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特許7182783ボルト締めランジュバン型振動子、超音波計測用機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】ボルト締めランジュバン型振動子、超音波計測用機器
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/521 20060101AFI20221128BHJP
   H01L 41/083 20060101ALI20221128BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20221128BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20221128BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20221128BHJP
   G01S 15/96 20060101ALI20221128BHJP
   H04R 17/10 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
G01S7/521 A
H01L41/083
H01L41/09
H01L41/187
H01L41/113
G01S15/96
H04R17/10 330A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019017350
(22)【出願日】2019-02-01
(65)【公開番号】P2020125931
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000243364
【氏名又は名称】本多電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】流田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】原田 紘幸
(72)【発明者】
【氏名】舞田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】青木 祥博
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0063618(US,A1)
【文献】特開2014-111529(JP,A)
【文献】国際公開第2013/179776(WO,A1)
【文献】特開2004-312119(JP,A)
【文献】特開2015-125110(JP,A)
【文献】特開平10-186030(JP,A)
【文献】特開2014-030795(JP,A)
【文献】特開2008-098627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/72- 1/82,
G01S 3/80- 3/86,
G01S 5/18- 5/30,
G01S 7/52- 7/64,
G01S 15/00-15/96,
H01L 27/20,41/00-41/47,
H04R 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントマスとバックマスとの間に、無鉛材料で形成された圧電素子及び電極板を複数枚ずつ積層してなる駆動部が挟持され、前記駆動部を貫通する孔に挿通された締め付けボルトにより、前記フロントマスと前記バックマスとが締結された構造のランジュバン型振動子であって、
前記駆動部は、ニオブ酸アルカリ系のセラミックス圧電材料を用いて形成された前記圧電素子を4枚以上含んで構成され、
前記フロントマスは第1の金属材料を用いて形成され、前記バックマスは前記第1の金属材料よりも比重が大きい第2の金属材料を用いて形成され
振動子全長は共振周波数の半波長の長さに相当し、前記駆動部の厚さは前記振動子全長の1/3未満であり、かつ前記フロントマスの厚さは前記振動子全長の1/3を超えるものである
ことを特徴とするボルト締めランジュバン型振動子。
【請求項2】
前記圧電素子は、ニオブ酸ナトリウムカリウム系のセラミックス圧電材料を用いて形成されていることを特徴とする請求項1に記載のボルト締めランジュバン型振動子。
【請求項3】
前記第2の金属材料の比重は、前記第1の金属材料の比重の2倍以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のボルト締めランジュバン型振動子。
【請求項4】
