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特許7182753はんだ合金、接合部、接合材、ソルダペースト、接合構造体および電子制御装置
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  • 特許-はんだ合金、接合部、接合材、ソルダペースト、接合構造体および電子制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-24
(45)【発行日】2022-12-02
(54)【発明の名称】はんだ合金、接合部、接合材、ソルダペースト、接合構造体および電子制御装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/26 20060101AFI20221125BHJP
   C22C 12/00 20060101ALI20221125BHJP
   C22C 13/02 20060101ALI20221125BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
B23K35/26 310A
B23K35/26 310C
C22C12/00
C22C13/02
B23K35/22 310A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022551546
(86)(22)【出願日】2022-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2022031965
【審査請求日】2022-08-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100139996
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 洋子
(72)【発明者】
【氏名】嶋崎 貴則
(72)【発明者】
【氏名】丸山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】越智 元気
(72)【発明者】
【氏名】新井 正也
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108546846(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0070287(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107984110(CN,A)
【文献】特表2019-527145(JP,A)
【文献】国際公開第2019/171710(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00-35/40
C22C 13/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
45質量%以上63質量%以下のBiと、0.1質量%以上0.65質量%以下のSbと、0.05質量%以上1質量%以下のInと、残部がSnおよび不可避不純物からなり、液相線温度が170℃以下である、はんだ合金。
【請求項2】
更に、P、GaおよびGeから選ばれる1種以上を合計で0.001質量%以上0.05質量%以下含む、請求項1に記載のはんだ合金。
【請求項3】
更に、Mn、Ti、Al、Cr、VおよびMoから選ばれる1種以上を合計で0.001質量%以上0.05質量%以下含む、請求項1に記載のはんだ合金。
【請求項4】
更に、Mn、Ti、Al、Cr、VおよびMoから選ばれる1種以上を合計で0.001質量%以上0.05質量%以下含む、請求項2に記載のはんだ合金。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のはんだ合金を含む、接合材。
【請求項6】
フラックスと、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のはんだ合金からなる粉末とを含む、ソルダペースト。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のはんだ合金を用いて形成された、接合部。
【請求項8】
請求項5に記載の接合材を用いて形成された、接合部。
【請求項9】
請求項6に記載のソルダペーストを用いて形成された、接合部。
