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特許7182574エレベーター制御装置およびエレベーター制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】エレベーター制御装置およびエレベーター制御方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 1/30 20060101AFI20221125BHJP
   B66B 1/34 20060101ALI20221125BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20221125BHJP
【FI】
B66B1/30 H
B66B1/34 A
H02M7/48 M
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020034446
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021138460
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関 真希
(72)【発明者】
【氏名】高山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】保立 尚史
(72)【発明者】
【氏名】大沼 直人
【審査官】加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-024329(JP,A)
【文献】実開平05-095965(JP,U)
【文献】特開2013-135498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/30
B66B 1/34
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターを動作させるためにモータに交流電力を供給するインバータと接続され、前記インバータを制御することで前記エレベーターの動作を制御するインバータ制御部を備えるエレベーター制御装置であって、
前記インバータは、直流電力を前記交流電力に変換する半導体素子を有し、
前記インバータには、前記半導体素子を冷却するための冷却器が熱的に結合して取り付けられており、
前記冷却器の冷却性能は、前記半導体素子の温度に応じて変動し、
前記エレベーター制御装置は、前記エレベーターが停止している間に前記冷却器が第一の温度に達すると、前記半導体素子へ電力を供給させる指令を前記インバータに送り、
また、前記エレベーター制御装置は、前記エレベーターの稼働状況に関する情報を記憶しており、前記情報に基づき、前記エレベーターの稼働頻度が所定の基準値以上となる繁忙期の開始時間の前から、前記インバータへの前記指令の送信と停止を繰り返すことを特徴とする
エレベーター制御装置。
【請求項2】
エレベーターを動作させるためにモータに交流電力を供給するインバータと接続され、前記インバータを制御することで前記エレベーターの動作を制御するインバータ制御部を備えるエレベーター制御装置であって、
前記インバータは、直流電力を前記交流電力に変換する半導体素子を有し、
前記インバータには、前記半導体素子を冷却するための冷却器が熱的に結合して取り付けられており、
前記冷却器の冷却性能は、前記半導体素子の温度に応じて変動し、
前記エレベーター制御装置は、前記エレベーターが停止している間に前記冷却器が第一の温度に達すると、前記半導体素子へ電力を供給させる指令を前記インバータに送り、
前記半導体素子の温度上昇係数が所定の係数以上になると、前記インバータ制御部は前記指令を停止することを特徴とする
エレベーター制御装置。
【請求項3】
エレベーターを動作させるためにモータに交流電力を供給するインバータと接続され、前記インバータを制御することで前記エレベーターの動作を制御するインバータ制御部を備えるエレベーター制御装置であって、
前記インバータは、直流電力を前記交流電力に変換する半導体素子を有し、
前記インバータには、前記半導体素子を冷却するための冷却器が熱的に結合して取り付けられており、
前記冷却器の冷却性能は、前記半導体素子の温度に応じて変動し、
前記エレベーター制御装置は、前記エレベーターが停止している間に前記冷却器が第一の温度に達すると、前記半導体素子へ電力を供給させる指令を前記インバータに送り、
前記半導体素子の温度下降係数が所定の係数以上になると、前記インバータ制御部は前記指令を出すことを特徴とする
エレベーター制御装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエレベーター制御装置において、
