高温環境下においても中性子遮蔽性能が低下し難い中性子遮蔽材6が備えられる。そのため、一般に50年程度の貯蔵期間が想定される燃料集合体が貯蔵中に発熱を続けた場合であっても、中性子遮蔽材6の熱老化が抑制され、貯蔵容器10の中性子遮蔽性能が低下し難くなり、燃料集合体の貯蔵を長期間にわたって安全に継続することができる。
【0018】
また、貯蔵容器10への燃料集合体の装荷数を増加させた場合、高燃焼度の核燃料集合体を貯蔵する場合等にも、中性子遮蔽性能が低下し難い貯蔵容器10を提供できる。即ち、原子力発電所内の冷却プールにおける冷却期間が短い場合、高燃焼度の核燃料集合体を貯蔵する場合等であっても、貯蔵容器10への核燃料集合体の装荷数を増やすことが可能であり、貯蔵容器10の軽量化、貯蔵のための占有体積の縮小等を図ることができる。
【0019】
(中性子遮蔽材6)
中性子遮蔽材6は、難燃剤と、エポキシ樹脂と、を含む樹脂組成物により構成され、エポキシ樹脂は、分子内にエポキシ基を2つ以上含む水添エポキシ主剤に由来する単位骨格を含む。以下、説明の便宜のため、エポキシ樹脂が、(a)分子内にエポキシ基を2つ含む水添エポキシ主剤に由来する単位骨格を含む場合(中性子遮蔽材6A)と、(b)分子内にエポキシ基を3つ以上含む水添エポキシ主剤に由来する単位骨格を含む場合(中性子遮蔽材6B)とに分けて、中性子遮蔽材6を説明する。
【0020】
(a)エポキシ樹脂が、分子内にエポキシ基を2つ含む水添エポキシ主剤に由来する単位骨格を含む場合
中性子遮蔽材6Aは、エポキシ樹脂を主成分の1つとするエポキシ樹脂製のものである。中性子遮蔽材6Aは、樹脂マトリックスを形成するエポキシ樹脂中に、難燃剤、中性子吸収材等が配合され、適宜の形状に成形されて用いられる。中性子遮蔽材6Aは、中性子を遮蔽する各種の用途に用い得るが、特に、耐熱性に優れる中性子遮蔽材6Aは、例えば150℃以上300℃以下の高温が継続する可能性がある用途、例えば、乾式キャスクのような貯蔵容器10への使用に好適である。
【0021】
本明細書において「耐熱性」は、ガラス転移温度又は熱ひずみ温度を指標として評価される特性を意味する。従って、硬化物である樹脂組成物の耐熱性は、ガラス転移温度又は熱ひずみ温度を測定することによって評価できる。また、中性子遮蔽材6Aの耐熱性は、温度変化に伴う水素密度又は水素数の減少率、又は質量減損率を指標として、間接的に評価できる。なお、「難燃性」は「耐熱性」の程度を表す分類の1つである。従って、難燃性が劣れば耐熱性も劣るといえる。
【0022】
中性子遮蔽材6Aに含まれるエポキシ樹脂は、例えば原料混合液の重合反応によって硬化させた硬化物により構成される。原料混合液は、分子内にエポキシ基を2つ含む水添エポキシ主剤(二官能水添エポキシ主剤)を少なくとも含む主剤のほか、例えばエポキシ基を介した重合を促進する硬化促進剤と、を含む。従って、原料混合液の硬化物である樹脂組成物には、主剤に由来する単位骨格を含むエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂の構成骨格には含まれない硬化促進剤とが含まれる。
【0023】
また、原料混合液には、エポキシ化合物のエポキシ基を開環重合させる硬化剤が、主剤の種類、硬化条件、要求性能等に応じて任意に添加される。原料混合液が硬化剤を含む場合、エポキシ樹脂は、主剤に由来する単位骨格と、硬化剤に由来する単位骨格とを含む。
【0024】
エポキシ樹脂は、分子内にエポキシ基を2つ含む水添エポキシ主剤に由来する単位骨格を含む。なお、本明細書において水添とは、分子内に存在する芳香環の水素化により芳香環を構成する二重結合が単結合になっている状態をいう。本明細書において、水添された化合物及び樹脂を水添物という。また、エポキシ化合物の水添物は、エポキシ化合物における芳香環が水素化されたものをいう。さらも、水添されたエポキシ樹脂とは、水素化された芳香環を有するエポキシ化合物の重合体をいう。なお、エポキシ樹脂に含まれる芳香環の全てが水添されている必要は無く、一部の芳香環のみが水添されていてもよい。
【0025】
このような単位骨格を形成する水添エポキシ主剤としては、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル(水添BADGE)、及び、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル(水添BFDGE)の少なくとも何れか1つであることが好ましい。エポキシ樹脂は、核水素化されていて高い水素密度を示す。そのため、高い中性子遮蔽性能と高い耐熱性とを両立するのに好適である。主剤としては、より高い水素密度が得られる点で、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテルが特に好ましい。
【0026】
単位骨格としては、上記単位骨格に加え、更に、その他のエポキシ化合物に由来する単位骨格、エポキシ化合物の重合体であるエポキシ樹脂の骨格を含んでもよい。例えば、核水素化されていないビスフェノール型エポキシ化合物に由来する単位骨格、このようなエポキシ化合物の重合体である樹脂(プレポリマ)の骨格等を併用すると、樹脂組成物の粘度の調整、樹脂組成物の強度、靭性等の向上を図ることができる。
【0027】
その他のエポキシ化合物としては、分子内にエポキシ基を2つ含む二官能エポキシ化合物を用いてもよいし、分子内にエポキシ基を3つ以上含む多官能エポキシ化合物でもよい。その他のエポキシ化合物は、水添物でなくてもよく、水添物であってもよい。その他の樹脂は、これらエポキシ化合物の重合体とすることができる。その他のエポキシ化合物又は樹脂は、それぞれ一種でもよく、二種以上でもよい。
【0028】
その他のエポキシ化合物としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、脂環型エポキシ化合物等が挙げられる。その他のエポキシ樹脂としては、これらのエポキシ化合物の重合体であるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、フェノール樹脂型エポキシ樹脂等、これらのエポキシ樹脂の変性物等であってプレポリマに相当するエポキシ樹脂が挙げられる。
【0029】
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、例えば、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、4,4’-ビフェニルジイルビス(グリシジルエーテル)、ナフタレンジイルビス(グリシジルエーテル)、ジシクロペンタジエンジグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ビフェノールジグリシジルエーテル、ジグリシジルフェニルグリシジルエーテル、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンジグリシジルエーテル、シアヌル酸トリグリシジルエーテル、トリス(4-ヒドロキシフェニル)メタントリグリシジルエーテル、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタントリグリシジルエーテル、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)プロパントリグリシジルエーテル、1,1,2,2-テトラ(p-ヒドロキシフェニル)エタンテトラグリシジルエーテル等、これらの誘導体等が挙げられる。
【0030】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、これらのエポキシ化合物の重合体である臭素化エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、フェノール樹脂型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0031】
フェノール樹脂型エポキシ樹脂としては、例えば、フェノール類とアルデヒド類との重合体であるフェノールノボラック、1,2-キシリレン基、1,3-キシリレン基又は1,4-キシリレン基が導入されたキシリレンノボラック、ビスフェノールAとアルデヒド類との重合体であるビスフェノールAノボラック、フェノール類とサリチルアルデヒドとヒドロキシベンズアルデヒドとの重合体であるトリフェニルメタンノボラック、ビフェニル類で変性させたビフェニルノボラック、ジシクロペンタジエン類で変性させたジシクロペンタジエンフェノールノボラック、テルペン類で変性させたテルペンフェノールノボラック等のフェノール樹脂を、エピクロルヒドリン等と反応させてエポキシ化したエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0032】
