(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】プログラム細胞死リガンドに対する結合物およびその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20221128BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20221128BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20221128BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20221128BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221128BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221128BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
C07K16/28
C12N15/13 ZNA
C07K19/00
C07K16/46
A61K39/395 T
A61K39/395 U
A61P43/00 111
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2021538688
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(86)【国際出願番号】 CN2020078596
(87)【国際公開番号】W WO2020199860
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-06-30
(31)【優先権主張番号】201910258182.5
(32)【優先日】2019-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519184675
【氏名又は名称】▲華▼博生物医▲薬▼技▲術▼(上▲海▼)有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】于 ▲海▼佳
(72)【発明者】
【氏名】▲兪▼ 玲
(72)【発明者】
【氏名】蔡 明清
(72)【発明者】
【氏名】朱 向▲陽▼
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/005634(WO,A2)
【文献】国際公開第2018/195226(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/194496(WO,A2)
【文献】Frontiers in Pharmacology, 2017年,Vol.8, Article 561,p.1-15,doi: 10.3389/fphar.2017.00561
【文献】ONCOLOGY LETTERS, 2018年,Vol.16,p.157-166,DOI: 10.3892/ol.2018.8617
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
A61K 39/395
A61P 43/00
A61P 35/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体の重鎖可変領域が、以下の3つの相補性決定領域またはCDR:
配列番号3で示されるCDR1、
配列番号4で示されるCDR2、および
配列番号5で示されるCDR3
を含み、抗体の軽鎖可変領域が、以下の3つの相補性決定領域またはCDR:
配列番号6で示されるCDR1'、
アミノ酸配列がGISのCDR2'、および
配列番号7で示されるCDR3'
を含む、抗PD-L1抗体。
【請求項2】
前記抗体は
、キメラ抗体
またはヒト化抗体
であることを特徴とする請求項
1に記載の抗体。
【請求項3】
前記抗体の重鎖可変領域の配列は配列番号
1で示され、ならび
に、
前記抗体の軽鎖可変領域の配列は配列番号
2で示される
ことを特徴とする請求項
1に記載の抗体。
【請求項4】
前記抗体の重鎖可変領域の配列は配列番
号8で示され、ならび
に、
前記抗体の軽鎖可変領域の配列は配列番
号9で示される
ことを特徴とする請求項
1に記載の抗体。
【請求項5】
(i) 請求項
1から4のいずれか一項に記載
の抗体、ならびに
(ii) 任意の発現および/または精製を補助するタグ配列
を
含むことを特徴とする組み換えタンパク質。
【請求項6】
CAR構築物であって、前記のCAR構築物の抗原結合領域はPD-L1と特異的に結合するscFvで、かつ前記scFvは請求項1に記載の
抗体の重鎖可変領域およ
び軽鎖可変領域を有することを特徴とする構築物。
【請求項7】
請求項1に記載
の抗体または請求項
5に記載の組み換えタンパク
質からなる群から選ばれる活性成分の使用であって、前記活性成分は、
(a)
PD-L1の検出のための検出試薬またはキットの製造、
(b)PD-L1関連疾患を予防および/または治療する薬物または製剤の製造、ならびに/あるいは
(c)癌または腫瘍を予防および/または治療する薬物または製剤の製造
に用いられることを特徴とする使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の分野に関し、具体的に、プログラム細胞死リガンド(PD-L1)に対する結合物およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
プログラム細胞死1(PD-1)はCD28受容体ファミリーのメンバーで、当該ファミリーはCD28、CTLA-4 、ICOS 、PD-1およびBTLAを含む。当該ファミリーの最初のメンバーであるCD28およびICOSはモノクローナル抗体を添加すると、T細胞の増殖機能が増強することで見出された(Hutloffら,(1999),Nature 397:263-266;Hansenら,(1980),Immunogenics10:247-260)。PD-1の2種類の細胞表面糖タンパク質リガンドであるPD-L1およびPD-L2が既に同定され、これらがPD-1と結合するとT細胞の活性化およびサイトカインの分泌が下方調節されることが明らかになった(Freemanら,(2000),J Exp Med192:1027-34;Latchmanら,(2001),Nat Immunol 2:261-8;Caterら,(2002),Eur J Immunol32:634-43;Ohigashiら,(2000),Cl in Cancer Res 11:2947-53)。PD-L1(B7-H1)およびPD-L2(B7-DC)はいずれもPD-1と結合するが、ほかのCD28ファミリーのメンバーと結合しないB7ホモログである(Blankら,2004)。
【0003】
PD-L1の発現は既にいくつかのヒトの癌において発見され、ヒトの肺癌、卵巣癌、結腸癌、メラノーマおよび様々な骨髄腫が含まれる(Iwaiら,(2002),PNAS 99:12293-7;Ohigashiら,(2000,Cl in Cancer Res 11:2947-53)。既存の結果から、腫瘍細胞で高発現されるPD-L1はT細胞のアポトーシスを増加させることで腫瘍の免疫逃避において重要な作用を果たすことが示された。研究者により、PD-L1遺伝子が形質移入されたP815腫瘍細胞系が体外で特異性CTLの分解に抵抗することができ、それをマウス体内に接種するとより強い催腫瘍性および侵襲性を有することが見出された。これらの生物学的特徴はいずれもPD-L1を遮断することによって逆転することができる。PD-1遺伝子がノックアウトされたマウスにおいて、PD-L1 /PD-1経路を遮断すると、腫瘍細胞を接種しても腫瘍が形成しない(Dongら,(2002),Nat Med 8:793-800)。また、PD-L1が腸粘膜炎症に関連する可能性、そしてPD-L1の抑制によって結腸炎に県連する萎縮症が防止されることが示された(Kanaiら,(2003),JImmunol 171:4156-63)。PD-1は、まず、活性化したT細胞およびB細胞で発現される免疫抑制性受容体である。当該受容体とそのリガンドの相互作用は体外と体内で常に弱くなったT細胞の応答を示す。PD-1とそのリガンドの一つであるPD-L1の間の相互作用の遮断は腫瘍特異性CD8+T細胞の免疫性の向上を示すため、免疫系の腫瘍細胞の除去に役立つ。
【0004】
PD-1/PD-L1経路は癌治療の抗体治療法の開発において十分に実証された標的である。また、抗PD-1抗体は慢性ウイルス性感染にも有用である。急性ウイルス性感染後に生じたメモリーCD8+T細胞は高い機能を有し、そして防御免疫の重要な成分になる。これに対して、慢性感染の特徴はウイルス特異性T細胞の応答の異なる程度の機能ダメージ(不全)にあることが多く、このような欠陥は宿主が持続的な病原体を除去できない要因である。
【0005】
感染の早期段階で最初にエフェクターT細胞が生じるが、これらは慢性感染の期間で次第に機能を失っていく。Barberら(Barberら,Nature 439 :682-687 (2006))により、LCMV実験室ウイルス株で感染させたマウスが血液およびほかの組織のいずれにおいても高レベルのウイルスがある慢性感染になったことが示された。これらのマウスは最初に強いT細胞の応答が生じたが、T細胞の衰弱によって最終的に感染してしまった。作者により、慢性感染マウスにおけるエフェクターT細胞の数および機能の低下はPD-1とPD-L1の間の相互作用を遮断する抗体を注射することによって逆転させることができることが見出された。
【0006】
最近、PD-1はHIVに感染した個体のT細胞において高発現され、かつ受容体の発現がT細胞の機能障害および疾患の進行に関連することが示された研究があった(D町ら,Nature443 :350-4(2006);Trautmann L.ら,Nat. Med. 12 :1198-202(2006))。2つの研究のいずれでも、リガンドPD-L1に対する遮断はHIV特異性IFNγ生産細胞の体外における増殖を顕著に増加させた。
【0007】
つまり、本分野では、PD-L1と高い親和力で結合し、かつPD-1とPD-L1の結合を遮断することができる抗PD-L1抗体が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】Hutloffら,(1999),Nature 397:263-266
【文献】Hansenら,(1980),Immunogenics10:247-260
【文献】Freemanら,(2000),J Exp Med192:1027-34
【文献】Latchmanら,(2001),Nat Immunol 2:261-8
【文献】Caterら,(2002),Eur J Immunol32:634-43
【文献】Ohigashiら,(2000),Cl in Cancer Res 11:2947-53
【文献】Iwaiら,(2002),PNAS 99:12293-7
【文献】Dongら,(2002),Nat Med 8:793-800
【文献】Kanaiら,(2003),JImmunol 171:4156-63
【文献】Barberら,Nature 439 :682-687 (2006)
【文献】D町ら,Nature443 :350-4(2006)
【文献】Trautmann L.ら,Nat. Med. 12 :1198-202(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、PD-L1と高い親和力で結合し、かつPD-1とPD-L1の結合を遮断することができる、高い親和力および高い生物活性を有するPD-L1抗体およびその使用を提供することである。
【0010】
本発明のもう一つの目的は、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)結合分子およびその使用、特に、PD-L1関連疾患、たとえば腫瘍の治療および/または予防、または診断における使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の側面では、抗体の重鎖可変領域であって、以下の3つの相補性決定領域CDRを含む重鎖可変領域を提供する:
配列番号3で示されるCDR1、
配列番号4で示されるCDR2、および
配列番号5で示されるCDR3。
【0012】
もう一つの好適な例において、上記アミノ酸配列のうちの任意の一つのアミノ酸配列は、さらに、任意に少なくとも1個(たとえば1~3個、好ましくは1~2個、より好ましくは1個)のアミノ酸の付加、欠失、修飾および/または置換を経たもので、かつPD-L1結合親和力を維持する誘導配列を含む。
【0013】
もう一つの好適な例において、前記重鎖可変領域は、さらに、ヒト由来のFR領域またはマウス由来のFR領域を含む。
【0014】
もう一つの好適な例において、前記重鎖可変領域は配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する。
【0015】
もう一つの好適な例において、前記重鎖可変領域は配列番号8で示されるアミノ酸配列を有する。
【0016】
本発明の第二の側面では、抗体の重鎖であって、本発明の第一の側面に記載の重鎖可変領域を有する重鎖を提供する。
【0017】
もう一つの好適な例において、前記の抗体の重鎖は、さらに、重鎖定常領域を含む。
【0018】
もう一つの好適な例において、前記の重鎖定常領域は、ヒト由来のもの、マウス由来のものまたはウサギ由来のものである。
