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  • 特許-発光素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20221128BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
H05B33/14 B
H05B33/22 C
C09K11/06 645
C09K11/06 650
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018181583
(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2019068068
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2017190336
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516003621
【氏名又は名称】株式会社Kyulux
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】那須 圭朗
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 礼隆
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/138526(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106316924(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106328828(CN,A)
【文献】国際公開第2017/103732(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0185632(US,A1)
【文献】特開2017-126598(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0067629(KR,A)
【文献】特開2015-109428(JP,A)
【文献】特開2015-106659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
C09K 11/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遅延蛍光材料とホスト材料を含む層と電子阻止材料を含む層とホール輸送材料を含む層を有しており、下記式(1)~(3)の関係を満たし、
前記遅延蛍光材料は、ドナー性基とアクセプター性基が芳香族基からなる連結基に結合した構造を有する化合物または下記一般式(2)で表される化合物からなり、
前記ホスト材料は、ホール輸送材料を含み、前記ホスト材料が含むホール輸送材料は、前記ホール輸送材料を含む層に含まれるホール輸送材料とは異なることを特徴とする発光素子。
【数1】
[式(1)~(3)において、HOMOは前記遅延蛍光材料のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位し、HOMOhostは前記ホスト材料のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位し、HOMOは前記電子阻止材料のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位し、HOMOは前記ホール輸送材料のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位を表す。]
【化1】
(一般式(2)において、Y、YおよびYは、いずれか2つが窒素原子で残りの1つがメチン基を表すか、または、Y、YおよびYのすべてが窒素原子を表す。ZおよびZは、各々独立に水素原子または置換基を表す。R11~R18は、各々独立に水素原子または置換基を表す。R11とR12、R12とR13、R13とR14、R15とR16、R16とR17、R17とR18は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。一般式(2)で表される化合物は分子中にカルバゾール構造を少なくとも2つ含む。)
【請求項2】
前記遅延蛍光材料を含む層と前記電子阻止材料を含む層が接している、請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記電子阻止材料を含む層と前記ホール輸送材料を含む層が接している、請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項4】
遅延蛍光材料とホスト材料を含む層と電子阻止材料を含む層とホール輸送材料を含む層とが、この順に積層された構造を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項5】
前記ホスト材料と前記ホール輸送材料のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位の絶対値の差が0.4eV以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項6】
前記ホスト材料と前記電子阻止材料が同じ化合物からなる、請求項1~5のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項7】
前記電子阻止材料を含む層が前記電子阻止材料のみからなる、請求項1~6のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項8】
前記ホール輸送材料を含む層が前記ホール輸送材料のみからなる、請求項1~7のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項9】
前記遅延蛍光材料が、ドナー性基とアクセプター性基が芳香族基からなる連結基に結合した構造を有する化合物であって、ホール輸送材料がジアリールアミノ基(ここで2つのアリール基はヘテロアリール基であってもよく、2つのアリール基は互いに結合していてもよい)を有する化合物である、請求項1~8のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項10】
前記遅延蛍光材料が下記一般式(1)で表される化合物である、請求項1~9のいずれか1項に記載の発光素子。
【化2】
(一般式(1)において、R~Rの0~4つはシアノ基を表し、R~Rの少なくとも1つは置換アミノ基を表し、残りのR~Rは水素原子、またはシアノ基と置換アミノ基以外の置換基を表す。)
【請求項11】
有機エレクトロルミネッセンス素子である、請求項1~10のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項12】
陽極と陰極の間に、前記遅延蛍光材料と前記ホスト材料を含む層と前記電子阻止材料を含む層と前記ホール輸送材料を含む層からなる積層体を、前記ホール輸送材料を含む層が陽極側となるように設置された構造を有する、請求項11に記載の発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遅延蛍光材料を用いた発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などの発光素子の発光効率を高める研究が盛んに行われている。特に、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する電子輸送材料、ホール輸送材料、発光材料などを新たに開発して組み合わせることにより、発光効率を高める工夫が種々なされてきている。その中には、遅延蛍光材料を利用した有機エレクトロルミネッセンス素子に関する研究も見受けられる。
【0003】
遅延蛍光材料は、励起状態において、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差を生じた後、その励起一重項状態から基底状態へ戻る際に蛍光を放射する化合物である。こうした経路による蛍光は、基底状態から直接生じた励起一重項状態からの蛍光(通常の蛍光)よりも遅れて観測されるため、遅延蛍光と称されている。ここで、例えば、発光性化合物をキャリアの注入により励起した場合、励起一重項状態と励起三重項状態の発生確率は統計的に25%:75%であるため、直接生じた励起一重項状態からの蛍光のみでは、発光効率の向上に限界がある。一方、遅延蛍光材料では、励起一重項状態のみならず、励起三重項状態も上記の逆項間交差を介した経路により蛍光発光に利用することができるため、通常の遅延蛍光材料に比べて高い発光効率が得られることになる。
