(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】手術手技訓練用人工皮膚モデル及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
G09B 23/28 20060101AFI20221128BHJP
G09B 19/00 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
G09B23/28
G09B19/00 Z
(21)【出願番号】P 2019192489
(22)【出願日】2019-10-23
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】508195545
【氏名又は名称】イービーエム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】朴 栄光
【審査官】柳 重幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-085512(JP,A)
【文献】特開2013-190604(JP,A)
【文献】特開2017-032814(JP,A)
【文献】特表2019-519007(JP,A)
【文献】登録実用新案第3121858(JP,U)
【文献】「【小児用トレーニングボックス(カメラ付)】 MDB1」,KOTOBUKI Medical Training Tools [online],2018年04月03日,<https://web.archive.org/web/20180403041801/https://www.tech-kg-shop.com/SHOP/MDB1.html>,[2022年9月6日検索]
【文献】KOTOBUKI Medical 株式会社,「小児用トレーニングボックス(カメラ付) MDB1」,YouTube [online] [video],2018年03月16日,<https://www.youtube.com/watch?v=42EHhOIc_So>,[2022年9月6日検索]
【文献】KOTOBUKI Medical 株式会社,「カバー開閉方法」,YouTube [online] [video],2017年10月17日,<https://www.youtube.com/watch?v=jQbuBPI5XLg>,[2022年9月6日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/00-29/14
G09B 1/00- 9/56
G09B 17/00-19/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手術訓練装置用の人工皮膚モデルであって、
可撓性平板部材からなる本体と、この本体の両端部を除く長さ方向中途部に固定された第1の人工臓器である皮膚モデル層と、を有し、
前記本体の中途部を、前記皮膚モデル層が固定された側を曲率半径外側にした状態で撓ませることで曲率半径内側に体腔を模した空間を形成した状態で長さ方向両端部を所定の固定具に固定でき、かつ上記固定具から取り外した場合に復元力によって平板状に戻るように構成されたものであ
り、
少なくとも前記本体の長さ方向両端部には、スリットが設けられ、このスリットにより幅方向に2以上のパネル片に分割され、このパネル片の一部を重ねた状態で上記本体を撓ませて前記固定具に固定するように構成されている
ことを特徴とする人工皮膚モデル。
【請求項2】
請求項1記載の人工皮膚モデルにおいて、
前記皮膚モデル層が取り付けられた前記本体の中途部には、所定の位置に前記曲率半径外側の面から内側の面に連通する貫通孔が設けられているものであり、
前記皮膚モデル層は前記貫通孔を覆うように上記本体の中途部の前記曲率半径外側の面に固定されているものであり、
前記貫通孔の位置は、前記固定具上の設置される手術手技訓練用の第2の人工臓器に対向するように設けられている
ことを特徴とする人工皮膚モデル。
【請求項3】
請求項1記載の人工皮膚モデルにおいて、
前記皮膚モデル層は天然由来の材料で形成されたものである
ことを特徴とする人工皮膚モデル。
【請求項4】
請求項1記載の人工皮膚モデルにおいて、
前記本体の長さ方向両端部には、上記固定具にこの本体を撓ませた状態で着脱自在に固定するためのファスナー部材が設けられている
ことを特徴とする人工皮膚モデル。
【請求項5】
請求項2記載の人工皮膚モデルにおいて、
