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特許7182625ODHプロセスからの二酸化炭素排出量の制御
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】ODHプロセスからの二酸化炭素排出量の制御
(51)【国際特許分類】
   C07C 5/48 20060101AFI20221125BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20221125BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221125BHJP
【FI】
C07C5/48
C07C11/04
C07B61/00 300
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020524634
(86)(22)【出願日】2018-10-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-21
(86)【国際出願番号】 IB2018057828
(87)【国際公開番号】W WO2019086981
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-08-27
(31)【優先権主張番号】62/581,864
(32)【優先日】2017-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513269848
【氏名又は名称】ノヴァ ケミカルズ(アンテルナショナル)ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シマンゼンコフ、ワシリー
(72)【発明者】
【氏名】グーダルズニア、シャーヒン
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-532335(JP,A)
【文献】特表2004-509155(JP,A)
【文献】特開2008-110974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 5/48
C07C 11/04
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化的脱水素化(ODH)プロセスからの二酸化炭素排出量を制御する方法であって、二酸化炭素は、ODHプロセス中に生成されるか又は希釈剤として添加されたものであり、
前記方法は、
i)エチレンと、場合によっては未反応のエタン、未反応の酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、不活性希釈剤、及び酢酸の1つ以上を含む少なくとも1つのODH反応器から生成物流を生成する条件下で、エタンと酸素、及び必要に応じて1つ以上の蒸気と不活性希釈剤を含むガス混合物を、ODH触媒を含む少なくとも1つのODH反応器内に導入するステップ(但し、2つ以上のODH反応器が存在する場合、各反応器は同じ又は異なるODH触媒を含み、少なくとも1つのODH触媒は二酸化炭素を酸化剤として利用できる)と、
ii)前記生成物流中の二酸化炭素レベルを測定するステップと、
以下のいずれか
a.測定された二酸化炭素レベルが所定の目標二酸化炭素レベルを超える場合に、少なくとも1つのODH反応器に、二酸化炭素排出量レベルを低下させるのに十分な量で、蒸気を導入するステップ、又は導入される蒸気の量を増加させるステップ;
b.ステップi)で蒸気が導入され、測定された二酸化炭素レベルが所定の目標二酸化炭素レベルを下回る場合に、二酸化炭素排出量レベルを増加させるために、少なくとも1つのODH反応器に導入される蒸気の流量を減少させるステップ;
c.測定された二酸化炭素レベルが所定の目標二酸化炭素レベルを超える場合に、二酸化炭素レベルを低下させるのに十分な程度まで、少なくとも1つのODH反応器に導入されたガス混合物中のエタンに対する酸素の体積比を、増加させるステップ;又は
d.測定された二酸化炭素レベルが所定の目標二酸化炭素レベルを下回る場合に、二酸化炭素レベルを増加させるのに十分な程度まで、少なくとも1つのODH反応器に導入されたガス混合物中のエタンに対する酸素の体積比を、減少させるステップ;
とを含む、方法。
【請求項2】
少なくとも1つのODH反応器が、固定床反応器である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの固定床ODH反応器が、触媒よりも高い熱伝導率を有する熱放散粒子を含む、請求項に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つのODH反応器が、流動床反応器である、請求項に記載の方法。
【請求項5】
ODH触媒の少なくとも1つが、混合金属酸化物である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ODH触媒の少なくとも1つが、式:
MoTeNbPd
(式中、a、b、c、d、e、及びfは、それぞれ元素Mo、V、Te、Nb、Pd及びOの相対原子量であり;a=1、b=0.01~1.0、c=0.01~1.0、d=0.01~1.0、0.00≦e≦0.10で、fは触媒の原子価状態を満たす数である)
の混合金属酸化物を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
不活性希釈剤が、二酸化炭素である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
蒸気が、ガス混合物の最大40重量%を構成する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つのODH反応器内の条件が、300℃~450℃の温度、0.5~150psig(3.447kPag~689.47kPag)の圧力、及び反応器内のエタンの滞留時間が0.002~30秒である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ガス混合物のガス毎時空間速度が、500~30000時-1である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ガス混合物の重量毎時空間速度が、0.5時-1~50時-1である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ガス混合物の線速度が、5cm/秒~1500cm/秒である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
