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特許7182639テオブロミンフリーのココアを含有する経口剤形
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】テオブロミンフリーのココアを含有する経口剤形
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/46 20060101AFI20221125BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20221125BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20221125BHJP
   A61K 9/68 20060101ALI20221125BHJP
   A61K 31/4178 20060101ALI20221125BHJP
   A61K 31/465 20060101ALI20221125BHJP
   A61K 31/4196 20060101ALI20221125BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
A61K47/46
A61K9/20
A61K9/19
A61K9/68
A61K31/4178
A61K31/465
A61K31/4196
A61K9/70
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020545561
(86)(22)【出願日】2018-03-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2018055105
(87)【国際公開番号】W WO2019166098
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2020-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】300005035
【氏名又は名称】エルテーエス ローマン テラピー-ジステーメ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・ヒル
(72)【発明者】
【氏名】ガーブリエル・ヴァウアー
(72)【発明者】
【氏名】フランク・ザイベルツ
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02118129(US,A)
【文献】米国特許第01851872(US,A)
【文献】特開昭57-206337(JP,A)
【文献】米国特許第01947717(US,A)
【文献】特表2006-521348(JP,A)
【文献】特表平09-512788(JP,A)
【文献】中国特許第103583781(CN,B)
【文献】特表2010-526875(JP,A)
【文献】J.Agric.Food Chem. ,2006年,Vol.54,p.5530-5539
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
投与されたときに、医薬有効成分を口腔および咽頭腔に放出する経口投与製剤であって、
a.少なくとも1つの医薬有効成分
b.少なくとも1つの賦形剤
c.テオブロミンフリーのココア
を含み、
テオブロミンフリーのココアが0.6重量%未満のテオブロミンを含むことを特徴とする、経口投与製剤。
【請求項2】
製剤が、チュアブル錠、舌下錠またはバッカル錠、粘着付与性のある舌下錠またはバッカル錠、口腔内分散性錠剤、経口凍結乾燥物、口腔用フィルム、トローチまたは医薬用キャンディー、経口治療システム、またはチューインガムであることを特徴とする、請求項1に記載の経口投与製剤。
【請求項3】
テオブロミンフリーのココアを多くとも15重量%まで含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の経口投与製剤。
【請求項4】
少なくとも2重量%のテオブロミンフリーのココアを含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の経口投与製剤。
【請求項5】
1つまたは複数の味覚矯正剤をさらに5重量%未満含有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の経口投与製剤。
