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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】水素供給システム
(51)【国際特許分類】
   F17C 13/02 20060101AFI20221125BHJP
   F17C 5/06 20060101ALI20221125BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20221125BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20221125BHJP
【FI】
F17C13/02 301Z
F17C5/06
H01M8/04 J
H01M8/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020191370
(22)【出願日】2020-11-18
(65)【公開番号】P2021081069
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2021-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2019207666
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391018019
【氏名又は名称】JFEコンテイナー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000231235
【氏名又は名称】日本酸素ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡野 拓史
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 周作
(72)【発明者】
【氏名】石川 信行
(72)【発明者】
【氏名】長尾 彰英
(72)【発明者】
【氏名】松原 和輝
(72)【発明者】
【氏名】高野 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】門田 皓太郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 則和
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 卓也
(72)【発明者】
【氏名】久野 広喜
【審査官】長谷川 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-137926(JP,A)
【文献】特許第6442785(JP,B2)
【文献】特開2018-162851(JP,A)
【文献】国際公開第2014/174845(WO,A1)
【文献】特開2016-089891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 13/02
F17C 5/06
H01M 8/04
H01M 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素輸送用のカードルを用いて燃料電池車両に水素を供給する水素供給システムであって、
水素充填施設に設けられ、前記カードルに水素を充填する充填手段と、
水素充填済みのカードルを、前記燃料電池車両を運用する事業所に輸送する輸送タイミングを算出する管理手段と、
水素充填済みのカードルを、前記輸送タイミングに従って前記事業所に輸送する輸送手段と、
前記事業所に輸送された水素充填済みのカードルを、前記事業所内であって、前記燃料電池車両がアクセスして水素を補給可能な場所に配置する配置手段と、
前記事業所に配置されたカードルの水素の残量データと、前記事業所で運用されている前記燃料電池車両の水素の残量データとを取得する残量データ取得手段と、
を備え
前記管理手段は、
前記カードルおよび前記燃料電池車両の前記残量データと、前記カードルおよび前記燃料電池車両の水素残量補正比と、前記燃料電池車両の単位時間当たりの消費水素量とに基づいて、前記事業所で利用可能な将来の水素の残量を予測し、
予測した水素の残量に基づいて、前記輸送タイミングを算出することを特徴とする水素供給システム。
【請求項2】
前記カードルは、前記燃料電池車両に対して水素を供給するためのディスペンサ手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の水素供給システム。
【請求項3】
前記輸送手段は、前記事業所内に配置されたカードルであって、水素貯蔵量が低下したカードルを回収し、前記水素充填施設に輸送し、
前記充填手段は、前記水素充填施設に輸送されたカードルに水素を充填することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水素供給システム。
