(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】高導電性微細印刷のための銅インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/52 20140101AFI20221125BHJP
B41M 1/12 20060101ALI20221125BHJP
H01B 1/02 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
C09D11/52
B41M1/12
H01B1/02 C
(21)【出願番号】P 2020534254
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(86)【国際出願番号】 IB2018060453
(87)【国際公開番号】W WO2019123384
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-07
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500276482
【氏名又は名称】ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デオール、バーバナ
(72)【発明者】
【氏名】パケ、シャンタル
(72)【発明者】
【氏名】マレンファン、パトリック ローランド ルシアン
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-34750(JP,A)
【文献】特開2010-176976(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106147405(CN,A)
【文献】特開2014-196384(JP,A)
【文献】特開2015-172226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
H01B 1/00- 1/24
B41M 1/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に導電性銅コーティングを製造する方法であって、酢酸銅、3-ジメチルアミノ-1,2-プロパンジオール及び銀塩を含む銅系インクで基板をコーティングする工程と、前記基板上の前記インクを分解して、前記基板上に導電性銅コーティングを形成する工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記酢酸銅及び3-ジメチルアミノ-1,2-プロパンジオールが前記インク中で錯体を形成し
、1:1
~1:2のモル比である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モル比が約1:1.3である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酢酸銅が、前記インクの総重量に基づいて、前記インク中
に5重量%
~25重量%の銅を提供する量の酢酸銅一水和物を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記銀塩が、
酸化銀、塩化銀、臭化銀、硫酸銀、炭酸銀、リン酸銀、酢酸銀又は硝酸銀を含み、前記酢酸銅からの銅全体の重量に基づいて
、5重量%
~40重量%の量で前記インク中に存在する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記インクが溶媒及び結合剤をさらに含
み、前記結合剤が、ヒドロキシル末端及び/又はカルボキシル末端ポリエステルを含む、請求項1から
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記基板上の前記インクが
、10~45分の時間
、100~150℃の温度で乾燥される、請求項1から
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記分解が光焼結を含む、請求項1から
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記基板上の前記インクのコーティングがスクリーン印刷を含む、請求項1から
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
酢酸銅、3-ジメチルアミノ-1,2-プロパンジオール及び銀塩を含む銅系インク。
【請求項11】
前記酢酸銅及び3-ジメチルアミノ-1,2-プロパンジオールが前記インク中で錯体を形成し
、1:1
~1:2のモル比である、請求項
10に記載のインク。