【請求項6】
味覚矯正剤が甘味料および/または香料であることを特徴とする、請求項5に記載の経口投与製剤。
【請求項7】
医薬有効成分が、味覚矯正剤を使用しないで摂取したときに不快な味覚感覚を引き起こすような含有量で製剤中に存在することを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の経口投与製剤。
【請求項8】
医薬有効成分が、少なくとも2重量%以上20重量%以下の含有量で存在することを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の経口投与製剤。
【請求項9】
賦形剤が、崩壊剤、結合剤、溶媒、充填剤、乳化剤、可溶化剤、緩衝剤、酸化防止剤、防腐剤、甘味剤、香料、吸収促進剤、からなる群、またはそれらの組み合わせから選択されることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の経口投与製剤。
【請求項10】
口腔内および咽頭腔内で少なくとも1つの医薬有効成分を放出する経口投与製剤を使用する際に、不快な味覚感覚をマスクするために使用する、請求項1~のいずれか1項に記載の経口投与製剤。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の経口投与製剤を製造するための方法であって、以下の工程:
a.ココア豆、ココア殻またはココアパウダーを、生石灰懸濁液および水でスラリー化する
b.前工程からの懸濁液を水で吸引し洗浄する
c.工程b.からの残渣を乾燥させる
d.乾燥した残渣を粉砕する
を含む、テオブロミンフリーのココアを製造する工程を含む、方法。
【請求項12】
工程c.からの残渣を生石灰懸濁液および水でスラリー化し、工程b.およびc.を繰り返す、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テオブロミンフリーのココア(theobromine-free cocoa)の添加により不快な味覚感覚がマスキングされた医薬有効成分を経口投与するための剤形に関するものである。前記の剤形は、口腔内および咽頭腔内で有効成分を放出する剤形である。マスクされる味覚は、1つ以上の有効な医薬成分、1つ以上の賦形剤、または有効な医薬成分と賦形剤の組み合わせによるものである。
【背景技術】
【0002】
錠剤やカプセル剤のように、丸ごと飲み込んで消化管内で有効成分を放出する経口医薬品の他に、含有される有効成分が口腔内や咽頭腔内で放出され、その後、消化管内で飲み込まれて吸収されるか、またはその前に口腔粘膜を介して部分的にまたは完全に吸収される経口投与に適した剤形が存在する。
【0003】
これらの剤形は、特に、錠剤またはカプセルのような剤形を飲み込むことが困難な患者に使用され、これには老人および小児患者が含まれる。有効成分が口腔粘膜から吸収される剤形は、肝臓の通過およびそこで行われる有効成分の代謝が回避されるという利点を有する。従って、それにより可能性のある治療効果の低下、および副作用の増加が防止される。
【0004】
また、経口粘膜で吸収されることにより、有効成分が消化管内で一度しか吸収されない剤形に比べて、より迅速な作用発現が可能となる。このような剤形は、特に迅速な作用発現が望まれる、癌患者の治療、化学療法時の嘔吐抑制、禁煙することに使用されている。
【0005】
上記のような利点を有する製品としては、セトフィルム(R)、ブレイキル(R)、ニクイチンストリップ(R)などがある。オピオイドであるフェンタニルを含有する口腔用フィルムであるBreakyl(R)は、投与後15~30分以内に口腔内で溶解し、その間に有効成分が口腔粘膜に吸収される。口腔内フィルム「セトフィルム(R)」を舌に乗せると、数秒で溶解する。有効成分は唾液と一緒に飲み込まれ消化管で吸収される。ニクイチンストリップス(R)は、経口摂取型のフィルムで、3分以内に口腔内で溶解する。有効成分であるニコチンは、飲み込んだ後、一部は粘膜から吸収され、一部は消化管からも吸収される。
【0006】
しかし、患者の口腔および咽頭腔内での有効成分の放出は、有効成分によっては、不快な味の発生となる場合がある。
【0007】
多くの有効成分が不快で苦い味を持つことは何世紀にもわたって知られている(非特許文献1:「そして、医者はそこに座って苦い薬を与える」を参照)。
【0008】