反応器内の温度が、約340℃未満の温度に維持される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
蒸気が、少なくとも1つのODH反応器に添加され、少なくとも約10重量%であり、少なくとも20重量%増加し、正規化された生成物選択率として測定された二酸化炭素排出量の変化が、少なくとも1重量%である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
蒸気が、少なくとも1つのODH反応器に添加され、少なくとも30重量%増加し、正規化された生成物選択率として測定された二酸化炭素排出量の変化が、少なくとも2.5重量%である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
蒸気が、少なくとも1つのODH反応器に添加され、少なくとも40重量%増加し、正規化された生成物選択率として測定された二酸化炭素排出量の変化が、少なくとも7.5重量%である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
反応器内の温度が約340℃を超える温度に維持される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
蒸気が、少なくとも1つのODH反応器に添加され、少なくとも40重量%増加し、正規化された生成物選択率として測定された二酸化炭素排出量の変化が、少なくとも0.5重量%である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ガス混合物中の酸素の体積%が約20%であり、ガス混合物中の酸素:エタンの体積比が約0.4であり、酸素:エタンの体積比が約0.6に変化し、正規化された生成物選択率として測定された二酸化炭素排出量の変化が、少なくとも2.5重量%である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
ガス混合物中の酸素の体積%は、供給混合物が炭化水素供給混合物の可燃性エンベロープの外側に留まり、ガス混合物中の酸素:エタンの体積比が約0.1であり、供給混合物が炭化水素供給混合物の可燃性エンベロープゾーンに入る前に許容される最大比に変更され、正規化された生成物選択率として測定された二酸化炭素排出量の変化が、少なくとも0.5重量%である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、低級アルカンの対応するアルケンへの酸化的脱水素化(ODH)に関する。より具体的には、本発明は、ODHプロセスからの二酸化炭素排出量レベルを制御することに関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン、プロピレン、ブチレンなどのオレフィンは、様々な商業的に価値のあるポリマーの基本的な構成要素である。天然に存在するオレフィンの供給源は商業的な量では存在しないため、ポリマー生産者は、より豊富な低級アルカンをオレフィンに転化する方法に依存している。今日の商業規模の生産者が選択する方法は、蒸気分解である。蒸気分解は、蒸気で希釈されたアルカンが非常に短時間、少なくとも700℃の温度にさらされる吸熱プロセスである。必要な温度を生成するための燃料需要と、その温度に耐えられる機器の必要性により、全体的なコストが大幅に増加する。また、高温は、システム内に蓄積するコークスの形成を促進するため、メンテナンスとコークスの除去のために、費用のかかる定期的な反応器の停止が必要になる。
【0003】
酸化的脱水素化(ODH)は、蒸気分解の代替法であり、発熱性でコークスをほとんど又はまったく生成しない。ODHでは、エタンなどの低級アルカンを、触媒と、必要に応じて二酸化炭素や窒素などの不活性希釈剤の存在下で、300℃の低温で酸素と混合して、対応するアルケンを生成するが、残念ながら様々なその他の酸化生成物、特に二酸化炭素と酢酸を生成する。また、ODHは蒸気分解と比較して転化率が低く、選択率が低いことと、炭化水素と酸素の混合による熱爆発のリスクがあることから、ODHが広範な商業的実装を実現することはできない。
【0004】
ODHの概念は、少なくとも1960年代後半から知られている。それ以来、触媒効率と選択率の改善を含むプロセスの改善にかなりの努力が費やされてきた。これにより、カーボンモレキュラーシーブ、金属リン酸塩、及び最も顕著な混合金属酸化物を含む様々な種類の触媒に関する多数の特許が取得された。Petro-Tex Chemicalsに譲渡された初期の触媒米国特許(Woskowらの名による米国特許第3,420,911号及び第3,420,912号を含む)は、有機化合物の酸化的脱水素化におけるフェライトの使用を教示した。フェライトは、有機化合物と酸化剤とを含む脱水素化ゾーンに短時間導入され、次いで再酸化のために再生ゾーンに導入され、その後、別のサイクルのために脱水素化ゾーンにフィードバックされる。
【0005】
エチレンへのエタンの低温酸化的脱水素化に有用な担持触媒の調製は、1986年6月24日にManyikらに発行され、Union Carbide Corporationに譲渡された米国特許第4,596,787号に開示されている。その触媒は、(a)金属化合物の可溶性と不溶性の部分を有する前駆体溶液を調製し、(b)可溶性部分を分離し、(c)可溶性部分に触媒担体を含浸し、及び(d)含侵担体を活性化させ触媒を得ることによって調製される。そのか焼触媒は、以下の組成を有する
MoNbSb
(式中、Xはないか、Li、Sc、Na、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、Y、Ta、Cr、Fe、Co、Ni、Ce、La、Zn、Cd、Hg、Al、Tl、Pb、As、Bi、Te、U、Mn及び/又はWであり;aは0.5~0.9であり;bは0.1~0.4であり;cは0.001~0.2であり;dは0.001~0.1であり;Xが成分である場合、eは0.001~0.1である)。
【0006】
2005年5月10日にLiuに発行され、Symyx Technologies、Inc.に譲渡された米国特許第6,891,075号は、エタンなどのパラフィン(アルカン)の酸化的脱水素化のための触媒を教示している。ガス状供給原料は、少なくともアルカン及び酸素を含むが、希釈剤(例えば、アルゴン、窒素など)又は他の成分(例えば、蒸気又は二酸化炭素)も含んでもよい。脱水素化触媒は、少なくとも約2重量%のNiO及び広範な他の成分、好ましくはNb、Ta及びCoを含む。請求項では、エチレンの選択率が少なくとも70%で、転化率が10%を超えることが必要されていた。
