(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】流体封入式防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 13/10 20060101AFI20221125BHJP
B60K 5/12 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
F16F13/10 K
F16F13/10 J
F16F13/10 D
B60K5/12 F
(21)【出願番号】P 2020538165
(86)(22)【出願日】2019-04-17
(86)【国際出願番号】 JP2019016521
(87)【国際公開番号】W WO2020039648
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2018157599
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】石川 亮太
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-070929(JP,A)
【文献】特開2002-295571(JP,A)
【文献】実開昭61-129946(JP,U)
【文献】特開2006-097824(JP,A)
【文献】特開2008-267453(JP,A)
【文献】特開2006-207629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 1/00-6/12
7/00-8/00
16/00
F16F 9/00-9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主液室と副液室の間に設けられた仕切部材によって板厚方向で移動可能に支持された可動板に対して該主液室と該副液室の液圧が各一方の面に及ぼされることで液圧吸収機構が構成された流体封入式防振装置において、
前記仕切部材における前記可動板への対向面に開口する連通孔が設けられている一方、該可動板には該連通孔に向かって突出する弾性突部が設けられていると共に、該可動板の板厚方向での移動に伴う該連通孔の孔壁部分への当接によって圧縮方向と剪断方向に押圧されて該連通孔の内周側へも弾性変形される周壁部を該弾性突部が備えて
おり、且つ、
前記可動板における前記弾性突部が、前記周壁部として中空の環状周壁部を備えている流体封入式防振装置。
【請求項2】
主液室と副液室の間に設けられた仕切部材によって板厚方向で移動可能に支持された可動板に対して該主液室と該副液室の液圧が各一方の面に及ぼされることで液圧吸収機構が構成された流体封入式防振装置において、
前記仕切部材における前記可動板への対向面に開口する連通孔が設けられている一方、該可動板には該連通孔に向かって突出する弾性突部が設けられていると共に、該可動板の板厚方向での移動に伴う該連通孔の孔壁部分への当接によって圧縮方向と剪断方向に押圧されて該連通孔の内周側へも弾性変形される周壁部を該弾性突部が備えており、且つ、
前記可動板には前記仕切部材に向かって突出する緩衝突起が設けられて
いると共に、該緩衝突起が該仕切部材に当接するまでの該可動板の板厚方向での移動量が、前記弾性突部が前記連通孔へ当接して弾性変形されるまでの該可動板の板厚方向での移動量よりも大きくされてい
る流体封入式防振装置。
【請求項3】
主液室と副液室の間に設けられた仕切部材によって板厚方向で移動可能に支持された可動板に対して該主液室と該副液室の液圧が各一方の面に及ぼされることで液圧吸収機構が構成された流体封入式防振装置において、
前記仕切部材における前記可動板への対向面に開口する連通孔が設けられている一方、該可動板には該連通孔に向かって突出する弾性突部が設けられていると共に、該可動板の板厚方向での移動に伴う該連通孔の孔壁部分への当接によって圧縮方向と剪断方向に押圧されて該連通孔の内周側へも弾性変形される周壁部を該弾性突部が備えており、且つ、
前記仕切部材と前記可動板において、前記連通孔と前記弾性突部がそれぞれ対応する位置に複数設けられてい
る流体封入式防振装置。
【請求項4】
主液室と副液室の間に設けられた仕切部材によって板厚方向で移動可能に支持された可動板に対して該主液室と該副液室の液圧が各一方の面に及ぼされることで液圧吸収機構が構成された流体封入式防振装置において、
前記仕切部材における前記可動板への対向面に開口する連通孔が設けられている一方、該可動板には該連通孔に向かって突出する弾性突部が設けられていると共に、該可動板の板厚方向での移動に伴う該連通孔の孔壁部分への当接によって圧縮方向と剪断方向に押圧されて該連通孔の内周側へも弾性変形される周壁部を該弾性突部が備えており、且つ、
前記仕切部材において、前記連通孔が前記可動板の板面方向で偏在して設けられてい
る流体封入式防振装置。
【請求項5】
前記仕切部材に設けられた前記連通孔において前記弾性突部の前記周壁部が当接される内周面と、該弾性突部の該周壁部において該連通孔に当接される外周面との少なくとも一方が、テーパ状の傾斜面とされている請求項1~4の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項6】
前記周壁部が、基端部分よりも先端部分において厚さ寸法が小さくされた先薄形状とされている請求項1~5の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項7】
前記可動板が弾性材で形成されて弾性変形可能とされていると共に、該可動板の変形剛性が板面方向で異ならされている請求項1~6の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項8】
前記可動板の平面形状が非円形状とされることで、該可動板の変形剛性が板面方向で異ならされている請求項7に記載の流体封入式防振装置。
【請求項9】
前記可動板の厚さ寸法が板面方向で異ならされることで、該可動板の変形剛性が板面方向で異ならされている請求項7又は8に記載の流体封入式防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジンマウントやボデーマウント、メンバマウントなどに用いられる流体封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装されて、それら部材を相互に防振連結する防振支持体乃至は防振連結体の一種として、可動板による液圧吸収機構を備えた流体封入式防振装置が知られている。例えば特公昭62-53735号公報に示されているように、主液室と副液室の間に設けられた仕切部材によって可動板が板厚方向で移動可能に支持されており、主液室と副液室の相対的な圧力変動を可動板で吸収軽減するようになっている。
【0003】