特に小児では、これが協調性(compliance)を妨げ、その結果、治療の成功率を低下させる。同様に、癌患者においても、化学療法の多大な負担にもかかわらず、薬剤を摂取する際に嫌な味覚感覚が生じるため、協調性の低下がみられることがある(例えば、上記のセトフィルム(R)の場合)。
【0009】
したがって、これらの剤形の製剤開発においては、投与中に有効な医薬品成分、賦形剤、またはそれらの組み合わせによって引き起こされる可能性のある不快な味覚感覚を回避するために、特に注意を払わなければならない。
【0010】
丸呑みして胃腸管内で含有される有効成分を放出する固形製剤の場合は、有効成分が意図された吸収部位でのみ放出されることを保証する機能性コーティングにより、味覚のマスキングを容易に確保することができるが、口腔内および咽頭腔内で有効成分を放出することを意図した製剤の場合の課題は、それに比べてはるかに大きい。
【0011】
経口医薬品の味を改善するために以前から知られている手段は、次の3つのグループに分けることができる:a)認知的欺瞞によるマスキング:甘味料および香料の添加;b)遊離有効成分分子の濃度を下げることによるマスキング;分子複合体(シクロデキストリン包接化合物を含む)の形成、イオン交換錯体の形成、別の対イオンの使用、有効成分の非イオン形態の形成 、懸濁液中の粒子のフィルミング;c)受容体の接触時間を短縮することによるマスキング:粘度の増加、親油性ビヒクルの使用、粒子状溶液(例えば、懸濁液)の形成。これらの手段の組み合わせも使用される。
【0012】
しかし、有効成分が口腔粘膜から吸収されることを目的とした剤形の場合には、口腔・咽頭腔での有効成分の吸収率が著しく低下するため、b)及びc)の措置は論外である。また、a)の対策は、甘味のあるフルーティーな成分を添加することにより甘味が強くなりすぎてしまい、例えば、子供が過剰に、あるいは意図せずに服用してしまうという欠点があり注意すべきである。
【0013】
「医薬品はお菓子のような味であってはならない!」ということに注意する必要がある。
【0014】
さらに、アスパルテームのような甘味料の中には苦い後味があり、不快に感じるものもある。他のもの、例えば、多くの患者が不快な味を感じる市販品セトフィルム(R)のアセスルファムカリウムのようなものは、不快な味を抑制するのに十分な強さを有していない。
【0015】
口腔内で有効成分を放出する剤形における味覚マスキングのための先行技術は、ファルマシア社の特許文献1に記載されている。これは、有効成分シルデナフィルの苦味がココアパウダーを用いて口腔内でマスキングされ、迅速な作用発現を有する剤形を開示している。
【0016】
苦味のマスキング機能に加えて、ココアパウダーはバインダーとしても作用することから、組成物に適当な表面の質感を提供することができる。開示された製剤例において使用されるココアパウダーの割合は、30~70重量%である。しかし、ココアパウダーに加えて、製剤には、甘味料としてのアスパルテーム、およびバニラまたはペパーミントフレーバーも含む。
【0017】
特許文献2は、有効成分としてトロキセルチン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、アスパラギン酸アルギニン、グルタミン酸アルギニン、アモキシシリンおよびそれらの組み合わせを含むチュアブル錠(咀嚼錠)を開示している。これらの有効成分の不快な味をマスキングするために、ココアパウダーがチュアブル錠に添加されている。
【0018】
また、ココアパウダーは、味を隠すだけでなく、結合剤としての機能も持っている。錠剤の全質量に対するココアパウダーの割合は、1~50重量%、好ましくは14~30重量%である。実施例では、その割合は、最終的には25~46重量%である。製剤はまた、1種以上の甘味料(アスパルテーム、マンニトール、ソルビトール)および種々の香料を含む。
【0019】
特許文献3には、ニコチンを含む経口投与用の医薬製剤が記載されている。この製剤は、有効成分を口腔内に放出し、有効成分は口腔粘膜を介して吸収される。有効成分の苦味は、17~50重量%の範囲の好ましい量のココアパウダーによってマスキングされる。
【0020】
これらの文献に共通しているのは、そこに開示されている経口投与用の製剤は、少なくとも17重量%のココアパウダーの含有量を有し、ココアパウダーは、味覚マスキング剤としてだけでなく、バインダーとしても作用するということである。しかし、このようにココアパウダーの割合が少なくとも17重量%と高いことは、製剤開発を大きく制限している。