【0019】
本発明の第三の側面では、抗体の軽鎖可変領域であって、以下の3つの相補性決定領域CDRを含む軽鎖可変領域を提供する:
配列番号6で示されるCDR1'、
アミノ酸配列がGISのCDR2'、および
配列番号7で示されるCDR3'。
【0020】
もう一つの好適な例において、上記アミノ酸配列のうちの任意の一つのアミノ酸配列は、さらに、任意に少なくとも1個(たとえば1~3個、好ましくは1~2個、より好ましくは1個)のアミノ酸の付加、欠失、修飾および/または置換を経たもので、かつPD-L1結合親和力を維持する誘導配列を含む。
【0021】
もう一つの好適な例において、前記軽鎖可変領域は、さらに、ヒト由来のFR領域またはマウス由来のFR領域を含む。
【0022】
もう一つの好適な例において、前記軽鎖可変領域は配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する。
【0023】
もう一つの好適な例において、前記軽鎖可変領域は配列番号9で示されるアミノ酸配列を有する。
【0024】
本発明の第四の側面では、抗体の軽鎖であって、本発明の第三の側面に記載の軽鎖可変領域を有する軽鎖を提供する。
【0025】
もう一つの好適な例において、前記の抗体の軽鎖は、さらに、軽鎖定常領域を含む。
【0026】
もう一つの好適な例において、前記の軽鎖定常領域は、ヒト由来のもの、マウス由来のものまたはウサギ由来のものである。
【0027】
本発明の第五の側面では、
(1) 本発明の第一の側面に記載の重鎖可変領域、および/または
(2) 本発明の第三の側面に記載の軽鎖可変領域、
あるいは、本発明の第二の側面に記載の重鎖、および/または本発明の第四の側面に記載の軽鎖
を有する抗体を提供する。
【0028】
もう一つの好適な例において、前記抗体のヒトPD-L1タンパク質(好ましくは野生型)に対する親和力のEC50は30~80 ng/mlである。
【0029】
もう一つの好適な例において、前記抗体のヒトPD-L1タンパク質(好ましくは野生型)に対する親和力のEC50は40~50 ng/mlである。
【0030】
もう一つの好適な例において、前記抗体は、動物由来の抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはこれらの組み合わせから選ばれる。
【0031】
もう一つの好適な例において、前記の抗体は二本鎖抗体、または一本鎖抗体である。
【0032】
もう一つの好適な例において、前記の抗体はモノクローナル抗体である。
【0033】
もう一つの好適な例において、前記の抗体は部分的にまたは全部ヒト化したモノクローナル抗体である。
【0034】
もう一つの好適な例において、前記抗体の重鎖可変領域の配列は配列番号1または8で示され、ならびに/あるいは前記の抗体の軽鎖可変領域の配列は配列番号2または9で示される。
【0035】
もう一つの好適な例において、前記抗体の重鎖可変領域の配列は配列番号1で示され、かつ前記の抗体の軽鎖可変領域の配列は配列番号2で示される。
【0036】
もう一つの好適な例において、前記抗体の重鎖可変領域の配列は配列番号8で示され、かつ前記の抗体の軽鎖可変領域の配列は配列番号9で示される。
【0037】
もう一つの好適な例において、前記の抗体は、薬物複合体の形態である。
【0038】
本発明の第六の側面では、
(i) 本発明の第一の側面に記載の重鎖可変領域、本発明の第二の側面に記載の重鎖、本発明の第三の側面に記載の軽鎖可変領域、本発明の第四の側面に記載の軽鎖、または本発明の第五の側面に記載の抗体、ならびに
(ii) 任意の発現および/または精製を補助するタグ配列
を有する組み換えタンパク質を提供する。
【0039】
もう一つの好適な例において、前記のタグ配列は6Hisタグを含む。
【0040】
もう一つの好適な例において、前記の組み換えタンパク質(またはポリペプチド)は融合タンパク質を含む。
【0041】
もう一つの好適な例において、前記の組み換えタンパク質は、単量体、二量体、または多量体である。
【0042】
本発明の第七の側面では、CAR構築物であって、前記のCAR構築物の抗原結合領域はPD-L1と特異的に結合するscFvで、かつ前記scFvは本発明の第一の側面に記載の重鎖可変領域および本発明の第三の側面に記載の軽鎖可変領域を含む構築物を提供する。
【0043】
本発明の第八の側面では、外来の本発明の第七の側面に記載のCAR構築物を発現する組み換え免疫細胞を提供する。
【0044】
もう一つの好適な例において、前記の免疫細胞は、NK細胞、T細胞、NKT細胞、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0045】
もう一つの好適な例において、前記の免疫細胞はヒトまたはヒト以外の哺乳動物(たとえばマウス)由来のものである。
【0046】
本発明の第九の側面では、
(a) 本発明の第一の側面に記載の重鎖可変領域、本発明の第二の側面に記載の重鎖、本発明の第三の側面に記載の軽鎖可変領域、本発明の第四の側面に記載の軽鎖、または本発明の第五の側面に記載の抗体からなる群から選ばれる抗体部分、ならびに
(b) 検出可能なマーカー、薬物、毒素、サイトカイン、放射性核種、酵素、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、前記抗体部分とカップリングするカップリング部分
を含む抗体薬物複合体を提供する。
【0047】
もう一つの好適な例において、前記の抗体部分と前記のカップリング部分は化学結合またはリンカーを介してカップリングしている。
【0048】
もう一つの好適な例において、前記カップリング部分は、蛍光または発光マーカー、放射性マーカー、MRI(磁気共鳴画像)またはCT(コンピューターX線断層撮影技術)造影剤、または検出可能な生成物を生成させる酵素、放射性核種、生物毒素、サイトカイン(たとえばIL-2など)、抗体、抗体Fc断片、抗体scFv断片、金ナノ粒子/ナノロッド、ウイルス粒子、リポソーム、磁性ナノ粒子、プロドラッグ活性化酵素(たとえば、DT-ジアホラーゼ(DTD)またはビフェニルヒドロラーゼ様蛋白質(BPHL))、化学治療剤(たとえば、シスプラチン)または任意の様態のナノ粒子などから選ばれる。
【0049】
本発明の第十の側面では、本発明の第一の側面に記載の重鎖可変領域、本発明の第二の側面に記載の重鎖、本発明の第三の側面に記載の軽鎖可変領域、本発明の第四の側面に記載の軽鎖、または本発明の第五の側面に記載の抗体、本発明の第六の側面に記載の組み換えタンパク質、本発明の第八の側面に記載の免疫細胞、本発明の第九の側面に記載の抗体薬物複合体、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる活性成分の使用であって、前記活性成分は、
(a)検出試薬またはキットの製造、
(b)PD-L1関連疾患を予防および/または治療する薬物または製剤の製造、ならびに/あるいは
(c)癌または腫瘍を予防および/または治療する薬物または製剤の製造
に用いられる使用を提供する。
【0050】
もう一つの好適な例において、前記PD-L1関連疾患は、腫瘍、炎症反応性疾患、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0051】
もう一つの好適な例において、前記薬物または製剤はPD-L1阻害剤である。
【0052】
もう一つの好適な例において、前記腫瘍は、血液腫瘍、固形腫瘍、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0053】
もう一つの好適な例において、前記腫瘍は、卵巣癌、結腸癌、直腸癌、メラノーマ(たとえば転移した悪性メラノーマ)、腎臓癌、膀胱癌、乳癌、肝臓癌、リンパ腫、悪性血液病、頭頚部癌、膠細胞腫、胃癌、鼻咽頭癌、喉頭癌、子宮頚癌、子宮体腫および骨肉腫からなる群から選ばれる。本発明の方法によって治療できるほかの癌の例は、骨癌、膜腺癌、皮膚癌、前立腺癌、皮膚または眼内悪性メラノーマ、子宮癌、肛門部癌、睾丸癌、卵管癌、子宮内膜癌、膣癌、外陰癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、食道癌、小腸癌、内分泌系癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、急性骨髄球性白血病、慢性骨髄球性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病を含む慢性または急性白血病、小児固形腫瘍、リンパ性リンパ腫、膀胱癌、腎臓または尿管癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)腫瘍、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管生成、脊柱腫瘍、脳幹グリオーマ、下垂体腺腫、カポジ肉腫、類表皮癌、扁平上皮癌、T細胞性リンパ腫、アスベストに誘発される癌を含む環境に誘発される癌、および前記癌の組み合わせを含む。
【0054】
もう一つの好適な例において、前記腫瘍はPD-L1高発現の腫瘍である。
【0055】
もう一つの好適な例において、前記薬物または製剤はPD-L1(発現陽性)に関連する疾患を予防および/または治療する薬物または製剤の製造に使用される。
【0056】
もう一つの好適な例において、前記の抗体は、薬物複合体(ADC)の形態である。
【0057】
もう一つの好適な例において、前記の検出試薬またはキットはPD-L1関連疾患の診断に使用される。
【0058】
もう一つの好適な例において、前記検出試薬またはキットはサンプルにおけるPD-L1タンパク質の検出に使用される。
【0059】
もう一つの好適な例において、前記の検出試薬は検出シートである。
【0060】
本発明の第十一の側面では、
(i) 本発明の第一の側面に記載の重鎖可変領域、本発明の第二の側面に記載の重鎖、本発明の第三の側面に記載の軽鎖可変領域、本発明の第四の側面に記載の軽鎖、または本発明の第五の側面に記載の抗体、本発明の第六の側面に記載の組み換えタンパク質、本発明の第八の側面に記載の免疫細胞、本発明の第九の側面に記載の抗体薬物複合体、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる活性成分、ならびに
(ii) 薬学的に許容される担体
を含む薬物組成物を提供する。
【0061】
もう一つの好適な例において、前記の薬物組成物は液体製剤である。
【0062】
もう一つの好適な例において、前記の薬物組成物は注射剤である。
【0063】
もう一つの好適な例において、前記の薬物組成物はPD-L1に対する抑制、好ましくはPD-L1の免疫抑制作用に対する下方調節または遮断に使用される。
【0064】
もう一つの好適な例において、前記の薬物組成物は免疫に対する増強、好ましくは免疫細胞(たとえばT細胞)の活性化、増殖、サイトカインの分泌に対する刺激に使用される。
【0065】
もう一つの好適な例において、前記の薬物組成物は腫瘍に対する免疫反応の向上、好ましくは免疫細胞の腫瘍細胞に対する殺傷作用の増強に使用される。
【0066】
もう一つの好適な例において、前記の薬物組成物は腫瘍の治療に使用される。
【0067】
もう一つの好適な例において、前記腫瘍はPD-L1高発現の腫瘍である。
【0068】
もう一つの好適な例において、前記薬物組成物は、さらに、別の抗腫瘍剤を含む。
【0069】
もう一つの好適な例において、前記の薬物組成物は単位剤形である。
【0070】
もう一つの好適な例において、前記抗腫瘍剤はタキソール、ドキソルビシン、シクロホスファミド、アキシチニブ、レンバチニブ、またはペムブロリズマブを含む。
【0071】
もう一つの好適な例において、前記の抗腫瘍剤は前記抗体と別で独立したパッケージ内に存在してもよく、あるいは前記抗腫瘍剤は前記抗体とカップリングしてもよい。
【0072】
もう一つの好適な例において、前記の薬物組成物の剤形は胃腸投与剤形または胃腸外投与剤形を含む。
【0073】
もう一つの好適な例において、前記の胃腸外投与剤形は静脈注射、静脈点滴、皮下注射、局部注射、筋肉注射、腫瘍内注射、腹腔内注射、脳内注射、または腔内注射を含む。
【0074】
本発明の第十二の側面では、
(1) 本発明の第一の側面に記載の重鎖可変領域、本発明の第二の側面に記載の重鎖、本発明の第三の側面に記載の軽鎖可変領域、本発明の第四の側面に記載の軽鎖、または本発明の第五の側面に記載の抗体、あるいは
(2) 本発明の第六の側面に記載の組み換えタンパク質、
(3) 本発明の第七の側面に記載のCAR構築物
からなる群から選ばれるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0075】
本発明の第十三の側面では、本発明の第十二の側面に記載のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0076】
もう一つの好適な例において、前記のベクターは、細菌プラスミド、ファージ、酵母プラスミド、植物細胞ウイルス、哺乳動物細胞ウイルス、たとえばアデノウイルス、レトロウイルス、またはほかのベクターを含む。
【0077】
本発明の第十四の側面では、遺伝子工学化された宿主細胞であって、本発明の第十三の側面に記載のベクターを含むか、あるいはゲノムに本発明の第十二の側面に記載のポリヌクレオチドが組み込まれた宿主細胞を提供する。
【0078】
本発明の第十五の側面では、体外でサンプルにおけるPD-L1タンパク質を検出(診断的なものまたは非診断的なものを含む)する方法であって、
