(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】位置決定システム
(51)【国際特許分類】
G01S 5/26 20060101AFI20221128BHJP
H04L 27/18 20060101ALI20221128BHJP
G01S 5/14 20060101ALI20221128BHJP
G01S 5/30 20060101ALI20221128BHJP
G01S 5/10 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
G01S5/26
H04L27/18 Z
G01S5/14
G01S5/30
G01S5/10 Z
(21)【出願番号】P 2020511235
(86)(22)【出願日】2018-08-22
(86)【国際出願番号】 GB2018052385
(87)【国際公開番号】W WO2019038542
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-08-16
(32)【優先日】2017-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508170852
【氏名又は名称】ソニター テクノロジーズ アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブーイユ, ウィルフレッド エドウィン
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-032535(JP,A)
【文献】特開2015-052527(JP,A)
【文献】特表2014-513287(JP,A)
【文献】特開2005-249770(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0160330(US,A1)
【文献】鈴木 彰真 ,スペクトル拡散超音波による距離計測のためのリアルタイム相関演算,計測自動制御学会論文集,日本,社団法人計測自動制御学会,2010年07月31日,第46巻 第7号,Pages: 357-364,ISSN: 0453-4654
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/72 - 1/82
3/00 - 5/14
5/18 - 5/30
7/52 - 7/64
15/00 - 15/96
19/00 - 19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境内の移動受信ユニットの位置を決定するためのシステムであって、
各々が送信機を備え、音響信号である搬送波信号上に位相変調されたそれぞれの送信ユニット識別子を送信するように構成されている複数の送信ユニットと、
受信機を備え、前記複数の送信ユニットのうちの1つの送信ユニットから、送信ユニット識別子を符号化する音響信号を受信するように構成されている移動受信ユニットと、
処理サブシステムであり、
受信信号を表すサンプリングデータを生成するために、前記受信信号をサンプリングすることであって、ここで前記送信ユニット識別子は、前記サンプリングデータの送信ユニット識別子保持部分にまたがっている、サンプリングすることと、
前記移動受信ユニットにおける前記送信ユニット識別子の到来時刻を決定することと、
前記送信ユニット識別子に対応するテンプレートデータを取得することと、
前記サンプリングデータから前記送信ユニット識別子を復号化することと、
前記環境内の前記移動受信ユニットの位置に関する情報を決定するために、前記到来時刻および復号された前記送信ユニット識別子を使用することと、
前記サンプリングデータの前記送信ユニット識別子保持部分内のドップラー誘起位相偏移を決定するために、前記サンプリングデータ
の前記送信ユニット識別子保持部分を分析することと、
決定された前記ドップラー誘起位相偏移に依存する量だけ、前記テンプレートデータ内または前記サンプリングデータの前記送信ユニット識別子保持部分内の1つまたは複数の位相シフトを変更するように、前記テンプレートデータまたは前記サンプリングデータを調整することと、
前記調整の後、前記テンプレートデータを前記サンプリングデータ
の前記送信ユニット識別子保持部分と相互に相関させることと、
前記到来時刻を決定するとき、又は前記送信ユニット識別子を復号化するときに、相互に相関された出力を使用することを行うように構成されている、処理サブシステムと、
を備える、システム。
【請求項2】
前記移動受信ユニットは、前記処理サブシステムの全部または一部を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
各送信ユニット識別子は、異なるそれぞれの相補型符号変調(CCK)コードを含む、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記処理サブシステムは、決定された前記ドップラー誘起位相偏移を使用して、前記移動受信ユニットの速さまたは速度情報を決定する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記処理サブシステムは、前記送信ユニット識別子の長さに等しいスライディング・エネルギー・ウィンドウを使用して、前記サンプリングデータ内の前記送信ユニット識別子を検出するように構成されている、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記エネルギーウィンドウが前記サンプリングデータに適用されて、一連のエネルギー値が生成され、各エネルギー値は、前記サンプリングデータ内の前記エネルギーウィンドウのそれぞれの位置での前記エネルギーウィンドウ内の前記サンプルの前記エネルギーを表し、
前記処理サブシステムは、前記エネルギー値のピークの時間的位置から前記送信ユニット識別子の到来時刻推定値を決定するように構成される、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
各符号化送信ユニット識別子は、第1の位置にある第1の参照シンボルと、第2の位置にある第2の参照シンボルとを含み、前記第1の参照シンボルおよび前記第2の参照シンボルは所定の位相関係を有し、
前記処理サブシステムは、前記参照シンボルのサンプルからの前記ドップラー誘起位相偏移を決定するように構成されている、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記第1の参照シンボルおよび前記第2の参照シンボルは隣接するシンボルであり、180度オフセットされている、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記処理サブシステムは、前記テンプレートデータまたは前記サンプリングデータを調整するとき、前記送信ユニット識別子の識別部分の各シンボルについて、共通のサンプルインデックスにおいて1つのサンプルのみを調整するように構成されており、前記ドップラー誘起位相偏移に基づいて2つ以上の前記参照シンボルを回転させ、次いで、1つのシンボル内の各サンプルインデックスについて、該サンプルインデックスにおける前記参照シンボルを分析し、品質基準から最高のスコアを有する前記サンプルインデックスを選択することにより、調整すべきサンプルを決定するように構成されている、請求項7又は8に記載のシステム。
【請求項10】
前記処理サブシステムは、前記送信ユニット識別子の識別部分内で、経時的に、前記サンプリングデータの前記位相の導関数を計算することにより、前記ドップラー誘起位相偏移を決定するように構成されている、請求項1乃至9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記処理サブシステムは、前記送信ユニット識別子保持部分内の前記サンプルの前記1つまたは複数の連続する対のサブセットの各々について、夫々の位相導関数を計算するように構成され、前記サブセットは、前記送信ユニット識別子内のコーディング誘起位相シフトの影響を受けるサンプル、または、
前記サンプリングデータの前記位相の微分値をフィルタリング除外することにより取得される、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記処理サブシステムは、前記サンプリングデータの大きさの導関数を使用して、前記ドップラー誘起位相偏移に基づく前記調整が実行されるサンプリングデータのサンプルを選択するように構成されている、請求項1乃至11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
前記処理サブシステムは、前記サンプリングデータを分析して、複数の送信ユニット識別子テンプレートの各々について、前記送信ユニット識別子保持部分内のドップラー誘起位相偏移のそれぞれの推定値を決定するように構成されており、ドップラー誘起位相偏移の各推定値の品質をテストし、それぞれの前記推定値が品質基準を満たさない送信ユニット識別子をフィルタリングするように構成されている、請求項1乃至12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
環境内の移動受信ユニットの位置を決定する方法であって、方法は移動受信ユニットの位置を決定するシステムの処理サブシステム上で、
受信信号を表すサンプリングデータを生成するために、前記移動受信ユニットによって受信される音響信号をサンプリングすることであり、ここで送信ユニットの送信ユニット識別子は、前記サンプリングデータの送信ユニット識別子保持部分にまたがっている、サンプリングすることと、
前記送信ユニット識別子に対応するテンプレートデータを取得することと、
前記移動受信ユニットにおける前記送信ユニット識別子の到来時刻を決定することと、
前記サンプリングデータから前記送信ユニット識別子を復号化することと、
前記環境内の前記移動受信ユニットの位置に関する情報を決定するために、前記到来時刻および復号された前記送信ユニット識別子を使用することと、
前記サンプリングデータの前記送信ユニット識別子保持部分内のドップラー誘起位相偏移を決定するために、前記サンプリングデータ
の前記送信ユニット識別子保持部分を分析することと、
決定された前記ドップラー誘起位相偏移に依存する量だけ、前記テンプレートデータ内または前記サンプリングデータの前記送信ユニット識別子保持部分内の1つまたは複数の位相シフトを変更するように、前記テンプレートデータまたは前記サンプリングデータを調整することと、
前記調整の後、前記テンプレートデータを前記サンプリングデータ
の前記送信ユニット識別子保持部分と相互に相関させることと、
前記到来時刻を決定するとき、又は前記送信ユニット識別子を復号化するときに、相互に相関された出力を使用することを含む、方法。
【請求項15】
前記信号が超音波信号である、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動受信ユニットの位置を決定するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波信号などの信号を使用して、複数の送信ユニット(建物の壁または天井に固定可能)から信号を送信することにより、三次元において移動ユニットまたはタグの位置を決定することが知られている。信号は、それぞれの送信ユニットの識別子を符号化する。これらの信号は、移動受信ユニット(人または機器などの物体に取り付けられる)によって受信される。静止送信ユニットの位置がわかっている場合、移動ユニットの1つにおける信号セットの到来時刻を使用して、標準的な幾何学的計算を使用して環境内のその移動ユニットの位置を推定することができる。このようなシステムの例は、米国特許第6292106号(Cubic Defence Systems,Inc.)に記載されている。
【0003】
国際公開第2012/137017号において、本出願人は、複数の静止送信局がそれぞれの位相変調されたシグネチャ(signature)を送信する測位システムを開示している。各シグネチャは、それぞれの送信局に特有の時間的オフセットおよび位相オフセットを有する11ビットバーカーコードの2つ以上のインスタンスから構成される。シグネチャは移動受信ユニットによって受信され、その到来時刻は受信ユニットの位置を決定するために使用される。送信には、オプションのメッセージデータも含まれる場合がある。ドップラー効果により、超音波信号において動きに誘起される位相変化の可能性があるため、受信ユニットは、同期無線システムにおいて通常行われ得るように、直交変調器を使用して、再生成された搬送波信号と受信信号とを混合しない。代わりに、受信信号はバーカーコードの参照コピーと相互相関され、同相および直交情報の両方を含む複素相関信号Z(i)が生成され、この信号から、特定の送信局に対応するシグネチャの存在および到来時刻が決定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
国際公開第2012/137017号に記載されている手法は非常に効果的であることがわかったが、本出願人は、当該出願に記載されているシグナリングに対して、さらなる精度および信頼性の改善が可能であることを発見した。
【0005】
したがって、本発明は、改善された手法を提供することを求めるものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様から、本発明は、環境内の移動受信ユニットの位置を決定するためのシステムであって、
各々が送信機を備え、搬送波信号上に位相変調されたそれぞれの送信ユニット識別子を送信するように構成されている複数の送信ユニットと、
