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特許7182750ベタイン基含有有機ケイ素化合物およびその成形物と製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】ベタイン基含有有機ケイ素化合物およびその成形物と製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/18 20060101AFI20221125BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
C07F7/18 Q
C07F7/18 L
C09K3/18 104
C07F7/18 U
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022518919
(86)(22)【出願日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2022001444
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/007482
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231497
【氏名又は名称】日本精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 寿夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 朋香
(72)【発明者】
【氏名】松野 剛
(72)【発明者】
【氏名】上野 敏哉
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-514875(JP,A)
【文献】国際公開第2016/167097(WO,A1)
【文献】特開2009-235130(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0048283(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0010489(US,A1)
【文献】国際公開第2018/230514(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第113512058(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0239768(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0239768(US,A1)
【文献】CHAKRABARTY, T. et al.,(3-glycidoxypropyl) Trimethoxy silane induced switchable zwitterionic membrane with high protein capture and separation properties,Journal of Membrane Science,2013年,Vol. 444,pp. 77-86
【文献】HUANG, C. J. et al.,Controlled Silanization Using Functional Silatrane for Thin and Homogeneous Antifouling Coatings,Langmuir,2018年,Vol. 35,pp. 1662-1671
【文献】REGISTRY(STN)[online],2016年09月21日,retrieved on 22 Feb 2022,CAS登録番号:1997324-97-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/18
C09K 3/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(11):
【化1】
式中、R、R10、R11、R12およびR13は、独立して、C~Cアルキル基であり、pおよびqは、独立して、1~4のいずれかの整数であり、rは、2または3の整数であり、ここに、複数のp、qおよびR12は、それぞれ、異なっていてもよく、Aは-SO または-COOである)で表される、(ポリ)ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物(A)およびその加水分解物である、ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物およびその加水分解物。
【請求項2】
以下の化合物1および2のいずれかである請求項1に記載のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物およびその加水分解物。
【化2】
【請求項3】
以下の化合物12である、請求項2に記載のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物の加水分解物。
【化3】
【請求項4】
請求項1または2に記載のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物およびその加水分解物を含有する防曇性コーティング組成物。
【請求項5】
前記加水分解物の縮合体を更に含む、請求項4に記載の防曇性コーティング組成物。
【請求項6】
さらに、炭素数1~3のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシラン、および前記テトラアルコキシシランの溶媒分散オルガノシリカゾルからなる群から選択されるテトラアルコキシシラン系化合物を含有する、請求項4に記載の防曇性コーティング組成物。
【請求項7】
基材および前記基材の表面上に形成された防曇性コーティング膜を含み、前記防曇性コーティング膜が、請求項4~6のいずれかに記載の防曇性コーティング組成物を含む第1の膜を有する、防曇処理基材。
【請求項8】
前記第1の膜に含まれる、ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物のアルコキシシラン基もしくはシラトラニル基の一部もしくは全部加水分解物、もしくは前記一部もしくは全部加水分解物の縮合体;前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマー;または、前記ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物のアルコキシシラン基もしくはシラトラニル基の一部もしくは全部加水分解物と、前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーとの縮合体と、基材表面上のシラノール基との縮合によって、前記第1の膜が基材表面に直接結合している、請求項7に記載の防曇処理基材。
【請求項9】
さらに、炭素数1~3のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランまたは前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーを含む第2の膜を有し、前記第1の膜に含まれる、ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物のアルコキシシラン基もしくはシラトラニル基の一部もしくは全部加水分解物、もしくは前記一部もしくは全部加水分解物の縮合体;前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマー;または、前記ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物のアルコキシシラン基もしくはシラトラニル基の一部もしくは全部加水分解物と、前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーとの縮合体と、前記第2の膜に含まれる前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーとの縮合によって、前記第1の膜と前記第2の膜とが結合し、前記第2の膜に含まれる、前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーと、基材表面上のシラノール基との縮合によって、前記第2の膜が基材表面に直接結合している、請求項7に記載の防曇処理基材。
【請求項10】
基材および前記基材の表面上に形成された防曇性コーティング膜を含む防曇処理基材の製造方法であって、
前記基材表面に、請求項4~6のいずれかに記載の防曇性コーティング組成物を付着させて、第1の膜を形成する工程
を含む、製造方法。
【請求項11】
前記第1の膜を形成する工程において、前記第1の膜に含まれる、ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物のアルコキシシラン基もしくはシラトラニル基の一部もしくは全部加水分解物、もしくは前記一部もしくは全部加水分解物の縮合体;前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマー;または、前記ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物のアルコキシシラン基もしくはシラトラニル基の一部もしくは全部加水分解物と、前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーとの縮合体と、基材表面上のシラノール基との縮合によって、前記第1の膜を基材表面に直接結合させる、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記第1の膜を形成する工程の前に、前記基材の表面上に、炭素数1~3のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランまたは前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーを含む組成物を付着させて第2の膜を形成する工程を含み、
前記第2の膜を形成する工程において、前記第2の膜に含まれるテトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーと、基材表面上のシラノール基との縮合によって、前記第2の膜を基材表面に直接結合させ、
前記第1の膜を形成する工程において、前記第1の膜に含まれる、ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物のアルコキシシラン基もしくはシラトラニル基の一部もしくは全部加水分解物、もしくは前記一部もしくは全部加水分解物の縮合体;前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマー;または、前記ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物のアルコキシシラン基もしくはシラトラニル基の一部もしくは全部加水分解物と、前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーとの縮合体と、前記第2の膜に含まれる前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーとの縮合によって、前記第1の膜と前記第2の膜とを結合させる、請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベタイン構造を有する有機ケイ素化合物、およびその成形物と製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベタイン化合物は、同一分子内の互いに隣り合わない位置に正電荷部位と負電荷部位とを有する両イオン性化合物であって、分子全体としては電気的に中性な化合物である。正電荷部位としては、4級アミン、スルホニウム、ホスホニウムなどが挙げられ、負電荷部位としては、カルボキシル基、スルホ基などが挙げられる。