【0004】
こうした遅延蛍光材料として、特許文献1には、カルバゾリル基等のヘテロアリール基またはジフェニルアミノ基と少なくとも2つのシアノ基を有するベンゼン誘導体が提案され、そのベンゼン誘導体を発光層に用いた有機EL素子で高い発光効率が得られたことが確認されている。
また、非特許文献1には、下記式で表されるカルバゾリルジシアノベンゼン誘導体が熱活性型遅延蛍光材料であること、また、このカルバゾリルジシアノベンゼン誘導体を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子で、高い内部EL量子効率を達成したことが報告されている。さらに、非特許文献2には、このカルバゾリルジシアノベンゼン誘導体を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の構造を最適化することにより、高い発光効率と高い耐久性を実現したことが報告されている。
【0005】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-43541号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】H. Uoyama, et al., Nature 492, 234 (2012)
【文献】H. Nakanotani, et al., Scientific Reports, 3, 2127 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、特許文献1および非特許文献1、2には、遅延蛍光材料を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子において、高い発光効率や高い耐久性が得られたことが報告されている。しかしながら、本発明者らが、さらに素子構造を最適化すべく、遅延蛍光材料を含む発光層に積層するホール輸送層の材料について網羅的な検討を行ったところ、素子の発光効率は必ずしもホール輸送性能には相関せず、ホール輸送性に優れた材料を用いても、それに見合った発光効率が得られない場合があることが判明した。そのため、より適切な材料設計を行うためには、高い発光効率を発現しうる遅延蛍光材料とホール輸送材料を始めとする材料の組み合わせを一般化する必要があると考えられた。
このような状況下において、本発明者らは、高い発光効率を発現しうる遅延蛍光材料とホール輸送材料を始めとする材料の組み合わせを一般化し、発光効率が高い発光素子を提供することを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、遅延蛍光材料、ホスト材料、電子阻止材料、ホール輸送材料の各HOMOのエネルギー準位の絶対値が特定の条件を満たすように材料を選択することにより、発光効率が極めて高い有機エレクトロルミネッセンス素子が実現できることを見出した。本発明は、こうした知見に基づいて提案されたものであり、具体的に、以下の構成を有する。
【0010】
[1] 遅延蛍光材料とホスト材料を含む層と電子阻止材料を含む層とホール輸送材料を含む層を有しており、下記式(1)~(3)の関係を満たすことを特徴とする発光素子。
【数1】
[式(1)~(3)において、HOMOTは前記遅延蛍光材料のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位し、HOMOhostは前記ホスト材料のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位し、HOMOBは前記電子阻止材料のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位し、HOMOHは前記ホール輸送材料のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位を表す。]
[2] 前記遅延蛍光材料を含む層と前記電子阻止材料を含む層が接している、[1]に記載の発光素子。
[3] 前記電子阻止材料を含む層と前記ホール輸送材料を含む層が接している、[1]または[2]に記載の発光素子。
[4] 遅延蛍光材料とホスト材料を含む層と電子阻止材料を含む層とホール輸送材料を含む層とが、この順に積層された構造を有する、[1]~[3]のいずれか1項に記載の発光素子。
[5] 前記ホスト材料と前記ホール輸送材料のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位の絶対値の差が0.4eV以下である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の発光素子。
[6] 前記ホスト材料と前記電子阻止材料が同じ化合物からなる、[1]~[5]のいずれか1項に記載の発光素子。
[7] 前記電子阻止材料を含む層が前記電子阻止材料のみからなる、[1]~[6]のいずれか1項に記載の発光素子。
[8] 前記ホール輸送材料を含む層が前記ホール輸送材料のみからなる、[1]~[7]のいずれか1項に記載の発光素子。
[9] 前記遅延蛍光材料が、ドナー性基とアクセプター性基が共役系連結基に結合した化合物であって、ホール輸送材料がジアリールアミノ基(ここで2つのアリール基はヘテロアリール基であってもよく、2つのアリール基は互いに結合していてもよい)を有する化合物である、[1]~[8]のいずれか1項に記載の発光素子。
[10] 前記遅延蛍光材料が下記一般式(1)で表される化合物である、[1]~[9]のいずれか1項に記載の発光素子。
【化2】
(一般式(1)において、R1~R5の0~4つはシアノ基を表し、R1~R5の少なくとも1つは置換アミノ基を表し、残りのR1~R5は水素原子、またはシアノ基と置換アミノ基以外の置換基を表す。)
[11] 前記遅延蛍光材料が下記一般式(2)で表される化合物である、[1]~[9]のいずれか1項に記載の発光素子。
【化3】
(一般式(2)において、Y1、Y2およびY3は、いずれか2つが窒素原子で残りの1つがメチン基を表すか、または、Y1、Y2およびY3のすべてが窒素原子を表す。Z1およびZ2は、各々独立に水素原子または置換基を表す。R11~R18は、各々独立に水素原子または置換基を表す。R11とR12、R12とR13、R13とR14、R15とR16、R16とR17、R17とR18は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。一般式(2)で表される化合物は分子中にカルバゾール構造を少なくとも2つ含む。)
[12] 有機エレクトロルミネッセンス素子である、[1]~[11]のいずれか1項に記載の発光素子。
[13] 陽極と陰極の間に、前記遅延蛍光材料と前記ホスト材料を含む層と前記電子阻止材料を含む層と前記ホール輸送材料を含む層からなる積層体を、前記ホール輸送材料を含む層が陽極側となるように設置された構造を有する、[12]に記載の発光素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い発光効率を発現しうる材料の組み合わせを確実に選択することができ、これらの材料を用いることにより、発光効率が極めて高い発光素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】有機エレクトロルミネッセンス素子の層構成例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべて1Hであってもよいし、一部または全部が2H(デューテリウムD)であってもよい。
【0014】
<発光素子>
本発明の発光素子は、遅延蛍光材料とホスト材料を含む層と電子阻止材料を含む層とホール輸送材料を含む層を有しており、下記式(1)~(3)の関係を満たすことを特徴とする。
【数2】
式(1)~(3)において、HOMOTは前記遅延蛍光材料のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位し、HOMOhostは前記ホスト材料のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位し、HOMOBは前記電子阻止材料のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位し、HOMOHは前記ホール輸送材料のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位を表す。
本発明におけるHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位」とは、大気中光電子分光法(理研計器社製AC-3等)により求められる値のことを言う。
