(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】インペラ及びこれを備えたポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 29/22 20060101AFI20221125BHJP
F04D 29/048 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
F04D29/22 E
F04D29/048
F04D29/22 A
(21)【出願番号】P 2021559693
(86)(22)【出願日】2021-07-15
(86)【国際出願番号】 JP2021026642
(87)【国際公開番号】W WO2022054403
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2020153987
(32)【優先日】2020-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000127352
【氏名又は名称】株式会社イワキ
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 敏樹
(72)【発明者】
【氏名】是枝 進一郎
(72)【発明者】
【氏名】亀井 利晃
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 光
(72)【発明者】
【氏名】上野 暢也
(72)【発明者】
【氏名】関 拓哉
【審査官】田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-268994(JP,A)
【文献】実開昭48-099902(JP,U)
【文献】特開2019-094832(JP,A)
【文献】特開2013-024208(JP,A)
【文献】特開2007-332839(JP,A)
【文献】特開平05-312191(JP,A)
【文献】国際公開第2002/099283(WO,A1)
【文献】特開2013-213413(JP,A)
【文献】特開平06-026491(JP,A)
【文献】特開2001-333558(JP,A)
【文献】実開昭50-34802(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/22
F04D 29/048
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気軸受の磁気力により非接触で支持される円筒状のロータ本体の軸方向の一端側に設けられ、前記ロータ本体と共にロータを構成するインペラであって、
前記ロータ本体の軸方向の一端側に設けられたブレード支持面を有するインペラ基部と、
前記インペラ基部の前記ブレード支持面に、前記ブレード支持面の径方向の内側から外側にかけて前記ロータの回転方向と逆向きに曲線状に延出するように設けられた複数のブレードと、
前記複数のブレードの前記インペラ基部とは前記軸方向の反対側に設けられ、前記複数のブレードの外周側の部分を覆うと共に、中央に前記複数のブレードの内周側の部分が露出する穴部が形成された円環板状のフロントシュラウドと、を備え、
前記フロントシュラウドは、前記穴部の内径が前記インペラ基部の外径よりも大きく、
前記インペラは、前記フロントシュラウドのブレード支持面側の前記複数のブレードが露出するセミオープン型であり、
前記インペラ基部は、円筒状に形成され、
前記ブレード支持面の近傍位置に内周部と外周部とを前記径方向に放射状に連通させ
て前記内周部から前記外周部へと移送流体を流す複数の横穴部を有する
ことを特徴とするインペラ。
【請求項2】
前記フロントシュラウドの穴部の内径は、前記インペラ基部の外径の110%~135%である
ことを特徴とする請求項1記載のインペラ。
【請求項3】
前記インペラ基部は、前記ブレード支持面側の外周縁部にR面を有する
ことを特徴とする請求項1又は2記載のインペラ。
【請求項4】
前記複数のブレードは、前記フロントシュラウドの前記穴部の内側に配置された部分の、前記ブレード支持面と反対側の面に、前記回転方向に向くように傾斜する第1のテーパ部を有する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載のインペラ。