前記インバータが前記半導体素子へ所定時間の電力の供給を行うと、前記インバータ制御部は前記指令を停止することを特徴とするエレベーター制御装置。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエレベーター制御装置において、
前記エレベーターが所定時間以上稼働しない場合、前記インバータ制御部は前記指令を停止することを特徴とするエレベーター制御装置。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエレベーター制御装置において、前記インバータ制御部が前記指令を出す場合、前記エレベーターのブレーキを開放するための電力を流す指令は出さないことを特徴とするエレベーター制御装置。
【請求項7】
エレベーターを動作させるために半導体素子を用いてモータに交流電力を供給するインバータを制御することで、前記エレベーターの動作を制御するエレベーター制御方法であって、前記インバータには、前記半導体素子と熱的に結合されて前記インバータを冷却する冷却器が取り付けられており、
前記エレベーターが停止しているかどうかを判断する第1のステップと、
前記冷却器の温度が第一の温度である場合、前記インバータにより前記半導体素子に電力を供給する第2のステップと、
予め記憶されている前記エレベーターの稼働状況に関する情報に基づき、前記エレベーターの稼働頻度が所定の基準値以上となる繁忙期の開始時間の前から、前記インバータへの指令の送信と停止を繰り返す第3のステップと、
を備えることを特徴とするエレベーター制御方法。
【請求項8】
エレベーターを動作させるために半導体素子を用いてモータに交流電力を供給するインバータを制御することで、前記エレベーターの動作を制御するエレベーター制御方法であって、前記インバータには、前記半導体素子と熱的に結合されて前記インバータを冷却する冷却器が取り付けられており、
前記エレベーターが停止しているかどうかを判断する第1のステップと、
前記冷却器の温度が第一の温度である場合、前記インバータにより前記半導体素子に電力を供給する第2のステップと、
前記半導体素子の温度上昇係数が所定の係数以上になると、前記半導体素子への電力供給を停止する第3のステップと、
を備えることを特徴とするエレベーター制御方法。
【請求項9】
エレベーターを動作させるために半導体素子を用いてモータに交流電力を供給するインバータを制御することで、前記エレベーターの動作を制御するエレベーター制御方法であって、前記インバータには、前記半導体素子と熱的に結合されて前記インバータを冷却する冷却器が取り付けられており、
前記エレベーターが停止しているかどうかを判断する第1のステップと、
前記冷却器の温度が第一の温度である場合、前記インバータにより前記半導体素子に電力を供給する第2のステップと、
前記半導体素子の温度下降係数が所定の係数以上になると、前記半導体素子への電力供給を停止する第3のステップと、
を備えることを特徴とするエレベーター制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレベーター制御装置およびエレベーター制御方法に関し、例えば、ヒートパイプ式の冷却装置を備えたエレベーターシステムに好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、一般的なエレベーターの設置個所および利用頻度の増加に伴い、エレベーターが備える電気部品の寿命を伸ばす必要がある。例えば、エレベーターの駆動および停止を繰り返す中で、電力変換装置の半導体素子の寿命は短くなる傾向にあるため、この半導体素子の劣化を防ぐ技術が求められている。
【0003】
特許文献1には、駆動停止を繰り返す負荷、あるいは負荷量が急変するような負荷の駆動回路に用いられる電力変換装置の半導体素子における温度リップルを抑制し、該半導体素子の寿命を延ばすようにした電力供給装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-246246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電力変換装置における半導体素子の温度変化を緩和するため、ヒートパイプ式冷却器を採用したものが一般的に知られている。しかしながら、ヒートパイプ式冷却器では、ヒートパイプ内に混入されている冷却用の液体が気化して冷却性能を発揮するまで一定の時間を要する。そのため、特許文献1の技術に適用した場合、例えば、エレベーターが一定時間停止してから稼働する場合に半導体素子の温度変化が大きくなり、半導体素子の寿命が短くなることが課題であった。このような現象は、エレベーターがあまり利用されなくなる時間帯や、エレベーターがよく利用される時間帯になり始めるタイミングに顕著に現れる。
