(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】軟性球体搬送装置及び組換えタンパク質の製造方法
(51)【国際特許分類】
B65G 47/84 20060101AFI20221128BHJP
A01K 63/00 20170101ALI20221128BHJP
C12P 21/00 20060101ALI20221128BHJP
B07C 5/34 20060101ALI20221128BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20221128BHJP
【FI】
B65G47/84 C
A01K63/00 Z
C12P21/00 C
B07C5/34
C12M1/00 A
(21)【出願番号】P 2019005019
(22)【出願日】2019-01-16
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】都築 祥子
【審査官】山▲崎▼ 歩美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0178646(US,A1)
【文献】特開2005-027626(JP,A)
【文献】特開2006-325429(JP,A)
【文献】特開平04-292324(JP,A)
【文献】特開2012-085571(JP,A)
【文献】特許第5647005(JP,B2)
【文献】特許第5823112(JP,B2)
【文献】特許第5787432(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 47/84
A01K 63/00
C12P 21/00
B07C 5/34
C12M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟性球体が導入される水槽と、
前記水槽内に回転可能に配置され、軟性球体を収容すべく幅方向に貫通される収容溝部が周縁部に沿って複数形成された搬送回転部材と、
前記搬送回転部材の回転により針刺し部に搬送される軟性球体に針を刺して所定の物質を注入する注入装置と、を備え、
前記水槽は、前記搬送回転部材の収容溝部に軟性球体が1つずつ入るように幅方向で対向する両側壁を備え、
前記両側壁の前記針刺し部に対応する部分における幅方向の少なくとも一方に、軟性球体の直径以下の寸法の幅を有する狭幅部を備えていることを特徴とする軟性球体搬送装置。
【請求項2】
前記搬送回転部材が、周方向の所定ピッチで間欠駆動回転可能に構成され、前記搬送回転部材の前記針刺し部における前記収容溝部の停止位置が前記針よりも回転方向前方寄りになるように、該搬送回転部材が間欠駆動されていることを特徴とする請求項1に記載の軟性球体搬送装置。
【請求項3】
前記搬送回転部材が、周方向の所定ピッチで間欠駆動回転可能に構成され、前記針刺し部で停止する前記搬送回転部材の前記収容溝部に対する前記針刺し部の針の位置が回転方向後方寄りになるように、該針が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の軟性球体搬送装置。
【請求項4】
前記狭幅部が、前記両側壁の幅方向両側から内方へ突出する一対の突出部から構成されていることを特徴とする請求項1~3のうちのいずれか1項に記載の軟性球体搬送装置。
【請求項5】
前記各突出部の少なくとも搬送方向上流側に、下流側に向かうほど内方へ突出する傾斜面を備えていることを特徴とする請求項4に記載の軟性球体搬送装置。
【請求項6】
請求項1~請求項5に記載の軟性球体搬送装置により搬送される軟性球体である魚卵を回収する回収ステップと、
前記回収ステップにより回収された魚卵を恒温槽に所定時間入れて遺伝子組換えを行う遺伝子組換えステップと、
前記遺伝子組換えステップによりタンパク質ができている魚卵を選別する発現卵選別ステップと、
前記発現卵選別ステップで取り出した魚卵をすり潰して遠心分離器にかけることでタンパク質を抽出する抽出工程と、
