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特許7182844ブレーキパッドの摩耗挙動を分析する方法およびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】ブレーキパッドの摩耗挙動を分析する方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   F16D 66/02 20060101AFI20221128BHJP
   F16D 69/00 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
F16D66/02 F
F16D69/00 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018500784
(86)(22)【出願日】2016-07-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-08-16
(86)【国際出願番号】 EP2016066853
(87)【国際公開番号】W WO2017016899
(87)【国際公開日】2017-02-02
【審査請求日】2018-03-09
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-16
(31)【優先権主張番号】102015112232.4
(32)【優先日】2015-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597166361
【氏名又は名称】クノール-ブレミゼ ジュステーメ フューア ヌッツファーツォィゲ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】KNORR-BREMSE System fuer Nutzfahrzeuge GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(72)【発明者】
【氏名】ショーナウアー,マンフレット
(72)【発明者】
【氏名】パーレ,ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】ドレーゼン,ディルク
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】内田 博之
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-155114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 66/02,F16D 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキシステムのブレーキパッドの摩耗挙動を分析する方法であって、少なくとも:
a)パッド支持プレート(10)と、摩擦値が互いに異なる少なくとも2つ以上の摩擦材料層(12,13)からなる摩擦ライニングと、を有するそれぞれ1つまたは複数のブレーキパッド(6a,6b)を有する、少なくとも1つまたは複数のブレーキを備えるとともに、少なくとも1つの評価装置(9)を備えるブレーキシステムを用意するステップと、
b)ブレーキ毎の、制動時に生じる摩耗の程度を、ブレーキ毎の少なくとも1つの摩耗センサを用いて求めるステップと、
c)ブレーキ毎の、制動時に使用されるブレーキエネルギを、前記評価装置により求めるステップと、
d)前記ステップb)で求めた摩耗測定値を、ステップc)で求めたブレーキエネルギ値または走行距離に応じて増加する摩耗の増加の勾配を繰り返し求めるステップと、
e)前記勾配が変化したとき、前記評価装置(9)により出力機器に信号を出力するステップと、
を有する、ブレーキシステムのブレーキパッドの摩耗挙動を分析する方法。
【請求項2】