【0021】
このような高い割合の味覚マスキング剤では、製剤開発者は、製剤の他の特性、特に放出プロファイルおよび安定性を適切に制御するために、他の賦形剤を設計する自由度がほとんどない。例えば、ココアパウダーの割合が15重量%を超えるフィルム製剤では、フィルムの脆さが増加するため、法令に定める要件を満たしておらず、医薬品として使用することができない。しかし、ココアパウダーの量が少ないと、負の味覚感覚を十分にマスキングすることができない。
【0022】
したがって、味覚矯正剤の使用により負の味覚感覚を覆い隠すことができ、味覚矯正剤が製剤開発を制限しない量で存在し、かつ、十分な安定性が保証されるような剤形が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【文献】WO 2004/012702 A1
【文献】DE 69505361
【文献】US 2003/0087937 A1
【非特許文献】
【0024】
【文献】Heinrich Hoffmann; Der Struwwelpeter, 1st edition 1846, 5ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
上記の技術的な背景に鑑み、本発明の目的は、患者の口腔内および咽頭腔内での医薬有効成分および/または賦形剤の放出による不快な味覚感覚が、味覚マスキングによってマスクされた医薬有効成分の経口投与のための安定した剤形を提供することである。
【0026】
驚くべきことに、その目的は、テオブロミンフリーのココアを使用することによって達成され、これにより医薬有効成分、賦形剤、またはそれらの組み合わせに起因する不快な味をマスクすることができ、先行技術の開示とは対照的に、苦味のマスキングは15重量%未満の配合で達成され製剤開発に悪影響を及ぼすことはない。
【0027】
本発明はさらに、テオブロミンフリーのココアに加えて、5重量%未満の味覚矯正剤を含有する剤形を開示する。
【0028】
さらに本発明は、医薬品中の不快な味覚感覚を低減するために使用することができるテオブロミンフリーのココアの製造に関する。
【0029】
本発明をよりよく理解するために、本願で使用される用語を詳細に説明する。
【0030】
剤形は、医薬有効成分が治療用に適用される製剤である。剤形は、特定の方法で処理された医薬有効成分および賦形剤の混合物からなる。異なる剤形は、投与部位に応じて分類することができる。
【0031】
経口投与剤は、口から服用するものであり、例えば、錠剤またはカプセル剤を含む。これらは飲み込まれ、含有された医薬有効成分は、消化管内で放出され吸収される。
【0032】
他の経口投与剤は、医薬有効成分を口腔および咽頭腔内に放出し、そこで唾液とともに飲み込んで消化管内に吸収されるか、または口腔および咽頭腔内の粘膜を介して吸収される、すなわち経粘膜的に吸収される。
【0033】
さらに、両方の場所で有効成分の吸収を導く経口投与剤も知られている。
【0034】
口腔内および咽頭腔内に用いられる医薬有効成分を放出する固形剤形としては、例えば、チュアブル錠、舌下錠またはバッカル錠、粘着付与性のある舌下錠またはバッカル錠、口腔内分散性錠剤、経口凍結乾燥物、口腔用フィルム、トローチまたは医薬用キャンディー、経口治療システムまたはチューインガムなどが挙げられる。
【0035】
チュアブル錠は、口の中で噛み砕き、咀嚼した後に飲み込む錠剤である。特に小児や、通常の錠剤を飲み込むことができない、または飲み込みたくない患者に適している。
【0036】
従来の舌下・口腔内錠は、舌の下(舌下)、または歯茎と頬の間(口腔内)に錠剤を置く。そこで、錠剤がゆっくりと溶けて有効成分が放出される。粘着性のある舌下および頬の錠剤には、所望の塗布部位にしっかりと接着するためのポリマーが組み込まれている。
【0037】
唾液中での分散時間が非常に短い点で、口腔内分散性錠剤は従来の錠剤とは異なる。欧州薬局方(Ph. Eur.)によれば、それらは3~8分以内に分散すべきであるが、FDAによれば最大30秒で分散する。口腔内分散性錠剤は、経口凍結乾燥剤や口腔用フィルムとは対照的に高い機械的安定性を有する。
【0038】
