(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】新規な中枢活性グレリンアゴニストとその医学的使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4468 20060101AFI20221125BHJP
A61P 9/06 20060101ALI20221125BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20221125BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20221125BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221125BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20221125BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221125BHJP
C07D 211/58 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
A61K31/4468
A61P9/06
A61P25/00
A61P25/16
A61P29/00
A61P25/28
A61P43/00 111
C07D211/58 CSP
(21)【出願番号】P 2020544890
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 EP2019056438
(87)【国際公開番号】W WO2019179878
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-10-22
(32)【優先日】2018-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505180070
【氏名又は名称】ヘルシン ヘルスケア ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】クラウディオ ジュリアーノ
(72)【発明者】
【氏名】クラウディオ ピエトラ
(72)【発明者】
【氏名】シルビナ ガルシア ルビオ
(72)【発明者】
【氏名】アンジェロ グアイナッツィ
(72)【発明者】
【氏名】マリエル マルティネス-ロイ
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-518543(JP,A)
【文献】Neurogastroenterology & Motility,2014年,Vol.26,p.1771-1782
【文献】Journal of the Peripheral Nervous System,2017年,Vol.22, Suppl.,p.S4-S44, 特にp.S10-S11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00- 33/44
A61P 1/00- 43/00
C07D 211/00-211/98
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中枢神経系においてグレリン受容体によって媒介される病状の治療および/または予防のための、化合物3-(1-(2,3-ジクロロ-4-メトキシフェニル)エチル)-1-メチル-1-(1,3,3-トリメチルピペリジン-4-イル)ウレア一塩酸塩を含む医薬組成物
であって、前記病状が、神経変性、ニューロパチー、神経障害性疼痛、脳脊髄炎、パーキンソン病、アルツハイマー病、認知障害、迷走神経過刺激、および頻脈から選択される、医薬組成物。
【請求項2】
前記ニューロパチーが、化学療法によって誘導されるニューロパチーである、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
化学療法によって誘導される前記ニューロパチーが、プロテアソーム阻害剤またはアルキル化剤によって誘導される、請求項
2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記プロテアソーム阻害剤が、ボルテゾミブ、カルフィゾミブ、イクサゾミブ、オプロゾミブ、デランゾミブ、マリゾミブ、MG-132、ONX-0914、VR-23、セラストロール、およびエポキソマイシンから選択される、請求項
3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記アルキル化剤が、シスプラチンまたはカルボプラチンから選択される、請求項
3に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記頻脈が、化学療法によって誘導される頻脈である、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
遊離塩基として表現して0.03~10 mgの用量で投与される、請求項1~
6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
中枢神経系の外部に投与される、請求項1~
7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
経口、口腔、舌下、眼、経皮、静脈内、筋肉内、吸入、および直腸から選択された経路を通じて投与される、請求項
8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
化合物3-(1-(2,3-ジクロロ-4-メトキシフェニル)エチル)-1-メチル-1-(1,3,3-トリメチルピペリジン-4-イル)ウレア一塩酸塩。
【請求項11】
医薬として許容される1つ以上の賦形剤の存在下で化合物3-(1-(2,3-ジクロロ-4-メトキシフェニル)エチル)-1-メチル-1-(1,3,3-トリメチルピペリジン-4-イル)ウレア一塩酸塩を含む医薬組成物。
【請求項12】
前記化合物が、錠剤、ピル、トローチ、チューインガム、カプセル、マイクロカプセル、粉末、凍結乾燥物、ペレット、マイクロペレット、顆粒、マイクロ顆粒、ゲル、クリーム、軟膏、フィルム、パッチ、座薬、溶液、懸濁液、シロップ、エリキシル、およびウエハから選択された投与形態で含まれる、請求項
11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
中枢神経系においてグレリン受容体によって媒介される病状の治療および/または予防のための医薬の製造のための、化合物3-(1-(2,3-ジクロロ-4-メトキシフェニル)エチル)-1-メチル-1-(1,3,3-トリメチルピペリジン-4-イル)ウレア一塩酸塩の使用
であって、前記病状が、神経変性、ニューロパチー、神経障害性疼痛、脳脊髄炎、パーキンソン病、アルツハイマー病、認知障害、迷走神経過刺激、および頻脈から選択される、使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