受信機を備え、上記複数の送信ユニットのうちの1つの送信ユニットから、送信ユニット識別子を符号化する信号を受信するように構成されている移動受信ユニットと、
処理サブシステムであり、
受信信号を表すサンプリングデータを生成するために、受信信号をサンプリングすることであり、送信ユニット識別子は、サンプリングデータの送信ユニット識別子保持部分に及ぶ、サンプリングすることと、
送信ユニット識別子に対応するテンプレートデータを取得することと、
サンプリングデータの送信ユニット識別子保持部分内のドップラー誘起位相偏移を決定するために、サンプリングデータを分析することと、
決定されたドップラー誘起位相偏移に依存する量だけ、テンプレートデータ内またはサンプリングデータの送信ユニット識別子保持部分内の1つまたは複数の位相シフトを変更するように、テンプレートデータまたはサンプリングデータを調整することと、
上記調整の後、テンプレートデータをサンプリングデータと相互相関させることと、
移動受信ユニットにおける送信ユニット識別子の到来時刻を決定することと、
サンプリングデータから送信ユニット識別子を復号することと、
環境内の移動受信ユニットの位置に関する情報を決定するために、上記到来時刻および復号された送信ユニット識別子を使用することと
を行うように構成されている、処理サブユニットと
を備える、システムを提供する。
【0007】
第2の態様から、本発明は、環境内の移動受信ユニットの位置を決定する方法であって、
受信信号を表すサンプリングデータを生成するために、移動受信ユニットによって受信される信号をサンプリングすることであり、送信ユニットの送信ユニット識別子が、サンプリングデータの送信ユニット識別子保持部分に及ぶ、サンプリングすることと、
上記送信ユニット識別子に対応するテンプレートデータを提供することと、
サンプリングデータの送信ユニット識別子保持部分内のドップラー誘起位相偏移を決定するために、サンプリングデータを分析することと、
決定されたドップラー誘起位相偏移に依存する量だけ、テンプレートデータ内またはサンプリングデータの送信ユニット識別子保持部分内の1つまたは複数の位相シフトを変更するように、テンプレートデータまたはサンプリングデータを調整することと、
上記調整の後、テンプレートデータをサンプリングデータと相互相関させることと、
移動受信ユニットにおける送信ユニット識別子の到来時刻を決定することと、
サンプリングデータから送信ユニット識別子を復号することと、
環境内の移動受信ユニットの位置に関する情報を決定するために、上記到来時刻および復号された送信ユニット識別子を使用することと
を含む、方法を提供する。
【0008】
したがって、本発明によれば、移動受信ユニットと送信ユニットとの間の相対運動によって引き起こされる、送信される送信ユニット識別子への変更が、送信ユニット識別子が到来時刻を決定するためにテンプレートデータと相互相関される前に補償されることが当業者には分かるであろう。これにより、より正確な相互相関結果が得られ、移動受信ユニットによって受信される送信ユニット識別子のより高い復号成功率が得られることがわかっている。
【0009】
これは、受信信号がそのような補償なしで11ビットバーカーコードと相互相関される国際公開第2012/137017号に記載されている手法とは対照的である。代わりに、国際公開第2012/137017号は、この相互相関が実行された後に運動が誘起する位相シフトの補償を適用することを教示しており、(シグネチャ自体の復号ではなく)シグネチャに後続する可能性のある任意のオプションのメッセージデータの復号のみを補償する。
【0010】
しかし、本出願人は現在、サンプルとテンプレートデータとの相互相関を実行する前に、未加工のサンプルまたは未加工のテンプレートデータに位相調整を適用することにより、送信された送信ユニット識別子を正しく検出する可能性を大幅に改善することができることを認識するに至った。
【0011】
本発明の利点は、移動受信ユニットが環境内の信号の速さの100倍または1000倍以内の速さで移動すると予測される場合に特に明らかである。送信信号は、電磁信号、例えば無線信号または光信号、であってもよいが、好ましい実施形態セットでは、それらは音響信号である。それらは超音波信号であってもよい。超音波信号は、通常の人間の聴力範囲よりも高い周波数を有する音響信号である。典型的には、これは、20kHzより高く、例えば30kHzと100kHzとの間の周波数を有する信号を意味する。
【0012】
音響信号は、無線波および光波よりもはるかに遅いため、測位システム、特に屋内での使用に特によく適している。したがって、音響信号を使用する実施形態は、光速度信号を使用する実施形態と比較して、所定の空間分解能に対して必要とする時間測定の正確度を低くすることができる。
【0013】
環境は屋内環境であってもよいが、これは必須ではない。環境は、たとえば、ショッピングモール、病院、倉庫、オフィス街、住居などのような1つまたは複数の建物を含んでもよい。
【0014】
送信ユニットは移動式であってもよいが、静止していることが好ましい。それらは、例えば、1つまたは複数の壁または天井などの建物のそれぞれの構造部材に固定されてもよい。送信ユニットが移動式もしくは静止、または両方の組み合わせであるかにかかわらず、それらの位置は処理サブシステムに知られることができる。これは、処理サブシステムが環境内の移動受信ユニットの位置を決定するのに役立ち得る。
【0015】
各送信ユニットは、好ましくは、それぞれの送信ユニット識別子を、間隔をあけて、例えば定期的に繰り返し送信する。これにより、移動受信ユニットの位置を経時的に追跡することが可能である。
【0016】
移動ユニットは、処理サブシステムの一部またはすべてを備えてもよい。これにより、移動受信ユニットからデータを通信して、他の場所、たとえばリモートサーバ上で処理する必要性を回避することができる。
【0017】
いくつかの実施形態では、いくつかまたは複数の送信ユニットが、処理サブシステムの一部またはすべてを備えてもよい。処理サブシステムの一部またはすべては、例えば、1つまたは複数の外部サーバ上など、移動受信ユニットおよび送信ユニットの外部にあってもよい。これは、移動受信ユニット上の処理要件を削減するのに有利であり、移動受信ユニットからデータを(無線などによって)送信する必要性を考慮した後でも、コストおよび消費電力を削減することができる。これは、移動受信ユニットがバッテリ駆動の場合に特に便利である。処理サブシステムは、複数のプロセッサもしくは複数の場所、またはその両方にわたって分割することができる。移動受信ユニットは、受信信号、またはそこから導出される情報をリモート処理ユニットに送信するように構成されてもよい。移動受信ユニットおよび/または送信ユニットは、受信信号または送信信号に関する情報を送信するための、無線送信機などの有線またはワイヤレス送信機を備えてもよい。
【0018】
システムは、タイミング情報を送信ユニットおよび/または移動受信ユニットに送信するように構成された無線送信機を備えてもよい。送信ユニットおよび移動受信ユニットは、到来時間差の代わりに到来時刻情報を測位に使用することができるように同期することができる。これは、範囲内にある必要がある送信ユニットの数を少なくすることができ、より正確にすることができる。
【0019】
好ましくは、処理サブシステムは、1つまたは複数の信号のそれぞれの送信時刻および/またはそれぞれの到来時刻を使用して、移動受信ユニットと1つまたは複数の送信ユニットとの間のそれぞれの距離に関する情報を決定し、移動受信ユニットの位置を決定するときにこの距離情報を使用するように構成される。
【0020】
移動受信ユニットは、異なる送信ユニットから複数の上記信号を受信するように構成されてもよく、処理サブシステムは、受信した送信ユニット識別子を復号し、送信ユニット識別子を使用して、移動受信ユニットの位置に関する情報を決定するように構成されてもよい。
【0021】
処理サブシステムは、信号強度ならびに/または到来時刻および/もしくは到来時間差情報を使用して、たとえば、当業者によく知られている三辺測量計算を実行することにより、移動受信ユニットの位置に関する情報を決定することができる。移動受信ユニットの位置に関する情報は、例えば、固定原点に対する移動ユニットの推定位置座標を含んでもよい。位置情報は、二次元または三次元における移動受信ユニットの位置に関連してもよい。
【0022】
処理サブシステムは、決定されたドップラー誘起位相偏移を使用して、移動受信ユニットの速さまたは速度情報を決定することができる。速度情報の速さは絶対的(例えば、地上の速度)であってもよく、または、相対的なものであってもよい。特に、送信ユニットの1つまたは複数が移動式である場合、速さまたは速度情報は、それ自体が動いている可能性がある移動送信ユニットに対して相対的であってもよい。この速さまたは速度情報は付加的に、移動受信ユニットの位置に関連する情報を決定するときに使用されてもよい。例えば、処理サブシステムは、カルマンフィルタを使用して位置情報を決定してもよく、移動受信ユニットと1つまたは複数の送信ユニットとの間の距離の一連の値に加えて、速度情報をカルマンフィルタに入力してもよい。
【0023】
移動受信ユニットは、例えば、タグを人または物体に固定し、人または物体を追跡するための手段を備える専用測位タグであってもよく、または、携帯電話もしくはタブレットコンピュータなどの、追加機能を有する携帯電子機器であってもよい。
【0024】
移動受信ユニットは、すべての処理サブシステム全体を含むことができる。これは、移動受信ユニットが表示画面および強力なプロセッサを有する場合、たとえばスマートフォンである場合に特に適している。この場合、移動受信ユニットは、その位置に関する情報を保存するように構成することができる。
【0025】
他の実施形態では、移動受信ユニットは、例えば、受信信号をサンプリングするサンプラを含む、処理サブシステムのいくつかの部分のみを備えてもよく、または、処理サブシステムの部分をまったく備えなくてもよく、一方、例えば、到来時刻および復号された送信ユニット識別子を使用して移動受信ユニットの位置を決定するように構成されている要素など、処理サブシステムの他の部分は、リモートコンピュータまたはサーバ上など、1つまたは複数の他のユニット内に存在してもよい。移動受信ユニットは、無線、光学、または他の送信機、例えば、Bluetooth、WiFi、またはセルラネットワーク送信機を備えてもよい。移動受信ユニットは、送信機を使用して、受信超音波信号に関連するデータをリモート処理ユニットに送信することができ、これは、アナログ音声ファイル、またはデジタルサンプル、または処理済みデータであってもよい。
【0026】
各送信ユニットの送信機は、無線アンテナ、発光素子、音響トランスデューサ、または位相変調された搬送波信号を送信する他の適切な手段を含んでもよい。送信機は、DAC、アンプなど、送信を駆動または制御するための適切な回路を備えることができる。好ましい実施形態セットにおいて、各送信ユニットは、超音波信号を生成するための少なくとも1つの超音波トランスデューサを備える。
【0027】
処理サブシステムおよび/または各送信ユニットおよび/または移動受信ユニットは、説明されたステップを実行するためのプロセッサ、DSP、ASIC、FPGAのうちのいずれか1つまたは複数を備えてもよい。それは、データを記憶するための、および/またはプロセッサ、DSPまたはFPGAによって実行されるソフトウェア命令を記憶するためのメモリを含んでもよい。それは、電源、発振器、ADC、DAC、RAM、フラッシュメモリ、ネットワークインターフェース、ユーザインターフェースなどを含む、任意の他の適切なアナログまたはデジタル構成要素を含んでもよい。それは単一のユニットであってもよく、または複数の処理ユニットを含んでもよく、当該ユニットは、1つまたは複数の有線またはワイヤレスリンクによって通信するように構成されてもよい。
【0028】
位置決定システムは、好ましくは、データ記憶装置および/またはディスプレイおよび/またはデータ接続をさらに備え、移動受信ユニットの位置に関する情報を電子的に記憶および/または表示および/または通信するように構成される。システムは、例えば、建物または環境の地図または図面上に移動受信ユニットの位置を示すように構成することができる。
【0029】
各送信ユニットは、異なる送信ユニット識別子を送信するように構成することができる。処理サブシステムは、復号された送信ユニット識別子から送信ユニットのアイデンティティを決定するように構成することができる。処理サブシステムは、環境内の送信ユニットの位置に関連する情報にアクセスすることができ、移動受信ユニットの位置を決定するときにこの情報を使用することができる。ただし、より大きいシステムでは、送信ユニット間で識別子を共有する必要がある場合があることは理解されよう。これは、重複する送信範囲を有する送信ユニット間で識別子が共有されないことを保証することにより、または処理サブシステムが復号された送信ユニット識別子から送信ユニットのアイデンティティを決定するために使用することができる追加の情報を提供することにより行うことができる。
【0030】
各送信ユニット識別子は、所定のパターンを含んでもよく、または、所定のパターンであってもよい。各送信ユニット識別子は、位相偏移キー(PSK)で符号化された、または差動位相偏移キー(DPSK)で符号化された、シーケンスまたはコード、例えば直交(QPSK)符号化シーケンスであってもよい。送信ユニット識別子は、すべて共通の長さであることが好ましい。搬送波信号上に位相変調された送信ユニット識別子は、国際公開第2012/137017号(その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように、1つまたは複数のバーカーコードを含むことができ、好ましい実施形態では、送信ユニット識別子は、相補型符号変調(CCK)コードを含むか、または、当該コードである。送信ユニット識別子は、単一のCCKコードであってもよい。CCKコードは、8複合チップ長(16ビットに対応)であってもよい。各送信ユニットは、送信ユニット識別子として異なるそれぞれのCCKコードを送信するように構成することができる。