前記第1の金属材料の比重は2.5以上3.5以下であり、前記第2の金属材料の比重が7.0以上9.0以下であることを特徴とする請求項3に記載のボルト締めランジュバン型振動子。
【請求項5】
超音波の送受信により物理量の計測を行う機器であって、請求項1乃至のいずれか1項に記載のボルト締めランジュバン型振動子を1つまたは複数含んで構成された超音波計測用機器。
【請求項6】
前記超音波計測用機器は、複数の前記ボルト締めランジュバン型振動子を同じ方向に向けてゴムモールドした構造の魚群探知機用センサであることを特徴とする請求項に記載の超音波計測用機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト締めランジュバン型振動子及びそれを使用した超音波計測用機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、図6(a)に示すような、ボルト締めランジュバン型振動子51がよく知られている。このボルト締めランジュバン型振動子51では、フロントマス52とバックマス53との間に、圧電素子54及び電極板55を2枚ずつ積層してなる駆動部56が挟持されている。駆動部56を貫通する孔には締め付けボルト(図示略)が挿通され、その締め付けボルトを締め付けることにより、フロントマス52とバックマス53とが締結されて各部材が一体化している。なお、このような振動子51と同様の構造のものは、例えば特許文献1などに開示されている。
【0003】
上記従来のボルト締めランジュバン型振動子51において、フロントマス52やバックマス53は、一般的にアルミニウム等の金属材料を用いて形成されている。また、圧電素子54としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)のような鉛を含むセラミックス圧電材料を用いて形成されたものが一般的である。そして近年では、環境性向上の観点から、鉛を含まないセラミックス圧電材料を用いた圧電素子54に対する要望が高まってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-89893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、無鉛のセラミックス圧電材料は、環境に与える影響が小さい点で好ましい反面、PZT等に代表される有鉛のセラミックス圧電材料に比べて圧電特性の点で劣っている。従って、無鉛のセラミックス圧電材料で形成された圧電素子54を用いて上記構造の振動子51を構成しても、PZTで形成された圧電素子54を用いて構成された従来のものと同等の性能を実現することは困難である。それゆえ、このような性能を実現するための何らかの方策が従来から望まれている。
【0006】
また、ボルト締めランジュバン型振動子51は、比較的パワーが大きいことから、通常は加工系の用途に適用されることが多いが、このような性能が実現されたあかつきには、計測系の用途で使用することも望まれている。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、無鉛の圧電材料を用いて圧電素子を形成したにもかかわらず有鉛の圧電材料を用いたものと同等以上の性能を実現することができるボルト締めランジュバン型振動子、超音波計測用機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑みて本願発明者らが鋭意研究を行い、数ある無鉛のセラミックス圧電材料のなかでもニオブ酸アルカリ系のセラミックス圧電材料が好適であるとの予測のもとに、当該材料で形成された圧電素子を従来どおり2枚用いて駆動部を構成したところ、期待するほど好適な性能が得られなかった。そこで本願発明者らはさらに試行錯誤を行った末、圧電素子の枚数を2枚よりも多くすること及びバックマスをフロントマスよりも重くすることにより、所望とする好適な性能が得られることを新規に知見し、最終的に下記の発明を想到するに至ったのである。
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、フロントマスとバックマスとの間に、無鉛材料で形成された圧電素子及び電極板を複数枚ずつ積層してなる駆動部が挟持され、前記駆動部を貫通する孔に挿通された締め付けボルトにより、前記フロントマスと前記バックマスとが締結された構造のランジュバン型振動子であって、前記駆動部は、ニオブ酸アルカリ系のセラミックス圧電材料を用いて形成された前記圧電素子を4枚以上含んで構成され、前記フロントマスは第1の金属材料を用いて形成され、前記バックマスは前記第1の金属材料よりも比重が大きい第2の金属材料を用いて形成され、振動子全長は共振周波数の半波長の長さに相当し、前記駆動部の厚さは前記振動子全長の1/3未満であり、かつ前記フロントマスの厚さは前記振動子全長の1/3を超えるものであることを特徴とするボルト締めランジュバン型振動子をその要旨とする。