【請求項5】
前記複数のブレードは、前記ブレード支持面側の面に、前記回転方向と反対側に向くように傾斜する第2のテーパ部を有する
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項記載のインペラ。
【請求項6】
円筒状のロータ本体、及びこのロータ本体の軸方向の一端側に設けられたインペラを含むロータと、
前記ロータを磁気力によって支持する磁気軸受と、
前記ロータを回転駆動する駆動機構と、
前記インペラを含むポンプ機構と、
を備えたポンプであって、
前記ポンプ機構は、
前記ロータ本体を収容する収容空間を形成するリアケーシングと、前記インペラを収容する収容空間を形成するフロントケーシングと、を有するケーシングを備え、
前記インペラは、
前記ロータ本体の軸方向の一端側に設けられブレード支持面を有するインペラ基部と、
前記インペラ基部の前記ブレード支持面に、前記ブレード支持面の径方向の内側から外側にかけて前記ロータの回転方向と逆向きに曲線状に延出するように設けられた複数のブレードと、
前記複数のブレードの前記インペラ基部とは前記軸方向の反対側に設けられ、前記複数のブレードの外周側の部分を覆うと共に、中央に前記複数のブレードの内周側の部分が露出する穴部が形成された円環板状のフロントシュラウドと、を備え、
前記フロントシュラウドは、前記穴部の内径が前記インペラ基部の外径よりも大きく、
前記複数のブレードは、前記リアケーシングに直接対向し、
前記ロータ本体の内周側と前記リアケーシングとの間には、内周側隙間が設けられ、
前記ロータ本体の外周側と前記リアケーシングとの間には、前記フロントシュラウドと前記リアケーシングとの間の空間と連通する外周側隙間が設けられ、
前記ロータ本体の軸方向の他端側と前記リアケーシングの底面との間には、前記内周側隙間と前記外周側隙間とを連通する筒状空間が設けられ、
前記インペラ基部は、内側空間が前記内周側隙間に連通する円筒状に形成され、
前記ブレード支持面の近傍位置に内周部と外周部とを前記径方向に放射状に連通させ
て前記内周部から前記外周部へと移送流体を流す複数の横穴部を有する
ことを特徴とするポンプ。
【請求項7】
前記フロントシュラウドの穴部の内径は、前記インペラ基部の外径の110%~135%である
ことを特徴とする請求項6記載のポンプ。
【請求項8】
前記インペラ基部は、前記ブレード支持面側の外周縁部にR面を有する
ことを特徴とする請求項6又は7記載のポンプ。
【請求項9】
前記複数のブレードは、前記フロントシュラウドの前記穴部の内側に配置された部分の、前記ブレード支持面と反対側の面に、前記回転方向に向くように傾斜する第1のテーパ部を有する
ことを特徴とする請求項6~8のいずれか1項記載のポンプ。
【請求項10】
前記複数のブレードは、前記ブレード支持面側の面に、前記回転方向と反対側に向くように傾斜する第2のテーパ部を有する
ことを特徴とする請求項6~9のいずれか1項記載のポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インペラ及びこれを備えたポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプ装置のインペラが設けられたロータの荷重等を磁気力により非接触で支持する磁気軸受と、ロータを磁気力により駆動する駆動部と、を備えたポンプが知られている(例えば、特許文献1参照)。このポンプは、ロータの外周に軸受磁石を設け、軸受磁石に対向するハウジングの内周位置にステータ部材としての磁気コアを配置して磁気軸受を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示された従来技術のポンプは、機械的な軸受ではなく磁気軸受を採用しているため、ロータが非接触状態で磁気浮上により支持されている。