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特許7182794リンパ行性薬剤送達法に有効な薬剤を含む溶液の適正な浸透圧域
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】リンパ行性薬剤送達法に有効な薬剤を含む溶液の適正な浸透圧域
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/26 20060101AFI20221128BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20221128BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221128BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20221128BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20221128BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221128BHJP
   A61K 33/243 20190101ALN20221128BHJP
   A61K 31/505 20060101ALN20221128BHJP
   A61K 31/704 20060101ALN20221128BHJP
   A61K 31/519 20060101ALN20221128BHJP
【FI】
A61K47/26
A61P35/04
A61P35/00
A61K9/08
A61K35/12
A61K45/00
A61K33/243
A61K31/505
A61K31/704
A61K31/519
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019539633
(86)(22)【出願日】2018-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2018032220
(87)【国際公開番号】W WO2019045005
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2017167951
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小玉 哲也
(72)【発明者】
【氏名】森 士朗
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-192670(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0153844(US,A1)
【文献】藤井穂乃香 ほか,リンパネットワークを利用した転移リンパ節治療法の開発,第29回バイオエンジニアリング講演会講演論文集,2017年01月18日,特に2B42欄
【文献】MIURA, Yoshinobu et al.,Early diagnosis of lymph node metastasis: Importance of intranodal pressures,Cancer Science,2016年,Vol.107, No.3,pp.224-232,ISSN:1349-7006
【文献】Cancer Science,2017年,Vol.108(11),pp.2115-2121
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00
A61K 9/00
A61K 33/00
A61K 31/00
A61K 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンパ行性薬剤送達法によって薬剤を標的リンパ節に送達するための薬剤含有液体製剤であって、液体の浸透圧が900~2700kPaである、リンパ節内投与製剤。
【請求項2】
液体の浸透圧が、2400kPa以下である、請求項1記載のリンパ節内投与製剤。
【請求項3】
液体の浸透圧が、950~2000kPaである、請求項1記載のリンパ節内投与製剤。
【請求項4】
液体の粘度が0.5~20mPa・sである、請求項1~のいずれか1項記載のリンパ節内投与製剤。
【請求項5】
液体の粘度が1.0~15mPa・sである、請求項1~のいずれか1項記載のリンパ節内投与製剤。
【請求項6】
非イオン性界面活性剤を含有する、請求項1~のいずれか1項記載のリンパ節内投与製剤。
【請求項7】
非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである、請求項記載のリンパ節内投与製剤。
【請求項8】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルがオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンである請求項記載のリンパ節内投与製剤。
【請求項9】
薬剤が、医薬活性物質、核酸分子収容体又は培養細胞である請求項1~のいずれか1項記載のリンパ節内投与製剤。
【請求項10】
薬剤が、抗がん剤である請求項1~のいずれか1項記載のリンパ節内投与製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリンパ行性薬剤送達法に有効な薬剤を含む溶液の浸透圧に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは日本人の二人に一人が罹患する病気であり、がん患者の死因9割が転移に起因する。乳がんや頭頸部がんをはじめとするがんの多くは、リンパ管を介して所属リンパ節に転移を来す。
【0003】
現在の転移リンパ節に対する化学療法として、血管を介した静脈内投与が一般的である。静脈に投与された薬剤は末梢組織で毛細血管より間質へ漏出し、ふたたび血管及びリンパ管に再吸収される。
【0004】
リンパ系は粒径の大きな物質及び高分子物質を優先的に取り込むという特徴をもつ。粒子の大きさが10-100nmの場合にはリンパ系へ再吸収されやすく、10nm以下の粒子は主に血管に再吸収される。また、リンパ系への再吸収の効率は分子量と正の相関を示し、特に分子量が16,000を超える物質は主にリンパ系に取り込まれる。したがって、一般的に低分子である抗がん剤は、リンパ系へのアクセスは困難であり、標的リンパ節への薬剤送達効率は低いと考えられる。
【0005】
現在のドラッグデリバリーシステム(DDS)における重要な原理はEPR効果(Enhanced Permeability Retention effect)である。がん組織が構築する未成熟な腫瘍血管は正常な血管内皮とは異なり、血管内皮細胞間に200nm程度の広い隙間が開口している。
そのため50-100nm程に粒径が制御された微粒子製剤や高分子製剤は受動的にがん組織に集積される。現在、このEPR効果を利用してリポソームやミセル化した薬剤が開発されており、固形腫瘍についてはその治療効果が数多く報告されている。
【0006】
しかしながら、リンパ節転移の治療に関する研究報告は、固形腫瘍の治療に関する研究に比べ、相対的に少なく、この理由として、リンパ節転移研究に有益な疾患モデルが開発されていないことがあった。斯かる状況の下、本発明者らは、ヒトのリンパ節の大きさと同等のリンパ節を有するMXH10/Mo-lpr/lprリンパ節腫脹マウスを樹立することに成功し(図1、非特許文献1)、このマウスを用いて、EPR効果に基づく薬剤送達法では早期の転移リンパ節に対して治療効果が期待されないことを報告した(非特許文献2)。これは、リンパ節に侵入し生着した腫瘍細胞が増殖するために必要な酸素や栄養を供給するための血管が、正常なリンパ節において十分に存在するため、リンパ節転移早期における腫瘍形成で血管新生が発生しにくいためだと考えられる。
【0007】
本発明者らは、従来の血行性全身投与あるは経口投与に依存しない、転移リンパ節に対する新たな治療法として、リンパ行性薬剤送達法を提案してきた(非特許文献3、非特許文献4)。この概念は、原発巣周囲の所属リンパ節に局注し、所属リンパ節とその下流のリンパ節転移を治療あるいは予防する方法、あるいは転移リンパ節の上流に位置するリンパ節に薬剤を投与し、リンパ管経由で薬剤を下流の転移リンパ節に送達させる方法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Shao L, Mori S, Yagishita Y, Okuno T, Hatakeyama Y, Sato T, Kodama T. Lymphatic mapping of mice with systemic lymphoproliferative disorder: usefulness as an inter-lymph node metastasis model of cancer. J Immunol Methods 2013; 389:69-78.
【文献】Mikada M, Sukhbaatar A, Miura Y, Horie S, Sakamoto M, Mori S, Kodama T. Evaluation of the enhanced permeability and retention effect in the early stages of lymph node metastasis. Cancer Sci 2017.
【文献】Kodama T, Hatakeyama Y, Kato S, Mori S. Visualization of fluid drainage pathways in lymphatic vessels and lymph nodes using a mouse model to test a lymphatic drug delivery system. Biomedical optics express 2015; 6:124-34.