例えば、特許文献1には、正電荷部位として4級アミンと、負電荷部位としてカルボキシル基とを有するカルボベタイン系ケイ素化合物が開示され、特許文献2には、正電荷部位として4級アミンと、負電荷部位としてスルホ基とを有するスルホベタイン系ケイ素化合物が開示されている。
【0003】
これらのようなベタイン構造を有する化合物は、高い親水性を示し、両性界面活性剤の機能を有し、例えば、シャンプー、ボディソープ、台所洗剤などにも使用されている。また、加水分解可能な官能基をもつ有機ケイ素化合物は、ガラス製や樹脂製などの基材表面に適用するコーティング組成物に使用されている。よって、ベタイン構造を有する有機ケイ素化合物は、コーティング組成物の親水性を制御することができるので、様々な基材表面に高い機能を付与することが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/167097号
【文献】特開2018-62500号公報
【文献】特開平7-101965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2に開示されるベタイン系ケイ素化合物は、基材表面に親水性、帯電防止性、防汚性、生体適合性などを付与することができるが、防曇性が不十分であった。また、これらケイ素化合物は潮解性・加水分解性を有するため、より高性能が期待できる親水性基を有するケイ素化合物を合成・単離することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、基材への結合機能および防曇付与機能が向上したベタイン系有機ケイ素化合物について鋭意検討し、ガラス製や樹脂製などの基材に対する結合機能を発揮するトリアルコキシルシリル基、および、基材表面に親水性、帯電防止性、防汚性、生体適合性に加えて、特に、防曇性の付与機能を発揮するベタイン構造の双方を特定のスペーサーで結合されたベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物およびその加水分解物の合成に成功した。
本発明のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物およびその加水分解物は、3級アミンを有するトリアルコキシシランと、ハロゲン化アルキルスルホン酸塩および環状スルトン化合物、またはハロゲン化アルキルカルボン酸塩などのカルボキシル基前駆体を有する求電子剤とを、アセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、2-プロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、水などの溶媒中で合成することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物は、従来よりも基材への結合特性および防曇付与特性が高く、かつ、ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物を固体形態で得ることができる。また、本発明のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物の加水分解物は、基材への結合特性および防曇付与特性が、特に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、第1の局面において、式(1):
【0009】
【化1】
{式中、R、RおよびRは、独立して、C~Cアルキル基であるか、または、それらが各々結合する-O-Si-と一緒になって、式(2):
【0010】
【化2】
で表されるシラトラニル基を形成し、
(A)
Xは、式(3):
【0011】
【化3】
(式中、aは2~18のいずれかの整数を示す。)で表されるアルキレン基であるか、または、式(4):
【0012】
【化4】
(式中、bおよびcは、独立して、2~4のいずれかの整数を示す。)で表されるカルバマートアルキレン基であるか、または、式(5):
【0013】
【化5】
(式中、bおよびcは、独立して、2~4のいずれかの整数を示す。)で表されるウレア含有アルキレン基であるか、または、式(6):
【0014】
【化6】
(式中、dは1~10のいずれかの整数を示し、eは2~4のいずれかの整数を示す。)で表されるポリエチレンオキシアルキレン基であるか、または、式(7):
【0015】
【化7】
(式中、fおよびgは、独立して、2~4のいずれかの整数を示し、Yは、-NH-、-O-または-S-であり、Zは、
【0016】
【化8】

からなる群から選択されるいずれかの基である。)で表される置換基であって、
およびRは、独立して、C~Cアルキル基または式(8):
【0017】
【化9】
(式中、RおよびRは、独立して、C~Cアルキル基であり、hおよびiは、独立して、1~4のいずれかの整数であり、jは1~3のいずれかの整数であり、ここに、複数のh、iおよびRは、それぞれ、異なっていてもよく、Aは-SO または-COOである)で表される(ポリ)ベタイン基、
は、C~Cスルホアルキル基またはC~Cカルボキシルアルキル基であり、
ただし、RおよびRが同時にC~Cアルキル基である場合を除く。;または、
(B)
X、R、Rおよびそれらが結合する第4級化窒素原子は、一緒になって、式(9):
【0018】
【化10】
(式中、kは2~4のいずれかの整数である。)で表されるイミダゾリニウム基含有基であり、
は、C~Cスルホアルキル基またはC~Cカルボキシルアルキル基である。;または、
(C)
Xは、式(10):
【0019】
【化11】
(式中、mおよびnは、独立して、1~4のいずれかの整数である。)で表されるフェノキシ基含有基であり、RおよびRは、独立して、C~Cアルキル基または式(8)で表される(ポリ)ベタイン基であり、Rは、C~Cスルホアルキル基またはC~Cカルボキシルアルキル基である。}で表されるベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物およびその加水分解物を提供する。
なお、「(ポリ)ベタイン基」なる用語は、ベタイン基およびポリベタイン基の双方を包含し、「ポリベタイン基」とは、複数のベタイン部分を有する基をいう。本発明において、ベタイン基は、スルホベタイン基であっても、カルボベタイン基であってもよい。
【0020】
本発明において、式(1)で表されるベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物およびその加水分解物は、
式(11):
【0021】
【化12】
もしくは式(12):
【0022】
【化13】
(式中、R、R10、R11、R12およびR13は、独立して、C~Cアルキル基であり、pおよびqは、独立して、1~4のいずれかの整数であり、rは、2または3の整数であり、rは、1~3のいずれかの整数であり、ここに、複数のp、qおよびR12は、それぞれ、異なっていてもよく、Aは-SO または-COOである)で表される、(ポリ)ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物(A)およびその加水分解物;または
式(13):
【0023】
【化14】
(式中、sおよびtは、独立して、1~4のいずれかの整数であり、Aは-SO または-COOである)で表される、イミダゾリニウム系ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物(B)およびその加水分解物;または
式(14):
【0024】
【化15】
(式中、R14およびR15は、独立して、C~Cアルキル基であり、uおよびvは、独立して、1~4のいずれかの整数であり、wは1~4のいずれかの整数であり、Aは-SO または-COOである)で表される、フェノキシ系ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物(C)およびその加水分解物である。
【0025】
式(1)で表されるベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物およびその加水分解物として、具体的には、以下の化合物1~11およびその加水分解物が挙げられる。
【0026】
【化16】
【0027】
式(1)で表されるベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物の加水分解物として、具体的には、以下の化合物12および13が挙げられる。
【0028】
【化17】
【0029】
化合物1~5および9~13は、それぞれ、式(11)または式(12)で表される(ポリ)ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物(A)およびその加水分解物の群に属し、化合物6および7およびその加水分解物は、それぞれ、式(13)で表されるイミダゾリニウム系ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物(B)およびその加水分解物の群に属し、化合物8およびその加水分解物は、式(14)で表されるフェノキシ系ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物(C)およびその加水分解物の群に属する。
【0030】
本発明は、第2の局面において、式(1)で表されるベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物およびその加水分解物を得るための製造方法を提供する。
【0031】
本発明において、式(1)で表されるベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物およびその加水分解物の製造方法は限定されないが、代表的な製造方法を説明する。
本発明において、式(1)で表されるベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物を、式(15):
【0032】
【化18】
(式中、R~RおよびXは、式(1)~式(10)における定義と同一であり、Eはスルホ基前駆体またはカルボキシル基前駆体を有する求電子剤である。)で表される反応式に従うスルホベタイン化反応またはカルボベタイン化反応によって合成することができる。
【0033】
3級アミンを有するトリアルコキシシランは市販品であってよく、または、市販品を原料として用いる公知の方法によって合成してもよい。
ここで用いるスルホ基前駆体またはカルボキシル基前駆体を有する求電子剤(E)とは、ハロゲン化アルキルスルホン酸塩および環状スルトン化合物、およびハロゲン化アルキルカルボン酸塩が挙げられる。より好ましくは1,3-プロパンスルトンおよび1,4-ブタンスルトン、およびクロロ酢酸ナトリウムである。
【0034】
3級アミンを有するトリアルコキシシランとスルホ基前駆体またはカルボキシル基前駆体を有する求電子剤(E)とのスルホベタイン化反応またはカルボベタイン化反応では、求電子剤を3級アミンに対して1から2当量を用い、これらの混合物を不活性な溶媒中、冷却下から加熱下、好ましくは室温から溶媒還流温度の間で、通常1時間から1週間撹拌する。