経口凍結乾燥剤は、通常、口腔内崩壊錠とも呼ばれ、経口使用のために血小板として薬剤/薬効成分分散液を凍結乾燥させることにより製造される。少量の唾液との接触により、それらは数秒以内に崩壊し、それにより有効な医薬成分を放出する。含有されている医薬有効成分は、通常、口腔粘膜からの吸収を目的としたものではなく、消化管内で吸収される。しかし、一定量の医薬有効成分が口腔粘膜を介して吸収されることもある。経口凍結乾燥剤は、通常、舌下または舌上に塗布される。
【0039】
口腔内フィルムは、口腔内分散性フィルム(他の同義語として、口腔内溶解性フィルム、薄いストリップ、ウェハー)と粘接着性フィルムに区別される。前者は、口腔内で唾液と接触すると急速に溶解する薄くて柔軟性のある剤形である。一方、粘接着性フィルムは、口腔粘膜に付着し所望の塗布部位に有効成分を放出する。さらに、それらはすぐに溶解するのではなく、一定期間その形状と機械的強度を保持する。トローチと薬用キャンディーは嘗めることにより含有して薬効成分を連続的に放出する。
【0040】
経口治療システムの一例として、Actiq(R)という製品がある。この製品では、有効成分であるクエン酸フェンタニルを水溶性の圧縮粉末ペレットに配合し、棒状のプラスチック製アプリケーターの先端に固定している。患者は、頬の内側でアプリケーターを使用してペレットを前後に動かす。ペレットは溶解し、フェンタニルをすぐに放出して口腔粘膜を通して吸収される。
【0041】
他の固体または半固体の剤形も考えられ、例えば、経口摂取され、口腔内および咽頭腔内で有効な医薬成分を放出する有効成分含有ゲルのようなものも考えられる。チューインガムにおいては、含有された薬効成分が咀嚼により放出され口腔粘膜を介して吸収される。
【0042】
医薬有効成分とは、その治療効果を担う剤形の薬理学的に有効な成分と定義されている。
【0043】
賦形剤は治療効果を持たないものであり、有効成分を医薬品に加工して投与し、体内に吸収させるために必要なものである。医薬品に使用される各種賦形剤は、その機能により分類され、例えば、崩壊剤、結合剤、溶剤、充填剤、乳化剤、可溶化剤、緩衝剤、酸化防止剤、防腐剤、味覚矯正剤、吸収促進剤、フィルム形成剤などが挙げられる。
【0044】
味覚矯正剤または同義で使用される味覚マスキング剤は、不快な味をマスキングまたはカバーすることにより、製剤の味を向上させる賦形剤である。
【0045】
それらには、例えば、甘味料および香料が含まれる。甘味料としては、糖類、糖代替物、甘味料に細分化される。
【0046】
糖代替物としては、例えば、グルシトール、マンニトール、マルチトール、キシリトールなどの糖アルコールや、フルクトースなどが挙げられる。甘味料としては、例えば、ショ糖、アセスルファム-K、シクラメートナトリウム、グリチルリチン、アスパルテーム、ダルシン、サッカリン、ステビオサイド、ナリンジンジヒドロカルコン、アスパルテーム-アセスルファム塩、スクラロース、モネリン、タウマチン、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン、ネオテーム等が挙げられる。
【0047】
エッセンシャルオイルは味覚矯正剤としても使用される。エッセンシャルオイルには、ペパーミントオイル、ラベンダーオイル、カモミールオイルなどの親油性で揮発性のある植物成分が含まれる。また、ペパーミントオイルの成分であるメントールも味覚矯正剤として使用される。
【0048】
香料の例としては、ミント、レモン、オレンジ、ペパーミント、ユーカリ、リンゴ、チェリー、ストロベリー、パイナップル、キャラメル、トゥッティフルッティ、ハチミツ、フルーツサラダ、オレンジ、タンジェリン、ラズベリー、ココナッツ、ココア、バニラ、アニスシード、ゲラニオール、アーモンド、ハチミツ、甘草、またはそれらの混合物の味を有する天然または合成的に製造されたアロマおよびエッセンスが挙げられる。
【0049】
味覚は個別に区別することができる。原則として、甘味、塩味、うま味、酸味、苦味の5つの基本的な味に区別される。一般的には、最後の2つは特に不快に感じられるが、その他の味は、不快に感じられることもあるので避けた方が良いだろう。
【0050】
以下のものは、不快な味のする有効成分として知られている。
【0051】
