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特許7182829有機塩素化合物の分解炭化処理方法、及びその分解炭化処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】有機塩素化合物の分解炭化処理方法、及びその分解炭化処理装置
(51)【国際特許分類】
   A62D 3/40 20070101AFI20221128BHJP
   A62D 3/34 20070101ALI20221128BHJP
   A62D 101/22 20070101ALN20221128BHJP
   A62D 101/28 20070101ALN20221128BHJP
【FI】
A62D3/40
A62D3/34 ZAB
A62D101:22
A62D101:28
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022528955
(86)(22)【出願日】2022-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2022006863
【審査請求日】2022-05-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522194371
【氏名又は名称】有限会社英商事
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 英季
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特表昭64-500330(JP,A)
【文献】特開平08-206250(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0237857(US,A1)
【文献】特開平10-146574(JP,A)
【文献】特開2015-174076(JP,A)
【文献】特開2018-130683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62D 1/00- 9/00
B09B 1/00- 5/00
B09C 1/00- 1/10
B01J 8/00- 8/46、
10/00-12/02、
14/00-19/32
21/00-38/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビフェニル(PCB:Poly Chlorinated Biphenyl)、またはダイオキシン類(Dioxins and dioxin-like compounds)である有機塩素化合物を、触媒で分解処理するにあたり、
前記有機塩素化合物と前記触媒とを、処理物収容体の内部空間に供給し、密閉状態で収容する第1工程と、
前記有機塩素化合物と前記触媒とが前記内部空間で混合した処理対象混合物を加熱して、2時間以上、80℃以上かつ140℃以下の温度で保持する第2工程と、
前記第2工程で、前記有機塩素化合物と前記触媒との反応により、二次的に生じた副生成物を、前記内部空間の外部に排出する第3工程と、を有すること、
前記触媒は、
粒状活性炭、炭素粉末、または備長炭のうち、少なくとも一種の物質と、濃硫酸または発煙硫酸とを混合してなる第1混合物を、あるいは、
表層部が分子内脱水した木片と、濃硫酸または発煙硫酸とを混合してなる第2混合物を、
温度160~200℃の下、スルホン化処理により生成され、
前記有機塩素化合物に含む塩素の解離を促すと共に、前記有機塩素化合物の炭化を促す物性を有するものであること、
を特徴とする有機塩素化合物の分解炭化処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載する有機塩素化合物の分解炭化処理方法において、
排出される前記副生成物に、中和処理を行う第4工程を有すること、
を特徴とする有機塩素化合物の分解炭化処理方法。
【請求項3】
廃棄処分対象の有機塩素化合物に分解処理を施す処理装置において、
前記有機塩素化合物は、ポリ塩化ビフェニル(PCB:Poly Chlorinated Biphenyl)、またはダイオキシン類(Dioxins and dioxin-like compounds)であり、
前記有機塩素化合物との混合下で、前記有機塩素化合物に含む塩素の解離を促すと共に、前記有機塩素化合物の炭化を促す物性を有する触媒と、
前記有機塩素化合物と前記触媒とが混合した処理対象混合物を、密閉状態で収容可能な内部空間を有する処理物収容手段と、
前記処理物収容手段の前記内部空間に収容した前記処理対象混合物を80~140℃の範囲内で加熱する加熱手段と、を備え、
前記触媒は、
粒状活性炭、炭素粉末、または備長炭のうち、少なくとも一種の物質と、濃硫酸または発煙硫酸とを混合してなる第1混合物を、あるいは、
表層部が分子内脱水した木片と、濃硫酸または発煙硫酸とを混合してなる第2混合物を、
温度160~200℃の下、スルホン化処理により生成されたものであること、
を特徴とする有機塩素化合物の分解炭化処理装置。
【請求項4】
請求項に記載する有機塩素化合物の分解炭化処理装置において、
前記処理物収容手段には、前記有機塩素化合物と前記触媒との反応を介して生じてなる副生成物を、前記内部空間の外部へ排出させる副生成物排出手段を備えること、
を特徴とする有機塩素化合物の分解炭化処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にポリ塩化ビフェニル(Poly Chlorinated Biphenyl)(以下、「PCB」と称す)、ダイオキシン類(Dioxins and dioxin-like compounds)等とした有機塩素化合物を、触媒により、脱塩素化して炭化させる有機塩素化合物の分解炭化処理方法、及びその分解炭化処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PCBは、熱分解し難く、水に難溶、不燃性で、化学的に安定した物性であり、周知のように、人体にとって有害な毒性を有する化学物質である。そのため、PCB廃棄物は、厳格な法規制の下で、適切に処分されている。その処分で用いる廃棄処理装置の一例が、特許文献1に発明されている。
【0003】
特許文献1は、PCB類の脱塩素化分解法により、PCB類を含む油に、アルカリ剤等の薬剤を添加して反応させ、PCB類から塩素を除去してPCB類を処分するポリ塩化ビフェニル類処理装置である。特許文献1では、脱塩素化分解法の一つであるBCD法の場合、薬剤として、水素供与体、アルカリ剤、及び炭素系添加剤が用いられ、薬剤と、PCB類を含む油との反応は、窒素による雰囲気、常圧、温度300~350℃の条件下で、行われる。