前記スルホベタイン化反応またはカルボベタイン化反応において、反応物質を十分に溶解する溶媒を用いることができ、アセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、2-プロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミドおよび水等からなる群から選択される反応溶媒中で実施できる。本発明においては、アセトン、アセトニトリル、およびジメチルホルムアミドが好ましく、スルホベタイン化反応またはカルボベタイン化反応における収率を向上させる観点で、アセトニトリルまたはジメチルホルムアミドがより好ましい。
【0035】
精製はカラムクロマトグラフィー、イオン交換樹脂による塩交換、逆相分取、蒸留、再結晶法等公知の方法が挙げられる。より好ましくは適切な有機溶媒中からの結晶法による精製が挙げられる。
【0036】
本発明のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物およびその加水分解物が有するベタイン基は、ガラス製や樹脂製などの基材表面に親水性、帯電防止性、防汚性、生体適合性を付与すると共に、微細な結露水滴を水膜化することにより光の散乱を低減して防曇作用を付与する作用機序を有する。本発明のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物およびその加水分解物は公知の化合物よりも親水性・防曇性の向上が期待できる。
【0037】
本発明のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物およびその加水分解物は、基材表面を高性能な防曇性表面とする目的のために、基材表面との結合点増加や親水性表面を形成できるケイ素含有化合物を併用することができる。ここで挙げるケイ素含有化合物とは、テトラアルコキシシラン系化合物を意味し、具体的には、炭素数1~3のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランならびに前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーまたは溶媒分散オルガノシリカゾルなどが挙げられる。好ましくは、炭素数1~3のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシラン、および前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーである。より好ましくは、テトラエトキシシラン、前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーであるメチルシリケートオリゴマーが挙げられる。
【0038】
したがって、本発明は、第3の局面において、本発明のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物およびその加水分解物を含有する防曇性コーティング組成物を提供する。
【0039】
本発明のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物が有するアルコキシシラン基はコーティング組成物中または基材表面に存在する水分子により容易に一部または全部加水分解を受けて、シラノール基を有する加水分解物を生成し、続く基材表面に存在する酸素官能基との脱水縮合により共有結合を形成し、基材に結合する。また、シラトラニル基はアルコキシシラン基の一形態であり、適切な酸または塩基の存在下、適切な温度条件下のコーティング組成物中で一部または全部加水分解して、シラノール基を有する加水分解物を生成し、続く基材表面に存在する酸素官能基との脱水縮合により共有結合を形成する。シラトラニル基以外のアルコキシシラン基について、シラトラニル基と同様、酸または塩基を含む溶液中で積極的に加水分解させることもできる。かかる場合、シラノール基による水素結合の数が増加することとなるので、基材表面との親和性が向上し、ベタイン基含有有機ケイ素化合物の基材表面単位面積当たりの結合数を増加させることができる。
なお、コーティング組成物中、前記シラノール基を有する加水分解物は、単体または2以上の縮合体とし存在する。単体のみならず、これらの縮合体も、基材表面に存在する酸素官能基との脱水縮合により共有結合を形成し、基材に結合する。
【0040】
本発明の防曇性コーティング組成物は、さらに、炭素数1~3のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシラン、および前記テトラアルコキシシランの溶媒分散オルガノシリカゾルからなる群から選択されるテトラアルコキシシラン系化合物を含有することができる。
前記テトラアルコキシシランはコーティング組成物中または基材表面に存在する水分子により容易に一部または全部加水分解を受けて、シラノール基を有する加水分解物を生成する。さらに、2個以上、例えば、2~6個の加水分解物が縮合して、シラノール基を有する加水分解オリゴマーを生成し、続く基材表面に存在する酸素官能基との脱水縮合により共有結合を形成し、基材に結合する。
なお、コーティング組成物中、前記ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物の加水分解物または加水分解物の縮合体と、前記テトラアルコキシシランの加水分解物または加水分解オリゴマーとは縮合体を形成し、これらの縮合体も、基材表面に存在する酸素官能基との脱水縮合により共有結合を形成し、基材に結合する。
【0041】
本発明のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物およびその加水分解物を基材表面と反応させて共有結合を形成するときに用いる溶媒は、本発明のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物およびその加水分解物を十分に溶解する溶媒を用いることができ、例えば、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、2-プロパノール、テトラヒドロフラン、PGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)、水等およびそれらの混合物が挙げられる。好ましくは、メタノール/水混合液、エタノール/水混合液、2-プロパノール/水混合液、PGME/水混合液が挙げられる。これら混合液の比率は任意に設定できる。
【0042】
前記したいずれかの溶媒に本発明のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物およびその加水分解物を溶解して、ガラス製や樹脂製などの基材表面に親水性、帯電防止性、防汚性、生体適合性または防曇性を付与することができるコーティング組成物を調製する。前記コーティング組成物中の本発明のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物およびその加水分解物の濃度は、0.1~1000 mmol/Lの濃度で任意に設定することができ、好ましくは1~100 mmol/Lの濃度であり、より好ましくは、5 mmol/Lである。
アルコキシシランの加水分解を促進するために、酸触媒または塩基触媒をコーティング組成物に添加することができる。酸触媒としては有機カルボン酸、有機スルホン酸、塩化水素、硫酸、硝酸、リン酸等が挙げられ、好ましくは、酢酸が挙げられる。塩基触媒としてはアンモニア水溶液、有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、好ましくは、トリエチルアミン水溶液、トリエタノールアミン水溶液、アンモニア水溶液が挙げられる。
本発明のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物が有するアルコキシシラン基またはシラトラニル基は、コーティング組成物または基材上に存在する水分子により一部または全部加水分解して、シラノール基を生成する。生成したシラノール基と、基材表面に存在する酸素官能基との脱水縮合による共有結合の形成は、浸漬、スプレーコート、フローコート、スピンコート、蒸着等の方法が挙げられ、好ましくは、浸漬での反応を0℃から80℃の温度で行う。上記操作に加えて、0℃から130℃の温度で1分間から1日間乾燥することで反応を促進することができる。
【0043】
本発明の防曇性コーティング組成物を用いて防曇処理を行う対象とする基材として、表面上にシラノール基が存在するものが適しており、例えば、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、硼珪酸ガラスのようなガラス製の基材が挙げられる。事前にシラノール基との反応性を向上させる公知の方法で化学的処理、物理的処理または電気化学的処理された基材でもよい。さらに、ガラス以外の素材でも、シラノール基との反応性を向上させる公知の方法で化学的処理、物理的処理または電気化学的処理された基材でもよい。そのような材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリスチレン、ABS、ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアセタールのような合成樹脂が挙げられる。
【0044】
本発明は、第4の局面において、本発明の防曇性コーティング組成物を含む第1の膜を有する防曇性コーティング膜を提供する。
本発明は、第1の膜に加えて、さらに、炭素数1~3のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランまたは前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーを含む第2の膜を有する防曇性コーティング膜を提供する。このように第1の膜および第2の膜を含む防曇性コーティング膜においては、前記第1の膜に含まれる、ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物のアルコキシシラン基もしくはシラトラニル基の一部もしくは全部加水分解物、もしくは前記一部もしくは全部加水分解物の縮合体;前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマー;または、前記ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物のアルコキシシラン基もしくはシラトラニル基の一部もしくは全部加水分解物と、前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーとの縮合体と、前記第2の膜に含まれる前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーとの縮合によって、前記第1の膜と前記第2の膜とが結合している。
【0045】
本発明は、第5の局面において、基材および前記基材の表面上に形成された防曇性コーティング膜を含み、前記防曇性コーティング膜が、本発明の防曇性コーティング組成物を含む第1の膜を有する、防曇処理基材を提供する。
【0046】
本発明の防曇処理基材において、前記第1の膜に含まれる、ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物のアルコキシシラン基もしくはシラトラニル基の一部もしくは全部加水分解物、もしくは前記一部もしくは全部加水分解物の縮合体;前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマー;または、前記ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物のアルコキシシラン基もしくはシラトラニル基の一部もしくは全部加水分解物と、前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーとの縮合体と、基材表面上のシラノール基との縮合によって、前記第1の膜が基材表面に直接結合している。