アセトアミノフェン、アドリュプロン、アゴメラチン、アルブテロール、アルベリン、アミトリプチリン、アモキシシリン、硫酸アンフェタミン、アミグダリンD、アポモルフィン、アスパラギン酸アルギニン、グルタミン酸アルギニン、アルテミシニン、アスピリン、アトルバスタチン。アトロピン、アザチオプリン、バルビツール酸塩(アモバルビタール、シクロバルビタール、ペントバルビタール、フェノバルビタール)、ベンズアルデヒド、ベンズアミン、ベンゾイン、ブルシン、カフェイン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、カプロラクタム。カリソプロドール、カスカリリン、カテキン、セチリジン、キニジン、キニーネ、クロルジアゼポキシド、クロルヘキシジン、クロロカイン、マレイン酸クロルフェニラミン、クロルプロマジン、シンナメドリン、シンコニン、クラリスロマイシン。クロブチノール、クロニキシン、コダミン、コデイン、コルヒチン、シクロヘキシミド、デフェリプロン、デメロール、デキサメタゾン、デキストロメトルファン、ジクロフェナク、ジフェンヒドラミン、ジフェニルヒダントイン、ドルゾラミド、ドキセピン、ドキシラミン。エナラプリル、エピネフリン、エリスロマイシン、ファルカリンジオール、ファモチジン、クエン酸フェンタニル、グリメピリド、グアイフェネシン、ハロペリドール、ヒドロコルチゾン、イブプロフェン、リドカイン、リノコマイシン、ロモチル、ロペラミド、ルポロン メタホリン、メタドン、6-メチル-2-チオウラシル、ミコナゾール、塩酸モルヒネ、安息香酸ナトリウム、ネオスチグミン、ニコチン、オメプラゾール、オンダンセトロン、オルフェナドリン、パントプラゾール、パパベリン、ペミロラスト。ペニシリン、過酸化物、フェナセチン、フェノチアジン、フェニトイン、プレドニゾロン、リン酸プレドニゾロンナトリウム、プレドニゾン、プロピルチオウラシル、塩酸プソイドエフェドリン、リザトリプタン、サリチルアミド、サリチル酸。サルサレート、クエン酸シルデナフィル、ストレプトマイシン、スルホンアミド、テルフェナジン、トピラマート、トラマドール、トラピジル、トリメタジオン、トリメトプリム、トロキセルチン、バルプロミド、ビタミン類(チアミン)、ワルファリン、およびその塩。
【0052】
さらに、医薬品の有効成分として使用される以下の天然成分は、不快な味がすることが知られている。
【0053】
アルブチン、クマリン、ククルビタシンB、ギンコライドA、ギンコライドB、ギンコライドC、ハルマン、ヘレナリン、ヘリシン、フムロン、ルピニン、ノスカピン、パルテノリド、ピクロトキシン、タウリン。
【0054】
以下の賦形剤は不快な味がすることが知られている。
【0055】
アセスルファム-K、硫酸マグネシウム、ポリソルベート(ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート80)、サッカリン。
【0056】
また、ここに記載されていない他の医薬品有効成分や賦形剤も、不快と感じる味となる可能性がある。
【0057】
ココアとは、カカオの木の種子を加工したものから得られる細かく挽いたものを意味し、チョコレートやチョコレート製品、ココア飲料の原料として使用される。ココアの果実を収穫する際には、カカオの木から完熟した果実を切り取る。カカオの種は果肉と一緒に殻から取り除かれ、数日間の発酵工程にかけられる。
【0058】
発酵の間、様々な加水分解や酵素反応が行われ、カカオ豆の品質、特にカカオの香りに重要な役割を果たす。大気中の酸素の侵入により、ポリフェノールが酸化・重合され、凝縮されたタンニンとカカオの褐色の原因となるフクロバフェンが生成される。発酵した豆は、天日または乾燥機で水分が8%以下になるまで乾燥され、異物が取り除かれる。その後の焙煎により含水率は2.5~3%に低下する。
【0059】
酢酸、酢酸エステル、その他の好ましくない芳香成分が除去され、微生物による影響が軽減される。冷却後、焙煎した豆をカカオ粒子に分解し、殻や新芽の根を取り除く。その後、ココア粒子は粉砕され、均質で流動性のあるカカオマスが得られる。破砕されたココア粒子は、その後、アルカリ性の条件下で分解する。この分解により、デンプンが膨らみ、酸性成分が中和され、細胞構造が壊される。
【0060】
こうして分解されたカカオマスには、通常のカカオマスと同様に、52~58%のカカオバターが含まれている。選択的に、ココアマスまたはココアプレスケーキのアルカリ性分解が行われてもよい。ココアマスからココアパウダーを製造するために、脂肪の一部を高圧でプレスする。結果として得られる岩のように硬いココアプレスケーキは、その後、ココアパウダーに粉砕される。
【0061】