グレリンは、胃腸管の中のグレリン作動性細胞によって産生される天然のペプチドホルモンであり、中枢神経系において神経ペプチドとして機能する。グレリンの生物学的標的は、1996年に初めてクローニングされたGタンパク質共役成長ホルモン分泌促進受容体(GHSR)である(1)。2つの受容体亜型1aと1bが記載されているが、前者だけがシグナル伝達を活性化することができる(2)。GHSRは神経系と多くの非神経器官で主に発現し、その場所で多彩な生理学的プロセスに関与している(2~4)。グレリンペプチドは主に食欲の調節に関与しており、エネルギーの分配と利用速度の調節でも大きな役割を果たしている。グレリンペプチドは視床下部の脳細胞に作用し、空腹の増進と、胃酸分泌および胃腸運動性の増加を両方とも実現することで、身体が食物を摂取する準備を整える。グレリンペプチドは、腹側被蓋野を側坐核(性欲、報酬、強化の処理と、嗜癖の発達においてある役割を果たす部位)に連結するドーパミンニューロンにおける報酬認識を、同時局在しているグレリン受容体を通じてと、ドーパミンおよびアセチルコリンとの相互作用を通じて調節するのにも重要な役割を演じている。臨床試験によってグレリンペプチドの治療能力がこれまで多数の疾患状態において評価されており、その疾患状態に含まれるのは、神経性無食欲症(5)、がん悪液質(6、7)、睡眠覚醒調節(8)、慢性心不全(9)、胃腸運動障害(10)である。動物では、グレリンは、ニューロンにおける細胞増殖と神経発生を促進する(11)。グレリンペプチドは、神経保護特性を持つことと、アポトーシスを阻止することも示されている(12)。グレリン受容体(GHSR)は、中枢神経系(CNS)のいくつかの異なる領域で見いだされている。グレリンペプチドを外部から投与すると、臨床前モデルにおいて、実験的な脳脊髄炎(15)、パーキンソン病(16)、アルツハイマー病(17)が改善する。それに加え、グレリンペプチドは、中枢神経系または末梢神経系が損傷した後に直接的な神経修復特性を有することが提案されている(18)。神経障害性疼痛は重要な炎症性成分を持っており、グリア細胞の活性化を持続させ、炎症促進性サイトカインの産生を増大させる。さらに、糖尿病によって誘導される神経毒性(20)、慢性絞扼性損傷によって誘導される神経毒性(21)、化学療法によって誘導される神経毒性(CIPN)(22)の齧歯類モデルほか、急性疼痛(23)モデルと関節炎(24)モデルにおいて、グレリンペプチドの治療効果が報告されている。しかしグレリンペプチドは、脳への浸透が限定されていること(25)、経口での生物学的利用能が欠けていること、半減期が齧歯類ではわずか8~24分間(26)、ヒトでは37分間(27)と短いことから、薬として臨床で利用することが制限される。実際、臨床前効果のデモンストレーションでは、多数回の全身注射または集中的髄腔内/脳室内投与を必要とすることがしばしばあるため、グレリンの連続的な輸液、または半減期がより長くて神経系への浸透が増大したアゴニストの使用が必要であることが強調されている。
【0002】
グレリン受容体の同定により、その受容体への結合親和性とグレリン様活性を有する新たな化合物を同定すること、元のペプチドを上回る可能性がある治療上の利点を探すことを目的とした研究が促進された。ここでは非ペプチド小分子が、ペプチド代謝不活性化経路を回避する可能性が大きいため特に興味深いと考えられる。しかしそれと同時に、元のペプチドでは構造の違いがより大きいため、グレリン分子とグレリン様分子の元の活性スペクトルにはおそらくバリエーションが生じる可能性がある。
【0003】
特許出願WO 2012/116176には、グレリン受容体調節特性を有する一般式(I)の不斉尿素:
【0004】
【0005】
が記載されている。この出願には、この化合物のGHSR1a受容体親和性と、マウスでの餌摂取についての生体内活性に関する実験データが含まれている。この化合物は、多数の疾患の治療に用いることが提案されており、その疾患に含まれるのは、肥満、過体重、摂食障害、代謝症候群、加齢またはエイズに起因する消耗、胃腸疾患、胃障害などである。
【0006】
特許出願WO 2015/134839には、式:
【0007】
【0008】
のグレリンモジュレータがさらに記載されている。
【0009】
この出願には、餌摂取に対しての、およびアルコール乱用マウスモデルにおけるこの化合物のGHSR1a受容体親和性と生体内活性に関する実験データが含まれている。
【0010】
多大な努力にもかかわらず、最近発見されたどの小分子アゴニストも、治療の用途ではまだ認可されていない。それらの臨床での有用性は、安全性プロファイルが十分でないこと、および/または中枢神経系への取り込みがわずかであることによって制限されることがしばしばある。グレリン受容体の大半が中枢神経系で発現しており、多くのグレリン依存性疾患が、少なくとも部分的に中枢神経系を媒介としているという事実を考えると、特にグレリンアゴニストがCNSに浸透しないことは、深刻な制約の代表的なものである。その一方で、血液-脳関門を効果的に通過できる利用可能な分子を作ることは複雑な仕事である。通過に成功するには、決定的に重要なさまざまな工程を克服する必要がある。それは特に、脳の内皮細胞による全身循環からの薬分子の取り込み;その細胞への薬の効率的な内部化;これらの細胞が、非代謝形態の薬を、薬理反応を誘導するのに十分な量でCNSコンパートメントへと放出する能力である。上記の諸機構の細かい調節/相乗作用により、活性形態の薬の流れが関門を通過してCNS標的に到達する可能性があるが、現実には、全身投与の後には、既知の薬分子のわずかな割合しか、CNSの中にかなりの量で見いだされない。これは驚くことではない。なぜなら血液-脳関門は、機能的に、CNSコンパートメントを血液中に存在する可能性がある危険な生体外物質から隔離する構造にされているからである。
【0011】
さらに、中枢レベルと末梢レベルの両方で作用する必要がある病状にとって、血液-脳関門を通過できる分子の発見それ自体は、理想的な解決法ではない。実際、その分子は、関門を隔てた両方のコンパートメントで活性形態の薬と活性な濃度の適切なバランスを達成/維持するというさらなる課題に直面するため、中枢レベルでの薬物動態的に好ましい任意の蓄積が、末梢レベルでの有用な効果と折り合うことはない。この問題は、中枢レベルと末梢レベルの両方における損傷が関与することがしばしばある神経疾患の分野で特に感じられる。さらに、血液-脳関門を通過する能力は、中枢レベルでの望ましい作用への道を開く一方で、薬が脳に過剰に蓄積する可能性があるという新たな問題を提起する。したがって脳に浸透する理想的な薬は、非常に低用量で効果的でなければならない。そうすることで、蓄積/排泄プロセスの間のバランスが保証され、かなりの量が脳に蓄積するリスクが阻止される。
【0012】
したがって、脳内のグレリン受容体に対する強い親和性を持っていて、非代謝形態でかなりの量が血液-脳関門を通過することができ、脳内で薬理学的に活性な濃度を確立することのできる小分子の合成グレリンアゴニストが、相変わらず必要とされている。この必要性は、神経の分野で特に有効であって末梢レベルと中枢レベルの両方で治療効果を示すグレリンアゴニストについてより強く感じられている。脳への望ましくない蓄積のリスクが低下したグレリンアゴニストが、より一層必要とされている。
【発明の概要】
【0013】
本出願の出願人はここに、化合物3-(1-(2,3-ジクロロ-4-メトキシフェニル)エチル)-1-メチル-1-(1,3,3-トリメチルピペリジン-4-イル)ウレア一塩酸塩が、血液-脳関門を通過する大きな能力を持ち、中枢神経系のレベルで顕著なグレリンアゴニスト活性を示すグレリンアゴニストであることを見いだした。したがってこの化合物は、中枢神経系においてグレリン受容体によって媒介される病状の治療および/または予防に有効である。特に、実験的試験から、神経毒性による損傷の治療に非常に有効であり、中枢レベルと末梢レベルの両方で神経保護効果の有用な組み合わせパターンを持つことが結論された。この化合物は、中枢を媒介とした徐脈効果も生じさせる。これはグレリン様分子ではこれまで知られていないことであるため、この分子は心拍数を減らす必要のある心血管状態の治療に特に役立つ。この分子はさらに、非線形な用量/効果比を示し、最大用量レベルではなく中間用量レベルで最大になる。そこで中程度の用量を投与して望む最大の効果に到達することが可能になるため、脳または他の身体コンパートメントへの望まない蓄積というリスクのほか、他の一般的なあらゆる毒性問題が限定される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】化合物Aを用いた処理が、体重と、餌摂取と、ラットにシスプラチンを注射することによって誘導される機械的痛覚過敏に及ぼす効果。シスプラチン(0.5 mg/kg)を1日に1回腹腔内に3日間にわたって投与した(0日目~2日目)ところ、体重と毎日の餌摂取が減り、機械的痛覚過敏が出現した。A)一元配置分散分析の後に事後テューキー多重比較検定を実施すると、体重に対するシスプラチンの有意な全体的効果が見いだされ(p<0.05)、それが、化合物Aを3 mg/kg用いた処理と、10 mg/kg用いた処理(両方ともp<0.01)と、30 mg/kg用いた処理(p<0.05)によって改善された。B)餌摂取はシスプラチンによって有意に減少し(p<0.05)、それが、化合物Aを10 mg/kg用いた処理と30 mg/kg(両方ともp<0.05)用いた処理によって改善された。C)機械的痛覚過敏がシスプラチンによって誘導され、それが、化合物Aを10 mg/kg用いた処理と、30 mg/kg用いた処理によって有意に改善された(p<0.05)が、3 mg/kgの化合物Aではそうならなかった。
