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  • 特許-金属塗装方法 図1
  • 特許-金属塗装方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】金属塗装方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20221125BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20221125BHJP
   B05D 3/10 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
B05D1/36 Z
B05D7/14 P
B05D3/10 C
B05D3/10 N
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021548364
(86)(22)【出願日】2020-07-13
(86)【国際出願番号】 JP2020027247
(87)【国際公開番号】W WO2021059678
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2019177898
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】都築 正世
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-089892(JP,A)
【文献】国際公開第2017/130841(WO,A1)
【文献】特開平08-025409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
B32B1/00-43/00
C23P1/00-4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不動態被膜により表面が被覆される金属を塗料により塗装する方法であって、
エッチング液により前記不動態被膜を除去して前記表面を露出させるエッチング工程と、
前記エッチング工程の後に、液分が被覆されたままの状態の前記表面に、前記塗料を希釈可能な希釈剤を被覆する希釈剤被覆工程と、
前記希釈剤被覆工程の後に、前記希釈剤が被覆された状態の前記表面に前記塗料を塗布する塗装工程と、を備える金属塗装方法。
【請求項2】
前記塗料は水性塗料であり、前記希釈剤は水またはアルコール系希釈剤である請求項1に記載の金属塗装方法。
【請求項3】
前記金属は、チタンまたはチタン合金である請求項1または2に記載の金属塗装方法。
【請求項4】
前記金属は、ステンレス鋼である請求項1または2に記載の金属塗装方法。
【請求項5】
前記金属は、アルミニウムまたはアルミニウム合金である請求項1または2に記載の金属塗装方法。
【請求項6】
前記エッチング液は還元性の酸である請求項1~のいずれかに記載の金属塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の表面に塗装を施す金属塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車のボディや自動二輪車のタンクあるいはフレーム等の金属部品に、塗装を施すことが行われている。このような金属部品の材料としては鋼材が一般的であるが、近年では、耐食性や軽量化等の面で鋼材よりも有利なチタンやアルミニウム(またはそれら金属を主とした合金)、あるいはステンレス鋼を適用することが考えられ、一部では実用化もなされている。
【0003】
この種の金属は、塗装等の加飾を施さず素材感を出した使われ方が多かったが、商品性の向上等のために塗装等の加飾が求められてきている。例えば、アルミニウム合金の表面の酸化被膜を、エッチング性を有する脱脂処理剤を用いて除去した後、電着塗装を施す方法(例えば、特許文献1参照)や、チタンの表面をエッチングした後、陽極酸化させることにより発色させる方法(例えば、特許文献2参照)などが知られている。また、チタンの表面をエッチングする技術に関しては、チタン基材の表面の酸化被膜をエッチングして除去した後、不動態被膜の形成を抑制するフッ素化合物等の添加剤が添加された金めっき浴に浸漬して金めっきを形成することが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平1-279788号公報
【文献】特開平2-50984号公報
【文献】特開2009-114522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来では鋼材の表面に塗料を塗布して塗装を施すことが行われており、チタン等の金属に対しても鋼材への塗装と同様の方法で塗装することができれば、塗料を直接塗装しない上記従来技術等を採用せずとも、工程を大幅に変更することなく塗装できるため好ましい。鋼材を塗装する場合には、耐食性や塗料の密着性を高めるためにリン酸被膜を形成するなどの前処理を行うことが通常行われている。しかし、チタン、アルミニウム、ステンレス鋼といった金属は強固な不動態被膜(酸化被膜)が表面に形成されているため、リン酸被膜等を表面に形成することが困難であり、塗料の密着不良が生じる。そこで、密着性を確保する他の手段としてプライマー処理やブラスト処理などの特殊な処理を行えば塗装は可能となるが、製造コストの増大を招く。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、表面に強固な不動態被膜を有するチタン等の金属の表面に、容易に、かつコストの上昇を抑えながら、密着性の高い状態で塗料を直接塗装することができる金属塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明に係る金属塗装方法は、不動態被膜により表面が被覆される金属を塗料により塗装する方法であって、エッチング液により前記不動態被膜を除去して前記表面を露出させるエッチング工程と、前記エッチング工程の後に、液分が被覆されたままの状態の前記表面に、前記塗料を希釈可能な希釈剤を被覆する希釈剤被覆工程と、前記希釈剤被覆工程の後に、前記表面に前記塗料を塗布する塗装工程と、を備える。
