(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】空調システム
(51)【国際特許分類】
F24F 11/76 20180101AFI20221128BHJP
F24F 3/052 20060101ALI20221128BHJP
F24F 13/15 20060101ALI20221128BHJP
F24F 7/007 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
F24F11/76
F24F3/052
F24F13/15 D
F24F7/007 B
(21)【出願番号】P 2017121058
(22)【出願日】2017-06-21
【審査請求日】2020-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏典
(72)【発明者】
【氏名】七岡 寛
(72)【発明者】
【氏名】黒木 洋
(72)【発明者】
【氏名】大澤 淳司
(72)【発明者】
【氏名】熊埜御堂 令
(72)【発明者】
【氏名】藤本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】藤堂 香織
【審査官】安島 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-263024(JP,A)
【文献】特開2002-022252(JP,A)
【文献】特開2005-121339(JP,A)
【文献】特開2013-133945(JP,A)
【文献】米国特許第05725148(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00 - 11/89
F24F 3/052
F24F 13/15
F24F 7/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の室内空間および第2の室内空間を含む建物における空調システムであって、
吸気した空気の温度を調整するための空調機と、
前記空調機による温度調整後の空気を前記第1の室内空間に吹き出す第1の吹出し口と、
前記空調機による温度調整後の空気を前記第2の室内空間に吹き出す第2の吹出し口と、
前記第1の吹出し口および前記第2の吹出し口の双方に設けられ、前記吹出し口の開度を調整するための開度調整機構とを備え、
前記開度調整機構は、室内空間の空気の温度に応じて形状が変化する形状変化部材と、前記形状変化部材の形状変化に応じて位置が変えられることによって前記開度を変更する位置変更部材とを含み、
前記第1の室内空間が居室であり、前記第2の室内空間が非居室であり、
前記第1の吹出し口における前記形状変化部材と、前記第2の吹出し口における前記形状変化部材とは、形状が変化する温度帯が異なっており、
前記第1の吹出し口に設けられた前記開度調整機構により調整される前記第1の吹出し口の開度の最小状態は、全閉と全開との間の開状態であり、
前記第2の吹出し口に設けられた前記開度調整機構により調整される前記第2の吹出し口の開度の最小状態は、全閉状態であり、
夏期における前記第2
の吹出し口の開度は、
全閉状態と全開状態との間を変位し、冬期における前記第2
の吹出し口の開度は、全閉状態である、空調システム。
【請求項2】
第1の室内空間および第2の室内空間を含む建物における空調システムであって、
吸気した空気の温度を調整するための空調機と、
前記空調機による温度調整後の空気を前記第1の室内空間に吹き出す第1の吹出し口と、
前記空調機による温度調整後の空気を前記第2の室内空間に吹き出す第2の吹出し口と、
前記第1の吹出し口および前記第2の吹出し口の双方に設けられ、前記吹出し口の開度を調整するための開度調整機構とを備え、
前記開度調整機構は、室内空間の空気の温度に応じて形状が変化する形状変化部材と、前記形状変化部材の形状変化に応じて位置が変えられることによって前記開度を変更する位置変更部材とを含み、
前記第1の室内空間および前記第2の室内空間は、異なる階に配置された非居室であり、
前記第1の吹出し口に設けられた前記開度調整機構および前記第2の吹出し口に設けられた前記開度調整機構は、前記第1の吹出し口が全開状態の場合に前記第2の吹出し口が全閉状態となり、前記第1の吹出し口が全閉状態の場合に前記第2の吹出し口が全開状態となるように構成されている、空調システム。
【請求項3】
前記開度調整機構は、温度調整後の空気が前記形状変化部材に当たらないようにするための風除け部材を含む、請求項1または2記載の空調システム。
【請求項4】