【0004】
他方、PCBと同様、人体に有害な毒性を有する有機塩素化合物の一種に、ダイオキシン類がある。ダイオキシン類は、主にゴミの焼却時に、塩素を含んだ物質の不完全燃焼に伴って副生される。ダイオキシン類は、無色・無臭の固体、水に難溶、蒸発し難く、分解し難くいばかりか、酸性・アルカリ性をなす他の物質とも反応しない物性で、化学的に安定した状態を保つ化学物質である。ゴミの焼却時に、ダイオキシン類を含む煤塵等の廃棄物質が、法規制の下、大気中に飛散するのを防ぐため、ダイオキシン類を分解させる処理装置が開発されており、その処理装置の一例が、特許文献2に発明されている。
【0005】
特許文献2は、ゴミ焼却炉の排気ガスより分離した飛灰を、外部加熱式ロータリーキルンの内部に導入し、300~500℃に加熱処理することにより、飛灰に含有したダイオキシン類の脱塩素分解を行う、ダイオキシン類を含有する焼却炉飛灰の加熱脱塩素分解装置である。特許文献2では、飛灰の加熱処理時において、外部加熱式ロータリーキルンの内面に飛灰の固着を防止することで、伝熱効率の低下が抑制できるようになるため、ダイオキシン類の脱塩素分解を、安定して行うことができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-104510号公報
【文献】特開2004-216289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のように、PCB類の脱塩素化分解を行う処理過程と、特許文献2のように、ダイオキシン類の脱塩素化分解を行う処理過程では、特許文献1、2とも、加熱処理は、300℃を超える高温帯域下で行われる。そのため、特許文献1、2のように、PCB類の化学物質、ダイオキシン類の化学物質に対し、加熱処理を伴って、脱塩素化分解を行う分解処理装置では、300℃超えの熱を提供する加熱源に、より大量のエネルギを供給しなければならず、運用に多額なコストが掛かる。しかも、処理炉内において、300℃超えの高温下で加熱処理を行う分解処理装置には、必然的により重厚な耐熱対策を、加熱源と処理炉に施さなければならず、装置構造が、複雑化かつ大型化して、設備コストも高額である。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、例示するPCB、ダイオキシン類のように、有害な有機塩素化合物を無害化して廃棄処分するにあたり、安価なコストで、簡単に脱塩素化の処理を行うことができる有機塩素化合物の分解処理方法、及びその分解処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様における有機塩素化合物の分解炭化処理方法は、ポリ塩化ビフェニル(PCB:Poly Chlorinated Biphenyl)、またはダイオキシン類(Dioxins and dioxin-like compounds)である有機塩素化合物を、触媒で分解処理するにあたり、前記有機塩素化合物と前記触媒とを、処理物収容体の内部空間に供給し、密閉状態で収容する第1工程と、前記有機塩素化合物と前記触媒とが前記内部空間で混合した処理対象混合物を加熱して、設定された一定時間、140℃以下の温度で保持する第2工程と、前記第2工程で、前記有機塩素化合物と前記触媒との反応により、二次的に生じた副生成物を、前記内部空間の外部に排出する第3工程と、を有すること、前記触媒は、粒状活性炭、炭素粉末、または備長炭のうち、少なくとも一種の物質と、濃硫酸または発煙硫酸とを混合してなる第1混合物を、あるいは、表層部が分子内脱水した木片と、濃硫酸または発煙硫酸とを混合してなる第2混合物を、温度160~200℃の下、スルホン化処理により生成され、前記有機塩素化合物に含む塩素の解離を促すと共に、前記有機塩素化合物の炭化を促す物性を有するものであること、を特徴とする。
【0010】
この態様によれば、PCB、ダイオキシン類である有機塩素化合物は、140℃以下の温度で触媒と混合するだけで、分解して脱塩素化されるため、特許文献1,2に開示された処理装置及び処理方法に比べ、複雑な工程を経ることなく、有機塩素化合物の廃棄処分を、簡単に行うことができる。加えて、有機塩素化合物と触媒を混合して加熱する温度は、140℃以下であるため、特許文献1,2に開示された処理装置及び処理方法で行う加熱温度に比べ、200℃以上も低い。そのため、加熱に供給するエネルギは抑制できており、有機塩素化合物の脱塩素化にあたり、運用上、コストを抑えることができる。しかも、有機塩素化合物を脱塩素化して得られる脱塩素化処理物は、炭化物となり、素材または資源として活用することができる。
【0011】
上記の態様において、排出される前記副生成物に、中和処理を行う第4工程を有すること、が好ましい。
【0012】
この態様によれば、副生成物を中和処理して得られた中和処理反応物は、例えば、塩化ナトリウムまたは塩化カルシウムと、水等であり、材料または資源として活用することができる。
【0013】
上記の態様において、前記第2工程では、保持する前記処理対象混合物の温度は、80~140℃の範囲内であること、が好ましい。
【0014】
この態様によれば、有機塩素化合物を脱塩素化した脱塩素化処理物では、PCB、ダイオキシン類の含有濃度を、処理前の濃度比で、一例として、99%程低減させることが可能になる。これにより、人体に有害であった有機塩素化合物は、脱塩素化により、容易に廃棄処分を行うことができる状態に変化する。
【0015】
また、上記課題を解決するためになされた本発明の他の態様における有機塩素化合物の分解炭化処理装置は、廃棄処分対象の有機塩素化合物に分解処理を施す処理装置において、前記有機塩素化合物は、ポリ塩化ビフェニル(PCB:Poly Chlorinated Biphenyl)、またはダイオキシン類(Dioxins and dioxin-like compounds)であり、前記有機塩素化合物との混合下で、前記有機塩素化合物に含む塩素の解離を促すと共に、前記有機塩素化合物の炭化を促す物性を有する触媒と、前記有機塩素化合物と前記触媒とが混合した処理対象混合物を、密閉状態で収容可能な内部空間を有する処理物収容手段と、前記処理物収容手段の前記内部空間に収容した前記処理対象混合物を加熱する加熱手段と、を備え、前記触媒は、粒状活性炭、炭素粉末、または備長炭のうち、少なくとも一種の物質と、濃硫酸または発煙硫酸とを混合してなる第1混合物を、あるいは、表層部が分子内脱水した木片と、濃硫酸または発煙硫酸とを混合してなる第2混合物を、温度160~200℃の下、スルホン化処理により生成されたものであること、を特徴とする。