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、フタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸トリグリシジルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、ナフタレンジカルボン酸ジグリシジルエステル等、これらの誘導体等が挙げられる。
【0033】
グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、これらのエポキシ化合物の重合体である環状グリシジルエステル型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0034】
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジルトルイジン、1,3-フェニレンビス(N,N-ジグリシジルメタンアミン)、4,4-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)、N,N,N’-トリグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジルキシレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、ジグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルイソシアヌレート、N,N-ジグリシジル-4-グリシジルアニリン、N,N-ジグリシジル-4-グリシジロキシアニリン、N,N-ジグリシジル-4-オキシランロキシアニリン、N,N-ジグリシジル-4-フェノキシアニリン、ジグリシジルピぺラジン、N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)-4-(2,3-エポキシプロポキシ)アニリン等、これらの誘導体等が挙げられる。
【0035】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、これらのエポキシ化合物の重合体である芳香族アミン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族アミン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0036】
脂環型エポキシ化合物としては、例えば、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-6メチル-シクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシ-6メチル-シクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4-エポキシ-6メチル-シクロヘキシルメチル)アジペート、エチレンオキシ-3,4-エポキシシクロヘキサン、カルボン酸ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イルメチル)エステル、1,1’-ビ(2,3-エポキシシクロヘキサン)、4,4’-ビ(1,2-エポキシシクロヘキサン)、リモネンジエポキシド、ジシクロペンタジエンジエポキシド、1,4-シクロヘキサジエンジエポキシド、4-ビニルシクロヘキサンジエポキシド、1,5-シクロオクタジエンジエポキシド等や、これらの誘導体等が挙げられる。
【0037】
脂環型エポキシ樹脂としては、例えば、これらのエポキシ化合物の重合体であるオリゴマー型脂環エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0038】
樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂は、常温付近で流動性を有し、常温硬化が可能であるため、中性子遮蔽材6Aを配置すべき空間への充填性に優れている。そのため、中性子遮蔽材6Aをキャスク等の用途に適用するとき、空間が狭隘な箇所又は複雑形状の箇所を有している場合にも、充填率が高く、良好な中性子遮蔽性能を示す樹脂組成物を形成することができる。
【0039】
硬化剤は、主剤とともにエポキシ樹脂の単位骨格を形成するものである。エポキシ樹脂は、酸無水物、ジシアンジアミド、フェノール樹脂(プレポリマ)の少なくとも何れか1つである硬化剤に由来する単位骨格を含むことが好ましい。中でも、エポキシ樹脂は、硬化剤としての酸無水物に由来する単位骨格を前記エポキシ樹脂の単位骨格として含むことが好ましい。なお、硬化剤は1種のみでもよく、2種以上でもよい。
【0040】
酸無水物としては、例えば、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ドデセニル無水コハク酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水クロレンディック酸等が挙げられる。これらのうち、酸無水物としては、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、及び、ドデセニル無水コハク酸の少なくとも1つの酸無水物が好ましい。
【0041】
酸無水物は、重合反応を促進する他の硬化促進剤と併用することが好ましい。酸無水物を用いると、ガラス転移点及び耐熱性が比較的高い中性子遮蔽材6Aを比較的安価に得ることができる。
【0042】
ジシアンジアミドは、単独で用いてもよいし、重合反応を促進する他の硬化促進剤と併用してもよい。ジシアンジアミドを用いると、樹脂組成物の可使時間が比較的長くなるし、機械強度が高いエポキシ樹脂を得易い。また、180℃程度以上の高温で反応するため、常温よりも高い温度の加熱硬化を行うことにより、中性子遮蔽材6Aの耐熱性を向上できる。
【0043】
フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ナフトールノボラック、キシリレンノボラック、ビスフェノールAノボラック、ビスフェノールFノボラック、トリフェニルメタンノボラック、ビフェニルノボラック、ジシクロペンタジエンノボラック、テルペンフェノールノボラック等が挙げられる。フェノール樹脂としては、一種のみを用いてもよいし、複数種を併用してもよい。フェノール樹脂は、フェノール又は核置換されたフェノール誘導体と、架橋基となる環構造を有する化合物、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド類と、を酸触媒の存在下に重合させた重合体である。
【0044】
フェノール樹脂は、重合反応を促進する他の硬化促進剤と併用することが好ましい。水添されていないフェノール樹脂を用いると、剛直な環構造が導入されるため、中性子遮蔽材6Aの耐熱性及び械強度を向上させることができる。フェノール樹脂としては、水素密度及び剛直性が高い樹脂が好ましく、フェノールノボラックが特に好ましい。
【0045】
エポキシ樹脂が硬化剤としての酸無水物に由来する単位骨格を含む場合(即ち、硬化剤として酸無水物を使用する場合)、樹脂組成物に含まれる硬化促進剤は非イミダゾール系化合物のみであることが好ましい。ここでいう「非イミダゾール系化合物」とは、イミダゾール構造、即ち5員環の1,3位に窒素原子を有する構造を有しない化合物を意味する。非イミダゾール系化合物は、低分子、高分子等のいずれであってもよい。
【0046】
硬化により樹脂組成物となる原料混合液がイミダゾール系化合物を含む場合、樹脂組成物中に、未反応のイミダゾール系化合物又はイミダゾール系化合物の反応物が残存する。これらは、中性子遮蔽材6Aが例えば150℃以上300℃以下の高温に晒されたとき、高い反応活性を示すため、樹脂組成物中に存在するエポキシ樹脂等の成分が熱分解し易くなり、水素密度の低下又は中性子遮蔽材6Aの変形を生じる。これに対し、硬化促進剤として非イミダゾール系化合物のみを用いると、樹脂組成物中にイミダゾール構造が持つ活性点が存在しなくなるため、燃料集合体が発熱を続ける乾式貯蔵等のような高温環境においても、未反応のエポキシ化合物及び硬化剤の気化による水素密度の低下、及び中性子遮蔽材6Aの変形による非遮蔽部の発生を抑制できる。この結果、高温環境においても熱老化の進行を抑制し、高い水素密度及び中性子遮蔽材6Aの形状を維持できる。
【0047】
非イミダゾール系化合物の中でも、三級アミン、三級アミン塩、ホスフィン類又はホスホニウム塩の少なくとも何れか1つが好ましく、三級アミン又は三級アミン塩の少なくとも何れか1つがより好ましい。三級アミン、三級アミン塩、ホスフィン類又はホスホニウム塩、より好ましくは三級アミン又は三級アミン塩の少なくとも何れか1つを用いることで、高温に晒されたとき、イミダゾール系化合物を用いた場合とは異なり、反応活性が高くならないため、水素密度を確保しつつ、高い耐熱性を得ることができる。
【0048】