(1) 体外において、前記サンプルを本発明の第五の側面に記載の抗体と接触させる工程、ならびに
(2) 抗原-抗体複合体が形成したか検出し、ここで、複合体が形成したというのはサンプルにPD-L1タンパク質が存在することを意味する工程
を含む方法を提供する。
【0079】
本発明の第十六の側面では、下地シート(支持プレート)と、本発明の第五の側面に記載の抗体または本発明の第九の側面に記載の免疫複合体を含有する測定バーとを含む検出プレートを提供する。
【0080】
本発明の第十七の側面では、
(1) 本発明の第五の側面に記載の抗体を含有する第一の容器、および/または
(2) 本発明の第五の側面に記載の抗体に対する二次抗体を含有する第二の容器を含むか、
あるいは、本発明の第十六の側面に記載の検出プレートを含有する
ことを特徴とするキットを提供する。
【0081】
本発明の第十八の側面では、組み換えポリペプチドの製造方法であって、
(a) 発現に適切な条件において、本発明の第十四の側面に記載の宿主細胞を培養する工程、ならびに
(b) 培養物から、本発明の第五の側面に記載の抗体または本発明の第六の側面に記載の組み換えタンパク質である、組み換えポリペプチドを単離する工程
を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0082】
本発明の第十九の側面では、PD-L1関連疾患を治療する方法であって、必要な対象に本発明の第五の側面に記載の抗体、前記抗体の抗体-薬物複合体、または前記抗体を発現するCAR-T細胞、またはこれらの組み合わせを施用する工程を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0083】
もちろん、本発明の範囲内において、本発明の上記の各技術特徴および下記(たとえば実施例)の具体的に記述された各技術特徴は互いに組合せ、新しい、または好適な技術方案を構成できることが理解される。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【
図1】
図1は、PD-L1抗体のPBMCに対する活性化作用を示す。
【
図2】
図2は、PD-L1抗体のMLR系におけるCD4+T細胞に対する活性化作用、上層細胞培養液におけるIL-2の分泌量を示す。
【
図3】
図3は、PD-L1抗体のMLR系におけるCD4+T細胞に対する活性化作用、上層細胞培養液におけるIFN-γの分泌量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0085】
本発明者は幅広く深く研究したところ、大量のスクリーニングにより、意外に、非常に優れた親和力および特異性を有する抗PD-L1抗体、当該抗体に基づいて得られたヒト化抗体を得た。本発明の抗体は高度特異的にPD-L1抗原に結合することができ、高い親和力および生物活性を有し、そして顕著に癌性腫瘍(特にPD-L1高発現の腫瘍)の生長を抑制するが、哺乳動物自身に顕著な毒性・副作用がない。これに基づき、本発明を完成させた。
【0086】
用語
以下、本発明がより理解しやすくなるように、具体的に、一部の技術および科学用語を定義する。本明細書で別途に明確に定義しない限り、本明細書で用いられるすべてのほかの技術および科学用語はいずれも本発明が属する分野の普通の技術者が通常理解する意味と同様である。
【0087】
本発明で使用されるアミノ酸の3文字の略号および1文字の略号はJ. Biol. Chem, 243, p3558(1968)に記載の通りである。
【0088】
本明細書で用いられるように、用語「投与」および「処理」とは外因性薬物、治療剤、診断剤または組成物を動物、ヒト、被験者、細胞、組織、器官または生物流体に応用することである。「投与」および「処理」とは治療、薬物動態学、診断、研究および実験方法でもよい。細胞の処理は、試薬と細胞の接触、および試薬と流体の接触、流体と細胞の接触を含む。また、「投与」および「処理」とは、試薬、診断、結合組成物または別の細胞を通してインビトロ(in vitro)およびエクスビボ(ex vivo)で処理することも意味する。「処理」は、ヒト、動物または研究の被験者に応用される場合、治療処理、予防または予防性処理、研究および診断を指し、抗ヒトPD-L1抗体とヒトまたは動物、被験者、細胞、組織、生理的コンパートメントまたは生理流体の接触を含む。本明細書で用いられるように、用語「治療」とは患者に本発明の抗ヒトPD-L1抗体およびその組成物の任意の一つを含む内用または外用の治療剤を投与することで、前記患者は一つまたは複数の疾患症状を有し、既知の前記治療剤はこれらの症状に治療作用を有する。通常、有効に一つまたは複数の疾患症状を緩和する治療剤の量(治療有効量)で患者に投与する。
【0089】
本明細書で用いられるように、用語「任意」または「任意に」はその後に記載されるイベントや状況はありうるが、必須ではない。たとえば、「任意に1~3個の抗体の重鎖可変領域を含む」とは、特定の配列の抗体の重鎖可変領域が存在してもよいが、必ずしも存在しなくてもよく、1個、2個または3個でもよい。
【0090】
本発明に記載の「配列同一性」は適切な置換、挿入または欠失などの突然変異がある場合、アラインメントおよび比較の時、2つの核酸または2つのアミノ酸配列の間の同一性の程度を表す。本発明に記載の配列とそれに同一性を有する配列の間の配列同一性は少なくとも85%、90%または95%、好ましくは少なくとも95%でもよい。非限定的な実施例は85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%を含む。
【0091】
本明細書に記載の「結合物」とは標的と結合可能な可溶性受容体またはその断片またはその類似体、あるいは抗体またはその断片またはその類似体である。本明細書に記載の「PD-L1結合物」とは特異的にPD-L1を認識してPD-L1と結合することができる抗体またはその断片またはその類似体である。
【0092】
用語「PD-L1」とは、一般的に、天然または組み換えのヒトPD-L1、およびヒトPD-L1の非ヒトホモログである。
【0093】
PD-L1
プログラム細胞死1(PD-1)はCD28受容体ファミリーのメンバーで、当該ファミリーはCD28、CTLA-4 、ICOS 、PD-1およびBTLAを含む。当該ファミリーの最初のメンバーであるCD28およびICOSはモノクローナル抗体を添加すると、T細胞の増殖機能が増強することで見出された(Hutloffら,(1999),Nature 397:263-266;Hansenら,(1980),Immunogenics10:247-260)。PD-1の2種類の細胞表面糖タンパク質リガンドであるPD-L1およびPD-L2が既に同定され、これらがPD-1と結合するとT細胞の活性化およびサイトカインの分泌が下方調節されることが明らかになった(Freemanら,(2000),J Exp Med192:1027-34;Latchmanら,(2001),Nat Immunol 2:261-8;Caterら,(2002),Eur J Immunol32:634-43;Ohigashiら,(2000),Cl in Cancer Res 11:2947-53)。PD-L1(B7-H1)およびPD-L2(B7-DC)はいずれもPD-1と結合するが、ほかのCD28ファミリーのメンバーと結合しないB7ホモログである(Blankら,2004)。
【0094】
PD-L1の発現は既にいくつかのヒトの癌において発見され、ヒトの肺癌、卵巣癌、結腸癌、メラノーマおよび様々な骨髄腫が含まれる(Iwaiら,(2002),PNAS 99:12293-7;Ohigashiら,(2000,Cl in Cancer Res 11:2947-53)。既存の結果から、腫瘍細胞で高発現されるPD-L1はT細胞のアポトーシスを増加させることで腫瘍の免疫逃避において重要な作用を果たすことが示された。研究者により、PD-L1遺伝子が形質移入されたP815腫瘍細胞系が体外で特異性CTLの分解に抵抗することができ、それをマウス体内に接種するとより強い催腫瘍性および侵襲性を有することが見出された。これらの生物学的特徴はいずれもPD-L1を遮断することによって逆転することができる。PD-1遺伝子がノックアウトされたマウスにおいて、PD-L1 /PD-1経路を遮断すると、腫瘍細胞を接種しても腫瘍が形成しない(Dongから、(2002),Nat Med 8:793-800)。また、PD-L1が腸粘膜炎症に関連する可能性、そしてPD-L1の抑制によって結腸炎に県連する萎縮症が防止されることが示された(Kanaiら,(2003),JImmunol 171:4156-63)。PD-1は、まず、活性化したT細胞およびB細胞で発現される免疫抑制性受容体である。当該受容体とそのリガンドの相互作用は体外と体内で常に弱くなったT細胞の応答を示す。PD-1とそのリガンドの一つであるPD-L1の間の相互作用の遮断は腫瘍特異性CD8+T細胞の免疫性の向上を示すため、免疫系の腫瘍細胞の除去に役立つ。
【0095】
PD-1/PD-L1経路は癌治療の抗体治療法の開発において十分に実証された標的である。また、抗PD-1抗体は慢性ウイルス性感染にも有用である。急性ウイルス性感染後に生じたメモリーCD8+T細胞は高い機能を有し、そして防御免疫の重要な成分になる。これに対して、慢性感染の特徴はウイルス特異性T細胞の応答の異なる程度の機能ダメージ(不全)にあることが多く、このような欠陥は宿主が持続的な病原体を除去できない要因である。
【0096】
感染の早期段階で最初にエフェクターT細胞が生じるが、これらは慢性感染の期間で次第に機能を失っていく。Barberら(Barberら,Nature 439 :682-687 (2006))により、LCMV実験室ウイルス株で感染させたマウスが血液およびほかの組織のいずれにおいても高レベルのウイルスがある慢性感染になったことが示された。これらのマウスは最初に強いT細胞の応答が生じたが、T細胞の衰弱によって最終的に感染してしまった。作者により、慢性感染マウスにおけるエフェクターT細胞の数および機能の低下はPD-1とPD-L1の間の相互作用を遮断する抗体を注射することによって逆転させることができることが見出された。
【0097】
最近、PD-1はHIVに感染した個体のT細胞において高発現され、かつ受容体の発現がT細胞の機能障害および疾患の進行に関連することが示された研究があった(D町ら,Nature443 :350-4(2006);Trautmann L.ら,Nat. Med. 12 :1198-202(2006))。2つの研究のいずれでも、リガンドPD-L1に対する遮断はHIV特異性IFNγ生産細胞の体外における増殖を顕著に増加させた。
【0098】
抗体
本明細書で用いられるように、用語「抗体」とは免疫グロブリンのことで、2本の同様の重鎖および2本の同様の軽鎖がジスルフィド結合を介して連結してなる4本ペプチド鎖の構造である。免疫グロブリンの重鎖定常領域のアミノ酸の構成および配列順序により、その抗原性が異なる。これによって、免疫グロブリンは5種類に分かれ、あるいは免疫グロブリンのアイソタイプと呼ばれ、すなわち、IgM、IgD、IgG、IgAおよびIgEで、その相応する重鎖はそれぞれμ鎖、δ鎖、γ鎖、α鎖、およびε鎖である。同一のIgはそのヒンジ領域のアミノ酸の組成および重鎖ジスルフィド結合の数と位置の違いにより、異なるサブタイプに分かれ、たとえばIgGはIgG1、IgG2、IgG3、IgG4に分かれる。軽鎖は定常領域によってκ鎖またはλ鎖に分かれる。5種類のIgのうち、いずれのIgもκ鎖またはλ鎖を有してもよい。各クラスの免疫グロブリンのサブユニット構造および三次元構造は本分野の技術者熟知である。本発明に記載の抗体の軽鎖はさらに軽鎖定常領域を含んでもよく、前記の軽鎖定常領域はヒト由来またはマウス由来のκ鎖、λ鎖またはそのバリアントを含む。
【0099】
本発明において、本発明に記載の抗体の重鎖はさらに重鎖定常領域を含んでもよく、前記の重鎖定常領域はヒト由来またはマウス由来のIgG1、IgG2、IgG3、IgG4またはそのバリアントを含む。抗体の重鎖および軽鎖のN末端に近い約110のアミノ酸の配列は大きく異なり、可変領域(Fv領域)で、C末端に近い残りのアミノ酸配列は相対的に安定で、定常領域である。可変領域は3つの超可変領域(HVR)および4つの配列が相対的に保存的な骨格領域(FR)を含む。3つの超可変領域は、抗体の特異性を決定し、相補性決定領域(CDR)とも呼ばれる。各軽鎖可変領域(LCVR)および重鎖可変領域(HCVR)は3つのCDR領域および4つのFR領域からなり、アミノ末端からカルボキシ末端までFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4の順で並ぶ。軽鎖の3つのCDR領域はLCDR1、LCDR2およびLCDR3を、重鎖の3つのCDR領域はHCDR1、HCDR2およびHCDR3を指す。
【0100】
本発明の抗体はマウス由来抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体を含み、好ましくはヒト化抗体である。本発明において、用語「マウス由来抗体」は本分野の知識および技能によって製造される抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体である。製造時、PD-L1抗原で試験対象に注射した後、必要な配列または機能の特徴を有する抗体を発現するハイブリドーマを分離する。本発明の一つの好適な実施形態において、前記のマウス由来PD-L1抗体またはその抗原結合断片は、さらにマウス由来κ鎖、λ鎖またはそのバリアントの軽鎖定常領域を、あるいはさらにマウス由来IgG1、IgG2、IgG3またはそのバリアントの重鎖定常領域を含んでもよい。