本発明における「遅延蛍光材料」とは、励起状態において、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差を生じ、その励起一重項状態から基底状態へ戻る際に蛍光(遅延蛍光)を放射する有機化合物のことを意味する。本発明では、蛍光寿命測定システム(浜松ホトニクス社製ストリークカメラシステム等)により発光寿命を測定したとき、発光寿命が100ns(ナノ秒)以上の蛍光が観測されるものを遅延蛍光材料と言う。遅延蛍光材料は、最低励起一重項エネルギー準位(ES1)と最低励起三重項エネルギー準位(ET1)の差ΔESTが0.4eV以下であることが好ましく、0.3eV以下であることがより好ましく、0.2eV以下であることがさらに好ましく、0.1eV以下であることがさらにより好ましい。遅延蛍光材料のΔESTが小さい程、その励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差が起き易く、励起三重項エネルギーを効率よく励起一重項エネルギーに変換することができる。最低励起一重項エネルギー準位(ES1)および最低励起三重項エネルギー準位(ET1)の測定方法については後述する。
本発明における「電子阻止材料」とは、発光層中に存在する電子が発光層外への拡散するのを阻止することができる有機化合物のことを意味し、通常はホールを受け取って輸送する機能を有する有機化合物である。本発明における「ホール輸送材料」とは、ホールを受け取って輸送する機能を有する有機化合物のことを意味する。
【0015】
本発明の発光素子は、遅延蛍光材料とホスト材料を含む層を有するとともに、その遅延蛍光材料とホスト材料が、素子内に存在する電子阻止材料、ホール輸送材料との間で式(1)~(3)の関係を満たすことにより、極めて高い発光効率を得ることができる。これは、以下の理由によるものと推測している。
すなわち、遅延蛍光材料を含む発光素子は、遅延蛍光材料が励起状態になった後、放射失活することにより発光する。ここで、励起手段としてキャリアの注入を用いた場合、キャリアの再結合により発光材料が励起一重項状態と励起三重項状態へ励起されるが、遅延蛍光材料では、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差を生じるため、キャリア再結合により直接生じた励起一重項状態のエネルギーのみならず、励起三重項状態のエネルギーも励起一重項エネルギーとして蛍光発光に有効に利用することができる。そのため、遅延蛍光材料を用いれば、通常の蛍光材料を発光材料として用いる場合に比べて遥かに高い発光効率が得られるはずである。
しかしながら、本発明者らが、遅延蛍光材料である4CzIPNを含む発光層に、ホール輸送材料であるTrisPCzからなるホール輸送層を積層して電流励起型の発光素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)を作製し、その発光スペクトルを観測したところ、4CzIPNに由来する発光ピークよりも長波長側に比較的ブロードな発光ピークが確認され、その発光ピークが、発光層とホール輸送層との界面で形成された4CzIPNとTrisPCzのエキサイプレックス(4CzIPNとTrisPCzの会合体に形成された励起状態)に由来するものであることが明らかになった。ここで、エキサイプレックスは、単独の4CzIPNで形成される励起状態よりもエネルギー準位が低いため、単独で励起状態になった4CzIPNのエネルギーがエキサイプレックスへ移動し易く、そのエネルギーの一部が失われると考えられる。従来の遅延蛍光材料を用いる発光素子では、このように発光層とホール輸送層との界面に、エネルギー準位が低いエキサイプレックスが形成されることにより、潜在的に備える発光効率を十分に発現し得なかったと考えられる。
【0016】
これに対して、本発明の発光素子では、遅延蛍光材料とホール輸送材料が式(1)~(3)の関係を満たすこと、すなわち、電子阻止材料の|HOMOB|がホスト材料の|HOMOhost|±0.2eV以内にあり、ホール輸送材料の|HOMOH|がホスト材料の|HOMOhost|より小さいが遅延蛍光材料の|HOMOT|-0.2eVよりも大きいことにより、励起過程においてホール輸送材料や電子阻止材料と遅延蛍光材料との間で電荷移動相互作用が起き難く、エキサイプレックスの形成が抑えられると推測される。そのため、単独で励起状態になった遅延蛍光材料のエネルギーが該遅延蛍光材料分子内に効果的に閉じ込められて発光に利用され、高い電流効率と発光効率が発現されたものと考えられる。特に、式(2)を満たすことにより高い電流効率が実現でき、式(3)を満たすことにより高い発光効率を実現できたものと考えられる。
ホール輸送材料の|HOMOH|は遅延蛍光材料の|HOMOT|よりも、さらに同等以上であることが好ましく、特に、下記式(4)の関係を満たすことが好ましい。これにより、ホール輸送材料と遅延蛍光材料との間のエキサイプレックス形成がより確実に抑えられ、一層高い発光効率を得ることができる。
|HOMOH| ≧ |HOMOT| 式(4)
|HOMOH|の上限は特に制限されないが、ホール輸送材料を含む層へのホール注入効率の点から6.2eV以下であることが好ましく、6.1eV以下であることがより好ましく、例えば6.0eV以下や、5.8eV以下とすることもできる。
【0017】
本発明の発光素子では、遅延蛍光材料を発光材料として含むことにより、上記のようなメカニズムで高い発光効率を得ることができる。また、遅延蛍光材料は、いわゆるアシストドーパントとして、該遅延蛍光材料を含む層に含有される他の発光材料の発光をアシストする機能を有するものであってもよい。すなわち、遅延蛍光材料は、該遅延蛍光材料を含む層に含まれるホスト材料の最低励起一重項エネルギー準位と、この層に含まれる他の発光材料の最低励起一重項エネルギー準位の間の最低励起一重項エネルギー準位を有するものであってもよい。この場合にも、ホール輸送材料と遅延蛍光材料との間のエキサイプレックス形成が抑制されることにより、アシストドーパントである遅延蛍光材料のエネルギーがエキサイプレックスへ移動して損失することが抑えられる。その結果、遅延蛍光材料により、他の発光材料の発光が効果的にアシストされて高い発光効率を得ることができる。
【0018】
[最低励起一重項エネルギー準位(ES1)と最低励起三重項エネルギー準位(ET1)の差ΔEST
上記の遅延蛍光材料の最低励起一重項エネルギー準位(ES1)と最低励起三重項エネルギー準位(ET1)の差ΔESTは、最低励起一重項エネルギー準位(ES1)と最低励起三重項エネルギー準位(ET1)を以下の方法で算出し、ΔEST=ES1-ET1により求められる。
(1)最低励起一重項エネルギー準位(ES1
測定対象化合物とmCPとを、測定対象化合物が濃度6重量%となるように共蒸着することでSi基板上に厚さ100nmの試料を作製する。常温(300K)でこの試料の蛍光スペクトルを測定し、励起光入射直後から入射後100ナノ秒までの発光を積算することで、縦軸を発光強度、横軸を波長の蛍光スペクトルを得る。蛍光スペクトルは、縦軸を発光、横軸を波長とする。この発光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値 λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をES1とする。
換算式:ES1[eV]=1239.85/λedge
発光スペクトルの測定には、励起光源に窒素レーザー(Lasertechnik Berlin社製、MNL200)を、検出器にストリークカメラ(浜松ホトニクス社製、C4334)を用いることができる。
(2)最低励起三重項エネルギー準位(ET1
最低励起一重項エネルギー準位(ES1)と同じ試料を5[K]に冷却し、励起光(337nm)を燐光測定用試料に照射し、ストリークカメラを用いて、燐光強度を測定する。励起光入射後1ミリ秒から入射後10ミリ秒の発光を積算することで、縦軸を発光強度、横軸を波長の燐光スペクトルを得る。この燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をET1とする。
換算式:ET1[eV]=1239.85/λedge
燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線は以下のように引く。燐光スペクトルの短波長側から、スペクトルの極大値のうち、最も短波長側の極大値までスペクトル曲線上を移動する際に、長波長側に向けて曲線上の各点における接線を考える。この接線は、曲線が立ち上がるにつれ(つまり縦軸が増加するにつれ)、傾きが増加する。この傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を、当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