【0007】
2008年1月15日にLopez-Nietoらに発行され、Consejo Superior de Investigaciones Cientificas、及びUniversidad Politecnica de Valenciaに譲渡された米国特許第7,319,179号は、360~400℃で50~70%のエタン変換率と95%までのエチレンへの選択率(38%変換率で)を供給するMo-V-Te-Nb-O酸化触媒を開示している。その触媒は、実験式MoTeNbを有し、Aは5番目の修飾元素である。その触媒は、か焼混合酸化物であり(少なくともMo、Te、V及びNb)であり、任意に、(i)シリカ、アルミナ及び/又はチタニア、好ましくは全担持触媒の20~70重量%におけるシリカ、又は(ii)炭化ケイ素上に担持される。担持触媒は、溶液から沈殿させ、沈殿物を乾燥させ、次いで焼成する従来の方法によって調製される。
【0008】
ODHプロセスの酸化剤は、典型的には、低級アルカンとともに添加される酸素である。しかし、二酸化炭素も酸化剤として作用する可能性があることが知られている。Liuらは、アルカンの酸化的脱水素化における酸化剤としてのCOに関する文献を、以下においてレビューしている:New and Future Developments in Catalysis, Elsevier, 189-222 (2013), “Chapter 7 - Recent Advances on the Catalysts for Activation of CO in Several Typical Processes”。研究によると、COはODH反応で穏やかな酸化剤として作用し、反応生成物の深い酸化を抑制し、COを資源として使用するメカニズムを提供することが示されている。エタンのエチレンへのODHの場合、触媒タイプには、活性金属と酸化物が含まれ、SiO、ZrO、Al、又はTiOでサポートされる。これらの組合せにより、エチレンへの転化率と選択率が異なる。
【0009】
1948年7月21日にErkkoに発行され、Hercules Powder Companyに譲渡された米国特許第2,604,495号は、750℃~950℃の温度で酸化鉄触媒の存在下で二酸化炭素とエタンを混合することによりエタンを脱水素化してエチレンを生成するプロセスを教示している。実施例は、反応器及び触媒組成物に添加した二酸化炭素対エタンのモル比に応じて、34%~68.7%のエタンのエチレンへの転化率を示した。
【0010】
2010年8月3日にHanらに発行され、Rohm and Haas Companyに譲渡された米国特許第7,767,770号は、エタンと二酸化炭素を混合原子価触媒と接触させることにより、エチレンと一酸化炭素の混合物を生成する方法を教示している。反応は、元素状酸素の非存在下で少なくとも550℃の温度で行われ、エチレンと一酸化炭素の混合物を生成する。これは、メタクリル酸エステルの生成プロセスなど、他のプロセスの供給原料として使用できる。
【0011】
本発明者らは、ODHプロセス中に生成されるか、又は希釈剤として添加された二酸化炭素が酸化剤として作用する程度を操作することにより、プロセスからの二酸化炭素の排出量を所望のレベルに制御できることを発見した。本明細書に記載の方法を使用すると、使用者は、二酸化炭素ニュートラル条件で操作することを選択できるので、余剰の二酸化炭素を大気中で燃やしたり、放出したりする必要はない。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、ODHプロセスからの二酸化炭素排出量を制御する方法であって、対応するアルケンと少量の様々な副産物の生成を可能にする条件下で、低級アルカン、酸素及び二酸化炭素のガス混合物を少なくとも1つのODH反応器に導入することで構成される方法を提供する。複数のODH反応器の場合、少なくとも1つのODH触媒が二酸化炭素を酸化剤として使用できる条件で、各反応器には同じ又は異なるODH触媒が含まれる。蒸気又は他の不活性希釈剤も、ガス混合物の一部として反応器に導入することができる。その後、反応器を出る二酸化炭素の量を監視し、二酸化炭素の排出量が所望のレベルを下回る場合、反応器に導入される蒸気の量を増加させることができ、二酸化炭素の排出量が所望のレベルを超える場合、反応器に導入される蒸気の量を減少させることができる。あるいは、少なくとも1つのODH反応器に添加する酸素:低級アルカンの体積比を増加させて、二酸化炭素の排出量を減少させるか、又は、少なくとも1つのODH反応器に添加する酸素:低級アルカンの体積比を減少させて、二酸化炭素の排出量を増加させることができる。
【0013】
本発明の一実施形態では、低級アルカンはエタンであり、対応するアルケンはエチレンである。
【0014】
さらなる実施形態では、少なくとも1つのODH反応器は固定床反応器である。別の実施形態では、少なくとも1つのODH反応器は、固定床内に熱放散粒子を含む固定床反応器である。熱放散粒子は、触媒よりも高い熱伝導率を有する。別の実施形態では、少なくとも1つのODH反応器は流動床反応器である。
【0015】
本発明の一実施形態では、少なくとも1つのODH触媒は混合金属酸化物触媒である。さらなる実施形態では、少なくとも1つのODH触媒は、式:MoTeNbPdの混合金属酸化物である(式中、a、b、c、d、e及びfは、それぞれ元素Mo、V、Te、Nb、Pd及びOの相対原子量である。また、a=1、b=0.01~1.0、c=0.01~1.0、d=0.01~1.0、0.00≦e≦0.10、fは触媒の原子価状態を満たす数である)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
操作例における、又は他に指示がある場合を除き、明細書及び特許請求の範囲で使用される成分の量、反応条件などを指す全ての数又は表現は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されると理解されるべきである。したがって、反対に示されない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本発明が得ようとする特性に応じて変化し得る近似値である。最低限、特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限する試みとしてではなく、各数値パラメータは少なくとも、報告された有効数字の数を考慮して、且つ通常の丸め技法を適用して解釈されるべきである。