【請求項10】
第1の被接合材と、接合部と、第2の被接合材とを有する接合構造体であって、
前記接合部は、請求項7に記載の接合部であり、前記第1の被接合材と前記第2の被接合材とを接合している、接合構造体。
【請求項11】
第1の被接合材と、接合部と、第2の被接合材とを有する接合構造体であって、
前記接合部は、請求項8に記載の接合部であり、前記第1の被接合材と前記第2の被接合材とを接合している、接合構造体。
【請求項12】
第1の被接合材と、接合部と、第2の被接合材とを有する接合構造体であって、
前記接合部は、請求項9に記載の接合部であり、前記第1の被接合材と前記第2の被接合材とを接合している、接合構造体。
【請求項13】
請求項10に記載の接合構造体を有する、電子制御装置。
【請求項14】
請求項11に記載の接合構造体を有する、電子制御装置。
【請求項15】
請求項12に記載の接合構造体を有する、電子制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ合金、接合部、接合材、ソルダペースト、接合構造体および電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
はんだ合金は、被接合材同士(例えば、プリント配線基板と電子部品)の接合(はんだ付)用材料として、広く知られている。
【0003】
ところで、はんだ付時の温度条件(加熱温度)は、溶融温度(本明細書においては、「溶融点」または「液相線温度」を意味する。)に基づき設定される。そのため、はんだ合金の液相線温度によっては、加熱温度を高めに設定することとなる。この場合、被接合材に加わる熱的負荷により、接合構造体(被接合材同士が接合されたもの。例えば、プリント回路基板。)の信頼性が低下する虞がある。そこで、加熱温度を低く設定できるよう、Biを添加して液相線温度を低下させたはんだ合金が提供されている。
【0004】
しかし、Biは、はんだ合金の延性を低下させる性質を有するため、Biを含むはんだ合金を用いて形成される接合部は、硬くて脆くなり易い。
【0005】
そこで、Biを含み、且つ、延性や脆性を改善させるはんだ合金として、例えば、以下のはんだ合金が提供されている。
【0006】
Biを32質量%以上40質量%以下、Sbを0.1質量%以上1.0質量%以下、Cuを0.1質量%以上1.0質量%以下、Niを0.001質量%以上0.1質量%以下含有し、残部がSn及び不可避不純物からなる、鉛フリーはんだ合金(特許文献1)。
【0007】
質量%で、Bi:35~68%、Sb:0.1~2.0%、Ni:0.01~0.10%、残部がSnからなる合金組成を有することを特徴とするはんだ合金(特許文献2)。
【0008】
鉛フリーはんだが質量百分率でBi32.8-56.5%、Sb0.7-2.2%、残部Snからなり、かつBi、Sbの質量百分率が関係式b=0.006a2-0.672a+19.61+cを満たし、aがBi、bがSbの質量百分率を示し、cの値域が-1.85≦c≦1.85であり、さらに質量百分率でCe0.01-2.5%、Ti0.05-2.0%、Ag0.5-0.8%、及びIn0.05-1%の一つまたは2つ以上の金属元素が含まれることを特徴とするSnBiSb系低温鉛フリーはんだ(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第6804126号公報
【文献】特許第6477965号公報
【文献】特許第6951438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
電子機器の種類によって、接合構造体がヒートサイクルの繰り返される環境下に置かれる場合があり、このヒートサイクルは、接合部の熱疲労破壊(クラック)を引き起こす原因となる。そして、上述の通り、Biを含むはんだ合金を用いて形成される接合部は、硬くて脆くなり易いため、上記クラックが発生し易い。
【0011】
また、電子機器の地面への落下等により、被接合材や接合部に対して瞬間的且つ集中的な強い外力が作用する場合がある。そして、この外力による接合部の破損を防ぐためには、接合部の強度と延性とをバランスよく向上させることが求められる。しかし、上述の通り、Biを含むはんだ合金は、延性が低いため、そのようなはんだ合金を用いて形成された接合部は、上記外力の作用による破損が生じ易い。
【0012】