なお、スペクトルの最大ピーク強度の10%以下のピーク強度をもつ極大点は、上述の最も短波長側の極大値には含めず、最も短波長側の極大値に最も近い、傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
【0019】
次に、本発明の発光素子の層構成について詳細に説明する。
【0020】
[発光素子の層構成]
本発明の発光素子は有機エレクトロルミネッセンス素子であることが好ましい。有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも陽極、陰極、および陽極と陰極の間に有機層を形成した構造を有する。本発明の発光素子としての有機エレクトロルミネッセンス素子は、有機層が、少なくとも遅延蛍光材料とホスト材料を含む層と電子阻止材料を含む層とホール輸送材料を含む層を有する。ここで、電子阻止材料を含む層は遅延蛍光材料とホスト材料を含む層の陽極側に接して配されていることが好ましく、ホール輸送材料を含む層は電子阻止材料を含む層の陽極側に接して配されていることが好ましい。また、遅延蛍光材料とホスト材料を含む層と電子阻止材料を含む層とホール輸送材料を含む層がこの順に互いに隣りあう層が接するように積層されており、ホール輸送材料を含む層が陽極側に配されていることが好ましい。以下の説明では、遅延蛍光材料を含む層を「発光層」と言い、電子阻止材料を含む層を「電子阻止層」と言い、ホール輸送材料を含む層を「ホール輸送層」と言う。
陽極と陰極の間の有機層は、発光層、電子阻止層およびホール輸送層のみからなるものであってもよいし、発光層、電子阻止層およびホール輸送層の他に1層以上の有機層を有するものであってもよい。そのような他の有機層として、ホール注入層、第2のホール輸送層(以下では「第2ホール輸送層」といい、式(2)および(3)の条件を満たすホール輸送材料を含む層を「第1ホール輸送層」ということがある)、ホール阻止層、電子注入層、電子輸送層、励起子阻止層などを挙げることができる。ホール注入層および第2ホール輸送層はホール注入機能を有したホール注入輸送層でもよく、電子輸送層は電子注入機能を有した電子注入輸送層でもよい。具体的な有機エレクトロルミネッセンス素子の構造例を図1に示す。図1において、1は基板、2は陽極、3はホール注入層、4は第2ホール輸送層、5は第1ホール輸送層、6は電子阻止層、7は発光層、8は電子輸送層、9は電子注入層、10は陰極を表わす。
以下において、本発明の発光素子の各部材および各層について、発光素子が有機エレクトロルミネッセンス素子である場合を例にして説明する。
【0021】
(基板)
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板に支持されていることが好ましい。この基板については、特に制限はなく、従来から有機エレクトロルミネッセンス素子に慣用されているものであればよく、例えば、ガラス、透明プラスチック、石英、シリコンなどからなるものを用いることができる。
【0022】
(陽極)
有機エレクトロルミネッセンス素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが好ましく用いられる。このような電極材料の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In23-ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極材料の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な材料を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10~1000nm、好ましくは10~200nmの範囲で選ばれる。
【0023】
(陰極)
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが用いられる。このような電極材料の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al23)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性および酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al23)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm~5μm、好ましくは50~200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極または陰極のいずれか一方が、透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
また、陽極の説明で挙げた導電性透明材料を陰極に用いることで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0024】
(発光層)
発光層は、陽極および陰極のそれぞれから注入されたホールおよび電子が再結合することにより励起子が生成した後、発光する層である。本発明の発光素子では、発光層は遅延蛍光材料とホスト材料を含む。本発明で用いることができる遅延蛍光材料の好ましい範囲と具体例については後に掲載する。遅延蛍光材料には、1種類のものを単独で用いてもよいし、2種類以上のものを組み合わせて用いてもよい。ホスト材料としては、式(1)および式(2)を満たすものを用いる。発光層は遅延蛍光材料とホスト材料のみで構成されていてもよいし、遅延蛍光材料とホスト材料以外の材料を含んでいてもよい。遅延蛍光材料以外の材料として、通常の蛍光材料および燐光材料を挙げることができる。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子が高い発光効率を発現するためには、遅延蛍光材料に生成した一重項励起子および三重項励起子を、遅延蛍光材料中に閉じ込めることが重要である。このため、ホスト材料としては、励起一重項エネルギー、励起三重項エネルギーの少なくとも何れか一方が遅延蛍光材料よりも高い値を有する有機化合物を用いることが好ましい。その結果、遅延蛍光材料に生成した一重項励起子および三重項励起子を、遅延蛍光材料の分子中に閉じ込めることが可能となり、その発光効率を十分に引き出すことが可能となる。もっとも、一重項励起子および三重項励起子を十分に閉じ込めることができなくても、高い発光効率を得ることが可能な場合もあるため、式(1)と式(2)を満たしていて高い発光効率を実現しうるホスト材料であれば特に制約なく本発明に用いることができる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光は発光層に含まれる遅延蛍光材料から生じることが好ましい。この発光は蛍光発光および遅延蛍光発光の両方を含む。但し、発光の一部或いは部分的にホスト材料からの発光があってもかまわない。
発光層中における遅延蛍光材料の含有量は0.1重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、また、50重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましい。
発光層におけるホスト材料としては、ホール輸送能、電子輸送能を有し、かつ発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高いガラス転移温度を有する有機化合物であることが好ましい。特にホール輸送能を有するホスト材料を用いることがエキサイプレックスによる効率低下を抑えられる点で好ましい。ホスト材料として使用可能な化合物の具体例については後述する。
また、ホスト材料は、ホール輸送材料と同様に、そのHOMOのエネルギー準位の絶対値(eV)が遅延蛍光材料の|HOMOT|-0.2(eV)よりも大きいことが好ましく、|HOMOT|よりも大きいことがより好ましく、|HOMOT|+0.2(eV)よりも大きいことがさらに好ましい。これにより、ホスト材料と遅延蛍光材料の間にエキサイプレックスが形成されることも抑えられ、単独で励起状態になった遅延蛍光材料のエネルギーがエキサイプレックスへ移動して発光効率が低くなることを、より確実に抑えることができる。また、ホスト材料とホール輸送材料とはHOMOのエネルギー準位の絶対値の差が0.5eV未満であることが好ましく、0.4eV以下であることがより好ましく、0.3eV以下であることがさらに好ましく、0.2eV以下にしたり、0.1eV以下にしたり、同等にしたりすることもできる。ホスト材料としてホール輸送性を示す材料を用いれば、再結合サイトが発光層側で生じて、エキサイプレックスによる発光効率低下を一段と抑制しやすくなることから好ましい。ホスト材料には、ホール輸送材料に用いる化合物と同じ化合物を用いることも可能である。