【0010】
従って、請求項1に記載の発明によれば、相対的に比重が低い第1の金属材料を用いてフロントマスを形成し、相対的に比重が高い第2の金属材料を用いてバックマスを形成したことにより、フロントマスを軽くすることができ、フロントマス側の振幅を大きくすることができる。また、無鉛のセラミックス圧電材料のなかでも、ニオブ酸アルカリ系のセラミックス圧電材料は圧電特性が比較的優れている。そして、このような材料を用いて形成された圧電素子を4枚以上含んで駆動部を構成したことにより、従来構造に比較して大きな振動エネルギーを発生させることができる。その結果、無鉛の圧電材料を用いて圧電素子を形成したにもかかわらず有鉛の圧電材料を用いたものと同等以上の性能を実現することができる。また、本発明によると、ニオブ酸アルカリ系のセラミックス圧電材料を用いて圧電素子を形成しているため、環境性が向上するとともに装置全体の軽量化を達成しやすくなる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記圧電素子は、ニオブ酸ナトリウムカリウム系のセラミックス圧電材料を用いて形成されていることをその要旨とする。
【0012】
従って、請求項2に記載の発明によれば、ニオブ酸アルカリ系のセラミックスのなかでもとりわけ好適な圧電特性等を有するニオブ酸ナトリウムカリウム系(KNN系)のセラミックスを用いて駆動部を構成することにより、より大きな振動エネルギーを確実に発生させることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2において、前記第2の金属材料の比重は、前記第1の金属材料の比重の2倍以上であることをその要旨とする。
【0014】
従って、請求項3に記載の発明によれば、第1の金属材料と第2の金属材料との比重の差が十分大きいことから、フロントマス及びバックマスの寸法や形状をあまり変更せずに、フロントマスを軽くすることができ、フロントマス側の振幅を大きくすることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項3において、前記第1の金属材料の比重は2.5以上3.5以下であり、前記第2の金属材料の比重が7.0以上9.0以下であることをその要旨とする。
【0016】
従って、請求項4に記載の発明によれば、それぞれ上記比重の範囲内において、第1の金属材料及び第2の金属材料として好適なものをそれぞれ比較的容易に選択することができる。
【0018】
なお、上記請求項1等に記載の発明では、振動子全長が共振周波数の半波長の長さに相当するものにおいて、駆動部の厚さが振動子全長の1/3未満に抑えられていることから、駆動部全体を振動の節の付近に配置することが容易になる。ゆえに、駆動部における振幅を抑えることができ、圧電素子と電極板との接合界面に剥がれ等が生じにくくなる。また、駆動部を構成している各圧電素子の厚さが薄くなることで電界が大きくなり、その結果、振動変位が増大して送波音圧が高くなる。また、振動子全長に占めるフロントマスの厚さの比率が大きくなることで、相対的にバックマスを重くした場合であっても振動のバランスがとりやすくなり、フロントマス側の振幅をより確実に大きくすることができる。
【0021】
請求項に記載の発明は、超音波の送受信により物理量の計測を行う機器であって、請求項1乃至のいずれか1項に記載のボルト締めランジュバン型振動子を1つまたは複数含んで構成された超音波計測用機器をその要旨とする。
【0022】
請求項に記載の発明は、請求項において、前記超音波計測用機器は、複数の前記ボルト締めランジュバン型振動子を同じ方向に向けてゴムモールドした構造の魚群探知機用センサであることをその要旨とする。
【発明の効果】
【0023】
以上詳述したように、請求項1~に記載の発明によると、無鉛の圧電材料を用いて圧電素子を形成したにもかかわらず有鉛の圧電材料を用いたものと同等以上の性能を実現することができるボルト締めランジュバン型振動子、超音波計測用機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明を具体化した実施形態のボルト締めランジュバン型振動子を示す正面図。
図2】実施形態のボルト締めランジュバン型振動子を示す平面図。
