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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/20 20060101AFI20221125BHJP
   E02F 3/43 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
E02F9/20 N
E02F3/43 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021550519
(86)(22)【出願日】2020-09-08
(86)【国際出願番号】 JP2020034010
(87)【国際公開番号】W WO2021065384
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2019180334
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 輝樹
(72)【発明者】
【氏名】楢▲崎▼ 昭広
(72)【発明者】
【氏名】廻谷 修一
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-151973(JP,A)
【文献】特開2018-155077(JP,A)
【文献】特開2001-032331(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0343820(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
E02F 3/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、ブーム、アームおよび作業具を有し、前記車体に取り付けられる多関節型の作業装置と、前記車体および前記作業装置を操作する操作装置と、前記車体の位置を検出する位置センサと、前記作業装置の姿勢を検出する姿勢センサと、目標面を設定し、前記位置センサおよび前記姿勢センサからの信号に基づいて、前記作業具から前記目標面までの距離である作業具-目標面間距離を演算し、前記操作装置により前記アームの操作がなされ前記作業具-目標面間距離が所定の距離よりも小さくなった場合に、前記作業具が前記目標面を越えて地面を掘削しないように、前記ブームを制御するとともに前記アームを減速させる減速制御を実行する制御装置と、を備える作業機械において、
前記制御装置は、
設定された前記目標面と前記位置センサおよび前記姿勢センサからの信号とに基づいて、前記作業装置の姿勢が、前記アームの操作がなされたときに前記作業具が前記目標面に侵入する侵入姿勢であるか否かを判定し、
前記作業装置の姿勢が前記侵入姿勢でないと判定された場合には、前記作業具-目標面間距離が前記所定の距離よりも小さい場合であっても前記減速制御を実行しない、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項に記載の作業機械において、
前記制御装置は、
前記姿勢センサからの信号に基づいて、前記ブームと前記アームとを連結するアームピンから前記作業具までの距離であるピン-作業具間距離を演算し、
設定された前記目標面と前記位置センサおよび前記姿勢センサからの信号とに基づいて、前記アームピンから前記目標面までの距離であるピン-目標面間距離を演算し、
前記ピン-作業具間距離および前記ピン-目標面間距離に基づいて、前記作業装置の姿勢が前記侵入姿勢であるか否かを判定する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項に記載の作業機械において、
前記制御装置は、
設定された前記目標面と前記位置センサおよび前記姿勢センサからの信号とに基づいて、前記ブームと前記アームとを連結するアームピンと前記作業具とを結ぶ線分と前記目標面とのなす角度を演算し、
前記線分と前記目標面とのなす角度に基づいて、前記作業装置の姿勢が前記侵入姿勢であるか否かを判定する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項に記載の作業機械において、
前記制御装置は、
前記作業装置の姿勢が前記侵入姿勢でないと判定された場合に、前記線分と前記目標面とのなす角度の変化に応じて前記アームの速度を変化させる、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項に記載の作業機械において、
前記制御装置は、
設定されている複数の前記目標面のうち、前記作業具の作業範囲内に存在する目標面であって、前記アームの操作がなされたときの前記作業具の進行方向に存在する目標面に対して、前記作業装置の姿勢が、前記アームの操作がなされたときに前記作業具が前記目標面に侵入する侵入姿勢であるか否かを判定する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項6】
請求項に記載の作業機械において、
前記制御装置は、
前記ブームの下げ操作と前記アームの操作の複合操作がなされているときには、前記作業装置の姿勢が前記侵入姿勢でない場合であっても、前記アームを減速させる減速制御を実行する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項7】
請求項に記載の作業機械において、
前記制御装置は、
前記姿勢センサからの信号に基づいて、前記ブームと前記アームとを連結するアームピンから前記作業具までの距離であるピン-作業具間距離を演算するとともに、設定された前記目標面と前記位置センサおよび前記姿勢センサからの信号とに基づいて、前記アームピンから前記目標面までの距離であるピン-目標面間距離を演算し、前記ピン-作業具間距離および前記ピン-目標面間距離に基づいて前記作業装置の姿勢が前記侵入姿勢であるか否かを判定し、前記作業装置の姿勢が前記侵入姿勢でないと判定された場合、
または、設定された前記目標面と前記位置センサおよび前記姿勢センサからの信号とに基づいて、前記アームピンと前記作業具とを結ぶ線分と前記目標面とのなす角度を演算し、前記線分と前記目標面とのなす角度に基づいて前記作業装置の姿勢が前記侵入姿勢であるか否かを判定し、前記作業装置の姿勢が前記侵入姿勢でないと判定された場合には、前記作業具-目標面間距離が前記所定の距離よりも小さい場合であっても前記減速制御を実行せず、
前記ピン-作業具間距離および前記ピン-目標面間距離に基づいて前記作業装置の姿勢が前記侵入姿勢であるか否かを判定し、前記作業装置の姿勢が前記侵入姿勢であると判定され、かつ、前記線分と前記目標面とのなす角度に基づいて前記作業装置の姿勢が前記侵入姿勢であるか否かを判定し、前記作業装置の姿勢が前記侵入姿勢であると判定された場合には、前記作業具-目標面間距離が前記所定の距離よりも小さい場合に前記減速制御を実行する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項8】
車体と、ブーム、アームおよび作業具を有し、前記車体に取り付けられる多関節型の作業装置と、前記車体および前記作業装置を操作する操作装置と、前記車体の位置を検出する位置センサと、前記作業装置の姿勢を検出する姿勢センサと、目標面を設定し、前記位置センサおよび前記姿勢センサからの信号に基づいて、前記作業具から前記目標面までの距離である作業具-目標面間距離を演算し、前記操作装置により前記アームの操作がなされ前記作業具-目標面間距離が所定の距離よりも小さくなった場合に、前記作業具が前記目標面を越えて地面を掘削しないように、前記ブームを制御するとともに前記アームを減速させる減速制御を実行する制御装置と、を備える作業機械において、
前記制御装置は、
設定された前記目標面と前記位置センサおよび前記姿勢センサからの信号とに基づいて、前記アームの操作がなされたときに、前記作業具の移動軌跡上に前記目標面が存在するか否かを判別することによって、前記作業具が前記目標面に侵入する可能性があるか否かを判定し、
前記作業具が前記目標面に侵入する可能性がないと判定された場合には、前記作業具-目標面間距離が前記所定の距離よりも小さい場合であっても前記減速制御を実行しない、
ことを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の作業機械には、オペレータによるフロント作業装置の操作を補助するマシンコントロール(以下、適宜MCと記載する)機能を備えたものが知られている(特許文献1参照)。特許文献1には、バケットの先端の動き得る領域を設定する領域設定手段と、フロント作業装置の位置と姿勢に基づき、設定領域の境界(目標面)からバケットの先端までの距離が所定の閾値よりも小さくなると、アームの移動速度を減じる減速制御を行う領域制限掘削制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-311918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、目標面からバケットの先端までの距離が所定の閾値よりも小さい場合には、バケットが目標面に侵入することが想定されないようなときにもアームの移動速度が減じられることになるので、作業機械による作業の効率が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、作業機械による作業の効率を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様による作業機械は、車体と、ブーム、アームおよび作業具を有し、車体に取り付けられる多関節型の作業装置と、車体および作業装置を操作する操作装置と、車体の位置を検出する位置センサと、作業装置の姿勢を検出する姿勢センサと、目標面を設定し、位置センサおよび姿勢センサからの信号に基づいて、作業具から目標面までの距離である作業具-目標面間距離を演算し、操作装置によりアームの操作がなされ作業具-目標面間距離が所定の距離よりも小さくなった場合に、作業具が目標面を越えて地面を掘削しないように、ブームを制御するとともにアームを減速させる減速制御を実行する制御装置と、を備える。制御装置は、設定された目標面と位置センサおよび姿勢センサからの信号とに基づいて、作業装置の姿勢が、アームの操作がなされたときに作業具が目標面に侵入する侵入姿勢であるか否かを判定し、作業装置の姿勢が侵入姿勢でないと判定された場合には、作業具-目標面間距離が所定の距離よりも小さい場合であっても減速制御を実行しない。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、作業機械による作業の効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】油圧ショベルの側面図。
図2】油圧ショベルのコントローラを油圧駆動装置と共に示す図。
図3図2に示す油圧ユニットの詳細図。
図4図1の油圧ショベルにおける座標系を示す図。
図5】油圧ショベルの制御システムの構成を示す図。
図6】表示装置の表示画面の一例の図。
図7】コントローラの機能ブロック図。
図8】作業装置と目標面との位置関係を表す各種データについて示す図。
図9】バケットの先端が補正後の目標速度ベクトルVcaの通りに制御されたときのバケットの先端の軌跡の一例を示す図。
図10】第1実施形態に係るコントローラにより実行されるアームクラウド用の介入解除フラグFc(n)の設定処理の内容について示すフローチャート。
図11】第1実施形態に係るコントローラにより実行されるアームダンプ用の介入解除フラグFd(n)の設定処理の内容について示すフローチャート。
図12】アームクラウド操作によってバケットが進行する方向に設定される目標面St(-1)に対して、バケットが侵入する可能性があるものと判定される場合について説明する図。
図13A】線分Lpbと目標面St(0)とのなす角度φが90°以上であることにより、アームクラウド減速制御が解除されている状態について示す図。
図13B】ピン-目標面間距離H2(0)がピン-バケット間距離Dpb以上であることにより、アームクラウド減速制御が解除されている状態について示す図。
図14】第2実施形態に係る油圧ショベルが水平引き(水平押し)を行う様子を示す図。
図15A】第1実施形態に係る油圧ショベルにおいて、アームクラウド操作(最大操作)がなされたときの目標パイロット圧と、角度φとの関係を示す図。
図15B】第1実施形態に係る油圧ショベルにおいて、アームダンプ操作(最大操作)がなされたときの目標パイロット圧と、角度φとの関係を示す図。
図16】第2実施形態に係るコントローラにより実行されるアームクラウド用の遷移制御実行フラグFct(n)の設定処理の内容について示すフローチャート。
図17】第2実施形態に係るコントローラにより実行されるアームダンプ用の遷移制御実行フラグFdt(n)の設定処理の内容について示すフローチャート。
図18】第2実施形態に係る介入解除演算部の制御ブロック線図であり、アームクラウド遷移圧力の演算について示す。
図19A】アームクラウド角度比率テーブルについて示す図。
図19B】アームクラウド遷移圧力について示す図。
図20】第2実施形態に係る介入解除演算部の制御ブロック線図であり、アームダンプ遷移圧力の演算について示す。
図21A】アームダンプ角度比率テーブルについて示す図。
図21B】アームダンプ遷移圧力について示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、以下では、作業装置の先端の作業具(アタッチメント)としてバケット10を備える油圧ショベルを例示するが、バケット以外のアタッチメントを備える作業機械に本発明を適用しても構わない。さらに、ブーム、アームおよび作業具を有する多関節型の作業装置を備えるものであれば油圧ショベル以外の作業機械への適用も可能である。
【0010】
また、本稿では、或る形状を示す用語(例えば、目標面、設計面等)とともに用いられる「上」、「上方」又は「下方」という語の意味に関し、「上」は当該或る形状の「表面」を意味し、「上方」は当該或る形状の「表面より高い位置」を意味し、「下方」は当該或る形状の「表面より低い位置」を意味することとする。また、以下の説明では、同一の構成要素が複数存在する場合、符号(数字)の末尾にアルファベットを付すことがあるが、当該アルファベットを省略して当該複数の構成要素をまとめて表記することがある。例えば、3つのポンプ300a,300b,300cが存在するとき、これらをまとめてポンプ300と表記することがある。
【0011】
<第1実施形態>
-油圧ショベルの全体構成-
図1は本発明の実施形態に係る油圧ショベルの側面図であり、図2は本発明の実施形態に係る油圧ショベルのコントローラを油圧駆動装置と共に示す図であり、図3図2に示す油圧ユニット160の詳細図である。
【0012】