【0016】
この態様によれば、有機塩素化合物と触媒を混合して加熱する温度は、140℃以下であるため、特許文献1,2に開示された処理装置及び処理方法で行う加熱温度に比べ、200℃以上も低い。そのため、加熱に供給するエネルギは抑制できるほか、触媒もリサイクル使用できるため、有機塩素化合物の脱塩素化にあたり、運用上、コストを抑えることができる。また、有機塩素化合物の分解炭化処理装置は、特許文献1,2のように、300℃超えの高温に対応した重厚な耐熱対策を必要とせず、簡素化かつ小型化した装置構造で構成することが可能になる上、有機塩素化合物の分解炭化処理装置に係る設備コストを、安価に抑えることができる。さらに、有機塩素化合物を脱塩素化して得られる脱塩素化処理物は、炭化物となり、素材または資源として活用することができる。
【0017】
上記の態様において、前記処理対象混合物の温度が140℃以下となるよう、前記加熱手段を制御する温度制御手段を備えること、が好ましい。
【0018】
この態様によれば、有機塩素化合物を脱塩素化した脱塩素化処理物では、PCB、ダイオキシン類の含有濃度を、処理前の濃度比で、一例として、99%程低減させることが可能になる。これにより、人体に有害であった有機塩素化合物は、脱塩素化により、容易に廃棄処分を行うことができる状態に変化する。
【0019】
上記の態様において、前記処理物収容手段には、前記有機塩素化合物と前記触媒との反応を介して生じてなる副生成物を、前記内部空間の外部へ排出させる副生成物排出手段を備えること、が好ましい。
【0020】
この態様によれば、触媒は、次の脱塩素化処理に向けてそのまま使用できる状態で、反応槽の内部空間に残されると共に、有機塩素化合物と触媒との混合物である触媒混合物から、副生成物を除いた脱塩素化処理物は、粉末状の炭素の集まり(炭化物)となって資源化され、産業用の素材の一つとして、活用することができる。
【発明の効果】
【0021】
従って、本発明に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法、及びその分解炭化処理装置によれば、有害な有機塩素化合物を無害化して廃棄処分するにあたり、触媒により、安価なコストで、かつ簡単に脱塩素処理を行って炭化させることができる、という優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理装置の概略を示す説明図である。
図2図1に示す分解炭化処理装置に構成された触媒を示す図である。
図3】実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法により、有機塩素化合物を分解炭化処理するまでの一連の工程を模式的に示す説明図である。
図4】実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法の効果を確認する実験で、実施例1,2、及びその比較例1,2に係る実験1~4に対し、条件と結果をまとめて掲載した表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法、及びその分解炭化処理装置について、好ましい一の実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
本発明に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法は、主にポリ塩化ビフェニル(PCB:Poly Chlorinated Biphenyl)、ダイオキシン類(Dioxins and dioxin-like compounds)等とする有害な有機塩素化合物に対し、その構成要素に含む塩素を、炭素と解離させる分解を行うことにより、この有機塩素化合物の脱塩素化を行うと共に、炭化を行う方法である。また、本発明に係る有機塩素化合物の分解炭化処理装置は、このような有機塩素化合物に対し、その構成要素に含む塩素を炭素と解離させて、分解を行うことにより、この有機塩素化合物の脱塩素化を行うと共に、炭化を行う装置である。
【0025】
はじめに、ポリ塩化ビフェニルとダイオキシン類の各物性について、簡単に説明する。ポリ塩化ビフェニル(PCB)は、ビフェニル(biphenyl)(分子式;C1210)の水素原子を塩素原子で置換した化合物の総称で、一般式[C12H(10-n)Cl (1≦n≦10)]で表される。PCBでは、水素原子から置換した塩素原子の位置により、合計209種の異性体が存在する。PCBは、熱分解し難く、水に難溶、不燃性で、化学的に安定した物性で、周知の通り、体にとって有害な毒性を有する化学物質である。
【0026】
ダイオキシン類は、無色・無臭の固体、水に難溶、蒸発し難く、分解し難くいばかりか、酸性・アルカリ性をなす他の物質とも反応しない物性で、化学的に安定した状態を保ち、周知の通り、体にとって有害な毒性を有する化学物質である。ダイオキシン類は、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD:Polychlorinated dibenzo-p-dioxins)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF:polychlorinated dibenzofurans)、及びダイオキシン様ポリ塩化ビフェニル(DL-PCB:dioxin-like polychlorinated biphenyls)の総称であり、以下に示すように、いずれの物質の構造式でも、2つのベンゼン環に対し、水素原子を塩素原子に置換した構造を有する。
【0027】
PCDDは、下記[化1]で示すように、一般的な構造式(0≦m≦4、0≦n≦4、2≦m+n≦8)で表される。
【0028】
【化1】
【0029】
PCDDの一例として、2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-1,4-ジオキシン(TCDD:2,3,7,8-Tetrachlorodibenzodioxin)は、下記[化2]に示す構造式で表される。
【0030】
【化2】
【0031】
PCDFは、下記[化3]に示す構造式で表される。
【0032】
【化3】
【0033】
DL-PCBは、下記[化4]に示す一般的な構造式(1≦n≦10)で表される。
【0034】
【化4】
【0035】