このため、ポンプの負荷や移送流体の種類によっては軸受機構が流体の影響を直接受けることとなり、インペラがアキシャル方向(軸方向)にずれたり(アキシャルスラスト)、ラジアル方向(径方向)に傾いたり(ラジアルスラスト)して、インペラと共にロータが破損したり、いわゆる脱調が生じたりするおそれがある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、アキシャルスラストやラジアルスラストを低減することができるインペラ及びこれを備えたポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るインペラは、円筒状のロータ本体の軸方向の一端側に設けられ、前記ロータ本体と共にロータを構成するインペラであって、前記ロータ本体の軸方向の一端側に設けられたブレード支持面を有するインペラ基部と、前記インペラ基部の前記ブレード支持面に、前記ブレード支持面の径方向の内側から外側にかけて前記ロータの回転方向と逆向きに曲線状に延出するように設けられた複数のブレードと、前記複数のブレードの前記インペラ基部とは前記軸方向の反対側に設けられ、前記複数のブレードの外周側の部分を覆うと共に、中央に前記複数のブレードの内周側の部分が露出する穴部が形成された円環板状のフロントシュラウドと、を備え、前記フロントシュラウドは、前記穴部の内径が前記インペラ基部の外径よりも大きいことを特徴とする。
【0007】
本発明に係るポンプは、円筒状のロータ本体、及びこのロータ本体の軸方向の一端側に設けられたインペラを含むロータと、前記ロータを磁気力によって支持する磁気軸受と、前記ロータを回転駆動する駆動機構と、前記インペラを含むポンプ機構と、を備えたポンプであって、前記ポンプ機構は、前記ロータ本体を収容する収容空間を形成するリアケーシングと、前記インペラを収容する収容空間を形成するフロントケーシングと、を有するケーシングを備え、前記インペラは、前記ロータ本体の軸方向の一端側に設けられブレード支持面を有するインペラ基部と、前記インペラ基部の前記ブレード支持面に、前記ブレード支持面の径方向の内側から外側にかけて前記ロータの回転方向と逆向きに曲線状に延出するように設けられた複数のブレードと、前記複数のブレードの前記インペラ基部とは前記軸方向の反対側に設けられ、前記複数のブレードの外周側の部分を覆うと共に、中央に前記複数のブレードの内周側の部分が露出する穴部が形成された円環板状のフロントシュラウドと、を備え、前記フロントシュラウドは、前記穴部の内径が前記インペラ基部の外径よりも大きいことを特徴とする。
【0008】
本発明の一実施形態において、前記フロントシュラウドの穴部の内径は、前記インペラ基部の外径の110%~135%である。
【0009】
本発明の他の実施形態において、前記インペラ基部は、前記ブレード支持面側の外周縁部にR面を有する。
【0010】
本発明の更に他の実施形態において、前記複数のブレードは、前記フロントシュラウドの前記穴部の内側に配置された部分の、前記ブレード支持面と反対側の面に、前記回転方向に向くように傾斜する第1のテーパ部を有する。
【0011】
本発明の更に他の実施形態において、前記複数のブレードは、前記ブレード支持面側の面に、前記回転方向と反対側に向くように傾斜する第2のテーパ部を有する。
【0012】
本発明の更に他の実施形態において、前記インペラ基部は、円筒状に形成され、内周部と外周部とを連通させる複数の横穴部を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アキシャルスラストやラジアルスラストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係るインペラを備えたポンプの全体構成を、一部を切り欠いて概略的に示す縦断面図である。
【
図2】同インペラを含むロータを概略的に示す一部を切り欠いた斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施形態に係るインペラ及びこれを備えたポンプを詳細に説明する。ただし、以下の実施の形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、以下の実施形態において、同一又は相当する構成要素には、同一の符号を附して重複した説明を省略する。また、実施形態においては、各構成要素の縮尺や寸法が実際のものとは一致しない状態で示されている場合や、一部の構成要素につき省略されて示されている場合がある。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係るインペラを備えたポンプの全体構成を、一部を切り欠いて概略的に示す縦断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るポンプ100は、流体移送用のマグネットポンプとして用いられ、ロータ120と、このロータ120を磁気力により非接触で支持する磁気軸受110と、ロータ120を回転駆動する磁気カップリング型の駆動機構130と、ロータ120の軸方向の一端側に取り付けられたインペラ190を含むポンプ機構と、を備える。また、ポンプ100は、少なくともポンプ機構全体を制御する制御部としてのコントローラ210を備える。
