(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】HAPLN1を含む脱毛の予防用または治療用の組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/17 20060101AFI20221128BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20221128BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221128BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20221128BHJP
A61Q 7/00 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
A61K38/17
A61P17/14
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61K8/64
A61Q7/00
(21)【出願番号】P 2021563100
(86)(22)【出願日】2020-04-29
(86)【国際出願番号】 KR2020005703
(87)【国際公開番号】W WO2020222538
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-10-22
(31)【優先権主張番号】10-2019-0050698
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0051429
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519321708
【氏名又は名称】ハプルサイエンス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】テ・キョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヘ・チャン・ハ
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ミン・ジャン
(72)【発明者】
【氏名】イン・チュル・シン
(72)【発明者】
【氏名】ムン・ジュン・バク
(72)【発明者】
【氏名】ダン・ジョウ
【審査官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0128632(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0112019(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 8/00- 8/99
A61P 1/00-43/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸及びプロテオグリカン連結蛋白質1(HAPLN1:hyaluronan and proteoglycan link protein 1)を有効成分として含む、脱毛の予防用または治療用の薬学組成物。
【請求項2】
前記HAPLN1は、不正規(non-canonical)信号伝逹経路を活性化させ、前記不正規信号伝逹経路は、TGF-β蛋白質で活性化されるRas-ERK1/2信号伝逹経路であることを特徴とする請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項3】
前記HAPLN1は、毛母細胞(hair germinal matrix cell)の増殖を促進させ、毛髪を成長させることを特徴とする請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項4】
前記脱毛は、男性型脱毛、女性型脱毛、円形脱毛または休止期性脱毛であることを特徴とする請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項5】
ヒアルロン酸及びプロテオグリカン連結蛋白質1(HAPLN1:hyaluronan and proteoglycan link protein 1)を有効成分として含む、脱毛の予防用または改善用の化粧料組成物。
【請求項6】
前記HAPLN1は、不正規(non-canonical)信号伝逹経路を活性化させ、前記不正規信号伝逹経路は、TGF-β蛋白質で活性化されるRas-ERK1/2信号伝逹経路であることを特徴とする請求項5に記載の化粧料組成物。
【請求項7】
前記HAPLN1は、毛母細胞(hair germinal matrix cell)の増殖を促進させ、毛髪を成長させることを特徴とする請求項5に記載の化粧料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸及びプロテオグリカン連結蛋白質1(HAPLN1:hyaluronan and proteoglycan link protein)を有効成分として含む、脱毛の予防用または治療用の薬学組成物に係り、該HAPLN1蛋白質は、投与時、TGF-β蛋白質で活性化されるERK1/2信号伝逹経路(すなわち、不正規(non-canonical)信号伝逹経路)を介し、毛母細胞の増殖を促進させることにより、毛髪を成長させる。
【背景技術】
【0002】
全世界的に、約3,500万人の男性と、2,500万名の女性とが脱毛で苦痛を受けており、毎年、脱毛患者の数は、増加している。毛髪は、外貌、断熱、頭皮保護、摩擦緩衝のようなさまざまな機能を有する。そのうちでも、毛髪は、特に、自尊感、社会性と直接関連するので、審美的な理由により、多くの人々は、毛髪管理に多大な関心を抱いている。
【0003】
人間の頭髪は、約100,000本の個別毛髪の集合体であり、それぞれの毛髪は、毛嚢(hair follicle)によって生成される。毛嚢は、毛嚢自体、上皮及び皮脂腺を再構成するのに必要な全ての細胞株を生成することができる幹細胞の保存所の役割を行う。毛嚢は、毛乳頭細胞(dermal papilla cell)、毛母細胞(hair germinal matrix cell)、毛嚢細胞の外壁・内壁(outer layer, inner layer)、突出部(bulge)などによって構成されている(
図1)。
【0004】
毛髪は、成長期(anagen)、退化期(catagen)、休止期(telogen)の成長周期を反復する(