【文献】Kodama T, Matsuki D, Tada A, Takeda K, Mori S. New concept for the prevention and treatment of metastatic lymph nodes using chemotherapy administered via the lymphatic network. Scientific reports 2016; 6:32506
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、リンパ行性薬剤送達法において用いられる、医薬化合物、細胞、核酸等の薬剤を含有する最適なリンパ節内投与製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、リンパ行性薬剤送達法において用いられる、リンパ節内投与製剤について種々検討した結果、特定の浸透圧域を有する液体製剤が、標的リンパ節における薬剤貯留性が高く、また、下流リンパ節への送達性が高く、良好な薬剤効果を有することを見出した。
すなわち、本発明は、以下の1)~11)に係るものである。
1)リンパ行性薬剤送達法によって薬剤を標的リンパ節に送達するための薬剤含有液体製剤であって、液体の浸透圧が700~2700kPaである、リンパ節内投与製剤。
2)液体の浸透圧が900kPa以上である、1)のリンパ節内投与製剤。
3)液体の浸透圧が、2400kPa以下である、1)のリンパ節内投与製剤。
4)液体の浸透圧が950~2000kPaである、1)のリンパ節内投与製剤。
5)液体の粘度が0.5~20mPa・sである、1)~4)のいずれかのリンパ節内投与製剤。
6)液体の粘度が1.0~15mPa・sである、1)~4)のいずれかのリンパ節内投与製剤。
7)非イオン性界面活性剤を含有する、1)~6)のいずれかのリンパ節内投与製剤。
8)非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである、7)のリンパ節内投与製剤。
9)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルがオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンである8)のリンパ節内投与製剤。
10)薬剤が、医薬活性物質、核酸分子収容体又は培養細胞である1)~9)のいずれかのリンパ節内投与製剤。
11)薬剤が、抗がん剤である1)~9)のいずれかのリンパ節内投与製剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リンパ行性薬剤送達法において、目的薬剤の効果を標的リンパ節において効果的に発揮させるためのリンパ節内投与製剤が提供される。すなわち、リンパ行性薬剤送達法において、低分子化合物、ポリペプチド、抗体、核酸等の医薬活性物質や免疫療法、遺伝子治療又は再生医療において使用される各種培養細胞等の薬剤の、リンパ節からネットワーク下流に位置するリンパ節への送達率及び貯留時間を調節でき、投与された薬剤のリンパ節及び下流リンパ節における治療又は予防的治療効果の最適化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】マウス実験におけるリンパネットワーク図。腋窩部には固有腋窩リンパ節(proper axillary lymph node:PALN)と副腋窩リンパ節(accessory axillary lymph node:AALN)が存在する。副腋窩リンパ節及び腸骨下リンパ節(subiliac lymph node:SiLN)は、固有腋窩リンパ節に対して、リンパネットワークの上流に位置する。すなわち副腋窩リンパ節→固有腋窩リンパ節、腸骨下リンパ節→固有腋窩リンパ節のリンパ流れが存在する。
図2】ポリソルベート80体積パーセントと粘度の関係。
図3】リンパ行性薬剤送達法による腸骨下リンパ節から固有腋窩リンパ節への溶液の動態。
図4】腸骨下リンパ節および固有腋窩リンパ節に貯留性する各溶液の貯留特性。
図5】各溶液に対する体重変化。
図6】注射日からDay6目での腸骨下リンパ節及び固有腋窩リンパ節の病理像。
図7】A:Day0における腸骨下リンパ節(SiLN)から内側腋窩リンパ節(PALN)に流れ出る溶液の動態。B:Day6における抗腫瘍効果(in vivoイメージング画像)。
図8】Day6における各浸透圧に対する抗腫瘍効果。
図9】Day6における各粘度に対する抗腫瘍効果。
図10】各溶液に対する治療開始後Day3及びDay6でのマウス画像。
図11】実験日における高周波超音波で得られた固有腋窩リンパ節のBモード画像。
図12】Day6での腸骨下リンパ節及び固有腋窩リンパ節の病理像。
図13】各溶液に対するマウスの体重変化。
図14】グルコース体積パーセントと粘度との関係。
図15】エピルビシン実験の概念図。
図16】腫瘍細胞接種後16日目における病理像。
図17】ニムスチン実験の概念図。
図18】腫瘍細胞接種後16日目における病理像。
図19】メトトレキサート実験の概念図。
図20】腫瘍細胞接種後16日目における病理像。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、「リンパ行性薬剤送達法」とは、転移リンパ節の上流に位置するリンパ節に薬剤を投与し、リンパ管経由で当該薬剤を下流のリンパ節に送達させる方法である。
本発明において、「リンパ節内投与製剤」とは、リンパ行性薬剤送達法によって目的薬剤を標的リンパ節に送達するための、リンパ節内に投与される液体製剤である。
【0014】
本発明において、「薬剤」とは、疾病の治療又は予防的治療を目的として人を含む動物の体内に投与される各種物質を意味し、医薬活性物質(例えば、低分子化合物、特に低分子有機化合物;タンパク質又はポリペプチド(細胞増殖因子、細胞増殖抑制因子、神経栄養因子、酵素、ホルモン、サイトカイン等);多糖類;脂質;抗体;核酸(DNA分子、RNA分子、アプタマー等);ウイルス等)の他、遺伝子治療のための核酸分子を収容する構造体(ウイルス、ウイルス様粒子、ミニサークル、プラスミド又はベクター(ネイキッドDNA)、リポソーム及び/又はナノ粒子)、免疫療法、遺伝子治療又は再生医療において使用される各種培養細胞(例えば、多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞等)、組織幹細胞、間葉系幹細胞等)等が包含される。
なお、本明細書において、「治療」とは、疾病を有する対象の治療(即時治療)のことを指し、その状態、又はその状態によって生じる1つ若しくは複数の症状を、改善、軽減又は消失させることを意味する。「予防的治療」とは、疾病になるリスクはあるが、現時点ではその状態や症状を有しない対象の治療を意味する。
【0015】
上記医薬活性物質の種類は、特に限定されず、中枢神経用薬、末梢神経系用薬、感覚器官用薬、循環器官用薬、呼吸器官用薬、消化器官用薬、泌尿生殖器官用薬、ホルモン剤、腫瘍用薬、放射性医薬品等の何れでも良いが、腫瘍用薬(抗がん剤)が好適である。
【0016】
また、上記医薬活性物質の製剤形態は、組成物の形態でもよく、高分子ポリマーミセル医薬品等のミセル製剤、リポゾーム製剤であってもよい。
【0017】
以下に、好適な薬剤の一例を示す。
(1)分子標的薬(イブリツモマブチウキセタン、イマチニブ、エベロリムス、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、スニチニブ、セツキシマブ、ソラフェニブ、ダサチニブ、タミバロテン、トラスツズマブ、トレチノイン、パニツムマブ、ベバシズマブ、ボルテゾミブ、ラパチニブ、リツキシマブ)から選ばれる1種以上。
(2)アルキル化剤(イホスファミド、シクロホスファミド、ダカルバジン、テモゾロミド、ニムスチン、ブスルファン、メルファラン、ラニムスチン)から選ばれる1種以上。
(3)代謝拮抗剤(エノシタビン、カペシタビン、カルモフール、クラドリビン、ゲムシタビン、シタラビン、シタラビンオクホスファート、テガフール、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、ドキシフルリジン、ネララビン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、フルダラビン、ペメトレキセド、ペントスタチン、メルカプトプリン、メトトレキサート)から選ばれる1種以上。
(4)植物アルカロイド(イリノテカン、エトポシド、エリブリン、ソブゾキサン、ドセタキセル、ノギテカン、パクリタキセル、パクリタキセル注射剤、ビノレルビン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチン)から選ばれる1種以上。
(5)抗がん性抗生物質(アクチノマイシンD、アクラルビシン、アムルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ジノスタチンスチマラマー、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、ブレオマイシン、ぺプロマイシン、マイトマイシンC、ミトキサントロン)から選ばれる1種以上。
(6)プラチナ製剤(オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン、ネダプラチン)から選ばれる1種以上。
(7)ホルモン剤(アナストロゾール、エキセメスタン、エストラムスチン、エチニルエストラジオール、クロルマジノン、ゴセレリン、タモキシフェン、デキサメタゾン、トレミフェン、ビカルタミド、フルタミド、プレドニゾロン、ホスフェストロール、ミトタン、メチルテストステロン、メドロキシプロゲステロン、メピチオスタン、リュープロレリン、レトロゾール)から選ばれる1種以上。
(8)インターフェロン・α、インターフェロン・β、インターフェロン・γ、インターロイキン2、ウベニメクス、乾燥BCG、レンチナン)から選ばれる1種以上。
(9)上記(1)~(8)のミセル製剤。
(10)上記(1)~(8)のリポゾーム製剤。
(11)免疫療法、遺伝子治療、再生医療などにおいて使用される各種細胞懸濁液。
【0018】
本発明のリンパ節内投与製剤は、リンパ節内に注射可能な剤型、すなわち注射用組成物であるのが好ましい。注射用組成物の形態は、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤、乳濁剤、ゲル、或いは用事調製のための固体組成物の何れでも良い。
【0019】
本発明のリンパ節内投与製剤は、例えば注射用蒸留水、生理食塩水、リンゲル液、リン酸塩緩衝液(PBS)等の水性の希釈剤、又は例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油;エタノールなどのアルコール類、ポリソルベート20、60,80等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等の非水性の希釈剤を用いて、上記薬剤の溶液、懸濁液、乳濁液が調製されるが、その場合において、当該液体の浸透圧が700kPa~2700kPaであるように調製される。
【0020】
リンパ節内投与製剤の浸透圧は、700~2700kPaの範囲で調整されるが、下流に位置するリンパ節への薬剤の送達率及び貯留性並びに組織障害性の点から、好ましくは700kPa以上、より好ましくは800kPa以上、より好ましくは900kPa以上、より好ましくは950kPa以上であり、より好ましくは1000kPa以上であり、且つ2700kPa以下、好ましくは2400kPa以下、より好ましくは2000kPa以下である。例えば、700~2700kPa、好ましくは900~2700kPa、より好ましくは900~2400kPa、より好ましくは950~2400kPa、より好ましくは950~2000kPaである。
【0021】
本発明において、浸透圧Πは、Π=CRTで定められたファントホッフの式より算出される。なお、式中、Cはモル濃度(mol/L)、Rは気体定数(R=8.31×10Pa・L/K・mol)、Tは絶対温度(K)をそれぞれ示す。
例えば、後述の表1に示す溶液の浸透圧Π(Pa)は、(ポリソルベート80のモル濃度+エタノールのモル濃度)×8.31×10×(273+摂氏温度)で求められる。
【0022】
併せて、本発明のリンパ節内投与製剤は、薬剤効果及び製剤上の取り扱いの点から、その粘度が、25mPa・s以下であるのが好ましく、より好ましくは20mPa・s以下、より好ましくは15mPa・s以下、より好ましくは13mPa・s以下であり、且つ好ましくは0・5mPa・s以上、より好ましくは1mPa・s以上である。
例えば、0.5~25mPa・s、好ましくは1.0~15mPa・s、より好ましくは1.0~13mPa・sである。
粘度は後述の実施例で示すように、20℃において振動粘度計(例えば、音叉振動式粘度計<SV-1A、エー・アンド・デイ株式会社製>)を使用して測定することが可能である。
【0023】
浸透圧の調整は、グルコース、マンニトール、ソルビトール、ショ糖、トレハロース、ラフィノース、マルトース等の糖類や、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩類、糖アルコール若しくは多価アルコール又はそのエーテル、非イオン性界面活性剤等を用いて行うことができる。また、粘度の調整は、一般に注射製剤において、増粘剤として用いられる各種の親水性ポリマーを用いて行うことができる。具体的には、例えば、セルロース、アミロース、ペクチン、ゼラチン、デキストリン、アルギン酸塩等の直鎖状の多糖類;セルロース誘導体(メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、並びにカルボキシメチルセルロース(CMC)を含むこれらの塩等);グリコサミノグリカン(ヒアルロン酸及びその塩等の非硫酸化グリコサミノグリカン、脱硫酸化ヘパリン、脱硫酸化コンドロイチン硫酸、及び脱硫酸化デルマタン硫酸等);ガラクトマンナン(グアーガム、フェヌグリークガム、タラガム、ローカストビーンガム、及びイナゴマメガム等);カルボマー;ポリアクリル酸;ポリカルボフィル;ポリビニルピロリドン;ポリアクリルアミド;ポリビニルアルコール;ポリ酢酸ビニルの誘導体及び混合物が挙げられる。
【0024】
このうち、浸透圧及び粘度を共に調整可能な非イオン性賦形剤を用いるのが好ましく、例えば、グルコース、マンニトール、ソルビトール、ショ糖、トレハロース、ラフィノース、マルトース等の糖類、非イオン性界面活性剤が好ましく、非イオン性界面活性剤がより好ましい。非イオン性界面活性剤としては、高級アルコールエチレンオキシド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレノキサイド付加物、グリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミドなどが挙げられるが、中でも、例えば、ソルビトール及びソルビタンの脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油(polyethoxylated castor oil)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(polyethoxylated hydrogenated castor oil)、ポリオキシエチレンポリプロピレングリコール共重合体、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどが好ましく用いられる。
【0025】
