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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-25
(45)【発行日】2022-12-05
(54)【発明の名称】電源装置および記録装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20221128BHJP
   H02H 7/20 20060101ALI20221128BHJP
   H02H 7/12 20060101ALI20221128BHJP
   B41J 29/38 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
H02M3/28 C
H02H7/20 A
H02H7/12 G
B41J29/38 104
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017155750
(22)【出願日】2017-08-10
(65)【公開番号】P2019037034
(43)【公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠原 隆史
【審査官】白井 孝治
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-067580(JP,A)
【文献】特開2005-352683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/00~ 3/44
H02H 7/12
H02M 7/20
B41J29/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御信号に基づいて出力電圧を切替可能な電源装置であって、
第1の巻線と第2の巻線と第3の巻線とを有し、前記第1の巻線から供給される電流を前記第2の巻線に供給するトランスと、
前記第1の巻線および制御ICに接続されたスイッチング素子と、
前記 第3の巻線である前記トランスの補助巻線からの出力を整流してNPNトランジスタのコレクタに入力するために設けられており、前記補助巻線と接続された第1のダイオード及び第1のコンデンサと、
アノードがグラウンドに接続される第1のツェナーダイオードと、
前記NPNトランジスタと前記第1のツェナーダイオードのカソードとの間に接続された第1の抵抗と、
前記NPNトランジスタのベースとコレクタ間に設けられ、前記第1の抵抗と直列に接続される第2の抵抗と、
前記NPNトランジスタのコレクタとエミッタを介して前記トランスの前記補助巻線に接続されたVcc端子に供給される電力に基づき動作し、かつ前記スイッチング素子を駆動する信号のONとOFFを制御する前記制御ICである制御手段と、
前記NPNトランジスタと前記Vcc端子との間の接続点に接続され、前記NPNトランジスタにより充電される第2のコンデンサと、
前記第2の巻線からの出力を整流して前記出力電圧を生成し、前記第2の巻線に接続された第2のダイオード及び第3のコンデンサとを備え、
前記NPNトランジスタのベースは、前記第1の抵抗と前記第1のツェナーダイオードとを介してグラウンドに接続され、
前記制御手段は、前記Vcc端子の電圧値を判定し、前記Vcc端子の電圧値が規定電圧Vovpよりも高い場合、前記電源装置の駆動を停止するよう制御することを特徴とする電源装置。
【請求項2】
前記補助巻線からの出力を前記第1のダイオード及び前記第1のコンデンサにより整流された整流電圧をVaux、前記第1のツェナーダイオードにおける電圧をVZ1、前記第1の抵抗の抵抗値をR1、前記第2の抵抗の抵抗値をR2、前記NPNトランジスタにおけるエミッタとベースとの間の電圧をVebとした場合、前記Vcc端子の電圧値Vccは、
に示される関係を有し、
前記制御手段は、前記電圧値Vccが前記規定電圧Vovpより高い場合に前記電源装置の駆動を停止することを特徴とする請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
前記NPNトランジスタのコレクタとベースとの間に、さらに第2のツェナーダイオードが前記第2の抵抗と並列に設けられ、