【0008】
上記(1)によれば、エッチングにより不動態被膜が除去された金属の表面は塗料が密着しやすい微細な凹凸が形成された粗面となる。また、エッチング工程後、粗面となった表面に液分が被覆されたまま、その表面に希釈剤を被覆し、塗装工程では希釈剤と混合する状態で塗料を表面に塗布する。不動態被膜が除去されたエッチング後の金属の表面は絶えず液分が存在し空気に触れることがないため、塗料の密着性を低下させる不動態被膜が表面に形成されることを抑制することができる。このため、表面に特殊な処理を施したり工程を大幅に増やしたりする必要がなく、容易に、かつコストの上昇を抑えながら、密着性の高い状態で金属の表面に塗料を直接塗装することができる。塗料は希釈剤と混合した状態で金属の表面に塗布されるが、希釈剤は塗料に適合するもの、すなわち塗料を希釈可能な種類を用いるので、希釈剤で被覆された表面に塗料を塗布しても、塗料が変質するなどの問題が生じることなく、良好に塗装することができる。
【0009】
(2) (1)に記載の金属塗装方法において、前記塗料は水性塗料であり、前記希釈剤は水またはアルコール系希釈剤であってよい。
【0010】
(3) (1)に記載の金属塗装方法において、前記塗料は溶剤系塗料であり、前記希釈剤は有機溶剤であってよい。
【0011】
上記(2)または(3)によれば、塗料に適合する希釈剤を用いるので、その希釈剤が被覆されたままの状態の金属の表面に塗料を塗布しても、塗料が変質するなどの問題が生じることなく、良好に塗装することができる。
【0012】
(4) 上記(1)~(3)のいずれかに記載の金属塗装方法において、前記金属としては、チタン、またはチタン合金が挙げられる。
【0013】
(5) 上記(1)~(3)のいずれかに記載の金属塗装方法において、前記金属としては、ステンレス鋼が挙げられる。
(6) 上記(1)~(3)のいずれかに記載の金属塗装方法において、前記金属としては、アルミニウム、またはアルミニウム合金が挙げられる。
【0014】
上記(4)~(6)に挙げた各金属は、その表面に強固な不動態被膜(酸化被膜)が形成されるが、本発明ではそれら金属の表面に、容易に、かつコストの上昇を抑えながら、密着性の高い状態で塗料を直接塗装することができる。
【0015】
(7) 上記(1)~(6)のいずれかに記載の金属塗装方法において、前記エッチング液は還元性の酸であってよい。
【0016】
上記(7)によれば、金属の表面を酸化させることなく不動態被膜を容易に除去することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、表面に強固な不動態被膜を有するチタン等の金属の表面に、容易に、かつコストの上昇を抑えながら、密着性の高い状態で塗料を直接塗装することができる金属塗装方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る金属塗装方法の工程を示す図である。
図2】一実施形態の方法で金属の表面に塗装が施された状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
図1は、本実施形態の金属塗装方法の工程を示しており、図2は、同工程によって塗装対象部品である金属製のワーク1の表面1aに塗装が施された状態を模式的に示す図である。
【0020】
図2に示すワーク1は、例えば自動車のボディや自動二輪車のタンク、フレーム等の金属部品の素地部分を示しているが、ワーク1としてはこれらの部品に限定されない。また、ワーク1は、チタンまたはチタン合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金、ステンレス鋼等の、表面に強固な不動態被膜(酸化被膜)が形成される金属を加工して製作されたものである。ここで、以下の説明においてはワーク1をチタン製とする。
【0021】
図1により本実施形態の塗装方法を工程順に説明する。本実施形態の塗装方法は、はじめに前処理工程を実施する。前処理工程では、まず、ワーク1の表面を水洗し(ステップS1)、次いで表面を脱脂する(ステップS2)。脱脂は、公知の脱脂剤および脱脂方法を採用することができる。例えば、脱脂剤としては、溶剤洗浄剤、アルカリ脱脂剤、酸性エマルジョン脱脂剤等が挙げられるが、これらに限定されない。また、脱脂方法は、用いる脱脂剤に応じた方法が適宜選択される。
【0022】
脱脂後、エッチングを行う(ステップS3:エッチング工程)。エッチングは湿式エッチングであって、例えば貯留したエッチング液中にワーク1を浸漬してワーク1の表面1aにエッチング液を所定時間接触させるといった公知のエッチング方法を用いることができる。エッチング液の接触によりワーク1の表面に形成されていた不動態被膜を除去し、その表面を露出させる。