ソルビタン脂肪酸エステルとしては、特に、モノステアリン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタンなどが好適である。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、特に、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート20、Tween20)、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート60、Tween60)、トリステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート65、Tween65)、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(ポリソルベート80、Tween80)などが好適である。ポリエチレングリコール脂肪酸エステルとしては、特に、モノラウリン酸ポリエチレングリコール(10E.O.)などが好適である。ショ糖脂肪酸エステルとしては、特に、ショ糖パルミチン酸エステル類)、ショ糖ステアリン酸エステル類などが好適である。ポリオキシエチレンヒマシ油(polyethoxylated castor oil)としては、特に、ポリオキシエチレングリセロールトリリシノレート35などが好適である。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(polyethoxylated hydrogenated castor oil)としては、特に、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60などが好適である。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール共重合体としては、特に、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールなどが好適である。グリセリン脂肪酸エステルとしては、モノステアリン酸グリセリルなどが好適である。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、特に、テトラグリセリンモノステアリン酸、デカグリセリンモノラウリン酸などが好適である。
【0026】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルがより好ましく、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65又はポリソルベート80が好ましく、ポリソルベート80(オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン)がより好ましい。
浸透圧の調製に、非イオン性賦形剤を用いた場合の、製剤中の非イオン性界面活性剤の体積パーセントは、例えば0~25%(v/v)であるのが好ましく、より好ましくは8~25%(v/v)であり、より好ましくは10~23%(v/v)であり、さらに好ましくは15~20%(v/v)である。
【0027】
本発明のリンパ節内投与製剤は、上記の薬剤と浸透圧調製剤に、本発明の効果を阻害しない範囲で、適宜、界面活性剤、保存剤(安定化剤)、無痛化剤、局所麻酔剤及びpH調整剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤のような補助剤(賦形剤)を配合し、公知の注射剤と同様に常法に従い調製することができる。
【0028】
保存剤としては例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のアルキルパラベン等が挙げられ、無痛化剤としては例えば、ベンジルアルコール等が挙げられ、局所麻酔剤としては例えば、塩酸キシロカイン、クロロブタノール等が挙げられ、pH調整剤としては例えば、塩酸、酢酸、水酸化ナトリウムあるいは各種緩衝剤等が挙げられる。
【0029】
また、界面活性剤、分散剤、乳化剤としては、上述した非イオン性界面活性剤やポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0030】
また、可溶化剤としては、例えばサリチル酸ナトリウム、ポロキサマー、酢酸ナトリウム等が挙げられ、防腐剤としては、例えばメチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコール、クロロブタノール、安息香酸ナトリウム、フェノール等が挙げられ、安定剤としては、例えばヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン等のアルブミンが挙げられる。
【0031】
斯くして調製された本発明のリンパ節内投与製剤は、患者のリンパ節内に局所投与される。ここで、投与対象となるリンパ節は、治療又は予防的治療を目的とするリンパ節(標的リンパ節)自体であってもよく、又は当該リンパ節が属するリンパ管ネットワーク上流に位置するリンパ節であってもよい。具体的には、例えば、腫瘍細胞が原発巣から移動して最初に転移を発症するセンチネルリンパ節や、センチネルリンパ節の下流に位置するリンパ節(二次リンパ節)、原発巣周囲の所属リンパ節の上流に位置するリンパ節、所属リンパ節が属するリンパ管ネットワークの上流に位置するリンパ節等が挙げられる。ここで、標的リンパ節は、がんを有しているか否かは問われない。例えば、リンパ節郭清する前に、郭清域内のリンパ節(上流側リンパ節)にリンパ節内投与製剤を投与し、リンパ管ネットワークを介して郭清域外のリンパ節(下流側リンパ節)に抗がん剤を送達させて、郭清を実施することにより、下流側リンパ節の予防的治療が可能である。
【0032】
本発明のリンパ節内投与製剤のリンパ節への投与は、リンパ節内に本発明のリンパ節内投与製剤が注入できればその手法は限定されず、患者の皮膚を切開して露わになったリンパ節に注入投与してもよいし、患者の皮膚の上からリンパ節の位置として見当をつけた部位に注射投与してもよい。
【実施例
【0033】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
参考例1 インドシアニングリーン(ICG)を含む溶液の粘性の測定
1.材料・方法
1)溶液の準備
ポリソルベート80(polysorbate80、日油株式会社)、蒸留水、インドシアニングリーン溶液(Indocyanine Green:ICG、第一三共株式会社)を混合し、粘度の異なる組成の溶液を調製した(表1)。
表1の溶液の粘度は音叉振動式粘度計(SV-1A:粘度測定域:0.3~10、000mPa・s、SV-1H:粘度測定域:0.3~1000mPa・s、エー・アンド・デイ株式会社)で、室温下(20℃)で測定した。
表1中、血液の浸透圧に対する比とは、1mOsm/Kg=2269.68Paの関係から各溶液の浸透圧[kPa]をmOsm/Kgに単位換算し、これを血液の浸透圧290mOsm/kgで除した値である。
【0035】
2.結果
1)ポリソルベート80体積パーセントと粘度との関係
図2にポリソルベート80体積パーセントと粘度との関係を示す。ポリソルベート80含有率が高くなるほど、粘度が指数関数的に増加する傾向にあった。
ポリソルベート80体積パーセント(x)、 粘度(y)とすると、以下の関係式(式1)を得た。
【0036】
【数1】
【0037】
表1中における浸透圧は、 以下の浸透圧は以下のファントホッフの式(式2)より求めた。
【0038】
【数2】
【0039】
【表1】
【0040】
実施例1 溶液の浸透圧を変えた場合のリンパ行性薬剤送達による薬剤動態
1.材料・方法
1)溶液の調整
表1で示した4つの溶液(SolutionA,B,C,D)を準備した。各溶液の浸透圧及び粘度は、以下のとおりである。
SolutionA:浸透圧=0kPa、粘度=1.01mPa・s)
SolutionB:浸透圧=1740kPa、粘度=6.01mPa・s)
SolutionC:浸透圧=3481kPa、粘度=427mPa・s)
SolutionD:浸透圧=5221kPa、粘度=8020mPa・s)
【0041】
2)溶液の浸透圧の変化にともなうリンパ行性薬剤送達法で送達される溶液の可視化