【請求項4】
前記輸送手段は、水素貯蔵量が低下したカードルを回収する際に、水素充填済みの別のカードルを前記事業所に輸送することを特徴とする請求項3に記載の水素供給システム。
【請求項5】
前記カードルは、複数の水素貯蔵容器を備え、
前記水素貯蔵容器は、鋼製ライナーおよび炭素繊維強化プラスチックから構成された複合構造容器であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載の水素供給システム。
【請求項6】
前記水素貯蔵容器に用いられる前記炭素繊維強化プラスチックは、縦弾性率230GPa以上であることを特徴とする請求項に記載の水素供給システム。
【請求項7】
前記水素貯蔵容器の最大水素貯蔵圧力は、40MPa超えであることを特徴とする請求項または請求項に記載の水素供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば物流倉庫や工場等の事業所において、CO削減に加え、充填時間短縮や予備電池不要等の利点から、燃料電池フォークリフト(以下、「FCフォークリフト」という)への期待が高まっている。
【0003】
一般的な燃料電池車では、特定の場所に設けられた水素ステーションまで自ら赴いて、燃料となる燃料となる水素(水素ガス)の補給を行う(例えば特許文献1参照)。一方、事業所等で運用されるFCフォークリフトに代表される商業車両の一部は、公道を走行することができないため、水素ステーションまで自ら赴いて水素の補給を行うことは困難である。また、日本では、FCフォークリフトの普及がまだ初期の段階であるため、例えば一事業所内で水素ステーションを保有するということも現実的には困難である。
【0004】
そこで、最近では、FCフォークリフトに対する水素の供給方式として、専用充填車(以下、「移動式水素ステーション」という)を利用した移動供給方式が登場している。この方式で用いられる移動式水素ステーションは、例えば水素貯蔵容器および水素充填装置が荷台に設置された専用の大型トラック等により構成されている。
【0005】
移動式水素ステーションは、特定の場所に設けられた水素充填施設で水素貯蔵用域に水素を充填した後、要請のあった事業所まで移動し、水素貯蔵量が低下したFCフォークリフトに水素を充填する。なお、移動式水素ステーションに設けられた水素貯蔵容器は、荷台に固定されているため、それ自体を取り外して運搬することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6442785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の移動式水素ステーションを利用した移動供給方式では、以下のような問題がある。例えば移動式水素ステーションは、事業所内のFCフォークリフトの水素貯蔵量が低下した際に、当該事業者側の要請によって水素を運搬する。そのため、例えば交通渋滞等の予期できない理由によって移動式水素ステーションの到着が遅れた場合、FCフォークリフトの水素が先に尽きてしまい、運用に支障が生じる場合がある。
【0008】
また、一般的な移動式水素ステーションは、3,4台分のFCフォークリフトに供給可能な量の水素しか積んでおらず、かつ一度の運行で複数の事業所を回って水素を運搬する。そのため、水素充填施設から遠く離れた事業所に行くまでに水素が尽きてしまい、遠隔地の事業所まで水素が回りきらないという問題がある。
【0009】
また、移動式水素ステーションは、一台を運用するだけでも多大なコストが掛かるため、例えば水素充填施設と複数の事業所との間で、複数台の移動式水素ステーションを往復させることは現実的には困難である。そのため、従来の移動式水素ステーションを利用した移動供給方式では、各事業所が希望するタイミングで移動式水素ステーションが到着することが難しく、必要な時にFCフォークリフトに水素を補給できず、使い勝手が悪いという問題がある。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、燃料電池車両に対して、所望のタイミングで水素を供給することが可能な水素供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る水素供給システムは、水素輸送用のカードルを用いて燃料電池車両に水素を供給する水素供給システムであって、水素充填施設に設けられ、前記カードルに水素を充填する充填手段と、水素充填済みのカードルを、前記燃料電池車両を運用する事業所に輸送する輸送タイミングを算出する管理手段と、水素充填済みのカードルを、前記輸送タイミングに従って前記事業所に輸送する輸送手段と、前記事業所に輸送された水素充填済みのカードルを、前記事業所内であって、前記燃料電池車両がアクセスして水素を補給可能な場所に配置する配置手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る水素供給システムは、上記発明において、前記カードルが、前記燃料電池車両に対して水素を供給するためのディスペンサ手段を備えていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る水素供給システムは、上記発明において、前記輸送手段が、前記事業所内に配置されたカードルであって、水素貯蔵量が低下したカードルを回収し、前記水素充填施設に輸送し、前記充填手段が、前記水素充填施設に輸送されたカードルに水素を充填することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る水素供給システムは、上記発明において、前記輸送手段が、水素貯蔵量が低下したカードルを回収する際に、水素充填済みの別のカードルを前記事業所に輸送することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る水素供給システムは、上記発明において、前記事業所に配置されたカードルの水素の残量データを取得する残量データ取得手段を備え、前記管理手段が、前記残量データに基づいて、前記事業所に配置されたカードルの将来の水素の残量を予測し、予測した水素の残量に基づいて、前記輸送タイミングを算出することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る水素供給システムは、上記発明において、前記残量データ取得手段が、前記事業所で運用されている前記燃料電池車両の水素の残量データを更に取得し、前記管理手段が、前記カードルおよび前記燃料電池車両の前記残量データに基づいて、前記事業所で利用可能な将来の水素の残量を予測し、予測した水素の残量に基づいて、前記輸送タイミングを算出することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る水素供給システムは、上記発明において、前記カードルが、複数の水素貯蔵容器を備え、前記水素貯蔵容器が、鋼製ライナーおよび炭素繊維強化プラスチックから構成された複合構造容器であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る水素供給システムは、上記発明において、前記水素貯蔵容器に用いられる前記炭素繊維強化プラスチックが、縦弾性率230GPa以上であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る水素供給システムは、上記発明において、前記水素貯蔵容器の最大水素貯蔵圧力が、40MPa超えであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、可搬性のあるカードルを事業所に輸送し、当該事業所に据え置いて利用することにより、燃料電池車両に対して、所望のタイミングで水素を供給することができる。すなわち、本発明によれば、燃料電池車両に水素を充填するタイミングを利用者側が決めることができるため、水素供給時の利便性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の実施形態に係る水素供給システムの概略的な構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る水素供給システムによる水素供給方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態に係る水素供給システムについて、図面を参照しながら説明する。なお、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0023】
(水素供給システム)
まず、本実施形態に係る水素供給システムについて、図1を参照しながら説明する。水素供給システムは、水素輸送用のカードル4を用いて燃料電池車両であるFCフォークリフト5に水素を供給するためのシステムである。この水素供給システムは、管理装置1と、水素充填装置2と、輸送車両3と、カードル4と、事業所で運用されるFCフォークリフト5と、を有している。
【0024】
なお、前記した「事業所」とは、例えば物流倉庫や工場等が挙げられる。また、事業所は複数であってもよい。また、事業所で運用されるFCフォークリフト5は複数台であってもよい。
【0025】
管理装置1、水素充填装置2、カードル4およびFCフォークリフト5は、ネットワークNWを通じて相互に通信可能である。このネットワークNWは、例えばインターネット回線網や携帯電話回線網等から構成される。
【0026】
(管理装置)
次に、管理装置(管理手段)1について説明する。管理装置1は、管理センタに設けられている。管理装置1は、制御部11と、通信部12と、記憶部13と、を備えている。制御部11は、具体的には、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等からなるプロセッサと、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等からなるメモリ(主記憶部)と、を備えている(いずれも図示省略)。