【
図2】オキサリプラチンを用いて処理したラットで化合物Aが神経伝導速度(NCV)と電圧振幅に及ぼす効果。すべてのパラメータの測定を、ビヒクルまたは化合物A(10または30 mg/kg)を経口で毎日投与した後、オキサリプラチン(6 mg/kg)またはビヒクル(4日ごとに合計8回の投与)を腹腔内投与することからなる投与計画の前と完了24時間後に実施した。最後の化合物Aは、記録する1時間前に投与した。(*は、ビヒクル/オキサリプラチンと比べてp≦0.05であることを表わす;#は、ビヒクル/ビヒクルと比べてp<0.05であることを表わす)。A)とC)10 mg/kgと30 mg/kgでの化合物Aの投与は、オキサリプラチンで処理したマウスで観察された指と尾のNCVの低下を有意に阻止した。B)指の電位振幅はオキサリプラチンの投与によって低下し、化合物Aを用いた処理ではその電位振幅が正常化する傾向があったが、30 mg/kgの化合物Aの投与だけが、このデータを正常化することができた。D)尾の神経電位振幅は、オキサリプラチンを用いた処理によって有意な影響を受けなかった。
【
図3】化合物Aは、表皮内神経繊維密度(IENFD)の低下を元に戻した。IENFDは、化合物Aの最終投与から24時間後に測定した。オキサリプラチンは繊維数の有意な減少を引き起こしたが、それは、10 mg/kgまたは30 mg/kgの化合物Aを毎日用いた処理によって完全に正常化した(p<0.01)。A)10 mg/kgと30 mg/kgの両方で化合物Aを投与すると、ビヒクルで処理したマウスのIENFDへと正常化することができた。B)とC)ボルテゾミブを用いた慢性処理によってIENFDの有意な低下が誘導された。治療設定ではなく予防設定では、すべての用量の化合物Aがこの低下を有意に阻止した。
【
図4】血漿、DRG、座骨神経における化合物Aの濃度。A)とB)化合物Aを10 mg/kgと30 mg/kgの両方で1回経口投与した後、この化合物は容易に吸収されて血漿と神経組織の中に分布し、0.25~0.5時間以内にピーク濃度になった。終末半減期は血漿中では短かったが、座骨神経とDRGではそれよりも有意に長かった。この化合物は座骨神経とDRG両方への優れた組織浸透を示した。C)30日間にわたって毎日投与した後、化合物Aの濃度は血漿中では非常に低かったが、座骨神経とDRGでは上昇していた。これは、化合物Aがこれら組織に顕著に蓄積したことを示唆している。
【
図5】化合物Aの投与により、ボルテゾミブによって誘導されたアロディニアが元に戻った。
予防設定。A)処理の終了時、ボルテゾミブと全用量の化合物Aの組み合わせで処理した群はアロディニアを示さなかったが、ボルテゾミブだけで処理したマウスではそれが観察された。
治療設定。B)化合物Aの同時投与(4週間)を開始する前に、ボルテゾミブで処理した全動物でアロディニアが発生した。同時処理の開始から1週間後と処理の終了時には、ボルテゾミブだけで処理した群だけがアロディニアを持っていたのに対し、化合物Aを同時に用いて処理したすべての群が保護された。
【
図6】ボルテゾミブを用いて処理したラットで化合物Aが神経伝導速度(NCV)と電圧振幅に及ぼす効果。
予防設定。A)ボルテゾミブだけで処理した群、またはボルテゾミブを3 mg/kgおよび10 mg/kgの用量の化合物Aと組み合わせて処理した群は、CTRLと比較した場合、指のNCVが統計的に有意な減少を示したのに対し、最大用量の化合物Aを同時に用いて処理した群は、変化がなかった。B)すべての群で指の電位振幅に変化は観察されなかった。C)とD)ボルテゾミブだけで処理した群、またはボルテゾミブをあらゆる用量の化合物Aを組み合わせて処理した群はすべて、尾のNCVと電位振幅の有意な減少を示した。
治療設定。E)とF)ボルテゾミブだけで処理した動物だけが、指のNCVの有意な減少を示したのに対し、電位振幅の減少は、最大用量の化合物Aを同時に用いて処理した群でだけ観察された。G)とH)予防設定で示されたように、ボルテゾミブだけで処理した群、またはボルテゾミブをあらゆる用量の化合物Aと組み合わせて処理した群はすべて、尾のNCVと電位振幅の有意な減少を示した。
【
図7】平均心拍数 - 0.1 mg、1 mg、0.3 mg、10 mgいずれかの用量の化合物Aで治療したヒト患者での絶対値(三重に読み取った平均値からの平均)をプラセボと比較。
【
図8】平均心拍数 - 0.1 mg、1 mg、0.3 mg、10 mgいずれかの用量の化合物Aで治療したヒト患者でのベースラインからの変化(三重に読み取った平均値からの平均)をプラセボと比較。
【
図12】オスのスプラーグドーリーラットに10 mg/kgの化合物Aを静脈内に1回投与した後の血漿(ng/ml)と脳(ng/g)の中の化合物Aの平均濃度。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の対象である化合物3-(1-(2,3-ジクロロ-4-メトキシフェニル)エチル)-1-メチル-1-(1,3,3-トリメチルピペリジン-4-イル)ウレア一塩酸塩を、ここでは簡潔に「化合物A」と呼ぶ。この化合物Aは、下記の化学構造式を有する。
【0016】
【0017】
「病状」という用語は、本明細書では、疾患または乱れを意味する。「疾患」という用語は、確立された医学的症候群を意味する。「乱れ」という用語は、特定の身体部位、臓器、組織いずれかの何らかの損傷または機能障害で、完全な病的症候群を生じさせる可能性があるもの、またはないものを意味する。
【0018】
「中枢神経系においてグレリン受容体によって媒介される病状」という表現は、中枢神経系に典型的、または少なくとも部分的に典型的でグレリンを用いた治療に反応する疾患/乱れを意味する。その中に含まれるものとして、脳脊髄炎、パーキンソン病、アルツハイマー病、認知障害が挙げられる。特に、化合物Aは、ニューロパチー、および/または神経障害性疼痛、および/または神経変性に対して非常に有効である。それに加え、化合物Aは予期しない徐脈活性も示し、これは例えば、化学療法によって誘導される心疾患毒性の場合に生じて心拍数を減らす必要がある疾患(頻脈)の文脈で有用である。頻脈は、迷走神経の制御に対応するため、中枢神経系疾患のクラスの一部である。ニューロパチーの治療に用いるときのニューロパチーは、化学療法によって誘導されて中枢レベルおよび/または末梢レベルに存在するニューロパチーであることが好ましい。化学療法剤は本分野において周知であり、典型的にはアルキル化剤またはプロテアソーム阻害剤(32)だが、それらに限定されない。アルキル化剤の中では、白金錯体である例えばシスプラチン、カルボプラチンなどが挙げられる。プロテアソーム阻害剤の中では、ボルテゾミブ、カルフィゾミブ、イクサゾミブ、オプロゾミブ、デランゾミブ、マリゾミブ、MG-132、ONX-0914、VR-23、セラストロール、エポキソマイシンなどが挙げられる。
【0019】
「グレリン受容体」という用語は本分野において周知であり、「成長ホルモン分泌促進受容体」または「GHS受容体」という別名も持つ。これらの同義語はすべて同等であり、本明細書では交換可能に用いることができる。グレリン受容体という用語とその同義語は、その可能なあらゆる形態(例えばGHS1形態)のほか、そのアイソフォーム(例えばGHS1a、GHS1bなど)に拡張される。
【0020】