【0017】
なお、以後の説明では、ロータ120の回転軸(Z軸)方向をZ軸方向(アキシャル方向、Z方向とも呼ぶ。)、ロータ120の径方向をX軸方向及びY軸方向(ラジアル方向、X方向及びY方向とも呼ぶ。)、X軸回りの回転方向をΘ方向、Y軸回りの回転方向をΦ方向と、それぞれ呼ぶことにする。また、これらΘ方向及びΦ方向における図中矢印で示す回転方向の進行側を+(プラス)側、反対側を-(マイナス)側とする。また、X軸、Y軸及びZ軸は互いに直交するものとする。また、紙面に向かって右側をポンプ100の前方側、左側を後方側とする。さらに、Z軸方向については、前方側を+(プラス)側、後方側を-(マイナス)側とする。
【0018】
まず、ポンプ100の全体構成について説明する。ポンプ100は、全体が円筒状に形成され、Z軸方向の一方(前方側)にフロントケーシング141を有する。フロントケーシング141は、内部にインペラ190を収容する円形の収容空間からなるポンプ室A1を形成し、前方中央部にポンプ室A1に連通する円筒状の吸込口151を有する。また、フロントケーシング141は、側面に同じくポンプ室A1に連通する吐出口152を有する。
【0019】
フロントケーシング141の後端には、例えばOリング(図示せず)によりシールされた状態でリアケーシング142が接続されている。リアケーシング142は、フロントケーシング141と共にポンプ室A1を含む密閉空間Aを形成する。また、リアケーシング142は、後方に突出した円筒状空間(収容空間)A2を形成する。
【0020】
リアケーシング142の後方側のラジアル方向の外側(外周側)は、円筒状のハウジング143により覆われている。ハウジング143の後方側には、その後方側にリアカバー154が取り付けられたモータハウジング134aが接続されており、これらの下部には、ポンプ100を支持するポンプベース153が設けられている。
【0021】
密閉空間Aには、ロータ120が浮上(非接触支持)可能な状態で収容される。ロータ120は、例えば全体が樹脂材料等の非磁性体で形成され、Z軸方向の一端である前方側に設けられたインペラ190と、Z軸方向の他端である後方側に設けられたロータ本体としての環状の軸受/従動部121と、を一体に形成してなる。なお、インペラ190の詳細については後述する。また、ロータ120の軸受/従動部121を最初に作製し、この軸受/従動部121に対してインペラ190を二次成形により作製するようにしたり、インペラ190及び軸受/従動部121の双方に螺合可能なねじ機構を設け、着脱可能且つ一体的に構成可能な構造を採用することで、一体に形成しても良い。ロータ120のインペラ190は、フロントケーシング141の内部のポンプ室A1に収容され、このポンプ室A1と共にポンプ機構を構成する。
【0022】
一方、リアケーシング142は、その中央部から後方に突出した円筒突出部を有し、ロータ120の軸受/従動部121は、円筒突出部の内部の円筒状空間A2に収容されている。ハウジング143の内側には、鍔付き円筒状のステータベース144が設けられている。ステータベース144は、リアケーシング142との間で、後述する磁気軸受110の軸受ステータ112を支持する。
【0023】
ロータ120の軸受/従動部121の外周側には、ロータ120を磁気力によって支持する磁気軸受110が設けられている。また、ロータ120の軸受/従動部121の内周側には、ロータ120を駆動する駆動機構130が設けられている。
【0024】
磁気軸受110は、ロータ120の軸受/従動部121の外周側に装着された環状の磁性材料からなる軸受ロータ部材111と、この軸受ロータ部材111のラジアル方向の外側に、例えば軸受ロータ部材111と所定の間隔を介して配置された軸受ステータ112と、を有する。