ステップe)において、少なくとも前記勾配が所定の限界値を超えたとき、前記出力機器に信号を出力することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ステップe)において、少なくとも前記勾配が公差範囲または公差帯を超えたとき、出力機器に信号を出力することを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記ブレーキパッド(6a,6b)のすべてが、前記ライニング支持プレート(10)と、少なくとも2つ以上の摩擦材料層(12,13)からなる前記摩擦ライニングとを有することを特徴とする、請求項1から3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのブレーキパッド(6a,6b)の前記摩擦材料層(12,13)のうちの少なくとも1つの摩擦材料層の厚さ(D1)は、当該ブレーキパッドの最終摩耗寸法に相当し、この最終摩耗寸法に達したことが検知されたとき、前記信号を出力することを特徴とする、請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
請求項1から5いずれか1項記載の方法を実施するブレーキシステムであって、少なくとも:
a)ライニング支持プレート(10)と、摩擦測定値が互いに異なる少なくとも2つ以上の摩擦材料層(12,13)からなる摩擦ライニングと、を有するそれぞれ1つまたは複数のブレーキパッド(6a,6b)を有する、少なくとも1つまたは複数のブレーキを備えるとともに、請求項1から5いずれか1項記載の方法を実施するように設計された少なくとも1つの評価装置(9)を備えることを特徴とするブレーキシステム。
【請求項7】
前記少なくとも1つのブレーキパッドの前記摩擦材料層のうちの少なくとも1つの摩擦材料層(12)の厚さ(D1)は、当該ブレーキパッドの最終摩耗寸法に相当することを特徴とする、請求項6記載のブレーキシステム。
【請求項8】
前記摩擦材料層(12,13)のうちの外側の摩擦材料層の厚さは、内側の摩擦材料層の厚さ(D1)より大きいことを特徴とする、請求項6または7記載のブレーキシステム。
【請求項9】
前記ブレーキは、ディスクブレーキであることを特徴とする、請求項6から8いずれか1項記載のブレーキシステム。
【請求項10】
前記ディスクブレーキは、圧縮空気操作式のディスクブレーキとして形成されていることを特徴とする、請求項9記載のブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキパッドの摩耗挙動を分析する方法および当該方法を実施するブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、車両用の車両ブレーキシステムを示しており、この車両ブレーキシステムは、図1では例示的に、2つの車軸5a(前車軸、VAともいう),5b(後車軸、HAともいう)に分配された4つのディスクブレーキ1,2,3,4を備え、ディスクブレーキ1,2,3,4は、それぞれ2つのブレーキパッド6a,6bを有する。これらのブレーキパッド6a,6bは、制動時、車両を減速させるために、それぞれ、ディスクブレーキ1~4の、図1には示さないブレーキディスクに押し付けられる。制動の結果、ブレーキパッド6a,6bおよびブレーキディスクは摩耗する。ブレーキパッド6a,6bおよびブレーキディスクの摩耗を合計信号として求めるために、4つのディスクブレーキ1~4に設けられた摩耗センサ7を、それぞれケーブル8等の接続を介してまたはワイヤレスに評価装置9に接続することが公知である。評価装置9は、従来技術では、そして本発明でも、図1にはそれ以上図示しない上位の車両状態把握兼情報システムの一部として設計されていてもよい。
【0003】
図1に示した従来技術によれば、4つのディスクブレーキ1~4は、それぞれ1つのパッド摩耗センサ7(以下、個別センサともいう)を有し、パッド摩耗センサ7の出力は、それぞれ1つのケーブル8を介して評価装置9に接続されている。その結果、評価装置9には、車両の運転中、上記4つのディスクブレーキのブレーキパッド6a,6bのそれぞれの摩耗状態についての情報が提供されている(例えば下記特許文献1参照)。リミットストップコンタクト(図示せず)により、パッド交換が必要なほどパッドの摩耗が進んでいるかが求められる。パッド交換が必要なほどパッドの摩耗が進んでいる場合、相応の警告信号が出力され、評価装置9に供給される。評価装置9は、ブレーキパッドの所定の残留摩耗寸法に達したとき、出力装置、例えばディスプレイを介して、パッド交換の時期が来たことを表示するために信号を出力する。これにより、ブレーキ、ブレーキ部品、ブレーキディスクの損傷を防止し、使いすぎによる摩滅したブレーキパッドの抜けを回避することができる。しかし、公知の摩耗センサ、特に摩耗センサのリミットストップコンタクトは、比較的高価であり、しかも比較的高い組み立て手間を要する。
