(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】組成物、光学異方性膜、円偏光板、表示装置、近赤外線吸収色素
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20221125BHJP
C09B 67/20 20060101ALI20221125BHJP
C09K 19/54 20060101ALI20221125BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20221125BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20221125BHJP
C09B 57/00 20060101ALN20221125BHJP
【FI】
G02B5/30
C09B67/20 F
C09K19/54 Z
C09K3/00 105
G09F9/30 349E
C09B57/00 Z
(21)【出願番号】P 2021502257
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2020007401
(87)【国際公開番号】W WO2020175456
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2019034754
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】後藤 亮司
(72)【発明者】
【氏名】竹内 潔
(72)【発明者】
【氏名】前田 義高
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/174015(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/216812(WO,A1)
【文献】特開2018-25770(JP,A)
【文献】国際公開第2019/017445(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/017444(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/159235(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/020861(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02B 5/22
B32B 1/00-43/00
G02F 1/13363
C09B23/01
C09B57/00
C09B67/20
C09K 3/00
C09K19/54
G09F 9/00
G09F 9/30
H01L27/32
H01L51/50
H05B33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶化合物またはポリマーと、
色素骨格および前記色素骨格に結合するメソゲン基からなる構造部位を有する近赤外線吸収色素と、を含み、
前記近赤外線吸収色素が以下の条件1および2を満たす、組成物。
条件1:密度汎関数計算によって前記近赤外線吸収色素の前記構造部位の最安定分子構造における前記構造部位中の原子の座標データを取得し、前記座標データを主成分分析して固有値を求めて、前記固有値のうち値が大きなものから順に、第1固有値、第2固有値、および、第3固有値としたときに、前記第1固有値の平方根の絶対値λ1と前記第2固有値の平方根の絶対値λ2とが式(A)の関係を満たす。
式(A) λ2/λ1≦0.60
条件2:前記
近赤外線吸収色素の吸収の遷移モーメントの方向と、前記第1固有値の固有ベクトルの方向とのなす角度が75.0°以上である。
【請求項2】
前記近赤外線吸収色素の波長650nmにおける吸光係数をε(650)、吸収極大波長における吸光係数をε(λmax)としたときに、ε(650)/ε(λmax)が0.200以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記近赤外線吸収色素が、式(1)で表される化合物である、請求項1または2に記載の組成物。
式(1) (W-X)
p-D
式中、Dは、色素骨格を表す。
Wは、水素原子または置換基を表す。
Xは、式(2)で表されるメソゲン基を表す。
式(2) -(A-Z)
n-A-
Aは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい2価の芳香族環基、または、置換基を有していてもよい2価の非芳香族環基を表す。
Zは、単結合、または、2価の連結基を表す。
nは1~10の整数を表す。
pは2以上の整数を表す。
なお、Wのうち少なくとも1つは置換基を表す。
【請求項4】
Zは、それぞれ独立に、単結合、-CH
2CH
2-、-CH
2O-、-CH
2NR-、-CH=CH-、-CH=N-、-N=N-、-C≡C-、-COO-、-CONR-、-COOCH
2CH
2-、-CONRCH
2CH
2-、-OCOCH=CH-、および、-C≡C-C≡C-からなる群から選択される基を表し、
Rは、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表し、
Z中の水素原子のうち少なくとも1つ以上がフッ素原子で置き換わっていてもよい、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記置換基の少なくとも1つが、重合性基を有する、請求項3または4に記載の組成物。
【請求項6】
前記近赤外線吸収色素が、式(3)で表される化合物である、請求項3~5のいずれか1項に記載の組成物。
【化1】
式中、R
21は、それぞれ独立に、式(4)で表される基を表す。
式(4) W-X-*
Wは、水素原子または置換基を表す。
Xは、前記式(2)で表されるメソゲン基を表す。
なお、Wのうち少なくとも1つは置換基を表す。
R
22およびR
23は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表し、少なくとも一方は電子吸引性基を表す。なお、R
22およびR
23は、結合して環を形成してもよい。
R
24は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、置換ホウ素、または、金属原子を表し、R
21および/またはR
23と共有結合もしくは配位結合してもよい。
【請求項7】
前記液晶化合物が、逆波長分散性液晶化合物である、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物を用いて形成された光学異方性膜。
【請求項9】
請求項8に記載の光学異方性膜と、偏光子とを有する、円偏光板。
【請求項10】
表示素子と、前記表示素子上に配置された請求項9に記載の円偏光板とを有する、表示装置。
【請求項11】
色素骨格および前記色素骨格に結合するメソゲン基からなる構造部位を有する近赤外線吸収色素であって、
以下の条件1および2を満たす、近赤外線吸収色素。
条件1:密度汎関数計算によって前記近赤外線吸収色素の前記構造部位の最安定分子構造における前記構造部位中の原子の座標データを取得し、前記座標データを主成分分析して固有値を求めて、前記固有値のうち値が大きなものから順に、第1固有値、第2固有値、および、第3固有値としたときに、前記第1固有値の平方根の絶対値λ1と前記第2固有値の平方根の絶対値λ2とが式(A)の関係を満たす。
式(A) λ2/λ1≦0.60
条件2:前記
近赤外線吸収色素の吸収の遷移モーメントの方向と、前記第1固有値の固有ベクトルの方向とのなす角度が75.0°以上である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、光学異方性膜、円偏光板、表示装置、および、近赤外線吸収色素に関する。
【背景技術】
【0002】
屈折率異方性を持つ位相差膜(光学異方性膜)は、表示装置の反射防止膜、および、液晶表示装置の光学補償フィルムなどの種々の用途に適用されている。
近年、逆波長分散性を示す光学異方性膜の検討がなされている(特許文献1)。なお、逆波長分散性とは、可視光線領域の少なくとも一部の波長領域において、測定波長が長いほど複屈折が大きくなる「負の分散」特性を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、従来の光学異方性膜が示す逆波長分散性は必ずしも十分ではなく、更なる改良が必要であった。
より具体的には、例えば、光学異方性膜としてλ/4板(1/4波長板)を例にとると、可視光線領域において位相差が測定波長の1/4波長となることが理想となる。しかし、従来の光学異方性膜においては、可視光線領域の長波長側において、理想曲線から外れる傾向にあった。なお、本明細書では、光学特性が理想曲線に近づくことを、逆波長分散性が優れるという。
本発明は、上記実情に鑑みて、優れた逆波長分散性を示す光学異方性膜を形成できる組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、光学異方性膜、円偏光板、表示装置および近赤外線吸収色素を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、従来技術の問題点について鋭意検討した結果以下の構成により上記目的を達成できることを見出した。
【0006】
(1) 液晶化合物またはポリマーと、
色素骨格および色素骨格に結合するメソゲン基からなる構造部位を有する近赤外線吸収色素と、を含み、
近赤外線吸収色素が後述する条件1および2を満たす、組成物。
(2) 近赤外線吸収色素の波長650nmにおける吸光係数をε(650)、吸収極大波長における吸光係数をε(λmax)としたときに、ε(650)/ε(λmax)が0.200以下である、(1)に記載の組成物。
(3) 近赤外線吸収色素が、後述する式(1)で表される化合物である、(1)または(2)に記載の組成物。
(4) Zは、それぞれ独立に、単結合、-CH2CH2-、-CH2O-、-CH2NR-、-CH=CH-、-CH=N-、-N=N-、-C≡C-、-COO-、-CONR-、-COOCH2CH2-、-CONRCH2CH2-、-OCOCH=CH-、および、-C≡C-C≡C-からなる群から選択される基を表し、
Rは、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表し、
Z中の水素原子のうち少なくとも1つ以上がフッ素原子で置き換わっていてもよい、(3)に記載の組成物。
(5) 置換基の少なくとも1つが、重合性基を有する、(3)または(4)に記載の組成物。
(6) 近赤外線吸収色素が、後述する式(3)で表される化合物である、(3)~(5)のいずれかに記載の組成物。
(7) 液晶化合物が、逆波長分散性液晶化合物である、(1)~(6)のいずれかに記載の組成物。
(8) (1)~(7)のいずれかに記載の組成物を用いて形成された光学異方性膜。
(9) (8)に記載の光学異方性膜と、偏光子とを有する、円偏光板。
(10) 表示素子と、表示素子上に配置された(9)に記載の円偏光板とを有する、表示装置。
(11) 色素骨格および色素骨格に結合するメソゲン基からなる構造部位を有する近赤外線吸収色素であって、
後述する条件1および2を満たす、近赤外線吸収色素。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた逆波長分散性を示す光学異方性膜を形成できる組成物を提供できる。
また、本発明によれば、光学異方性膜、円偏光板、表示装置および近赤外線吸収色素を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】従来の逆波長分散性を示す光学異方性膜の波長分散と理想の複屈折Δnの波長分散との比較を示す図である。
【
図2】有機分子の屈折率と吸収係数との波長分散特性を示す図である。
【