前記貫通孔は、訓練する手術手技の種別及び部位に応じて、皮膚下の骨間の空間を模擬した形状で形成されているものである
ことを特徴とする人工皮膚モデル。
【請求項6】
手術訓練装置用の人工皮膚モデルの使用方法であって、
前記人工皮膚モデルは、
可撓性平板部材からなる本体と、この本体の両端部を除く長さ方向中途部に固定された第1の人工臓器である皮膚モデル層と、を有するものであり、
前記人工皮膚モデルは、前記本体の中途部を、前記皮膚モデル層が固定された側を曲率半径外側にした状態で撓ませることで曲率半径内側に体腔を模した空間を形成した状態で長さ方向両端部を所定の固定具に固定する工程と、
前記固定具の上記体腔を模した空間に、第2の人工臓器を設置する工程と
を有
し、
少なくとも前記本体の長さ方向両端部には、スリットが設けられ、このスリットにより幅方向に2以上のパネル片に分割されており、
前記固定する工程は、上記パネル片の一部を重ねた状態で上記本体を撓ませて前記固定具に固定するものである
ことを特徴とする人工皮膚モデルの使用方法。
【請求項7】
請求項
6記載の人工皮膚モデルの使用方法において、
前記皮膚モデル層が取り付けられた前記本体の中途部には、所定の位置に前記曲率半径外側の面から内側の面に連通する貫通孔が設けられているものであり、
前記皮膚モデル層は前記貫通孔を覆うように上記本体の中途部の前記曲率半径外側の面に固定されているものであり、
前記第2の人工臓器の設置は、前記貫通孔に対向させて行うものである
ことを特徴とする人工皮膚モデルの使用方法。
【請求項8】
請求項
7記載の人工皮膚モデルの使用方法において、
前記貫通孔は、訓練する手術手技の種別及び部位に応じて、皮膚下の骨間の空間を模擬した形状で形成されているものである
ことを特徴とする人工皮膚モデルの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、医師などが、縫合等の創傷閉鎖関連の外科手技をトレーニングするために用いる人工皮膚モデル及びその使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療行為において、皮膚縫合は日常的かつ高い頻度で行われる外科手術手技のひとつである。額や四肢の怪我、裂傷など、病院のみならず診療所においても、日々医師がこれら創傷への対応を求められることになる。また、外科手術はそのほとんどが皮膚切開を伴うものであり、かつ、その後切開創を閉鎖する必要がある。そして、創傷や外科手術痕の治癒の程度は、縫合等の手技の適切な選択および術者の技能が相当影響することから、術者には相当なトレーニングを経たのちに患者に対する外科手術を行うことが求められる。
【0003】
従来、皮膚に対する手術手技トレーニング方法として、ブタ皮膚などの天然由来組織を用いたウェットラボ、人工的モデル・シミュレータを用いたドライラボがある。
【0004】
ウェットラボは、背側の薄いブタ皮膚や、腹側の厚い皮下脂肪組織を含むブタ皮膚を用いて行うものである。この場合、ブタ皮膚は、厚み2cm程度のスチロールの平板上にピンで固定した状態で提供されることが多い。
【0005】
また、ドライラボは、軟質ウレタン樹脂、スポンジ、PVA(ポリビニルアルコール)などのハイドロゲルを多層化したモデルを、所定の固定具に固定してトレーニングに供するものである。
【0006】
ここで、ヒトの皮膚には引張応力があることから、これを再現するために「かまぼこ」形状の剛体材料による固定台座を用意し、これに皮膚モデルを設置した従来技術がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来の皮膚モデルや固定具は、皮膚モデル自体、すなわち、皮膚への手術手技実行のみが訓練対象となっており、皮膚下にある他の臓器モデルへのアクセスやそのような他の臓器に対する手術手技トレーニングを想定していない。
【0008】
一般に、実際の皮膚切開による開口部の形成は、上記他の臓器への手術のやり易さに直結する視野展開・術野を目的とするものであり、個々の手術目的に応じた適切な展開と術後の閉鎖が求められる。また、前述のとおり、手術部位に応じて皮膚の厚さや、皮膚の柔軟度、骨への距離等が異なる。一律な人工皮膚モデルで訓練することでは訓練の意味をなさない場合がある。
【0009】
例えば、胸部の皮膚の場合、肋骨がある部分と、肋骨の隙間である肋間部があるが、この肋間部分に2cm程度の小さな開口部を設け、内視鏡や手術器具を挿入し心臓の手術を行う。術後は皮膚を縫合し開口部を閉鎖する。