を備えている組換えタンパク質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水槽内において例えば魚卵等の軟性球体を搬送する軟性球体搬送装置及び組換えタンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、受精卵に遺伝子を注入することにより組換えタンパク質などの目的物質を遺伝子工学技術を用いて生産する技術分野において、ゼブラフィッシュなどの小型魚卵の利用が有益であることが知られている。例えば、ゼブラフィッシュを利用して目的物質を得ようとする場合、直径が0.9mm~1.3mmという球状の受精卵への精密な遺伝子溶液(ベクター)の注入が必要であるが、受精卵にダメージを与えにくいように、先端が数~数十μmの直径の極細な針を用いて、受精卵の卵膜を貫通して胚の内部に針先を差し込み、遺伝子溶液を注入するマイクロインジェクション技術が知られている。
【0003】
この分野では、手作業や手動操作で手振れを防ぐマニュピレータなどを用いてのマイクロインジェクション作業が一般的な方法となっているが、実用的な目的物質の量の取得のために必要となる数量の受精卵を処理することは困難であり、注入作業も精度と安定性が限られたものとなっている。そこで、下記3つの先行技術にあるような自動化を目指す試みが種々行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5647005号公報
【文献】特許第5823112号公報
【文献】特許第5787432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の受精卵は、例えば約30分毎といったように、頻繁に細胞分裂が進むため、迅速に遺伝子を導入し目的の受精卵を得るためには、受精卵の処理の効率がより高い状態で行うことが目的とされる。すなわち、上記特許文献に挙げた従来の技術は、所定の容器の使用等に処理の速度が拘束されてしまうという、所謂バッチ処理を想定してなされた技術であるため、受精卵が加工に適した状態で常に処理が行えるというものではない。
【0006】
そこで、本発明の発明者は、魚卵の所定の処理をより高い効率にて行い得るような魚卵の搬送方法について研究して、魚卵が導入される水槽内に、複数の収容溝部が周囲に形成された搬送回転部材を配置し、魚卵を搬送回転部材の収容溝部へ案内することにより、収容溝部内に位置決めされた魚卵に対して所定の処理をより高い効率にて行い得ることを見出した。
【0007】
具体的には、
図11及び
図12に示すように、上端近傍まで水が満たされた水槽8の内部に、間欠的に回転する搬送回転部材61を配置し、遺伝子注入部5を水槽8の上方に配置する。水槽8は、魚卵eを収容すべく内部の厚み寸法を魚卵eが複数個並列し得ない寸法に設定されている。搬送回転部材61の周縁部には、魚卵eを1つずつ収容する収容溝部61aが複数設けられている。したがって、水槽8内に導入された魚卵eは、案内ガイド60により搬送回転部材61の周縁部へ案内され、魚卵eが1つずつ搬送回転部材61の収容溝部61aに供給される。遺伝子注入部5は、搬送回転部材61の収容溝部61aにより1つずつ分離搬送される魚卵eに対して針を刺して遺伝子溶液を注入する。
【0008】
上記構成の水槽8の両側壁の内面と収容溝部61aとで形成される収容部内に容易に入り込むように該収容部の大きさを魚卵eの直径よりも一回り大きく設定している。そのため、収容部内に収容した魚卵eを搬送しているときに、収容部内を不測に移動してしまう。その結果、搬送される魚卵eに対して遺伝子溶液を注入するときに、収容部内の所定位置に魚卵eが位置していないことから、針を魚卵eの中心部(具体的には、胚)に確実に刺すことができず、魚卵eに遺伝子溶液を注入することができない場合がある。
【0009】
そこで本発明は、針を魚卵等の軟性球体に安定して刺すことができる軟性球体搬送装置及び組換えタンパク質の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の軟性球体搬送装置は、軟性球体が導入される水槽と、前記水槽内に回転可能に配置され、軟性球体を収容すべく幅方向に貫通される収容溝部が周縁部に沿って複数形成された搬送回転部材と、前記搬送回転部材の回転により針刺し部に搬送される軟性球体に針を刺して所定の物質を注入する注入装置と、を備え、前記水槽は、前記搬送回転部材の収容溝部に軟性球体が1つずつ入るように幅方向で対向する両側壁を備え、前記両側壁の前記針刺し部に対応する部分における幅方向の少なくとも一方に、軟性球体の直径以下の寸法の幅を有する狭幅部を備えていることを特徴としている。
【0011】