【0025】
軸受ロータ部材111は、例えば、円環状に成形されたネオジム磁石からなる軸受マグネット113と、この軸受マグネット113と同心で、軸受マグネット113のアキシャル方向(Z軸方向)の両端面をアキシャル方向に挟み込むように配置された円環状の電磁軟鉄からなる一対のヨーク114,115と、を有する。
【0026】
軸受マグネット113は、例えばアキシャル方向にN極及びS極が対向し、且つ周方向全周に亘って同極となるように着磁されている。なお、軸受マグネット113は、軸受ロータ部材111及び軸受ステータ112の後述する軸受ステータコア117で形成される磁気回路に図示しないバイアス磁束を供給する。
【0027】
一方、軸受ステータ112は、例えば軸受ロータ部材111の周方向の4箇所に90°の角度を介して複数配置されている。これら軸受ステータ112のうちの、例えばX軸方向に対向する一対の軸受ステータ112は、コントローラ210の制御によって、ロータ120のX軸方向の位置及びΦ方向の角度を制御し、Y軸方向に対向する一対の軸受ステータ112は、ロータ120のY軸方向の位置及びΘ方向の角度を制御する。また、これらの軸受ステータ112は、ロータ120のZ軸方向の高さを制御する。
【0028】
なお、ステータベース144には、軸受ロータ部材111のラジアル方向及び各回転方向の変位を検出可能な変位センサ(図示せず)が、軸受ステータ112とそれぞれ45°の角度をなす(すなわち、X軸方向及びY軸方向とそれぞれ45°の角度で交差する)ように、複数(例えば、ここでは4つ)配置されている。
【0029】
これら変位センサとしては、例えば渦電流式のセンサが挙げられるが、これに限定されるものではなく、種々のセンサを採用し得る。また、軸受ステータ112の数は、上記の数に限定されるものではなく、6個、8個、10個、12個、16個等、種々の形態を採用し得る。その他、変位センサには、図示は省略するが、上記変位センサと共に、例えばステータベース144等に、軸受/従動部121とアキシャル方向に対向するように設けられ、軸受ロータ部材111等のアキシャル方向及び回転方向の変位を検出可能な種々のセンサも含まれる。なお、変位センサ等の配置態様や数は、これに限定されず、種々の形態を採用し得る。
【0030】
本実施形態のポンプ100の場合、ロータ120の一方(前方側)にインペラ190が配置されているので、ロータ120がZ軸に対して傾斜する場合、Z軸上のインペラ190に近い位置を回転中心としてロータ120が傾斜する。このため、変位センサを、図示は省略するが、例えばインペラ190から離れた位置、好ましくは、軸受/従動部121のZ軸方向の中央の位置に配置しておけば、この変位センサによって、ロータ120のX軸方向の位置及びΦ方向の角度、Y軸方向の位置及びΘ方向の角度を検知可能であるため、回転軸の傾きについても、二軸制御によって十分にコントロールすることが可能となる。
【0031】
軸受ステータ112は、例えば積層電磁鋼板等の磁性材料からなる軸受ステータコア117と、軸受ステータコア117に巻回された軸受コイル118と、を有する。軸受ステータコア117の縦断面形状は、例えば軸受ロータ部材111側を開放端とするほぼC字型(コの字型)となっている。
【0032】
具体的には、軸受ステータコア117は、その縦断面形状が、例えば軸受ロータ部材111との対向方向(径方向)と直交するZ軸方向に延び、軸受コイル118が巻回される第1部分と、この第1部分のZ軸方向の両端部から軸受ロータ部材111側に延びた後、Z軸方向に互いに近づく向きに延びる一対の第2部分と、この一対の第2部分の各先端部から軸受ロータ部材111側に向けて延びる一対の第3部分と、を含んだ形状となっている。換言すると、軸受ステータコア117は、縦断面形状において、軸受コイル118が巻回される第1部分のZ軸方向の両端から、軸受ロータ部材111に向かって本来は直線状に延びるはずのC字形状の開放端部分に、一対のカギ型形状部分を有し、開放端側の部分を互いに近づけた形状を有していると言える。
【0033】
