(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】コンピュータ断層撮影蛍光X線撮像のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/223 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
G01N23/223
(21)【出願番号】P 2022514257
(86)(22)【出願日】2020-09-01
(86)【国際出願番号】 US2020048952
(87)【国際公開番号】W WO2021046059
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-04-27
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516065870
【氏名又は名称】シグレイ、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ウェンビン
(72)【発明者】
【氏名】ルイス,シルビア・ジア・ユン
(72)【発明者】
【氏名】カーズ,ヤーノシュ
(72)【発明者】
【氏名】ストライプ,ベンジャミン・ドナルド
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-235437(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0247811(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0348151(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
A61B 6/00 - A61B 6/14
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光X線を用いて試料を分析する方法であって、
試料が入射X線ビームに対して第1の回転方向を有する間に、前記入射X線ビームで前記試料を照射するステップであって、前記入射X線ビームは、前記試料の表面に対してニアグレージング入射角を有し、前記ニアグレージング入射角は、前記試料の前記表面に対して1度~15度の範囲内である、ステップと、
前記試料が前記第1の回転方向を有する間に、前記入射X線ビームに応答して前記試料によって生成された蛍光X線を収集するステップと、
前記試料が前記入射X線ビームに対して
一連の回転方向を有するように、前記試料の前記表面に実質的に垂直な方向を回りに前記試料を回転させるステップであって、前記
一連の回転方向は回転角度だけ互いに異なる、ステップと、
前記試料が前記
一連の回転方向のうちの
各回転方向を有する間に、前記入射X線ビームで前記試料を照射するステップと、
前記入射X線ビームに応答して前記試料によって生成された蛍光X線を収集するステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記ニアグレージング入射角は、前記試料の臨界角よりも大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試料が第1の回転方向を有する間に入射X線ビームで前記試料を照射する前記ステップは、前記試料の前記表面に実質的に平行な少なくとも1つの方向において50ミクロン以下のスポットサイズで前記試料に前記入射X線ビームを集束させるステップを含み、
前記試料が各
一連の回転方向を有する間に前記入射X線ビームで前記試料を照射する前記ステップは、前記試料の前記表面に実質的に平行な少なくとも1つの方向において50ミクロン以下のスポットサイズで前記試料に前記入射X線ビームを集束させるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記試料が前記第1の回転方向を有する間に収集された前記蛍光X線をエネルギー分解するステップと、前記試料が
前記一連の回転方向のうちの各回転方向を有する間に収集された前記蛍光X線をエネルギー分解するステップとをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記回転角度は、0.5*sin(θ)とsin(θ)との間の範囲内であり、ここで、θは、前記ニアグレージング入射角である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記試料が前記
一連の回転方向のうちの
各回転方向を有する間に収集された前記蛍光X線をエネルギー分解するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記
一連の回転方向は、少なくとも3つ
の回転方向を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記
一連の回転方向は、少なくとも180度の前記試料の合計回転を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記試料が前記入射X線ビームに対して前記第1の回転方向を有する間に前記入射X線ビームで前記試料を照射する前記ステップは、第1の複数の位置で前記入射X線ビームで前記試料を照射するステップを含み、
前記試料が前記入射X線ビームに対して
前記一連の回転方向のうちの各回転方向を有する間に前記入射X線ビームで前記試料を照射する前記ステップは、第2の複数の位置で前記入射X線ビームで前記試料を照射するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の複数の位置で前記入射X線ビームで前記試料を照射する前記ステップは、前記試料が前記入射X線ビームに対して前記第1の回転方向を有する間に前記入射X線ビームが前記第1の複数の位置の各位置に衝突するように、連続した一連のステップで前記試料の前記表面に実質的に平行な平面内で二方向に前記試料を移動させるステップを含み、
前記第2の複数の位置で前記入射X線ビームで前記試料を照射する前記ステップは、前記試料が前記入射X線ビームに対して前記
一連の回転方向を有する間に前記入射X線ビームが前記第2の複数の位置の各位置に衝突するように、連続した一連のステップで前記試料の前記表面に実質的に平行な前記平面内で二方向に前記試料を移動させるステップを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記試料が前記入射X線ビームに対して前記第1の回転方向を有する間に前記入射X線ビームで前記試料を照射する前記ステップは、第1の位置で前記入射X線ビームで前記試料を照射するステップを含み、
前記試料が前記入射X線ビームに対して
前記一連の回転方向のうちの各回転方向を有する間に前記入射X線ビームで前記試料を照射する前記ステップは、前記第1の位置で前記入射X線ビームで前記試料を照射するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記入射X線ビームが前記第1の位置とは異なる第2の位置に衝突するように、前記試料を前記試料の前記表面に実質的に平行な平面内で並進させるステップと、
前記入射X線ビームに対して前記第1の回転方向を有する前記試料を用いて前記第2の位置の前記入射X線ビームで前記試料を照射するステップと、
前記試料が前記入射X線ビームに対して前記第1の回転方向を有する前記第2の位置にある間に、前記入射X線ビームに応答して前記試料によって生成された蛍光X線を収集するステップと、
前記入射X線ビームに対して
前記一連の回転方向のうちの各回転方向を有する前記試料を用いて前記第2の位置の前記入射X線ビームで前記試料を照射するステップと、
前記試料が前記入射X線ビームに対して前記
一連の回転方向を有する前記第2の位置にある間に、前記入射X線ビームに応答して前記試料によって生成された蛍光X線を収集するステップとをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
複数の回転方向で収集された前記蛍光X線を示すデータを生成するステップと、前記試料中の微量元素の分布の二次元画像を生成するために前記データを再構成するステップとをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
試料の蛍光X線分析のためのシステムであって、
X線を生成するように構成されたX線源と、
前記X線源からX線を受け、前記受けたX線の少なくとも一部をX線ビームとして導いて試料を照射するように構成されたX線光学サブシステムであって、前記X線ビームは、前記試料の表面に対してニアグレージング入射角を有し、前記ニアグレージング入射角は、前記試料の前記表面に対して1度から15度の範囲内である、X線光学サブシステムと、
前記試料を支持し、前記試料の前記表面に平行な平面内で前記試料を移動させ、前記試料が前記X線ビームに対して回転角度だけ互いに異なる
一連の回転方向を有するように、前記試料の前記表面に垂直な方向回りに前記試料を回転させるように構成された試料ステージと、
前記試料が前記