前記形状変化部材は、形状記憶合金である、請求項1~3のいずれかに記載の空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の室内空間を含む建物における空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建物内における複数の室内空間の温度調整を共通の空調機で行う全館空調システムが提案されている。全館空調システムでは、たとえば機械室等に設置された空調機による温度調整後の空気が、複数のダクトを介して複数の室内空間にそれぞれ供給される。
【0003】
たとえば特開2013-133945号公報(特許文献1)では、複数の居室および非居室を空調対象とする空調システムが開示されている。この空調システムでは、非居室に接続されるダクトに、機械室に通じる分岐ダクトが設けられており、空調開始直後に温度調整後の空気を機械室に供給することで、空調機の効率を向上する技術が提案されている。
【0004】
また、特開平4-55653号公報(特許文献2)では、各室内空間の温度と設定温度との温度差に応じて、各吹出し口に設けられたダンパの開度を調整制御するダクト式空気調和装置の制御方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-133945号公報
【文献】特開平4-55653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の空調システムにおいては、住宅の居室だけでなく非居室にも吹出し口が設けられており、空調開始から一定時間経過後に、非居室にも温度調整後の空気が供給される。
【0007】
夏期において、住宅の最上階の居室および非居室は、1階(下階)に比べて高温となる。そのため、最上階の非居室にも温度調整後の空気(冷気)を供給することで、最上階の非居室の温度環境を改善することができる。しかしながら、特許文献1の空調システムでは、冷房時および暖房時の双方において、居室の空調と連動して非居室の空調が行われるため、空調負荷の低減という観点から改善の余地がある。
【0008】
また、特許文献2の制御方法では、空調対象の室内空間に設けられた吹出し口ごとにダンパが必要である。また、各ダンパを個別に電子制御する必要がある。したがって、特許文献2のような空調システムでは、空調機自体の大型化および部品点数の増加を招くため、コストの上昇および消費電力の増大が問題となる。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、たとえば住宅の非居室などの室内空間の温度環境を、消費電力を増大させることなく改善することのできる空調システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明のある局面に従う空調システムは、第1の室内空間および第2の室内空間を含む建物における空調システムであって、吸気した空気の温度を調整するための空調機と、空調機による温度調整後の空気を第1の室内空間に吹き出す第1の吹出し口と、空調機による温度調整後の空気を第2の室内空間に吹き出す第2の吹出し口と、第1の吹出し口および第2の吹出し口の少なくとも一方に設けられ、吹出し口の開度を調整するための開度調整機構とを備える。開度調整機構は、室内空間の空気の温度に応じて形状が変化する形状変化部材と、形状変化部材の形状変化に応じて位置が変えられることによって開度を変更する位置変更部材とを含む。
【0011】
好ましくは、開度調整機構は、第1の吹出し口および第2の吹出し口の双方に設けられている。この場合、第1の吹出し口における形状変化部材と、第2の吹出し口における形状変化部材とは、形状が変化する温度帯が異なっていることが望ましい。
【0012】
典型的には、第1の室内空間が居室であり、第2の室内空間が非居室である。
【0013】
第1の吹出し口に設けられた開度調整機構により調整される第1の吹出し口の開度の最小状態は、全閉と全開との間の開状態であることが望ましい。これに対し、第2の吹出し口に設けられた開度調整機構により調整される第2の吹出し口の開度の最小状態は、全閉状態であることが望ましい。
【0014】
第1の室内空間および第2の室内空間は、異なる階に配置された非居室であってもよい。この場合、第1の吹出し口に設けられた開度調整機構および第2の吹出し口に設けられた開度調整機構は、第1の吹出し口が全開状態の場合に第2の吹出し口が全閉状態となり、第1の吹出し口が全閉状態の場合に第2の吹出し口が全開状態となるように構成されていてもよい。
【0015】
好ましくは、開度調整機構は、温度調整後の空気が形状変化部材に当たらないようにするための風除け部材を含む。
【0016】
