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特許7182575アスファルト臭気抑制剤、アスファルト組成物およびアスファルト組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】アスファルト臭気抑制剤、アスファルト組成物およびアスファルト組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/01 20060101AFI20221125BHJP
   E01C 19/10 20060101ALI20221125BHJP
   C08L 95/00 20060101ALI20221125BHJP
   A61L 9/02 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
A61L9/01 Q
E01C19/10 Z
C08L95/00
A61L9/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020042736
(22)【出願日】2020-03-12
(65)【公開番号】P2021142111
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000233653
【氏名又は名称】ニチレキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桂田 拓人
(72)【発明者】
【氏名】坂巻 憲佐
(72)【発明者】
【氏名】細木 渉
(72)【発明者】
【氏名】丸山 陽
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-137922(JP,A)
【文献】特開2019-162346(JP,A)
【文献】特開2003-192870(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0314184(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
A61L 9/00 - 9/22
E01C 19/00 - 19/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常圧における沸点が200℃未満の香料化合物と、常圧における沸点が200℃以上の溶剤(香料化合物として使用可能なものを除く)と、を含有する、アスファルト臭気抑制剤であって、
前記アスファルト臭気抑制剤中、前記溶剤を10質量%以上含有する、アスファルト臭気抑制剤
【請求項2】
請求項1に記載のアスファルト臭気抑制剤において、
前記香料化合物の常圧における沸点は、150℃以上190℃未満である、アスファルト臭気抑制剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアスファルト臭気抑制剤において、
前記アスファルト臭気抑制剤中、前記香料化合物を25質量%以上90質量%以下含有し、
前記アスファルト臭気抑制剤中、前記溶剤を10質量%以上75質量%以下含有する、アスファルト臭気抑制剤。
【請求項4】
常圧における沸点が50℃以上150℃未満の第1香料化合物と、常圧における沸点が150℃以上200℃未満の第2香料化合物と、常圧における沸点が200℃以上の溶剤(香料化合物として使用可能なものを除く)と、を含有する、アスファルト臭気抑制剤であって、
前記アスファルト臭気抑制剤中、前記溶剤を25質量%以上含有する、アスファルト臭気抑制剤
【請求項5】
常圧における沸点が200℃未満の香料化合物と、常圧における沸点が200℃以上300℃未満の第1溶剤(香料化合物として使用可能なものを除く)と、常圧における沸点が300℃以上400℃未満の第2溶剤(香料化合物として使用可能なものを除く)と、を含有する、アスファルト臭気抑制剤であって、
前記アスファルト臭気抑制剤中、前記第1溶剤および前記第2溶剤をそれぞれ12.5質量%以上含有する、アスファルト臭気抑制剤
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のアスファルト臭気抑制剤を含むアスファルト組成物。
【請求項7】
アスファルトまたは改質アスファルトに請求項1~5のいずれか1項に記載のアスファルト臭気抑制剤を添加する工程、
を含む、アスファルト組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルトの加熱時に発生する臭気を抑制するアスファルト臭気抑制剤、および、アスファルト臭気抑制剤を含むアスファルト組成物、ならびに、アスファルト組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建築、土木分野における道路舗装にはアスファルト混合物が用いられる。アスファルト混合物は、プラントなどにおいてアスファルトまたは改質アスファルト(以下、アスファルト組成物という場合がある)と、砂利などの骨材および石粉などのフィラーとを加熱混合して製造される。
【0003】
アスファルトは、高温で加熱されるとアスファルト中に含まれる炭化水素や硫黄系成分が酸化劣化して、カルボン酸やアルデヒドなどの異臭成分が発生する。特に、改質アスファルトを用いる場合には、改質アスファルト中に含まれるゴムや熱可塑性エラストマーの劣化物による異臭成分が加わるため、さらに臭気が強くなる。