【請求項12】
前記モル比が約1:1.3である、請求項
11に記載のインク。
【請求項13】
前記銀塩が、
酸化銀、塩化銀、臭化銀、硫酸銀、炭酸銀、リン酸銀、酢酸銀又は硝酸銀を含み、前記酢酸銅からの前記銅の重量に基づいて
、5重量%
~20重量%の量で前記インク中に存在する、請求項
10から
12のいずれか一項に記載のインク。
【請求項14】
溶媒及び結合剤をさらに含
み、前記結合剤が、ヒドロキシル末端及び/又はカルボキシル末端ポリエステルを含む、請求項
10から
13のいずれか一項に記載のインク。
【請求項15】
請求項1から
9のいずれか一項に記載の方法により製造された導電性銅コーティングをその上に有する基板を含む、電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、印刷インク、特にプリンテッドエレクトロニクス用の印刷インクに関する。
【背景技術】
【0002】
低価格、高導電性、高耐酸化性は、プリンテッドエレクトロニクスのインクの重要なターゲットである。金(Au)及び銀(Ag)は高価であるが、安定している(すなわち、耐酸化性がある)。これらの金属と比較して、銅(Cu)は安価であり、同様の導電率を有するが、銅は容易に酸化するため、印刷されたトレースで高い導電率を達成することは困難である。
【0003】
銅インクでは、主に2つのタイプ:金属ナノ粒子系インク;及び金属-有機分解(MOD)インクが使用される。ナノ粒子系銅インクは高価であり、高い導電率を得るには高いCu装填量が必要である。ナノ粒子系インクは、非常に高い温度で焼結されなければならず、及び/又はレーザー/フラッシュライト焼結されなければならない。ナノ粒子系インクはまた簡単に酸化される。安価なバージョン(Novacentrix(商標))の場合、ボール紙上にスクリーン印刷するだけであり、光焼結されなければならない。MODインクは、低温での熱焼結を可能にするが、通常、ギ酸銅などの高価な銅前駆体が使用される。また、MODインクは通常、粘性がないため、スクリーン印刷ができない。ギ酸などの強酸蒸気によって引き起こされる腐食、及び金属含有量が低いことによる不十分な導電率は、Cu MODインクでよく見られる他の制限である。
【0004】
低コストで導電率が高く、耐酸化性のあるスクリーン印刷可能なインクが、熱及び光焼結して導電性トレースを製造できるという報告はほとんどない。高導電性のCuトレースを得るには、高装填量のCuナノインク(インク全体で約35~70%のCu)が必要である。酸化を防ぐための戦略では、NPに銀を組み込んで、バイメタルのAg-Cuナノ粒子インクを製造する必要があり、コストが増加する。そのため、銅の酸化を減らし、プリンテッドエレクトロニクス用のコスト効率の高い銅系インクを作成するという課題が残っている。低コストの銅塩は、上記のすべての要件を備えた良好なインクを製造するためには、実証されていない。
【0005】
微細印刷を可能にするために熱及び/又は光焼結することができる、低コスト、高解像度、高導電性、耐酸化性のスクリーン印刷可能なインクが必要である。ポリマー基板上にスクリーン印刷可能で、光焼結又は熱焼結できる低コストの銅インクは、直ちに商業的価値を有する。
【発明の概要】
【0006】
一態様では、酢酸銅、3-ジメチルアミノ-1,2-プロパンジオール及び銀塩を含む銅系インクが提供される。
【0007】
別の態様では、基板上に導電性銅コーティングを製造する方法が提供され、この方法は、酢酸銅、3-ジメチルアミノ-1,2-プロパンジオール及び銀塩を含む銅系インクで基板をコーティングすることと、基板上のインクを分解して、基板上に導電性銅コーティングを形成することとを含む。
【0008】
有利には、インクは低コストであり、スクリーン印刷用途向けに配合することができる。インクのミクロン厚さのトレースをスクリーン印刷し、最大約500ppmの酸素の存在下で熱焼結するか、又は空気中で光焼結して、高導電性の銅の特徴(features)を製造してもよい。インクから製造された焼結銅トレースは、他の銅インクから製造されたトレースと比較して空気安定性が改善されている。焼結銅トレースは良好な接着強度を有する。銅ナノ粒子は、焼結銅トレースの導電率及び/又は耐酸化性をさらに向上させるために、及び/又はインクのスクリーン印刷適性をさらに向上させるために含まれていてもよい。約20mΩ/□/mil以下のシート抵抗率を有する焼結銅トレースは、優れた解像度の5~20mil幅のスクリーン印刷線で得ることができる。
【0009】
さらなる特徴は、以下の詳細な説明の過程で説明され、又は明らかになるであろう。本明細書に記載される各特徴は、記載される他の特徴の任意の1つ以上との任意の組合せで利用されてもよく、各特徴は、当業者に明らかな場合を除いて、必ずしも別の特徴の存在に依存しないことを理解されたい。