図3図2のA-A線における断面図。
図4】実施形態のボルト締めランジュバン型振動子を用いて構成された魚群探知機用センサの概略縦断面図。
図5図4のB-B線における概略断面図。
図6】(a)は従来例である比較例1のボルト締めランジュバン型振動子の概略図、(b)は比較例2のボルト締めランジュバン型振動子の概略図、(c)は実施形態のボルト締めランジュバン型振動子の概略図。
図7】入力電圧と放射面振幅との関係を比較したグラフ。
図8】送波音圧を受波感度を比較したグラフ。
図9】指向特性を比較したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した実施形態のボルト締めランジュバン型振動子11、魚群探知機用センサ41を図1図9に基づき詳細に説明する。
【0026】
図1図3に示されるように、本実施形態のボルト締めランジュバン型振動子11は、フロントマス21、バックマス22、駆動部31及び締め付けボルト25によって構成されている。
【0027】
フロントマス21(前面板)はボルト締めランジュバン型振動子11における前端側に配置されており、その前面26から超音波を放射するようになっている。バックマス22(裏打板)はボルト締めランジュバン型振動子11における後端側に配置されている。なお、本実施形態においては、フロントマス21が25mm角の断面矩形状に形成されている一方、バックマス22が直径25mmの断面円形状に形成されている(図2参照)。
【0028】
駆動部31は、圧電素子32及び電極板33を複数枚(本実施形態では4枚)ずつ積層したものであって、フロントマス21とバックマス22との間に挟持されている。圧電素子32は円環状であり、電極板33は一部にタブ部を有する略円環状であることから、駆動部31は自身の中心を貫通するボルト挿通孔34を有したものとなっている。各圧電素子32は厚さ方向に分極しており、それらの分極の向きについては図4中にて矢印で示されている。また、フロントマス21及びバックマス22には、振動子11の中心軸線C1と同軸上に、それぞれ雌ねじ孔24、23が形成されている。なお、バックマス22側の雌ねじ孔23は貫通孔であるのに対し、フロントマス21側の雌ねじ孔24は前面26において貫通していない非貫通孔となっている。外周面に雄ねじが形成された締め付けボルト25はバックマス22側から挿入されており、その先端は雌ねじ孔23及びボルト挿通孔34を介してフロントマス21側の雌ねじ孔24に到っている。締め付けボルト25は雌ねじ孔23、24に螺合しており、これを締め付けることによりフロントマス21、駆動部31及びバックマス22が互いに固定され一体化している。
【0029】
本実施形態のボルト締めランジュバン型振動子11では、フロントマス21が比重2.5以上3.5以下の第1の金属材料を用いて形成され、バックマス22が第1の金属材料よりも比重が大きく、比重が7.0以上9.0以下の第2の金属材料を用いて形成されている。具体的には、第1の金属材料としてアルミニウム(比重2.7)を用いてフロントマス21が形成され、バックマス22を第2の金属材料としてSUS304等のステンレス(比重7.70~8.00程度)を用いてバックマス22が形成されている。つまり、バックマス22に用いられている金属材料の比重は、フロントマス21に用いられている金属材料の比重の約2.9倍となっている。なお、締め付けボルト25を形成する金属材料は任意であるが、ここではステンレスが用いられている。
【0030】
本実施形態のボルト締めランジュバン型振動子11では、駆動部31を構成する圧電素子32がいずれも無鉛のセラミックス圧電材料を用いて形成され、具体的にはニオブ酸アルカリ系のセラミックス圧電材料を用いて形成されている。
【0031】
ニオブ酸アルカリ系のセラミックス圧電材料の好適例としては、ペロブスカイト構造を持つ、ニオブ酸カリウムとニオブ酸ナトリウムの固溶体であるニオブ酸カリウムナトリウム系(KNN系)のセラミックス圧電材料などがある。KNN系のセラミックス圧電材料とは、少なくともK(カリウム)、Na(ナトリウム)、Nb(ニオブ)を主な金属成分として含むものをいい、その組成中にはPb(鉛)をはじめとする他の有毒有害な元素は殆どあるいは全く含有されていない。このようなKNN系のセラミックス圧電材料は、K(カリウム)やNa(ナトリウム)のほかに、Li(リチウム)等のアルカリ金属を含んでいてもよく、またNb(ニオブ)のほかに、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Ba(バリウム)、Ta(タンタル)、Sb(アンチモン)等のアルカリ土類金属を含んでいてもよい。さらに、KNN系のセラミックス圧電材料は、少量のBi(ビスマス)、Fe(鉄)、Al(アルミニウム)、Mn(マンガン)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)等を含んでいてもよい。