一連の回転方向の各々を有し、前記X線ビームによって照射されている間に、前記X線ビームに応答して前記試料の前記表面から放出された少なくとも一部の蛍光X線を測定するように構成された少なくとも1つのエネルギー弁別検出器とを備える、システム。
【請求項15】
前記ニアグレージング入射角は、前記試料の臨界角よりも大きい、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記X線光学サブシステムは、二次反射面プロファイルを有する少なくとも1つのX線反射器を備える、請求項14に記載のシステム。
【請求項17】
前記少なくとも1つのX線反射器は、前記X線源から前記X線を受け、前記X線の少なくとも一部を前記試料内または前記試料上の焦点で前記X線ビームに集束させるように構成された一対の放物面X線光学系を備える、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記X線光学サブシステムは、15ミリメートル以上の作動距離を有する、請求項14に記載のシステム。
【請求項19】
前記試料ステージは、前記試料を少なくとも90度回転させるように構成される、請求項14に記載のシステム。
【請求項20】
前記少なくとも1つのエネルギー弁別検出器は、前記試料の前記表面に実質的に平行に配置された活性要素を備える、請求項14に記載のシステム。
【請求項21】
前記X線源は、電子衝撃に応答してX線を生成するように構成された複数のターゲット材料を備え、前記複数のターゲット材料の前記生成されたX線は、対応するスペクトル特性を有する、請求項14に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2019年9月3日に出願された米国仮特許出願第62/895,342号明細書に対する優先権の利益を主張する。
背景
分野
本出願は、一般に、蛍光X線撮像のためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
蛍光X線(XRF)は、100年以上にわたって最も広く使用されている化学(例えば、元素組成)分析技術である。蛍光X線撮像(XRFI)は、生物学的問題にますます適用されている超微量検出感度での元素の定量的マッピングのための強力な技術である(例えば、R.McRae et al.,“In situ imaging of metals in cells and tissues,”Chem Rev.Vol.109,pp.4780-4827(2009)、C.J.Fahrni、“Biological applications of X-ray fluorescence microscopy:Exploring the subcellular topography and speciation of transition metals,”Current Opinion in Chem.Biol.Vol.11,No.2,pp.121-127(2007)、T.Paunesu et al.,“X-ray fluorescence microprobe imaging in biology and medicine,”J.Cell.Biochem.Vol.99,pp.1489-1502(2006)を参照されたい)。
図1は、十分なエネルギーの入射X線が原子から内殻電子を放出し(イオン化)、より高いエネルギーを有する外殻軌道電子によってその後満たされる内殻コア-ホールを残すXRFの物理的原理を概略的に示す。電子によるより高いエネルギーの電子殻からより低いエネルギーの電子殻への遷移は、電子殻エネルギー準位(結合エネルギー)の差に等しいエネルギーを有する「特徴的な」蛍光X線光子の放出をもたらす。結合エネルギーは各元素に固有であり、試料によって放出されたX線エネルギーを測定することによって多元素分析を可能にする。
【0003】
過去20年の間に、ミクロン分解能での走査型蛍光X線撮像(microXRFI)は、シンクロトロン光源、X線集束光学系、および検出器技術における新たな発展のために著しく進歩した。MicroXRFIは、ppm未満(サブppm)の感度、複数の元素の同時分析、直接的な定量化、高い空間分解能(例えば、ミクロン~30ナノメートル)、ならびに、様々な試料サイズおよび形状に対する実験上の柔軟性を提供することができる。MicroXRFIはまた、様々な柔軟な操作条件下(例えば、周囲温度または極低温温度)で湿潤、低温保存、ならびに固定および/または染色された試料を分析する能力を提供することができる。さらに、非破壊的であるため、microXRFIは、赤外およびラマン分光/顕微鏡法、MALDIなどの分子質量分析、および2次イオン質量分析(SIMS)などの技術による相関分析または追跡分析を可能にする。MicroXRFIは、誘導結合プラズマ質量分析(LA-ICP-MS)によるレーザアブレーションよりもはるかに高い空間分解能を有することができ、電子ベースの技術よりも桁違いに低い(良好な)検出感度および低い放射線量を有することができる。
【0004】
microXRFIの利点は、特殊なシンクロトロンビームラインの開発を推進しており、多くのシンクロトロンベースの生物医学研究の動機となっている。そのような調査からの結果は、5ミクロン以下の空間分解能で(遊離および結合した)全金属イオンの視覚化(後者はほとんどの組織学的染色で見えない)を提供した。しかしながら、シンクロトロンベースの撮像は、アクセスしやすさおよび実行できる試料の数が限られていることによって制約される。このようなシンクロトロンビームラインへのアクセスは、コストが高いために蛍光X線ビームラインを備えたシンクロトロンが世界に限られた数しかないため、非常に競争力がある(例えば、各シンクロトロン施設のコストは10億ドルを超え、各ビームラインのコストは1000万ドルを超える可能性がある)。また、生物学的用途は、防衛、先進材料、半導体、電池/エネルギー、ならびに石油およびガス研究を含む他の注目されている研究分野とそのようなアクセスを求めて競合することが多く、その結果、非常に有益なプロジェクトさえも却下される。たとえ認められたとしても、ビーム時間は、多くの場合、1週間または数日に制限され、これにより、利用可能な時間および/または試料調製もしくは試料選択の改善などの測定プロトコルを変更する時間内に分析することができる試料の数が制限される。シンクロトロンへの移動の計画および関連コストを含む追加の課題もある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の概要
本明細書に記載の特定の実施態様は、試料を分析するために蛍光X線を使用する方法を提供する。本方法は、試料が入射X線ビームに対して第1の回転方向を有する間に、入射X線ビームで試料を照射するステップを含む。入射X線ビームは、試料の表面に対してニアグレージング(near-grazing)入射角を有する。本方法は、試料が第1の回転方向を有する間に、入射X線ビームに応答して試料によって生成された蛍光X線を収集するステップをさらに含む。本方法は、試料が入射X線ビームに対して第2の回転方向を有するように、表面に実質的に垂直な方向を中心に試料を回転させるステップをさらに含む。第2の回転方向は、第1の回転方向と、ある回転角度だけ異なる。本方法は、試料が第2の回転方向を有する間に、入射X線ビームで試料を照射するステップをさらに含む。本方法は、試料が第2の回転方向を有する間に、入射X線ビームに応答して試料によって生成された蛍光X線を収集するステップをさらに含む。
【0006】
本明細書に記載の特定の実施態様は、試料の蛍光X線分析のためのシステムを提供する。システムは、X線を生成するように構成されたX線源と、X線源からX線を受け、受けたX線の少なくとも一部をX線ビームとして導いて試料を照射するように構成されたX線光学サブシステムとを備える。X線ビームは、試料の表面に対してニアグレージング入射角を有する。システムは、試料を支持し、試料を表面に平行な平面内で移動させ、表面に垂直な方向を中心に試料を回転させるように構成された試料ステージをさらに備える。システムは、入射X線ビームに応答して表面から放出された少なくともいくつかの蛍光X線を測定するように構成された少なくとも1つのエネルギー弁別検出器をさらに備える。
図面の簡単な説明
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】蛍光X線(XRF)の物理的原理を概略的に示す。
【
図2】本明細書に記載の特定の実施態様による例示的なシステムを概略的に示す。
【
図3A】試料用の従来のシンクロトロンおよび実験室のマイクロXRFIシステムの例示的な構成を概略的に示す。
【
図3B】本明細書に記載の特定の実施態様による、
図3Aと同じ試料を有するシステムの例示的な構成を概略的に示す。
【
図4A】本明細書に記載の特定の実施態様によるデータ収集のための例示的な方法のフロー図である。
【
図4B】本明細書に記載の特定の実施態様によるデータ収集のための例示的な方法のフロー図である。
【
図4C】本明細書に記載の特定の実施態様による、2次元ラスタスキャンを用いたデータ収集方式を利用する
図4Bの例示的な方法の態様を概略的に示す。
【