発光層の膜厚は特に制限されないが、5~100nmであることが好ましく、10~50nmであることがより好ましく、20~40nmであることがさらに好ましい。
【0025】
上記のように、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光層に遅延蛍光材料を含むという特徴を有し、これにより高い発光効率を示す。以下にその原理を詳細に説明する。
有機エレクトロルミネッセンス素子においては、正負の両電極より発光材料にキャリアを注入し、励起状態の発光材料を生成し、発光させる。通常、キャリア注入型の有機エレクトロルミネッセンス素子の場合、生成した励起子のうち、励起一重項状態に励起されるのは25%であり、残り75%は励起三重項状態に励起される。従って、励起三重項状態からの発光であるリン光を利用するほうが、エネルギーの利用効率が高い。しかしながら、励起三重項状態は寿命が長いため、励起状態の飽和や励起三重項状態の励起子との相互作用によるエネルギーの失活が起こり、一般にリン光の量子収率が高くないことが多い。一方、遅延蛍光材料は、項間交差等により励起三重項状態へとエネルギーが遷移した後、三重項-三重項消滅あるいは熱エネルギーの吸収により、励起一重項状態に逆項間交差され蛍光を放射する。有機エレクトロルミネッセンス素子においては、なかでも熱エネルギーの吸収による熱活性化型の遅延蛍光材料が特に有用であると考えられる。有機エレクトロルミネッセンス素子に遅延蛍光材料を利用した場合、励起一重項状態の励起子は通常通り蛍光を放射する。一方、励起三重項状態の励起子は、デバイスが発する熱を吸収して励起一重項へ項間交差され蛍光を放射する。このとき、励起一重項からの発光であるため蛍光と同波長での発光でありながら、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差により、生じる光の寿命(発光寿命)は通常の蛍光やりん光よりも長くなるため、これらよりも遅延した蛍光として観察される。これを遅延蛍光として定義できる。このような熱活性化型の励起子移動機構を用いれば、キャリア注入後に熱エネルギーの吸収を経ることにより、通常は25%しか生成しなかった励起一重項状態の化合物の比率を25%以上に引き上げることが可能となる。100℃未満の低い温度でも強い蛍光および遅延蛍光を発する化合物を用いれば、デバイスの熱で充分に励起三重項状態から励起一重項状態への項間交差が生じて遅延蛍光を放射するため、発光効率を飛躍的に向上させることができる。
【0026】
(ホール輸送層)
ホール輸送層はホールを輸送する機能を有するホール輸送材料を含む。ホール輸送層は、発光層の陽極側に配置されていることが好ましく、発光層よりも陽極側に形成された電子阻止層よりもさらに陽極側に配置されていることが好ましい。特に、電子阻止層の陽極側に接触するようにホール輸送層が形成されていることが好ましい。ホール輸送材料には、1種類のものを単独で用いてもよいし、2種類以上のものを組み合わせて用いてもよい。また、ホール輸送層は、ホール輸送材料のみから構成されていてもよいし、ホール輸送材料以外の材料を含んでいてもよいが、ホール輸送材料のみから構成されていることが好ましい。
ホール輸送材料としては、ホールの注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよいが、式(2)および式(3)の関係を満たすことが必要とされる。使用できる公知のホール輸送材料としては例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物およびスチリルアミン化合物を用いることが好ましく、芳香族第3級アミン化合物を用いることがより好ましい。本発明で用いることができるホール輸送材料の具体例については後に掲載する。
ホール輸送層の膜厚は特に制限されないが、10~200nmであることが好ましく、20~100nmであることがより好ましく、30~60nmであることがさらに好ましい。
【0027】
(遅延蛍光材料とホール輸送材料の関係)
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子では、発光層が含む遅延蛍光材料とホール輸送層が含むホール輸送材料とが式(2)および式(3)の関係を満たし、式(4)の関係も満たすことが好ましい。式(2)および式(3)の関係を満たす遅延蛍光材料とホール輸送材料の組み合わせとして、ドナー性基(典型的にはハメットのσp値が負の基)とアクセプター性基(典型的にはハメットのσp値が正の基)がリンカー(典型的には芳香族基などの共役系連結基)に結合した遅延蛍光材料と、アクセプター性基を持たずにジアリールアミノ基(2つのアリール基はヘテロアリール基であってもよく、2つのアリール基は互いに結合してカルバゾリル基等の構造となっていてもよい)を有するホール輸送材料の組み合わせを好ましく採用することができる。具体的には、4CzIPN(|HOMOT|=5.8eV)とmCBP(|HOMOH|=6.1eV)の組み合わせ、4CzIPNとCBP(|HOMOH|=6.1eV)の組み合わせ等を挙げることができる。この他の組み合わせとして、4CzIPNとT2T((|HOMOH|=6.5eV)の組み合わせ、4CzIPNとTCTA(|HOMOH|=5.7eV)の組み合わせ、4CzIPNとTetraCP(|HOMOH|=5.8eV)の組み合わせ、4CzIPNとSTDBT4(|HOMOH|=5.7eV)の組み合わせ、PICTRZ2(|HOMOT|=5.6eV)とT2T((|HOMOH|=6.5eV)の組み合わせ、PICTRZ2とTCTA(|HOMOH|=5.7eV)の組み合わせ、PICTRZ2とTetraCP(|HOMOH|=5.8eV)の組み合わせ、PICTRZ2とSTDBT4(|HOMOH|=5.7eV)の組み合わせ、等を挙げることができる。ただし、本発明において用いることができる遅延蛍光材料とホール輸送材料の組み合わせは、これらの組み合わせによって限定的に解釈されることはない。
【0028】
(第2ホール輸送層)
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、式(2)および式(3)の条件を満たすホール輸送材料を含むホール輸送層(第1ホール輸送層という)の他に、別のホール輸送材料を含む第2ホール輸送層を有するものであってもよい。第2ホール輸送層は、第1ホール輸送層の陽極側に第1ホール輸送層と接して配置されることが好ましい。すなわち、第2ホール輸送層を設ける場合、発光層と電子阻止層と第1ホール輸送層と第2ホール輸送層とをこの順に積層することが好ましい。
第2のホール輸送材料は、遅延蛍光材料またはホール輸送材料との間で下記式(5)の関係を満たすことが好ましい。第2のホール輸送材料は、下記式(6)の関係も満たすものであることが好ましい。
|HOMOH| ≧ |HOMOH2| 式(5)
|HOMOT| ≧ |HOMOH2| 式(6)
式(5)および式(6)において、HOMOHは式(2)および式(3)を満たすホール輸送材料のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位を表し、HOMOH2は第2のホール輸送材料のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位を表し、HOMOTは遅延蛍光材料のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位を表す。
第2のホール輸送材料と遅延蛍光材料またはホール輸送材料が式(5)および式(6)の関係を満たすことにより、第2ホール輸送層の陽極側の層から第2ホール輸送層へのホール注入効率、第2ホール輸送層から第1ホール輸送層へのホール注入効率、および第2ホール輸送層におけるホール輸送性が高くなる傾向があり、より高い発光効率を得ることができる。
第2のホール輸送材料には、1種類のものを単独で用いてもよいし2種類以上のものを組み合わせて用いてもよい。また、第2ホール輸送層は、第2のホール輸送材料のみから構成されていてもよいし、第2のホール輸送材料以外の材料を含んでいてもよいが、第2のホール輸送材料のみから構成されていることが好ましい。
第2のホール輸送材料の好ましい範囲については、ホール輸送層の欄に記載したホール輸送材料の好ましい範囲を参照することができる。
