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特許7182779積層セラミックチップの製造方法および積層セラミックチップ製造用の焼成前チップの製造方法
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  • 特許-積層セラミックチップの製造方法および積層セラミックチップ製造用の焼成前チップの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】積層セラミックチップの製造方法および積層セラミックチップ製造用の焼成前チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 11/14 20060101AFI20221128BHJP
   B26F 3/00 20060101ALI20221128BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
B28B11/14
B26F3/00 A
H01G4/30 517
H01G4/30 311Z
H01G4/30 311A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018236144
(22)【出願日】2018-12-18
(65)【公開番号】P2020097153
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】栄田 光希
(72)【発明者】
【氏名】武田 真和
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-259206(JP,A)
【文献】特開2004-289085(JP,A)
【文献】特開平04-260362(JP,A)
【文献】特開昭57-139996(JP,A)
【文献】特開2018-156967(JP,A)
【文献】特開2006-100358(JP,A)
【文献】特開2016-040079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 11/00-11/24
H01G 4/30
H01G 13/00-13/06
B26F 3/00-3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層セラミックチップを製造する方法であって、
板状のセラミック成形体の厚み方向において対向する2つの面の一面または両面に樹脂層が設けられた焼成前母基板を用意する準備工程と、
前記焼成前母基板の前記樹脂層が設けられた一方主面において、あらかじめ定められた複数の分断予定位置に沿ってスクライブラインを形成するスクライブ工程と、
前記複数の分断予定位置に沿って前記焼成前母基板を厚み方向に分断することにより、多数の焼成前チップを得る分断工程と、
前記焼成前チップを焼成することにより、単位セラミック基材と、前記単位セラミック基材の対向する2つの面の一面または両面に積層された単位樹脂層とを備える前記積層セラミックチップを得る焼成工程と、
を備え、
前記分断工程においては、
隣り合う前記分断予定位置の間隔よりも小さい間隔にて離隔させた一対の受刃の上に、前記焼成前母基板を、他方主面を上面する姿勢にて、前記複数の分断予定位置のうち分断の実行対象とする一の分断予定位置が前記一対の受刃の双方から等距離となるように水平に載置する載置工程と、
前記受刃に載置された前記焼成前母基板の上面側から前記一の分断予定位置に対してブレークプレートを当接させ、さらに前記ブレークプレートを押し下げることによって、前記焼成前母基板の下面側に位置する前記スクライブラインから前記一の分断予定位置においてクラックを伸展させることにより、前記焼成前母基板を前記一の分断予定位置において分断するブレーク工程と、
を、前記複数の分断予定位置の全てを前記一の分断予定位置として行う、
ことを特徴とする、積層セラミックチップの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の積層セラミックチップの製造方法であって、
前記樹脂層の焼成収縮率が前記セラミック成形体の焼成収縮率よりも大きい、
ことを特徴とする、積層セラミックチップの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の積層セラミックチップの製造方法であって、
前記積層セラミックチップの平面サイズが前記積層セラミックチップの厚みの3倍以下である、
ことを特徴とする、積層セラミックチップの製造方法。
【請求項4】
焼成されることによって、単位セラミック基材と、前記単位セラミック基材の対向する2つの面の一面または両面に積層された単位樹脂層とを備える積層セラミックチップとなる焼成前チップを、製造する方法であって、