【0004】
そのため、アスファルト組成物を扱うプラントは、その臭気への対策が必要である。特に、アスファルト組成物をプラント間で輸送する場合において、アスファルト組成物をタンクローリーに積む込む際および積み下ろす際に発生する臭気の抑制が難しい。また、改質アスファルトは、防水材として道路橋の脚と舗装との間の防水層に用いられるが、施工現場で200~300℃の高温に加熱溶解して使用されるため、臭気の発生が著しい。
【0005】
これまで、アスファルトによる臭気を抑制するための提案がいくつか行われている。例えば、特許文献1には、香料などを含有した液状の芳香添加剤をアスファルトに混合することで、臭気をマスキング(遮蔽)し、それらの臭気を抑制する方法が記載されている。また、特許文献2には、常圧における沸点が200℃以上で高温でも安定な香料と、シリカゲルなどの香料の保持基材とからなるアスファルト用防臭組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-342908号公報
【文献】特開2007-137922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された液状の芳香添加剤は、揮発性が高く、例えば200℃以上に加熱されたアスファルトに添加すると、短時間で香料成分が揮発して消臭乃至マスキング効果が持続しないおそれがある。これは、アスファルトに当該芳香添加剤を添加した後に加熱する場合も同様である。
【0008】
また、特許文献2に記載されたアスファルト用防臭組成物は、常圧における沸点が200℃以上の香料を使用しているため、高温でも消臭乃至マスキング効果が持続する反面、揮発性が乏しくアスファルトの臭気を十分に消臭乃至マスキングできないおそれもある。また、特許文献2に記載されたアスファルト用防臭組成物は、保持基材に保持できる香料の量に限界があるため、多量の保持基材を使用する必要があり、多量の保持基材を使用することによる取り扱いの困難性および製造コスト・運用コストなどの増大が懸念される。
【0009】
以上より、本発明の課題は、消臭乃至マスキング効果と持続性とを両立できるアスファルト臭気抑制剤、これを含むアスファルト組成物およびアスファルト組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次の通りである。
[1] 常圧における沸点が200℃未満の香料化合物と、常圧における沸点が200℃以上の溶剤と、を含有する、アスファルト臭気抑制剤。
[2] [1]に記載のアスファルト臭気抑制剤において、前記香料化合物の常圧における沸点は、150℃以上190℃未満である、アスファルト臭気抑制剤。
[3] [1]または[2]に記載のアスファルト臭気抑制剤において、前記アスファルト臭気抑制剤中、前記香料化合物を25質量%以上90質量%以下含有し、前記アスファルト臭気抑制剤中、前記溶剤を10質量%以上75質量%以下含有する、アスファルト臭気抑制剤。
[4] 常圧における沸点が50℃以上150℃未満の第1香料化合物と、常圧における沸点が150℃以上200℃未満の第2香料化合物と、常圧における沸点が200℃以上の溶剤と、を含有する、アスファルト臭気抑制剤。
[5] 常圧における沸点が200℃未満の香料化合物と、常圧における沸点が200℃以上300℃未満の第1溶剤と、常圧における沸点が300℃以上400℃未満の第2溶剤と、を含有する、アスファルト臭気抑制剤。
[6] [1]~[5]のいずれか1つに記載のアスファルト臭気抑制剤を含むアスファルト組成物。
[7] アスファルトまたは改質アスファルトに[1]~[5]のいずれか1つに記載のアスファルト臭気抑制剤を添加する工程、を含む、アスファルト組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、消臭乃至マスキング効果と持続性とを両立できるアスファルト臭気抑制剤、これを含むアスファルト組成物およびアスファルト組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態について、詳細に説明する。本明細書において、「~」は下限値および上限値を含む範囲を意味する。また、「消臭乃至マスキング効果」とは、消臭効果またはマスキング効果のいずれか1つ、あるいは、消臭効果およびマスキング効果の両方を奏する場合を含む。
【0013】
(アスファルト臭気抑制剤)
<第1実施形態に係るアスファルト臭気抑制剤の概要>
以下、本発明の第1実施形態に係るアスファルト臭気抑制剤(以下、第1実施形態の臭気抑制剤という場合がある。)について、詳細に説明する。第1実施形態の臭気抑制剤は、常圧における沸点が200℃未満の香料化合物と、常圧における沸点が200℃以上の溶剤と、を含有する。ここで、「常圧」とは大気圧(1013.25hPa)に等しい圧力を意味する。
【0014】
前述したように、アスファルト組成物の臭気を抑制するために、例えば常圧における沸点が200℃未満の香料化合物のみを臭気抑制剤として使用すると、200℃以上に加熱されたアスファルト組成物に添加した場合(またはアスファルト組成物に添加して200℃以上に加熱した場合)に、香料化合物の単位時間あたりの蒸発量が多いため、消臭乃至