ところが、このような流体封入式防振装置では、可動板が移動に際して仕切部材に打ち当たることで、異音や振動が発生する場合があった。なお、可動板の表面に中実の弾性突起を設けて、仕切部材への打ち当たりに際しての衝撃を緩和することも提案されているが、充分な衝撃緩和作用を得ることは難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の解決課題とするところは、液圧吸収機構における可動板の仕切部材への打ち当たりに伴う異音や振動の如き問題を軽減乃至は防止することのできる、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0007】
本発明の第一の態様は、主液室と副液室の間に設けられた仕切部材によって板厚方向で移動可能に支持された可動板に対して該主液室と該副液室の液圧が各一方の面に及ぼされることで液圧吸収機構が構成された流体封入式防振装置において、前記仕切部材における前記可動板への対向面に開口する連通孔が設けられている一方、該可動板には該連通孔に向かって突出する弾性突部が設けられていると共に、該可動板の板厚方向での移動に伴う該連通孔の孔壁部分への当接によって圧縮方向と剪断方向に押圧されて該連通孔の内周側へも弾性変形される周壁部を該弾性突部が備えており、且つ、前記可動板における前記弾性突部が、前記周壁部として中空の環状周壁部を備えているものである。
本発明の第二の態様は、主液室と副液室の間に設けられた仕切部材によって板厚方向で移動可能に支持された可動板に対して該主液室と該副液室の液圧が各一方の面に及ぼされることで液圧吸収機構が構成された流体封入式防振装置において、前記仕切部材における前記可動板への対向面に開口する連通孔が設けられている一方、該可動板には該連通孔に向かって突出する弾性突部が設けられていると共に、該可動板の板厚方向での移動に伴う該連通孔の孔壁部分への当接によって圧縮方向と剪断方向に押圧されて該連通孔の内周側へも弾性変形される周壁部を該弾性突部が備えており、且つ、前記可動板には前記仕切部材に向かって突出する緩衝突起が設けられていると共に、該緩衝突起が該仕切部材に当接するまでの該可動板の板厚方向での移動量が、前記弾性突部が前記連通孔へ当接して弾性変形されるまでの該可動板の板厚方向での移動量よりも大きくされているものである。
本発明の第三の態様は、主液室と副液室の間に設けられた仕切部材によって板厚方向で移動可能に支持された可動板に対して該主液室と該副液室の液圧が各一方の面に及ぼされることで液圧吸収機構が構成された流体封入式防振装置において、前記仕切部材における前記可動板への対向面に開口する連通孔が設けられている一方、該可動板には該連通孔に向かって突出する弾性突部が設けられていると共に、該可動板の板厚方向での移動に伴う該連通孔の孔壁部分への当接によって圧縮方向と剪断方向に押圧されて該連通孔の内周側へも弾性変形される周壁部を該弾性突部が備えており、且つ、前記仕切部材と前記可動板において、前記連通孔と前記弾性突部がそれぞれ対応する位置に複数設けられているものである。
本発明の第四の態様は、主液室と副液室の間に設けられた仕切部材によって板厚方向で移動可能に支持された可動板に対して該主液室と該副液室の液圧が各一方の面に及ぼされることで液圧吸収機構が構成された流体封入式防振装置において、前記仕切部材における前記可動板への対向面に開口する連通孔が設けられている一方、該可動板には該連通孔に向かって突出する弾性突部が設けられていると共に、該可動板の板厚方向での移動に伴う該連通孔の孔壁部分への当接によって圧縮方向と剪断方向に押圧されて該連通孔の内周側へも弾性変形される周壁部を該弾性突部が備えており、且つ、前記仕切部材において、前記連通孔が前記可動板の板面方向で偏在して設けられているものである。
【0008】
第一~四の何れかの態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、弾性突部の周壁部が仕切部材への当接に際して剪断方向にも押圧されて内周側へも弾性変形することで、従来の弾性突起のように単純な圧縮変形を生ずるものに比して、緩衝作用のチューニング自由度が広がる。その結果、例えば当接初期の低ばね特性による緩衝性能の向上などが可能となって、可動板の仕切部材への打ち当たりに伴う異音や振動の低減が図られ得る。
【0009】
【0010】
第一の態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、中空の環状周壁部を採用することで、周壁部の全体的な耐久性の向上等を図ることが可能になる。なお、周壁部の高さ方向の全体が環状とされている必要はなく、例えば周壁部の突出方向の基端部分が周方向で全周に連続した環状とされている一方、先端部分が高さ方向に延びるスリット等により周方向で複数に分断されていても良い。
【0011】
【0012】
第二の本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、例えば大振幅の入力時には、弾性突部が仕切部材に当接した後に緩衝突起が仕切部材に当接することとなる。これにより、可動板の仕切部材への当接に対しての段階的な緩衝作用乃至は非線形な弾性による可動板の移動量の制限作用が発揮され得る。
【0013】
【0014】
第三の態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、可動板の複数箇所において、仕切部材への当接によって圧縮方向と剪断方向に押圧されて連通孔の内周側へ弾性変形する周壁部を備えた弾性突部が設けられることとなり、それ故、例えば可動板の広い範囲で、仕切部材への当接に際しての良好な緩衝作用を得ることが可能になる。
第四の態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、連通孔を通じて可動板に及ぼされる流体圧を可動板の板面方向で偏らせることができる。その結果、可動板を部分的に先に変位させる等することで、弾性突部の仕切部材への当接のタイミングを分散させることも可能になる。
【0015】
本発明の第五の態様は、前記第一~第四の何れか一つの態様に係る流体封入式防振装置において、前記仕切部材に設けられた前記連通孔において前記弾性突部の前記周壁部が当接される内周面と、該弾性突部の該周壁部において該連通孔に当接される外周面との少なくとも一方が、テーパ状の傾斜面とされているものである。
【0016】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、弾性突部の周壁部と連通孔の孔壁部分との当接部分にテーパ状の傾斜面を採用したことで、当接時に周壁部を連通孔の内周側へ向けて弾性変形させる案内作用がより効果的に発揮される。
【0017】
本発明の第六の態様は、前記第一~第五の何れか一つの態様に係る流体封入式防振装置において、前記周壁部が、基端部分よりも先端部分において厚さ寸法が小さくされた先薄形状とされているものである。
【0018】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、例えば周壁部において連通孔の孔壁部分への当接時における非線形な荷重-撓み特性を実現したり、基端部分の厚さ寸法やゴムボリュームを確保して耐久性の向上を図ったりすることも可能になる。
【0019】