【0010】
これに対して、従来の技術では、皮膚モデルより深部に配置された臓器や血管などの器官のトレーニングが想定されておらず、皮膚を貫通したアプローチによる特に低侵襲外科手術の訓練を行うことができなかった。
【0011】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、低侵襲外科手術の訓練にも用いることが可能な利用性の高い手術手技訓練用の人工皮膚モデルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、この発明の主要な観点によれば、以下の発明が提供される。
【0013】
(1) 手術訓練装置用の人工皮膚モデルであって、
可撓性平板部材からなる本体と、この本体の両端部を除く長さ方向中途部に固定された第1の人工臓器である皮膚モデル層と、を有し、
前記本体の中途部を、前記皮膚モデル層が固定された側を曲率半径外側にした状態で撓ませることで曲率半径内側に体腔を模した空間を形成した状態で長さ方向両端部を所定の固定具に固定でき、かつ上記固定具から取り外した場合に復元力によって平板状に戻るように構成されたものである
ことを特徴とする人工皮膚モデル。
【0014】
(2) 上記(1)記載の人工皮膚モデルにおいて、
前記皮膚モデル層が取り付けられた前記本体の中途部には、所定の位置に前記曲率半径外側の面から内側の面に連通する貫通孔が設けられているものであり、
前記皮膚モデル層は前記貫通孔を覆うように上記本体の中途部の前記曲率半径外側の面に固定されているものであり、
前記貫通孔の位置は、前記固定具上の設置される手術手技訓練用の第2の人工臓器に対向するように設けられている
ことを特徴とする人工皮膚モデル。
【0015】
(3) 上記(1)記載の人工皮膚モデルにおいて、
前記皮膚モデル層は天然由来の材料で形成されたものである
ことを特徴とする人工皮膚モデル。
【0016】
(4) 上記(1)記載の人工皮膚モデルにおいて、
前記本体の長さ方向両端部には、上記固定具にこの本体を撓ませた状態で着脱自在に固定するためのファスナー部材が設けられている
ことを特徴とする人工皮膚モデル。
【0017】
(5) 上記(1)記載の人工皮膚モデルにおいて、
少なくとも前記本体の長さ方向両端部には、スリットが設けられ、このスリットにより幅方向に2以上のパネル片に分割され、このパネル片の一部を重ねた状態で上記本体を撓ませて前記固定具に固定するように構成されている
ことを特徴とする人工皮膚モデル。
【0018】
(6) 上記(2)記載の人工皮膚モデルにおいて、
前記貫通孔は、訓練する手術手技の種別及び部位に応じて、皮膚下の骨間の空間を模擬した形状で形成されているものである
ことを特徴とする人工皮膚モデル。
【0019】
(7) 手術訓練装置用の人工皮膚モデルの使用方法であって、
前記人工皮膚モデルは、
可撓性平板部材からなる本体と、この本体の両端部を除く長さ方向中途部に固定された第1の人工臓器である皮膚モデル層と、を有するものであり、
前記人工皮膚モデルは、前記本体の中途部を、前記皮膚モデル層が固定された側を曲率半径外側にした状態で撓ませることで曲率半径内側に体腔を模した空間を形成した状態で長さ方向両端部を所定の固定具に固定する工程と、
前記固定具の上記体腔を模した空間に、第2の人工臓器を設置する工程と
を有することを特徴とする人工皮膚モデルの使用方法。
【0020】
(8) 上記(7)記載の人工皮膚モデルの使用方法において、
前記皮膚モデル層が取り付けられた前記本体の中途部には、所定の位置に前記曲率半径外側の面から内側の面に連通する貫通孔が設けられているものであり、
前記皮膚モデル層は前記貫通孔を覆うように上記本体の中途部の前記曲率半径外側の面に固定されているものであり、
前記第2の人工臓器の設置は、前記貫通孔に対向させて行うものである
ことを特徴とする人工皮膚モデルの使用方法。
【0021】
(9) 上記(7)記載の人工皮膚モデルにおいて、
少なくとも前記本体の長さ方向両端部には、スリットが設けられ、このスリットにより幅方向に2以上のパネル片に分割されており、
前記固定する工程は、上記パネル片の一部を重ねた状態で上記本体を撓ませて前記固定具に固定するものである
ことを特徴とする人工皮膚モデルの使用方法。
【0022】
(10) 上記(8)記載の人工皮膚モデルの使用方法において、
前記貫通孔は、訓練する手術手技の種別及び部位に応じて、皮膚下の骨間の空間を模擬した形状で形成されているものである