前記補助巻線からの出力を前記第1のダイオード及び前記第1のコンデンサにより整流された整流電圧をVaux、前記第2のツェナーダイオードにおける電圧をVZ2、前記NPNトランジスタにおけるエミッタとベースとの間の電圧をVebとした場合、前記第1のダイオード及び前記第1のコンデンサにより整流された整流電圧Vauxが前記第2のツェナーダイオードに導通している条件において、前記Vcc端子の電圧値Vccは、
を満たすことを特徴とする請求項1に記載の電源装置。
【請求項4】
第3の抵抗と、
第4の抵抗と、
第3のツェナーダイオードと、
前記第2の抵抗と並列に設けられたPNPトランジスタとをさらに備え、
前記PNPトランジスタのエミッタは、前記NPNトランジスタのコレクタに接続され、前記PNPトランジスタのコレクタは、前記NPNトランジスタのベースに接続され、前記PNPトランジスタのベースは、前記第3の抵抗を介して該PNPトランジスタのエミッタに接続され、さらに、前記PNPトランジスタのベースは、前記第4の抵抗と前記第3のツェナーダイオードとを介してグラウンドに接続され、
前記補助巻線からの出力を前記第1のダイオード及び前記第1のコンデンサにより整流された整流電圧をVaux、前記PNPトランジスタのエミッタ・コレクタ間の電圧値をVce、前記NPNトランジスタにおけるエミッタとベースとの間の電圧をVebとした場合、前記第1のダイオード及び前記第1のコンデンサにより整流された整流電圧Vauxが前記第3のツェナーダイオードのツェナー電圧に到達し、前記PNPトランジスタへの導通が開始された条件において、前記Vcc端子の電圧値Vccは、
を満たすことを特徴とする請求項1に記載の電源装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電源装置と、
前記電源装置からの出力が供給される、被記録媒体へ記録を行う記録手段と、
を備える記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力電圧切替型の電源装置における過電圧保護技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録装置は一般家庭に広く普及している。ユーザがインクジェット記録装置を安全に使用することができるように、インクジェット記録装置は種々の機能を備えている。このような機能の1つとして、過電圧保護機能が知られている。具体的には、出力電圧が規定電圧以上となった場合、電源装置の制御ICは出力を停止するように制御する。このような電源装置では、出力電圧が規定電圧以上となったか否かは、1次側の補助巻線から制御IC用のVccに供給される電圧(以下「補助巻線電圧」と記す)が規定電圧以上となったか否かに基づいて判定される。
【0003】
特許文献1の電源装置では、補助巻線電圧が電圧降下手段(ZD1)を介してVccに供給される。補助巻線電圧が所定電圧以上となった場合、上記電圧降下手段(ZD1)が短絡され、Vccに供給される電圧がただちに補助巻線電圧まで昇圧する。特許文献1の電源装置は、この昇圧を検知した場合、出力を停止することにより過電圧保護機能を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-195073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の電源装置に、出力電圧切替機能を具備させることを考えた場合、電源装置の構成が複雑になってしまうという課題が生じていた。
【0006】
具体的には以下の理由による。出力電圧切替型の電源装置では、出力電圧Voutが高電圧に切り替えられた場合であっても、Vccに供給される電圧を、制御ICが動作可能な電圧範囲内に維持するためにレギュレータが設けられる。そうすると、このレギュレータによって補助巻線電圧は一定化されるため、制御ICは、補助巻線電圧の昇圧から出力電圧Voutの異常昇圧を検知することができなくなる。そのため、従来の出力電圧切替型の電源装置では、補助巻線電圧の監視に代えて、過電力保護(OPP)の監視に基づく過電圧保護機能を必要としていた。つまり、出力電圧切替型の電源装置に過電圧保護機能を具備させる場合、電源装置の構成が複雑になってしまうという課題が生じていた。