マスキング効果が発揮される反面、その消臭乃至マスキング効果が長時間持続しない。一方、常圧における沸点が200℃以上の香料化合物のみを臭気抑制剤として使用すると、香料化合物の単位時間あたりの蒸発量が少ないため、消臭乃至マスキング効果が長時間持続する反面、十分な消臭乃至マスキング効果が得られない。
【0015】
この点、第1実施形態の臭気抑制剤にあっては、常圧における沸点が200℃未満の香料化合物と、常圧における沸点が200℃以上の溶剤とを含有している。こうすることで、香料化合物を溶剤中に分散させて、香料化合物の蒸気圧を適度に低下させ、香料化合物の単位時間あたりの蒸発量を制御することができる。その結果、第1実施形態の臭気抑制剤は、200℃以上の高温で使用されるアスファルトの臭気を十分に消臭乃至マスキングし、かつ、その消臭乃至マスキング効果を持続させることができる。
【0016】
また、第1実施形態の臭気抑制剤は、香料化合物を溶剤に分散させた液体であるため、臭気抑制剤としての取り扱いが容易であり、その溶剤を適切に選択することにより、製造コストおよび運用コストなどを低減させることができる。
【0017】
第1実施形態の臭気抑制剤において、前記香料化合物の常圧における沸点は、200℃未満であれば特に限定されるものではないが、50℃以上200℃未満が好ましく、110℃以上190℃未満がより好ましく、150℃以上190℃未満がさらに好ましい。
【0018】
一般に、アスファルトは、110℃以上(例えば、アスファルトの運搬時の温度)で流動性が生じはじめ、150℃以上190℃未満(例えば、アスファルトの運搬時、改質アスファルトの製造時またはアスファルト施工時の温度)で十分な流動性を有するとともに、臭気の発生が生じる。また、アスファルトは、200℃以上でほぼ液体の状態となり、臭気の発生も著しくなる(例えば、防水材としての使用時の施工温度は200~280℃である)。一方、アスファルトは、110℃未満になると流動性がなくなり臭気も発生しにくくなり、50℃未満になるとほぼ固化し臭気が発生しなくなる(例えば、施工後に冷却が進んだ状態の温度)。
【0019】
そのため、第1実施形態の臭気抑制剤において、香料化合物の常圧における沸点を、50℃以上200℃未満(より好ましくは110℃以上190℃未満)とすることで、アスファルトの運搬時など臭気が発生する可能性のある温度範囲において、香料化合物が蒸発しやすく消臭乃至マスキング効果を発揮させることができる。さらに、香料化合物の常圧における沸点を、150℃以上190℃未満とすることで、改質アスファルトの製造時やアスファルト施工時などの特に臭気が発生しやすい温度範囲において、香料化合物を確実に蒸発させ消臭乃至マスキング効果を十分に発揮させることができる。
【0020】
同様に、第1実施形態の臭気抑制剤において、前記溶剤の常圧における沸点は、200℃以上であれば特に限定されるものではないが、アスファルトの加熱温度の上限(例えばアスファルトの沸点)を考慮すると、200℃以上400℃未満が好ましい。
【0021】
第1実施形態の臭気抑制剤において、臭気抑制剤中における香料化合物および溶剤の含有量は、それぞれ任意の含有量で前記効果を奏するため特に限定されるものではないが、臭気抑制剤中、香料化合物を25質量%以上90質量%以下含有し、かつ、臭気抑制剤中、溶剤を10質量%以上75質量%以下含有することが好ましい。臭気抑制剤中に香料化合物を25質量%以上含有させる(臭気抑制剤中、溶剤を75質量%以下とする)ことで、香料化合物の単位時間あたりの蒸発量が一定以上となり、消臭乃至マスキング効果を十分に発揮させることができる。一方、臭気抑制剤中に溶剤を10質量%以上含有させる(臭気抑制剤中、香料化合物を90質量%以下とする)ことで、香料化合物の単位時間あたりの蒸発量を制御でき、消臭乃至マスキング効果を十分に持続させることができる。
【0022】
なお、第1実施形態の臭気抑制剤は、常圧における沸点が200℃未満の香料化合物を1種または2種以上含有していてもよく、例えば常圧における沸点が200℃未満の香料化合物を含む精油などを含有していてもよい。同様に、常圧における沸点が200℃以上の溶剤を1種または2種以上含有していてもよい。また、第1実施形態の臭気抑制剤は、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の香料成分および/または他の溶剤など、他の添加物を含有していてもよい(後述の第2実施形態および第3実施形態も同様)。
【0023】
<第1実施形態に係る香料化合物の概要>
第1実施形態に係る香料化合物は、以下のものを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
常圧での沸点が200℃未満の香料化合物の例:シス-3-ヘキセノール(沸点156.5℃)、酢酸シス-3-ヘキセニル(沸点75.0℃)、2-メチル酪酸エチル(沸点135.1℃)、酢酸イソアミル(沸点142.1℃)、ユーカリプトール(1,8-シオネール)(沸点174.0℃)、リナロール(沸点198.5℃)、酪酸エチル(沸点122.4℃)、オクタナール(沸点163.4℃)、酢酸エチル(沸点73.9℃)、酢酸プレニル(酢酸3-メチル-2-ブテニル)(沸点149.7℃)、酢酸ブチル(沸点126.6℃)、酢酸テルピニル(沸点95.0℃)、酢酸2-メチルブチル(沸点135.1℃)、酢酸メチル(沸点44.0℃)、酢酸イソブチル(沸点116.6℃)、リモネン(沸点175.4℃)、γ-テルピネン(沸点182.0℃)、α-ピネン(沸点157.9℃)、β-ピネン(沸点166.0℃)、ミルセン(沸点167.0℃)、p-シメン(沸点176.0℃)、カンフェン(沸点158.6℃)、ヘキサナール(沸点127.9℃)、ベンズアルデヒド(沸点178.7℃)、アセトアルデヒド(沸点21.0℃)、トランス-2-ヘキセナール(沸点146.0℃)、メロナール(沸点187.7℃)、イソバレルアルデヒド(沸点93.5℃)、ヘキサノール(沸点156.0℃)、アセトアルデヒド ジエチルアセタール(沸点103.6℃)、アセトアルデヒド