本発明の第七の態様は、前記第一~第六の何れか一つの態様に係る流体封入式防振装置において、前記可動板が弾性材で形成されて弾性変形可能とされていると共に、該可動板の変形剛性が板面方向で異ならされているものである。
【0020】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、可動板において比較的変形し易い部分と比較的変形しにくい部分が設けられることから、これらの部分に形成された弾性突部が同時に連通孔の孔壁部分に当接することが回避される。それ故、弾性突部が仕切部材に打ち当たる際のタイミングが分散されて、打音等の更なる低減が図られ得る。
【0021】
なお、可動板の板面方向における変形剛性は、例えば以下の第8又は第9の態様を採用することで異ならせることができる。
【0022】
本発明の第八の態様は、前記第七の態様に係る流体封入式防振装置において、前記可動板の平面形状が非円形状とされることで、該可動板の変形剛性が板面方向で異ならされているものである。
【0023】
本発明の第九の態様は、前記第七又は第八の態様に係る流体封入式防振装置において、前記可動板の厚さ寸法が板面方向で異ならされることで、該可動板の変形剛性が板面方向で異ならされているものである。
【0024】
【0025】
【発明の効果】
【0026】
本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、可動板の仕切部材への当接部分において新規な構造の弾性突部を採用したことにより、可動板の仕切部材への打ち当たりに起因する異音や振動が効果的に低減され得る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第一の実施形態としての流体封入式防振装置を示す縦断面図。
【
図2】
図1に示された流体封入式防振装置を構成する仕切部材を可動板の支持状態で示す斜視図。
【
図4】
図2に示された仕切部材を構成する仕切部材本体を示す平面図。
【
図6】
図2に示された仕切部材を構成する蓋部材を示す平面図。
【
図8】
図1に示された流体封入式防振装置を構成する可動板を示す斜視図。
【
図10】(a)は
図9におけるX-X断面図であって、(b),(c)は(a)における要部を拡大して示す縦断面図。
【
図11】本発明の第二の実施形態としての流体封入式防振装置を構成する仕切部材を可動板の支持状態で示す斜視図。
【
図14】
図11に示された仕切部材に支持される可動板を示す斜視図。
【
図15】本発明の第三の実施形態としての流体封入式防振装置を構成する仕切部材を可動板の支持状態で示す斜視図。
【
図16】
図15に示された仕切部材に支持される可動板を示す斜視図。
【
図17】本発明に係る弾性突部の別の態様を示す斜視図。
【
図18】本発明に係る弾性突部の更に別の態様を示す斜視図。
【
図19】(a)は本発明に係る弾性突部の更に別の態様を示す斜視図であって、(b)は(a)に示された弾性突部を備える可動板を仕切部材に装着した状態を示す斜視図。
【
図20】本発明に係る弾性突部と仕切部材の更に別の態様を示す縦断面図であって、(a)は可動板を仕切部材に装着する前の状態を示すと共に、(b)は可動板を仕切部材に装着した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0029】
先ず、
図1には、本発明に係る流体封入式防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16で弾性連結された構造を有している。そして、第一の取付部材12がパワーユニット側に取り付けられる一方、第二の取付部材14が車両ボデー側に取り付けられることで、パワーユニットと車両ボデーとの間に介装されて、パワーユニットを車両ボデーに対して防振支持せしめるようになっている。なお、以下の説明において、上下方向および軸方向とは、マウント軸方向となる
図1中の上下方向をいう。
【0030】
より詳細には、第一の取付部材12は、全体として略円形断面で上下方向に延びるブロック形状を有しており、金属や硬質の合成樹脂からなる剛性部材とされている。かかる第一の取付部材12は、上端面から中心軸上に穿設されたねじ穴18を備えている。また、第一の取付部材12は、外周面上に突出する略環状の鍔状突部20が一体形成されているとともに、鍔状突部20よりも下側が、下方に向って次第に小径化するテーパ状外周面を有する下方突部22とされている。
【0031】
また、第二の取付部材14は、全体として大径の略円筒形状を有しており、金属や硬質の合成樹脂からなる剛性部材とされている。かかる第二の取付部材14の上下方向中間部分には、軸直角方向に広がる環状の段差部24が設けられており、当該段差部24よりも上方が大径筒部26とされている一方、段差部24よりも下方が小径筒部28とされている。また、第二の取付部材14の下側開口縁部には、内周側に折り曲げられることで形成されたかしめ部30が設けられている。
【0032】
そして、第二の取付部材14の軸方向上方に離隔して、第一の取付部材12が第二の取付部材14と略同軸上に配設されていると共に、それら第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16で連結されている。
【0033】
かかる本体ゴム弾性体16は、略截頭円錐形状とされており、軸方向上方に向かって次第に小径化するテーパ状の外周面を有している。そして、本体ゴム弾性体16の小径側端部が、第一の取付部材12に固着されている。すなわち、鍔状突部20が本体ゴム弾性体16の小径側端面に重ね合わされるとともに、下方突部22が小径側端面の中央から軸方向下方へ差し込まれた状態で、本体ゴム弾性体16の小径側端部が第一の取付部材12に加硫接着されている。本実施形態では、本体ゴム弾性体16が鍔状突部20の外周面から上方へと回り込んでおり、鍔状突部20の外周面と上面に緩衝ゴムが設けられている。
【0034】
また、本体ゴム弾性体16の大径側端部が、第二の取付部材14に固着されている。すなわち、本体ゴム弾性体16の大径側端部が、第二の取付部材14における大径筒部26の内周面の略全面に亘って重ね合わされて加硫接着されている。
【0035】
なお、本実施形態では、本体ゴム弾性体16が、第一の取付部材12と第二の取付部材14とを備えた一体加硫成形品として構成されている。そして、第二の取付部材14の上側の開口部が、本体ゴム弾性体16によって流体密に覆蓋されている。
【0036】
また、本体ゴム弾性体16の大径側端部には、逆向きの略すり鉢形状を呈する大径凹所32が形成されている。なお、第二の取付部材14における小径筒部28の内周面は、シールゴム層34で覆われており、本体ゴム弾性体16の下端とシールゴム層34の上端との境界部分には、円環状の当接段差面36が形成されている。
【0037】
さらに、第二の取付部材14には、下側の開口部から、仕切部材38と、可撓性膜40が嵌め入れられて組み付けられている。そして、第二の取付部材14の下側の開口部が可撓性膜40で覆蓋されることにより、本体ゴム弾性体16と可撓性膜40の軸方向対向面間に流体室42が画成されている。更にまた、流体室42には、水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油等の非圧縮性流体が封入されている。本実施形態では、封入流体として、0.1Pa・s以下の低粘性流体が好適に採用される。