図3】所定の吸収特性の有無による異常光線屈折率neと常光線屈折率noとの波長分散の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。まず、本明細書で用いられる用語について説明する。また、進相軸および遅相軸は、特別な断りがなければ、550nmにおける定義である。
【0010】
本発明において、Re(λ)およびRth(λ)は各々、波長λにおける面内のレタデーションおよび厚み方向のレタデーションを表す。特に記載がないときは、波長λは、550nmとする。
本発明において、Re(λ)およびRth(λ)はAxoScan OPMF-1(オプトサイエンス社製)において、波長λで測定した値である。AxoScanにて平均屈折率((nx+ny+nz)/3)と膜厚(d(μm))を入力することにより、
遅相軸方向(°)
Re(λ)=R0(λ)
Rth(λ)=((nx+ny)/2-nz)×d
が算出される。
なお、R0(λ)は、AxoScan OPMF-1で算出される数値として表示されるものであるが、Re(λ)を意味している。
【0011】
本明細書において、屈折率nx、ny、および、nzは、アッベ屈折計(NAR-4T、アタゴ(株)製)を使用し、光源にナトリウムランプ(λ=589nm)を用いて測定する。また、波長依存性を測定する場合は、多波長アッベ屈折計DR-M2(アタゴ(株)製)にて、干渉フィルタとの組み合わせで測定できる。
また、ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、および、各種光学フィルムのカタログの値を使用できる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、および、ポリスチレン(1.59)。
【0012】
なお、本明細書では、「可視光線」とは、波長400nm以上700nm未満の光を意図する。また、「近赤外線」とは、波長700nm以上2000nm以下の光を意図する。また、「紫外線」とは、波長10nm以上400nm未満の光を意図する。
また、本明細書において、角度(例えば「90°」などの角度)、および、その関係(例えば「直交」および「平行」など)については、本発明が属する技術分野において許容される誤差の範囲を含むものとする。例えば、厳密な角度±10°の範囲内であることなどを意味し、厳密な角度との誤差は、5°以下であることが好ましく、3°以下であることがより好ましい。
【0013】
本明細書において表記される2価の基(例えば、-O-CO-)の結合方向は特に制限されず、例えば、後述する式(I)中のD1が-O-CO-である場合、Ar側に結合している位置を*1、G1側に結合している位置を*2とすると、D1は*1-O-CO-*2であってもよく、*1-CO-O-*2であってもよい。
【0014】
本発明の組成物の特徴点の一つとしては、所定の特性を示す近赤外線吸収色素を用いる点が挙げられる。
以下、本発明の特徴について詳述する。
まず、
図1に、測定波長550nmでの位相差(Re(550nm))を1として規格化した可視光線領域での各波長における位相差(Re(λ))の波長分散特性を示す。例えば、上述した理想的なλ/4板は、
図1の点線に示すように、位相差が測定波長に対し比例関係にあるため、測定波長が長いほど位相差が大きくなる「負の分散」特性を有する。それに対して、従来の逆波長分散性を示す光学異方性膜は、
図1の実線に示すように、短波長領域においては点線で示す理想曲線と重なる位置にもあるが、長波長領域においては理想曲線から外れる傾向を示す。
本発明の組成物を用いて得られる光学異方性膜においては、所定の近赤外線吸収色素を用いることにより、白抜き矢印で示すように、長波長領域における光学特性を理想曲線に近づけることができる。
【0015】
上記特性が得られる理由としては、まず、一般的な有機分子の屈折率波長分散特性について
図2を参照しながら説明する。
図2中、上側は波長に対する屈折率の挙動を示し、下側では波長に対する吸収特性の挙動(吸収スペクトル)を示す。
有機分子は、固有吸収波長から離れた領域(
図2のaの領域)における屈折率nは波長が増すとともに単調に減少する。このような分散は「正常分散」と言われる。これに対して、固有吸収を含む波長域(
図2のbの領域)における屈折率nは、波長が増すとともに急激に増加する。このような分散は「異常分散」と言われる。
つまり、
図2に示すように、吸収がある波長領域の直前においては屈折率の増減が観察される。
【0016】
本発明の組成物で用いられる近赤外線吸収色素は、後述する条件1および2を満たす。後段で詳述するように、条件1は近赤外線吸収色素の所定の構造部位の形を表しており、条件1中のλ2/λ1の値が小さいほど、近赤外線吸収色素が異方性のある構造を有していることを示す。より具体的には、条件1中のλ2/λ1の値が小さいほど、近赤外線吸収色素が一方の方向に延びた棒状構造を有することになり、いわゆるアスペクト比が大きい分子に該当する。また、条件2は遷移モーメントの方向に関連しており、条件2の要件を満たすことにより、近赤外線吸収色素の吸収の遷移モーメントの方向が近赤外線吸収色素の長軸に対して直交する方向に近くなる。
上記のような近赤外線吸収色素および液晶化合物またはポリマーを含む組成物を用いて光学異方性膜を形成すると、光学異方性膜の遅相軸と、近赤外線吸収色素の長軸方向(後述する、第1固有値の第1固有ベクトル)とが平行となるように、近赤外線吸収色素が配置されやすくなり、結果として、近赤外線吸収色素の吸収の遷移モーメントの方向が光学異方性膜の進相軸の方向に近づくように配置される。このような近赤外線吸収色素の配置が達成されると、このような配置の近赤外線吸収色素を含まない光学異方性膜よりも、常光線屈折率がより低下する。
具体的には、
図3において、上記配置の近赤外線吸収色素の有無による異常光線屈折率neと常光線屈折率noとの波長分散の比較を示す図である。
図3中、太線は上記配置の近赤外線吸収色素がない場合の異常光線屈折率neのカーブを示し、実線は上記配置の近赤外線吸収色素がない場合の常光線屈折率noのカーブを示す。それに対して、上記配置の近赤外線吸収色素を有する光学異方性膜においては、上記
図2で示したような近赤外線波長の吸収に由来する影響を受けて、破線で示すように可視光線領域の長波長領域において常光線屈折率noの値がより低下する。結果として、可視光線領域の長波長領域において、異常光線屈折率neと常光線屈折率noとの差である複屈折Δnがより大きくなり、
図1に示す矢印の挙動が達成される。
【0017】
次に、本発明の組成物に含まれる材料について詳述する。
【0018】
<近赤外線吸収色素>
本発明の組成物は、色素骨格および色素骨格に結合するメソゲン基からなる構造部位を有する近赤外線吸収色素(以後、「特定色素」ともいう。)を含む。特定色素は、以下の条件1および2を満たす。
条件1:密度汎関数計算によって特定色素の構造部位の最安定分子構造における構造部位中の原子の座標データを取得し、得られた座標データを主成分分析して固有値を求めて、固有値のうち値が大きなものから順に、第1固有値、第2固有値、および、第3固有値としたときに、第1固有値の平方根(二乗根)の絶対値λ1と第2固有値の平方根の絶対値λ2とが式(A)の関係を満たす。
式(A) λ2/λ1≦0.60
条件2:赤外線吸収色素の吸収の遷移モーメントの方向と、第1固有値の固有ベクトルの方向とのなす角度が75.0°以上である。
以下では、まず、条件1および2について詳述する。
【0019】
条件1においては、まず、特定色素の構造部位の最安定分子構造を密度汎関数法計算によって求める。
密度汎関数法計算による最安定分子構造は、Gaussian社製Gaussian16(Gaussian 16, Revision B.01,M. J. Frisch, G. W. Trucks, H. B. Schlegel, G. E. Scuseria, M. A. Robb, J. R. Cheeseman, G. Scalmani, V. Barone, G. A. Petersson, H. Nakatsuji, X. Li, M. Caricato, A. V. Marenich, J. Bloino, B. G. Janesko, R. Gomperts, B. Mennucci, H. P. Hratchian, J. V. Ortiz, A. F. Izmaylov, J. L. Sonnenberg, D. Williams-Young, F. Ding, F. Lipparini, F. Egidi, J. Goings, B. Peng, A. Petrone, T. Henderson, D. Ranasinghe, V. G. Zakrzewski, J. Gao, N. Rega, G. Zheng, W. Liang, M. Hada, M. Ehara, K. Toyota, R. Fukuda, J. Hasegawa, M. Ishida, T. Nakajima, Y. Honda, O. Kitao, H. Nakai, T. Vreven, K. Throssell, J. A. Montgomery, Jr., J. E. Peralta, F. Ogliaro, M. J. Bearpark, J. J. Heyd, E. N. Brothers, K. N. Kudin, V. N. Staroverov, T. A. Keith, R. Kobayashi, J. Normand, K. Raghavachari, A. P. Rendell, J. C. Burant, S. S. Iyengar, J. Tomasi, M. Cossi, J. M. Millam, M. Klene, C. Adamo, R. Cammi, J. W. Ochterski,R. L. Martin, K. Morokuma, O. Farkas, J. B. Foresman, and D. J. Fox, Gaussian, Inc., Wallingford CT, 2016.)を用いて、密度汎関数の汎関数はB3LYP、基底関数は6-31G(d)、その他のパラメーターはGaussian16のデフォルト値を用いて最適化することによって求める。
なお、特定色素の構造部位とは、特定色素中の色素骨格および色素骨格に結合するメソゲン基からなる部位を意味し、特定色素中のメソゲン基に結合する他の基(例えば、メソゲン基と連結する、非メソゲン基である置換基)は含まれない。上記計算を行う際には、メソゲン基に結合する他の基(非メソゲン基)は水素原子に置換して、計算を行う。
【0020】
上記計算によって得られた最安定分子構造における、特定色素の構造部位中の各原子の座標データを取得する。具体的には、得られた最安定分子構造における、特定色素の構造部位中の各原子の重心を求めて、その重心を基準として各原子のx、y、および、zの座標(xi、yi、zi)を求め、特定色素の構造部位の原子の配置に関する3次元座標データを取得する。
【0021】
次に、得られた座標データを主成分分析して固有値を求める。より具体的には、座標データから得られる後述する分散共分散行列で主成分分析を行い、主成分軸およびその固有値を求める。つまり、座標データから得られる後述する分散共分散行列の固有値を求める。
主成分分析とは、N個の各データがn次元空間の中のn成分ベクトルである時に、n次元空間中でデータの広がり度合いが大きい方向を順次得る方法である。本発明のように分子を対象とする場合は、xyzの3次元空間なので、nは3となり、Nは分子に含まれる原子の数となる。
次に、
図4および
図5を用いて、主成分分析について説明する。
図4および
図5では、分子を構成している原子を座標空間に図示している。ただし、上述したように、実際は、原子は3次元空間に位置するが、
図4および
図5では説明を簡略化するために、3個目の軸を省略している。なお、
図4および
図5中の黒丸で表される点が、原子の位置に対応する。
次に、
図4のx軸を回転させることを考える。黒丸で表される点から回転後のx軸へデータを射影した点、つまり、黒丸で表される点から垂直に引いた線とその軸との白点で表される交点を、その座標データのその軸での主成分得点とする。主成分分析の最初の目的はデータの広がりが最も広がっている方向である第1主成分軸を得ること(つまり、射影したデータの分散が最大となる軸を探すこと)で、この主成分得点の分散が最も大きくなる回転後のx軸の方向が第1主成分軸に対応する。