【0004】
下記特許文献2から、制動時に生じるエネルギを求め、このブレーキエネルギとブレーキエネルギ限界値との比較を行い、この限界値を超過している場合には、生じた摩耗を補償する調整運動を実施することも公知である。
【0005】
特許文献2の一変化態様によれば、ブレーキエネルギは、付加的なセンサなしにブレーキトルクとホイール回転角度とから直接算出される。このために、好ましくは、ホイール回転角度は、ポールホイールセンサを有するABSシステムにより求められる。ポールホイールセンサは、現代のブレーキシステムでは、常に存在しており、それゆえ、追加の装置コストを意味しない。同様に好ましくは、ブレーキトルクは、EBS制御コンピュータもしくはABS制御コンピュータまたは(評価装置として相応のソフトウェアルーチンを含むことができる)制御装置に同様に伝送されるブレーキシリンダ圧力から簡単に求められる。なお、これは実証的に求め得ることであるが、合目的には、一方では、調整プロセスの頻度を比較的低く維持し、他方では、常に十分な制動信頼性を確保するために、2~8MJ、特に5MJのエネルギ限界値が超過されたとき、その都度、調整が開始される。
【0006】
次の方法は、本発明でも例示的に良好に使用可能であるが、ブレーキエネルギは、特許文献2によれば、近似的に回転数信号とブレーキ圧力信号とから求められる:
=Mφ
ここで
:=ブレーキエネルギ;
:=ブレーキトルク;
φ:=ホイール回転角度。
【0007】
ホイール回転角度は、例えばブレーキシステムのABS機能および/またはEBS機能のためにブレーキ制御の目的でいずれにしても必要とされ、ゆえに用意されている回転数センサを介して直接特定される。回転数センサは、ホイールハブとともに連れ回るポールホイールと、ポールホイールの通過する歯、マグネットコイル等を電圧パルスによって記録する不動のトランスデューサとからなる。ポールホイール毎に例えば歯が100個ある場合、これにより、1パルスは、3.6゜のホイール回転角度に相当する。このパルスを加算していくことで、評価装置により制動期間中のホイール回転角度が求められる。
【0008】
ブレーキトルクは、好ましくは、ABS/EBSシステム内に存在する圧力センサにより、評価装置と相俟って、ブレーキシリンダ圧力を求めて次式に基づいて算出される:
=(P-PAn)AiεCeff
ここで
=ブレーキシリンダ内の圧力
ΡΑn=ブレーキの接触圧力
i=ブレーキの力変換比
ε=ブレーキの力変換機構の機械効率
=ブレーキ特性値≒2×μ
μ=ブレーキパッドの摩擦値
eff=ブレーキディスクの有効摩擦半径
Z=ABSポールホイールの加算された回転角度パルスの数
=ブレーキシリンダの有効ピストン面積。
【0009】
加えて、ABSポールホイールの1つの歯に対応する回転毎に、つまり回転数パルス毎に転化されるブレーキエネルギは、以下のように求めることができる:
W=(P-PAn)K
ここで、
K=AiεCeff2π/n;
=ブレーキシリンダ内の圧力
An=ブレーキの接触圧力。
【0010】
これにより、転化されるブレーキエネルギは、ブレーキシリンダ圧力信号の、ホイール回転パルスの数との簡単な連関により求められる。
【0011】
上記式は、例であって、必ずしもブレーキエネルギを求めるために使用されなくてもよい。これらは、電気モータまたは空気圧を用いて操作され、浮動キャリパ、対向キャリパまたは摺動キャリパを有するディスクブレーキに好適である。好ましくは、調整システムは、ブレーキディスクの両側に、それぞれ、少なくとも1つの電気モータ式の調整装置を有する。
【0012】
下記特許文献3から、ブレーキエネルギからブレーキパッドの総摩耗を、パッド交換以来の全制動にわたって加算して、求めることも公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】欧州特許第0590388号明細書
【文献】独国特許出願公開第10150047号明細書
【文献】独国特許出願公開第19933396号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