【0038】
また、流体室42は、略円板形状を有する仕切部材38で仕切られており、軸直角方向に広がって配された仕切部材38の上方には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成された主液室44が形成されていると共に、仕切部材38の下方には、壁部の一部が可撓性膜40で構成された副液室46が形成されている。
【0039】
なお、可撓性膜40は、変形容易なように弛みを持たせた薄肉円板形状のゴム膜で構成されている。また、可撓性膜40の外周縁部には、略円環形状を有するリング金具48が加硫接着されている。そして、可撓性膜40を備えたリング金具48が第二の取付部材14の下端開口部に内挿されてかしめ部30でかしめ固定されることにより、可撓性膜40が第二の取付部材14に組み付けられている。
【0040】
また、主液室44と副液室46は、仕切部材38の外周部分を周方向に延びるオリフィス通路50によって相互に連通されている。そして、エンジンマウント10の車両装着状態で振動が入力されると、主液室44と副液室46との間に惹起される相対的な圧力変動に基づいてオリフィス通路50を通じての流体流動が生ぜしめられるようになっている。このオリフィス通路50を通じての流体の流動作用に基づいて、例えばエンジンシェイクなどの低周波大振幅振動に対する防振性能の向上が図られるように、オリフィス通路50の長さや断面積などがチューニングされている。
【0041】
更にまた、仕切部材38の内部には収容領域52が設けられており、当該収容領域52内に可動板54が収容されて、収容領域52の上下壁部で規制される移動ストロークをもって、可動板54が板厚方向に移動可能とされている。可動板54には、収容領域52の上下壁部に設けられた上側及び下側の連通孔56,58を通じて主液室44と副液室46の圧力が上面と下面にそれぞれ及ぼされるようになっている。そして、エンジンマウント10の車両装着状態で振動が及ぼされると、主液室44と副液室46から上下面に及ぼされる相対的な圧力変動に基づいて可動板54が収容領域52内で変位するようにされて液圧吸収機構60が構成されている。これにより、主液室44の小振幅の圧力変動が吸収軽減されることとなり、例えば走行こもり音等の高周波振動の入力時においてオリフィス通路50の反共振作用などに起因する高動ばね化が抑えられて防振性能の向上が図られるようになっている。
【0042】
ところで、本実施形態の仕切部材38の単品図が
図2,3に示されているように、仕切部材38は、仕切部材本体62に対して、蓋部材64が上方から重ね合わされて相互に固定された構造を有している。なお、これら仕切部材本体62および蓋部材64は、金属や硬質の合成樹脂などにより好適に形成され得る。
【0043】
仕切部材本体62は、
図4,5に示されるように、全体として略円板形状とされており、中央部分には、上方に開口する円形凹部66が形成されている。そして、当該円形凹部66の底壁部68には、可動板54への対向面となる底壁部68の上面に開口して上下方向で貫通する下側連通孔58が形成されており、本実施形態では、複数の下側連通孔58が設けられている。本実施形態では、複数個の下側連通孔58が、径方向および周方向において所定の間隔をもって配置されているが、下側連通孔の個数や配置態様は何等限定されるものではない。また、各下側連通孔58において、円形凹部66への開口側となる上側部分の内周面は、上方に向かって次第に径寸法が大きくなるテーパ状の傾斜面70とされている。
【0044】
更にまた、蓋部材64は、
図6,7に示されるように、仕切部材本体62よりも薄肉とされた略円板形状とされており、可動板54への対向面となる蓋部材64の下面に開口して上下方向で貫通する上側連通孔56が形成されている。本実施形態では、複数の上側連通孔56が設けられていると共に、それらが仕切部材本体62の下側連通孔58と上下で対向する位置に設定されている。また、本実施形態では、上側連通孔56において、仕切部材本体62への開口側となる下側部分の内周面は、下方に向かって次第に径寸法が大きくなるテーパ状の傾斜面72とされている。
【0045】
上述の如き仕切部材本体62と蓋部材64とが、互いに重ね合わされて、複数本のボルト73で固定されることで、仕切部材38が構成されている。このように仕切部材本体62における円形凹部66の上側開口部が蓋部材64で覆蓋されることで、仕切部材38の内部に、前述の可動板54が収容される収容領域52が形成されており、当該収容領域52が、軸直角方向に広がる略扁平な円形状とされている。
【0046】
なお、仕切部材本体62の外周縁部には、外周面に開口して周方向に略一周弱の長さで連続して延びる周溝74が形成されて、蓋部材64で覆蓋されており、更に周溝74の外周が第二の取付部材14で覆われることで前述のオリフィス通路50が形成されている。オリフィス通路50の長さ方向の両端は、蓋部材64に設けられた上側貫通孔76および仕切部材本体62に設けられた下側貫通孔78を通じて、主液室44と副液室46の各一方に連通されている。
【0047】
一方、可動板54は、
図8~10に示されているように、全体として略円板形状とされており、本実施形態では、ゴムやエラストマなどの弾性材による一体成形品とされている。可動板54は、軸直角方向に広がる円板状部82を備えており、当該円板状部82の外径寸法が、収容領域52(円形凹部66)の内径寸法よりも小さくされている。
【0048】
また、円板状部82の上下両面には、上方および下方に突出する弾性突部84が形成されている。本実施形態では、仕切部材本体62における下側連通孔58および蓋部材64における上側連通孔56と対応する位置に、弾性突部84が複数設けられている。これにより、上下の各弾性突部84が、各上側連通孔56および下側連通孔58に向かって突出している。尤も、上側連通孔と下側連通孔は相互に異なる位置に設けられてもよく、それに対応して上下の弾性突部の形成位置は相互に異ならされていてもよい。
【0049】
本実施形態では、弾性突部84が略円筒形状の中空構造とされて円板状部82から垂直に立ち上がっており、周壁部として、周方向の全周に亘って連続する環状周壁部86を備えている。すなわち、弾性突部84における環状周壁部86の内周側には、上方または下方に開口する凹部88が形成されている。本実施形態では、環状周壁部86における軸方向端面と凹部88の底面が湾曲面により構成されており、
図10に示される縦断面において、弾性突部84の外周面および内周面が、周方向および高さ方向において折れ点を有することなく滑らかに連続している。
【0050】
また、本実施形態では、弾性突部84の外径寸法が、突出先端に向かって次第に小さくされており、弾性突部84(環状周壁部86)の外周面が、テーパ状の傾斜面90とされている。特に、本実施形態では、弾性突部84(環状周壁部86)の突出先端における外径寸法が、上側連通孔56および下側連通孔58における傾斜面72,70の最小内径寸法と略等しくされているか僅かに大きくされているとともに、上側連通孔56および下側連通孔58の傾斜面72,70における最大内径寸法よりも小さくされている。