図5】本明細書に記載の特定の実施態様による、X線ビーム経路に沿った総蓄積蛍光X線信号を概略的に示す。
【
図6A】本明細書に記載の特定の実施態様によるデータ取得の「段階的スキャン」モードの2つの例を概略的に示す。
【
図6B】本明細書に記載の特定の実施態様によるデータ取得の「フライスキャン」モードの2つの例を概略的に示す。
【
図6C】本明細書に記載の特定の実施態様によるデータ取得の「横断および回転スキャン」モードの2つの例を概略的に示す。
【
図7】本明細書に記載の特定の実施態様による例示的なモデル試料の側面図および上面図を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
発明を実施するための形態
概要
従来のXRFIシステムおよび方法によるデータ取得には、2つの大きな欠点がある。第1のそのような欠点では、そのような従来のXRFIシステムおよび方法は、試料表面の下の深くに生成された蛍光X線が生成点から表面に伝播する間に減衰されるため、集束X線ビーム束が無駄になる。このような減衰は、低エネルギー蛍光X線では特に問題であり、検出可能な蛍光X線の生成効率が低くなる。例えば、K線の第1列遷移金属を生成するのに十分なエネルギーを有する入射X線は、生体試料内で大きな侵入深さを有し、減衰により、厚い生体試料内の低Z元素から生成された蛍光X線のごく一部が表面に伝播して検出される。さらに、微少焦点(マイクロフォーカス)X線源および優れた集束特性を有するX線光学系の使用によって横方向分解能が最大化されたとしても、深さ分解能は依然として非常に粗い。さらに、別個の元素によって生成される特徴的な蛍光X線は異なるエネルギーを有し、したがって、厚い試料の場合、より高いエネルギーの蛍光X線を生成する要素は、そのようなより高いエネルギーの蛍光X線が、試料内の深くで生成される場合であっても、試料表面から逃げる確率がより高いため、検出されたスペクトルに過度に表され得る。その結果、従来のXRFIシステムおよび方法を使用する試料の定量的に正確な理解は困難である。
【0009】
このような減衰の影響を補償するために、薄い試料部分(例えば数十ミクロン)が従来のXRFIシステムおよび方法では使用されてきた。これらの薄切片の使用はまた、構造情報のための光学顕微鏡法などの他の技術との相関顕微鏡法にも有利である。しかしながら、そのような薄切片におけるX線の吸収は非常に低く、したがって、入射X線の大部分は無駄になる。例えば、FeのK殻特性蛍光X線を生成するために使用できる約8keVのエネルギーを有する入射X線(例えば、Cu X線ターゲットによって生成されるX線)の場合、入射X線の約4%のみが従来のmicroXRFI構成における40ミクロン厚の水和脳切片試料によって吸収されるが、入射X線の約96%は試料を透過し、無駄になる。このようなスループット損失は、シンクロトロン光源で利用可能な高いX線束では許容可能であり得るが、実験室のX線源を使用する場合、このような損失は問題である。
【0010】
従来のXRFIシステムおよび方法の第2の欠点では、機械的干渉のために蛍光X線の収集立体角が制限される。蛍光X線は、試料によって等方的に放射される。蛍光X線を効率的に検出するためには、エネルギー分散型検出器をできるだけ試料に近づけて配置することが望ましい。しかしながら、従来のXRFIシステムおよび方法では、検出器の試料までの最小距離は、検出器と試料を保持するステージとの物理的干渉および検出器と入射X線ビームとの物理的干渉によって厳しく制約される。例えば、検出器の最適な配置は、収集立体角を最大にするために試料表面に近くかつ平行であるが、そのような検出器の配置は、試料への入射X線ビームの照準線と干渉する。したがって、従来のXRFIシステムおよび方法では、検出器は試料から遠く離れており、その結果として蛍光X線の検出強度が低下する。
【0011】
例示的な実施態様
本明細書に記載の特定の実施態様は、様々な種類の試料(例えば、目的の薄膜またはドーパントを有する半導体試料、薄い地質試料、組織の薄切片などの生体試料)を分析するための実験室ベースのコンピュータ断層撮影蛍光X線撮像(CL-XRFI)システムおよび/または方法を提供する。ほんの一例として、本明細書に記載される特定の実施態様は、LA-ICP-MSの利用可能性を有するシンクロトロンベースのマイクロXRFの属性に匹敵する属性(例えば、速度、定量的特性、および感度)を提供することによって、アルツハイマー病(AD)および他の神経変性疾患のための有望なフェロトーシス阻害治療薬の開発および合理的な設計を加速するように構成される。他の実験室ベースのマイクロXRFIシステムは、実験室ベースのX線源の低輝度、X線光学系の低効率、および/または低XRFデータ収集方法のために、高感度でのスループットにボトルネックを経験する。本明細書に記載の特定の実施態様は、他の実験室ベースのマイクロXRFIシステムならびにサブppm(相対)およびサブフェムトグラム(絶対)の検出感度を有するシンクロトロン様感度(例えば、8ミクロン以上の分解能)と比較して、スループットで2桁を超える改善(例えば、100倍以上)を有利に提供する。他の例では、地質試料(例えば、岩石切片)は、地質学、石油およびガス探査、古生物学、および/または法医学に関連する情報について分析することができ、植物ベースのサンプル(例えば、木材、紙、種子など)の切片は、生態学、農業、林業、および/または考古学に関連する情報について分析することができ、建材試料(例えば、コンクリート、コーティング、塗料)は、腐食、層間剥離、および/または故障分析に関連する情報について分析することができ、他の生体試料(例えば、骨、歯、他の石灰化組織、細胞培養物の切片、他の湿潤生体組織)は、毒物学、生物学、生物学における環境研究、医学、食品科学、栄養学、病理学などに関連する情報について分析することができる。
【0012】
本明細書に記載の特定の実施態様は、(i)より速い取得時間(例えば、それぞれ60ミクロンおよび30ミクロンの分解能を有する2ppmの検出感度でのFeおよび複数の他の元素の2D撮像のための8分および32分の取得時間)および/または(ii)最小限の試料調製での非破壊分析(例えば、定量的金属分布情報を細胞構造情報と結び付けるために光学顕微鏡法用に調製された薄切片を含む、他の技術との相関分析を可能にすること)を提供する。特定の実施態様は、AD研究および薬物開発に有利に利用することができる(例えば、様々な時点での前臨床ADモデルにおけるFeの撮像および定量化、潜在的な薬物の有効性に関するフィードバックの可能化)。
【0013】
測定の幾何学的配置
本明細書に記載の特定の実施態様は、(i)試料の表面近傍層からXRFを励起するために入射X線ビームを効率的に使用し、(ii)大きな検出立体角を提供するために試料に近いX線検出器を有することによって、大きな入射角(例えば、垂直入射)を使用する従来のXRFスキャンシステムおよび方法を超える利点を提供する。本明細書に記載の特定の実施態様は、分析される対象物(例えば、試料)の表面に実質的に平行な方向の励起X線ビームサイズに匹敵する空間分解能を得るために、断層撮影データ収集および再構成方法を使用する。
【0014】
図2は、本明細書に記載の特定の実施態様による例示的なシステム100を概略的に示す。
図2の例示的なシステム100は、高効率X線源110と、X線光学サブシステム120と、少なくとも1つのX線検出器140とを備える、実験室ベースのコンピュータ断層撮影XRFI(CL-XRFI)システムである。高効率X線源110は、電子源112と、熱伝導性基板116上の微細構造化アノードターゲット114とを備える。X線光学サブシステム120は、X線源110からX線118を受け、低入射角幾何学的配置(例えば、3度のグレージング角)で試料ステージ132上の試料130(例えば、厚さ800ミクロン以下)の上に、少なくとも1つの集束X線ビーム124にX線の少なくとも一部を集束させるように構成された一対の双放物面X線光学系122を備える。少なくとも1つのX線検出器140は、X線光学サブシステム120からの入射集束X線ビーム124に応答して試料130から放出された蛍光X線の少なくとも一部を受けて検出するように構成されている。試料ステージ132は、分析されている試料130をx-y平面内で(例えば、試料表面に平行に)移動させ、断層撮影取得のために試料をz軸回りに回転させる(例えば、試料表面に垂直であり、入射X線ビーム124によって照射される試料130上のスポットと一致することができる)ように構成される。本明細書に記載の特定の実施態様は、1ppm以下の濃度まで試料中の微量元素(例えば、Fe)を、3以上の信号対雑音比の60ミクロン以下の空間分解能で、試料あたり40分以下の総データ収集時間で撮像するように構成される。
【0015】
特定の実施態様では、X線源110の微細構造化アノードターゲット114は、熱伝導性基板116(例えば、ダイヤモンド)と熱連通する1つまたは複数の金属含有構造体115(例えば、ミクロンサイズの金属構造体)を備える。例えば、X線源110は、熱伝導性基板116(例えば、ダイヤモンド)の上または中に埋め込まれた少なくとも1つの材料(例えば、Cu、SiC、MgCl、Al、Rh、Mo)を有する少なくとも1つの構造体115を備えることができる。例えば、