ことを特徴とする人工皮膚モデルの使用方法。
【0023】
上記した以外の本発明の特徴は、以下の実施形態及び図面に示される。
【発明の効果】
【0024】
このような構成によれば、携帯性、収納性、可搬性に優れ且つ皮膚モデル表面に任意の張力を負荷して任意の部位を再現でき且つ、持針器、鉗子、トロッカーなどの低侵襲性手術器具の挿入伴う手術手技を効率的、効果的にトレーニングすることができる人工皮膚モデル及びその使用方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態を示す人工皮膚モデルを示す概略構成図である。
【0026】
【
図2】
図2は、同じく、人工皮膚モデルの本体を示す概略構成図。
【0027】
【0028】
【
図4】
図4は、同じく、人工皮膚モデルを組み立てた状態を示す概略構成図。
【0029】
【
図5】
図5は、同じく、人工皮膚モデルを組み立てた状態を示す概略構成図。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。
【0041】
(人工皮膚モデル装置)
図1(a)、(b)に示すのは、この実施形態の手術手技トレーニング用の人工皮膚モデル1(第1の訓練対象臓器モデル)である。
【0042】
この人工皮膚モデル1は、ポリプロピレン製の薄厚平板状の本体2と、この本体2の長さ方向中途部に固定された皮膚モデル層3とを有する。
【0043】
ここで、上記本体2の寸法は厚さ1mm、幅100mm、長さ250mmであり、上記皮膚モデルの寸法は厚さ5mm、70mm、長さ200mmである。したがって、上記本体の長さ方向両端部2a、2bはそれぞれ約25mmの部分が皮膚モデルにカバーされずに残されている。この両端部2a、2bの部分はこの人工皮膚モデル1の変形自由度を確保するためにこのように皮膚モデル層3によってカバーされていないことが好ましい。
【0044】
また、
図1(a)及び
図2に示すように、上記本体2の長さ方向中途部の上記皮膚モデル層が設けられている位置には、幅10mm, 長さ180mmの長穴形状の貫通孔4a~4cが3本平行に設けられている。この貫通孔は、例えばレーザ加工機を用いて前記本体を切断加工することにより作成されている。また、この長穴の間隔は、この実施形態では5mmである。
【0045】
また、前記本体2の上記皮膚モデル層3が設けられていない両端部2a、2bにはプラスティック製のスナップボタン5a~5dが上記本体の縁部に沿って等間隔で取り付けられている。
そして、上記本体2の幅方向両側部には、この本体2の変形を規制するための立ち上げ式リブ6a~6dが設けられている。このリブ6a~6dは、レーザ加工等で上記本体2の表面を図に示す湾曲線に沿って薄厚化してヒンジとすることによって形成され、使用時にこの部分を内側に折り曲げて使用するように構成されている。
【0046】
(皮膚モデル層)
皮膚モデル層3としては、ブタ皮膚などの天然由来組織を用いたウェットラボ用と、人工材料を用いたドライラボ用のどちらも用いることができる。ウェットラボ用としては、背側の薄いブタ皮膚や、腹側の厚い皮下脂肪組織を含むブタ皮膚を用いることが望ましい。ドライラボ用としては、軟質ウレタン樹脂、スポンジ、PVA(ポリビニルアルコール)などのハイドロゲルを多層化したモデルを用いることが望ましい。
【0047】
この皮膚モデル層3は、実際の皮膚を模擬した構成を有するもので、1~3層の異なる層を積層して形成されている。
【0048】
(人工皮膚モデル装置を取り付ける台座)
図3は、上記人工皮膚モデル1を取り付ける台座7を示すものである。
【0049】
この台座7は、底面積幅120mm、長さ200mmであり、長さ方向両端部には、上記人工皮膚モデル1の本体2の両端部2a、2bと結合される連結部7a、7bが設けられている。この台座7は厚さ1.5mmのアルミニウム製の剛体で形成されており、上記連結部7a、7bは上記台座7の両端部を上方に折り曲げて立ち上げることにより成形されている。そして、この連結部7a、7bの内面には、上記人工皮膚モデル1の本体2の両端部2a、2bに設けられた凹側スナップボタン5a~5dと連結される凸側スナップボタン8a~8dが取り付けられている。
【0050】
(人工皮膚モデル装置の組み立て)
図4及び
図5は、上記人工皮膚モデル1の使用形態を示す概略図である。
【0051】