【0023】
湿式エッチングに用いるエッチング液としては、例えば、塩酸、硫酸、酒石酸、ギ酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、乳酸、コハク酸、アミノ酸、グリコール酸、グルコン酸、マロン酸、イタコン酸、マレイン酸等の還元性の酸、またはこれらの酸塩が、不動態被膜を除去しやすいため好適に用いられるが、これらに限定されない。また、ワーク1をエッチング液に浸漬する時間は、エッチング液の温度等によって変動するが、例えば0.5分~3分程度とされる。なお、ワーク1の表面が過度に溶解されることを抑えるために、エッチング液の温度やエッチング時間は適宜に制御される。
【0024】
図2に示すように、エッチング後のワーク1の表面1aは、微細な凹凸が形成された粗面となる。
【0025】
エッチング工程の後に、ワーク1を水洗して表面1aからエッチング液を除去する(ステップS4)。以上で前処理を終える。
【0026】
前処理の最後の水洗を行った後に、すぐさま希釈剤被覆工程(ステップS5)を行う。水洗後のワーク1の表面1aは水洗に用いた水分(液分)が被覆された状態で残存している。希釈剤被覆工程では、図2に示すように、その水分が被覆されたままの状態の表面1aに、塗料用の希釈剤2を被覆する。希釈剤2は、貯留した希釈剤2中にワーク1を浸漬したり希釈剤2を塗布したりする方法で、表面1aに被覆することができる。希釈剤2は、次の塗装工程で用いる塗料に適合してその塗料を希釈可能な種類を用いる。
【0027】
次に、希釈剤2が被覆された状態のワーク1の表面1aに、塗料を塗布する塗装工程を行う。本実施形態では、図2に示すように、希釈剤2が被覆された状態のワーク1の表面1aに下塗り用の塗料を塗布して下塗り層3を形成し(ステップS6)、次いで下塗り層3の上に、上塗り用の塗料を塗布して上塗り層4を形成する(ステップS7)。これにより、希釈剤2が下塗り層3を希釈することでワーク1の表面1aに下塗り層3と上塗り層4とによる塗膜を形成する。ワーク1への塗装は公知の塗装方法が採用され、例えば、焼付塗装や自然乾燥式塗装等の方法によって実施する。
【0028】
下塗りおよび上塗りに用いる塗料としては、例えば、水性塗料、あるいは溶剤系塗料等を用いることができる。そして希釈剤被覆工程でワーク1の表面1aを被覆する希釈剤2は、上記のように塗料を希釈可能な種類を用いる。すなわち、下塗り用塗料として水性塗料を用いる場合、希釈剤2としては、水、あるいはIPA(イソプロパノール)等のアルコール系希釈剤を用いる。また、下塗り用塗料として溶剤系塗料を用いる場合、希釈剤2としては、シンナー等の有機溶剤を用いる。
【0029】
次いで、塗装工程の後に仕上げ乾燥を行い、塗装を完了する(ステップS8)。なお、この後、必要に応じてクリア塗装を施す場合があり、さらに、クリア塗装の前に、デザイン用の樹脂フィルムを貼着する場合がある。
【0030】
以上が本実施形態に係る塗装方法であり、本実施形態によれば、エッチングにより不動態被膜が除去されたワーク1の表面1aは、塗料が密着しやすい微細な凹凸が形成された粗面となる。また、エッチング工程後、粗面となった表面1aに水洗による水分が被覆されたまま、その表面1aに希釈剤2を被覆し、塗装工程では希釈剤2と混合する状態で塗料を表面1aに塗布する。すなわち、前処理の最後の水洗と下塗りとの間には、ワーク1を乾燥させる工程は存在しない。
【0031】
これらのことから、不動態被膜が除去されたエッチング後の表面1aは絶えず液分が存在し空気に触れることがない。このため、塗料の密着性を低下させる不動態被膜が表面1aに形成されることを抑制することができる。その結果、強固な不動態被膜が表面1aに形成されるチタン製のワーク1であっても、表面1aに特殊な処理を施したり工程を大幅に増やしたりする必要がなく、容易に、かつコストの上昇を抑えながら、密着性の高い状態で表面1aに塗料を直接塗装することができる。
【0032】
エッチング工程で用いるエッチング液を還元性の酸とすることにより、ワーク1の表面1aを酸化させることなく不動態被膜を容易に除去することができる。
【0033】
エッチング後にワーク1の表面1aを水洗するので、この後表面1aに被覆される希釈剤2にエッチング液は混合しない。このため、エッチング液の影響を受けることなく良好に塗装することができる。なお、希釈剤2を被覆することにより表面1aからエッチング液を除去することができれば、エッチング後の水洗工程を省略してもよい。
【0034】
ワーク1の表面1aに塗布する下塗り用の塗料は希釈剤2と混合した状態で表面1aに塗布されるが、希釈剤2はその塗料に適合するもの、すなわち塗料を希釈可能な種類を用いるので、希釈剤2で被覆された表面1aに塗料を塗布しても、塗料が変質するなどの問題が生じることなく、良好に塗装することができる。
【0035】
上記の実施形態はワーク1がチタン製であるものとして説明したが、本発明は、チタンの他に、表面に強固な不動態被膜が形成される金属に塗装を施す方法として有効である。そのような金属としてはチタン以外に、チタン合金、アルミニウム、またはアルミニウム合金、ステンレス鋼などが挙げられる。すなわちこれらの金属に、上記実施形態の塗装方法を適用することにより、容易に、かつコストの上昇を抑えながら、密着性の高い状態で塗料を直接塗装することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 ワーク(金属)
1a 表面
2 希釈剤
3 下塗り層
4 上塗り層
図1
図2