【0027】
制御部11は、記憶部13に格納されたプログラムを主記憶部の作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じて各構成部等を制御することにより、所定の目的に合致した機能を実現する。制御部11は、プログラムの実行を通じて、残量予測部111および輸送タイミング算出部112として機能する。なお、残量予測部111および輸送タイミング算出部112の詳細については後記する。
【0028】
通信部12は、例えばLAN(Local Area Network)インターフェースボード、無線通信のための無線通信回路等から構成される。通信部12は、公衆通信網であるインターネット等のネットワークNWに接続されている。そして、通信部12は、当該ネットワークNWに接続することにより、水素充填装置2、カードル4およびFCフォークリフト5との間で通信を行う。
【0029】
記憶部13は、EPROM(Erasable Programmable ROM)、ハードディスクドライブ(HDD、Hard Disk Drive)およびリムーバブルメディア等の記録媒体から構成される。リムーバブルメディアとしては、例えばUSB(Universal Serial Bus)メモリ、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、BD(Blu-ray(登録商標) Disc)のようなディスク記録媒体が挙げられる。また、記憶部13には、オペレーティングシステム(Operating System:OS)、各種プログラム、各種テーブル、各種データベース等が格納可能である。記憶部13には例えばカードル4およびFCフォークリフト5から定期的に送られてくる水素の残量データや、制御部11による計算結果等のデータ等が格納される。
【0030】
(水素充填装置)
次に、水素充填装置(充填手段)2について説明する。水素充填装置2は、輸送車両3が輸送するカードル4に水素を充填するための装置であり、水素充填施設に設けられている。この水素充填施設は、例えば石油精製や廃プラスチック生成により副生水素を発生させる水素発生源である。水素充填装置2は、図示しない圧縮機を備えており、水素充填施設で発生した水素を圧縮した後、輸送車両3によって回収および輸送されたカードル4に水素を充填する。
【0031】
(輸送車両)
輸送車両(輸送手段)3は、例えば一般的なトラック等の汎用車両であり、水素充填施設と事業所との間でカードル4を輸送する。輸送車両3は、水素充填施設で水素が充填された水素充填済みのカードル4を、事業所に輸送する。そして、輸送車両3は、事業所内に配置されたカードル4であって、水素貯蔵量が低下したカードル4を回収し、水素充填施設に輸送する。
【0032】
すなわち、輸送車両3は、水素貯蔵量が低下したカードル4を回収する際に、水素充填済みの別のカードル4を事業所に輸送する。なお、「水素貯蔵量が低下したカードル4」とは、例えばカードル4の水素貯蔵圧力が「45MPa」である場合、当該水素貯蔵圧力が「20MPa」程度まで低下したカードル4のことを意味している。
【0033】
ここで、従来の移動供給方式では、移動式水素ステーションのような専用充填車を用いていたが、本実施形態における輸送車両3は、カードル4を積載可能であればどのような車両であっても構わない。また、輸送車両3は、カードル4を複数積載してもよい。
【0034】
(カードル)
カードル4は、事業所において、FCフォークリフト5に水素を供給するためのものである。このカードル4は、事業所内の所定の場所に置かれており、水素の充填が必要となった際に、FCフォークリフト5が上記場所に赴いて水素の充填を行う。なお、カードル4からFCフォークリフト5への水素の充填は、当該FCフォークリフト5の運転手が直接行う。また、カードル4からFCフォークリフト5への水素の充填は、数分(例えば3分程度)で完了する。
【0035】
カードル4は、複数本の水素貯蔵容器41を備えている。この水素貯蔵容器41は、鋼製ライナー(鋼管)および炭素繊維強化プラスチックから構成された複合構造容器である。水素貯蔵容器41は、鋼製ライナーの周囲に炭素繊維強化プラスチックのシートが巻き付けられた構造を有している。水素貯蔵容器41に用いられる炭素繊維強化プラスチックは、縦弾性率230GPa以上で構成することが好ましい。上記のような弾性率を有する炭素繊維強化プラスチックを用いることにより、水素貯蔵容器41の軽量化と高剛性を両立させることができる。より好ましくは、350GPa以上である。
【0036】
水素貯蔵容器41は、例えば以下のように設計することが好ましい。なお、一つのカードル4に内蔵される水素貯蔵容器41の水素貯蔵圧力は、全て同じでもよく(例えば45MPa×3本)、あるいは一部が異なっていてもよい(例えば45MPa×2本、30MPa×1本)。
(1)最大水素貯蔵圧力(最大貯蔵圧力):40MPa超え
(2)水素貯蔵量:好ましくは300N・m未満