本発明によれば、両側壁の針刺し部に対応する部分における幅方向の少なくとも一方に、軟性球体の直径以下の寸法の幅を有する狭幅部を備えることによって、収容溝部内の軟性球体を狭幅部で幅方向に移動しないようにできるので、針を軟性球体に安定して刺すことができる。
【0012】
また、本発明の軟性球体搬送装置は、前記搬送回転部材が、周方向の所定ピッチで間欠駆動回転可能に構成され、前記搬送回転部材の前記針刺し部における前記収容溝部の停止位置が前記針よりも回転方向前方寄りになるように、該搬送回転部材が間欠駆動されていてもよい。
【0013】
上記搬送回転部材の回転により収容溝部に収容されて移動する軟性球体は、収容溝部の回転方向後端に押し付けられた状態で搬送される。そのため、収容溝部に収容された軟性球体の中心部が回転方向後方寄りに位置してしまう。そこで、搬送回転部材の針刺し部における収容溝部の停止位置が、前記針よりも回転方向前方寄りになるように該搬送回転部材を間欠駆動することによって、針が収容溝部に収容された軟性球体の中心を刺しやすくなる。
【0014】
また、本発明の軟性球体搬送装置は、前記搬送回転部材が、周方向の所定ピッチで間欠駆動回転可能に構成され、前記針刺し部で停止する前記搬送回転部材の前記収容溝部に対する前記針刺し部の針の位置が回転方向後方寄りになるように、該針が配置されていてもよい。
【0015】
上記搬送回転部材の回転により収容溝部に収容されて移動する軟性球体は、収容溝部の回転方向後端に押し付けられた状態で搬送される。そのため、収容溝部に収容された軟性球体の中心部が回転方向後方寄りに位置してしまう。そこで、針刺し部で停止する搬送回転部材の収容溝部に対する針刺し部の針の位置が、回転方向後方寄りになるように針を配置することによって、針が収容溝部に収容された軟性球体の中心を刺しやすくなる。
【0016】
また、本発明の軟性球体搬送装置は、前記狭幅部が、前記両側壁の幅方向両側から内方へ突出する一対の突出部から構成されていてもよい。
【0017】
上記のように、狭幅部が、両側壁の幅方向両側から内方へ突出する一対の突出部から構成されていれば、軟性球体が搬送されるラインを幅方向に偏向させず、一定にすることができる。
【0018】
また、本発明の軟性球体搬送装置は、前記各突出部の少なくとも搬送方向上流側に、下流側に向かうほど内方へ突出する傾斜面を備えていてもよい。
【0019】
上記のように、各突出部の少なくとも搬送方向上流側に、下流側に向かうほど内方へ突出する傾斜面を備えていれば、軟性球体が突出部の搬送方向上流端に引っかかることがなく、スムーズに一対の突出部間に案内される。
【0020】
また、本発明は、前記軟性球体搬送装置により搬送される軟性球体である魚卵を移送容器により回収する回収ステップと、前記回収ステップにより移送容器に回収された魚卵を恒温槽に移送し、所定時間入れて遺伝子組換えを行う遺伝子組換えステップと、前記遺伝子組換えステップによりタンパク質ができている魚卵を選別する発現卵選別ステップと、前記発現卵選別ステップで取り出した魚卵をすり潰して遠心分離器にかけることでタンパク質を抽出する抽出工程と、を備えている組換えタンパク質の製造方法であってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、両側壁の針刺し部に対応する部分における幅方向の少なくとも一方に、軟性球体の直径以下の寸法の幅を有する狭幅部を備えることによって、収容溝部内の軟性球体を狭幅部で幅方向に移動しないようにできるので、針を魚卵等の軟性球体に安定して刺すことができる軟性球体搬送装置及び組換えタンパク質の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の軟性球体搬送装置を含む軟性球体処理装置のブロック図である。
【
図3】同装置を構成する飼育水槽から軟性球体を採取する装置の側面図である。
【
図4】同装置を構成する不要物分離部の側面図である。
【
図7】同装置を構成する針刺し部の要部の拡大側面図である。
【
図8】同装置を構成する針刺し部の収容溝部の周辺の拡大側面図である。
【
図11】従来の針刺し部の収容溝部の周辺の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る軟性球体搬送装置(ここでは、魚卵搬送装置である)を備える魚卵処理装置である遺伝子注入装置1のブロック図を