【0006】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、エレベーターを制御するインバータにおける半導体素子の長寿命化を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため本発明においては、エレベーター制御装置は、エレベーターを動作させるためにモータに交流電力を供給するインバータと接続され、インバータを制御することでエレベーターの動作を制御するエレベーター制御装置であって、インバータは、直流電力を前記交流電力に変換する半導体素子を有し、インバータには、半導体素子を冷却するための冷却器が熱的に結合して取り付けられており、冷却器の冷却性能は、半導体素子の温度に応じて変動し、エレベーター制御装置は、エレベーターが停止している間に冷却器が第一の温度に達すると、半導体素子へ電力を供給させる指令をインバータに送ることを特徴とするようにした。
【0008】
また本発明においては、エレベーターを動作させるために半導体素子を用いてモータに交流電力を供給するインバータを制御することで、前記エレベーターの動作を制御するエレベーター制御方法であって、前記インバータには、前記半導体素子と熱的に結合されて前記インバータを冷却する冷却器が取り付けられており、前記エレベーターが停止しているかどうかを判断する第1のステップと、前記冷却器の温度が第一の温度である場合、前記インバータにより前記半導体素子に電力を供給する第2のステップと、を備えるようにした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エレベーターを制御するインバータにおける半導体素子の長寿命化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施形態における、エレベーターの概略構成図である。
図2】ヒートパイプの冷却器の概略構成である。
図3】第1の実施形態におけるフローチャートである。
図4】第1の実施形態における半導体と冷却器の温度変化のグラフである。
図5】第2の実施形態におけるフローチャートである。
図6】第2の実施形態における半導体と冷却器の温度変化のグラフである。
図7】第3の実施形態におけるフローチャートである。
図8】第3の実施形態における半導体と冷却器の温度変化のグラフである。
図9】第4の実施形態におけるフローチャートの実施例1である。
図10】第4の実施形態におけるフローチャートの実施例2である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態に関連する図面について詳述する。
【0012】
(エレベーター制御装置の構成と処理)
図1は、本発明の一実施形態に係るエレベーター制御装置を含んだエレベーター全体の概略構成図である。
【0013】
エレベーターの一般的な構成も交えて、本実施形態のエレベーター制御装置を説明する。電力変換装置113は、一定周波数の三相交流電源101から出力されたR,S,T相の三相交流電力を、内部に備えるコンバータ102によって直流電力に変換する。この直流電力を平滑コンデンサ103で平滑化した後、インバータ(IGBT)104において可変周波数のU、V、W相の三相交流電力に変換して、モータ106に供給している。電力変換装置113から電力供給を受けたモータ106は、綱車107を回転させ、主ロープ108で吊るされている乗りかご109と、つり合い重り110と、を昇降させ、エレベーターを動作させている。
【0014】
なお、インバータ104が有している半導体素子であるIGBTは、1in1,2in1,6in1,7in1,のどのタイプのスイッチング素子の形式でも良い。あるいは、コンバータ102とインバータ104で同じIGBTを用いるような構成をとっても良い。
【0015】
エレベーター制御装置111は、例えばMPU(Micro Processing Unit)を用いて構成されており、MPUが所定のプログラムを実行することで実現される機能として、エレベーター制御部およびインバータ制御部を備える。任意の階や乗りかご109の中からエレベーターに対しての呼び出しがあった時、つまりエレベーターの乗りかご109を昇降させる指令があった時は、エレベーター制御部がその指令を受け、インバータ104を駆動させる指令をインバータ制御部へ送る。インバータ制御部はエレベーター制御部からの指令を受け、インバータ104に通電指令112を送り、それによりインバータ104が半導体素子であるIGBTに電力を供給して駆動させ、モータ106や綱車107を介して乗りかご109を制御している。なお、ブレーキ105は、エレベーターに対しての呼び出しがない時にモータ106に対して常時ブレーキをかけており、エレベーターに対しての呼び出しがあった時にブレーキを開放する。これにより、モータ106が稼働し、乗りかご109を昇降させている。