上記人工皮膚モデル1を使用する場合、ユーザは、この人工皮膚モデル1の本体2の両端部2a、2bを保持し、上記皮膚モデル層3が積層された側を曲率半径外側にして撓ませる。そして、この撓ませた状態で、前記本体2の両端部2a、2bに設けられた凹側スナップボタン5a~5dを上記台座7に設けられた凸側スナップボタン8a~8dを結合する。このことで、
図4及び
図5に示す状態で前記人工皮膚モデル1を台座7に固定することができる。
【0052】
ここで、上記台座7の寸法は、上記本体2の曲率が胸部と同程度の曲率となるような長さで設計されていることが好ましい。これは、本体2と台座7の長さの比率を調整することで実現することができる。また、必要に応じて前記本体2に設けられた立ち上げ式リブ6a~6dを内側に折りまげ、両端部2a、2bに近い位置の変形を規制する。
【0053】
このことで、皮膚モデル層3の外側面の曲率、ならびに曲率に伴う皮膚モデル内部の引張応力を適宜に調整することができる。
【0054】
このように人工皮膚モデル1を組み付けた状態で、上記本体2の下面と台座7の上面との間には体腔を模した空間部10が区画される。この実施形態では、この空間部10に、第2の訓練対象臓器モデルとして、血管モデル11が設置されている。この血管モデルは、ブタ頸動脈、または内径2mm、外径3mmのシリコーン製血管モデルが用いられる。
【0055】
(使用方法)
この人工皮膚モデル1を用いて手術手技訓練を行う場合、ユーザである手技訓練者は、
図4、
図5に示すように、前記人工皮膚モデル層3の中央表面をメス14等の手術器具で30mm程度、本体2に設けられた貫通孔の長手方向に沿って切開する。
【0056】
そして、訓練者は上記で切開した皮膚モデル層3の切開部より、シャフト長さ300mmの低侵襲手術用器具14を挿入する。この時、上記低侵襲手術具13は、先端部を、上記皮膚モデル層3の切開した部分及び上記本体2に設けられた貫通孔4a~4cのうちの1つを通して上記空間部10に延出させることができる。
【0057】
このことで、上記皮膚モデル1を用いた第1の臓器モデルである皮膚モデル層3の切開手術手技のトレーニングが行えると共に、空間部10内に置かれた第2の臓器モデル11に対して低侵襲手術用器具を用いた吻合、縫合の手術手技のトレーニングを行うことが可能になる。そして、この時、上記人工皮膚モデル1を撓して設置することで上記皮膚モデル層3の表面に所望の張力を与えることができると共に、上記皮膚モデル層3を下方向に押した場合の弾力を胸部を模した所望のものにすることができる。また、このとき上記立ち上げ式リブ6a~6bを用いることで、弾力を微調整できると共に上記本体2の不要な変形を規制することが可能になる。
【0058】
そして、上記人工皮膚モデル1を使用した後は、上記台座7から外すことで、これら人工皮膚モデル1及び台座7をフラットな状態に戻すことができるから、収納等が容易であり、可搬性に優れるという効果がある。
【0059】
(変形例1)
なお、この例では、上記貫通孔4a~4cは平行に設けられたスリットであったが、この形状に限定されるものではなく、手術手技訓練の目的によって適宜設計することができる。
【0060】
例えば、頭頚部手術における皮膚組織の切開及び、皮下の骨・筋肉組織に対する手術手技のトレーニングの場合、
図6に示すように、前記本体2上に少なくとも1個の直径30mmの円形貫通孔4eを設け、この貫通孔4eを覆うように厚み10mmのブタ背中部分由来の天然皮膚モデル層3を貼りつけて、上記貫通孔4eを閉塞したものを使用することができる。
【0061】
そして、この例では、上記皮膚モデル層3を上記本体2の長さ方向だけでなく、幅方向にも、すなわち三次元方向に変形(ドーム状に変形)させるために、本体2の長さ方向に沿う中心軸にそって両端部2a、2bに図に示すような切り込み13を入れることで上記両端部2a、2bを幅方向に4つに分割して4つのパネル片14a~14dを設けている。
【0062】
このような人工皮膚モデル1を用いる場合、
図7に示すように、上記隣り合うパネル片14a~14dの他端同士をオーバーラップさせ、この状態で
図8に示す台座7’に結合する。この例で用いる台座は上記各パネル片14a~14dを重ねた場合の凹側スナップボタン5a~5d間の寸法と位置に対応するように前記凸部スナップボタン8a~8dが設けられている。
【0063】
このような構成によれば、上記人工皮膚モデル1を上記台座7’に取り付けた場合に、上記皮膚モデル層3が3次元方向に引っ張られることになり、いわばドーム状に変形させることができる。このことで、例えば頭頚部手術における皮膚組織の切開及び、皮下の骨・筋肉組織に対する手術手技のトレーニングを効果的に行うことができる。