【0047】
また、本発明の防曇処理基材において、別の態様では、さらに、炭素数1~3のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランまたは前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーを含む第2の膜を有し、前記第1の膜に含まれる、ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物のアルコキシシラン基もしくはシラトラニル基の一部もしくは全部加水分解物、もしくは前記一部もしくは全部加水分解物の縮合体;前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマー;または、前記ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物のアルコキシシラン基もしくはシラトラニル基の一部もしくは全部加水分解物と、前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーとの縮合体と、前記第2の膜に含まれる前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーとの縮合によって、前記第1の膜と前記第2の膜とが結合し、前記第2の膜に含まれる、前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーと、基材表面上のシラノール基との縮合によって、前記第2の膜が基材表面に直接結合している。
【0048】
本発明は、第6の局面において、基材および前記基材の表面上に形成された防曇性コーティング膜を含む防曇処理基材の製造方法であって、前記基材表面に、本発明の防曇性コーティング組成物を付着させて、第1の膜を形成する工程を含む、製造方法を提供する。
【0049】
本発明の防曇処理基材の製造方法において、前記第1の膜を形成する工程において、前記第1の膜に含まれる、ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物のアルコキシシラン基もしくはシラトラニル基の一部もしくは全部加水分解物、もしくは前記一部もしくは全部加水分解物の縮合体;前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマー;または、前記ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物のアルコキシシラン基もしくはシラトラニル基の一部もしくは全部加水分解物と、前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーとの縮合体と、基材表面上のシラノール基との縮合によって、前記第1の膜を基材表面に直接結合させる。
【0050】
また、本発明の防曇処理基材の製造方法において、別の態様では、前記第1の膜を形成する工程の前に、前記基材の表面上に、炭素数1~3のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランまたは前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーを含む組成物を付着させて第2の膜を形成する工程を含み、前記第2の膜を形成する工程において、前記第2の膜に含まれるテトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーと、基材表面上のシラノール基との縮合によって、前記第2の膜を基材表面に直接結合させ、前記第1の膜を形成する工程において、前記第1の膜に含まれる、ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物のアルコキシシラン基もしくはシラトラニル基の一部もしくは全部加水分解物、もしくは前記一部もしくは全部加水分解物の縮合体;前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマー;または、前記ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物のアルコキシシラン基もしくはシラトラニル基の一部もしくは全部加水分解物と、前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーとの縮合体と、前記第2の膜に含まれる前記テトラアルコキシシランの部分加水分解オリゴマーとの縮合によって、前記第1の膜と前記第2の膜とを結合させる。
【0051】
本発明のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物を基材に付着させることによって、基材表面を防曇性表面にすることができる。
本発明のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物は、防曇性コーティング組成物中または基材表面に存在する水分子により、一部または全部加水分解を受けてシラノール基を有する加水分解物を形成し、このシラノール基が、例えば、ガラス製や樹脂製などの基材の表面に存在する酸素官能基との脱水縮合により共有結合する。
本発明のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物を用いて、基材表面の防曇性を向上させるためには、基材表面の単位面積あたりに結合する前記ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物の個数を増大させることが必要である。前記ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物が結合する個数を増大させるためには、基材表面に存在するシラノール基の個数、すなわち、結合点の数を増大させることが考えられる。
【0052】
本発明者らは、基材表面上にテトラアルコキシシランを予め塗布すると、本発明のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物を用いて、防曇性が向上することを確認した。これは、テトラアルコキシシランが周囲に存在する水分子などにより容易に一部または全部加水分解を受けて、次に、2個以上、例えば、2~6個の加水分解物が縮合して、シラノール基を有する加水分解オリゴマーを生成することによって結合点の数が増大したことが理由であると推測した。このとき、基材表面に二次元的に結合点の数を増やすのみならず、オリゴマーの立体構造から、基材から垂直方向に三次元的にも結合点の数を増やすことができると考えられる。
基材表面の結合点を二次元的に増大させるだけでは、本発明のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物同士の立体障害などの影響により、基材表面の単位面積あたりにその化合物が結合する個数に制限があるが、テトラアルコキシシランを導入すれば、三次元的に結合点を増大させることができ、その結果、基材表面の単位面積あたりに結合する本発明のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物の個数を大きく増大することができた。
【0053】
さらに、驚くべきことに、ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物と、テトラアルコキシシランとが共存する防曇性コーティング組成物を用いれば、予め、基材表面にテトラアルコキシシランを適用することなく、表面の親水性を維持したまま、防曇性および防汚性が向上できることを実証した。特に、防曇性を大きく向上することができた。
【0054】
このように、本発明において、ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物と、テトラアルコキシシランとを併用する場合、まず、テトラアルコキシシランの薄膜を基材表面に形成し、その上に、ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物を含有する防曇性コーティング組成物を塗布する段階的方法;および、ベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物と共にテトラアルコキシシランを含有する防曇性コーティング組成物を基材表面に塗布する一括的方法が挙げられる。
【実施例
【0055】
以下の合成スキームに従って、本発明のベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物1~12を合成した。
なお、合成例において、1H-NMRは、各重水素化溶媒中、測定周波数300 MHzで測定し、13C-NMRは、各重水素化溶媒中、測定周波数75 MHzで測定し、ケミカルシフトδ値(ppm)を示した。また、質量分析は、エレクトロスプレーイオン化質量分析装置(ESI-MS)で測定し、主分子(M)にプロトンが付加した正イオン[M+H]+またはナトリウムが付加した正イオン[M+Na]+の検出値を示した。
【0056】
<合成例1>
11,11-ジメトキシ-4,4,7-トリメチル-7-(3-スルホナトプロピル)-12-オキサ-4,7-ジアザ-11-シラトリデカン-4,7-ジイウム-1-スルホナートの合成
以下のスキームに従って、スルホベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物1を合成した。
【0057】
【化19】
【0058】
アミノ化反応:
(3-ブロモプロピル)トリメトキシシラン (93.2 g)、N,N,N’-トリメチルエチレンジアミン (39.6 g)、テトラヒドロフラン (120 ml)の混合物を室温で2日間撹拌した。反応混合物を70℃で2日間撹拌した。室温まで放冷後、5 mol/L ナトリウムメトキシド-メタノール溶液 (73.7 g) を加え30分間撹拌した。不溶物を濾別し濾液を減圧下濃縮した。残渣を減圧下蒸留精製 (0.2 mmHg, 68 - 74℃)することにより、N,N,N’-トリメチル-N’-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エタン-1,2-ジアミン (34.2 g)を無色油状物として得た。
1H-NMR(CDCl3): δ = 0.19-0.36 (2H, m), 1.16-2.53 (2H, m), 1.91 (9H, s), 1.97-2.21 (6H, m), 3.23 (9H, m).
【0059】
スルホベタイン化反応:
N,N,N’-トリメチル-N’-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エタン-1,2-ジアミン (10.9 g)、1,3-プロパンスルトン (15.1 g)、アセトニトリル (100 ml)の混合物を室温で1.5時間撹拌した。反応混合物を加熱還流下で2日間撹拌した。室温まで放冷後、不溶物を濾取しアセトニトリルおよびアセトンで洗浄した。得られた固体を減圧下乾燥することにより、11,11-ジメトキシ-4,4,7-トリメチル-7-(3-スルホナトプロピル)-12-オキサ-4,7-ジアザ-11-シラトリデカン-4,7-ジイウム-1-スルホナート(化合物1) (18.6 g)を無色固体として得た。
1H-NMR(D2O): δ = 0.56-0.89 (2H, m), 1.74-2.02 (2H, m), 2.11-2.40 (4H, m), 2.85-3.11 (4H, m), 3.11-3.77 (25H, m), 3.37 (3H, s).