図1に示すように、油圧ショベル101は、車体1Bと、車体1Bに取り付けられる多関節型のフロント作業装置(以下、単に作業装置と記す)1Aと、を備える。車体1Bは、左右の走行油圧モータ3a,3b(図2参照)により走行する下部走行体11と、下部走行体11の上に取り付けられ、旋回油圧モータ4(図2参照)により旋回する上部旋回体12と、を有する。
【0013】
作業装置1Aは、垂直方向にそれぞれ回動する複数の被駆動部材(ブーム8、アーム9およびバケット10)が直列的に連結されている。ブーム8の基端部は上部旋回体12の前部においてブームピン91を介して回動可能に支持されている。ブーム8の先端部にはアームピン92を介してアーム9が回動可能に連結されており、アーム9の先端部にはバケットピン93を介して作業具としてのバケット10が回動可能に連結されている。ブーム8はアクチュエータである油圧シリンダ(以下、ブームシリンダ5とも記す)によって駆動され、アーム9はアクチュエータである油圧シリンダ(以下、アームシリンダ6とも記す)によって駆動され、バケット10はアクチュエータである油圧シリンダ(以下、バケットシリンダ7とも記す)によって駆動される。
【0014】
ブーム8、アーム9、バケット10の回動角度α,β,γ(図4参照)を測定可能なように、ブームピン91にブーム角度センサ30、アームピン92にアーム角度センサ31、バケットリンク13にバケット角度センサ32が取り付けられ、上部旋回体12には基準面(例えば水平面)に対する上部旋回体12(車体1B)の傾斜角θ(図4参照)を検出する車体傾斜角度センサ33が取付けられている。なお、角度センサ30,31,32は、それぞれ基準面(水平面)に対する傾斜角(すなわち対地角)を検出可能な角度センサに代替可能である。
【0015】
上部旋回体12に設けられた運転室16内には、走行右レバー23a(図2)を有し走行右油圧モータ3a(下部走行体11)を操作するための操作装置48(図2)と、走行左レバー23b(図2)を有し走行左油圧モータ3b(下部走行体11)を操作するための操作装置49(図2)と、操作右レバー22a(図2)を共有しブームシリンダ5(ブーム8)およびバケットシリンダ7(バケット10)を操作するための操作装置44,46(図2)と、操作左レバー22b(図2)を共有しアームシリンダ6(アーム9)および旋回油圧モータ4(上部旋回体12)を操作するための操作装置45,47(図2)が設置されている。以下では、走行右レバー23aおよび走行左レバー23bを総称して操作レバー23とも記し、操作右レバー22aおよび操作左レバー22bを総称して操作レバー22とも記す。
【0016】
上部旋回体12には、原動機であるエンジン18(図2参照)が搭載されている。図2に示すように、エンジン18は、油圧ポンプであるメインポンプ2およびパイロットポンプ19を駆動する。メインポンプ2はレギュレータ2aによって容量が制御される可変容量型ポンプであり、パイロットポンプ19は固定容量型ポンプである。本実施形態においては、パイロットライン144~149の途中にシャトルブロック162が設けられている。操作装置44~49から出力された油圧信号が、このシャトルブロック162を介してレギュレータ2aにも入力される。シャトルブロック162の詳細構成は省略するが、油圧信号がシャトルブロック162を介してレギュレータ2aに入力されており、メインポンプ2の吐出流量が当該油圧信号に応じて制御される。
【0017】
パイロットポンプ19の吐出配管であるポンプライン170にはロック弁39が設けられる。ポンプライン170におけるロック弁39の下流側は、複数に分岐されて操作装置44~49、および作業装置1Aを制御するための油圧ユニット160内の各弁に接続されている。ロック弁39は本例では電磁切換弁であり、その電磁駆動部は上部旋回体12の運転室16に配置されたゲートロックレバー(不図示)の位置検出器と電気的に接続されている。ゲートロックレバーのポジションは位置検出器で検出され、その位置検出器からロック弁39に対してゲートロックレバーのポジションに応じた信号が入力される。ゲートロックレバーのポジションがロック位置にあればロック弁39が閉じてポンプライン170が遮断され、ロック解除位置にあればロック弁39が開いてポンプライン170が開通する。つまり、ポンプライン170が遮断された状態では操作装置44~49による操作が無効化され、旋回、掘削等の動作が禁止される。
【0018】
操作装置44~49は、それぞれ油圧パイロット方式の一対の減圧弁を含んでいる。これら操作装置44~49は、パイロットポンプ19の吐出圧を元圧として、それぞれオペレータにより操作される操作レバー22,23の操作量(例えば、レバーストローク)と操作方向に応じたパイロット圧(操作圧と称することもある)を発生する。このように発生したパイロット圧は、コントロールバルブユニット20内の対応する流量制御弁15a~15fの油圧駆動部150a~155bにパイロットライン144a~149bを介して供給され、これら流量制御弁15a~15fを駆動する制御信号として利用される。
【0019】
メインポンプ2から吐出された圧油は、流量制御弁15a~15fを介して、ブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7、旋回油圧モータ4、走行右油圧モータ3a、走行左油圧モータ3bに供給される。供給された圧油によってブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7が伸縮することで、ブーム8、アーム9、バケット10がそれぞれ回動し、バケット10の位置および作業装置1Aの姿勢が変化する。供給された圧油によって旋回油圧モータ4が回転することで、下部走行体11に対して上部旋回体12が旋回する。供給された圧油によって走行右油圧モータ3aおよび走行左油圧モータ3bが回転することで、下部走行体11が走行する。
【0020】
作業装置1Aの姿勢は、図4のショベル基準座標系に基づいて定義できる。図4は、図1の油圧ショベルにおける座標系を示す図である。図4のショベル基準座標系は、上部旋回体12に対して設定される座標系であり、ブームピン91の中心軸を原点とし、上部旋回体12における鉛直方向にZ軸、水平方向にX軸が設定される。X軸に対するブーム8の傾斜角をブーム角α、ブーム8に対するアーム9の傾斜角をアーム角β、アーム9に対するバケット10の傾斜角をバケット角γとした。水平面(基準面)に対する車体1B(上部旋回体12)の傾斜角、すなわち水平面(基準面)とX軸とのなす角を車体傾斜角θとした。ブーム角αはブーム角度センサ30により、アーム角βはアーム角度センサ31により、バケット角γはバケット角度センサ32により、車体傾斜角θは車体傾斜角度センサ33により検出される。ブーム角αは、ブーム8を最大(最高)まで上げたとき(ブームシリンダ5が上げ方向のストロークエンドのとき、つまりブームシリンダ長が最長のとき)に最小となり、ブーム8を最小(最低)まで下げたとき(ブームシリンダ5が下げ方向のストロークエンドのとき、つまりブームシリンダ長が最短のとき)に最大となる。アーム角βは、アームシリンダ長が最短のときに最小となり、アームシリンダ長が最長のときに最大となる。バケット角γは、バケットシリンダ長が最短のとき(図4のとき)に最小となり、バケットシリンダ長が最長のときに最大となる。
【0021】
上部旋回体12とブーム8とを連結するブームピン91の中心位置からブーム8とアーム9とを連結するアームピン92の中心位置までの長さをL1、アームピン92の中心位置からアーム9とバケット10とを連結するバケットピン93の中心位置までの長さをL2、バケットピン93の中心位置からバケット10の先端部(例えば、バケット10の爪先)までの長さをL3とすると、ショベル基準座標におけるバケット10の先端部の位置(以下、先端位置Pbと記す)は、XbkをX方向位置、ZbkをZ方向位置として、以下の式(1),(2)で表すことができる。
Xbk=L1cos(α)+L2cos(α+β)+L3cos(α+β+γ)…式(1)
Zbk=L1sin(α)+L2sin(α+β)+L3sin(α+β+γ)…式(2)
【0022】
同様に、ショベル基準座標におけるアームピン92の中心位置Ppは、XpをX方向位置、ZpをZ方向位置として、以下の式(3),(4)で表すことができる。
Xp=L1cos(α)…式(3)
Zp=L1sin(α)…式(4)
【0023】
また、油圧ショベル101は、図4に示すように、上部旋回体12に一対のGNSS(Global Navigation Sattelite System)アンテナ14(14A,14B)を備えている。GNSSアンテナ14からの情報に基づき、グローバル座標系における油圧ショベル101の車体1Bの位置、およびバケット10の位置を算出することができる。つまり、GNSSアンテナ14は、車体1Bの位置を検出する位置センサとして機能する。
【0024】
図5を参照して、マシンガイダンス(Machine Guidance:MG)およびマシンコントロール(Machine Control:MC)を行う制御システム21について説明する。図5は、油圧ショベル101の制御システム21の構成を示す図である。図5に示すように、制御システム21は、コントローラ40と、コントローラ40に接続されコントローラ40に信号を出力する姿勢検出装置50、目標面設定装置51、GNSSアンテナ14およびオペレータ操作検出装置52aと、コントローラ40に接続されコントローラ40からの信号に基づいて制御される表示装置53aおよび油圧ユニット160と、を有する。
【0025】
本制御システム21では、操作装置44,45,46の少なくとも1つが操作されたときに予め定めた条件に従って作業装置1Aを動作させるMCが実行される。MCにおける油圧アクチュエータ(5,6,7)の制御は、該当する流量制御弁15a,15b,15cに制御信号(例えば、ブームシリンダ5を伸ばして強制的にブーム上げ動作を行う)を強制的に出力することで行われる。本制御システム21で実行されるMCとしては、操作装置45でアーム操作をする際に実行される「整地制御(領域制限制御)」と、アーム操作を行わずにブーム下げ操作をする際に実行される「停止制御」」とが含まれる。
【0026】
整地制御(領域制限制御)は、所定の目標面St(図4および図9参照)上またはその上方に作業装置1Aが位置するように油圧アクチュエータ5,6,7のうち少なくとも1つを制御するMCである。整地制御では、アーム操作によってバケット10の先端部が目標面Stに沿って移動するように、作業装置1Aの動作が制御される。具体的には、コントローラ40は、アーム操作がなされているときに、目標面Stに垂直な方向のバケット10の先端部(作業装置1Aの先端部)の速度ベクトルがゼロになるようにブーム上げ又はブーム下げの微動の指令を行う。なお、整地制御(領域制限制御)は、図示しない制御モード切替スイッチ等によって、整地制御モードが設定され、バケット10と目標面Stとの間の距離H1が予め定められた所定の距離よりも小さくなった場合に行われる。
【0027】
停止制御は、目標面Stよりも下方にバケット10の先端部が侵入しないように、ブーム下げ動作を停止するMCである。停止制御では、コントローラ40は、ブーム下げ操作中に、バケット10の先端部が目標面Stに接近するにつれブーム下げ動作を徐々に減速させる。
【0028】
なお、本実施形態では、MC時の作業装置1Aの制御点を、油圧ショベル101のバケット10の爪先に設定しているが、制御点は作業装置1Aの先端部分の点であればバケット10の爪先以外にも変更可能である。例えば、バケット10の底面やバケットリンク13の最外部を制御点として設定してもよい。また、目標面Stから最も距離の近いバケット10上の点を適宜制御点とする構成を採用してもよい。MCでは、操作装置44,45,46の非操作時に作業装置1Aの動作をコントローラ40により制御する「自動制御」と、操作装置44,45,46の操作時にのみ作業装置1Aの動作をコントローラにより制御する「半自動制御」と、がある。なお、MCは、オペレータ操作にコントローラ40による制御が介入するため「介入制御」とも呼ばれる。
【0029】
また、本制御システム21での作業装置1AのMGとしては、例えば図6に示すように、目標面Stと作業装置1A(例えば、バケット10)との位置関係を表示装置53aに表示する処理が行われる。
【0030】
図5に示すように、制御システム21は、姿勢検出装置50と、目標面設定装置51と、GNSSアンテナ14と、オペレータ操作検出装置52aと、表示装置53aと、複数の電磁比例弁(電磁減圧弁)を有する油圧ユニット160と、MGおよびMCを司るコントローラ(制御装置)40と、を備えている。
【0031】
姿勢検出装置50は、ブーム8に取り付けられるブーム角度センサ30、アーム9に取り付けられるアーム角度センサ31、バケット10に取り付けられるバケット角度センサ32および車体1Bに取り付けられる車体傾斜角度センサ33を有する。これらの角度センサ(30,31,32,33)は、作業装置1Aの姿勢に関する情報を取得し、その情報に応じた信号を出力する。すなわち、角度センサ(30,31,32,33)は、作業装置1Aの姿勢を検出する姿勢センサとして機能している。例えば、角度センサ30,31,32には、姿勢に関する情報としてブーム角、アーム角およびバケット角を取得し、取得した角度に応じた信号(電圧)を出力するポテンショメータを採用することができる。また、車体傾斜角度センサ33には、姿勢に関する情報として直交3軸の角速度および加速度を取得し、この情報に基づき傾斜角θを演算し、傾斜角θを表す信号をコントローラ40に出力するIMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)を採用することができる。なお、傾斜角θの演算は、IMUの出力信号に基づき、コントローラ40が行うようにしてもよい。
【0032】
目標面設定装置51は、目標面Stに関する情報(1つの目標面または複数の目標面の位置情報、目標面の基準面(水平面)に対する傾斜角度の情報等)をコントローラ40に入力可能な装置である。目標面設定装置51は、グローバル座標系(絶対座標系)上に規定された目標面の3次元データを格納した外部端末(図示せず)と接続されている。なお、目標面設定装置51を介した目標面の入力は、オペレータが手動で行ってもよい。
【0033】
オペレータ操作検出装置52aは、オペレータによる操作レバー22a,22b(操作装置44,45,46)の操作によってパイロットライン144,145,146に生じる操作圧(第1制御信号)を取得する圧力センサ70a,70b,71a,71b,72a,72b(図3参照)を有する。すなわち、オペレータ操作検出装置52aは、作業装置1Aに係る油圧シリンダ5,6,7に対する操作を検出している。
【0034】
図3に示すように、圧力センサ70a,70bは、ブーム8用の操作装置44のパイロットライン144a,144bに設けられ、操作レバー22aの操作量としてのパイロット圧(第1制御信号)を検出する操作センサである。圧力センサ71a,71bは、アーム9用のパイロットライン145a,145bに設けられ、操作レバー22bの操作量としてのパイロット圧(第1制御信号)を検出する操作センサである。圧力センサ72a,72bは、バケット10用のパイロットライン146a,146bに設けられ、操作レバー22aの操作量としてのパイロット圧(第1制御信号)を検出する操作センサである。