【0010】
より明確な理解のために、好ましい実施形態が、添付の図面を参照して、例としてここで詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】酢酸銅一水和物(Cu(CH
3COO)
2・H
2O)及び3-ジメチルアミノ-1,2-プロパンジオール(DMAPD)を含むさまざまなインクのサーモグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
銅系インクは、酢酸銅、3-ジメチルアミノ-1,2-プロパンジオール(DMAPD)、及び銀塩を含む。DMAPD((CH3)2NCH2CH(OH)CH2OH)は、容易に入手できる有機化合物である。酢酸銅(Cu(CH3COO)2)は容易に入手できる無機化合物であり、水和されていてもよく又は水和されていなくてもよい。水和酢酸銅は、一水和物(Cu(CH3COO)2・H2O)を含んでもよく、これは、使用するのに便利であり、無水酢酸銅よりも安価である。インクでは、酢酸銅及びDMAPDが錯体を形成する。酢酸銅は、好ましくは、インクの総重量に基づいて約40重量%以下の銅を提供する量でインク中に存在する。酢酸銅は、好ましくは、インクの総重量に基づいて約1重量%以上の銅を提供する量でインク中に存在する。酢酸銅は、好ましくは、インクの総重量に基づいて約1重量%~約40重量%の銅を提供する量でインク中に存在する。酢酸銅が提供する銅の量は、インクの総重量に基づいて、より好ましくは約3重量%~約30重量%、又は約3重量%~約25重量%、又は約5重量%~約20重量%、又は約5重量%~約15重量%の範囲である。好ましくは、酢酸銅及びDMAPDは、約1:1~約1:2のモル比でインク中に存在する。より好ましくは、酢酸銅とDMAPDとのモル比は約1:1.3である。そのようなモル比は、インクから形成される導電性銅トレースの導電率を改善するために特に有利である。
【0013】
インクは、他の錯体形成アミン成分を実質的に含まないことが好ましい。錯体形成アミン成分はアミン含有化合物であり、銅イオンと配位錯体を形成する。インクは、酢酸銅以外の銅前駆体化合物を実質的に含まないことが好ましい。銅前駆体化合物は、焼結して銅金属を形成し得る銅イオン及び配位子の任意の化合物である。
【0014】
銀塩は、金属銀及び容易に除去可能な残留物、好ましくは銀塩の分解温度でのガス状残留物を生成するために分解可能な銀の任意の有機又は無機塩であってもよい。銀塩は1つ以上のアニオンを含む。アニオンは好ましくは鉱酸から誘導される。金属塩中のアニオンは、好ましくは、酸化物、塩化物、臭化物、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩又は硝酸塩である。硝酸塩が特に好ましい。特に好ましい金属塩フィラーは硝酸銀である。銀塩は、好ましくは、インク中の酢酸銅からの銅の総重量に基づいて、約40重量%まで、好ましくは約20重量%までの量でインク中に存在する。好ましくは、銀塩の量は、インク中の酢酸銅からの銅の総重量に基づいて5重量%以上である。好ましくは、銀塩の量は、インク中の酢酸銅からの銅の総重量に基づいて、約2重量%~約40重量%、又は約5重量%~約40重量%、又は約5重量%~約20重量%、又は約5重量%~約15重量%又は約5重量%~約10重量%の範囲である。
【0015】
インクはまた、特定の目的のための、又はインクから形成される導電性トレースの電気的、物理的及び/又は機械的特性を改善するためのインクの配合に有用な1つ以上の他の成分を含んでもよい。さまざまな実施形態では、インクは、フィラー、結合剤、表面張力調整剤、消泡剤、チキソトロピー調整剤、溶媒、又はそれらの任意の混合物の1つ以上を含むことができる。
【0016】
フィラーは、金属、別の金属含有化合物、又はそれらの混合物を含み、インクから形成された導電性トレースの導電率を改善することができる。フィラーは、好ましくは銅ナノ粒子(CuNP)を含む。ナノ粒子は、約1~1000nm、好ましくは約1~500nm、より好ましくは約1~100nmの範囲の最長寸法に沿った平均サイズを有する粒子である。ナノ粒子は、フレーク、ナノワイヤ、針、実質的に球形又は他の任意の形状であってもよい。フィラーは、好ましくは、インク中の酢酸銅からの銅の総重量に基づいて、約40重量%までの量でインク中に存在する。好ましくは、フィラーの量は、インク中の酢酸銅からの銅の総重量に基づいて、約1重量%~約40重量%、又は約5重量%~約30重量%、又は約10重量%~約30重量%の範囲である。
【0017】