図1に示し、この遺伝子注入装置1は、飼育水槽Bから採取される魚卵eである受精卵に対して、速やかに所定の物質である遺伝子を含んだ遺伝子溶液Gを針を刺して注入するための装置である。そして、遺伝子溶液Gが注入された魚卵eは、その後、細胞分裂が繰り返されるとともに注入された遺伝子の塩基配列に由来するタンパク質が合成される。その合成されたタンパク質は、所定のタイミングにて採取、抽出、精製され、例えば創薬の研究や量産に利用される。
【0024】
遺伝子注入装置1は、
図1~
図5に示すように、飼育水槽Bに連続する採卵搬送部2と、搬送された魚卵eを飼育水w並びに排泄物や残餌といった不要物bg、sgに対して分離する不要物分離部3と、不要物bg、sgから分離された魚卵eを主に振動によって搬送する振動搬送部4と、振動搬送部4により搬送された魚卵eを所定の状態に整列させながら搬送する整列搬送部6と、整列搬送部6により搬送されている魚卵eに針を刺して遺伝子溶液Gを注入する針刺し部である遺伝子注入部5と、遺伝子溶液Gが注入された魚卵eを効率良く採取するための選別回収部7と、を有している。また本実施形態では、遺伝子注入部5及び整列搬送部6並びに選別回収部7は、
図6に示すように、平面視概略T字状の加工用水槽8に配置される。
【0025】
また本実施形態では、魚卵eの一例として直径1mm程度の略球形状のゼブラフィッシュの卵を利用している。なお、魚は脊椎動物であるために遺伝子導入により創薬に利用し得る態様のタンパク質を得やすく、特にゼブラフィッシュは、飼育水槽Bから効率良く受精卵である魚卵eを得やすい種として知られている。
【0026】
以下、遺伝子注入装置1の各部の構成について説明していく。
【0027】
採卵搬送部2は、
図2及び
図3に示すように、例えば複数並列され且つ上下方向に多段に配置された飼育水槽Bから効率良く魚卵eを採取すべくスロープ状に構成された水樋状の通路である。この採卵搬送部2は、飼育水槽Bからは魚卵eのみならず、魚を飼育していた飼育水wも同時に搬送され、これらは一度タンクTへ収容された後、ポンプPにより上昇させられ、不要物分離部3へと案内される。具体的には、魚卵e並びに飼育水wが上方から落下され落下エネルギーが付与された状態で不要物分離部3へ案内される。タンクTは、集配した魚卵e並びに飼育水wの一時的なクッション槽としての働きをなすとともに、図示例では内部で例えば螺旋状の水流が発生することにより、滞りなくポンプPにより給水することができる。また具体的な態様として、タンクT内の下限水位検出により、ポンプPの空送りでの破損・減耗を防止するとともに、上限水位検出により、オーバーフロー検出を行う。オーバーフローが実際に起こった場合には、図示しない飼育水槽Bへの配管を介して飼育水wを飼育水槽Bに戻す。なお、飼育水槽Bを十分高い位置にレイアウトでき、当該飼育水槽Bから魚卵eの不要物分離部3への自由落下が可能な場合は、タンクT並びにポンプPを省略してもよい。なお、
図3では、
図2に示すタンクTとポンプPを省略している。
【0028】
不要物分離部3は、
図4に具体的に示すように、魚卵eを通過させ魚卵eよりも大きな不要物bgを採取し排除するための第一の網装置31と、振動搬送部4に支持されつつ魚卵eが通過し得ない網目を有する第二の網装置32と、この第二の網装置32にある魚卵eに対し浄水cwを噴射する浄水噴射手段33とを有している。本実施形態では第二の網装置32を通過若しくは第二の網装置32への衝突で破砕した飼育水wは、例えば魚卵eよりも小さく第二の網装置32を通過した小さな不要物sgに対し更に分離され、飼育水槽Bへ再び導入される構成を適用している。また、本実施形態では浄水噴射手段33は、振動搬送部4により魚卵eが搬送される方向に沿って浄水cwを魚卵eに噴射することにより、魚卵eの搬送をより速やかに行うためのものである。すなわち本実施形態では、第二の網装置32を通過し、細菌、微生物等が混入している可能性がある飼育水wを加工用水槽8に配置された加工装置には導入させない構成が適用されている。ここで、本実施形態における浄水cwとは、蒸留水や水道水のみならず、前記飼育水wよりも汚れが少ない水のことである。
【0029】
振動搬送部4は、第二の網装置32に所定の振動を与えることにより、魚卵eを加工用水槽8へと案内するためのものである。振動搬送部4によって振動が加えられた魚卵eは、加工用水槽8へ向けて速やか且つ効率良く搬送され投入される。