これを背景に、本発明の課題は、ブレーキパッドのパッド摩耗挙動における顕著な進展を簡単に検知可能な簡単な方法およびブレーキシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、この目的を、方法に関していえば、請求項1に係る発明により、そしてブレーキシステムに関していえば、請求項6に係る発明により達成する。
【0016】
本発明に係る方法は、好ましくは、少なくとも:
a)ライニング支持プレートと、互いに異なる摩擦材料からなり、摩擦値が互いに異なる少なくとも2つ以上の摩擦材料層からなる摩擦ライニングと、を有するそれぞれ1つまたは複数のブレーキパッドを有する、少なくとも1つまたは複数のブレーキを備えるとともに、少なくとも1つの評価装置を備えるブレーキシステムを用意するステップと、
b)ブレーキ毎の、制動時に転化される摩耗を、ブレーキ毎の少なくとも1つの摩耗センサを用いて求めるステップと、
c)ブレーキ毎の、制動時に転化されるブレーキエネルギを、評価装置を用いて求めるステップと、
d)ステップb)およびc)で求めた値と、好ましくは道程情報とを、互いに関連付けた曲線の現下の傾きを繰り返し求めるステップと、
e)傾きが変化したとき、出力機器において信号を出力するステップと、
を有する。
【0017】
好ましくは、使用されるブレーキとして、ディスクブレーキ、特に圧縮空気操作式のディスクブレーキが使用され、ディスクブレーキでは、上掲の方法によって、ブレーキにおける摩耗を監視し、パッド交換を適時に表示することが、特に良好に可能である。しかし、本発明は、原理的には、ドラムブレーキにも好適である。
【0018】
異なる摩擦値を達成するために、摩擦材料層は、全面的にまたは部分的に異なる摩擦材料からなっていてもよい。
【0019】
本発明により、ブレーキパッドに個別センサを有するパッド摩耗センサを備えるブレーキシステムのさらなる発展が達成される。その際、特許文献2および特許文献3に記載の従来技術は、簡単に、ブレーキパッドの摩耗挙動におけるはっきりとした特徴の簡単な検知に関してさらに発展される。
【0020】
ブレーキ毎の、摩耗センサにより求められる摩耗が、制動時のエネルギ入力と関連付けられると、走行距離が増すにつれ、前車軸および後車軸のホイール毎あるいはディスクブレーキ1~4毎に、それぞれの1つの曲線(しばしば、いずれにしても部分的に直線)が生じ、その傾きあるいは勾配は、そのときそのときで使用される摩擦材料あるいはそれぞれの摩擦値に固有である。それゆえ、摩擦材料が2つの摩擦材料層間の移行部で切り換わると、曲線の傾きも顕著に変化する。
【0021】
有利な一形態によれば、車両、好ましくはトレーラの少なくとも1つまたは複数のブレーキパッド6a,6b、特にすべてのブレーキパッド6a,6bの外側の摩擦材料層の厚さは、このブレーキパッドまたはこれらのブレーキパッド6a,6bの最終摩耗寸法に相当し、少なくとも1つのブレーキパッド6a,6bにおいて最終摩耗寸法に達したことが検知されると、信号が出力される。一方の摩擦材料層から他方の摩擦材料層へ境界を越えたとき、これによりブレーキシステムは、(例えば規則的なインターバル、特にキロメートルインターバルで)実施される摩耗勾配の比較を介して変化を検知する。その後、好ましくは、所定のアクション、例えば警告「次のXkm内でブレーキパッド交換」の表示がトリガされる。
【0022】
好ましくは、使用されるブレーキは、ディスクブレーキである。しかし、本発明は、ドラムブレーキにも原理的には好適である。ディスクブレーキは、圧縮空気操作式のディスクブレーキとして形成されていると、特に有利である。
【0023】
とりわけ作動側およびキャリパ外側のブレーキパッドの摩耗が不等である場合、この種の最終摩耗検知は、その他の今日使用される摩耗検出システムが、通常、両ブレーキパッドおよびブレーキディスクの合計摩耗しか検出することができないため、有意義である。
【0024】
並列独立請求項11によれば、本発明は、ライニング支持プレートと、互いに異なる摩擦材料からなり、摩擦値が互いに異なる少なくとも2つ以上の摩擦材料層からなる摩擦ライニングとを備える、請求項6から10までのいずれか1項記載のブレーキシステム用のブレーキパッドであって、ブレーキパッドの摩擦材料層のうちの1つの摩擦材料層の厚さは、ブレーキパッドの最終摩耗寸法に相当する、ブレーキパッドも提供する。摩耗度によって異なる摩擦値を示す摩擦ライニングは、欧州特許出願公開第0859164号明細書に開示されている。