主成分分析では引き続き、上記と同様の手順に従って、次に広がっている方向である第2主成分軸を探す。第2主成分軸は、第1主成分軸に直交する2次元空間の中で探す。なお、
図5は2次元で描いているので、第1主成分軸に直交する空間は一次元で第2主成分軸は自動的に決まっている。
なお、実際は分子の座標は3次元空間のデータなので、上記の2次元空間の中でも座標軸を回転させ、その軸への主成分得点の分散が最大になる方向から第2主成分軸を得る。3次元空間のデータの場合は、第3主成分軸は第1主成分軸と第2主成分軸とに直交する軸として自動的に決まる。
本発明において主成分分析を実施することにより、特定色素の構造部位の広がりが求められ、特に、第1主成分はいわゆる特定色素の構造部位の長軸の情報に該当し、第2主成分はいわゆる特定色素の構造部位の長軸に直交する軸の情報に該当する。よって、後述するλ2/λ1は、特定色素の構造部位の異方性を示すパラメーターに該当し、この値が小さいほど特定色素の構造部位の一方の方向が長いことを意味する。
【0022】
本発明における主成分分析の具体的な手順としては、得られた座標データに基づいて、以下の式で表される分散共分散行列σを得て、得られた分散共分散行列σを対角化して、3つの固有値および3つの固有ベクトルを得る。3つの固有値のうち最も大きなものを第1固有値、次に大きいものを第2固有値、最も小さいものを第3固有値とし、第1固有値に対応するベクトルを第1固有ベクトル、第2固有値に対応するベクトルを第2固有ベクトル、第3固有値に対応するベクトルを第3固有ベクトルとする。
【0023】
【0024】
式中、Nは構造部位に含まれる原子数を表し、iは各原子を指定するインデックスで1からNの値を持ち、xi、yi、ziは重心を原点とした各原子の座標を表す。
【0025】
条件1においては、第1固有値の平方根の絶対値λ1と第2固有値の平方根の絶対値λ2を求めて、これらが式(A)の関係を満たす。
式(A) λ2/λ1≦0.60
なかでも、本発明の効果がより優れる点で、λ2/λ1は0.50以下であることが好ましく、0.40以下であることがさらに好ましい。λ2/λ1の下限は特に制限されないが、0.20以上の場合が多い。
【0026】
条件2では、赤外線吸収色素の吸収の遷移モーメントの方向と、第1固有値の固有ベクトルの方向とのなす角度が75.0°以上である旨を規定する。
まず、赤外線吸収色素の極大吸収波長は、Gaussian 16 Revision B.01を用いて、時間依存密度汎関数法で汎関数をB3LYP、基底関数は6-31G(d)、その他のパラメーターはGaussian16のデフォルト値により求める。
【0027】
赤外線吸収色素の吸収の遷移モーメントの方向は、上記手順によって得られた極大吸収波長に対応する遷移双極子モーメントベクトルMにより求められる。具体的には、遷移双極子モーメントは、Gaussian 16 Revision B.01を用いて、前述の再安定構造に対して時間依存密度汎関数法で汎関数をB3LYP、基底関数は6-31G(d)を用いて得られる。
得られた遷移モーメントの方向と、上述した手順によって得られる第1固有値の第1固有ベクトルとのなす角度を算出する。具体的には、上記なす角度は、Gaussian16より得た遷移双極子モーメントベクトルMと第1固有ベクトルeを用いて計算する。ベクトルの間の角度θとベクトル間の内積の関係
cos(θ)=e・M/(|e||M|)
を用いてθを得る。ここで|e|と|M|はそれぞれのベクトルの長さを意味する。
上記遷移モーメントの方向と第1固有ベクトルとのなす角度は、本発明の効果がより優れる点で、80.0°以上が好ましく、85.0°以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、90.0°以下の場合が多い。
【0028】
特定色素は、近赤外線領域の間に少なくとも1つの極大吸収波長(λmax)を有する。なかでも、本発明の効果がより優れる点で、極大吸収波長は、700~2000nmの間にあることが好ましく、700~1200nmの間にあることがより好ましく、700~900nmの間にあることがさらに好ましい。
なお、上記特定色素の極大吸収波長の測定方法としては、特定色素をクロロホルム中に、5~10μmol/L程度に溶解させた試料を石英セルに入れ、島津製作所(株)社製分光光度計UV-3100PCにて測定する方法が挙げられる。
【0029】
なお、不可視性付与の点から、特定色素は、可視光線領域になるべく吸収を持たないことが好ましい。具体的には、650nmにおける吸光係数をε(650)、極大吸収波長における吸光係数をε(λmax)としたときに、ε(λmax)に対するε(650)の比であるε(650)/ε(λmax)は、0.200以下が好ましく、0.100以下がより好ましく、0.050以下がさらに好ましい。下限は特に制限されないが、0.001以上の場合が多い。
上記特定色素のε(650)およびε(λmax)は、上記特定色素の極大吸収波長の測定方法で述べた方法によって得られるスペクトルから算出される。
【0030】
特定色素の種類は、色素骨格および色素骨格に結合するメソゲン基からなる構造部位を有し、かつ、上述した条件1および2を満たせば特に制限されないが、例えば、ピロロピロール系色素、ポリメチン系色素(例えば、シアニン、オキソノール、メロシアニン、スクアリリウム、および、クロコニウム)、環状π系色素(例えば、フタロシアニン、ナフタロシアニン、および、ポルフィリン)、リレン系色素(例えば、クアテリレン、および、ペンタリレン)、金属錯体系色素(例えば、ニッケルジチオール錯体)、カチオン系色素(例えば、トリアリールメタン、アミニウム、ピリリウム、および、ジインモニウム)、および、アジン系色素(例えば、クリジン、オキサジン、チアジン、ジアジン、ジオキサジン、および、ジオキサチアジン)が挙げられる。
メソゲン基とは、剛直かつ配向性を有する官能基である。メソゲン基の構造としては、例えば、芳香環基(芳香族炭化水素環基および芳香族複素環基)および脂環基からなる群から選択される基が、複数個、直接または連結基(例えば、後述するZで表される2価の基として例示される基。)を介して連なった構造が挙げられる。
【0031】
特定色素としては、本発明の効果がより優れる点で、式(1)で表される化合物が好ましい。
式(1) (W-X)p-D
式中、Dは、色素骨格を表す。色素骨格とは、特定色素中の近赤外線の吸収に主に寄与する主骨格部分である。
色素骨格の種類は特に制限されないが、ピロロピロール系色素骨格、ポリメチン系色素骨格、環状π系色素骨格、リレン系色素骨格、金属錯体系色素骨格、カチオン系色素骨格、および、アジン系色素骨格が挙げられる。各色素骨格の具体例は、上述した特定色素の種類の例示で述べた具体例の骨格が挙げられる。
なお、上記色素骨格としては、例えば、色素から任意のp個の水素原子を除いて得られる構造(基)が挙げられる。
【0032】
Wは、水素原子または置換基を表す。
置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、芳香族ヘテロ環オキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、芳香族ヘテロ環チオ基、スルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(例えば、ヘテロアリール基)、シリル基、およびこれらを組み合わせた基などが挙げられる。なお、上記置換基は、さらに置換基で置換されていてもよい。
なかでも、本発明の効果がより優れる点で、置換基としては、重合性基を有する基が挙げられる。重合性基の定義は、後述する液晶化合物が有していてもよい重合性基の定義と同義である。
重合性基を有する基としては、式(5)で表される基が挙げられる。式(5)中、*は結合位置を表す。
式(5) *-L-P
Lは、単結合、または2価の連結基が挙げられる。2価の連結基としては、例えば、2価の炭化水素基(例えば、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~10のアルケニレン基、および、炭素数1~10のアルキニレン基などの2価の脂肪族炭化水素基、アリーレン基などの2価の芳香族炭化水素基)、2価の複素環基、-O-、-S-、-NH-、-N(Q)-、-CO-、または、これらを組み合わせた基(例えば、-O-2価の炭化水素基-、-(O-2価の炭化水素基)m-O-(mは、1以上の整数を表す)、および、-2価の炭化水素基-O-CO-など)が挙げられる。Qは、水素原子またはアルキル基を表す。
Pは、重合性基を表す。
【0033】
Xは、式(2)で表されるメソゲン基を表す。
式(2) -(A-Z)n-A-
Aは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい2価の芳香族環基、または、置換基を有していてもよい2価の非芳香族環基を表す。
なお、式(1)中において、式(2)は以下のように配置されることが好ましい。
式(1) (W-(A-Z)n-A)p-D
【0034】
2価の芳香族環基としては、2価の芳香族炭化水素環基および2価の芳香族複素環基が挙げられ、2価の芳香族炭化水素環基が好ましい。2価の芳香族炭化水素環基としては、例えば、フェニレン基、および、ナフチレン基が挙げられる。
2価の非芳香族環基としては、2価の非芳香族炭化水素環基(脂環基)および2価の非芳香族複素環基が挙げられ、2価の非芳香族炭化水素環基(例えば、炭素数5~7のシクロアルキレン基)が好ましい。
2価の芳香族環基および2価の非芳香族環基が有していてもよい置換基としては、上述したWで例示した置換基の例が挙げられる。
【0035】
Zは、単結合、または、2価の連結基を表す。
2価の連結基としては、例えば、-CH2CH2-、-CH2O-、-CH2NR-、-CH=CH-、-CH=N-、-N=N-、-C≡C-、-COO-、-CONR-、-COOCH2CH2-、-CONRCH2CH2-、-OCOCH=CH-、および、-C≡C-C≡C-からなる群から選択される基を表す。
Rは、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表す。
また、Z中の水素原子のうち少なくとも1つ以上がフッ素原子で置き換わっていてもよい。
【0036】
nは1~10の整数を表す。なかでも、本発明の効果がより優れる点で、2~6の整数が好ましく、3~5の整数がより好ましい。
pは2以上の整数を表す。なかでも、本発明の効果がより優れる点で、2が好ましい。
なお、Wのうち少なくとも1つは置換基を表す。
【0037】
特定色素としては、本発明の効果がより優れる点で、式(3)で表される化合物が好ましい。
【0038】
【0039】
式中、R21は、それぞれ独立に、式(4)で表される基を表す。
式(4) W-X-*
Wは、水素原子または置換基を表す。Wの定義は、上述した通りである。
Xは、上述した式(2)で表されるメソゲン基を表す。式(2)で表されるメソゲン基の定義は、上述した通りである。
なお、Wのうち少なくとも1つは置換基を表す。
【0040】
R22およびR23は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表し、少なくとも一方は電子吸引性基を表す。なお、R22およびR23は、結合して環を形成してもよい。
R22およびR23で表される置換基としては、上述したWで例示した置換基の例が挙げられる。なお、R22およびR23で表される置換基としては、メソゲン基を有する基以外の基が好ましい。
【0041】
電子吸引性基としては、Hammettのσp値(シグマパラ値)が正の置換基を表し、例えば、シアノ基、アシル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、スルフィニル基、および、ヘテロ環基が挙げられる。
これら電子吸引性基はさらに置換されていてもよい。