【0031】
当該技術分野で知られているように、CCKコードは、ゼロオフセットで強い自己相関を与え、非ゼロオフセットで低い自己相関を与えるシーケンスである。それらの自己相関特性により、それらは、ワイヤレス通信環境におけるマルチパス伝搬によって引き起こされるシンボル間干渉に対する耐性が高くなる。長さが8チップのCCKコードが既知であり、これは、搬送波上にQPSK符号化されることを意図している。
【0032】
無論、ゴレイ符号、ゴールド符号、M-ary直交キーイング、直交振幅変調(QAM)などのような、他の送信ユニット識別子および/または位相変調方式が使用されてもよい。
【0033】
音響信号の動きに誘起される位相変化の可能性があるため、同期無線受信機において通常行われ得るように、直交変調器を使用して、再生成された搬送波信号と受信信号とを混合することは一般的に望ましくない。代わりに、処理サブシステムは、テンプレートデータとサンプリングデータとを相互相関させる。(この相互相関演算は、適切な方法で実施することができ、テンプレートデータとサンプリングデータとを相互相関させることができること、またはその逆も可能であることを諒解されたい)。
【0034】
テンプレートデータは、処理サブシステムによって生成されてもよく、または、処理サブシステムによって、たとえばメモリから取り出されてもよい。送信ユニット識別子のテンプレートデータは、好ましくはベースバンドの、間隔を空けてサンプリングされた、位相変調された送信ユニット識別子を表す値(複素数値であってもよい)のセットを含むことができる。ただし、無論、他の表現も可能である。
【0035】
送信ユニットは、それぞれの送信ユニット識別子を共通のチップ(またはシンボル)レートにおいて送信することができる。チップは、QPSKを使用する場合のビットペアなど、位相変調の基本シンボルに対応することが好ましい。処理サブシステムは、チップレートに等しい、または好ましくはそれより大きいサンプリングレート、たとえば、チップレートの少なくとも2倍または4倍で受信信号をサンプリングすることができる。処理サブシステムは、最初に、受信信号をより高いレートでサンプリングし、次にダウンサンプリング(たとえば、デシメーションを使用)して、より低いサンプリングレートにすることができる。このより低いサンプリングレートは、依然としてチップレートよりも大きいものであり得、チップレートの少なくとも2倍が好ましい。ただし、チップレートの16、8、または4倍以下であることが好ましい。処理サブシステムは、受信チップの位相遷移エッジ上で直接サンプリングするリスクを減らすために、チップレートの最低4倍で受信信号をサンプリングすることができる。
【0036】
処理サブシステムは、スライディング・エネルギー・ウィンドウを使用して、サンプリングデータ内の送信ユニット識別子を検出するように構成することができる。エネルギーウィンドウの長さは、送信ユニット識別子の長さと等しくてもよい。
【0037】
エネルギーウィンドウをサンプリングデータに適用して、一連のエネルギー値を生成することができ、各エネルギー値は、サンプリングデータ内のエネルギーウィンドウのそれぞれの位置でのエネルギーウィンドウ内のサンプルのエネルギーを表す。位置は、たとえば、1対1でサンプルに対応することができ、これにより、エネルギーウィンドウは、一度に1サンプルずつ、サンプリングデータをステップオーバーする。(受信信号は、前述のように、最初により高い初期サンプリングレートからダウンサンプリングされ得ることに留意されたい。)送信ユニット識別子は、エネルギー値のピークを識別することにより検出することができる。処理サブシステムは、送信ユニット識別子を検出するために、閾値レベルを超えるなど、1つまたは複数の基準を満たすピークを必要とし得る。各エネルギー値は、適切な方法で、エネルギーウィンドウ内の一部またはすべてのサンプルのエネルギー値またはパワー値の平均または合計を表すことができる。
【0038】
送信ユニット識別子を表すサンプルのエネルギーレベルは、バックグラウンドノイズを表すサンプルのエネルギーレベルよりも高いと予測されるため、エネルギー値のシーケンスは、エネルギーウィンドウがサンプリングデータの送信ユニット識別子保持部分と正確に位置整合されているときに最高になると予測される。
【0039】
送信ユニット識別子がスライディング・エネルギー・ウィンドウの特定の位置において検出された場合、その位置にあるエネルギーウィンドウ内のサンプルを、サンプリングデータの送信ユニット識別子保持部分として選択することができる。
【0040】
エネルギーウィンドウは、ウィンドウ内の1つまたは複数の固定位置のサンプルを無視するように構成することができる。これは、たとえば、位相シフトに対する送信ユニットおよび/または移動受信ユニットのトランスデューサの応答性の実際的な制限によって引き起こされる、アーティファクトの影響を受ける可能性が高い受信信号のサンプルをフィルタリング除外するために使用することができる。例えば、いくつかの実施形態では、エネルギーウィンドウのエネルギーウィンドウ関数は、送信ユニット識別子の連続するチップ間の境界にあるサンプルが、そうでなければエネルギーウィンドウ内のエネルギーまたはパワー計算に悪影響を与える可能性のある潜在的な位相シフトに起因する不安定な振幅変動を経験する可能性がより高いため、送信ユニット識別子の各チップの最初および/または最後のサンプルを無視することができる。
【0041】
送信ユニット識別子の到来時刻は、エネルギー値のピークの時間的位置から決定することができる。次いで、この到来時刻または時間的位置を使用して、さらなる分析のために、サンプリングデータの送信ユニット識別子保持部分にわたるサンプルのセットを選択することができる。到来時刻は、1サンプリング間隔の分解能において決定することができる。しかし、いくつかの実施形態では、処理サブシステムは、エネルギー値から勾配情報を導出し、勾配情報を使用して、上記間隔よりも細かい時間分解能においてエネルギー値のピークの位置を特定することができる。ピーク検出器が、連続する3つのエネルギー値にまたがるスライディングピーク検出ウィンドウに基づいてピークを識別することができる。エネルギー値シーケンスの各位置において、その位置の前の勾配およびその位置の後の勾配を使用してピークを識別することができる。これらの勾配のこれらの大きさを使用して、ピークの位置を推定することができる。ピーク検出では、ノイズからピークをより適切に分離することができるため、検出されるピークの条件を満たすために、エネルギー値の二次導関数も必要になる場合がある。
【0042】
いくつかの実施形態では、より正確な到来時刻を後で決定することができるが、エネルギーウィンドウからの到来時刻は、それ自体で電力を節約するために使用することができる。したがって、いくつかの実施形態では、エネルギー値のピークの時間的位置から決定される飛行時間が、以前に決定された飛行時間(送信ユニットによる以前の送信から決定される)と同じか、またはその閾値内にある場合、処理サブシステムは、エネルギーウィンドウ内のサンプルのさらなる分析を実行しなくてもよく低電力モードのままにすることができる。処理システムは、移動受信ユニットと1つまたは複数の送信ユニットとの間の距離が閾値を超えて変化したときにのみ分析を実行するように構成されてもよい。
【0043】
対応する長さのエネルギーウィンドウを使用して、サンプリングされた信号データ内の固定長の位相変調信号または周波数変調信号を検出するこの手法は、それ自体が新規であると考えられる。
【0044】
したがって、さらなる態様から、本発明は、固定長を有する位相変調信号または周波数変調信号を検出する方法であって、
サンプリングデータを生成するために、受信信号を一定間隔でサンプリングすることと、
一連のエネルギー値を生成するために、上記固定長に等しい長さを有するスライディング・エネルギー・ウィンドウをサンプリングデータに適用することであり、各エネルギー値は、サンプリングデータ内のエネルギーウィンドウのそれぞれの位置における、エネルギーウィンドウ内のサンプルのエネルギーを表す、適用することと、
エネルギー値のピークを識別することにより、上記固定長の位相変調信号または周波数変調信号を検出することと
を含む、方法を提供する。
【0045】
別の態様から、本発明は、固定長を有する位相変調信号または周波数変調信号を検出するための受信装置であって、
ワイヤレス信号を受信するための入力と、
処理システムと
を備え、処理システムは、
サンプリングデータを生成するために、上記入力において受信される信号を一定間隔でサンプリングすることと、
一連のエネルギー値を生成するために、上記固定長に等しい長さを有するスライディング・エネルギー・ウィンドウをサンプリングデータに適用することであり、各エネルギー値は、サンプリングデータ内のエネルギーウィンドウのそれぞれの位置における、エネルギーウィンドウ内のサンプルのエネルギーを表す、適用することと、
エネルギー値のピークを識別することにより、上記固定長の位相変調信号または周波数変調信号を検出することと
を行うように構成されている、受信装置を提供する。
【0046】
ピークは、固定長の位相変調信号または周波数変調信号を検出するために、閾値レベルを超えるなど、1つまたは複数の基準を満たす必要があり得る。
【0047】
エネルギー値の勾配情報を使用して、固定長の位相変調信号または周波数変調信号の到来時刻を推定することも、それ自体が新規であると考えられる。
【0048】
したがって、さらなる態様から、本発明は、固定長を有する位相変調信号または周波数変調信号の到来時刻を推定する方法であって、
サンプリングデータを生成するために、受信信号を一定間隔でサンプリングすることと、
一連のエネルギー値を生成するために、上記固定長に等しい長さを有するスライディング・エネルギー・ウィンドウをサンプリングデータに適用することであり、各エネルギー値は、サンプリングデータ内のエネルギーウィンドウのそれぞれの位置における、エネルギーウィンドウ内のサンプルのエネルギーを表す、適用することと、
エネルギー値から勾配情報を導出し、上記間隔よりも細かい時間分解能においてエネルギー値のピークの位置を特定するために、勾配情報を使用することと、
上記ピークの位置から上記位相変調信号または周波数変調信号の到来時刻を推定することと
を含む、方法を提供する。
【0049】
別の態様から、本発明は、固定長を有する位相変調信号または周波数変調信号の到来時刻を推定するための受信装置であって、
ワイヤレス信号を受信するための入力と、
処理システムと
を備え、処理システムは、
サンプリングデータを生成するために、上記入力において受信される信号を一定間隔でサンプリングすることと、
一連のエネルギー値を生成するために、上記固定長に等しい長さを有するスライディング・エネルギー・ウィンドウをサンプリングデータに適用することであり、各エネルギー値は、サンプリングデータ内のエネルギーウィンドウのそれぞれの位置における、エネルギーウィンドウ内のサンプルのエネルギーを表す、適用することと、
エネルギー値から勾配情報を導出し、上記間隔よりも細かい時間分解能においてエネルギー値のピークの位置を特定するために、勾配情報を使用することと、
上記ピークの位置から上記位相変調信号または周波数変調信号の到来時刻を推定することと
を行うように構成されている、受信装置を提供する。
【0050】
固定長を有する位相変調信号または周波数変調信号は、前述の送信ユニット識別子であり得る。本明細書に開示される任意の態様または実施形態の特徴は、適切な場合にはいつでも、これらの態様の実施形態の特徴でもあり得、逆もまた同様である。
【0051】
本明細書で開示される任意の態様において、ドップラー誘起位相偏移を決定するためにサンプリングデータを分析することができる多くの異なる方法がある。また、テンプレートデータまたはサンプリングデータを調整し、それらを相互相関させて送信ユニット識別子の到来時刻を決定することができる多くの異なる方法もある。サンプリングデータから送信ユニット識別子を復号することができる多くの異なる方法もある。
【0052】
位相偏移が決定される送信ユニット識別子保持部分は、サンプリングデータ内の送信ユニット識別子の長さに等しくてもよく、または、送信ユニット識別子よりも小さくてもよい。符号化された送信ユニット識別子の一部のみをカバーする場合、いくつかの実施形態では、サンプリングデータは、付加的に、決定されたドップラー誘起位相偏移に依存する量だけ、送信ユニット識別子保持部分の外側の1つまたは複数の位相シフトを変更するように調整することができる。
【0053】
1つの実施形態セットでは、各符号化送信ユニット識別子は、第1の位置にある第1のシンボルと、第2の位置にある第2のシンボルとを含み、第1のシンボルおよび第2のシンボルは所定の位相関係を有する。第1の位置および第2の位置は、好ましくは、すべての送信ユニット識別子について同じである。それらは隣接するシンボルであってもよい。所定の位相関係は、好ましくは、すべての送信ユニット識別子について同じである。各符号化送信ユニット識別子は、すべて所定の位相差を有する、所定の位置にあるさらなる参照シンボルを含むことができる。
【0054】