【0032】
特に本実施形態では、以下の組成式(1)で表されるKNN系のセラミックス圧電材料であって、添加物である金属元素として少量のBi(ビスマス)及びFe(鉄)を含むものを用いて、圧電素子32を形成している。
{Li(K1-yNa1-x}(Nb1-zSb)O ・・・(1)
【0033】
ここで、Biの添加量(mol比)をv、Feの添加量(mol比)をwとしたとき、0.03≦x≦0.045、0.5≦y≦0.58、0.03≦z≦0.045、0.006≦v<w≦0.010の範囲を満たす組成を有するものとしている。このような組成範囲を満たすKNN系のセラミックス圧電材料とした場合には、良好な圧電特性(例えば、圧電定数d33が250pC/N以上、キュリー温度Tcが330℃以上)や、良好な電気的特性(例えば、径方向の電気機械結合係数Kpが0.44以上、比誘電率ε33 T/ε0が1390以上、誘電損失tanδが0.03以下)が得やすくなる。さらに、0.007≦v<w≦0.009の組成範囲を満たすものとした場合には、圧電定数d33が270pC/N以上、キュリー温度が340℃以上、径方向の電気機械結合係数Kpが0.47以上、比誘電率ε33 T/ε0が1450以上、誘電損失tanδが0.25以下といった、より良好な特性を得ることが可能となる。
【0034】
図1に示されるように、本実施形態のボルト締めランジュバン型振動子11は共振周波数が50kHzであって、かつ振動子全長L1が約42mmとなるように形成されている。即ち、当該振動子全長L1が共振周波数の半波長の長さ(λ/2)に相当するものとされている。
【0035】
フロントマス21の厚さT3は、振動子全長L1の1/3を超えるものであることが好ましく、振動子全長L1の34%~44%であることがより好ましく、ここでは約16mm(振動子全長L1の約38%)とされている。
【0036】
バックマス22の厚さT1は、振動子全長L1の1/3前後であることが好ましく、振動子全長L1の30%~40%であることがより好ましく、ここでは約15mm(振動子全長L1の約36%)とされている。なお、バックマス22の厚さT1は、上記のようにフロントマス21の厚さT3よりも若干小さいことが好適である。
【0037】
また、4枚分の圧電素子32及び4枚分の電極板33の厚さの総和である駆動部31の厚さT2は、振動子全長L1の1/3未満であることが好ましく、振動子全長L1の21%~31%であることがより好ましく、ここでは約11mm(振動子全長L1の約26%)とされている。ちなみに、各圧電素子32の厚さはいずれも2.5mm程度であり、各電極板33の厚さはそれらよりもかなり薄く0.2mm程度となっている。
【0038】
図1に示されるように、本実施形態のボルト締めランジュバン型振動子11の場合、振動子長さ方向における中間点である駆動部31の中心部、より具体的にいうと2層めの圧電素子32及び電極板33と、3層めの圧電素子32及び電極板33との界面の部分に、超音波振動の節部F1がくるように設計されている。また、振動子における両端部(フロントマス21及びバックマス22の各々の端面)に、超音波振動の腹部H1がくるように設計されている。
【0039】
図4図5には、実施形態のボルト締めランジュバン型振動子11を用いて構成された魚群探知機用センサ41が示されている。この魚群探知機用センサ41は、複数のボルト締めランジュバン型振動子11を同じ方向に向けてゴムモールドした構造を有している。より具体的に説明すると、この魚群探知機用センサ41における容器(ゴムモールド部)は、容器本体42と蓋部43とを備えている。その容器本体42の底部45は音響整合層を兼ねており、その底部45の上には4つのボルト締めランジュバン型振動子11がフロントマス21側を下方に向けるようにして接合固定されている。また、各ボルト締めランジュバン型振動子11における電極板33のタブ部には、図示しない電線が電気的に接続されている。それらの電線は、ケーブル44を介してセンサ外部に引き出されており、発振器等を含む駆動制御装置等や電源装置(いずれも図示略)に電気的に接続されている。そして、このような構造の魚群探知機用センサ41によると、駆動制御装置からの駆動信号に基づき、4つあるボルト締めランジュバン型振動子11が同時に駆動され振動を開始する。すると、各ボルト締めランジュバン型振動子11の発した超音波が容器本体42の底部45に伝達され、容器の底面から外部に放射されるようになっている。また、先に放射された超音波の反射波が容器本体42の底部45を介して各ボルト締めランジュバン型振動子11に伝達され、検知信号として駆動制御装置に出力されるようになっている。