ハメットの置換基定数σ値について説明する。ハメット則は、ベンゼン誘導体の反応または平衡に及ぼす置換基の影響を定量的に論ずるために1935年L.P.Hammettにより提唱された経験則であるが、これは今日広く妥当性が認められている。ハメット則に求められた置換基定数にはσp値とσm値があり、これらの値は多くの一般的な成書に見出すことができる。例えば、J.A.Dean編、「Lange’s Handbook of Chemistry」第12版,1979年(Mc Graw-Hill)や「化学の領域」増刊,122号,96~103頁,1979年(南光堂)、Chem.Rev.,1991年,91巻,165~195ページなどに詳しい。本発明において電子吸引性基としては、ハメットの置換基定数σp値が0.20以上の置換基が好ましい。σp値としては、0.25以上が好ましく、0.30以上がより好ましく、0.35以上がさらに好ましい。上限は特に制限はないが、0.80以下が好ましい。
具体例としては、シアノ基(0.66)、カルボキシル基(-COOH:0.45)、アルコキシカルボニル基(-COOMe:0.45)、アリールオキシカルボニル基(-COOPh:0.44)、カルバモイル基(-CONH2:0.36)、アルキルカルボニル基(-COMe:0.50)、アリールカルボニル基(-COPh:0.43)、アルキルスルホニル基(-SO2Me:0.72)、および、アリールスルホニル基(-SO2Ph:0.68)が挙げられる。
本明細書において、Meはメチル基を、Phはフェニル基を表す。なお、括弧内の値は代表的な置換基のσp値をChem.Rev.,1991年,91巻,165~195ページから抜粋したものである。
【0042】
R22およびR23が結合して環を形成する場合は、5~7員環(好ましくは5~6員環)の環を形成し、形成される環としては通常メロシアニン色素で酸性核として用いられるものが好ましい。
R22およびR23が結合して形成される環としては、1,3-ジカルボニル核、ピラゾリノン核、2,4,6-トリケトヘキサヒドロピリミジン核(チオケトン体も含む)、2-チオ-2,4-チアゾリジンジオン核、2-チオ-2,4-オキサゾリジンジオン核、2-チオ-2,5-チアゾリジンジオン核、2,4-チアゾリジンジオン核、2,4-イミダゾリジンジオン核、2-チオ-2,4-イミダゾリジンジオン核、2-イミダゾリン-5-オン核、3,5-ピラゾリジンジオン核、ベンゾチオフェン-3-オン核、またはインダノン核が好ましい。
【0043】
R23は、ヘテロ環基であることが好ましく、芳香族ヘテロ環基であることがより好ましい。ヘテロ環基は、単環であっても、多環であってもよい。ヘテロ環基としては、ピラゾール環基、チアゾール環基、オキサゾール環基、イミダゾール環基、オキサジアゾール環基、チアジアゾール環基、トリアゾール環基、ピリジン環基、ピリダジン環基、ピリミジン環基、ピラジン環基、これらのベンゾ縮環基(例えば、ベンゾチアゾール環基、ベンゾピラジン環基)もしくはナフト縮環基、または、これら縮環の複合体が好ましい。
上記ヘテロ環基には、置換基が置換していてもよい。置換基としては、上述したWで例示した置換基の例が挙げられる。
【0044】
R24は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、置換ホウ素(-B(Ra)2、Raは置換基を表す)、または、金属原子を表し、R21および/またはR23と共有結合もしくは配位結合してもよい。
R24で表される置換ホウ素の置換基としては、上述したWで例示した置換基の例が挙げられ、アルキル基、アリール基、または、ヘテロアリール基が好ましい。置換ホウ素の置換基(例えば、上述した、アルキル基、アリール基、または、ヘテロアリール基)は、さらに置換基で置換されていてもよい。置換基としては、上述したWで例示した置換基の例が挙げられる。
また、R24で表される金属原子は、遷移金属原子、マグネシウム原子、アルミニウム原子、カルシウム原子、バリウム原子、亜鉛原子、または、スズ原子が好ましく、アルミニウム原子、亜鉛原子、スズ原子、バナジウム原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子、パラジウム原子、イリジウム原子、または、白金原子がより好ましい。
【0045】
特定色素としては、本発明の効果がより優れる点で、式(6)で表される化合物がより好ましい。
【0046】
【0047】
R21の定義は、上述した通りである。
R22は、それぞれ独立に、シアノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、または、含窒素ヘテロアリール基を表す。
R25およびR26は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、または、ヘテロアリール基を表し、R25およびR26は結合して環を形成してよい。形成される環としては、炭素数5~10の脂環、炭素数6~10の芳香族炭化水素環、または、炭素数3~10の芳香族複素環が挙げられる。
R25およびR26が結合して形成される環には置換基が置換していてもよい。置換基としては、上述したWで例示した置換基の例が挙げられる。
R27およびR28は、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、または、ヘテロアリール基を表す。R27およびR28で表される基には、さらに置換基が置換してもよい。置換基としては、上述したWで例示した置換基の例が挙げられる。
Xは、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、-NR-、-CRR’-、-CH=CH-、または、-N=CH-を表し、RおよびR’は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、または、アリール基を表す。
【0048】
組成物中における特定色素の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、液晶化合物全質量に対して、1~50質量%が好ましく、2~30質量%がより好ましい。
【0049】
<液晶化合物>
液晶化合物の種類は特に制限されないが、その形状から、棒状タイプ(棒状液晶化合物)と円盤状タイプ(円盤状液晶化合物。ディスコティック液晶化合物)とに分類できる。さらにそれぞれ低分子タイプと高分子タイプとがある。高分子とは一般に重合度が100以上のものを指す(高分子物理・相転移ダイナミクス,土井 正男 著,2頁,岩波書店,1992)。なお、2種以上の棒状液晶化合物、2種以上の円盤状液晶化合物、または、棒状液晶化合物と円盤状液晶化合物との混合物を用いてもよい。
【0050】
液晶化合物の極大吸収波長の位置は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、紫外線領域に位置することが好ましい。
【0051】
液晶化合物は、逆波長分散性液晶化合物であることが好ましい。逆波長分散性液晶化合物とは、その化合物を用いて形成される光学異方性膜が逆波長分散性を示す化合物を意味する。光学異方性膜が逆波長分散性を示すとは、光学異方性膜の面内レタデーションが、測定波長が大きくなるにつれて大きくなることを意味する。
【0052】
光学特性の温度変化および湿度変化を小さくできることから、液晶化合物としては、重合性基を有する液晶化合物(以下、「重合性液晶化合物」ともいう。)が好ましい。液晶化合物は2種類以上の混合物でもよく、その場合、少なくとも1つが2以上の重合性基を有していることが好ましい。
つまり、光学異方性膜は、重合性液晶化合物を含む組成物が重合などによって固定されて形成された層であることが好ましく、この場合、層となった後はもはや液晶性を示す必要はない。
上記重合性基の種類は特に制限されず、ラジカル重合またはカチオン重合が可能な重合性基が好ましい。
ラジカル重合性基としては、公知のラジカル重合性基を用いることができ、アクリロイル基またはメタアクリロイル基が好ましい。
カチオン重合性基としては、公知のカチオン重合性基を用いることができ、具体的には、脂環式エーテル基、環状アセタール基、環状ラクトン基、環状チオエーテル基、スピロオルソエステル基、および、ビニルオキシ基などが挙げられる。なかでも、脂環式エーテル基またはビニルオキシ基が好ましく、エポキシ基、オキセタニル基、または、ビニルオキシ基がより好ましい。
特に、好ましい重合性基の例としては下記が挙げられる。
【0053】
【0054】
なかでも、液晶化合物としては、式(I)で表される化合物が好ましい。
式(I) L1-SP1-A1-D3-G1-D1-Ar-D2-G2-D4-A2-SP2-L2
上記式(I)中、D1、D2、D3およびD4は、それぞれ独立に、単結合、-O-CO-、-C(=S)O-、-CR1R2-、-CR1R2-CR3R4-、-O-CR1R2-、-CR1R2-O-CR3R4-、-CO-O-CR1R2-、-O-CO-CR1R2-、-CR1R2-O-CO-CR3R4-、-CR1R2-CO-O-CR3R4-、-NR1-CR2R3-、または、-CO-NR1-を表す。
【0055】
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、または、炭素数1~4のアルキル基を表す。
また、上記式(I)中、G1およびG2は、それぞれ独立に、炭素数5~8の2価の脂環式炭化水素基を表し、脂環式炭化水素基を構成する-CH2-の1個以上が-O-、-S-または-NH-で置換されていてもよい。
また、上記式(I)中、A1およびA2は、それぞれ独立に、単結合、炭素数6以上の芳香環、または、炭素数6以上のシクロアルキレン環を表す。
また、上記式(I)中、SP1およびSP2は、それぞれ独立に、単結合、炭素数1~14の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基、または、炭素数1~14の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を構成する-CH2-の1個以上が-O-、-S-、-NH-、-N(Q)-、もしくは、-CO-に置換された2価の連結基を表し、Qは、重合性基を表す。
また、上記式(I)中、L1およびL2は、それぞれ独立に1価の有機基(例えば、アルキル基、または、重合性基)を表す。
なお、Arが後述する式(Ar-1)、式(Ar-2)、式(Ar-4)、または、式(Ar-5)で表される基である場合、L1およびL2の少なくとも一方は重合性基を表す。また、Arが、後述する式(Ar-3)で表される基である場合は、L1およびL2ならびに下記式(Ar-3)中のL3およびL4の少なくとも1つが重合性基を表す。
【0056】
上記式(I)中、G1およびG2が示す炭素数5~8の2価の脂環式炭化水素基としては、5員環または6員環が好ましい。また、脂環式炭化水素基は、飽和脂環式炭化水素基でも不飽和脂環式炭化水素基でもよいが、飽和脂環式炭化水素基が好ましい。G1およびG2で表される2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、特開2012-21068号公報の段落0078の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0057】
上記式(I)中、A1およびA2が示す炭素数6以上の芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、および、フェナンスロリン環などの芳香族炭化水素環;フラン環、ピロール環、チオフェン環、ピリジン環、チアゾール環、および、ベンゾチアゾール環などの芳香族複素環;が挙げられる。なかでも、ベンゼン環(例えば、1,4-フェニル基など)が好ましい。
また、上記式(I)中、A1およびA2が示す炭素数6以上のシクロアルキレン環としては、例えば、シクロヘキサン環、および、シクロヘキセン環などが挙げられ、なかでも、シクロヘキサン環(例えば、シクロヘキサン-1,4-ジイル基など)が好ましい。
【0058】