溶液を腸骨下リンパ節(SiLN)に投与速度10μL/minで200μL注射し、リンパ管経由で固有腋窩リンパ節(PALN) への送達性と貯留性を生物発光イメージングシステム(IVIS, PerkinElmer社製)の蛍光モードで観察した(Excitation filter: 745 nm, Emission filter: ICG)。
観察日は、インドシアニングリーン溶液を腸骨下リンパ節に注射する直前、直後、6時間後、1日後、2日後、3日後、4日後、5日後、6日後、7日後、14日後、21日後、28日後、35日後、42日後、49日後とした。
【0042】
3)腸骨下リンパ節および固有腋窩リンパ節に貯留する溶液の貯留特性
前述の2)の測定日に得られた腸骨下リンパ節および固有腋窩リンパ節の蛍光値と測定時間との関係をプロットした。
【0043】
4)リンパ行性薬剤送達法によるインドシアニングリーン溶液注入にともなう体重変化
体重測定日は,インドシアニングリーン溶液を腸骨下リンパ節に注射する直前、1日後、2日後、3日後、4日後、5日後、6日後、7日後、14日後、21日後、28日後、35日後とした。各回の体重測定値は平均値±標準誤差(mean±SE)として表記した。
【0044】
2.実験結果
1)リンパ行性薬剤送達法による腸骨下リンパ節から固有腋窩リンパ節への溶液の動態
図3にリンパ行性薬剤送達法による腸骨下リンパ節から固有腋窩リンパ節への溶液の動態を示す。
投与直後において、すべての溶液において、腸骨下リンパ節から固有腋窩リンパ節への流れが確認された(0hr)。
注射後1日目で、固有腋窩リンパ節への貯留効果はSolutionB、C、Dで確認されたが(○で囲まれた箇所)、SolutionAでは確認されなかった。
注射後7日目で、腸骨下リンパ節にSolutionB、C、Dの貯留が確認されたが(○で囲まれた箇所)、SolutionAは確認されなかった。
注射後14日目で、腸骨下リンパ節にSolutionC、Dの貯留が確認されたが(○で囲まれた箇所)、SolutionA及びBでは確認されなかった。
注射後21日目で、腸骨下リンパ節にSolutionDの貯留が確認されたが(○で囲まれた箇所)、SolutionA、B、Cは確認されなかった。
SolutionDでは、SolutionDを、注射容器に入れ、注射針から押し出すには相当の力が必要であり、実用に適した溶液ではなかった。
SolutionC及びDでは腸骨下リンパ節に浮腫が確認された(矢印部分)。
【0045】
2)腸骨下リンパ節および固有腋窩リンパ節に貯留する溶液の貯留特性
図4図3で得られた腸骨下リンパ節および固有腋窩リンパ節に貯留する各溶液の貯留特性を示す。投与直後では、固有腋窩リンパ節ではsolution Bの貯留性が高く、腸骨下リンパ節ではsolution Dの貯留性が高くなることが確認された。
【0046】
3)各溶液に対する体重変化
図5に各溶液に対するマウスの体重変化を示す。エラーバーは平均±標準誤差として表記されている。SolutionA、B、C、Dを腸骨下リンパ節に注射しても、副作用としての顕著な体重減少は確認されなかった。
【0047】
4)浸透圧及び粘度の適正域
以上から、浸透圧、粘度の適正な範囲は、浸透圧上限値は3481kPa以下、粘度上限値は427mPa×s以下であると判断できる。
【0048】
実施例2 浸透圧の変化に対する病理解析
1.材料・方法
1)溶液の調整
表2に示された溶液、Π758、Π408、Π515、Π556、Π2610、Π2773を使用した。Π758の粘度に関しては, 生理食塩水の粘度が水と同等と判断し参考文献(理科年表、国立天文台編、1997、丸善株式会社)から得た。溶液Π758、Π408、Π515、Π556、Π2610、Π2773の粘度に関しては、音叉振動式粘度計(SV-1A:粘度測定域:0.3~10、000mPa・s、SV-1H:粘度測定域:0.3~1000mPa・s、エー・アンド・デイ株式会社)で、室温下(20℃)で測定した。
浸透圧は前記と同様に前記(式2)より求めた。
表2中、 血液の浸透圧に対する比とは、1mOsm/Kg=2269.68Paの関係から、各溶液の浸透圧[kPa]をmOsm/Kgに単位換算し、これを血液の浸透圧290mOsm/kgで除した値である。
【0049】
【表2】
【0050】
2)マウス
マウスとしては図1に示すMXH10/Mo-lpr/lprマウス(14-18週齢)(前記非特許文献1)を使用した。
【0051】
3)溶液の注射
溶液を腸骨下リンパ節(SiLN)に投与速度10μL/minで200μL注射し、リンパ管経由で固有腋窩リンパ節(PALN)に送達させた。注射日をday0とした。
【0052】
4)病理解析
注射日から6日目(Day6)に腸骨下リンパ節と固有腋窩リンパ節を摘出し取り出し、10%ホルマリン溶液に浸漬して4日間放置したのちパラフィンで包埋し、ブロックを作製した。パラフィンブロックはミクロトーム(REM-700,Yamato Kohki,Saitama,Japan)を使用し厚さ3μmに薄切し、スライドグラス(Superfrost,Matsunami,Osaka,Japan)に貼付した。その後、パラフィン伸展器(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA,USA)上に一晩置き、十分伸展させた。作製した切片は、HE全自動染色システム(Ventana Symphony, Ventana Medical Systems,Inc., Tucson,AZ,USA)を用いてヘマトキシリン・エオジン(HE)染色をおこなった。
観察には光学顕微鏡(BX51,オリンパス社製)を用いて明視野観察法で観察した。
【0053】
2.結果
1)病理解析
図6に注射日から6日目(Day6)での腸骨下リンパ節及び固有腋窩リンパ節の病理像を示す。溶液はΠ756、Π408 、Π515、Π556、Π2610およびにΠ2773である。倍率は2倍および10倍である。2倍画像上で□で囲んだ部位を拡大したものが10倍像である。画像においてTは腫瘍領域、Nは壊死領域を示す。
(A)Π758
SiLN
リンパ節に特記すべき病的変化は認められなかった。
PALN
リンパ節に特記すべき病的変化は認められなかった。
(B)Π408
SiLN
リンパ節髄洞に軽度の拡張がみられ、リンパ節髄質に軽度の浮腫を認めるが、リンパ節に明らかな器質的変化が認められなかった。
PALN
リンパ節全体のリンパ節髄洞に拡張がみられ、リンパ節外に浮腫を認められた。しかし、壊死巣や線維化は観られず可逆的変化と思われる。
(C)Π515
SiLN
リンパ節髄洞に軽度の拡張がみられ、リンパ節髄質に軽度の浮腫を認められたが、リンパ節に明らかな器質的変化が認められなかった。
PALN
リンパ節髄洞に軽度の拡張がみられ、リンパ節髄質に軽度の浮腫を認められたが、リンパ節に明らかな器質的変化が認められなかった。
(D)Π556
SiLN
リンパ節髄洞に軽度の拡張がみられ、リンパ節髄質に浮腫を認めるが、リンパ節に明らかな器質的変化が認められない。
PALN
リンパ節全体のリンパ節髄洞に拡張がみられ、リンパ節外に浮腫を認められた。しかし、壊死巣や線維化は観られず可逆的変化と思われる。
(E)Π2610
SiLN
リンパ節髄洞に軽度の拡張がみられた。
PALN
リンパ節全体のリンパ節髄洞に拡張がみられ、リンパ節外に浮腫を認められた。しかし、壊死巣や線維化は観られず可逆的変化と思われる。
(F)Π2773
SiLN
リンパ節の大部分に及ぶ広範な壊死を認め、輸出リンパ管基部も壊死に陥っていたことから、輸出リンパ管を介した薬剤送達は困難な所見を呈している。
PALN
リンパ節髄洞に軽度の拡張がみられ、リンパ節髄質に軽度の浮腫を認められたが、リンパ節に明らかな器質的変化が認められなかった。
【0054】
以上の結果から、浸透圧2773kPa、粘度18.9mP・sの溶液は、下流リンパ節への薬剤送達を達成できず、リンパ行性薬剤送達の製剤としては適さないと考えられる。
【0055】
実施例3 シスプラチンを含む溶液を用いた浸透圧域の検討
1.材料・方法