カカオ及びチョコレート製品に関するドイツの条例(Kakaoverordnung KakaoV 2003)によれば、脂肪分に応じて、ココアバター含有量が20%以上のココアパウダーと、乾燥質量に対してココアバター含有量が20%未満の脱脂又は低脂肪のココアパウダーに区別される。
【課題を解決するための手段】
【0062】
テオブロミンは、3,7-ジメチルキサンチン-3,7-ジヒドロ-3,7-ジメチル-1H-プリン-2,6-ジオンという化合物で、ココアの主なアルカロイドである。テオブロミンは、カカオに含まれるポリフェノールや焙煎過程で生成されるピペラジンジオンと一緒に、カカオの典型的な苦味の原因となる。テオブロミンはカカオ豆中に1.0~2.5重量%、ココアパウダー中に1.4~3.0重量%、カカオ殻中に1.3~2.1重量%の範囲で存在している。
【0063】
純粋なテオブロミンと比較して、ココアは趣のある苦味を生み出す。これはココアの他の成分が、テオブロミンの苦味をマスキングすることに起因する。本出願で、無臭ココアは天然に含まれるテオブロミンの少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%が抽出によって除去されたココアであると理解される。
【0064】
出発原料(ココア豆、ココア殻またはココアパウダー)のテオブロミン含有量が1~3重量%の範囲内である場合、これはテオブロミン含有量が最大で0.66重量%、好ましくは最大で0.3重量%、特に好ましくは最大で0.15重量%の範囲内であるテオブロミンフリーのココアをもたらす。
【0065】
ココアパウダー、ココア豆またはココアシェルからのテオブロミンの抽出は、石灰の乳液を用いて達成することができる。あるいは、超臨界二酸化炭素(CO)を用いて上記出発原料からテオブロミンを抽出することもできる。
【0066】
本発明のテオブロミンフリーのココアは、テオブロミンを0.6重量%以下、好ましくは0.3重量%以下、特に好ましくは0.15重量%以下の割合で含有する。
【0067】
ココアは、0.6重量%未満、好ましくは0.3重量%未満、特に好ましくは0.15重量%未満の割合でテオブロミンを含有する。
【0068】
本発明の一実施形態によれば、経口投与の剤形は、テオブロミンフリーのココアがテオブロミンを0.6重量%未満、好ましくは0.3重量%未満、特に好ましくは0.15重量%未満の割合で含むことを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0069】
実施例
実施例1
テオブロミンフリーのココアの製造
約6Lの内容積を持つ6本のパイプに、それぞれ約1kgのカカオ豆を投入する(代わりに、ココアパウダーまたはカカオ殻を使用することもできる)。
【0070】
それぞれ、3.5Lの水と100gの生石灰の乳液を最初の2本のパイプ内の豆に注ぎ、混合物をガラス棒でよく撹拌し、12時間の静置後に濾過する。濾液を50Lの丸底フラスコに集める。残渣をパイプ1と2に戻し、ここで再びそれぞれ3.5Lの水で混合するが、生石灰の乳液はパイプあたり10gとする。混合物をガラス棒で再びよく撹拌し、12時間の静置後に濾過する。濾液を50Lフラスコに注ぐ。残渣を再びパイプ1および2に戻し、それぞれ3.5Lの水と1パイプあたり10gの生石灰の乳液に再び混合する。
【0071】
合わせた濾液をパイプ3、4の生豆に移し、1パイプあたり100gとした生石灰の乳液と混合し攪拌し12時間の静置後に濾過する。
【0072】
パイプ5、6については、引き続きテオブロミンの抽出を行う。第1回目の抽出では、1管あたり水3.5Lと100gの生石灰を原料とした乳液を使用するが、第2回目と第3回目の抽出では、1管あたり水3.5Lと10gの生石灰を原料とした乳液を使用する。
【0073】
すべてのフィルター残渣は集められ、カビの発生を防ぐために乾かされる。
【0074】
その結果、約40Lの褐色の溶液が得られ、これには樹脂とバイオレット色素に加えて水溶性のテオブロン酸カルシウムが含まれている。この溶液を真空下で約1Lに減容する。次いで、1Nの塩酸を約pH8になるまで添加する。
【0075】
淡黄色のテオブロミンが溶液から完全に沈殿するまで、炭酸ガスをスチールシリンダーまたは炭酸カートリッジから導入する。
【0076】
12時間後、上記のフィルター残渣、すなわちテオブロミンフリーのカカオを取り出し、濾液と合わせ、次にそれを乾燥するまで真空中で濃縮する。
【0077】
乾燥後、クロスビーターミルで粉砕される。その結果、テオブロミンフリーのココアが出来上がり、さらなる実験に使用される。
【0078】