【0035】
図6は、表示装置53aの表示画面の一例の図である。図6に示すように、表示装置53aは、コントローラ40からの表示制御信号に基づいて、様々な表示画像を表示画面に表示する。表示装置53aは、例えば、タッチパネル式の液晶モニタであり、運転室16内に設置されている。コントローラ40は、表示装置53aの表示画面に目標面Stと作業装置1A(例えば、バケット10)の位置関係を表す表示画像を表示させることができる。図に示す例では、目標面Stおよびバケット10を表す画像と、目標面Stからバケット10の先端部までの距離が目標面距離として表示されている。
【0036】
図3に示すように、作業装置制御用の油圧ユニット160は、一次ポート側がポンプライン170を介してパイロットポンプ19に接続されパイロットポンプ19からのパイロット圧を減圧して出力する電磁比例弁54aと、ブーム8用の操作装置44のパイロットライン144aと電磁比例弁54aの二次ポート側に接続され、パイロットライン144a内のパイロット圧と電磁比例弁54aから出力される制御圧(第2制御信号)の高圧側を選択し、流量制御弁15aの油圧駆動部150aに導くシャトル弁82aと、ブーム8用の操作装置44のパイロットライン144bに設けられ、コントローラ40からの制御信号を基にパイロットライン144b内のパイロット圧(第1制御信号)を低減して流量制御弁15aの油圧駆動部150bに出力する電磁比例弁54bと、を備えている。
【0037】
また、油圧ユニット160は、パイロットライン145aに設けられ、コントローラ40からの制御信号を基にパイロットライン145a内のパイロット圧(第1制御信号)を低減して流量制御弁15bの油圧駆動部151aに出力する電磁比例弁55aと、パイロットライン145bに設けられ、コントローラ40からの制御信号を基にパイロットライン145b内のパイロット圧(第1制御信号)を低減して流量制御弁15bの油圧駆動部151bに出力する電磁比例弁55bと、を備えている。
【0038】
さらに、油圧ユニット160は、パイロットライン146a,146bに設けられ、コントローラ40からの制御信号を基にパイロットライン146a,146b内のパイロット圧(第1制御信号)を低減して出力する電磁比例弁56a,56bと、一次ポート側がポンプライン170を介してパイロットポンプ19に接続されパイロットポンプ19からのパイロット圧を減圧して出力する電磁比例弁56c,56dと、バケット10用の操作装置46のパイロットライン146a,146bと電磁比例弁56c,56dの二次ポート側に接続され、パイロットライン146a,146b内のパイロット圧と電磁比例弁56c,56dから出力される制御圧の高圧側を選択し、流量制御弁15cの油圧駆動部152a,152bに導くシャトル弁83a,83bと、を備えている。
【0039】
電磁比例弁54b,55a,55b,56a,56bは、非通電時には開度が最大であり、コントローラ40からの制御信号である電流を増大させるほど開度は小さくなる。一方、電磁比例弁54a,56c,56dは、非通電時には開度が最小(例えば0(ゼロ))であり、コントローラ40からの制御信号である電流を増大させるほど開度は大きくなる。このように各電磁比例弁54,55,56の開度はコントローラ40からの制御信号に応じたものとなる。
【0040】
上記のように構成される油圧ユニット160において、コントローラ40から制御信号を出力して電磁比例弁54a,56c,56dを駆動すると、対応する操作装置44,46のオペレータ操作が無い場合にもパイロット圧(第2制御信号)を発生できるので、ブーム上げ動作、バケットクラウド動作、バケットダンプ動作を強制的に実行できる。また、これと同様にコントローラ40により電磁比例弁54b,55a,55b,56a,56bを駆動すると、操作装置44,45,46のオペレータ操作により発生したパイロット圧(第1制御信号)を減じたパイロット圧(第2制御信号)を発生することができ、ブーム下げ動作、アームクラウド/ダンプ動作、バケットクラウド/ダンプ動作の速度をオペレータ操作の値から強制的に低減できる。
【0041】
本稿では、流量制御弁15a~15cに対する制御信号のうち、操作装置44,45,46の操作によって発生したパイロット圧を「第1制御信号」と称する。そして、流量制御弁15a~15cに対する制御信号のうち、コントローラ40で電磁比例弁54b,55a,55b,56a,56bを駆動して第1制御信号を補正(低減)して生成したパイロット圧と、コントローラ40で電磁比例弁54a,56c,56dを駆動して第1制御信号とは別に新たに生成したパイロット圧を「第2制御信号」と称する。
【0042】
第2制御信号は、第1制御信号によって発生される作業装置1Aの制御点(本実施形態では、バケット10の先端部)の速度が所定の条件に反するときに生成され、当該所定の条件に反しない作業装置1Aの制御点の速度を発生させる制御信号として生成される。なお、同一の流量制御弁15a~15cにおける一方の油圧駆動部に対して第1制御信号が、他方の油圧駆動部に対して第2制御信号が生成される場合は、第2制御信号を優先的に油圧駆動部に作用させるものとし、第1制御信号を電磁比例弁で遮断し、第2制御信号を当該他方の油圧駆動部に入力する。したがって、流量制御弁15a~15cのうち第2制御信号が演算されたものについては第2制御信号を基に制御され、第2制御信号が演算されなかったものについては第1制御信号を基に制御され、第1および第2制御信号の双方が発生しなかったものについては制御(駆動)されないことになる。上記のように第1制御信号と第2制御信号を定義すると、MCは、第2制御信号に基づく流量制御弁15a~15cの制御ということもできる。
【0043】
図5に示すように、コントローラ40は、入力インターフェース61と、プロセッサである中央処理装置(CPU)62と、記憶装置であるリードオンリーメモリ(ROM)63およびランダムアクセスメモリ(RAM)64と、出力インターフェース65と、を有している。入力インターフェース61には、姿勢検出装置50である角度センサ30~33からの信号と、目標面Stを設定するための装置である目標面設定装置51からの信号と、GNSSアンテナ14からの信号と、オペレータ操作検出装置52aである圧力センサ70a,70b,71a,71b,72a,72bからの信号が入力され、CPU62が演算可能なように変換する。ROM63は、後述する処理を含めMCおよびMGを実行するための制御プログラムと、当該処理の実行に必要な各種情報等が記憶された記憶媒体である。CPU62は、ROM63に記憶された制御プログラムに従って入力インターフェース61およびROM63,RAM64から取り入れた信号に対して所定の演算処理を行う。出力インターフェース95は、CPU62での演算結果に応じた出力用の信号を生成し、その信号を油圧ユニット160および表示装置53aに出力する。油圧ユニット160の電磁比例弁にコントローラ40からの信号(励磁電流)が入力されると、電磁比例弁が信号に基づいて作動する。表示装置53aにコントローラ40からの信号(表示制御信号)が入力されると、表示装置53aは信号に基づいて、表示画面に表示画像を表示する。
【0044】
なお、図5に示すコントローラ40は、記憶装置としてROM63およびRAM64という半導体メモリを備えているが、記憶装置であれば代替可能であり、例えばハードディスクドライブ等の磁気記憶装置を備えてもよい。
【0045】
コントローラ40は、上述したように、図示しない制御モード切替スイッチ等によって、整地制御モードが設定され、バケット10と目標面Stとの間の距離H1が予め定められた所定の距離よりも小さくなると、整地制御(領域制限制御)が実行される。
【0046】
整地制御モードが設定されると、コントローラ40は、目標面Stを設定し、GNSSアンテナ14および角度センサ30~33からの信号に基づいて、バケット10から目標面Stまでの距離であるバケット-目標面間距離H1を演算し、操作装置45によりアーム9の操作がなされバケット-目標面間距離H1が所定の距離Yaよりも小さくなった場合に、バケット10が目標面Stを越えて地面を掘削しないように、ブーム8を制御するとともにアーム9を減速させる減速制御を実行する。
【0047】
ここで、バケット-目標面間距離H1が所定の距離Yaよりも小さい場合に、一律に、アーム9を減速させる減速制御を実行することとすると、アーム9を減速させる必要がない場合、例えば、作業装置1Aの姿勢および作業装置1Aと目標面Stとの位置関係からバケット10が目標面に侵入すること(すなわちバケット10が目標面Stを越えて地面を掘削してしまうこと)が想定されないような場合においても減速制御が実行され、作業効率が低下するおそれがある。
【0048】
そこで、本実施形態に係るコントローラ40は、設定された目標面StとGNSSアンテナ14および角度センサ30~33からの信号とに基づいて、アーム9の操作がなされたときにバケット10が目標面Stに侵入する可能性があるか否かを判定し、バケット10が目標面Stに侵入する可能性がないと判定された場合には、バケット-目標面間距離H1が所定の距離Yaよりも小さい場合であってもアーム9の減速制御を実行しないように構成されている。以下、コントローラ40の機能について、詳しく説明する。
【0049】
図7はコントローラ40の機能ブロック図である。コントローラ40は、記憶装置に記憶されているプログラムを実行することにより、操作量演算部43a、姿勢演算部43b、目標面設定部43c、目標速度演算部43d、目標パイロット圧演算部43e、介入解除演算部43f、バルブ指令演算部43g、および表示制御部43hとして機能する。目標パイロット圧演算部43e、介入解除演算部43fおよびバルブ指令演算部43gは、油圧ユニット160の電磁比例弁を制御することにより、アクチュエータである油圧シリンダ(5,6,7)を制御するアクチュエータ制御部81として機能する。
【0050】
操作量演算部43aは、オペレータ操作検出装置52aからの信号(すなわち、圧力センサ70,71,72の検出値を表す信号)に基づいて、操作装置44,45,46(操作レバー22a,22b)の操作量を算出する。圧力センサ70aの検出値からはブーム8を上げ動作させるための操作であるブーム上げ操作の操作量、圧力センサ70bの検出値からはブーム8を下げ動作させるための操作であるブーム下げ操作の操作量、圧力センサ71aの検出値からはアーム9をクラウド動作させるための操作であるアームクラウド(アーム引き)操作の操作量、圧力センサ71bの検出値からはアーム9をダンプ動作させるための操作であるアームダンプ(アーム押し)操作の操作量が算出される。このように圧力センサ70,71,72の検出値から変換された操作量は、目標速度演算部43dに出力される。また、図7での図示は省略しているが、操作量演算部43aは圧力センサ72の検出値からバケットクラウド/ダンプの操作量も演算しており、その演算結果は目標速度演算部43dに出力される。
【0051】
なお、操作量の算出方法は、圧力センサ70,71,72の検出結果に基づき、操作量を算出する場合に限定されない。例えば各操作装置44,45,46の操作レバーの回転変位を検出する位置センサ(例えば、ロータリーエンコーダ)を操作センサとして設け、この位置センサの検出結果に基づいて、当該操作レバーの操作量を算出してもよい。
【0052】
目標面設定部43cは、目標面設定装置51からの情報に基づき目標面Stを設定する。すなわち、目標面設定部43cは、目標面設定装置51からの情報に基づき目標面Stの位置情報を演算し、これをRAM64内に記憶する。本実施形態では、図8に示すように、3次元の目標面を作業装置1Aが移動する平面(作業装置の動作平面)で切断した断面形状を目標面St(2次元の目標面)として利用する。
【0053】
図7に示すように、姿勢演算部43bは、姿勢検出装置50からの信号(角度に関する情報)および記憶装置に記憶されている作業装置1Aの幾何学情報(L1,L2,L3)に基づき、ローカル座標系(ショベル基準座標)における作業装置1Aの姿勢と、バケット10の先端位置Pb(Xbk,Zbk)と、アームピン92の中心位置Pp(Xp,Zp)を演算する。既述のとおり、バケット10の先端位置Pb(Xbk,Zbk)は、式(1)および式(2)により演算できる。また、アームピン92の中心位置Pp(Xp,Zp)は、式(3)および式(4)により演算できる。なお、グローバル座標系における作業装置1Aの姿勢と、バケット10の先端の位置が必要な場合には、姿勢演算部43bは、GNSSアンテナ14の信号から車体1Bを構成する上部旋回体12のグローバル座標系における位置と姿勢を算出してローカル座標をグローバル座標に変換する。
【0054】
さらに、姿勢演算部43bは、目標面設定部43cによって設定された目標面Stと、GNSSアンテナ14からの信号(車体1Bの位置に関する情報)と、姿勢検出装置50からの信号(角度に関する情報)と、記憶装置に記憶されている作業装置1Aの幾何学情報(L1,L2,L3)と、に基づき、目標面Stと作業装置1Aとの位置関係を表す各種データ(H1,H2,Dpb,φ)を演算する。以下、これらの演算について、図8を参照して詳しく説明する。図8は、作業装置1Aと目標面Stとの位置関係を表す各種データ(H1,H2,Dpb,φ)について示す図である。
【0055】
図8に示すように、姿勢演算部43bは、設定された目標面Stと、GNSSアンテナ14および姿勢検出装置50からの信号と、記憶装置に記憶されている作業装置1Aの幾何学情報と、に基づいて、バケット10の先端位置Pb(Xbk,Zbk)から目標面Stまでの最短距離をバケット-目標面間距離H1として演算する。本実施形態では、複数の目標面Stが連なって設定される。姿勢演算部43bは、全ての目標面Stに対してバケット-目標面間距離H1を演算し、この演算結果からバケット10の先端部との距離が最も短い目標面、すなわちバケット10の先端部に最も近い目標面を、最近接目標面として設定する。なお、姿勢演算部43bは、作業装置1Aの最大作業範囲を演算し、設定された複数の目標面Stのうち、最大作業範囲内に存在する目標面に対してのみ、バケット-目標面間距離H1を演算し、最近接目標面を設定してもよい。姿勢演算部43bは、バケット10の先端位置Pbから目標面Stに垂線が下ろせる場合には、その垂線の長さをバケット-目標面間距離H1として設定する。姿勢演算部43bは、バケット10の先端位置Pbから目標面Stに垂線が下ろせない場合には、バケット10の先端位置Pbと目標面Stの両端位置とを結ぶ線分の長さのうち短い方をバケット-目標面間距離H1として設定する。
【0056】