三級アミン及び三級アミン塩としては、例えば、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,3,4-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,5-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N-ベンジルジメチルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、これらの塩(例えば塩酸塩)、有機酸塩等が挙げられる。
【0049】
これらのうち、三級アミン及び三級アミン塩としては、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール及びその塩、N-ベンジルジメチルアミン及びその塩、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン及びその塩、の少なくとも何れか1つが好ましく、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール及びその塩が特に好ましい。このような組み合わせであると、原料コストが安価になると共に、容易に常温硬化する原料混合液が得られる。また、イミダゾール系化合物を用いる場合とは異なり、中性子遮蔽材6Aが高温に晒されたときにも、樹脂組成物中に存在する成分の熱分解が低減されるため、高い耐熱性を得ることができる。
【0050】
三級アミン及び三級アミン塩は、架橋を形成する他の硬化剤と併用することが好ましい。三級アミン及び三級アミン塩を用いると、付加反応を生じる他の化合物と比較して配合量を抑制できるため、中性子遮蔽材6Aの水素密度の向上が容易になる。また、高温で活性を示す傾向があるため、常温よりも高い温度の加熱硬化を行うことにより、中性子遮蔽材6Aの耐熱性をより向上できる。
【0051】
ホスフィン類及びホスホニウム塩としては、例えば、ホスフィン、トリフェニルホスフィン、これらの塩(例えば塩酸塩)、臭化水素酸塩、有機酸塩等、テトラ-n-ブチルホスホニウムテトラフェニルボレートの少なくとも何れか1つが好ましい。ホスフィン類及びホスホニウム塩は、架橋を形成する他の硬化剤と併用することが好ましい。ホスフィン類及びホスホニウム塩を用いると、付加反応を生じる他の化合物と比較して配合量を抑制できるため、中性子遮蔽材6Aの水素密度の向上が容易になる。
【0052】
硬化促進剤としてイミダゾール系化合物を使用する場合、イミダゾール系化合物としては例えば2-エチル-4-メチルイミダゾールが挙げられる。
【0053】
硬化剤と硬化促進剤との組み合わせは、酸無水物と三級アミン及び三級アミン塩のうちの1つ以上との組み合わせ、ジシアンジアミドと三級アミン及び三級アミン塩のうちの1つ以上との組み合わせ、フェノール樹脂と三級アミン及び三級アミン塩のうちの1つ以上との組み合わせが好ましい。三級アミン及び三級アミン塩のうちの一以上とホスフィン類及びホスホニウム塩のうちの1つ以上とを組み合わせて用いてもよい。即ち、エポキシ樹脂は、硬化剤としての酸無水物に由来する単位骨格をエポキシ樹脂の単位骨格として含むとともに、樹脂組成物は、硬化促進剤として三級アミン又は三級アミン塩の少なくとも何れか1つを含むことが好ましい。
【0054】
このような組み合わせによると、常温硬化又は低温硬化であっても重合反応を短時間で進行でき、耐熱性が高い樹脂組成物を得ることができる。また、このような組み合わせによると、硬化剤の配合比を加減したり、水素数が多い種類を選択したりすることにより、硬化剤又は硬化促進剤による水素密度の希釈を小さくできる。
【0055】
主剤に由来する単位骨格と硬化剤に由来する単位骨格との含有比(通常は主剤と硬化剤との使用比率に一致する)とは、エポキシ当量と活性水素当量との当量比で0.7以上1.3以下の範囲で配合されることが好ましい。当量比は、より好ましくは0.8以上1.2以下、更に好ましくは0.9以上1.1以下である。このような範囲であれば、重合反応後、樹脂組成物において未反応のエポキシ化合物及び硬化剤の残留量が少なくなる。そのため、未反応のエポキシ化合物及び硬化剤の気化に起因して水素密度が低下することを抑制できる。なお、主に触媒として作用する硬化促進剤については、種類及び硬化条件等に応じて、適宜の配合量とすることができる。
【0056】
難燃剤は、耐火材ともいわれるものである。難燃剤は1種でもよく、2種以上でもよい。難燃剤は、樹脂組成物に対して40質量%以上、好ましくは45質量%以下、その上限は60質量%以下、好ましくは55質量%以下の割合で含まれる。難燃剤の含有量が40質量%以上であることで、中性子遮蔽材6Aの耐熱性を向上できる。一方で、難燃剤の含有量が60質量%以下であることで、樹脂組成物中の他の成分(エポキシ樹脂等)が過度に少なくなることを抑制でき、中世遮蔽材6Aによる中性子遮蔽能を発揮できる。
【0057】
難燃剤は、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、ポリリン酸アンモニウム、無機リン酸化合物、リン酸エステル、ヘキサブロモベンゼン、又は、テトラブロモビスフェノールAの少なくとも何れか1つであることが好ましく、中でも、水酸基を含む難燃剤である水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、ポリリン酸アンモニウム、無機リン酸化合物、又は、テトラブロモビスフェノールAの少なくとも何れか1つがより好ましく、水酸化アルミニウムが特に好ましい。水酸基を含む難燃剤を含むことで、中性子遮蔽材6Aの水素密度を大きくでき、中性子遮蔽材6Aの耐熱性を向上できる。
【0058】
難燃剤は、粒子状の難燃剤であることが好ましい。また、レーザ回折散乱法に基づき測定される難燃剤の平均粒径は、例えば0.2μm以上、好ましくは0.5μm以上、その上限は例えば10μm以下、好ましくは7μm以下である。これらのうち、平均粒径を例えば0.5μm以上にすることで、エポキシ樹脂と硬化剤との混合溶液の粘度を小さくでき、撹拌過程での熱硬化を抑制できる。また、成形が容易になる。一方で、平均粒径を例えば7μm以下にすることで、粘度を過度に上昇させることなく、難燃性を向上できる。
【0059】
また、レーザ回折散乱法に基づき測定される難燃剤の粒度分布は一峰分布であることが好ましい。二峰性分布の場合、上記好適範囲外の難燃剤量が増え易くなる。しかし、一峰分布とすることで、樹脂組成物の流動性を適正範囲に保ちつつ、中世遮蔽剤6Aの耐熱性を向上させることができる。
【0060】
樹脂組成物は、中性子吸収剤を含むことが好ましい。中性子吸収材としては、エポキシ樹脂の機械的特性等を損なわず、化学的に安定である限り、中性子の吸収断面積が大きい適宜の物質を用いることができる。中性子吸収材は1種でもよく、2種以上でもよい。中性子吸収材は、中性子遮蔽材の用途、使用条件、使用環境等によっては、配合しなくてもよい。
【0061】
中性子吸収材としては、例えば、炭化ホウ素、窒化ホウ素、無水ホウ酸、メタホウ酸、灰ホウ石等のホウ素化合物、カドミウム、ガドリニウム、サマリウム等の単体金属、これらの元素を含む酸化物等の化合物が挙げられる。
【0062】
中性子吸収剤は、炭化ホウ素又は窒化ホウ素の少なくとも何れか1つであることが好ましい。これらの中性子吸収材は、高温硬化を行う場合であっても、エポキシ化合物、酸無水物等の硬化剤、水酸化マグネシウム等の難燃剤と反応し難い。そのため、機械的特性、水素密度、耐熱性等を大きく損なうことなく、中性子遮蔽性能をより向上させることができる。
【0063】
中性子吸収材は、中性子遮蔽材当たり、0.1質量%以上10質量%以下の配合量とすることが好ましい。このような配合量であれば、中性子遮蔽材6Aの減速性能、樹脂組成物の混練性等を大きく損なうことなく、中性子を効率的に吸収させることができる。
【0064】
中性子遮蔽材6Aは、水素密度が5×1022個/cm3以上であることが好ましい。また、190℃の高温に200時間晒されたときの質量減損率が0.5%以下であることが好ましい。質量減損率は、後記する実施例に記載の方法に沿って測定できる。一般に、乾式キャスク等の貯蔵容器10の最高使用温度は170℃以上200℃以下程度が想定される。中性子遮蔽材6がこのような質量減損率であれば、貯蔵容器10の使用温度範囲で熱老化を十分に抑制しつつ、高い中性子遮蔽能を維持することができる。
【0065】
さらに、中性子遮蔽材6Aの酸素指数は26以上であることが好ましい。酸素指数が26以上であることで、特に良好な耐熱性を奏することができる。酸素指数は、後記する実施例に記載の方法に沿って測定できる。
【0066】
中性子遮蔽材6Aは、例えば、貯蔵容器10のほか、放射性物質輸送容器、放射性物質貯蔵容器、原子炉容器等、放射性物質を貯蔵及び輸送するための容器の放射線遮蔽部に適用できる。また、原子燃料再処理施設、使用済核燃料貯蔵施設、加速器施設等、放射性物質取り扱い施設に設けられる放射線遮蔽部にも適用できる。