結合剤、例えば有機ポリマー結合剤は、特定の堆積プロセスのための加工助剤としてインク中に存在し得る。有機ポリマー結合剤は、任意の適切なポリマー、好ましくは熱可塑性又はエラストマーポリマーであってもよい。結合剤のいくつかの非限定的な例は、セルロース系ポリマー、ポリアクリラート、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリビニルピロリドン、ポリピロリドン、ポリビニルアセタール、ポリエステル、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリオール、シリコーン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、スチレンアリルアルコール、ポリアルキレンカルボナート、フルオロプラスチック、フルオロエラストマー、熱可塑性エラストマー及びそれらの混合物である。有機ポリマー結合剤は、ホモポリマー又はコポリマーであってもよい。特に好ましい結合剤は、ポリエステル、ポリイミド、ポリエーテルイミド又はそれらの任意の混合物を含む。ポリマー結合剤は、好ましくはポリエステルを含む。適切なポリエステルは市販されているか、又はポリアルコールとポリカルボン酸及びそれらの無水物との縮合によって製造されてもよい。好ましいポリエステルは、ヒドロキシル及び/又はカルボキシル官能化されている。ポリエステルは線状又は分岐状であってもよい。固体又は液体のポリエステル及び多様な溶液形態を利用してもよい。特に好ましい実施形態では、ポリマー結合剤は、ヒドロキシル及び/又はカルボキシル末端ポリエステル、例えばRokrapol(商標)7075を含む。ポリマー結合剤は、任意の適切な量でインク中に存在し得る。有機ポリマー結合剤は、インクの総重量に基づいて、任意の適切な量で、好ましくは約0.05重量%~約10重量%の範囲でインク中に存在し得る。より好ましくは、その量は、約0.05重量%~約5重量%、又は約0.2重量%~約2重量%、又は約0.2重量%~約1重量%の範囲である。一実施形態では、ポリマー結合剤は、インク中に約0.02~0.8重量%、より好ましくは約0.05~0.6重量%の量で存在する。
【0018】
表面張力調整剤は、インクの流れ及びレベリング特性を改善する任意の適切な添加剤であってもよい。いくつかの非限定的な例は、界面活性剤(例えば、カチオン性又はアニオン性界面活性剤)、アルコール(例えば、プロパノール)、プロパンジオール、デカン酸、ドデカンチオール、グリコール酸、乳酸及びそれらの混合物である。表面張力調整剤は、任意の適切な量で、好ましくはインクの総重量に基づいて約0.1重量%~約5重量%の範囲でインク中に存在し得る。より好ましくは、その量は、約0.5重量%~約4重量%、又は約0.8重量%~約3重量%の範囲である。特に好ましい一実施形態では、その量は約1重量%~約2.7重量%の範囲である。
【0019】
消泡剤は、任意の適切な消泡添加剤であってもよい。いくつかの非限定的な例は、フルオロシリコーン、鉱油、植物油、ポリシロキサン、エステルワックス、脂肪アルコール、グリセロール、ステアラート、シリコーン、ポリプロピレン系ポリエーテル及びそれらの混合物である。グリセロール及びポリプロピレン系のポリエーテルが特に好ましい。消泡剤がないと、一部の印刷されたトレースは、印刷後に気泡を保持する傾向があり、不均一なトレースをもたらし得る。消泡剤は、インクの総重量に基づいて、任意の適切な量で、好ましくは約0.0001重量%~約3重量%の範囲でインク中に存在し得る。より好ましくは、その量は、約0.005重量%~約2重量%の範囲である。
【0020】
チキソトロピー調整剤は、任意の適切なチキソトロピー調整添加剤であってもよい。いくつかの非限定的な例は、ポリヒドロキシカルボン酸アミド、ポリウレタン、アクリルポリマー、ラテックス、ポリビニルアルコール、スチレン/ブタジエン、粘土、粘土誘導体、スルホナート、グアー、キサンタン、セルロース、ローカストガム、アカシアガム、糖類、糖誘導体、キャセイン、コラーゲン、変性ヒマシ油、オルガノシリコーン及びそれらの混合物である。チキソトロピー調整剤は、インク中に、任意の適切な量で、好ましくは、インクの総重量に基づいて、約0.05重量%~約1重量%の範囲で存在し得る。より好ましくは、その量は、約0.1重量%~約0.8重量%の範囲である。特に好ましい一実施形態では、その量は約0.2重量%~約0.5重量%の範囲である。
【0021】