【0040】
以下、本実施形態をより具体化した実施例について説明する。
【実施例
【0041】
本実施例では、下記のような3種類のボルト締めランジュバン型振動子を作製した。図6(c)のものは、基本的に上記実施形態のボルト締めランジュバン型振動子11であって、アルミニウム製のフロントマス21とステンレス製のバックマス22との間に、上記組成式(1)で表されるKNN系のセラミックス圧電材料で形成された圧電素子32及び電極板33を4枚ずつ積層してなる駆動部31を挟持した構造を有している。なお、図6(a)~図6(c)中にも矢印をもって分極の向きが示されている。
【0042】
ここで使用する圧電素子32の製造方法について詳述する。まず、KCO、NaCO、LiCO、Nb、Sb、Bi、Feの原料粉末(純度99%以上)を準備した。そして、上記組成式(1)で表される組成を満たすように、それぞれの金属元素を含有する原料粉末を秤量し、ボールミルによりアルコール中で24時間混合して混合スラリーを得た。なお、それぞれの金属元素を含有する原料粉末(化合物)の種類は特に限定されないが、各金属元素の酸化物、炭酸塩等を用いることができる。次いで、得られた混合スラリーを乾燥し、900℃で3時間仮焼した後に、ボールミルによって24時間粉砕した。さらに、バインダとしてポリビニルアルコール水溶液を添加し、造粒した。そして、造粒後の粉体を圧力200MPaにて、直径24mm、厚さ約2.5mmの円環状に加圧成形し、この成形体を1000~1200℃にて2.5時間焼成し、焼成体を作製した。なお、このときの焼成温度は、1000~1200℃の間で焼成体が最大密度になる温度を選定した。この後、両面研磨加工や分極処理等を経ることにより、KNN系のセラミックス圧電材料で形成された圧電素子32を得た。
【0043】
一方、図6(b)のものは比較例2のボルト締めランジュバン型振動子11Aであり、フロントマス21とバックマス22との間に、上記組成式(1)で表されるKNN系のセラミックス圧電材料で形成された圧電素子32及び電極板33を積層してなる駆動部31を挟持している点については、実施形態と共通している。ただし、フロントマス21及びバックマス22の両方がアルミニウム製である点、圧電素子32及び電極板33を2枚ずつ使用して駆動部31を構成している点、圧電素子32が肉厚である点について、実施形態と相違している。
【0044】
また、図6(a)のものは比較例1(従来例)のボルト締めランジュバン型振動子51であり、フロントマス52とバックマス53との間に、セラミックス圧電材料で形成された圧電素子54及び電極板55を積層してなる駆動部56を挟持している点については、実施形態と共通している。ただし、フロントマス52及びバックマス53の両方がアルミニウム製である点、圧電素子54及び電極板55を2枚ずつ使用して駆動部56を構成している点、圧電素子54が肉厚である点、圧電素子54がPZT(即ち有鉛のセラミックス圧電材料)で形成されている点について、実施形態と相違している。
【0045】
実施形態、比較例1及び比較例2の性能を比較するために、入力電力と放射面振幅との関係を調査した。その結果を図7のグラフに示す。なお、このグラフ中、実施形態のデータ曲線は◆で示される点を結んだものとして表され、比較例1のデータ曲線は■で示される点を結んだものとして表され、比較例2のデータ曲線は●で示される点を結んだものとして表されている。
【0046】
比較例1の場合、入力電力が約10W以下の範囲では放射面振幅が線形的に増加する傾向が認められたが、約10Wを超える範囲になると線形性が崩れて波形が歪んでしまうことがわかった。ゆえに、比較例1のボルト締めランジュバン型振動子51は、約10Wを超える範囲では安定的に使用することができないことが示唆される結果となった。
【0047】
比較例2の場合、グラフにおいて比較例1より低い位置に曲線が描かれており、入力電圧に対する放射面振幅が全体的に小さくなっていた。また、入力電力が約5W以下の範囲では放射面振幅が線形的に増加する傾向が認められたが、約5Wを超える範囲になると線形性が崩れて波形が歪むことがわかった。ゆえに、比較例2のボルト締めランジュバン型振動子11Aは、比較例1と比べて安定的に使用できる電力の範囲が狭いことがわかった。以上のことから、比較例2は、環境に与える影響が小さい点で好ましい反面、PZTを用いて構成された比較例1に比べてフロントマス21側に大きな振動エネルギーを発生させることができないことがわかった。よって、比較例2では比較例1と同等の圧電性能を実現することができないと結論付けられた。