このような形状であると、図示のように、軸受コイル118のZ軸方向の長さを、軸受ステータコア117の開放端側の一対の第3部分のZ軸方向の対向面間の距離よりも大きくすることが可能である。すなわち、軸受コイル118の巻回部分のZ軸方向の長さよりも、開放端の先端間の距離を小さくすることができる。また、軸受ステータコア117の開放端側の幅、すなわち一対の第3部分のZ軸方向の対向面と反対側の面間の距離は、軸受ステータコア117の本来のZ軸方向の長さよりも小さく、軸受ロータ部材111のZ軸方向の長さとほぼ等しい大きさである。
【0034】
駆動機構130は、ロータ120の軸受/従動部121の内周側に装着された環状の従動部材としての従動マグネット131と、この従動マグネット131のラジアル方向の内側に、例えば従動マグネット131と所定の間隔を介して配置された駆動部としての駆動マグネット132と、を有する。
【0035】
また、駆動機構130は、この駆動マグネット132を先端部に装着し軸受135によって回転可能に支持されたモータ軸133と、このモータ軸133を回転駆動する駆動モータ134とを有する。本実施形態では、従動マグネット131及び駆動マグネット132が、例えば、ラジアル方向2極又は4極に着磁したネオジム磁石から構成されている。また、本実施形態では、駆動マグネット132とモータ軸133とがほぼ同径として示されているが、両者は必ずしも同径でなくても良い。
【0036】
コントローラ210は、上述した変位センサを含む各種センサからの検知信号に基づいて、ロータ120の各方向及び各回転方向の変位を検知し、これに応じて磁気軸受110の軸受ステータ112の軸受コイル118に流れる電流を細かく制御する。これにより、ロータ120のX軸方向の位置及びΦ方向の角度、Y軸方向の位置及びΘ方向の角度、並びにZ軸方向の高さをリアルタイムに制御して、回転位置補正を行う。
【0037】
コントローラ210は、例えば磁気軸受110の軸受コイル118を駆動するMOS-FET等を具備したドライバ基板211、磁気軸受110及び駆動機構130の動作を制御するCPU基板212、及び各種センサからの信号を処理すると共に、図示しない磁気エンコーダ等を制御するエンコーダ基板213を含んでいる。
【0038】
なお、コントローラ210は、ステータベース144の後方側に配置されている。コントローラ210の後方側の駆動モータ134のモータ軸133には、回転羽根としての冷却ファン169が取り付けられている。これらコントローラ210及び冷却ファン169は、ハウジング143の内部に配置されている。
【0039】
次に、ポンプ100のロータ120のインペラ190について説明する。
図2は、インペラ190を含むロータ120を概略的に示す一部切り欠いた斜視図、
図3は、インペラ190を概略的に示す上面図、
図4は
図3のA-A´線断面図、
図5は
図3のB-B´線断面図、
図6はインペラ190を概略的に示す背面図である。
ロータ120のインペラ190は、インペラ基部191と、複数のブレード192と、フロントシュラウド193と、を備えて構成されている。
【0040】
インペラ基部191は、ロータ本体としての軸受/従動部121に一体的に接続され得る樹脂材料等の非磁性体からなる薄型の鍔付き円筒状部材である。インペラ基部191は、図示のように、ねじ部191a,121aにより、軸受/従動部121に着脱自在に取り付けるようにしても良いし、軸受/従動部121に二次成形等により一体的に取り付けられる構成であっても良い。
【0041】
インペラ基部191は、フロントシュラウド193側に円環状のブレード支持面191bを有する。複数のブレード192は、インペラ基部191のブレード支持面191bの径方向の内側から外側にかけて、
図2、
図3及び
図6に矢印で示すロータ120の回転方向と逆向きに曲線状に延出するように、例えばここでは5つ設けられている。そして、これら複数のブレード192のインペラ基部191とはZ軸方向の反対側の表側(前方側)に、円環板状のフロントシュラウド(前方側板)193が設けられている。
【0042】
フロントシュラウド193は、複数のブレード192の外周側の部分を前方側から覆うと共に、中央部に円形のセンターホール(穴部)193aを有する。複数のブレード192の内周側の部分は、センターホール193aから露出している。センターホール193aの内径D2は、インペラ基部191の外径T2よりも大きい。これは、ポンプ100の吸込口151から吸入され、センターホール193aを通過してリアケーシング142側へ移動する移送流体の流路面積を確保するためである。なお、この流路面積を更に確保するために、インペラ基部191は、