板状のセラミック成形体の厚み方向において対向する2つの面の一面または両面に樹脂層が設けられた焼成前母基板を用意する準備工程と、
前記焼成前母基板の前記樹脂層が設けられた一方主面において、あらかじめ定められた複数の分断予定位置に沿ってスクライブラインを形成するスクライブ工程と、
前記複数の分断予定位置に沿って前記焼成前母基板を厚み方向に分断することにより、多数の焼成前チップを得る分断工程と、
を備え、
前記分断工程においては、
隣り合う前記分断予定位置の間隔よりも小さい間隔にて離隔させた一対の受刃の上に、前記焼成前母基板を、他方主面を上面する姿勢にて、前記複数の分断予定位置のうち分断の実行対象とする一の分断予定位置が前記一対の受刃の双方から等距離となるように水平に載置する載置工程と、
前記受刃に載置された前記焼成前母基板の上面側から前記一の分断予定位置に対してブレークプレートを当接させ、さらに前記ブレークプレートを押し下げることによって、前記焼成前母基板の下面側に位置する前記スクライブラインから前記一の分断予定位置においてクラックを伸展させることにより、前記焼成前母基板を前記一の分断予定位置において分断するブレーク工程と、
を、前記複数の分断予定位置の全てを前記一の分断予定位置として行う、
ことを特徴とする、積層セラミックチップ製造用の焼成前チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックチップを製造する方法に関し、特に、セラミック基材に樹脂層が設けられる積層セラミックチップの製法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック焼成基板などの硬脆な基板を分断してチップ化(個片化)する方法として、当該基板の一方主面の分断予定位置にあらかじめスクライブラインを形成するスクライブ処理を行ったうえで、他方主面側から分断予定位置に対してブレークプレートを当接させ、さらに該ブレークプレートを押し込む(三点曲げ)ブレーク処理を行うことにより、スクライブラインからクラックを伸展させて基板を分断する、という手法がすでに公知である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-83821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
硬脆なセラミック焼成体を構成要素として含むチップの一態様として、そのようなセラミック焼成体(例えばフェライトその他のLTCCセラミック)からなる基材に、当該基材よりも軟らかい(硬度が低い)樹脂層が積層された構成を有する積層セラミックチップを作製したい、というニーズがある。
【0005】
このような積層セラミックチップの作製に、特許文献1に開示されているような従来の手法を適用しようとすると、硬脆なセラミック焼成基板の上に樹脂層を形成してなる積層基板に対し、スクライブ処理とブレーク処理とを行う必要がある。
【0006】
しかしながら、係る積層基板の表層をなす樹脂層に対しスクライブ処理を行うだけでは、ブレーク処理において、樹脂層に形成されたスクライブラインから硬脆なセラミック焼成基板に対しクラックが良好に伸展せず、積層基板をあらかじめ定めた分断予定位置に沿って分断することが難しい、という問題がある。
【0007】
係る場合、樹脂層を貫通しセラミック焼成基板にまで達するスクライブラインを形成することにより、分断を行い得る可能性はある。ただし、セラミック焼成基板に対するスクライブラインの形成が、後工程や最終製品の品質などの点からNGである場合、そもそも係る手法を採用することはできない。
【0008】
また、樹脂層とセラミック焼成体との焼成収縮率の相違により、積層基板にそりや歪みが生じている場合、スクライブラインを好適に形成することが難しい場合がある。
【0009】
あるいは、作製したいチップの平面サイズが厚みに比して小さい場合(例えば3倍以下の場合)、スクライブラインが好適に形成されたとしても、ブレークを良好に行うことが難しいという問題もある。