上記形状変化部材は、典型的には形状記憶合金であるが、バイメタルや圧電素子であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、形状変化部材を含む開度調整機構によって吹出し口の開度が調整されるため、たとえば住宅の非居室などの室内空間の温度環境を、消費電力を増大させることなく改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態に係る空調システムの概略構成を模式的に示す平面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る空調システムを概念的に示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態における第1の吹出し口に設けられた開度調整機構の初期状態を模式的に示す図であり、第1の吹出し口を下から見上げた図である。
【
図4】本発明の実施の形態における第1の吹出し口に設けられた開度調整機構の初期状態を模式的に示す断面図である。
【
図5】本発明の実施の形態における第1の吹出し口に設けられた開度調整機構の反応状態を模式的に示す図であり、第1の吹出し口を下から見上げた図である。
【
図6】本発明の実施の形態における第1の吹出し口に設けられた開度調整機構の反応状態を模式的に示す断面図である。
【
図7】本発明の実施の形態における第2の吹出し口に設けられた開度調整機構の初期状態を模式的に示す図であり、第2の吹出し口を下から見上げた図である。
【
図8】本発明の実施の形態における第2の吹出し口に設けられた開度調整機構の初期状態を模式的に示す断面図である。
【
図9】本発明の実施の形態における第2の吹出し口に設けられた開度調整機構の反応状態を模式的に示す図であり、第2の吹出し口を下から見上げた図である。
【
図10】本発明の実施の形態において、各開度調整機構に設けられた風除け部材の一例を模式的に示す断面図である。
【
図11】本発明の実施の形態に係る空調システムを適用した場合における、2階廊下(非居室)の冷房効果を示すグラフである。
【
図12】住宅の2階廊下に第2の吹出し口を設置した場合の暖房負荷と、市販品の吹出し口を設置した場合の暖房負荷とを比較するグラフである。
【
図13】一般的な公知の空調システムの概略構成を模式的に示す平面図である。
【
図14】一般的な公知の空調システムを概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0020】
本実施の形態においては、住宅の最上階(たとえば2階)に設けられた複数の室内空間を空調対象とした空調システムについて説明する。なお、「室内空間」とは、外壁および間仕切り壁等によって区画された空間であり、居室および非居室を含む。「居室」とは、居住者が定常的に使用する空間であり、リビングルーム、ダイニングルーム、個室(寝室を含む)などを含む。「非居室」とは、居住者が非定常的に使用する空間であり、少なくとも、部屋間の通路となる廊下および玄関を含む。非居室は、洗面室や納戸などをさらに含んでもよい。
【0021】
(概要について)
はじめに、本実施の形態に係る空調システムの説明に先立ち、
図13および
図14を参照しながら、一般的な公知の空調システム101について簡単に説明する。
【0022】
公知の空調システム101は、住宅の2階部分90の空調を行う。住宅の2階部分90には、外壁および間仕切り壁によって区画された複数の居室である個室91~93と、これらの個室91~93に隣接する非居室である廊下94とが配置されている。
【0023】
空調システム101は、たとえば屋根裏空間に設けられた1つの空調機102と、個室91~93にそれぞれ設けられた吹出し口131~133と、空調機102と吹出し口131~133とをそれぞれ接続するダクト121~123とを備えている。
【0024】
空調機102は、冷房運転および暖房運転の双方が可能な空調装置である。空調機102の電源のオン/オフ、運転モードの選択、および空調の温度設定などは、一つのリモコン111において操作される。リモコン111は、たとえば個室91の壁面に設けられている。
【0025】
空調機102は、リモコン111によって設定された設定温度に応じて、吸気した空気の温度を調整する。温度調整後の空気は、ダクト121~123を介して吹出し口131~133へと送られ、吹出し口131~133から個室91~93内に吹き出される。各吹出し口131~133には後述の開度調整機構は設けられておらず、吹出し口131~133から、温度調整後の空気が同じ風量で吹き出される。
【0026】
公知の空調システム101において、廊下94には吹出し口が設けられていない。夏期の2階は1階よりも日射の影響を受けるため、2階の室温は1階の室温よりも高温となる。そのため、盛夏の2階廊下94は非常に暑く、酷な温度環境となる。
【0027】
そこで、本実施の形態に係る空調システムは、2階廊下94にも吹出し口を設けることで、夏期における2階廊下94の快適性を向上させることとしている。
【0028】