図2)。該成長期は、通常、3年間ないし5年間持続され、毛乳頭細胞と毛母細胞とが発達しながら、毛母細胞のケラチノサイト(keratinocyte)が増殖、角質化され、毛髪が成長する段階である。該退化期は、10日間ないし14日間持続され、全般的な毛嚢細胞の細胞死滅(apoptosis)が起こりながら、毛嚢が縮小される段階である。該休止期は、3ヵ月から4ヶ月間の間ほど維持され、毛髪生成が中断された時期であり、毛嚢全体に、新たな細胞を供給し、次の成長期を準備する段階である。
【0005】
毛髪成長周期に関与する信号伝逹経路としては、Wnt、Shh、JAK、TGFβ/BMP、テストステロン(testosterone)などが関与する信号伝逹経路がある。そのうち、Wnt,Shh,JAK信号伝逹経路は、休止期末期に活性化され、成長期への進入を促進させる。
【0006】
そのように、人間の毛髪は、一定毛周期(hair growth cycle)を有しているために、常時一定毛髪数を維持することになる。しかしながら、脱毛が進行されれば、毛根に存在する乳頭が小さくなり、毛乳頭が小さくなれば、頭髪の太さも細くなり、同時に、毛周期も短くなり、新たに育ってきた毛は、さらに細くなってしまう。従って、脱毛が進行されれば、頭髪は、綿毛に変わり、毛周期は、さらに短くなり、若干育った後、抜けてしまう。
脱毛は、大きく見て、男性型脱毛(male-pattern hair loss)、女性型脱毛(female-pattern hair loss)、円形脱毛(alopecia areata)、休止期性脱毛(telogen effluvium)の4種タイプに分けられる。男性型脱毛の原因は、遺伝的な原因が大きく位置しており、5α-還元酵素(5α-reductase)と係わっている。5α-還元酵素は、男性ホルモンのテストステロン(testosterone)を5α-DHT(dihydrotestosterone)に変換させ、DHTは、毛嚢を縮小させて脱毛が誘発される。女性型脱毛の主な原因としては、出産または閉経によるホルモンの均衡の取れていない分泌を挙げることができる。それ以外に、社会生活の精神的ストレス、大気汚染露出、加工食品の摂取、高熱による重病、栄養の不均衡、抗癌剤及び抗甲状腺剤の服用、経口避姙薬の投与、シャンプー、強い紫外線下や運動中に流す汗、食習慣、心理的圧迫感のような多様な習慣及び環境も、脱毛の主犯と知られている。
【0007】
現在、韓国内において最も頻繁に使用される脱毛治療剤としては、フィナステリド(finasteride;商品名プロペシア(Propecia(登録商標)))、デュタステリド(dutasteride;商品名アボダート(Avodart(登録商標)))、ミノキシジル(minoxidil;商品名マイノクシル(登録商標)またはロゲイン(Rogaine(登録商標)))などがある。フィナステリドとデュタステリドは、5α-還元酵素抑制剤(5α-reductase inhibitor)であり、男性ホルモン(testosterone)が、5α-DHT(dihydrotestosterone)に転換されることを抑制する。しかしながら、該製品は、性欲減退、勃起不全、運転能及び遂行能の喪失などの副作用を示す。一方、ミノキシジルの場合、これまでのところ、そのメカニズムが完壁に明らかにされていないが、細胞膜を過分極(hyperpolarization)させるカリウムチャネル開放剤(potassium channel opener)であり、血管拡張及びカリウムチャネル開放を介し、毛嚢に、酸素、血液、栄養素などの供給を増大させ、毛嚢を健康にさせると見られる。しかしながら、該製品も、塗布部位のかゆみ、紅斑、皮膚刺激、目の刺激などの副作用が示され、頭以外に、身体部位においても、所望しない毛髪の成長が観察されたりする。そのような既存製品の副作用は、患者の不安感を増幅させ、はなはだしい場合、投与拒否にまでつながってしまうために、副作用が少ない薬物を開発しようとする努力が続けられている。
【0008】
ヒアルロン酸及びプロテオグリカン連結蛋白質1(HAPLN1:hyaluronan and proteoglycan link protein 1)は、基質(cartilage)で発見される細胞外基質蛋白質である。該蛋白質は、ヒアルロン酸とプロテオグリカンとの凝集体を安定化させる役割を行い、細胞間結合に関与すると報告されている。
【0009】
最近報告された研究として、米国特許公開公報第2012/0128632号においては、毛嚢形成を誘導することができる毛乳頭細胞(dermal papilla cell)及び毛根鞘細胞(dermal sheath cell)のような発毛性皮膚細胞(trichogenic dermal cell)を同定する方法を提示しながら、発毛性皮膚細胞を検出して同定するのに使用されうるバイオマーカー(biomarker)のうち一つとして、HAPLN1を提示している。また、米国特許登録公報第8,334,136号においては、毛乳頭細胞において、細胞接着(cell adhesion)に関与する20個余りの遺伝子を並べ、前記遺伝子の発現を維持または増大させ、毛嚢形成を促進させることができる可能性を言及するが、前記20個の遺伝子のうち一つとして、HAPLN1を開示するだけであり、また、それら遺伝子の発現により、実際に毛嚢形成が促進されるか否かということを確認した結果を全く開示していない。
【0010】
従って、前述の文献は、ただ、毛乳頭細胞または毛根鞘細胞を同定するか、あるいは他の細胞と区別するためのバイオマーカーのうち一つとして、HAPLN1を言及しているだけであり、HAPLN1蛋白質を、直接有効成分として投与するとき、脱毛を予防または治療する効果を示すという点については、全く言及されていない。さらには、毛髪成長周期に関与する多くの経路のうち、TGF-β蛋白質で活性化されるERK1/2信号伝逹経路の活性化が脱毛治療に効果的であり、特に、HAPLN1が、毛母細胞(germinal matrix cell)に作用し、前述の経路を活性化させることにより、発毛を促進させるという点については、現在まで全く研究されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許公開公報第2012/0128632号
【文献】米国特許登録公報第8,334,136号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、深刻な副作用が伴う既存の脱毛治療剤と比較し、脱毛治療の効果にすぐれながらも、副作用が少ない脱毛の予防用または治療用の薬学組成物を提供することを目的とする。