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、セラミック焼成体からなる基材の対向する2つの面のそれぞれに、当該基材よりも軟らかい樹脂層が積層された構成を有する積層セラミックチップを好適に作製することが出来る手法を実現することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、積層セラミックチップを製造する方法であって、板状のセラミック成形体の厚み方向において対向する2つの面の一面または両面に樹脂層が設けられた焼成前母基板を用意する準備工程と、前記焼成前母基板の前記樹脂層が設けられた一方主面において、あらかじめ定められた複数の分断予定位置に沿ってスクライブラインを形成するスクライブ工程と、前記複数の分断予定位置に沿って前記焼成前母基板を厚み方向に分断することにより、多数の焼成前チップを得る分断工程と、前記焼成前チップを焼成することにより、単位セラミック基材と、前記単位セラミック基材の対向する2つの面の一面または両面に積層された単位樹脂層とを備える前記積層セラミックチップを得る焼成工程と、を備え、前記分断工程においては、隣り合う前記分断予定位置の間隔よりも小さい間隔にて離隔させた一対の受刃の上に、前記焼成前母基板を、他方主面を上面する姿勢にて、前記複数の分断予定位置のうち分断の実行対象とする一の分断予定位置が前記一対の受刃の双方から等距離となるように水平に載置する載置工程と、前記受刃に載置された前記焼成前母基板の上面側から前記一の分断予定位置に対してブレークプレートを当接させ、さらに前記ブレークプレートを押し下げることによって、前記焼成前母基板の下面側に位置する前記スクライブラインから前記一の分断予定位置においてクラックを伸展させることにより、前記焼成前母基板を前記一の分断予定位置において分断するブレーク工程と、を、前記複数の分断予定位置の全てを前記一の分断予定位置として行う、ことを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載の積層セラミックチップの製造方法であって、前記樹脂層の焼成収縮率が前記セラミック成形体の焼成収縮率よりも大きい、ことを特徴とする。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の積層セラミックチップの製造方法であって、前記積層セラミックチップの平面サイズが前記積層セラミックチップの厚みの3倍以下である、ことを特徴とする。
【0014】
請求項4の発明は、焼成されることによって、単位セラミック基材と、前記単位セラミック基材の対向する2つの面の一面または両面に積層された単位樹脂層とを備える積層セラミックチップとなる焼成前チップを、製造する方法であって、板状のセラミック成形体の厚み方向において対向する2つの面の一面または両面に樹脂層が設けられた焼成前母基板を用意する準備工程と、前記焼成前母基板の前記樹脂層が設けられた一方主面において、あらかじめ定められた複数の分断予定位置に沿ってスクライブラインを形成するスクライブ工程と、前記複数の分断予定位置に沿って前記焼成前母基板を厚み方向に分断することにより、多数の焼成前チップを得る分断工程と、を備え、前記分断工程においては、隣り合う前記分断予定位置の間隔よりも小さい間隔にて離隔させた一対の受刃の上に、前記焼成前母基板を、他方主面を上面する姿勢にて、前記複数の分断予定位置のうち分断の実行対象とする一の分断予定位置が前記一対の受刃の双方から等距離となるように水平に載置する載置工程と、前記受刃に載置された前記焼成前母基板の上面側から前記一の分断予定位置に対してブレークプレートを当接させ、さらに前記ブレークプレートを押し下げることによって、前記焼成前母基板の下面側に位置する前記スクライブラインから前記一の分断予定位置においてクラックを伸展させることにより、前記焼成前母基板を前記一の分断予定位置において分断するブレーク工程と、を、前記複数の分断予定位置の全てを前記一の分断予定位置として行う、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1ないし請求項4の発明によれば、焼成前母基板をスクライブ処理およびこれに続くブレーク処理によって多数の焼成前チップに分断し、係る焼成前チップを焼成するという手順を採用することで、それぞれにおいて単位セラミック基材の対向する2つの面に単位樹脂層が積層されてなる多数の積層セラミックチップを、好適に得ることができる。特に、ブレーク時に一対の受刃がなす間隙の大きさを分断予定位置のピッチよりも小さくすることで、平面サイズが厚みに比して小さい積層セラミックチップであっても、好適に得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】積層セラミックチップの製造方法の概略的な手順を示す模式図である。
図2】焼成前母基板10に対するスクライブ処理の様子を模式的に示す図である。
図3】スクライブ処理の後の様子を示す図である。
図4】焼成前母基板10を分断する様子を模式的に示す図である。
図5】焼成前母基板10に対するブレークプレート202の当接がなされた直後の状態を示す図である。
図6】分断予定位置Pにおいて分断がなされた後の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<製法の概要>