【0017】
本発明は、低級アルカンから対応するアルケンへの酸化的脱水素化(ODH)に関する。低級アルカンには、2~4個の炭素を含む飽和炭化水素が含まれることを意図しており、対応するアルケンには同じ数の炭素を含むが単一の二重炭素と炭素との結合を有する炭化水素が含まれる。本発明は、エタンのODHに最も理想的に適しており、その対応するアルケン、エチレンを生成する。
<ODHプロセス>
【0018】
低級アルカンのODHは、低級アルカンの対応するアルケンへの酸化を促進する条件下で、ODH反応器内の低級アルカンと酸素の混合物をODH触媒と接触させることを含む。反応器内の条件は、操作者によって制御され、温度、圧力、流量などのパラメータが含まれるが、これらに限定されない。条件は変動し、特定の低級アルカン、又は特定の触媒、又は反応物質の混合に不活性希釈剤が使用されるかどうかについて最適化され得る。
【0019】
本発明と一致するODHプロセスを実施するためのODH反応器の使用は、当業者の知識の範囲内にある。最良の結果を得るには、低級アルカンの酸化的脱水素化は、300~450℃、典型的には300~425℃、好ましくは330~400℃の温度で、0.5~100psi(3.447~689.47kPa)、好ましくは15~50psi(103.4~344.73kPa)の圧力で行われ、及び反応器内の低級アルカンの滞留時間は、典型的には0.002~30秒、好ましくは1~10秒である。
【0020】
好ましくは、このプロセスは、対応するアルケン(エタンODHの場合にはエチレン)に対して85%を超える、好ましくは90%を超える選択率を有する。反応物質及び不活性希釈剤の流れは、当技術分野で知られているいくつかの方法で説明することができる。典型的には、流量は、1時間で活性触媒床の体積を通過するすべての供給ガス(反応物と希釈剤)の体積、又はガス毎時空間速度(GHSV)に関連して記述され、測定される。GHSVは500~30000時-1の範囲であり、好ましくは1000時-1を超えることができる。流量は、1時間あたりの活性触媒の重量を流れるガスの、体積ではなく重量で流量を表す重量毎時空間速度(WHSV)として測定することもできる。WHSVの計算では、ガスの重量には反応物のみが含まれる場合があるが、ガス混合物に添加する希釈剤も含まれる場合がある。希釈剤の重量を含める場合、使用するとき、WHSVは0.5時-1~50時-1の範囲、好ましくは1.0~25.0時-1の範囲としてもよい。
【0021】
反応器を通るガスの流れは、ガス流の線速度(m/秒)としても記述できる。これは、当該技術分野において、ガス流の流量/反応器の断面積/触媒床の空隙率として定義される。流量は一般に、反応器に入るすべてのガスの流量の合計を意味し、酸素とアルカンが最初に触媒と接触する場所で、その時点の温度と圧力で測定される。反応器の断面積は、触媒床の入口でも測定される。触媒床の空隙率は、触媒床の空隙の体積/触媒床の総体積として定義される。空隙の体積は、触媒粒子間の空隙を指し、触媒粒子内部の細孔の体積は含まない。線速度は、5cm/秒~1500cm/秒、好ましくは10cm/秒~500cm/秒の範囲であり得る。
【0022】
触媒1kgあたりのg/時間での対応するアルケンの空時収量(生産性)は、350~400℃で900以上、好ましくは1500を超え、最も好ましくは3000を超え、最も望ましくは3500を超える必要がある。選択率が犠牲になるまで、触媒の生産性は温度の上昇と共に増加することに留意すべきである。
<ODH触媒>
【0023】
当技術分野で知られている任意のODH触媒が、本発明での使用に適している。触媒を選択するとき、当業者は、触媒が選択率及び活性に関してそれぞれ変化し得ることを理解するであろう。エタンのODHの場合、混合金属酸化物は、活性を大幅に損なうことなくエチレンへの高い選択率を提供できるため、選択した触媒として好ましい。式:
MoTeNbPd
(式中、a、b、c、d、e、及びfは、それぞれ元素Mo、V、Te、Nb、Pd及びOの相対原子量であり;a=1、b=0.01~1.0、c=0.01~1.0、d=0.01~1.0、0.00≦e≦0.10で、fは触媒の原子価状態を満たす数である)
の触媒が、特に好ましい。
<ODH反応器>
【0024】
本発明は、低級アルカンのODHに適用可能な任意の既知の反応器タイプの使用を想定している。本発明での使用に特に適しているのは、従来の固定床反応器である。典型的な固定床反応器では、反応物は一端で反応器に導入され、固定化された触媒を通過して流れ、生成物が形成され、反応器のもう一方の端から出る。本発明に適した固定床反応器の設計は、このタイプの反応器で知られている技術に従うことができる。当業者は、形状及び寸法、反応物の入力、生成物の排出、温度及び圧力制御、並びに触媒を固定化する手段に関して、どの特徴が必要かを知っているであろう。
【0025】
本発明はまた、1つ以上のODH反応器内での不活性な非触媒熱放散粒子の使用を想定する。熱放散粒子は床内に存在し、融点が反応の温度上限制御温度より少なくとも30℃、一部の実施形態では少なくとも250℃、さらなる実施形態では少なくとも500℃高い融点を持つ1つ以上の非触媒不活性微粒子を含み、粒子サイズは0.5~75mmの範囲、いくつかの実施形態では0.5~15、さらなる実施形態では0.5~8の範囲、望ましくは0.5~5mmの範囲であり、反応温度制御限界内で、30W/mK(ワット/メートルケルビン)を超える熱伝導率を有する。いくつかの実施形態では、微粒子は、反応温度制御限界内で50W/mK(ワット/メートル・ケルビン)を超える熱伝導率を有する金属合金及び化合物である。いくつかの適切な金属には、銀、銅、金、アルミニウム、鋼、ステンレス鋼、モリブデン、及びタングステンが含まれる。
【0026】
熱放散粒子は、典型的には約1~15mmの粒径を有し得る。いくつかの実施形態では、粒径は、約1mm~約8mmであってよい。熱放散粒子は、固定床の全重量に基づいて、5~95重量%、いくつかの実施形態では30~70重量%、他の実施形態では45~60重量%の量で固定床に添加されてもよい。粒子は、反応器の壁に直接熱を伝達することにより、固定床の冷却均一性とホットスポットの低減を潜在的に改善するために使用される。
【0027】