図2は、複数の構造体115が基板116の表面内に埋め込まれたアノードターゲット114を概略的に示しているが、特定の他の実施態様のアノードターゲット114は、基板116上に複数の熱伝導性支柱(例えば、ダイヤモンド)を有し、かつ少なくとも1つの材料がその上に固定された(例えば、その上にコーティングされる)熱伝導性基板116を備えることができる。少なくとも1つの構造体115の少なくとも1つの材料は、電子源112からの電子が衝突すると超高光源輝度を有するX線を放射するように構成され、X線は少なくとも1つの窓113を介してX線源110から放射される。例えば、X線源110の構造体115は、電子衝撃に応答してX線を生成するように構成された複数のターゲット材料を備えることができ、ターゲット材料の生成されたX線は、対応するスペクトル特性を有する。少なくとも1つの構造体115の少なくとも1つの材料は、分析されている試料130の1つ以上の特徴的な蛍光X線線よりも高いエネルギーを有するX線を放射するように構成される。例えば、X線源110は、30ミクロン×30ミクロンの有効X線源スポットサイズで100Wの総出力(例えば、構造体115(例えば、ミクロンサイズCu構造体)上で300ミクロン×30ミクロンの電子ビームの照射範囲で得られる)を有することができ、基板116(例えば、ダイヤモンドを備える)に対するX線ビーム取り出し角度は10度である。
【0016】
特定の実施態様のX線源110は、(i)ダイヤモンド基板116の熱特性を組み込んでアノードターゲット114の平均熱伝導率を増加させること、(ii)電子源112からの電子エネルギー堆積速度の、構造体115の質量密度に対する依存性を利用して好ましいエネルギー堆積プロファイルを作成すること、(iii)金属構造体115と周囲のダイヤモンド基板116との間に大きな熱勾配を作り出して熱放散を高めること、および(iv)構造体115と整列したX線ビーム軸に沿ってX線118を非常に効率的に蓄積すること、を含むがこれらに限定されない様々な利点を提供する。特定の実施態様の結果として得られる輝度は、従来の微少焦点X線源の輝度よりも実質的に高い。さらに、アノードターゲット114の構造体115の材料は、分析される1または複数の要素の所定の(例えば、最適化されている)蛍光断面を提供するように選択することができる。例えば、構造体115にCuを使用して、Fe蛍光を励起するのに最適な8.05keVの強いKα線X線を提供することができる。そのような入射X線は、他のシステムの計数率よりも約100倍高い計数率を可能にすることができ、10ミクロンの焦点で、半導体原子よりも小さい層厚での測定(sumiconductor sub-atomic layer thickness measurements)を可能にすることができる。本明細書に記載の特定の実施形態と互換性のあるX線源110の例は、米国特許第9,874,531号、第9,823,203号、第9,719,947号、第9,594,036号、第9,570,265号、第9,543,109号、第9,449,781号、第9,448,190号、および第9,390,881号に記載されており、これらの各々は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0017】
特定の実施態様では、X線光学サブシステム120は、X線源110からのX線118の少なくとも一部を集束X線ビーム124に集束させ、集束X線ビーム124を導いて低いX線ビーム入射角で試料130を照射するように構成される。X線光学サブシステム120は、大きな作動距離(例えば、光学出口点と試料130との間の距離は、15ミリメートル以上、30ミリメートル以上、40ミリメートル以上である)および小さな点拡がり関数(PSF)(例えば、20ミクロン以下)を有することができ、狭い鉛筆状のX線ビームをもたらす。
【0018】
従来の実験室ベースのX線マイクロビームシステムは、本明細書に記載の特定の実施態様での使用に適していない小さな焦点に対して短い作動距離を有する多重毛細管光学系(例えば、中空ガラス毛細管のテーパ状束)に依存している(例えば、使用される制約された幾何学的配置に起因して)。さらに、そのような多重毛細管光学系の「焦点」は、真の焦点ではなく、出射ビームが最小直径(例えば、2*θc*Lにほぼ等しいサイズで、ここで、θcは臨界角であり、Lは作動距離または多重毛細管の出口と「焦点」との間の距離である)を有する空間内の点である。例えば、8keVのX線の場合、30ミクロンの焦点を有する多重毛細管光学系は、わずか約3ミリメートルの作動距離を有する。
【0019】
特定の実施態様では、X線光学サブシステム120は、二次内面プロファイルを有する少なくとも1つのX線反射光学系を備える。例えば、
図2に概略的に示すように、X線光学サブシステム120は、一対の双放物面X線光学系122を備える。特定の実施態様では、一対の双放物面X線光学系122は、X線源110からのX線118の少なくとも一部を収集して平行化するように配置および位置合わせされた第1の放物面ミラー122と、第1の放物面ミラー122からの平行化されたX線の少なくとも一部を集束X線ビーム124に集束させ、集束X線ビーム124を導いて試料130を照射するように構成された第2の放物面ミラー122とを備える。特定の実施態様では、2つの放物面ミラー122の各々は軸対称であるが、特定の他の実施態様では、2つの放物面ミラー122の少なくとも一方は軸対称ではない。
【0020】
特定の実施態様の2つの放物面ミラー122は真の撮像光学系であり、集束X線ビーム124の焦点はX線エネルギーに依らない(例えば、2つの放物面ミラー122からの2つの反射は、互いに補償する)。特定の実施態様の2つの放物面X線ミラー122からの小さなスポットサイズの作動距離は非常に大きく(例えば、15ミリメートル以上、30ミリメートル以上、40ミリメートル以上)、低入射角X線撮像に使用可能な鉛筆状のX線ビームを提供することができる。特定の実施態様では、放物面ミラー122は、5マイクロラジアン未満の勾配誤差およびオングストロームオーダーの表面粗さを有する。特定の実施態様では、X線光学サブシステムは、試料130にある(例えば、その上に投射する)焦点(例えば、試料130内または上の焦点)が、試料表面に実質的に平行な少なくとも一方向で長径が50ミクロン以下(例えば、10ミクロン~30ミクロンの範囲、5ミクロン~10ミクロンの範囲、5ミクロン未満の範囲、1ミクロン未満の範囲)の実質的に楕円形である分解能限界を有する。例えば、特定の実施態様のX線光学サブシステムは、600ナノメートル以下のFWHMスポットサイズを生成することができ、これは分解能目標基準を使用して400ナノメートルの線および空間を分解することができる。
【0021】
特定の実施態様では、第1の放物面ミラー122は、少なくとも1つの第1の基板と、少なくとも1つの第1の基板上の少なくとも1つの第1の層(例えば、深さ傾斜多層コーティング、高Z材料コーティング)とを備え、第1の放物面ミラー122は、X線源110から放出されたX線118の少なくとも一部を効率的に収集および平行化するように構成され、収集および平行化されたX線は、少なくとも1つの第1の層によって反射された特定のX線エネルギーを有する。第2の放物面ミラー122もまた、少なくとも1つの第2の基板と、少なくとも1つの第2の基板上の少なくとも1つの第2の層(例えば、深さ傾斜多層コーティング、高Z材料コーティング)とを備え、第2の放物面ミラー122は、第1の放物面ミラー122から反射されたX線の少なくとも一部を効率的に収集および集束するように構成され、収集および集束されたX線は、少なくとも1つの第2の層によって反射された特定のX線エネルギーを有する。特定の実施態様では、少なくとも1つの第1の基板および少なくとも1つの第2の基板は、単一またはモノリシック基板(例えば、円筒形ガラス毛細管)の一部であるが、特定の他の実施態様では、少なくとも1つの第1の基板および少なくとも1つの第2の基板は、互いに分離している。
【0022】
例えば、2つの放物面ミラー122は、20ミリメートル~500ミリメートル(例えば、120ミリメートル)の範囲の全長を有することができ、各ミラー122は、30ナノメートル厚の白金コーティングを有することができ、第1の放物面ミラー122は、28ミリラジアンの収集円錐角を有することができ、X線光学サブシステム120の作動距離は、低入射角幾何学的配置を可能にするのに十分に長く(例えば、40ミリメートル)することができ、X線光学サブシステム120は、(例えば、X線源110からの見かけのスポットサイズに応じて、試料130において20ミクロン~60ミクロンの範囲のX線スポットサイズに焦点を合わせることを可能にするために)5ミクロン以下の点拡がり関数(PSF)を有することができる。例えば、60ミクロンの焦点サイズは、1.5センチメートルの長さ寸法を有するラット脳試料130全体のより粗い分解能の画像化に使用することができ、20ミクロンの焦点サイズは、試料130の選択された領域のより細かい分解能の画像化に使用することができる。本明細書に記載の特定の実施態様と互換性のある例示的な放物面ミラー122は、米国特許公開第2019/0369272号および第2020/0072770号に記載されており、これらの各々は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0023】