処理サブシステムは、これらの参照シンボルのサンプルからのドップラー誘起位相偏移を決定することができる。処理サブシステムは、オプションとして、位相差を決定するために、送信ユニット間で異なる、受信した送信ユニット識別子の識別部分の1つまたは複数のサンプルを分析することもできる。しかし、これらのサンプルの位相は通常、処理サブシステムに事前に知られていないため、一部の実施形態では、ドップラー誘起位相偏移を決定するために、参照シンボルのみが分析される。
【0055】
例えば、送信ユニット識別子はすべて、2つ以上の所定のQPSKビットペアからなるプリアンブルを備えることができる。これらは、第1のビットペアから第2のビットペアへの位相遷移(たとえば、プラス90度)が事前にわかっており、すべての送信ユニット識別子について同じであるため、参照シンボルとして機能することができる。いくつかの実施形態では、これらの2つ以上のQPSKビットペアの最後のビットペアは、CCKコードの最初のチップであり得る。この場合、CCKの残りの7つのチップは、各送信ユニット識別子の識別部分を形成することができる。
【0056】
好ましくは、第1のシンボルおよび第2のシンボルは隣接するシンボルであり、180度オフセットされている。各送信ユニット識別子の既知の位置にそのような最大位相変化を含めると、ドップラー誘起位相偏移測定の正確度が向上することがわかっている。また、相互相関からの到来時刻測定の時間的正確度を改善することもできる。ただし、他の位相オフセットも使用することができる。
【0057】
処理サブシステムは、参照シンボルに関連するサンプルにわたる位相偏移(コーディングによるものではない)の割合を計算することにより、ドップラー誘起位相偏移を決定する場合がある。これらのサンプルの少なくとも一部に、対応するサンプル位置において送信されたそれぞれのシンボルの複素共役を乗算することができる。これにより、コーディングおよび位相変調による位相シフトが除去される。結果の値を位相アンラップして、連続位相空間において値のセットを生成することができる。処理サブシステムは、値のセットから線形位相偏移を特性化することができる(アンラップ後が好ましい)。例えば、線形回帰を使用して、アンラップされた値のセットの勾配を決定することができる。この勾配は、ドップラー誘起位相偏移を表すことができる。
【0058】
すべての送信ユニット識別子の既知の位相遷移の位置に隣接するサンプルなど、1つまたは複数のサンプルを乗算演算から除外することができる。これにより、送信または受信トランスデューサまたはアンテナに導入されるアーティファクトのために信頼できないサンプルを削除することにより、ドップラー誘起位相偏移の推定の正確度を向上させることができる。
【0059】
次いで、処理サブシステムは、勾配、または線形位相偏移の他の特性化を使用して、サンプリングデータの送信ユニット識別子保持部分内のサンプルの一部またはすべてを調整することができる。処理サブシステムは、各サンプルを、例えば、線形外挿によって、勾配または特性化から決定される角度だけ回転させることにより、これを行うことができる。
【0060】
いくつかの実施形態では、処理サブシステムは、調整すべき送信ユニット識別子保持部分内のサンプルのサブセットを決定する。処理サブシステムは、参照シンボルのサンプルを使用して、上記調整を実行し、かつ/または送信ユニット識別子の復号に使用するための送信ユニット識別子のサンプルを選択することができる。処理サブシステムは、参照シンボルのサンプルを使用して、送信ユニット識別子の各チップから、(送信ユニット識別子の連続するチップ間で位相出力の変更において)遅いトランスデューサ位相応答の影響を実質的に受けないサンプルを選択する。復号プロセスのサンプリングデータを選択的に選出することにより、連続するチップ間の位相遷移にまたがるデータサンプルを回避することができる。これは、チップ遷移間のトランスデューサ応答が遅いことに起因して、それらのサンプルが頻繁に大きい位相変動を示すためである。
【0061】
処理サブシステムは、送信ユニット識別子の識別部分の各チップまたはシンボルに対して1つのサンプルのみを調整することができる。これらは、各チップの共通のそれぞれの位置にあってもよい(たとえば、各チップの第3のサンプル)。処理サブシステムは、推定ドップラー誘起位相偏移に基づいて2つ以上の参照シンボルを回転させ、次いで、1つのシンボル内の各サンプルインデックスについて、そのサンプルインデックスにおける参照シンボルを分析し、品質基準から最高のスコアを有するサンプルインデックスを選択することにより、調整すべきサンプルを決定することができる。次いで、識別部分のシンボル内のこのサンプルインデックスにあるサンプルを調整し、復号および/または相互相関演算に使用することができる。品質基準は、各(回転した)サンプルにおける同相成分値の、参照シンボルにわたる平均であってもよい。これにより、コーディング誘起位相ジャンプの前後の送信または受信コンポーネントの制限により、位相および/または振幅が影響を受けている可能性のあるサンプルを回避することができる。後続の相互相関はチップレートにおいて実行されてもよく、または、選択されたサンプルを、例えば、上記サンプリングレートに戻してアップスケールしてもよい。
【0062】
処理サブシステムは、相互相関を使用して、調整されたデータサンプルから送信ユニット識別子を復号することができる。サンプリングデータのサブセットを使用して送信ユニット識別子を復号することによって、復号処理の複雑さを軽減することができる。送信ユニット識別子は、調整されたサンプリングデータを各送信ユニット識別子のテンプレートデータと相互相関させることにより、サンプリングデータから復号することができる。各送信ユニット識別子のテンプレートデータは、ベースバンドの、間隔を空けた、位相変調された送信ユニット識別子に対応する複素数値のセットを含むことができる。処理サブシステムは、各候補送信ユニット識別子の相関度データを生成することができる。相関度データがすべての送信ユニット識別子にわたって最高のピーク値を有する送信ユニット識別子を、復号された送信ユニット識別子として選択することができる。送信ユニット識別子がそれぞれのCCKコードを含む場合、処理サブシステムは、高速ウォルシュ変換演算を使用して、調整されたサンプリングデータとテンプレートデータとを相互相関させることができる高速ウォルシュ変換ユニットを含むことができる。
【0063】
これらの実施形態では、相互相関は、好ましくは、時間領域での点ごとの乗算および加算を含む。
【0064】
いくつかの実施形態は、サンプリングデータを調整するのではなく、サンプリングデータを調整されたテンプレートデータと相互相関させる前に、ドップラー誘起位相偏移に基づいてテンプレートデータを回転させることができる。ただし、これはあまり効率的ではない。
【0065】
到来時刻は、テンプレートデータとサンプリングデータとの相互相関から決定することができる。これは、スライディング・エネルギー・ウィンドウから決定される到来時刻を置き換えるか、または改善するために使用することができる。
【0066】
信号の到来時刻は、復号された送信ユニット識別子の相関度データのピークの時間的位置から決定することができる。相関度データのピークは、サンプリングレートまたはチップレートよりも細かい時間分解能で決定することができる。ピーク検出器は、経時的な相関度データの導関数を使用して、サンプリングレートよりも細かい時間分解能でピークの位置を決定することができる。受信ユニットは、付加的に、ピークの位置を使用して、受信機における信号の到来時刻を決定することができる。
【0067】
好ましい実施形態セットでは、ピーク検出器は、3つの連続するサンプル点にまたがるスライディングウィンドウに基づいてピークを識別することができる。相関度データの各点において、その点の前の勾配およびその点の後の勾配を使用して、ピークを識別することができる。これらの勾配は、好ましくは、勾配のそれぞれの大きさに基づいてピークの位置を推定するためにも使用される。ピークの検出には、閾値の最小値を適用することもできる。また、ピーク検出では、条件を満たすために相関関数の二次導関数が必要になる場合がある。これは、これにより、ノイズからピークをさらにより適切に分離することが可能になり得るためである。
【0068】
1つの実施形態セットでは、処理サブシステムは、送信ユニット識別子の識別部分内で、経時的にサンプリングデータの位相の導関数を計算することにより、ドップラー誘起位相偏移を決定する。
【0069】
これにより、送信ユニット識別子内に参照シンボル(プリアンブルなど)を含める必要を回避することができ、それゆえ、送信の帯域幅効率が向上する。これは、帯域幅が極端に制限され、より短い伝送が有益である音響伝送では特に重要である。より短い伝送は、占有するチャネル容量がより少なく、マルチパス干渉を起こしにくく、持続時間にわたって(変動するドップラーシフトではなく)一定のドップラーシフトのみを経験する可能性が高くなる。
【0070】
処理サブシステムは、サンプリングデータの送信ユニット識別子保持部分内のサンプルの1つまたは複数のまたはすべての連続するペアの位相導関数を計算することができる。
【0071】
ドップラーシフトは、(送信の持続時間にわたって移動受信ユニットの相対移動が一定であると仮定すると)時間の経過に伴う送信信号の位相の線形偏差として特性化されるため、送信ユニット識別子内の同じチップまたはシンボルの連続した複素IQデータサンプルの位相導関数を使用して、ドップラー誘起位相歪みを推定することができる。
【0072】
好ましくは、ドップラー誘起位相偏移は、送信ユニット識別子保持部分内のサンプルのサブセットから計算される位相導関数から決定される。サブセットは、送信ユニット識別子内のコーディング誘起位相シフトの影響を受けるサンプルまたは微分値をフィルタリング除外することによって取得することができる。サブセットは、外れ値を除去するために位相微分値をフィルタリングすることにより取得することができる。
【0073】
位相微分値のフィルタリングは、位相微分値を昇順でソートし、例えば、四分位範囲内の値など、中央の分数を保持することによって実行することができる。これにより、コード化された値が異なる2つのチップにわたる連続したサンプルから生じる大きい位相微分値を、ドップラー誘起位相偏移の決定が実行される前にフィルタリング除外することができる。
【0074】
位相導関数(オプションでフィルタリング後の)を平均して、送信ユニット識別子保持部分にわたるドップラー誘起位相偏移の割合を推定することができる。
【0075】
処理サブシステムは、位相微分値を使用して、送信ユニット識別子の復号において調整および/または使用すべき、サンプリングデータのサンプルを選択することができる。処理サブシステムは、位相微分値を使用して、コーディング誘起位相遷移および/または周囲のノイズによって引き起こされる位相変動の影響が少ないサンプル(例えば、送信ユニット識別子の各チップからの1つのサンプル)を選択することができる。
【0076】
いくつかの実施形態では、サンプリングデータの大きさの導関数を使用して、ドップラー誘起位相偏移に基づく上記調整が実行されるサンプリングデータのサンプルを選択することができる。大きさデータの導関数を位相微分値と組み合わせて使用して、チップ遷移において発生する不規則な位相または振幅値など、トランスデューサ応答の不規則性の影響をほとんど受けないサンプリングデータのサンプルを選択することができる。
【0077】
トランスデューサによって生成される信号の振幅は、2つの連続するチップにわたるコーディングに起因して発生する位相変化中に抑制される可能性があるため、それらの事例において発生するサンプルの位相値は信頼できない場合がある。したがって、大きさデータの導関数が閾値を上回る位置にあるサンプルを削除することによって、サンプリングデータをフィルタリングすることができる。
【0078】
オプションで、サンプリングデータよりも高い時間分解能で位相の導関数を取得することができる。これは、サンプリングデータが最初のサンプリングデータからダウンサンプリングされている場合に可能である。位相の導関数は、このとき、ダウンサンプリングの前の、最初のサンプリングデータに基づいて決定することができる。
【0079】
サンプリングデータ、またはサンプルのサブセットは、ドップラー誘起位相偏移に基づいてサンプルの回転を戻すことにより調整されることが好ましい。代替的に、テンプレートデータが回転されてもよいが、これはあまり好ましくない。
【0080】
いくつかの実施形態では、処理サブシステムは、調整されたサンプリングデータを分析して、調整されたサンプリングデータ内のドップラー誘起位相偏移のさらなる推定値を決定することができる。ドップラー誘起位相偏移のさらなる推定値を使用して、調整されたサンプリングデータ内の1つまたは複数の位相シフトを変更することにより、調整されたサンプリングデータをさらに調整することができる。調整されたサンプリングデータを使用してドップラー誘起位相偏移の第2の推定を実行することは、時間導関数のノイズの性質に起因してドップラー誘起位相偏移の初期推定が不正確になる可能性があるため、有益であり得る。残りのドップラー誘起位相偏移の追加の推定値を計算し、そのさらなる推定値に基づいて、調整されたサンプリングデータをさらに調整することによって、ドップラー誘起位相歪みをさらに除去することができる。処理サブシステムは、調整されたサンプリングデータから1つまたは複数のコーディング誘起位相シフトを除去することにより、ドップラー誘起位相偏移のさらなる推定値を計算することができる。処理サブシステムは、次に、たとえば、線形回帰演算を実行して勾配を決定することによって、結果のデータ内の線形位相偏移を特性化することができる。コーディング誘起位相成分は、すべての位相値が幅pi/2の範囲(たとえば、0~π/2の範囲)内になるまで、調整されたサンプリングデータの各位相値からπ/2ラジアンの整数倍を減算することによって、調整されたサンプリングデータから除去することができる。この減算プロセスは、コーディング誘起位相ジャンプをすべて除去し、残りのドップラー誘起位相偏移のみを残す。