MASS: ESI-MS [M+H]+ 509.
【0060】
<合成例2>
11,11-ジエトキシ-4,4,7-トリメチル-7-(3-スルホナトプロピル)-12-オキサ-4,7-ジアザ-11-シラテトラデカン-4,7-ジイウム-1-スルホナートの合成
以下のスキームに従って、アミノ化反応において(3-ブロモプロピル)トリメトキシシランを(3-ブロモプロピル)トリエトキシシランとする以外は、合成例1と同様にして、スルホベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物2を合成できる。
【0061】
【化20】
【0062】
<合成例3>
4-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]-4,7,7-トリメチル-4,7-ジアザデカン-4,7-ジイウム-1,10-ジスルホナートの合成
以下のスキームに従って、スルホベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物3を合成した。
【0063】
【化21】
【0064】
アミノ化反応:
1-(3-ブロモプロピル)-2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン (3.0 g)、N,N,N’-トリメチルエチレンジアミン (1.14g)、テトラヒドロフラン (20 ml)の混合物を加熱還流下で一晩撹拌した。室温まで放冷後、5 mol/L ナトリウムメトキシド-メタノール溶液 (2.0 ml)を加え30分間撹拌した。減圧下濃縮し残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60(球状)NH2、酢酸エチル/メタノール)で精製することにより、N-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]-N,N’,N’-トリメチルエタン-1,2-ジアミン (900 mg)を無色油状物として得た。
MASS: ESI-MS [M+H]+ 318.
【0065】
スルホベタイン化反応:
合成例1と同様に、N-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]-N,N’,N’-トリメチルエタン-1,2-ジアミン (880 mg)を用い、4-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]-4,7,7-トリメチル-4,7-ジアザデカン-4,7-ジイウム-1,10-ジスルホナート(化合物3) (1.12 g)を無色固体として得た。
1H-NMR(D2O): δ = 0.19-0.31 (2H, m), 1.70-1.85 (2H, m), 2.16-2.37 (4H, m), 2.91-3.09 (10H, m), 3.19 (3H, s), 3.28 (6H, s), 3.28-3.73 (6H, m), 3.80 (6H, t, J = 5.3 Hz), 3.86-4.06 (4H, m).
MASS: 562.
【0066】
<合成例4>
4-{[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]-N,N-ジメチルアンモニオ}ブタン-1-スルホナートの合成
以下のスキームに従って、スルホベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物4を合成した。
【0067】
【化22】
【0068】
スルホベタイン化反応:
3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)-N,N-ジメチルプロパン-1-アミン (1.00 g)、1,4-ブタンスルトン (1.72 g)、アセトン (12.8 ml)の混合物を60℃で1日間撹拌した。室温まで放冷後、不溶物を濾取しアセトンで洗浄した。得られた固体を減圧下乾燥することにより、4-{[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]-N,N-ジメチルアンモニオ}ブタン-1-スルホナート(化合物4) (1.13 g)を無色固体として得た。
1H-NMR(D2O): δ = 0.16-0.29 (2H, m), 1.65-1.98 (6H, m), 2.86-3.10 (2H, m), 3.00 (6H, t, J = 5.8 Hz), 3.02 (6H, s), 3.15-3.35 (4H, m), 3.79 (6H, t, J = 5.8 Hz).
MASS: ESI-MS [M+H]+ 397.
【0069】
<合成例5>
3-{[11-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)ウンデカン]-N,N-ジメチルアンモニオ}プロパン-1-スルホナートの合成
以下のスキームに従って、スルホベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物5を合成した。
【0070】
【化23】
【0071】
シラトラニル化反応に続くアミノ化反応:
水酸化カリウム (0.10 g)、トリエタノールアミン (1.56 g)、エタノール (15 ml)の混合物を加熱還流下で撹拌しながら反応混合物に(11-ブロモウンデシル)トリメトキシシラン (3.73 g)、エタノール (6 ml)溶液を加え加熱還流下で1時間撹拌した。反応混合物を室温まで放冷後減圧下濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)で精製することにより、無色固体 (1.62 g)を得た。この無色固体 (1.62g)、2 mol/L ジメチルアミン-テトラヒドロフラン溶液 (17 ml) の混合物を80℃で一晩撹拌した。室温まで放冷後、5 mol/L ナトリウムメトキシド-メタノール溶液 (2.0 ml)を加え30分間撹拌した。減圧下濃縮し残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)で精製することにより、11-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)-N,N-ジメチルウンデカン-1-アミン (820 mg)を無色固体として得た。
1H-NMR(DMSO-d6): δ = 0.07-0.21 (2H, m), 1.09-1.45 (18H, m), 2.08 (6H, s), 2.11-2.19 (2H, m), 2.68-2.82 (6H, m), 3.51-3.63 (6H, m).
【0072】
スルホベタイン化反応:
合成例4と同様に、11-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)-N,N-ジメチルウンデカン-1-アミン (820 mg)を用い、3-{[11-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)ウンデカン]-N,N-ジメチルアンモニオ}プロパン-1-スルホナート(化合物5) (832 mg)を無色固体として得た。
1H-NMR(D2O): δ = 0.22-0.33 (2H, m), 1.19-1.41 (16H, m), 1.69-1.83 (2H, m), 2.15-2.27 (2H, m), 2.86-3.02 (8H, m), 3.08 (6H, s), 3.26-3.36 (2H, m), 3.40-3.51 (2H, m), 3.70-3.80 (6H, m).
MASS: ESI-MS [M+H]+ 495.
【0073】
<合成例6>
3-{1-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]-4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-3-イウム-3-イル}プロパン-1-スルホナートの合成
以下のスキームに従って、スルホベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物6を合成した。
【0074】
【化24】
【0075】
スルホベタイン化反応:
1-[3-(4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-1-イル)プロピル]-2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン (1.0 g)、1,3-プロパンスルトン (0.45 ml)、アセトン (10 ml)の混合物を室温で5日間撹拌した。不溶物を濾取しアセトンで洗浄した。得られた固体を減圧下乾燥することにより、3-{1-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]-4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-3-イウム-3-イル}プロパン-1-スルホナート(化合物6) (1.38 g) を無色固体として得た。
1H-NMR(D2O): δ = 0.13-0.31 (2H, m), 1.54-1.71 (2H, m), 1.99-2.17 (2H, m) 2.94 (2H, t, J = 7.5 Hz), 2.99 (6H, t, J = 5.9 Hz), 3.38 (2H, t, J = 6.8 Hz), 3.61 (2H, t, J = 6.8 Hz), 3.78 (2H, t, J = 5.9 Hz), 3.94 (4H, s), 8.10 (1H, s).
MASS: ESI-MS [M+H]+ 408.