【0016】
図2は、ヒートパイプ式冷却器(以下、冷却器)の概略構成である。(a)は冷却器の正面図、(b)は側面図である。なお、冷却器はインバータ104を冷やすために電力変換装置113内に備えられているものである。
【0017】
冷却器は、インバータ104に取り付けられ、熱伝導部材114とヒートパイプ116と冷却フィン115と温度検出器117と、を備えて構成される。ヒートパイプ116は、熱伝導部材114を介してインバータ104と熱的に結合されており、内部に混入された作動液が気化することで、インバータ104の熱を冷却フィン115側に移動させる。冷却フィン115は、ヒートパイプ116を放熱させることで、インバータ104の熱を受けて上昇したヒートパイプ116の温度を低下させ、気化されたヒートパイプ116内の作動液を再び液化させる。これにより、インバータ104の動作に応じて生じるIGBTの熱を、ヒートパイプ116を経由して冷却フィン115で放熱させ、インバータ104を冷却させることができる。
【0018】
インバータ104は、エレベーター制御装置111のインバータ制御部から駆動指令を受けることでIGBTを駆動させ、それによりIGBTの温度が上昇する。すると、熱伝導部材114,冷却フィン115,ヒートパイプ116の温度も同期して上昇し、ヒートパイプ116内の作動液の気化が進んで、冷却器の放熱量が増大する。つまり、インバータ104の半導体素子を冷却するためにインバータ104と熱的に結合して取り付けられている冷却器の冷却性能は、半導体素子の温度に応じて変動する仕組みになっている。なお、温度検出器117は、ヒートパイプ116の温度を検出し、同期しているIGBTの温度や冷却器全体の温度も同様に検出することができる。
【0019】
ヒートパイプ116内の作動液は、IGBTの温度上昇とともに気化し、冷却器の上部へ移動する。気化したヒートパイプ116内の作動液は、冷却性能の高い状態に戻すために再度液化させる必要がある。そのため、気化後の作動液の移動方向である冷却器の上部に冷却フィン115を設置して、ヒートパイプ116の放熱を促進し、冷却器全体の温度低減を促している。このように、インバータ104においてIGBTがスイッチング動作を行うことでその温度が一定値以上となっている場合には、ヒートパイプ116内の作動液が気化することにより、冷却器の冷却性能が十分に発揮される。
【0020】
一方、エレベーターに対しての呼び出しがない時は、インバータ104は駆動しないためIGBTの温度が上昇することはない。この状態が一定時間以上続くと、ヒートパイプ116内の作動液は気化せず液化した状態に保たれるため、インバータ104が稼働してIGBTの温度が上昇した時に、ヒートパイプ116の作動液が気化して冷却器の冷却性能が十分に発揮できるようになるまでには時間がかかる。
【0021】
そこで本発明では、エレベーターの呼び出しがない状態が続いても冷却器の冷却性能を十分に発揮できるように、エレベーター制御装置111によりインバータ104への電力供給の制御を行う。以下ではその具体的な方法を、第1~第4の各実施形態において説明する。なお、以下の各実施形態において、エレベーター制御装置111を含むエレベーターシステムの構成は共通である。
【0022】
(第1の実施形態によるエレベーター制御装置の処理)
図3は、第1の実施形態におけるエレベーター制御装置111のフローチャートである。本実施形態では、乗りかご停止中にヒートパイプの温度を判断し電力供給する例を説明する。
【0023】
ステップS1では、エレベーター制御部がエレベーターの乗りかご109が停止しているかどうか判定する。乗りかご109が停止していればステップS2に進み、そうでなければフローチャートを終了する。
【0024】
ステップS2では、温度検出器117が検出したヒートパイプ(冷却器)116の温度が、冷却器の冷却性能を十分に発揮する温度(以下、T℃)を超えている状態、つまり、ヒートパイプ116の温度が冷却性能を発揮するために必要な第一の温度を超えているかどうかを判定する。ヒートパイプ116の温度がT℃を超えている場合はステップS3へ進み、そうでなければフローチャートを終了する。
【0025】
ステップS3では、温度検出器117が検出したヒートパイプ116の温度がT℃であるかどうかを判定する。ステップS2でT℃を超えていると判定したヒートパイプ116の温度がT℃まで低下していればステップS4に進み、そうでなければステップS3の判定を繰り返すことで、ヒートパイプ116の温度がT℃に低下するまで待機する。
【0026】