図1は、本実施の形態に係る積層セラミックチップの製造方法の概略的な手順を示す模式図である。本実施の形態においては概略、板状のセラミック成形体1の厚み方向において対向する両面に、樹脂層2(2a、2b)が設けられた焼成前母基板10をあらかじめ用意し、係る焼成前母基板10を分断予定位置Pにおいて厚み方向に分断し、これによって得られた所定サイズの多数の焼成前チップ10Bを焼成することにより、単位セラミック基材1Cと、該単位セラミック基材1Cの対向する2つの面のそれぞれに積層された単位樹脂層2Cとを備える積層セラミックチップ10Cを得る。
【0018】
なお、図1においては図示の都合上、焼成前母基板10を側面図にて示すとともに、該焼成前母基板10の図面視左右方向において所定のピッチpにて互いに離隔した分断予定位置Pを示しているが、実際には、ある一の方向(第1の方向)に沿って並行に多数の分断予定位置Pが定められるとともに、係る第1の方向と所定の角度をなす(典型的には直交する)方向(第2の方向)においても、当該方向に並行に多数の分断予定位置Pが定められてよい。また、係る場合、第1の方向に沿った分断予定位置のピッチ(第2の方向におけるピッチ)と第2の方向に沿った第1の方向に沿った分断予定位置Pのピッチ(第1の方向におけるピッチ)とは、異なっていてもよい。
【0019】
セラミック成形体1は、所定のセラミック粉末を、所定のバインダー、溶剤などと混合したうえで板状に成形されたものである。セラミック粉末としては、フェライト粉末などのLTCC(低温焼成セラミック)粉末が例示される。セラミック成形体1は、例えば、複数枚のセラミックグリーンシートを積層・一体化するいわゆるグリーンシートプロセスの他、ドクターブレード法、ゲルキャスティング法など、種々の公知の手法により得ることが可能である。
【0020】
セラミック成形体1は例えば、0.1mm~2mm程度の厚みと、0.1mm~10mm程度の平面サイズ(例えば矩形状であれば一辺の長さ、円形状であれば直径が例示される)を有する。
【0021】
樹脂層2は、セラミック成形体1よりも硬度が低く、焼成時の収縮率が大きい樹脂からなる。樹脂層2は通常、セラミック成形体1よりも小さい厚みに形成される。例えば、1μm~1000μm程度の厚みが例示される。ただし、セラミック成形体1の一方主面側に形成される樹脂層2(2a)と、他方主面側に形成される樹脂層(2b)の厚みは、異なっていてもよい。係る樹脂層2は、印刷法(塗布法)その他の種々の公知の手法で形成されてよい。
【0022】
そして、積層セラミックチップ10Cは、焼成前母基板10を所定サイズに分断したものである焼成前チップ10Bが焼成される過程において、該焼成前チップ10Bを構成するセラミック成形体1における有機成分の脱離とセラミック粉末の焼結とが進行した結果物として得られる硬脆な単位セラミック基材1Cと、当該過程において焼成前チップ10Bを構成する樹脂層2が硬化したものである単位樹脂層2Cとからなる積層体である。ただし、硬化したとはいえ、単位樹脂層2Cは単位セラミック基材1Cよりも硬度が低い。
【0023】
なお、本実施の形態においては、積層セラミックチップ10Cの厚みをtとし、平面サイズ(一辺の長さ)をwとしたとき、積層セラミックチップ10Cが、w≦3tなる関係をみたすようにする。これはすなわち、焼成前チップ10Bを得る際の分断予定位置Pが、焼成を経て最終的に得られる積層セラミックチップ10Cにおいてw≦3tなる関係をみたすように、定められることを意味する。
【0024】
<分断の詳細>
焼成前母基板10の分断は、スクライブ処理とこれに続くブレーク処理とによって、行うことが出来る。図2は、焼成前母基板10に対するスクライブ処理の様子を模式的に示す図である。また、図3は、係るスクライブ処理の後の様子を示す図である。スクライブ処理は、公知のスクライブ装置100を用いて行うことが出来る。
【0025】
スクライブ装置100は、スクライブ対象物を水平姿勢にて下方支持可能なステージ101と、外縁部に刃先102eを有する円板状部材であるスクライビングホイール(カッターホイール)102とを、主として備える。スクライビングホイール102は、垂直面内において回転自在な態様にてスクライブ装置100に保持される。
【0026】
より詳細には、スクライビングホイール102は、直径が2mm~3mmの円板状の部材(スクライビングツール)であり、外周面に断面視二等辺三角形状の刃先102eを有する。また、少なくとも刃先102eはダイヤモンドにて形成されてなる。また、刃先102eの角度(刃先角)は100°~150°であるのが好適である。具体的なスクライブ条件は、焼成前母基板10の材質や厚み(特に樹脂層2の材質や厚み)などに応じて定められればよい。あるいはさらに、刃先101eの周方向に沿って、多数の微小な溝が等間隔に形成されてなる態様であってもよい。
【0027】