図2には示されていないが、特定の実施態様のX線光学サブシステム120は、2つの放物面ミラー122の一方または両方の長手方向軸上に配置されたビームストップを備える(例えば、ミラー122のうちの一方の上流端またはその近くに、ミラー122のうちの一方の下流端またはその近くに、ミラー122の一方または両方の上流に、ミラー122の一方または両方の下流に)。ビームストップは、X線光学系120によって反射されなかったX線が試料130に衝突するのを防ぐように構成することができる。本明細書に記載の特定の実施形態と互換性のあるビームストップの例は、米国特許第9,874,531号、第9,823,203号、第9,719,947号、第9,594,036号、第9,570,265号、第9,543,109号、第9,449,781号、第9,448,190号、および第9,390,881号に開示されており、これらの各々は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0024】
特定の実施態様では、試料ステージ132は、集束X線ビーム124の少なくとも一部を受けるように位置に試料130を保持するように構成され、少なくとも1つのX線検出器140は試料130から蛍光X線を受けるように構成される(例えば、X線光学サブシステム120の下流および少なくとも1つのX線検出器140の上流に配置される)。特定の実施態様では、試料ステージ132は、本明細書でより完全に説明するように、分析されている試料130をx-y平面内で(例えば、試料表面に平行に)移動させ、z軸回りに試料130を回転させる(例えば、試料表面に垂直であり、入射X線ビーム124によって照射される試料130上のスポットと一致することができる)ように構成される。例えば、試料ステージ132は、直交する二方向の各々において100ミリメートル以上の移動範囲を有するx-y並進電動サブステージと、少なくとも90度、少なくとも180度、または360度以上の回転範囲を有する回転電動サブステージ(例えば、x-y並進電動サブステージの上に)とを備えることができる。特定の実施態様では、試料ステージ132は、試料130が入射X線ビーム124によって衝突される角度(例えば、入射角)を変えるように構成されたゴニオメータシステム(例えば、シータ-2-シータステージ)を備えることができる。例えば、ゴニオメータシステムは、垂直入射(例えば、90度)からニアグレージング入射までの範囲内で角度を変えるように構成することができ、X線源110および少なくとも1つの検出器140の両方を様々な入射角で試料130に対して移動させるように構成することができる。本明細書に記載の特定の実施態様と互換性のあるステージ132の例は、(本明細書に記載のものとは異なる他のシステムと併せて)米国特許第9,719,947号、第9,874,531号、第10,349,908号、第10,352,880号明細書に記載されており、これらの各々は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0025】
特定の実施態様では、少なくとも1つのX線検出器140は、試料130から放出された蛍光X線の少なくとも一部を検出および測定するように構成される。例えば、少なくとも1つのX線検出器140は、試料130から放出された蛍光X線を検出し、(例えば、試料130の元素分布を示す画像を生成するために)異なるエネルギーを有するX線を弁別するように構成されたエネルギー分散型検出器を備えることができる。例えば、少なくとも1つのX線検出器140は、シリコンドリフト検出器(SDD)(例えば、50mm2の活性領域を有する)、X線波長分散分光計、光子計数検出器、ピンダイオード検出器のうちの1つまたは複数を備えることができる。本明細書に記載の特定の実施形態と互換性のあるX線検出器140の例は、米国特許第9,874,531号、第9,823,203号、第9,719,947号、第9,594,036号、第9,570,265号、第9,543,109号、第9,449,781号、第9,448,190号、および第9,390,881号に記載されており、これらの各々は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0026】
図3Aは、生体試料(例えば、脳標本の薄切片)用の従来のシンクロトロンおよび実験室のマイクロXRFIシステムの例示的な構成を概略的に示す。そのような従来のシステムは、典型的には、大きな入射角(例えば、サンプルまたは試料表面に対して45~90度の範囲の入射角θ)で試料に衝突する入射集束X線ビームを有する。例えば、
図3Aに示すように、入射集束X線ビームは、試料表面に対して実質的に垂直に入射する。そのような大きな入射X線ビーム角度は、試料表面上のX線ビームの焦点のサイズがX線ビームの断面に近いかまたは等しくなるように意図されている。入射ビームと試料表面法線(
図3Aに示すように)とによって規定される散乱平面内の90度に等しい入射角θの場合、焦点サイズは集束X線ビームの断面に等しく、45から90度の範囲の入射角の場合、焦点サイズはX線ビーム断面に近い。従来のシステムは、そのような入射角が試料表面上の焦点サイズを(例えば、1/sinθだけ)「拡大」し、それによってシステムの空間分解能を低下させるので、小さな入射角を利用しない。
【0027】
生体試料の原子番号マトリックスが低い(低Z)ため、X線はそのような生体試料において大きな侵入深さを有する。この大きな侵入深さは、システムの空間分解能に悪影響を及ぼす可能性があり、これは、マイクロフォーカスX線源および優れた集束特性を有するX線光学系の使用によって横方向分解能が最大化されたとしても、深さ分解能は依然として非常に粗いためである。さらに、別個の原子要素によって生成される特徴的な蛍光X線は異なるエネルギーを有し、したがって、厚い試料の場合、より高いエネルギーの蛍光X線を生成する原子要素は、それらのX線が、蛍光X線が試料の深部で生成される場合であっても試料から逃げるのに十分なエネルギーを有するので、過度に表される。その結果、試料を定量的に正確に把握することが困難となり得る。
【0028】
本明細書に記載されるように、薄い(例えば、数十ミクロン)試料切片を使用して、大きな侵入深さを補償することができる。例えば、
図3Aの従来のシステムでは、薄い(例えば、50ミクロンの厚さ)試料を入射集束X線ビームによって照射することができる。しかしながら、そのような薄い切片による入射X線の吸収が低いため、入射集束X線ビーム束の大部分が試料を透過し、測定に寄与せず、蛍光X線の生成効率が低くなる。
【0029】
図3Bは、本明細書に記載の特定の実施態様による、
図3Aと同じ生体試料130(例えば、脳試料の薄切片)を有するシステム100の例示的な構成を概略的に示す。入射集束X線ビーム124は、試料表面に対してニアグレージング入射角で試料(例えば、分析されている試料)130に衝突する。例えば、ニアグレージング入射角は、試料表面に対して小さい入射角θ(例えば、1度~15度の範囲、2度~4度の範囲、4度~7度の範囲、7度~14度の範囲、5度未満の範囲)とすることができる。特定のそのような実施態様では、ニアグレージング入射角は、試料130の臨界角を超える(例えば、入射X線ビーム124が試料表面から外部に全反射される入射角の範囲内で)。大きな入射X線ビーム角を使用する構成(例えば、
図3A)とは対照的に、試料表面上のX線ビーム124の焦点のサイズは、X線ビーム124の伝播方向に実質的に垂直な平面内のX線ビーム124の断面よりも著しく(例えば、1/sinθだけ)大きい。しかしながら、試料130を通るX線ビーム124のより長い経路長(例えば、90度の入射角と比較して3度の入射角で約20倍)のために、X線ビーム124の入射X線の大部分が試料130によって吸収され、したがって試料130内の蛍光X線の生成に寄与することができる。したがって、本明細書に記載の特定の実施態様は、集束X線ビーム124の大幅に長い経路長に起因して、ニアグレージング入射角を使用して入射集束X線124のより効率的な使用を有利に提供する。
【0030】
図2および
図3Bによって概略的に示される例示的なシステム100は、
図3Aに概略的に示される従来のシステムに対する別の利点を提供する。本明細書に記載されるように、蛍光X線は試料によって等方的に放射され、従来のXRFIシステムおよび方法における機械的干渉による制約は、検出器の試料までの最小距離(例えば、
図3Aの従来のシステムを参照されたい)および試料から放射された蛍光X線の収集立体角を制限する。
【0031】
そのような従来のXRFIシステムおよび方法とは対照的に、本明細書に記載の特定の実施態様は、
図3Bに示すように、検出器140の活性要素を試料130の表面により近づけ(例えば、約3倍)、かつ実質的に平行にしながら、著しく大きな収集立体角を有利に提供する。