図1は、本実施の形態に係る空調システム1の概略構成を模式的に示す平面図である。
図2は、本実施の形態に係る空調システム1を概念的に示す図である。空調システム1は、公知の空調システム101と同様に、個室91~93および廊下94を含む住宅の2階部分90の空調を行う。
【0029】
空調システム1は、吸気した空気の温度を調整するための1つの空調機2と、個室91~93にそれぞれ設けられた第1の吹出し口31~33と、廊下94に設けられた第2の吹出し口34と、空調機2とこれらの吹出し口31~34とをそれぞれ接続するダクト21~24とを備えている。このように、空調システム1は、公知の空調システム101と比較して、空調機2による温度調整後の空気を廊下94にも吹き出すように構成されている点が大きく異なっている。
【0030】
空調機2は、空調対象の個室91~93および廊下94とは異なる場所、たとえば屋根裏空間に設置されている。空調機2が設置される場所は、床下空間、壁内空間などであってもよいし、別途備えた機械室などであってもよい。
【0031】
第1の吹出し口31~33は、たとえば個室91~93それぞれの天井に設けられる。第2の吹出し口34は、たとえば廊下94の天井に設けられる。
【0032】
ここで、本実施の形態では、各吹出し口31~34に、開度調整機構が設けられている。具体的には、第1の吹出し口31~33のそれぞれに、開度調整機構41~43が設けられ、第2の吹出し口34に、開度調整機構44が設けられている。以下の説明において、各第1の吹出し口に設けられた開度調整機構を「第1の開度調整機構」、第2の吹出し口に設けられた開度調整機構を「第2の開度調整機構」ともいう。
【0033】
第1の開度調整機構41~43は、第1の吹出し口31~33の開度をそれぞれ調整し、第2の開度調整機構44は、第2の吹出し口34の開度を調整する。これにより、第1の開度調整機構41~43によって、個室91~93への空気の吹き出し量の調整がそれぞれ行われ、第2の開度調整機構44によって、廊下94への空気の吹き出し量の調整が行われる。
【0034】
(第1の開度調整機構の構成例について)
図3~
図6を参照して第1の開度調整機構41~43の構成例について説明する。
図3~
図6においては、代表的に、個室91の吹出し口31に設けられた開度調整機構41の構成を示しているが、他の個室92,93の吹出し口32,33に設けられた開度調整機構42,43の構成も同じである。
【0035】
図3を参照して、第1の開度調整機構41は、個室91の空気の温度に応じて形状が変化する形状変化部材51と、形状変化部材51の形状変化に応じて位置が変えられることによって第1の吹出し口31の開度を変更する位置変更部材52とを含む。
【0036】
形状変化部材51は、典型的には形状記憶合金である。形状変化部材51は、個室91の空気の温度に応じて自身の長さが変化する。具体的には、形状変化部材51は所定の温度以上となると延び、温度に応じて長さが変わる。形状変化部材51が反応し始める所定の温度は、たとえば26℃である。以下、所定の温度未満の状態を「初期状態」といい、所定の温度以上の状態を「反応状態」という。
【0037】
形状変化部材51は、取り付け部材56によって、吹出し口31の枠体等に取り付けられている。形状変化部材51は、平面視において吹出し口31の各開口31a~31cとは重ならない位置に設けられている。これにより、温度調整後の空気が、形状変化部材51に上方から直接吹き付けられることを防止することができる。
【0038】
位置変更部材52は、形状変化部材51と係合または接続されることによって、形状変化部材51の形状変化に応じて自身の位置が変えられる。本実施の形態では、位置変更部材52は、たとえば、形状変化部材51の先端部に接触する係合面53aを有する進退部材53と、進退部材53に固定された複数の開閉部材54とを含む。
【0039】
進退部材53は、形状変化部材51の長さ方向に対して交差する方向に進退する。係合面53aは、進退部材53の先端部に設けられた傾斜面である。進退部材53の後端には、進退部材53を形状変化部材51側へ付勢するバネ55が設けられている。
【0040】
吹出し口31は、互いに間隔をあけて設けられた複数の開口31a~31cを有しており、各開口31a~31cは、進退部材53に交差する方向に沿って延びている。開閉部材54は、開口31a~31cごとに設けられ、開口31a~31cの長さ方向、すなわち進退部材53に交差する方向に沿って延びている。複数の開閉部材54は、進退部材53の長さ方向に沿って互いに間隔をあけて配置される。開口31a~31cは、開閉部材54の位置に応じて開閉される。
【0041】
図3および
図4には、形状変化部材51が初期状態の場合における第1の吹出し口31の開度が模式的に示されている。
図5および