プロピレングリコールアセタール(沸点98.6℃)、プロピオン酸エチル(沸点99.0℃)、カプロン酸アリル(沸点186.0℃)、2-メチル吉草酸エチル(沸点153.0℃)、カプロン酸エチル(沸点167.9℃)、酪酸イソアミル(沸点176.5℃)、イソ吉草酸イソアミル(沸点194.0℃)、ローズオキシド(沸点196.7℃)、p-クレシルメチルエーテル(4-メトキシトルエン)(沸点174.0℃)、2-フェニルエチル メチルエーテル(沸点172.3℃)。
【0025】
常圧での沸点が200℃未満の香料化合物を含む精油の例:ブラジリアンオレンジ(スイートオレンジ)(沸点177℃)、ライムテルペン(ライム蒸留物)(沸点182℃)、グレープフルーツ精油(沸点171℃)、レモン精油(テルペンレスオイル)(沸点176℃)。
【0026】
<第1実施形態に係る溶剤の概要>
第1実施形態に係る溶剤は、以下のものを例示することができるが、これらに限定されるものではない。なお、溶剤自体が香料化合物として使用可能なものであってもよい。
【0027】
常圧での沸点が200℃以上の溶剤の例:ジプロピレングリコール(沸点230.5℃)、ジエチルフタレート(沸点294℃)、クエン酸トリエチル(沸点294℃)、高沸点イソパラフィン(沸点277~353℃)、トリプロピレングリコール(沸点316.1℃)、トリアセチン(沸点258℃)、安息香酸ベンジル(沸点324.1℃)、ジヒドロジャスモン酸メチル(沸点307.8℃)、ガラクソリド(登録商標)(1,3,4,6,7,8-ヘキサヒドロ-4,6,6,7,8,8-ヘキサメチルシクロペンタ[g]-2-ベンゾピラン、沸点326.3℃)、イソEスーパー(登録商標)(1-(2,
3,8,8-テトラメチル-1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロナフタレン-2-イル)エタン-1-オン、沸点312.2℃)。
【0028】
<第2実施形態に係るアスファルト臭気抑制剤の概要>
以下、本発明の第2実施形態に係るアスファルト臭気抑制剤(以下、第2実施形態の臭気抑制剤という場合がある。)について、詳細に説明する。第2実施形態の臭気抑制剤は、常圧における沸点が50℃以上150℃未満の第1香料化合物と、常圧における沸点が150℃以上200℃未満の第2香料化合物と、常圧における沸点が200℃以上の溶剤と、を含有する。
【0029】
第2実施形態の臭気抑制剤は、前述の第1実施形態の臭気抑制剤と同様に、常圧における沸点が200℃未満の香料化合物と、常圧における沸点が200℃以上の溶剤とを含有しているため、200℃以上の高温で使用されるアスファルトの臭気を十分に消臭乃至マスキングし、かつ、その消臭乃至マスキング効果を持続させることができる。
【0030】
特に、第2実施形態の臭気抑制剤にあっては、香料化合物として、常圧における沸点が50℃以上150℃未満の第1香料化合物と、常圧における沸点が150℃以上200℃未満の第2香料化合物とを含有している。こうすることで、改質アスファルトの製造時からアスファルト運搬時、アスファルト施工時までのそれぞれの温度範囲に応じて、種類の異なる香料化合物がそれぞれ蒸発するため、幅広い温度範囲において消臭乃至マスキング効果を発揮させることができる。より具体的には、常圧における沸点が150℃以上200℃未満の第2香料化合物によって、アスファルトの流動性が高い温度領域において消臭乃至マスキング効果が発揮され、常圧における沸点が50℃以上150℃未満の第1香料化合物によって、アスファルトの積み込み時および積み下ろし時、ならびに、アスファルトが冷却されて固化するまでの温度範囲において消臭乃至マスキング効果が発揮される。
【0031】
第2実施形態の臭気抑制剤において、第1香料化合物の常圧における沸点は、110℃以上150℃未満であることがより好ましく、第2香料化合物の常圧における沸点は、150℃以上190℃未満であることがより好ましい。こうすることで、前述したように、臭気が発生しやすい温度範囲において、より確実に消臭乃至マスキング効果を発揮させることができる。
【0032】
第2実施形態の臭気抑制剤において、臭気抑制剤中における第1香料化合物、第2香料化合物および溶剤の含有量は特に限定されるものではないが、臭気抑制剤中、第1香料化合物および第2香料化合物をそれぞれ10質量%以上、合計で20質量%以上75質量%以下含有し、かつ、臭気抑制剤中、溶剤を25質量%以上80質量%以下含有することが好ましい。臭気抑制剤中に第1香料化合物および第2香料化合物をそれぞれ10質量%以上含有させる(臭気抑制剤中、溶剤を80質量%以下とする)ことで、香料化合物の単位時間あたりの蒸発量が一定以上となり、消臭乃至マスキング効果を十分に発揮させることができる。一方、臭気抑制剤中に溶剤を25質量%以上含有させる(臭気抑制剤中、第1香料化合物および第2香料化合物の合計を75質量%以下とする)ことで、香料化合物の単位時間あたりの蒸発量を制御でき、消臭乃至マスキング効果を十分に持続させることができる。