また、流動床反応器の使用も、本発明により想定されている。これらのタイプの反応器もよく知られている。典型的には、触媒は、反応器の下端近くに位置する多孔質構造、又は分配板によって支持され、反応物は、流動床を流動化するのに十分な速度で流れる(例えば、触媒は上昇し、流動化して旋回し始める)。反応物は、流動化された触媒と接触すると生成物に転化され、その後、反応器の上端から除去される。設計上の考慮事項には、反応器及び分配板の形状、入力と排出、及び温度と圧力の制御が含まれ、これらはすべて当業者の知識の範囲内にある。
【0028】
本発明はまた、それぞれが同じ又は異なる触媒を有する固定床反応器と流動床反応器の両方の組合せを使用することを具体化する。複数の反応器は、直列又は並列構成であってよく、その設計は、当業者の知識の範囲内にある。
<可燃性限界>
【0029】
プロセスの安全性が、主たる関心事である。そのため、低級アルカンと酸素の混合物は、好ましくは、可燃性エンベロープの範囲外の比率で構成する必要がある。本発明は、酸素に対するアルカンの比率が、可燃性エンベロープ上部の範囲外となり得ることを意図している。この場合、混合物中の酸素の割合は30%以下、好ましくは25%以下、最も好ましくは20%以下である。
【0030】
酸素の割合が高い場合、混合物を可燃性エンベロープの外側に保つように、アルカンの割合を選択することが好ましい。当業者は適切なレベルを決定することができるが、アルカンの割合は40%を超えないことが推奨される。ODHの前のガスの混合物が20%の酸素と40%のアルカンを含む場合、残りは1つ以上の窒素、二酸化炭素、及び蒸気などの不活性希釈剤で補う必要がある。不活性希釈剤は、反応器内の条件においてガス状状態で存在する必要があり、且つ、反応器に添加される炭化水素の可燃性を増加させないようにしなければならず、このような特徴は、どの不活性希釈剤を使用するかを決定する際に当業者が理解することである。不活性希釈剤は、ODH反応器に入る前に、低級アルカン含有ガス又は酸素含有ガスのいずれかに添加することができ、又はODH反応器に直接添加することもできる。
【0031】
可燃性エンベロープ内に入る混合物は、理想的ではないが、爆発性事象の伝播を防止する条件で混合物が存在する場合に使用することができる。すなわち、可燃性混合物は、点火がすぐに停止される媒体内で作成される。例えば、使用者は、酸素と低級アルカンが火炎抑制材料で囲まれた場所で混合される反応器を設計することができる。発火は周囲の材料によって抑制される。火炎抑制材料には、ステンレス鋼の壁やセラミック製の支持体などの金属製又はセラミック製のコンポーネントが含まれるが、これらに限定されない。別の可能性は、点火事象が爆発につながらない低温で酸素と低級アルカンを混合し、次いで温度を上昇させる前に反応器に導入することである。可燃性条件は、混合物が反応器内部のフレームアレスター材料で囲まれるまで存在しない。
<二酸化炭素排出量>
【0032】
二酸化炭素は、低級アルカンの酸化の副産物としてODH反応で生成することができる。不活性希釈剤として使用する場合は、二酸化炭素をODH反応器に添加することもできる。逆に、二酸化炭素は、脱水素化反応の酸化剤として作用するときに消費されてもよい。したがって、二酸化炭素排出量は、添加及び生成される二酸化炭素の量から、酸化プロセスで消費される二酸化炭素を差し引いた関数である。本発明は、二酸化炭素が酸化剤として作用する程度を制御して、ODH反応器から排出される全体の二酸化炭素排出量に影響を与えることを目的とする。
【0033】
ODH反応器から排出される二酸化炭素の量の測定は、当技術分野で知られている任意の手段を使用して行うことができる。好ましくは、GC、IR、又はRahman検出器などの1つ以上の検出器が、二酸化炭素排出量を測定するために反応器のすぐ下流に配置される。本発明には必要ではないが、他の成分の排出量は、一般的に測定することができ、また測定される。これらには、エチレン、未反応のエタンと酸素、及び酢酸などの副産物の量が含まれるが、これらに限定されない。また、二酸化炭素排出量の選択された測定基準に応じて、他の成分(特にエタン)の排出量レベルが実際に必要になる場合があることに留意されたい。
【0034】
二酸化炭素排出量は、当技術分野で一般的に使用されている任意の測定基準を使用して表すことができる。例えば、二酸化炭素排出量は、質量流量(g/分)又は体積流量(cm/分)で表すことができる。また、正規化された選択率を使用して、二酸化炭素が生成又は消費される程度を評価できる。その場合、COの正味の質量流量(ODH反応器に入るCOの質量流量とODH反応器から出るCOの質量流量との差)はエタンの転化に正規化され、本質的に、エタンのどの割合が、エチレン又は酢酸などの他の副産物ではなく、二酸化炭素に転化されるかを示す。炭素選択率が0であることは、反応器に入る二酸化炭素の量が二酸化炭素排出量と同じであることを示す。換言すると、このプロセスは、二酸化炭素ニュートラルである。ポジティブ(正)の二酸化炭素選択率は、二酸化炭素が生成されていること、及び発生している二酸化炭素の酸化がその生成を相殺するには不十分であることを使用者に警告し、その結果、プロセスは二酸化炭素ポジティブ(正)になる。
【0035】
二酸化炭素の排出量、又は酢酸や一酸化炭素などの生成された他の成分の排出量が、正規化された生成物選択率の観点から説明されている場合、計算は次の式に従って実行される。
【数1】

ここで、Xは評価対象の生成物であり、正味質量流量とは、反応器に入るX又はエタンのg/分での流量から反応器を出る流量を差し引いたものを指し、モル当量(Mol.Equiv.)とは、1モルのエタンと完全に反応するモル当たりのxの量を指す。
【0036】
本発明の潜在的な利点は、二酸化炭素ネガティブプロセスの可能性である。この場合、二酸化炭素は生成されるよりも速い速度で酸化され、ネガティブな(負の)炭素選択率を示す。ODHプロセスは二酸化炭素を生成している可能性があるが、酸化剤として作用している間に二酸化炭素が消費される程度により、発生している生成が相殺される。ODHに加えて、多くの工業プロセスは二酸化炭素を生成するが、これは温室効果ガスの排出に寄与する場所で捕捉又は燃焼処理する必要がある。二酸化炭素ネガティブプロセスを使用すると、他のプロセスからの過剰な二酸化炭素が捕捉され、ネガティブな(負の)炭素選択率がある条件下でODHプロセスの不活性希釈剤として使用される。この場合の利点は、熱分解などの他のプロセスと組み合わせてODHプロセスで生成される二酸化炭素の量を削減できることである。さらに、二酸化炭素の酸化は吸熱性であり、二酸化炭素が酸化剤として作用する程度を高めることにより、エタンのODHから生成される熱が二酸化炭素の酸化によって部分的に相殺され、反応器から熱を除去する必要がある程度が減少する。最後に、二酸化炭素は酸化剤として作用する場合、一酸化炭素を生成する可能性があり、これを捕捉して、メタノールやギ酸などの他の化学生成物の生成における中間体として使用できる。