図3Bに概略的に示す構成では、入射X線ビーム124は、試料130の第1の表面に衝突し、少なくとも1つのX線検出器140の活性要素(例えば、シリコンドリフト検出器)は、試料130に実質的に平行に配置され、第1の表面から大きい(例えば、最大)立体角(例えば、0.5ステラジアンより大きい範囲、0.5ステラジアン~2ステラジアンの範囲)で放出された(例えば、第1の表面の同じ照射部分からおよび/または第1の表面の異なる部分から少なくとも1つのX線検出器60によって受けた)蛍光X線を受ける。結果として、検出器140と試料130との間のこのようなより小さい距離から生じる検出されたXRF信号は、物理的干渉問題の緩和に起因して、従来のシステムよりも高い。
【0032】
特定の実施態様では、システム100は、(i)蛍光X線信号(例えば、試料130内のFeを示す)を効率的に生成するための試料130による集束X線ビーム124の効率的な吸収、および/または(ii)従来のシステムと比較して物理的干渉が低減されたために検出器140を試料表面の近くに配置することによる蛍光X線の検出立体角の増加(例えば、最大化)を提供するために、ニアグレージング入射角(例えば、3度)で試料130に入射する集束X線ビーム124(例えば、ペンシルビーム)を有利に利用する。
【0033】
特定の実施態様では、ニアグレージング入射角幾何学的配置は、入射X線の効率的な使用を有利に提供する。本明細書に記載の特定の実施態様では、入射角が小さい(例えば、θ=3度またはニアグレージング入射)場合の薄い試料切片内のX線ビーム経路長は、入射角が大きい(例えば、θ=90度または垂直入射)場合よりも20倍長くすることができる。例えば、厚さが40ミクロンの脳試料の場合、θ=3度の試料内のX線ビーム経路長は800ミクロンに等しい。8keV入射X線ビーム124の場合、水和脳組織におけるX線線形減衰長は約1200ミクロンである。したがって、3度の入射角を使用した薄い脳切片におけるFe蛍光X線の結果としての生成は、90度の入射角の場合よりも最大20倍大きく、45度の入射角の場合よりも最大14倍大きい。
【0034】
特定の実施態様では、ニアグレージング入射角幾何学的配置は、蛍光X線を検出するように構成された検出器(例えば、シリコンドリフト検出器またはSDD)の検出立体角の増加により、スループットの大幅な改善を有利に提供する。例えば、検出器を従来の構成(
図3A参照)から試料130の真上の位置(例えば、
図3Bを参照されたい)に移動させることによって、検出器140の中心検出素子(例えば、画素)と試料130における集束X線ビーム124との間の最小距離を3分の1に縮小することができ、その結果、(立体角は距離の逆二乗としてスケーリングするので)約9倍の蛍光収集の増加をもたらす。
【0035】
特定の実施態様では、試料130内の入射X線のビーム経路長の増加と検出器140の検出立体角の増加との組み合わせにより、スループットが約180倍増加する。さらに、ニアグレージング入射角幾何学的配置は、薄い試料中の蛍光X線の減衰が無視できるため、より正確な微量元素定量化(例えば、Fe)を有利に提供することができる。特定の実施態様では、従来のシステム(例えば、蛍光カウントに基づく)を使用して約24時間かかるであろうスキャンは、本明細書に記載の特定の実施態様を使用して、8分に有利に短縮することができる。特定の実施態様では、生物学的に重要な元素であるリンおよび硫黄などの低Z元素の定量化は、蛍光X線の短い経路長および低い吸収のために、別々にまたは鉄と共に、より良好に定量化することができる。この改善された定量化は、薄い試料切片だけでなく、厚いブロック試料にも適用される。
【0036】
データ取得
特定の実施態様では、例示的なシステム100の検出器システム140は、本明細書に記載の幾何構成(例えば、
図2および3Bに示すように)と共にデータ取得および画像再構成方法を使用するように構成される。この方法は、蛍光X線に利用され、平坦な試料の3D X線吸収撮像で使用されるコンピュータ断層撮影(CL:Computed Laminography)に類似しており、コンピュータ断層撮影(CT)に対する修正されたアプローチであり、典型的には円筒形の試料(例えば、岩石コア、人体など)により最適である。本明細書でより完全に説明するように、ニアグレージング入射角幾何学的配置(
図2および3Bを参照されたい)は、データ取得および画像再構成方法と組み合わせて、薄い試料切片に対して高いミクロンスケール3D分解能を提供することができる。
【0037】
特定の実施態様では、本方法は、入射X線ビームに対して試料を多重回転でスキャンするステップ(例えば、ラスタスキャン)と、蛍光X線を検出するステップとを含み、検出された蛍光X線に対応する得られたデータを分析(例えば、再構成)するステップをさらに含む。特定の実施態様では、本方法は、ニアグレージング入射角での入射X線ビームの延長に起因して何らかの方法で低減される散乱平面内の高い空間分解能を提供し、それによってニアグレージング入射角の分解能上の制約を分離する。
【0038】
図4Aおよび
図4Bは、本明細書に記載の特定の実施態様によって試料を分析するために蛍光X線を使用するための2つの例示的な方法200、300の2つのフロー図である。
図4Bの方法300は、
図4Aの方法200の特定の例であると考えることができる。
図4Cは、本明細書に記載の特定の実施態様による、2Dラスタスキャンを用いたデータ収集方式を利用する例示的な方法200、300の態様を概略的に示す。検出器140は、明確にするために
図4Cには示されていない。例示的な方法200は、本明細書に記載の特定の実施態様によるCL-XRFIシステムを使用して完全なデータセットを収集するために使用することができる。
【0039】
図4Aに示すように、動作ブロック210において、方法200は、試料130が入射X線ビーム124に対して第1の回転方向を有する間に、試料130を入射X線ビーム124で照射するステップを含む。入射X線ビーム124は、試料130の表面に対してニアグレージング入射角を有する。動作ブロック220において、方法200は、試料130が第1の回転方向を有する間に、入射X線ビーム124に応答して試料130によって生成された蛍光X線を収集するステップをさらに含む。動作ブロック230において、方法200は、試料130が入射X線ビーム124に対して第2の回転方向を有するように、表面に実質的に垂直な方向回りに試料130を回転させるステップをさらに含む。第2の回転方向は、第1の回転方向と、ある回転角度だけ異なる。動作ブロック240において、方法200は、試料130が第2の回転方向を有する間に、入射X線ビーム124で試料130を照射するステップをさらに含む。動作ブロック250において、方法200は、試料130が第2の回転方向を有する間に、入射X線ビーム124に応答して試料130によって生成された蛍光X線を収集するステップをさらに含む。
【0040】
特定の実施態様では、方法200は、試料130が入射X線ビーム124に対して複数の連続する回転方向を有するように、表面に実質的に垂直な方向回りに試料130を回転させるステップであって、連続する回転方向は回転角度だけ互いに異なる、ステップと、試料130が連続する回転方向の各々を有する間に、入射X線ビーム124で試料130を照射し、入射X線ビーム124に応答して試料130によって生成された蛍光X線を収集するステップとをさらに含む。特定のそのような実施態様では、連続する回転方向は、少なくとも3つの回転方向を備え、および/または連続する回転方向は、少なくとも90度(例えば、少なくとも180度)の試料130の合計回転を有する。
【0041】
特定の実施態様では、方法200は、試料130が入射X線ビーム124に対して複数の回転方向を有する間に、試料130の第1の位置からの蛍光X線を収集するために動作ブロック210~250を複数回実行するステップを含む。特定の実施態様の方法200は、第1の位置で動作ブロック210~250を複数回実行した後に、入射X線ビーム1245が試料130の第2の位置に衝突するように試料130を移動させる(例えば、横方向に)ステップと、入射X線ビーム124が第2の位置に衝突する間に動作ブロック210~250を再び複数回実行するステップとをさらに含むことができる。特定の実施態様では、試料130の移動は、試料130の表面に実質的に平行な平面内の二方向の、連続した一連のステップ(例えば、x-y平面内で試料130の二次元ラスタスキャンを実行するステップ)として実行することができる。
【0042】
図4Bに示すように、動作ブロック310において、方法300は、試料130が入射X線ビーム124に対して第1の回転方向を有する間に、第1の複数の位置で試料130を入射X線ビーム124で照射するステップを含む。
図4Cの上部パネルによって概略的に示すように、入射X線ビーム124は、試料130にニアグレージング入射角θ(例えば、試料130の表面に対してθ=3度)で衝突し、x方向に沿って伝播する。ニアグレージング入射角により、入射X線ビーム124は、x方向に沿って1/sin(θ)だけ細長い(例えば、拡大された)照射範囲(例えば、試料130における入射X線ビーム124の焦点に対応する)を有する試料130の領域を照射する(例えば、入射X線ビーム124によって照射される領域は、幅dおよび長さd/sin(θ)を有する)。