【0064】
なお、この変形例では上記スリット13は両端部にそれぞれ1個づつ設けられていたが、これに限定されるものではなく、
図9に15で示すように複数設け、上記両端部を3以上のパネル片に分割してそれぞれに凹側スナップボタン16a~16fを設けてより複雑な形状に変形できるようにしても良い。また、この場合、
図10に示すように台座7’’についても、上記パネル片を固定したい位置に凸側スナップボタン17a~17fを設けるようにすることが好ましい。
【0065】
(変形例2)
また、例えば、腹部における皮膚組織、および皮下の骨・筋肉組織を再現し、腸管や消化器等の対象臓器への手技訓練環境のトレーニングを行う場合、
図11に示すような人工皮膚モデル21を用いることができる。
【0066】
この例では、厚さ2.0mmの防水厚紙製の本体22(600mm x600mm)を用い、この本体22に6個の直径30mmの円形の貫通孔23a~23fを設けている。
【0067】
また、この変形例では、ファスナー部材として、本体22の長さ方向両端部22a、22bに上記で用いたスナップボタンの代わりにベルクロ(登録商標)24a、24bを取り付けている。
【0068】
そして、厚み5mmのシリコーンおよび繊維複合体の皮膚モデル層26a~fを上記本体22の上面に接着剤を用いて接着し、人工皮膚モデル21を構築した。
【0069】
そして、この人工皮膚モデル21に用いる台座は
図12に27で示すようなものであり厚さ3mmの防水厚紙製の剛体台座27両端部に設けた連結部27a、27bにファスナー材であるベルクロ(登録商標)28a、28bを取り付けて構成している。
【0070】
そして、この台座27の上面に第2の人工臓器モデルとして、ブタ大腸、または外径20mm程度のシリコーン製腸管モデル11を設置することで、上記一実施例と同様のトレーニングを行うことができる。
【0071】
すなわち、ユーザは、上記人工皮膚モデル21を撓ませて上記台座27に設置した後、上記本体22の上面に設けられた第1の臓器モデルである皮膚モデル層23a~23fの表面を20mm程度切開し、この切開部より、トロッカーや、シャフト長さ300mmの低侵襲手術用を挿入することで、第2の臓器モデルである腸管モデル11に対して吻合、縫合手術手技を実行することができる。
【0072】
なお、
図13、
図14は、前記変形例2の更なる変形例を示すものであり、人工皮膚モデル21の本体22に、複数の切込み29を入れることで本体22の両端部22a、22bを複数のパネル片に分割したものである。
【0073】
そして、この例では、上記台座27は、上記3つの台座片30~32に分割され、この台座片30~32は互いにヒンジ33a、33bにより変位可能に結合されている。
【0074】
このような更なる変形例によれば、上記人工皮膚モデル21を撓ませて台座27に取り付けた後、この台座27側をさらに撓ますことで、上記皮膚モデル1を3次元に変形させることも可能である。
【0075】
また、
図15は、この変形例2の更なる変形例を示すものである。
【0076】
この例の人工臓器モデル37は、上記一実施例と同様に長穴状の貫通孔37a、37bを所定の角度傾けた状態で左右に配することで肋骨を再現するように構成したものである。そして、この左右の貫通孔37a、37bを閉塞するように長方形の皮膚モデル層38a、38bを接着することで胸部を再現することができる。
【0077】
また、本発明は上記の一実施例及び変形例に限定されるものではなく、要旨を変更しない範囲で変形可能である。
【0078】
例えば、本体、皮膚モデル層、貫通孔の形は上記の形状に限定されるものではない。また、手術器具も上記やメス等に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0079】
1…人工皮膚モデル
2a、2b…両端部
3…皮膚モデル層
4a~4c…貫通孔
4e…円形貫通孔
4…貫通孔
5a~5d…凹側スナップボタン
6a~6d…リブ
7…台座
8a~8d…凸部スナップボタン
10…空間部
11…血管モデル(第2の臓器モデル)
13…メス
14…低侵襲手術用器具
14a~14d…パネル片
16a~16f…凹側スナップボタン
17a~17f…凸側スナップボタン
21…人工皮膚モデル
22…本体
22a、22b…両端部
23e…貫通穴
23a~23f…皮膚モデル層