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、出力電圧切替型の電源装置において、簡易な構成で過電圧保護を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電源装置は、制御信号に基づいて出力電圧を切替可能な電源装置であって、第1の巻線と第2の巻線と第3の巻線とを有し、前記第1の巻線から供給される電流を前記第2の巻線に供給するトランスと、前記第1の巻線および制御ICに接続されたスイッチング素子と、前記第3の巻線である前記トランスの補助巻線からの出力を整流してNPNトランジスタのコレクタに入力するために設けられており、前記補助巻線と接続された第1のダイオード及び第1のコンデンサと、アノードがグラウンドに接続される第1のツェナーダイオードと、前記NPNトランジスタと前記第1のツェナーダイオードのカソードとの間に接続された第1の抵抗と、前記NPNトランジスタのベースとコレクタ間に設けられ、前記第1の抵抗と直列に接続される第2の抵抗と、前記NPNトランジスタのコレクタとエミッタを介して前記トランスの前記補助巻線に接続されたVcc端子に供給される電力に基づき動作し、かつ前記スイッチング素子を駆動する信号のONとOFFを制御する前記制御ICである制御手段と、前記NPNトランジスタと前記Vcc端子との間の接続点に接続され、前記NPNトランジスタにより充電される第2のコンデンサと、前記第2の巻線からの出力を整流して前記出力電圧を生成し、前記第2の巻線に接続された第2のダイオード及び第3のコンデンサとを備え、前記NPNトランジスタのベースは、前記第1の抵抗と前記第1のツェナーダイオードとを介してグラウンドに接続され、前記制御手段は、前記Vcc端子の電圧値を判定し、前記Vcc端子の電圧値が規定電圧Vovpよりも高い場合、前記電源装置の駆動を停止するよう制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、出力電圧切替型の電源装置において、簡易な構成で過電圧保護を実現することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態が適用されるインクジェット記録装置の斜視図である。
図2】比較例として一般的な記録装置の電源構成例を示す図である。
図3】実施形態1における記録装置の電源構成例を示す図である。
図4図4(a)は、一般的な電源構成の一部を抜粋した図である。図4(b)は、一般的な電源構成におけるVoutと、Vauxと、Vccとの関係例を示す図である。
図5図5(a)は、実施形態1における電源構成の一部を抜粋した図である。図5(b)は、実施形態1における電源構成のVoutと、Vauxと、Vccとの関係例を示す図である。
図6図6(a)は、実施形態2における電源構成の一部を抜粋した図である。図6(b)は、実施形態2における電源構成のVoutと、Vauxと、Vccとの関係例を示す図である。
図7図7(a)は、実施形態3における電源構成の一部を抜粋した図である。図7(b)は、実施形態3における電源構成のVoutと、Vauxと、Vccとの関係例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成はあくまで例示であり、本発明の範囲を必ずしもそれらに限定する趣旨のものではない。
【0013】
本実施形態の説明に先立ち、後述の電源装置が適用されるインクジェット記録装置について説明をする。図1は、本実施形態におけるインクジェット記録装置の斜視図である。インクジェット記録装置(以下、「記録装置」と記す)100は、インクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行う記録ヘッド102がキャリッジ101に搭載されている。キャリッジモータ103によって発生される駆動力が伝達機構104を介して伝えられることにより、キャリッジ101は矢印A方向に往復移動される。記録時には、例えば、給紙機構105を介して記録装置100に給紙された記録媒体(例えば、記録用紙)Pが、記録位置まで搬送される。その記録位置において、記録装置100は、記録ヘッド102を走査させて、記録ヘッド102から記録媒体Pに、インクタンク106に貯蔵されたインクを吐出することによって記録を行う。記録媒体Pを搬送する搬送ローラ107は、搬送モータ108によって駆動される。記録ヘッド102の走査と走査との間で、記録媒体Pは搬送される。