次に、実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理装置(以下、単に「化合物分解炭化処理装置」と称する)の構成について、説明する。図1は、実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理装置の概略を示す説明図である。なお、図1は、図を見易くするため、例えば、第1配管31と第2配管41に必要な開閉弁等、配管機器を省略して図示されている。図2は、図1に示す分解炭化処理装置に構成された触媒を示す図である。図3は、実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法により、有機塩素化合物を分解炭化処理するまでの一連の工程を模式的に示す説明図である。
【0036】
図1に示すように、化合物分解炭化処理装置1は、廃棄処分対象の有機塩素化合物90(PCB、ダイオキシン類)に対し、その構成要素に含む塩素を、炭素と解離させる分解を行うことにより、有機塩素化合物90の脱塩素化を行うと共に、炭化を行う装置である。化合物分解炭化処理装置1は、大別して、反応槽2(処理物収容手段、処理物収容体)と、触媒5と、加熱手段11と、温度制御手段12と、温度計測手段13と、副生成物排出手段21と、中和処理手段22等を備える。
【0037】
図1及び図3に示すように、反応槽2は、内部空間3を有する有底筒状の槽で、内部空間3の開口を気密状態、かつ液密状態で閉塞する蓋4を有する。内部空間3は、有機塩素化合物90と触媒5とが混合した触媒混合物91を収容可能な容積となっている。反応槽2は、内部空間3において、概ね200℃近くまでの加熱に耐え得る仕様で、構成されている。
【0038】
加熱手段11は、内部空間3に収容した触媒混合物91を加熱するにあたり、例えば、マントルヒータ、電気ヒータ、誘導加熱コイル等に挙げられるように、熱を反応槽2に伝導可能に配設された電熱機器等である。温度計測手段13は、内部空間3に設けられ、内部空間3に収容した触媒混合物91の温度を計測する。
【0039】
温度制御手段12は、加熱手段11及び温度計測手段13と電気的に接続されている。温度制御手段12は、内部空間3に収容した触媒混合物91の温度が140℃以下となるよう、温度計測手段13の測定値に基づいて、加熱手段11の加熱を制御する温度調節機能を有する。なお、加熱手段11は、温度制御手段12の機能を具備したものであっても良い。
【0040】
副生成物排出手段21は、有機塩素化合物90と触媒5との反応で生じる副生成物92を、内部空間3の外部へ排出させる機能を有する。具体的には、例えば、副生成物92の流入口である吸収部33が、内部空間3に設けられ、副生成物排出手段21は、第1配管31を介して、吸収部33と連通して接続されている。副生成物排出手段21は、内部空間3に溜まった気相状の副生成物92(PCDD、PCDFでは、水蒸気も加わる場合がある)を、吸収部33から吸引する機能を備えている。
【0041】
中和処理手段22は、副生成物排出手段21より排出される副生成物92に、中和処理を施す機能を有する。本実施形態では、中和処理手段22は、第1配管31上に設けられ、副生成物排出手段21と、直列接続で連通している。中和処理手段22は、反応容器部を有すると共に、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH))等、アルカリ性の物質である中和剤を、貯留部に貯留している。中和処理手段22は、副生成物排出手段21から第1配管31を通じて供給される酸性の副生成物92を、貯留部から供給されるアルカリ性の中和剤と反応容器部で接触させ、副生成物92と中和剤との中和反応を行う。
【0042】
また、第1貯留部32は、第1配管31上に、中和処理手段22と直列に接続されている。第1貯留部32は、中和処理手段22により、副生成物92と中和剤で中和された中和処理反応物93を採取する部分である。
【0043】
反応槽2には、第2配管41が、内部空間3と連通して接続され、第2貯留部42は、この第2配管41と連通して接続されている。第2貯留部42は、後述するように、内部空間3に残された脱塩素化処理物95を採取する部分である。
【0044】
次に、触媒5について、説明する。触媒5は、次述する第1混合物、あるいは第2混合物を、温度160~200℃の下、スルホン化処理により生成されたものである。第1混合物は、粒状活性炭、炭素粉末、または備長炭のうち、少なくとも一種の物質と、濃硫酸または発煙硫酸とを混合してなる。第2混合物は、表層部が分子内脱水した木片と、濃硫酸または発煙硫酸とを混合してなる。
【0045】
触媒5は、前述したように、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ダイオキシン類等に挙げられる有機塩素化合物90との混合下で、有機塩素化合物90に対し、その構造式の炭素鎖骨格にある炭素と結合する塩素の解離を促す特性を有する。触媒5による塩素の解離に伴い、有機塩素化合物90では、炭素鎖骨格で炭素同士の結合が解離するほか、炭素と水素との結合が解離する。すなわち、触媒5は、有機塩素化合物90において、炭素と結合している塩素及び水素を、この炭素から解離させることにより、有機塩素化合物90を分解する作用を具備している。
【0046】
触媒5は、概ね1.0g/cmの比重をなす黒色の固体物質で、図2に例示するように、ペレット状に形成されている。触媒5の大きさとして、触媒5一粒のなす立体形状において、最も長い辺が、10mm程度までの長さに収まることが好ましく、より好ましくは8mm以下、さらに好ましいのは5mm以下であり、触媒5の一粒は、このような大きさで形成されていると良い。
【0047】
後述するように、実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法により、所定重量分の触媒5と有機塩素化合物90とを、反応槽2の内部空間3で混合させた状態で反応させるとき、最も長い辺の長さが10mm超とする大粒の触媒を用いる場合に比べ、小粒の触媒を数多く用いることで、全ての触媒の総表面積を大きくすることができる。そのため、触媒5と有機塩素化合物90との反応が、促進的に生ずるようになるからである。
【0048】
特に、一粒が、図2に示すように、例えば、直径4mm、全長5mm程のサイズで、略円柱形状をなす触媒5では、その全体が、内部に空隙を抑えた緻密な構造で構成できているため、触媒5は、破砕し難くい適度な硬さを呈している。そのため、有機塩素化合物90の脱塩素化及び炭化の処理を実施するにあたり、触媒5が、脱塩素化処理中に有機塩素化合物90と共に、撹拌されている状態下にあっても、細かく砕かれ難くなり、脱塩素化処理を複数回行う場合に、繰り返し使用することができるようになる。
【0049】