【0013】
本発明は、既存の脱毛治療剤で使用される作用メカニズムとは異なる作用メカニズムを介し、脱毛の予防効果または治療効果を示す薬学組成物を提供することを目的とする。
【0014】
本発明は、毛母細胞の増殖を促進させ、毛髪を成長させる薬学組成物を提供することを目的とする。毛髪は、成長期、退化期、休止期を反復するが、そのうち成長期は、毛母細胞が活発に分化し、毛髪を生成する段階であり、該段階において、毛髪の太さと長さとが決定される。成長期は、脱毛治療において最も核心的段階であるために、毛嚢の成長期入り込みを促進させたり、成長期の毛母細胞増殖の一助としたりする治療剤を開発すること重要である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、HAPLN1を有効成分として含む、脱毛の予防用または治療用の薬学組成物を提供する。
【0016】
本発明は、またHAPLN1を有効成分として含む、脱毛の予防用または改善用の化粧料組成物を提供する。
【0017】
一実施様態において、前記HAPLN1は、不正規(non-canonical)信号伝逹経路を活性化させ、ここで、該不正規(non-canonical)信号伝逹経路は、TGF-β蛋白質で活性化されるERK1/2信号伝逹経路である。それにより、本発明のHAPLN1は、毛母細胞(hair germinal matrix cell)の増殖を促進させ、毛髪を成長させる。
【0018】
一実施様態において、本発明の薬学組成物は、男性型脱毛、女性型脱毛、円形脱毛または休止期性脱毛の予防用または治療用でもある。また、前記脱毛は、毛母細胞(hair germinal matrix cell)において、HAPLN1蛋白質の発現が低減されたものでもある。
【0019】
一実施様態において、本発明の薬学組成物は、単独、または他の治療剤と共に組み合わせて使用される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の薬学組成物は、有効成分として、細胞外基質を構成する体内蛋白質であるHAPLN1を有効成分として含むので、既存の脱毛治療剤より副作用が少ない。
【0021】
また、本発明の薬学組成物に有効成分として含まれたHAPLN1は、TGF-β蛋白質で活性化されるERK1/2信号伝逹経路、すなわち、不正規(non-canonical)信号伝逹経路を活性化させ、毛母細胞の増殖を介し、毛髪を成長させる。そのような作用メカニズムは、既存の脱毛治療剤で使用される作用メカニズムとは全く異なる方式であり、現在まで知られていない。それにより、HAPLN1は、新たな概念の脱毛治療剤として使用され、今後の脱毛研究に画期的な戦略、及び新たな方向を提示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図3】HAPLN1の毛母細胞増殖及び毛髪成長促進のメカニズムを示す模式図である。
【
図4】成長期(anagen)、退化期(catagen)、休止期(telogen)のそれぞれの毛髪成長周期において、HAPLN1蛋白質及びHAPLN1 mRNAの発現程度を示す。
【
図5】成長期(anagen)、退化期(catagen)、休止期(telogen)のそれぞれの毛髪成長周期において、HAPLN1蛋白質及びHAPLN1 mRNAの発現程度を示す。
【
図6】ヒト毛母細胞において、HAPLN1によるTβRII蛋白質増加を確認した結果を示す。
【
図7】ヒト毛母細胞において、HAPLN1及び/またはヒアルロン酸(HA)によるTβRII蛋白質増加を確認した結果を示す。
【
図8】ヒト毛母細胞において、TβRII蛋白質濃度に対する内因性HAPLN1欠乏効果確認した結果を示す。
【
図9】内因性HAPLN1が欠乏したヒト毛母細胞において、TβRII蛋白質濃度に対する外因性HAPLN1及び/またはHAの効果を確認した結果を示す。
【
図10】内因性HAが欠乏したヒト毛母細胞において、TβRII蛋白質濃度及びHAS2蛋白質濃度に対する外因性HAPLN1の効果を確認した結果を示す。
【
図11】ヒト毛母細胞において、TβRII蛋白質濃度に対するCD44欠乏の効果を確認した結果を示す。
【
図12】CD44が欠乏したヒト毛母細胞において、TβRII蛋白質濃度に対するHAPLN1及び/またはHAの効果を確認した結果を示す。
【
図13】細胞膜TβRII蛋白質濃度に対するHAPLN1及び/またはHAの効果を確認した結果を示す。
【
図14】ヒト毛母細胞において、p-ERK1/2、p-Smad2、p-MEK1/2、p-c-Rafに対するHAPLN1及び/またはHAの効果を確認した結果を示す。
【
図15】ヒト毛母細胞において、p-ERK1/2、p-Smad2、p-MEK1/2、p-c-Rafに対するHAPLN1及び/またはHAの効果を確認した結果を示す。
【
図16】ヒト毛母細胞において、p-ERK1/2、p-Smad2、p-MEK1/2、p-c-Rafに対するHAPLN1及び/またはHAの効果を確認した結果を示す。
【
図17】TGF-β2存在時、HAPLN1及び/またはHAで処理した群において、細胞増殖が促進されたところを確認した結果を示す。
【
図18】各毛髪成長周期において、HAPLN1蛋白質及びTβRII蛋白質の発現を確認した結果を示す。
【
図19】マウスの毛髪成長に対するHAPLN1の腹腔全身投与の効果を確認するための実験スケジュール及びその結果を示す。
【
図20】マウスの毛髪成長に対するHAPLN1 siRNAの腹腔全身投与の効果を確認するための実験スケジュール及びその結果を示す。
【
図21】ヒト毛乳頭細胞に、HAPLN1蛋白質、CX3CL1蛋白質、CDON蛋白質またはミノキシジルで処理した場合、細胞増殖を確認した結果を示す。
【
図22】ヒト毛母細胞に、HAPLN1蛋白質、CX3CL1蛋白質またはCDON蛋白質で処理した場合細胞増殖を確認した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照し、本発明が属する技術分野において当業者であるならば、容易に実施することができるように、本願の実施様態及び実施例について詳細に説明する。しかし、本願は、さまざまな形態にも具現され、ここで説明する実施様態及び実施例に限定されるものではない。
【0024】
本願明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」とするとき、それは、特別に反対となる記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいということを意味する。