【0014】
このような記録装置100では、電圧変動が発生した場合に、ただちに記録装置100の動作を停止することが望ましい場合と、記録装置100の動作を継続することが望ましい場合とが存在する。例えば、記録装置100が記録動作を行っている期間では、この記録動作に必要な電力以上の電力が消費されている場合、記録装置100内の部品が故障している可能性がある。そのため、記録動作に必要な電力以上に消費されている電力量が小さくても、ただちに記録動作を停止するのが望ましい。一方、キャリッジモータ103や搬送モータ108などが駆動する期間では、モータ位置はエンコーダ(不図示)によって制御されるため、電圧変動に対する許容幅は大きい。そのため、駆動動作中に電圧変動が発生した場合、駆動動作を継続するのが望ましい。
【0015】
図2は、比較例として一般的な記録装置100の電源構成例を示す図である。まず、電源構成のうち、1次側の電源構成(商用電源201~コンデンサ214)について説明する。商用電源201は、ダイオードブリッジ202と平滑コンデンサ203とにおいて整流され、トランス204を介してスイッチング素子206、電流検出抵抗207を経由してグラウンドに到達する。制御IC205用のVccは、トランス204の補助巻線の出力がダイオード209とコンデンサ210とにおいて整流される。さらに、補助巻線電圧の変動は、NPNトランジスタ211と、NPNトランジスタ211のベースに設けられているツェナーダイオード213と、抵抗212とにより一定化される。符号214は、制御IC205用のVccコンデンサである。制御IC205内では周期的にスイッチング素子206を駆動するVDR信号がONされ、フォトカプラ208aの出力VFBと電流検出抵抗207の電圧Vcsとが制御IC205内で比較される。この比較の結果、電流検出抵抗207の電圧Vcsがフォトカプラ208aの電圧VFBに到達した場合、VDR信号がOFFされる。なお、VFB端子は制御IC205内でVccにプルアップされている。
【0016】
次に、図2の電源構成のうち、2次側の電源構成(ダイオード215~トランジスタ225)について説明する。ダイオード215とコンデンサ216とは、トランス204の2次側出力を整流してVoutを生成し、このVoutは抵抗222と223とによって分圧された後、シャントレギュレータ219のリファレンス端子に接続される。また、Voutは電流制限抵抗217を介してフォトカプラ208bへ接続され、208bのカソードはシャントレギュレータ219に接続される。抵抗221とコンデンサ220とは帰還回路のゲインを決定する。抵抗218はシャントレギュレータ219へのバイアス電流供給のために設けられる。
【0017】
シャントレギュレータ219のリファレンス端子にはVoutを抵抗222と223にて分圧された電圧が供給され、シャントレギュレータ219内の基準電圧との差分がフォトカプラ208を介して制御IC205に伝達される。そして、Voutを分圧する片方の抵抗223と抵抗224が並列に接続され、さらにこの抵抗224をオンオフするためのトランジスタ225が設けられ、トランジスタ225のベースへは外部から制御信号Vcontが印加される。図2に示される電源の回路構成において、VcontがLow(以下単に「L」と記す)の場合は抵抗224の片端は解放状態となるため、シャントレギュレータ219のリファレンス端子にはVoutを抵抗222,223によって分圧された電圧が供給される。一方、VcontがHigh(以下単に「H」と記す)の場合、抵抗224の片端はグラウンド電位となり、抵抗224と抵抗223との合成抵抗と、抵抗222とにより分圧された電圧とがシャントレギュレータ219のリファレンス端子へ印加される。抵抗223が抵抗224と合成されることにより抵抗値が小さい値となるため、シャントレギュレータ219のリファレンス端子に印加される電圧が下がる。そして、シャントレギュレータ219のカソードのシンク電流が減少してフォトカプラ208bの発光が弱まり、フォトカプラ208aのVce電圧が上昇してVFB電圧が上昇する。以上より、VDR信号をOFFするために用いられるVcs値も上昇することにより、より多くの電流がトランス204へ供給される。この結果、2次側への供給電流も増えて出力電圧Voutをより高い電圧に切替可能に構成されている。