【0025】
有利な形態および構成は、従属請求項に記載されている。
【0026】
以下に、本発明について、図面を参照しながら実施例に基づいて詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1aは、公知の車両ブレーキシステムを著しく概略化した簡略図であり、図1aは、本発明に係る車両ブレーキシステムを著しく概略化した簡略図である。
図2】車両用のブレーキパッドの平面図である。
図3】ライニング材料の摩耗(%)と車両の走行距離との関係を示すグラフである。
図4】ライニング材料の摩耗(%)と車両の走行距離との関係を示すグラフである。
図5】ライニング材料の摩耗(%)と車両の走行距離との関係を示すグラフである。
図6】ライニング材料の摩耗(%)と車両の走行距離との関係を示すグラフである。
図7】ライニング材料の摩耗(%)と車両の走行距離との関係を示すグラフである。
図8】ライニング材料の摩耗(%)と車両の走行距離との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1bは、2つの車軸5a,bに分配された4つのディスクブレーキ1,2,3,4を備える車両ブレーキシステムを示している。ディスクブレーキ1,2,3,4は、それぞれ2つのブレーキパッド6a,6bを有する。ブレーキパッド6a,6bは、制動時、図1bには示さないブレーキディスクに摩擦接触するように押し付け可能である。図1aの従来技術に示したように、4つのディスクブレーキ1ないし4は、それぞれ1つの摩耗センサ7を有し、摩耗センサ7の出力は、評価装置8に接続されている。その結果、評価装置8には、車両の運転中、ディスクブレーキ1ないし4のそれぞれの摩耗状態についての情報が提供されている。本発明の一変化態様によれば、摩耗センサのリミットストップコンタクトは、省略可能である。リミットストップコンタクトの省略は、コスト低下をもたらす。択一的には、リミットストップコンタクトを維持してもよい。
【0029】
本発明によれば、一方では、摩耗センサ7を介して依然として両パッドおよびブレーキディスクの現下の合計摩耗が、特に前述したように求められる。しかし、この値は、隔絶されて観察されるわけではない。むしろ、エネルギ観察も実施される。それゆえ、例えば評価装置9には、車両ホイールの回転角度(ホイールに設けられたあるいはディスクブレーキ1~4の近傍に設けられた回転角度センサ14)および好ましくはブレーキトルク(圧力センサ16)についての信号ならびに好ましくは車両の総走行距離(好ましくは、既に実施されているのであれば、パッド交換以来の総走行距離)についての情報も提供され、評価される。
【0030】
その際、ブレーキエネルギは、様々な方法、例えば冒頭で述べた特許文献2または独国特許出願公開第19933961号明細書の方法にしたがって求めることができる。転化されるブレーキエネルギは、実質的に制動時のエネルギ入力に相当する。
【0031】
図2は、少なくとも1つまたは複数のディスクブレーキ1ないし4を備える車両のブレーキシステム用の有利なブレーキパッド6aあるいは6bを示している。このブレーキパッド6aあるいは6bは、有利には本発明に係る方法に好適である。ブレーキパッド6aは、未摩耗状態で示してある。
【0032】
ブレーキパッド6aは、ライニング支持プレート10を有し、ライニング支持プレート10には、摩擦ライニング11が配置されている。摩擦ライニング11は、少なくとも2つの摩擦材料層12,13からなり、摩擦材料層12,13は、互いに異なる摩擦値を有し、例えば完全にまたは面の一部において異なる材料からなっていてもよい。第1の摩擦材料層12は、ライニング支持プレート10に直接配置されている。第1の摩擦材料層12の、支持プレート1から背離した側には、第2の摩擦材料層13が配置されている。
【0033】
好ましくは、ライニング支持プレート10と第2の摩擦材料層13との間に配置される第1の摩擦材料層12の厚さD1は、第2の(外側の)摩擦材料層13の厚さD2より小さい。内側の摩擦材料層12の厚さD1は、好ましくは最終摩耗寸法に相当する。最終摩耗寸法は、支持プレート10上に確かにまだライニング材料の残層が存在しているが、そこに達したときには、以後の運転中、運転を危険に曝す状態に至らないよう、速やかに、またはしかし、少なくとも所定の残存キロメートルインターバル内で、パッド交換が実施されねばならない寸法である。