【0101】
用語「キメラ抗体(chimeric antibody)」は、マウス由来抗体の可変領域とヒト抗体の定常領域を融合させてなる抗体で、マウス由来抗体による免疫応答反応を減少することができる。「キメラ抗体」はネズミ由来抗体のV領域の遺伝子とヒト抗体のC領域の遺伝子をキメラ遺伝子に連接した後、ベクターに挿入し、骨髄腫組織に形質移入して発現させる抗体分子である。親ネズミ抗体の高い特異性および親和力を残しつつ、ヒト由来断片に有効に生物学的効果・機能を仲介させる。
【0102】
用語「ヒト化抗体(humanized antibody)」とは、CDR移植抗体(CDR-grafted antibody)とも呼ばれ、マウスのCDR配列をヒトの抗体可変領域のフレームワーク、すなわち、異なる種類のヒト種抗体骨格配列に移植してなる抗体である。「ヒト化抗体」は、本発明のネズミ抗体の可変領域の改変形態で、非ヒト抗体(好ましくはマウスモノクローナル抗体)由来(または基本的にそれ由来)のCDR領域、および基本的にヒト由来抗体の配列からのFR領域と定常領域を有し、すなわち、ネズミ抗体のCDR領域の配列を異種のヒト系抗体の骨格配列に接木する。CDR配列は大半の抗体-抗原相互作用を担うため、発現ベクターを構築して特定の天然に存在する抗体の性質を模倣する組み換え抗体を発現することができる。ヒト化抗体はキメラ抗体が大量のマウスタンパク質成分を持つことで、異種性反応が誘導されることを克服することができる。このような骨格配列は、系列の抗体の遺伝子配列を含む公共DNAデータベースまたは公開された参照文献から得ることができる。免疫原性の低下およびそれによる活性の低下を防止するには、前記のヒト抗体の可変領域のフレームワーク配列に最低限の逆向突然変異または復帰突然変異をさせることによって活性を維持することができる。
【0103】
用語「抗体の抗原結合断片」(または「抗体断片」と略す)とは抗体の特異的に抗原(たとえば、PD-L1)に結合する能力を維持する一つまたは複数の断片である。全長抗体の断片で抗体の抗原結合機能を実現できることが示されている。用語「抗体の抗原結合断片」に含まれる結合断片の実例は以下のもの含む:
(i)VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる1価の断片である、Fab断片;
(ii)ヒンジ領域におけるジスルフィド架橋で連結した2つのFab断片を含む2価の断片である、F(ab’)2断片;
(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片;
(iv)抗体の一方のアームのVHおよびVLドメインからなるFv断片。
【0104】
Fv抗体は抗体の重鎖可変領域、軽鎖可変領域を含有するが、定常領域がなく、かつすべての抗原結合部位を有する最小の抗体断片である。一般的に、Fv抗体はさらにVHとVLドメインの間のポリペプチドリンカーを含み、かつ抗原結合に必要な構造を形成することができる。
【0105】
本発明の用語「抗原決定基」とは抗原における不連続の、本発明の抗体または抗原結合断片によって認識される立体空間部位である。
【0106】
用語「CDR」とは抗体の可変ドメイン内における主に抗原の結合を促進する6つの超可変領域の1つである。前記6つのCDRの最も用いられる定義の一つはKabat E.Aら,(1991)Sequences of proteins of immunological interest.NIH Publication91-3242)によって提供される。
【0107】
用語「エピトープ」または「抗原決定基」とは抗原における免疫グロブリンまたは抗体が特異的に結合する部位(たとえば、PD-L1分子における特定の部位)である。エピトープは、通常、独特な配座で、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個の連続または非連続のアミノ酸を含む。
【0108】
用語「特異的な結合」、「選択的な結合」、「選択的に結合する」および「特異的に結合する」とは抗体の予め決定された抗原におけるエピトープに対する結合である。通常、抗体は約10-7M未満、たとえば約10-8M、10-9Mまたは10-10M未満あるいはそれよりも低い親和力(KD)で結合する。
【0109】
用語「競争的に結合する」とはヒトPD-L1の細胞外領域における本発明のモノクローナル抗体と同様のエピトープ(抗原決定基とも呼ばれる)または同様のエピトープの一部を認識して前記抗原に結合する抗体である。本発明のモノクローナル抗体と同様のエピトープに結合する抗体とは本発明のモノクローナル抗体によって認識されるヒトPD-L1のアミノ酸配列を認識して結合する抗体である。
【0110】
用語「KD」または「Kd」とは特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数である。通常、本発明の抗体は約10-7M未満、たとえば約10-8M、10-9Mまたは10-10M未満あるいはそれよりも低い解離平衡定数(KD)でPD-L1に結合し、表面プラスモン共鳴(SPR)技術によってBIACORE装置で測定される。
【0111】
本明細書で用いられるように、用語「抗原決定基」とは抗原における不連続の、本発明の抗体または抗原結合断片によって認識される立体空間部位である。
【0112】
本発明は、完全の抗体だけではなく、免疫活性を有する抗体の断片または抗体とほかの配列からなる融合タンパク質も含む。そのため、本発明は、さらに、前記抗体の断片、誘導体および類似体を含む。
【0113】
本発明において、抗体は当業者に熟知の技術によって製造されるマウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体または全ヒト抗体を含む。組み換え抗体、たとえばキメラモノクローナル抗体およびヒト化モノクローナル抗体は、ヒトの部分および非ヒトの部分を含み、本分野で熟知されるDNA組み換え技術によって製造することができる。
【0114】
本明細書で用いられるように、用語「モノクローナル抗体」とは単一の細胞由来のクローンから分泌される抗体である。モノクローナル抗体は、高度特異的で、単一のエピトープに対するものである。前記の細胞は、真核、原核またはファージのクローン細胞株でもよい。
【0115】
本発明において、抗体は、単特異性、二重特異性、三重特異性、またはそれ以上の多重特異性でもよい。
【0116】
本発明において、本発明の抗体は、さらにその保存的変異体を含み、本発明の抗体のアミノ酸配列と比較すると、10個以下、好ましくは8個以下、より好ましくは5個以下、最も好ましくは3個以下のアミノ酸が類似または近い性質を持つアミノ酸で置換されてなるポリペプチドをいう。これらの保存的突然変異のポリペプチドは、表Aのようにアミノ酸の置換を行って生成することが好ましい。
【0117】
【0118】
ヒトPD-L1特異性抗体
本発明は抗ヒトPD-L1抗体(以下、PD-L1抗体と略す)を提供する。具体的に、本発明は、PD-L1に対する高特異性で高親和力の抗体であって、重鎖および軽鎖を含み、前記重鎖は重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列を、前記軽鎖は軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列を含有する抗体を提供する。
【0119】
好ましくは、重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列および軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列の各CDRは以下の群から選ばれる:
a1)配列番号3;
a2)配列番号4;
a3)配列番号5;
a4)配列番号6;
a5)GIS;
a6)配列番号7;
a7)上記アミノ酸配列のうちの任意の一つのアミノ酸配列が少なくとも1個(たとえば1~5、1~3個、好ましくは1~2個、より好ましくは1個)のアミノ酸の付加、欠失、修飾および/または置換を経たもので、PD-L1結合親和力を有する配列。
【0120】
もう一つの好適な例において、前記少なくとも1個のアミノ酸の付加、欠失、修飾および/または置換を経た配列は、好適に、相同性が少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列である。
【0121】
本発明の抗体は二本鎖または一本鎖抗体でもよく、そして動物由来抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、より好ましくはヒト化抗体、ヒト-動物キメラ抗体、さらに好ましくは全ヒト化抗体から選ばれてもよい。
【0122】
本発明に係る抗体の誘導体は、一本鎖抗体、およびまたは抗体断片、たとえばFab、Fab'、(Fab')2、あるいは当該分野におけるほかの既知の抗体の誘導体など、ならびにIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM抗体またはほかのサブタイプの抗体のうちの任意の一つまたは複数でもよい。
【0123】
ここで、前記動物は、哺乳動物、たとえばマウスが好ましい。
【0124】
本発明の抗体は、ヒトPD-L1を標的とするネズミ由来抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、CDR接木および/または修飾の抗体でもよい。
【0125】
本発明の一つの好適な実施例において、上記配列番号3、4および5のうちの任意の一つまたは複数の配列、あるいはこれらが少なくとも1個のアミノ酸の付加、欠失、修飾および/または置換を経たもので、PD-L1結合親和力を有する配列は、重鎖可変領域(VH)のCDR領域に位置する。
【0126】
本発明の一つの好適な実施例において、上記配列番号6、アミノ酸配列:GISおよび配列番号7のうちの任意の一つまたは複数の配列、あるいはこれらが少なくとも1個のアミノ酸の付加、欠失、修飾および/または置換を経たもので、PD-L1結合親和力を有する配列は、軽鎖可変領域(VL)のCDR領域に位置する。
【0127】
本発明の一つのより好適な実施例において、VH CDR1、CDR2、CDR3はそれぞれ独立に配列番号3、4および5のうちの任意の一つまたは複数の配列、あるいはこれらが少なくとも1個のアミノ酸の付加、欠失、修飾および/または置換を経たもので、PD-L1結合親和力を有する配列から、VL CDR1、CDR2、CDR3はそれぞれ独立に配列番号6、アミノ酸配列:GISおよび配列番号7のうちの任意の一つまたは複数の配列、あるいはこれらが少なくとも1個のアミノ酸の付加、欠失、修飾および/または置換を経たもので、PD-L1結合親和力を有する配列から選ばれる。
【0128】
本発明の上記内容において、前記付加、欠失、修飾および/または置換のアミノ酸数は、好ましくは元のアミノ酸配列の合計アミノ酸数の40%以下、より好ましくは35%以下、より好ましくは1~33%、より好ましくは5~30%、より好ましくは10~25%、より好ましくは15~20%である。
【0129】
本発明において、前記付加、欠失、修飾および/または置換のアミノ酸の数は、通常、1、2、3、4または5個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、最も好ましくは1個である。
【0130】
本発明の一部の実施形態によれば、PD-L1抗体であって、抗体の重鎖可変領域は、さらに、マウス由来IgG1、IgG2、IgG3、IgG4またはそのバリアントの重鎖FR領域を含む抗体である。一部の実施形態において、前記抗体の重鎖可変領域の配列は配列番号1または8である。さらに、前記PD-L1抗体はマウス由来IgG1、IgG2、IgG3、IgG4またはそのバリアントの重鎖定常領域を含む。
【0131】
本発明の一部の実施形態によれば、PD-L1抗体であって、抗体の軽鎖可変領域は、さらに、マウス由来κ鎖、λ鎖またはそのバリアントの軽鎖FR領域を含む抗体である。一部の実施形態において、前記抗体の軽鎖可変領域の配列は配列番号2または9である。さらに、前記PD-L1抗体はマウス由来κ鎖、λ鎖またはそのバリアントの軽鎖定常領域を含む。さらに、前記PD-L1抗体はヒト由来κ鎖、λ鎖またはそのバリアントの軽鎖定常領域を含む。
【0132】
もう一つの好適な例において、前記重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号1または8で示されるが、ここで、下線で表記されるのは順に重鎖可変領域のCDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列である。
QVQLQQSGAELVKPGASVKLSCKASGYAFTGYTIHWVKQRSGLGLEWLGWFYPGSGTLKYNEKFKDKATLTADKSSSTVYLELSRLTSEDSAVYFCARHGTGTLMAMDYWGQGTSVTVSS (配列番号1)
QVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYAFTGYTIHWVRQAPGQRLEWMGWFYPGSGTLKYSEKFQGRVTITRDKSLSTAYMELSSLRSEDTAVYYCARHGTGTLMAMDYWGQGTLVTVSS (配列番号8)
【0133】