【0018】
[実施形態1]
図3は、本実施形態における記録装置100の電源構成例を示す図である。本実施形態の電源構成は、比較例の電源構成(図2)に抵抗227が追加された電源構成であり、図3においてこの抵抗227は点線で囲って明示されている。以下、本実施形態の電源構成について、図2で説明した比較例の電源構成(以下、「比較構成」と記す)との相違点を中心に説明する。なお、本実施形態の説明において、比較技術と同一の構成については同一符号を付し、比較技術と共通する部分については説明を簡略化ないし省略して説明する。
【0019】
図4(a)は、比較構成の一部を抜粋した図である。図4(a)の説明では、簡略化のため、ツェナーダイオード213を「ZD1」、そのツェナー電圧を「VZ1」、抵抗212およびその抵抗値を「R2」とそれぞれ記す。一般的に、制御ICのVcc端子は制御IC自身の電源を得るための端子であるが、この端子へ印加される電圧が規定電圧以上になると制御ICの異常動作が発生してしまうおそれがある。そのため、このような制御ICでは、Vcc端子に印加される電圧が規定電圧以上になると制御IC自身の動作を停止する保護機能を備えるものが知られている。本実施形態の制御IC205は保護機能を備え、Vcc端子に印加される電圧が規定電圧Vovp以上になると、制御IC205自身の動作を停止するものとする。このような制御IC205を含む比較構成において、2次側の出力電圧Voutと、1次側の補助巻線からの出力を整流した整流電圧Vauxと、トランスにおける2次側の巻線数Nsと、1次側の補助巻線数Naとの関係は以下の(式2)に示される通りである。
【0020】
【数2】
【0021】
また、NPNトランジスタ211のベース電位はツェナーダイオードZD1によって固定されている。そのため、NPNトランジスタ211のベースとエミッタとの間の電圧をVebとすると、制御IC205に供給されるVccは以下の(式3)に示される通りである。
【0022】
【数3】
【0023】
制御IC205の動作に必要な最低のVccをVuvloとすると、ツェナーダイオードZD1のツェナー電圧VZ1は以下の(式4)を満たすように設定することができる。
【0024】
【数4】
【0025】
図4(b)は、縦軸を電圧、横軸を時間としたグラフであり、図4(a)の比較構成において、2次側の出力電圧Voutと、1次側の整流電圧Vauxと、Vcc端子に印加される電圧(以下「Vcc電圧」と記す場合がある)との関係例を表している。t1において、出力電圧Voutが切り替えられると、出力電圧Voutと整流電圧Vauxとは(式2)の関係を有するので、整流電圧Vauxも切り替えられる。t2は、記録装置において異常昇圧が発生したタイミングを示している。図4(b)では、t2以降、出力電圧Voutと整流電圧Vauxとが上昇している様子が示されている。図4(a)に示される比較構成によれば、NPNトランジスタ211のベース電位はツェナーダイオードZD1で固定されているので、出力電圧Voutが切り替えられてもVcc電圧は変化しない。そのため、比較構成では、出力電圧Voutが過昇圧してもVcc電圧は一定なので、制御IC205は出力電圧Voutの過昇圧を検知することができない。
【0026】
比較構成では、出力電圧Voutが過昇圧した場合、過電力保護(以下「OPP」と記す)によって制御IC205の動作を停止する(不図示)。これは、出力電圧Voutと出力電流Ioutとを乗じた値、すなわち2次側の出力が出力電圧Voutの昇圧に伴い増大し、比較構成の電源回路で設定されているOPP閾値に達することをトリガにより実行される。そのため、比較構成では、OPP機能を備える必要があるため、電源構成が複雑になってしまう。さらに、電源の負荷が少ない場合はOPPを検出するまでに時間を要する場合があり、過昇圧が生じた際に、制御IC205への電源供給が停止されるまでの時間が負荷状況に応じて変化してしまう。
【0027】
図5(a)は、本実施形態の電源構成の一部を抜粋した図である。図5(a)の説明では、簡略化のため、ツェナーダイオード213を「ZD1」、そのツェナー電圧を「VZ1」、抵抗227およびその抵抗値を「R1」、抵抗212およびその抵抗値を「R2」とそれぞれ記す。上述の通り、本実施形態の電源構成は、比較構成にR1が追加された電源構成であり、図5(a)においてこのR1は点線で囲って明示されている。