【0076】
<合成例7>
4-{1-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]-4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-3-イウム-3-イル}ブタン-1-スルホナートの合成
以下のスキームに従って、スルホベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物7を合成した。
【0077】
【化25】
【0078】
スルホベタイン化反応:
合成例4と同様に、1-[3-(4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-1-イル)プロピル]-2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン (1.0 g)を用い、4-{1-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]-4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-3-イウム-3-イル}ブタン-1-スルホナート(化合物7) (1.18 g)を無色固体として得た。
1H-NMR(D2O): δ = 0.13-0.28 (2H, m), 1.53-1.69 (2H, m), 1.69-1.88 (4H, m), 2.83-3.06 (2H, m), 2.99 (6H, t, J = 5.7 Hz), 3.36 (2H, t, J = 6.8 Hz), 3.44-3.55 (2H, m), 3.77 (6H, t, J = 5.7 Hz), 3.92 (4H, s), 8.09 (1H, s).
MASS: ESI-MS [M+H]+ 422.
【0079】
<合成例8>
3-({4-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロポキシ]ベンジル}ジメチルアンモニオ)プロパン-1-スルホナートの合成
以下のスキームに従って、スルホベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物8を合成した。
【0080】
【化26】
【0081】
ヒドロシリル化に続くシラトラニル化反応:
1-[4-(アリルオキシ)フェニル]-N,N-ジメチルメタンアミン (1.00 g)、トリメトキシシラン (1.44 g)、[1,3-ビス[2,6-ビス(1-メチルエチル)フェニル]-1,3-ジヒドロ-2H-イミダゾール-2-イリデン][1,3-ビス(η-エテニル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン]白金 (80 mg)、トルエン (33 ml)の混合物を80℃で2日間撹拌した。反応混合物にトリエタノールアミン (2.95 g)を加え、さらに110℃で1日間撹拌した。反応混合物を室温まで放冷後減圧下濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60(球状)NH2, 酢酸エチル/ヘプタン)で精製することにより、前駆体となる1-{4-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロポキシ]フェニル}-N,N-ジメチルメタンアミン (180 mg)を無色油状物として得た。
MASS: ESI-MS [M+H]+ 367.
【0082】
スルホベタイン化反応:
合成例6と同様に、1-{4-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロポキシ]フェニル}-N,N-ジメチルメタンアミン (180 mg)を用い、3-({4-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロポキシ]ベンジル}ジメチルアンモニオ)プロパン-1-スルホナート(化合物8) (108 mg)を無色固体として得た。
1H-NMR(D2O): δ = 0.28-0.44 (2H, m), 1.67-1.85 (2H, m), 2.22-2.40 (2H, m), 2.83-3.11 (2H, m), 2.98 (6H, t, J = 5.7 Hz), 3.03 (6H, s), 3.36-3.49 (2H, m), 3.77 (6H, t, J = 5.7 Hz), 4.03 (2H, t, J = 6.9 Hz), 4.47 (2H, s), 7.09 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.48 (2H, d, J = 8.4 Hz).
MASS: ESI-MS [M+H]+ 489.
【0083】
<合成例9>
2-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]-2,5,5-トリメチル-2,5-ジアザヘキサン-2,5-ジイウム-1,6-ジカルボキシラートの合成
以下のスキームに従って、カルボベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物9を合成した。
【0084】
【化27】
【0085】
カルボベタイン化反応:
N-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]-N,N’,N’-トリメチルエタン-1,2-ジアミン (1.07 g)、クロロ酢酸ナトリウム (1.18 g)、ヨウ化リチウム (1.35 g)、N,N-ジメチルホルムアミド (10 mL)の混合物を85℃で1日間撹拌した。室温まで放冷後、不溶物を濾別し濾液を減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60(球状)NH2、酢酸エチル/メタノール)で精製することにより、2-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]-2,5,5-トリメチル-2,5-ジアザヘキサン-2,5-ジイウム-1,6-ジカルボキシラート(化合物9) (250 mg)を無色固体として得た。
1H-NMR(D2O): δ = 0.25-0.23 (2H, m), 1.79-1.77 (2H, m), 3.00 (6H, t, J = 5.9 Hz), 3.22 (3H, s), 3.50-3.28 (10H, m), 3.79 (6H, t, J = 6.0 Hz), 3.91 (2H, s), 3.97 (2H, s), 4.21-4.16 (4H, m)
MASS: ESI-MS [M+Na]+ 456.
【0086】
<合成例10>
5-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]-2,2,5-トリメチル-8-スルホナト-2,5-ジアザオクタン-2,5-ジイウム-1-カルボキシラートの合成
以下のスキームに従って、スルホベタイン基およびカルボベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物10を合成した。
【0087】
【化28】
【0088】
カルボベタイン化反応:
N-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]-N,N’,N’-トリメチルエタン-1,2-ジアミン (1.05 g)、クロロ酢酸ナトリウム (385 mg)、ヨウ化リチウム (443 mg)、N,N-ジメチルホルムアミド(10 mL)の混合物を85℃で1日間撹拌した。室温まで放冷後、不溶物を濾別し濾液を減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60(球状)NH2、酢酸エチル/メタノール)で精製することにより、[(2-{[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]メチルアミノ}エチル)ジメチルアンモニオ]アセテート(780 mg)を無色固体として得た。
1H-NMR(D2O): δ = 0.23-0.18 (2H, m), 1.49-1.44 (2H, m), 2.26 (3H, s), 2.42-2.38 (2H, m), 2.86-2.82 (2H, m), 2.97 (6H, t, J = 6.0 Hz), 3.24 (6H, s), 3.73-3.68 (2H, m), 3.77 (6H, t, J = 6.0 Hz), 3.89 (2H, s)
【0089】
スルホベタイン化反応:
[(2-{[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]メチルアミノ}エチル)ジメチルアンモニオ]アセテート (780 mg)、1,3-プロパンスルトン (280 mg)、アセトニトリル (15 ml)の混合物を50℃で1日間撹拌した。室温まで放冷後、減圧下濃縮し残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60(球状)NH2、酢酸エチル/メタノール)で精製することにより、5-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]-2,2,5-トリメチル-8-スルホナト-2,5-ジアザオクタン-2,5-ジイウム-1-カルボキシラート (化合物10)(250 mg)を無色固体として得た。
1H-NMR(D2O): δ = 0.27-0.25 (2H, m), 1.84-1.73 (2H, m), 2.25 (2H, m), 3.01 (8H, m), 3.16 (3H, s), 3.35-3.32 (8H, m), 3.56-3.52 (2H, m), 3.84-3.80 (8H, m), 3.99 (2H, s), 4.28-4.24 (2H, m)
MASS: ESI-MS [M+Na]+ 520.
【0090】
<合成例11>
4-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]-4,7,10,10-テトラメチル-7-(3-スルホナトプロピル)-4,7,10-トリアザトリデカン-4,7,10-トリイウム-1,13-ジスルホナートの合成
以下のスキームに従って、スルホベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物11を合成した。
【0091】
【化29】
【0092】
アミノ化反応:
1-(3-ブロモプロピル)-2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン (4.78 g)、N,N,N’,3-テトラメチル-3-アザペンタン-1,5-ジアミン(2.57 g)、テトラヒドロフラン (20 ml)の混合物を加熱還流下で一晩撹拌した。室温まで放冷後、5 mol/L ナトリウムメトキシド-メタノール溶液 (3.2 ml)を加え30分間撹拌した。減圧下濃縮し残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東化学シリカゲル60(球状)NH2、酢酸エチル/メタノール)で精製することにより、N-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]-N,N’,N ’,3-テトラメチル-3-アザペンタン-1,5-ジアミン (840 mg)を無色油状物として得た。
1H-NMR(CDCl3): δ = 0.31-0.37 (2H, m), 1.51-1.61 (2H, m), 2.23-2.26 (11H, m), 2.32-2.50 (11H, m), 2.77-2.81 (6H, m), 3.73-3.77 (6H, m).