【0034】
それゆえ、好ましくは、外側の摩擦材料層13の厚さD2は、最終摩耗寸法に達したとき、外側の摩擦材料層13が完全に摩耗しているように寸法設定されている。これにより、この状態への到達は、運転者にまもなく必要となるパッド交換の必要性を表示するに好適なインジケータである。それゆえ、この状態への到達を簡単に検出すること、具体的には、好ましくは車両の各ブレーキパッドに関して個別に、この状態への到達を簡単に検出することは、有利であることが判っている。
【0035】
車両に設けられた現代の情報システム(冒頭で挙げた特許文献2参照)は、今日、多数のデータおよび測定量を処理する。データおよび測定量は、一方では、運転者および/または車両運行者の情報として、例えばサービスインターバルの計画を立てるために利用可能であり、他方では、しかし、機能不全時にサービスステーションにおける診断を簡単化するために有用である。これにより摩耗評価が可能である。この摩耗評価が、制動時に転化されるエネルギに関連付けられると、経た道程の情報を介して、ディスクブレーキ1~4のブレーキパッド6a,bの固有摩耗も、走行距離に関して傾き勾配の形で求められ、車両の記憶装置内に格納され得る。
【0036】
この情報により、例えばブレーキパッドの、まだ残っている寿命についての予測も算出可能である。車両の所定の道程または使用期間後、格納された摩耗勾配と、新しい現下の勾配との比較が行われる。ここで有意の変化が確認されれば、車両電子システムは、相応の、自由に規定可能なアクションを導入すること、例えば運転者に警告を発報することができる。
【0037】
ブレーキパッドの最終摩耗寸法の到達を上述の方法により検知することができるように、例えば図2に示したように形成された摩擦ライニング10を有するブレーキパッド9a,bが、組み付けられる。その際、外側の摩擦材料層13は、有意義には、それが摩耗すれば最終摩耗寸法に達する厚さD2を有する。必要であれば、ブレーキパッド9a,bは、2つより多くの摩擦材料層12,13を有していてもよい(図示せず)。これらの摩擦材料層12,13は、例えば交互にプレス成形される2つの異なる材料組成からなっていてもよいし、摩耗経過をさらに細かく分解することができるように、より多くの異なる材料からなっていてもよく、これにより、例えばブレーキパッドの可能な寿命予測の質は、向上する。附言しておくと、複数の摩擦材料層12,13から構成したブレーキパッド自体は、従来技術において公知である。しかし、複数の摩擦材料層12,13から構成したブレーキパッドの、摩耗監視との関連での重要な利点は、認知されていない。
【0038】
摩耗評価が摩耗センサ7により、制動時に転化されるエネルギに関連付けられると、変化する走行挙動等の影響は、大幅に弱められる。経た道程の情報を介して、このように固有摩耗は、ブレーキパッドの使用期間に関して傾き勾配の形で算出可能である。
【0039】
図3ないし8に示すように、ホイール毎に、あるいはホイール毎のディスクブレーキ毎に、それぞれの1つの曲線、特に少なくとも部分的に直線が生じる。その傾きあるいは勾配は、そのときそのときで使用される摩擦材料に固有である。それゆえ傾きが変われば、このことは、例えば摩擦材料あるいは摩擦値が変わったことを示唆している。
【0040】
好ましくは、少なくとも傾きが少なくとも1つの所定の固定または可変の限界値を超えて変化すると、出力機器において信号が出力される。このように、現れる変化も、信号出力が必要であるほど顕著であることが保証される。特に好ましくは、このことは、ステップf)において、少なくとも傾きが公差範囲または公差帯TB-VAもしくはTB-HAを超えて変化すると、出力機器において信号が出力されることにより実現される。公差範囲は、一定であっても、走行キロメートルが増すにつれて変化、例えば線形に拡大してもよい。
【0041】
一方の摩擦材料層13から他方の摩擦材料層12へ境界を越えたとき、ブレーキシステムは、ステップd)あるいは摩耗勾配の比較を介して変化を検知する。その後、好ましくは所定のアクションをトリガする。
【0042】