【0030】
ここで
図5及び
図6に示すように、本実施形態では遺伝子注入部5、整列搬送部6及び選別回収部7は、加工用水槽8に設けられている。具体的には、遺伝子注入部5は、加工用水槽8の上方に、整列搬送部6及び選別回収部7は、加工用水槽8の内部に配置されている。また、
図2及び
図5に示すように、加工用水槽8の上端近傍まで水が満たされた状態となっている。なお、
図2及び
図5に記載の符号Fが、水の上面である。
【0031】
加工用水槽8は、例えば合成樹脂材料やガラス材料等で構成され、採取された魚卵eを加工するためのものであり、魚卵eに所定の物質を注入する遺伝子注入部5及び整列搬送部6を設けてなるものである。具体的に説明すると、加工用水槽8は、
図6に示すように、加工前の魚卵eを1つずつ収容すべく搬送幅方向(以下、単に幅方向とする)で対向する一対の側壁8A,8A(
図8~
図10参照)の内面同士の間隔が設定された加工前領域81と、所定の加工処理が施された魚卵eを収容するための加工後領域82とを有する。詳細には加工用水槽8は、両側壁8A,8Aの内面同士の間隔(距離)を魚卵eが幅方向で複数個並列し得ない寸法に設定された加工前領域81及び加工後領域82が連続した平面視概略T字状の形状をなす。また本実施形態では、魚卵eに針を刺して遺伝子溶液Gを注入する注入位置(加工位置)Kを少なくとも視認可能とすべく、当該注入位置Kにおける加工用水槽8の部分を透明な合成樹脂材料やガラス材料等により構成している。前記搬送幅方向とは、搬送方向と直交する方向であり、
図6では紙面の上下方向である。
【0032】
整列搬送部6は、
図7に示すように、加工前領域81に導入された魚卵eを遺伝子注入部5により処理が行い易い状態とすべく整列されるためのものである。整列搬送部6は、円盤形状をなし周囲に所定ピッチ(ここでは、等ピッチ)にて形成された複数の収容溝部63を設けた円盤体でなる搬送回転部材61と、この搬送回転部材61に向かって浄水cwを噴射するための整列用ポンプ62とを有している。この整列用ポンプ62による浄水cwにより、加工前領域81の搬送方向上流端部に設けたガイド76上に導入される魚卵eがスムーズに搬送回転部材61へ案内され、収容溝部63内に位置決めされる。ガイド76は、搬送方向下流側ほど下方に位置する傾斜面を有する。そして、本実施形態では
図6に示すように、搬送回転部材61は、モータドライバDを介してACサーボモータMが駆動されることにより精密に回転制御が行われている。上記モータドライバDは、制御装置Eにより制御されている。魚卵eを一個ずつ配列し搬送し得る形状であれば、例えば無限軌道を構成し得るベルト状やチェーン状をなすものであってもよい。各収容溝部63は、搬送回転部材61の幅方向に貫通された凹状の溝から構成されており、両側壁8A,8Aによって各収容溝部63に収容された魚卵eの幅方向への移動が規制される。つまり、両側壁8A,8Aの内面と、収容溝部63とで、魚卵eを収容するための収容部が形成される。なお、搬送回転部材61の幅方向の寸法は、後述する狭幅部9,9間を通過できるように、狭幅部9,9間よりも小さい幅寸法に構成されている。
【0033】
搬送回転部材61は、前述の制御装置Eにより制御されるACサーボモータMにより周方向の所定ピッチ(ここでは、当ピッチ、実際には、回転方向で隣り合う収容溝部63間のピッチと同一ピッチ)で間欠駆動回転可能に構成されている。そして、ACサーボモータMが駆動される度に、収容溝部63が、遺伝子注入部5に対して所定位置に位置するように搬送回転部材61の回転が制御される。また、搬送回転部材61の遺伝子注入部(針刺し部)5における収容溝部63の停止位置が、後述するキャピラリ(針)51よりも回転方向前方寄りになるように搬送回転部材61をACサーボモータMにより間欠駆動している(
図8参照)。ここでは、ACサーボモータMの駆動を制御しているが、遺伝子注入部(針刺し部)5で停止する搬送回転部材61の収容溝部63に対する遺伝子注入部(針刺し部)5の後述するキャピラリ(針)51の位置が回転方向後方寄りになるように、キャピラリ(針)51を配置してもよい。
【0034】
前記のように、搬送回転部材61の回転により収容溝部63に収容されて移動する魚卵eは、収容溝部63の回転方向後端63Bに押し付けられた状態で搬送される(
図8、