【0093】
スルホベタイン化反応:
N-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]-N,N’,N’,3-テトラメチル-3-アザペンタン-1,5-ジアミン (400 mg)、1,3-プロパンスルトン (430 mg)、メタノール (5 ml)の混合物を70℃で5時間撹拌した。室温まで放冷後、酢酸エチルを加えると白色固体が析出した。析出物を濾取しアセトニトリルおよび酢酸エチルで洗浄した。得られた固体をメタノールに溶かし、酢酸エチルを加えると白色固体が析出した。析出物を濾取し酢酸エチルおよびアセトニトリルで洗浄した。得られた固体を減圧下乾燥することにより、4-[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]-4,7,10,10-テトラメチル-7-(3-スルホナトプロピル)-4,7,10-トリアザトリデカン-4,7,10-トリイウム-1,13-ジスルホナート(化合物11) (400 mg)を無色固体として得た。
1H-NMR(D2O): δ = 0.64-069 (2H, m), 1.87-2.23 (8H, m), 2.89-3.00 (8H, m), 3.13 (3H, s), 3.18 (6H, s), 3.26-3.70 (25H, m), 3.92-3.95 (4H, m).
【0094】
<合成例12>
4-(3-トリヒドロキシシリルプロピル)-4,7,7-トリメチル-4,7-ジアザデカン-4,7-ジイウム-1,10-ジスルホナートの合成
以下のスキームに従って、スルホベタイン基含有トリヒドロキシシラン化合物12を合成した。
【0095】
【化30】
【0096】
エタノール:精製水=7:3 (v/v)の混合溶液に化合物3を溶解して、5 mmol/Lの溶液を調整し、これに0.1 vol%のトリエチルアミンを添加した。この混合物を50℃で2日間静置し、生じた油状沈殿物をエタノールでデカンテーションを2回繰り返すことで得られた固体を減圧下乾燥することにより、4-(3-トリヒドロキシシリルプロピル)-4,7,7-トリメチル-4,7-ジアザデカン-4,7-ジイウム-1,10-ジスルホナート(化合物12)を無色固体として得た。
1H-NMR(D2O): δ = 0.79-0.60 (2H, m), 1.98-1.87 (2H, m), 2.34-2.21 (4H, m), 3.02 (4H, t, J = 6.6 Hz), 3.23 (3H, s), 3.28 (6H, s), 3.47 (2H, t, J = 7.9 Hz), 3.63 (4H, t, J = 6.6 Hz), 3.97 (4H, s)
13C-NMR(D2O): 10.76, 19.51, 20.63, 20.98, 49.50, 49.55, 51.42, 53.97, 56.11, 60.16, 63.30, 66.29, 67.33
MASS: ESI-MS [M+H]+ 467.
【0097】
[実施例1]
エタノール:精製水=6:4(v/v)の混合溶媒にスルホベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物1を溶解して、5 mmol/Lの防曇性コーティング組成物1を得た。
スライドガラス(松浪硝子工業製、スライドグラスS1225)を10%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液、精製水、アセトンの順番でそれぞれ浸漬し室温で10分間ずつ超音波処理した後、さらに15%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し50℃で30分間超音波処理することでスライドガラス表面を活性化させた。
このスライドガラスを防曇性コーティング組成物1に室温で終夜浸漬した。スライドガラスを取り出した後、エタノールに浸漬し室温で10分間超音波処理した。窒素ガスで乾燥後、80℃で1時間加熱処理した。放冷後、スライドガラスを水道水で30秒洗浄後、窒素ガスで乾燥させることによって、防曇処理ガラス1を得た。
【0098】
[実施例2]
エタノール:精製水=7:3(v/v)の混合溶媒にスルホベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物3を溶解して、5 mmol/Lの溶液を調製し、これに2 vol%の酢酸を添加して防曇性コーティング組成物2を得た。
スライドガラスを防曇性コーティング組成物2に60℃で4時間浸漬した以外は、実施例1と同様に処理することによって、防曇処理ガラス2を得た。
【0099】
[実施例3]
エタノール:精製水=9:1(v/v)の混合溶媒にスルホベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物3およびテトラエトキシシランを溶解して、化合物3が5 mmol/L、テトラエトキシシランが1 mmol/Lの溶液を調製し、これに2 vol%の酢酸を添加することで防曇性コーティング組成物3を得た。
スライドガラスを防曇性コーティング組成物3に60℃で4時間浸漬した以外は、実施例1と同様に処理することによって、防曇処理ガラス3を得た。
【0100】
[実施例4]
2-プロパノール:精製水=9:1(v/v)の混合溶媒にスルホベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物4を溶解して、5 mmol/Lの溶液を調製し、これに2 vol%の酢酸を添加することで防曇性コーティング組成物4を得た。
スライドガラスを防曇性コーティング組成物4に60℃で4時間浸漬した以外は、実施例1と同様に処理することによって、防曇処理ガラス4を得た。
【0101】
[実施例5]
エタノール:精製水=9:1(v/v)の混合溶媒にスルホベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物5を溶解して、5 mmol/Lの溶液を調製し、これに2 vol%の酢酸を添加することで防曇性コーティング組成物5を得た。
スライドガラスを防曇性コーティング組成物5に60℃で4時間浸漬した以外は、実施例1と同様に処理することによって、防曇処理ガラス5を得た。
【0102】
[実施例6]
2-プロパノール:精製水=9:1(v/v)の混合溶媒にスルホベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物6を溶解して、5 mmol/Lの溶液を調製し、これに2 vol%の酢酸を添加することで防曇性コーティング組成物6を得た。
スライドガラスを防曇性コーティング組成物6に60℃で4時間浸漬した以外は、実施例1と同様に処理することによって、防曇処理ガラス6を得た。
【0103】
[実施例7]
2-プロパノール:精製水=9:1(v/v)の混合溶媒にスルホベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物7を溶解して、5 mmol/Lの溶液を調製し、これに2 vol%の酢酸を添加することで防曇性コーティング組成物7を得た。
スライドガラスを防曇性コーティング組成物7に60℃で4時間浸漬した以外は、実施例1と同様に処理することによって、防曇処理ガラス7を得た。
【0104】
[実施例8]
エタノール:精製水=9:1(v/v)の混合溶媒にスルホベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物8を溶解して、5 mmol/Lの溶液を調製し、これに2 vol%の酢酸を添加することで防曇性コーティング組成物8を得た。
スライドガラスを防曇性コーティング組成物8に60℃で4時間浸漬した以外は、実施例1と同様に処理することによって、防曇処理ガラス8を得た。
【0105】
[実施例9]
エタノール:精製水=7:3(v/v)の混合溶媒にカルボベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物9を溶解して、5 mmol/Lの溶液を調製し、これに2 vol%の酢酸を添加して防曇性コーティング組成物9を得た。