もう一つの好適な例において、前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号2または9で示されるが、ここで、下線で表記されるのは順に軽鎖可変領域のCDR1'、CDR2'、CDR3'のアミノ酸配列である。
DVVVTQTPLSLPVSFGDQVSISCRSSQSLANSYGNTYLSWYLHKPGQSPQLLIYGISNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISTIKPEDLGMYYCLQGTHQPPTFGGGTKLEIK (配列番号2)
DVVMTQTPLSLSVTPGQPASISCKSSQSLANSYGNTYLSWYLHKPGQSPQLLIYGISNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDVGVYYCLQGTHQPPTFGQGTKLEIK (配列番号9)
【0134】
抗体の製造
モノクローナル抗体の生成に適する方法のいずれも本発明のPD-L1抗体の生成に使用することができる。たとえば、連接または天然に存在するPD-L1タンパク質またはその断片で動物を免疫させることができる。アジュバント、免疫刺激剤、重複免疫強化接種を含む、適切な免疫接種方法を使用してもよく、一つまたは複数の手段をしようしてもよい。
【0135】
適切な様態のPD-L1のいずれも免疫原(抗原)とし、PD-L1に特異的な非ヒト抗体を生成し、前記抗体の生物学活性を選別するの使用することができる。免疫原は単独で使用してもよく、あるいは本分野で既知の一つまたは複数の免疫原性補強剤と組み合わせて使用してもよい。免疫原は天然由来の精製されたもの、あるいは遺伝的に修飾された細胞において生成したものでもよい。免疫原をコードするDNAは、ゲノム由来のものまたは非ゲノム由来のもの(たとえばcDNA)でもよい。適切な遺伝ベクターで免疫原をコードするDNAを発現することができるが、前記ベクターはアデノウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、プラスミドおよび非ウイルスベクターを含むが、これらに限定されない。
【0136】
本発明のPD-L1抗体を生産する例示的な方法は実施例1に記載されている。
【0137】
ヒト化抗体は、任意の種類の免疫グロブリンから選ばれてもよいが、IgM、IgD、IgG、IgAおよびIgEを含む。本発明において、抗体はIgG抗体で、IgG1サブタイプを使用する。下記実施例に記載の抗体の生物学的な測定・選別では、一定のドメイン配列が必要な配列の最適化を実現させ、必要な生物学活性を持たせることが容易である。
【0138】
同様に、何らの軽鎖も本明細書の化合物および方法において使用することができる。具体的に、κ鎖、λ鎖またはそのバリアントは本発明の化合物および方法において有用である。
【0139】
本発明のPD-L1抗体をヒト化させる例示的な方法実施例2に記載されている。
【0140】
本発明は、PD-L1関連疾患の予防および/または治療における本発明に係るPD-L1結合分子、核酸分子、宿主細胞、免疫複合体および薬物組成物の使用および方法を提供する。本発明のPD-L1結合分子によって予防および/または治療することができるPD-L1関連疾患の詳細は後記の通りである。
【0141】
本発明の成熟ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、成熟ポリペプチドだけをコードするコード配列、成熟ポリペプチドのコード配列および様々な付加コード配列、成熟ポリペプチドのコード配列(および任意の付加コード配列)および非コード配列を含む。
【0142】
用語「ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド」は、このポリペプチドをコードするポリヌクレオチドでもよく、さらに付加のコードおよび/または非コード配列を含むポリヌクレオチドでもよい。
【0143】
本発明は、さらに、上記の配列とハイブリダイズし、かつ2つの配列の間に少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%の相同性を有するポリヌクレオチドに関する。本発明は、特に、厳格な条件で本発明に係るポリヌクレオチドとハイブリダイズできるポリヌクレオチドに関する。本発明において、「厳格な条件」とは、(1)低いイオン強度および高い温度、例えば0.2×SSC、0.1%SDS、60℃でのハイブリダイズおよび溶離、あるいは(2)ハイブリダイズ時変性剤、たとえば42℃で50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ胎児血清/0.1% Ficollなどを入れること、あるいは(3)2つの配列の間の相同性が少なくとも90%以上、好ましくは95%以上の時だけハイブリダイズすることである。そして、ハイブリダイズできるポリヌクレオチドがコードするポリペプチドは、配列番号1、配列番号2、配列番号8および/または配列番号9で示される成熟ポリペプチドと同じ生物学的機能および活性を有する。
【0144】
本発明の抗体のヌクレオチド全長配列あるいはの断片は、通常、PCR増幅法、組換え法または人工合成の方法で得られる。適用できる方法として、特に断片の長さが短い場合、人工合成の方法で関連配列を合成する。通常、まず多数の小さい断片を合成し、そして連接させることにより、配列の長い断片を得ることができる。また、軽鎖および重鎖のコード配列を発現タグ(たとえば6His)一体に融合させ、融合タンパク質を形成してもよい。
【0145】
関連の配列を獲得すれば、組み換え法で大量に関連配列を獲得することができる。この場合、通常、その配列をベクターにクローンした後、細胞に導入し、さらに通常の方法で増殖させた宿主細胞から関連配列を単離して得る。
【0146】
また、特に断片の長さが短い場合、人工合成の方法で関連配列を合成してもよい。通常、まず多数の小さい断片を合成し、そして連接させることにより、配列の長い断片を得ることができる。さらに、このDNA配列を本分野で周知の各種の既知のDNA分子(あるいはベクターなど)や細胞に導入してもよい。
【0147】
用語「核酸分子」とはDNA分子およびRNA分子である。核酸分子は一本鎖または二本鎖のものでもよいが、好ましくは二本鎖DNAである。核酸をもう一つの核酸配列と機能的な関係にした場合、核酸は「有効に連結している」。たとえば、プロモーターまたはエンハンサーがコード配列の転写に影響する場合、プロモーターまたはエンハンサーは前記コード配列と有効に連結している。
【0148】
用語「ベクター」とはそれに連結したもう一つの核酸を輸送することができる核酸分子である。一つの実施形態において、ベクターは「プラスミド」で、別のDNA断片をその中に連結することができる環状二本鎖DNA環を指す。
【0149】
さらに、本発明は、上記の適当なDNA配列および適当なプロモーターあるいは制御配列を含むベクターに関する。これらのベクターは、タンパク質を発現するように、適当な宿主細胞の形質転換に用いることができる。
【0150】
用語「宿主細胞」とは既にその中に発現ベクターが導入された細胞である。宿主細胞は、原核細胞、たとえば細菌細胞、あるいは、低等真核細胞、たとえば酵母細胞、あるいは、高等真核細胞、たとえば植物または動物細胞(たとえば哺乳動物細胞)でもよい。
【0151】
本発明に記載のDNA組み換えによる宿主細胞の形質転換の工程は本分野で熟知の技術で行ってもよい。得られる形質転換体は通常の方法で培養し、本発明の遺伝子がコードするポリペプチドを発現することができる。用いられる宿主細胞によって、通常の培地で適切な条件において培養する。
【0152】
現在、本発明のタンパク質(またはその断片、あるいはその誘導体)をコードするDNA配列は全部化学合成で獲得することがすでに可能である。さらに、このDNA配列を本分野で周知の各種の既知のDNA分子(あるいはベクターなど)や細胞に導入してもよい。また、化学合成で本発明のタンパク質配列に変異を導入することもできる。
【0153】
さらに、本発明は、上記の適当なDNA配列および適当なプロモーターあるいは制御配列を含むベクターに関する。これらのベクターは、タンパク質を発現するように、適当な宿主細胞の形質転換に用いることができる。
【0154】
宿主細胞は、原核細胞、たとえば細菌細胞、あるいは、低等真核細胞、たとえば酵母細胞、あるいは、高等真核細胞、たとえば哺乳動物細胞でもよい。代表例として、大腸菌、ストレプトマイセス属、ネズミチフス菌のような細菌細胞、酵母のような真菌細胞、ミバエS2若しくはSf9のような昆虫細胞、CHO、COS7、293細胞のような動物細胞などがある。
【0155】
DNA組み換えによる宿主細胞の形質転換は当業者に熟知の通常の技術で行ってもよい。宿主が原核細胞、たとえば大腸菌である場合、DNAを吸収できるコンピテントセルは指数成長期後収集でき、CaCl2法で処理し、用いられる工程は本分野では周知のものである。もう一つの方法は、MgCl2を使用する。必要により、形質転換はエレクトロポレーションの方法でもよい。宿主が真核生物の場合、リン酸カルシウム沈殿法、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションのような通常の機械方法、リポフェクションなどのDNAトランスフェクションの方法が用いられる。
【0156】
得られる形質転換体は通常の方法で培養し、本発明の遺伝子がコードするポリペプチドを発現することができる。用いられる宿主細胞によって、培養に用いられる培地は通常の培地を選んでもよい。宿主細胞の成長に適する条件で培養する。宿主細胞が適当の細胞密度に成長したら,適切な方法(たとえば温度転換もしくは化学誘導)で選んだプロモーターを誘導し、さらに細胞を培養する。
【0157】
上記の方法における組み換えポリペプチドは細胞内または細胞膜で発現し、あるいは細胞外に分泌することができる。必要であれば、その物理・化学的特性およびほかの特性を利用して各種の単離方法で組み換えタンパク質を単離・精製することができる。これらの方法は、本分野の技術者に熟知である。これらの方法の例として、通用の再生処理、タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、遠心、浸透圧ショック、超音波処理、超遠心、分子篩クロマトグラフィー(ゲルろ過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)およびほかの各種の液体クロマトグラフィー技術、ならびにこれらの方法の組合せを含むが、これらに限定されない。
【0158】
得られたモノクローナル抗体は、通常の手段で同定することができる。たとえば、モノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降、あるいは体外結合試験(たとえば放射免疫測定(RIA)または酵素結合免疫吸着測定(ELISA))で測定することができる。
【0159】
本発明の抗体は単独に使用してもよく、検出可能ななマーカー(診断目的)、治療剤、PK(タンパク質キナーゼ)修飾部分またはこれらの任意の組み合わせと結合またはカップリングしてもよい。
【0160】
診断の目的に使用される検出可能なマーカーは、蛍光または発光マーカー、放射性マーカー、MRI(磁気共鳴画像)またはCT(コンピューターX線断層撮影技術)造影剤、または検出可能な生成物を生成させる酵素を含むが、これらに限定されない。
【0161】
カップリングすることができる治療剤は、インスリン、IL-2、インターフェロン、カルシトニン、GHRHペプチド、腸管ペプチド類似体、アルブミン、抗体断片、サイトカインやホルモンを含むが、これらに限定されない。
【0162】
また、本発明の抗体と結合またはカップリングすることができる治療剤は、1.放射性核種、2.生物毒素、3.サイトカイン、たとえばIL-2など、4.金ナノ粒子/ナノロッド、5.ウイルス粒子、6.リポソーム、7.磁性ナノ粒子、8.プロドラッグ活性化酵素、10.化学治療剤(たとえば、シスプラチン)または任意の様態のナノ粒子などを含むが、これらに限定されない。
【0163】
薬物組成物
さらに、本発明は組成物を提供する。好適な例において、前記の組成物は薬物組成物で、上記の抗体またはその活性断片あるいはその融合タンパク質またはそのADCまたは相応するCAR-T細胞と、薬学的に許容される担体とを含有する。通常、これらの物質を無毒で不活性で薬学的に許容される水系担体で配合し、pH値は配合される物質の性質および治療しようとする疾患にもよるが、pH値は通常5~8程度、好ましくは6~8程度である。配合された薬物組成物は通常の経路で給与することができ、腫瘍内、腹膜内、静脈内、あるいは局部給与が含まれるが、これらに限定されない。
【0164】
本発明に係る抗体は、ヌクレオチド配列によって細胞内で発現されて細胞治療に使用してもよく、たとえば、前記抗体はキメラ抗原受容体T細胞免疫療法(CAR-T)などに使用することができる。
【0165】
本発明の薬物組成物は直接PD-L1タンパク質分子との結合に使用することができるため、PD-L1関連疾患の予防および治療に有用である。また、ほかの治療剤と併用してもよい。
【0166】
本発明の薬物組成物は、安全有効量(たとえば0.001~99wt%、好ましくは0.01~90wt%、より好ましくは0.1~80wt%)の本発明の上記のモノクローナル抗体(またはその複合体)と薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む。このような担体は、食塩水、緩衝液、ブドウ糖、水、グリセリン、エタノール、およびこれらの組み合せを含むが、これらに限定されない。薬物の製剤は投与形態に相応する。本発明の薬物組成物は、注射剤としてもよく、たとえば生理食塩水またはブドウ糖およびほかの助剤を含有する水溶液で通常の方法によって製造することができる。薬物組成物は、注射剤、溶液の場合、無菌条件で製造する。活性成分の投与量は治療有効量、たとえば毎日約1μg/kg体重~約5mg/kg体重である。また、本発明のポリペプチドはほかの治療剤と併用することが出来る。