以下、各目標面を区別するために符号nを用いて、複数の目標面St(n)について説明する。上記最近接目標面Stは、St(0)(すなわちSt(n),n=0)と記す。また、車体1Bから見て最近接目標面St(0)よりも奥側にある目標面を奥側目標面St(n)とも記し、nは、最近接目標面St(0)に近いものから遠くなるにしたがって順番に1ずつ大きくなる1以上の正の整数である。つまり、最近接目標面St(0)に最も近い奥側の目標面は奥側目標面St(1)であり、次に近い奥側の目標面は奥側目標面St(2)である。一方、車体1Bから見て最近接目標面St(0)よりも手前側にある目標面を手前側目標面St(n)とも記し、nは、最近接目標面St(0)に近いものから遠くなるにしたがって順番に1ずつ小さくなる-1以下の負の整数である。つまり、最近接目標面St(0)に最も近い手前側の目標面は手前側目標面St(-1)であり、次に近い手前側の目標面は手前側目標面St(-2)である。
【0057】
図8に示す例では、バケット10の先端位置Pbから最近接目標面St(0)までの最短距離H1(0)は、バケット10の先端位置Pbから最近接目標面St(0)へ下ろされた垂線の長さに相当する。バケット10の先端位置Pbから奥側目標面St(1)までの最短距離H1(1)は、バケット10の先端位置Pbと奥側目標面St(1)の手前側端点とを結ぶ線分の長さに相当する。バケット10の先端位置Pbから手前側目標面St(-1)までの最短距離H1(-1)は、バケット10の先端位置Pbと手前側目標面St(-1)の奥側端点とを結ぶ線分の長さに相当する。
【0058】
姿勢演算部43bは、設定された目標面Stと、GNSSアンテナ14および姿勢検出装置50からの信号と、記憶装置に記憶されている作業装置1Aの幾何学情報と、に基づいて、アームピン92の中心位置Pp(Xp,Zp)から目標面St(n)までの最短距離であるピン-目標面間距離H2(n)を演算する。姿勢演算部43bは、アームピン92の中心位置Ppから目標面St(n)に垂線が下ろせる場合には、その垂線の長さをピン-目標面間距離H2(n)として演算する。姿勢演算部43bは、アームピン92の中心位置Ppから目標面St(n)に垂線が下ろせない場合には、アームピン92の中心位置Ppと目標面St(n)の両端位置とを結ぶ線分の長さのうち短い方をピン-目標面間距離H2(n)として演算する。
【0059】
図8に示す例では、アームピン92の中心位置Ppから最近接目標面St(0)までの最短距離H2(0)は、アームピン92の中心位置Ppから最近接目標面St(0)へ下ろされた垂線の長さに相当する。アームピン92の中心位置Ppから奥側目標面St(1)までの最短距離H2(1)は、アームピン92の中心位置Ppと奥側目標面St(1)の手前側端点とを結ぶ線分の長さに相当する。アームピン92の中心位置Ppから手前側目標面St(-1)までの最短距離H2(-1)は、アームピン92の中心位置Pbから手前側目標面St(-1)へ下ろされた垂線の長さに相当する。
【0060】
姿勢演算部43bは、姿勢検出装置50からの信号と、記憶装置に記憶されている作業装置1Aの幾何学情報と、に基づいて、アームピン92の中心位置Pp(Xp,Zp)からバケット10の先端位置Pb(Xbk,Zbk)までの最短距離(直線距離)をピン-バケット間距離Dpbとして演算する。ピン-バケット間距離Dpbは、中心位置Ppと先端位置Pbとを結ぶ線分Lpbの長さに相当する。
【0061】
姿勢演算部43bは、設定された目標面Stと、GNSSアンテナ14および姿勢検出装置50からの信号と、記憶装置に記憶されている作業装置1Aの幾何学情報と、に基づいて、アームピン92の中心位置Pp(Xp,Zp)とバケット10の先端位置Pb(Xbk,Zbk)とを結ぶ線分Lpbと、その線分Lpbと目標面St(n)とのなす角度φ(n)と、を演算する。以下、線分Lpbと目標面St(n)とのなす角度を、単に角度φ(n)とも記す。なお、本実施形態において、角度φ(n)は、図示するように線分Lpbと平行な直線Lpを目標面St(n)上に位置させたとき、その直線Lpとその直線Lpよりも車体1B側の目標面St(n)とのなす角度のことを指す。
【0062】
図7に示すように、表示制御部43hは、目標面設定部43cで設定された目標面Stと、姿勢演算部43bで演算されたバケット10の先端部との位置関係を表す表示画像(図6参照)を表示装置53aに表示する処理を実行する。
【0063】
目標速度演算部43dは、姿勢演算部43bでの演算結果および操作量演算部43aでの演算結果に基づいて、各油圧シリンダ5,6,7の目標速度を演算する。目標速度演算部43dは、整地制御(領域制限制御)において、作業装置1Aによって目標面Stの下側を掘削してしまわないように、各油圧シリンダ5,6,7の目標速度を演算する。以下、図9を参照して、詳しく説明する。図9は、バケット10の先端が補正後の目標速度ベクトルVcaの通りに制御されたときの、バケット10の先端の軌跡の一例を示す図である。ここでの説明では、図9に示すように、Xt軸およびYt軸を設定する。Xt軸は、目標面Stに平行な軸であり、Yt軸は、目標面Stに直交する軸である。
【0064】
目標速度演算部43dは、操作量演算部43aによって演算された操作装置44,45,46の操作量に基づいて、各油圧シリンダ5,6,7の目標速度(一次目標速度)を演算する。次に、目標速度演算部43dは、各油圧シリンダ5,6,7の目標速度(一次目標速度)と、姿勢演算部43bで演算されたバケット10の先端位置Ppと、ROM63に記憶してある作業装置1Aの各部寸法(L1,L2,L3等)とに基づいて、図9に示すバケット10の先端部の目標速度ベクトルVcを演算する。バケット10の先端部と最近接目標面St(0)との距離(目標面距離)H1が0(ゼロ)に近づくにつれて、バケット10の先端部の目標速度ベクトルVcにおける目標面Stに垂直な成分Vcy(Yt軸方向の速度成分)が0(ゼロ)に近づくように油圧シリンダ5,6,7のうち必要な油圧シリンダの一次目標速度を補正して、二次目標速度を演算することにより、バケット10の先端部の速度ベクトルをVcaに変換する制御(方向変換制御)を行う。目標面距離H1が0(ゼロ)のときの目標速度ベクトルVcaは目標面Stに平行な成分Vcx(Xt軸方向の速度成分)のみになる。これにより目標面St上またはその上方にバケット10の先端部(制御点)が位置するように保持される。
【0065】
方向変換制御では、例えば、図9に示すように、操作装置45によってアームクラウドの操作が単独で行われたときには、アームシリンダ6を伸長させるとともに、ブームシリンダ5を伸長させることにより、速度ベクトルVcをVcaに変換させる。ここで、アームクラウドの操作量(例えば、最大操作量)に応じた速度(例えば、最大速度)でアームシリンダ6が駆動すると、ブームシリンダ5の伸長動作が間に合わず、バケット10の先端部が目標面Stを越えて目標面Stの下方まで地山を掘削してしまうおそれがある。このため、本実施形態では、目標速度演算部43dは、オペレータのアーム9の操作量に基づいて演算される一次目標速度を補正して、一次目標速度よりも低い二次目標速度をアームシリンダ6の目標速度として設定する。
【0066】
なお、方向変換制御は、ブーム上げ又はブーム下げとアームクラウドとの組み合わせにより実行される場合、および、ブーム上げ又はブーム下げとアームダンプとの組み合わせにより実行される場合がある。いずれの場合においても、目標速度ベクトルVcが掘削目標面Stに接近する下向き成分(Vcy<0)を含むとき、目標速度演算部43dは、その下向き成分を打ち消すブーム上げ方向のブームシリンダ5の目標速度を演算する。反対に目標速度ベクトルVcが掘削目標面Stから離れる上向き成分(Vcy>0)を含むとき、目標速度演算部43dは、その上向き成分を打ち消すブーム下げ方向のブームシリンダ5の目標速度を演算する。
【0067】
なお、図示しない制御モード切替スイッチにより、整地制御(領域制限制御)が行われないモードが設定されている場合、目標速度演算部43dは、操作装置44~46の操作に応じた各油圧シリンダ5~7の目標速度を出力する。
【0068】
図7に示すように、目標パイロット圧演算部43eは、目標速度演算部43dで演算された各シリンダ5,6,7の目標速度に基づいて、各油圧シリンダ5,6,7の流量制御弁15a,15b,15cへの目標パイロット圧を演算する。
【0069】
ここで、アームシリンダ6の動作を制御する流量制御弁15bに対する目標パイロット圧とは、例えば、アーム9の操作装置45の操作レバー22bが最大に操作されたときに操作装置45から出力されるパイロット圧(第1制御信号)を減圧することにより生成するパイロット圧(第2制御信号)の目標値に相当する。
【0070】
このため、目標速度演算部43dによって、オペレータのアーム9の操作量(最大操作量)に基づいて演算される一次目標速度よりも低い二次目標速度が設定されていると、目標パイロット圧演算部43eは、操作装置45から出力されるパイロット圧よりも低い目標パイロット圧を設定する。その結果、後述するバルブ指令演算部43gからの制御信号によって電磁比例弁55が動作し、電磁比例弁55によって操作装置45から出力されるパイロット圧(第1制御信号)が減圧されてパイロット圧(第2制御信号)が生成される。これにより、操作装置45に対するオペレータの操作量(例えば、最大操作量)に応じた速度よりも低い速度でアーム9が動作することになる。つまり、本実施形態に係るコントローラ40では、所定の条件が成立した場合に、オペレータの操作に介入して、アーム9を減速させる減速制御が実行可能である。
【0071】
介入解除演算部43fは、アーム9の減速制御をオペレータの操作に介入して実行するか否かを決定する。換言すれば、介入解除演算部43fは、アーム9の操作装置45に対するオペレータの操作に介入して行われるアーム9の減速制御を解除するか否かを決定する。介入解除演算部43fは、操作量演算部43aでの演算結果、姿勢演算部43bでの演算結果、および目標面設定部43cで設定された目標面Stに基づいて、オペレータの操作への介入(アーム9の減速制御)を解除する条件(以下、介入解除条件と記す)が成立しているか否かを判定する。
【0072】
介入解除条件が成立していない場合、介入解除演算部43fは、アーム9の減速制御を解除しないと決定する。この場合、介入解除演算部43fは、目標パイロット圧演算部43eで演算された目標パイロット圧(流量制御弁15bへの目標パイロット圧)をバルブ指令演算部43gにそのまま出力する。一方、介入解除条件が成立している場合、介入解除演算部43fは、目標パイロット圧演算部43eで演算された目標パイロット圧(流量制御弁15bへの目標パイロット圧)を最大圧力Pmaxに補正してバルブ指令演算部43gに出力する。
【0073】
アームシリンダ6の流量制御弁15bへの目標パイロット圧に最大圧力Pmaxが設定されると、後述するバルブ指令演算部43gからの制御信号によって電磁比例弁55が全開の状態となる。つまり、アーム9の操作装置45の操作レバー22bが最大に操作されたときには、操作装置45から出力されるパイロット圧(最大圧力Pmax)が減圧されることなく、そのまま流量制御弁15bに作用する。これにより、操作装置45に対するオペレータの操作量(例えば、最大操作量)に応じた速度でアーム9が動作することになる。
【0074】
なお、介入解除演算部43fは、目標パイロット圧演算部43eで演算された、流量制御弁15a,15cへの目標パイロット圧については、介入解除条件の成立要否にかかわらず、そのままバルブ指令演算部43gに出力する。
【0075】
本実施形態において、介入解除条件は、以下の(条件1)および(条件2)のいずれかが満たされると成立し、(条件1)および(条件2)の双方が満たされていない場合には成立しない。
(条件1)バケット-目標面間距離H1が所定の距離Ya以上である。
(条件2)アーム9の操作がなされたときにバケット10が目標面Stに侵入する可能性がない。
【0076】
-条件1について-
整地制御において、アーム9の減速制御は、バケット10の先端部と目標面Stとの距離が近い場合にのみ行い、バケット10の先端部と目標面Stとの距離がある程度離れている場合には、アーム9の減速制御を行わないようにすることが好ましい。これにより、整地制御において、作業装置1Aの作業効率を向上することができる。
【0077】
本実施形態では、介入解除演算部43fは、バケット-目標面間距離H1が所定の距離Ya未満である場合には介入解除条件は成立していないと判定し、バケット-目標面間距離H1が所定の距離Ya以上である場合には介入解除条件が成立していると判定する。所定の距離Yaは、バケット10の先端部が目標面Stの近くに位置しているか否かを判定するための閾値であり、予めコントローラ40の記憶装置に記憶されている。なお、本実施形態では、アームクラウド操作がなされたときに用いられる閾値YaとしてYa1が記憶装置に記憶され、アームダンプ操作がなされたときに用いられる閾値Yaとして閾値Ya2が記憶装置に記憶されている。閾値Ya1および閾値Ya2は、互いに同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0078】
-条件2について-
整地制御において、バケット-目標面間距離H1が所定の距離Yaよりも小さい場合であっても、アーム9の操作によって、バケット10が目標面Stに侵入する可能性がないと判定される場合には、アーム9の減速制御を行わないようにすることが好ましい。これにより、整地制御において、作業装置1Aの作業効率を向上することができる。そこで、本実施形態では、介入解除演算部43fは、作業装置1Aの姿勢が、アーム9の操作がなされたときにバケット10が目標面Stに侵入する姿勢(以下、侵入姿勢と記す)であるか否かを判定する。作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢でないと判定された場合、介入解除演算部43fは、アーム9の操作がなされたときにバケット10が目標面Stに侵入する可能性がないものと判定する。作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢であると判定された場合、介入解除演算部43fは、アーム9の操作がなされたときにバケット10が目標面Stに侵入する可能性があるものと判定する。
【0079】
-第1の侵入姿勢判定処理(第1のバケット侵入判定処理)-
本実施形態では、介入解除演算部43fは、姿勢演算部43bで演算されたピン-バケット間距離Dpbおよびピン-目標面間距離H2に基づいて、作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢であるか否かを判定する処理(第1の侵入姿勢判定処理)を実行する。第1の侵入姿勢判定処理は、アーム9の操作がなされたときにバケット10の先端部の移動軌跡上に目標面Stが存在するか否かを判別することにより、バケット10が目標面Stに侵入する可能性があるか否かを判定する処理(第1のバケット侵入判定処理)に相当する。
【0080】