スライドガラスを防曇性コーティング組成物9に60℃で4時間浸漬した以外は、実施例1と同様に処理することによって、防曇処理ガラス9を得た。
【0106】
[実施例10]
エタノール:精製水=7:3(v/v)の混合溶媒にスルホベタイン基およびカルボベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物10を溶解して、5 mmol/Lの溶液を調製し、これに2 vol%の酢酸を添加して防曇性コーティング組成物10を得た。
スライドガラスを防曇性コーティング組成物10に60℃で4時間浸漬した以外は、実施例1と同様に処理することによって、防曇処理ガラス10を得た。
【0107】
[実施例11]
エタノール:精製水=7:3(v/v)の混合溶媒にスルホベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物11を溶解して、5 mmol/Lの溶液を調製し、これに2 vol%の酢酸を添加して防曇性コーティング組成物11を得た。
スライドガラスを防曇性コーティング組成物11に60℃で4時間浸漬した以外は、実施例1と同様に処理することによって、防曇処理ガラス11を得た。
【0108】
[実施例12]
エタノール:精製水=7:3(v/v)の混合溶媒に化合物3を溶解して、5 mmol/Lの溶液を調整し、これに0.03 vol%のリン酸を添加して、室温で1週間静置することで防曇性コーティング組成物12を得た。この防曇性コーティング組成物12中ではHPLC分析の結果から化合物3は完全に加水分解し、化合物12に変換されていることを確認した。
スライドガラスを防曇性コーティング組成物12に60℃で4時間浸漬した以外は、実施例1と同様に処理することによって、防曇処理ガラス12を得た。
【0109】
[実施例13]
PGME:精製水=4:6(v/v)の混合溶媒にスルホベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物3を溶解して、5 mmol/Lの溶液を調整し、これにトリエチルアミンを2 mol/Lになるように添加して防曇性コーティング組成物13を得た。
スライドガラス(松浪硝子工業製、スライドグラスS1225)を10%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液、精製水、アセトンの順番でそれぞれ浸漬し、室温で10分間ずつ超音波処理した後、さらに1%水酸化ナトリウム水溶液に室温で20分間浸漬することでスライドガラス表面を活性化させた。
このスライドガラスを防曇性コーティング組成物13に室温でディップコートし、スライドガラスを取り出したまま室温で乾燥させた。乾燥したスライドガラスを水道水で30秒洗浄後、窒素ガスで乾燥させることによって、防曇処理ガラス13を得た。
【0110】
[実施例14]
エタノール:精製水=7:3(v/v)の混合溶媒にスルホベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物11を溶解して、5 mmol/Lの溶液を調製し、これに2 vol%の酢酸を添加して室温で1週間静置することで防曇性コーティング組成物14を得た。この防曇性コーティング組成物14中ではHPLC分析の結果から化合物11は完全に加水分解し、化合物13に変換されていることを確認した。
スライドガラスを防曇性コーティング組成物14に60℃で4時間浸漬した以外は、実施例1と同様に処理することによって、防曇処理ガラス14を得た。
【0111】
[比較例1]
エタノール:精製水=99.8:0.2(v/v)の混合溶媒に8,8-ジメトキシ-4,4-ジメチル-9-オキサ-4-アザ-8-シラデカン-4-イウム-1-スルホナートを溶解して、5 mmol/Lの防曇性コーティング組成物15を得た。
このスライドガラスを防曇性コーティング組成物15に浸漬した以外は、実施例1と同様に処理することによって、防曇処理ガラス15を得た。
【0112】
[比較例2]
エタノール:精製水=9:1(v/v)の混合溶媒に3-{[3-(2,8,9-トリオキサ-5-アザ-1-シラビシクロ[3.3.3]ウンデカン-1-イル)プロピル]ジメチルアンモニオ}プロパン-1-スルホナートを溶解して、5 mmol/Lの溶液を調製し、これに2 vol%の酢酸を添加することによって防曇性コーティング組成物16を得た。
このスライドガラスを防曇性コーティング組成物14に60℃で4時間浸漬した以外は、実施例1と同様に処理することによって、防曇処理ガラス16を得た。
【0113】
[比較例3]
エチレングリコール(超脱水)に化合物1を溶解して、5 mmol/Lの防曇性コーティング組成物17を得た。
スライドガラスを防曇性コーティング組成物17に室温で終夜浸漬した以外は、実施例1と同様に処理することによって、防曇処理ガラス17を得た。
【0114】
実施例1~14および比較例1~3のそれぞれで得られた防曇処理ガラス1~17に対して、水接触角の測定、防曇性試験および防汚性試験を行った結果を表1にまとめた。
【0115】
【表1】
【0116】
[水接触角の測定]
協和界面化学製DMs-401(精製水滴量1.0 μL、滴下測定時間1000 ms)を用いて、1サンプルについて3か所測定し平均値を記載した。
【0117】
[防曇性試験]
防曇処理基材に50℃の蒸気を30秒間あて水膜の状態を目視で観察し、以下の基準で判定した。
S:水膜の状態が蒸気をあてた直後から均一のもの
A:水膜の状態が蒸気をあてた直後はムラがあるが30秒後には均一のもの
B:30秒後の水膜の状態にムラがあるもの
C:曇っているもの
【0118】
[防汚性試験]
ゼブラ製の油性マーカー「マッキー極細」(黒、品番MO-120-MC-BK)でマークし、その上に水滴を垂らして1分間放置後、キムワイプでの拭き取りを行い、以下の基準で判定した。
A:1分以内にマークが浮いたもの
B:1分間で浮かなかったが拭き取ると消えたもの
C:拭き取っても消えなかったもの
【0119】
以上の結果から、本発明化合物は高い親水性を有するベタイン系有機ケイ素化合物でありながら粉体形状で取得する事ができ基材に対して防曇性・防汚性を付与することが明らかとなった。特に、化合物1、3、11、12および13は従来知られているベタイン系有機ケイ素化合物よりも基材に対して優れた防曇性を付与することが明らかとなった。さらにケイ素含有化合物を併用することにより、本発明化合物を単体で用いるよりも優れた防曇処理基材を作成できることが明らかとなった。特にトリアルコキシシリル基がすべて加水分解された化合物12および13では、ケイ素含有化合物を併用しない場合でも、優れた防曇性を発揮した。
さらに、本発明化合物を用いれば、浸漬での反応を高温かつ長時間行わなくても、室温にて短時間の処理で、優れた防曇性を発揮する膜形成が可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明によれば、従来よりも基材への結合特性および防曇付与特性が高いベタイン系有機ケイ素化合物を粉状形態で得ることができるので、防曇性が向上したコーティング組成物を高い生産性で製造することができる。また、室温かつ短時間で防曇性が向上したコーティング膜を形成することができる。本発明の化合物は、一般的な窓ガラスや高層ビル等の高所および狭所用ガラス、冷蔵および冷凍ショーケース等の冷所ガラス、サウナ室等の高温多湿環境用ガラス、モバイル機器用ガラス、自動車フロントガラス、サイドガラスおよびリアガラス、浴室および洗面化粧台用ミラー、自動車およびバイク等のサイドミラー、道路の反射ミラー、手鏡、歯科用ミラー、ソーラーパネル、屋外ディスプレイ、眼鏡、サングラス、スマートグラス、監視カメラ等のレンズ等に好適に用いることができる。
【要約】
本発明は、ガラス製や樹脂製などの基材への結合機能および防曇、防汚付与機能が向上したベタイン系有機ケイ素化合物を提供する。より詳しくは、本発明において、トリアルコキシルシリル基とベタイン構造とを特定構造のスペーサーを介して結合することによりベタイン基含有トリアルコキシシラン化合物およびその加水分解物を合成する。
また、それを用い優れた防曇、防汚機能を有した成形物を提供する。