焼成前母基板10は、一のスクライブ動作において実際にスクライブ対象となる一の分断予定位置Pとスクライビングホイール102の回転面とが同一の鉛直面(図面に垂直な面)内に位置するように、ステージ101に載置固定され、位置決めされる。図2においては、樹脂層2aが備わる側を上面(スクライブ対象面)とし、反対側をステージ101に対する載置面とする態様にて、焼成前母基板10がステージ101に載置固定および位置決めされてなる場合を示している。
【0028】
係る載置固定および位置決めがなされると、図2において矢印AR0にて示すように、分断対象となる一の分断予定位置Pに向けて(より詳細には図面に垂直な方向における該分断予定位置Pの端部に向けて)、スクライビングホイール102が下降させられ、所定の荷重(スクライブ荷重と称する)を印加しつつ焼成前母基板10に(より具体的には樹脂層2aに)当接させられる。
【0029】
係る当接状態が実現されると、スクライビングホイール102は、樹脂層2aの表面における分断予定位置Pとの仮想的な交差線Paに沿って圧接転動させられる。これは例えば、図示しない駆動機構によりステージ101をスクライビングホイール102に対して相対的に水平移動させることにより実現される。すると、樹脂層2aにおいてスクライビングホイール102が圧接転動された箇所には、交差線Paに沿ってスクライブラインSLが形成される。なお、図3および以降の図においては、わかりやすさのため、スクライブラインSLの断面をV字状に示しているが、実際のスクライブラインSLの断面形状は、このようなV字状に限定されない。また、図3に示すように、本実施の形態においては、スクライブラインSLは樹脂層2(2a)の範囲においてのみ形成され、セラミック成形体1には到達していないものとする。
【0030】
係る態様によるスクライブラインSLの形成は、焼成前母基板10の一方主面側(図2および図3においては樹脂層2aが備わる側)において全ての分断予定位置Pを対象に行われる。
【0031】
スクライブ処理が終了した焼成前母基板10は続いて、ブレーク処理に供される。図4は、ブレーク処理の様子を模式的に示す図である。ブレーク処理は、公知のブレーク装置200を用いて行うことが出来る。
【0032】
ブレーク装置200は、ブレーク対象物を水平姿勢にて下方支持可能な一対の受刃201と、鉛直下方に断面視略三角形状の刃先202eを有する板状部材であるブレークプレート202とを、主として備える。
【0033】
一対の受刃201は、水平面内の一の方向(図4においては図面視左右方向)において互いに近接および離隔することが可能に設けられてなる。焼成前母基板10を分断するに際しては、一対の受刃201は、当該方向において所定の間隙dをなすように離隔配置される。換言すれば、一対の受刃201は、水平面内において両者の移動方向と垂直な方向に所定の間隙dを延在させる態様にて、離隔配置される。ここで、間隙dは、分断対象たる焼成前母基板10における分断予定位置Pのピッチpよりも小さな値に定められる。係る間隙dの大きさは、ピッチpの1.5倍程度に定められる通常のブレーク処理における大きさに比べると、相当に小さいといえる。
【0034】
ブレークプレート202は、断面視略二等辺三角形状の刃先202eが刃渡り方向に延在するように設けられてなる板状の金属製(例えば超硬合金製)部材である。図4においては、刃渡り方向が図面に垂直な方向となるように、ブレークプレート202を示している。ブレークプレート202は、一対の受刃201のなす間隙dのちょうど中間の位置(それぞれの受刃201からd/2ずつ離隔した位置)の鉛直上方において、図示しない昇降機構により昇降自在に設けられてなる。
【0035】
より詳細には、ブレークプレート202としては、刃先202eの角度(刃先角)θが5°~90°であり、刃先202eの先端が1μm~100μmなる断面曲率半径を有する曲面をなしているものを用いるのが好適である。具体的なブレーク条件は、焼成前母基板10の材質や厚みなどに応じて定められればよいが、少なくとも、本実施の形態においては、刃先202eが焼成前母基板10の表層をなしている樹脂層2に入り込むような鋭利なブレークプレート202を用いることは、意図していない。
【0036】
焼成前母基板10は、ブレーク処理に際し、図示しないダイシングリングに張設されたダイシングテープDTに、スクライブ処理にてスクライブラインが形成された側の樹脂層2(図4においては樹脂層2a)の表面を貼付させた状態で、換言すれば、他方の樹脂層2(図4においては樹脂層2b)を最上層とする姿勢にて、上述の間隙dをなす一対の受刃201の上に載置固定される。
【0037】
より詳細には、焼成前母基板10は、実際に分断対象となる一の分断予定位置Pとブレークプレート202の刃先202eとが同一の鉛直面(図面に垂直な面)内に位置するように、一対の受刃201の上に載置固定される。