<蒸気の添加>
【0037】
ODHプロセスに添加される蒸気の量は、二酸化炭素が酸化剤として作用する程度に対して影響を及ぼす。蒸気は、ODH反応器に直接添加してもよく、又は蒸気を個々の反応成分(低級アルカン、酸素、若しくは不活性希釈剤)又はそれらの組合せに添加してもよく、その後、反応成分の1つ以上と共に、ODH反応器に導入してもよい。あるいは、蒸気は、低級アルカン、酸素又は不活性希釈剤のいずれか、又はそれらの組合せと混合された水として間接的に添加してもよく、得られた混合物は、反応器に入る前に予熱される。蒸気を間接的に水として添加する場合、予熱によって温度を上げ、反応器に入る前に水を完全に蒸気に変換することが不可欠である。
【0038】
反応器に添加する蒸気の量を増やすと、二酸化炭素が酸化剤として作用する程度が高まる。反応器に添加する蒸気の量を減らすと、二酸化炭素が酸化剤として作用する程度が低減する。本発明では、使用者は、二酸化炭素排出量を監視し、それを所定の目標二酸化炭素排出量と比較する。二酸化炭素排出量が目標を上回っている場合、使用者はODHプロセスに添加する蒸気の量を増加させることができる。二酸化炭素排出量が目標を下回っている場合、蒸気が添加されていれば、使用者はODHプロセスに添加される蒸気の量を減少させることができる。目標二酸化炭素排出量レベルの設定は、使用者の要求に依存する。添加する蒸気を増やすと、プロセスで生成される酢酸やその他の副産物の量が増えるという追加の効果がある。ODHの排出から大量の酢酸を分離するための設備が整っていない使用者は、蒸気レベルを最小限に抑えることを好むかもしれない。一方、二酸化炭素を消費するプロセスを望む使用者は、添加できる蒸気の量を最大化することを好むかもしれない。いくつかの実施形態では、1つ以上の反応器に添加する蒸気の量は、最大60重量%、好ましくは約40重量%である。供給物の一部として添加される蒸気又は他の成分の量を記述するために重量%を使用することは、真の重量%であり、これは、その成分の質量流量をすべての供給成分の総質量流量で割った値に100を掛けた値であることに留意されたい。これは、生成物選択率を表すための重量%の使用とは異なる。
【0039】
二酸化炭素の排出量に対する蒸気の添加の影響は、低温でより顕著になる。300℃~340℃の範囲の温度では、二酸化炭素の選択率は、反応に添加される蒸気の変化に応じて、1重量%~20重量%に変化する可能性がある。350℃~425℃の範囲の高温では、二酸化炭素の選択率の変化は0.25重量%~1.5%の範囲である。
【0040】
いくつかの実施形態において、反応温度が340℃未満である場合、反応器に添加する蒸気の量を少なくとも20重量%変化させると、正規化された生成物選択率として測定される二酸化炭素排出量が、少なくとも1重量%変化する。
【0041】
いくつかの実施形態において、反応温度が340℃未満であり、反応器に添加する蒸気の量を少なくとも30重量%変化させると、二酸化炭素選択率が少なくとも2.5重量%変化する。
【0042】
いくつかの実施形態において、反応温度が340℃未満である場合、反応器に添加する蒸気の量を少なくとも40重量%変化させると、二酸化炭素選択率が少なくとも7.5重量%変化する。
【0043】
いくつかの実施形態において、反応温度が350℃より高い場合、反応器に添加する蒸気の量を少なくとも20重量%変化させると、二酸化炭素選択率が少なくとも0.25重量%変化する。
【0044】
いくつかの実施形態において、反応温度が350℃より高い場合、反応器に添加する蒸気の量を少なくとも40重量%変化させると、二酸化炭素選択率が少なくとも0.5重量%変化する。
【0045】
2つ以上の反応器を使用する場合、本発明により、使用者は、二酸化炭素の排出を1つだけ、又は反応器の全体よりも少なく制御することを選択できることが想定される。例えば、使用者は、上流の反応器の二酸化炭素排出量を最大化することを選択することができ、それにより、より高いレベルの二酸化炭素が後続の反応器のための不活性希釈剤の一部を構成することができる。このシナリオでは、第1の反応器への蒸気の添加は最小限に抑えられるが、第2の反応器では、酸化剤としての二酸化炭素の使用を促進するために蒸気の添加を最大化できる。第1の反応器で生成された二酸化炭素は、第2の反応器で不活性希釈剤及び酸化剤の両方として作用することができる。上流の二酸化炭素排出量を最大化すると、次の反応器の前にその流れに添加する必要がある不活性希釈剤の量が最小化される。
【0046】
ODHプロセスに蒸気を添加する必要はなく、これは、不活性希釈剤の多くの代替案の1つにすぎないためである。蒸気が添加されないプロセスでは、エタン、酸素、及び不活性希釈剤の入力に関して使用される条件下で、二酸化炭素の排出量が最大になる。二酸化炭素排出量を減らすには、二酸化炭素排出量が目的のレベルに低下するまで、反応に蒸気を添加する。酸化的脱水素化条件が蒸気の添加を含まず、二酸化炭素排出量が所望の二酸化炭素目標レベルよりも高い本発明の一実施形態では、反応器に添加する主反応物と不活性希釈剤(低アルカン、酸素と不活性希釈剤)の相対量を一定に保ち、二酸化炭素の排出量を監視しながら、反応器内に蒸気を導入して、二酸化炭素が目標レベルに減少するまで蒸気の量を増加させてもよい。
【0047】
二酸化炭素が希釈剤として添加されていない場合には、二酸化炭素ネガティブプロセスを作り出すことは不可能である。しかし、二酸化炭素ニュートラルプロセスは、添加する蒸気を増加させることによって達成することができ、酸化的脱水素化プロセスで生成された二酸化炭素は、二酸化炭素の正味の生成がないように酸化剤として使用することができる。逆に、使用者が正味の二酸化炭素排出量を希望する場合は、プロセスに添加する蒸気の量を減らしたり、又はなくしたりして、二酸化炭素の生成を最大化できる。二酸化炭素が酸化剤として競合しているため、二酸化炭素レベルが増加すると、酸素消費量を減らす可能性がある。当業者は、二酸化炭素を酸化剤として作用させる程度を高めるために蒸気を使用することが、酸素消費に影響を及ぼし得ることを理解するであろう。その意義は、使用者がより低い酸素の寄与で反応条件を最適化できることであり、これは混合物を可燃性限界外に保つのに役立つ可能性がある。
<相対体積酸素/エタン比>
【0048】