本実施形態では、例えば、整地制御において、アームクラウド操作がなされると、電磁比例弁54aにおいてパイロット圧(第2制御信号)が生成され、ブーム上げ動作が行われる。一方、オペレータが操作を行わない限り、ブーム下げ動作が行われることはない。したがって、オペレータによりブーム下げ操作がなされないことを前提とすれば、ピン-目標面間距離H2がピン-バケット間距離Dpb以上であれば、アーム9の操作がなされたときにバケット10が目標面Stに侵入する可能性はないものと判定することができ、そのときの作業装置1Aの姿勢は侵入姿勢でないといえる。
【0081】
そこで、本実施形態に係る介入解除演算部43fは、ピン-目標面間距離H2がピン-バケット間距離Dpb以上である場合には、作業装置1Aの姿勢は侵入姿勢でないと判定し、ピン-目標面間距離H2がピン-バケット間距離Dpb未満の場合には、作業装置1Aの姿勢は侵入姿勢であると判定する。
【0082】
-第2の侵入姿勢判定処理(第2のバケット侵入判定処理)-
さらに、介入解除演算部43fは、姿勢演算部43bで演算された角度φに基づいて、作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢であるか否かを判定する処理(第2の侵入姿勢判定処理)を実行する。第2の侵入姿勢判定処理は、アーム9の操作がなされたときにバケット10が目標面Stに対して接近する方向に移動するのか、遠ざかる方向に移動するのかを判別することにより、バケット10が目標面Stに侵入する可能性があるか否かを判定する処理(第2のバケット侵入判定処理)に相当する。
【0083】
角度φが90°よりも大きい場合にアームクラウド操作がなされると、バケット10の進行方向(車体1Bから見て手前側に向かう方向)に存在する目標面Stに対して、バケット10の先端部が遠ざかる方向に移動する。このため、アーム9の操作がなされたときにバケット10が目標面Stに侵入する可能性がないものと判定することができ、そのときの作業装置1Aの姿勢は侵入姿勢でないといえる。角度φが90°よりも小さい場合にアームクラウド操作がなされると、バケット10の進行方向(車体1Bから見て手前側に向かう方向)に存在する目標面Stに対して、バケット10の先端部が接近する方向に移動する。このため、アーム9の操作がなされたときにバケット10が目標面Stに侵入する可能性があるものと判定することができ、そのときの作業装置1Aの姿勢は侵入姿勢であるといえる。
【0084】
角度φが90°よりも大きい場合にアームダンプ操作がなされると、バケット10の進行方向(車体1Bから見て奥側に向かう方向)に存在する目標面Stに対して、バケット10の先端部が接近する方向に移動する。このため、アーム9の操作がなされたときにバケット10が目標面Stに侵入する可能性があるものと判定することができ、そのときの作業装置1Aの姿勢は侵入姿勢であるといえる。角度φが90°よりも小さい場合にアームダンプ操作がなされると、バケット10の進行方向(車体1Bから見て奥側に向かう方向)に存在する目標面Stに対して、バケット10の先端部が遠ざかる方向に移動する。このため、アーム9の操作がなされたときにバケット10が目標面Stに侵入する可能性がないものと判定することができ、そのときの作業装置1Aの姿勢は侵入姿勢でないといえる。
【0085】
そこで、本実施形態に係る介入解除演算部43fは、角度φが90°以上である場合には、作業装置1Aの姿勢は、アームクラウド操作がなされたときにバケット10が目標面Stに侵入する侵入姿勢でないと判定する。また、介入解除演算部43fは、角度φが90°未満である場合には、作業装置1Aの姿勢はアームクラウド操作がなされたときにバケット10が目標面Stに侵入する侵入姿勢であると判定する。さらに、介入解除演算部43fは、角度φが90°未満である場合には、作業装置1Aの姿勢は、アームダンプ操作がなされたときにバケット10が目標面Stに侵入する侵入姿勢でないと判定する。また、介入解除演算部43fは、角度φが90°以上である場合には、作業装置1Aの姿勢はアームダンプ操作がなされたときにバケット10が目標面Stに侵入する侵入姿勢であると判定する。
【0086】
なお、第2の侵入姿勢判定処理は、第1の侵入姿勢判定処理と同様、ブーム8の下げ操作とアーム9の操作の複合操作がなされていないことを前提としている。このため、介入解除演算部43fは、ブーム8の下げ操作とアーム9の操作の複合操作がなされているときには、作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢でない場合であっても、バケット10が目標面Stに侵入する可能性があるものと判定することが好ましい。すなわち、介入解除演算部43fは、(条件2)は満たされていないと判定することが好ましい。
【0087】
つまり、本実施形態において、(条件2)は、次の(a1)または(b1)が満たされたときに成立し、(a1)および(b1)の双方が満たされていないときには成立しない。
(a1)ブーム8の下げ操作とアーム9の操作の複合操作がなされていない、かつ、第1の侵入姿勢判定処理において、作業装置1Aの姿勢は侵入姿勢でないと判定される。
(b1)ブーム8の下げ操作とアーム9の操作の複合操作がなされていない、かつ、第2の侵入姿勢判定処理において、作業装置1Aの姿勢は侵入姿勢でないと判定される。
【0088】
なお、制御モード切替スイッチにより整地制御モードが設定された場合、MGによって、表示装置53aにブーム下げ操作を行わずにアーム操作のみを行うように指示する画像を表示したり、ブーム下げ操作を無効にしたりする構成とすれば、ブーム下げ操作とアーム操作の複合操作がなされているか否かにかかわらず、作業姿勢が侵入姿勢であるか否かによって、条件(2)の成立要否を判定してもよい。
【0089】
つまり、この場合には、(条件2)は、次の(a2)または(b2)が満たされたときに成立し、(a2)および(b2)の双方が満たされていないときには成立しない。
(a2)第1の侵入姿勢判定処理において、作業装置1Aの姿勢は侵入姿勢でないと判定される。
(b2)第2の侵入姿勢判定処理において、作業装置1Aの姿勢は侵入姿勢でないと判定される。
【0090】
バルブ指令演算部43gは、介入解除演算部43fから出力された目標パイロット圧を各流量制御弁15a,15b,15cに作用させるために、電磁比例弁54,55,56に出力する電気信号を演算し、演算した電気信号(励磁電流)を電磁比例弁54,55,56に出力する。バルブ指令演算部43gから出力された電気信号(励磁電流)によって、電磁比例弁54,55,56のソレノイドが励磁されることにより、電磁比例弁54,55,56が作動し、流量制御弁15a,15b,15cに作用するパイロット圧が、介入解除演算部43fで設定された目標パイロット圧に制御される。
【0091】
したがって、整地制御モードが設定されている状態でアーム9の操作(フル操作)がなされているときであって、介入解除条件が成立していない場合には、電磁比例弁55によって第1制御信号としてのパイロット圧が減圧され、第2制御信号としてのパイロット圧が生成される制御、すなわちアーム9がオペレータの操作に応じた速度よりも低い速度で制御される減速制御が実行されることになる。別の言い方をすれば、整地制御モードが設定されている場合において、オペレータが操作レバー22bを最大に操作してアーム9を動作させることにより、バケット-目標面間距離H1が予め定められた所定の距離Yaよりも大きい状態から小さい状態になると、(条件2)が成立していない場合には、アーム9の速度が減速するように制御されることになる。一方、整地制御が行われている場合であって、介入解除条件が成立している場合には、電磁比例弁55が開放状態(本実施形態では全開状態)とされ、アーム9がオペレータの操作に応じた速度で制御されることになる。すなわちアーム9の減速制御は実行されず、減速制御が解除された状態となる。
【0092】
さらに、本実施形態では、介入解除条件の成立要否の判定処理を最近接目標面Stに対してのみ行うのではなく、アーム9の操作がなされたときのバケット10の進行方向に存在する目標面Stに対して行う。以下、図10および図11のフローチャートを参照して、姿勢演算部43bおよび介入解除演算部43fとしてのコントローラ40によって行われる演算処理について詳しく説明する。
【0093】
図10は、コントローラ40により実行されるアームクラウド用の介入解除フラグFc(n)の設定処理の内容について示すフローチャートである。図11は、コントローラ40により実行されるアームダンプ用の介入解除フラグFd(n)の設定処理の内容について示すフローチャートである。図10および図11に示すフローチャートの処理は、図示しない制御モード切替スイッチ等によって、整地制御モードが設定されることにより開始され、図示しない初期設定が行われた後、所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0094】
図10に示すように、ステップS105において、介入解除演算部43fは、作業装置1Aの最大作業範囲を演算する。また、ステップS105において、介入解除演算部43fは、最大作業範囲内に存在し、かつ、アームクラウド操作がなされたときにバケット10の進行方向に存在する目標面である最近接目標面St(0)および手前側目標面St(n),(n<0)を演算対象として設定し、ステップS110へ進む。演算対象として設定された目標面St(n)のうち、最も手前側に位置する目標面St(n)に付される符号nをm(m<0)とすると、演算対象となる目標面St(n)に付される符号n=m,m+1,・・・-1,0となる。図8に示す例では、目標面St(n),(n=-3,-2,-1,0)が演算対象として設定される。なお、最大作業範囲とは、バケット10の先端部が届く最大の範囲であり、ブーム8、アーム9、およびバケット10を直線状に伸ばした最大作業半径Rおよび作業装置1Aを構成する各部材の回動範囲等によって演算される。最大作業半径Rおよび作業装置1Aを構成する各部材の回動範囲は、予め、コントローラ40の記憶装置に記憶されている。
【0095】
作業範囲内の目標面St(n)を演算対象に設定する処理(S105)が完了すると、コントローラ40は、ステップS120からステップS170またはステップS180までの一連の処理を繰り返し行うループ処理を実行する(ステップS110,S190)。ステップS110はループの開始を表し、ステップS190はループの終了を表す。このループ処理(ステップS110,S190)は、演算対象とされた目標面St(n),(n=m~0)の全てに対して、介入解除フラグFc(n)が設定されると終了し、ループ処理が終了すると、ステップS195へ進む。
【0096】
ステップS120において、介入解除演算部43fは、操作量演算部43aでの演算結果に基づいて、アームクラウド操作がなされているか否かを判定する。介入解除演算部43fは、操作量演算部43aで演算されたアームクラウドの操作量Acが閾値Ac0以上である場合、アームクラウド操作がなされていると判定し、ステップS130へ進む。介入解除演算部43fは、操作量演算部43aで演算されたアームクラウド操作量Acが閾値Ac0未満である場合、アームクラウド操作がなされていないと判定し、ステップS135へ進む。閾値Ac0は、アームクラウド操作がなされているか否かを判定するための閾値であり、予め、コントローラ40の記憶装置に記憶されている。
【0097】
ステップS130において、介入解除演算部43fは、操作量演算部43aでの演算結果に基づいて、ブーム下げ操作がなされているか否かを判定する。介入解除演算部43fは、操作量演算部43aで演算されたブーム下げの操作量Blが閾値Bl0以上である場合、ブーム下げ操作がなされていると判定し、ステップS155へ進む。介入解除演算部43fは、操作量演算部43aで演算されたブーム下げ操作量Blが閾値Bl0未満である場合、ブーム下げ操作がなされていないと判定し、ステップS135へ進む。閾値Bl0は、ブーム下げ操作がなされているか否かを判定するための閾値であり、予め、コントローラ40の記憶装置に記憶されている。
【0098】
ステップS135において、姿勢演算部43bは、ピン-目標面間距離H2(n)およびピン-バケット間距離Dpbを演算し、ステップS140へ進む。ステップS140において、介入解除演算部43fは、姿勢演算部43bで演算されたピン-目標面間距離H2(n)が、姿勢演算部43bで演算されたピン-バケット間距離Dpb以上であるか否かを判定する。
【0099】
ステップS140において、ピン-目標面間距離H2(n)がピン-バケット間距離Dpb以上であると判定されると、すなわち、作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢ではなく、アームクラウド操作によってバケット10が目標面St(n)に侵入する可能性がないものと判定されると、ステップS180へ進む。ステップS140において、ピン-目標面間距離H2(n)がピン-バケット間距離Dpb未満であると判定されると、すなわち、作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢であり、アームクラウド操作によってバケット10が目標面St(n)に侵入する可能性があるものと判定されると、ステップS145へ進む。
【0100】
ステップS145において、姿勢演算部43bは、角度φ(n)を演算し、ステップS150へ進む。ステップS150において、介入解除演算部43fは、姿勢演算部43bで演算された角度φ(n)が90°以上であるか否かを判定する。
【0101】
ステップS150において、角度φ(n)が90°以上であると判定されると、すなわち、作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢ではなく、アームクラウド操作によってバケット10が目標面St(n)に侵入する可能性がないものと判定されると、ステップS180へ進む。ステップS150において、角度φ(n)が90°未満であると判定されると、すなわち、作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢であり、アームクラウド操作によってバケット10が目標面St(n)に侵入する可能性があるものと判定されると、ステップS155へ進む。
【0102】
ステップS155において、姿勢演算部43bは、バケット-目標面間距離H1(n)を演算し、ステップS160へ進む。ステップS160において、介入解除演算部43fは、姿勢演算部43bで演算されたバケット-目標面間距離H1(n)が閾値Ya1未満であるか否かを判定する。ステップS160において、距離H1(n)が閾値Ya1未満であると判定されるとステップS170へ進み、距離H1(n)が閾値Ya1以上であると判定されるとステップS180へ進む
【0103】
ステップS170において、介入解除演算部43fは、介入解除条件は成立していない(換言すれば、アームクラウド減速条件が成立している)と判定して介入解除フラグFc(n)を0に設定し(Fc(n)=0)、ステップS190へ進み、当該目標面St(n)に対する一連の処理を終了する。