図4に示すように、ブレード支持面191bの外周縁部にR面191cを有している。
【0043】
複数のブレード192は、センターホール193aの内側に配置された部位の表面に、回転方向に向かうように傾斜した第1のテーパ部194を有する(
図5参照)。また、複数のブレード192は、フロントシュラウド193の裏側(後方側)に配置された部位の背面に、回転方向と反対側に向かうように傾斜する第2のテーパ部195を有する(
図5参照)。
【0044】
第1のテーパ部194は、換言すると、ブレード192のセンターホール193aから露出する部位の表側の回転方向上流側の端部192aから、回転方向に向けて斜めに下降するテーパ面により構成されている。第2のテーパ部195は、換言すると、ブレード192のフロントシュラウド193の裏側に形成された部位の裏側の回転方向下流側の端部192bから、回転方向と反対方向に向けて斜めに上昇するテーパ面により構成されている。
【0045】
なお、
図4に示すように、インペラ基部191には、軸受/従動部121と接続された際に、ロータ120の内側空間(軸受/従動部121の内側空間A3:
図4参照)と、フロントケーシング141の収容空間(ポンプ室A1)とを連通させる複数のサイドホール(横穴部)191dが形成されている。これらサイドホール191dは、円形、楕円形又は扁平楕円形等の穴形状を有し、ロータ120の回転軸中心からラジアル方向(径方向)に放射状にインペラ基部191を貫通するように、例えばここでは4つ設けられている。
【0046】
次に、このように構成されたインペラ190を有するポンプ100の作用について説明する。
ロータが磁気軸受によって支持されるポンプの場合、ロータの機械的な移動規制が困難なので、ロータのアキシャル方向の移動や傾きなどの問題が発生する。本実施形態のポンプ100のように、吸込口151がポンプ室A1の前方にある場合、移送流体の吸込によって、ポンプ室A1の吸込口151側の圧力が低下する。インペラ190が、フロントシュラウド193の無いオープン型であると、ロータ120はアキシャル方向の+側(前方側)に大きく移動すると共に、ラジアル方向にも傾きが発生する。また、ブレード192の両側にシュラウドを設けたクローズドタイプ、ブレード192の背面側にリアシュラウドを設けたセミオープン型の場合も、ロータ120は、アキシャル方向の+側に移動する。
【0047】
この点、本実施形態のポンプ100によれば、インペラ190として、ブレード192の前方に環状のフロントシュラウド193を設けたセミオープン形式を採用しているので、フロントシュラウド193の裏面側で発生する移送流体の流速増加による圧力低下で、ロータ120がリアケーシング142側へ移動しようとする力が発生する。このため、この力が、吸込口151側での圧力低下による前方への移動力とバランスし、ロータ120のアキシャル方向への移動を防止することができる。また、フロントシュラウド193の回転時の慣性作用により、ロータ120の傾きを防止することができる。
【0048】
ここで、フロントシュラウド193のセンターホール193aの内径D2が、インペラ基部191の外径T2よりも小さいと、ポンプ100の吸込口151からリアケーシング142側に移送する移送流体の流路断面積が確保できないので、吸込口151側での圧力が低下せず、ロータ120のアキシャル方向の-側(後方側)への移動量が大きくなりすぎ、ロータ120がリアケーシング142に接触する可能性がある。
【0049】
一方、フロントシュラウド193のセンターホール193aの内径D2が、インペラ基部191の外径T2よりも極端に大きいと、フロントシュラウド193の裏面側での減圧効果が十分に得られず、ロータ120のリアケーシング142側への移動及び傾き防止機能が低下してしまう。
【0050】
この点に関する本発明者等の実験によれば、フロントシュラウド193は、センターホール193aの内径D2が、軸受/従動部121の外径T2の110%以上135%以下、好ましくは113%以上120%以下となるように形成されていることが望ましいことが分かった。
【0051】