ステップS4では、インバータ制御部により、予め設定された時間t1秒の間、インバータ104のIGBTに電力供給されるように、通電指令112を出力する。ここで、ヒートパイプ116の温度がT℃以下になってしまうと、冷却器が意図した冷却性能を発揮できなくなってしまう。そのため、エレベーター制御部はステップS3の温度検出器117の検出内容、つまり、ヒートパイプ116の温度がT℃であることを受け、インバータ制御部に対してインバータ104へ通電指令112を出す指令を送る。この指令を受けて、インバータ制御部はインバータ104へ通電指令112を出力し、インバータ104にIGBTへの電力供給を行わせる。つまり、インバータ制御部は、エレベーターが停止している間に冷却器が第一の温度(T℃)に達すると、半導体素子へ電力を供給させる指令をインバータ104に送るということである。インバータ104は、インバータ制御部からの通電指令112に応じて、IGBTに対して所定の時間t1秒間だけ電力を供給し、ステップS5に進む。このように、所定の時間であるt1秒間の電力を供給することで、IGBTに対しての過剰な電力の供給を防ぐことができる。
【0027】
なお、ステップS3の判定で用いられる、IGBTへの電力供給を行うための閾値としての温度は、冷却器が冷却性能を十分に発揮する温度であれば良く、T℃以上の温度に設定されても良い。また、ステップS4でインバータ104のIGBTに電力供給を行う所定の時間t1秒は、例えば、0秒<t1秒<10秒で設定されるような値であり、これに限定されずに設定できる。ただし、t1の値が過剰に大きい設定になる(例えば6000)と、半導体素子であるIGBTの温度は上昇し続けて短寿命になるため、IGBTの温度が調節できる範囲でt1の範囲を適用することが好ましい。また、例えば、乗りかご109の積載量や昇降速度,インバータ104に用いているIGBTの定格容量,冷却器の性能,などといったエレベーターごとの特性でIGBT温度の上昇のパターンが変わるため、T℃の設定値もエレベーターごとの特性に合わせて変えることが好ましい。
【0028】
ステップS5では、エレベーターに対しての呼び出しがあるかどうかを判定する。乗りかご109の呼び出しがある場合はステップS6へ進み、呼び出しに応じたエレベーターの運転が実施され、ステップS1に戻りフローチャートを繰り返す。そうでなければ、ステップS3に戻り、再びヒートパイプ116の温度がT℃になっているかどうかを判定する。これにより、乗りかご109が停止している間にヒートパイプ116の温度がT℃を下回ることがなく、冷却器は意図した冷却性能を維持できるため、エレベーターに対しての呼び出しがない状態が一定以上続いた後にインバータ104が運転された場合でも、半導体素子であるIGBTの温度は一定温度に維持され、温度変化が少なくなる。したがって、半導体素子の長寿命化を実現することができる。
【0029】
図4は、第1の実施形態における半導体素子と冷却器の温度変化のグラフの一例である。
【0030】
図4の通り、エレベーターの稼働頻度が所定の基準値以上であり、エレベーターが連続で稼働し続ける繁忙期では、半導体素子温度118は時間とともに上昇し、ヒートパイプ温度119は半導体素子温度118の上昇に伴い半導体素子であるIGBTを冷却し温度を下げている。一方で、エレベーターの稼働頻度が所定の基準値未満であり、例えば、エレベーターが停止している頻度が稼働頻度よりも多いような閑散期に移ると、半導体素子であるIGBTに電力が供給されないため、ヒートパイプ温度119は下がり続けてT℃以下になってしまうと冷却性能を発揮できない。そのため、ヒートパイプ温度119をT℃以上かつT℃付近に維持するように、IGBTに対してt1秒間だけ間欠的に電力を供給する、言い換えれば、IGBTに対しての電力の供給と停止を繰り返す構成している。これにより、半導体素子であるIGBTは大きな温度変化がなくなり寿命を延ばすことができる。
【0031】
また、第1の実施形態において、インバータ制御部から通電指令112をインバータ104に送り、インバータ104がIGBTに電力を供給し駆動させるときに、誤ってブレーキ105に電力供給がされることでブレーキが開放され、不要にエレベーターを稼働させてしまう可能性がある。そのため、インバータ制御部はインバータ104に対して通電指令112を出す場合、エレベーターのブレーキ105に電力が供給されないように、ブレーキ105を開放するための電力を流す指令は出さない。これにより、半導体素子に電力を供給した際に、冷却器の冷却性能のみが半導体素子の温度に応じて変動し、エレベーターの誤作動を防ぐことができる。
【0032】
以上説明した本発明の第1の実施形態によれば、以下の作用効果を得る。
【0033】