上記式(I)中、SP1およびSP2が示す炭素数1~14の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、または、ブチレン基が好ましい。
【0059】
上記式(I)中、L1およびL2で表される重合性基は、特に制限されないが、ラジカル重合性基(ラジカル重合可能な基)またはカチオン重合性基(カチオン重合可能な基)が好ましい。
ラジカル重合性基の好適範囲は、上述の通りである。
【0060】
一方、上記式(I)中、Arは、下記式(Ar-1)~(Ar-7)で表される基からなる群から選択されるいずれかの芳香環を表す。なお、下記式(Ar-1)~(Ar-7)中、*1はD1との結合位置を表し、*2はD2との結合位置を表す。
【0061】
【0062】
【0063】
ここで、上記式(Ar-1)中、Q1は、NまたはCHを表し、Q2は、-S-、-O-、または、-N(R5)-を表し、R5は、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表し、Y1は、置換基を有してもよい、炭素数6~12の芳香族炭化水素環基、または、炭素数3~12の芳香族複素環基を表す。
R5が示す炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、および、n-ヘキシル基などが挙げられる。
Y1が示す炭素数6~12の芳香族炭化水素環基としては、例えば、フェニル基、2,6-ジエチルフェニル基、および、ナフチル基などのアリール基が挙げられる。
Y1が示す炭素数3~12の芳香族複素環基としては、例えば、チエニル基、チアゾリル基、フリル基、ピリジル基、および、ベンゾフリル基などのヘテロアリール基が挙げられる。なお、芳香族複素環基には、ベンゼン環と芳香族複素環とが縮合した基も含まれる。
また、Y1が有していてもよい置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、アルキルスルホニル基、アルキルオキシカルボニル基、シアノ基、および、ハロゲン原子などが挙げられる。
アルキル基としては、例えば、炭素数1~18の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、および、シクロヘキシル基)がより好ましく、炭素数1~4のアルキル基がさらに好ましく、メチル基またはエチル基が特に好ましい。
アルコキシ基としては、例えば、炭素数1~18のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~8のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-ブトキシ基、および、メトキシエトキシ基)がより好ましく、炭素数1~4のアルコキシ基がさらに好ましく、メトキシ基またはエトキシ基が特に好ましい。
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、および、ヨウ素原子などが挙げられ、フッ素原子、または、塩素原子が好ましい。
【0064】
また、上記式(Ar-1)~(Ar-7)中、Z1、Z2およびZ3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~20の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素環基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、-NR6R7、または、-SR8を表し、R6~R8は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表し、Z1およびZ2は、互いに結合して環を形成してもよい。環は、脂環式、複素環、および、芳香環のいずれであってもよく、芳香環であることが好ましい。なお、形成される環には、置換基が置換していてもよい。
炭素数1~20の1価の脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~15のアルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ペンチル基(1,1-ジメチルプロピル基)、tert-ブチル基、または、1,1-ジメチル-3,3-ジメチル-ブチル基がさらに好ましく、メチル基、エチル基、または、tert-ブチル基が特に好ましい。
炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基、メチルシクロヘキシル基、および、エチルシクロヘキシル基などの単環式飽和炭化水素基;シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、シクロオクテニル基、シクロデセニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキサジエニル基、シクロオクタジエニル基、および、シクロデカジエン基などの単環式不飽和炭化水素基;ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.2]オクチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デシル基、トリシクロ[3.3.1.13,7]デシル基、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデシル基、および、アダマンチル基などの多環式飽和炭化水素基;が挙げられる。
炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素環基としては、例えば、フェニル基、2,6-ジエチルフェニル基、ナフチル基、および、ビフェニル基などが挙げられ、炭素数6~12のアリール基(特にフェニル基)が好ましい。
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、および、ヨウ素原子などが挙げられ、フッ素原子、塩素原子、または、臭素原子が好ましい。
一方、R6~R8が示す炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、および、n-ヘキシル基などが挙げられる。
【0065】
また、上記式(Ar-2)および(Ar-3)中、A3およびA4は、それぞれ独立に、-O-、-N(R9)-、-S-、および、-CO-からなる群から選択される基を表し、R9は、水素原子または置換基を表す。
R9が示す置換基としては、上記式(Ar-1)中のY1が有していてもよい置換基と同様のものが挙げられる。
【0066】
また、上記式(Ar-2)中、Xは、水素原子または置換基が結合していてもよい第14族~第16族の非金属原子を表す。
また、Xが示す第14族~第16族の非金属原子としては、例えば、酸素原子、硫黄原子、置換基を有する窒素原子、および、置換基を有する炭素原子が挙げられ、置換基としては、上記式(Ar-1)中のY1が有していてもよい置換基と同様のものが挙げられる。
【0067】
また、上記式(Ar-3)中、D5およびD6は、それぞれ独立に、単結合、-O-CO-、-C(=S)O-、-CR1R2-、-CR1R2-CR3R4-、-O-CR1R2-、-CR1R2-O-CR3R4-、-CO-O-CR1R2-、-O-CO-CR1R2-、-CR1R2-O-CO-CR3R4-、-CR1R2-CO-O-CR3R4-、-NR1-CR2R3-、または、-CO-NR1-を表す。R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、または、炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0068】
また、上記式(Ar-3)中、SP3およびSP4は、それぞれ独立に、単結合、炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基、または、炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を構成する-CH2-の1個以上が-O-、-S-、-NH-、-N(Q)-、もしくは、-CO-に置換された2価の連結基を表し、Qは、重合性基を表す。
【0069】
また、上記式(Ar-3)中、L3およびL4は、それぞれ独立に1価の有機基(例えば、アルキル基、または、重合性基)を表し、上述したように、L3およびL4ならびに上記式(I)中のL1およびL2の少なくとも1つが重合性基を表す。
【0070】
また、上記式(Ar-4)~(Ar-7)中、Axは、芳香族炭化水素環および芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも1つの芳香環を有する、炭素数2~30の有機基を表す。
また、上記式(Ar-4)~(Ar-7)中、Ayは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、または、芳香族炭化水素環および芳香族複素環からなる群から選択される少なくとも1つの芳香環を有する、炭素数2~30の有機基を表す。
ここで、AxおよびAyにおける芳香環は、置換基を有していてもよく、AxとAyとが結合して環を形成していてもよい。
また、Q3は、水素原子、または、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基を表す。
AxおよびAyとしては、WO2014/010325号の段落0039~0095に記載されたものが挙げられる。
また、Q3が示す炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、および、n-ヘキシル基などが挙げられ、置換基としては、上記式(Ar-1)中のY1が有していてもよい置換基と同様のものが挙げられる。
【0071】
なかでも、本発明の効果がより優れる点で、A1およびA2の少なくとも一方が、炭素数6以上のシクロアルキレン環であることが好ましく、A1およびA2の一方が、炭素数6以上のシクロアルキレン環であることがより好ましい。
【0072】
組成物中における液晶化合物の含有量は特に制限されないが、組成物中の全固形分に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、90質量%以下の場合が多い。
なお、組成物中の全固形分には、溶媒は含まれない。
【0073】
なお、組成物は、さらに順波長分散性液晶化合物を含んでいてもよい。順波長分散性液晶化合物とは、その化合物を用いて形成される光学異方性膜が順波長分散性を示す化合物を意味する。光学異方性膜が順波長分散性を示すとは、光学異方性膜の面内レタデーションが、測定波長が大きくなるにつれて小さくなることを意味する。
順波長分散性液晶化合物を加えることで、組成物の波長分散を調節し、より理想波長分散に近い波長分散性を付与することが可能となる。
【0074】
<ポリマー>
ポリマーの種類は特に制限されないが、逆波長分散性ポリマーであることが好ましい。逆波長分散性ポリマーとは、そのポリマーを用いて形成される光学異方性膜が逆波長分散性を示すポリマーを意味する。
ポリマーの好適態様の1つとしては、式(7)で表される繰り返し単位および式(8)で表される繰り返し単位からなる群から選択される1種以上の繰り返し単位を含むポリマーが挙げられる。
【0075】
【0076】
式(7)および式(8)中、R31~R33は、それぞれ独立に、直接結合、置換基を有していてもよい炭素数1~4のアルキレン基を表す。
R34~R39は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数4~10のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4~10のヘテロアリール基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアシルオキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のビニル基、置換基を有していてもよい炭素数1~10のエチニル基、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、またはシアノ基を表す。但し、R34~R39のうち隣接する少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。