そして、特許文献1から3には、上記クラックへの耐性(以下、本明細書では、「ヒートサイクル耐性」という。)と上記外力への耐性(以下、本明細書では、「耐落下衝撃性」という。)の両方を有するはんだ合金については、開示も示唆もない。
【0013】
そこで、本発明の目的は、上記の課題を解決するものであり、Biを含みつつ、ヒートサイクル耐性と耐落下衝撃性とを有する接合部を形成できるはんだ合金、接合材およびソルダペーストを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)本発明のはんだ合金は、45質量%以上63質量%以下のBiと、0.1質量%以上0.7質量%未満のSbと、0.05質量%以上1質量%以下のInとを含み、残部がSnおよび不可避不純物であり、液相線温度が170℃以下である。
【0015】
(2)上記(1)の構成にあって、本発明のはんだ合金は、更に、P、GaおよびGeから選ばれる1種以上を合計で0.001質量%以上0.05質量%以下含むことができる。
【0016】
(3)上記(1)または(2)の構成にあって、本発明のはんだ合金は、更に、Mn、Ti、Al、Cr、VおよびMoから選ばれる1種以上を合計で0.001質量%以上0.05質量%以下含むことができる。
【0017】
(4)本発明の接合材は、上記(1)から(3)のいずれか1に記載のはんだ合金を含む。
【0018】
(5)本発明のソルダペーストは、フラックスと、上記(1)から(3)のいずれか1に記載のはんだ合金からなる粉末とを含む。
【0019】
(6)本発明の接合部は、上記(1)から(3)のいずれか1に記載のはんだ合金を用いて形成される。
【0020】
(7)本発明の接合部は、上記(4)に記載の接合材を用いて形成される。
【0021】
(8)本発明の接合部は、上記(5)に記載のソルダペーストを用いて形成される。
【0022】
(9)本発明の接合構造体は、第1の被接合材と、接合部と、第2の被接合材とを有し、前記接合部は、上記(6)から(8)のいずれか1に記載の接合部であり、前記第1の被接合材と前記第2の被接合材とを接合している。
【0023】
(10)本発明の電子制御装置は、上記(9)に記載の接合構造体を有する。
【発明の効果】
【0024】
本発明のはんだ合金、接合材およびソルダペーストは、Biを含みつつ、ヒートサイクル耐性と耐落下衝撃性とを有する接合部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】(1)引張試験で用いる試験片の形状を表す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0027】
1.はんだ合金
本実施形態のはんだ合金は、45質量%以上63質量%以下のBiと、0.1質量%以上0.7質量%未満のSbと、0.05質量%以上1質量%以下のInとを含み、残部がSnおよび不可避不純物である。
【0028】
本実施形態のはんだ合金は、Bi、Sb、InおよびSnをそれぞれ所定量含むことにより、液相線温度を低下させつつ、接合部にSnへのBi、SbおよびInの固溶による強化、並びに、微細な金属間化合物(例:β-SnSb、InSb)の析出および分散による強化を付与し、また、接合部に良好な延性を付与することができる。
【0029】
そのため、本実施形態のはんだ合金は、はんだ付け工程でのはんだ凝固時に接合部内に生じる残存応力や、電子制御装置、電子機器の作製時にプリント配線基板に生じる歪みを起因とする、接合部内でのクラックの発生を抑制することができる。
【0030】
また、本実施形態のはんだ合金は、上記構成により、ヒートサイクルの繰り返しによる接合部内でのクラックの発生とクラックの進展を抑制することができる。
【0031】
ところで、上述の通り、電子機器が落下すると、接合部には、瞬間的且つ集中的な強い外力(以下、単に「外力」という。)が作用する。この外力は、複数の方向(引張、圧縮、せん断、曲げおよびねじりの少なくとも2種)から接合部に作用するため、接合部内には、瞬間的且つ大きな応力と、上記外力に対する応力が発生する。よって、上記外力による接合部の破損を防ぐには、接合部が良好な強度と良好な延性とを有していること、即ち、接合部の降伏応力、引張応力および破断ひずみをバランスよく向上させることが求められる。
【0032】
そして、本実施形態のはんだ合金は、上記構成により、良好な強度と延性とをバランスよく有する接合部を形成することができるため、上記外力に対しても良好な耐性、即ち、良好な耐落下衝撃性を有する接合部を提供することができる。