【0025】
本発明は、HAPLN1(hyaluronan and proteoglycan link protein)を有効成分として含む、脱毛の予防用または治療用の薬学組成物に関する。一実施様態において、本発明は、有効量のHAPLN1蛋白質を、脱毛の予防または治療を必要とする対象体に投与することを含む、前記対象体において、脱毛を予防または治療する方法を提供する。他の実施様態において、本発明は、脱毛の予防または治療のためのHAPLN1蛋白質の用途を提供する。
【0026】
HAPLN1は、体内存在の蛋白質であり、従来、脱毛治療関連研究においては、特定細胞を同定したり、それを他の細胞と区別したりするためのバイオマーカーとして使用された。本発明のHAPLN1蛋白質は、直接有効成分として使用される場合、深刻な副作用を伴う既存の脱毛治療剤と比較し、相対的に副作用が少なく、すぐれた脱毛の予防効果または治療効果を示す。
【0027】
特に、本発明のHAPLN1蛋白質は、直接有効成分として使用される場合、既存の脱毛治療剤とは全く異なる方式で毛髪成長を促進させる。具体的には、本発明のHAPLN1蛋白質は、不正規(non-canonical)信号伝逹経路を活性化させ、このとき、不正規(non-canonical)信号伝逹経路は、TGF-β蛋白質で活性化されるERK1/2信号伝逹経路である。それを介し、HAPLN1は、毛母細胞(hair germinal matrix cell)の増殖を促進させて毛髪を成長させ、脱毛の予防効果または治療効果を示す。
【0028】
本発明で最初に明らかにされたHAPLN1蛋白質の不正規(non-canonical)信号伝逹経路活性化につき、具体的に説明すれば、次の通りである。
【0029】
TGF-β信号伝逹メカニズムと係わり、毛母細胞が、TGF-βによって刺激を受ければ、該TGF-βは、毛母細胞のTβRII(TGF-β receptor 2)と結合する。その後、該TβRIIは、TβRI(TGF-β receptor 1)と結合し、TβR複合体(TβR complex)を形成する。該TβR複合体は、エンドサイトーシス作用により、細胞内に入ることになるが、クラスリン(clathrin)によるエンドサイトーシス作用時、Smad2/3信号伝逹を介し、細胞周期が遮断される(cell cycle arrest)。該経路は、正規的信号伝逹経路(canonical pathway)である。一方、カベオリン(caveolin)-1によるエンドサイトーシス作用時、Smad7信号伝逹を介し、TβRIとTβRIIは、最終的に分解される。そのような過程においても、TGF-β信号伝逹経路が作動するが、正規のSmadメカニズム(canonical Smad pathway)とは別個に、不正規経路(non-canonical pathway)のRas-ERK1/2メカニズムが存在するが、そのようなRas-ERK1/2信号伝逹が活性化される場合に示される結果は、細胞増殖である。
【0030】
本発明においては、HAPLN1が、TGF-β信号伝逹メカニズムにおいて、Ras-ERK1/2経路、すなわち、不正規経路(non-canonical pathway)を活性化させるという事実を最初に明らかにした(
図3)。具体的なメカニズムについて述べれば、ヒアルロン酸(HA:hyaluronic acid)は、細胞のヒアルロン酸合成酵素2(HAS2:hyaluronan synthase 2)によって生成される。HAは、細胞膜のCD44(HAの受容体)と結合し、該CD44は、TβRと結合する。すなわち、HAは、TβRと間接的に結合されている。HAのエンドサイトーシス作用が起こるためには、ヒアルロニダーゼ(HYAL2:hyaluronidase)のHA分解が必須である。HAPLN1は、HAとプロテオグリカンとを連結させ、HAの安定化を誘導する。HAPLN1は、HAをプロテオグリカンで隙間なく覆い包み、HYAL2がHAを分解させることを抑制するか、あるいは活性酸素(ROS:reactive oxygen species)によるHA分解を抑制する。その結果、HAPLN1は、TβRのエンドサイトーシス作用を抑制し、Smad2/3メカニズム活性、及びTβRの分解を防ぎ、細胞膜のTβRIIを増加させる。それにより、HAPLN1により、不正規(non-canonical)信号伝逹経路、すなわち、Ras-ERK1/2メカニズムが活性化され、細胞増殖が促進され、結局、毛髪成長につながる。
【0031】
従って、本発明のHAPLN1蛋白質は、TGF-β蛋白質で活性化されるRas-ERK1/2信号伝逹を介し、細胞増殖を促進させ、脱毛の予防または治療のために使用されうる。特に、本発明のHAPLN1蛋白質は、毛母細胞(hair germinal matrix cell)の増殖を促進させ、毛髪を成長させる。
【0032】
本発明の「脱毛」とは、その原因と係わりなく、正常に毛髪が存在しなければならない部位に毛髪がない状態を称し、例えば、男性型脱毛、女性型脱毛、円形脱毛または休止期性脱毛でもある。
【0033】
さらに他の実施様態において、本発明は、HAPLN1を有効成分として含む、脱毛の予防用または改善用の化粧料組成物を提供する。前記化粧料組成物としては、例えば、毛髪用化粧料でもあり、その剤形は、特別に制限されるものではなく、目的とするところにより、適切に選択されうる。
【0034】
例えば、前記化粧料組成物は、溶液、懸濁液、乳濁液、ペースト、ゲル、クリーム、ローション、パウダー、せっけん、界面活性剤含有クレンジング、オイル、粉末ファウンデーション、乳濁液ファウンデーション、ワックスファウンデーション及びスプレーなどにも剤形化されるが、それらに限定されるものではない。さらに詳細には、シャンプー・リンス・ボディークレンザのような洗浄料、ヘアトニック・ゲルまたはムースのような整髪剤、養毛剤または染毛剤のような毛髪用化粧料の組成物でもある。
【0035】
本発明の一実施様態において、前記化粧料組成物は、必要により、適切な各種の基剤と添加剤とを含んでもよく、それら成分の種類と量は、発明者によって容易に選定されうる。必要により、許容可能な添加剤を含んでもよく、例えば、当業界に一般的な防腐剤、色素、添加剤などの成分をさらに含んでもよい。
【0036】
以下、実施例を介し、本発明についてさらに詳細に説明するが、下記の実施例は、ただ、説明の目的のためのものであり、本願発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0037】