【0038】
そして、係る態様にて位置決めがなされると、ブレークプレート202は、図4において矢印AR1にて示すように、分断予定位置Pに向けて下降させられる。より具体的には、図面に垂直な方向に延在する、分断予定位置Pと樹脂層2bの表面との仮想的な交差線Pbの位置に向けて下降させられる。
【0039】
係る態様にて下降させられたブレークプレート202は、やがて交差線Pbの位置において焼成前母基板10に(より具体的には樹脂層2bに)当接する。図5は、係る当接がなされた直後の状態を示す図である。
【0040】
ブレークプレート202は、焼成前母基板10に(樹脂層2bに)当接した後も、図5に矢印AR2にて示すようにさらに下降させられる。換言すれば、ブレークプレート202は、焼成前母基板10を押し込むように下降する。
【0041】
すると、焼成前母基板10には、ブレークプレート202が焼成前母基板10を押し込む力と一対の受刃201がそれぞれに下方から焼成前母基板10を支持する力(垂直抗力)とが剪断力として作用することとなる。係る場合において、ブレークプレート202を押し込む際の条件(例えば、距離(押し込み量)、速度など)を適宜に調整すると、図5に示すように、分断予定位置Pにおいて、下端部となっているスクライブラインSLの形成位置に、水平方向に相反する外向きの引張力fが生じ、矢印AR3にて示すように、スクライブラインSLを起点として、厚み方向にクラックCRが伸展していくことになる。すなわち、スクライブラインSL(樹脂層2a)→セラミック成形層→樹脂層2bの順に、クラックCRが伸展していき、最終的には分断予定位置Pにおいて焼成前母基板10が分断されることになる。図6は、分断予定位置Pの全般に渡ってクラックCRが伸展した後の様子、換言すれば、分断予定位置Pにおいて分断がなされた後の様子を示す図である。
【0042】
なお、上述のように1対の受刃201の間隙dを分断予定位置Pのピッチpよりも小さくすることは、クラックCRの伸展を生じさせ易くする効果を有している。
【0043】
以上のようなブレーク処理による分断を、全ての分断予定位置Pにおいて行うことで、多数の焼成前チップ10Bが得られることになる。そして、得られた焼成前チップ10Bを所定の焼成条件にて焼成することで、積層セラミックチップ10Cが得られる。焼成前チップ10Bの焼成には、公知の手法が適用可能である。また、具体的な焼成条件は、焼成前チップ10Bの構成材料や、所望される積層セラミックチップ10Cのサイズや、焼成収縮率その他に応じて、適宜に定められる。
【0044】
<焼成前分断の効果>
上述したように、本実施の形態においては、それぞれにおいて単位セラミック基材1Cの対向する2つの面に単位樹脂層2Cが積層されてなる多数の積層セラミックチップ10Cを得るに際して、焼成前母基板10を焼成前チップ10Bに分断し、係る焼成前チップ10Bを焼成するという手順を採用している。これを焼成前分断と称することとする。
【0045】
これに対し、焼成前母基板10を焼成した後、本実施の形態のようにスクライブ処理およびブレーク処理にて分断してチップ化することにより、多数の積層セラミックチップ10Cを得ようとする手法を、焼成後分断と称することとする。焼成後分断の場合、セラミック成形層の焼成体である硬脆なセラミック焼成層の上に樹脂層を備える積層基板が、分断対象となる。
【0046】
両者を比較すると、硬脆な焼成体をブレーク対象とする分、焼成後分断の方がブレークに際し大きな力を要することは明らかである。従って、樹脂層に対するスクライブラインの形成は好適になし得たとしても、係るスクライブラインからブレーク処理によって焼成体にまでクラックを伸展させることは、しかも、分断予定位置Pに沿って伸展させることは、容易ではない。特に、積層セラミックチップ10Cの厚みtと平面サイズwとがw≦3tなる関係をみたすような、平面サイズが厚みに比して小さい積層セラミックチップ10Cを得るべくブレークを行うことは、より困難さが高い。
【0047】
場合によっては、焼成体部分にまで達するような深いスクライブラインを形成することで、ブレークが可能となる場合も考えられるが、そのような深いスクライブラインがNGとされる場合には、かかる手法は採用し得ない。
【0048】
また、樹脂層とセラミック焼成体との焼成収縮率の相違により、積層基板にそりや歪みが生じている場合、スクライブ処理およびブレーク処理を好適に行うことが難しい。
【0049】
これに対し、本実施の形態において行う焼成前分断の場合も、樹脂層2とセラミック成形体1とは、異種の材料からなっており、その強度も同じではないが、セラミック成形体1の強度は焼成体と比べ弱いため、樹脂層2の範囲にのみスクライブラインSLを形成する態様であったとしても、ブレークは容易になし得る。特に、w≦3tなる関係をみたすようにブレークを行うことも、1対の受刃201の間隙dを分断予定位置Pのピッチpよりも小さくすることによって、好適になし得るようになっている。