(3)容器容量:200L/本
(4)容器重量:0.7t/本
(5)本数:3本
【0037】
ここで、図1では図示を省略したが、カードル4は、通信手段と、ディスペンサ手段と、散水手段と、防護壁と、フォークポケットと、を備えている。通信手段は、水素貯蔵容器41の水素の残量データを、ネットワークNWを介して管理装置1に定期的に送信するための手段である。
【0038】
ディスペンサ手段は、FCフォークリフト5に対して水素を供給するための手段であり、水素の充填時に水素貯蔵容器41の急激な温度上昇を防止する機能を少なくとも有している。また、ディスペンサ手段は、水素の流量を自動制御するコントロールバルブと、複数の水素貯蔵容器41を切り替えながら水素を充填する急速充填ソフトとを備えていてもよい。また、ディスペンサ手段は、水素の流量を制御するオリフィスを備えていてもよい。
【0039】
また、散水手段は、散水により水素貯蔵容器41を冷却するための手段であり、例えば「高圧ガス保安法」によって定められた使用温度上限を超えることを防止するために設けられている。また、防護壁は、水素貯蔵容器41に直射日光が当たらないように設けられた壁である。また、フォークポケットは、FCフォークリフト5が輸送車両3に積まれたカードル4を運搬する際にツメを差し込むためのガイド穴である。
【0040】
カードルは、前記した複数の水素貯蔵容器41、ディスペンサ手段、散水手段および防護壁等を含めて、例えば総重量が2.5t以下となるように設計することが好ましい。カードル4の総重量を2.5t以下とすることにより、FCフォークリフト5によって吊り上げることが可能となり、汎用車両への積載が容易となる。
【0041】
(FCフォークリフト)
FCフォークリフト5は、事業所内で運用される産業用の燃料電池車両であり、非公道を走行する。図1では図示を省略したが、FCフォークリフト5は、水素タンク(燃料タンク)と、通信手段と、を備えている。通信手段は、水素タンクの水素の残量データを、ネットワークNWを介して管理装置1に定期的に送信する。
【0042】
FCフォークリフト5は、輸送車両3が事業所に到着した際に、水素充填済みのカードル4を、事業所内の所定の場所に配置する配置手段としても機能する。この場合、FCフォークリフト5は、輸送車両3に積まれたカードル4に設けられたフォークポケットにツメを差し込んで運搬を行う。なお、前記した「所定の場所」とは、事業所内であって、FCフォークリフト5が自由にアクセスして水素を補給可能な場所であり、かつ周囲に防爆電気設備が配置された場所のことを意味している。
【0043】
(水素供給方法)
次に、水素供給システムによる水素供給方法について、図2を参照しながら説明する。まず水素充填装置2は、カードル4に水素を充填する(ステップS1)。続いて、図示しない積載手段(例えばフォークリフト)を利用して、輸送車両3の荷台に水素充填済みのカードル4を積載する(ステップS2)。
【0044】
続いて、圧力計および温度計を用いてカードル4およびFCフォークリフト5の残圧を測定し、その温度および圧力から水素の残量データを取得する。その後、水素の残量データを管理装置1に定期的に送信する(ステップS3,S4)。続いて、管理装置1の残量予測部111は、カードル4およびFCフォークリフト5にそれぞれ設けられた圧力計および温度計を用いて、カードル4およびFCフォークリフト5の残圧を測定し、その温度および圧力から水素の残量データを取得する。そして、残量予測部111は、これらの残量データに基づいて、事業所で利用可能な将来の水素の残量を予測する(ステップS5)。
【0045】
なお、上記の温度は、直接容器の温度を測定しなくてもよく、例えば使用される環境の外気温等の環境温度を用いてもよい。また、ステップS5において、事業所で利用可能な将来の水素の残量は、例えば下記式(1)を用いて予測することができる。
【0046】
【数1】
【0047】
ここで、上記式(1)の各記号は、それぞれ以下を示している。
R(T):事業所で利用可能なT時間後の水素の残量
α(t):残量予測部111が定期的に受信した、i番目のカードル4の水素残量補正比
:i番目のカードル4の水素貯蓄量
FC:i番目のFCフォークリフト5の水素貯蓄量
β(t):残量予測部111が定期的に受信した、i番目のFCフォークリフト5の水素残量補正比
:i番目のFCフォークリフト5の単位時間当たりの消費水素量
【0048】
上記式(1)を用いた将来の水素の残量の計算例(予測例)について説明する。ここでは、一基のカードル4と二基のFCフォークリフト5を所有して運用している事業所において、残量予測部111が時間tに受信した値が以下である場合の、一時間後の事業所で利用可能な将来の水素の残量を予測する。
【0049】
α(t):残量予測部111が時間tに受信した、一番目のカードル4の水素残量補正比=0.8
:一番目のカードル4の水素貯蓄量=10kg
FC:一番目のFCフォークリフト5の水素貯蓄量=1kg
FC:二番目のFCフォークリフト5の水素貯蓄量=1kg