【0033】
なお、本実施形態のはんだ合金は、NiまたはCoといった、接合部内に微細な金属間化合物を析出させる合金元素を含まずとも、上記構成により、接合部に良好な強度と延性とを付与することができる。
【0034】
(1)Bi
本実施形態のはんだ合金は、45質量%以上63質量%以下のBiを含むことにより、液相線温度を低下させつつ、接合部に良好な強度および延性を付与できる。
【0035】
一方で、Biの含有量が上記範囲外となる場合、はんだ合金の液相線温度が大きく上昇する虞がある。また、Biの含有量が63質量%を超えると、はんだ合金の延性が低下する虞がある。
【0036】
Biの好ましい含有量は、45質量%以上60質量%以下である。また、更に好ましいBiの含有量は、50質量%以上59質量%以下である。Biの含有量をこの範囲とすることで、はんだ合金の延性を更に向上させ、接合部のヒートサイクル耐性と耐落下衝撃性とを更に向上させることができる。
【0037】
(2)Sb
本実施形態のはんだ合金は、0.1質量%以上0.7質量%未満のSbを含むことにより、接合部を強化させ、また、延性を向上させることができる。また、はんだ合金の液相線温度を低下させることもできる。
【0038】
一方で、Sbの含有量が0.1質量%未満であると、接合部の強化が不十分となる虞がある。また、Sbの含有量が0.7質量%以上であると、初晶として粗大なβ-SnSbが晶出するため、接合部の延性を阻害する虞がある。
【0039】
Sbの好ましい含有量は、0.2質量%以上0.7質量%未満である。また、更に好ましいSbの含有量は、0.3質量%以上0.6質量%以下である。Sbの含有量をこの範囲とすることで、はんだ合金の延性と強度とを更に向上させ、接合部のヒートサイクル耐性と耐落下衝撃性とを更に向上させることができる。
【0040】
(3)In
本実施形態のはんだ合金は、0.05質量%以上1質量%以下のInを含むことにより、接合部を強化させ、また、延性を向上させることができる。また、はんだ合金の液相線温度を低下させることもできる。
【0041】
一方で、Inの含有量が0.05質量%未満であると、接合部の析出強化が不十分となる虞がある。また、Inの含有量が1質量%を超えると、InSbが粗大化するため、接合部の延性を阻害する虞がある。
【0042】
Inの好ましい含有量は、0.05質量%以上0.5質量%以下である。また、更に好ましいInの含有量は、0.05質量%以上0.3質量%以下である。Inの含有量をこの範囲とすることで、はんだ合金の延性と強度とを更に向上させ、接合部のヒートサイクル耐性と耐落下衝撃性とを更に向上させることができる。
【0043】
本実施形態のはんだ合金には、更に、P、GaおよびGeから選ばれる1種以上を合計で0.001質量%以上0.05質量%以下含有させることができる。
P、GaおよびGeから選ばれる1種以上をはんだ合金に添加することにより、はんだ合金の酸化を抑制し、また、はんだ合金の濡れ性を向上できるため、信頼性の高い接合部を提供することが可能となる。一方で、P、GaおよびGeから選ばれる1種以上の合計含有量が0.05質量%を超えると、接合部内にボイドが発生し、ヒートサイクル耐性が悪化する虞がある。
【0044】
本実施形態のはんだ合金には、更に、Mn、Ti、Al、Cr、VおよびMoから選ばれる1種以上を合計で0.001質量%以上0.05質量%以下含有させることができる。
Mn、Ti、Al、Cr、VおよびMoから選ばれる1種以上をはんだ合金に添加することにより、接合部内の金属間化合物が更に微細化するため、クラックの進展を抑制することができ、良好なヒートサイクル耐性を実現することができる。一方で、Mn、Ti、Al、Cr、VおよびMoから選ばれる1種以上の合計含有量が0.05質量%を超えると、接合部内にボイドが発生し、ヒートサイクル耐性が悪化する虞がある。
【0045】
本実施形態のはんだ合金の残部は、Snと不可避不純物とからなる。なお、本実施形態のはんだ合金は、不可避不純物以外の鉛を含まないものである。
【0046】
また、本実施形態のはんだ合金は、上記の合金組成および含有量を満たし、且つ、液相線温度が170℃以下であることが好ましい。
【0047】
上述の通り、はんだ付時の加熱温度は、はんだ合金の溶融温度に基づき設定され、溶融温度+20℃以上とすることが一般的である。そして、上記加熱温度を190℃まで下げると、被接合材、特に、プリント配線基板や電子部品における熱的負荷による変形(反り)の発生を大幅に低減できると言われている。