【0081】
1つの実施形態セットでは、処理サブシステムは、サンプリングデータを分析して、複数の送信ユニット識別子テンプレートの各々について、サンプリングデータの送信ユニット識別子保持部分内の位相偏移を決定する。言い換えれば、複数の送信ユニット識別子の各々について、処理サブシステムは、特定の送信ユニット識別子が受信されたと仮定することができ、この仮定に基づいて、コーディングに起因しない位相偏移を推定することができる。処理サブシステムは、次に、複数の送信ユニット識別子の各々について位相偏移推定値の品質をテストし、品質基準を満たさない送信ユニット識別子をフィルタリングすることができる。この手法はより多くの処理能力を必要とする可能性があるが、位相基準シンボルを送信ユニット識別子に含める必要なく実行することができ、それによって、限られた帯域幅を効率的に使用することができる。
【0082】
位相偏移は、送信ユニット識別子保持部分内のサンプルおよびそれぞれの送信ユニット識別子テンプレートに対してサンプルごとの乗算演算を実行することによって決定することができる。乗算演算は、サンプルごとの乗算を実行する前に、たとえば、送信ユニット識別子テンプレートなどの、入力の1つの複素共役をとり得る。送信ユニット識別子保持部分のすべてのサンプルが乗算され得るか、またはサブセットのみが乗算され得る。サンプルごとの乗算演算は、テンプレートごとに1回実行されてもよく、または、たとえば、サンプリングデータ内の送信ユニット識別子の時間的位置が精密にわからない場合など、異なる時間オフセットで複数回実行されてもよい。正しい送信ユニット識別子の場合、この乗算演算は、コーディングに起因するすべての位相シフトを除去し、ドップラーシフトに起因する位相偏移のみ(または主にこれを含む位相偏移)を残す。(一致しない送信ユニット識別子の場合、位相偏移は、コーディングシフトとドップラーシフトとの組み合わせに起因する可能性がある。)処理サブシステムは、サンプルごとの乗算演算の出力から、たとえば線形回帰によって勾配情報を決定することができ、勾配情報から位相偏移を決定することができる。処理サブシステムは、サンプルごとの乗算演算の出力の相関係数、標準偏差、分散、または一貫性の他の測度が閾値を上回る1つまたは複数の送信ユニット識別子をフィルタリング除外することができる。
【0083】
いくつかの実施形態について、フィルタリング後に送信ユニット識別子が1つだけ残っている場合、送信ユニット識別子は復号されている。フィルタリング後に複数の送信ユニット識別子が残っている場合、好ましくは、複数の送信ユニット識別子の送信ユニット識別子ごとに、それぞれの送信ユニット識別子テンプレート(すなわち、テンプレートデータ)は、その送信ユニット識別子のそれぞれの決定された(ドップラー誘起)位相偏移に依存する量だけ、テンプレート内で1つまたは複数の位相シフトを変更するように調整される。これは、それぞれの位相偏移推定値に従ってサンプルを回転させることで実行することができる。次いで、調整された各テンプレートを、サンプリングデータと相互相関させることができ、調整されたすべてのテンプレートのうち、最高の相関ピークを有するテンプレートを識別することができる。このようにして、送信ユニット識別子を(識別されたテンプレートに対応する識別子であるとして)復号することができる。
【0084】
いくつかの実施形態では、送信ユニット識別子保持部分内のサンプリングデータと、複数の送信ユニット識別子テンプレートの各々との間で、好ましくはすべての送信ユニット識別子に対して初期相互相関動作を実行することができる。これは、任意の位相偏移が推定される前に行うことができる。相互相関度が閾値を超えない任意の1つまたは複数の送信ユニット識別子テンプレートは、残りの複数の送信ユニット識別子テンプレートの位相偏移を推定する前に、フィルタリング除外することができる。この初期の粗いフィルタリングは、いくつかのテンプレートを削除することにより、復号プロセスをより効率的にすることができる。このフィルタリングはまた、サンプルごとの乗算演算の位置整合情報を提供することもできる。相互相関演算は、特定の時間的位置整合において、1つの正しく一致した送信ユニット識別子テンプレートのコーディング誘起位相ジャンプを除去する役割を果たし、その時間位置における相関度ピークをもたらす。ただし、この初期相関データに基づいて、送信された送信ユニット識別子を直接復号することは、ドップラーシフトが存在する可能性があるため、信頼でき得る。
【0085】
前述のように、到来時刻はエネルギーウィンドウから決定することができる。しかしながら、到来時刻は上記初期相互相関操作から、またはその後の調整されたテンプレートとの相互相関から決定されてもよい。
【0086】
一部の実施形態では、テンプレートとの各相互相関の前に、それぞれの決定された(ドップラー誘起)位相偏移に基づいて、サンプリングデータを調整することができる。これは、テンプレートを調整する代わりに実行することができる。
【0087】
いくつかの実施形態では、複数の送信ユニット識別子テンプレートの各々に対するそれぞれのドップラー誘起位相偏移は、たとえば、線形回帰を実行する前にいくつかの値を破棄することによって、サンプルごとの乗算演算の出力の値のサブセットから決定することができる。サンプルごとの乗算演算データの出力の値の大きさを使用して、各テンプレートについて、ドップラー誘起位相偏移の推定に使用する出力の値を決定することができる。たとえば、処理サブシステムは、合計されるときに値のいずれのサブセットがより高い値を有するかに応じて、出力のすべての偶数でインデックス付けされた値またはすべての奇数でインデックス付けされた値を選択することができる。これにより、送信ユニット識別子テンプレートと正確に位置合わせされたサンプルのみが使用されることを保証することができる。
【0088】
いくつかの実施形態では、処理サブシステムは、それぞれのドップラー誘起位相偏移を決定する前に、所定のサンプルインデックス位置に対応する、サンプルごとの乗算演算の出力の値を削除することができる。これにより、結果の品質を向上させるために、コーディング誘起位相遷移の影響を受ける可能性があることがわかっている位置の値を除外することができる。所定のサンプルインデックス位置は、特定の送信ユニット識別子テンプレートに依存し得る。これは、各々の基になるバイナリ値が異なることに起因して、テンプレート間で位相遷移の位置が異なるためである。
【0089】
本明細書では、ドップラー誘起位相偏移は一般に線形として説明されているが(移動ユニットの任意の相対移動が、送信ユニット識別子送信の持続時間にわたって一定になるという前提で)、一部の実施形態では、非線形ドップラー誘起位相偏移を決定し、使用して、テンプレートデータまたはサンプリングデータを調整することができることが諒解されよう。これは、例えば、移動受信ユニットが加速している、または非線形軌道に追従していることがわかっている場合に関連し得る。このような場合、線形回帰は、二次回帰、指数回帰、または任意の他の適切な分析に置き換えられ得る。
【0090】
本明細書に記載される任意の態様または実施形態の特徴は、必要に応じて、本明細書に記載されるその他の態様または実施形態に適用され得る。異なる実施形態または実施形態セットが参照される場合、これらは必ずしも個別のものではなく、重複してもよいことを理解されたい。
【0091】
本発明のいくつかの実施形態を、添付の図面を参照して例としてのみ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【
図1】本発明を具現化する測位システムの斜視図である。
【
図2】測位システムで使用するための静止送信ユニットおよび移動受信ユニットの概略図である。
【
図3】移動受信ユニット内の機能ユニットを示す概略図である。
【
図4】いくつかの実施形態における静止送信ユニットによって送信されるシグネチャのフェーザ図である。
【
図5】いくつかの実施形態における測位システムのCCKパケット検出器の動作を示すグラフを示す図である。
【
図6】いくつかの実施形態における測位システムで使用される3点ピーク検出アルゴリズムを示すグラフを示す図である。
【
図7】測位システムの第1の実施形態で使用される非コヒーレントCCKコード決定モジュールの機能ユニットを示す概略図である。
【
図9】測位システムの第2の実施形態で使用される非コヒーレントCCKコード決定モジュールの動作を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0093】
図1は、ショッピングモール内の買い物客の位置を特定するために、たとえばショッピングモールで使用することができる測位システムの一部を示している。無論、これは単なる一例の環境であり、測位システムは倉庫、病院、家庭、車両などでも使用することができる。
【0094】
図1は部屋1を示し、その壁には4つの静止送信ユニット2、3、4、5が取り付けられている。部屋にいる人6が移動受信ユニット7を担持している。ネットワークケーブル8が、各送信ユニット2、3、4、5を、通常は別の部屋または別の建物にあるサーバ9に接続する。これらの構成要素は、協働して、部屋1内の移動受信ユニット7の3次元位置を推定することができる測位システムを提供する。実際には、システムは、建物または一連の部屋全体に設置された同様の送信ユニットと、人、動物、車両、ロボット、在庫、機器などに取り付けられた、または組み込まれた複数の同様の移動受信ユニットを備えている場合がある。
【0095】
図2は、送信ユニット2、3、4、5の代表的な1つと、移動受信ユニット7とを示している。各送信ユニット2、3、4、5は、それぞれの超音波サウンダ201と、超音波トランスデューサ201に超音波信号を伝送させるためのコントローラ202と、送信ユニットに電力を供給するためのバッテリ203とを有する。移動受信ユニット7は、送信ユニット2、3、4、5から超音波信号を受信することができるマイクロフォン204と、受信信号をサンプリングおよび処理するためのコントローラ205と、移動受信ユニット7に電力を供給するためのバッテリ207とを有する。送信ユニット2、3、4、5、および移動受信ユニット7は、無線送受信機、有線ネットワークインターフェース、表示画面、ボタンなどのさらなる標準的な電子構成要素を有してもよい。
【0096】
コントローラ202、205は、1つまたは複数のプロセッサ、DSP、ASICおよび/またはFPGAを含んでもよい。それらは、データを記憶するための、および/またはプロセッサもしくはDSPによって実行されるソフトウェア命令を記憶するためのメモリを含んでもよい。それらは、発振器、ADC、DAC、RAM、フラッシュメモリなどを含む、任意の他の適切なアナログまたはデジタル構成要素を含んでもよい。
【0097】
ここでは、送信ユニット2、3、4、5は静止しているものとして示されているが、他の実施形態では、それらは移動可能であってもよく、例えば、送信ユニットのうちの1つまたは複数は、それぞれのユーザが保持する携帯電話またはデバイスであってもよいことが諒解されよう。
【0098】
使用中、サーバ9は、各送信ユニット2、3、4、5に、その送信ユニットに固有のシグネチャを間隔をおいて送信させる。(大規模な展開では、シグネチャは地域内でのみ一意であってもよく、システム全体でシグネチャを再利用する場合は、同一のシグネチャを区別するために追加データを使用することが好ましいことが理解されよう。)各シグネチャは、超音波搬送波、たとえば、20kHzまたは40kHzの搬送波上に符号化され、64個のQPSK符号化相補型符号変調(CCK)コードから成るセットのうちのそれぞれのコードを含む。シグネチャは、好ましくは同じ超音波搬送波上に同じくQPSK符号化された、プリアンブルおよび/またはデータ内容などの1つまたは複数の追加要素をも有する、より長い送信に含まれてもよい。
【0099】
各CCKコードは8つの複合チップから成り、各複合チップは4つの可能なQPSKシンボルのうちの1つとして符号化されている。
【0100】
CCKコードは、スペクトラム拡散無線通信システムから知られる。コヒーレント無線システムで使用する場合、追加の2ビットの情報を各CCKコードの直交位相において符号化することができ、8ビットのデータ(d7…d0)を各コードによって符号化することが可能であり(すなわち、256の異なるチッピングシーケンス)、d0は、最下位ビットであり、時間的に最初のものである。しかしながら、本超音波システムでは、移動受信ユニット7は、受信CCKコードの位相基準を有さず、それにより、一意のシグネチャのセットが64に制限される。
【0101】
64個の可能なシグネチャの各々は、以下のように、それぞれのCCKコードCを定義する異なる8ビット文字列d0,…,d7に対応する。
【0102】
【数1】
ここで、位相パラメータφ
1…φ
4が、以下のスキームを使用してデータビットから位相パラメータが取得される。
【0103】
(d1,d0)→φ1、(d3,d2)→φ2、(d5,d4)→φ3、(d7,d6)→φ4。
【0104】
各チップは、複合QPSKビットペアである。コードは、最上位ビットが最初に送信され、結果、チップ
【0105】
【0106】
この例示的な実施形態では、CCKチップレートは500チップ/秒であり、これは、各CCKコードが16msの持続時間を有することを意味する。各CCKコードは20kHz音響搬送波信号上に変調され、それぞれの送信ユニット2、3、4、5によって間隔を空けて送信される。無論、他のレートも可能である。
【0107】