「治療している」と「治療」という用語は、本明細書で用いられるときには、疾患、病状、障害いずれかの治癒、改善、安定化、予防のいずれかを目的とした患者の医学的管理を意味する。この用語には、能動的治療、すなわち疾患、病状、障害いずれかの改善に特に向かう治療が含まれ、原因治療、すなわち関連する疾患、病状、障害いずれかの原因の除去に向かう治療も含まれる。それに加え、この用語には、緩和的治療、すなわち疾患、病状、障害いずれかの治癒ではなく症状の緩和のために設計された治療と;予防的治療、すなわち関連する疾患、病状、障害いずれかの進展を最少にする、または部分的か完全に抑制することに向けた治療と;支持的治療、すなわち関連する疾患、病状、障害いずれかの改善に向けた別の特別な治療を補足するのに利用される治療が含まれる。
【0021】
本発明により、中枢神経系においてグレリン受容体によって媒介される1つ以上の病状(すなわち疾患または乱れ)を治療または予防する方法として、化合物Aを、それを必要とする患者に投与することを特徴とする方法が提供される。
【0022】
本発明のさらに別の1つの目的は、中枢神経系においてグレリン受容体によって媒介される1つ以上の病状(すなわち疾患または乱れ)を治療または予防するのに用いるための化合物Aである。
【0023】
本発明のさらに別の1つの目的は、中枢神経系においてグレリン受容体によって媒介される1つ以上の病状(すなわち疾患または乱れ)を治療または予防するための薬の製造における化合物Aの使用である。
【0024】
本発明のさらに別の1つの目的は、グレリンアゴニストを必要とする患者で中枢神経系へのグレリンアゴニストの吸収を促進する方法であり、この方法は、グレリンアゴニストとしての化合物Aを治療に有効な量でその患者に投与することを特徴とする。
【0025】
本発明のさらに別の1つの目的は、グレリンアゴニストを必要とする患者の中枢神経系でグレリンアゴニストが治療活性な濃度になるのを確立することを促進する方法であり、この方法は、グレリンアゴニストとしての化合物Aを治療に有効な量でその患者に投与することを特徴とする。
【0026】
本明細書では、「医薬として許容される」という表現は、一般に安全で、非毒性で、生物学的にもそれ以外にも望ましくないことのない医薬組成物の調製に有用であることを意味し、この表現には、獣医学での使用のほか、ヒトの医薬としての使用を許容されることが含まれる。
【0027】
化合物A、すなわち3-(1-(2,3-ジクロロ-4-メトキシフェニル)エチル)-1-メチル-1-(1,3,3-トリメチル-ピペリジン-4-イル)ウレア一塩酸塩は新規な化合物だが、対応する遊離塩基は特許出願WO 2012/116176に記載されていた。したがって本発明には、化合物Aそのものと、医学におけるその使用と、それを含む医薬組成物が含まれる。本発明にはさらに、化合物Aを製造する方法として、実験の部に示されているように、その遊離塩基を塩酸と反応させることを特徴とする方法が含まれる。
【0028】
実験の部にさらに詳しく示されているように、化合物Aは、興味深い純度、安定性、溶解プロファイルを有するため、異なる製造条件下で純度と効力の顕著な低下なしに多彩な医薬形態の製剤にするのに特に適している。したがって本発明は、結晶形態の化合物A、特に
図9に示したXRDPピークのパターンを有する具体的な結晶形態の化合物Aに拡張される。化合物Aは、これらの特性のおかげもあって、選択された医学的治療法の必要性に応じて任意の医薬形態に自由に製剤化することができる。全身投与に適した形態が好ましい。化合物Aは、例えば錠剤、ピル、カプセル、マイクロカプセル、顆粒、マイクロ顆粒、ペレット、マイクロペレット、粉末、凍結乾燥粉末、溶液、懸濁液、乳液、ゲル、クリーム、経皮送達システムなどの製剤にすることができる。
【0029】
化合物Aは、遊離塩基の重量をベースとして約0.03 mg~約10 mg、好ましくは約0.1 mg~約2 mgの範囲の量で投与することが好ましい。これらの用量は、平均的な成人患者にとっての1日の用量を意味する。用量は、疾患の重症度、具体的な患者の状態、選択した具体的な投与経路などに合うように変えること、および/または適応させることができる。
【0030】
化合物Aの投与経路は全身経路である。化合物Aは、中枢神経系を標的にするとき、血液-脳関門を通過する能力のおかげで中枢神経系または脳に直接注入する必要がない。実際、薬は、従来の1つの全身循環経路(例えば経口、口蓋、吸入、直腸など)を通じて全体循環に到達すれば十分である。化合物Aは、血流中を循環するようになると、中枢神経系の内皮細胞によって取り込まれ、そこから活性形態になって中枢神経系へと放出される。したがって中枢神経系においてグレリン受容体によって媒介される疾患の治療が、中枢神経系に直接アクセスする侵襲的な投与経路(例えば髄腔内、脊髄内など)に頼ることなしに可能である。有利なことに本発明では中枢神経系に直接通じる侵襲的な投与経路を回避できるため、本発明で考慮する投与方法は、「中枢神経系にとって末梢である」または「中枢神経系にとって外部である」と特徴づけることもできる。
【0031】
本発明の化合物Aを使用するさまざまな医薬組成物を開発することができる。組成物は、適切な任意の経路(例えば経口、非経口、静脈内)によって液体形態または固体形態で投与するのに適したものにすることができる。好ましい投与経路は、注射および/または経口である。これら組成物は、一般に、不活性な希釈剤または食用可能な基剤を含むことになろう。これら組成物は、ゼラチン製カプセル(経口用)の中に封入すること、または圧縮して錠剤(経口または口腔内の使用)にすること、またはトローチ(口腔内用)にすることができる。これらの目的のため、活性化合物を賦形剤とともに組み込み、錠剤、トローチ、カプセルいずれかの形態で使用することができる。医薬に適合した結合剤および/またはアジュバント材料を組成物の一部として含めることができる。
【0032】
錠剤、ピル、カプセル、トローチなどは、下記の成分の任意のもの、またはそれと似た性質の化合物、すなわち結合剤(微結晶セルロース、トラガカントゴム、ゼラチンなど);賦形剤(デンプン、ラクトースなど)、崩壊剤(アルギン酸、Primogel、コーンスターチなど);潤滑剤(ステアリン酸マグネシウムなど);流動剤(コロイド状二酸化ケイ素など);甘味剤(スクロース、サッカリンなど);香味剤(ペパーミント、サリチル酸メチル、オレンジフレーバーなど)を含むことができる。単位剤形がカプセルであるときには、上記のタイプの材料に加えて液体基剤(脂肪酸油など)を含むことができる。それに加え、単位剤形は、単位剤形の物理的形状を変える他のさまざまな材料(例えば糖コーティング、シェラック、他の腸溶性コーティング剤)を含むことができる。
【0033】
化合物は、エリキシル、懸濁液、シロップ、ウエハ、経口で崩壊するフィルム、経口で崩壊する錠剤、チューインガムいずれかの1つの成分として投与することができる。シロップは、活性化合物に加え、甘味剤としてのスクロースと、いくつかの保存剤、染料、着色剤、香味剤を含むことができる。
【0034】
注射に用いる溶液または懸濁液は、以下の成分、すなわち無菌希釈剤(注射用の水、生理食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、他の合成溶媒など);抗菌剤(ベンジルアルコール、メチルパラベンなど);抗酸化剤(アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウムなど);キレート化剤(エチレンジアミン四酢酸など);バッファ(酢酸塩、クエン酸塩、リン酸塩、等張性を調節するための薬剤(例えば塩化ナトリウム、マンニトール、デキストロース)など)を含むことができる。注射可能な調整物は、ガラスまたはプラスチックでできたアンプル、使い捨て注射器、多数回バイアルの中に封入することができる。
【0035】
次に、本発明を以下の非限定的な実施例を参照して記載する。
【実施例】
【0036】
実験
【0037】
実施例1
3-(1-(2,3-ジクロロ-4-メトキシフェニル)エチル)-1-メチル-1-(1,3,3-トリメチルピペリジン-4-イル)ウレア一塩酸塩(化合物A)の合成と特徴づけ