【0048】
そして、はんだ合金の液相線温度が170℃以下の場合、190℃の加熱温度ではんだ付を行っても、はんだ合金を十分に溶融させることができる。従って、この場合、熱的負荷による、プリント配線基板や電子部品、特に、小型化・薄型化されたプリント配線基板や電子部品の変形と、この変形を起因とする被接合部と接合部との接合不良の発生とを抑制することができる。また、未溶融はんだの発生を抑制することができるため、信頼性の高い接合部を提供することができる。
【0049】
なお、上述するはんだ合金の液相線温度の測定は、JIS Z3198-1:2014に準拠し、示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry)方法に準じ、昇温速度を2℃/min、サンプル量を10mgとして実施する。
【0050】
2.接合材
本実施形態の接合材は、本実施形態のはんだ合金を含むものであり、後述するソルダペースト、はんだボール、ワイヤー、ソルダプリフォーム、やに入りはんだ等の形態で使用することができる。
前記接合材の形態は、接合する被接合材の大きさ、種類および用途、並びにはんだ接合方法等によって適宜選択し得る。
そして、本実施形態の接合材は、本実施形態のはんだ合金を含むことにより、良好なヒートサイクル耐性および耐落下衝撃性を有する接合部を形成できる。
【0051】
3.ソルダペースト
本実施形態のソルダペーストは、本実施形態のはんだ合金からなる粉末(以下、「合金粉末」という。)を含むものであり、例えば、前記合金粉末と、フラックスとを混練してペースト状にすることにより作製される。
【0052】
<フラックス>
前記フラックスは、例えば、ベース樹脂と、チクソ剤と、活性剤と、溶剤とを含む。
【0053】
前記ベース樹脂としては、例えば、ロジン系樹脂;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸の各種エステル、メタクリル酸の各種エステル、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸のエステル、無水マレイン酸のエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、塩化ビニル、酢酸ビニル等の少なくとも1種のモノマーを重合してなるアクリル樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂等が挙げられる。これらは、単独でまたは複数を組合せて用いることができる。
【0054】
前記チクソ剤としては、例えば、硬化ヒマシ油、水素添加ヒマシ油、ビスアマイド系チクソ剤(飽和脂肪酸ビスアマイド、不飽和脂肪酸ビスアマイド、芳香族ビスアマイド等)、オキシ脂肪酸類、ジメチルジベンジリデンソルビトール等が挙げられる。これらは、単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
【0055】
前記活性剤としては、例えば、有機酸(モノカルボン酸、ジカルボン酸、その他の有機酸)、ハロゲンを含む化合物、アミン系活性剤等が挙げられる。これらは、単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
【0056】
前記溶剤としては、例えば、アルコール系、ブチルセロソルブ系、グリコールエーテル系、エステル系等の溶剤が挙げられる。これらは、単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
【0057】
また、前記フラックスには、酸化防止剤を配合することができる。この酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリマー型酸化防止剤等が挙げられる。
また、前記フラックスには、更につや消し剤、消泡剤等の添加剤を加えてもよい。
【0058】
本実施形態のソルダペーストを作製する場合の、前記合金粉末と、フラックスとの配合比(質量%)は、合金粉末:フラックスの比で65:35から95:5とすることができる。また、例えば、上記配合比を、85:15から93:7や、87:13から92:8とすることもできる
【0059】
なお前記合金粉末の粒子径は、1μm以上40μm以下とすることができる。また、上記粒子径を、5μm以上35μm以下、10μm以上30μm以下とすることもできる。
【0060】