図9参照)。そのため、収容溝部63に収容された魚卵eの中心(具体的には、胚e1の中心)が回転方向後方寄りに位置してしまう。そこで、前述のように、搬送回転部材61の遺伝子注入部(針刺し部)5における収容溝部63の停止位置がキャピラリ(針)51よりも回転方向前方寄りになるように、搬送回転部材61を間欠駆動することによって、キャピラリ(針)51が収容溝部63に収容された魚卵eの中心を刺しやすくなり、魚卵eにキャピラリ(針)51を確実に刺すことができる。なお、遺伝子注入部(針刺し部)5で停止する搬送回転部材61の収容溝部63に対する遺伝子注入部(針刺し部)5のキャピラリ(針)51の位置が回転方向後方寄りになるように、キャピラリ(針)51を配置した場合も、収容溝部63の停止位置が、キャピラリ(針)51よりも回転方向前方寄りになるように搬送回転部材61を間欠駆動する場合と同様の効果を奏する。
【0035】
遺伝子注入部5は、整列搬送部6によって搬送される魚卵eに遺伝子溶液Gを注入するための注入装置であり、魚卵eに直接遺伝子を注入する略針状のキャピラリ51と、このキャピラリ51に所定量の遺伝子を供給するためのシリンジポンプ52と、これらキャピラリ51並びにシリンジポンプ52の上下方向(Z方向)の位置決めを行うポジショナ53とを有し、このポジショナ53は前後左右方向(XY方向)へも位置調整可能とされている。そして上記キャピラリ51が、魚卵eに所定の物質を所定のタイミングで導入し得る管状をなす針に相当する。また、遺伝子注入部5で魚卵eに遺伝子溶液Gを注入する注入位置(加工位置)Kの前後所定領域には、収容溝部63に近接して魚卵eを閉じ込めるガイド10を設けている(
図8参照)。すなわち、魚卵eは、ガイド10の無い位置から収容溝部63に導入され、搬送回転部材61の回転に伴ってガイド10の下に潜り込むことで収容溝部63からの離脱が阻止される。また、例えば、注入位置(加工位置)Kでキャピラリ(針)51を下降させて魚卵eに刺して遺伝子の注入をした後、キャピラリ(針)51を上昇させる時にキャピラリ(針)51にくっ付いて上昇しようとする魚卵eをガイド10でキャピラリ(針)51から離脱させて収容溝部63に戻すことができる。なお、遺伝子を注入した後は、ガイド10の無い位置に到達して魚卵eが収容溝部63から離脱可能な状態となる。
【0036】
図8~
図10に示すように、加工前領域81の両側壁8A,8Aの遺伝子注入部(針刺し部)5に対応する部分の幅方向両側に、魚卵eの直径以下の寸法の幅を有する狭幅部9,9を備えている。狭幅部9,9は、両側壁8A,8Aの幅方向両側から内方へ突出する一対の突出部から構成されている。各突出部9は、搬送方向中央に位置し、かつ、平坦面91Aを有する突出本体部91と、突出本体部91の搬送方向上流側に下流側に向かうほど内方へ突出する直線状の第1傾斜面92Aを有する第1案内部92を備え、かつ、搬送方向下流側に下流側に向かうほど外側へ退避する直線状の第2傾斜面93Aを有する第2案内部93を備えている。ここでは、魚卵eの直径が、0.9mm~1.3mmに対して最小直径の0.9mmの幅寸法になるように狭幅部9,9間の距離(平坦面91A,91A間の距離)Lを設定している。この設定により、最小直径の魚卵eにも対応可能である。狭幅部9,9は、両側壁8A,8Aに一体成形してもよいし、また、別体成形した狭幅部9,9を両側壁8A,8Aに取り付けるようにしてもよい。
【0037】
上記のように、両側壁8A,8Aの遺伝子注入部(針刺し部)5に対応する部分の幅方向両側に、魚卵eの直径以下の寸法の幅を有する狭幅部9,9を備えることによって、収容溝部63内の魚卵eを狭幅部9,9で幅方向に移動しないようにできるので、キャピラリ(針)51を魚卵eの胚e1の中心e2(
図9参照)に安定して刺すことができる。また、狭幅部9,9を遺伝子注入部5にのみ設けてあるので、両側壁8A,8Aの全体に狭幅部9,9を設ける場合に比べて、狭幅部9,9を通過する魚卵eが傷付く可能性を低減できる。特に、狭幅部9,9の間隔よりも大きな魚卵eに対して有効となる。また、狭幅部9,9が、両側壁8A,8Aの幅方向両側から突出する一対の突出部から構成されているので、魚卵eが搬送されるラインを幅方向に偏向させず、一定にすることができる。更に、各突出部9の搬送方向上流側に、下流側に向かうほど突出する第1傾斜面92Aを備えているので、突出部9,9間の幅が下流側に向かって順次狭くなることで、魚卵eが突出部9の搬送方向上流端に引っかかることがなく、スムーズに一対の突出部9,9間に案内される。更にまた、各突出部9の搬送方向下流側に、下流側に向かうほど内方へ退避する第2傾斜面93Aを備えているので、魚卵eへの狭幅部9,9からの押し付け力を徐々に解除することができる。ここでは、第1傾斜面92A及び第2傾斜面93Aは、緩やかな円弧形状に形成してもよいし、直線状に形成してもよいし、滑らかな波型形状にしてもよく、第1傾斜面92A及び第2傾斜面93Aの形状は、魚卵eが引っかからない形状であれば、どのような形状にしてもよい。