1)溶液の調製
表3にシスプラチンを含む溶液の組成を示す。
溶液はsolution I、solution I’、solution II,solution II’、solution III、solution III’、solution IV、solution IV’、solution Vである。シスプラチンのworking solution はsalineで準備する。 マウスにはマウス体重あたり、5mg/kgを投与するように調整した。
【0056】
表3に示された粘度は前記(式1)から算出した。
表3に示された浸透圧は前記(式2)より求めた。
表3中、 血液の浸透圧に対する比とは、1mOsm/Kg=2269.68Paの関係から、各溶液の浸透圧[kPa]をmOsm/Kgに単位換算し、これを血液の浸透圧290mOsm/kgで除した値である。
【0057】
【表3】
【0058】
2)腫瘍細胞
ルシフェラーゼ遺伝子を発現するKM-Luc/GFP悪性線維性組織球腫様細胞を使用した(Li L, Mori S, Sakamoto M, Takahashi S, Kodama T. Mouse model of lymph node metastasis via afferent lymphatic vessels for development of imaging modalities. PLoS One 2013; 8:e55797)。細胞の培養には、培地として10%ウシ胎児血清(FBS;Sigma-Aldrich, St Louis, MO, USA)、1%L-グルタミン-ペニシリン-ストレプトマイシン(Sigma-Aldrich)、及び0.5%G418 (Sigma-Aldrich)を含むDulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM,Sigma-Aldrich)を用いた。培養条件は、37℃、5%COとした。
【0059】
3)細胞接種
固有腋窩リンパ節に細胞溶液(4×10cells/mL)を40μL接種した。この日をday-3とした。
【0060】
4)薬剤投与
細胞接種後3日目に、腸骨下リンパ節にシスプラチン溶液を速度10μL/minで200μL投与し固有腋窩リンパ節に送達させた。
【0061】
5)生物発光イメージングシステムを用いた腫瘍の成長の確認
固有腋窩リンパ節内の腫瘍成長を評価するために、生物発光イメージングシステム(IVIS, PerkinElmer社製)を使用した。麻酔下において、15mg/mLに濃度調整したルシフェリンをマウスの体重に合わせて10μL/gをマウスの腹腔内に注射した。ルシフェリン投与10分後に、IVISを用いて生物発光強度を測定した。測定データは、専用の解析ソフトを使用して固有腋窩リンパ節における単位時間当たりの発光量を算出した。治療開始日(day0)、治療開始後3日目(day3)、治療開始後6日目(day6)に1回、生物発光強度の測定を行った。
【0062】
6)固有腋窩リンパ節の超音波診断
小動物用高周波超音波診断装置(中心周波数25MHz、空間分解能70μm、方位分解能140mm、VEVO770,VisualSonics社)下で、固有腋窩リンパ節のBモード像を得る。腫瘍接種日(day-3)、治療開始日(day0)、治療開始後3日目(day3)、治療開始後6日目(day6)に、計測した。
【0063】
7)リンパ節体積測定
腫瘍接種日(day-3)、治療開始日(day0)、治療開始後3日目(day3)、治療開始後6日目(day6)に、マウスの体重を測定した。
8)病理解析
治療開始後6日目(day6T)に腸骨下リンパ節及び固有腋窩リンパ節を摘出し、ヘマトキシリン・エオジン染色により、病理像を解析した。
【0064】
2.実験結果
1)溶液の動態
図7Aにsolution I、solution I’、solution II、solution II’、solution III、solution III’、solution IV、solution Vのday0における腸骨下リンパ節(SiLN)から内側腋窩リンパ節(PALN)に流れ出る溶液の動態のin vivoイメージング画像を示す。
図7Bにday6における抗腫瘍効果として、in vivoイメージング画像を示す。血液の浸透圧に対する比とは、1mOsm/Kg=2269.68Paの関係から、各溶液の浸透圧[kPa]をmOsm/Kgに単位換算し、これを血液の浸透圧290mOsm/kgで除した値である。
【0065】
2)浸透圧対する抗腫瘍効果
図8にday6における各浸透圧に対する抗腫瘍効果を示す。縦軸は無次元化されたルシフェラーゼ活性値を示す。 luciferase activity(day 6T)/luciferase activity(day 0T)という無次元量を導入した。結果、luciferase activity を指標とした抗腫瘍効果の評価では、浸透圧Π=3200kPaまで固有腋窩リンパ節に対する抗腫瘍効果が確認された。
【0066】
3)粘度に対する抗腫瘍効果
図9にday6における各粘度に対する抗腫瘍効果を示す。
結果、Luciferase activityを指標とした抗腫瘍効果の評価では、粘度μ=120mPa・sまでは、固有腋窩リンパ節に対する抗腫瘍効果が確認できた。
【0067】
4)マクロ視野における浸透圧および粘度に対する浮腫の評価
図10に、各溶液に対する治療開始後Day3及びDay6でのマウス画像を示す。Day3において、溶液IV(浸透圧Π=2768kPa、粘度μ=55mPa・s)及びV(浸透圧Π=3641kPa、粘度μ=261.5mPa・s)で浮腫が確認された。
【0068】
5)高周波超音波イメージング法による浮腫の評価
図11に、実験日における高周波超音波で得られた固有腋窩リンパ節のBモード画像を示す。Day6において、溶液IV(浸透圧Π=2768kPa、粘度μ=55.0mPa・s)及びにV(浸透圧Π=3641kPa、粘度μ=261.8mPa・s)で浮腫が確認された。
【0069】
6)病理解析
図12にsolution I、 solution I'、solution II、solution II’、solution III、solution III’ 、solution IV、solution IV’、 および Solution V おけるday6Tでの腸骨下リンパ節および固有腋窩リンパ節の病理像を示す。倍率は2倍および10倍である。2倍画像上で□で囲んだ部位を拡大したものが10倍像である。画像においてTは腫瘍領域、Nは壊死領域、Eは浮腫領域を示す。
(A)solution I
SiLN
既存のリンパ節の大部分が壊死に陥り、壊死の範囲は周囲組織にも及んでいる。抗がん剤の周囲組織への拡散が示唆される。輸出リンパ管からのPALNへの薬剤送達が殆ど期待できない所見である。
PALN
リンパ節辺縁洞の場所により、腫瘍組織が壊死に陥った領域も認められるが、殆ど腫瘍増殖が抑制されていない領域も認められる。リンパ節実質の構造は保たれている。リンパ節辺縁洞の一部に抗がん剤が流入したものの、全域には到達しなかったものと思われる。
(B)solution I’
SiLN
リンパ節中央に抗がん剤の注入によると思われる広範な壊死巣の形成が認められ、リンパ節辺縁洞にも及んでいる。輸出リンパ管からのPALNへの薬剤送達が殆ど期待できない所見である。
PALN
リンパ節辺縁洞を起点として増殖したと思われる腫瘍の浸潤・増殖が認められる。薬剤送達が殆ど為されなかったと思われる。
(C)solution II
SiLN
リンパ節中央に抗がん剤の注入によると思われる壊死巣の形成が認められたが、リンパ節辺縁洞の組織は保存されており、輸出リンパ管からのPALNへの薬剤送達が期待できる所見である。
PALN
リンパ節辺縁洞相当部に腫瘍細胞の増殖がみられたが、腫瘍組織の広範な壊死を伴っていた。SiLNからのリンパ行性の薬剤送達の効果が期待できる所見である。
(D)solution II’
SiLN
リンパ節門部相当部に浮腫と限局した壊死を認められたものの、リンパ節の構造は保存されており、輸出リンパ管からのPALNへの薬剤送達が期待できる所見である。