そして、本実施形態のソルダペーストは、前記合金粉末を含むことにより、良好なヒートサイクル耐性および耐落下衝撃性を有する接合部を形成できる。
【0061】
4.接合部
本実施形態の接合部は、本実施形態のはんだ合金、接合材(ソルダペーストを含む。)を用いて形成され、被接合材同士を接合するものである。
本実施形態の接合部の形成方法は、本実施形態のはんだ合金、接合材およびソルダペーストを用いて形成し得るものであればよく、リフロー方式、フロー方式等、いずれの方法も採用することができる。また、使用する接合材も、接合する被接合材の大きさ、種類および用途、並びに形成方法等によって適宜選択し得る。
【0062】
5.接合構造体
本実施形態の接合構造体は、第1の被接合材と、接合部と、第2の被接合材とを備える。前記接合部は、本実施形態の接合部であり、前記第1の被接合材と、前記第2の被接合材とを接合している。
【0063】
前記第1の被接合材および前記第2の被接合材の組み合わせとしては、例えば、基板(表面がセラミック、金属、合金または樹脂のいずれかからなるものであって、電子回路が形成されていないもの)、プリント配線基板(電子回路が形成された基板であって、電子部品等が搭載されていないもの)、プリント回路基板(電子部品等が搭載されたプリント配線基板)、電子部品、シリコンウエハ、半導体パッケージ、半導体チップ等から選ばれる2種以上が挙げられる。
具体的な組み合わせとしては、例えば、プリント配線基板と電子部品、プリント配線基板と半導体チップ、半導体パッケージとプリント回路基板、プリント配線基板とプリント配線基板等が挙げられる。
【0064】
また、本実施形態の接合構造体は、例えば、以下の方法にて作製される。
前記第1の被接合材としてプリント配線基板を、前記第2の接合材として電子部品を用いる場合、まず、前記第1の被接合材の所定位置、例えば、電子回路上に、本実施形態の接合材を載置(ソルダペーストの場合は、塗布)し、前記接合材上に前記第2の被接合材を載置する。そして、これらを所定の加熱温度、例えば、ピーク温度190℃にてリフローし、前記第1の被接合材と、前記第2の被接合材とを接合する接合部を形成する。これにより、本実施形態の接合構造体(プリント回路基板)が作製される。
【0065】
なお、前記接合材としてソルダプリフォームを用いる場合、表面にフラックスを塗布したソルダプリフォームを前記第1の被接合材の所定位置に載置し、前記ソルダプリフォーム上に前記第2の被接合材を載置して、加熱を行う。
また、前記第2の被接合材として、Ball Grid Array(BGA)のような、はんだボールを備える電子部品を用いる場合、BGAの表面や、前記第1の被接合材の所定位置にソルダペーストを塗布し、前記第1の被接合材の所定位置上に前記第2の被接合材を載置して、加熱を行う。
【0066】
そして、本実施形態の接合構造体は、本実施形態の接合部を有するため、良好なヒートサイクル耐性および耐落下衝撃性を実現できる。
【0067】
6.電子制御装置
本実施形態の電子制御装置は、本実施形態の接合構造体を備えるものであり、例えば、電子部品とプリント配線基板とが接合されたプリント回路基板が筐体内に配置されたものであって、電子機器を構成する部品の動作を制御する。
そして、本実施形態の電子制御装置は、本実施形態の接合構造体を備えるため、良好なヒートサイクル耐性および耐落下衝撃性を有し、高い信頼性を確保することができる。
【実施例
【0068】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳述する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
(1)引張試験
表1および表2に示す各はんだ合金それぞれについて、図1に示すような試験片10を作製した。
なお、試験片10は、中央平行部(図1のG1とG2の間)が以下となるように作製された。
・中央平行部の長さ(図1のL):12mm
・中央平行部の幅(図1のW):2mm
・中央平行部の厚み:4mm
【0072】
そして、試験片10について、以下の手順で引張試験を行った。
試験片10を、卓上形精密万能試験機(製品名:オートグラフAG-50kNX plus、(株)島津製作所製)を用いて、室温下にて、0.72mm/minのストロークで、破断するまでX方向に引っ張った。
そして、試験片10が破断したときのストローク距離をGL1、引っ張り前の試験片の中央平行部の長さLをGL0とし、以下の式に基づき、試験片10の伸び率を算出した。