[実施例1]
各毛髪成長周期における、HAPLN1蛋白質及びHAPLN1 mRNAの発現確認
本実施例においては、マウス皮膚を利用し、各毛髪成長周期において、HAPLN1蛋白質の発現を確認した。
【0038】
マウス皮膚は、生後23日齢(初期成長期)、生後32日齢(成長期)、生後40日齢(退化期)、生後44日齢(休止期)から採取し、新鮮凍結(fresh frozen)した。皮膚組織切片は、8μm厚に作製され、HAPLN1(Abcam、米国)抗体を利用し、HAPLN1蛋白質の存在有無を検出した。免疫蛍光法(immunofluorescence)は、普遍的な実験方法よって進めた。
【0039】
その結果は、
図4に図示されているように、HAPLN1は、成長期の毛母細胞において、相当に発現されていることを確認し、退化期、休止期においては、発現が減っていることを確認した。
【0040】
次に、HAPLN1がどの細胞で生成されるかということを知るために、マウス皮膚において、HAPLN1 mRNAを確認した。
【0041】
該マウス皮膚は、生後32日齢(成長期)、生後40日齢(退化期)、生後44日齢(休止期)から採取し、皮膚組織切片は、8μm厚にパラフィン薄切りした。HAPLN1 mRNA probe(ACDbio、米国)を利用して検出し、ISH(in-situ hybridization)実験は、製造社の実験方法(ACDbio;RNA scope(登録商標) 2.5 HD Assay-BROWN、CA、米国)によって行われた。
【0042】
その結果は、
図5に図示されているように、HAPLN1 mRNAは、成長期の毛母細胞で発現されることを確認し、退化期、休止期においては、発現が確認されなかった。
【0043】
[実施例2]
ヒト毛母細胞における、HAPLN1によるTβRII蛋白質増加の確認
本実施例においては、HAPLN1が、TβRIIの分解を防ぎ、その量を増大させるか否かということを確認した。
【0044】
HAPLN1を、ヒト毛母細胞に濃度別に処理した。具体的には、ヒト毛母細胞(HHGMC:human hair germinal matrix cell)をポリ-D-リシン6ウェルプレートに、それぞれウェル当たり5.0×104個ずつ分注し、24時間培養した。24時間後、培地を除去し、無血清の新たな培地に変えた。HAPLN1を、0,5,10,20ng/mLで処理し、24時間培養した。細胞を集めた後、lysis buffer(25mM Tris-HCl、1mM EDTA、0.1% Triton-X100、phosphatase inhibitor及びprotease inhibitor)を入れ、超音波処理(sonication)を介し、細胞を全部崩した。ウェスタンブロッティングを利用し、当該試料において、TβRIIを測定した。濃度計(densitometer)を利用し、GAPDH対比の各TβRIIの光学的濃度を比較した(すなわち、TβRII光学的濃度÷GAPDH光学的濃度)。このとき、該GAPDHは、ローディング対照群(loading control)として使用された。
【0045】
その結果は、
図6に図示されているように、HAPLN1 20ng/mLで、TβRIIが増加することが確認された。
【0046】
それにより、ヒト毛母細胞をHAPLN1で処理すれば、TβRIIが増加するということを確認した。
【0047】
[実施例3]
ヒト毛母細胞における、HAPLN1及び/またはHAによるTβRII蛋白質増加の確認
HAPLN1は、TGF-β信号伝逹経路において、TβRIIに直接作用するのではなく、HAを安定化させることにより、TβRIIに影響を及ぼすと仮定したが、それを確認するために、HAPLN1とHAとで共に処理する実験を行った。
【0048】
ヒト毛母細胞を、ポリ-D-リシン6ウェルプレートに、それぞれウェル当たり5.0X104個ずつ分注し、24時間培養した。24時間後、培地を除去し、無血清の新たな培地に変えた。HAPLN1 25ng/mL、HA 25μg/mLで処理し、1時間後、TGF-β2(2ng/mL)で処理した。23時間後、細胞を集めた後、lysis buffer(25mM Tris-HCl、1mM EDTA、0.1% Triton-X100、phosphatase inhibitor及びprotease inhibitor)を入れ、超音波処理(sonication)を介し、細胞を全部崩した。ウェスタンブロッティングを利用し、当該試料において、TβRI及びTβRIIを測定した。濃度計を利用し、GAPDH対比の各TβRIIの光学的濃度を比較した
【0049】
その結果は、
図7に図示されているように、ヒト毛母細胞に、HAPLN1またはHAで処理したとき、TβRII増加を確認した。
【0050】
それにより、HAPLN1単独処理時、TβRIIが著しく増加したことを再確認し、特に、HAPLN1が、HAによるTβRII増加をさらに強化させるということを確認した。それに反し、TβRIの濃度には変化がなかったので、HAPLN1によるTβRIIの増加は選択的であると言える。
【0051】
[実施例4]
ヒト毛母細胞における、TβRII蛋白質濃度に対する内因性HAPLN1欠乏効果の確認
ヒト毛母細胞のTβRII蛋白質濃度に対する内因性HAPLN1の影響を確認すべく、HAPLN1 siRNAを使用し、内因性HAPLN1を欠乏させた。
【0052】
ヒト毛母細胞を、ポリ-D-リシン6ウェルプレートに、それぞれウェル当たり5.0X104個ずつ分注し、24時間培養した。24時間後、培地を除去し、low serum培地に変えた。HAPLN1 siRNA及びスクランブル(scrambled)siRNAを、ウェル当たり25pmolずつ入れ、24時間培養した。細胞を集めた後、lysis buffer(25mM Tris-HCl、1mM EDTA、0.1% Triton-X100、phosphatase inhibitor及びprotease inhibitor)を入れ、超音波処理(sonication)を介し、細胞を全部崩した。ウェスタンブロッティングを利用し、当該試料において、HAPLN1及びTβRIIを測定した。濃度計を利用し、GAPDH対比のそれぞれHAPLN1及びTβRIIの光学的濃度を比較した。
【0053】
その結果は、
図8に図示されているように、ヒト毛母細胞にHAPLN1 siRNAで処理し、内因性HAPLN1を欠乏させることにより、TβRIIも減ったということを確認した。
【0054】
[実施例5]
内因性HAPLN1が欠乏したヒト毛母細胞における、TβRII蛋白質濃度に対する外因性HAPLN1及び/またはHAの効果確認