【0038】
また、整列搬送部6から加工後領域82へ亘って遺伝子が注入された魚卵eを効率良く回収するための選別回収部7を有している。
【0039】
選別回収部7は、加工後の魚卵eを回収する回収装置或いは回収槽に相当する。この選別回収部7は、
図5及び
図6に示すように、加工後領域82に収容された回収槽たる回収容器71と、加工前領域81における加工後領域82近傍に設けられ搬送回転部材61へ向けて浄水cwを噴射する回収用ポンプ72と、加工装置を構成する遺伝子注入部5に正確に遺伝子を導入され得なかった魚卵eをNG卵排除経路を通じて加工用水槽8外へ排出するための分別部73と、加工用水槽8内において搬送回転部材61の下半分を覆うように設けられ魚卵eを加工前領域81から加工後領域82に通じるOK卵回収経路へと案内するためのガイド75とを有し、このガイド75に沿ってOK卵回収経路が構成されている。そして本実施形態に係る回収容器71は、加工後領域82に臨む部分にスリット74を設けることにより、加工前領域81から移動した魚卵eをスリット74を通して効率良く回収容器71内へ導入することができる。また本実施形態では、ガイド75の一部を回収容器71に入り込ませる形状とすることで、魚卵eを効率良く回収容器71へ案内することができる。
【0040】
分別部73は、排除用の水流付勢ポンプ(図示せず)、NG卵排除経路である付勢水入出力管(図示せず)、それを開閉する電磁弁(図示せず)から構成され、NG判定された魚卵eを収容した収容溝部63が排除位置まで送られたときに、電磁弁が開放されて、NG判定された魚卵eを水流で付勢して収容溝部63から離脱させ、付勢水入出力管に送り出して分別する。
【0041】
ここで本実施形態では、
図5、
図6及び
図7に示すように、加工用水槽8へ導入された魚卵eがより高い効率にて加工が行われるような構成を適用している。すなわち加工用水槽8における加工前領域81に導入された魚卵eは、整列用ポンプ62から噴射される浄水cwによりスムーズに収容溝部63へ案内される。そして、収容溝部63へ収容された魚卵eは、搬送回転部材61の回転によりキャピラリ51の直下まで順序が異なることなく移動する。ここで、加工前領域81およびOK卵回収経路に向かう部分の両側壁8A,8Aの幅は、加工位置Kを含めて魚卵eが二つ以上並び得ない寸法に設定され、且つ、加工前領域81およびOK卵回収経路に向かう両側壁8A,8Aの部分は、加工位置Kを含めて透明な部材により構成されている。すなわち、キャピラリ51の直下まで案内された魚卵eは、必ず一つずつ明確に視認された状態となる。そしてキャピラリ51は個々の魚卵eに対し、
図6に図示されたカメラCにて内部の胚e1(
図8参照)の位置が明確に視認され得る状態で配されるため、カメラC並びに遺伝子注入装置1が精密に制御されながら、当該胚e1へ正確に遺伝子を注入することができる。このとき、搬送回転部材61が概略円形状に構成され、収容溝部63が周方向で等ピッチ(当間隔)に配置されているため、制御装置Eによりキャピラリ51の直下に正確に収容溝部63が位置付けられるようになっている。ここで、もし魚卵eが遺伝子注入に適したものでない場合、あるいは遺伝子が正確に注入し得なかったことがカメラCにて視認できた場合、搬送回転部材61を所定角度回転させた箇所に設けられた分別部73を通過させ別途回収することができる。これにより、組換えが起こった可能性がある魚卵eが外部へ不要に漏れ出すことが回避されている。併せて、加工後領域82の下流には、高い割合で正確に遺伝子が注入された魚卵eが案内される。また更に、キャピラリ51により遺伝子が注入された魚卵eは、回収用ポンプ72から噴射される浄水cwにより確実に収容溝部63から離間させられる。そして、これら魚卵eは、スムーズに加工後領域82からOK卵回収経路へ案内され、スリット74を通過して回収容器71に収容されることとなる。なお、カメラCにて内部の胚e1(