また、本発明では、第2ホール輸送層の陽極側に、さらに上記のホール輸送層および第2ホール輸送層とは別のホール輸送層を単層または複数層設けることも可能である。そのホール輸送層に用いることができるホール輸送材料の好ましい範囲については、ホール輸送層の欄に記載したホール輸送材料の好ましい範囲を参照することができ、その具体例については、後掲のホール輸送材料の具体例を参照することができる。
第2のホール輸送層の膜厚は特に制限されないが、10~200nmであることが好ましく、20~100nmであることがより好ましく、30~60nmであることがさらに好ましい。
【0029】
(電子阻止層)
電子阻止層は、発光層中に存在する電子や励起子が発光層外へ拡散するのを阻止することができる層である。電子阻止層は、発光層の陽極側に配置されることができ、電子が陽極側に向かって発光層を通過することを阻止する。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子では、ホール輸送層と発光層の間に配置されていることが好ましい。なお、電子阻止層はまた、励起子が発光層の外側に拡散することを阻止する機能を兼ね備えていてもよい。すなわち、本明細書でいう電子阻止層は、励起子阻止層の機能を有するものであってもよい。
電子阻止層は、式(1)で表される条件を満たす電子阻止材料を含むものである。すなわち、電子阻止材料のHOMOのエネルギー準位の絶対値は、ホスト材料のHOMOのエネルギー準位の絶対値の±0.2eV未満の範囲内にある。
本発明の発光素子では、発光層の遅延蛍光材料とホスト材料、電子阻止層の電子阻止材料、ホール輸送層のホール輸送材料が、式(1)~(3)の関係を満たすことにより、ホール輸送層の陽極側の層からホール輸送層へのホール注入効率、ホール輸送層におけるホール輸送性、ホール輸送層から電子阻止層へのホール注入効率が高くなる傾向があり、より高い発光効率を得ることができる。また、|HOMOB|>|HOMOH|であることが好ましい。
電子阻止材料には、1種類のものを単独で用いてもよいし2種類以上のものを組み合わせて用いてもよい。また、電子阻止層は、電子阻止材料のみから構成されていてもよいし、電子阻止材料以外の材料を含んでいてもよいが、電子阻止材料のみから構成されていることが好ましい。
電子阻止材料としては、ホール輸送層の欄に記載したホール輸送材料や、ホスト材料として使用可能な材料の中から式(1)~(3)の条件を満たすものを適宜選択して用いることができる。また、電子阻止材料として、ホスト材料と同じものを使用してもよい。
【0030】
(ホール阻止層)
ホール阻止層は、発光層中に存在するホールや励起子が発光層外へ拡散するのを阻止することができる層である。ホール阻止層は、発光層の陰極側に配置されることができ、ホールが陰極側に向かって発光層を通過することを阻止する。これにより発光層中での電子とホールの再結合確率を向上させることができる。ホール阻止層の材料としては、後述する電子輸送層の材料を必要に応じて用いることができる。なお、ホール阻止層はまた、励起子が発光層の外側に拡散することを阻止する機能も兼ね備えていてもよい。すなわち、本明細書でいうホール阻止層または励起子阻止層には、一つの層でホール阻止層および励起子阻止層の機能を有する層を含む意味で使用される。なお、電子輸送層も、ホール阻止および/または励起子阻止の機能を兼ね備えたものであってもよい。
【0031】
(励起子阻止層)
励起子阻止層とは、発光層内でホールと電子が再結合することにより生じた励起子が陽極側または陰極側に拡散することを阻止するための層である。励起子素子層の挿入により励起子を効率的に発光層内に閉じ込めることが可能となり、素子の発光効率を向上させることができる。励起子阻止層は発光層に隣接して陽極側、陰極側のいずれにも配置することができ、両方同時に配置することも可能である。本発明では、励起子阻止層を陽極側に配置する場合、ホール輸送層や電子阻止層に励起子阻止層の機能を兼ねさせることができる。励起子素子層を陰極側に挿入する場合、発光層と陰極との間に、発光層に隣接して該層を挿入することができる。また、陽極と、発光層の陽極側に隣接するホール輸送層(励起子阻止層の機能を兼ねるホール輸送層)との間には、ホール注入層や電子阻止層などを有することができ、陰極と、発光層の陰極側に隣接する励起子阻止層との間には、電子注入層、電子輸送層、ホール阻止層などを有することができる。阻止層を配置する場合、阻止層として用いる材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーの少なくともいずれか一方は、発光材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーよりも高いことが好ましい。
【0032】
(電子輸送層)
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
電子輸送材料(ホール阻止材料を兼ねる場合もある)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。使用できる電子輸送層としては例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタンおよびアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0033】
(注入層)
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、ホール注入層と電子注入層があり、陽極と発光層またはホール輸送層の間、および陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。注入層は必要に応じて設けることができる。
【0034】
(ホール阻止層)
ホール阻止層は、発光層中に存在するホールや励起子が発光層外へ拡散するのを阻止することができる層である。ホール阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有する。ホール阻止層は電子を輸送しつつ、ホールが電子輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子とホールの再結合確率を向上させることができる。ホール阻止層の材料としては、後述する電子輸送層の材料を必要に応じて用いることができる。
【0035】
有機エレクトロルミネッセンス素子を作製する際には、遅延蛍光材料を発光層に用いるだけでなく、発光層以外の層にも用いてもよい。その際、発光層に用いる遅延蛍光材料と、発光層以外の層に用いる遅延蛍光材料は、同一であっても異なっていてもよい。例えば、上記の注入層、阻止層、ホール阻止層、電子阻止層、励起子阻止層、ホール輸送層、電子輸送層などにも遅延蛍光材料を用いてもよい。これらの層の製膜方法は特に限定されず、ドライプロセス、ウェットプロセスのどちらで作製してもよい。
【0036】
以下に、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いることができる好ましい材料を具体的に例示する。ただし、本発明において用いることができる材料は、以下の例示化合物によって限定的に解釈されることはない。また、特定の機能を有する材料として例示した化合物であっても、その他の機能を有する材料として転用することも可能である。
【0037】
本発明で用いることができる遅延蛍光材料の種類や構造は、特に制限されない。例えば、ドナー性基(典型的にはハメットのσp値が負の基)とアクセプター性基(典型的にはハメットのσp値が正の基)がリンカー(典型的には芳香族基などの共役系連結基)に結合した構造をもつ遅延蛍光材料を採用することができる。特に、ドナー性基としてジアリールアミノ基(2つのアリール基はヘテロアリール基であってもよく、2つのアリール基は互いに結合してカルバゾリル基等の構造となっていてもよい)を有する化合物、アクセプター性基としてシアノ基かヘテロアリール環を含む基を有する化合物を好ましく採用することができるが、本発明において用いることができる遅延蛍光材料はこれらの化合物に限定されるものではない。なお、本発明で用いる遅延蛍光材料は、HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位の絶対値が5.6eVより大きいものを採用することが好ましく、例えば、HOMOのエネルギー準位の絶対値が5.7eVより大きいものを採用することが可能である。
【0038】
例えば、以下の構造を有する遅延蛍光材料を本発明において好ましく用いることができる。
【0039】
【化4】
【0040】