【0033】
なお、第2実施形態の臭気抑制剤は、常圧における沸点が50℃以上150℃未満の第1香料化合物を1種または2種以上含有していてもよく、同様に、常圧における沸点が150℃以上200℃未満の第2香料化合物を1種または2種以上含有していてもよく、常圧における沸点が200℃以上の溶剤を1種または2種以上含有していてもよい。
【0034】
第2実施形態に係る第1香料化合物および第2香料化合物の例としては、前述した第1
実施形態に係る香料化合物として例示したもののうち、第1香料化合物および第2香料化合物のそれぞれの沸点の条件に該当するものが挙げられる。また、第2実施形態に係る溶剤は、第1実施形態に係る溶剤と同様であるため、その説明を省略する。
【0035】
<第3実施形態に係るアスファルト臭気抑制剤の概要>
以下、本発明の第3実施形態に係るアスファルト臭気抑制剤(以下、第3実施形態の臭気抑制剤という場合がある。)について、詳細に説明する。第3実施形態の臭気抑制剤は、常圧における沸点が200℃未満の香料化合物と、常圧における沸点が200℃以上300℃未満の第1溶剤と、常圧における沸点が300℃以上400℃未満の第2溶剤と、を含有する。
【0036】
第3実施形態の臭気抑制剤は、前述の第1実施形態および第2実施形態の臭気抑制剤と同様に、常圧における沸点が200℃未満の香料化合物と、常圧における沸点が200℃以上の溶剤とを含有しているため、200℃以上の高温で使用されるアスファルトの臭気を十分に消臭乃至マスキングし、かつ、その消臭乃至マスキング効果を持続させることができる。
【0037】
特に、第3実施形態の臭気抑制剤にあっては、溶剤として、常圧における沸点が200℃以上300℃未満の第1溶剤と、常圧における沸点が300℃以上400℃未満の第2溶剤とを含有している。このように、沸点の異なる少なくとも2種類の溶剤を含有させることで、改質アスファルトの製造時からアスファルト運搬時、アスファルト施工時までのそれぞれの温度範囲に応じて香料化合物の蒸発を制御することができる。また、例えば、防水材としてのアスファルトを使用する場合において、施工時にアスファルトを200~300℃で長時間維持する必要がある。この点、第3実施形態の臭気抑制剤にあっては、常圧における沸点が200℃以上300℃未満の第1溶剤だけでなく、常圧における沸点が300℃以上400℃未満の第2溶剤も含んでいるため、アスファルトが200~300℃の高温で長時間維持された場合であっても、溶剤が蒸発してしまい消臭乃至マスキング効果が維持できないといった事態を防止することができる。
【0038】
第3実施形態の臭気抑制剤において、臭気抑制剤中における香料化合物、第1溶剤および第2溶剤の含有量は特に限定されるものではないが、臭気抑制剤中、香料化合物を25質量%以上75質量%以下含有し、かつ、臭気抑制剤中、第1溶剤および第2溶剤をそれぞれ12.5質量%以上、合計で25質量%以上75質量%以下含有することが好ましい。臭気抑制剤中に香料化合物を25質量%以上含有させる(臭気抑制剤中、第1溶剤および第2溶剤の合計を75質量%以下とする)ことで、香料化合物の単位時間あたりの蒸発量が一定以上となり、消臭乃至マスキング効果を十分に発揮させることができる。一方、臭気抑制剤中に第1溶剤および第2溶剤をそれぞれ12.5質量%以上含有させる(臭気抑制剤中、香料化合物を75質量%以下とする)ことで、香料化合物の単位時間あたりの蒸発量を制御でき、消臭乃至マスキング効果を十分に持続させることができる。
【0039】
なお、第3実施形態の臭気抑制剤は、常圧における沸点が200℃未満の香料化合物を1種または2種以上含有していてもよく、同様に、常圧における沸点が200℃以上300℃未満の第1溶剤を1種または2種以上含有していてもよく、常圧における沸点が300℃以上400℃未満の第2溶剤を1種または2種以上含有していてもよい。
【0040】
第3実施形態に係る第1溶剤および第2溶剤の例としては、前述した第1実施形態に係る溶剤として例示したもののうち、第1溶剤および第2溶剤のそれぞれの沸点の条件に該当するものが挙げられる。また、第3実施形態に係る香料化合物は、第1実施形態に係る香料化合物と同様であるため、その説明を省略する。
【0041】
なお、第2実施形態と第3実施形態とを組み合わせて、常圧における沸点が50℃以上150℃未満の第1香料化合物と、常圧における沸点が150℃以上200℃未満の第2香料化合物と、常圧における沸点が200℃以上300℃未満の第1溶剤と、常圧における沸点が300℃以上400℃未満の第2溶剤と、を含有する臭気抑制剤としてもよい。このような臭気抑制剤であれば、第2実施形態の臭気抑制剤の効果と第3実施形態の臭気抑制剤の効果との両方を奏する。
【0042】
(アスファルト組成物)
<アスファルト組成物の概要>
以下、本発明の一実施の形態に係るアスファルト組成物(以下、本件アスファルト組成物という場合がある。)について、詳細に説明する。
【0043】
本件アスファルト組成物は、アスファルトまたは改質アスファルトと、前述した第1~第3実施形態のいずれか1つ以上の臭気抑制剤とを含むものである。すなわち、本件アスファルト組成物は、アスファルトまたは改質アスファルトと、常圧における沸点が200℃未満の香料化合物と、常圧における沸点が200℃以上の溶剤とを含有する。
【0044】
したがって、本件アスファルト組成物にあっては、200℃以上の高温で使用された場合において、アスファルトの臭気が十分に、かつ、長時間に亘って消臭乃至マスキングされた状態で使用することができる。