移動受信ユニット7における音響サンプリングレートは、この例では、2000サンプル/秒であり、これは、各チップが4倍オーバーサンプリングされることを意味する。測位システムの基本時間分解能は2ミリ秒であり、これは約68cm(=0.002秒x空気中の音速、340m/s)の空間分解能に相当する。ただし、以下で説明する手法を使用すると、はるかに細かい時間分解能を実現することができる。
【0108】
無論、他の実施形態では、他のチップレートおよびサンプリングレートが使用されてもよい。
【0109】
特に、64個を超える送信ユニットを有する実施形態では、移動受信ユニット7が異なる送信ユニット2、3、4、5からの同一のシグネチャを区別することができるようにする追加の情報を送信することが望ましい場合がある。たとえば、短距離RF信号、または1つまたは複数の送信ユニット2、3、4、5によって送信される超音波信号内に符号化されている追加のデータにより、CCKコードを、曖昧さをなくして現場の種々の場所で再利用することができる。
【0110】
移動受信ユニット7は、受信超音波信号を検出および復調して、受信ユニット7の可聴範囲内で送信ユニット2、3、4、5によって送信されたCCKコードを識別しようと試みる。
【0111】
受信および復調される各CCKコードについて、コードを送信したそれぞれの送信ユニット2、3、4、5のアイデンティティを決定することができる。
【0112】
受信ユニット7は、好ましくは、送信ユニット2、3、4、5と同期され、したがって、受信するすべてのシグネチャについての飛行時間(TOF)も計算することができる。既知の送信機位置からの3つ以上のTOF測定値を組み合わせることにより、既知の三辺測量または多辺測量の原理を使用して、移動受信ユニット7の位置を決定することができる。
【0113】
受信ユニット7が同期化されていない場合でも、飛行時間差(TDOF)法を使用してその位置を決定することができる。ただし、この場合、4つ以上の送信機位置が必要である。
【0114】
位置決定計算は、移動受信ユニット7で実行されてもよく、または、受信ユニット7が、タイミング情報または距離情報を含む受信信号に関する情報を、計算の一部または全部を実行することができるサーバ9に送信してもよい。
【0115】
ドップラーシフトが、移動受信ユニット7が送信ユニット2、3、4、5の1つに近づきまたは離れるたびに発生する。
【0116】
ドップラーシフトによる周波数の変化は、以下によって与えられ、
【0117】
【数3】
、
ここで、vは、移動受信ユニット7の速度の、送信ユニット2、3、4、5に向かう方向または離れる方向の成分であり、cは、空気中の波の速度であり、fは、送信ユニットから放出される信号の周波数である。正のvは、送信ユニット2、3、4、5に向かう移動受信ユニット7の動きを表す。
【0118】
空気中の音速の比較的低い値(約340m/s)は、さらに低速の動きを引き起こして、送信信号の周波数シフトを相対的に大きくする。例として、移動受信ユニット7を担持している人6が送信ユニット2、3、4、5の1つに向かって毎秒1.5メートルの速さで歩く場合、20kHzの音響信号は約90Hzの周波数上昇を受ける。
【0119】
QPSK復号器は、動きが誘起する位相変化とCCKコーディングが誘起する位相変化とを区別することができる必要がある。20kHzの搬送周波数では、波長は1.7cmである。QPSK符号化に起因する最小位相変化は90度であるため、QPSK復号器は、移動受信ユニット7が送信機に向かってまたは送信機から離れて動くとき、QPSK符号化による位相シフトと、4 mm(波長の1/4に対応する)以上の経路長の変化に起因するドップラー誘起位相シフトとを確実に区別することができない。
【0120】
したがって、このシステムは、ドップラーシフト補償を使用して、送信CCKコードの復号の正確度および測位アルゴリズムの正確度を向上させる。
【0121】
ドップラーシフト補償メカニズムは、ドップラーシフトを補償して、受信CCKシグネチャの正確な復号、および、移動受信ユニット7におけるCCKシグネチャの到来時刻の決定を可能にする。ただし、ドップラーシフトの測定値を出力することもできる。この測定値を使用して、移動受信ユニット7の速さまたは速度に関する情報を決定することができる。この追加情報は、受信ユニット7の位置推定または追跡を改善するために、サーバ9または移動受信ユニット7によって使用され得る。
【0122】
ドップラーシフトが受信信号の位相を変化させるため、移動受信ユニット7は、搬送波位相を確実に復元することができず、コヒーレント検出方法を使用することができない。したがって、非同期検出方法が使用される。
【0123】
ドップラー補償を組み込んだいくつかの代替的な非同期検出方法は、以下の例示的な実施形態で詳細に説明される。各方法は、それぞれの実施形態において使用され、移動受信ユニット7および/またはサーバ9内で実施することができる。本明細書では、処理ステップは受信ユニット7によって実行されるものとして説明されているが、いくつかの実施形態では、これらのステップは代わりに、適切な場合にサーバ9によって全体的または部分的に実行されてもよいことを理解されたい。中間結果は、無線リンクなどの任意の適切な手段によって受信ユニット7とサーバ9との間で通信することができる。
【0124】
図3は、移動受信ユニット7の一般的な構造を示している。これは、以下で説明するすべてのドップラー補償方法に共通である。
【0125】
受信された超音波エネルギーは、最初に直交復調器301を通過し、直交復調器301は超音波信号をダウンコンバートしてベースバンド信号にし、同相サンプル302および直交位相サンプル303を取得する。
【0126】
ダウンコンバージョンは、受信した超音波エネルギーを、局部発振器304からのローカルに生成された20kHz信号の、一方が他方に対して90度遅延された2つのコピーと周波数混合することによって実現される。2つの周波数混合信号は、それぞれのローパスフィルタ305を通過し、ローパスフィルタ305は、混合動作から生じる高周波成分を除去する。
【0127】
結果として得られる同相成分302および直角位相成分303は、(通常、送信信号のチップレートの4倍に対応する2kHzにおける)サンプリングのためにそれぞれのアナログ/デジタル変換器306を通過する。次に、同相サンプルと直交サンプルを307において合成して、一連の複素IQデータサンプルを生成する。
【0128】
複素IQデータサンプルは、サンプルごとにCCKパケット検出器308に供給される。CCKパケット検出器308は、受信信号中でCCKコードが存在する可能性がある時刻および場所を検出する。
【0129】
次に、CCKパケット検出器308は、関連するサンプルを非コヒーレントCCKコード決定モジュール309に出力する。CCKパケット検出器308はまた、到来時刻推定値を受信ユニット7および/またはサーバ9内の他のモジュールに渡すことができる。CCKコード決定モジュール309は、64個のCCKコードのいずれが受信CCKコードに最もよく一致するかを識別する。このシグネチャの知識に基づいて、送信元識別モジュール310は、受信信号を送信した送信ユニット2、3、4、5のアイデンティティを決定する。CCKコード決定モジュール309は、CCKコードのより正確な到来時刻推定値を決定することもでき、これは、三辺測量モジュール311などの他のモジュールに渡すことができる。
【0130】
三辺測量モジュール311は、このアイデンティティ、ならびにCCKパケット検出器308および/またはCCKコード決定モジュール309からの到来時刻情報を受信する。三辺測量モジュールは、タイミング情報を使用して、例えば、球面交差または放物面交差計算において、3つ以上の静止送信ユニット2、3、4、5に関してこのような情報を組み合わせることにより、部屋内の移動受信ユニット7の位置を決定することができる。無論、これらの計算は、他の実施形態では、サーバ9上などの移動受信ユニット7から外方で実行されてもよい。
【0131】
CCKパケット検出器308、CCKコード決定モジュール309、および送信元識別モジュール310によって実行される詳細な動作は、いずれのドップラー補償方法が使用されるかに応じて、実施形態間で異なる。ここで、様々な異なる例示的な方法のさらなる詳細を提供する。
【0132】
方法I
図4に示す一実施形態では、各シグネチャ保持送信が、2つのQPSKチップ401のプリアンブルで始まり、2つのチップ間の位相シフトはない。プリアンブルの直後にCCKコードが続く。CCKコードの最初の複合チップは、2つのプリアンブルチップから180°の位相角402においてプリアンブルに続く。移動受信機7には先行する位相基準がないため、受信機7はCCKコードの2つのプリアンブルチップおよび最初の複合チップからデータを復号することができず、ただし、送信の残りを復調するための位相基準を確立することに留意されたい。(その理由から、CCKコードの最初のチップはプリアンブルの一部と同様に考えることができ、最初の2つのチップは上記のように第1の参照シンボルおよび第2の参照シンボルであり、最初のCCKコードチップは第3の参照シンボルである。)
移動受信ユニット7は、プリアンブルチップを使用して、受信信号における、ドップラーシフトが誘起する位相歪みを特性化する。続いて、この特性化を使用して、受信CCKコード403のCCKチップの位相値を補正する。
【0133】
プリアンブルチップとCCKコードの最初のチップとの間の180°の位相差により、CCKパケット検出器308は、高い時間精度でCCKコード403の開始404を決定することができる。
【0134】
図5は、このドップラー補償の第1の方法を実施するとき、CCKパケット検出器308がどのように動作するかをより詳細に示している。
【0135】
長さ40サンプルのスライディングエネルギー検出ウィンドウ501が、入来する複合サンプル502を保持するバッファに適用される。(40サンプルは、以下で詳しく説明するように、4倍のオーバーサンプリングレートにおける送信信号の長さに相当する。)CCKパケット検出器308は、ウィンドウ内のサンプル値を合計することにより、40サンプルのローリング時間フレームにわたる総エネルギーを計算する。更新された総エネルギー値が、新しいサンプルが到来するたびに計算される。これらの総エネルギー値は、
図5の下部のグラフにプロットされている。8つのプリアンブルサンプルと32個のCCKサンプルから構成される送信ユニット2、3、4、または5のうちの1つからの信号全体にまたがるサンプルとウィンドウが完全に位置整合されるとき、総エネルギーが最大になると予測される。これは、プリアンブルサンプルおよびCCKコードサンプルのレベルが、周囲ノイズのレベルよりも高いと予測されるためである。
【0136】
バックグラウンド・ノイズ・レベルが比較的低いと仮定したとき、プリアンブルサンプルおよびCCKコードサンプルを含む信号が40サンプルエネルギー検出ウィンドウ501に入り始めると、40サンプルにわたって測定される総エネルギーが上昇し503、すべてのプリアンブルサンプルおよびCCKサンプルがエネルギー検出ウィンドウ501に入るとき、最終的にピーク504に達する。これは
図5に示されている。次に、CCKコードサンプルがエネルギー検出ウィンドウ501から外部にシフトし、ノイズのみを含む後で受信されたサンプルがエネルギー検出ウィンドウ501内にシフトされるにつれて、総エネルギーが低下し始める505。すべてのプリアンブルサンプルおよびCCKサンプルがエネルギー検出ウィンドウ501から外れてシフトすると、総エネルギーは、周囲ノイズレベルを反映するベースライン・エネルギー・レベル506に戻る。
【0137】
CCKパケット検出器308は、40サンプルウィンドウ内の総エネルギーが閾値レベルを超えると、肯定的な検出を出力する。
【0138】
サンプル間隔よりも細かい時間分解能において到来時刻の初期推定値を決定するために、
図5に示すように、3点ピーク検出方法を使用して総エネルギーピーク504を位置特定することができる。このサブ分解能の初期推定値は、以下で説明するように後で改良することができるが、たとえば、連続する到来時刻推定値を比較して閾値レベルを上回る変化を検出し、動きが検出された場合にのみサンプルの処理を続行する低パワー移動検出器を実装するために、それ自体で役立つ場合がある。これにより、移動受信ユニット7が静止しているとき、システムは電力を節約することができる。
【0139】
図6は、この方法を示している。
図6の上側のグラフ601は、ピーク値504を囲む、
図5の総エネルギープロットの部分507の拡大図を示している。3つのピーク検出器は、連続する3つのサンプル点にまたがるスライディングウィンドウを使用する。総エネルギーデータの各点について、点の直前の勾配603および点の直後の勾配604が計算される。これらの勾配は、ピークを識別し、また、勾配のそれぞれの大きさに基づいてピークの精密な位置を推定するために使用される。
図6の下側のグラフ602は、総エネルギーデータ内の点の各対の間の勾配をプロットしている。ゼロ交差点605の時間的位置は、サブ分解能精度で総エネルギーデータの対応するピーク504の時間推定値を提供する。この時間推定値は、関連する位置の送信機からの超音波送信の到来時刻の推定値として使用することができ、または、そのような推定値(たとえば、シグネチャ送信または送信のCCKコード部分の始まりまたは終わりの到来時刻)の計算に使用することができる。
【0140】
正確なピーク位置推定値は、サンプル期間
【0141】
【0142】
(例えば、0.0005秒)について、以下の3ピーク検出アルゴリズムを使用して取得することができる。
【0143】
1.各総エネルギーデータ点
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
2.