伸び率(%)=(GL1-GL0)/GL0×100
1種のはんだ合金につき5本の試験片10を作製し、上記手順に従い、それぞれについて伸び率および伸び率の平均値を算出し、以下の基準に基づき評価した。その結果を表3および表4に示す。
◎:伸び率の平均値が、35%以上である
○:伸び率の平均値が、30%以上、35%未満である
△:伸び率の平均値が、25%以上、30%未満である
×:伸び率の平均値が、25%未満である
【0073】
(2)落下衝撃試験
以下の各成分を混練したフラックスと、表1および表2に示すはんだ合金の粉末(粉末粒径20μmから38μm)とを、以下の配合比(質量%)にてそれぞれ混練し、各ソルダペーストを作製した。なお、はんだ合金の粉末は、アトマイズ法により作製した。
鉛フリーはんだ合金の粉末:フラックス=89:11
<フラックスの組成>
・水添酸変性ロジン(製品名:KE-604、荒川化学工業(株)製):49質量%
・活性剤(グルタル酸:0.3質量%、スベリン酸:2質量%、マロン酸:0.5質量%、ドデカン二酸:2質量%、ジブロモブテンジオール:2質量%)
・脂肪酸アマイド(製品名:スリパックスZHH、日本化成(株)製):6質量%
・ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル:35.2質量%
・ヒンダードフェノール系酸化防止剤(製品名:イルガノックス245、BASFジャパン(株)製):3質量%
【0074】
また、以下の用具を準備した。
・LGA(Land Grid Array、ピッチ幅:0.5mm、サイズ:縦12mm×横12mm×厚さ1mm、端子数:228ピン)
・ガラスエポキシ基板(基材:FR-4、表面処理:Cu-OSP、厚み:1.0mm、上記LGAを実装できるパターンを有するもの)
・メタルマスク(厚さ:100μm、上記パターンに対応するもの)
ソルダペーストごとに、前記ガラスエポキシ基板を5枚と、20個のLGAを使用した。
そして、上記用具および各ソルダペーストを用い、以下の手順にて、各試験基板を作製し、落下衝撃試験を行った。
【0075】
まず、メタルマスクを用い、ガラスエポキシ基板上にソルダペーストを印刷した。そして、印刷されたソルダペースト上の所定の位置に、ガラスエポキシ基板1枚につき4個のLGAを載置した。なお、ソルダペーストの印刷膜厚は、メタルマスクにより調整した。
そして、LGAを載置したガラスエポキシ基板を、リフロー炉(製品名:TNV-M6110CR、(株)タムラ製作所製)を用いてリフローし、LGAと、ガラスエポキシ基板と、これらを接合する接合部とを有する試験基板を作製した。
なお、上記リフローは、プリヒートを100℃から120℃、ピーク温度を185℃、150℃以上の時間が60秒間、ピーク温度から100℃までの冷却速度を1℃から4℃/秒とした。また、酸素濃度は200±100ppmに設定した。
【0076】
次に、作製した試験基板について、落下衝撃試験機(製品名:HDST-150J、神栄テクノロジー(株))を用い、以下の条件にて落下衝撃試験を行った。
即ち、JEDEC規格JESD22-B111に準拠して、試験基板を加速度1,500G、幅0.5msの衝撃波形が負荷される高さから繰り返し自由落下させた。落下衝撃試験中は、試験基板の各接合部の電気抵抗を常時観察し、抵抗値が1,000Ωを超えた時点で破断と判断し、破断に至るまでの落下回数を測定した。
なお、ソルダペースト1種ごとに試験基板を5つ作製し、合計20個のLGAについて、上記測定結果をワイブルプロットし、累積故障率が63.2%における落下回数を特性寿命と推定し、以下の基準にて評価した。その結果を表3および表4に示す。
◎:特性寿命が110回以上である
○:特性寿命が、90回以上、110回未満である
△:特性寿命が、70回以上、90回未満である
×:特性寿命が、70回未満である
【0077】
(3)ヒートサイクル試験
以下の用具を用意した。
・チップ部品(3.2mm×1.6mm)
・ガラスエポキシ基板(基材:FR-4、表面処理:Cu-OSP、厚み:1.2mm、上記チップ部品を実装できるパターンを有するもの)
・メタルマスク(厚さ:120μm、上記パターンに対応するもの)
ソルダペーストごとに、前記ガラスエポキシ基板を3枚と、30個のチップ部品を使用した。
そして、上記用具および各ソルダペーストを用い、以下の手順にて、各試験基板を作製し、ヒートサイクル試験を行った。
【0078】