【0104】
ステップS180において、介入解除演算部43fは、介入解除条件は成立している(換言すれば、アームクラウド減速条件が成立していない)と判定して介入解除フラグFc(n)を1に設定し(Fc(n)=1)、ステップS190へ進み、当該目標面St(n)に対する一連の処理を終了する。
【0105】
ループ処理が完了すると、ステップS195へ進み、目標パイロット圧出力処理が実行される。ステップS195において、介入解除演算部43fは、介入解除フラグFc(n),(n=m~0)の全てがFc(n)=1に設定されているか否かを判定し、その判定結果に基づいて目標パイロット圧を出力する。介入解除フラグFc(n)の全てがFc(n)=1に設定されていないと判定された場合、すなわち、介入解除フラグFc(n),(n=m~0)のうち、1つでもFc(n)=0に設定されていると判定された場合、介入解除演算部43fは、目標パイロット圧演算部43eで演算された流量制御弁15bの油圧駆動部151aに対する目標パイロット圧をそのままバルブ指令演算部43gに出力する。これにより、アーム9の減速制御が実行され、オペレータの操作に応じた速度よりも低い速度でアームクラウド動作が行われる。
【0106】
一方、介入解除フラグFc(n),(n=m~0)の全てがFc(n)=1に設定されていると判定された場合、介入解除演算部43fは、目標パイロット圧演算部43eでの演算結果にかかわらず、流量制御弁15bの油圧駆動部151aに対する目標パイロット圧に最大圧力Pmaxに設定し、バルブ指令演算部43gに出力する。これにより、アームクラウド動作を制御可能な電磁比例弁55aが全開状態に制御される。すなわち、アーム9の減速制御は実行されない。その結果、オペレータの操作に応じた速度でアームクラウド動作が行われる。目標パイロット圧出力処理(S195)が終了すると、図10のフローチャートに示す処理が終了する。
【0107】
図11に示すように、ステップS205において、介入解除演算部43fは、作業装置1Aの最大作業範囲を演算する。また、ステップS205において、介入解除演算部43fは、最大作業範囲内に存在し、かつ、アームダンプ操作がなされたときにバケット10の進行方向に存在する目標面である最近接目標面St(0)および奥側目標面St(n),(n>0)を演算対象として設定し、ステップS210へ進む。演算対象として設定された目標面St(n)のうち、最も奥側に位置する目標面St(n)に付される符号nをq(q>0)とすると、演算対象となる目標面St(n)に付される符号n=0,1,・・・q-1,qとなる。図8に示す例では、目標面St(n),(n=0,1)が演算対象として設定される。
【0108】
作業範囲内の目標面St(n)を演算対象に設定する処理(S205)が完了すると、コントローラ40は、ステップS220からステップS270またはステップS280までの一連の処理を繰り返し行うループ処理を実行する(ステップS210,S290)。ステップS210はループの開始を表し、ステップS290はループの終了を表す。このループ処理(ステップS210,S290)は、演算対象とされた目標面St(n),(n=0~q)の全てに対して、介入解除フラグFd(n)が設定されると終了し、ループ処理が終了すると、ステップS295へ進む。
【0109】
ステップS220において、介入解除演算部43fは、操作量演算部43aでの演算結果に基づいて、アームダンプ操作がなされているか否かを判定する。介入解除演算部43fは、操作量演算部43aで演算されたアームダンプの操作量Adが閾値Ad0以上である場合、アームダンプ操作がなされていると判定し、ステップS230へ進む。介入解除演算部43fは、操作量演算部43aで演算されたアームダンプ操作量Adが閾値Ad0未満である場合、アームダンプ操作がなされていないと判定し、ステップS235へ進む。閾値Ad0は、アームダンプ操作がなされているか否かを判定するための閾値であり、予め、コントローラ40の記憶装置に記憶されている。
【0110】
ステップS230では、ステップS130と同様の処理が実行される。ステップS230において、ブーム下げ操作がなされていると判定されるとステップS255へ進み、ブーム下げ操作がなされていないと判定されるとステップS235へ進む。
【0111】
ステップS235において、姿勢演算部43bは、ピン-目標面間距離H2(n)およびピン-バケット間距離Dpbを演算し、ステップS240へ進む。ステップS240において、介入解除演算部43fは、姿勢演算部43bで演算されたピン-目標面間距離H2(n)が、姿勢演算部43bで演算されたピン-バケット間距離Dpb以上であるか否かを判定する。
【0112】
ステップS240において、ピン-目標面間距離H2(n)がピン-バケット間距離Dpb以上であると判定されると、すなわち、作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢ではなく、アームダンプ操作によってバケット10が目標面St(n)に侵入する可能性がないものと判定されると、ステップS280へ進む。ステップS240において、ピン-目標面間距離H2(n)がピン-バケット間距離Dpb未満であると判定されると、すなわち、作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢であり、アームダンプ操作によってバケット10が目標面St(n)に侵入する可能性があるものと判定されると、ステップS245へ進む。
【0113】
ステップS245において、姿勢演算部43bは、角度φ(n)を演算し、ステップS250へ進む。ステップS250において、介入解除演算部43fは、姿勢演算部43bで演算された角度φ(n)が90°未満であるか否かを判定する。
【0114】
ステップS250において、角度φ(n)が90°未満であると判定されると、すなわち、作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢ではなく、アームダンプ操作によってバケット10が目標面St(n)に侵入する可能性がないものと判定されると、ステップS280へ進む。ステップS250において、角度φ(n)が90°以上であると判定されると、すなわち、作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢であり、アームダンプ操作によってバケット10が目標面St(n)に侵入する可能性があるものと判定されると、ステップS255へ進む。
【0115】
ステップS255において、姿勢演算部43bは、バケット-目標面間距離H1(n)を演算し、ステップS260へ進む。ステップS260において、介入解除演算部43fは、姿勢演算部43bで演算されたバケット-目標面間距離H1(n)が閾値Ya2未満であるか否かを判定する。ステップS260において、距離H1(n)が閾値Ya2未満であると判定されるとステップS270へ進み、距離H1(n)が閾値Ya2以上であると判定されるとステップS280へ進む
【0116】
ステップS270において、介入解除演算部43fは、介入解除条件は成立していない(換言すれば、アームダンプ減速条件が成立している)と判定して介入解除フラグFd(n)を0に設定し(Fd(n)=0)、ステップS290へ進み、当該目標面St(n)に対する一連の処理を終了する。
【0117】
ステップS280において、介入解除演算部43fは、介入解除条件は成立している(換言すれば、アームダンプ減速条件が成立していない)と判定して介入解除フラグFd(n)を1に設定し(Fd(n)=1)、ステップS290へ進み、当該目標面St(n)に対する一連の処理を終了する。
【0118】
ループ処理が完了すると、ステップS295へ進み、目標パイロット圧出力処理を実行する。ステップS295において、介入解除演算部43fは、介入解除フラグFd(n),(n=0~q)の全てがFd(n)=1に設定されているか否かを判定し、その判定結果に基づいて目標パイロット圧を出力する。介入解除フラグFd(n)の全てがFd(n)=1に設定されていないと判定された場合、すなわち、介入解除フラグFd(n),(n=0~q)のうち、1つでもFd(n)=0に設定されていると判定された場合、介入解除演算部43fは、目標パイロット圧演算部43eで演算された流量制御弁15bの油圧駆動部151bに対する目標パイロット圧をそのままバルブ指令演算部43gに出力する。これにより、アーム9の減速制御が実行され、オペレータの操作に応じた速度よりも低い速度でアームダンプ動作が行われる。
【0119】
一方、介入解除フラグFd(n),(n=0~q)の全てがFd(n)=1に設定されていると判定された場合、介入解除演算部43fは、目標パイロット圧演算部43eでの演算結果にかかわらず、流量制御弁15bの油圧駆動部151bに対する目標パイロット圧に最大圧力Pmaxに設定し、バルブ指令演算部43gに出力する。これにより、アームダンプ動作を制御可能な電磁比例弁55bが全開状態に制御される。すなわち、アーム9の減速制御は実行されない。その結果、オペレータの操作に応じた速度でアームダンプ動作が行われる。目標パイロット圧出力処理(S295)が終了すると、図11のフローチャートに示す処理が終了する。
【0120】
作業装置1Aの動作の具体例、および作業装置1Aの姿勢に応じた減速制御の実行可否の具体例について、図8図9図12図13Aおよび図13Bを参照して説明する。図12は、アームクラウド操作によってバケット10が進行する方向に設定される目標面St(-1)に対して、バケット10が侵入する可能性があるものと判定される場合について説明する図である。図13Aは、線分Lpbと目標面St(0)とのなす角度φが90°以上であることにより、アームクラウド減速制御が解除されている状態について示す図である。図13Bは、ピン-目標面間距離H2(0)がピン-バケット間距離Dpb以上であることにより、アームクラウド減速制御が解除されている状態について示す図である。
【0121】
図9に示すように、例えばオペレータがアームクラウド動作による水平掘削を意図して操作装置45を操作したときには、バケット10の先端部が目標面Stの下方領域に侵入しないように状況に応じて電磁比例弁54a,55aが制御される。この場合、オペレータの操作に応じたアームクラウド動作にアームクラウドの減速動作やブーム上げ動作が自動的に合成され、コントローラ40のアシストを得てアームクラウド操作のみで水平掘削動作が実行される。
【0122】
なお、本実施形態では、ブーム8の下げ操作とアーム9の操作の複合操作がなされていないときに、作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢でないと判定されると、すなわちアーム9の操作がなされたときにバケット10が目標面Stに侵入する可能性がないものと判定されると、流量制御弁15bに対する目標パイロット圧が最大圧力に設定され、電磁比例弁55の開度が全開になる。
【0123】
アーム9の操作がなされていないとき(目標パイロット圧が最小値として演算されている場合)において、第1の侵入姿勢判定処理および第2の侵入姿勢判定処理のそれぞれで作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢であると判定され(すなわち、アーム9の操作がなされたときにバケット10が目標面に侵入する可能性があるものと判定され)、バケット-目標面間距離H1(n)が所定の距離Yaよりも小さいと判定された場合には、電磁比例弁55の開度は最小開度に設定されている(例えば、図10のS120でN→S140でN→S150でN→S160でY→S170)。このため、アーム非操作状態からアーム操作状態へ遷移したときにアーム9が急に飛び出してバケット10の先端部が目標面Stへ侵入するのを防ぐことができる。
【0124】
アーム9が操作されていないときにおいて、作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢でないと判定された場合には、電磁比例弁55の開度は最大開度(全開)に設定されている(例えば、図10のS120でN→S140でY→S180、またはS120でN→S140でN→S150でY→S180)。また、アーム9が操作されていないときにおいて、第1の侵入姿勢判定処理および第2の侵入姿勢判定処理のそれぞれで作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢であると判定されている場合に、バケット-目標面間距離H1(n)が所定の距離Ya以上であると判定された場合には、電磁比例弁55の開度は最大開度(全開)に設定されている(例えば、図10のS120でN→S140でN→S150でN→S160でN→S180)。したがって、アーム非操作状態からアーム操作状態へ遷移したときにオペレータの操作に応じてアーム9を速やかに動作させることができる。このため、効率的に掘削、整地等の作業を行うことができる。
【0125】
図8に示すように、複数の目標面St(n)が設定されている場合、コントローラ40は、設定されている複数の目標面St(n)のうち、バケット10の最大作業範囲内に存在する目標面St(n),(n=-3,-2,-1,0,1)に対して、バケット10が侵入する可能性があるか否かを判定する。
【0126】
したがって、設定されている複数の目標面St(n)の全てに対して、バケット10が侵入する可能性があるか否かを判定するための各種演算処理を行う必要がないので、コントローラ40による演算負荷を低減することができる。
【0127】
また、アームクラウド用の介入解除フラグFc(n)の設定処理では、バケット10の最大作業範囲内に存在する目標面であって、アームクラウド操作がなされたときのバケット10の進行方向に存在する目標面St(n),(n=-3,-2,-1,0)に対して、アームクラウド操作がなされたときにバケット10が目標面St(n),(n=-3,-2,-1,0)に侵入する可能性があるか否かを判定する。同様に、アームダンプ用の介入解除フラグFd(n)の設定処理では、、バケット10の最大作業範囲内に存在する目標面であって、アームダンプ操作がなされたときのバケット10の進行方向に存在する目標面St(n),(n=0,1)に対して、アームダンプ操作がなされたときにバケット10が目標面St(n),(n=0,1)に侵入する可能性があるか否かを判定する。
【0128】