β(t):残量予測部111が時間tに受信した、一番目のFCフォークリフト5の水素残量補正比=0.2
β(t):残量予測部111が時間tに受信した、二番目のFCフォークリフト5の水素残量補正比=0.5
:一番目のFCフォークリフト5の一時間当たりの消費水素量=0.2kg/h
:二番目のFCフォークリフト5の一時間当たりの消費水素量=0.4kg/h
【0050】
この場合、残量予測部111は、上記式(1)を用いて、一時間後の事業所で利用可能な将来の水素の残量を以下のように算出する。
R(1)=0.8×10kg-{1kg(1-0.2)+0.2kg}-1kg{1kg(1-0.5)+0.4kg}=8kg-1kg-0.9kg=6.1kg
【0051】
ここで、上記式(1)のXは、各事業所等における運用実績から、IoT等を用いた計算科学によって、実績から算出することが好ましい。また、残量予測部111は、カードル4内の水素で残り何台のFCフォークリフト5に水素を充填できるのかを予測してもよい。以下、図2のステップS6以降の説明を続ける。
【0052】
続いて、管理装置1の輸送タイミング算出部112は、残量予測部111が予測したカードル4の将来の水素の残量に基づいて、水素充填済みのカードル4を、事業所に輸送する輸送タイミングを算出する(ステップS6)。輸送タイミング算出部112は、例えば事業所に配置されたカードル4の水素の残量が尽きる時点よりも前の時点を、輸送タイミングとして算出する。
【0053】
なお、輸送タイミング算出部112は、輸送タイミングを算出する際に、例えば事業所までの輸送車両3の走行ルート上の車の混み具合等を加味して輸送タイミングを算出してもよい。また、輸送タイミング算出部112が算出する輸送タイミングは、輸送車両3が水素充填施設を出発する時刻でもよく、あるいは輸送車両3が事業所に到着する時刻であってもよい。
【0054】
続いて、輸送車両3は、輸送タイミング算出部112が算出した輸送タイミングに従って、水素充填済みのカードル4を事業所に輸送する。すなわち、輸送車両3は、前記した輸送タイミングが水素充填施設を出発する時刻である場合は、その時刻に水素充填施設を出発し、前記した輸送タイミングが事業所に到着する時刻である場合は、その時刻に間に合うように事業所に到着する。
【0055】
また、輸送車両3は、水素充填済みのカードル4を事業所に輸送した際に、同時に水素貯蔵量が低下したカードル4を回収する(ステップS8)。そして、水素充填装置2は、輸送車両3によって輸送された、水素貯蔵量が低下したカードル4に水素を再充填する(ステップS9)。以降は、ステップS2~S9を繰り返す。
【0056】
以上説明したような本実施形態に係る水素供給システムによれば、可搬性のあるカードル4を事業所に輸送し、当該事業所に据え置いて利用することにより、FCフォークリフト5に対して、所望のタイミングで水素を供給することができる。すなわち、本実施形態に係る水素供給システムによれば、FCフォークリフト5に水素を充填するタイミングを利用者側が決めることができるため、水素供給時の利便性が向上する。
【0057】
また、本実施形態に係る水素供給システムによれば、最適なタイミングで事業所にカードル4を輸送することができるため、カードル4が輸送される前にFCフォークリフト5の水素が尽きる事態を防ぐことができる。
【0058】
以上、本発明に係る水素供給システムについて、発明を実施するための形態および実施例により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【0059】
例えば、前記した実施形態では、水素供給システムを、産業用の燃料電池車両であるFCフォークリフト5に適用した例について説明したが、水素供給システムを、家庭用の燃料電池車両に適用してもよい。また、水素供給システムは、燃料電池車両のみならず、燃料電池システムを搭載した船やドローン等の移動体に適用することも可能である。
【0060】
また、前記した実施形態において、管理装置1の残量予測部111は、カードル4およびFCフォークリフト5の水素の残量データを取得し、これらの残量データに基づいて、事業所で利用可能な将来の水素の残量を予測していたが(図2のステップS5参照)、残量予測部111は、カードル4の水素の残量データのみを取得してもよい。この場合、残量予測部111は、カードル4の水素の残量データを取得し、この残量データに基づいて、事業所に配置されたカードル4の将来の水素の残量を予測する。なお、前記した実施形態のように、カードル4およびFCフォークリフト5の両方から水素の残量データを取得することにより、カードル4のみから水素の残量データを取得する場合と比較して、水素の残量の予測精度が向上する。
【符号の説明】
【0061】
1 管理装置
11 制御部
111 残量予測部
112 輸送タイミング算出部
12 通信部
13 記憶部
2 水素充填装置
3 輸送車両
4 カードル
41 水素貯蔵容器
5 FCフォークリフト
NW ネットワーク
図1
図2