【0067】
(b)エポキシ樹脂が、分子内にエポキシ基を3つ以上含む水添エポキシ主剤に由来する単位骨格を含む場合
中性子遮蔽材6Bは、中性子遮蔽材6Aと同様に、エポキシ樹脂を主成分(例えば50質量%以上)の1つとするエポキシ樹脂製のものである。ただし、中性子遮蔽材6Bを構成するエポキシ樹脂は、分子内にエポキシ基を3つ以上含む水添エポキシ主剤(多官能水添エポキシ主剤)に由来する単位骨格を含む。ここでいう「多官能水添エポキシ主剤」は、分子内にエポキシ基を3つ以上で通常は4つ以下含むものである。多官能水添エポキシ主剤は、低分子のエポキシ(エポキシ化合物)、高分子のエポキシ(エポキシ樹脂プレポリマ)等のいずれであってもよいし、1種でもよく2種以上でもよい。
【0068】
エポキシ基を3つ以上含むことで、エポキシ樹脂のガラス転移温度を高くできるとともに、未反応のエポキシ化合物又はエポキシ樹脂の残留量が低減し、分子量及び架橋密度を高くできる。このため、燃料集合体が発熱を続ける乾式貯蔵等のような高温環境においても、気化による水素密度の低下又は中性子遮蔽材の変形による非遮蔽部の発生を抑制できる。この結果、耐熱性がより高く、高温環境下においても中性子遮蔽性能がより低下し難い中性子遮蔽材6Bを得ることができる。
【0069】
以下、上記の中性子遮蔽材6Aと異なる点を中心に中性子遮蔽材6Bの説明を行い、共通する点の説明は省略する。従って、以下に説明の無い事項であっても、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、上記中性子遮蔽材6Aに記載の事項と同内容を中性子遮蔽材6Bに適用できる。
【0070】
上記単位骨格を形成する多官能水添エポキシ主剤としては、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、又は、脂環型エポキシ化合物の少なくとも何れか1つのエポキシ化合物の水添物である多官能水添エポキシ化合物が好ましい。また、多官能水添エポキシ主剤としては、これらの化合物の重合体である樹脂(プレポリマ)も好ましい。
【0071】
多官能水添エポキシ樹脂としては、いずれも水添物であって、エポキシ化合物の重合体であるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、フェノール樹脂型エポキシ樹脂等、これらのエポキシ樹脂の変性物等であってプレポリマに相当するエポキシ樹脂の水添物が挙げられる。
【0072】
多官能のグリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、いずれも水添物であって、例えば、シアヌル酸トリグリシジルエーテル、トリス(4-ヒドロキシフェニル)メタントリグリシジルエーテル、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタントリグリシジルエーテル、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)プロパントリグリシジルエーテル、1,1,2,2-テトラ(p-ヒドロキシフェニル)エタンテトラグリシジルエーテル等、これらの誘導体等が挙げられる。
【0073】
多官能のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、いずれも水添物であって、例えば、多官能エポキシ化合物等の重合体である臭素化エポキシ樹脂(臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、フェノール樹脂型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノール・ビフェニレン型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのうち、多官能のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、臭素化エポキシ、クレゾールノボラック型エポキシ、トリスフェノールメタン型エポキシ、ジシクロペンタジエン型エポキシ、ナフタレン型エポキシ(1,1-ビス(2,7-ジグリシジルオキシ-1-ナフチル)メタン)、又はフェノール・ビフェニレン型エポキシの少なくとも何れか1つが好ましい。
【0074】
フェノール樹脂型エポキシ樹脂としては、いずれも水添物であって、例えば、フェノール類とアルデヒド類との重合体であるフェノールノボラック、クレゾールとアルデヒド類との重合体であるクレゾールノボラック、1,2-キシリレン基、1,3-キシリレン基又は1,4-キシリレン基が導入されたキシリレンノボラック、ビスフェノールAとアルデヒド類との重合体であるビスフェノールAノボラック、フェノール類とサリチルアルデヒドとヒドロキシベンズアルデヒドとの重合体であるトリフェニルメタンノボラック、ビフェニル類で変性させたビフェニルノボラック、ジシクロペンタジエン類で変性させたジシクロペンタジエンフェノールノボラック、テルペン類で変性させたテルペンフェノールノボラック等のフェノール樹脂を、エピクロルヒドリン等と反応させてエポキシ化したエポキシ樹脂が挙げられる。
【0075】
多官能のグリシジルエステル型エポキシ化合物としては、いずれも水添物であって、例えば、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸トリグリシジルエステル、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸トリグリシジルエステル、トリメリット酸グリシジルエステル、ピロメリット酸グリシジルエステル等、これらの誘導体等が挙げられる。
【0076】
多官能のグリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、いずれも水添物であって、エポキシ化合物のアリルエステル等の重合体である環状多官能グリシジルエステル型エポキシ樹脂が好ましい。
【0077】
多官能のグリシジルアミン型エポキシ化合物としては、いずれも水添物であって、例えば、1,3-フェニレンビス(N,N-ジグリシジルメタンアミン)、4,4’-メチレンビス[N,N-ビス(オキシラニルメチル)アニリン]、N,N,N’-トリグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-1,3-ベンゼンジ(メタンアミン)、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、トリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジル-m-アミノフェノール、トリグリシジル-p-アミノクレゾール、トリグリシジルイソシアヌレート、N,N-ジグリシジル-4-グリシジルアニリン、N,N-ジグリシジル-4-オキシラニルオキシアニリン、N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)-4-(2,3-エポキシプロポキシ)アニリン等、これらの誘導体等が挙げられる。これらのうち、グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、4,4’-メチレンビス[N,N-ビス(オキシラニルメチル)アニリン]、トリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジル-m-アミノフェノール、トリグリシジル-p-アミノクレゾール、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-1,3-ベンゼンジ(メタンアミン)、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンの少なくとも何れか1つが好ましい。
【0078】
多官能のグリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、いずれも水添物であって、多官能エポキシ化合物等の重合体である芳香族アミン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族アミン型エポキシ樹脂の少なくとも何れか1つが好ましい。
【0079】
脂環型エポキシ化合物としては、例えば、エポキシシクロヘキサンカルボン酸のアリルエステル等の重合体であるオリゴマー型脂環エポキシ樹脂の水添物等が好ましい。
【0080】