【0028】
図5(a)の電源構成では、整流電圧Vauxが昇圧し、R2を介して入力される電圧がツェナー電圧VZ1を超えた場合、R2、R1およびツェナーダイオードZD1に電流が流れる。このとき、NPNトランジスタ211のベース電位はR1に流れる電流に応じて増減することになる。すなわち、出力電圧Voutの昇圧がVcc電圧に反映されるため、制御IC205は出力電圧Voutの昇圧をただちに検知することができる。図5(a)の電源構成において、Vauxと、VZ1と、R1と、R2と、Vebとの関係は以下の(式5)に示される通りである。
【0029】
【数5】
【0030】
電源装置からの出力が停止される電圧に出力電圧Voutが到達したときの整流電圧VauxをVauxerとする。このとき、Vovpと、Vauxerと、VZ1と、R1と、R2と、Vebとの関係を以下の(式6)に示される通りに設定することにより、制御IC205は出力電圧Voutの過昇圧を検出することができる。そして、制御IC205は、出力電圧Voutの過昇圧を検出した場合、制御IC205の動作を停止する。
【0031】
【数6】
【0032】
図5(b)は、縦軸を電圧、横軸を時間としたグラフであり、図5(a)の電源構成において、2次側の出力電圧Voutと、1次側の整流電圧Vauxと、Vcc電圧との関係例を表している。比較構成と同様に、t2以降、出力電圧Voutと整流電圧Vauxとが上昇している様子が示されている。図5(a)に示される電源構成によれば、NPNトランジスタ211のベース電位はR1に流れる電流に応じて増減することになるので、出力電圧Voutが昇圧することに応じてVcc電圧も昇圧する。t3において、昇圧したVcc電圧が規定電圧Vovpに到達すると、制御IC205は、電源の動作を停止する。電源の動作が停止されると、t3以降、出力電圧Vout、整流電圧VauxおよびVcc電圧は降圧する。
【0033】
以上説明した通り、本実施形態の電源装置は、制御ICが動作可能な電圧範囲内にVcc電圧を維持するためのレギュレータを備える。そして、Vcc電圧は、2次側の出力電圧Voutに追従して昇圧するため、制御ICは、Vcc電圧の監視に基づいて電源装置の動作を制御することができる。つまり、出力電圧切替型の電源装置において、簡易な構成で過電圧保護を実現することができる。
【0034】
[実施形態2]
図6(a)は、実施形態2における電源構成の一部を抜粋した図である。本実施形態の電源構成は、実施形態1の電源構成にツェナーダイオードZD2が追加された電源構成であり、図6(a)においてこのツェナーダイオードZD2は点線で囲って明示されている。また、図6(b)は、縦軸を電圧、横軸を時間としたグラフであり、図6(a)の電源構成において、2次側の出力電圧Voutと、1次側の整流電圧Vauxと、Vcc電圧との関係例を表している。
【0035】
図4(b)で説明した通り、2次側の出力電圧Voutが昇圧することに応じて整流電圧Vauxも上昇する。図6(b)に示される通り、t0~t2b(期間(1))においては、整流電圧VauxがツェナーダイオードZD2に導通せず、抵抗R2と抵抗R1とを介してツェナーダイオードZD1に電流が流れる。そのため、NPNトランジスタ211のベース電位は、ツェナーダイオードZD1に印加される電圧に抵抗R1の両端電圧が加えられた電位となる。よって、Vcc電圧は、この電位からNPNトランジスタ211のベース・エミッタ間電圧Vebを減じた電位となる。図6(a)の電源構成において、Vauxと、Vccとの関係は以下の(式7)に示される通りである。
【0036】
【数7】
【0037】
図6(b)に示される通り、期間(1)において、Vcc電圧は整流電圧VauxがR1およびR2によって分圧された電圧となる。そのため、Vcc電圧は、整流電圧Vauxが昇圧するよりも緩やかに昇圧する。
【0038】
次に、t2b~t3(期間(2))において、整流電圧VauxがツェナーダイオードZD2に導通する。整流電圧VauxがツェナーダイオードZD2に導通している場合、整流電圧Vauxと、NPNトランジスタ211のベース電圧との電位差は、ツェナーダイオードZD2のツェナー電圧VZ2となる。よってNPNトランジスタ211のベース電位は、整流電圧Vauxからツェナー電圧VZ2を減じた値となり、Vcc電圧はこれからさらにNPNトランジスタ211のベース・エミッタ間電圧Vebを減じた電位となる。以上より、制御ICに供給されるVcc電圧は以下の(式8)に示される通りである。