ODHプロセスに添加される相対的な酸素:エタンの体積比も、二酸化炭素が酸化剤として作用する程度に影響を与える可能性がある。添加するエタンの量に対して添加する酸素の量を増加させると、二酸化炭素の選択率が減少する。二酸化炭素の選択率が変化する程度は、反応器に添加した酸素:エタンの相対体積比の変化と、不活性希釈剤が入力流(input stream)に含まれているかどうかに依存する。この効果は、不活性希釈剤が存在しない場合により顕著になり、安全上の理由から、希釈剤が存在しない場合、添加する酸素の量は、30体積%以下、好ましくは20体積%以下に制限される。より高い体積%のOを使用することも考えられるが、可燃性限界の外側に留まるためには、対応するエタンの量は約3体積%未満のレベルに制限される。
【0049】
相対体積酸素:エタン比は、ODHプロセスに供給される酸素の体積%を、添加されるエタンの体積%で割ることによって決定される。例えば、20体積%の酸素、40体積%の不活性希釈剤、及び40体積%の二酸化炭素で構成されるガス混合物の相対体積酸素:エタン比は0.5である。不活性希釈剤が存在しない実施形態では、相対体積酸素:エタン比は、好ましくは0.1~0.45である。不活性希釈剤が存在する実施形態では、酸素:エタン比は、0.1~2.0の範囲であり得る。
【0050】
酸素:エタンの比率を変更するには、酸素又はエタンのいずれかの体積%を一定に保ち、次いで、酸素又はエタンのいずれかの体積%を減少又は増加させ、次に、プロセスに添加された不活性希釈剤の体積%を当量で増加又は減少させることによって達成することができる。一部の実施形態では、添加する酸素の体積%は一定に保たれ、一方でエタンの体積%は、添加する不活性希釈剤の体積%に対応する調整を加えて調整される。酸素源として空気を使用する場合、体積%は、酸素が約21体積%、窒素が約~78%である空気の組成を反映するように調整される。窒素の寄与は、反応に添加された不活性希釈剤の体積%を計算するために使用される。
【0051】
いくつかの実施形態では、酸素:エタンの相対体積比を変更するには、酸素又はエタンのいずれかの体積%を減らし、減らされなかった酸素及びエタンの一方を同様の体積%だけ増加させ、添加される不活性希釈剤の体積%を一定に保持する。
【0052】
いくつかの実施形態では、添加する酸素の量は約20体積%であり、エタンの添加量は80体積%~15体積%の範囲であり、ODHプロセスに添加される対応する範囲の不活性希釈剤は0~65体積%の範囲である。これらの範囲内で、相対体積酸素:エタン比は0.25~約1.33の範囲である。
【0053】
いくつかの実施形態では、ODHプロセスに添加される不活性希釈剤の量は、約40体積%~約55体積%であり、酸素:エタン比は約0.30である。
【0054】
二酸化炭素選択率として測定された、二酸化炭素排出量に対するODHプロセスに添加された相対体積酸素:エタン比の変更の影響は、最大5重量%の二酸化炭素選択率の変化である可能性がある。いくつかの実施形態では、二酸化炭素選択率の変化は、約2.5重量%である。他の実施形態では、二酸化炭素選択率の変化は約1.0重量%である。
<二酸化炭素ネガティブ>
【0055】
本発明の一態様は、二酸化炭素の酸化を促進する条件を調整して、全体的なプロセスが二酸化炭素ニュートラル(正でも負でもない)であるか、又はむしろ二酸化炭素ネガティブ(負)であるようにする操作者の能力である。二酸化炭素を不活性希釈剤として、又は不活性希釈剤の一部として含めることにより、正味の二酸化炭素ネガティブプロセスを実施することができる。これにより、二酸化炭素を生成するプロセスから捕捉された二酸化炭素を使用できるようになり、捕捉された二酸化炭素を燃焼処理し又は変換する必要性が最小限になる。例えば、エタンのODHプロセスでは、未反応のエタン、エチレン、水、並びに1つ以上の二酸化炭素、酢酸、及び一酸化炭素を含む生成物流をもたらす。多種多様な生成物は、反応器の下流での分離を必要とする。酢酸と水は、急冷塔を使用して除去され、二酸化炭素は、アミン洗浄塔と苛性塔の組合せを介して除去され得る。残りのエタンとエチレンはスプリッターを用いて分離できるため、エタンをODH反応器にリサイクルでき、比較的純粋なエチレンを下流のアプリケーションで使用でき、特に、既知の触媒を使用した重合でポリエチレンを製造できる。例えば、生成されたエチレンを使用して、当技術分野で既知の方法を使用して、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、及び最低密度の生成物、エラストマー、プラストマーを製造できる。
【0056】
アミン洗浄塔によって除去された二酸化炭素は、通常、燃焼処理され、温室効果ガスの排出に寄与する。本発明では、二酸化炭素は、ODHプロセスにおいて不活性希釈剤として使用でき、ここで、添加する蒸気の量と添加する相対体積酸素:エタン比とを調整して、添加する二酸化炭素の酸化を促進する。いくつかの実施形態では、ODHプロセス分離トレインから捕捉された二酸化炭素は、不活性希釈剤として使用され、ODHプロセスに添加する蒸気の量は、二酸化炭素排出量がニュートラル(正でも負でもない)又はネガティブ(負)になるように調整される。当業者は、二酸化炭素のネガティブな(負の)条件下での動作が、二酸化炭素の外部供給なしでは延々と続くことができないことを理解するであろう。捕捉された二酸化炭素の供給がゼロに近づくと、操作者は、ODHプロセスが二酸化炭素ニュートラルであるため、添加する蒸気の量を減らすことができる。
【0057】
いくつかの実施形態では、本発明は、二酸化炭素が熱分解などの工業プロセスから供給される継続的な二酸化炭素ネガティブプロセスを想定する。この場合、工業プロセスの通常の操作条件下で燃焼処理する必要がある二酸化炭素の量を減少させる機会が存在する。この実施形態において、操作者は、反応に添加する蒸気の量及び反応器に添加する相対体積酸素:エタン比を最大化して、二酸化炭素選択率を減少させ、工業プロセスから添加される追加の二酸化炭素がほぼ完全に消費されるようにする。
【実施例
【0058】
[例1]
ODHプロセスに注入される蒸気の量を変更することによる二酸化炭素排出量への影響は、直列に接続された2つの固定床反応器を使用して評価された。各反応器に存在する触媒は、次式の混合金属酸化物触媒のいくつかのバッチの混合物であった。