HAPLN1 siRNAを利用し、HAPLN1を欠乏させたヒト毛母細胞に、外因性HAPLN1及び/またはHAによるTβRII蛋白質増加いかんを確認した。
【0055】
ヒト毛母細胞を、ポリ-D-リシン6ウェルプレートに、それぞれウェル当たり5.0X104個ずつ分注し、24時間培養した。24時間後、培地を除去し、low serum培地に変えた。HAPLN1 siRNA及びスクランブルsiRNAを、ウェル当たり25pmolずつ入れ、24時間培養した。siRNA及び培地をいずれも除去した後、HAPLN1(25ng/mL)またはHA(25μg/mL)が添加された無血清培地に替え、1時間培養した。TGF-β2(2ng/mL)で処理し、23時間培養した。細胞を集めた後、lysis buffer(25mM Tris-HCl、1mM EDTA、0.1% Triton-X100、phosphatase inhibitor及びprotease inhibitor)を入れ、超音波処理(sonication)を介し、細胞を全部崩した。ウェスタンブロッティングを利用し、当該試料において、TβRIIを測定した。濃度計を利用し、GAPDH対比のTβRIIの光学的濃度を比較した。
【0056】
その結果は、
図9に図示されているように、内因性HAPLN1が欠乏したヒト毛母細胞に、外因性HAPLN1及び/またはHAで処理するや否や、減っていたTβRIIが回復するということを確認することができた。
【0057】
[実施例6]
内因性HAが欠乏したヒト毛母細胞における、TβRII蛋白質濃度及びHAS2蛋白質濃度に対する外因性HAPLN1の効果確認
4-MU(4-methylumbelliferone)は、HAを生成するHAS2(hyaluronan synthase 2)の抑制剤である。細胞で生成されるHAの影響を確認すべく、4-MUを使用し、細胞のHA生成を抑制させた。
【0058】
4-MUで処理し、内因性HAが抑制されたヒト毛母細胞を、ポリ-D-リシン6ウェルプレートに、それぞれウェル当たり5.0X104個ずつ分注し、24時間培養した。24時間後、培地を除去し、無血清の新たな培地に変えた。HAPLN1 25ng/mLで処理し、1時間後、TGF-β2(2ng/mL)で処理した。23時間後、細胞を集めた後、lysis buffer(25mM Tris-HCl、1mM EDTA、0.1% Triton-X100、phosphatase inhibitor及びprotease inhibitor)を入れ、超音波処理(sonication)を介し、細胞を全部崩した。ウェスタンブロッティングを利用し、当該試料において、HAS2及びTβRIIを測定した。濃度計を利用し、GAPDH対比のHAS2及びTβRIIの光学的濃度を比較した。
【0059】
その結果は、
図10に図示されているように、4-MU処理時には、HAS2及びTβRIIの量が減り、それにより、HAPLN1で処理すれば、HAS2及びTβRIIが回復するということを確認した。
【0060】
[実施例7]
実施例3において、HAPLN1は、HAを介し、TβRIIを調節することが確認されていた。しかし、HAも、TβRIIと直接結合しているのではなく、HAの受容体であるCD44がTβRIIと結合している。
【0061】
本実施例においては、CD44は、TβRII調節過程における重要な要素のうち一つであるか否かということ、さらに実際に、HAPLN1がTβRIIを増加させる過程において、CD44が必須であるか否かということを確認した。
【0062】
1.ヒト毛母細胞における、TβRII蛋白質濃度に対するCD44欠乏の効果確認
まず、ヒト毛母細胞にCD44が欠乏する場合、TβRII蛋白質濃度がどのように変化するかということを確認した。
【0063】
CD44 siRNAで処理し、細胞内CD44を欠乏させたヒト毛母細胞を、ポリ-D-リシン6ウェルプレートに、それぞれウェル当たり5.0X104個ずつ分注し、24時間培養した。24時間後、培地を除去し、low serum培地に変えた。CD44 siRNA及びスクランブルsiRNAを、ウェル当たり25pmolずつ入れ、24時間培養した。細胞を集めた後、lysis buffer(25mM Tris-HCl、1mM EDTA、0.1% Triton-X100、phosphatase inhibitor及びprotease inhibitor)を入れ、超音波処理(sonication)を介し、細胞を全部崩した。ウェスタンブロッティングを利用し、当該試料において、CD44及びTβRIIを測定した。濃度計を利用し、GAPDH対比のCD44及びTβRIIの光学的濃度を比較した。
【0064】
その結果は、
図11に図示されているように、CD44の欠乏時、ヒト毛母細胞において、TβRII蛋白質濃度が相当に減ったということを確認した。
【0065】
2.CD44が欠乏したヒト毛母細胞における、TβRII蛋白質濃度に対するHAPLN1及び/またはHAの効果確認
次に、CD44が欠乏したヒト毛母細胞において、TβRII蛋白質濃度に対するHAPLN1及び/またはHAの効果を確認した。
【0066】
CD44 siRNAを利用し、CD44を欠乏させたヒト毛母細胞を、ポリ-D-リシン6ウェルプレートに、それぞれウェル当たり5.0X104個ずつ分注し、24時間培養した。24時間後、培地を除去し、low serum培地に変えた。CD44 siRNA及びスクランブルsiRNAを、ウェル当たり25pmolずつ入れ、24時間培養した。siRNA及び培地をいずれも除去した後、HAPLN1(25ng/mL)またはHA(25μg/mL)が添加された無血清培地に替え、1時間培養した。TGF-β2(2ng/mL)で処理し、23時間培養した。細胞を集めた後、lysis buffer(25mM Tris-HCl、1mM EDTA、0.1% Triton-X100、phosphatase inhibitor及びprotease inhibitor)を入れ、超音波処理(sonication)を介し、細胞を全部崩した。ウェスタンブロッティングを利用し、当該試料において、TβRIIを測定した。濃度計を利用し、GAPDH対比のTβRIIの光学的濃度を比較した。
【0067】
その結果は、
図12に図示されているように、ヒト毛母細胞にCD44が欠乏した場合、HAPLN1及び/またはHAで処理するにしても、TβRIIが回復するということを確認することができなかった。
【0068】
前述の実験から、HAPLN1及びHAが、TβRIIを増加させる過程において、CD44が必須な要素であるということを確認した。