【0039】
【数8】
【0040】
図6(b)に示される通り、期間(2)におけるVcc電圧の昇圧は、期間(1)におけるVcc電圧の昇圧よりも急峻となる。なお、本実施形態において、期間(2)におけるVcc電圧が昇圧する割合は、期間(2)における出力電圧Vout、整流電圧Vauxが昇圧する割合と一致する。
【0041】
ここで、実施形態1の電源構成のように、2次側の出力電圧Voutに比例する1次側の整流電圧Vauxを、ツェナーダイオードなどを用いて減圧して適切なVcc電圧を生成する構成を考える。この場合、出力電圧Voutが切り替えられる際の電圧が大きい場合、Vcc電圧が規定電圧Vovpを超えてしまうことがある。Vcc電圧が規定電圧Vovpを超えてしまうと、制御IC205は、電源の動作を停止する。
【0042】
本実施形態の電源構成によれば、期間(1)では、整流電圧VauxがR1とR2とによって分圧されるため、Vcc電圧が昇圧する割合は整流電圧Vauxが昇圧する割合よりも緩やかである。一方、期間(2)では、Vcc電圧が昇圧する割合は整流電圧Vauxが昇圧する割合と一致する。このため、出力電圧切替機能によって出力電圧Voutが大きくなった場合でも、電源装置の通常動作時はVcc電圧をVovp以下に、出力電圧Voutの過昇圧時はVcc電圧をVovp以上とすることができる。
【0043】
なお、本実施形態におけるR1、R2、VZ1、VZ2の各定数は、上記各式によって求めることができる。以下に具体例を示して説明する。
【0044】
(ツェナー電圧VZ2)
出力電圧Voutが正常範囲内である場合、Vcc電圧は、制御IC205は電源の動作を停止する規定電圧Vovp未満であることが求められる。ここで、出力電圧Voutと、整流電圧Vauxと、トランスの2次側巻線数Nsと、補助巻線数Naとの関係は以下の(式9)に示される通りである。
【0045】
【数9】
【0046】
Vcc(=Vaux-VZ2-Veb)電圧は、制御IC205が電源装置の動作を停止する規定電圧Vovp未満である必要があるため、整流電圧Vauxと、規定電圧Vovpと、Vebとの関係は以下の(式10)に示される通りである。
【0047】
【数10】
【0048】
さらに、出力電圧Voutが電源装置からの出力が停止される電圧に到達したときの整流電圧VauxをVauxerとすると、Vauxerと、規定電圧Vovpと、Vebとの関係は以下の(式11)に示される通りである。
【0049】
【数11】
【0050】
以上より、VZ2が取り得る範囲は以下の(式12)に示される通りとなる。
【0051】
【数12】
【0052】
(ツェナー電圧VZ1)
図6(a)の電源構成において、制御IC205が動作可能な最低Vcc電圧をVuvloとすると、ツェナー電圧VZ1は、このVuvloにNPNトランジスタ211のベース・エミッタ間電圧Vebを加えた値よりも大きくなることが要求される。
【0053】
【数13】
【0054】
(抵抗R1、抵抗R2)
ツェナーダイオードZD2が導通した場合、R1は、R1を流れる電流によってNPNトランジスタ211のベース電位を昇圧させる。このとき、ツェナーダイオードZD2の電圧は許容内となる値が選択される。また、R2はNPNトランジスタ211を動作させるために設けられている。ツェナーダイオードZD2の導通前(図6(b)における期間(1))において、R1と、R2と、VZ1と、Vebと、Vovpとの関係は以下の(式14)に示される通りである。
【0055】
【数14】
【0056】
以上説明した通り、各定数が上記数式の関係を満たすように設定することにより、出力電圧切替型の電源装置においても、整流電圧Vauxの昇圧を制御ICのVcc端子で検知することができる。これにより、出力電圧Voutが異常昇圧した場合、制御ICは電源装置の動作を停止することができる。
【0057】
[実施形態3]