Mo1.00.30-0.50Te0.10-0.20Nb0.10-0.20。触媒は、6.8重量%のTiOで押し出された。さらに、触媒と希釈剤の重量比が2.1のDENSTONE(登録商標)99アルミナ粉末で触媒を物理的に希釈した。DENSTONE(登録商標)99アルミナは、主に(99重量%)アルファ構造Alで構成されている。エタン、二酸化炭素、及び酸素を、水の添加前に予備混合し、その後、2つの反応器の第1の反応器に組成物全体を供給しながら予熱した。予熱ステップは、添加した水が反応器に注入される前に蒸気に変換されることを確実にするために必要である。第1の反応器からの排出は、新しい反応物を追加せずに第2の反応器に直接送られた。各反応器の温度を、周囲圧力で334~338℃の範囲に保持した。このプロセスは、3日間にわたって継続して実行された。
【0059】
反応器に添加する蒸気の流量を変えても、エタン、二酸化炭素、酸素の相対量は同じであった。第1の反応器に添加したエタン、二酸化炭素、及び酸素の相対量は、それぞれ33、54、及び13であった。ガス毎時空間速度(GHSV)は610時-1で一定に保たれた。反応器に添加する蒸気の量を変更した後、GHSVを610時-1に維持するために、反応エタン、二酸化炭素、及び酸素の流量を適宜変更した。
【0060】
蒸気は、エタン、二酸化炭素、及び酸素の混合物とともに水として間接的に添加された。第1の反応器に入る前に混合物に添加した水の量は、水なしで開始し、1.0cm/分の流量まで増加して変化した。混合物に添加した水の各流量について、全供給混合物中の対応する蒸気の重量%を計算した。表1は、反応器に添加する蒸気の量を変更した場合の二酸化炭素、一酸化炭素、及び酢酸の排出量に及ぼす影響を示している。
【0061】
表1に記載されている結果は、指定された各条件での2回以上の実験の平均である。結果は、混合物に添加する水の流量を増加させること、及び反応器に添加する蒸気の重量%の対応する増加が、炭素選択率の減少につながることを示している。二酸化炭素ネガティブプロセスは、1.0cm/分の流量(例1-5)で水を添加したときに見られた。これは、添加した蒸気の39重量%に相当する。また、蒸気を添加しない状態に戻し(例1-6)、続いて39重量%に増加すると(例1-7)、二酸化炭素の選択率がポジティブからネガティブに(正から負に)戻った。最後に、蒸気を増やすと酢酸の生成量が増加し、エタンの転化率も高くなることに留意されたい。
【0062】
【表1】
【0063】
[例2]
第2の実験は、例1と同じ反応器構成を用いて、異なる操作条件下で行われた。触媒は、例1に記載されているようにいくつかのバッチの混合物であり、比較のために、新たに混合したばかりの触媒と、間欠的に使用されてから8か月後の混合触媒とを含めた。第1の反応器に添加したエタン、二酸化炭素、及び酸素の相対体積量は、それぞれ、42、37、及び21であった。例1と比較して、O/Cの体積供給比が高いことに注意されたい。また、ガス毎時空間速度(GHSV)はより高く、反応温度が321~325℃の間に保持され、1015時-1で一定に保たれた。例1と同様に、添加する水の量を変更した後に、GHSVを1015時間-1に維持するために、それに応じてエタン、二酸化炭素、及び酸素の流量が変更された。第1の反応器に添加された対応する蒸気含有量は、0重量%から16重量%に変更された。
【0064】
例2の結果を表2に示す。触媒が古くなると、副生成物、特にCOの生成に対する選択率が一般に増加し、同時にエチレン選択率が低下する。これは、実験2-1と実験2-2を比較するとわかる。実験2-1は新しい触媒に対応し、実験2-2は8か月前の触媒に対応している。もともと、触媒はCに対して91%の選択率と-1.0のネガティブな(負の)CO選択率を示した。8か月後、Cに対する選択率は89%に低下し、CO選択率は5.0でポジティブな(正の)領域に移行した。実験2は、本発明がより古い触媒でも有効であることを示し、反応器に添加する蒸気の重量%を0から16重量%に増加すると、CO選択率が5.0から3.0に低下する(実験2-3)。この減少は、例1で観察された傾向とよく一致している。
【0065】
【表2】
【0066】
[例3]
第3の実験は、前の例と同じ反応器構成を用いて実施したが、第2の反応器のみを直列に使用し、酸素とエタンの供給体積比を変化させた。使用された触媒は、式:Mo1.00.37Te0.23Nb0.144.97の混合金属酸化物触媒であり、残部の混合金属酸化物中に、約55重量%のVersal 250を用いて押し出された。3つの相対体積量の酸素とエタンがテストされ、16体積%O:38体積%C、19体積%O:36体積%C、及び21体積%O:33体積%Cを含み、O:Cの体積比はそれぞれ0.4、0.5、0.6に対応する。添加したCOの相対的な体積量は46体積%に維持され、ガス毎時空間速度(GHSV)は1111時-1に一定に保たれ、反応温度は359℃~360℃に保持され、反応は周囲圧力で行われた。反応に蒸気を添加しなかった。
【0067】
例3の結果を表3に示す。酸素:エタンの体積比が増加すると、COの生成に対する選択率が低下する。この効果には、エチレンと一酸化炭素に対する選択率のわずかな増加が伴うが、酢酸の選択率は変わらない。実験3は、他のパラメータを変更せずに、反応器に添加する酸素:エタンの体積比を変更すると、二酸化炭素への選択率が低下する可能性があることを示している。この効果は、例1と例2、具体的には蒸気が添加されていない実験番号1-1と2-1を比較することによっても実証され、酸素:エタンのより高い体積比が反応器に添加された実験番号2-1において炭素選択率がより低かったことでも実証されている。
【0068】
【表3】
【0069】
[例4]
第4の実験は、前の例と同じ反応器構成を用いて例1と同様に実施したが、より高い体積比の酸素:エタン(0.5)を反応器に添加し、より高いGHSV(1111時-1)、及びより高い360℃の温度を使用した。反応器に添加した蒸気の重量%は、添加したCO蒸気の相対体積量(46体積%)を一定に保ちながら、0重量%から40重量%に変更した。結果を表4に示し、より高い温度、流量、酸素:エタンの体積比で、反応器に添加する蒸気の量を0重量%から40重量%に増加すると、CO選択率が低下することを示している。この例では、CO選択率は6.0重量%から5.3%に減少した。この減少は、より低温、低流量(GHSV)、及び反応器に添加した酸素:エタンの相対的な体積比が低い場合に見られる値よりも低い。
【0070】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0071】
このプロセスは、低級アルカンの酸化的脱水素化(ODH)に適用できる。このプロセスは、ODH反応器に添加する蒸気の量を変更するか、又はODHプロセスで使用される低級アルカンに対する酸素の比率を変更することにより、低級アルカンのODHからの二酸化炭素排出量全体の制御に適用できる。