最近接目標面St(0)に対してのみ、アーム9の操作によってバケット10が侵入する可能性があるか否かを判定する場合、最近接目標面St(0)が隣の目標面St(1),St(-1)に切り替わったときに、減速制御状態(減速制御を実行している状態)と減速制御の解除状態(減速制御を実行していないときの状態)との間での状態の遷移に起因するショックが発生するおそれがある。これに対して、本実施形態に係るコントローラ40は、最近接目標面St(0)だけでなく、バケット10が進行する方向に設定されている目標面St(n)に対して、バケット10が侵入する可能性があるか否かを判定する。そして、コントローラ40は、その判定結果に基づいて、減速制御を実行するか、実行しないか(減速制御を解除するか)を決定している。本実施形態では、バケット-目標面間距離H1(n)が閾値Ya未満であって、バケット10の進行方向に存在する目標面St(n)のうち、アーム9の操作がなされたときにバケット10が侵入する可能性のある目標面St(n)が1つでも存在すると判定される場合には、アーム9の減速制御を実行する。このため、複数の目標面が設定されている場合において、アーム9の操作がなされることにより、最近接目標面St(0)が隣の目標面St(1),St(-1)に切り替わったときに、減速制御状態と減速制御の解除状態との間での状態の遷移に起因するショックの発生を防止することができる。これにより、アーム9をスムーズに動作させることができるので、操作性がよく、作業効率の向上を図ることができる。
【0129】
図8に示す例では、距離H2(0),H2(-1),H2(-2),H2(-3)が距離Dpb以上であるため、n=-3,-2,-1,0における介入解除フラグFc(n)はそれぞれ1に設定される(Fc(n)=1,n=-3,-2,-1,0)。したがって、アームクラウド操作がなされたとき、アーム9の減速制御は実行されない(図10のS140でY→S180)。
【0130】
また、図8に示す例では、距離H2(0)および距離H2(1)が距離Dpb以上であるため、n=0,1における介入解除フラグFd(n)はそれぞれ1に設定される(Fd(n)=1,n=0,1)。したがって、アームダンプ操作がなされたとき、アーム9の減速制御は実行されない(図11のS240でY→S280)。
【0131】
図12に示す例では、距離H2(0)が距離Dpb以上であり、介入解除フラグFc(0)は1に設定されている(図10のS140でY→S180)。しかしながら、距離H2(-1)が距離Dpb未満であり、かつ、角度φ(-1)が90°未満である。このため、アームクラウド操作がなされたときに、バケット10が、その進行方向(車体1Bから見て手前側に向かう方向)に存在する目標面St(-1)に向かって接近し、バケット10が目標面St(-1)に対して侵入する可能性があるものと判定される。そして、この例では、図示はしないが距離H1(-1)が閾値Ya1未満であるため、介入解除フラグFc(-1)が0に設定される(Fc(-1)=0)。したがって、図12に示す例では、アームクラウド操作がなされたときにはアーム9の減速制御が実行される(図10に示すフローチャートにおける、n=-1に対するS140でN→S150でN→S160でY→S170)。
【0132】
図13Aに示す例では、距離H2(0)は距離Dpb未満であるが、角度φ(0)は90°以上であるため、アームクラウド操作がなされたときにバケット10が目標面St(0)に侵入する可能性はないものと判定される。このため、図13Aに示す例では、アームクラウド操作がなされたときには、距離H1(0)が距離Yaよりも小さい場合であってもアーム9の減速制御は実行されない(図10のS140でN→S150でY→S180)。なお、図13Aに示す例では、角度φ(0)が90°以上であるため、アームダンプ操作がなされたときにバケット10が目標面St(0)に侵入する可能性があるものと判定される。このため、図13Aに示す例では、アームダンプ操作がなされたときにはアーム9の減速制御が実行される(図11のS240でN→S250でN→S260でY→S270)。
【0133】
図13Bに示す例では、角度φ(0)は90°未満であるが、距離H2(0)は距離Dpb以上であるため、アームクラウド操作がなされたときにバケット10が目標面St(0)に侵入する可能性はないものと判定される。このため、図13Bに示す例では、距離H1(0)が距離Yaよりも小さい場合であってもアーム9の減速制御は実行されない(図10のS140でY→S180)。同様に、図13Bに示す例では、距離H2(0)が距離Dpb以上であるため、アームダンプ操作がなされたときにバケット10が目標面St(0)に侵入する可能性はないものと判定される。このため、図13Bに示す例では、アームダンプ操作がなされたときにはアーム9の減速制御は実行されない(図11のS240でY→S280)。
【0134】
このように、本実施形態によれば、整地制御モードが設定された状態での作業において、バケット-目標面間距離H1(n)が所定の距離Yaよりも小さくなった場合に一律にアーム9の減速制御を実行する場合に比べて、アーム9の減速制御が実行される機会を低減することができる。これにより、例えば、掘削、整地作業において、それらの作業開始点にバケット10を戻す作業、目標面Stの上方を掘削する作業、および、バケット10から土を振り落とす作業等が減速領域内(H1(n)<Ya)において行われた場合に、アーム9の動作が制限されることが抑制され、オペレータの意図に応じた動作を作業装置1Aに行わせることができる。つまり、本来的にはMCによりアーム9の動作速度が制限される条件下(すなわち、H1(n)<Yaのとき)でも、アームクラウドおよびアームダンプの各動作についての制限が緩和される。したがって、本実施形態によれば、アーム引きによる掘削、整地作業、およびアーム押しによる整地作業の作業効率を向上することができる。
【0135】
上述した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0136】
(1)本実施形態に係る油圧ショベル(作業機械)101は、目標面Stを設定し、GNSSアンテナ(位置センサ)14および角度センサ(姿勢センサ)30~33からの信号に基づいて、バケット(作業具)10から目標面Stまでの距離であるバケット-目標面間距離H1を演算し、操作装置45によりアーム9の操作がなされバケット-目標面間距離H1が閾値(所定の距離)Yaよりも小さくなった場合に、バケット10が目標面Stを越えて地面を掘削しないように、ブーム8を制御するとともにアーム9を減速させる減速制御を実行するコントローラ(制御装置)40を備える。そして、コントローラ40は、設定された目標面StとGNSSアンテナ14および角度センサ30~33からの信号とに基づいて、アーム9の操作がなされたときにバケット10が目標面Stに侵入する可能性があるか否かを判定し、アーム9の操作がなされたときにバケット10が目標面Stに侵入する可能性がないと判定された場合には、バケット-目標面間距離H1が所定の距離Yaよりも小さい場合であっても減速制御を実行しない。
【0137】
したがって、本実施形態によれば、目標面Stにバケット10が侵入する可能性があると判定される場合には、アームクラウド(アーム引き)の減速制御およびアームダンプ(アーム押し)の減速制御が実行される。このため、マシンコントロールによって確実に整地作業を行うことができる。その一方で、バケット10が目標面Stに侵入する可能性がないと判定される場合には、アームクラウド(アーム引き)の減速制御およびアームダンプ(アーム押し)の減速制御が実行されない。つまり、本実施形態によれば、アーム9の減速制御が行われる機会を減らすことができるので、油圧ショベル101による掘削、整地等の作業の効率を向上することができる。
【0138】
(2)ブーム8の下げ操作とアーム9の操作の複合操作がなされているときには、作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢でない場合であっても、バケット-目標面間距離H1(n)が所定の距離Yaよりも小さい場合には、通常のMCによるアーム9の減速制御が実行される(例えば、図10のS120でY→S130でY→S160でY→S170)。
【0139】
図10に示すステップS140およびステップS150は、アーム9の操作のみを想定して目標面St(n)に対してバケット10が侵入する侵入姿勢であるか否かを判定する処理である。このため、ブーム8の下げ操作とアーム9の操作の複合操作がなされているときには、通常のMCによるアーム9の減速制御を実行することにより、目標面St(n)にバケット10が侵入してしまうことを防止することができる。
【0140】
<第2実施形態>
図14図21Bを参照して、第2実施形態に係る油圧ショベル201について説明する。なお、図中、第1実施形態と同一もしくは相当部分には同一の参照番号を付し、相違点を主に説明する。図14は、第2実施形態に係る油圧ショベル201が水平引き(水平押し)を行う様子を示す図である。図15Aは、第1実施形態に係る油圧ショベル101において、アームクラウド操作(最大操作)がなされたときの目標パイロット圧と、角度φとの関係を示す図である。図15Bは、第1実施形態に係る油圧ショベル101において、アームダンプ操作(最大操作)がなされたときの目標パイロット圧と、角度φとの関係を示す図である。
【0141】
第2実施形態に係る油圧ショベル201は、第1実施形態と同様の構成を備えている。ここで、図14に示すように、アームクラウド操作を行って、水平面に平行に設定された目標面Stに沿ってバケット10の先端部を移動させる作業(水平引き)を行う際、線分Lpbと目標面Stとのなす角度φは徐々に大きくなる。また、アームダンプ操作を行って、水平面に平行に設定された目標面Stに沿ってバケット10の先端部を移動させる作業(水平押し)を行う際、線分Lpbと目標面Stとのなす角度φは徐々に小さくなる。
【0142】
このような作業を行う場合、上記第1実施形態の構成では、角度φが90°を越えたときに、アーム9の急動作が生じるおそれがある。第1実施形態では、例えば、図15Aに示すように、角度φが90°以上のときには、電磁比例弁55aで生成するパイロット圧の目標値である目標パイロット圧には最大圧力Pmaxが設定される。このため、アームクラウド動作に伴って、角度φが90°よりも小さい状態から90°よりも大きい状態となったときに、目標パイロット圧が急上昇することによりアームクラウド動作が急加速するおそれがある。
【0143】
同様に、図15Bに示すように、アームダンプ操作を行う際、角度φが90°未満のときには、電磁比例弁55bで生成するパイロット圧の目標値である目標パイロット圧には最大圧力Pmaxが設定される。このため、アームダンプ動作に伴って、角度φが90°よりも大きい状態から90°よりも小さい状態となったときに、目標パイロット圧が急上昇することによりアームダンプ動作が急加速するおそれがある。
【0144】
そこで、本第2実施形態では、作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢でないと判定された場合、線分Lpbと目標面Stとのなす角度φの変化に応じてアーム9の速度を変化させる遷移制御を実行する。遷移制御は、遷移制御実行フラグFct(n),Fdt(n)の設定状態に応じて、実行可否が決定される。
【0145】
図16は、第2実施形態に係るコントローラ40により実行されるアームクラウド用の遷移制御実行フラグFct(n)の設定処理の内容について示すフローチャートである。図17は、第2実施形態に係るコントローラ40により実行されるアームダンプ用の遷移制御実行フラグFdt(n)の設定処理の内容について示すフローチャートである。図16および図17に示すフローチャートの処理は、図示しない制御モード切替スイッチ等によって、整地制御モードが設定されることにより開始され、図示しない初期設定が行われた後、所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0146】
図16に示すステップS305,S320,S330,S345,S350,S355,S360は、図10に示すステップS105,S120,S130,S145,S150,S155,S160と同様の処理のため、説明を省略する。
【0147】
図16に示すループ処理(S310,S390)は、演算対象とされた目標面St(n),(n=m~0)の全てに対して、一連の処理が行われて遷移制御実行フラグFct(n)が設定されると終了し、ループ処理が終了すると、ステップS395へ進む。
【0148】
ステップS350において、角度φ(n)が90°以上であると判定されるとステップS380へ進む。また、ステップS360において、距離H1(n)が閾値Ya1未満であると判定されるとステップS370へ進み、距離H1(n)が閾値Ya1以上であると判定されるとステップS380へ進む。
【0149】
ステップS370において、コントローラ40は、遷移制御実行フラグFct(n)を0に設定し(Fct(n)=0)、ステップS390へ進み、当該目標面St(n)に対する一連の処理を終了する。ステップS380において、コントローラ40は、遷移制御実行フラグFct(n)を1に設定し(Fct(n)=1)、ステップS390へ進み、当該目標面St(n)に対する一連の処理を終了する。
【0150】
つまり、コントローラ40は、角度φ(n)が90°以上であると判定されることにより、アームクラウド操作によってバケット10が目標面St(n)に侵入する可能性がないものと判定された場合、遷移制御実行フラグFct(n)を1に設定する(Fct(n)=1)。
【0151】
ループ処理が完了すると、ステップS395へ進み、モード設定処理を実行する。ステップS395において、コントローラ40は、遷移制御実行フラグFct(n),(n=m~0)の全てがFct(n)=1に設定されているか否かを判定し、その判定結果に基づいて遷移制御の実行可否を判定する。遷移制御実行フラグFct(n)の全てがFct(n)=1に設定されていないと判定された場合、すなわち、遷移制御実行フラグFct(n),(n=m~0)のうち、1つでもFct(n)=0に設定されていると判定された場合、コントローラ40は、遷移制御を実行しないモードを設定する。遷移制御実行フラグFct(n),(n=m~0)の全てがFct(n)=1に設定されていると判定された場合、コントローラ40は、遷移制御を実行するモードを設定する。モード設定処理(S395)が終了すると、図16のフローチャートに示す処理が終了する。
【0152】
図17に示すステップS405,S420,S430,S445,S450,S455,S460は、図11に示すステップS205,S220,S230,S245,S250,S255,S260と同様の処理のため、説明を省略する。
【0153】
図17に示すループ処理(S410,S490)は、演算対象とされた目標面St(n),(n=0~q)の全てに対して、一連の処理が行われて遷移制御実行フラグFdt(n)が設定されると終了し、ループ処理が終了すると、ステップS495へ進む。
【0154】
ステップS450において、角度φ(n)が90°未満であると判定されるとステップS480へ進む。また、ステップS460において、距離H1(n)が閾値Ya2未満であると判定されるとステップS470へ進み、距離H1(n)が閾値Ya2以上であると判定されるとステップS480へ進む。
【0155】