【0051】
ここにおいて、弾性突部84の突出寸法は、円板状部82と仕切部材38との対向面間距離より大きくされている。これにより、収容領域52内で円板状部82が上下一方の移動端に位置せしめられた場合でも、上下他方の側に突出する弾性突部84は、上側又は下側の連通孔56,58へ差し入れられた状態に維持されるようになっている。
【0052】
また、上下の連通孔56,58に差し入れられた弾性突部84は、その先端部分が、上側連通孔56および下側連通孔58における傾斜面72,70と軸方向で対向している。本実施形態では、
図3の拡大図に示されるように、弾性突部84と、上側連通孔56および下側連通孔58の内周面との間には、隙間92が形成されており、弾性突部84の先端部分と、上側連通孔56および下側連通孔58の内周面における傾斜面72,70とが、上下方向(軸方向)および軸直角方向で所定の離隔距離をもって対向している。
【0053】
一方、弾性突部84(環状周壁部86)の内径寸法は、突出方向で略一定か或いは突出先端に向かって次第に大きくなるようになっている。これにより、環状周壁部86が、突出基端部分から突出先端部分に向かって厚さ寸法が次第に小さくなる先薄形状とされている。
【0054】
さらに、本実施形態では、円板状部82において弾性突部84を外れた位置に、仕切部材38に向かって突出する緩衝突起94が設けられている。この緩衝突起94は、弾性突部84より突出寸法が小さくされており、特に本実施形態では、円板状部82の上下両面において、径寸法の異なる環状の緩衝突起94が同心的に複数設けられている。
【0055】
この緩衝突起94の突出寸法は、収容領域52内で円板状部82が上下の移動ストロークの中間に位置せしめられた状態で、円板状部82が対向する収容領域52の内面にまで達しない高さとされている。これにより、
図3に示されているように、収容領域52内で上下方向の中央に位置した円板状部82において、弾性突部84の先端部分と、仕切部材38における上下の連通孔56,58の内周面(傾斜面72,70)との軸方向距離aが、緩衝突起94の先端と仕切部材38における収容領域52の上下の内面との軸方向距離bよりも小さく(a<b)されている。その結果、可動板54が板厚方向で上側又は下側へ移動した際、弾性突部84が仕切部材38に当接して弾性変形するまでの可動板54の移動量aに比べて、緩衝突起94が仕切部材38に当接して弾性変形するまでの可動板54の移動量bが大きくされている。
【0056】
ここにおいて、振動入力に伴って上下面に及ぼされる圧力変動に基づいて可動板54が、
図3に示される状態から板厚方向で移動せしめられると、可動板54における弾性突部84(環状周壁部86)の先端部分や外周面である傾斜面90が上側連通孔56または下側連通孔58における孔壁部分に当接する。本実施形態では、上側連通孔56および下側連通孔58の孔壁部分の内周面も傾斜面72,70とされていることから、弾性突部84における当接反力が、これら傾斜面90,72,70の傾斜角度に対応した分力をもって及ぼされることとなる。それ故、弾性突部84は、可動板54の板厚方向の移動に伴って、略軸方向となる圧縮方向だけでなく略軸直角方向となる剪断方向にも押圧せしめられることとなり、弾性突部84(環状周壁部86)の先端部分が、上側連通孔56および下側連通孔58の内周側にも弾性変形するようになっている。
【0057】
その結果、単に環状周壁部86が圧縮変形される場合に比べて、弾性突部84(環状周壁部86)が上側連通孔56および下側連通孔58における傾斜面72,70に当接する際の打音が、効果的に低減され得る。
【0058】
特に本実施形態では、環状周壁部86が、突出先端に向かって薄肉となる先薄形状とされていることから、環状周壁部86の先端部分における弾性変形が、より容易に惹起される。これにより、上記の如き異音等の抑制効果が、更に安定して発揮され得る。
【0059】
更にまた、本実施形態では、上下の連通孔56,58と弾性突部84が複数設けられていることから、大きな上下の連通孔および弾性突部を一つ設ける場合に比べて、当接力の分散化による緩衝作用の向上や可動板の安定性の向上などの効果も発揮され得る。また、可動板54の上面に設けられる弾性突部84と可動板54の下面に設けられる弾性突部84とが上下で対応する位置に設けられることにより、例えば一方の側の弾性突部84が仕切部材38に当接した際に反対側の弾性突部84がマスとして作用して可動板54に生ぜしめられる歪の低減も図られ得る。
【0060】
また、本実施形態では、大きな振動が入力された際に、弾性突部84に加えて緩衝突起94も仕切部材38に当接するようになっている。これにより、初めに当接する弾性突部84によって緩衝作用が発揮された後で、緩衝突起94によって可動板54の移動量をより確実に規制することも可能になる。
【0061】
なお、エンジンマウント10に対してエンジンシェイクのような低周波大振幅の振動が入力される場合には、オリフィス通路50を通じた流体流動に伴う防振効果が発揮される。かかる場合には、仕切部材38における上側連通孔56または下側連通孔58が、可動板54における弾性突部84で狭窄(本実施形態では閉鎖)されることから、オリフィス通路50を通じた流体流動が効率的に惹起されて、かかる流体流動による防振効果が安定して発揮され得る。
【0062】
その際、弾性突部84の環状周壁部86における突出先端部分が上側連通孔56または下側連通孔58に入り込んで、より小径に弾性変形せしめられることから、弾性突部84の突出先端部分におけるばね剛性が大きくされて、可動板54の形状の安定化や移動量の規制作用の向上なども図られ得る。
【0063】
なお、エンジンマウント10に対してアイドリング振動や走行こもり音のような高周波小振幅の振動が入力された場合には、上下の弾性突部84の仕切部材38への非当接状態で許容される可動板54の移動や、上下の弾性突部84が仕切部材38へ当接して弾性変形することで許容される可動板54の移動に伴って、主液室44の圧力変動を低減する液圧吸収機構60が機能することで、低動ばね効果が発揮され得る。
【0064】
次に、
図11~13には、本発明の第二の実施形態としての流体封入式防振装置に採用される仕切部材100が示されていると共に、
図14には、当該仕切部材100に支持される可動板102が示されている。本実施形態の流体封入式防振装置において、仕切部材100以外の構造は前記実施形態と同様の構造が採用され得ることから、詳細な説明を省略する。また、本実施形態の仕切部材100の基本的な構造は、前記第一の実施形態と同様であるが、可動板102に設けられる弾性突部84の位置に応じて上下の連通孔56,58の位置が、第一の実施形態とは異ならされている等といった幾つかの相違はある。なお、以下の説明において、前記実施形態と同一の部材及び部位には、図中に、前記実施形態と同一の符号を付すことにより詳細な説明を省略する。
【0065】