実施例2
テオブロミンフリーのココアの製造(他の方法)
Caello:Ch.-B:14096914社製の市販のカカオ殻100g(これに代えてカカオ豆またはココアパウダーを使用することができる)を、10%酸化カルシウム懸濁液310gと水300gでスラリー化し、一晩静置した。少量の水で吸引除去し洗浄した後、残渣を100gの10%酸化カルシウム懸濁液と600gの水に懸濁させ、一晩放置した。
【0079】
再び吸引除去し、残渣を水500gでスラリー化した。吸引後の残渣は、酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムのはっきりとした白色のコーティングを有していた。残渣を100gのHclと500gの水でスラリー化し、吸引除去し、濾液がpH中性になるまで水で洗浄した。残渣は、白色の被覆を伴わない褐色であった。残渣を100~120℃の循環式空気キャビネット内で乾燥させた。これをコーヒーグラインダーで粉砕した。
【0080】
最初の3つの濾液で、テオブロミンが、薄層クロマトグラフィー(移動相:塩化メチレン:エタノール:酢酸88:10:2、プレート:シリカゲル60F254;検出:UV)により検出された。
【0081】
実施例3(医薬有効成分オンダンセトロンとの比較例)
カカオの割合が異なるフィルム製剤を製造した。製造された口腔用フィルムの味は、その後、被験者のグループによって評価された。ココアを添加したことを除いて、これらの製剤は、WO 2008/040534号(29頁、表1)に掲載されている市販品Setofilm(R)の製剤に対応していた。
【0082】
製剤3.1、3.2、3.3の調製
a)まず、水を供給して加熱し、ポリエチレングリコール1000、ポリビニルアルコール4-88を攪拌しながら添加し、完全に溶解するまで攪拌する。
b)次に、米澱粉、オンダンセトロン、エタノールを添加し、均一になるまで撹拌する。
c)次に、二酸化チタン、グリセロール、ココア、アセスルファム-K、メントール、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートを添加し、均一になるまで撹拌する。
d)これをプロセスフィルム上に薄膜として広げ、50℃で15分間乾燥させる。
e)乾燥したフィルムを分離する。
【0083】
【表1】
【0084】
小グループの被験者を対象とした味覚試験の結果、ココアの味覚マスキング効果は、ココアの割合が15重量%の製剤3.3においてのみ有することが示された。より高いココア含有量を有するフィルムは製造中に破断した。
【0085】
実施例4(有効成分であるオンダンセトロンを含む製剤)
オンダンセトロンを含有する経口フィルムの製剤を調製した。甘味料であるアセスルファムKと香料であるメントールの代わりに、テオブロミンフリーのココアを使用した点を除いて、市販品であるセトフィルム(R)の製剤と同等の製剤を調製した。
【0086】
製剤4.1、4.2、4.3の製造
a)まず、水を準備して加熱し、ポリエチレングリコール1000、ポリビニルアルコール4-88を撹拌しながら添加し、完全に溶解するまで撹拌する。
b)次に、米澱粉、オンダンセトロン、エタノールを添加し、均一になるまで撹拌する。
c)次いで、二酸化チタン、グリセロール、テオブロミンフリーのココア、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートを添加し、均一になるまで攪拌する。
d)これをプロセスフィルム上に薄膜として広げ、50℃で15分間乾燥させる。
e)乾燥したフィルムを分離する。
【0087】
表2に記載された組成物を用いて個々の製剤を製造し、被験者のグループによる味覚試験を行った。
【0088】
【表2】
【0089】
テオブロミンフリーのココアを5重量%含有する製剤4.1でさえ、有効成分であるオンダンセトロンの不快で苦い味をマスクしている。
【0090】
実施例5(有効成分ニコチンを含む製剤)
経口フィルムは、実施例4と同様に製造された。
【0091】
【表3】
【0092】
薄膜としてプロセスフィルム上に広げ、50℃で15分間乾燥させる。次いで、乾燥したフィルムを分離する。
【0093】
実施例6(有効成分リザトリプタンを含む製剤)
実施例4と同様にして口腔用フィルムを作製した。
【0094】
【表4】
【0095】
薄膜としてプロセスフィルム上に広げ、50℃で15分間乾燥させる。その後、乾燥したフィルムを分離する。