溶媒は、水性溶媒又は有機溶媒であってもよい。場合によっては、1つ以上の有機溶媒及び水性溶媒の混合物が利用されてもよい。水性溶媒には、例えば、水及び化合物の水中の溶液、分散液又は懸濁液が含まれる。有機溶媒は、芳香族、非芳香族又は芳香族及び非芳香族溶媒の混合物であってもよい。芳香族溶媒には、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、クロロベンゼン、ベンジルエーテル、アニソール、ベンゾニトリル、ピリジン、ジエチルベンゼン、プロピルベンゼン、クメン、イソブチルベンゼン、p-シメン、テトラリン、トリメチルベンゼン(例えばメシチレン)、デュレン、p-クメン又はその任意の混合物が含まれる。非芳香族溶媒には、例えば、テルペン、グリコールエーテル(例えば、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコール、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、トリエチレングリコール及びそれらの誘導体)、アルコール(例えばメチルシクロヘキサノール、オクタノール、ヘプタノール)又はそれらの任意の混合物が含まれる。ジプロピレングリコールメチルエーテルが好ましい。溶媒は、任意の適切な量、好ましくはインクの総重量に基づいて約1重量%~約50重量%の範囲でインク中に存在し得る。より好ましくは、その量は、約2重量%~約35重量%、又は約5重量%~約25重量%の範囲である。溶媒は、一般に、インクの残部を構成する。
【0022】
インクは、成分をミキサーで一緒に混合することによって配合されてもよい。一般に、任意の混合プロセスが適している。ただし、遊星式遠心混合(Thinky(商標)ミキサーなど)は特に有用である。混合時間は、インクから形成された導電性トレースの電気的特性にいくらかの影響を与え得る。インクを適切に混合することで、導電性トレースの良好な電気特性が保証される。混合時間は、好ましくは約25分以下、又は約20分以下、又は約15分以下である。混合時間は、好ましくは約1分以上、又は約5分以上である。
【0023】
分解の前に、インクは基板上に堆積され、基板をコーティングする。適切な基板としては、例えば、特にポリエチレンテレフタラート(PET)(例えば、Melinex(商標))、ポリオレフィン(例えば、シリカ充填ポリオレフィン(Teslin(商標)))、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリスチレン、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン、ポリカルボナート、ポリイミド(例えばKapton(商標))、ポリエーテルイミド(例えばUltem(商標))、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、シリコーン膜、プリント配線基板(例えばFR4)、ウール、シルク、綿、亜麻、ジュート、モーダル、竹、ナイロン、ポリエステル、アクリル、アラミド、スパンデックス、ポリラクチド、紙、ガラス、金属、誘電体コーティングが挙げられる。
【0024】
インクは、任意の適切な方法、例えば印刷によって基板上にコーティングされてもよい。印刷方法としては、例えば、スクリーン印刷、ステンシル、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、スタンプ印刷、エアブラシ、エアロゾル印刷、植字、スロットダイコーティング、又はその他の方法が挙げられる。スクリーン印刷又はステンシルなどの付加的な方法が特に有用であることがプロセスの利点である。プリンテッドエレクトロニクスデバイスの場合、インクは基板上にトレースとしてコーティングされてもよい。
【0025】
基板をインクでコーティングした後、基板上のインクを乾燥及び分解して、基板上に銅金属コーティングを形成してもよい。乾燥及び分解は、任意の適切な技術によって達成することができ、その技術及び条件は、基板のタイプ及びインクの特定の組成によって導かれる。例えば、インクの乾燥及び分解は、加熱及び/又はフォトニック焼結によって達成することができる。
【0026】
1つの技術では、基板を加熱することにより、インクコーティングが乾燥及び焼結して、金属銅が形成される。加熱は、約100℃以上、約140℃以上、又は約165℃以上、又は約180℃以上の温度で行われてもよく、良好な酸化安定性を有する導電性銅コーティングを製造する。温度は、約140℃~約300℃、又は約150℃~約280℃、又は約160℃~約270℃、又は約180℃~約250℃の範囲であってもよい。加熱は、好ましくは、約1~180分の範囲、例えば5~120分、又は5~90分の時間行われる。加熱を段階的に行って、最初にインクコーティングを乾燥させ、次いで乾燥したコーティングを焼結させてもよい。乾燥は、任意の適切な温度、例えば、約100℃~約150℃の範囲の温度で実行されてもよい。乾燥は、任意の適切な時間、例えば、約1~180分、又は5~90分、又は10~45分の間行うことができる。焼結は、インクを焼結して導電性銅コーティングを形成するのに温度と時間との十分なバランスで行われる。乾燥及び/又は焼結は、不活性雰囲気(例えば、窒素及び/又はアルゴンガス)下で基板を用いて行われてもよい。しかしながら、インクの改善された空気安定性は、酸素の存在下で、例えば約500ppmまでの酸素を含む雰囲気中での焼結を可能にする。加熱装置のタイプは、乾燥及び焼結に必要な温度及び時間も考慮する。