【0069】
[実施例8]
細胞膜TβRII蛋白質濃度に対するHAPLN1及び/またはHAの効果確認
HAPLN1が、TβRIIのエンドサイトーシス作用を抑制し、細胞膜TβRII増加をもたらすと仮定したが、それを証明するための実験を行った。
【0070】
細胞膜に存在する全ての蛋白質をビオチンで標識し、ビオチン抗体で免疫沈降(immunoprecipitation)を行い、細胞膜蛋白質のみを分離した。細胞膜蛋白質において、TβRIIの比率変化を確認するために、ウェスタンブロッティングを行った。具体的な実験方法は、下記の通りである。
【0071】
ヒト毛母細胞を、ポリ-D-リシン100mmディッシュに、2.7X106個ずつ分注し、24時間培養した。24時間後、培地を除去し、無血清の新たな培地に変えた。HAPLN1 25ng/mL、HA 25μg/mLで処理し、1時間後、TGF-β2(2ng/mL)で処理した。23時間後、ビオチンを標識するために、EZ-Link(商標) Sulfo-NHS-LC-Biotin(Thermo Fisher Scientific、MA、米国)250μg/mL濃度で処理し、4℃で1時間培養した。50mM Tris-HClで処理し、ビオチン標識反応を終結させた。細胞を集めた後、lysis buffer(50mM Tris-HCl、150mM NaCl、1%NP-40、phosphatase inhibitor及びprotease inhibitor)を入れ、超音波処理(sonication)を介し、細胞を全部崩した。抗ビオチン抗体を利用し、免疫沈降実験を行い、細胞膜蛋白質を分離した。ウェスタンブロッティングを利用し、分離した細胞膜蛋白質試料において、TβRIIを測定した。濃度計を利用し、GAPDH対比の各TβRIIの光学的濃度を比較した。
【0072】
その結果は、
図13に図示されているように、HAPLN1及び/またはHA処理時、細胞膜TβRII蛋白質濃度が上昇するということを確認した。
【0073】
[実施例9]
HAPLN1の細胞増殖効果及び作用メカニズムの究明
本実施例においては、HAPLN1が、いかなるメカニズムにより、細胞増殖を誘導するかということを知るために、Smad2 pathway及びERK1/2 pathwayに対するHAPLN1の効果を確認した。
【0074】
ヒト毛母細胞を、ポリ-D-リシン6ウェルプレートに、それぞれウェル当たり5.0X104個ずつ分注し、24時間培養した。24時間後、培地を除去し、無血清の新たな培地に変えた。HAPLN1 25ng/mL、HA 25μg/mLで処理し、23時間培養した後、TGF-β2(2ng/mL)で1時間刺激を与えた。細胞を集めた後、lysis buffer(25mM Tris-HCl、1mM EDTA、0.1% Triton-X100、phosphatase inhibitor及びprotease inhibitor)を入れ、超音波処理(sonication)を介し、細胞を全部崩した。ウェスタンブロッティングを利用し、当該試料において、p-ERK1/2、p-Smad2、p-MEK1/2、p-c-Rafを測定した。濃度計を利用し、ERK1/2,Smad2/3,MEK1、c-Raf対比のp-ERK1/2、p-Smad2、p-MEK1/2、p-c-Rafの光学的濃度を比較した。このとき、ERK1/2、Smad2/3、MEK1、c-Rafは、ローディング対照群(loading control)として使用された。
【0075】
その結果は、
図14ないし
図16に図示されているように、HAPLN1及び/またはHAで処理した細胞においては、TGF-β2によるERK1/2信号伝逹が活性化された。また、HAPLN1は、HAのERK1/2信号伝逹活性化を強化させるということを確認した。一方、Smad2のリン酸化には変化がなかった。また、ERK1/2の上位(upstream)メカニズムであるMEK1/2及びc-Rafも、HAPLN1及び/またはHA処理により、活性が増大したことを確認した。
【0076】
それにより、HAPLN1により、ERK signalが活性化されることを確認し、それは、non-canonical pathwayを介し、信号伝逹がなされることを示す。しかしながら、HAPLN1は、Smad2/3のcanonical pathwayを活性化させないということを確認した。
【0077】
[実施例10]
HAPLN1の細胞増殖効果及び作用メカニズムの究明
ヒト毛母細胞を、ポリ-D-リシン96ウェルプレートに、それぞれウェル当たり2.0X10
3個ずつ分注し、24時間培養した。24時間後、培地を除去し、無血清の新たな培地に変えた。HAPLN1 25ng/mL、HA 25μg/mLで処理し、1時間培養した後、TGF-β2(2ng/mL)で23時間刺激を与えた。CCK-8(Enzo Biochem、NY、米国)で処理し、37℃で1時間培養した。450nmで吸光度を測定し、その結果を
図17に示した。
【0078】
TGF-β2存在時、HAPLN1及び/またはHAで処理した群において、対照群より細胞増殖が促進されたことを確認した。それは、HAPLN1が、non-canonical TGF-β信号伝逹経路を介し、ヒト毛母細胞の増殖を促進させることを意味する。
【0079】
[実施例11]
各毛髪成長周期における、HAPLN1蛋白質及びTβRII蛋白質の発現確認
本実施例においては、マウス皮膚の各毛髪周期において、HAPLN1とTβRIIとを蛍光染色し、HAPLN1蛋白質及びTβRII蛋白質の発現を確認した。
【0080】
マウス皮膚は、生後32日齢(成長期)、生後40日齢(退化期)、生後44日齢(休止期)から採取し、新鮮凍結(fresh frozen)した。皮膚組織切片は、8μm厚に作製され、HAPLN1(Abcam、米国)抗体とTβRII抗体とを利用し、HAPLN1蛋白質及びTβRII蛋白質の存在有無を検出した。免疫蛍光法(immunofluorescence)は、普遍的な実験方法によって進めた。
【0081】
その結果は、
図18に図示されているように、HAPLN1は、成長期の毛母細胞において発現されていることを確認し、退化期、休止期では発現が減ったということを確認した。また、成長期(anagen)の毛母細胞(hair germical matrix)において、HAPLN1及びTβRIIが同じ位置(co-localization)に発現していることを確認した。それは、HAPLN1及びTβRIIがヒト毛母細胞の増殖に寄与するということを意味する。