次に、実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法について、説明の便宜上、用いる反応槽等のユニットを、前述した化合物分解炭化処理装置1に構成された反応槽2等の各ユニットに対応させ、化合物分解炭化処理装置1にあるユニットと同じ符号を用いて説明する。なお、実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法の実施にあたり、使用する有機塩素化合物の分解炭化処理装置は、実施形態に係る化合物分解炭化処理装置1に限定されるものではなく、種々変更可能である。
【0050】
本実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法は、前述したPCB、ダイオキシン類である有機塩素化合物90を、触媒5で分解し、脱塩素化して炭化処理するにあたり、第1工程と、第2工程と、第3工程と、第4工程とを有してなる。
【0051】
第1工程は、有機塩素化合物90と触媒5とを、反応槽2の内部空間3に供給し、密閉状態で収容する工程である。
【0052】
第2工程は、有機塩素化合物90と触媒5とが内部空間3で混合した触媒混合物91を加熱して、設定された一定時間、140℃以下の温度で保持する工程である。特に、第2工程では、保持する触媒混合物91の温度が、80~140℃の範囲内であることが好ましい。
【0053】
第3工程は、第2工程で、有機塩素化合物90と触媒5との反応により、二次的に生じた副生成物92を、内部空間3の外部に排出する工程である。
【0054】
第4程は、排出される副生成物92に、中和処理を行う工程である。
【0055】
具体的に説明する。PCBまたはダイオキシン類である有機塩素化合物90は、体にとって有害な毒性を有する化学物質であるため、作業者は、有機塩素化合物90の無害化処理にあたり、安全衛生上、十分な防護対策を取った上で、第1工程からの作業にあたる。
【0056】
はじめに、第1工程では、図3中、(A)及び(B)に示すように、反応槽2の内部空間3に、所定重量分の触媒5を供給して収容すると共に、有機塩素化合物90を供給して収容し、蓋4で内部空間3を閉塞する。触媒5は、先の有機塩素化合物90で、脱塩素化処理・炭化処理を行った後、次の有機塩素化合物90で、再度、繰り返し複数回に亘って使用できるため、2回目以降の使用の場合、反応槽2の内部空間3に残留したままで良く、触媒5の入った反応槽2の内部空間3に、有機塩素化合物90だけを供給して収容する。
【0057】
触媒5の配合割合は、有機塩素化合物90を100wt%とした場合、少なくとも1wt%以上であることが好ましく、より好ましくは5wt%以上、さらに好ましいのは10wt%以上であると良い。触媒5の配合割合が1wt%未満であると、触媒5が、混合する有機塩素化合物90に満遍なく行き渡らず、有機塩素化合物90に含む塩素と十分に接触できないため、塩素の解離を効果的に行うことができないからである。
【0058】
なお、触媒5が、一例として、80wt%を超える過剰な添加量で配合されていると、触媒5が、反応槽2に収容されている有機塩素化合物90に対し、必要以上に多く添加されているため、触媒5は、有機塩素化合物90と相対的に流動し難くなる。そのため、触媒5が、混合する有機塩素化合物90に含む塩素と十分な状態で接触できず、触媒5との反応が効果的に促進されなくなり、塩素が有機塩素化合物90から解離し難くなってしまう虞がある。それ故に、触媒5の添加量上限を、80wt%までとすることが好ましい。
【0059】
第2工程は、触媒5により、有機塩素化合物90の構成要素である塩素原子を、ほとんど、または完全に有機塩素化合物90から解離させる目的で実施される。図3中、(B)に示すように、反応槽2では、触媒混合物91が、80~140℃の範囲内とする条件下で加熱されると、有機塩素化合物90は、反応槽2内で対流する。これにより、触媒5は、有機塩素化合物90と相対的に流動して満遍なく撹拌された状態となり、有機塩素化合物90の構成要素である塩素原子と接触する。
【0060】
有機塩素化合物90は、前述したように、炭素鎖骨格をなす炭素原子に、主として水素原子、塩素原子が結合した構造で構成されており、PCDDやPCDFの場合、さらに酸素原子が、炭素鎖の水素原子と結合した構造で構成されている。PCDDやPCDFを含め、有機塩素化合物90を構成する分子の骨格は、主となる炭素原子に対し、共有結合により、水素原子、塩素原子と結合している。炭素原子と水素原子との共有結合では、水素原子の電気陰性度は、炭素原子の電気陰性度よりやや小さいものの、炭素原子と水素原子との間では、電子の集まりが、炭素原子の原子核側に、特に大きく偏っていない。
【0061】
一方、炭素原子と塩素原子との共有結合では、塩素原子の電気陰性度は、炭素原子に比べて大きく、炭素原子と塩素原子との電気陰性度の差は、炭素原子と水素原子との電気陰性度の差よりも顕著に大きい。それ故に、炭素原子と塩素原子との共有結合では、双方の電気陰性度の差による影響で、炭素原子と塩素原子との間に、電子の集まりが塩素原子の原子核側により大きく偏るという誘起効果が生じる。従って、誘起効果を持つ有機塩素化合物90は、極性を有している。
【0062】
また、有機塩素化合物90がPCDD、PCDFの場合、水素原子と酸素原子との共有結合では、酸素原子の電気陰性度は、水素原子に比べて大きく、水素原子と酸素原子との電気陰性度の差は、炭素原子と水素原子との電気陰性度の差よりも顕著に大きい。それ故に、水素原子と酸素原子との共有結合では、双方の電気陰性度の差による影響で、水素原子と酸素原子との間に、電子の集まりが酸素原子の原子核側に偏り、誘起効果が生じる。
【0063】
触媒5は、極性を有する有機塩素化合物90を対象に、主として炭素原子より大きい電気陰性度を有する原子に対し、炭素原子との間で共有結合する電子の集まりを、その原子側に引き寄せる吸引性を有した物性である。
【0064】
具体的には、触媒5は、極性を有する有機塩素化合物90を対象に、特に炭素原子と塩素原子との間で共有結合する電子の集まりを、塩素原子の原子核側に引き寄せ、炭素原子側にある共有電子の密度を低下させることにより、主となる塩素原子を炭素原子から引き離す作用を持った物質である。図3中、(B)に示すように、触媒5が、温度80~140℃の加熱下で、設定された一定時間(例えば、約4時間)、有機塩素化合物90と直に接触した状態になると、有機塩素化合物90と触媒5との間では、次の化学反応が生じる。
【0065】