【0027】
別の技法では、インクコーティングを熱で乾燥させ、次いでフォトニック焼結させることができる。乾燥は、任意の適切な温度、例えば、約100℃~約150℃の範囲の温度で実行されてもよい。乾燥は、任意の適切な時間、例えば、約1~180分、又は5~90分、又は10~45分の間行うことができる。フォトニック焼結システムは、広帯域の光スペクトルを供給する高輝度ランプ(例えばパルスキセノンランプ)を特徴とすることができる。ランプは、約1~30J/cm2、好ましくは2~5J/cm2のエネルギーをトレースに供給してもよい。パルス幅は、好ましくは約0.58~1.5msの範囲である。フォトニック焼結は、空気中又は不活性雰囲気中で行われてもよい。所望により、レーザー焼結を利用してもよい。フォトニック焼結は、ポリエチレンテレフタラート又はポリイミド基板を使用する場合に特に適している。
【0028】
インクから形成された焼結銅コーティングは、5~20milの幅のスクリーン印刷された線に対して、約20mΩ/□/mil以下、さらには約15mΩ/□/mil以下のシート抵抗率を有してもよい。シート抵抗率は、約5~10mΩ/□/milの範囲でさえあり得る。インクから形成された焼結銅コーティングは、5~20milの幅のスクリーン印刷線の場合、約50μΩ.cm以下、さらには約μΩ.cm以下の体積抵抗率を有してもよい。さらに、線解像度は、5~20mil幅のスクリーン印刷線の焼結後の線幅が約17%未満、又は約10%未満、又は約5%未満、又は約2.5%未満の変化で優れている。線幅が約5milと小さい場合でも、焼結後の線幅の変化は約17%未満、さらには約5%未満、又はさらには約2.5%未満であってもよい。線幅は、スクリーン印刷されたトレースの場合、例えば、約10ミクロン~約600ミクロン、又は約55ミクロン~550ミクロンの範囲で、約600ミクロン以下であってもよい。さらに、インクから形成された焼結銅コーティングは、柔軟性があってもよく、ASTM F1683-02フレックス及びしわ試験(flex & crease test)に、開回路断線なし(つまり、オープン不良なし)で合格できる。抵抗率(R)の変化が20%以下の場合、ASTM F1683-02のフレックス及びしわ試験では合格と見なされる。開回路断線は、導電率の完全な損失(すなわち、無限の抵抗率)として定義される。
【0029】
焼結銅コーティングを有する基板は、電子デバイス、例えば電気回路(例えばプリント回路基板(PCB))、導電性バスバー(例えば太陽電池用)、センサー(例えばタッチセンサー、ウェアラブルセンサー)、アンテナ(例えばRFIDアンテナ)、薄膜トランジスタ、ダイオード、スマートパッケージング(例えばスマートドラッグパッケージング)、機器及び/又は車両の適合インサート、並びに高温に耐えることができる適合表面上のローパスフィルタ、周波数選択表面、トランジスタ及びアンテナを含む多層回路及びMIMデバイスに組み込むことができる。
【実施例】
【0030】
[例1]インクの調製
表1に示す分子インクは、一般に、銅化合物とアミンとを記載された比で、銀塩(AgNO3)、溶媒(水)及びフィラー(CuNP)の列挙された量とともに遊星式遠心ミキサー(例えばThinky(商標)ミキサー)にて室温で約15~30分混合することによって配合した。銅化合物、アミン及びAgNO3はSigma-Aldrich Corporationから入手した。CuNP(TEKNA(商標))フィラーはAdvanced Material Inc.から入手した。銀塩及びフィラーの量は、インク全体のCu金属の量に対する重量%として与えられる。Cu(HCO2)2・H2Oはギ酸銅一水和物である。EtOxは2-エチル-2-オキサゾリンである。
【0031】
【0032】
[例2]インクの熱分析
インクの熱重量分析はBOC HPアルゴン(グレード5.3)ガス下のNetzsch TG209F1で行われ、残留酸素はSupelco Big-Supelpure(商標)酸素/水トラップでトラップした。
【0033】
表2及び