(1)エレベーター制御装置111は、エレベーターを動作させるためにモータ106に交流電力を供給するインバータ104と接続され、インバータ104を制御することでエレベーターの動作を制御するエレベーター制御装置111であって、インバータ104は、直流電力を交流電力に変換する半導体素子を有し、インバータ104には、半導体素子を冷却するための冷却器が熱的に結合して取り付けられており、冷却器の冷却性能は、半導体素子の温度に応じて変動し、エレベーター制御装置111は、エレベーターが停止している間に冷却器が第一の温度に達すると、半導体素子へ電力を供給させる指令をインバータ104に送ることを特徴とする。このようにしたので、エレベーターを制御するインバータにおける冷却器の冷却性能を維持することによる半導体素子の長寿命化を実現できる。
【0034】
(2)エレベーター制御装置111は半導体素子へ所定時間の電力の供給を行うとインバータ制御部は指令を停止することを特徴とする。このようにしたので、半導体素子の大きな温度変化を防ぐことができるため、半導体素子の長寿命化を実現できる。
【0035】
(3)エレベーター制御装置111は、インバータ制御部が指令を出す場合、エレベーターのブレーキ105を開放するための電力を流す指令は出さないことを特徴とする。このようにしたので、無駄な電力の供給を防ぐことができ、省電力化を図ることができる。
【0036】
(4)エレベーター制御装置111は、エレベーターを動作させるために半導体素子を用いてモータ106に交流電力を供給するインバータ104を制御することで、エレベーターの動作を制御するエレベーター制御方法を備えており、その制御方法は、インバータ104には、半導体素子と熱的に結合されてインバータ104を冷却する冷却器が取り付けられており、エレベーターが停止しているかどうかを判断する第1のステップと、冷却器の温度が第一の温度である場合、インバータにより半導体素子に電力を供給する第2のステップと、を備えることを特徴とする。このようにしたので、エレベーターの稼働状況に関わらず半導体素子の温度リップルを防ぎ、半導体素子の長寿命化するための制御方法を実現できる。
【0037】
(第2の実施形態によるエレベーター制御装置の処理)
図5は、第2の実施形態によるエレベーター制御装置の処理のフローチャートである。
【0038】
ステップS1Aでは、エレベーター制御部がエレベーターの乗りかご109が停止しているかどうか判定する。乗りかご109が停止していればステップS2Aに進み、そうでなければフローチャートを終了する。
【0039】
ステップS2Aでは、エレベーター制御部がエレベーターの乗りかご109が所定の時間(以下、t2時間)未満の停止時間かどうか判定する。乗りかご109がt2時間未満の停止時間であればステップS3Aに進む。そうでなければフローチャートを終了する。このようにすることで、連続して一定時間以上のエレベーターに対しての呼び出しがない場合、例えば、深夜帯といったような時間帯である閑散期に数時間エレベーターが運転しない状況で、繰り返し半導体に電流を供給することを止めることができる。そのため、エレベーターの稼働が著しく少ない時間帯において、IGBTに対しての無駄な電力の供給を防ぐことができる。なお、所定の時間であるt2時間は、例えば、1[時間]<t2で設定される値である。
【0040】
ステップS3AからステップS6Aまでは、第1の実施形態でのステップS2からステップS5と同様のフローチャートである。ただし、ステップS6Aのエレベーターの呼び出しがあるかどうかの判定で、呼び出しがなかった場合はステップS2Aに戻り、エレベーターの乗りかご109の停止時間を判定するところが第1の実施形態とは異なるところである。
【0041】
第2の実施形態は、例えば、会社での出退勤時や昼休みといったエレベーターの利用時間が集中する時間帯である繁忙期と比べて、閑散期のエレベーターの呼び出しがない状態などで適用できる。また、例えば、人口の少ない地方の駅で繁忙期と閑散期のエレベーターの運転時間の差が顕著であり、最終電車が23時で始発電車が6時で、連続しておよそ7時間エレベーターが駆動しない時間があるケースなどにも同様に適用できる。
【0042】
図6は、第2の実施形態における半導体と冷却器の温度変化のグラフの一例である。
【0043】
図6の通り、閑散期においてヒートパイプ温度119がT℃以上かつT℃付近に維持される状態がt2時間を超える場合、IGBTへの電力の供給を停止するため、そのあと緩やかに温度が下降して、通常の部品の温度に戻る。まとめると、エレベーターが一定時間以上稼働しない場合、インバータ制御部は通電指令112を停止することで、夜間帯などの閑散期に電力消費を抑えている。
【0044】
以上説明した本発明の第2の実施形態によれば、以下の作用効果を得る。
【0045】
(5)エレベーター制御装置111は、エレベーターが所定時間以上稼働しない場合、インバータ制御部は指令を停止することを特徴とする。このようにしたので、夜間の時間帯などの長時間動かない場合に、冷却器の意図した機能を維持するための電力供給を行わず、無駄な電力消費を抑えることができる。