図4Cの左下部パネルによって概略的に示されるように、これらの細長い領域は、長手(例えば、長さ)がx方向に沿って整列した長方形によって示されている。入射X線ビーム124によって照射される領域の延長は、方向に沿ったスキャン点の数をsin(θ)だけ減らすことができる。
【0043】
特定の実施態様では、第1の複数の位置は、試料130が入射X線ビーム124に対して第1の回転方向にある間に、試料130の表面に実質的に平行な平面内で二方向に連続する一連のステップ(例えば、x-y平面内で試料130の二次元ラスタスキャンを実行するステップ)で試料130を(例えば、横方向に)移動させることによって、入射X線ビーム124によって照射される。このようにして、入射X線ビーム124が第1の複数の位置の各位置に衝突するように、試料130を移動させることができる。
【0044】
図4Cの上部パネルは、互いに対してn番目のスキャン位置(例えば、入射X線ビーム124が第1の複数の位置のうちのn番目の位置を照射するように)にあり、かつ、互いに対して(n+1)番目のスキャン位置(例えば、入射X線ビーム124が第1の複数の位置のうちの第(n+1)番目の位置を照射するように)にある入射X線ビーム124および試料130の側面図(例えば、y方向に沿った図)を概略的に示す。特定の実施態様では、x方向および/またはy方向のステップサイズは、(例えば、
図4Cの上部パネルに概略的に示すように)照射された細長い領域が互いに境界を接するように選択されるが、特定の他の実施態様では、x方向および/またはy方向のステップサイズは、照射された細長い領域が所定量だけ互いに重なるように選択される。
図4Cの左下部パネルは、試料130の(例えば、試料表面に垂直なz方向に沿った)上面図を概略的に示し、各矩形領域は、第1の複数の位置で入射X線ビーム124によって照射されている対応する細長い領域を表す。
【0045】
動作ブロック320において、方法300は、第1の複数の位置からの蛍光X線を検出するステップをさらに含み、蛍光X線は、第1の複数の位置での入射X線ビーム124による試料130の照射に応答して生成される。例えば、検出器140は、入射X線ビーム124に対する試料130の位置の関数としてFe蛍光X線を記録するように構成され得る。第1の複数の位置のうちの単一の位置からの検出された蛍光X線は、単一のデータ点に対応する。特定の実施態様では、蛍光X線は、
図3Bに概略的に示すように配置された検出器140によって検出される。
【0046】
動作ブロック330において、方法300は、動作ブロック310において第1の複数の位置で試料130を照射し、動作ブロック320において第1の複数の位置からの蛍光X線を検出した後、試料が入射X線ビーム124に対して第2の回転方向を有するように、試料130の表面に実質的に垂直な方向(例えば、約z方向)回りに試料130を回転させるステップであって、第2の回転方向は第1の回転方向と角度Δωだけ異なる、ステップをさらに含む。例えば、角度Δωは、入射X線ビーム124のビーム幅dと入射X線ビーム124のビーム長d/sin(θ)との比の半分にほぼ等しくすることができる(例えば、Δω=d/(2d/sin(θ))=sin(θ/2)である)。
【0047】
動作ブロック340において、方法300は、動作ブロック330において試料130を回転させた後に、試料130が入射X線ビーム124に対して第2の回転方向を有する間に、第2の複数の位置で試料130を入射X線ビーム124で照射するステップをさらに含む。特定の実施態様では、第2の複数の位置は第1の複数の位置と同じであるが、位置は、試料130が異なる回転角度にある間に入射X線ビーム124によって照射される。第2の複数の位置の各位置では、入射X線ビーム124は、照射範囲(例えば、試料130における入射X線ビーム124の焦点に対応する)を有する試料130の細長い領域を再び照射するが、領域はx’方向に沿って1/sin(θ)だけ細長い(例えば、拡大されている)。
図4Bの右下のパネルは、第1の複数の位置と、第2の回転方向を有するように回転されたx方向に沿って細長い領域とを有する試料130を概略的に示しているが、明確にするためにx’方向に沿って細長い領域を示していない。
【0048】
特定の実施態様では、第2の複数の位置は、試料130が入射X線ビーム124に対して第2の回転方向にある間に、試料130の表面に実質的に平行な平面内で二方向に連続する一連のステップ(例えば、x’-y’平面内で試料130の二次元ラスタスキャンを実行するステップ)で試料130を移動させることによって、入射X線ビーム124によって照射される。このようにして、入射X線ビーム124が第2の複数の位置の各位置に衝突するように、試料130を移動させることができる。特定の他の実施態様では、第2の複数の位置を照射するステップは、入射X線ビーム124を試料130に対して、検出器140の位置の対応する移動(例えば、試料130の照射部分に対する検出器140の相対位置を維持するために)を伴う一連のステップで移動させるステップを含む。
【0049】
動作ブロック350において、方法300は、第2の複数の位置からの蛍光X線を検出するステップをさらに含み、蛍光X線は、第2の複数の位置での入射X線ビーム124による試料130の照射に応答して生成される。例えば、検出器140は、入射X線ビーム124に対する試料130の位置の関数としてFe蛍光X線を記録するように構成され得る。第2の複数の位置のうちの単一の位置からの検出された蛍光X線は、単一のデータ点に対応する。特定の実施態様では、蛍光X線は、
図3Bに概略的に示すように配置された検出器140によって検出される。
【0050】
特定の実施態様では、Δω試料回転の総累積角度が180度(ラジアンでπ)に達するまで、動作ブロック340および350が繰り返される(例えば、2Dラスタスキャンデータ収集が繰り返される)。したがって、総回転数は、180°/Δω=2π/(sin(θ))に等しい。特定の実施態様では、蛍光X線信号は、試料130がスキャンされている間に連続的に収集される。特定の実施態様では、方法200および/または方法300は、従来の方法のポイントごとのデータ収集に関連するオーバーヘッドを回避することによってデータ収集効率を最適化するために使用される。
【0051】
特定の実施態様では、方法200および/または方法300は、試料130が第1の回転方向を有する間に収集された蛍光X線をエネルギー分解するステップと、試料130が第2の回転方向を有する間に収集された蛍光X線をエネルギー分解するステップとをさらに含む。特定の実施態様では、方法200および/または方法300は、試料130が連続する回転方向の各々を有する間に収集された蛍光X線をエネルギー分解するステップをさらに含む。特定の実施態様では、方法200および/または方法300は、第1の複数の位置が照射されている間に収集された蛍光X線をエネルギー分解するステップと、第2の複数の位置が照射されている間に収集された蛍光X線をエネルギー分解するステップとをさらに含む。
【0052】
特定の実施態様では、方法200および/または方法300は、試料130内の微量元素分布(例えば、Fe分布)の2次元画像を生成するために、収集された(例えば、動作ブロック220、250、320および350で収集された)蛍光X線データの再構成をさらに含む(例えば、セクション8.5.2を含む、Chris Jacobsenによる「X-Ray Microscopy」(2019年ケンブリッジ大学出版局)を参照されたい)。そのような再構成は、従来の吸収CT再構成における単一のスライスの画像再構成と同様の方法で実行することができる。例えば、
図5に概略的に示すように、(例えば、
図5の下側水平矢印によって示されるように)X線ビーム経路に沿った総蓄積蛍光X線信号は、X線ビーム経路に沿ったすべてのピクセルに等しく分布するものとして扱われる。この等価性により、SIRTアルゴリズムなどのCTのために開発された多くの画像再構成技術を、本明細書に記載の特定の実施態様で使用するために適合および最適化することができる。特定の実施態様では、入射したニアグレージング入射X線ビーム124に対する試料130の様々な回転方向で収集された蛍光X線データを使用する再構成は、ニアグレージング入射角およびそれに伴うスポットサイズの増加に起因して、ニアグレージング入射角から(例えば、1/sinθだけ)失われる空間(例えば、横方向の)分解能を回復するように構成される。例えば、再構成は、異なる回転角度のデータを組み合わせることによって信号生成スポットを三角測量することを備え、それによって空間分解能を改善することができる。
【0053】
図6A~
図6Cは、本明細書に記載の特定の実施態様と互換性がある様々な例示的なスキャンモードを概略的に示す。
図6Aは、本明細書に記載の特定の実施態様によるデータ取得の「段階的スキャン」モードの2つの例を概略的に示す。このスキャンモードでは、側面(例えば、試料表面に実質的に平行)における試料130の複数の段階的スキャンが実行され、試料130は各ラスタスキャン後に(例えば、試料表面に対して実質的に垂直な軸を中心に)回転される。特定のそのような実施態様では、蛍光X線データの良好な統計値を取得するために、各ステップが実行されている間にデータ取得が一時停止される(例えば、試料が静止している間にデータ取得が実行される)ステップ取得ステップスキャンを使用することができる。