多官能水添エポキシ主剤としては、液体性状であり、硬化物が高いガラス転移温度を有するものが、中性子遮蔽材6Bに求められる高い耐熱性と良好な製造性を両立するために特に望ましい。このような多官能水添エポキシ主剤としては、例えば、いずれも水添物であって、グリシジルアミン型エポキシ化合物及び樹脂(プレポリマ)のうち、液体性状で分子内にベンゼン環を有する化合物及び樹脂が好ましい。グリシジルアミン型エポキシ化合物及び樹脂は、分子内に繰り返し単位を持たないため、分子量が比較的小さく、液体性状となりやすい。また、芳香族アミン型エポキシ化合物である4,4’-メチレンビス[N,N-ビス(オキシラニルメチル)アニリン]、アミノフェノール型エポキシ化合物であるトリグリシジル-p-アミノフェノール、またはトリグリシジル-m-アミノフェノール、またはトリグリシジル-p-アミノクレゾール、脂肪族アミン型エポキシ化合物であるN,N,N’,N’-テトラグリシジル-1,3-ベンゼンジ(メタンアミン)が好ましい。
【0081】
エポキシ樹脂は、多官能水添エポキシ主剤に由来する単位骨格に加え、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、及び、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテルのうちの一以上のエポキシ化合物に由来する単位骨格を含むことが好ましい。これらのうち、より高い水素密度が得られる点で、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテルが特に好ましい。
【0082】
エポキシ樹脂は、多官能水添エポキシ主剤に由来する単位骨格に加え、更に、その他のエポキシ化合物及び樹脂、例えば二官能エポキシ化合物、二官能エポキシ化合物の重合体である二官能エポキシ樹脂に由来する単位骨格を1種又は2種以上含んでもよい。例えば、核水素化されていないビスフェノール型エポキシ化合物、当該エポキシ化合物の重合体であるプレポリマ等を併用すると、樹脂組成物の粘度の調整、樹脂組成物の強度、靭性等の向上を図れる場合がある。
【0083】
その他の二官能エポキシ化合物及び二官能エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ化合物、脂環型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ樹脂等、これらエポキシ化合物の誘導体、エポキシ樹脂の変性物等を併用することができる。
【0084】
二官能のグリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、例えば、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、4,4’-ビフェニルジイルビス(グリシジルエーテル)、ナフタレンジイルビス(グリシジルエーテル)、ジシクロペンタジエンジグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ビフェノールジグリシジルエーテル、ジグリシジルフェニルグリシジルエーテル、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンジグリシジルエーテル等、これらの誘導体等が挙げられる。
【0085】
二官能のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、これらのエポキシ化合物の重合体である臭素化エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0086】
二官能のグリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、フタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、ナフタレンジカルボン酸ジグリシジルエステル等、これらの誘導体等が挙げられる。
【0087】
二官能のグリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、これらのエポキシ化合物の重合体であるグリシジルエステル型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0088】
二官能のグリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジルトルイジン、ジグリシジルアミノフェノール、ジグリシジルアミノクレゾール、N,N-ジグリシジル-4-フェノキシアニリン、ジグリシジルピぺラジン等、これらの誘導体等が挙げられる。
【0089】
二官能のグリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、これらのエポキシ化合物の重合体である芳香族アミン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族アミン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0090】
二官能の脂環型エポキシ化合物としては、例えば、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-6メチル-シクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシ-6メチル-シクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4-エポキシ-6メチル-シクロヘキシルメチル)アジペート、エチレンオキシ-3,4-エポキシシクロヘキサン、カルボン酸ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イルメチル)エステル、1,1’-ビ(2,3-エポキシシクロヘキサン)、4,4’-ビ(1,2-エポキシシクロヘキサン)、リモネンジエポキシド、ジシクロペンタジエンジエポキシド、1,4-シクロヘキサジエンジエポキシド、4-ビニルシクロヘキサンジエポキシド、1,5-シクロオクタジエンジエポキシド等、これらの誘導体等が挙げられる。
【0091】
二官能の脂環型エポキシ樹脂としては、例えば、これらのエポキシ化合物の重合体である脂環型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0092】
中性子遮蔽材6Bに含まれるエポキシ樹脂は硬化剤由来の単位骨格を含んでいてもよい。
【0093】
硬化剤由来の単位骨格としては、酸無水物、ジシアンジアミド又はフェノール樹脂の少なくとも何れか1つの硬化剤由来の単位骨格が好ましい。これらは、イミダゾール構造を有しないため、5員環の1,3位に窒素原子を有するイミダゾール系化合物とは異なり、硬化後に活性点が残存し難い。そのため、中性子遮蔽材6Bが例えば150℃以上300℃以下の高温に晒されたとしても、反応活性が顕著に高くなることが無く、硬化物中に存在するエポキシ樹脂等の熱分解が低減される。よって、熱老化に対してより高い耐性を示す耐熱性が高い中性子遮蔽材6Bを得ることができる。
【0094】
酸無水物としては、例えば、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ドデセニル無水コハク酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水クロレンディック酸、メチル-3,6-エンドメチレン-1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。酸無水物は、重合反応を促進する他の硬化促進剤と併用することが好ましい。酸無水物を用いると、ガラス転移点及び耐熱性が比較的高い中性子遮蔽材6Bを比較的安価に得ることができる。
【0095】
ジシアンジアミドは、単独で用いてもよいし、重合反応を促進する他の硬化促進剤と併用してもよい。ジシアンジアミドを用いると、樹脂組成物の可使時間が比較的長くなるし、機械強度が高いエポキシ樹脂を得易い。また、180℃程度以上の高温で反応するため、常温よりも高い温度の加熱硬化を行うことにより、中性子遮蔽材6Bの耐熱性を向上できる。
【0096】
フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ナフトールノボラック、キシリレンノボラック、ビスフェノールAノボラック、ビスフェノールFノボラック、トリフェニルメタンノボラック、ビフェニルノボラック、ジシクロペンタジエンノボラック、テルペンフェノールノボラック等が挙げられる。フェノール樹脂としては、一種のみを用いてもよいし、複数種を併用してもよい。フェノール樹脂は、フェノール又は核置換されたフェノール誘導体と、架橋基となる環構造を有する化合物、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド類と、を酸触媒の存在下に重合させた重合体である。
【0097】