図1は、例1に記載されるように調製されたインクC1、C2、I1及びI2のアルゴン下での熱重量分析の結果を示す。表2は、各インクの熱分解温度、400℃で熱分解後に残った残留物の量(インクの総重量に基づく%)、インク中の金属の量(インクの総重量に基づくCu又はCu/Agの重量%)、並びにインクを熱及び光方法で焼結できるかどうか(Y=はい、N=いいえ)について示す。この結果は、酢酸銅及びDMAPDをベースにしたインクは、熱及び光焼結できることを示している。
【0034】
【0035】
[例3]スクリーン印刷されたCuトレースの焼結
さまざまなインクを基板上にスクリーン印刷して、トレースを形成し、次いで焼結した。SS403ステンレススチールメッシュ(Dynamesh,IL)で支持されているMIMエマルジョンにフォトイメージされたパターン(10~14μm)を通して、American M&M S-912Mスモールフォーマットスクリーンプリンタを使用して、8.5インチ×11インチのKapton(商標)フィルムシートにインクをスクリーン印刷した。サンプルはフォトニック焼結によって処理され、印刷されたトレースは溶媒を除去するために乾燥され、その後PulseForge(商標)1300Novacentrixフォトニック硬化システムを使用して周囲条件下で処理された。
【0036】
[例3-1]インクI3
インクI3を、Kapton(商標)基板にスクリーン印刷し、リフローオーブンにて140℃で20分間乾燥し、2.87J/cm2でNovacentrix PulseForge(商標)システムにより光焼結して、基板上に金属銅トレースを形成した。表3及び表4は銅トレースの物理的及び電気的特性を示し、表5は機械的特性を示す(ASTM F1683-02によるフレックス及びしわ試験による機械的試験)。結果は、酢酸銅、DMAPD、及び5重量%のAgNO3を有するインクI3が、優れた解像度及び良好な機械的特性(つまり、フレックス及びしわ試験後の抵抗の変化が20%未満)の光焼結導電性銅トレースを提供することを示す。これらの結果は、結合剤の不存在下で達成されたことに留意すべきである。
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
[例3-2]インクI4
インクI4、をKapton(商標)基板にスクリーン印刷し、リフローオーブンにて140℃で20分間乾燥し、2.76J/cm2でPulseForge(商標)焼結により光焼結して、基板上に焼結された銅トレースを形成した。表6及び表7は銅トレースの物理的及び電気的特性を示し、表8は機械的特性を示す(ASTM F1683-02によるフレックス及びしわ試験による機械的試験)。結果は、酢酸銅、DMAPD、10重量%のAgNO3及び一部の追加水を含むインクI4が、結合剤がなくても優れた解像度及び適度なフレックス特性を備えた光焼結導電性銅トレースを提供することを示す。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
インクI4をKapton(商標)基板にスクリーン印刷し、リフローオーブンにて110℃で30分間、次いで250℃で15分間乾燥し、2.87J/cm2でPulseForge(商標)焼結により光焼結して、基板上に焼結された銅トレースを形成した。表9及び表10に、銅トレースの物理的及び電気的特性を示す。この異なる焼結手順で生成された銅トレースは、上記で生成されたものよりも良好な導電率及びスランプ(slump)特性を有していた。
【0045】
【0046】
【0047】
[例3-3]インクI5
インクI5を、Kapton(商標)基板にスクリーン印刷し、リフローオーブンにて140℃で20分間乾燥し、3.1J/cm2でPulseForge(商標)焼結により光焼結して、基板上に焼結された銅トレースを形成した。表11及び表12は銅トレースの物理的及び電気的特性を示し、表13は機械的特性を示す(ASTM F1683-02によるフレックス及びしわ試験による機械的試験)。結果は、酢酸銅、DMAPD、20重量%のAgNO3及び一部の追加水を含むインクI5が、結合剤がなくても優れた解像度及び適度なフレックス特性を備えた光焼結導電性銅トレースを提供することを示す。例3-3を例3-2と比較すると、20重量%のAgNO3を使用しても10重量%のAgNO3を使用した場合よりも改善されないことを示す。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
[例3-4]インクC3
インクC3を、Kapton(商標)基板にスクリーン印刷し、リフローオーブンにて140℃で25分間乾燥し、3.455J/cm2でPulseForge(商標)焼結により光焼結して、基板上に焼結された銅トレースを形成した。表14及び表15は銅トレースの物理的及び電気的特性を示し、表16は機械的特性を示す(ASTM F1683-02によるフレックス及びしわ試験による機械的試験)。例3-4を例3-1と比較すると、酢酸銅、DMAPD及び銀塩(インクI3)を含むインクは、酢酸銅及びDMAPD(インクC3)のみを含むインクよりも、同様の機械的特性を有しながら、良好な導電率及びスランプ特性を有することを示す。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