【0045】
本件アスファルト組成物を構成するアスファルトは、鎖式飽和炭化水素(パラフィン)、環式飽和炭化水素(ナフテン)、芳香族炭化水素、縮合多環芳香族炭化水素(レジン)、縮合多環芳香族炭化水素の層状構造物(アスファルテン)などの混合物からなる一般的なものである。アスファルトには、処理法によりストレートアスファルト、ブローンアスファルト、セミブローンアスファルトなどの種類があるが、特に限定されるものではない。
【0046】
また、本件アスファルト組成物を構成する改質アスファルトは、前述したアスファルトにゴムや熱可塑性エラストマーなどを添加して、アスファルトの力学的強度などの性状を向上させたものである。改質アスファルトに添加されるゴムや熱可塑性エラストマーの例としては、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)が挙げられる。
【0047】
(アスファルト組成物の製造方法)
<アスファルト組成物の製造方法の概要>
以下、本発明の一実施の形態に係るアスファルト組成物の製造方法(以下、本件アスファルト組成物の製造方法という場合がある。)について、詳細に説明する。
【0048】
本件アスファルト組成物の製造方法は、アスファルトまたは改質アスファルトに、前述した第1~第3実施形態のいずれか1つ以上の臭気抑制剤(以下、「本件臭気抑制剤」という場合がある)を添加する工程、を含む。すなわち、本件アスファルト組成物の製造方法には、(1)アスファルトに本件臭気抑制剤を添加して、アスファルト組成物を製造する場合、(2)アスファルトにゴムおよび/または熱可塑性エラストマーを添加して改質アスファルトを製造した後、本件臭気抑制剤を添加して、アスファルト組成物を製造する場合、(3)アスファルトに本件臭気抑制剤を添加した後、ゴムおよび/または熱可塑性エラストマーを添加して、アスファルト組成物を製造する場合、(4)アスファルトに、ゴムおよび/または熱可塑性エラストマー、ならびに、本件臭気抑制剤を(同工程中に)添加して、アスファルト組成物を製造する場合などが含まれる。なお、本件臭気抑制剤が添加される場所は特に制限されず、例えば、アスファルトまたは改質アスファルトの製造
プラントにおいて添加されてもよいし、アスファルト組成物の施工現場において添加されてもよい。
【0049】
本件アスファルト組成物の製造方法によれば、アスファルトまたは改質アスファルトに、常圧における沸点が200℃未満の香料化合物と、常圧における沸点が200℃以上の溶剤とを含有する本件臭気抑制剤を添加する工程を含むため、アスファルト組成物の製造工程中に発生する臭気を消臭乃至マスキングすることができる。さらに、本件アスファルト組成物の製造方法によって製造されたアスファルト組成物にあっては、200℃以上の高温で使用された場合において、アスファルトの臭気が十分に、かつ、長時間に亘って消臭乃至マスキングされた状態で使用することができる。
【0050】
<アスファルト組成物の製造方法の適用例1>
以下、本件アスファルト組成物の製造方法の適用例1(道路舗装)について詳細に説明する。まず、アスファルトを150~250℃に加熱しながら、スチレン-ブタジエンゴムなどを添加した上で3~5時間撹拌し、改質アスファルトを製造する。その後、製造した改質アスファルトに本件臭気抑制剤を添加し、タンクローリーに積み込む。改質アスファルトは、タンクローリー中150~200℃に保たれた状態で6~24時間かけて混合プラントに輸送される。その後、タンクローリーから混合プラントに改質アスファルトを押し出す。その後、混合プラント内において、改質アスファルトを150~200℃に加熱した後に、骨材(砂利)およびフィラー(石粉)と約1分以内に混合させ、アスファルト混合物を製造する。アスファルト混合物中、3~5%が改質アスファルトであり、残りの95~97%が骨材およびフィラーである。なお、改質アスファルトと骨材およびフィラーとを混合する前に、溶融状態(160~180℃)で数日以内保管されることもある。製造されたアスファルト混合物はダンプトラックに積み込まれ、120~185℃で約1時間以内に施工現場に輸送される。その後、施工現場に輸送されたアスファルト混合物は、敷き均し締固められた後、約30分以内に110℃未満に冷却され固化する。
【0051】
以上の適用例1にあっては、従来、アスファルトをタンクローリーに積み込む際に、周囲にアスファルト由来の臭気が発生していたが、本件臭気抑制剤を添加した上でタンクローリーに積み込むことにより、臭気を消臭乃至マスキングすることができる。また、アスファルトをタンクローリーから混合プラントに押し出す際にも、周囲にアスファルト由来の臭気が発生していたが、同様に臭気を消臭乃至マスキングすることができる。さらに、アスファルト混合物となって施工され、冷却されるまでの間も、施工現場周辺におけるアスファルト臭気の消臭乃至マスキング効果の持続が期待できる。
【0052】
<アスファルト組成物の製造方法の適用例2>
以下、本件アスファルト組成物の製造方法の適用例2(防水材)について詳細に説明する。まず、前述の適用例1と同様に、アスファルトを150~250℃に加熱しながら、スチレン-ブタジエンゴムなどを添加した上で3~5時間撹拌し、改質アスファルトを製造する。その後、本件臭気抑制剤を添加し、タンクローリーに積み込む。その後、改質アスファルトは、タンクローリー中180~220℃に保たれた状態で6~24時間かけて道路橋床版の施工現場に輸送される。その後、タンクローリーからオープン釜に改質アスファルトを押し出す。オープン釜では改質アスファルトを200~280℃に加熱しながら約2時間保持し、その後、改質アスファルトは防水材として施工され、冷却固化する。