図6には、形状変化部材51が反応状態の場合における第1の吹出し口31の開度(最大開度)が模式的に示されている。
【0042】
形状変化部材51が初期状態の場合、第1の吹出し口31の開口31a~31cは、開閉部材54によって半分程度閉鎖されている。つまり、初期状態において、第1の吹出し口31は半開状態である。
【0043】
夏期に、個室91の室温が26℃以上になると、形状変化部材51が伸び始める。形状変化部材51が伸びるに従って、進退部材53はバネ55側へ押されて後退する。進退部材53が後退すると、それに伴って、複数の開閉部材54が、第1の吹出し口31の開度を広げる方向に平行移動する。このようにして、位置変更部材52の位置が、形状変化部材51の形状変化に応じて変えられる。
【0044】
なお、第1の吹出し口31の開度の変更は、位置変更部材52の開閉部材54が変位(移動)することで実現されることとしたが、限定的ではなく、たとえば、開閉部材の姿勢(角度)が変化することによって実現されてもよい。
【0045】
図5および
図6には、第1の吹出し口31が全開となったときの開閉部材54の位置が示されている。第1の開度調整機構41における開閉部材54は、第1の吹出し口31を半開状態とする半開位置(
図3および
図4に示す位置)と、第2の吹出し口32を全開状態とする全開位置(
図5および
図6に示す位置)との間を変位する。本実施の形態では、個室91の室温がたとえば30℃以上の場合に第1の吹出し口31が全開となるように、第1の開度調整機構41が構成されている。
【0046】
なお、
図10に示されるように、第1の開度調整機構41は、第1の吹出し口31から吹き出される温度調整後の空気が、形状変化部材51に当たらないようにするための風除け部材57を含むことが望ましい。
【0047】
風除け部材57は、たとえば、形状変化部材51の下面(つまり、個室91に対面する面)を除く部分を被覆するように取り付けられている。風除け部材57は、断熱性を有していることが望ましい。風除け部材57は、形状変化部材51の形状変化を妨げないように、形状変化部材51に接することなく配置されている。
【0048】
このように、第1の開度調整機構41が風除け部材57を含むことにより、第1の吹出し口31からの吹き出し空気の風量を精度良く調整することができる。なお、風除け部材57は、単純に、第1の吹出し口31からの風向を形状変化部材51の反対側へと導く風向板により実現されてもよい。
【0049】
(第2の開度調整機構の構成例について)
図7~
図9を参照して第2の開度調整機構44の構成例について説明する。第2の開度調整機構44の構成は、上述の第1の開度調整機構41~43の構成と基本的に同じである。第2の開度調整機構44は、第1の開度調整機構41~43における形状変化部材51に代えて、形状変化部材51Aを含んでいる。そのため、第2の開度調整機構44における位置変更部材52は、形状変化部材51Aと係合または接続し、形状変化部材51Aの形状変化に応じて位置が変えられる。
【0050】
形状変化部材51Aは、廊下94の空気の温度に応じて形状が変化する。形状変化部材51Aは、上記形状変化部材51と同じ素材(形状記憶合金)によって構成されているが、反応する温度帯が上記形状変化部材51とは異なっている。つまり、第1の吹出し口31~33における形状変化部材51と、第2の吹出し口34における形状変化部材51Aとは、形状が変化する温度帯が異なっている。
【0051】
第2の開度調整機構44における形状変化部材51Aは、第1の開度調整機構41~43における形状変化部材51が反応し始める温度(所定の温度)よりも低い温度で反応し始める。形状変化部材51Aが反応し始める所定の温度は、たとえば24℃である。
【0052】
図7および
図8には、形状変化部材51Aが初期状態の場合における第2の吹出し口34の開度が模式的に示されている。
図9には、形状変化部材51Aが反応状態の場合における第2の吹出し口34の開度が模式的に示されている。
【0053】
形状変化部材51Aが初期状態の場合、第2の吹出し口34の開口34a~34cは、開閉部材54によって完全に閉鎖されている。つまり、初期状態において、第2の吹出し口34は全閉状態である。
【0054】
夏期に、廊下94の室温が24℃以上になると、形状変化部材51Aが伸び始める。形状変化部材51Aが伸びるに従って、進退部材53は押されて後退する。進退部材53が後退すると、開閉部材54が、第2の吹出し口34の開度を広げる方向に移動する。
図9には、第2の吹出し口34が半開状態となったときの開閉部材54の位置が示されている。第2の開度調整機構44における開閉部材54は、第2の吹出し口34を全閉状態とする全閉位置(
図7および
図8の位置)と、第2の吹出し口34を全開状態とする全開位置との間を変位する。
【0055】