好ましい遅延蛍光材料として、WO2013/154064号公報の段落0008~0048および0095~0133、WO2013/011954号公報の段落0007~0047および0073~0085、WO2013/011955号公報の段落0007~0033および0059~0066、WO2013/081088号公報の段落0008~0071および0118~0133、特開2013-256490号公報の段落0009~0046および0093~0134、特開2013-116975号公報の段落0008~0020および0038~0040、WO2013/133359号公報の段落0007~0032および0079~0084、WO2013/161437号公報の段落0008~0054および0101~0121、特開2014-9352号公報の段落0007~0041および0060~0069、特開2014-9224号公報の段落0008~0048および0067~0076、特開2017-119663号公報の段落0013~0025、特開2017-119664号公報の段落0013~0026、特開2017-222623号公報の段落0012~0025、特開2017-226838号公報の段落0010~0050、特開2018-100411号公報の段落0012~0043、WO2018/047853号公報の段落0016~0044にに記載される一般式に包含される化合物、特に例示化合物であって、遅延蛍光を放射するものを挙げることができる。また、特開2013-253121号公報、WO2013/133359号公報、WO2014/034535号公報、WO2014/115743号公報、WO2014/122895号公報、WO2014/126200号公報、WO2014/136758号公報、WO2014/133121号公報、WO2014/136860号公報、WO2014/196585号公報、WO2014/189122号公報、WO2014/168101号公報、WO2015/008580号公報、WO2014/203840号公報、WO2015/002213号公報、WO2015/016200号公報、WO2015/019725号公報、WO2015/072470号公報、WO2015/108049号公報、WO2015/080182号公報、WO2015/072537号公報、WO2015/080183号公報、特開2015-129240号公報、WO2015/129714号公報、WO2015/129715号公報、WO2015/133501号公報、WO2015/136880号公報、WO2015/137244号公報、WO2015/137202号公報、WO2015/137136号公報、WO2015/146541号公報、WO2015/159541号公報に記載される発光材料であって、遅延蛍光を放射するものも好ましく採用することができる。なお、この段落に記載される上記の公報は、本明細書の一部としてここに引用している。
【0041】
本発明において特に好ましく用いることができる遅延蛍光材料として、下記一般式(1)で表される化合物を挙げることができる。
【化5】
【0042】
一般式(1)において、R1~R5の0~4つはシアノ基を表し、R1~R5の少なくとも1つは置換アミノ基を表し、残りのR1~R5は水素原子、またはシアノ基と置換アミノ基以外の置換基を表す。
ここでいう置換アミノ基は、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基であることが好ましく、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を構成する2つのアリール基は互いに連結していてもよい。連結は、単結合でなされていてよいし(その場合はカルバゾ-ル環が形成される)、-O-、-S-、-N(R6)-、-C(R7)(R8)-、-Si(R9)(R10)-などの連結基でなされていてもよい。ここで、R6~R10は水素原子または置換基を表し、R7とR8、R9とR10は、それぞれ互いに連結して環状構造を形成してもよい。
置換アミノ基はR1~R5のいずれであってもよく、例えばR1とR2、R1とR3、R1とR4、R1とR5、R2とR3、R2とR4、R1とR2とR3、R1とR2とR4、R1とR2とR5、R1とR3とR4、R1とR3とR5、R2とR3とR4、R1とR2とR3とR4、R1とR2とR3とR5、R1とR2とR4とR5、R1とR2とR3とR4とR5を置換アミノ基とすること等ができる。シアノ基もR1~R5のいずれであってもよく、例えばR1、R2、R3、R1とR2、R1とR3、R1とR4、R1とR5、R2とR3、R2とR4、R1とR2とR3、R1とR2とR4、R1とR2とR5、R1とR3とR4、R1とR3とR5、R2とR3とR4をシアノ基とすること等ができる。
シアノ基でも置換アミノ基でもないR1~R5は、水素原子または置換基を表す。ここでいう置換基の例として、ヒドロキシル基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(例えば炭素数1~40)、アルコキシ基(例えば炭素数1~40)、アルキルチオ基(例えば炭素数1~40)、アリール基(例えば炭素数6~30)、アリールオキシ基(例えば炭素数6~30)、アリールチオ基(例えば炭素数6~30)、ヘテロアリール基(例えば環骨格構成原子数5~30)、ヘテロアリールオキシ基(例えば環骨格構成原子数5~30)、ヘテロアリールチオ基(例えば環骨格構成原子数5~30)、アシル基(例えば炭素数1~40)、アルケニル基(例えば炭素数1~40)、アルキニル基(例えば炭素数1~40)、アルコキシカルボニル基(例えば炭素数1~40)、アリールオキシカルボニル基(例えば炭素数1~40)、ヘテロアリールオキシカルボニル基(例えば炭素数1~40)、シリル基(例えば炭素数1~40のトリアルキルシリル基)、ニトロ基、ここに列挙した基がさらにここに列挙した1以上の基で置換された基からなる置換基群Aを挙げることができる。上記ジアリールアミノ基のアリール基が置換されているときの置換基の好ましい例としても、上記の置換基群Aの置換基を挙げることができ、さらにシアノ基と置換アミノ基も挙げることができる。
一般式(1)に包含される化合物群と化合物の具体例については、本明細書の一部としてここに引用するWO2013/154064号公報の段落0008~0048、WO2015/080183号公報の段落0009~0030、WO2015/129715号公報の段落0006~0019、特開2017-119663号公報の段落0013~0025、特開2017-119664号公報の段落0013~0026を参照することができる。なかでも特に下記の化合物を好ましい化合物の具体例として挙げることができる。
【化6】
【0043】
また、下記一般式(2)で表され、遅延蛍光を放射する化合物も、本発明の遅延蛍光材料として特に好ましく用いることができる。本発明の好ましい実施態様では、第2有機化合物と第3有機化合物として、ともに一般式(2)で表される化合物を採用することができる。
【化7】
【0044】
一般式(2)において、Y1、Y2およびY3は、いずれか2つが窒素原子で残りの1つがメチン基を表すか、または、Y1、Y2およびY3のすべてが窒素原子を表す。Z1およびZ2は、各々独立に水素原子または置換基を表す。R11~R18は、各々独立に水素原子または置換基を表し、R11~R18の少なくとも1つは、置換もしくは無置換のアリールアミノ基、または置換もしくは無置換のカルバゾリル基であることが好ましい。前記アリールアミノ基を構成するベンゼン環、前記カルバゾリル基を構成するベンゼン環は、それぞれR11~R18と一緒になって単結合または連結基を形成してもよい。また、一般式(2)で表される化合物は分子中にカルバゾール構造を少なくとも2つ含む。Z1、Z2が採りうる置換基の例としては、上記の置換基群Aの置換基を挙げることができる。また、R11~R18、上記アリールアミノ基、カルバゾリル基が採りうる置換基の具体例については、上記の置換基群Aの置換基、シアノ基、置換アリールアミノ基、置換アルキルアミノ基を挙げることができる。なお、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R15とR16、R16とR17、R17とR18は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。
一般式(2)で表される化合物の中でも、特に一般式(3)で表される化合物が有用である。
【化8】
【0045】