図7(a)は、実施形態3における電源構成の一部を抜粋した図である。本実施形態の電源構成は、実施形態2の電源構成(図6(a))からZD2が削除され、PNPトランジスタ701と、抵抗702と、ツェナーダイオードZD3とが追加された電源構成である。図7(a)において、抵抗212と、PNPトランジスタ701と、抵抗702と、ツェナーダイオードZD3とは点線で囲って明示されている。PNPトランジスタ701のエミッタは整流電圧Vauxに接続されており、PNPトランジスタ701のコレクタはNPNトランジスタ211のベースに接続されている。PNPトランジスタ701のベースは抵抗702とツェナーダイオードZD3とを介してグラウンドに接続されている。また、図7(b)は、縦軸を電圧、横軸を時間としたグラフであり、図7(a)の電源構成において、2次側の出力電圧Voutと、1次側の整流電圧Vauxと、Vcc電圧との関係例を表している。
【0058】
本実施形態の電源構成によれば、図7(b)の期間(1)において、整流電圧VauxがツェナーダイオードZD3の電圧(以下「ツェナー電圧VZ3」と記す)に到達するまでの動作は、実施形態2と同一である。
【0059】
【数15】
【0060】
整流電圧Vauxがツェナー電圧VZ3に到達すると、t2b~(期間(2))において、PNPトランジスタ701への導通が開始され、PNPトランジスタ701のベース電流もツェナーダイオードZD3に向かって流れ始める。この結果、PNPトランジスタ701のエミッタ・コレクタ間が短絡状態となり、NPNトランジスタ211のベースは整流電圧VauxからPNPトランジスタ701のエミッタ・コレクタ間電圧Vceを減じた値となる。
【0061】
【数16】
【0062】
ツェナーダイオードZD3の導通が開始すると、Vcc電圧は上記(式16)に従って急峻に昇圧する。そして、Vcc電圧が規定電圧Vovpに到達すると、制御IC205は、電源装置の動作を停止する。図7(b)において、t2aからVcc電圧が規定電圧Vovpに到達に要する時間は、PNPトランジスタ701がオンするまでの時間に一致する。そのため、実施形態2における電源構成と比較して、制御IC205は電源の動作をより早く停止することができる。つまり、出力電圧Voutの異常昇圧が発生した場合実施形態2における電源構成と比較して、出力電圧Voutの電圧が低い段階で、制御IC205は電源装置の動作を停止することができる。
【0063】
出力電圧Voutが許容範囲内である場合(t0~t2bの期間α)、Vcc電圧は、制御IC205が電源の動作を停止するVovp未満とする必要がある。そのため、本実施形態の電源構成において、ツェナー電圧VZ3と、整流電圧Vauxと、規定電圧Vovpと、Vebとの関係は、以下の(式17)に示される通りである。
【0064】
【数17】
【0065】
さらに、電源装置から出力が停止される電圧に出力電圧Voutが到達したときの整流電圧VauxをVauxerとすると、VZ3と、Vauxerと、Vovpと、Vebとの関係は以下の(式18)に示される通りである。
【0066】
【数18】
【0067】
以上より、本実施形態のVZ3が取り得る範囲は以下の(式19)の通りである。
【0068】
【数19】
【0069】
以上説明した通り、本実施形態の電源構成によれば、実施形態1および2の効果に加えて、出力電圧Voutの電圧が低い段階で、制御ICが出力電圧Voutの異常昇圧を検出することができる。
【0070】
[その他の実施形態]
なお、上述の実施形態1~3において、各トランジスタはバイポーラトランジスタである例を説明しているが、電源に適用されるトランジスタはバイポーラトランジスタに限られない。例えば、電界効果型トランジスタを本実施形態の電源に適用することができる。
【0071】
また、実施形態1~3では、出力電圧Voutを切り替える際に、スパイク電圧により整流電圧Vauxが昇圧してしまうことには言及していない。しかしながら、実際の電源回路では、トランス204の漏れ磁束などによるリンギングにより、リンギング分のエネルギαがコンデンサ210に蓄積されるため、以下の(式20)のようにαによって整流電圧Vauxを調整する。
【0072】
【数20】
【0073】
しかしながら、「α」は実施形態1~3で説明した計算には影響しないため、実測などにより適宜「α」を求め、整流電圧Vauxの補正値として加えればよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7