【0048】
これに対し、実施形態の場合、グラフにおいて比較例1より高い位置に曲線が描かれており、入力電圧に対する放射面振幅が全体的に大きくなっていた。また、入力電力が約15Wに到るまで放射面振幅が線形的に増加する傾向が認められた。ゆえに、実施形態のボルト締めランジュバン型振動子11は、比較例1と比べて安定的に使用できる電力の範囲が広いことがわかった。以上のことから、実施形態は、環境に与える影響が小さいことに加え、PZTを用いて構成された比較例1に比べてフロントマス21側に大きな振動エネルギーを発生させることができることがわかった。よって、実施形態では比較例1よりも優れた圧電性能を実現することができると結論付けられた。
【0049】
次に、実施形態のボルト締めランジュバン型振動子11、比較例1のボルト締めランジュバン型振動子51を用いて、図4図5に示したような魚群探知機用センサ41をそれぞれ作製し、実際に使用して性能を比較した。図8の上段は両者の送波音圧を比較するためのグラフであり、図8の下段は両者の受波感度を比較するためのグラフである。いずれも横軸は周波数を示し、縦軸は音圧(感度)を示している。図8のグラフ中、実施形態のデータ曲線は◆で示される点を結んだものとして表され、比較例1のデータ曲線は■で示される点を結んだものとして表されている。これによると、実施形態は比較例1とほぼ同等の送受信感度を備えているといい得る結果となった。また、図9の上段は実施形態の指向特性を示すグラフであり、図9の下段は比較例1の指向特性を示すグラフである。これによると、比較例1の半減全角は48°であったのに対し、実施形態の半減全角は30°であった。それゆえ、実施形態によれば狭い指向角を実現することができることがわかった。
【0050】
そして、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0051】
(1)本実施形態のボルト締めランジュバン型振動子11では、相対的に比重が低いアルミニウム(第1の金属材料)を用いてフロントマス21を形成し、相対的に比重が高いステンレス(第2の金属材料)を用いてバックマス22を形成している。これにより、フロントマス21を軽くすることができ、フロントマス21側の振幅を大きくすることができる。また、無鉛のセラミックス圧電材料のなかでも、ニオブ酸アルカリ系のセラミックス圧電材料は圧電特性が比較的優れている。そして、このような材料を用いて形成された圧電素子32を4枚以上含んで駆動部31を構成したことにより、従来構造に比較して大きな振動エネルギーを発生させることができる。その結果、無鉛の圧電材料を用いて圧電素子32を形成したにもかかわらず、PZTを用いたものと同等以上の性能を実現することができる。また、本実施形態によると、ニオブ酸アルカリ系のセラミックス圧電材料を用いて圧電素子32を形成しているため、環境性が向上するとともに装置全体の軽量化を達成しやすくなる。
【0052】
(2)本実施形態では、ニオブ酸アルカリ系のセラミックスのなかでもとりわけ好適な圧電特性等を有する、特性組成のKNN系のセラミックスを用いて駆動部31を構成している。よって、より大きな振動エネルギーを確実に発生させることができ、ひいてはPZTを用いたものと同等以上の性能を比較的容易に実現することができる。
【0053】
(3)本実施形態では、第1の金属材料であるアルミニウムと、第2の金属材料であるステンレスとの比重の差が2倍以上であって十分大きい。このため、フロントマス21及びバックマス22の寸法や形状をあまり変更せずに、フロントマス21を軽くすることができ、フロントマス21側の振幅を大きくすることができる。
【0054】
(4)本実施形態では、振動子全長L1が共振周波数の半波長λ/2の長さに相当するものにおいて、駆動部31の厚さT2が振動子全長L1の1/3未満に抑えられていることから、駆動部31全体を振動の節部F1の付近に配置することが容易になる。ゆえに、駆動部31における振幅を抑えることができ、圧電素子32と電極板33との接合界面に剥がれ等が生じにくくなる。また、駆動部31を構成している各圧電素子32の厚さが薄くなることで電界が大きくなり、その結果、振動変位が増大して送波音圧が高くなる。また、振動子全長L1に占めるフロントマス21の厚さの比率が大きくなることで、相対的にバックマス22を重くした場合であっても振動のバランスがとりやすくなり、フロントマス21側の振幅をより確実に大きくすることができる。