【0148】
【0149】
【0150】
3.ピークの精密なタイミングを
【0151】
【0152】
以下に説明するいくつかの他の実施形態では、プリアンブルチップはない。この場合、CCKパケット検出器308によって使用されるスライディングエネルギー検出ウィンドウは、単純に、CCKコードサンプルを検出するのに十分な長さである必要がある(CCKコードの後に追加データがない限り。この場合、適切な長さのウィンドウが使用される)。そのような実施形態では、CCKパケット検出器308は、チップレートの4倍でサンプリングされたCCKコードを検出するために、40ではなく32サンプルのウィンドウを使用することができる。
【0153】
変形実施形態では、CCKパケット検出器308は、各CCKチップの4つおきのサンプルをマスクする、すなわち、エネルギーウィンドウが入来するコードと完全に位置整合している場合、各チップの最後のサンプルにそれぞれ対応することができる8つの期間の信号の大きさを無視するエネルギーウィンドウを使用することができる。これにより、送信CCKコードがチップごと(すなわち4サンプルごと)に位相をシフトし得、この位相シフト中に、送信トランスデューサ201の応答時間に基づいて、信号の大きさを抑制することができるため、エネルギーウィンドウの一致の精度を向上させることができる。各チップの残りの3つのサンプルは、チップ内で、およびすべてのチップにわたってほぼ等しい大きさである必要がある。位相遷移を含む可能性のある期間をマスクすることにより、タイミングの正確度を向上させることができる。
【0154】
次いで、CCKパケット検出器308は、非コヒーレントCCKコード決定モジュール309に、総エネルギーピークに対応する時間ウィンドウに入った40個のサンプルを出力する。CCKパケット検出器308はまた、到来時刻情報を三辺測量モジュール311に渡すこともできる。
【0155】
図7は、この第1の補償方法による非コヒーレントCCKコード決定モジュール309の詳細な構造を示している。ここで、CCKコード決定モジュール309は、ドップラーシフト補償モジュール701および修正高速ウォルシュ変換演算ブロック702を使用して、受信CCKコードを識別する。
【0156】
ドップラーシフト補償モジュール701は、ドップラーシフト推定モジュール703、サンプル選択論理704、およびドップラー回転解除モジュール705を含む。
【0157】
ドップラーシフト推定モジュール703は、2つのプリアンブルチップ401およびCCKコードの第1のチップのサンプルを使用して、プリアンブルおよび第1のチップを含む12サンプルにわたる位相歪み率(ドップラーシフトによる)を計算する。超音波信号を送信する超音波トランスデューサ201は、送信の開始時にまだランプアップの過程にある可能性があるため、12個のサンプルのうちの最初のサンプルは使用されない。第8のサンプルおよび第9のサンプルも無視される。これは、これらのサンプルがプリアンブルとCCKコード403の最初のサンプルとの間の180°の位相遷移402にまたがっており、したがって、送信トランスデューサおよび受信トランスデューサが瞬間的な位相変化を実施することができないために、遷移段階にある可能性が非常に高いためである。一部の実施形態では、第2のCCKチップが第1のCCKチップと同じでない場合、これは遷移状態にある可能性があるため、第12のサンプルも無視され得る。
【0158】
ドップラーシフト推定モジュール703は、第1のプリアンブルチップの第2のサンプル、第3のサンプルおよび第4のサンプルに、第1の送信されたプリアンブルチップの既知の固定値の複素共役を乗算する。ドップラーシフト補償モジュール703は、さらに、第2のプリアンブルチップの第1のサンプル、第2のサンプルおよび第3のサンプルに第2のプリアンブルチップの複素共役を乗算し、第1のCCKチップの第2のチップ、第3のチップおよび第4のチップに(64個すべてのCCKコードについて、プリアンブルに対して固定180°位相関係を有する)送信された第1のCCKチップの複素共役を乗算する。既知のチップ値による複素共役乗算のプロセスは、残りの位相成分にわたる任意の変化がドップラーシフトに起因するように、これらのサンプルからQPSKシンボル変調に起因する位相成分を除去するのに役立つ。
【0159】
6つのプリアンブルサンプルと最初のCCKコードの3つのサンプルに送信値の複素共役を乗算した後、ドップラーシフト推定モジュール703は、各複素共役乗算サンプルに対して位相アンラッピングを実行し、不連続な位相空間(-πto-π)から連続する位相までの線形位相歪み傾向を特性化する。位相アンラップは、位相ラッピングに起因する約2πラジアンの位相降下を受けるサンプルに2πラジアンを加算することによって実施することができる。結果として得られる位相成分は、ドップラーシフトによる経時的な線形位相変化を特性化する。
【0160】
これらの初期サンプルの位相値を使用して、ドップラーシフト推定モジュール703は、最初の12サンプル(すでに説明したようにそのうち3つは無視される)の経時的な線形位相歪み傾向に基づいて、受信信号内のドップラーシフト周波数ωdを推定する。複数のサンプルにわたる線形位相歪みの変化の割合は、サンプルあたりのラジアン単位のドップラー速度を表す。たとえば、第2のサンプルから第12のサンプルまでの位相の変化がφp(すなわち、11サンプルの時間ウィンドウ)である場合、ドップラーシフトの推定値はサンプルあたりφp/11ラジアンによって与えられる。
【0161】
ドップラーシフトがCCKコードの送信期間全体を通じて一定であると仮定すると、2つのプリアンブルチップおよび最初のCCKチップにわたって計算される、ドップラーシフトに起因する位相歪みは線形に外挿することができ、対応するレートでサンプルを回転解除することによって、CCKコード全体を補正するために使用することができる。
【0162】
CCKコードを送信する超音波トランスデューサ201およびそれを受信するマイクロフォン204は両方とも連続CCKチップ間の位相遷移への応答が遅い場合があるため、ドップラー補償モジュール701はサンプル選択論理704を使用して、すべてのチップにわたって、4つのサンプル位置から、送信ユニットにおけるCCKチップの既知の変調位相に近い安定した位相値を有する可能性が最も高い1つのサンプル位置をインテリジェントに選択する。たとえば、すべてのチップの第3のサンプルが選択され得る。この選択されたサンプルは、チップ全体を代表するものと見なされ、回転解除動作に使用される(すなわち、サンプルセットは4倍にデシメートされる)。
【0163】
サンプル選択論理704は、ドップラーシフト推定モジュール703から取得されるドップラー速度推定値を使用して、受信信号の最初の12サンプル(2つのプリアンブルチップおよび最初のCCKチップにまたがる)のドップラー補償を最初に実行する。サンプル選択論理は、その後、チップ内の第1のサンプル位置、第2のサンプル位置、第3のサンプル位置、第4のサンプル位置の各々について、ドップラー補正されたサンプルの同相成分の、3つのチップにわたる平均を計算する。最も高い平均値を持つサンプル位置が、CCKコード全体にわたって使用するのに最適なサンプル位置として選択される。したがって、各CCKチップの最適なサンプル位置のサンプル(たとえば、すべてのチップの第3のサンプル)が、ドップラー回転解除モジュール705への入力として選択される。
【0164】
次に、ドップラー回転解除モジュール705は、ドップラーシフト推定値を使用して、ドップラー誘起位相歪みについてCCKコード全体にまたがる選択された8つのサンプルを補償する。この位相補償は、選択したサンプルを、それぞれのサンプルの瞬間におけるドップラーシフトに起因する投影位相歪みに対応する位相値だけ回転させることによって実現される。
【0165】
ドップラー補償されたサンプルは、次のように表現することができる。
【0166】
【数11】
ここで、nは、サンプル選択論理によって選択された8つのサンプルの各々のサンプル位置インデックス(たとえば、インデックス3、7、11、15、19など)であり、ω
dは、サンプルあたりのラジアン単位のドップラー速度である。
【0167】
上記の実施形態を、数値例を使用して以下にさらに説明する。この例では、8つのプリアンブルサンプルおよび32個のCCKコードサンプルを含む40サンプルは、サンプルインデックス0において始まり、サンプルインデックス39において終わる。第1のプリアンブルチップの第2のサンプルと第2のプリアンブルチップの第3のサンプル間の位相の変化がφラジアンであると仮定すると、2つのプリアンブルチップを使用して測定されるドップラー速度はサンプルあたりφ/6ラジアンである。サンプルインデックスn、nは8~39、におけるドップラーシフトに起因する外挿された位相変化はφ/6×nラジアンによって与えられる。ドップラー補償モジュールは、サンプル選択論理704によって選択された8つのサンプルの各々を、そのサンプルインデックスに対応する位相だけ回転させる。
【0168】
次に、8つのドップラー補償されたCCKコードサンプルは、復号のために修正高速ウォルシュ変換演算ブロック702に渡される。IEEE 802.11b仕様を実装する特定の無線受信機から、高速ウォルシュ変換処理技術が知られており、ここで、適切な修正を加えて使用することができる。高速ウォルシュ変換ブロック702は、64個の可能なCCKコードすべてを、調整された受信信号と効果的に同時に相互相関させる。64個の相互相関出力は最大モジュラスピッカ回路706に入力され、最大モジュラスピッカ回路706は、最大の相互相関度を見つけることにより、64個のCCKコードのいずれが(したがっていずれのシグネチャが)受信されたかを決定する。
【0169】
受信したシグネチャのアイデンティティに基づいて、移動受信ユニット7の送信元識別モジュール310は、受信信号を送信した送信ユニット2、3、4、5のアイデンティティを決定する。これは場合によっては、例えば、同じシグネチャが設備にわたって複数回使用されている場合に、潜在的な曖昧さを解決するために追加情報を使用することを含み得る。
【0170】
送信されたCCKコードが正常に識別されると、いくつかの実施形態は、その後、CCKパケット検出器308によって取得された初期到来時刻推定値を改善することができる。
【0171】
これを行うために、CCKパケット検出器308によって検出された32個のサンプルならびに2個の先行するサンプルおよび2個の後のサンプルである、受信信号の36個の記憶されているサンプルが回転解除される。次に、4つの時間位置、すなわち、CCKパケット検出器308によって識別されている(通常は非整数の)サブサンプル分解能到来時刻の前の2つの(整数値の)サンプル位置)、および、この到来時刻後の後の2つの(整数値の)サンプル位置において、回転解除された36個のサンプルと32個のサンプルCCKコードテンプレートとの内積を計算することにより、相互相関が実行される。(代替的に、既知のプリアンブルチップも含まれてもよく、それに応じて受信信号のサンプル数が増加し、CCKコードテンプレートは、プリアンブルをプリペンドされる。)
結果の4つの内積値には、真の最大値が発生する場所に関する情報が含まれ、これは、サブサンプル分解能において、上記のエネルギーウィンドウのピーク検出方法に対応するように、3点ピーク識別法を4つの相関値に適用することにより、正確に識別することができる。この正確なタイミング情報を使用して、CCKパケット検出器308を使用して取得した初期到来時刻情報を改良または置換することができる。
【0172】
受信モジュール7が同期クロックを有する場合、三辺測量モジュール311は、到来時刻情報から静止送信ユニット2、3、4、5と移動受信ユニット7との間の信号経路の長さを決定することができる。システムが同期化されていない場合、三辺測量モジュール311によって、到来時間差を使用して、例えば双曲面交差に基づいて位置情報を決定することができる。
【0173】
方法II
別の実施形態セットでは、CCKコードの前にプリアンブルチップは送信されない。代わりに、CCKコード内からの位相の導関数に基づいて、運動が誘起する位相歪みが推定される。
【0174】
ドップラー位相分析は極またはIQ(同相および直交)空間内で実行することができるが、この実施形態では、位相の導関数は、各チップサンプルの実数成分および虚数成分、ならびに、それらの離散時間導関数成分を使用して、IQ空間内で計算される。これは、以下の式を評価することにより行われる。
【0175】
【数12】
ここで、xおよびyは複素IQサンプルの実数部および虚数部であり、dxおよびdyは1サンプル期間などの固定期間にわたる複素IQサンプルの実数成分および虚数成分の変化である。
【0176】
これらの実施形態におけるCCKパケット検出器308は、候補CCKコードがいつ受信されたかを検出するために、長さが32サンプルであるエネルギー検出ウィンドウを使用する。
【0177】
CCKコード決定モジュール309は、検出ウィンドウ内の32個のCCKコードサンプルから31個の位相微分値dθを計算する。
【0178】
CCKコードは4倍にオーバーサンプリングされる。ドップラーシフトが存在しない場合、1つのチップ内の連続したサンプルの変調位相は同じであるため、サンプル間の位相差はほぼゼロになる。ただし、連続するサンプルにわたってほぼ一定の非ゼロ位相導関数がある場合、これはドップラーシフトによる位相偏移を示している。
【0179】
図8は、典型的な受信信号の経時的な位相の導関数のプロットを示している。平均位相微分値はゼロ未満であることがわかり、ドップラーシフトの存在を示している。
図8の3つの点801で発生するように、dθの値が大きいことは、QPSK符号化による隣接チップ間の位相遷移を示す。
【0180】
次に、この方法は、CCKコードの各チップ(たとえば、各チップからの第3のサンプル)を表す1つのサンプル位置を識別し、同時にまた、初期ドップラー速度推定値を取得する。これを行うために、最初に外れ値の位相微分値dθが評価される。外れ値は、隣接するCCKチップ値の変化、またはノイズの影響が大きいサンプルに起因する位相ジャンプを表している可能性がある。外れ値のフィルタリングは、31個の位相微分値を大きさの昇順でソートし、17個の最も中心のdθ値およびそれらのインデックスを保持することによって行われる。すなわち、第8の位置の値~第24の位置の値は、元のサンプルインデックスとともに保持される。次に、これら17個の保持されたdθ値を平均することにより、ドップラー速度の初期推定値が取得される。
【0181】
各チップを表すために使用するのに最適なサンプルインデックス位置が、その後、保持されている17個のdθ値のそれぞれのインデックスを、4を法とすることによって低減し、17個の4を法として低減されたインデックスの平均を計算することによって求められる。結果の平均インデックス値は、平均して、dθの変動が小さく、したがって、コーディングが誘起する位相変化の影響が少ない、各チップ内のサンプル位置を示す。得られた最適なサンプル位置に基づいて、CCKコードの各チップに対して1つの複素IQサンプルを選択することができる。
【0182】
いくつかの実施形態では、代表的なサンプル位置およびドップラーシフトの初期推定値を最適化するために、CCKコードサンプルの大きさの導関数を使用してサンプルをフィルタリングする。CCKコードサンプルの大きさrの時間導関数は、以下の式を使用して計算することができる。