また、式(7)に含まれる2つのR34、R35、R36、R37、R38およびR39は、互いに同一であっても、異なっていてもよい。同様に、式(8)に含まれる2つのR34、R35、R36、R37、R38およびR39は、互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0077】
ポリマーの他の好適態様としては、式(9)で表される繰り返し単位および式(11)で表される繰り返し単位を含むポリマーが挙げられる。
【0078】
【0079】
【0080】
式(9)中、R41~R48は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1~6の炭化水素基を表す。
Xは、式(10)で表される基を表す。式(10)中、*は結合位置を表す。
【0081】
【0082】
式(11)中、R51~R58は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1~22の炭化水素基を表す。
Yは、-C(R61)(R62)-、式(12)で表される基、-Si(R67)(R68)-、-SO2-、-S-、2価の脂肪族炭化水素基、-C(CH3)2-フェニレン基-C(CH3)2-、-CO-O-L-O-CO-を表す。
式(12)中、*は結合位置を表す。
【0083】
【0084】
R61、R62、R67およびR68は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1~22の炭化水素基(例えば、炭素数6~10のアリール基)を表す。
R63~R66は、それぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を表す。
Lは、2価の脂肪族炭化水素基を表す。
【0085】
ポリマー中における式(9)で表される繰り返し単位の含有量は特に制限されないが、全繰り返し単位に対して、30~90モル%が好ましい。
ポリマー中における式(11)で表される繰り返し単位の含有量は特に制限されないが、全繰り返し単位に対して、10~70モル%が好ましい。
【0086】
ポリマーの他の好適態様としては、セルロースアシレートが挙げられる。
セルロースアシレートとしては、セルロースの低級脂肪酸エステルが好ましい。低級脂肪酸とは、炭素数が6以下の脂肪酸を意味する。脂肪酸の炭素数は、2(セルロースアセテート)、3(セルロースプロピオネート)、または、4(セルロースブチレート)であることが好ましい。なお、セルロースアセテートプロピオネートおよびセルロースアセテートブチレートのような混合脂肪酸エステルを用いてもよい。
セルロースアセテートの酢化度は、55.0~62.5%が好ましく、57.0~62.0%がより好ましく、58.5~61.5%がさらに好ましい。
酢化度は、セルロース単位質量当たりの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D-817-91(セルロースアセテートなどの試験法)におけるアセチル化度の測定および計算に従う。
【0087】
なお、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いる場合、可塑剤、劣化防止剤、レタデーション上昇剤、および、紫外線吸収剤などの添加剤を合わせて用いてもよい。
上記添加剤に関しては、特開2004-050516号公報に例示される添加剤が挙げられる。
【0088】
組成物中におけるポリマーの含有量は特に制限されないが、組成物中の全固形分に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、98質量%以下の場合が多い。
なお、組成物中の全固形分には、溶媒は含まれない。
【0089】
<他の成分>
上記組成物は、上述した特定色素、液晶化合物およびポリマー以外の成分を含んでいてもよい。
組成物は、重合開始剤を含んでいてもよい。使用される重合開始剤は、重合反応の形式に応じて選択され、例えば、熱重合開始剤、および、光重合開始剤が挙げられる。例えば、光重合開始剤としては、α-カルボニル化合物、アシロインエーテル、α-炭化水素置換芳香族アシロイン化合物、多核キノン化合物、および、トリアリールイミダゾールダイマーとp-アミノフェニルケトンとの組み合わせなどが挙げられる。
組成物中における重合開始剤の含有量は、組成物の全固形分に対して、0.01~20質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましい。
【0090】
また、組成物は、重合性モノマーを含んでいてもよい。
重合性モノマーとしては、ラジカル重合性またはカチオン重合性の化合物が挙げられる。なかでも、多官能性ラジカル重合性モノマーが好ましい。また、重合性モノマーとしては、上記の重合性基を有する液晶化合物と共重合性のモノマーが好ましい。例えば、特開2002-296423号公報中の段落0018~0020に記載の重合性モノマーが挙げられる。
組成物中における重合性モノマーの含有量は、液晶化合物の全質量に対して、1~50質量%が好ましく、2~30質量%がより好ましい。
【0091】
また、組成物は、界面活性剤を含んでいてもよい。
界面活性剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、フッ素系化合物が好ましい。例えば、特開2001-330725号公報中の段落0028~0056に記載の化合物、および、特願2003-295212号明細書中の段落0069~0126に記載の化合物が挙げられる。
【0092】
また、組成物は、溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、アミド(例:N,N-ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例:ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例:ピリジン)、炭化水素(例:ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例:クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル(例:酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル)、ケトン(例:アセトン、メチルエチルケトン)、および、エーテル(例:テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン)が挙げられる。なお、2種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0093】
また、組成物は、垂直配向剤、および、水平配向剤などの各種配向制御剤を含んでいてもよい。これらの配向制御剤は、界面側において液晶化合物を水平または垂直に配向制御可能な化合物である。
さらに、組成物は、上記成分以外に、密着改良剤、および、可塑剤を含んでいてもよい。
【0094】
<製造方法>
本発明の光学異方性膜の製造方法は特に制限されず、公知の方法が挙げられる。
なかでも、面内レタデーションの制御がしやすい点から、重合性液晶化合物および特定色素を含む組成物を塗布して塗膜を形成し、塗膜に配向処理を施して重合性液晶化合物を配向させ、得られた塗膜に対して硬化処理(紫外線の照射(光照射処理)または加熱処理)を施して、光学異方性膜を形成する方法が好ましい。
以下、上記方法の手順について詳述する。
【0095】
まず、支持体上に、組成物を塗布して塗膜を形成し、塗膜に配向処理を施して重合性液晶化合物を配向させる。
使用される組成物は、重合性液晶化合物を含む。重合性液晶化合物の定義は、上述した通りである。
【0096】
使用される支持体は、組成物を塗布するための基材として機能を有する部材である。支持体は、組成物を塗布および硬化させた後に剥離される仮支持体であってもよい。
支持体(仮支持体)としては、プラスチックフィルムの他、ガラス基板を用いてもよい。プラスチックフィルムを構成する材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、セルロース誘導体、シリコーン樹脂、および、ポリビニルアルコール(PVA)などが挙げられる。
支持体の厚みは、5~1000μm程度であればよく、10~250μmが好ましく、15~90μmがより好ましい。
【0097】
なお、必要に応じて、支持体上には、配向層を配置してもよい。
配向層は、一般的には、ポリマーを主成分とする。配向層用ポリマーとしては、多数の文献に記載があり、多数の市販品を入手できる。配向層用ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリイミド、または、その誘導体が好ましい。
なお、配向層には、公知のラビング処理が施されることが好ましい。
配向層の厚みは、0.01~10μmが好ましく、0.01~1μmがより好ましい。
【0098】
組成物の塗布方法としては、カーテンコーティング法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、印刷コーティング法、スプレーコーティング法、スロットコーティング法、ロールコーティング法、スライドコーティング法、ブレードコーティング法、グラビアコーティング法、および、ワイヤーバー法が挙げられる。いずれの方法で塗布する場合においても、単層塗布が好ましい。
【0099】
支持体上に形成された塗膜に、配向処理を施して、塗膜中の重合性液晶化合物を配向させる。重合性液晶化合物の配向に伴って、特定色素も所定の方向に配向する傾向にある。
配向処理は、室温により塗膜を乾燥させる、または、塗膜を加熱することにより行うことができる。配向処理で形成される液晶相は、サーモトロピック性液晶化合物の場合、一般に温度または圧力の変化により転移させることができる。リオトロピック性液晶化合物の場合には、溶媒量などの組成比によっても転移させることができる。
なお、塗膜を加熱する場合の条件は特に制限されないが、加熱温度としては50~250℃が好ましく、50~150℃がより好ましく、加熱時間としては10秒間~10分間が好ましい。
また、塗膜を加熱した後、後述する硬化処理(光照射処理)の前に、必要に応じて、塗膜を冷却してもよい。冷却温度としては20~200℃が好ましく、30~150℃がより好ましい。
【0100】
次に、重合性液晶化合物が配向された塗膜に対して硬化処理を施す。
重合性液晶化合物が配向された塗膜に対して実施される硬化処理の方法は特に制限されず、例えば、光照射処理および加熱処理が挙げられる。なかでも、製造適性の点から、光照射処理が好ましく、紫外線照射処理がより好ましい。
光照射処理の照射条件は特に制限されないが、50~1000mJ/cm2の照射量が好ましい。
【0101】
上記製造方法において、各種条件を調整することにより、特定色素の配置状態などを調整でき、結果として光学異方性膜の光学特性を調整できる。
例えば、支持体上に組成物を塗布して塗膜を形成した後の液晶化合物を配向させる際の加熱温度、および、加熱した後に冷却する際の冷却温度を調整することにより、特定色素の配置状態などを調整でき、結果として光学異方性膜の光学特性を調整できる。
【0102】
本発明の光学異方性膜の製造方法の他の態様としては、ポリマーおよび特定色素を含む組成物を用いて未延伸フィルムを形成し、得られた未延伸フィルムを延伸配向させて、延伸フィルムである光学異方性膜を形成する方法が挙げられる。
未延伸フィルムを形成する方法としては、ポリマー、特定色素および溶媒を含む組成物を塗布して、その後溶媒を除去して、未延伸フィルムを形成する方法、および、溶媒を用いずにポリマーおよび特定色素を含む固形分を溶融させて製膜する方法が挙げられる。