PALN
リンパ節辺縁洞およびリンパ節実質相当部に腫瘍細胞の増殖がみられたが、腫瘍組織の広範な壊死もみられた。SiLNからのリンパ行性の薬剤送達の効果と考えらえる。
(E)solution III
SiLN
リンパ節の一部に限局した壊死病巣を認められたもののリンパ節の構造は保存されており、輸出リンパ管からのPALNへの薬剤送達が期待できる所見である。
PALN
リンパ節辺縁洞およびリンパ節実質相当部に腫瘍細胞が増殖し、壊死したことを示す広範な壊死病巣を認められた。腫瘍細胞の残存はみられなかった。SiLNからのリンパ行性の薬剤送達による著明な抗腫瘍効果と考えられる。
(F)solution III’
SiLN
リンパ節に壊死組織がみられ、辺縁洞も一部壊死に陥っていた。
PALN
リンパ節辺縁洞およびリンパ節実質に腫瘍細胞の増殖が認められ、一部腫瘍組織が壊死に陥っていた。限局的ではあるが、SiLNからのリンパ行性の薬剤送達による抗腫瘍効果が認められた。リンパ行性薬剤送達を期待できる結果であるため、投与するシスプラチン濃度を高めることなどで、所望の抗腫瘍効果が得られると考えられる。
(G)solution IV
SiLN
既存のリンパ節に広範な壊死像を認め、周囲組織には著明な浮腫を認める。輸出リンパ管からのPALNへの薬剤送達が期待できない所見である。
PALN
リンパ節辺縁洞を起点として増殖したと思われる壊死を伴った腫瘍がみられる。十分な抗がん剤の薬剤送達が為されなかったものと思われる。
(H)solution IV’
SiLN
リンパ節門部相当部に壊死組織がみられ、また、周囲組織に浮腫を伴っており、輸出リンパ管からのPALNへの十分な薬剤送達が期待できない所見である。
PALN
リンパ節の広範な領域が腫瘍に置換されており、抗がん剤の薬剤送達が殆ど為されなかったものと思われる。
(I)solution V
SiLN
リンパ節門部の領域が広範な壊死に陥っており、また、周囲組織には著明な浮腫を伴っており、輸出リンパ管からのPALNへの薬剤送達が殆ど期待できない所見である。
PALN
既存のリンパ節全ての領域が腫瘍に置換された状態である。抗がん剤は殆ど送達されなかったと思われる。
以上から、CDDPを含む溶液を使用した場合のリンパ行性薬剤送達法に、より有効な溶液はsolution II~solution III'であった。当該病理像の結果から、リンパ行性薬剤送達の製剤として、浸透圧588kPa以下、又は、2768kPa以上は適さないと考えられる。
【0070】
7)病理解析
図13に各溶液に対するマウスの体重変化を示す。すべての溶液(solutionI、II、III、IV、V)において、明確な体重減少は確認されなかった。
【0071】
参考例2 グルコースを含む溶液の粘性の測定
1.材料・方法
1)溶液の準備
グルコース(Otsuka, 50% glucose)を希釈し、粘度の異なる溶液(0.1~50v/v%グルコース水溶液)を調製した(表4)。溶液の粘度は音叉振動式粘度計(SV-1A:粘度測定域:0.3~10、000mPa・s、SV-1H:粘度測定域:0.3~1000mPa・s、エー・アンド・デイ株式会社)で、室温下(20℃)で測定した。
【0072】
1.結果
図14はグルコース体積パーセントと粘度との関係である。グルコースの体積パーセントの増加とともに、 粘度は指数関数的に増加する。
グルコース体積パーセント(x)、 粘度(y)とすると、以下の関係式(式3)を得た。
【0073】
【数3】
表4中における浸透圧は、 ファントホッフの式前記(式2)より求めた。
血液の浸透圧に対する比とは、1mOsm/Kg=2269.68Paの関係から各溶液の浸透圧[kPa]をmOsm/Kgに単位換算し、これを血液の浸透圧290mOsm/kgで除した値である。
【0074】
【表4】
【0075】
実施例4 エピルビシンを含む溶液を用いた粘度域及び浸透圧域の検討
1.材料・方法
1)溶液の調製
表5にエピルビシンを含む溶液の組成を示す。
溶液はsolution C、solution C’、solution D、solution Fである。
表5における粘度は 前記(式3)から求めた。各溶液の粘度はほぼ1mPa×sであった。
表5中における浸透圧は, ファントホッフの式前記(式2)より求めた。
血液の浸透圧に対する比とは、1mOsm/Kg=2269.68Paの関係から各溶液の浸透圧[kPa]をmOsm/Kgに単位換算し、これを血液の浸透圧290mOsm/kgで除した値である。
【0076】
【表5】
【0077】
2)腫瘍細胞
ルシフェラーゼ遺伝子を発現するFM3A-Lucマウス乳がん細胞を使用した(Shao L, Mori S, Yagishita Y, Okuno T, Hatakeyama Y, Sato T, Kodama T. Lymphatic mapping of mice with systemic lymphoproliferative disorder: Usefulness as an inter-lymph node metastasis model of cancer. J Immunol Methods. 2013 Mar 29;389(1-2):69-78.)。細胞の培養には、培地として10%ウシ胎児血清(FBS;Sigma-Aldrich, St Louis, MO,USA)、1%L-グルタミン-ペニシリン-ストレプトマイシン(Sigma-Aldrich)、 及び0.5%G418 (Sigma-Aldrich)を含むRPMI-1640 medium (Biological Industries, Haemek, Israel)を用いた。培養条件は、37℃、5%COとした。
【0078】
3)細胞接種
腸骨下リンパ節(SiLN)に細胞溶液(3.3×10cells/mL)を60μL接種した。この日をday0とした。実験の概要図を図15に示す。
【0079】
4)溶液投与
細胞接種後7日目(D7)に、腸骨下リンパ節にエピルビシン溶液をボーラス投与で200μL投与し固有腋窩リンパ節(PALN)に送達させた。薬剤濃度はマウスを34gと仮定して、 3mg/kg/mouseとした。
【0080】
5)病理解析
腫瘍移植後16日目(D16)に腸骨下リンパ節及び固有腋窩リンパ節を摘出し、ヘマトキシリン・エオジン染色により、病理像を解析した。
【0081】
2.実験結果
1)ボーラス投与の場合
図16は腫瘍移植後16日目における病理像である。
(C)Solution C
SiLN (C-1, C-2)
リンパ節に腫瘍の浸潤・増殖は確認できない。投与薬剤による増殖抑制効果と考えられる。
PALN(C-3, C-4)
リンパ節内に腫瘍細胞は確認できない。投与薬剤による転移抑制効果と考えられる。
(D)Solution D
SiLN (D-1, D-2)
リンパ節辺縁洞を起点に浸潤・増殖したと思われる腫瘍細胞がわずかにみられるが、腫瘍組織の大部分は壊死組織に陥り、線維性組織に置換されている。投与薬剤による増殖抑制効果と考えられる。
PALN(D-3, D-4)
リンパ節内に腫瘍細胞は確認できない。投与薬剤による転移抑制効果と考えられる。
(F)Solution F
SiLN(F-1, F-2)
リンパ節内に腫瘍細胞は確認できない。投与薬剤による増殖抑制効果と考えられる。
PALN(F-3, F-4)
リンパ節内に腫瘍細胞は確認できない。投与薬剤による転移抑制効果と考えられる。
(C’)Solution C’, Control
SiLN(C’-1, C’-2)
リンパ節辺縁洞を起点に浸潤・増殖したと思われる腫瘍細胞が、著明な増殖傾向を示し、リンパ節周囲に腫瘍塊を形成している。
PALN(C’-3, C’-4)
リンパ節辺縁洞に腫瘍細胞の浸潤、増殖が認められ、転移病巣を形成している。
以上から、 エピルビシンを含む溶液を使用した場合のリンパ行性薬剤送達法においても、浸透圧1600kPa~2335kPaの範囲で、本発明の効果が発揮され、良好な薬剤効果が得られることが示された。
【0082】
実施例5 ニムスチンを含む溶液を用いた浸透圧域の検討