【0038】
WO 2012/116176に記載されている合成手続きによって以前に得られた1.63 kgの3-(1-(2,3-ジクロロ-4-メトキシフェニル)エチル)-1-メチル-1-(1,3,3-トリメチルピペリジン-4-イル)ウレアの乾燥製品を11.2 kgのアセトンに22℃±3℃で溶かした。この溶液を仕上げ濾過として1ミクロンのフィルタバッグで濾過し、フィルタをアセトン(1.6 kg)で洗浄した。4 Mの塩酸(1.2 kg)を含む水を濾過した溶液に添加し、内部温度を22℃±3℃に維持した。得られた懸濁液を22℃±3℃で少なくとも2時間撹拌した。次いで生成物を遠心分離によって単離し、アセトン(1.6 kg)で洗浄した。湿潤な生成物が1.5 kg得られた。それを真空下で60℃±5℃にて少なくとも18時間乾燥させると、3-(1-(2,3-ジクロロ-4-メトキシフェニル)エチル)-1-メチル-1-(1,3,3-トリメチルピペリジン-4-イル)ウレア一塩酸塩(化合物A)が灰白色の結晶状粉末として1.4 kg得られた。純度(HPLC)少なくとも98%。
【0039】
化合物AのXRPD、
1H-NMR、
13C-NMRによる特徴づけを
図9~
図11に示す。
【0040】
実施例2
水溶性試験
【0041】
化合物Aは、水への溶解度が室温で約33 mg/mlであった。参照基準として、対応するフマル酸塩は、溶解度がわずか10 mg/mlであり、対応する遊離塩基は、それよりもはるかに小さな2 mg/mlという溶解度を示した。
【0042】
実施例3
安定性試験
【0043】
化合物Aの安定性をHPLC分析によって追跡した。下記の表には、実験室スケールで湿潤状態にて保管している間に回収したデータと、乾燥させている間に回収したデータが示されている。それに加え、安定性の研究を乾燥材料の工業用バッチで3年間にわたって実施した。
【0044】
【0045】
結果によれば、湿潤な粉末を2~8℃で4週間超にわたって保管している間に化合物Aの分解はまったく観察されなかった。同様に、冷蔵庫の中に36日間入れておいた後に室温で24日間保管したサンプルは、HPLCにおいて分解をまったく示さなかった。
【0046】
【0047】
結果によれば、25℃/60%R.H.において乾燥生成物を3年間にわたって保管しても化合物Aの分解はまったく観察されなかった。
【0048】
【0049】
結果によれば、材料は、60℃で74時間にわたって乾燥させている間を通じて安定であることが観察された。
【0050】
実施例4
化合物Aのグレリンアゴニスト活性の評価
【0051】
ヒトGHSR1a受容体を安定に発現するHEK293細胞をFLIPRアッセイで使用した。細胞を標準的な手続きのもとで維持した。試験の1日前、細胞を、30μlの完全DMEM培地を含んでいてMatrigel(登録商標)で被覆した384ウエルのプレートの中に1.5×104/ウエルの密度で播種した後、5%CO2の中で37℃にて22~26時間インキュベートした。試験日に4×ローディングダイを各ウエルに添加した(384ウエルのプレートのウエルごとに10μl)。アッセイ用プレートを暗所で37℃にて30分間インキュベートした。その後、含まれている染料を、300 rpmで30秒間遠心分離することによって取り出した。1 mMのプロベニシドを含む40μlのHBSS/HepesをPlatemate Matrix(低速設定、Thermo社)に添加した。次いでプレートをFLIPR Tetra(Molecular Device社)の中に配置し、5×作業濃度のアゴニストをFLIPRによって添加した。蛍光信号を標準的な設定に従い室温でFLIPRを用いて検出した。
【0052】
化合物Aは、FLIPRアッセイにおいて強いアゴニスト活性を示し、EC50は1.25×0.42 nMであった。
【0053】
追加の結合研究において、化合物AをDMSOに溶かし、水で希釈してさまざまな範囲の濃度にした。ヒトGHSR1受容体を安定に発現するBHK細胞から調製した膜タンパク質を結合アッセイで用いた。この膜をアッセイ用バッファの中で希釈し、1つのウエル当たり120μlの中に20μgが含まれるようにした。結合アッセイは、96ウエルのプレートの中に以下のように設定した。すなわち、アッセイ用バッファの中に120μlの[125I]グレリン(最終濃度1 nM)と15μlの化合物A(10×)を希釈した。この反応混合物を室温で30分間インキュベートした後、セル・ハーベスター(Perkin Elmer社)を用い、0.3%PEIの中にあらかじめ浸したGF/B濾過プレートの上で素早く濾過することによって反応を停止させた。フィルタを3回洗浄し、37℃で一晩乾燥させた。フィルタ膜に結合した放射能をMicroBeta Trilux(Perkin Elmer社)で測定した。化合物Aは、[125I]グレリン結合アッセイにおいてGHSR1 A受容体に対する強い親和性を示し、Ki値は1.42×0.35 nMであった。
【0054】
実施例5
化合物Aの薬物動態の研究と脳への浸透の評価
【0055】
10 mg/kgの化合物Aは、スプラーグドーリーラットに1回静脈内投与した後、全身循環から迅速に外れて組織と臓器に分布した。血漿と脳の中の化合物Aの生体分析をLC-MS-MS法によって実施し、薬物動態分析を標準的なノンコンパートメントアプローチによって実施した。この試験では、化合物Aの濃度は、10 mg/kgを投与してから1時間後、2時間後、8時間後に脳の中で測定すると、血漿中の濃度よりも1.5倍~1.9倍大きいことが見いだされ、両方の曲線は、対応する血漿での曲線と平行して下がっていった。化合物A をオスのスプラーグドーリーラットに10 mg/kgで1回静脈内投与した後の血漿中の平均濃度(ng/ml)と脳内の平均濃度(ng/g)が
図12に報告されている。興味深いことに、脳の中でより大きな化合物Aの濃度は、血漿中の濃度と平行して下がっていった。これは、この化合物が、脳への親和性のほうが大きくて有用であるのにその中には蓄積せず、したがって局所的な脳毒性のリスクが回避されることを示している。
【0056】
詳細には、化合物A は、3 mg/kg、10 mg/kg、30 mg/kgの用量で1回経口投与した後、生物学的利用能が高く、80%を超えていた。1回の静脈内投与と経口投与を両方実施した後、化合物Aへの曝露が、試験した用量の範囲で用量とともに増加した。化合物Aを経口投与または静脈内投与されたラットから得られた薬物動態データのまとめを以下に報告する。
【0057】
【0058】
さらなる研究において、化合物Aの薬物動態を、以前に特許出願WO 2012/116176に記載されている2つの参照化合物の薬物動態と比較した。得られたデータは以下の通りである。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
上記のデータは、試験した参照化合物が、静脈内投与の2時間後に脳の中で治療にとって意味のある濃度に到達しなかったことを示している。それとは逆に、化合物Aは2倍~3倍大きな濃度に達した(172 ng/g)。特に興味深いのは、投与された用量が、血流中に残っている部分と比べてどれくらい選択的に血液-脳関門に向けられて脳の中に蓄積するかの指標を与える脳/血液比である。上記の2つの参照化合物だけが、0.1と0.3という脳/血液比を示した。これは、脳への浸透が少なく、投与された用量が血流の中にかなり多く残っていることを示す。逆に、化合物Aは、1.4という脳/血液比を示した。これは、脳コンパートメントへの化合物Aの親和性がはるかに強いため、全身投与のちょうど2時間後に、投与された用量のかなりの部分が脳の中に見いだされることを示している。脳への取り込みはそれでも完全ではないため、薬は、末梢レベルで部分的に有用な活性を示すことが可能である。これは、CNSのレベルでの損傷に加えて末梢神経変性も関与していて、そのレベルでの修復作用を必要とする神経疾患の場合に特に有用である。理論に囚われることは望まないが、化合物Aが脳に多く浸透しているというのは、この化合物が、さまざまな分子が血液関門を通過することを阻止する排出ポンプシステムであるP-gp基質とは異なる能力を持つことに起因する可能性があるように見える。