【0167】
薬物組成物の使用時、安全有効量の薬物組成物を哺乳動物に施用するが、その安全有効量は、通常、少なくとも約10μg/kg体重で、かつ多くの場合、約50mg/kg体重未満で、好ましくは当該投与量が約10μg/kg体重~約20mg/kg体重である。勿論、具体的な投与量は、さらに投与の様態、患者の健康状況などの要素を考えるべきで、すべて熟練の医者の技能範囲以内である。
【0168】
検出用途およびキット
本発明の抗体は検出に有用で、たとえば検体を検出することによって診断情報を提供することができる。
【0169】
本発明において、使用される検体(サンプル)は細胞、組織検体および生検標本を含む。本発明で用いられる用語「生検」は当業者に既知のすべての種類の生検を含む。そのため、本発明で使用される生検は、たとえば内視鏡方法あるいは器官の穿刺または針刺しによって調製された組織検体を含む。
【0170】
本発明で使用される検体は固定または保存された細胞または組織検体を含む。
【0171】
また、本発明は、本発明の抗体(またはその断片)を含有するキットを提供するが、本発明の一つの好適な例において、前記のキットはさらに容器、使用説明書、緩衝液などを含む。好適な例において、本発明の抗体は検出プレートに固定されてもよい。
【0172】
癌
本発明のPD-L1結合分子のPD-L1に対する遮断は患者における癌細胞に対する免疫応答を増強することができる。PD-L1は多くのヒトの癌において大量に存在する(Dongら,(2002) Nat Med. 8: 78 7-9) 。PD-1とPD-L1の相互作用により、腫瘍に浸潤するリンパ球が減少し、T細胞受容体が仲介する増殖が減少し、そして癌細胞の免疫逃避が生じる。CN106397592Aの明細書16/31頁(Dongら,(2003)J Mol Med 81:281-7;Konishiら,(2004)Clin Cancer Res 10:5094-5100)。PD-L1とPD-1の局部における相互作用に対する抑制は免疫抑制を逆転させることができ、PD-L2とPD-1の相互作用も遮断されると、効果が協同のものになる(Iwaiら,(2002)PNAS 99 :12293-7;Brownら,(2003) J Immunol 170: 1257-66)。本発明のPD-L1結合分子は単独で使用することにより、癌性腫瘍の生長を抑制してもよい。あるいは、後記のように、本発明のPD-L1結合分子はほかの抗腫瘍の治療手段、たとえばほかの免疫原性剤、標準の癌療法またはほかの抗体分子と併用してもよい。
【0173】
そのため、一つの実施形態において、本発明は、癌を予防および/または治療する方法であって、対象に治療有効量の本発明のPD-L1結合分子を施用し、対象における腫瘍細胞の生長を抑制することを含む方法を提供する。
【0174】
本発明のPD-L1結合分子によって予防および/または治療することができる好適な癌は通常免疫治療に応答する癌を含む。治療できる好適な癌の非限定的な例は、肺癌、卵巣癌、結腸癌、直腸癌、メラノーマ(たとえば転移した悪性メラノーマ)、腎臓癌、膀胱癌、乳癌、肝臓癌、リンパ腫、悪性血液病、頭頚部癌、膠細胞腫、胃癌、鼻咽頭癌、喉頭癌、子宮頚癌、子宮体腫および骨肉腫を含む。本発明の方法によって治療できるほかの癌の例は、骨癌、膜腺癌、皮膚癌、前立腺癌、皮膚または眼内悪性メラノーマ、子宮癌、肛門部癌、睾丸癌、卵管癌、子宮内膜癌、膣癌、外陰癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、食道癌、小腸癌、内分泌系癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、急性骨髄球性白血病、慢性骨髄球性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病を含む慢性または急性白血病、小児固形腫瘍、リンパ性リンパ腫、膀胱癌、腎臓または尿管癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)腫瘍、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管生成、脊柱腫瘍、脳幹グリオーマ、下垂体腺腫、カポジ肉腫、類表皮癌、扁平上皮癌、T細胞性リンパ腫、アスベストに誘発される癌を含む環境に誘発される癌、および前記癌の組み合わせを含む。本発明は転移性癌、特にPD-L1を発現する転移性癌も治療することができる(Iwaiら,(2005) Int Immunol 17: 133-144) 。
【0175】
任意に、本発明のPD-L1結合分子は免疫原性剤、たとえば癌細胞、精製された腫瘍抗原(組み換えタンパク質、ペプチドおよび炭水化物分子を含む)、免疫刺激サイトカインをコードする遺伝子で形質移入された細胞と併用してもよい(Heら,(2004) J. Immunol 173 :4919-28) 。使用できる免疫原性剤の非限定的な実例は、メラノーマ抗原のペプチド、たとえばgp100のペプチド、MAGE抗原、Trp-2、MART1および/またはチロシナーゼ、あるいは形質移入されてサイトカインGM-CSFを発現する腫瘍細胞を含む。
【0176】
ヒトにおいて、一部の腫瘍、たとえばメラノーマは免疫原性のものであることが明らかになった。本発明のPD-L1結合分子でPD-L1を遮断することによってT細胞の活性化を促進すると、宿主における腫瘍に対する応答を作動させることが予想される。腫瘍接種案と併用する場合、PD-L1遮断剤(たとえば本発明のPD-L1結合分子のような抗PD-L1抗体)が最も有効かもしれない。既に腫瘍接種に関する多くの実験案が設計されている(Rosenberg,S,2000,Developmentof Cancer Vaccines,ASCO Educational Book Spring:60-62;Logothetis,C,2000,ASCOEducational Book Spring :300-302;Khayat,D,2000,ASCO Educational Book Spring:414-428;Foon, K. 2000,ASCO Educational Book Spring:730-738などを参照する)。これらの案の一つにおいて、自家または他家の腫瘍細胞でワクチンを製造する。腫瘍細胞が形質導入されてGM-CSFを発現する場合、これらの細胞ワクチンが最も有効であることが既に証明されている。GM-CSFは腫瘍接種の抗原提示のための強力な作動剤であることが示された(Dranoffら,(1993)Proa Nat l.Acad. Sci U. S.A.90:3539-43)。
【0177】
様々な腫瘍における遺伝子発現および大規模な遺伝子発現パターンの研究では、多くのいわゆる腫瘍特異性抗原が同定された(Rosenberg,SA (1999) Immunity 10:281-7)。多くの場合、これらの腫瘍特異性抗原は腫瘍および腫瘍が発生する細胞において発現される分化抗原で、たとえばgp100、MAGE抗原およびTrp-2がある。より重要なのは、これらの抗原の多くは宿主で見られる腫瘍特異性T細胞の標的であることを証明することである。本発明のPD-L1結合分子は組み換えによる腫瘍特異性タンパク質および/またはペプチドと組み合わせて使用することにより、これらのタンパク質に対する免疫応答を起こすことができる。これらのタンパク質は、正常の場合、免疫系に自身の抗原と見なされるため、それに対する耐性がある。腫瘍抗原はタンパク質テロメラーゼを含んでもよく、当該酵素は染色体のテロメア合成に必要で、かつ85%以上のヒト癌において発現されるが、限られた数の自身の組織において発現される(Kim,Nら,(1 994) Science 266:2011-2013)。腫瘍抗原は癌細胞で発現される「新たな抗原」でもよいが、たとえば体細胞の突然変異によるタンパク質配列や2種類の無関連配列の融合タンパク質がある(たとえば、フィラデルフィア染色体におけるbcr-abl)。
【0178】
ほかの腫瘍ワクチンはヒト癌に関連するウイルス、たとえばヒトパピローマウイルス(HPV)、肝炎ウイルス(HBVおよびHCV)およびカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KHSV)由来のタンパク質を含んでもよい。PD-L1遮断剤(たとえば本発明のPD-L1結合分子のような抗PD-L1抗体)と併用できる別の形態の腫瘍特異性抗原は腫瘍組織そのものから分離・精製された熱ショックタンパク質(HSP)である。これらの熱ショックタンパク質は腫瘍細胞からのタンパク質の断片を含み、これらのHSPは抗原提示細胞に提示して腫瘍免疫を起こす面において非常に有効である(Suot,RとSri vastava,P(1995) Science 269: 1585-1588 ;Tamura, Y.ら,(1997)Science 278:117-120) 。
【0179】
樹状細胞(DC)は強力な抗原提示細胞で、抗原特異性応答を起こすのに使用することができる。DCは体外で生成することができ、そして様々なタンパク質とペプチド抗原および腫瘍細胞抽出物を持っている(Nestle,F.ら,(1998)Nature Medicine 4 :328-332)。DCは遺伝手段によって形質導入することで、これらの腫瘍抗原を発現させることもできる。免疫のためにDCを直接腫瘍細胞と融合させたものがあった(Kugler,A.ら,(2000)Nature Medicine 6 :332-336)。接種方法として、DC免疫はPD-L1遮断剤(たとえば本発明のPD-L1結合分子のような抗PD-L1抗体)と有効に組み合わせることで、より強い抗腫瘍応答を作動させることができる。
【0180】
CAR-Tは、全称がキメラ抗原受容体T細胞免疫療法(Chimeric Antigen Receptor T-Cell Immunotherapy)で、もう一つの有効な悪性腫瘍の細胞治療方法である。キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)は、ある腫瘍抗原を認識する抗体の抗原結合部とCD3-ζ鎖またはFcεRIγの細胞内部分が体外でカップリングしてなるキメラタンパク質で、遺伝子形質導入の方法によって患者のT細胞に形質移入し、キメラ抗原受容体(CAR)を発現させる。同時に、共刺激分子シグナル配列を導入することによってT細胞の細胞毒活性、増殖性および生存時間を向上させ、サイトカインの放出を促進することもできる。患者のT細胞が「再コード」されると、体外で増幅して大量の腫瘍特異性のCAR-T細胞を生成して患者の体内に戻し、腫瘍治療の目的を実現させることができる。PD-L1遮断剤(たとえば本発明のPD-L1結合分子のような抗PD-L1抗体)はCAR-T細胞療法と併用し、より強い抗腫瘍応答を作動させることができる。
【0181】
本発明のPD-L1結合分子は、標準の癌治療と組み合わせることもできる。本発明のPD-L1結合分子は、化学治療案と有効に組み合わせることができる。これらの例において、施用される化学治療剤の投与量を減少することができる(Mokyr,M.ら,(1998)Cancer Research 58 :5301-5304)。このような組み合わせの一つの例は抗PD-L1抗体をダカルバジンと併用してメラノーマを治療するものである。このような組み合わせのもう一つの実例は抗PD-L1抗体をインターロイキン-2(IL-2)と併用してメラノーマを治療するものである。本発明のPD-L1結合分子と化学治療法の併用の科学原理は細胞死で、これは多くの化学治療化合物の細胞毒性作用の結果で、抗原提示経路における腫瘍抗原レベルの向上につながる。細胞死を通してPD-L1による遮断と協同作用できるほかの併用の治療は放射線治療、手術およびホルモン除去がある。これらの案のいずれでも、宿主において腫瘍抗原の元が生成する。血管生成抑制剤も本発明のPD-L1結合分子と組み合わせることができる。血管生成の抑制は腫瘍細胞の死亡につながり、これは腫瘍抗原を宿主の抗原提示経路に提供することができる。
【0182】
また、本発明のPD-L1結合分子は、ほかの腫瘍特異性抗原を標的とする抗体と併用することもできる。前記ほかの腫瘍特異性抗原を標的とする抗体は、抗EGFR抗体、抗EGFRバリアントの抗体、抗VEGFa抗体、抗HER2抗体、または抗CMET抗体を含むが、これらに限定されない。好ましくは、前記抗体はモノクローナル抗体である。
【0183】
本発明のPD-L1結合分子は、FcαまたはFcγ受容体を発現するエフェクター細胞を腫瘍細胞へターゲティングさせる二重特異性抗原と併用することもできる(たとえばUS特許番号5,922,845および5,837,243を参照する)。二重特異性抗体で2つの異なる抗原を標的としてもよい。たとえば、抗Fc受容体/抗腫瘍抗原(たとえばHer-2/neu)の二重特異性抗体でマクロファージを腫瘍部位へターゲティングさせる。このようなターゲティングはより有効に腫瘍特異性応答を活性化させることができる。PD-L1遮断剤を使用すると、これらの応答のT細胞のほうを強化することができる。あるいは、腫瘍抗原および樹状細胞特異性細胞表面マーカーに結合する二重特異性抗体で抗原を直接DCに送達することができる。
【0184】