本実施の形態では、廊下94の室温がたとえば30℃以上のときに第2の吹出し口34が全開となるように、第2の開度調整機構44が構成されている。このように、第2の吹出し口34が全開状態となる温度(最低温度)は、第1の吹出し口31~33が全開状態となる温度(最低温度)と同じであってもよい。
【0056】
なお、第2の開度調整機構44においても、
図10に示したように、第2の吹出し口34から吹出される温度調整後の空気が形状変化部材51Aに当たらないようにするための風除け部材が設けられることが望ましい。これにより、第2の吹出し口34からの吹き出し空気の風量を精度良く調整することができる。
【0057】
上述のように、第1の開度調整機構41~43により調整される第1の吹出し口31~33の開度の最小状態は、全閉と全開との間の開状態(たとえば半開状態)であるのに対し、第2の開度調整機構44により調整される第2の吹出し口34の開度の最小状態は、全閉状態である。また、第2の吹出し口34は、廊下94の室温が24℃以上となると開き始める。したがって、本実施の形態によれば、廊下94の空調を夏期にのみ実施することができる。このことについて、以下に具体的に説明する。
【0058】
(夏期の空調について)
夏期に空調機2が冷房運転モードで動作している場合における、個室91~93および廊下94の空調について説明する。
【0059】
夏期であっても比較的気温の低い時間帯など、個室91~93の室温が26℃未満の場合には、個室91~93の第1の吹出し口31~33は、半開状態である。盛夏の日中など、日射の影響を受け易い時間帯に、個室91~93の室温が26℃以上となると、開度調整機構41~43によって、第1の吹出し口31~33の開度が大きくなるよう調整される。したがって、居住者がリモコン11等の操作をしなくても、室温に応じて冷気の風量を調整することができる。
【0060】
廊下94の第2の吹出し口34は、室温が24℃未満の場合には全閉状態であるが、夏期には廊下94の室温が24℃以上となるため、形状変化部材51Aの形状変化によって第2の吹出し口34は開状態となる。したがって、居住者がリモコン11等の操作をしなくても、廊下94の冷房を開始することができる。
【0061】
また、第1の吹出し口31~33と同様に、廊下94の室温が24℃以上の場合、第2の開度調整機構44によって、室温の高低に応じて第2の吹出し口34の開度が調整される。したがって、居住者がリモコン11等の操作をしなくても、廊下94においても、室温に応じて冷気の風量を調整することができる。
【0062】
図11は、本空調システム1を適用した場合における2階廊下94の冷房効果を示すグラフである。
図11の実線は、本空調システム1を適用した場合における、盛夏のある一日の室温変化を示し、
図11の一点鎖線は、公知の空調システム101を適用した場合における、盛夏のある一日の室温変化を示す。
【0063】
図13および
図14に示したように、公知の空調システム101においては、2階廊下94に吹出し口が設けられていないため、室温は常に約30℃以上である。これに対し、本空調システム1では、2階廊下94に第2の吹出し口34が設けられており、その開度が自動的に調整される。そのため、本空調システム1によれば、夕方の時間帯における室温を、公知の空調システム101よりも2.7℃程度(ΔT)低下させることができる。したがって、本空調システム1によれば、帰宅時における2階廊下94の暑さを効果的に緩和することができる。
【0064】
また、個室91~93の方位や外皮面積、あるいは個室91~93に設けられた窓の位置等によって室温は異なるが、本実施の形態では、それぞれの個室91~93の室温に応じて、第1の吹出し口31~33の開度が、半開から全開の範囲内で個別に調整される。したがって、個室91~93間の室温のバラツキを抑制することもできる。
【0065】
(冬期の空調について)
冬期に空調機2が暖房運転モードで動作している場合における、個室91~93および廊下94の空調について説明する。
【0066】
冬期の室温は、非暖房時において大よそ10℃以下であり、暖房時であっても23℃以下である。そのため、個室91~93の第1の吹出し口31~33に設けられた形状変化部材51、および、廊下94の第2の吹出し口34に設けられた形状変化部材51Aはともに、初期状態である。つまり、個室91~93の第1の吹出し口31~33は半開状態であり、廊下94の第2の吹出し口34は全閉状態である。
【0067】
したがって、冬期においては、廊下94へは暖気が供給されず、個室91~93へのみ暖気が供給される。冬期における2階廊下94は1階の玄関や廊下よりも相対的に温度が高く、温度環境はそれほど悪くない。そのため、冬期に2階廊下94の空調を行わないようにすることで、暖房負荷を低減することができる。
【0068】