【0063】
さらなる薬物動態データを下記の表に提示する。
【0064】
【0065】
【0066】
実施例6
生体内動物神経毒性モデルに対する化合物Aの効果
【0067】
薬と製剤
【0068】
化合物Aを0.5%カルボキシメチルセルロース溶液の中の懸濁液にしてラットとマウスでの投与体積をそれぞれ1 ml/kgと10 ml/kgとし、経口で3 mg/kg、10 mg/kg、30 mg/kgを投与した。シスプラチンは、生理食塩水の中に入れて0.5 mg/kgを腹腔内に投与した(i.p.、1 ml/kg)。オキサリプラチンは5%デキストロース溶液の製剤にし、腹腔内に0.6 mg/mlの濃度で注射した(10 ml/kg)。ボルテゾミブは、10%Tween 80+10%EtOH 100%+80%生理食塩水溶液の中に調製し、静脈内に0.2 mg/kgを注射した(1 ml/kg)。すべての投与溶液をそれぞれの投与日に新たに作製した。
【0069】
シスプラチンの研究
【0070】
実験開始時に体重が250~300 gの50匹のオスのウィスターラットをランダムに10匹ずつの5つの群に分けた。群1には毎日、化合物Aビヒクル(経口)を6日間、シスプラチンビヒクル(腹腔内)を3日間にわたって与えた。群2には、化合物Aビヒクル(経口)と0.5 mg/kgのシスプラチン(腹腔内)を3日間与えた後、化合物Aビヒクルをさらに3日間与えた。群3には毎日、3 mg/kgの化合物A(経口)と0.5 mg/kgのシスプラチン(腹腔内)を3日間与えた後、3 mg/kgの化合物Aをさらに3日間与えた。群4には、10 mg/kgの化合物A(経口)と0.5 mg/kgのシスプラチン(腹腔内)を3日間与えた後、10 mg/kgの化合物Aをさらに3日間与えた。群5には毎日、30 mg/kgの化合物A(経口)と0.5 mg/kgのシスプラチン(腹腔内)を3日間与えた後、30 mg/kgの化合物Aをさらに3日間与えた。それぞれの場合に、シスプラチンまたはシスプラチンビヒクルは、化合物Aまたは化合物Aビヒクルの30分後に投与し、化合物Aまたは化合物Aビヒクルは、フォン・フレイ・フィラメント試験の1時間前に投与した。個々の体重と24時間の餌摂取を、投与を開始する直前から毎日測定した。
【0071】
オキサリプラチンの研究
【0072】
実験開始時に体重が20~25 gの60匹のメスのBalb/Cマウスを使用し、それぞれ15匹ずつの4つの群に分けた。群1には、化合物Aビヒクル(経口)を毎日与え、その60~90分後にオキサリプラチンビヒクル(腹腔内)を週に2回、4週間にわたって与えた。群2には、化合物Aビヒクル(経口)を毎日与え、その60~90分後に6 mg/kgのオキサリプラチン(腹腔内)を週に2回、4週間にわたって与えた。群3には、10 mg/kgの化合物A(経口)を毎日与え、その60~90分後に6 mg/kgのオキサリプラチン(腹腔内)を週に2回、4週間にわたって与えた。群4には、30 mg/kgの化合物A(経口)を毎日与え、その60~90分後に6 mg/kgのオキサリプラチン(腹腔内)を週に2回、4週間にわたって与えた。投与を開始する直前に体重を毎日測定した。神経伝導速度(NCV)と電圧振幅の測定は、最後にオキサリプラチン(またはビヒクル)を投与してから24時間後と、最後に化合物A(またはビヒクル)を投与してから1時間後に実施し、その後、血液サンプルと組織サンプル(DRG、座骨神経[SN]、肉趾)を回収して薬物動態とIENFDを評価した。
【0073】
ボルテゾミブの研究
【0074】
予防パラダイム:実験開始時に体重が200~225 gの56匹のメスのウィスターラットをランダムに5つの実験群に分けた。群1は処理せずに放置し(CTRL、n=10)、群2では、0.2 mg/kgのボルテゾミブを週に3回静脈内注射する処理を8週間にわたって実施し(BTZ、n=10)、群3では、3 mg/kgの化合物Aを毎日経口投与してから90分後に0.2 mg/kgのボルテゾミブを週に3回静脈内注射する処理を8週間にわたって行なう同時処理を実施し(BTZ+化合物A 3、n=12)、群4では、10 mg/kgの化合物Aを毎日経口投与してから90分後に0.2 mg/kgのボルテゾミブを週に3回静脈内注射する処理を8週間にわたって行なう同時処理を実施し(BTZ+化合物A 10、n=12)、群5では、30 mg/kgの化合物Aを毎日経口投与してから90分後に0.2 mg/kgのボルテゾミブを週に3回静脈内注射する処理を8週間にわたって行なう同時処理を実施した(BTZ+化合物A 30、n=12)。ベースラインと、処理の8週間後に、尾と指の神経伝導および電位振幅の研究と、行動試験(動的)と、プロテアソーム抑制を研究するための血液回収を実施した。処理の8週間後、組織サンプル(座骨神経と尾神経、DRG、肉趾)を回収して分析し、形態学的パラメータと表皮内神経繊維密度(IENFD)を調べた。
【0075】
治療パラダイム:実験開始時に体重が200~225 gの56匹のメスのウィスターラットをランダムに5つの実験群に分けた。群1は処理せずに放置し(CTRL、n=10)、群2では、0.2 mg/kgのボルテゾミブを週に3回静脈内注射する処理を8週間にわたって実施し(BTZ、n=10)、群3では、0.2 mg/kgのボルテゾミブを週に3回静脈内注射する処理を4週間にわたって実施した後、3 mg/kgの化合物Aを毎日経口投与してから90分後に0.2 mg/kgのボルテゾミブを週に3回静脈内注射する処理を4週間にわたって行なう同時処理を実施し(BTZ+化合物A 3、n=12)、群4では、0.2 mg/kgのボルテゾミブを週に3回静脈内注射する処理を4週間にわたって実施した後、10 mg/kgの化合物Aを毎日経口投与してから90分後に0.2 mg/kgのボルテゾミブを週に3回静脈内注射する処理を4週間にわたって行なう同時処理を実施し(BTZ+化合物A 10、n=12)、群5では、0.2 mg/kgのボルテゾミブを週に3回静脈内注射する処理を4週間にわたって実施した後、30 mg/kgの化合物Aを毎日経口投与してから90分後に0.2 mg/kgのボルテゾミブを週に3回静脈内注射する処理を4週間にわたって行なう同時処理を実施した(BTZ+化合物A 30、n=12)。ベースラインと、処理の8週間後に、尾と指の神経伝導および電位振幅の研究と、プロテアソーム抑制を研究するための血液回収を実施した。行動試験(動的)は、ボルテゾミブ処理の4週間後と5週間後に実施した。処理の8週間後、座骨神経、尾神経、DRG、肉趾をすべてのラットから回収して分析し、形態学的パラメータとIENFDを調べた。
【0076】
評価
【0077】
フォン・フレイ試験
【0078】
シスプラチンの研究では、実験を開始する前の数日間、ラットを個別に収容し、取り扱いとフォン・フレイ試験装置に慣れさせた。ベースライン測定値は投与前に取得した。行動試験は、以前に記載されている手続きに従って実施した(28)。各フィラメントを5回試験し、特定のフィラメントに対して逃避反応が3回記録されるまで試験を続けた。
【0079】
動的触覚試験
【0080】
ボルテゾミブの研究では、Dynamic Aesthesiometer Test(モデル37450、Ugo Basile Biological Instruments社、コメリオ、イタリア国)を用いて機械的侵害受容閾値を評価した。機械的閾値は、3つの機会にそれぞれの側で2分ごとに交互に評価し、平均値を求めた。結果は、動物が忍容できる最大圧力で表わした。
【0081】
神経伝導研究(NCS)
【0082】
尾と指の神経におけるNCVと電圧振幅の測定値は、以前にマウス(29)とラット(30)で記載されているようにして求めた。ベースラインNCS測定は、薬を投与する前に実施した。次に動物を、平均NCS値が似た研究処理群の1つにランダムに割り当てた。NCS測定を、抗悪性腫瘍薬の投与が完了してから24時間後と、最後に化合物Aを投与してから1時間後に再び実施した。すべての記録セッションの間、動物は2%イソフルランで麻酔し、暖かい加熱パッドの上にうつぶせの体勢で載せ、直腸温をモニタして37.0℃~41.0℃に維持した。電圧を上昇させながら、最大応答に到達するまで、各神経セグメントを少なくとも3回、最大で6回まで刺激した。刺激開始からの潜時と、ベースラインからの電位振幅を記録した。