フェノール樹脂は、重合反応を促進する他の硬化促進剤と併用することが好ましい。水添されていないフェノール樹脂を用いると、剛直な環構造が導入されるため、中性子遮蔽材6Bの耐熱性及び機械強度を向上させることができる。フェノール樹脂としては、水素密度や剛直性が高い樹脂が好ましく、フェノールノボラックが特に好ましい。
【0098】
中性子遮蔽材6Bでは、樹脂組成物は硬化促進剤を含んでいてもよい。樹脂組成物は、イミダゾール類、イミダゾール塩、ホスフィン類、ホスホニウム塩、三級アミン、又は三級アミン塩の少なくとも何れか1つの硬化促進剤を含むことが好ましい。中でも、ホスフィン類、ホスホニウム塩、三級アミン、及び、三級アミン塩のうちの一以上を用いることがより好ましい。これらは、イミダゾール構造を有しないため、5員環の1,3位に窒素原子を有するイミダゾール系化合物とは異なり、硬化後に活性点が残存し難い。そのため、中性子遮蔽材6Bが例えば150℃以上300℃以下の高温に晒されたとしても、反応活性が顕著に高くなることが無く、硬化物中に存在するエポキシ樹脂等の熱分解が低減される。よって、熱老化に対して高い耐性を示す中性子遮蔽材6Bを得ることができる。
【0099】
イミダゾール類及びイミダゾール塩としては、例えば2-エチル-4-メチルイミダゾール及びその塩が挙げられる。
【0100】
ホスフィン類及びホスホニウム塩としては、例えば、ホスフィン、トリフェニルホスフィン、これらの塩酸塩、臭化水素酸塩、有機酸塩等、テトラ-n-ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート等が挙げられる。ホスフィン類及びホスホニウム塩は、架橋を形成する他の硬化剤と併用してもよい。ホスフィン類やホスホニウム塩を用いると、付加反応を生じる他の化合物と比較して配合量を抑制できるため、中性子遮蔽材6Bの水素密度の向上が容易になる。
【0101】
三級アミン及び三級アミン塩としては、例えば、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,3,4-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,5-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N-ベンジルジメチルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、これらの塩酸塩、有機酸塩等が挙げられる。三級アミン及び三級アミン塩は、架橋を形成する他の硬化剤と併用してもよい。三級アミン及び三級アミン塩を用いると、付加反応を生じる他の化合物と比較して配合量を抑制できるため、中性子遮蔽材6Bの水素密度の向上が容易になる。また、高温で活性を示す傾向があるため、常温よりも高い温度の加熱硬化を行うことにより、中性子遮蔽材6Bの耐熱性をより向上できる。
【0102】
硬化剤と硬化促進剤との組み合わせは、酸無水物と三級アミン及び三級アミン塩のうちの1つ以上との組み合わせ、酸無水物とホスフィン類及びホスホニウム塩のうちの1つ以上との組み合わせ、酸無水物とイミダゾール類及びイミダゾール塩のうちの1つ以上との組み合わせ、ジシアンジアミドと三級アミン及び三級アミン塩のうちの1つ以上との組み合わせ、ジシアンジアミドとホスフィン類及びホスホニウム塩のうちの1つ以上との組み合わせ、ジシアンジアミドとイミダゾール類及びイミダゾール塩のうちの1つ以上との組み合わせ、フェノール樹脂と三級アミン及び三級アミン塩のうちの1つ以上との組み合わせ、フェノール樹脂とホスフィン類及びホスホニウム塩のうちの1つ以上との組み合わせ、フェノール樹脂とイミダゾール類及びイミダゾール塩のうちの1つ以上との組み合わせが好ましい。
【0103】
このような組み合わせによると、常温硬化又は低温硬化であっても重合反応を短時間で進行でき、耐熱性が高い硬化物を得ることができる。また、このような組み合わせによると、硬化剤の配合比を加減したり、水素数が多い種類を選択したりすることにより、硬化剤又は硬化促進剤による水素密度の希釈を小さくできる。
【0104】
硬化剤と硬化促進剤との組み合わせとしては、三級アミン及び三級アミン塩のうちの一以上を用いることが好ましく、酸無水物と三級アミン及び三級アミン塩のうちの一以上との組み合わせがより好ましい。酸無水物としては、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、及び、ドデセニル無水コハク酸のうちの一以上が特に好ましい。また、三級アミン及び三級アミン塩としては、特に、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール又はその塩が特に好ましい。
【0105】
このような組み合わせであると、原料コストが安価になると共に、容易に常温硬化する樹脂組成物が得られる。また、イミダゾール系化合物を用いる場合とは異なり、中性子遮蔽材6Bが高温に晒されたときにも、硬化物中に存在する成分の熱分解が低減されるため、高い耐熱性を得ることができる。
【0106】
エポキシ樹脂は、硬化剤に由来する単位骨格を含まなくてもよいし、樹脂組成物は硬化促進剤を含まなくてもよい。例えば、多官能エポキシの反応性が特に高い場合、主剤の種類、中性子遮蔽材6Bの用途、使用条件、使用環境等によっては、硬化剤又は硬化促進剤を用いることなく、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物を形成することができる。このような場合、硬化剤又は硬化促進剤による水素密度の希釈を小さくし、良好な中性子遮蔽性能を得ることができる。例えば、多官能水添エポキシ化合物はエポキシ基を分子内に3つ以上有するため、反応性が高い。このため、酸無水物等の硬化剤を使用せずに、樹脂組成物を製造できる。この結果、硬化剤との反応により硬化剤を分解させ得る硬化促進剤であっても、使用できる。
【0107】
主剤に由来する単位骨格と硬化剤に由来する単位骨格との含有比とは、上記中性子遮蔽材6Aと同様にできる。また、難燃剤及び中性子吸収剤についても、上記中性子吸収剤6Aと同様にできる。
【0108】
(中性子遮蔽材6の製造方法)
図2は、本実施形態の中性子遮蔽材6の製造方法を示すフローチャートである。図示の例は、難燃剤と、エポキシ樹脂と、を含む樹脂組成物により構成され、エポキシ樹脂は、上記水添エポキシ主剤に由来する単位骨格を含み、難燃剤は、樹脂組成物に対して40質量%以上60質量%以下の割合で含まれる中性子遮蔽材6の製造方法に関する。中性子遮蔽材6の製造方法は、エポキシ反応液調製ステップS1と、添加ステップS2と、成形ステップS3と、硬化ステップS4とを含む。
【0109】
エポキシ反応液調製ステップS1は、少なくとも水添エポキシ主剤(主剤。二官能水添エポキシ主剤又は多官能水添エポキシ主剤)を含むエポキシ反応液を調製するものである。図示の例では、硬化剤及び硬化促進剤が使用され、エポキシ反応液は、主剤、硬化剤及び硬化促進剤の混合により調製される。ただし、硬化剤又は硬化促進剤の何れか1つを使用しない場合には、使用するもののみを水添エポキシ主剤に混合すればよい。硬化剤及び硬化促進剤の双方を使用しない場合、エポキシ反応液は、水添エポキシ主剤により構成される。
【0110】
混合は、任意の溶媒を使用して行うことができる。水添エポキシ主剤と硬化剤との混合比は特に制限されず、目的とするエポキシ樹脂の分子量、構成骨格の比等に応じて適宜決定すればよい。エポキシ反応液調製ステップS1によりエポキシ反応液中で少なくとも水添エポキシ主剤の重合が開始される。
【0111】
添加ステップS2は、終濃度40質量%以上60質量%以下になるようにエポキシ反応液への難燃剤の添加により樹脂組成物の原料混合液を得るものである。図示の例では、中性子吸収剤の添加も行われる。添加後、必要に応じて混合が行われる。原料混合液の硬化により、上記の樹脂組成物が得られる。添加ステップS2は、エポキシ反応液が流動性を有する間に行うことが好ましい。
【0112】
はじめに水添エポキシ主剤と硬化剤とを混合し、次いで難燃剤を混合することで、難燃剤が硬化剤で被覆されてしまうことを抑制できる。このため、難燃剤がエポキシ樹脂中で偏在することを抑制でき、硬化剤をエポキシ樹脂全体に分散できる。また、難燃剤が水酸基を含む場合、中性子遮蔽材6が高温に晒されたときに難燃剤から水が放出されたとしても、硬化剤被覆に起因する硬化剤内部での過度の内圧上昇を抑制できる。硬化剤内部での過度の内圧上昇抑制により、低温での中性子遮蔽材6の分解抑制を図ることができ、耐熱性を向上できる。
【0113】
成形ステップS3は、原料混合液を所望の形状に成形するものである。具体的には例えば、内筒2を囲む空間に原料混合液を充填して常温硬化又は加熱硬化を行うことで、中性子遮蔽材6を成形できる。また、成形型に原料混合液を充填し、常温硬化又は加熱硬化によって所定形状に成形し、成形された硬化物を内筒2を囲む空間に配置してもよい。
【0114】