【0050】
当然ながら、焼成前母基板10には焼成に伴う反りや歪みは生じていないので、それらを原因とした不具合も生じない。
【0051】
なお、焼成前母基板10を分断して得られる焼成前チップ10Bは、焼成によって収縮するが、焼成条件と焼成前チップ10Bの焼成収縮率との関係を事前実験等であらかじめ把握しておきさえすれば、所望するサイズの積層セラミックチップ10Cとなる焼成前チップ10Bが得られるように焼成前母基板10を分断し、係る焼成収縮率が実現される焼成条件にて焼成前チップ10Bを焼成することによって、当該サイズの多数の積層セラミックチップ10Cを得ることが出来る。
【0052】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、焼成前母基板をスクライブ処理とこれに続くブレーク処理とによって多数の焼成前チップに分断し、係る焼成前チップを焼成するという手順を採用することで、それぞれにおいて単位セラミック基材の対向する2つの面に単位樹脂層が積層されてなる多数の積層セラミックチップを、好適に得ることができる。特に、ブレーク時に一対の受刃がなす間隙の大きさを分断予定位置のピッチよりも小さくすることで、平面サイズが厚みに比して小さい積層セラミックチップであっても、好適に得ることが出来る。
【0053】
<変形例>
上述の実施の形態においては、全ての分断予定位置に沿った分断を行うことで得られる焼成前チップを焼成することにより、積層セラミックチップを得るようにしているが、一方の方向に沿った分断予定位置における分断のみを先行して行い、得られた焼成前チップを焼成した後、得られた焼成体を対象に、第2の方向に沿った分断をダイシングやレーザー加工等の公知の手法により行うことで、所望のサイズの積層セラミックチップを得る態様であってもよい。
【実施例
【0054】
焼成前母基板10をスクライブ処理およびブレーク処理により分断して焼成前チップ10Bを得る実験を行った。
【0055】
焼成前母基板10としては、平面サイズが88mm角であり、セラミック成分がフェライトである厚みが0.59mmの板状のセラミック成形体1の両主面に厚みが0.04mmの樹脂層2を設けたものを用意した。
【0056】
分断は、直交する2つの方向において分断予定位置のピッチを違えて行った。具体的には、第1の方向に沿って規定される分断予定位置のピッチ(第2の方向におけるピッチ)は1.514mmとし、第2の方向に沿って規定される分断予定位置のピッチ(第1の方向におけるピッチ)は7.57mmとした。
【0057】
スクライブ処理の条件は、用いるスクライビングホイール102の種類と押し込み荷重との組み合わせを違えることにより、次の3水準に違えた。
【0058】
条件1:直径2mm、刃先角100°、溝部なし、押し込み荷重0.10MPa~0.3MPa;
条件2:直径2mm、刃先角150°、溝部なし、押し込み荷重0.10MPa~0.3MPa;
条件3:直径2mm、刃先角100°、溝部あり、押し込み荷重0.10MPa~0.2MPa。
【0059】
スクライブ速度は100mm/sとし、カッターZ(基板表面からの計算上の下降距離)は0.1mmとした。
【0060】
また、ブレーク処理においては、ブレーク装置200における受刃201の間隙dを1mmとし、ブレークプレート201として刃先角θが60°で先端曲率半径が100μmの刃先202eを有するものを用意し、係るブレークプレート201を100mm/sの速度で下降させ、押し込み量は0.2mmとした。
【0061】
得られた焼成前チップ10Bの分断面を目視および光学顕微鏡にて観察したところ、条件1~条件3のいずれにおいても、ピッチが大きい第2の方向に沿った分断のみならず、ピッチが小さい、第1の方向に沿った分断についても、良好に行えることが確認された。また、カッターZの値を樹脂層の厚みよりも大きく設定しているにもかかわらず、スクライブラインは、樹脂層にのみ形成されてなることも、確認された。
【符号の説明】
【0062】
1 セラミック成形体
1C 単位セラミック基材
2(2a、2b) 樹脂層
2C 単位樹脂層
10 焼成前母基板
10B 焼成前チップ
10C 積層セラミックチップ
200 ブレーク装置
201 (一対の)受刃
202 ブレークプレート
202e (ブレークプレートの)刃先
CR クラック
DT ダイシングテープ
P 分断予定位置
SL スクライブライン
d (一対の受刃の)間隙
f 引張力
p ピッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6