一般式(3)において、Y1、Y2およびY3は、いずれか2つが窒素原子で残りの1つがメチン基を表すか、または、Y1、Y2およびY3のすべてが窒素原子を表す。Z2は、水素原子または置換基を表す。R11~R18およびR21~R28は、各々独立に水素原子または置換基を表す。R11~R18の少なくとも1つ、および/または、R21~R28の少なくとも1つは、置換もしくは無置換のアリールアミノ基、または置換もしくは無置換のカルバゾリル基を表すことが好ましい。前記アリールアミノ基を構成するベンゼン環、前記カルバゾリル基を構成するベンゼン環は、それぞれR11~R18またはR21~R28と一緒になって単結合または連結基を形成してもよい。Z2が採りうる置換基の例としては、上記の置換基群Aの置換基を挙げることができる。また、R11~R18、R21~R28、上記アリールアミノ基、カルバゾリル基が採りうる置換基の具体例については、上記の置換基群Aの置換基、シアノ基、置換アリールアミノ基、置換アルキルアミノ基を挙げることができる。なお、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R15とR16、R16とR17、R17とR18、R21とR22、R22とR23、R23とR24、R25とR26、R26とR27、R27とR28は互いに結合して環状構造を形成していてもよい。
一般式(2)に包含される化合物群と化合物の具体例については、本明細書の一部としてここに引用するWO2013/081088号公報の段落0020~0062や、Appl.Phys.Let,98,083302(2011)に記載の化合物を参照することができる。なかでも好ましい化合物の具体例として、特に下記の化合物を挙げることができる。
【化9】
【0046】
次に、ホスト材料、電子阻止材料、ホール輸送材料および第2のホール輸送材料として用いることができる好ましい化合物を挙げる。ただし、本発明において用いることができるホスト材料、電子阻止材料、ホール輸送材料および第2のホール輸送材料は、以下の例示によって限定的に解釈されることはない。本発明においては、ホスト材料、電子阻止材料、ホール輸送材料を式(1)~(3)を満たすように選択する。
【0047】
【化10】
【0048】
【化11】
【0049】
【化12】
【0050】
【化13】
【0051】
【化14】
【0052】
【化15】
【0053】
【化16】
【0054】
【化17】
【0055】
【化18】
【0056】
【化19】
【0057】
【化20】
【0058】
【化21】
【0059】
【化22】
【0060】
次に、ホール阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0061】
【化23】
【0062】
次に、電子輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0063】
【化24】
【0064】
【化25】
【0065】
【化26】
【0066】
次に、電子注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0067】
【化27】
【0068】
さらに添加可能な材料として好ましい化合物例を挙げる。例えば、安定化材料として添加すること等が考えられる。
【0069】
【化28】
【0070】
上述の方法により作製された有機エレクトロルミネッセンス素子は、得られた素子の陽極と陰極の間に電界を印加することにより発光する。このとき、励起一重項エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長の光が、蛍光発光および遅延蛍光発光として確認される。また、励起三重項エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長が、りん光として確認される。通常の蛍光は、遅延蛍光発光よりも蛍光寿命が短いため、発光寿命は蛍光と遅延蛍光で区別できる。
ただし、りん光については、本発明で用いる遅延蛍光材料では、励起三重項エネルギーが励起一重項エネルギーに変換されるため殆ど観測されない。また、励起三重項エネルギーは、励起一重項エネルギーに変換されない場合、不安定で熱等に変換され、寿命が短く直ちに失活する。そのため、通常の有機化合物の励起三重項エネルギーを測定するためには、極低温の条件での発光を観測することにより測定可能である。
【0071】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX-Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。本発明によれば、発光効率が大きく改善された有機発光素子が得られる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子などの有機発光素子は、さらに様々な用途へ応用することが可能である。例えば、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いて、有機エレクトロルミネッセンス表示装置を製造することが可能であり、詳細については、時任静士、安達千波矢、村田英幸共著「有機ELディスプレイ」(オーム社)を参照することができる。また、特に本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、需要が大きい有機エレクトロルミネッセンス照明やバックライトに応用することもできる。
【実施例
【0072】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、発光特性の評価は、ソースメータ(ケースレー社製:2400シリーズ)、半導体パラメータ・アナライザ(アジレント・テクノロジー社製:E5273A)、光パワーメータ測定装置(ニューポート社製:1930C)、光学分光器(オーシャンオプティクス社製:USB2000)、分光放射計(トプコン社製:SR-3)およびストリークカメラ(浜松ホトニクス(株)製C4334型)を用いて行った。HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位およびLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)のエネルギー準位は、大気中光電子分光法(理研計器社製AC-3等)により求めた。
【0073】
(1)有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
膜厚100nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度5×10-5Paで積層した。まず、ITO上にHAT-CNを10nmの厚さに蒸着してホール注入層を形成した。次に、TrisPCzを15nmの厚さに蒸着して第2ホール輸送層を形成し、その上に、STDBT4またはTCTAを厚さ10nmに蒸着して第1ホール輸送層を形成した。その上に、mCBPを5mnの厚さに蒸着して電子阻止層を形成した。次に、4CzIPNとmCBPを異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さの層を形成して発光層とした。この時、4CzIPNの濃度は20重量%とした。次に、T2Tを10nmの厚さに蒸着してホール阻止層を形成し、その上に、BPy-TP2を40nmの厚さに蒸着して電子輸送層を形成した。さらにLiqを1.0nmの厚さに蒸着して電子注入層を形成し、次いでアルミニウム(Al)を100nmの厚さに蒸着して陰極を形成することにより、有機エレクトロルミネッセンス素子である素子1および素子2を作製した。
また、素子1および素子2の製造工程において、第2ホール輸送層と第1ホール輸送層の2層を形成せずに、25nm厚のTrisPCzを1層形成した点だけを変更して、比較素子1を作製した。
素子1、素子2および比較素子1の層構成を表1に示す。
【0074】
(2)素子の評価
製造した各素子について、1000cd/m2で測定した素子特性と、1mA/cm2で測定した素子特性を調べた。結果をまとめて表2に示す。式(1)~(3)の条件を満たす素子1および素子2は式(1)~(3)の条件を満たさない比較素子1よりも最大外部量子効率と電流効率が高かった。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【化29】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、高い発光効率を発現しうる材料の組み合わせを確実に選択することができ、これらの材料を用いることにより、発光効率が極めて高い発光素子を安価に実現することができる。このため、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0079】
1 基板
2 陽極
3 ホール注入層
4 第2ホール輸送層
5 第1ホール輸送層
6 電子阻止層
7 発光層
8 電子輸送層
9 電子注入層
10 陰極
図1