図8参照)を撮像する際に、前記狭幅部9,9によって魚卵eが幅方向に移動しないようにしているので、カメラCにて魚卵eをより鮮明に撮像できる効果もある。
【0042】
また、本発明は、前記軟性球体搬送装置により搬送される軟性球体である魚卵eを図示しない移送容器により回収する回収ステップと、前記回収ステップにより移送容器に回収された魚卵eを恒温槽(例えば28℃)に移送し、所定時間(例えば約24時間)入れて遺伝子組換えを行う遺伝子組換えステップと、前記遺伝子組換えステップによりタンパク質ができている魚卵eを選別する発現卵選別ステップと、前記発現卵選別ステップで取り出した魚卵eをすり潰して遠心分離器にかけることでタンパク質を抽出する抽出工程と、を備えている組換えタンパク質の製造方法であってもよい。したがって、前記回収ステップで移送容器に回収(収容)された魚卵eは、遺伝子組換えステップにより約24時間28℃の恒温槽に入れられ、遺伝子組換えが行われる。その後、発現卵選別ステップによりタンパク質ができている魚卵eを取り出し、取り出した魚卵eを抽出工程によりすり潰して遠心分離器にかけることで、タンパク質を抽出することができる。なお、発現卵の選別ステップで用いられる選別装置は、
図5、6に示す軟性球体処理装置1から、遺伝子注入部5を取り除いた構成をしている。軟性球体処理装置1で処理された魚卵e、つまり前記移送容器に回収された魚卵eを恒温槽(例えば28℃)に移送し、所定時間(例えば約24時間)入れて遺伝子組換えを行った後の魚卵eを発現卵選別装置の、加工前領域に相当する選別前領域に投入し、カメラCに相当する構成により、発現卵、未発現卵、死んでいる卵が含まれる魚卵e群から、発現卵を選別するものである。なお、抽出したタンパク質は、場合によっては、薬品処理を行って精製されることもある。更に、抽出したタンパク質を細かく分けるために、イオンの電荷を用いて処理することもある。
【0043】
尚、本発明に係る軟性球体搬送装置は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、本発明の軟性球体は、魚卵eに限らず、例えば人工イクラや魚卵e以外の軟性球体であってよい。
【0044】
前記実施形態では、狭幅部9,9に第1案内部92と第2案内部93とを備えたが、搬送方向後方側の第2案内部93を省略してもよいし、場合によっては、第1案内部92及び第2案内部93の両方を省略してもよい。
【0045】
また、前記実施形態では、幅方向に一対の狭幅部9,9を備えたが、一方側にのみ狭幅部9を備えて実施することもできる。
【0046】
また、前記実施形態では、魚卵の直径が0.9~1.3mmに対して最小直径の0.9mmになるように、狭幅部9,9間の距離を設定したが、魚卵の全ての直径の平均値(ここでは1.1mm、又は魚卵eの最大直径の84.6%の大きさ)に設定してもよい。
【0047】
また、前記実施形態では、魚卵に対して、所定の物質である遺伝子を注入したが、軟性球体に対して、遺伝子に限らず、ヒトがん細胞などの細胞や、薬、薬候補物質、毒性物質などの化学物質や、調味料、着色料などの食品添加物といった、別異の物質を注入してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…遺伝子注入装置(魚卵処理装置)、2…採卵搬送部、3…不要物分離部、4…振動搬送部、5…遺伝子注入部(針刺し部)、6…整列搬送部、7…選別回収部、8…加工用水槽、8A…側壁、9…狭幅部(突出部)、10…ガイド、31…第一の網装置、32…第二の網装置、33…浄水噴射手段、51…キャピラリ(針)、52…シリンジポンプ、53…ポジショナ、61…搬送回転部材、62…整列用ポンプ、61a,63…収容溝部、71…回収容器、72…回収用ポンプ、73…分別部、74…スリット、75,76…ガイド、81…加工前領域、82…加工後領域、91…突出本体部、91A…平坦面、92…第1案内部、92A…第1傾斜面、93…第2案内部、93A…第2傾斜面、bg,sg…不要物、cw…浄水、e…魚卵(軟性球体)、e1…胚、e2…中心、w…飼育水、B…飼育水槽、C…カメラ、D…モータドライバ、E…制御装置、F…水面、G…遺伝子溶液、K…注入位置(加工位置)、L…距離、M…ACサーボモータ、P…ポンプ、T…タンク