【0053】
以上の適用例2にあっては、前述の適用例1と同様に、本件臭気抑制剤によって、アスファルトの積み込みおよび積み下ろしの際の臭気を消臭乃至マスキングすることができるとともに、道路橋床版の施工現場において長時間高温に加熱されることで発生していた臭気を効果的に消臭乃至マスキングすることができる。
【0054】
<アスファルト組成物の製造方法の適用例3>
以下、本件アスファルト組成物の製造方法の適用例3(防水材)について詳細に説明する。まず、前述の適用例1と同様に、アスファルトを150~250℃に加熱しながら、スチレン-ブタジエンゴムなどを添加した上で3~5時間撹拌し、改質アスファルトを製造する。それを冷却固化させる過程ブロックあるいはシート状などに成形し、段ボールに箱詰めする。その成形品は道路橋床版の施工現場に輸送され、オープン釜で加熱して溶解される。その際、本件臭気抑制剤を添加し、オープン釜では改質アスファルトを200~280℃に加熱しながら約2時間保持し、その後、改質アスファルトは防水材として施工され、冷却固化する。
【0055】
以上の適用例3にあっては、前述の適用例2と同様に、道路橋床版の施工現場において長時間高温に加熱されることで発生していた臭気を効果的に消臭乃至マスキングすることができる。
【実施例
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]持続性の評価
ストレートアスファルト10gをガラス容器に入れた後に180℃に加熱し、表1に示す処方で調製した実施例1-1の臭気抑制剤10μLを添加したサンプルを作製した。実施例1-1の香料化合物としては、常圧における沸点が200℃未満の(A1)シス-3-ヘキセノール(沸点156.5℃)を、実施例1-1の溶剤としては、常圧における沸点が200℃以上の(B1)ジプロピレングリコール(沸点230.5℃)を、それぞれ用いた。
【0058】
実施例1-1の臭気抑制剤添加後も180℃に保持したサンプルについて、よく訓練された6名のパネラーが、臭気抑制剤添加の「直後」、「10分後」、「30分後」および「60分後」の臭気を嗅ぎ、消臭乃至マスキング効果を評価した。6名のパネラーの総意により、アスファルト臭をほとんど感じなかったものを「◎」と、アスファルト臭を感じたが気にならないものを「○」と、アスファルト臭が気になるものを「△」と、アスファルト臭を強く感じるものを「×」と、それぞれ評価し、表1にその結果を示した。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示すように、実施例1-1によれば、常圧における沸点が200℃未満の香料化合物と、常圧における沸点が200℃以上の溶剤とを含有する臭気抑制剤がアスファルトの臭気を十分に消臭乃至マスキングし、かつ、その消臭乃至マスキング効果が持続することが示された。
【0061】
[実施例2]香料化合物を1種または2種以上含む例
ストレートアスファルト10gをガラス容器に入れた後に200℃に加熱し、表2に示す処方で調製した実施例2-1~2-5の臭気抑制剤10μLをそれぞれ添加したサンプルを作製した。実施例2-1~2-4の香料化合物としては、それぞれ常圧における沸点が200℃未満の(A1)シス-3-ヘキセノール(沸点156.5℃)、(A2)酢酸シス-3-ヘキセニル(沸点75.0℃)、(A3)2-メチル酪酸エチル(沸点135.1℃)、(A4)ローズオキシド(沸点196.7℃)を、実施例2-5の香料化合物としては、これら全てを用いた。実施例2-1~2-5の溶剤としては、いずれも実施例1-1と同様に、(B1)ジプロピレングリコールを用いた。
【0062】
実施例2-1~2-5の臭気抑制剤添加後も200℃に保持したサンプルについて、よく訓練された6名のパネラーが、臭気抑制剤添加の「直後」および「10分後」の臭気を嗅ぎ、消臭乃至マスキング効果を評価した。パネラーが、アスファルト臭をほとんど感じなかったものを「2」、アスファルト臭を若干感じるものを「1」、アスファルト臭を強く感じるものを「0」として、「直後」および「10分後」の臭気をそれぞれ採点した。採点結果を6名のパネラーで平均し、「直後」および「10分後」の両方で1.5以上となったものを「◎」と、1.0以上となったものを「○」と、0.5以上となったものを「△」と、0.5未満となったものを「×」と評価した。表2に、実施例2-1~2-5の評価結果を示した。
【0063】
【表2】
【0064】
表2に示すように、実施例2によれば、臭気抑制剤を構成する香料化合物の常圧における沸点が200℃未満であれば、その香料化合物の種類によらず、実施例1と同様に、アスファルトの臭気の消臭乃至マスキング効果が十分に得られることが示された。なお、実施例2-5として(A1)~(A4)の香料化合物を全て用いた例を示したが、本発明者らは(A)香料化合物として(A1)~(A4)のうちの任意の2種類乃至3種類を組み合わせた場合にも、アスファルトの臭気の消臭乃至マスキング効果が得られることを確認した。特に、(A)香料化合物として、常圧における沸点が50℃以上150℃未満の(A2)または(A3)と、常圧における沸点が150℃以上200℃未満の(A1)または(A4)とを組み合わせた場合が好ましく、常圧における沸点が110℃以上150℃未満の(A3)と、常圧における沸点が150℃以上190℃未満の(A1)とを組み合わせた場合がより好ましかった。