延伸方法としては、縦一軸延伸、横一軸延伸、または、それらを組み合わせた同時二軸延伸もしくは逐次二軸延伸などの公知の方法が挙げられる。
【0103】
(用途)
上述した光学異方性膜は、種々の用途に適用でき、例えば、光学異方性膜の面内レタデーションを調整して、いわゆるλ/4板またはλ/2板として用いることもできる。
なお、λ/4板とは、ある特定の波長の直線偏光を円偏光に(または、円偏光を直線偏光に)変換する機能を有する板である。より具体的には、所定の波長λnmにおける面内レタデーションReがλ/4(または、この奇数倍)を示す板である。
λ/4板の波長550nmでの面内レタデーション(Re(550))は、理想値(137.5nm)を中心として、25nm程度の誤差があってもよく、例えば、110~160nmであることが好ましく、120~150nmであることがより好ましい。
また、λ/2板とは、特定の波長λnmにおける面内レタデーションRe(λ)がRe(λ)≒λ/2を満たす光学異方性膜のことをいう。この式は、可視光線領域のいずれかの波長(例えば、550nm)において達成されていればよい。なかでも、波長550nmにおける面内レタデーションRe(550)が、以下の関係を満たすことが好ましい。
210nm≦Re(550)≦300nm
【0104】
光学異方性膜においては、近赤外線吸収色素の極大吸収波長における光学異方性膜の配向秩序度S0は特に制限されないが、光学異方性膜を有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置の反射防止膜として適用した際に、有機EL表示装置の輝度がより優れる点で、式(B)の関係を満たすことが好ましい。
式(B) 0.2<S0<1.0
【0105】
本明細書において、波長λnmにおける光学異方性膜の配向秩序度S0(λ)は、式(C)で表される値である。
式(C) S0(λ)={2・(Ap-Av)}/{(Ap+2Av)・(3cos2θ-1)}
式(C)中、Apは、光学異方性膜の遅相軸方向に対して平行方向に偏光した光に対する吸光度を表す。Avは、光学異方性膜の遅相軸方向に対して直交方向に偏光した光に対する吸光度を示す。θは、上記にて求めた遷移モーメントの方向と第1固有ベクトルとのなす角度を示す。
光学異方性膜のApおよびAvは、光学異方性膜の偏光吸収測定により求めることができる。なお、上記測定は、赤外線用偏光子を備えた分光光度計(MPC-3100(SHIMADZU製))を用いて実施できる。λは、光学異方性膜の吸収測定で得られた吸収スペクトルの極大吸収波長である。
【0106】
光学異方性膜、および、この光学異方性膜を含む光学フィルムは、表示装置中に含まれていてもよい。つまり、光学異方性膜のより具体的な用途としては、例えば、液晶セルを光学補償するための光学補償フィルム、および、有機エレクトロルミネッセンス表示装置などの表示装置に用いられる反射防止膜が挙げられる。
なかでも、光学フィルムの好ましい態様として、光学異方性膜と偏光子とを含む円偏光板が挙げられる。この円偏光板は、上記反射防止膜として好適に使用できる。つまり、表示素子(例えば、有機エレクトロルミネッセンス表示素子)と、表示素子上に配置された円偏光板とを有する表示装置においては、反射色味がより抑制できる。
また、本発明の光学異方性膜は、IPS(In Plane Switching)型液晶表示装置の光学補償フィルムに好適に用いられ、斜め方向から視認した時の色味変化および黒表示時の光漏れを改善できる。
【0107】
光学異方性膜を含む光学フィルムとしては、上述したように、偏光子と光学異方性膜とを含む円偏光板が挙げられる。
偏光子は、光を特定の直線偏光に変換する機能を有する部材(直線偏光子)であればよく、主に、吸収型偏光子を利用できる。
吸収型偏光子としては、ヨウ素系偏光子、二色性染料を利用した染料系偏光子、およびポリエン系偏光子などが挙げられる。ヨウ素系偏光子および染料系偏光子には、塗布型偏光子と延伸型偏光子とがあり、いずれも適用できるが、ポリビニルアルコールにヨウ素または二色性染料を吸着させ、延伸して作製される偏光子が好ましい。
偏光子の吸収軸と光学異方性膜の遅相軸との関係は特に制限されないが、光学異方性膜がλ/4板であり、光学フィルムが円偏光フィルムとして用いられる場合は、偏光子の吸収軸と光学異方性膜の遅相軸とのなす角は、45°±10°が好ましい。
【実施例】
【0108】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、および、処理手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更できる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0109】
<近赤外線吸収色素の合成>
(近赤外線吸収色素D-1の合成)
近赤外線吸収色素D-1を以下のスキームに従って合成した。ピロロピロールホウ素錯体p-1は、WO2017/146092号の段落0271~0272に記載の化合物A-15の合成法に従って合成した。カルボン酸c-1は、特開2016-081035号公報の段落0122~0125に記載の化合物I-4Cの合成法に従って合成した。なお、下記カルボン酸c-1および近赤外線吸収色素D-1の構造式中のアクリロイルオキシ基に隣接する基は、プロピレン基(メチル基がエチレン基に置換した基)を表し、下記カルボン酸c-1および近赤外線吸収色素D-1はメチル基の位置が異なる位置異性体の混合物を表す。
ピロロピロールホウ素錯体p-1(2.00g、1.96mmol)、カルボン酸c-1(3.95g、7.83mmol)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(1.65g、8.61mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(0.13g、1.06mmol)、ジブチルヒドロキシトルエン(40mg、0.18mmol)、および、N,N-ジメチルアセトアミド(60ml)を室温にて混合した。得られた混合液を70℃に昇温し、2時間撹拌した後、室温まで降温した。この混合液に、メタノール(200ml)を滴下し、析出した結晶をろ過により回収した。得られた結晶をクロロホルム(100ml)に再溶解し、得られた溶液にメタノール(200ml)およびヘキサン(100ml)を加えて、再結晶を行い、沈殿した結晶をろ過により集めることで、緑色固体の近赤外線吸収色素D-1(3.75g、1.88mmol)を得た(収率96%)。近赤外線吸収色素D-1の構造は、1H-NMRにより同定した。
1H-NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.29(t,6H),1.69(m,8H),2.30(m,8H), 2.61(m,12H),2.95(t,4H),3.29(s,6H),4.10-4.32(m,8H),5.20(m,2H),5.85(dd,2H),6.12(ddd,2H),6.41(dd,2H),6.59(d,6H),6.68(m,6H),7.01(d,4H),7.20(m,16H),7.30(m,12H)
【0110】
【0111】
(近赤外線吸収色素D-2の合成)
ピロロピロールホウ素錯体p-1の代わりに、下記ピロロピロールホウ素錯体p-2を用い、上記近赤外線吸収色素D-1の合成法と同様の方法で近赤外線吸収色素D-2を合成した。
なお、ピロロピロールホウ素錯体p-2は、WO2017/146092号の段落0267に記載の化合物A-9の合成法に従って合成した。近赤外線吸収色素D-2の構造は、1H-NMRにより同定した。
1H-NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.29(t,6H),1.70(m,8H),2.32(m,8H),2.61(m,12H),2.95(t,4H),4.10-4.32(m,8H),5.20(m,2H),5.85(dd,2H),6.12(ddd,2H),6.41(dd,2H),6.59(d,4H),6.68(m,4H),7.00-7.22(m,22H),7.30(m,12H),7.50(d,2H)
【0112】
【0113】
【0114】
(近赤外線吸収色素D-3の合成)
近赤外線吸収色素D-3を以下のスキームに従って合成した。カルボン酸a-1は、WO2018/124198号の段落0088~0091に記載の化合物P1-1の合成法に従って合成した。
【0115】
【0116】
[化合物a-2の合成]
カルボン酸a-1(10.0g、30.8mmol)、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(12.0mg、0.77mmol)、トルエン(20ml)、および、N,N-ジメチルアセトアミド(5.5ml)を室温にて混合した。得られた混合液を-5℃に降温し、塩化チオニル(3.52g、29.6mmol)を混合液に滴下した。得られた混合液を内温-5~3℃にて1時間撹拌した後、2-(4-ヒドロキシフェニル)エタノール(3.55g、25.7mmol)およびN,N-ジメチルアセトアミド(13.0ml)の混合物を滴下した。得られた混合液を52℃に昇温し、7時間撹拌した後、室温まで降温した。この混合液に、蒸留水およびトルエンを加えて分液抽出を行った。有機層を1N塩酸水で洗い、その後、飽和重曹水で2回洗い、さらに飽和食塩水で洗い、得られた有機層を硫酸マグネシウムにて乾燥した。その後、得られた溶液からろ過により硫酸マグネシウムを除去して、溶液から溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物を、酢酸エチル-ヘキサンを溶媒に用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィによる精製を行い、白色固体の化合物a-2(6.03g、13.6mmol)得た(収率:53%)。
【0117】
[カルボン酸c-2の合成]
化合物a-2(4.46g、10.0mmol)、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド(6.29g、30.0mmol)、ジブチルヒドロキシトルエン(66.0mg、0.30mmol)、および、テトラヒドロフラン67.0mLを室温にて混合した。得られた混合液を3℃に降温し、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(2.59g、20.0mmol)を滴下した後、得られた混合液を1時間撹拌した。得られた混合液にメタンスルホン酸(130μl)を加え、不溶解物をろ過した後、10%炭酸カリウム水(12.5g)を加えて分液抽出を行った。有機層を17%炭酸カリウム水(20.4g)で洗い、得られた有機層を硫酸マグネシウムにて乾燥した。その後、得られた溶液からろ過により硫酸マグネシウムを除去して、溶液から溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物を、酢酸エチル-ヘキサンを溶媒に用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィによる精製を行い、白色固体のカルボン酸c-2(2.06g、3.43mmol)を得た(収率:34.3%)。
【0118】
(近赤外線吸収色素D-3の合成)
カルボン酸c-1の代わりに、カルボン酸c-2を用い、上記近赤外線吸収色素D-1の合成法と同様の方法で近赤外線吸収色素D-3を合成した。近赤外線吸収色素D-3の構造は、1H-NMRにより同定した。
1H-NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.69(m,8H),2.30(m,8H), 2.59(m,4H),3.05(t,4H),3.29(s,6H),3.65-3.80(m,12H),3.89(t,4H),4.18(t,4H),4.33(t,4H),4.50(t,4H),5.82(d,2H),6.15(dd,2H),6.40(d,2H),6.59(m,6H),6.68(m,6H),6.92(d,4H),7.04(d,4H),7.20(m,12H),7.30(m,14H),7.94(d,4H)