【0083】
DRGと座骨神経の形態
【0084】
オキサリプラチン実験とボルテゾミブ実験の終了時に動物を深い麻酔下で安楽死させた。SNセグメントと、L5とL6のDRGを1つの群につき5匹の動物から切除して包埋し、以前に記載されているようにして分析した(31)。
【0085】
IENFD分析
【0086】
以前に記載されているようにして回収して処理した試料でIENFD分析を実施した(31)。4つの切片を各生検のために処理した。表皮内のミエリン化されていない軸索を盲検方式でカウントし、真皮/表皮接合部を横断する皮膚繊維1 mm当たりの繊維密度を以前に記載されているようにして求めた。
【0087】
統計分析
【0088】
すべての統計分析について、データは、Prism Graphpadソフトウエアのバージョン4.03(GraphPad Inc社、ラ・ジョラ、カリフォルニア州)を用い、一元配置または二元配置の分散分析の後にテューキーまたはダネットの事後比較を利用して分析し、群応答の平均を比較した。有意差ありをp<0.05と定義した。
【0089】
結果
【0090】
シスプラチンの研究
【0091】
餌摂取と体重の変化
【0092】
シスプラチンで処理することにより、ビヒクルで処理したラットと比べて毎日の餌摂取と体重の有意な減少が誘導された(p<0.05、
図1A、
図1B)。3 mg/kg、10 mg/kg、30 mg/kgの化合物Aを用いた処理により、シスプラチンだけの場合と比べて餌摂取と体重が全体的に増加した(p<0.05)。
【0093】
アロディニア
【0094】
シスプラチンで処理すると、ビヒクルで処理したラットと比べて後肢逃避閾値が低下した(p<0.01)。これは、機械的過敏が出現したことを示している。10 mg/kgと30 mg/kgの化合物Aを用いた前処理によってこの痛覚過敏が有意に減少した。30 mg/kgの化合物Aを用いた処理では、ビヒクルで処理したラットと比べて実際に後肢逃避閾値が3日目~5日目に全体的に有意に上昇した(p<0.05)(
図1C)。3 mg/kgの化合物Aは、シスプラチンによって誘導される痛覚過敏に有意な影響を及ぼさなかった。
【0095】
オキサリプラチンの研究
【0096】
体重変化
【0097】
オキサリプラチンで処理したマウスは、ビヒクルで処理したマウスと比べて10日目から研究終了まで体重が有意に低下した(p<0.01)。オキサリプラチンと10 mg/kgまたは30 mg/kgの化合物を同時に用いて処理したマウスは、オキサリプラチンで処理したマウスよりも体重の減少が少なかった(p<0.01)。この効果は、複数の試験日で統計的に有意になり(p<0.05)、10 mg/kgの化合物Aが最もロバストな効果を持っていた(データは示さず)。
【0098】
神経伝導研究
【0099】
オキサリプラチンを投与することにより、ビヒクルで処理したマウスと比べて指と尾のNCVの有意な低下が引き起こされた(それぞれ10.6±1.6%と8±1.1%の低下、p<0.01)。これら両方の低下は、化合物Aを同時に用いて処理すると、10 mg/kgと30 mg/kgの両方で有意に阻止された(
図2A、
図2C)。指の電位振幅もオキサリプラチンによって減少した(13.5±6.4%)が、変動性のために効果は統計的に有意にならなかった。化合物Aを用いた処理は、電位振幅の減少を正常化する傾向を持っており、30 mg/kgでは指の電位振幅が、オキサリプラチンで処理したマウスと比べて有意に改善された(33±9%;p<0.01;
図2B)。尾神経の電圧振幅は、オキサリプラチンを用いた処理によって有意な影響を受けなかった(
図2D)。
【0100】
病態の検査
【0101】
オキサリプラチンで処理したマウスからのDRGの神経細胞体または衛星細胞の中、または座骨神経の中では退行性変化は観察されず、化合物Aを用いた処理そのものは、いかなる退行性変化も引き起こさなかった(データは示さず)。
【0102】
肉趾では、オキサリプラチンを用いた処理によってIENFDが有意に低下した(ビヒクルで処理したマウスと比べて-31.7±3.5%、p<0.01)。化合物Aを同時に用いて処理すると、10 mg/kgと30 mg/kgの両方で、IENFDは、ビヒクルで処理したマウスの値へと完全に正常化した(p<0.01;
図3A)。
【0103】
急性投与と慢性投与の後の化合物Aの薬物動態
【0104】
化合物Aは非常に多くが用量に依存して座骨神経とDRGに曝露されることが実証された。化合物Aは、10 mg/kgと30 mg/kgで1回経口投与された後、容易に吸収されて血漿と神経組織の中に分布し、投与してから0.25~0.5時間以内にピーク濃度になった。血漿中の化合物Aの終末半減期は短い(約1時間)が、座骨神経の中ではそれよりも有意に長い(約4.7時間)。無限まで外挿した濃度-時間曲線の下の面積(AUC
0-∞)は血漿中で最小であり、座骨神経とDRGの中ではほぼ3~4倍大きく、投与された用量と相関していた。これは、末梢神経系への化合物Aの浸透が増大したことを示唆している(表1、
図4A~
図4B)。30日間にわたって毎日投与した後、化合物Aの組織浸透指数(組織/血漿の比)はさらに増大し、SNでは約9~12倍に、DRGでは18~19倍になった。これは、これら組織に化合物Aが顕著に蓄積していることを示唆する(表1と
図4C)。
【0105】
ボルテゾミブの研究
【0106】
体重変化
【0107】
予防研究において、最初の数週間と21日目まで、ボルテゾミブとさまざまな用量の化合物Aを同時に用いて処理した動物は、いくつかの時点で、CTRL群およびボルテゾミブ群と比べて体重の有意な増加を示した。しかしこの差は、処理の終了時には有意でなかった(データは示さず)。
【0108】
治療設定では、ボルテゾミブと化合物Aを同時に用いて10日間処理した後、動物は、CTRL群およびボルテゾミブ群と比べて体重の有意な増加を示した。処理の終了時、BTZ+化合物A 30で処理した動物だけが、CTRL群およびボルテゾミブ群と比べて体重の有意な増加を示した(p<0.01、データは示さず)。
【0109】
機械的閾値
【0110】
ボルテゾミブの両方の研究では、機械的閾値は、抗がん剤の投与によって低下した。予防設定における処理終了時に、ボルテゾミブに化合物Aを組み合わせて処理した群は、CTRLと比べてアロディニアを示さなかったが、ボルテゾミブ群ではそれが観察された(p<0.001、
図5A)
【0111】
治療設定(
図5B)では、4週間後、ボルテゾミブで処理したすべての群がアロディニアを示し、逃避までの潜時がCTRLと比べて短くなった(CTRLと比べてp<0.001)。5週間後(すなわちBTZ+化合物A同時処理の1週間後)と処理の終了時には、ボルテゾミブで処理した群だけが、CTRLと比べてアロディニアを持っていたが、化合物Aを同時に用いて処理した群はすべて保護された(p<0.001)。
【0112】
神経伝導研究
【0113】
指のNCVでは、予防設定においてボルテゾミブだけで処理した群、またはボルテゾミブを3 mg/kgと10 mg/kgの化合物Aと組み合わせて処理した群が、統計的に有意な低下を示した(CTRLと比べてp<0.01)が、BTZ+化合物A 30 mg/kgを同時に用いて処理した群は、CTRLと比べて変化がなかった(
図6A)。指の電位振幅では、処理の終了時には、すべての群でCTRLと比べて変化が観察されなかった(
図6B)。
【0114】
予防設定において、ボルテゾミブだけで処理した群、またはボルテゾミブをあらゆる用量の化合物Aと組み合わせて処理した群はすべて、統計的に有意な低下を、尾のNCV(p<0.05)のほか、尾の電位振幅で示した(CTRLと比べてp<0.01、
図6C、
図6D)。
【0115】