[例3-5]インクC4
インクC4を、Kapton(商標)基板にスクリーン印刷し、リフローオーブンにて140℃で45分間乾燥し、2.76J/cm2でPulseForge(商標)焼結により光焼結して、基板上に焼結された銅トレースを形成した。表17及び表18は銅トレースの物理的及び電気的特性を示し、表19は機械的特性を示す(ASTM F1683-02によるフレックス及びしわ試験による機械的試験)。例3-5を例3-2と比較すると、酢酸銅、DMAPD及び銀塩を含むインク(インクI4)は、酢酸銅、DMAPD及び銅ナノ粒子を含むインク(インクC4)よりも、良好な導電率及びスランプ特性を有することを示す。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
[例3-6]インクC5
インクC5を、Kapton(商標)基板にスクリーン印刷した。基板上のインクの稠度(consistency)は不十分であった。次いでインクを、リフローオーブンにて110℃で10分間窒素下で乾燥し、2.32J/cm2でPulseForge(商標)焼結により光焼結して、基板上に焼結された銅トレースを形成した。基板上のトレースから、99%の窒素雰囲気下であっても、乾燥中及び光焼結中の両方でかなりの酸化が発生したことが明らかであった。トレース自体は、基板への接着が不十分であり、銅のフレーキングを示した。銅トレースの粘着テープ試験の結果、トレースが著しく損傷した。
【0060】
この例から明らかなように、適切なインクを製造するために、酢酸銅をギ酸銅で置き換えることはできない。
【0061】
[例3-7]インクC6
インクC6を、Kapton(商標)基板にスクリーン印刷し、リフローオーブンにて100℃で10分間乾燥し、2.32J/cm2でPulseForge(商標)焼結により光焼結して、基板上に焼結された銅トレースを形成した。表20及び表21は銅トレースの物理的及び電気的特性を示し、表22は機械的特性を示す(ASTM F1683-02によるフレックス及びしわ試験による機械的試験)。インクC6から生成された銅トレースは、シート及び体積抵抗率が不十分であり、機械的特性に欠陥があり、スランプが高いことが明らかである。例3-7と例3-1を比較すると、適切なインクを製造するために酢酸銅をギ酸銅に置き換えることはできないことを示す。長期間にわたって高温及び低温で乾燥を繰り返しても、導電率は改善しなかった。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
[例3-8]インクC7
インクC7を、Kapton(商標)基板にスクリーン印刷し、リフローオーブンにて80℃で30分間乾燥し、3.3J/cm2でPulseForge(商標)焼結により光焼結して、基板上に焼結された銅トレースを形成した。表23及び表24は銅トレースの物理的及び電気的特性を示し、表25は機械的特性を示す(ASTM F1683-02によるフレックス及びしわ試験による機械的試験)。DMAPDの大部分をエチルオキサゾリンで置き換えたため、インクをスクリーン印刷することが困難であった。さらに、結果として得られるトレースは、機械的特性に欠陥があり、スランプが高いことを示す。また、99%窒素ガス下でも酸化が生じた。高温及び低温で乾燥を繰り返しても、導電率は改善しなかった。DMAPDを別のアミンで置き換えると、スクリーン印刷ができなくなり、銅トレースの品質が不十分であることは明らかである。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
[例4]異なる銅前駆体及びアミンを使用して配合されたインクとの比較
酢酸銅及びDMAPDを他の銅前駆体分子及び他のアミンで置き換える効果を評価するために、酢酸銅及びDMAPDの一方又は両方を表26に示すように置き換えた以外は、同じ方法でさまざまなインクを配合した。インクはKapton(商標)基板上に堆積され、サンプルは500ppmの酸素を含む窒素ガス下で熱焼結された。表26に示すように、酢酸銅及びDMAPDを有するインクのみが適していた。
【0070】
【0071】
新規の特徴は、説明を検討することにより当業者に明らかになるであろう。しかしながら、特許請求の範囲は、実施形態によって限定されるべきではなく、特許請求の範囲の文言及び明細書全体と一致する最も広い解釈が与えられるべきであることが理解されるべきである。