すなわち、特に温度80~140℃の加熱下では、有機塩素化合物90を構成する分子構造において、炭素原子と共有結合する塩素原子が、触媒5により、炭素原子から解離し易くなる。有機塩素化合物90では、塩素原子が炭素原子から解離すると、塩素原子の解離に伴った分子構造の崩れにより、炭素同士の結合の解離や、炭素原子と共有結合する水素原子の解離が、触媒5によって引き起される。これにより、反応槽2内では、切り離された塩素原子(塩素イオン)と、切り離された水素原子(水素イオン)とが、互いに反応して、図3中、(B)に示すように、副生成物92として、塩化水素(HCl)が生成される。
【0066】
さらに、有機塩素化合物90がPCDD、PCDFの場合では、触媒5により、水素原子が炭素原子から切り離されるのに伴い、酸素原子は、水素原子と共有結合したまま、水になる。
【0067】
なお、触媒混合物91の加熱温度は80℃未満でも、触媒5により、有機塩素化合物90から塩素と水素を解離させることはできるが、触媒5は、加熱温度80℃以上の場合に比べ、促進して塩素原子及び水素原子を引き離し難くなる。その結果、有機塩素化合物90を脱塩素化及び炭化するまでの処理時間が長く掛かってしまい、有機塩素化合物90の脱塩素化及び炭化の処理を、効率良く行うことができないからである。
【0068】
その反対に、触媒混合物91の加熱温度が140℃を超えると、触媒5は、有機塩素化合物90から切り離された塩素原子(または塩素分子)と反応してしまい、有機塩素化合物90に含む塩素の解離を促すという、元々有していた特性を失ってしまうからである。従って、触媒混合物91の加熱温度を80~140℃の範囲内にすると、触媒5は、有機塩素化合物90の脱塩素化処理を、効率良く行うことができる。
【0069】
第3工程では、図1及び図3中、(C)に示すように、副生成物92である塩化水素は、副生成物排出手段21等により、反応槽2から放出され、中和処理に向けて第4工程に移される。第4工程では、酸性の塩化水素(副生成物92)は、図1及び図3中、(D)に示すように、中和処理手段22等により、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等、アルカリ性の中和剤との中和反応を経て、中和処理反応物93が生成される。
【0070】
中和剤が水酸化ナトリウムである場合、中和処理反応物93は、塩化ナトリウムと水であり、中和剤が水酸化カルシウムである場合には、中和処理反応物93は、塩化カルシウムと水である。化合物分解炭化処理装置1では、図1に示すように、中和処理反応物93は、第1貯留部32で、周知の手法により、例えば、生成された塩化ナトリウムまたは塩化カルシウムと、水に分離した状態で、採取される。
【0071】
有機塩素化合物90がPCDD、PCDFの場合に、有機塩素化合物90に有する酸素原子は、反応槽2内で切り離された水素原子と結合し、副生成物92として、水になる。なお、前述したように、副生成物92には、塩化水素も生成されるため、PCDD、PCDFの場合、副生成物排出手段21は、フィルタ等、周知技術による分離手段により、反応槽2内から供給される塩化水素と水とを分離させた状態にしておき、塩化水素だけを中和処理手段22に供給して中和処理を行うことが好ましい。副生成物排出手段21に供給された水は、例えば、中和処理手段22により、塩化水素の中和処理で生じた水を溜める槽等に排水しても良い。
【0072】
他方、反応槽2内には、図3中、(E)に示すように、脱塩素処理後触媒混合物94として、触媒5と脱塩素化処理物95とが、混合した状態で残されている。脱塩素化処理物95は、主成分を炭素としたカーボンブラック(carbon black)等のように、粉末状の炭素の集まり(炭化物)である。これらの炭素粉は、経時的に凝集して粒子となる。
【0073】
化合物分解炭化処理装置1では、図1及び図3中、(F)に示すように、脱塩素処理後触媒混合物94は、触媒5と脱塩素化処理物95に分別される。触媒5は、反応槽2の内部空間3に残され、脱塩素化処理物95は、反応槽2の内部空間3から排出され、第2貯留部42で採取される。採取された脱塩素化処理物95は、資源化され、産業用の素材の一つとして活用することができる。
【0074】
かくして、有機塩素化合物90は、実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法、及び化合物分解炭化処理装置1より、有害な有機塩素化合物90に対し、その構成要素である塩素及び水素を取り除き、脱塩素化して炭化を施した無害な物質にすることができる。
【0075】
次に、実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法の効果を確認する目的で、検証実験を行った。図4は、実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法の効果を確認する実験で、実施例1,2、及びその比較例1,2に係る実験1~4に対し、条件と結果をまとめて掲載した表である。
【0076】
<方法>
検証実験は、実施例1,2に係る実験1,2と、その比較例1,2に係る実験3,4の全4種である。検証実験では、実験毎に、ポリ塩化ビフェニル(PCB)の原液200gと、総重量20g分の触媒5を、ガラス製のビーカー内に収容すると共に、このビーカーを蓋で閉塞した。蓋に排気管部を設けておき、ビーカー内の雰囲気が、排気管部を通じて容器の外側にある集気瓶内に排出できるようにした。次に、PCB原液(有機塩素化合物90)と触媒5とが入ったこのビーカーを、電気式マントルヒータで加熱することにより、PCB原液と触媒5とを混合させた触媒混合物(触媒混合物91)を、設定温度まで昇温させ、排気管部から副生成物(副生成物92)を排気しながら、所定時間、設定温度に保持した状態で、ビーカー内で生じた対流により、この触媒混合物を、満遍なく撹拌し続けた。
【0077】
所定時間の経過後、ビーカー内にある脱塩素処理後触媒混合物(脱塩素処理後触媒混合物94)から触媒5を除いた脱塩素化処理物(脱塩素化処理物95)を採取し、試料とした。そして、試料から検出されるPCBの濃度Cを測定し、予め測定したPCB原液の濃度Cとの差ΔCを求めて、実験前後に対するPCBの濃度減少率Rc=ΔC/C×100を得た。
【0078】
<PCB濃度の測定方法>
・計測の実施;専門の計量分析機関
・計測方法;メンブランフィルタ(membrane filter)で濾過した試料の濾液を検査液とし、ガスクロマトグラフシステム(株式会社島津製作所製 機種GC-2014AF)を用いて、この検査液から検出されるPCBの濃度を、日本国環境庁告示第59号付表3に基づく測定方法で測定
【0079】
<条件>
・触媒;図2に例示した略円柱形状の触媒5
・有機塩素化合物90;ポリ塩化ビフェニル(PCB)の原液
・脱塩素化処理前のPCB原液の濃度C(ppm);26000(実験1~4)