腫瘍は多くの機序を通して宿主の免疫監視から逃避する。ここで、多くの機序は腫瘍で発現される免疫抑制性タンパク質を不活性化させることによって克服することができる。とりわけ、TGF-β(KehrL.ら,(1986). Exp. Med. 163 :1037-1050)、IL-10(Howard,M.とGarra, A. (1992) Immunology Today 13: 198-200)およびFasリガンド(Hahne,M.ら,(1996)Science 274 :1363-1365)を含む。ここで、各抗体は本発明のPD-L1結合分子と併用することにより、免疫抑制剤の作用に抵抗することができ、そして宿主の腫瘍免疫応答に有利である。
【0185】
宿主の免疫応答を活性化させるためのほかの抗体は本発明のPD-L1結合分子と併用することができる。抗CD40抗体は有効にT細胞補助活性に代用することができ(Ridge.ら,(1 998) Nature 393:474-478)、そして本発明のPD-L1結合分子と併用することができる。T細胞の活性化レベルを向上させるために、T細胞共刺激分子、たとえばOX-40やICOSに対する活性化抗体および陰性共刺激分子、たとえばCTLA-4の活性を遮断する抗体を併用してもよい。
【0186】
骨髄移植は、現在、造血由来の多くの腫瘍の治療に使用される。移植片対宿主病はこのような治療の一つの結果で、移植片の抗腫瘍に対する応答は治療性の利点を得ることができる。PD-L1遮断剤で腫瘍特異性T細胞の有効性を向上させることができる。抗原特異性T細胞のインビトロ活性化と増幅およびこれらの細胞の受容体内への養子移入に関する実験治療案もいくつかあり、抗原特異性T細胞で抗腫瘍に抵抗する。これらの方法もT細胞の伝染源、たとえばCMVに対する応答を活性化させることができる。本発明のPD-L1結合分子の存在下においてインビトロで活性化すると、養子移入のT細胞の頻度と活性を向上させることが予想される。そのため、本発明は、インビトロで免疫細胞(たとえばPBMCまたはT細胞)を活性化させる方法であって、前記免疫細胞を本発明のPD-L1結合分子と接触させることを含む方法も提供する。
【0187】
感染性疾患
本発明のほかの方法は、特定の毒素または病原体に露出する患者の治療に使用される。そのため、本発明のもう一つの側面では、対象における感染性疾患を予防および/または治療する方法であって、当該対象に本発明のPD-L1結合分子を施用し、前記対象の感染性疾患を予防および/または治療することを含む方法を提供する。
【0188】
上記のような腫瘍に対する使用と同様に、PD-L1遮断剤は単独で使用してもよく、あるいはアジュバントとしてワクチンと組み合わせて使用して病原体、毒素および自身の抗原に対する免疫応答を刺激してもよい。特に当該治療方法が使用できる病原体の実例は、有効なワクチンが現存しない病原体、または通常のワクチンが完全に有効ではない病原体を含む。ここで、HIV、肝炎ウイルス(A、B、C)、インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス、ランブル鞭毛虫、マラリア、リーシュマニア、黄色ブドウ球菌、緑膿菌を含むが、これらに限定されない。PD-L1遮断剤は、特に、たとえばHIVなどの病原体が確立した感染に有用で、感染の過程において変化した抗原が現れる。抗ヒトPD-L1抗体を投与する場合、これらの新たなエピトープが外来物質として認識されることで、PD-L1の負シグナルに影響されない、強力なT細胞の応答を起こす。
【0189】
本発明の方法によって治療できる感染性疾患を起こす病原体ウイルスの一部の実例は、HIV、肝炎ウイルス(A、B、C)、ヘルペスウイルス(たとえばVZV 、HSV-L、HAV-6、HSV-IIおよびCMV 、EBウイルス)、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、アルボウイルス、エコーウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルス、コロナウイルス、呼吸器多核体ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、ロタウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、パルボウイルス、ワクシニアウイルス、HTLVウイルス、デングウイルス、パピローマウイルス、軟疣腫ウイルス、ポリオウイルス、狂犬病ウイルス、JCウイルスおよびアルボウイルス脳炎ウイルスを含む。
【0190】
本発明の方法によって治療できる感染性疾患を起こす病原体細菌の一部の実例は、クラミジア、リケッチア菌、マイコバクテリウム菌、ブドウ球菌、レンサ球菌、肺炎球菌、髄膜炎菌および淋菌、クレブシエラ菌、プロテオバクテリア菌、灰色かび病菌、緑膿菌、レジオネラ菌、ジフテリア菌、サルモネラ菌、バシラス菌、コレラ菌、破傷風菌、ボツリヌス菌、炭疽菌、ペスト菌、レプトスピラ、およびスピロヘータ菌を含む。
【0191】
自己免疫反応
抗PD-L1抗体は自己免疫応答を起こして増幅することができる。そのため、抗PD-L1抗体で多くの自己タンパク質と併用して接種案を設計し、有効にこれらの自己タンパク質に対する免疫応答を起こし、疾患の治療に使用することが考えられる。
【0192】
慢性炎症性疾患
抗PD-L1抗体は、たとえば扁平苔癬、T細胞が仲介する慢性炎症性皮膚粘膜病などの慢性炎症性疾患のような疾患の治療に使用することができる。そのため、一つの側面では、本発明は、T細胞で慢性炎症性疾患を除去する方法であって、対象に本発明のPD-L1結合分子を施用することを含む方法を提供する。本発明は、抗PD-L1抗体および眼部疾患、自己免疫疾患の治療におけるその使用を提供する。前記の疾患は、乾癬、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、多発性硬化症、炎症性腸疾患(たとえばクローン病、潰瘍性大腸炎など)、骨関節炎、関節リウマチ(RA)、リウマチ性関節炎または骨粗鬆症、炎症性線維化(たとえば強皮症、肺線維化および硬変)、喘息(アレルギー性喘息を)、アレルギー反応および癌を含むが、これらに限定されない。
【0193】
本発明の主な利点
(a) 本発明の抗体は優れた生物活性および特異性を有する。
(b) マウス由来抗体およびキメラ抗体と比べ、本発明のヒト化抗体はPD-L1に相当する親和力を維持しながら、より低い免疫原性を有する。
(c) 本発明の抗体のPD-L1に対する遮断は患者における癌細胞に対する免疫応答を顕著に増強することができる。
(d) 本発明の抗体と一部のヒト以外の哺乳動物(たとえばサル)のPD-L1はヒトPD-L1に相当する親和力を有することで、動物モデルにおいてテストおよび品質管理の検出を行うことが便利である。
(e) 本発明の抗体はPD-L1の免疫細胞(たとえばT細胞)活性に対する抑制を解消することにより、有効に抗原特異性T細胞の活性を活性化させ、T細胞の抗腫瘍作用を顕著に増強することができ、そしてヒトIFN-γおよびIL-2の分泌に対する刺激がより有効であることで、患者自身の腫瘍に対する免疫系の反応を向上させ、腫瘍細胞を殺傷する目的を果たす。
【0194】
以下、具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。下記実施例で具体的な条件が示されていない実験方法は、通常、たとえばSambrookら、「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」(ニューヨーク、コールド・スプリング・ハーバー研究所出版社、1989) に記載の条件などの通常の条件に、あるいは、メーカーのお薦めの条件に従う。特に説明しない限り、百分率および部は重量百分率および重量部である。
【0195】
本発明の実施例またはテスト例において、具体的な条件が記載されていない実験は、通常、通常の条件、あるいは原料/商品のメーカーの薦めの条件で行われ、具体的な由来が記載されていない試薬は、市場から購入された通常の試薬である。
【実施例】
【0196】
実施例1 抗ヒトPD-L1のマウスモノクローナル抗体の製造方法
マウス由来モノクローナル抗体を製造する方法はKohlerとMilsteinによって1975年に発明されたハイブリドーマ製造技術が使用された(Nature,1975,256:495-497)。まず、ヒトPD-L1-Hisタンパク質(Sino Biological, #10084-H08H)をフロイントアジュバントと乳化し、さらにBALB/c、CD1、C57BL/6、SJLの各系のそれぞれ5匹のマウスに対して複数の箇所で皮下免疫を行った。3回の免疫後、血清を取ってELISA法によって力価を検出し、力価が所定の標準に達すると、脾臓細胞を取ってSP2/0骨髄腫細胞と融合させた。HATによってハイブリドーマのポリクローナル細胞をスクリーニングし、ELISA方法を使用し、特異的にヒトPD-L1と結合するポリクローナル細胞株をスクリーニングした後、モノクローナル化し、さらにELISA方法によって特異的に結合するモノクローナル細胞株をスクリーニングし、そしてサルPD-L1との結合力を検出し、ES-2細胞でFACSスクリーニングを行い、選ばれたモノクローナル細胞株に対して親和力(SPR)スクリーニングを行い、最終的にヒトPD-L1抗体を発現するモノクローナルハイブリドーマ細胞36C06/D8をえたが、スクリーニングデータを表1に示す。
【0197】
【0198】
表1から、スクリーニング後、多くのハイブリドーマのうち、ハイブリドーマ36C06/D8(またはそれによる抗体)はヒトPD-L1タンパク質およびサルPD-L1タンパク質のいずれとも高い結合活性を有し、かつ細胞結合レベルにおける親和力活性が最も高かったことがわかる。
【0199】
実施例2 抗PD-L1抗体のV-遺伝子配列のクローニングおよびヒト化
2.1 ハイブリドーマ細胞における免疫グロブリンのcDNA配列のクローニング
タカラバイオの5’RACE技術原理に基づき、ハイブリドーマ36C06/D8によって発現されるマウス抗体の可変領域をコードするDNA配列を測定した。つまり、SMART 5’RACE合成キット(TAKARA、#634859)を使用してメーカーの使用説明に従って重鎖および軽鎖の遺伝子特異性cDNAを製造した。アガロースゲル電気泳動によってPCR産物を分析した。重鎖と軽鎖の両者の可変領域の増幅の予想の大きさは約500 bpである。反応で得られたバンドの大きさに適するPCR増幅産物をベクターpEASY-Blunt Simple vector(TransGen Biotech、#CB111-02)にクローニングし、そしてStellar大腸菌の感受性細胞(TAKARA、#636763)に形質転換させた。汎用のM13フォワードまたはリバースプライマーを使用した集落PCRによってクローンをスクリーニングし、各反応からクローンを2~3個選択してDNAシークエンシング分析に使用した。Expasy-translate tool(http://web.expasy.org/translate/)によって各クローンの各シークエンシングの反応結果を分析した。シークエンシングの結果から、36C06/D8によって発現される抗PD-L1抗体のV領域の配列が以下の通りであることが示された。
【0200】
900289-VH 配列番号1
QVQLQQSGAELVKPGASVKLSCKASGYAFTGYTIHWVKQRSGLGLEWLGWFYPGSGTLKYNEKFKDKATLTADKSSSTVYLELSRLTSEDSAVYFCARHGTGTLMAMDYWGQGTSVTVSS
900289-VL 配列番号2
DVVVTQTPLSLPVSFGDQVSISCRSSQSLANSYGNTYLSWYLHKPGQSPQLLIYGISNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISTIKPEDLGMYYCLQGTHQPPTFGGGTKLEIK
ここで、下線の領域はCDRである(IMGT定義で、それぞれ以下の通りである)。
【0201】
【0202】
2.2 キメラ900289抗体の構築と発現
PCRによってクローニングされたマウス36C06/D8のVHとVL領域のcDNAをそれぞれヒトIgG1およびk定常領域と連結することで、キメラ重鎖と軽鎖を構築した。PCRプライマーでマウスcDNA配列の5’と3’末端を修飾し、前記プライマーは各鎖に適切なリード配列が加わり、そして既存の組み換え抗体がクローニングで得られる発現ベクターpHB-Fcにおける制限部位が加わるように設計された。pHB-Fcプラスミドベクターの製造方法は以下の通りである。pcDNA/HA-FLAG(Accession、#FJ524378)ベクターを出発プラスミドとし、制限酵素EcoRIの下流にヒトIgG1またはkの定常領域の配列を付加し、制限酵素HindIIIの上流にヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のプロモーター配列(Accession、#X17403)を付加し、アンピシリン耐性遺伝子の下流で、HCMVプロモーターの上流にチャイニーズハムスターグルタミン合成酵素遺伝子(Accession、X03495)を加えた。
【0203】
タンパク質の発現に使用される宿主細胞はCHO-O細胞である(サーモフィッシャー、#R80007)。キメラ抗体の重鎖・軽鎖を発現するベクターをポリエーテルイミド(PEI)と混合してリポソーム複合体を形成した後、CHO-S細胞に形質移入させた。インキュベーターに入れて3~5日培養した。間接ELISAによってCHO-S形質移入上清液からの抗体濃度を測定した。これは形質移入されたCHO-S細胞が約60 mg/LのキメラIgG1-k抗体(後記で900289と記載することもある)を分泌したことを示した。