まず、メタルマスクを用い、ガラスエポキシ基板上にソルダペーストを印刷した。そして、印刷されたソルダペースト上の所定の位置に、ガラスエポキシ基板1枚につき10個のチップ部品を載置した。なお、ソルダペーストの印刷膜厚は、メタルマスクにより調整した。
そして、チップ部品を載置したガラスエポキシ基板を、リフロー炉(製品名:TNV-M6110CR、(株)タムラ製作所製)を用いてリフローし、チップ部品と、ガラスエポキシ基板と、これらを接合する接合部とを有する実装基板を作製した。
なお、上記リフローは、プリヒートを100℃から120℃、ピーク温度を185℃、150℃以上の時間が60秒間、ピーク温度から100℃までの冷却速度を1℃から4℃/秒とした。また、酸素濃度は200±100ppmに設定した。
【0079】
次に、冷熱衝撃試験装置(製品名:ES-76LMS、日立アプライアンス(株)製)を用い、-40℃(30分間)から125℃(30分間)を1サイクルとする設定条件にて、各実装基板を以下の通り冷熱衝撃サイクルに晒し、試験基板aからcを作製した。
a:上記冷熱衝撃サイクルを2,000サイクル繰り返す環境下に晒した試験基板
b:上記冷熱衝撃サイクルを2,250サイクル繰り返す環境下に晒した試験基板
c:上記冷熱衝撃サイクルを2,500サイクル繰り返す環境下に晒した試験基板
【0080】
各試験基板aからcの対象部分を切り出し、これをエポキシ樹脂(製品名:HERZOGエポ低粘度樹脂(主剤及び硬化剤)、ハルツォク・ジャパン(株)製)を用いて封止した。
そして、湿式研磨機(製品名:TegraPol-25、丸本ストルアス(株)製)を用いて、各試験基板に実装された各チップ部品の中央断面が分かるような状態とし、走査電子顕微鏡(製品名:TM-1000、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、各試験基板aからc上の各接合部の状態を観察し、接合部を完全に横断しているクラックの有無を確認し、以下の基準に従い評価した。その結果を表3および表4に示す。
◎:試験基板aからcの全てにおいて、接合部を完全に横断するクラックは発生しなかった
○:試験基板aおよびbにおいて、接合部を完全に横断するクラックは発生しなかった
△:試験基板aにおいて、接合部を完全に横断するクラックは発生しなかった
×:試験基板aからcの全てにおいて、接合部を完全に横断するクラックが発生した
【0081】
(4)液相線温度測定
各はんだ合金について、示差走査熱量測定装置(製品名:DSC Q2000、TA Instruments社)を用いて液相線温度を測定した。その結果を表3および表4に示す。なお、液相線温度の測定条件(昇温速度)は、2℃/minとし、測定に使用するサンプル量は、10mgとした。
【0082】
【表3】
【0083】
【表4】
【0084】
以上の通り、本実施例のはんだ合金は、Bi、Sb、InおよびSnを所定量含むことにより、液相線温度を低下させつつ、(1)引張試験、(2)落下衝撃試験および(3)ヒートサイクル試験のいずれにおいても、良好な結果を示す接合部を形成できる。
ここで、自動車が対象物に衝突した際のひずみ速度は、10-3(s-1)から10(s-1)と言われている。そして、(1)引張試験においては、GL0が12mmの試験片を0.72mm/minのストロークで引っ張っているため、これをひずみ速度に換算すると、10―3(s-1)となる。
このように、本実施例のはんだ合金は、自動車が対象物に衝突した際のひずみ速度に匹敵するような負荷を与えた場合においても、良好な耐性、即ち、良好な強度と延性とを有する接合部を形成できることが分かる。
【0085】
このように、本実施例のはんだ合金は、優れたヒートサイクル耐性および耐落下衝撃性を有する信頼性の高い接合部を形成することができる。また、このような接合部を有する電子制御装置および電子機器は、高い信頼性を発揮することができる。
【0086】
また、本実施例のはんだ合金は、液相線温度を170℃以下とすることができるため、185℃のピーク温度でのリフローでも接合不良を抑制することができる。
【符号の説明】
【0087】
10 試験片

【要約】
ヒートサイクル耐性および耐落下衝撃性を有する接合部を形成できるはんだ合金であって、45質量%以上63質量%以下のBiと、0.1質量%以上0.7質量%未満のSbと、0.05質量%以上1質量%以下のInとを含み、残部がSnおよび不可避不純物であり、液相線温度が170℃以下である、はんだ合金。

図1