【0046】
(第3の実施形態によるエレベーター制御装置の処理)
図7は、第3の実施形態によるエレベーター制御装置の処理のフローチャートである。本実施形態では、エレベーターの稼働状況に関する情報をエレベーター制御装置111に予め記憶しておき、この情報に基づいて現在のエレベーターの稼働状況を判断した結果を用いて、インバータ104への通電を制御する例を説明する。なお、この情報はエレベーター制御装置111の製造時や設置時に予め設定されたものでも良いし、過去のエレベーターの運転履歴に基づいてエレベーター制御装置111自身が設定したものでも良い。
【0047】
ステップS1Bでは、現在のエレベーターの稼働状況が前述の閑散期の状態であるかどうかを判定する。閑散期である場合はステップS2Bに進み、そうでなければフローチャートを終了する。なお、ステップS1Bの判定は、エレベーター制御装置111に予め記憶された上記の情報に基づいて行っても良いし、前述のステップS2Aと同様の方法で行っても良い。
【0048】
ステップS2Bでは、エレベーター制御装置111に予め記憶された上記の情報に基づいて、現在のエレベーターの状況が閑散期から繁忙期へと移行する所定の時間(以下、m分)前かどうかを判定する。エレベーターの状況が繁忙期へ移行するm分前であればステップS3Bへ進み、そうでなければステップS2Bの処理を繰り返すことで、繁忙期へ移行するm分前になるまで待機する。
【0049】
ステップS3Bでは、インバータ制御部により、インバータ104のIGBTに対して所定の時間(以下、t3秒間)電力を供給し、所定の時間(以下、t4秒間)電力の供給を停止する動作を繰り返すように、通電指令112を出力する。これにより、繁忙期に移行する過程で半導体素子の温度を徐々に上げていくことが可能となり、半導体素子の急な温度変化による劣化を防止することができる。この動作を続けて、繁忙期への移行前に半導体素子をT℃以上状態に維持し、ステップS4Bに進む。
【0050】
ステップS4BからステップS6Bまでは、第1の実施形態のステップS3からステップS5までの処理フローと同様である。ただし、ステップS4Bでヒートパイプ116の温度がT℃でなかった場合、ステップS3BでIGBTへの電力の供給と停止を繰り返す動作を行うところが第1の実施形態と異なる。
【0051】
図8は、第3の実施形態における半導体と冷却器の温度変化のグラフの一例である。
【0052】
図8の通り、エレベーター制御装置111に予め記憶された稼働時間についてのデータに基づいて、閑散期が終わるm分前から半導体素子に電力を供給している。上述したように、t3時間の電力の供給とt4時間の電力の供給停止により徐々に半導体素子温度118が上昇し、繁忙期への移行直前には、T℃以上かつT℃付近に半導体素子の温度を維持することができている。つまり、エレベーターの運転する時間帯を記憶する記憶装置を有しているエレベーター制御装置111は、記憶している時間帯のデータに基づき、稼働頻度が高くなる時間の一定時間前からインバータ制御部が通電指令112をインバータ104に送り、一定時間後に通電指令112を停止する動作を繰り返している。これにより、ヒートパイプ116の温度を効率的に上昇させ、繁忙期の時点では、ヒートパイプ116を冷却活性温度の状態にしておき、かつ半導体素子の大きな温度変化を緩和することができ、半導体素子の長寿命化を実現できる。
【0053】
以上説明した本発明の第3の実施形態によれば、以下の作用効果を得る。
【0054】
(6)エレベーター制御装置111は、エレベーターの稼働状況に関する情報を記憶しており、その情報に基づき、エレベーターの稼働頻度が所定の基準値以上となる繁忙期の開始時間の前から、インバータ104への前記指令の送信と停止を繰り返すことを特徴とする。このようにしたので、閑散期から繁忙期へ移行するタイミングで、予め半導体素子に電力を供給することで、大きな温度変化を防ぎ、半導体素子の長寿命化を図ることができる。
【0055】
(第4の実施形態によるエレベーター制御装置の処理)
図9は、第4の実施形態によるエレベーター制御装置の処理のフローチャートの実施例1である。
【0056】
第4の実施形態では、半導体素子の温度上昇係数を判定に使用する。ここで使用される半導体素子の温度上昇係数とは、所定の単位時間(例えば1秒間)におけるインバータ104のIGBTの温度上昇値であり、温度検出器117による温度検出値に基づいて算出される。これは同期するヒートパイプ116の温度上昇係数でもよい。実施例1である図9のフローチャートは、第1の実施形態のフローチャートの類似形態であり、図3の第1の実施形態のフローチャートにおけるステップS4が、第4の実施形態ではS4CからS6Cになっている。それ以外の第4の実施形態の処理は、第1の実施形態の処理と同様である。