【0204】
2.3 マウス由来抗ヒトPD-L1抗体のヒト化--ヒト化抗体の製造方法
抗体のヒト化は以下の方法が使用された。抗体の可変領域の配列をNCBIタンパク質データベースにおける使用可能な配列と比較し、同定および分析により、最終的にCDR移植重鎖と軽鎖の構築に適するヒトフレームワーク領域が確認された。
【0205】
改造時、ヒト抗体のFR領域の保存的なアミノ酸残基および抗体のFR領域における重要なアミノ酸残基に応じ、改造部位を設計し、キメラ抗体の重鎖と軽鎖の可変領域に対してそれぞれヒト化突然変異の設計を行い、PCR技術によって増幅してヒト化点突然変異抗体の発現プラスミドを構築した。ヒト化点突然変異抗体の発現プラスミドをそれぞれCHO-S細胞によって発現させ、精製後、ヒト化抗体のタンパク質を得た。ELISA、受容体結合抑制実験、Biacoreおよび細胞活性検出などを使用し、性能が非常に優れたヒト化PD-L1モノクローナル抗体(後記で900339と記載することもある)を得た。得られたヒト化PD-L1抗体のVHとVLの配列はそれぞれ配列番号8と9で示される。
【0206】
900339-VH 配列番号8
QVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYAFTGYTIHWVRQAPGQRLEWMGWFYPGSGTLKYSEKFQGRVTITRDKSLSTAYMELSSLRSEDTAVYYCARHGTGTLMAMDYWGQGTLVTVSS
900339-VL 配列番号9
DVVMTQTPLSLSVTPGQPASISCKSSQSLANSYGNTYLSWYLHKPGQSPQLLIYGISNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDVGVYYCLQGTHQPPTFGQGTKLEIK
【0207】
実施例3:キメラ抗体およびヒト化抗体の機能の同定
3.1 PD-L1抗体の異なる種由来のPD-L1タンパク質に対する結合特異性の測定(ELISA)
3.1.1 キメラ抗体900289、ヒト化抗体900339および対照huIgG1(900201)とヒトPD-L1タンパク質の結合活性の測定
具体的に、huPD-L1-hisタンパク質(Sino Biologicalから購入、#10084-H08H)を1 μg/ml、50μl/ウェルでマイクロプレートに入れ、2~8℃で12時間以上コーティングさせてプレートコーティング残留液を捨て、3%牛乳を200μL/ウェル入れ、室温で1時間ブロッキングした。各ウェルに200μL以上のPBSTを入れて1回洗浄し、被験抗体サンプルを100μg/mlに希釈し、さらに5倍希釈で11段階の勾配にし、100μL/ウェルでマイクロプレートに入れた。室温で1時間インキュベートした後、各ウェルに200μL以下のPBSTを入れ、4回洗浄した後、3%牛乳-PBSTを入れて25000倍に希釈したHRP結合ウサギ抗ヒトIgG Fc抗体(Luoyang Baiaotong Experimental Materials Center、#C030222)を、100μL/ウェルで仕込んだ。室温で1時間インキュベートした後、各ウェルに200μL以下のPBSTを入れ、6回洗浄し、乾燥した。TMB呈色液を100μL/ウェル入れた。室温で5分間反応させた後、2M H2SO4を50μL/ウェル入れて反応を停止させた。反応を停止させたマイクロプレートをマイクロプレートリーダーにセットし、波長450 nmで吸光度OD450値を読み取った。
【0208】
結果(表3を参照する)から、キメラ抗体900289およびヒト化抗体900339はいずれもヒト由来PD-L1タンパク質に良い結合力を有することが示された。
【0209】
【0210】
3.1.2 キメラ抗体900289、ヒト化抗体900339および対照huIgG1とサルまたはマウスPD-L1タンパク質の結合活性の測定
実験方法はヒトPD-L1結合実験の測定に類似する。テスト例において、huPD-L1-hisをrhPD-L1-hisタンパク質(Sino Biological、#90251-C08H)またはmoPD-L1-his蛋白(Sino Biological、#50010-M8H)に変更した以外、ほかの工程は同様である。
【0211】
結果(表4を参照する)から、キメラ抗体900289およびヒト化抗体900339はサルPD-L1タンパク質と結合したが、マウスPD-L1タンパク質と結合しなかったか、結合力が弱かったことが示された。
【0212】
【0213】
3.2 キメラ抗体およびヒト化抗体のヒト由来PD-L1に対する親和力の測定(Biacore)
本試験では、SPR方法によって抗体-抗原結合の動態学および親和力を測定した。
【0214】
ヒト抗体捕獲キット(Human Antibody Captrue Kit、GE、#BR-1008-39)およびアミノカップリングキット(GE、BR-1000-50)でカップリング法によって抗ヒト捕獲CM5チップ(GE、#BR-1005-30)を用意した。チップを室温で20~30min平衡化し、Biacore 8K装置に入れた。平衡緩衝液でB5D1を実験操作濃度に希釈した。抗原を平衡緩衝液で50nMに希釈し、さらに3倍希釈で7濃度の勾配にし、そして2つのゼロ濃度(すなわち、平衡緩衝液)および1つの重複濃度(一般的に、最低濃度の重複)を設けた。抗体、抗原huPD-L1(Sino Biological、#10084-H08H)、再生の順で、循環して繰り返し、10の抗原濃度(2つのゼロ濃度、7つの勾配濃度および1つの重複濃度)に対して実験分析を行い、抗原の仕込み流速が30μL/分間で、結合時間が120秒で、解離時間が600秒であった。分析完了後、相応する分析プログラムによってデータを分析したところ、顕著な参照結合(reference binding)がなく、動態学(Kinetics)、1:1結合モデル(binding model)を選択し、データをフィッティングし、ヒト-マウスキメラ抗体およびヒト化抗体の動態学の関連パラメーターKa、KdおよびKD値を得た(表5)。
【0215】
結果から、ヒト化抗体900339およびキメラ抗体900289はいずれも強い親和力を有し、両者の結合力が相同のレベルにあることが示された。
【0216】
【0217】
3.3 PD-L1抗体のPD-L1抗原とPD-1分子の結合に対する遮断を測定する実験(競争法)
抗原huPD-L1-moFc(800023、Huabo Biopharm)を1%BSAを含有するPBS溶液(1%BSA/PBS)で15μg/mlに希釈し、20μL/ウェルで96ウェルU型プレートに入れ、段階希釈された抗PD-L1抗体と体積比1:1で均一に混合し、室温で15min反応させ、同期に陰性対照(1%BSA/PBS添加のみ)、陽性対照(PD-L1-moFc添加のみ)を設けた。対数期にあるヒトPD-1を発現する細胞(3C2-huPD-1-6F4、Huabo Biopharm)懸濁液を取り、遠心(1000rpm×5min)で培養液を捨て、1%BSA/PBSで生細胞密度が1×106/mLになるように再懸濁させ、20μL/ウェル(2×104個細胞)でPD-L1-moFcと抗PD-L1抗体で予備インキュベートされた96ウェルU型プレートに入れて室温で15min反応させた。反応後の96ウェルU型プレートを1%BSA/PBSで再懸濁させ、遠心(300g×3min)で上層液を捨て、このように2回洗浄し、1:300で希釈されたAlexa488-ヒツジ抗マウス-Fc(Jackson ImmunoResearch、#115-545-071)を入れ、室温で光を避けて15min反応させた。反応後の96ウェルU型プレートを1%BSA/PBSで再懸濁させ、遠心(300g×3min)で上層液を捨て、このように3回洗浄し、最終的に100μL/ウェルの1%BSA/PBSで再懸濁させ、フローサイトメーター(BD、#Accuri C6)によって第1チャネルの蛍光強度を検出した。
【0218】
結果(表6を参照する)から、キメラ抗体900289およびヒト化抗体900339はいずれもヒトPD-L1/PD-1に対して顕著な遮断作用を有し、かつ遮断作用力が相当することが示された。
【0219】
【0220】
3.4 キメラ抗体およびヒト化抗体の非特異性結合実験の同定(SPR)
本試験では、SPR方法によって抗体と非標的分子の非特異性吸着効果を測定した。
【0221】
シリーズSセンサーチップCM5(GE、#BR-1005-30)チップを室温で20~30min平衡化し、Biacore 8K(GE)装置にセットした。アミノカップリングキット(GE、#BR-1000-50)でタマゴからのリゾチーム溶液(Sigma、#L3790)およびダイズからのトリプターゼ阻害剤1-S型(Sigma、#T-2327)をそれぞれCM5チップに固定化させた。仕込み緩衝液はHBS-EP(1X)(GE、#BR-1006-69)で、4つの平衡化サイクルを設けた。平衡緩衝液でポリクローナルウサギ抗リゾチーム(ABcam、Ab391)、抗トリプシン阻害剤抗体(LifeSpan Biosciences、#LS-C76609)、キメラ抗体およびヒト化抗体を1000 nMに希釈し、流速5μL/min、仕込みチャネル1、2および3、フローセル(Flow Cell)1および2と設定した。結合時間は10minで、解離時間は15minである。再生流速50μL/minで、まず0.85%リン酸溶液(ProteOn、176-2260)で60s再生させ、さらに50mM水酸化ナトリウム溶液で30s再生させた。
【0222】
結果(表7を参照する)から、キメラ抗体900289およびヒト化抗体900339はいずれも顕著な非特異性の静電気および疎水結合作用がなかったことが示された。
【0223】
【0224】
3.5 キメラ抗体およびヒト化抗体のPBMCに対する活性化作用
無菌の状態において、1μg/mlの被験抗体を1μg/ml抗ヒトCD3抗体(BioLegend、#300314)と併用して96ウェル細胞培養プレートに、200μL/ウェルで2~8℃で一晩コーティングさせた。翌日に、コーティング液を捨て、PBSで2回洗浄した後、ピペットでウェル内に残った液体を全部吸い取った。培地でPBMCを生細胞密度が5×105/mLになるように希釈し、200μL/ウェル(1×105個細胞/ウェル)で、コーティングしておいた96ウェル細胞培養プレートに入れ、37℃、5%CO2の条件において5日培養した。培養終了後、96ウェル細胞培養プレートを300g×10minで遠心し、ヒトIFN-γ ELISA MAXTM Standardキット(BioLegend、#430101)によって上層細胞培養液におけるヒトIFN-γの分泌量を検出した。
【0225】
結果は
図1に示すように、陰性対照900201と比べ、キメラ抗体900289またはヒト由来抗体900339を入れると、サイトカインIFN-γの分泌に対する刺激がより有効である。
【0226】
3.6 混合リンパ反応におけるキメラ抗体およびヒト化抗体のT細胞に対する活性化作用
EasySepTM Human Monocyte Enrichment Kit without CD16 Depletionキット(STEMCELLTM、#19058)によってPBMCから単核細胞を単離し、ImmunoCultTM Dendritic Cell Culture Kit(STEMCELLTM、#10985)に従って培養し、成熟した樹状細胞を回収して使用に備えた。EasySepTM Human CD4+T Cell Enrichment Kit(STEMCELLTM、#19052)によって別の個体由来のPBMCからCD4+T細胞を単離して使用に備えた。培地で成熟樹状細胞を生細胞密度が2×105/ mLの細胞懸濁液に再懸濁させ、50μL/ウェル(1×104個細胞/ウェル)で96ウェル細胞培養プレートに入れた。同時に、培地でCD4+T細胞を生細胞密度が2×106/ mLの細胞懸濁液に再懸濁させ、50μL/ウェル(1×105個細胞/ウェル)で樹状細胞を含有する96ウェル細胞培養プレートに入れて十分に混合し、MLR反応系を得た。MLR系に最終濃度が1μg/mlになるように抗PD-L1抗体を入れて十分に混合し、37℃、5%CO2の条件において5日培養した。培養終了後、96ウェル細胞培養プレートを300g×10minで遠心し、ヒトIFN-γ ELISA MAXTM Standardキット(BioLegend、#430101)およびヒトIL-2 ELISA MAXTM Standardキット(BioLegend、#431801)によってそれぞれ上層細胞培養液におけるヒトIFN-γおよびIL-2の分泌量を検出した。
【0227】
結果は
図2および
図3に示すように、図における900233は陽性対照であるRocheヒト化PD-L1抗体で、特許US20160319022によって提供されるヒト化配列でクローニングし、そして一過性形質移入して発現させた。結果から、陰性対照900201と比べ、キメラ抗体900289およびヒト化抗体900339はヒトのIFN-γおよびIL-2の分泌に対する刺激がより有効であることが示された。
【0228】
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、当業者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の形態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。
【配列表】