二層の摩擦材料であって、摩擦材料層12,13を有し、ライニング支持プレートに直接隣接する摩擦材料層12の厚さD1が、概ね最終摩耗寸法に相当する摩擦材料の場合、2つの材料間の移行は、勾配変化により検知され、運転者に向けて例えばモニタ等に表示可能である(図3~8)。このことは、公知のケーブル摩耗センサ(リミットストップコンタクトセンサ)の機能に置き換えられる。
【0043】
図3は、摩耗(%)が、道程情報(最後のパッド交換以来の道程情報)としての走行距離に対して記載されているグラフを示している。
【0044】
グラフ中、摩耗(%)は、例えば摩耗測定値と、制動時のエネルギ入力の計算との商から特定される値である。この値は、加算され、走行距離に対して記載される。得られた曲線は、所定の走行キロメートル(約300000km)に達してから(あるいは達したとき)、車両ブレーキシステムの2つの車軸5a,bの全4つのディスクブレーキ1~4において摩耗勾配が変化することを示している。摩耗勾配の変化は、摩耗測定値と、エネルギ入力の計算から得られた値との間の比が変化したことを示している。このことは、外側の摩擦材料層13から内側のライニング材料層12への移行を示している。最終摩耗寸法に達したことになる。警告が(即座にまたはいずれにしても所定の走行距離インターバル内で)出力される。
【0045】
加えて図3には、前車軸の公差帯TB-VAと、後車軸の公差帯TB-HAとを示してある。曲線が、対応する公差帯TB-VAまたはTB-HAから外れたときだけ、警告信号の表示が必要である(図3では約300,000km)。相応の公差帯TB-VAおよびTB-HAは、図5、6、7および8にも存在する。公差帯TB-VAおよびTB-HAのレンジは、図面では、キロメートル走行距離(最後のパッド交換から測定)が増すにつれ、拡大している。このことは、好ましくはあるが、必須ではない。
【0046】
図4は、所定の走行キロメートル(約300000km)に達してから(あるいは達したとき)、車両ブレーキシステムの前車軸の2つのディスクブレーキ1~2のみ、摩耗勾配が変化することを示している。このことは、この車軸における外側の摩擦材料層13から内側のライニング材料層12への移行を表している。図4では、後車軸5bにおいて最終摩耗寸法に達する前に、前車軸5aにおいて最終摩耗寸法に達している。警告は、一方または両方の公差帯TB-HAおよび/またはTB-VAの到達後(即座にまたはいずれにしても所定の走行距離インターバル内で)出力される。
【0047】
図5および6は、所定の走行キロメートル(約300000km)に達してから(あるいは達したとき)、車両ブレーキシステムの前車軸の2つのディスクブレーキのうちの1つのディスクブレーキ2のみ、摩耗勾配が変化することを示している。図5における変化は、図6における変化より強い。
【0048】
図5および6からは、それぞれ、車軸5a(図では前車軸)のディスクブレーキの1つだけ(ディスクブレーキ2だけ)、外側の摩擦材料層13から内側のライニング材料層12への移行がなされたことが看取可能である。つまり、前車軸5aのディスクブレーキ2では、最終摩耗寸法に既に達してしまっている。それゆえ、この場合も警告が(即座にまたはいずれにしても所定の走行距離インターバル内で)出力される。このディスクブレーキ内のブレーキパッドの1つだけがその最終摩耗寸法に達しても、摩耗勾配の変化が生じる。図5に示した状態は、片側が強く汚損した場合や、例えばディスクブレーキに何らかの機能不全、例えばキャリパガイドに故障が生じた場合であり得る。而して、1つのパッドが完全に摩耗してしまい、最も不都合な場合、ブレーキディスクとブレーキ支持体との間で抜けてしまうことは、防止可能である。公知の合計摩耗検知では、この機能不全は、通常、検知不能である。
【0049】
図7あるいは図8は、図3あるいは4と類似の図であるが、両図には、それぞれ、摩耗度がエネルギ入力に関して記載されている。定数あるいは傾きゼロの直線が生じている。傾きゼロからの逸脱は、図3および4に示したのと同様、再び公差帯TB-HAおよび/またはTB-VAから外れ、警告信号に至る。
【符号の説明】
【0050】
1、2、3、4 ディスクブレーキ
5a,b 車軸
6a,b ブレーキパッド
7 摩耗センサ
8 ケーブル
9 評価装置
10 ライニング支持プレート
11 摩擦ライニング
12,13 摩擦材料層
14 ポールホイールセンサ
15 圧力センサ
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8