充填する原料混合液は、充填可能な粘度を有する程度に重合が進行した状態のものが好ましい。例えば、粘度が60000mP・s以下(25℃での測定値、以下同じ)、好ましくは40000mPa・s以下であれば、原料混合液の充填が容易になる。一方で、粘度が例えば1000mPa・s以上であれば、難燃剤及び中性子吸収剤を原料混合液全体に分散させ易くできる。
【0115】
硬化ステップS4は、原料混合液中での少なくとも水添エポキシ主剤の硬化(即ち重合)によりエポキシ樹脂を含む中性子遮蔽材6を得るものである。
【0116】
硬化反応は、中性子遮蔽材6の用途、使用条件、使用環境等に応じて、適宜の温度で行うことができる。硬化温度としては、例えば、5℃以上50℃未満の低温域、50℃以上80℃未満の中温域、80℃以上200℃以下の高温域等、いずれを用いることも可能である。硬化温度が常温であると、加熱コスト及び硬化物の寸法変化を低減できるが、硬化温度が高いほど、エポキシ樹脂の耐熱性が高くなる傾向がある。
【0117】
常温よりも高い温度の硬化を行う場合は、例えば、50℃以上200℃以下、好ましくは130℃以上170℃以下で、1時間以上12時間以下、好ましくは1時間以上3時間以下の加熱を行う。また、硬化は、熱ひずみを低減し、均一に硬化させる観点等から、段階的に行うことがより好ましい。例えば、80℃以上130℃以下で、2時間以上4時間以下の一次加熱と、140℃以上170℃以下で、4時間以上12時間以下の二次加熱との二段加熱、室温で1日以上7日程度の一次加熱と、120℃以上150℃以下の二次加熱と、180℃以上200℃以下の三次加熱との三段加熱、これらと同等の加熱を行うことが好ましい。
【0118】
以上、中性子遮蔽材6、貯蔵容器10及び中性子遮蔽剤の製造方法について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、技術的範囲を逸脱しない限り、様々な変形例が含まれる。例えば、前記の実施形態は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、実施形態の構成に他の構成を加えたりすることが可能である。また、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、構成の削除、構成の置換をすることも可能である。
【実施例】
【0119】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0120】
表1~表6に示す組み合せで原料を使用して実施例(表1~表5)及び比較例(表6)に係る中性子遮蔽材(実施例に係る中性子遮蔽材6A,6Bを含む)を作製し、中性子遮蔽材の性能評価を行った。原料として使用した樹脂はいずれもプレポリマである。なお、表1~表6の詳細な説明については、評価結果とともに後記する。
【0121】
<中性子遮蔽材6Aの作製>
主剤(水添エポキシ主剤)としては、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル(水添BADGE)、及び、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル(水添BFDGE)のいずれかのみ、又は、これらと他のエポキシ樹脂(EP)との組み合わせを使用した。
【0122】
硬化剤としては、酸無水物、フェノールノボラック、又は、ジシアンジアミドを使用した。酸無水物としては、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸(TATHPA)、及び、メチルナジック酸無水物のいずれかを使用した。硬化剤の配合量は、いずれも、エポキシ当量と活性水素当量とが1:1となる等量とした。
【0123】
硬化促進剤としては、非イミダゾール系化合物(硬化剤として酸無水物を使用する場合)、又は、イミダゾール系化合物を使用した。非イミダゾール系化合物としては、ホスフィン、トリフェニルホスフィン、テトラ-n-ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート(PX4PB)、N-ベンジルジメチルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、及び、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP30)のいずれかを使用した。また、イミダゾール系化合物としては、2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ)を使用した。硬化促進剤の配合量は、いずれも、主剤100質量部に対して4質量部とした。
【0124】
難燃剤は、粒子状の水酸化アルミニウムを用いた。難燃剤は、レーザ回折散乱法に基づき測定される難燃剤の粒度分布は一峰分布であることを確認した。また、平均粒径はいずれも0.5μm以上7μm以下であり、表1~表6に示す平均粒径の難燃剤を使用した。難燃剤の配合量は、樹脂組成物100質量部に対して50質量部とした。
【0125】
中性子吸収材としては、窒化ホウ素又は炭化ホウ素のいずれかの粒子を使用した。中性子吸収材の配合量は、樹脂組成物100質量部に対して4質量部とした。
【0126】
中性子遮蔽材6Aは、次の手順で作製した。はじめに、主剤、硬化剤及び硬化促進剤を所定の配合量となるように秤量し、これらの成分をプラネタリミキサを用いて混合(混練)した。そして、所定の配合量となるように難燃剤及び中性子遮蔽材を添加し、更に混練することによって、難燃剤及び中性子遮蔽材が混合された原料混合液を得た。得られた原料混合液は後記する粘度測定に供した。
【0127】
この原料混合液を、熱劣化質量測定用では、直径20mm、長さ100mmのSUS製パイプに充填した。酸素指数測定用では厚さ4mm、幅10mm、長さ100mmの短冊状金型に充填した。それぞれ、20℃~25℃の室温に放置して原料混合液を硬化させることで中性子遮蔽材6Aを得た。
【0128】
<中性子遮蔽材6Bの作製>
主剤(水添エポキシ主剤)としては、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル(水添BADGE)、又は、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル(水添BFDGE)のいずれかと多官能エポキシ化合物又は樹脂との組み合わせ、又は、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテルのみを使用した。多官能エポキシ化合物又は樹脂としては、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ化合物、又は、脂環型エポキシ化合物を使用した。他にも、多官能エポキシ化合物又は樹脂としては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、環状多官能グリシジルエステル型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂も用いた。
【0129】
多官能エポキシ化合物又は樹脂のうち、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、臭素化エポキシである臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂である1,1-ビス(2,7-ジグリシジルオキシ-1-ナフチル)メタン、フェノール・ビフェニレン型エポキシ樹脂を使用した。
【0130】
また、多官能エポキシ化合物又は樹脂のうち、グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、芳香族アミン型エポキシである4,4’-メチレンビス[N,N-ビス(オキシラニルメチル)アニリン]、アミノフェノール型エポキシ(1)であるトリグリシジル-p-アミノフェノール、アミノフェノール型エポキシ(2)であるトリグリシジル-m-アミノフェノール、アミノフェノール型エポキシ(3)であるトリグリシジル-p-アミノクレゾール、脂肪族アミン型エポキシ(1)である1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、脂肪族アミン型エポキシ(2)であるN,N,N’,N’-テトラグリシジル-1,3-ベンゼンジ(メタンアミン)を使用した。
【0131】
また、多官能エポキシ化合物又は樹脂のうち、脂環型エポキシ樹脂としては、オリゴマー型脂環エポキシ樹脂を使用した。
【0132】