1.材料・方法
1)溶液の調製
表6にニムスチンを含む溶液の組成を示す。
溶液はsolution C、およびsolution Dである。
表6中の粘度は前記(式3)から求めた。
粘度はほぼ1mPa×sであった。
表6中における浸透圧は、 ファントホッフの式前記(式2)より求めた。
血液の浸透圧に対する比とは、1mOsm/Kg=2269.68Paの関係から各溶液の浸透圧[kPa]をmOsm/Kgに単位換算し、これを血液の浸透圧290mOsm/kgで除した値である。
【0083】
【表6】
【0084】
2)腫瘍細胞
ルシフェラーゼ遺伝子を発現するFM3A-Lucマウス乳がん細胞を使用した(Shao L, Mori S, Yagishita Y, Okuno T, Hatakeyama Y, Sato T, Kodama T. Lymphatic mapping of mice with systemic lymphoproliferative disorder: Usefulness as an inter-lymph node metastasis model of cancer. J Immunol Methods. 2013 Mar 29;389(1-2):69-78.)。細胞の培養には、培地として10%ウシ胎児血清(FBS;Sigma-Aldrich, St Louis, MO, USA)、1%L-グルタミン-ペニシリン-ストレプトマイシン(Sigma-Aldrich)、 及び0.5%G418 (Sigma-Aldrich)を含むRPMI-1640 medium (Biological Industries, Haemek, Israel)を用いた。培養条件は、37℃、5%COとした。
【0085】
3)細胞接種
腸骨下リンパ節に細胞溶液(3.3×10cells/mL)を60μL接種した。この日をday0とした。図17はニムスチンの実験の概念図である。
【0086】
4)溶液投与
細胞接種後7日目(D7)に、腸骨下リンパ節にニムスチン溶液をボーラス投与で200μL投与し固有腋窩リンパ節に送達させた。薬剤濃度はマウスを34gと仮定して、5mg/kg/mouseとした。
【0087】
5)病理解析
腫瘍移植後16日目(D16)に腸骨下リンパ節及び固有腋窩リンパ節を摘出し、ヘマトキシリン・エオジン染色により、病理像を解析した。
【0088】
2.実験結果
図18は腫瘍細胞接種後16日目における病理像(ボーラス投与)の病理像である。
(C)Solution C
SiLN (I, J)
リンパ節内に腫瘍細胞は確認できない。投与薬剤による増殖抑制効果と考えられる。
PALN(K, L)
リンパ節内に腫瘍細胞は確認できない。投与薬剤による転移抑制効果と考えられる。
(D)Solution D
SiLN (M, N)
リンパ節内に腫瘍細胞は確認できない。投与薬剤による増殖抑制効果と考えられる。
PALN(O, P)
リンパ節内に腫瘍細胞は確認できない。投与薬剤による転移抑制効果と考えられる。
以上から、ニムスチンを含む溶液を使用した場合のリンパ行性薬剤送達法においても、浸透圧1600kPa~1943kPaの範囲で、本発明の効果が発揮され、良好な薬剤効果が得られることが示された。
【0089】
実施例6 メトトレキサートを含む溶液を用いた浸透圧域の検討
1.材料・方法
1)溶液の調製
表7にメトトレキサートを含む溶液の組成を示す。
溶液はsolution B、solution C、およびsolution Dである。
表7中の粘度は前記(式3)から求めた。
粘度はほぼ1mPa×sであった。
表7中における浸透圧は、 ファントホッフの式前記(式2)より求めた。
血液の浸透圧に対する比とは、1mOsm/Kg=2269.68Paの関係から各溶液の浸透圧[kPa]をmOsm/Kgに単位換算し、これを血液の浸透圧290mOsm/kgで除した値である。
【0090】
【表7】
【0091】
2)腫瘍細胞
ルシフェラーゼ遺伝子を発現するFM3A-Lucマウス乳がん細胞を使用した(Shao L, Mori S, Yagishita Y, Okuno T, Hatakeyama Y, Sato T, Kodama T. Lymphatic mapping of mice with systemic lymphoproliferative disorder: Usefulness as an inter-lymph node metastasis model of cancer. J Immunol Methods. 2013 Mar 29;389(1-2):69-78.)。細胞の培養には、培地として10%ウシ胎児血清(FBS;Sigma-Aldrich, St Louis, MO, USA)、1%L-グルタミン-ペニシリン-ストレプトマイシン(Sigma-Aldrich)、 及び0.5%G418 (Sigma-Aldrich)を含むRPMI-1640 medium (Biological Industries, Haemek, Israel)を用いた。培養条件は、37℃、5%COとした。
【0092】
3)細胞接種
腸骨下リンパ節に細胞溶液(3.3×10cells/mL)を60μL接種した。この日をday0とした。図19はメトトレキサート実験の概念図である。
【0093】
4)溶液投与
細胞接種後7日目(D7)に、腸骨下リンパ節にメトトレキサート溶液をボーラス投与で200μL投与し固有腋窩リンパ節に送達させた。薬剤濃度はマウスを34gと仮定して、 5mg/kg/mouseとした。
【0094】
5)病理解析
腫瘍移植後16日目(D16)に腸骨下リンパ節及び固有腋窩リンパ節を摘出し、ヘマトキシリン・エオジン染色により、病理像を解析した。
【0095】
2.実験結果
抗腫瘍効果の病理像を図20に示す。
(B) Solution B
SiLN( E, F)
リンパ節に明らかな腫瘍細胞の増殖は確認できない。投与薬剤による増殖抑制効果と考えられる。
PALN (G, H)
リンパ節に明らかな腫瘍細胞の増殖は確認できない。投与薬剤による転移抑制効果と考えられる。
(C)Solution C
SiLN (I, J)
リンパ節に明らかな腫瘍細胞の増殖は確認できない。投与薬剤による増殖抑制効果と考えられる。
PALN(K, L)
リンパ節に明らかな腫瘍細胞の増殖は確認できない。投与薬剤による転移抑制効果と考えられる。
(D)Solution D
SiLN (M, N)
リンパ節に明らかな腫瘍細胞の増殖は確認できない。投与薬剤による増殖抑制効果と考えられる。
PALN(O, P)
リンパ節に明らかな腫瘍細胞の増殖は確認できない。投与薬剤による転移抑制効果と考えられる。
【0096】
以上から、メトトレキサートを含む溶液を使用した場合のリンパ行性薬剤送達法においても、浸透圧1208~1943kPaの範囲で、本発明の効果が発揮され、良好な薬剤効果が得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明のリンパ節内投与製剤によれば、リンパ節に薬剤を投与して、投与したリンパ節より下流のリンパ節に効率よく薬剤を流し込むことができる。例えば、薬剤が抗がん剤である場合、標的のリンパ節で抗がん作用を発揮するだけでなく、微小ながんが転移している可能性がある他のリンパ節にも抗がん剤を効率よく流し込むことができ、微小ながんを殺すことで、再発を防止することができる。
また、例えば、手術で郭清できない領域のリンパ節にがんがある場合、外科的手術での治癒は不可能であるが、本発明のリンパ節内投与製剤を用いることで、上流のリンパ節から抗がん剤を流して郭清できない領域のリンパ節の治療を行うことが可能である。さらに、本発明のリンパ節内投与製剤においては、使用する薬剤の量は、従来の全身投与に用いる量よりも少ないため、副作用も少なく、安全性が高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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図20