詳細には、本実施形態の可動板102は、前記実施形態と同様に弾性材による一体成形品とされている。前記実施形態では、可動板54は、軸直角方向に広がる円板状部82を備えていたが、本実施形態では、可動板102が、軸直角方向に広がる、平面形状が非円形の板状とされたベース部分104を備えている。
【0066】
特に、本実施形態では、平面視において異形の外周形状を有するベース部分104が採用されている。具体的には、円板形状の外周部分の一部(
図14中の右側)が円弧状の凹部106で切り欠かれることで、全体として略弦月形の外周形状とされており、幅広の中央部分から弦月の周方向両端に向かって次第に幅狭となる一対の突出部108,108が突設されている。
【0067】
また、本実施形態では、ベース部分104の厚さ寸法が、
図13の左右方向(弦月の対称軸に直交する径方向となる、
図14の略上下方向)で異ならされている。即ち、ベース部分104において、
図13の右方(
図14の上方)となる部分が厚肉部110とされていると共に、
図13の左方(
図14の下方)となる部分が薄肉部112とされている。そして、これら厚肉部110と薄肉部112との間には、厚肉部110と薄肉部112との中間の厚さ寸法となる中間部114が設けられている。なお、本実施形態では、厚さ中心が、ベース部分104の全体にわたって同一平面上に設定されている。
【0068】
このような構造とされた本実施形態のベース部分104は、面上で特定方向に延びる軸方向において断面二次モーメント乃至は断面係数が小さくされており、それによってベース部分104の板面方向の特定部分において変形剛性が小さくされて湾曲変形しやすくされている。特に本実施形態では、平面視における外周形状が非円形とされて部材幅寸法が狭くされることで、一対の突出部108,108の各先端に向かって、中央部分よりも変形剛性が小さくされている。また、厚さ寸法が部分的に小さくされることで、薄肉部112において、厚肉部110や中間部114よりも変形剛性が小さくされている。
【0069】
以上の如き形状とされたベース部分104には、前記実施形態と同様の構造とされた弾性突部84が設けられている。本実施形態では、ベース部分104の上下両面において、ベース部分104の略全体に亘って略等間隔に複数の弾性突部84が設けられている。なお、各弾性突部84の突出先端における上下方向位置はそれぞれ略等しくされており、例えば厚肉部110に設けられた弾性突部84に対して薄肉部112に設けられた弾性突部84の方が、ベース部分104の表面からの突出高さ寸法が大きくされている。
【0070】
また、ベース部分104において、弾性突部84を外れた位置には、弾性突部84より高さ寸法の小さい複数の緩衝突起としてのシボ状突起116が設けられている。なお、
図13中では、シボ状突起116の図示を省略している。シボ状突起116が設けられることで、前記実施形態の緩衝突起94と同様の効果が発揮され得る。
【0071】
本実施形態の可動板102は、前記実施形態と同様に、仕切部材100の収容領域52に収容配置されている。そして、可動板102における弾性突部84の配置態様に応じて、仕切部材100における仕切部材本体62と蓋部材64における下側連通孔58と上側連通孔56の位置が設定されている。
【0072】
なお、可動板102は、各弾性突部84の上下連通孔56,58への入り込みによって収容領域52内で位置決めされることから、本実施形態における収容領域52は、ベース部分104の形状にかかわらずに前記実施形態と同じ円形状とすることも可能である。尤も、可動板102のベース部分104の外周形状に対応して、それよりも一回り大きい異形の内周形状をもって収容領域52を形成することで、製造時における可動板102の組付方向のミスなどを防止することも可能になる。
【0073】
上記の如き仕切部材100が採用された流体封入式防振装置では、振動入力に際して可動板102の上下面に及ぼされる圧力変動に基づいて、ベース部分104の板厚方向での弾性変形を伴いつつ可動板102が移動せしめられる。本実施形態では、ベース部分104の幅方向寸法や厚さ寸法が板面方向で異ならされることで、曲げ方向の変形剛性が部分的に異ならされており、弾性変形し易い部分と弾性変形しにくい部分が設けられている。それ故、弾性突部84が、上下連通孔56,58における傾斜面72,70へ当接するに際しては、ベース部分104の弾性変形し易い部分に設けられた弾性突部84が先に当接すると共に、ベース部分104の弾性変形しにくい部分に設けられた弾性突部84が遅れて当接する。それ故、各弾性突部84が、連通孔56,58の孔壁部分へ同時に当接することが回避されて、当接に起因する打音や衝撃の更なる低減が図られる。
【0074】
次に、
図15には、本発明の第三の実施形態としての流体封入式防振装置に採用される仕切部材120が示されていると共に、
図16には、当該仕切部材120に支持される可動板122が示されている。本実施形態の流体封入式防振装置においても、仕切部材120以外の構造は前記実施形態と同様の構造が採用され得ることから、詳細な説明を省略する。また、本実施形態においても、仕切部材120の基本的な構造は前記実施形態と同様であるが、可動板122に設けられる弾性突部84の位置に応じて上下の連通孔56,58の位置が、第一の実施形態とは異ならされている等といった幾つかの相違はある。
【0075】
本実施形態の可動板122は、第一の実施形態と同様の円板状部82を備えており、当該円板状部82の上下両面に複数の弾性突部84が設けられている。第一の実施形態では、弾性突部84が可動板54の略全体において略等間隔に設けられていたが、本実施形態では、弾性突部84が、可動板122における板面方向において偏在して設けられている。
【0076】
具体的には、可動板122の中心を挟んで径方向一方向で対向位置する、
図16中の右方と左方のそれぞれに複数の弾性突部84が設けられており、
図16中の右方に位置する右半円領域に設けられる弾性突部84の数の方が、
図16中の左方に位置する左半円領域に設けられる弾性突部84の数より多くされている。
【0077】
また、かかる弾性突部84の配置態様に対応して、仕切部材120における上下の連通孔56,58が、可動板122の板面方向で偏在して設けられている。即ち、
図15中の右方と左方のそれぞれに複数の上下連通孔56,58が形成されており、仕切部材120の一径方向線上で一方の側となる
図15中の右方に設けられる上下連通孔56,58の数の方が、他方の側となる
図15中の左方に設けられる上下連通孔56,58の数より多くされている。
【0078】
上記の如き構造とされた仕切部材120を備える流体封入式防振装置では、振動入力に伴って可動板122の上下面に及ぼされる流体圧が、上下連通孔56,58を通じて単位面積当たり略均等に及ぼされることから、上下連通孔56,58の偏在に応じて、可動板122に及ぼされる流体圧も可動板122の面方向で偏在して及ぼされることとなる。それ故、円形の仕切部材120に対して、上下連通孔56,58の存在密度が小さい
図15,16中の左方に比して、上下連通孔56,58の存在密度が大きい
図15,16中の右方には、同一領域に対してより大きな流体圧が及ぼされることとなる。そして、振動入力に際して、可動板122における