【0055】
(5)ちなみに、本実施形態で使用しているKNN系のセラミックス圧電材料は、PZTに比べて高電圧耐性に優れるため、圧電素子32が薄くなって駆動時の電界が2倍程度になっても、圧電特性の劣化を抑えることができる。よって、KNN系のセラミックス圧電材料を用いることで肉薄の圧電素子32を形成しやすくなり、これを複数枚積層することで全体的に厚さを抑えた駆動部31を作製することができる。
【0056】
なお、本発明の各実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0057】
・上記実施形態では、ニオブ酸アルカリ系のセラミックス圧電材料としてKNN系のセラミックス圧電材料を用いて圧電素子32を形成したが、KNN系以外のニオブ酸アルカリ系のセラミックス圧電材料を用いても勿論よい。
【0058】
・上記実施形態では、4枚の圧電素子32を含んで構成される駆動部31を例示したが、それ以上の枚数(例えば6枚や8枚)の圧電素子32を含んで構成されるものとしてもよい。
【0059】
・上記実施形態では、共振周波数が50kHzであって、かつ振動子全長L1が当該共振周波数の半波長λ/2の長さに相当するボルト締めランジュバン型振動子11を例示したが、共振周波数は50kHzに限定されず、例えば25kHz~50kHzの範囲の任意の周波数であってもよい。また、振動子全長L1は、共振周波数の半波長λ/2の長さに相当するものに限定されず、例えば波長λの長さに相当するものであってもよい。
【0060】
・上記実施形態では、フロントマス21を第1の金属材料であるアルミニウムを用いて形成し、バックマス22を第1の金属材料よりも比重が大きい第2の金属材料であるステンレスを用いて形成したが、これに限定されない。例えば、アルミニウム以外の金属材料、例えばジュラルミン(比重2.80)等のアルミニウム合金、マグネシウム(比重1.74)、マグネシウム合金、チタン(比重4.51)、チタン合金(6-4)(比重4.43)などを第1の金属材料として用いてフロントマス21を形成してもよい。また、ステンレス以外の金属材料、例えば銅(比重8.96)、真鍮等の銅合金(比重8.50~8.70)、炭素鋼やニッケル鋼等の鋼材料(比重7.70~9.00)、ニッケル(比重8.90)、ニッケル合金(比重8.50~9.30)、クロム(比重7.19)、クロム合金、コバルト(比重8.85)、コバルト合金などを第2の金属材料として用いてバックマス22を形成してもよい。
【0061】
・上記実施形態では、フロントマス21が断面矩形状、バックマス22が断面円形状であったが、これに限定されない。例えば、フロントマス21及びバックマス22の両方を断面矩形状としてもよく、また、フロントマス21及びバックマス22の両方を断面円形状としてもよい。さらに、フロントマス21及びバックマス22の少なくとも一方を断面矩形状以外の断面多角形状(例えば断面六角形状など)としてもよい。
【0062】
・上記実施形態では、フロントマス21のほうがバックマス22よりも長さ(厚さ)が大きかったが、この大小関係を逆にしてもよい。また、両者の長さ(厚さ)を等しくしてもよい。
【0063】
・上記実施形態では、第1の金属材料を用いてフロントマス21を形成し、第1の金属材料よりも比重が大きい第2の金属材料を用いてバックマス22を形成したが、比重が等しい金属材料を用いてフロントマス21及びバックマス22を形成してもよく、この場合にはバックマス22はフロントマス21よりも重量が大きくなるようにする。なお、上記「比重が等しい金属材料」としては、比重が等しい同種の金属材料を選択してもよいほか、比重が等しい異種金属を選択してもよい。
【0064】
・上記実施形態では、ボルト締めランジュバン型振動子11を用いて魚群探知機用センサ41を構成した例を挙げたが、当該振動子11を用いて魚群探知機用センサ41以外の超音波計測用機器(例えば空中超音波センサ、超音波レベル計、超音波流量計、超音波濃度計、超音波気泡検知センサ、超音波ノッキングセンサ等)を構成しても勿論よい。
【符号の説明】
【0065】
11…ボルト締めランジュバン型振動子
21…フロントマス
22…バックマス
25…締め付けボルト
31…駆動部
32…圧電素子
33…電極板
34…孔
41…魚群探知機用センサ
L1…振動子全長
T2…駆動部の厚さ
T3…バックマスの厚さ
λ/2…共振周波数の半波長
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9