治療設定において、指の神経のNCVは、ボルテゾミブだけで処理した動物だけが統計的に有意な低下を示した(CTRLと比べてp<0.05、
図6E)が、電位振幅の低下は、最大用量の化合物Aを同時に用いて処理した群で観察された(CTRLと比べてp<0.05、
図6F)。ボルテゾミブだけで処理した群、またはボルテゾミブをあらゆる用量の化合物Aと組み合わせて処理した群はすべて、尾のNCVと電位振幅の統計的に有意な低下を示した(CTRLと比べてp<0.001、
図6G、
図6H)。
【0116】
病態検査
【0117】
ボルテゾミブで処理したマウスは、時にDRG感覚ニューロンの変性と、衛星細胞の細胞質の空胞形成を示した。予防設定で化合物Aを同時に投与すると、これらの変化からの不完全な保護が生じた。座骨神経では、ボルテゾミブで処理したすべての群で軽い軸索変化が明白であり、化合物Aを異なる用量で同時に投与してもこれらの変化は変わらなかった。
【0118】
尾の神経では、ボルテゾミブで処理した動物だけが、繊維密度を低下させ、軸索細胞とシュワン細胞の変性を減少させ、ボルテゾミブとさまざまな用量の化合物Aを同時に用いて処理した動物は、これらの病的変化に関して軽度で用量に依存しない減少を示した。
【0119】
これらの保護効果は、治療設定で化合物Aを送達したときには存在していなかった。
【0120】
ボルテゾミブを用いた慢性処理により、CTRLと比べてIENFDの統計的に有意な低下が誘導された(p<0.001)。すべての用量の化合物Aが、ボルテゾミブによって誘導されるIENFDの低下を予防設定では有意に阻止した(
図3B)が、治療設定ではそうならなかった(
図3C)ものの、抑制傾向が観察された。
【0121】
プロテアソーム抑制の研究
【0122】
ボルテゾミブを用いた慢性処理によってプロテアソーム活性の統計的に有意な抑制が誘導された。予防設定でも治療設定でも、さまざまな用量の化合物Aを同時に投与することでボルテゾミブによって誘導されるプロテアソームの抑制が少なくなることはなかった(データは示さず)。
【0123】
多数の神経毒性モデルにおける評価結果のまとめを下記の表に提示する。
【0124】
【0125】
考察
【0126】
よく受け入れられている急性と慢性の臨床前CIPNモデルを利用して化合物Aを投与する効果を試験した。さらに、ボルテゾミブモデルでは、薬の作用が抗がん機構に干渉しないこともわれわれは検証した。これらの動物モデルは、神経保護効果があると推定される処理の有効性を調べるのに広く用いられてきたため、われわれの研究で用いる合理的な理由を提供する。
【0127】
試験したすべての状態で、機械的アロディニアの減少が常に観察された。これらの結果は、ボルテゾミブモデルにおいて特に重要である。というのもこれは、最も痛みが大きくて用量を制限することになるCIPNを誘導する抗悪性腫瘍薬だからである。われわれの研究で観察された抗侵害受容効果は、シスプラチンの研究の結果によって実証されたように非常に速い。化合物Aは脳によく浸透するため、この効果は中枢を媒介としている可能性がある。
【0128】
しかし長期投与を利用して得られた結果は、化合物Aもいくらかの末梢栄養効果を有することを示唆している。というのも化合物Aは、オキサリプラチンモデルとボルテゾミブモデルの両方で薬によって誘導されるIEFNDの低下からの有意な保護を提供するからである。注目すべきことに、治療設定では、アロディニアの減少が相変わらず有意であったが、IENFDに対するいかなる効果も伴っていなかったため、中枢鎮静効果が末梢神経保護とは関係せず、末梢神経保護は、化合物Aを用いた処理を小さな繊維が枯渇する前に開始する場合にだけ起こる可能性があるという仮説がさらに支持される。
【0129】
この効果以外に、神経系感覚ニューロンの末梢枝のミエリン化された繊維に対して化合物Aがさらに活性を持つことは、化合物Aが、オキサリプラチンとボルテゾミブ(寄与する程度はより少ない)の慢性的多数回投与によって誘導される神経生理学的欠乏の幾分かを減らすという実証結果によって支持される。実際、末梢神経で直接測定されて、ミエリン化された大きな繊維の活性を主に反映しているこの神経生理学的に明白な効果は、中枢イベントに帰することはできず、むしろ対応する数の末梢軸索において保持されていることが原因である可能性が大きい。
【0130】
10 mg/kgの化合物Aに対する釣り鐘型の用量-応答曲線の存在も観察された。
【0131】
化合物AがCNSに浸透する顕著な能力は、化合物Aの末梢神経栄養活性、化合物Aの薬特異的でない活性、がん悪液質の治療への化合物Aの利用可能性と組み合わさって、化合物Aを、神経毒性を誘導する化学療法を受けているがん患者における独自の神経保護剤にすると推定される。
【0132】
実施例7
ヒトボランティアでの化合物Aの心血管効果(第1相試験)
【0133】
この研究は、漸増する経口用量の化合物Aを1回与えられる健康な男性対象で、単一機関無作為化二重盲検プラセボ対照第1相試験として実施された。ヒトでの最初の1回投与研究でこの新規な化合物の安全性と忍容性を調べるには、用量増加設計が適切であると考えた。1日目に、各コホートの中で6人の対象に1回経口用量の化合物Aを与え、2人の対象にプラセボを与えた。
コホート1:10 mgの化合物A
コホート2:0.1 mgの化合物A
コホート3:0.3 mgの化合物A
コホート4:1.0 mgの化合物A
【0134】
各対象には、1回経口用量の化合物Aまたはプラセボがランダムに与えられた。研究薬の投与は、1日目の朝に実施された。研究薬が適切に投与されたことは、研究者または代理人によって監督された。それには、口腔と頬側口腔のチェックが含まれていた。研究薬またはプラセボは、粉末を含有するゼラチンカプセルとして供給され、240 mlの水とともに経口投与された。対象には絶食状態で投与された(投与前の少なくとも8時間は食物の摂取なし)。食物へのアクセスは、投与の4時間後まで制限された。
【0135】
12リードのECGを、-1日目と、1日目の投与前から薬投与の72時間後まで記録した。それに加え、ホルター-ECGを、計画された投与の少なくとも約12時間前から、投与の24時間後まで記録した。紙のECGを取るのと同じ時点で抽出物を(1分間隔で)三重に採取した。バイタルサイン(血圧、心拍数、体温[耳で測定])を-1日目に測定し、次いで1日目の投与前から薬投与の72時間後まで記録した。ECGシステム(Cardiosoft(登録商標)、Marquette Hellige社)を利用して、12リードのECGを、研究フローチャートのスケジュールに従って記録した。投与してから36時間後、48時間後、72時間後にECGを三重に記録した。ECGは、(十分な時間が取れるように)ホルター-ECGからECGを取り出す時点で、少なくとも5分間の休息後、または少なくとも15分間の休息後に仰向けの姿勢で記録した。ECGは、紙の速度を50 mm/秒、振幅を10 mm/mVにし、すべてのリードについて少なくとも3つの複合体で記録期間を10秒間にしてプロットしたが、各リードにつき5つの複合体が好ましい。以下のECGパラメータ、すなわち心拍数、PR間隔、QRS間隔、QT間隔、QTcB(Bazettの補正式を使用)、QTcF(Fridericiaの補正式を使用)を評価した。
【0136】
収縮期と拡張期の平均血圧と体温は、投与後に、または治療群相互間で、臨床的に重要な変化を示さなかった。心拍数の減少が、化合物Aで処理した群で観察された。
【0137】
図7と
図8は、得られた結果を示している。これらの図は、心拍数が明らかに用量に関係して減少することを示しており、心拍数は投与の1~3時間後に最大に達した。平均心拍数(ホルター-ECGのデータ、三重に読み取った平均値からの平均)は、0.1 mg、0.3 mg、1.0 mg、10 mgの化合物Aを投与してから1~3時間後に、プラセボ投与後の最大で6.9 bpmの減少と比べてそれぞれ最大で5.1 bpm、6.8 bpm、15.9 bpm、18.3 bpm減少した。投与の6時間後に再び投与前のレベルに到達した。最低心拍数は、1.0 mgと10 mgの用量の群で観察された。
【0138】