図16中の右方が左方よりも先に大きく弾性変形して当該領域の弾性突部84が上下の連通孔56,58の傾斜面72,70に当接することとなり、可動板122における
図16中の左方の領域の弾性突部84は遅れて上下の連通孔56,58の傾斜面72,70に当接する。その結果、各弾性突部84における連通孔56,58の孔壁部分への当接の瞬間が時間的にずらされて打音等の更なる低減が図られ得る。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はかかる実施形態における具体的な記載によって限定的に解釈されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良などを加えた態様で実施可能である。
【0080】
たとえば、前記実施形態では、弾性突部84が、周方向の全周に亘って筒状に連続する環状周壁部86を備えていたが、弾性突部における周壁部は全周に亘って連続する環状に限定されるものではない。具体的に例示すると、
図17に示される弾性突部130のように、突出基端部分が全周に亘る環状周壁部132とされている一方、突出先端部分が周方向で分割されて、それぞれ環状周壁部132から先端に向かって突出する複数の片状周壁部134とされていても良い。即ち、本実施形態の弾性突部130には、突出先端縁から基端側に向かって高さ方向の中間部分まで延びる切欠状の分断部136が、周上で複数(
図17では4つ)設けられており、それら分断部136で筒状の弾性突部130の先端部分が周方向で分断されることにより、周方向で実質的に独立して弾性変形し得る複数(
図17では4つ)の片状周壁部134が形成されている。このように複数の片状周壁部134を、連通孔の孔壁部分へ当接する先端部分に備えた弾性突部130では、弾性突部130の剪断方向のばね特性をより柔らかく設定することが可能になり、可動板の仕切部材への当接時における弾性突部130の緩衝作用や可動板の板厚方向での移動特性などのチューニング自由度の向上が図られ得る。なお、
図17では、一つの弾性突部130を示すが、
図1等に示される前記実施形態の弾性突部84と同様に、可動板の上下面の少なくとも一方において複数設けられ得る。
【0081】
また、
図18に示される実施形態のように、弾性突部138の周壁部として、全周に亘って連続した環状周壁部を備えないで周方向で分断された複数の片状周壁部134を採用することも可能である。即ち、本実施形態では、周方向で隣り合う片状周壁部134,134間に、弾性突部138の先端から基端にまで達する分断部136が設けられている。なお、
図17及び
図18では、前記実施形態と同様な構造とされた部材及び部位について、それぞれ前記実施形態と同じ符号を付しておく。
【0082】
さらに、前記第一の実施形態では、弾性突部84(環状周壁部86)が、略円環状(略円筒状)とされていたが、例えば
図19に示される弾性突部140のように、略矩形環状とされてもよい。かかる場合には、上側連通孔142や下側連通孔(58)は、
図19(b)に示されるように、弾性突部140に対応して略矩形状とされることが好適であるが、対応することなく、前記実施形態のように略円形の連通孔であってもよい。すなわち、弾性突部や連通孔の形状は何等限定されるものではなく、円形(楕円や長円、半円を含む)や多角形など、要求される防振特性や成形条件などを考慮して、適宜設定され得る。例えば、弾性突部において、周方向で互いに離隔してそれぞれ可動板から立設された複数本のロッド状の突起等によって周壁部を構成することも可能である。
【0083】
更にまた、前記実施形態では、
図8~10や
図14,16にも示されるように、仕切部材38,100,120に収容される前の単品状態において、可動板54,102,122における弾性突部84(環状周壁部86)が、突出先端に向かうにつれて外径寸法が小さくなるテーパ形状とされていたが、
図20(a)に示される弾性突部144のように、単品状態では仕切部材38(蓋部材64または仕切部材本体(62))に向かって直線状に突出していてもよい。かかる場合には、
図20(b)に示されるように、弾性突部144を備える可動板146が仕切部材38内に収容配置されることで弾性突部144が内周側に弾性変形されて連通孔(上側連通孔56または下側連通孔(58))内に挿入されるようになっていてもよい。このような形状とされることで、エンジンシェイクの如き振動が入力された際には、弾性突部144が上側連通孔56の開口周縁部に当接して、圧縮方向と剪断方向に押圧され、上側連通孔56のより内周側に弾性変形させられることから、前記実施形態と同様に異音の抑制効果が発揮され得る。
【0084】
また、前記実施形態では、可動板54,102,122がゴムやエラストマなどの弾性材による一体成形品とされていたが、かかる態様に限定されるものではない。例えば、可動板における円板状部などは、その全体又は部分的に金属や合成樹脂など硬質材により形成されたり、補強されていてもよい。
【0085】
更にまた、前記実施形態では、弾性突部84が、可動板54,102,122の上下両面に設けられていたが、本発明に従う弾性突部は、可動板の一方の面に設けられるだけでもよい。その場合において、可動板の他方の面には、必要に応じて、従来から公知の各種の緩衝突起が採用され得る。
【0086】
また、前記実施形態では、複数の弾性突部84が設けられていたが、弾性突部は一つだけ設けられてもよい。なお、複数の弾性突部が設けられる場合、前記実施形態のようにそれぞれが同形状とされる必要はなく、形状や大きさの異なる複数種類の弾性突部が採用されてもよいし、
図17や
図18に示される態様のように、突出寸法やばね特性の異なる複数種類の弾性突部を組み合わせて一つの可動板に採用することも可能である。また、複数の弾性突部間において形状(傾斜角度を含む)や大きさ(周方向寸法や高さ寸法、厚さ寸法など)を異ならせたり、一つの弾性突部において周上で形状や大きさを異ならせることで、弾性突部と仕切部材とが打ち当たるタイミングや打音の周波数などを異ならせることもできる。なお、複数の弾性突部において形状や大きさが異ならされる場合には、それに対応して連通孔の形状や大きさが異ならされることが好適であるが、かかる態様に限定されるものではない。また、弾性突部の形状や大きさを同じにしつつ、各対応する連通孔の形状や大きさを異ならせることで、弾性突部の孔壁部分への当接のタイミングを異ならせるなど、実質的に弾性突部の形状や大きさを異ならせるのと同様な作用効果を得ることも可能である。或いは、弾性突部の形状や大きさを同じにしつつ、前記第二の実施形態のようにベース部分の厚さ寸法を異ならせることで弾性突部の突出先端の上下方向位置を異ならせることも可能であり、これにより、弾性突部の孔壁部分への当接のタイミングを異ならせることができる。
【0087】
さらに、前記実施形態でに記載のオリフィス通路50は必須なものではない。オリフィス通路の如き機構は、防振装置に要求される防振特性などを考慮して必要に応じて採用され得る。
【0088】
更にまた、前記実施形態に記載の緩衝突起94やシボ状突起116は、必須なものではないし、複数種類の突出高さや弾性などを有する緩衝突起を設けることも可能である。
【0089】