・触媒混合物の設定加熱温度(℃);140(実験1,2)、160(実験3,4)
・触媒混合物の設定加熱時間(H);2(実験1,3)、4(実験2,4)
【0080】
<結果>
図4に示すように、実験1では、脱塩素化処理後の試料のPCB濃度Cは180ppm、脱塩素化処理前後のPCB濃度差ΔCは25820ppm、濃度減少率Rcは99.3%であった。実験2では、脱塩素化処理後の試料のPCB濃度Cは15ppm、脱塩素化処理前後のPCB濃度差ΔCは25985ppm、濃度減少率Rcは99.9%であった。実験3では、脱塩素化処理後の試料のPCB濃度Cは7700ppm、脱塩素化処理前後のPCB濃度差ΔCは18300ppm、濃度減少率Rcは70.4%であった。実験4では、脱塩素化処理後の試料のPCB濃度Cは3500ppm、脱塩素化処理前後のPCB濃度差ΔCは22500ppm、濃度減少率Rcは86.5%であった。また、集気瓶内には、実験1~4とも、塩化水素が採取できた。
【0081】
また、本出願人は、実験1~4以外にも、実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法に基づいた脱塩素化処理により、ダイオキシン類と触媒5を混合させた触媒混合物を対象とした別の検証実験も実施して、ダイオキシン類についても、脱塩素化処理物を生成できるか否かの確認を行った。別の検証実験では、触媒混合物を4H、120~140℃で加熱したところ、ダイオキシン類の濃度は、脱塩素化処理前に約30000ppmであったが、脱塩素化処理後には、約100ppmであった。この検証実験の結果により、実施例1,2に係る実験結果と同様、前述したDL-PCB、PCDF、TCDD等のダイオキシン類の場合でも、脱塩素化処理後のダイオキシン類の濃度は、脱塩素化処理前の濃度との対比で、約99%以上減少していた。
【0082】
<考察>
実施例1,2に係る実験1,2の結果では、何れもPCBの濃度減少率Rcは99%であり、PCB濃度は、実験前にあった26000ppmから、実験後には25800ppm以上も減少していた。その理由として、PCB原液と触媒5を混合した触媒混合物91の加熱温度は、140℃であったため、触媒混合物91が攪拌されている最中に、触媒5は、PCB原液の構成要素である塩素原子、水素原子を、このPCB原液から解離させる一方で、触媒5には、これらの塩素原子、水素原子との反応は生じていない。
【0083】
それ故に、解離後、これらの塩素原子と水素原子との結合に基づいた副生成物92として、塩化水素が生成されたことにより、PCB原液の脱塩素化が行われたためだと考えられる。なお、ダイオキシン類と触媒5による触媒混合物を対象とした別の検証実験の結果についても、実験1,2の結果と同様の考察である。
【0084】
これに対し、比較例1,2に係る実験3,4では、何れもPCBの濃度減少率Rcは、実施例1,2に係る実験1,2の結果より、十数%から30%程も低くなっていた。その理由として、PCB原液と触媒5を混合した触媒混合物91の加熱温度は、許容範囲の上限である140℃を、20℃も上回る160℃であった。
【0085】
そのため、触媒混合物91が攪拌されている最中に、触媒5は、PCB原液の構成要素である塩素原子、水素原子を、このPCB原液から解離させても、これらの塩素原子、水素原子は、触媒5と反応してしまう。このことに起因して、PCB原液から塩素原子、水素原子を解離させる触媒5の能力が低下してしまい、触媒5に劣化が生じたものと考えられる。それ故に、解離した塩素原子と水素原子との結合により、副生成物92である塩化水素の生成は抑えられ、PCB原液の脱塩素化が十分に行われなかったからだと推察される。
【0086】
なお、比較例2に係る実験4の結果では、PCBの濃度減少率Rcは、比較例1に係る実験3の結果より、約16%高くなっている。その理由として、配合した触媒5全量のうち、一部で、劣化していなかった正常な状態にある触媒5が残っており、少なくなったこの正常な状態の触媒5により、実験3の条件より2倍の時間をかけて、PCB原液の脱塩素化を行っている。そのため、実験4では、PCBの濃度減少率Rcが、実験3でのPCBの濃度減少率Rcより、大きくなったものと考えられる。
【0087】
次に、本実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法、及び化合物分解炭化処理装置1の作用・効果について説明する。
【0088】
本実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法は、ポリ塩化ビフェニル、またはダイオキシン類である有機塩素化合物90を、触媒5で分解処理するにあたり、有機塩素化合物90と触媒5とを、反応槽2の内部空間3に供給し、密閉状態で収容する第1工程と、有機塩素化合物90と触媒5とが内部空間3で混合した触媒混合物91を加熱して、設定された一定時間、140℃以下の温度で保持する第2工程と、第2工程で、有機塩素化合物90と触媒5との反応により、二次的に生じた副生成物92を、内部空間3の外部に排出する第3工程と、を有すること、触媒5は、粒状活性炭、炭素粉末、または備長炭のうち、少なくとも一種の物質と、濃硫酸または発煙硫酸とを混合してなる第1混合物を、あるいは、表層部が分子内脱水した木片と、濃硫酸または発煙硫酸とを混合してなる第2混合物を、温度160~200℃の下、スルホン化処理により生成され、有機塩素化合物90に含む塩素の解離を促すと共に、有機塩素化合物90の炭化を促す物性を有するものであること、を特徴とする。
【0089】
また、本実施形態に係る化合物分解炭化処理装置1は、廃棄処分対象の有機塩素化合物90に分解処理を施す有機塩素化合物の処理装置において、有機塩素化合物90は、ポリ塩化ビフェニル、またはダイオキシン類であり、有機塩素化合物90との混合下で、有機塩素化合物90に含む塩素の解離を促すと共に、有機塩素化合物90の炭化を促す物性を有する触媒5と、有機塩素化合物90と触媒5とが混合した触媒混合物91を、密閉状態で収容可能な内部空間3を有する反応槽2と、反応槽2の内部空間3に収容した触媒混合物91を加熱する加熱手段11と、を備え、触媒5は、粒状活性炭、炭素粉末、または備長炭のうち、少なくとも一種の物質と、濃硫酸または発煙硫酸とを混合してなる第1混合物を、あるいは、表層部が分子内脱水した木片と、濃硫酸または発煙硫酸とを混合してなる第2混合物を、温度160~200℃の下、スルホン化処理により生成されたものであること、を特徴とする。
【0090】