【0065】
[実施例3]香料化合物と溶剤との比率を変化させた例
ストレートアスファルト10gをガラス容器に入れた後に200℃に加熱し、表3に示す処方で調製した実施例3-1~3-5の臭気抑制剤10μLをそれぞれ添加したサンプルを作製した。実施例3-1~3-5の香料化合物および溶剤は、実施例1-1および2-1と同じであるが、実施例3-1~3-5では、それぞれ表3に示すように、香料化合物と溶剤との比率を変化させている。実施例3-1~3-5の評価方法は、実施例2の評価方法と同じである。表3に、実施例3-1~3-5の評価結果を示した。
【0066】
【表3】
【0067】
表3に示すように、実施例3によれば、臭気抑制剤中、香料化合物を10質量%以上90質量%以下含有し、溶剤を10質量%以上90質量%以下含有する場合には、アスファルトの臭気の消臭乃至マスキング効果が十分に得られることが示された。特に、実施例3-2~3-5によれば、臭気抑制剤中、香料化合物を25質量%以上90質量%以下含有し、溶剤を10質量%以上75質量%以下含有する場合には、アスファルトの臭気の消臭乃至マスキング効果が優れていることが示された。なお、表3には示していないが、本発明者は、臭気抑制剤中、香料化合物を5質量%以上95質量%以下含有し、溶剤を5質量%以上95質量%以下含有する範囲においては、少なくとも消臭乃至マスキング効果が得られることを確認している。
【0068】
[実施例4]溶剤を1種または2種以上含む例
ストレートアスファルト10gをガラス容器に入れた後に200℃に加熱し、表4に示す処方で調製した実施例4-1~4-5の臭気抑制剤10μLをそれぞれ添加したサンプルを作製した。実施例4-1~4-4の溶剤としては、それぞれ常圧における沸点が200℃以上の(B1)ジプロピレングリコール(沸点230.5℃)、(B2)安息香酸ベンジル(沸点324.1℃)、(B3)ガラクソリド(沸点326.3℃)、(B4)フタル酸ジエチル(沸点294.0℃)を、実施例4-5の溶剤としては、これら全てを用いた。実施例4-1~4-5の香料化合物としては、実施例1-1と同様に、(A1)シス-3-ヘキセノールを用いた。実施例4-1~4-5の評価方法は、実施例2の評価方法と同じである。表4に、実施例4-1~4-5の評価結果を示した。
【0069】
【表4】
【0070】
表4に示すように、実施例4によれば、臭気抑制剤を構成する溶剤の常圧における沸点が200℃以上であれば、その溶剤の種類によらず、実施例1と同様に、アスファルトの臭気の消臭乃至マスキング効果が十分に得られることが示された。なお、実施例4-5として(B1)~(B4)の溶剤を全て用いた例を示したが、本発明者らは(B)溶剤として(B1)~(B4)のうちの任意の2種類乃至3種類を組み合わせた場合にも、アスファルトの臭気の消臭乃至マスキング効果が得られることを確認した。特に、(B)溶剤と
して、常圧における沸点が200℃以上300℃未満の(B1)または(B4)と、常圧における沸点が300℃以上400℃未満の(B2)または(B3)とを組み合わせた場合が好ましかった。
【0071】
[比較例]
実施例1~4の比較対象として、ストレートアスファルト10gをガラス容器に入れた後に200℃に加熱し、表5に示す処方で調製した比較例1-1~1-3の臭気抑制剤10μLをそれぞれ添加したサンプルを作製した。比較例1-4は、ストレートアスファルト10gをガラス容器に入れた後に200℃に加熱し、臭気抑制剤を添加していないサンプルである。
【0072】
なお、比較例1-1および1-3の溶剤としては、常圧における沸点が200℃未満の(B91)プロプレングリコール(沸点188.2℃)を、比較例1-2および1-3の香料化合物としては、常圧における沸点が200℃以上の(A91)2-ヘキシルシンナムアルデヒド(沸点308.0℃)を、それぞれ用いた。比較例1-1~1-4の評価方法は、実施例2の評価方法と同じである。表5に、比較例1-1~1-4の評価結果を示した。
【0073】
【表5】
【0074】
表5に示すように、比較例1-1~1-3の臭気抑制剤は、比較例1-4に示す臭気抑制剤を一切添加していないサンプルに比べれば、アスファルトの臭気の臭気抑制乃至マスキング効果を多少奏するものの、実施例1~4と比較するとその消臭乃至マスキング効果は十分ではないことが示された。
【0075】
以下その理由について考察する。比較例1-1は、溶剤の常圧における沸点が200℃未満であるため、短時間で溶剤とともに香料化合物が揮発して消臭乃至マスキング効果が持続しなかったことが原因と考えられる。比較例1-2は、香料化合物の常圧における沸点が200℃以上であるため、香料化合物の揮発性が乏しく、十分な消臭乃至マスキング効果が得られなかったことが原因と考えられる。比較例1-3は、香料化合物の常圧における沸点が200℃以上、かつ、溶剤の常圧における沸点が200℃未満であり、溶剤のみが蒸発してしまったため、消臭乃至マスキング効果がほとんど得られなかったことが原因と考えられる。
【0076】
[実施例のまとめ]
以上の実施例により、本発明の臭気抑制剤は、アスファルトの臭気を十分に消臭乃至マスキングし、かつ、その消臭乃至マスキング効果が持続することを確認できた。