図6Aに示すように、段階的スキャンはラスタスキャン(左パネル)とすることができ、または段階的スキャンは蛇行(右パネル)とすることができる。
【0054】
図6Bは、本明細書に記載の特定の実施態様によるデータ取得の「フライスキャン」モードの2つの例を概略的に示す。このスキャンモードでは、入射X線ビーム124に対して試料130を移動させながら、データが連続的に取得される(例えば、一時停止なし、広い視野で)。
図6Bに示すように、フライスキャンはラスタスキャン(左パネル)とすることができ、またはフライスキャンは蛇行(右パネル)とすることができる。
【0055】
図6Cは、本明細書に記載の特定の実施態様によるデータ取得の「横断および回転スキャン」モードの2つの例を概略的に示す。このスキャンモードは、高速であり、対象の試料130の小さな領域に対して小さな視野で使用することができ、光学顕微鏡は、粗位置合わせおよび対象の領域を見つけるために使用することができる。このスキャンモードでは、入射X線ビーム124は試料130を横断し、試料130は同時に回転して、連続的または織り交ぜられたステップのいずれかで小さなデータセットを取得する。
【0056】
XRF信号
特定の実施態様では、少なくとも1つの検出器140は、試料130によって放出された蛍光X線信号を検出するように構成され、蛍光X線信号の強度が推定され得る。例えば、検出されたFeの蛍光X線信号(Fi)は、以下によって近似的に表すことができる。
【0057】
【0058】
式中、Fは入射X線束であり、σは8keVでのFeの蛍光X線断面であり、Nは試料130(例えば、脳試料)の照射体積中のFe原子の数であり、Ωは少なくとも1つの検出器140のステラジアンでの立体角であり、ξは損失(例えば、試料130内での集束X線ビーム124の減衰、試料130内の生成点から検出器140までのFe蛍光X線の減衰、および検出器検出効率)を考慮に入れるパラメータである。このパラメータξは、試料130の低Z元素による蛍光X線のごくわずかな吸収に起因してこれらの損失が小さいため、また、FeのK線蛍光X線のSSD検出効率が100%に近いため、薄い脳切片のFeを撮像する場合は1と近似することができる。
【0059】
入射集束X線束Fは、X線源輝度B(例えば、試料130を照射する単位面積当たりおよび単位立体角当たりのX線の数)と、集束X線ビーム124の位相空間の二乗との積であり、これは、焦点サイズLとX線光学サブシステム120の開口数NAの2倍(収集立体角)との積に等しい。
【0060】
【0061】
ここで、0.5の係数は、反射されていないX線を除去するために2つの放物面ミラー122上に中央ビームストップを使用することによる損失を説明する。X線源110のB=1.3×1010/s/mrad2/mm2、L=30ミクロン、およびNA=14ミリラジアンの値を使用すると、入射集束X線束Fは2.8×109のX線/s/(30μm)2に等しい。
【0062】
試料130の照射体積中のFe原子の数Nは、約2ppmのFeの平均濃度(2*10-6)と集束X線ビーム124による照射体積中の原子の総数との積にほぼ等しく、これは1011*π*(L/2)2*t/sin(3o)にほぼ等しく、ここで1011はμm3当たりの原子の数である(例えば、各原子が10Å3の体積を占め、tがμmにおける試料130の厚さであると仮定する)。t=40ミクロンの場合、Fe原子の数Nは1.1×1011に等しいと推定することができる。上記のFおよびNの計算値、8keVでのFe蛍光断面のσ=7.39*10-21cm2、およびΩ=1.2(4πの10%)ステラジアンを使用して、エネルギー分散型検出器140によって検出されたFeの光線蛍光信号は、30μmの集束ビームサイズで1ppmのFe濃度を有する40ミクロン厚の脳組織試料130について、Fi=2.4×104/sであると推定することができる。
【0063】
5ミリ秒の取得時間で、約900 FeKa蛍光X線(Fi)を検出することができ、2.5%
【0064】
【0065】
の精度を与え、これはFeの定量化に十分である。取得点あたり5msを使用すると、総収集時間は、各回転の取得点の総数と、回転数と、取得時間との積であると推定することができ、250*13*125*5ms=2.0×103秒、すなわち0.56時間(33.6分)となる。
【0066】
特定の実施態様では、システム100は、90度の入射角と比較して、3度の入射角で180倍のXRFデータ収集速度(例えば、信号レート)利得の75%超を有利に提供する。例えば、従来のシステムは、シリコンウェハ上のCo膜の単原子層を30μmの焦点で測定することができ、測定精度は250秒で1.4%より良好であり、毎秒約30個のCo蛍光X線を収集する。本明細書に記載の特定の実施態様では、例示的なシステム100は、入射角を90度から3度に変更することによって、180倍から5.4*103/sに増加するCo蛍光計数率を達成することができる。Co蛍光計数率は、本明細書に記載の特定の実施態様による例示的なシステム100で達成される推定Fe蛍光計数よりも2倍だけ低いことに留意されたい。
【0067】
図7は、本明細書に記載の特定の実施態様による、約2ppmの相対濃度の微量元素を含む脳組織の40μm切片をシミュレートする例示的なモデル試料400(例えば、ファントム)の側面図および上面図を概略的に示す。例示的なモデル試料400のパターンニングされた領域の直径は、1.5センチメートルである。モデル試料400は、約10mmの開口直径を有するプラスチックワッシャ上に張られた厚さ40μmのポリイミド上に厚さ20μmのポリイミドを介して約1原子厚のFeを堆積させることによって製造され得る。パターニングされたFe層は、2つのポリイミド層の間に挟まれ得る。確立された厚さ較正手順を有するスパッタリングシステムを使用してFe層を堆積させることができる。2つのポリイミド層中のFeの相対濃度は、約4ppm(約1.5Å/40μm)にほぼ等しくすることができる。モデル試料400は、XRF速度利得を実証するために、2つの入射角(例えば、3度および90度)でモデル試料400からのFe XRF信号を測定および収集するために使用され得る。
【0068】
「can」、「could」、「might」、または「may」などの条件付き言語は、特に明記しない限り、または使用される文脈内で他の意味で理解されない限り、一般に、特定の実施態様は特定の特徴、要素、および/またはステップを含むが、他の実施態様は含まないことを伝えることを意図している。したがって、そのような条件付き言語は、一般に、特徴、要素、および/またはステップが1つまたは複数の実装に何らかの形で必要とされることを意味するようには意図されていない。
【0069】
句「X、YおよびZのうちの少なくとも1つ」などの接続語は、特に明記しない限り、アイテム、用語などがX、Y、またはZのいずれかであり得ることを伝えるために一般に使用される文脈内で理解されるべきである。したがって、そのような接続語は、一般に、特定の実施態様がXのうちの少なくとも1つ、Yのうちの少なくとも1つ、およびZのうちの少なくとも1つの存在を必要とすることを意味するようには意図されていない。
【0070】
用語「およそ」、「約」、「一般に」、および「実質的に」などの本明細書で使用される程度の言語は、依然として所望の機能を実行するか、または所望の結果を達成する、記載された値、量、または特性に近い値、量、または特性を表す。例えば、「およそ」、「約」、「一般に」、および「実質的に」という用語は、記載された量の±10%以内、±5%以内、±2%以内、±1%以内、または±0.1%以内の量を指し得る。別の例として、「ほぼ平行」および「実質的に平行」という用語は、正確に平行から±10度、±5度、±2度、±1度、または±0.1度逸脱する値、量、または特性を指し、「ほぼ垂直」および「実質的に垂直」という用語は、正確に垂直から±10度、±5度、±2度、±1度、または±0.1度逸脱する値、量、または特性を指す。
【0071】
以上、種々の構成について説明した。本発明をこれらの特定の構成を参照して説明してきたが、説明は本発明を例示することを意図しており、限定することを意図していない。本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、当業者には様々な修正および応用が思い浮かぶであろう。したがって、例えば、本明細書に開示された任意の方法またはプロセスにおいて、方法/プロセスを構成する行為または動作は、任意の適切な順序で実行されてもよく、必ずしも任意の特定の開示された順序に限定されない。上述した様々な実施態様および例からの特徴または要素を互いに組み合わせて、本明細書に開示された実施態様と互換性のある代替構成を生成することができる。実施態様の様々な態様および利点が、必要に応じて記載されている。そのような態様または利点のすべてが、任意の特定の実施態様に従って必ずしも達成されるとは限らないことを理解されたい。したがって、例えば、様々な実施態様は、本明細書で教示または示唆され得るような他の態様または利点を必ずしも達成することなく、本明細書で教示されるような1つの利点または利点群を達成または最適化するように実行され得ることが認識されるべきである。