ステップS470において、コントローラ40は、遷移制御実行フラグFdt(n)を0に設定し(Fdt(n)=0)、ステップS490へ進み、当該目標面St(n)に対する一連の処理を終了する。ステップS480において、コントローラ40は、遷移制御実行フラグFdt(n)を1に設定し(Fdt(n)=1)、ステップS490へ進み、当該目標面St(n)に対する一連の処理を終了する。
【0156】
つまり、コントローラ40は、角度φ(n)が90°未満であると判定されることにより、アームダンプ操作によってバケット10が目標面St(n)に侵入する可能性がないものと判定された場合、遷移制御実行フラグFdt(n)を1に設定する(Fdt(n)=1)。
【0157】
ループ処理が完了すると、ステップS495へ進み、モード設定処理を実行する。ステップS495において、コントローラ40は、遷移制御実行フラグFdt(n),(n=0~q)の全てがFdt(n)=1に設定されているか否かを判定し、その判定結果に基づいて遷移制御の実行可否を判定する。遷移制御実行フラグFdt(n)の全てがFdt(n)=1に設定されていないと判定された場合、すなわち、遷移制御実行フラグFdt(n),(n=0~q)のうち、1つでもFdt(n)=0に設定されていると判定された場合、コントローラ40は、遷移制御を実行しないモードを設定する。遷移制御実行フラグFdt(n),(n=0~q)の全てがFdt(n)=1に設定されていると判定された場合、コントローラ40は、遷移制御を実行するモードを設定する。モード設定処理(S495)が終了すると、図17のフローチャートに示す処理が終了する。
【0158】
図18図21Bを参照して、第2実施形態に係る介入解除演算部243fにより実行される遷移制御について詳しく説明する。図18は、介入解除演算部243fの制御ブロック線図であり、アームクラウド遷移圧力の演算について示す。図18に示すように、介入解除演算部243fには、姿勢演算部43bで演算された線分Lpbと目標面St(n)とのなす角度φ(n)が入力され(L101)、アームクラウド角度比率テーブルを参照し、角度φに基づいて最大圧力比率αpを出力する(L102)。アームクラウド角度比率テーブルは、角度φと最大圧力比率αpとが対応付けられているテーブルであり、コントローラ40の記憶装置に記憶されている。
【0159】
図19Aは、アームクラウド角度比率テーブルについて示す図である。図19Aに示すように、アームクラウド角度比率テーブルには、角度φが90°未満では最大圧力比率αp=0.0であり、角度φが所定の角度φcx以上では最大圧力比率αp=1.0となり、角度φが90°以上、φcx未満の範囲では、角度φが大きくなるほど最大圧力比率αpが大きくなる特性が記憶されている。なお、所定の角度φcxは、90°よりも大きく180°よりも小さい値が設定される。最大圧力比率αpは、角度φが90°以上φcx未満の範囲で、角度φの増加に応じて0(ゼロ)から1まで単調増加する関数である。
【0160】
図18に示すように、介入解除演算部243fは、記憶装置から最大圧力Pmaxを取得し(L103)、最大圧力比率αpに最大圧力Pmaxを乗算する(L105)。介入解除演算部243fには、目標パイロット圧演算部43eで演算された目標パイロット圧Pctが入力される(L104)。そして、介入解除演算部243fは、電磁比例弁55aで生成するパイロット圧の目標値であるアームクラウド目標パイロット圧Pctに1から最大圧力比率αpを減じた値(1-αp)を乗じる(L106)。(1-αp)は、角度φが90°以上φcx未満の範囲で角度φの増加に応じて1から0(ゼロ)まで単調減少する関数である。
【0161】
介入解除演算部243fは、アームクラウド目標パイロット圧Pctと(1-αp)の乗算値を、最大圧力Pmaxとαpの乗算値に加算し(L107)、この演算結果であるアームクラウド遷移圧力を目標パイロット圧として出力する(L108)。
【0162】
図19Bは、アームクラウド遷移圧力について示す図である。介入解除演算部243fが、上述のとおり、角度φに応じた遷移圧力を演算し、その遷移圧力を目標パイロット圧として出力する。これにより、図19Bに示すように、線分Lpbと目標面St(n)とのなす角度φが90°以上φcx未満の範囲では、角度φが大きくなるにしたがって、目標パイロット圧(遷移圧力)が徐々に大きくなり、角度φがφcx以上になると目標パイロット圧が最大圧力Pmaxとなる。これにより、角度φの変化によって、減速制御を実行している状態から減速制御を実行しない状態に移行したときに、アームクラウドの速度が急変することが防止される。
【0163】
図20は、介入解除演算部243fの制御ブロック線図であり、アームダンプ遷移圧力の演算について示す。図20に示すように、介入解除演算部243fには、姿勢演算部43bで演算された線分Lpbと目標面St(n)とのなす角度φ(n)が入力され(L201)、アームダンプ角度比率テーブルを参照し、角度φに基づいて最大圧力比率βpを出力する(L202)。アームダンプ角度比率テーブルは、角度φと最大圧力比率βpとが対応付けられているテーブルであり、コントローラ40の記憶装置に記憶されている。
【0164】
図21Aは、アームダンプ角度比率テーブルについて示す図である。図21Aに示すように、アームダンプ角度比率テーブルには、角度φが90°以上では最大圧力比率βp=0.0であり、角度φが所定の角度φdx未満では最大圧力比率βp=1.0となり、角度φがφdx以上90°未満の範囲では、角度φが小さくなるほど最大圧力比率βpが大きくなる特性が記憶されている。なお、所定の角度φdxは、0°よりも大きく90°よりも小さい値が設定される。最大圧力比率βpは、角度φがφdx以上90°未満の範囲で、角度φの増加に応じて1から0(ゼロ)まで単調減少する関数である。
【0165】
図20に示すように、介入解除演算部243fは、記憶装置から最大圧力Pmaxを取得し(L203)、最大圧力比率βpに最大圧力Pmaxを乗算する(L205)。介入解除演算部243fには、目標パイロット圧演算部43eで演算された目標パイロット圧Pdtが入力される(L204)。そして、介入解除演算部243fは、電磁比例弁55bで生成するパイロット圧の目標値であるアームダンプ目標パイロット圧Pdtに1から最大圧力比率βpを減じた値(1-βp)を乗じる(L206)。(1-βp)は、角度φがφdx以上90°未満の範囲で角度φの増加に応じて0(ゼロ)から1まで単調増加する関数である。
【0166】
介入解除演算部243fは、アームダンプ目標パイロット圧Pdtと(1-βp)の乗算値を、最大圧力Pmaxとβpの乗算値に加算し(L207)、この演算結果であるアームダンプ遷移圧力を目標パイロット圧として出力する(L208)。
【0167】
図21Bは、アームダンプ遷移圧力について示す図である。介入解除演算部243fが、上述のとおり、角度φに応じた遷移圧力を演算し、その遷移圧力を目標パイロット圧として出力する。これにより、図21Bに示すように、線分Lpbと目標面St(n)とのなす角度φがφdx以上90°未満の範囲では、角度φが小さくなるにしたがって、目標パイロット圧(遷移圧力)が徐々に大きくなり、角度φがφdx未満になると目標パイロット圧が最大圧力Pmaxとなる。これにより、角度φの変化によって、減速制御を実行している状態から減速制御を実行しない状態に移行したときに、アームダンプの速度が急変することが防止される。
【0168】
このような第2実施形態によれば、アーム9が動作し、角度φが90°を越えることにより、作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢でないと判定され、減速制御が解除されると、角度φの変化に応じて、徐々に目標パイロット圧を大きくすることによりアーム9の速度を変化させることができる。つまり、角度φの変化によって、減速制御を実行している状態から減速制御を実行しない状態に移行したときに、アーム9の速度が急変することを防止することができる。
【0169】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0170】
<変形例1>
上記実施形態では、ピン-目標面間距離H2(n)とピン-バケット間距離Dpbの大小関係をそのまま比較し、距離H2(n)が距離Dpb以上の場合には、アーム9の減速制御を実行しないようにする例(図10のステップS140および図11のステップS240参照)について説明したが、本発明はこれに限定されない。距離Dpbに余裕量ΔDを加算し、補正してから比較を行ってもよい。つまり、距離H2(n)が補正後の距離Dpb´(=Dpb+ΔD)以上の場合には、アーム9の減速制御を実行しないようにしてもよい。また、距離H2に余裕量ΔHを減算し、補正してから比較を行ってもよい。つまり、補正後の距離H2(n)´(=H2(n)-ΔH)が距離Dpb以上の場合には、アーム9の減速制御を実行しないようにしてもよい。余裕量ΔD,ΔHを持たせることにより、バケット10の先端が目標面Stに侵入することをより効果的に防止することができる。
【0171】
<変形例2>
上記実施形態では、コントローラ40が、ピン-バケット間距離Dpbを演算するとともに、ピン-目標面間距離H2を演算し、ピン-バケット間距離Dpbおよびピン-目標面間距離H2に基づいて作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢であるか否かを判定し、作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢でないと判定された場合、または、角度φを演算し、角度φに基づいて作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢であるか否かを判定し、作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢でないと判定された場合には、アーム9の操作がなされたときにバケット10が目標面Stに侵入する可能性がないものと判定する例について説明した。また、上記実施形態では、コントローラ40が、ピン-バケット間距離Dpbおよびピン-目標面間距離H2に基づいて作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢であるか否かを判定し、作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢であると判定され、かつ、角度φに基づいて作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢であるか否かを判定し、作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢であると判定された場合には、アーム9の操作がなされたときにバケット10が目標面Stに侵入する可能性があるものと判定する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図10のステップS145,S150および図11のステップS245,S250を省略してもよい。この場合、アーム操作によってバケット10の先端部が目標面Stへ接近する方向に移動するか否かによって、目標面Stにバケット10が侵入する可能性があるか否かの判定は行わない。したがって、目標面Stからバケット10の先端部が離れる方向にアーム9が動作するときであっても、ピン-目標面間距離H2(n)がピン-バケット間距離Dpb未満であって、かつ、バケット-目標面間距離H1(n)が、閾値Ya1未満の場合には、アーム9の減速制御が実行される。しかしながら、ピン-目標面間距離H2(n)がピン-バケット間距離Dpb以上である場合には、アーム9の減速制御は行われないため、作業効率の向上を図ることができる。同様に、図10のステップS135,S140および図11のステップS235,S240を省略してもよい。この場合、ステップS150およびステップS250において、アーム操作によって目標面Stにバケット10が侵入する可能性がないものと判定される場合には、アーム9の減速制御は行われないため、作業効率の向上を図ることができる。
【0172】
<変形例3>
上記実施形態では、オペレータによるブーム8の下げ操作とアーム9の操作の複合操作がなされているときには、作業装置1Aの姿勢が侵入姿勢でない場合(例えば、距離H2が距離Dpb以上の場合)であったとしても、アーム9の減速制御を行う例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図10のステップS130および図11のステップ230において、コントローラ40からのブーム下げ操作指令が出力されているか否かを判定するようにしてもよい。
【0173】
油圧ショベル101は、図3に示す、ブーム上げ側の油圧回路に設けられる電磁比例弁54aおよびシャトル弁82aと同様の構成の電磁比例弁およびシャトル弁をブーム下げ側の油圧回路に設ける場合がある。この場合、この電磁比例弁によって、ブーム下げ動作を自動制御することができる。ブーム下げ動作の自動制御は、ブーム下げ増圧機能がモード設定スイッチによって有効に設定されている場合に実行される。ブーム下げ増圧機能のために設けた電磁比例弁をコントローラ40によって制御することにより、オペレータによるブーム下げ操作のための操作圧(第1制御信号)よりも大きい制御圧(第2制御信号)を生成し、流量制御弁15aの油圧駆動部150bに作用させることができる。
【0174】
本変形例3では、図10のステップS130において、例えば、ブーム下げ増圧機能が有効に設定され、かつ、ブーム下げ増圧機能が発揮される条件が成立しているか否かを判定する。そして、ステップS130において、ブーム下げ増圧機能が有効に設定され、かつ、ブーム下げ増圧機能が発揮される条件が成立しているときには、コントローラ40によるブーム下げ操作が行われていると判定して、ステップS155へ進み、ブーム下げ増圧機能が無効に設定されている場合、またはブーム下げ増圧機能が有効に設定されているが、ブーム下げ増圧機能が発揮される条件が成立していないときには、コントローラ40によるブーム下げ操作は行われていないと判定して、ステップS135へ進む。なお、図11のステップS230の処理についても同様の処理とすることができる。
【0175】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0176】
1A…作業装置、1B…車体、8…ブーム、9…アーム、10…バケット(作業具)、14…GNSSアンテナ(位置センサ)、30~33…角度センサ(姿勢センサ)、40…コントローラ(制御装置)、44,45…操作装置、92…アームピン、101,201…油圧ショベル(作業機械)、St…目標面、H1…バケット-目標面間距離(作業具-目標面間距離)、H2…ピン-目標面間距離、Dpb…ピン-バケット間距離(ピン-作業具間距離)、Lpb…線分、φ…角度(線分と目標面とのなす角度)
図1
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図21B