【0183】
【数13】
32個のCCKコードサンプルから31個の大きさの微分値drが取得される。dr値はその大きさに従ってソートされ、16個の最小dr値のサンプルインデックスが4を法として低減され、平均される。このサンプル位置は、上記のdθから取得した値によって平均することができ、または、代替として使用することができる。その後、各チップ内の代表位置におけるdθ値から初期ドップラーシフトを推定することができる。送信機および受信機のトランスデューサの制限に起因して、信号の大きさは通常、隣接するチップ間の位相遷移の前後で変化し、高いdr値を除外すると、チップのペア間の遷移にあるために信頼できないサンプルが除外されるため、大きさに基づくフィルタリングが機能する。
【0184】
得られた最適なサンプル位置に従って選択された8つのサンプルは、その後、初期ドップラーシフト推定値を使用して回転解除される。
【0185】
このようにして、CCKコードのみを使用して、プリアンブルを必要とせずに、ドップラーシフト誘起位相歪みの初期特性化を実行することができる。プリアンブルのない伝送はより短くなり、使用するチャネル容量が少なくなる。しかしながら、いくつかの実施形態において、ドップラーシフト誘起位相歪みを決定するこの方法を、上述のプリアンブル方法と併せて使用して、ドップラーシフト補償の正確度をさらに改善することができる。
【0186】
複素IQサンプルが受信ユニット7における混合およびデシメーション動作によって取得される場合、信号がより高いサンプルレートのデータストリームとして利用可能であるとき、IQサンプルの微分データはデシメーションプロセスの前に計算されることが好ましい。したがって、混合およびデシメーションモジュールは、IQサンプルと、サンプルの位相および大きさの時間微分データの両方を出力することができる。
【0187】
ドップラーシフト誘起位相歪みの推定値を使用して、CCKチップから選択したサンプルを回転解除すると、通常、ドップラー歪みの大部分が除去される。ただし、時間導関数のノイズに起因して、通常、ドップラー歪みは完全には除去されない。したがって、回転解除されたサンプルはさらに処理されて、残留位相成分が除去される。これは、回転解除されたチップの位相を(不連続位相ドメインから連続位相ドメインに)アンラップし、異なる位相象限にある位相値のπ/2の整数倍を減算することによってCCKコーディングに関連する任意の位相ジャンプを削除することにより行われ、それによって、結果の位相がすべて範囲[0、π/2)内に入る。この範囲内の位相の変動は、その後、回転解除されたサンプルに依然として存在するドップラー歪みに起因するものとみなすことができる(これは、残留ドップラー歪みによる位相シフトが、各CCKチップの4つのサンプルにわたってπ/2ラジアン未満であると仮定している)。
【0188】
送信ユニット2、3、4または5と移動受信機7との間の任意の動きは、CCKコードの持続時間にわたって一定の速さを有すると仮定することができる。したがって、任意の残留位相ドリフトは、CCKコード識別の前に削除する必要がある残留ドップラー成分ωrを特性化する線形傾向の勾配で、サンプルインデックスとともに線形に変化する。したがって、移動受信ユニット7は、サンプルが全体としてωd+ωrによって回転解除されるように、ドップラー成分ωrを使用して、選択されたサンプルをさらに回転解除することにより、ドップラーシフト成分のより完全な除去を実行する。
【0189】
ドップラー補償されたサンプルは、次のように表現することができる。
【0190】
【数14】
ここで、nは、CCKコード決定モジュール309においてサンプル選択論理によって選択された8つのサンプルの各々のサンプル位置インデックスである。
【0191】
次いで、ドップラー補償されたサンプルは、CCKコードを識別するために、方法Iに関連して上述した高速ウォルシュ変換ブロック702と同一であってもよい、修正高速ウォルシュ変換ブロックを使用して復調される。
【0192】
方法Iで説明したように、初期到来時刻推定値は、オプションで、識別されたCCKコードとの相互相関によって改良または置換することができる。
【0193】
方法III
別の実施形態セットでは、プリアンブルは送信されない。代わりに、移動受信ユニット7の非コヒーレントCCKコード決定モジュール309は、最初に、受信信号を64個のCCKコードテンプレートの各々と(ドップラー補正を一切適用することなく)相互相関させ、その後、CCKコードテンプレートのサブセットを候補テンプレートとして識別し、その後、各候補CCKコードテンプレートに基づいてドップラーシフトを推定し、ドップラーシフトに対して候補コードを調整し、最後に正しいCCKコードを識別するためにドップラー調整されたCCKコードテンプレートのサブセットによってさらなる相互相関動作を実行するによって、送信CCKコードを識別するための包括的な検索手法を使用する。
【0194】
以下の説明では、41KHzの搬送波信号を想定しているが、この方法は決してこの周波数の搬送波に限定されるものではない。
【0195】
第1に、前述のCCKパケット検出器308と同様のCCKパケット検出器が、32サンプル長のエネルギー検出ウィンドウを適用することにより、受信信号内の候補CCKコードを識別する。
【0196】
第2に、識別された信号部分の周囲の受信サンプルが、64個のCCKコードテンプレートの各々と相互相関される。理論的には、これによって、特定の時間的整合で、1つの正しく一致したCCKコードテンプレートのCCK符号化に起因する位相ジャンプが完全に除去されるが、他の63個のCCKコード、または一致するCCKコードの異なる時間的オフセットについては除去されない。したがって、CCKコードの到来時刻に対応する時間位置に相関度のピークがあるはずである。
【0197】
64セットの相関度出力が生成され、ピーク相関度が識別される。所定の閾値を超えるピーク大きさを含む相関出力を生成するすべてのCCKコードテンプレートが選択される。選択したCCKコードテンプレートの各々について、受信信号とCCKコードテンプレートの複素共役との間でサンプルごとの乗算が実行され、受信信号のピーク大きさの位置に整合される。前の相互相関演算とは異なり、結果はサンプルインデックスにわたって合計されない。極空間の位相値が、結果のテンプレート乗算データ内の各サンプルインデックスにおいて計算される。計算された位相値は、不連続位相から連続位相へとアンラップされる。正しいコードについて、これらの位相値は、CCKコーディング自体ではなく、ドップラーシフトに起因する位相変化を表す。
【0198】
テンプレート乗算データの各セットについて、アンラップされる位相値の最良適合線が計算される。特定の閾値内を下回る標準偏差を有する位相データセットは保持される。
【0199】
1つのデータセットのみが保持される場合、CCKコードは復号されている。
【0200】
複数の保持されているデータセットがある場合、保持されているセットごとに、最良適合線の勾配を使用して、CCKテンプレートの各サンプルを、最良適合線から取得した対応する位相値だけ回転させることにより、対応するCCKテンプレートが調整される。次に、受信信号は、ドップラー補償されたCCKコードテンプレートのこのセットの各々と相互相関され、最高のピーク相関度をもたらすCCKコードが、送信CCKコードとして識別される。
【0201】
図9は、この包括的なCCKコード検索方法の流れ図を示している。この方法は、ドップラー補償の前に最初に相互相関を実行することとして特性化することができる。
図9のステップの一部またはすべては、非コヒーレントCCK決定モジュール309内で実施されてもよい。
【0202】
送信側の送信ユニット2、3、4または5は、4,100チップ/秒のチッピングレートにおいてそれぞれのCCKコードを送信する。CCKコードは、41 kHzの搬送波に変調される。
【0203】
ステップ901において、チップサンプルレートの2倍(8,200サンプル/秒)で、移動受信ユニット7により64個のCCKコードテンプレートが生成またはアクセスされる。これらは事前に計算されてもよい。
【0204】
ステップ902において、移動受信ユニット7によって受信された超音波が、搬送周波数の4倍、すなわち、164kS/s(キロサンプル/秒)でサンプリングされる。
【0205】
ステップ903において、混合-デシメーションが実行され、入来信号X(n)(搬送波周波数の4倍でサンプリングされる)が、各々が搬送波周波数に等しいサンプルレート(41kS/s)を有する4つのデータストリーム(X(4n),X(4n+1),X(4n+2),X(4n+3))にデシメートされる。複素IQデータストリームZ(n)が、移動受信ユニット7によって以下のように生成される。
【0206】
【数15】
したがって、複素IQデータも、搬送波周波数に等しいサンプルレートを有する。結果のIQデータストリームは相当にオーバーサンプリングされているため、さらなる帯域幅低減が適用される。この例では、5分の1のデシメーションにより、情報を失うことなくサンプルレートの低減が実現される。この結果として、8.2kS/sの複素IQデータストリームが生成される。したがって、IQ信号は4,100チップ/秒のチップレートの2倍でサンプリングされる。
【0207】
混合-デシメーションおよびそれに続く帯域幅低減の目的は、ソフトウェアを使用して、移動受信ユニット7が、変調された搬送波信号から直接IQデータを取得することができるようにすることである。変調信号をダウンコンバートするための従来の混合ハードウェアは必要ない。
【0208】
CCKパケット検出ステップ904が、サンプリングされた受信信号に長さ16サンプルのローリングエネルギー検出ウィンドウを適用して、受信CCKシンボルの近似発生を決定する。CCKパケット検出器は、所定の閾値を超える総サンプルエネルギーを有する受信信号の16個のサンプルを選択する。
【0209】
ステップ905において、CCKパケット検出器から選択された16個のIQデータサンプルが、64個のCCKテンプレートの各々と相互相関される。相互相関を実行するために、16個のサンプルの両側にゼロが詰められる。64セットの相関度データが生成される。
【0210】
ステップ906において、移動受信ユニット7は、設定閾値を超える少なくとも3つの連続する点の発生について、および、ピーク閾値を超えるピーク強度の値について、64セットの相関データの各々の強度値をチェックする。高いピークは、CCKテンプレートとの強い一致を示す。これらのテストを満たすテンプレートのみが選択され、位相分析に使用される。
【0211】
移動受信ユニット7は、テンプレート信号の長さを決定するために、強度が最大の点において、選択された相関データセットをチェックする。これはチップサンプルの位置整合に使用され、チップサンプルの位相変化を測定するために重要である。チップレートの2倍のサンプリングにより、8つの奇数または偶数のチップサンプルのうち少なくとも1つがCCKコードの単一の位相ブロック内に完全に収まることが保証される。
【0212】
ステップ907において、設定閾値を超える最大ピーク強度を生成する各テンプレートに対して、サンプリングデータは、テンプレートの複素共役と乗算されて、テンプレート乗算データのセットが生成される。
【0213】
テンプレート乗算データの各セットについて、テンプレート乗算データの16個のサンプルが、偶数サンプルおよび奇数サンプルの2つのブロックにデシメートされる。各ブロック内の8つのサンプルの大きさの合計が取得され、より高い大きさの合計を有するブロックが選択される。これは、これが受信信号とCCKコードテンプレートとのより良好な整合を示すためである。
【0214】
ドップラーシフトによって誘起される位相ラッピングに起因する位相分析の任意の問題を回避するために、テンプレート乗算データサンプルの位相値は、連続位相空間から不連続位相空間にマッピングされる。これは、テンプレート乗算データの選択された8つのサンプルに、平均位相値を乗算することによって実現される。この演算により、中央サンプルがほぼゼロの位相値に回転し、結果、任意のドップラー誘起位相変化がゼロ位相を中心に対称になる。
【0215】
各データセットについて、線形最良適合曲線が8つの位相値に適合される。この曲線は、ドップラー誘起歪みによって引き起こされる線形位相傾向を特性化する。線形最良適合曲線の勾配は、ドップラー速度をラジアン/秒単位で表す。
【0216】
ステップ908において、移動受信ユニット7は、生成されたすべての線形最良適合曲線を検査し、所定の閾値未満の標準偏差を有する線形最良適合曲線を有しないテンプレート乗算データの任意のセットをフィルタリング除外する。この目的は、ドップラーシフトに起因する位相歪みを最もよく特性化する線形最良適合曲線のセットを選択することである。
【0217】
ステップ909において、テンプレート乗算データの選択された各セットについて、そのデータセットの最良適合曲線を使用して、ドップラー誘起位相シフトについて、対応するCCKコードテンプレートを補正する。CCKコードテンプレートの8つのサンプルの各々は、線形最良適合曲線の勾配によって与えられるドップラー速度推定値を使用して取得される位相値だけ回転される。8つのドップラー補償されたテンプレートサンプルは、以下のように表現することができる。
【0218】
【数16】
ここで、n={0,1,2,3,4,5,6,7}であり、ω
dはラジアン/秒単位のドップラー速度である。
【0219】
(本明細書におけるすべての説明において、サンプルのインデックス付けは適切な方法でスケーリングされ得ることに留意されたい。サンプルインデックスは、任意の適切な方法で、例えば、移動受信ユニット7内のクロックまたはカウンタ値など、他の時間測度にマッピングすることができる。)
ステップ910において、ドップラー補償されたCCKコードテンプレートが、受信信号の選択された8つのサンプルと相互相関される。各相関出力のピーク強度が、ステップ911において、送信CCKコードを識別するために使用される。前述のように、3点ピーク検出方法を使用して、ピークの精密な到来時刻を決定することができる。
【0220】
したがって、受信CCKコードおよびその到来時刻が決定される。
【0221】
いくつかの実施形態では、64セットのテンプレート乗算データの1つまたは複数のサンプルが、位相値の線形最良適合曲線の計算から除外されてもよい。特定のサンプルの除外は、テンプレート乗算データのそれぞれのセットを生成するために使用されるCCKコードテンプレートに依存し得る。例えば、各CCKコーディング誘起位相ジャンプの直前のサンプルの位相値、および各CCKコーディング誘起位相ジャンプの直後のサンプルの位相値が除外されてもよい。テンプレート乗算データの残りのサンプルは保持される。この方法では、CCKコーディング誘起位相ジャンプの影響を最も大きく受けるサンプルを除外することができ、そのため、それらは、テンプレート乗算データの最良適合曲線の決定に寄与しない。
【0222】
本発明は、その1つまたは複数の特定の実施形態を説明することによって例示されているが、これらの実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲の範囲内で多くの変形および修正が可能であることは、当業者には理解されるであろう。