【0082】
[実施例12]
動物モデルでHAPLN1による毛髪成長周期の変化観察
1.マウスの毛髪成長に対するHAPLN1の腹腔全身投与の効果確認
体内HAPLN1は、加齢するほど減る。体内HAPLN1が減った20ヵ月齢C57マウスにHAPLN1を投与した。
【0083】
C57マウスは、毛髪成長周期がそれぞれ異なるが、2回の毛髪成長周期を経て、全てのマウスの周期を一定に合わせた(
図19スケジュール参照)。その後、3日に1回ずつ、HAPLN1を、0.1mg/kgで腹腔注射した。
【0084】
その結果は、
図19に図示されているように、対照群と比較したとき、HAPLN1で処理した群において、短期間に毛髪成長期に入った。
【0085】
2.マウスの毛髪成長に対するHAPLN1 siRNAの腹腔全身投与の効果確認
HAPLN1 siRNAを7週齢C57マウスに投与し、HAPLN1欠乏により、毛髪成長周期がどのように変化するかということを観察した。そのために、HAPLN1 siRNA(Dharmacon;Accell HAPLN1 siRNA SMARTpool、CO、米国)を1週間に2回4nmolずつ4週間腹腔注射した(
図20スケジュール参照)。
その結果は、
図20に図示されているように、HAPLN1 siRNAを投与した群が、対照群に比べ、毛髪成長期への進入が遅くなったことを確認した。
【0086】
[実施例13]
HAPLN1、CX3CL1及びCDONの毛乳頭細胞または毛母細胞増殖の効果検証
米国特許登録公報第8,334,136号は、毛乳頭細胞に存在するHAPLN1、CX3CL1、CDONのような細胞接着遺伝子の発現を維持または増加させれば、毛嚢形成または毛髪再生が促進される可能性を提示している。本実施例においては、前記細胞接着遺伝子が発現するHAPLN1蛋白質、CX3CL1蛋白質またはCDON蛋白質を、毛乳頭細胞または毛母細胞に直接処理したとき、実際に増殖効果が発現されるか否かということを検証した。
【0087】
1.毛乳頭細胞増殖の効果確認
ヒト毛乳頭細胞を、毛乳頭細胞増殖培地(Promocell)を利用し、37℃、5% CO2インキュベータで培養した。細胞が90%ほど充填されれば、0.05%トリプシン/EDTA溶液で細胞を脱着させた後、1,000rpm、3分間遠心分離させて細胞だけ回収した。それを、96ウェルプレートに、それぞれウェル当たり2.0X103個ずつ分注し、24時間培養し、無血清培地にHAPLN1、CX3CL1及びCDONそれぞれの最終濃度が25ng/mlになるように希釈させた。既存培養培地を除去した後、希釈させたHAPLN1、CX3CL1及びCDONを、それぞれウェルに200μlずつ分注し、1時間培養した。実験偏差を減らすために、グループ当たり3個のウェルずつ処理した(triplication)。また、毛乳頭細胞を増殖させると知られたミノキシジル(minoxidil)で10μM処理し、陽性対照群として設定した。
【0088】
前記希釈方法と同一に、HAPLN1(25ng/ml)、CX3CL1(25ng/ml)、CDON(25ng/ml)、またはミノキシジル(10μM)、及びヒト組み換えTGF-β2を、最終濃度が2ng/mlになるように希釈させた後、TGF-β2が含まれるグループの培地で200μlずつ交換した。実験偏差を減らすために、グループ当たり3個のウェルずつ処理した(triplicate)。
【0089】
23時間の培養後、培養器からプレートを取り出し、培地と試薬とが含まれたまま、CCK-8(WST-8)溶液を、200μl培地当たり20μl添加し、1時間37℃で、培養基で反応させた後、マイクロプレートリーダ(microplate reader)を利用し、450nmで吸光度を測定し、その結果を
図21に示した。
【0090】
図21に図示されているように、TGF-β2が存在したにしても存在していないにしても、ミノキシジルで処理した陽性対照群においては、有意の毛乳頭細胞増殖活性が確認されたが(***P<0.001)、HAPLN1、CX3CL1及びCDONは、いずれも毛乳頭細胞を増殖させることができないか、かえってその増殖を抑制した。すなわち、毛乳頭細胞内の細胞接着遺伝子が発現する蛋白質を毛乳頭細胞に投与しても、毛乳頭細胞の増殖効果が示されていないことが分かる。
【0091】
2.毛母細胞増殖の効果確認
ヒト毛母細胞を、MSCM(Mesenchymal Stem Cell Medium)を利用し、ポリ-D-リシンがコーティングされたフラスコに放ち、37℃で、5% CO
2インキュベータで培養した。細胞が90%ほど充填されるようになれば、0.05% トリプシン/EDTA溶液で細胞を脱着させた後、1,000rpm、3分間遠心分離し、細胞だけ回収した。それを、96ウェルのポリ-D-リシンコーティングプレート(coated plate)(BD bioscience)に、それぞれウェル当たり2.0X10
3個ずつ分注し、24時間培養し、無血清培地に、HAPLN1、CX3CL1及びCDONそれぞれの最終濃度が、25ng/mlになるように希釈させた。その後の過程は、前記毛乳頭細胞に係わる実験と同一に進め、吸光度を測定し、その結果を
図22に示した。
【0092】
図22に図示されているように、HAPLN1は、TGF-β2が存在しない環境において、有意の毛母細胞増殖活性を示し(*P<0.05)、TGF-β2が存在する環境においては、特にすぐれた毛母細胞増殖活性を示し(***P<0.001)、TGF-β信号伝逹経路を介し、ヒト毛母細胞の増殖効果を有することが確認された。一方、CX3CL1及びCDONは、母乳頭細胞の場合と同様に、毛母細胞においても、かえって細胞増殖を抑制する結果を示した。
【0093】
結局、米国特許登録公報第8,334,136号は、毛乳頭細胞に存在する細胞接着遺伝子の発現を維持または増加させれば、毛嚢形成または毛髪再生が促進される可能性を言及するものの、実際、細胞接着遺伝子が発現する蛋白質が、いずれも毛乳頭細胞または毛母細胞を増殖させるものではないということを確認することができる。
【0094】
従って、HAPLN1蛋白質だけが、毛母細胞の増殖を促進させ、毛髪を成長させ、脱毛の予防効果または治療効果を有するということが分かる。
【0095】
以上、本発明の内容の特定部分について詳細に記述したが、当業界の当業者であるならば、そのような具体的記述は、単に望ましい実施様態であるのみ、それにより、本発明の範囲が制限されるものではない点は、明白であろう。従って、本発明の実質的な範囲は、特許請求の範囲と、それらの等価物とによって定義されるものである。