また、フロントシュラウド193の裏面側での減圧効果は、フロントシュラウド193の外径D1によっても変化する。本発明者等の実験によれば、フロントシュラウド193の外径D1が小さい程、ロータ120の傾きが大きくなることが分かった。これは、吐出口152付近で移送流体の流速が最も高くなり、圧力が最も低下することに起因しているものと思われる。フロントシュラウド193の外径D1がポンプ室A1に対して十分に大きくないと、吐出口152近傍の圧力とのバランスをとることが難しいからである。本発明者等の実験によれば、フロントシュラウド193は、その外径(インペラ190の外径)D1が、フロントケーシング141の収容空間(ポンプ室A1)の内径T1の85%以上100%未満、好ましくは90%以上94%以下となるように形成することが望ましいことが分かった。
【0052】
なお、ロータ120のアキシャル方向への移動は、ブレード192に形成された第1のテーパ部194及び/又は第2のテーパ部195の角度を調整することによっても調整可能である。すなわち、第1のテーパ部194及び/又は第2のテーパ部195が、
図5に示すように、回転方向に対して傾斜角度η1,η2でそれぞれ傾斜していると、インペラ190に対するリアケーシング142側への推進力が発生するので、ロータ120は、アキシャル方向の-側に移動する。本発明者等の実験によれば、第1のテーパ部194は、例えばフロントシュラウド193の表面(水平面)に対して、傾斜角度η1が15°~30°の範囲となるように形成されていることが望ましい。また、第2のテーパ部195は、例えばフロントシュラウド193の裏面(水平面)に対して、傾斜角度η2が15°~30°の範囲となるように形成されていることが望ましい。但し、ロータ120のアキシャル方向への微調整が不要な場合には、第1のテーパ部194及び/又は第2のテーパ部195は、設けなくても良い。
【0053】
また、インペラ190の裏面側に当たるインペラ基部191の側方に貫通するサイドホール191dを設けると、フロントケーシング141側(アキシャル方向+側)へのインペラ190の移動を抑制する効果がある。すなわち、インペラ190で生み出した移送流体の流れは、吐出口152から吐出されるのと共に、
図7に矢印で示すように、リアケーシング142と軸受/従動部121との間の隙間(円筒状空間(収容空間)A2を含む)にも発生する。
【0054】
ポンプ室A1からリアケーシング142側に回った移送流体の流れは、円筒状空間A2の軸受/従動部121の外周側を通って回り込み、軸受/従動部121の内側空間A3を通ってインペラ190の裏面側に設けられたサイドホール191dから勢い良く引き抜かれることにより、インペラ190の背面側(後方側)のロータ120の圧力を下げる効果を生み出す。この背面側においては、その受圧面積にリアケーシング142底面(円筒状空間A2の底面)付近の内圧を乗じた値の力が、インペラ190をフロントケーシング141側(アキシャル方向+側)へ移動させる力となる。このため、サイドホール191dによってインペラ190の背面側の圧力を下げることにより、アキシャル方向+側への移動量を抑えることが可能である。
【0055】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0056】
例えば、上記の実施形態では、インペラ190のサイドホール191dを円形、楕円形又は扁平楕円形の形状で4つとし、ブレード192を5つとしたが、これらの数や形状、配置態様等は、移送流体の種類やポンプ100の設計性能等により、種々の形態を取り得るので、上記の数や形状、配置態様に限定されるものではない。また、上記実施形態では、磁気軸受により支持されるロータ120のインペラ190を例に説明したが、機械的な軸受によって支持されるロータにも適用可能である。この場合でも、アキシャル方向及び傾きなどの不要な荷重が発生しないという効果がある。
【符号の説明】
【0057】
100 ポンプ
110 磁気軸受
120 ロータ
121 軸受/従動部(ロータ本体)
130 駆動機構
190 インペラ
191 インペラ基部
191b ブレード支持面
191d サイドホール
192 ブレード
193 フロントシュラウド
193a センターホール
194 第1のテーパ部
195 第2のテーパ部
210 コントローラ