【0119】
(近赤外線吸収色素D-4の合成)
ピロロピロールホウ素錯体p-1の代わりに、下記ピロロピロールホウ素錯体p-3を用い、上記近赤外線吸収色素D-1の合成法と同様の方法で近赤外線吸収色素D-4を合成した。なお、ピロロピロールホウ素錯体p-3は、WO2017/146092号の段落0286~0289に記載の化合物A-cの合成法に従って合成した。近赤外線吸収色素D-4の構造は、1H-NMRにより同定した。
1H-NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.29(t,6H),1.74(m,8H),2.35(m,8H), 2.62(m,12H),2.95(t,4H),4.10-4.32(m,8H),5.20(m,2H),5.85(dd,2H),6.12(ddd,2H),6.30(d,4H),6.41(dd,2H),6.80(d,4H),7.04(d,4H),7.21(m,16H),7.30(m,8H),7.70(s,2H),8.25(s,2H),9.01(s,2H)
【0120】
【0121】
【0122】
(近赤外線吸収色素D-5の合成)
近赤外線吸収色素D-5を以下のスキームに従って合成した。
【0123】
【0124】
[化合物a-3の合成)
5-ブロモ-n-吉草酸(10.86g、60mmol)、THF(テトラヒドロフラン)(108ml)、および、トリエチルアミン(7.89g、78mmol)を混合し、得られた混合液を氷冷した。氷冷された混合液にクロロメチルエチルエーテル(7.37g、78mmol)を滴下し、20℃以下の温度を保ったまま3時間撹拌した。得られた混合液に水(0.8ml)を加えて30分程度撹拌した後、ターシャリーブチルメチルエーテル(108ml)および1%重曹水(108ml)を加えて分液抽出を行った。得られた有機層を食塩水で洗い、得られた有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥した。その後、得られた溶液からろ過により硫酸ナトリウムを除去して、溶液から溶媒を留去し、オイル状の化合物a-3(14.36g、60.0mmol)を得た(収率:100%)。
【0125】
[ピロロピロールホウ素錯体p-4の合成]
化合物a-3(11.1g、46.4mmol)、ピロロピロールホウ素錯体p-1(5.92g、5.8mmol)、炭酸カリウム(32.0g、232mmol)、THF(30ml)、および、N,N-ジメチルアセトアミド(30ml)を室温にて混合した。得られた混合液を80℃に昇温し、4時間撹拌後、室温まで降温した。得られた混合液からTHFを減圧留去した後に、アセトニトリル(48ml)を加えて、結晶を晶析した。析出した結晶をろ過により回収して、結晶をアセトニトリルで洗浄後、酢酸(76ml)に溶解させ、得られた溶液に30%臭化水素酢酸溶液(6.6ml)を加え、溶液を60℃にて2時間撹拌した。溶液を20℃以下まで降温後、析出した結晶をろ過により回収して、アセトニトリルで洗浄した。得られた結晶をTHF(50ml)および水(80ml)中で懸濁洗浄し、再度ろ過により回収した後、アセトニトリルで洗浄することで、緑色結晶のピロロピロールホウ素錯体p-4(4.86g、4.0mmol)を得た(収率:69%)。
【0126】
(近赤外線吸収色素D-5の合成)
ピロロピロールホウ素錯体p-4(0.61g、0.50mmol)、1-ヘキサデカノール(0.72g、3.0mmol)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(0.64g、3.3mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(75mg、0.60mmol)、ジブチルヒドロキシトルエン(25mg、0.11mmol)、THF(10ml)、および、N,N-ジメチルアセトアミド(10ml)を室温にて混合した。得られた混合液を70℃に昇温し、2時間撹拌した後、室温まで降温した。この混合液にメタノール(30ml)を滴下し、析出した結晶をろ過により回収して、メタノールで洗浄することで、緑色固体の近赤外線吸収色素D-5(0.13g、0.078mmol)を得た(収率:16%)。近赤外線吸収色素D-5の構造は、1H-NMRにより同定した。
1H-NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):0.89(t,6H),1.29(m,52H),1.65(m,4H),1.85(m,8H),2.42(m,4H),3.29(s,6H),3.93(m,4H),4.10(t,4H),6.46(m,10H),6.69(d,2H),7.15(m,12H),7.23-7.35(m,10H)
【0127】
(近赤外線吸収色素D-6の合成)
カルボン酸c-1の代わりに、4-ヘキサデシルオキシ安息香酸を用い、上記近赤外線吸収色素D-1の合成法と同様の方法で近赤外線吸収色素D-6を合成した。近赤外線吸収色素D-6の構造は、1H-NMRにより同定した。
1H-NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):0.89(t,6H),1.29(m,48H),1.49(m,4H),1.82(m,4H),3.29(s,6H),4.10(t,4H),6.61(m,6H),6.70(d,2H),6.81(d,4H),6.98(d,4H),7.11-7.29(m,12H),7.32(m,10H),8.18(d,4H)
【0128】
【0129】
<溶液吸収スペクトル測定>
近赤外線吸収色素D-1~D-6の溶液吸収スペクトルを、島津製作所(株)社製分光光度計UV-3100PCを用いて測定した。溶媒としてクロロホルムを用い、所定量(5~10μmol/L)の化合物を溶かした溶液を、1cmセルにて測定し、得られたスペクトルと分子量からλmax、λmaxにおける吸光係数ε(λmax)および波長650nmにおける吸光係数ε(650)を算出した。なお、λmaxは600nm以上の領域における最大吸光係数を示す波長を表す。結果を表1に示す。
【0130】
<密度汎関数計算による最安定構造の算出および主成分分析>
近赤外線吸収色素D-1~D-6の色素骨格および色素骨格に結合するメソゲン基からなる部位(構造部位)を抽出し、Gaussian社製Gaussian16を用いて密度汎関数計算による構造最適化を行った。密度汎関数の汎関数はB3LYP、基底関数は6-31G(d)、その他のパラメーターはGaussian16のデフォルト値を用いた。
計算に用いた各構造部位は、メソゲン基に結合する他の基(非メソゲン基)を水素原子に置換した構造であり、具体的には下記化合物D-1´~D-6´となる。
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
計算にて求めた最安定構造を用い、上述した方法に従って主成分分析を行い、第1固有値の平方根の絶対値λ1と第2固有値の平方根の絶対値λ2の比λ2/λ1を求めた。また計算にて求めた遷移モーメントの方向と、上述した手順によって得られる第1固有値の第1固有ベクトルとのなす角度を算出した。結果を下記表1に示す。
【0138】
<実施例1>
下記の光学異方性膜用塗布液を調製した。
下記液晶化合物L-1 43質量部
下記液晶化合物L-2 43質量部
下記液晶化合物L-3 14質量部
近赤外線吸収色素D-1 5質量部
下記光重合開始剤PI-1 0.50質量部
下記含フッ素化合物F-1 0.20質量部
クロロホルム 535質量部
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
ラビングされたポリイミド配向層(SE-130、日産化学社製)付ガラス基板上に上光学異方性膜用塗布液をスピンコート塗布して塗膜を形成し、240℃で1分間加熱したのちに、200℃まで冷却した。その後に、酸素濃度が1.0体積%以下の雰囲気になるように窒素パージし、高圧水銀ランプを用い照射量500mJ/cm2の紫外線を塗膜に照射し、光学異方性膜1を作製した。
得られた光学異方性膜1の光学特性をAxoScan OPMF-1(オプトサイエンス社製)を用いて、測定したところ、Re(550)が140nm、Re(450)/Re(550)が0.83、Re(650)/Re(550)が1.08であった。
また、赤外線用偏光子を備えた分光光度計(MPC-3100(SHIMADZU製))を用いて、赤外線領域での吸収を確認したところ、799nmに近赤外線吸収色素D-1に由来するピーク(極大吸収波長:λmax)を発現することを確認した。
また、近赤外線吸収色素D-1の極大吸収波長における光学異方性膜1の配向秩序度S0は、0.31であった。
【0143】
<実施例2~4>
実施例1における近赤外線吸収色素D-1をD-2~D-4に置き換えた以外は実施例1と同様にして、光学異方性膜を作製した。得られた光学異方性膜の光学特性を下記表1に示す。
【0144】
<比較例1>
実施例1における近赤外線吸収色素D-1を除いた以外は実施例1と同様にして、光学異方性膜を作製した。得られた光学異方性膜の光学特性を下記表1に示す。
【0145】
<比較例2~3>
実施例1における近赤外線吸収色素D-1をD-5およびD-6にそれぞれ置き換えた以外は実施例1と同様にして、光学異方性膜を作製した。得られた光学異方性膜の光学特性を下記表1に示す。
【0146】
表1中、「角度」欄は、赤外線吸収色素の吸収の遷移モーメントの方向と、第1固有値の固有ベクトルの方向とのなす角度を表す。
【0147】
【0148】
上記表1に示すように、λ2/λ1が0.60以下であり、遷移モーメントと第1固有ベクトルのなす角が75.0°以上の近赤外線吸収色素を用いることで、近赤外線吸収色素の配向度が向上し、優れた逆波長分散性を有する光学異方性膜が得られることがわかった。
なお、上記Re(450)/Re(550)の値が0.85以下であり、かつ、Re(650)/Re(550)の値が1.07以上である場合、逆波長分散性に優れる。
【0149】
厚さ80μmのポリビニルアルコールフィルムを、ヨウ素濃度0.05質量%のヨウ素水溶液中に30℃で60秒間浸漬して染色した。次いで、得られたフィルムをホウ酸水溶液(ホウ酸濃度:4質量%)中に60秒間浸漬している間に元の長さの5倍に縦延伸した後、縦延伸されたフィルムを50℃で4分間乾燥させて、厚さ20μmの偏光子を得た。
【0150】
市販のセルロースアシレート系フィルム「TD80UL」(富士フイルム社製)を準備し、1.5モル/リットルで55℃の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬した後、得られたフィルムを水で十分に水酸化ナトリウムを洗い流した。
その後、0.005モル/リットルで35℃の希硫酸水溶液に得られたフィルムを1分間浸漬した後、得られたフィルムを水に浸漬して、フィルム上の希硫酸水溶液を十分に洗い流した。その後、洗浄されたフィルムを120℃で乾燥させ、偏光子保護フィルムを作製した。
【0151】
上記で作製した偏光子の片面に、上記で作製した偏光子保護フィルムをポリビニルアルコール系接着剤で貼り合わせて、偏光子と、偏光子の片面に配置された偏光子保護フィルムとを含む偏光板を作製した。
【0152】
上記作製した偏光板中の偏光子(偏光子保護フィルムのない)側に、粘着剤(SK-2057、綜研化学株式会社製)を塗布して粘着剤層を形成し、上記実施例で作製した光学異方性膜を、粘着剤層と光学異方性層とが密着するように貼り合せて円偏光板を作製した。なお、光学異方性膜の遅相軸と偏光子の透過軸とのなす角度は45°とした。
【0153】
GalaxyS4(Samsung社製)を分解し、製品に貼合されている反射防止フィルムの一部をはがして、発光層とした。この発光層に、粘着剤を介して、上記作製した円偏光板を空気が入らないようにして貼合して、有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置を作製した。