図12は、2階廊下94に、自動開度調整の第2の吹出し口34を設置した場合の暖房負荷と、市販品の吹出し口を設置した場合の暖房負荷とを比較するグラフである。市販品の吹出し口は、常に開状態であるため、本空調システム1に比べて暖房負荷が大きい。このシミュレーション結果では、本空調システム1によれば、市販品の吹出し口を設置する場合よりも、7%程度暖房負荷を低減できることが示されている。
【0069】
このように、本空調システム1によれば、夏期に2階廊下94の空調が行われるため、夏期における2階廊下94の温度環境を改善できる。また、冬期には2階廊下94の空調が行われないため、年間を通した空調負荷の低減を実現することができる。
【0070】
また、個室91~93のそれぞれに開度調整機構41~43が設けられているため、吹出し口31~33の開度が個々に調整される。これにより、個室91~93間の温度ムラを低減できる。したがって、本空調システム1によれば、居住者が手動で風量バランスを調整しなくても、個室91~93の温度環境も効率的に改善することができる。その結果、居住者は、個室91~93および廊下94を含む住宅の2階部分90において快適に過ごすことが可能となる。
【0071】
また、本空調システム1では、特許文献2のようなダンパが不要であるため、簡易な構成で、消費電力を低減することができる。また、ダンパが不要であるため、イニシャルコストおよびランニングコストを低減することができる。さらに、ダンパ等のメンテナンスや交換の手間も不要とすることができる。
【0072】
なお、本実施の形態では、形状変化部材51,51Aが伸びるに従って吹出し口の開度が大きくなることとしたが、反対に、形状変化部材51,51Aが縮まるに従って吹出し口の開度が大きくなるように開度調整機構を構成してもよい。
【0073】
(変形例)
本実施の形態では、複数の居室(個室91~93)と1つの非居室(廊下94)とを空調対象とする例について説明したが、空調対象の居室が1つであってもよいし、空調対象の非居室が2つ以上であってもよい。
【0074】
また、本実施の形態では、常に開状態の第1の吹出し口が居室に設けられ、全閉状態となり得る第2の吹出し口が非居室に設けられることとしたが、限定的ではない。たとえば、第1の吹出し口および第2の吹出し口の双方が、異なる非居室に設けられてもよい。この場合、使用頻度の高い(滞在時間の長い)洗面室などの非居室に、常に開状態の第1の吹出し口を設け、使用頻度の低い廊下などの通路室に、全閉状態となり得る第2の吹出し口を設けてもよい。
【0075】
また、本実施の形態では、第1の吹出し口の開度の調整範囲と第2の吹出し口の開度の調整範囲とを異ならせることとしたが、限定的ではない。たとえば、第1の吹出し口に設けられた開度調整機構および第2の吹出し口に設けられた開度調整機構は、第1の吹出し口が全開状態の場合に第2の吹出し口が全閉状態となり、第1の吹出し口が全閉状態の場合に第2の吹出し口が全開状態となるように構成されていてもよい。
【0076】
具体的には、住宅の1階の玄関(非居室)と2階廊下(非居室)とのそれぞれに、第1の吹出し口および第2の吹出し口を設け、夏期および冬期に、これらの吹出し口の開度が反対方向に調整されてもよい。これにより、2階廊下の空調を夏期にのみ行い、1階玄関の空調を冬期にのみ行うことができる。したがって、1階玄関および2階廊下の空調を効率よく行うことができる。
【0077】
また、本実施の形態では、第1の吹出し口および第2の吹出し口の双方に開度調整機構が設けられることとしたが、これらのうちの一方にのみ開度調整機構が設けられていてもよい。
【0078】
また、形状変化部材51,51Aが形状記憶合金であるとして説明したが、所定の温度以上となると温度に応じて形状が変化する部材であれば、これに限定されない。たとえば、形状変化部材はバイメタルや圧電素子であってもよい。
【0079】
また、本実施の形態では、空調システム1が住宅に適用されることとしたが、複数の室内空間を含む建物であれば、住宅以外の建物(オフィスビル、介護施設、ホテルなど)に適用することもできる。たとえば、空調システム1が適用される建物がオフィスビルの場合、第1の吹出し口が設けられる居室を事務室、第2の吹出し口が設けられる非居室を廊下とすることができる。
【0080】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0081】
1,101 空調システム、2,102 空調機、21~24,121~123 ダクト、31~33 第1の吹出し口、34 第2の吹出し口、131~133 吹出し口、31a~31c,34a~34c 開口、41~44 開度調整機構、51,51A 形状変化部材、52 位置変更部材、53 進退部材、54 開閉部材、55 バネ、56 取り付け部材、57 風除け部材、91~93 個室(居室)、94 廊下(非居室)、111 リモコン。