【0057】
ステップS4CからステップS6Cについて説明する。ステップ4Cでは、ヒートパイプ116の温度がT℃である判定をS3Cで下されているので、これ以上ヒートパイプ116の温度を下げないために半導体素子に電力の供給を開始し、ステップS5Cに進む。ここで、電力を供給する時間は設けない。
【0058】
ステップS5Cでは、半導体素子の温度上昇係数が所定(以下、T1)以上かどうかを判定する。半導体素子の温度上昇係数がT1以上ならステップS6Cへ進みIGBTへの電力の供給を停止し、そうでなければステップS4Cの処理に戻る。インバータ104では、IGBTの個体差や、IGBTに供給する電流値によって、一定時間内の半導体素子の温度上昇値が変化し得る。こうしたケースを考慮したときに、第1の実施形態で説明したようにインバータ104への電力供給時間を一定とする手法では、半導体素子の大きな温度変化による劣化を防ぐことが安定して実現できない。そのため、本実施形態では、ステップS5Cにより半導体素子の温度の上昇具合を判定することで、部品の特性によらずに半導体素子の大きな温度変化を防いで、半導体素子の長寿命化を実現できるようにしている。
【0059】
また、温度上昇係数と同様に、温度下降係数も判定に用いることもできる。なお、温度下降係数とは、所定の単位時間(例えば1秒間)におけるインバータ104のIGBTの温度下降値であり、温度検出器117による温度検出値に基づいて算出される。IGBTへの電力の供給を停止した場合に、半導体素子の温度がある一定の温度から下がるが、半導体素子の温度下降係数が所定以上であった場合に、これを温度検出器117が感知し、半導体素子への電力の供給を再開し、T℃以上かつT℃付近に半導体素子の温度を維持する。これにより、半導体素子の温度が急変するのを防ぎ、半導体素子の劣化を防ぐことができる。
【0060】
また、半導体素子の温度上昇係数および温度下降係数は、第3の実施形態で説明した閑散期から繁忙期への移行のフローチャートにも適用できる。図10は第4の実施形態の実施例2であり、図7で説明した第3の実施形態の類似形態である。
【0061】
図10の第4の実施形態が図7の第3の実施形態と異なる点は2つある。1つは、第3の実施形態のステップS3Bにおいて、第4の実施形態ではステップS3DとしてIGBTへの電力の供給を開始し電力の供給を停止しない点である。もう1つは、第3の実施形態のステップS5Bにおいて、第4の実施形態ではステップS5Dとして半導体素子の温度上昇係数がT1以上であればステップS6DとしてIGBTへの電力の供給を停止し、そうでなければステップS5Dに戻る点である。それ以外の第4の実施形態の処理フローは、第3の実施形態と同様である。
【0062】
第4の実施形態の処理フローにより、温度検出器117が検出測定できる半導体素子の温度データを記憶装置が有し、その温度データに基づき、冷却器の温度上昇係数が所定の係数以上になったことを温度検出器117が検出すると、インバータ制御部は通電指令112を停止する。また、温度検出器117が半導体素子の温度下降係数が所定以上になったことを検出すると、インバータ制御部は通電指令112を出すことができる。
【0063】
以上説明した本発明の第4の実施形態によれば、以下の作用効果を得る。
【0064】
(7)エレベーター制御装置111は、冷却器の温度上昇係数が所定の係数以上になると、インバータ制御部は指令を停止することを特徴とする。このようにしたので、このようにしたので、エレベーターごとに異なる特性に応じて、インバータ104への電力の供給をする際に半導体素子の大きな温度変化を防ぐことができる。
【0065】
(8)エレベーター制御装置111は、半導体素子の温度下降係数が所定の係数以上になると、インバータ制御部は指令を出すことを特徴とする。このようにしたので、エレベーターごとに異なる特性に応じて、どのような時間帯であっても半導体素子の大きな温度変化を防ぐことができる。
【0066】
以上、各実施形態や各種変形例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0067】
101…交流電源、102…コンバータ、103…平滑コンデンサ、104…インバータ、105…ブレーキ、106…モータ、107…綱車、108…主ロープ、109…乗りかご、110…つり合い重り、111…エレベーター制御装置(MPU)、112…通電指令、113…電力変換装置、114…熱伝導部材、115…冷却フィン、116…ヒートパイプ、117…温度検出器、118…半導体素子温度、119…ヒートパイプ温度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10