硬化剤としては、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、及び、メチルナジック酸無水物(MNA)のいずれかを使用した。なお、表4に記載の実施例57~実施例69では、触媒系硬化剤としての作用を有するイミダゾール系化合物として2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ)を硬化剤として使用し、硬化促進剤は使用しなかった。硬化剤の配合量は、主剤100質量部に対して5質量部とした。表5に記載の実施例70~実施例82では、触媒系硬化剤としての作用を有する三級アミンとして、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP30)を硬化剤として使用し、硬化促進剤は使用しなかった。
【0133】
その他の点は上記の「<中性子遮蔽材6A>」と同様にすることで、中性子遮蔽材6Bを作製した。
【0134】
<比較例に係る中性子遮蔽材>
表1の実施例2に示す「水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル」に代えて、水添されていない「ビスフェノールAジグリシジルエーテル」を使用したこと以外は実施例2と同様にして、表6の比較例1に係る中性子遮蔽材を作製した。また、表2の実施例24に示す「水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル」に代えて、水添されていない「ビスフェノールFジグリシジルエーテル」を使用したこと以外は実施例24と同様にして、表6の比較例2に係る中性子遮蔽材を作製した。
【0135】
<性能評価>
性能評価として、原料混合液の粘度、中性子遮蔽材の酸素指数、及び中性子遮蔽材の質量減損率を評価した。
【0136】
原料混合液の粘度は、JIS K 7117-1で規定されている「プラスチック-液状、乳濁状又は分散状の樹脂-ブルックフィールド形回転粘度計による見掛け粘度の測定方法」に準じて評価した。粘度の測定温度は25℃であった。
【0137】
中性子遮蔽材の酸素指数は、難燃性の指標であり、JIS K 7201-2で規定されている酸素指数による燃焼性の試験方法に準じて評価した。優れた難燃性を示すためには、酸素指数は26以上が好ましい。
【0138】
中性子遮蔽材の質量減損率は、加熱によってどの程度劣化するかを示す指標であり、熱劣化質量測定に基づいて評価した。中性子遮蔽材6の熱劣化質量測定は、以下のようにして行った。熱劣化質量測定用に作製した中性子遮蔽材6をパイプから取り出し、190℃の恒温槽に入れて加熱した。200時間の加熱後に冷却して、中性子遮蔽材6の質量を測定した。加熱後の中性子遮蔽材6の質量に基づいて、200時間加熱後の質量減損率を求めた。質量減損率は、加熱試験前の質量をX0、200時間の加熱後の質量をXtとして、下記数式(1)に従って計算した。
質量減損率(%)=(X0-Xt)/X0×100・・・(1)
【0139】
<評価結果>
性能評価の結果を、使用した原料の組み合わせとともに表1~表6に示す。表1~表6において、実施例No.22~43,57~82は、それぞれ、参考例No.22~43,57~82と読み替えるものとする。以降の記載においても同様である。表1~表6において「EP」は「エポキシ樹脂」の略称である。表1~表6において、「粘度」は、1000mPa・s以上60000mPa・s以下の粘度であれば○、それ以外であれば×とした。粘度が1000mPa・s以上60000mPa・s以下であれば、難燃剤及び中性子吸収剤を原料混合液全体に分散できるとともに、原料混合液の成形が容易になる。
【0140】
「酸素指数」は、26以上であれば○、26未満であれば×とした。酸素指数が26以上であれば、燃焼を持続させるために必要な酸素が特に多いと考えられる。このため、同じ酸素量であれば相対的に燃焼し難いといえ、難燃性と考えられる。
【0141】
「質量減損率」は、0.5%以下であれば○、0.5%を超えていれば×とした。質量減損率が0.5%以下であれば、加熱しても質量がほとんど変わらず、熱分解が生じていないといえる。このため、耐熱性が良好と考えることができる。
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
表1~表6に示すように、中性子遮蔽材6を構成するエポキシ樹脂が、分子内にエポキシ基を2つ以上含む水添エポキシ主剤に由来する単位骨格を含むとともに、難燃剤は、中性子遮蔽材6を構成する樹脂組成物に対して40質量%以上60質量%以下の割合で含まれることで、いずれも○の結果になった。一方で、水添されていないエポキシ主剤を用いた比較例1及び比較例2(いずれも表6参照)の中性子遮蔽材では、酸素係数及び質量減損率が×であった。従って、本発明によれば、難燃性及び耐熱性に優れた中性子遮蔽材6を提供できることがわかった。
【0149】
<難燃剤の配合量に起因する酸素指数及び粘度の違い>
難燃剤の配合量を、樹脂組成物に対して20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、55質量%、60質量%及び70質量%としたこと以外は実施例6の中性子遮蔽材6と同様にして中性子遮蔽材6を作製した。作製した中性子遮蔽材6の酸素指数、及び、中性子遮蔽材6の原料混合液の粘度を、実施例6の中性子遮蔽材6と同様にして測定した。この結果を
図3及び
図4に示す。
【0150】
図3は、難燃剤の配合量に対する酸素指数を示すグラフである。上記のように、中性子遮蔽材6において難燃剤の配合量は40質量%以上60質量%以下である。
図3に示すように、難燃剤の配合量が40質量%以上では、酸素指数を26以上にできた。一方で、難燃剤の配合量が20質量%及び30質量%(いずれも上記特許文献1に記載の配合量)では、酸素指数は26未満であり、難燃性が劣っていた。従って、難燃剤の配合量を40質量%以上にすることで、従来よりも難燃性を向上できることがわかった。
【0151】
難燃剤の配合量の上限値について、単に難燃性の向上を目的とするのであれば、難燃剤が多いほどよい。しかし、難燃剤の配合量が多いほど、中性子遮蔽に寄与するエポキシ樹脂、及び含まれるのであれば中性子吸収剤の配合量が相対的に少なくなる。この結果、中性子遮蔽材6による中性子遮蔽性能が低下する。そこで、難燃剤の配合量は、十分な中性子遮蔽能を維持する観点から、60質量%以下とする。このようにすることで、難燃性を向上できるとともに、中性子遮蔽能も発揮できる。
【0152】
図4は、難燃剤の配合量に対する原料混合液の粘度を示すグラフである。原料混合液の粘度は、上記のように、成形の容易さの観点から好ましくは1000mPa・s以上60000mPa・s以下である。このため、難燃剤の配合量を40質量%以上60質量%以下にすることで、
図4に示すように、原料混合液の粘度を1000mPa・s以上60000mPa・s以下にできる。ただし、成形をより容易に行う観点からは、上記のように原料混合液の粘度範囲の上限値は40000mPa・s以下が好ましい。従って、難燃剤の配合量を55質量%以下にすることで、
図4に示すように、原料混合液の粘度を40000mPa・s以下にできる。
【0153】
<難燃剤の平均粒径に起因する酸素指数及び原料混合液の粘度の違い>
難燃剤の平均粒径を0.2μm、0.5μm、2μm、4μm、7μm、10μm及び12μmとしたこと以外は上記実施例1の中性子遮蔽材6と同様にして中性子遮蔽材6を作製した。作製した中性子遮蔽材6の酸素指数、及び、中性子遮蔽材6の原料混合液の粘度を、上記実施例1の中性子遮蔽材6と同様にして測定した。この結果を
図5及び
図6に示す。
【0154】
図5は、難燃剤の平均粒径に対する酸素指数を示すグラフである。上記のように、難燃剤の平均粒径は0.5μm以上7μm以下が好ましい。
図5に示すように、難燃剤の平均粒径が7μm以下では、酸素指数を26以上にできた。従って、難燃剤の平均粒径を7μm以下にすることで、難燃性を向上できることがわかった。
【0155】
図6は、難燃剤の平均粒径に対する原料混合液の粘度を示すグラフである。原料混合液の粘度は1000mPa・s以上60000mPa・s以下が好ましい。このため、
図6に示すように、難燃剤の平均粒径が0.2μm以上の範囲では、原料混合液を1000mPa・s以上60000mPa・s以下にできた。従って、難燃剤の平均粒径を0.2μm以上にすることで、成形を容易にできることがわかった。
【0156】
図5及び
図6に示すように、難燃剤の平均粒径を0.5μm以上7μm以下では、原料混合液の粘度、及び酸素指数の双方を上記好ましい範囲にできた。このため、難燃剤の平均粒径を0.5μm以上7μm以下にすれば、難燃性及び原料混合液の成形のし易さの双方を向上できた。
【符号の説明】
【0157】
2 内筒(容器本体部)
3 外筒(容器本体部)
4 伝熱フィン(容器本体部)
5 バスケット(容器本体部)
5a 仕切板(容器本体部)
6 中性子遮蔽材
6A 中性子遮蔽材
6B 中性子遮蔽材
7 一次蓋(容器本体部)
8 二次蓋(容器本体部)
9 トラニオン(容器本体部)
10 貯蔵容器
11 容器本体部
S1 エポキシ反応液調製ステップ
S2 添加ステップ
S3 成形ステップ
S4 硬化ステップ