このような特徴により、PCB、ダイオキシン類である有機塩素化合物90は、140℃以下の温度で触媒5と混合するだけで、分解して脱塩素化されるため、特許文献1,2に開示された処理装置及び処理方法に比べ、複雑な工程を経ることなく、有機塩素化合物90の廃棄処分を、簡単に行うことができる。しかも、有機塩素化合物90を脱塩素化して得られる脱塩素化処理物95は、炭化物となり、素材または資源として活用することができる。
【0091】
また、有機塩素化合物90と触媒5を混合した触媒混合物91の加熱は、140℃以下であるため、特許文献1,2に開示された処理装置及び処理方法で行う加熱温度に比べ、200℃以上も低い。加えて、触媒5は、複数回に亘り、繰り返して使用できる。そのため、加熱に供給するエネルギは抑制できており、有機塩素化合物90の脱塩素化にあたり、運用上、イニシャルコストと共に、ランニングコストが安価である。加えて、化合物分解炭化処理装置1は、特許文献1,2のように、300℃超えの高温に対応した重厚な耐熱対策を必要とせず、簡素化かつ小型化した装置構造で構成することが可能になる上、化合物分解炭化処理装置1に係る設備コストを、安価に抑えることができる。
【0092】
従って、本実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法によれば、例示するPCB、ダイオキシン類のように、有害な有機塩素化合物90を無害化して廃棄処分するにあたり、触媒5により、安価なコストで、かつ簡単に脱塩素処理を行って炭化させることができる、という優れた効果を奏する。また、本実施形態に係る有機塩素化合物の化合物分解炭化処理装置1についても、本実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法と同様の効果を奏する。
【0093】
また、本実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法では、第2工程では、保持する触媒混合物91の温度は、80~140℃の範囲内であること、を特徴とする。また、本実施形態に係る化合物分解炭化処理装置1では、触媒混合物91の温度が140℃以下となるよう、加熱手段11を制御する温度制御手段12を備えること、を特徴とする。
【0094】
このような特徴により、有機塩素化合物90を脱塩素化した脱塩素化処理物95では、PCB、ダイオキシン類の含有濃度を、処理前の濃度比で、概ね99%低減させることが可能になる。これにより、人体に有害であった有機塩素化合物90は、脱塩素化により、容易に廃棄処分を行うことができる状態に変化する。
【0095】
なお、厳格な法規制の下で、PCB、ダイオキシン類の廃棄処分を行う上で、本実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法による有機塩素化合物90の廃棄処理が、厳格な法規制の基準を満たさない場合、本実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法は、廃棄処理の一次工程として用いられても良い。これにより、一次工程の後に行う二次工程の実施にあたり、PCB、ダイオキシン類の残留濃度は、本実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法によって、処理前濃度の1%程に削減できた状態にある。そのため、二次工程では、PCB等の残留濃度を、厳格な法規制の基準値まで下げる過程・処理が簡素化できるからである。
【0096】
また、本実施形態に係る化合物分解炭化処理装置1では、反応槽2には、有機塩素化合物90と触媒5との反応を介して生じてなる副生成物92を、内部空間3の外部へ排出させる副生成物排出手段21を備えること、を特徴とする。
【0097】
この特徴により、触媒5は、次の脱塩素化処理に向けてそのまま使用できる状態で、反応槽2の内部空間3に残されると共に、脱塩素化処理物95は、粉末状の炭素の集まりとなって資源化され、産業用の素材の一つとして、活用することができる。
【0098】
また、本実施形態に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法では、排出される副生成物92に、中和処理を行う第4工程を有すること、を特徴とする。
【0099】
この特徴により、生成された中和処理反応物93は、例えば、塩化ナトリウムまたは塩化カルシウムと、水等であり、材料または資源として活用することができる。
【0100】
以上において、本発明に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法、及び有機塩素化合物の分解炭化処理装置を実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できる。
【0101】
例えば、実施形態では、反応槽2内で触媒混合物91を加熱し、有機塩素化合物90で生じる対流に基づいて、触媒5と有機塩素化合物90とを撹拌した。しかしながら、本発明に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法、及びその分解炭化処理装置では、処理物収容手段または処理物収容体の内部空間において、触媒が、有機塩素化合物との混合下で、物理的に発生させた外力を有機塩素化合物に付与する撹拌手段により、有機塩素化合物と撹拌されても良い。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上の説明から明らかなように、本発明に係る有機塩素化合物の分解炭化処理方法、及びその分解炭化処理装置は、有害な有機塩素化合物に対し、無害化して廃棄処理を行う施設や、有機塩素化合物を無害化した物質を、資源として再生させる施設で、用いることができる。
【符号の説明】
【0103】
1 化合物分解炭化処理装置(有機塩素化合物の分解炭化処理装置)
2 反応槽(処理物収容手段、処理物収容体)
3 内部空間
5 触媒
11 加熱手段
12 温度制御手段
21 副生成物排出手段
90 有機塩素化合物
91 触媒混合物(処理対象混合物)
【要約】
有機塩素化合物の分解炭化処理方法は、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、またはダイオキシン類である有機塩素化合物の分解処理にあたり、有機塩素化合物に含む塩素の解離を促すと共に、有機塩素化合物の炭化を促す物性を有する触媒と、有機塩素化合物とを、処理物収容体の内部空間に供給し、密閉状態で収容する第1工程と、有機塩素化合物と触媒とが混合した処理対象混合物を加熱して、一定時間、140℃以下の温度で保持する第2工程と、有機塩素化合物と触媒との反応により、二次的に生じた副生成物を、内部空間の外部に排出する第3工程と、を有する。
図1
図2
図3
図4