また、前記実施形態では、弾性突部84(環状周壁部86)が突出先端に向かって薄肉となる先薄形状とされていたが、かかる態様に限定されるものではない。先薄形状とされる場合であっても、前記実施形態のように突出先端に向かって略一定の変化率で薄肉とされる必要はなく、例えば弾性突部の突出方向において外周面や内周面の傾斜角度が部分的に異ならされたり階段状とされる等して、突出先端が基端よりも薄肉となるようにされてもよい。
【0090】
さらに、前記実施形態では、可動板54,102,122が移動ストロークの略中央に位置した状態で、上下に位置する仕切部材38,100,120に対してそれぞれ所定の距離を隔てて位置するようになっていたが、例えば、可動板54,102,122の上下において弾性突部84が仕切部材38,100,120の孔壁部分に対してそれぞれ隙間無く接したり押し付けられていたりしていてもよい。
【0091】
更にまた、前記第一や第三の実施形態では、可動板54,122が全体として略円板形状とされていたが、かかる態様に限定されるものではなく、平面視における形状は、円形(楕円、長円、半円を含む)や多角形など各種形状が採用され得る。
【0092】
さらに、衝撃的大荷重の入力時に主液室44に発生する気泡に起因するキャビテーション異音の低減などの別の目的をもって、仕切部材38,100,120及び/又は可動板54,102,122において常時開口する微小貫通孔の如き、別の機構を設けることも可能である。また、流体の共振作用に基づく防振効果の発揮される振動周波数域の拡張やブロード化などを目的として、複数のオリフィス通路を形成したり、独立した可動板や可動膜を並設することも可能である。例えば、前記第二の実施形態の仕切部材100における収容領域52を可動板102に対応した弦月形状とすることで、仕切部材100において収容領域52から外れた部分に、例えば特開2018-155332号公報に示されるキャビテーション防止用の弁体(64)等を配設することも可能である。
【0093】
また、前記第二の実施形態では、可動板102(ベース部分104)の形状を異形状として幅方向寸法を異ならせることで変形剛性を異ならせる構成と、可動板102(ベース部分104)の厚さ寸法を異ならせることで変形剛性を異ならせる構成が併せて採用されていたが、何れか一方が採用されるだけでもよい。
【0094】
更にまた、かかる第二の実施形態における部分的に変形剛性を異ならせた可動板の構成と、前記第三の実施形態における部分的に連通孔を偏在させた構成とを、互いに組み合わせて採用することも可能である。なお、第三の実施形態において振動入力時に流体圧力変動を可動板102に及ぼす連通孔は、弾性突部84を外れた位置に設けられたものを含んでいても良い。
【0095】
さらに、可動板102の変形剛性を部分的に異ならせるに際しては、例えば面方向における特定線上の断面二次モーメントを異ならせるように設定することで実現可能であって、例示の如き弦月形状に限定されることなく各種の形状が採用可能である。変形剛性の部分的な調節に際しては、円形等の基本形状の外周部分に突起部や切欠部等を設けて部分的な突出部分を設けたり、貫通孔を設ける他、面上に突出して延びる補強リブを形成したり、部分的な補強部材を固着や埋設等することも可能である。
【0096】
また、可動板102の変形剛性は、ベース部分104だけでなく弾性突部84等を含む全体として把握されるものであるから、例えば弾性突部84が偏在する場合や弾性突部84の大きさが異なる場合などは、弾性突部84を含めて変形剛性を調節することも可能になる。更にまた、可動板の変形剛性の設定に際しては、例えば各種の設計条件を設定して有限要素法等を利用することも可能であり、振動入力に際して作用する流体圧の可動板の面上での偏在まで併せて考慮してシミュレーションすることで、複数の弾性突部における仕切部材に設けられた孔壁部分への当接のタイミングが異ならされるように適宜に調節することもできる。
【0097】
また、本発明における可動板は、前記実施形態のように流体圧作用によって全体が板厚方向に移動(振動変位)するものに限定されることなく、例えば部分的に拘束や移動制限された態様の可動板であっても、移動可能とされた部分において、仕切部材の連通孔の孔壁部分への当接によって圧縮方向と剪断方向に押圧されて弾性変形する周壁部を設けることで本発明を適用することが可能である。因みに、部分的に拘束や移動制限された態様の可動板としては、例えば特開昭63-88343号公報や特開2009-228688号公報等に記載されているように中央と外周縁の少なくとも一方を拘束状態で支持せしめて弾性的に変形変位可能とした可動板の構成が例示される。
【0098】
加えて、本発明に係る流体封入式防振装置は、前記第一の実施形態の如き自動車用のエンジンマウントに限定されるものではなく、自動車用のストラットマウントやメンバマウント、ボデーマウントなどの防振装置に適用されてもよいし、自動車以外の防振装置に適用されてもよい。その際、適用される防振装置の要求に応じて、例えば本体ゴム弾性体に対して第一及び第二の取付部材が非接着であっても良いし、第一及び第二の取付部材を備えないで本体ゴム弾性体が連結対象物に対して組み付けられるようにしても良い。また、主液室と副液室は、振動入力に際して相対的な圧力変動が惹起される物であれば良く、実施形態の如き振動が入力される受圧室と容積変化が許容される平衡室の他、正負が略反対の圧力変動が生ぜしめられる第一及び第二の受圧室によって主液室と副液室が構成されていても良い。更に、本体ゴム弾性体によって連結されたインナ軸部材とアウタ筒部材との間に流体室を形成した、従来から公知の筒型の流体封入式防振装置にも本発明は適用可能であり、適用される流体封入式防振装置の基本構造は限定されるものでない。
【符号の説明】
【0099】
10 エンジンマウント(流体封入式防振装置)
12 第一の取付部材
14 第二の取付部材
16 本体ゴム弾性体
18 ねじ穴
20 鍔状突部
22 下方突部
24 段差部
26 大径筒部
28 小径筒部
30 かしめ部
32 大径凹所
34 シールゴム層
36 当接段差面
38 仕切部材
40 可撓性膜
42 流体室
44 主液室
46 副液室
48 リング金具
50 オリフィス通路
52 収容領域
54 可動板
56 上側連通孔(連通孔)
58 下側連通孔(連通孔)
60 液圧吸収機構
62 仕切部材本体
64 蓋部材
66 円形凹部
68 底壁部
70 (下側連通孔における)傾斜面
72 (上側連通孔における)傾斜面
73 ボルト
74 周溝
76 上側貫通孔
78 下側貫通孔
82 円板状部
84 弾性突部
86 環状周壁部(周壁部)
88 凹部
90 傾斜面(環状周壁部の外周面)
92 隙間
94 緩衝突起
100 仕切部材
102 可動板
104 ベース部分
106 凹部
108 突出部
110 厚肉部
112 薄肉部
114 中間部
116 シボ状突起(緩衝突起)
120 仕切部材
122 可動板
130 弾性突部
132 環状周壁部(周壁部)
134 片状周壁部(周壁部)
136 分断部
138 弾性突部
140 弾性突部
142 上側連通孔(連通孔)
144 弾性突部
146 可動板